ベルリオーズ 「幻想交響曲」

ベルリオーズの「幻想交響曲」は、1830年に作曲されたロマン派音楽の傑作で、プログラム音楽としても有名です。この作品は、ベルリオーズが実体験をもとに恋愛や狂気、幻想的なビジョンを音楽で描き出したもので、物語性が強く、革新的なオーケストレーションやドラマティックな表現が特徴です。

構成と特徴

「幻想交響曲」は全5楽章で構成され、それぞれが物語の一場面を描いています。

  1. 第1楽章「夢と情熱」 (ラルゴ – アレグロ・アジタート・エ・アッサイ・アニマート)
    主人公(ベルリオーズ自身を投影した人物)が一人の理想の女性(「彼の愛する人」)に出会い、彼女への激しい恋心にとらわれる場面です。この楽章には「イデー・フィクス(固定観念)」と呼ばれるメロディが登場し、この旋律が物語の中で何度も繰り返されることで、彼の愛が執着や幻想に変わっていく様子が表現されています。
  2. 第2楽章「舞踏会」 (ワルツ:アレグロ・ノン・トロッポ)
    主人公が彼女とともに華やかな舞踏会に参加しているシーンを描いています。軽やかで華やかなワルツのリズムが支配的で、夢のような雰囲気の中に再び「イデー・フィクス」が現れることで、彼の愛がどれほど深いかが暗示されます。
  3. 第3楽章「田園の情景」 (アダージョ)
    美しい田園風景の中で、主人公が安らぎを求め、愛する人のことを思いながら憩うシーンです。牧歌的なオーボエとイングリッシュホルンの対話が、自然の中での平和なひとときを象徴します。しかし、最後には不安がこみ上げ、彼女への愛が叶わないのではないかという疑念が暗示されます。
  4. 第4楽章「断頭台への行進」 (アレグロ・ノン・トロッポ)
    ここでは物語が一気に暗転します。主人公が恋愛の絶望から幻覚を見て、自分が殺人を犯し、死刑宣告を受けてしまう幻想を描いています。行進曲風の重厚なリズムが続き、やがてギロチンの刃が落ちる瞬間が音楽で表現され、壮絶なイメージが展開されます。
  5. 第5楽章「サバトの夜の夢」 (ラルゴ – アレグロ)
    最後の楽章は悪夢のようなシーンです。主人公が死後に「魔女の宴」に参加する恐ろしい幻想を描き、彼の「イデー・フィクス」が不気味な形で歪んで再現されます。ベルリオーズは「怒りの日」(死者のためのミサに使われる旋律)も取り入れ、異様で狂気じみた雰囲気を演出しています。音楽はどんどん狂乱の度合いを増し、最後にはカオスに飲み込まれるようにして幕を閉じます。

革新的な要素

「幻想交響曲」は、従来の交響曲の枠を超え、具体的なストーリーや感情を表現するために、多彩なオーケストレーションと革新的な手法が使われました。例えば、「イデー・フィクス」を繰り返し登場させることで主人公の執着を表現する手法は、ベルリオーズ独自のアイデアであり、その後の音楽に大きな影響を与えました。また、オーケストラの規模も拡大し、表現力が増したことで、劇的で生々しい情景が音楽で描き出されています。

「幻想交響曲」の意義

この交響曲は、ベルリオーズが自らの恋愛経験や心理的苦悩を反映させた、いわば彼の「自伝的作品」です。幻想と現実の境界が曖昧なこの作品は、ロマン派音楽において「個人の内面的な情熱」や「異常心理」を表現する先駆けとも言えます。そのため、現在もなお高い評価を受け、多くの演奏家や聴衆に愛されています。

ベルリオーズの「幻想交響曲」は、ドラマティックな音楽体験を提供する作品であり、ロマン派音楽の大胆さと情熱の象徴とされています。

4o

たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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表面を磨き上げることにかけては天才的な才能を発揮したカラヤン。幻想交響曲はカラヤンにはもってこいの曲だと思いますが、どんな演奏をするのでしょうか。

