たいこ叩きのシベリウス 交響曲第2番名盤試聴記
サー・コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団
★★★★★
一楽章、豊かな残響に包まれて、自然体の演奏です。旧録音のボストンsoとの録音と同じく、大きな表現などは無く、楽譜に書かれていることを誇張せずに自然に演奏していますが、僅かにテンポが遅くなって、少し表現を踏み込んでいる感じがします。オケを良くコントロールしていて、端正な演奏です。木管が浮き上がって、生き生きとしています。
二楽章、静寂の中に拡散していく、低弦のピィツィカート。静かで北欧の雰囲気を感じさせるファゴットの第一主題。第二主題の前に金管がコラール風の演奏をする部分の最後あたり、ホルンの強奏の部分でティンパニが大きくクレッシェンドしました。これはボストンsoの録音では無かった表現です。静かで幻想的なヴァイオリンの第二主題に絡む木管も有機的です。大きな火山の噴火口から噴煙を上げるようなチューバ。ボストンsoとの録音で感じた若干スケールが小さいようなことも、この演奏ではありません。
三楽章、繊細ですが、動きのある弦です。トリオの前で十分な間を空けました。上品に歌うトリオのオーボエがとてものどかです。主部が戻るところでチューバが炸裂します。
四楽章、ゆったりと深みのある弦のモチーフ。朗々と鳴り響くホルン。大きな表現はありませんが、自然体のどっしりと落ち着いた演奏に貫録すら感じます。とてもゆったりと懐の深い展開部の第一主題。第一主題の再現部のトランペットは輝かしい響きでした。第二主題の再現のクライマックスでは金管がかなりのパワーです。コーダでは圧倒的な金管が感動的です。素晴らしい演奏でした。
端正で、大きな表現はありませんでしたが、自然体の演奏に深みがあって、とても美しい響きでした。大きな表現は無いものの、内に込めたような表現は上品で、この作品を格調高いものにしています。また、コーダの圧倒的な金管のパワーも感動的で素晴らしい演奏でした。
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パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団
★★★★★
一楽章、速めのテンポでとても良く歌う第一主題。木管は躍動的で、ホルンもとても良く歌います。オケの編成が小さい利点を生かし意敏感な反応で、強弱の変化も明確です。展開部に入っても速めのテンポで躍動感があります。訴えかけてくるような深い表現。
二楽章、速いテンポで演奏されるピツィカート。北欧の広大な雪原を連想させるようなファゴットの第一主題。奥ゆかしく穏やかな第二主題。室内管弦楽団の演奏ですが、編成の小ささは感じさせません。厚みのある響きです。とても動きがあって活発な音楽です。輝かしいトランペット。コーダのトランペットの悲痛な響きも印象的でした。
三楽章、主部冒頭の力強い弦。強弱の変化にも敏感に反応するオケ。滑らかに豊かに歌うトリオのオーボエはテンポも微妙に動いて、とてものどかです。四楽章へ向けて緊張感が高まって行きます。
四楽章、おおらかな弦のモチーフ。高らかに鳴り響く鋭いトランペット。速めのテンポで生き生きとした第二主題がぐいぐいと進みます。展開部は柔らかく優しい表現です。再現部では金管がかなり強く吹きます。歌に溢れていてとても豊かな表情の音楽です。豊かに朗々と響くクライマックス。力で押すようなことは無く、美しい響きで曲を閉じました。
速めのテンポで、歌に溢れ、躍動感に満ちた音楽でした。室内オケですが、ダイナミックの変化も大きく力強い演奏でした。
レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、ゆったりとしてたっぷりと歌う第一主題。ホルンもアゴーギクを効かせて豊かに歌います。包み込むような柔らかい響きで、すごく感情の込められた演奏です。晩年のマーラーの録音を聴くような自由なテンポの動きと歌です。奥まったところで響くトランペット。
二楽章、すごく遅いピィツイカート。感情のこもったファゴットの第一主題。非常に遅いテンポで濃厚な表現はまさに晩年のバーンスタインの演奏スタイルです。もう、シベリウスの作品と言うよりも、バーンスタインの音楽です。ただ、これだけ自分の音楽として昇華できるだけの能力は凄いと思います。
三楽章、この楽章はそんなに遅くはありません。豪快に鳴らされるティンパニ。後方から突き抜けるトランペット。トリオに入る前に長い間がありました。アゴーギクを効かせて自由に歌うオーボエ。非常にゆったりとしたトリオです。トリオの再現でも非常に人間的で、バーンスタインの感情の赴くままにテンポも動き深く歌われます。
四楽章、うねるような第一主題。展開部の前のピィツイカートもも非常に遅いです。続く展開部もすごく遅いです。この遅いテンポで一音一音に意味を込めるような非常に重い演奏です。スケールの大きな再現部。朗々と歌う弦。オケが一体になって凄いエネルギーが押し寄せて来ます。コーダのトランペットの壮絶な咆哮!
