ショスタコーヴィチ交響曲第9番

ショスタコーヴィチの交響曲第9番は、1945年に作曲された作品で、彼の交響曲の中では比較的軽快でユーモアに満ちたものです。彼の前作である第7番「レニングラード」や第8番が戦争の影響を色濃く反映しており、重々しくドラマチックな内容だったのに対し、第9番はまるで聴く人の期待を裏切るかのように、短く軽妙で、風刺的な要素が感じられます。

この交響曲は、5つの楽章で構成されていますが、通常の交響曲のように大規模な展開はなく、むしろ古典的な構成に回帰した感じがします。当時のソビエト連邦では、戦争勝利を記念する荘厳な作品が求められていたため、ショスタコーヴィチが第9番で軽妙な曲を作ったことは当局から批判されました。それでも、彼はこの作品にユーモアと皮肉を込め、聴衆を驚かせました。

第9番は、以下のような特徴的な要素を持っています:

  1. 軽快なテンポと明るい旋律 – 第1楽章は明るいマーチのようなリズムで始まり、軽やかで楽しい雰囲気が漂っています。
  2. 風刺的でコミカルな要素 – 随所にショスタコーヴィチらしいユーモラスな表現があり、特に第3楽章の変則的なリズムや、第4楽章の皮肉を込めた短いテーマは独特です。
  3. ユニークな構成と短い楽章 – 全体として短めの楽章が並んでおり、壮大なフィナーレというよりも、軽妙なエンディングが印象的です。

ショスタコーヴィチの交響曲第9番は、戦後の沈鬱な気分から少し解放されるかのように、聴く人に軽い息抜きを与える作品といえるでしょう。その風刺的な内容と明るさが、聴衆や批評家の間で物議を醸し、ショスタコーヴィチの多面的な音楽性を象徴するものとして評価されています。

キリル・コンドラシン/ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー

★★★★★

一楽章、速いテンポの導入部。鬼気迫る表現です。明るいトロンボーン。引き締まった緊張感が素晴らしい。

二楽章、独特の暗い雰囲気の木管。絶望的な弦。

三楽章、集中力が高く、強いエネルギーを感じる演奏です。

四楽章、重量感のあるチューバ。悲痛なファゴット。

五楽章、ゆっくり目のファゴット。オーボエが入っても落ち着いたテンポです。次第にテンポが速まって緊張感が高まります。コーダの直前で少しテンポが落ちました。

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ワシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リバプールフィルハーモニー管弦楽団

★★★★★

一楽章、快速で明快な導入部。伸びやかで明るいトロンボーン。筋肉質で弾力のある表現で、精度も高いです。

二楽章、感情が込められてゆっくりとしたテンポのクラリネット。ゆっくりと吐き出すような弦。暗く絶望感を感じさせるような演奏です。

三楽章、精緻で見通しの良い演奏。鋭く響くトランペット。

四楽章、控えめなトロンボーンとチューバ。暗いながらも暖かみを感じるファゴット。

五楽章、ゆっくり目です。オーボエが入るとスピード感のある演奏へと一変します。精緻で爽快感のある演奏はとても心地良いものです。終盤の金管あたりからの加速も見事でした。

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アレクサンドル・ラビノヴィチ=バラコフスキー/シンフォニア・ヴァルソヴィア