一楽章、かなりゆっくりしたテンポで、じっくり歌われる導入部です。アバド/シカゴsoの録音のような華やかな弦ではありません。繊細さは十分ありますが、少し陰影をともなったような響きです。
非常にゆっくりとした運びです。ゆっくりとしたテンポの中にも高度な合奏力がすばらしいです。そして、トゥッティの厚みはさすがにベルリンpoですね。他のオケでは聴くことができない分厚いサウンドです。

二楽章、安心して聴いていられます。「表面を徹底して磨く」と評価されがちなカラヤンですが、この作品のように思想的な背景や哲学のような作品ではなく、基本的に色恋がテーマですから、オケが上手く、見事に整った演奏は、これはこれで良いのではないかと思わせてくれます。
繊細で上品なフルネ。きらびやかなアバド。中庸のカラヤンといった感じでしょうか。ついでに下品なロジェストヴェンスキー!メタリックなショルティ!

三楽章、どの楽章も比較的ゆっくりしたテンポで美しい音楽を堪能させてくれます。ここでも中低音の厚みはすごいものがあります。どのソロも美しいです。また、この楽章では、ピークへ向かってテンポを上げたりいろいろ表情があります。
ティパニの雷さえも美しい!本当に良い音で鳴っています。

四楽章、ちょっと詰まって感じのホルン。ここでも厚みのある弦が良いです。ティパニの音色感がとても良い。またブラスセクションも派手ではないけれど荒れることなく整ったアンサンブルと気持ちの良い鳴りを聞かせてくれます。

五楽章、音色がそうだからか、陰鬱な感じが上手く表現されています。
AクラとEbクラの対比がはっきりしていて、ここも聴き所です。
鐘も倍音を伴った良い音です。この楽章も少し遅めのテンポで細部まで聞かせてくれます。
音色や音の厚みなどはドイツのものかも知れませんが、この演奏はそれでもかなりの魅力のある演奏だと思います。ドイツ古典派の作品をこのような演奏にすると、華美に過ぎるといわれるかもしれませんが、この幻想では、もっと派手な演奏があるだけに、逆にドッシリ構えた大編成のオケの響きを十分聞かせてくれます。
最後もテンポを煽ることもなく、どっしりとした堂々たる演奏のしめくくりでした。

ゆったりと堂々としたテンポと広大なレンジの美しい響き。トゥッティの分厚い響き。狂気を表現したかどうかは分かりませんが、これは、個人的にはとても良いと感じた幻想交響曲です。

サー・ゲオルク・ショルティ指揮 シカゴ交響楽団

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発売当時、現実交響曲と評論された「幻想交響曲」。シカゴのパワーを駆使してどんな演奏を繰り広げるか!

一楽章、録音が古いせいか、定位する音像が大きい。アバドとの録音に比べると、オケとの距離がすごく近く、一音一音が克明に描かれています。ちょっとデッド過ぎて生音は聞けるのですが、ホールと一体になった響きは聞けません。デッドな録音になっている分、音が迫り来るような表現は聞くことができます。
金管楽器の短い音符でも遠慮なくバリッと入ってきます。そこには、夢幻のような情景はありません。

二楽章、アクセントなどの表情がとても厳しい、シカゴsoの機能美を追求したような演奏で、音響効果を聞くCDだと思います。
舞踏会の華やいだ雰囲気もありません。ひたすら、楽譜の指示に異常なくらい厳格に執着した、変換作業をしているようで、楽しむことは難しいです。

三楽章、弦のクレッシェンドなどは痛いくらいに突き刺さってきます。この演奏に正対するには、かなり体調の良い時じゃないと厳しいです。

四楽章、重い音のティンパニ、短い音でもビーンと鳴る金管。すごいパワーで金管が襲い掛かってくる!トランペットの旋律の付点も正確だし、楽々吹いている。楽器って、こんなに鳴るものなのか?と思いたくなるくらい、とにかく良く鳴るオケなのか、録音なのか。人工的にせよ、ここまで鳴りきると気持ちが良い。すごいオケだ!脱帽です。