バーンスタインの強烈な個性が表出された物凄い演奏でした。好き嫌いは分かれると思いますが、私はこのような濃厚な表現の演奏は大好きです。
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オッコ・カム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、とても良く歌う第一主題。きりっと立ったオーボエ。ホルンも豊かに歌います。密度は濃くないですが、美しい弦。第二主題も生き生きとしています。深みがあって重厚な演奏です。
二楽章、静寂の中に響く低弦のピィツィカート。哀愁を感じさせるファゴットの第一主題。トゥッティでも絶叫することなく、落ち着いた大人の演奏です。祈るような第二主題が心を打ちます。トゥッティでも深い響きが印象的です。深々と、しみじみと聞かせる音楽は素晴らしいです。ライヴ録音であるとこを感じさせない精度の高い演奏です。
三楽章、流れるような冒頭の弦。感情を込めて歌うトリオのオーボエ。緊張感のある主部。
四楽章、柔らかい第一主題の弦。展開部の前は少しテンポが速くなりましたが、展開部はゆったりとした落ち着いた表現です。くっきりと浮かび上がる木管。テンポの動きも絶妙で、感動的です。輝かしいコーダ。
本場物と言う事もあって、奇抜な表現などは全く無く、正面から対峙した演奏でした。内側からしみ出すような感情表現が感動的でした。
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レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団
★★★★★
一楽章、柔らかくふくよかな響きで歌う冒頭の第一主題。呼応するホルンも歌います。柔らかい弦がとても心地良いです。提示部の最後はかなりゆっくりになって終わりました。展開部に入っても積極的な表現です。展開部の最後もゆったりとしたテンポで柔らかいクライマックスでした。
二楽章、ゆったりとしたテンポのコントラバス、チェロのピツィカート。郷愁に満ちて、北欧の寒さを感じさせるファゴットの第一主題。一旦テンポが速まりますが金管のコラール風のメロディではまたゆっくりとしたテンポになります。大切なものを扱うように丁寧で穏やかな第二主題。トランペットとフルートで再現される第一主題も寒い雪原をイメージさせるものです。1番のような荒々しい演奏ではありません。とても抑制されています。第二主題の再現以降も良く歌います。ピラミッド型で分厚く響くトゥッティ。弦も中低音の厚みがあって暖かく柔らかい響きです。
三楽章、分厚いコントラバス。ゆったりとしみじみとアゴーギクを効かせて歌うトリオのオーボエがとても美しい。ホルンの強奏もありますが、少しくすんだ響きで、鮮明な色彩感ではありません。
四楽章、非常に柔らかい第一主題。第二主題の前の低弦の動きも抑揚があってとても積極的な表現です。第二主題も何とも言えない哀愁を感じさせるものです。ゆったりとしたフルート。続く同じ旋律もゆったりと安らかな雰囲気です。再現部の第二主題は感情を込めた迫ってくるような表現でした。コーダは湧き上がるようなエネルギーを次第に全開にする感動的なものでした。
テンポを落としてたっぷりと歌う部分がとても美しい演奏でした。また、分厚いコントラバスに支えられた柔らかい響きもとても魅力的でした。そして、湧き上がるエネルギーを次第に全開にする感動的なコーダも圧巻でした。
サー・コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団
★★★★☆
一楽章、厚みのある響きで、奥ゆかしく美しい演奏です。とても静寂感があります。音が生で突出して来ることは無く、とても品の良い演奏ですが、その分ダイナミックさは削がれているかも知れません。特別強調するような表現は無く、自然体で、作品のありのままを表現しているようです。何も強調しない演奏から、作品の良さがにじみ出るような感じです。