★★★★★

一楽章、ソフトなタッチの導入部。生命観のある演奏です。柔らかいトロンボーン。かなり積極的な表現です。

二楽章、感情がこもって豊かな表現のクラリネット。弦もテンポが動いて豊かな表現です。

三楽章、速めのテンポでここでも積極的な表現です。スネアは緩めです。

四楽章、余裕があって美しいトロンボーンとチューバ。感情豊かなファゴット。

五楽章、弦が入ってからかなり速いテンポになります。粒だって生き生きとした演奏です。駆け抜けて爽快に終わりました。

コンスタンティノス・カリディス/WDR交響楽団

★★★★★

一楽章、かなり早めのテンポで荒々しい導入部。ソフトなトロンボーン。終始激しい演奏です。

二楽章、陰影のある豊かな表現のクラリネット。表現の幅が広い演奏です。ゆったりと歌うフルートも良い表現です。

三楽章、この楽章も速めでとても活発な表現です。ティンパニもかなり存在感があります。

四楽章、グイグイと進むトロンボーンとチャーバ。ファゴットもこれ以上出来ない程の広い表現です。

五楽章、この楽章はゆったりとしたテンポですが、やはり表現はとても豊かです。一転してオーボエから速いテンポです。駆け抜けて終わりました。

この作品を表現し尽くしたような演奏でした。

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ユッカ=ペッカ・サラステ/WDR交響楽団

★★★★★

一楽章、豊かな残響で、生き生きとした導入部。フワッとした柔らかいトロンボーン。ゆったりとしていて、伸びやかで広々とした演奏です。

二楽章、ギュッと内側に込められた密度の高いクラリネット。不安が迫ってく来るような表現の、柔らかい弦。

三楽章、テンポも速く、活発な表現です。濃密で、一音一音がガリガリと迫って来ます。

四楽章、弱めですが、豊かな表現のトロンボーンとチューバ。豊かな表現のファゴット。

五楽章、ゆっくり目のファゴット。オーボエからテンポが速くなります。コーダで加速して爽快に終わりました。

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エフゲニー・スヴェトラーノフ/ソヴィエト国立交響楽団


★★★★★

一楽章、せわしなく速いテンポの導入部。笑うようなトロンボーン。ピッコロも活発な動きです。吠える金管。怒涛のように突き進む演奏です。

二楽章、深く歌うクラリネット。ざわざわとする弦。実に味わい深い楽章でした。

三楽章、ゆっくり目で抜けの良いクラリネット。力強いトランペットが炸裂します。

四楽章、この演奏の中では控えめなトロンボーンとチューバ。ファゴットも切々と歌います。

五楽章、ゆったりとしたファゴット。大きなテンポの変化が無く進みますが再現部の前で急加速。再現部の直前でまたテンポを落とし、その後また加速と目まぐるしく変化します。スヴェトラーノフらしい痛快な演奏でした。

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ケンナジー・ロジェストヴェンスキー/ソビエト国立文化省交響楽団

★★★★★

一楽章、とても静かに始まります。とても積極的で大きな表現です。バリバリと響くトロンボーン。ロジェヴェンらしい下品な演奏。考えられることやり尽くすような演奏です。脂ぎった濃厚な曲に生まれ変わっています。

二楽章、とても陰鬱なクラリネット。感情を込めて表現します。フルートも暗く密度が高いです。暗いですが、消え入るような弱音と、力のある強い音の振幅が大きい。

三楽章、速いテンポで勢いのある木管。鋭く遠慮の無い金管。

四楽章、バリバリととても下品に響くトロンボーンとチューバ。濃厚に表現するファゴット。とても引き込まれる演奏です。

五楽章、軽い表現になったファゴット。木管の高音は鋭く突き刺さって来ます。表現の幅が広く力強い演奏でした。

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ウラディミール・スピヴァコフ/ロシア・ナショナルフィルハーモニー管弦楽団

★★★★★

左のジャケット写真とは違う演奏です。2014年の録音。

一楽章、大きな表現の導入部。引き締まって緊張感のある演奏です。伸びやかなトロンボーン。緩く抜けの良いスネアが鋭く切り込んで来ます。

二楽章、憂鬱なクラリネット。緻密で生き生きとした演奏。押し寄せて来るような4拍子。

三楽章、とても濃厚な色彩感。

四楽章、かなり弱く入って次第に強くなったトロンボーンとチューバ。かなり強いシンバル。

五楽章、ゆっくりとしたテンポで始まります。かなり情報量が多い。快速のコーダ。

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ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団

★★★★☆

一楽章、丁寧な表現で明快な導入部。立ち上がりの鈍いトロンボーン。タロールのようなピッチの高いスネア。艶やかで美しいヴァイオリンのソロ。

二楽章、くっきりとした輪郭のクラリネット。不安を感じさせる弦。とても美しい響きです。

三楽章、ゆっくり目ですが、ここでもくっきりと明快なクラリネット。少し奥まったトランペット。

四楽章、割と軽めのトロンボーンとチューバ。美しいですが、あまり大きな表現はしないファゴット。

五楽章、とてもゆっくりとした冒頭。オーボエが入って少しテンポが速くなりますが、それでも遅めです。混沌として再現部で一変して明快になります。

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ニコラス・コロン/hr交響楽団

★★★★☆

一楽章、落ち着いて、深みのある導入。明るいトロンボーン。強いピッコロ。とてもクッキリとした明快な演奏です。

二楽章、陰影を伴い広い表現のクラリネット。諦めのような弦。

三楽章、色彩感の濃厚な演奏です。鋭く響くトランペット。

四楽章、控えめなトロンボーンとチューバ。明るく浅いファゴット。

五楽章、ゆっくり目ですが、若干短めに演奏されるファゴット。その後は流れるように続きます。混沌として来て再現部。駆け抜けて明快に終わりました。

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セルジュ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー交響楽団

★★★★

一楽章、ゆっくりとした導入部。柔らかいトロンボーン。とても精緻で、重量感があります。

二楽章、消え入るような弱音。密度が濃く厚い響き。遅い演奏ですが、緊張感は保たれています。

三楽章、かなり遅い演奏です。力強いトランペット。

四楽章、荒ぶるトロンボーンとチューバ。クラッシュシンバルが入りました。暖かいファゴット。

五楽章、この楽章はかなり遅いテンポです。この作品の演奏としては、全く別世界です。オーボエが入ると一般的なテンポになりました。第一主題になるとまた少し遅くなります。チェリビダッケらしい重厚な演奏です。再現部はとても賑やかです。これまでとは一転して快速にコーダ。

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マリス・ヤンソンス/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団