五楽章、ここまで鳴らしきっても、アンサンブルが乱れないし、下品にならないところはさすがですね。
ショルティの演奏には好き嫌いがはっきりすると思うのですが、音響の構築物としての完成度と美しさは、ものすごいハイレベルにあることは間違いありません。コンサートでもこんな音がしているのか不思議な感じはありますが、CDとして割り切って聞く分には、十分楽しめます。
一糸乱れず、これだけ鳴らし切るのは、並のことではありません。

表題とはかけ離れた演奏かも知れませんが、オケの上手さとそれをコントロールするショルティの手綱さばきは認めないといけないでしょう。すごい演奏の幻想交響曲でした。

ジャン・フルネ指揮 東京都交響楽団

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世間では、フランス音楽だとか、ドイツ音楽だとか言う人もいますが、私にはあまり縁の無い言葉です。
幻想交響曲がフランスであろうと、ドイツであろうと、ロシアであろうと、私の知ったことではないのです。要は私の好みに合った演奏であれば、それで良し。
今となってはフランスの重鎮(2008年に他界)フルネの幻想。オケはフルネと密接なつながりのある東京都交響楽団。さて、フランス的なのか日本的なのか・・・・・・

一楽章、とても柔らかい響きで、しかも消え入るようなppから演奏が始まりました。とても表情が豊かな演奏です。作品を知り尽くしたフルネの自信なのか。
弦の響きがとても美しい。都響もフルネの棒にピタリとついている感じです。弱音にとても気を使った真面目な演奏でもあります。この点では日本人の真面目さがでているような気がします。
フランス人っていい加減ですもん。
弦楽器の胴が本当によく鳴っている伸びやかな音が印象的です。フレーズの中での強弱の振幅も大きいのですが、汚い音は一切出てきませんし、集中力も高く、演奏に引き込まれます。

二楽章、内面から湧き出るような表現が絶妙で、本当に美しく上品で格調高い。日本のオケがこれだけ格調高い音楽を演奏できるということもすごいことだと思う。
フルネと言う人は外見通りの上品な音楽を作る人なのだろう。同じフランス人でもミュンシュのヤンチャな演奏とは全く別物です。また、ミュンシュ/パリ管の個人技が表に出て暴れ馬のような過激な幻想とも対照的な、見事に統率のとれた洗練された幻想交響曲です。

三楽章、木管の響きもとても美しい!日本のオケってこんなに上手かったのか。これだけの演奏水準であれば、世界のどこへ出しても恥ずかしくないと思う。それぞれの楽器の音が集まってきて、凝縮されて一体になった美しい演奏が繰り広げられるのです。そして、フルネの指揮に敏感に反応するオケの表情の豊かさ。洗練の極みと言っても過言ではないほどの幻想です。これほど格調高い幻想は他に無いかもしれません。
幻想交響曲は色彩の豊かさと、後ろの二つの楽章の派手さにばかり意識が行きがちですが、前半でこれだけ聞かせてくれるのは、すばらしいことです。見事に野の風景を描き切ったと思います。

四楽章、マスの響きがブレンドされて本当に美しい。この楽章あたりからブリブリと下品に吹きまくる演奏がほとんどなのですが、この演奏はとても美しい。シンバルやティンパニなどの打楽器も音色を厳密に選んでいると思う。音の分厚さなどは残念ながらありませんが、この上品な幻想にはこのバランスで調度良い。

五楽章、表情付けがとても厳格で管楽器などもスピードのある息が入っているような密度の濃い演奏で、ぐんぐん引き込まれて行きます。メータ/ニューヨークの演奏が、ダラダラ~っと流れてしまったのとも対極をなすような集中力の高さでアンサンブルも絶妙。
ただ、この楽章の表題のようなドロドロしたところは一切ありません。しかし、これだけ徹頭徹尾一貫した演奏をされると、そんな表題なんかどうでもよくなります。
この演奏はこれで良いんだ!と十分説得してくれます。
最後は少しテンポが速くなって終わりました。

すばらしい!!!!!