二楽章、哀愁に満ちて非常に美しいファゴットの第一主題。オフ気味に録られた録音は水彩画のような淡い色彩感です。穏やかで安らぎを感じさせる第二主題。トランペットとフルートによる第一主題の再現は北欧の白夜を連想させるような、物寂しさを感じさせます。この楽章でも際立った表現はありませんが、オケにはピーンと張った緊張感があり、とても精度の高い演奏をしています。
三楽章、軽い主部の導入。ゆったりと歌うトリオ。マットな音色で、淡い色彩はここでも同じです。オケを荒々しく演奏させるようなことは全くなく、非常に丁寧で端正な演奏です。
四楽章、ゆったりと流れる川のような弦のモチーフ。あまりにもまとまりが良いので、若干スケールが小さいようにも感じてしまいます。深く染み入るような展開部冒頭。ボストンsoがドイツのオケのような渋い音色で上品な演奏をしています。コーダは輝かしく力強い金管が美しい演奏でしたが、絶叫することは無く、大人の演奏でした。
大きな表現は無く、落ち着いた端正な演奏でした。若干スケールが小さい感じもありましたが、楽譜に忠実な整った演奏は魅力的でした。
ネーメ・ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団
★★★★☆
一楽章、1983年の録音です。速いテンポの第一主題。良く歌うホルン。第二主題も速いテンポで躍動感と生命感があります。色彩のコントラストも明確で、エッジのくっきりとした演奏です。
二楽章、静かな中に抑揚のある低弦のピィツイカート。ゆったりとしたテンポも物寂しげなファゴットの第一主題。にじみ出るような哀愁。意外と明瞭に提示される第二主題。テンポも緩急の変化が大きく、かなり起伏の激しい演奏です。
三楽章、テンポはそんなに速くは無いのですが、スピード感はあります。トリオに入る前にかなり長い間を取りました。トリオに入っても大きくテンポを落とすことはありません。感情を込めた演奏では無いようですが、オケを明快に鳴らして、作品の力強さを表現しようとしているようです。
四楽章、湧き上がるように力強い第一主題。展開部に入っても湧き上がるような第一主題の表現は同じです。第一主題の再現部は速いテンポになりました。とても活発で生き生きとしています。もともとシベリウスは色彩感豊かな作曲家ではありませんが、この演奏は個々の楽器が明快に鳴らされるので、色彩感はとても豊かです。コーダの金管は最初レガートに演奏して次第に盛り上がるにつれてレガートしなくなりました。
基本的には速めのテンポで力強く活力に溢れた演奏でした。個々の楽器も明快に鳴らして色彩感も豊かな演奏は魅力的でした。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 モスクワ放送交響楽団
★★★★☆
一楽章、豊かな響きでゆったりと歌いとても積極的です。爆演を連想させるにぎやかで色彩感豊かな演奏です。突然ビャーッと突き出てくる金管。ソ連のオケらしくホルンがビブラートをかけます。積極的で雄弁な金管が気持よく響き渡ります。
二楽章、ピーンと締まった寒さを感じさせるファゴットの第一主題。ゆったりとしたテンポですが、常にオケのいろんなパートが鳴っていてとても分厚い響きです。金管はかなりねちっこく強烈です。
三楽章、一音一音明確に演奏される弦。トリオでたっぷと歌う木管。合間に入る金管はやはり強烈で一瞬にして空気を変えてしまいます。
四楽章、豊かな響きの第一主題にやはり強烈なトランペットが登場します。第二主題は暖かく柔らかいですが、ここでも金管が空気を突き破って登場します。楽器の出入りがとても良く分かりこの作品のオーケストレーションの巧みさも分かります。シベリウス独特の低音の動きもしっかりと届いてきます。コーダもトランペットがここぞとばかりに吹きますが、はっきりとブレスで音が途切れるのが残念でした。
分厚い響きに強烈な金管。豊かに歌う木管。なかなか聞かせどころの多い演奏でした。これまで思っていたシベリウスの細身のイメージを覆すような恰幅の良い演奏でした。