★★★★

一楽章、編成が小さいように感じる軽やかな導入部。大きく響くトロンボーン。筋肉質で動きの明快な演奏です。

二楽章、かなり陰影のあるクラリネット。引き締まっていて、敏感な反応のある演奏です。

三楽章、控えめに響くクラリネット。細い響きのトランペット。

四楽章、力の抜けたトロンボーンとチューバ。ファゴットもクラリネット同様少し離れたところから美しく響いています。

五楽章、ゆっくりとした第一主題。オーボエが出るあたりからテンポが速くなります。スネアは締まってはいませんが抜けの良い響きで心地良いです。再現部はゆったりと大きく広い演奏で、その後テンポが一気に速まります。爽快におわりました。

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ルドルフ・バルシャイ/ケルン放送交響楽団

★★★★

一楽章、速めで軽快な導入部。明るいトロンボーン。ウェットなスネア。バルシャイの演奏にしてはメリハリがあります。艶やかで美しい響きです。

二楽章、少し離れた所からニュートラルな響きのクラリネット。とても暗い演奏です。この楽章はほの暗い雰囲気です。

三楽章、くっきりとした色彩感です。暗く伸びの無いトランペット。

四楽章、トロンボーンとチューバも暗い響きです。暗闇から浮かぶようで、一音一音丁寧なファゴット。

五楽章、ゆっくりと演奏されるファゴット。大きくテンポが上がらずとても落ち着いた演奏。コーダは緊迫感がありますが、最後は肩透かしで終わる。

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ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン/香港フィルハーモニー管弦楽団

★★★☆

一楽章、速めのテンポで生き生きとした表現です。間接音を含んだトロンボーンとピッコロ。緩いスネア。

二楽章、高音域だけ飛び抜けるクラリネット。不吉な予感を感じる弦。

三楽章、ゆったりとしたテンポです。積極的に表現しています。

四楽章、かなり余裕のあるトロンボーンとチューバ。

五楽章、あまり強い個性を感じさせる演奏ではありませんでした。

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ウラジーミル・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

★★★☆

一楽章、あっさりと淡白な導入部。明るいトロンボーン。緩いスネア。色彩感もあまり無く、演奏全体も締まりが無く、緩い感じです。

二楽章、伸びやかさが無く、押し込められたような録音。弦も暗く苦しい感じがします。この重苦しさが狙いなのか?

三楽章、この楽章も暗い演奏です。トランペットは奥まったところから鋭く響きますがやはり暗い。

四楽章、控えめなトロンボーンとチューバ。ファゴットもほの暗い雰囲気です。

五楽章、ゆっくりとしたファゴット。ここも色彩感が無く暗い。弦が入ってから少しずつテンポが速くなります。コーダに入ると一転してお祭り騒ぎのようになりました。

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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

★★★

一楽章、ねっとりと尾を引くような演奏です。鋭く立ち上がるトロンボーン。独墺の作品なら潤いのある演奏になるのだと思いますが、ちょっと趣を異にする演奏です。

二楽章、とても静かに始まるクラリネット。ねちっこくテンポが動きます。フルートが入る頃にはかなり遅くなっています。4拍子はさらに遅く完全にバーンスタインの世界です。かなりねちっこい演奏です。

三楽章、この楽章もかなり遅い。

四楽章、重厚なトロンボーンとチューバ。暖かいファゴットはかなり濃厚な表現です。

五楽章、クレンペラーも遅い演奏でしたが、それに濃厚でしっとりした音色と濃厚な表現が加わった演奏でかなり重たいですが情報量はかなり多い演奏です。
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セルジュ・チェリビダッケ/スウェーデン放送交響楽団

★★

一楽章、チェリダッケにしては快速の導入部。明るいトロンボーン。ウェットなスネア。炸裂せずに抑え気味な金管。

二楽章、この楽章も普通のテンポです。1964年の録音らしいので、晩年のような遅いテンポで独特の味わいのある演奏ではありません。消え入るような弦が美しい。

三楽章、かなりゆっくりとしたテンポで始まります。ここでもトランペットは詰まったような響きです。

四楽章、控えめなトロンボーンとチューバ。細く、少し首を絞められたように窮屈な響きのファゴット。

五楽章、遅いテンポが消化し切れていないような、たどたどしいファゴット。伸びの無いトランペットがかなり気になります。

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オットー・クレンペラー/RAI国立交響楽団

一楽章、凄く遅い導入部。かなり古い録音です。テンポの動きはありますが基本的には遅く、泰然自若で全く動じない演奏で、サービス精神など微塵もありません。

二楽章、この楽章もゆっくりとした演奏です。私にとってはクレンペラーはとても苦手な指揮者です。表現らしい表現も無く流れて行くので緩い演奏に感じてしまいます。

三楽章、かなり奥まったトランペット。

四楽章、素っ気ないトロンボーンとチューバ。ファゴットも雑に聞こえてしまいます。

五楽章、この楽章も遅めのテンポです。最後にテンポが遅くなって終わりました。私には理解不能です。

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投稿者: koji shimizu

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