クラウディオ・アバド指揮 シカゴ交響楽団

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同じシカゴ交響楽団を指揮しても、ショルティとは全く違う演奏になるアバドですが、幻想ではどうなるのか。

一楽章、柔らかい出だし、静寂感があります。空間の広がりも感じられて、良い録音です。強弱の幅も広く、アバドにしては積極的な音楽作りのようです。豊かなホールトーンの中に身をおいて、まさに幻想的な感覚がします。
それでも、マスの一体感やパワーはさすがにシカゴsoらしくすばらしいです。テンポの動きも含めて音楽の振れ幅が広く、聴いていても楽しめます。

二楽章、オケの反応がすごく良いので、表情豊かに聞こえます。コルネットが入っている楽譜を使っているようですが、あまり強調することもなく、自然に聞こえてきます。全体としては適度な緊張感があってなかなかの好演です。オケの上手さは抜群です。

三楽章、薄いヴェールにつつまれているような録音で、幻想を上手く演出しています。アバドは大見得を切るような演奏をすることは、まずないので、表情があっても節度のある範囲で、幻想交響曲には上手くマッチしているように思います。美しい演奏です。ショルティが振るシカゴsoは男性的で時に凶暴なくらいの演奏をすることがありますが、アバドとの演奏はそういった危険性は一切見せません。ヨーロッパのオケを聞いているような安心感があります。
雷の雰囲気を出すために、二組のティンパニの距離を厳密に測ってセッティングしたと伝えられているが、これは効果的です。遠くで鳴る雷が空に広がっていく感じが上手く表現されています。

四楽章、テンポは速めです。意外と何の感慨もなく終わってしまった。

五楽章、ここも早めの開始です。悪魔的な毒々しいことは一切なし、アバドにそれを求めてもムリか?
すばらしいオケの名人芸を素直に楽しめば良いかも。少なくともオケの上手さを楽しむのなら、レヴァイン/ベルリンpoよりもこちらの方が断然上手いです。
鐘の音も良い。どのパートをとっても文句のつけようが無い、これ以上のスーパーオケはあるだろうか。
終結部で若干テンポを上げたが、若干と言う程度。いやぁ、このオケの中にあっても木管だって、しっかり存在を示すし、ソロもテュッティのアンサンブルの精度も全て含めて爽快な演奏でした。(決して豪快ではありません)毒々しい演奏を聴きたい方は裏切られます。

しかし、このスーパーオケの一糸乱れぬ演奏には惹かれるものがあります。聞いていて気持ち良い幻想交響曲でした。

シャルル・ミュンシュ指揮 パリ管弦楽団 1967年ライブ

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パリ管弦楽団の発足ライブです。

一楽章、微妙なニュアンスを表現するオケ、抑制を保ったアッチェレランド。すごいヴィブラートのホルンソロ。緩急自在で起伏も激しい演奏です。かなり速いテンポでグイグイ引っ張って行くと思ったら、すごくテンポを落としてじっくり歌うところもあります。神がかり的な演奏とでも言うべきか、ミュンシュがとりつかれたように指揮をしている様が目に浮かびます。すごい演奏です。

二楽章、即興的なテンポの動きのようです。勢いがあって凄みを感じる舞踏会です。すごいスピードで終りました。

三楽章、この楽章も速いテンポでグイグイとオケを引っ張ります。さらにアッチェレランドしながらクレッシェンドして、直後にグッとテンポを落としたりミュンシュの赴くままに演奏しています。「幻想」ってこんな演奏もあったのか!と驚かされます。これまでの概念からすれば、原型を留めていないと思わされるほどの激しい演奏です。

四楽章、一転して遅いテンポで開始しました。しかし、ティンパニのクレッシェンドにともなってアッチェレランドもあり、結局は速めのテンポでの演奏です。パストロンボーンのペダルトーンがはっきりと聞こえます。後半はさらにテンポを上げました。

五楽章、すごくグロテスクな描写です。音楽が生き物のように迫ってきます。オケも抜群に上手いです。フランスの威信をかけて結成されたというだけのことはあります。最後はゴールへ向かって競争するかのような猛烈な演奏でした。ミュンシュのやりたい放題!とにかくすごい幻想交響曲の演奏でした!

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1977年ライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポとかなりの弱音で夢見るような雰囲気の冒頭の演奏です。かなり注意深く進みます。74年のスタジオ録音と同じような演奏です。録音のせいかダイナミックの変化はそれほど大きくはありません。柔らかくふくよかなホルン。ライヴらしくテンポの変化があって、次第にテンポが速くなって激しくなっています。音階の上下する部分はかなり速く激しくなりました。クライマックスの最後の部分でもテンポを速めたり、その後もテンポが変化して情熱的な雰囲気を盛り上げています。

二楽章、強弱の変化も俊敏な反応で高性能なオケを十分に感じさせてくれます。舞踏会も優雅にテンポが動いています。スタジオ録音の美しさを磨き上げた演奏とは違い、ライヴの熱気を感じさせる勢いのある演奏です。舞踏会で恋人を見かけて落ち着かない感じがとても良く表現されています。かなり速いテンポで追い立てます。

三楽章、コーラングレとオーボエの遠近感もとても良いです。冷たい空気感が表現されています。レンジはそんなに広くは無い感じですが、整ったアンサンブルと美しさは伝わって来ます。弦が強く演奏する部分でも決して荒くはならず、とても整った美しい演奏です。生命感や躍動感を感じる演奏ではありません。人間が演奏していないのではないかと思えるくらい完璧な演奏です。ティンパニの雷鳴もとても雰囲気のある演奏で、野に響く雷鳴を感じさせてくれました。

四楽章、重いティンパニ。スタジオ録音よりは少し速めのテンポです。歯切れが良くマットな響きのトランペット。オケが一体になった見事なアンサンブルはすばらしい。

五楽章、スタジオ録音のような広大なダイナミックレンジではありませんが、とてもバランスの良い響きです。良い音の鐘。とても良く鳴る金管ですが、全体のバランスから飛び出すことはありません。トゥッティで演奏される怒りの日はテヌートで非常に美しいものです。魔女の饗宴と言うおどろおどろしい雰囲気はありませんが、カラヤンがオケを完全に掌握した美しい演奏でした。

スタジオ録音の完璧な演奏を聴いてしまっていると、それ以上の演奏を求めるのはムリだとは分かっていますが、やはり比較してしまいます。Dレンジ、Fレンジともライヴの制約があるので、スタジオ録音には劣ってしまいますが、カラヤンと言えどもライヴならではの熱気を伴った演奏には魅力を感じさせる幻想交響曲でした。
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リッカルド・ムーティー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2007年ライヴ

ムーティー★★★★★
一楽章、速めのテンポですが、テンポは動き歌います。生き物のようにうねる音楽が濃厚です。オケをドライヴした積極的な音楽です。ダイナミックの変化もしっかりと付けられています。畳み掛けるように次から次から押し寄せてくる音楽。歌謡性に溢れた演奏です。クライマックスはどっしりとしていました。色彩感も濃厚でとても良い演奏です。

二楽章、濃厚な表情が付けられた冒頭。速いテンポでせきたてるような舞踏会。とても良く歌う音楽が心地良いです。ウィーンpoの濃厚な色彩も生かされています。美しい響きです。

三楽章、コーラングレとオーボエの距離感はほとんどありません。この楽章も基本は速めのテンポですがテンポを落とすところでは刻み付けるように克明な演奏です。テンポも動きますが、作品の表題性はあまり意識せずに、スコアに書かれている音楽をストレートに美しく演奏するようなスタンスです。硬いマレットで、羊皮独特の響きのティンパニ。すごく歌うコーラングレ。

四楽章、ギュッとミュートしたホルン。非常に硬いマレットのティンパニ。濃厚な色彩の弦。明るく艶やかで美しいトランペット。反復をしました。躍動感があって生き生きとしています。速いテンポをさらに追いたてます。

五楽章、表情が付けられた冒頭の低弦。トロンボーンも思い切り入って来ます。トゥッティのスケール感がすごいです。ベルリオーズが要求しているような低い響きの鐘ではありませんでした。怒りの日のメロディーでトロンボーンがとても良く鳴ります。怒りの日のトゥッティも伸び伸びと鳴り響きました。

とても濃厚で、美しく、豊かな表情の音楽で、オケも伸び伸びと鳴らした爽快な幻想交響曲の演奏でした。
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シャルル・ミュンシュ指揮 パリ管弦楽団

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一楽章、速いテンポのフルートとオーボエ。僅かにザラつきますが美しいヴァイオリン。僅かに間を取ったり強弱の変化を付けて歌う部分などなかなか聞かせます。ビブラートをかけたホルン。熱気をはらんだテンポの動きです。まるで何かが乗り移ったかのような自在なテンポの動きと感情に任せた抑揚には凄みさえ感じます。

二楽章、スピード感のある冒頭。舞踏会もテンポが動いて、表情が大きく変化します。優雅だったり切迫したりします。

三楽章、遠近感のあるコーラングレとオーボエ。コーラングレとオーボエが次第に速くなります。即興的にテンポが動きますが、オケがしっかりと着いて行きます。発足ライヴのような原型をとどめていないような演奏ではありませんが、かなり感情の赴くままにテンポや表現が変化しているようです。急激に追い込んだり、脱力するかのようにテンポを落としたり本当に自在です。フランスらしいクラリネットの独特の響き。次第に黄昏て寂しくなって行きます。ティンパニは強烈にクレッシェンドしますが、あまり音には広がりが無く、雷が空に広がる感じはありません。

四楽章、最後の5打を強調したティンパニ。テヌートぎみに演奏したファゴット。乾いた響きのトロンボーン。付点が甘いトランペット。トロンボーンのペタルトーンが響きます。すごく起伏の激しい演奏です。

五楽章、ゆったりとした冒頭。遠慮なく入ってくるトロンボーン。やはりこの楽章でもテンポが大きく動きます。ゆっくりとしたテンポで踊るようなクラリネットのソロ。金管の思い切りが良くダイナミックな演奏です。高い音の鐘。気持ちよく鳴るトロンボーン。凶暴なくらいの演奏が魔女の饗宴を表現しています。最後も突っ走るように終わりました。

ミュンシュの感情の赴くままにテンポや表現が変化するダイナミックな演奏でした。五楽章は狂気のように燃え滾る演奏で、大迫力のすごい幻想交響曲でした。
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シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団

ミュンシュ★★★★★
一楽章、晩年の演奏とは違い落ち着いたテンポであまり動きもありません。されでも急加速があったりします。晩年ほどでは無いにしてもやはりテンポはよく動いています。即興的で息も切らせないすごい加速です。凄く速いテンポで煽ったかと思えば、フッと力が抜けたようにテンポを落とす演奏にはかなり魅力があります。猛烈な演奏です。落ち着いていたのは最初だけで、パリ管の発足ライヴほどの原型をととめないような演奏ではありませんが、この演奏もミュンシュの即興性がかなり強く出た演奏で、すごいです。

二楽章、速いテンポで緊張感を保った演奏が、フッと抜けてテンポを落とすところがたまらない。優雅な舞踏会と言うよりもゴツゴツとした男性的な演奏です。最後も猛烈な速さでした。

三楽章、この楽章も速めのテンポです。オーボエもステージ上にいるので、コーラングレとの遠近感はありません。またも興に任せたテンポの動き。劇的なテンポの動きで、ミュンシュの作品への感情移入がただことでは無いのが分かります。ミュンシュがボストンsoの音楽監督時代にすでにこの作品を自家薬篭中の作品にしていたことがよく分かります。モノラルなので、雷鳴の広がりは全く感じられません。

四楽章、ここでも加速するティンパニ。続く弦もそのままの速いテンポです。リズムを正確にきっちり演奏するトランペット。ものすごく速いテンポで引きずると言うより、前のめりの行進です。

五楽章、この楽章も基本は速めのテンポでまくしたてるような演奏です。冒頭からすでに狂気が伺われます。吠える金管。硬い音の鐘。通常の演奏では考えられないくらいの速いテンポですが、ミュンシュの演奏であれば許されるような一貫性があります。最後のフェルマーターはとても長い音でした。

すごく速いテンポで、狂気に満ちた演奏を聞かせました。パリ管のライヴほどまではグチャグチャにはなっていませんが、ミュンシュの強い作品への共感が感じられる演奏は凄かったです。
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投稿者: koji shimizu

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