ショスタコーヴィチの交響曲第4番は、彼の作品の中でも特に野心的で、ドラマチックな内容を持つ交響曲です。1935年から1936年にかけて作曲されたこの作品は、当時のソビエト連邦の政治的な緊張が影響しており、ショスタコーヴィチが自らの芸術表現を大胆に追求した作品として知られています。しかし、この交響曲は発表直前に政治的圧力によりお蔵入りとなり、初演されたのは彼が亡くなるまで約25年も後の1961年でした。
目次
- 1 交響曲第4番の構成と特徴
- 2 背景と音楽的意図
- 3 ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団
- 4 キリル・コンドラシン/シュターツカペレ・ドレスデン
- 5 アンドレ・プレヴィン/シカゴ交響楽団
- 6 キリル・コンドラシン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
- 7 ケンナジー・ロジェストヴェンスキー/ボリショイ劇場管弦楽団
- 8 キリル・コンドラシン/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
- 9 クシシュトフ・ウルバンスキ/NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団
- 10 セミヨン・ビシュコフ/WRD交響楽団
- 11 アンドリル・ネルソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
- 12 ヘルベルト・ケーゲル/MDR交響楽団
- 13 ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/フィルハーモニア管弦楽団
- 14 ルドルフ・バルシャイ/ケルン放送交響楽団
- 15 ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー歌劇場管弦楽団
- 16 ケンナジー・ロジェストヴェンスキー/サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
- 17 ネーメ・ヤルヴィ/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
- 18 サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団
- 19 ベルナルト・ハイティンク/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
- 20 ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ソビエト国立文化省交響楽団(ライヴ)
- 21 ユッカ=ペッカ・サラステ/シュターツカペレ・ドレスデン
- 22 ヴァシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リバプール・フィルハーモニー管弦楽団
- 23 マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団
- 24 ユージン・オーマンディー/フィラデルフィア管弦楽団
- 25 ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団(ライヴ)
交響曲第4番の構成と特徴
この交響曲は、3つの楽章で構成されていますが、特にスケールの大きい音楽が展開されるのが特徴です。演奏時間も1時間を超えるため、聴く者に強いインパクトを与えます。また、マーラーの影響が顕著で、彼の音楽に通じる壮大さや劇的な展開が見られます。
- 第1楽章:アレグロ・ポコ・レント
第1楽章は長大で、様々なテーマが劇的に変化しながら展開されます。重厚なオーケストレーションと急激な音楽の変化が続き、ショスタコーヴィチ特有の緊張感と迫力が感じられます。彼の苦悩や不安が表現され、まるで荒れ狂う嵐のような音楽です。 - 第2楽章:モデラート・コン・モート
中間の楽章である第2楽章は、陰鬱で内省的な雰囲気を持ち、静かで不安定なムードが漂います。落ち着いたテンポながらも、どこか不穏な気配が漂い、物悲しさや孤独感が感じられる音楽です。ショスタコーヴィチの内面的な葛藤や、ソビエト社会での抑圧された心情が反映されているとも言われます。 - 第3楽章:ラルゴ – アレグロ
最終楽章はラルゴの重々しい序奏から始まり、途中でアレグロに転じて一気に盛り上がりを見せます。急速で激しいリズムが続き、オーケストラ全体が圧倒的なエネルギーで爆発するような音楽が展開されます。劇的で壮絶なクライマックスに達しながら、最後は静かに終わり、聴く者に強烈な余韻を残します。
背景と音楽的意図
第4番は、ショスタコーヴィチが純粋に自分の芸術性を表現しようとした作品です。しかし、スターリンの批判を受けた直後のタイミングで完成したため、発表は大きなリスクを伴いました。この交響曲が政治的なメッセージを含むものと解釈されることを恐れたため、彼はやむを得ず初演を取りやめました。そのため、この作品は長らく封印され、彼の「幻の交響曲」として語り継がれました。
交響曲第4番は、ショスタコーヴィチの壮大で実験的な作風を反映し、同時に彼の内面的な葛藤や不安を表現したものです。初演が遅れたことで、当時の聴衆が彼の本来の音楽的な声を聞く機会を失いましたが、現在では彼の最も重要な作品のひとつとして評価されています。
ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団
★★★★★
一楽章、細く左右一杯に定位するオーケストラ。マットな響きの金管。テヌート気味のトロンボーン。とてもスッキリとしていたコンパクトにまとまっている感じを受けます。ゆっくりとしたテンポで丁寧に描いて行きます。複雑な作品ですがとても整然としています。ティンパニもマットな響きです。凄まじい音の大洪水もあり、静寂な弱音との振幅もとても大きいです。全体にマットな録音ですが、弦などはいぶし銀のように煌めく響きです。ハイティンクらしい細部まで行き届いた生命感のある演奏です。ゆったりとしたテンポですが、細部を抉り出すような演奏では無く、何も強調せずに全てを聞かせるような演奏です。落ち着いたプレスト。全く騒々しさは感じません。
二楽章、とても静かで流れの良い冒頭です。一楽章とは違って釜の響きがするティンパニ。ずっと夜の雰囲気です。かなりくっきりと響く打楽器。
三楽章、とても弱いファゴットですが、さりげなく歌う歌は美しい。とても遅いテンポですが、弛緩することは無く、ティンパニのクレッシェンドと共に盛り上がる金管の凄い響きはさすがシカゴso。続く弦の静寂感の対比も素晴らしい。遅いテンポでもピーンと張りつめた緊張感はハイティンクの面目躍如です。ゴロゴロと鳴るチューバ。伸びやかなトロンボーンのソロ。ティンパニの後の金管は、美しく伸びやかに炸裂します。堂々と力強く鳴り響くトロンボーン。クライマックスは凄まじい演奏でした。消え入るように静かになります。ゆっくりと美しいチェレスタ。
このリンクをクリックすると一楽章の音源の再生ができます。
キリル・コンドラシン/シュターツカペレ・ドレスデン
★★★★★
一楽章、モノラル録音です。マイルドな響きですが、熱気を感じる金管。荒れ狂うように交錯する金管。平板にはならず表現が豊かです。金管が限界近くの咆哮を聞かせます。強い疾走感きありませんが、嵐のように激しいプレスト。
二楽章、とても良く歌い、豊かな表現です。木管のウネウネする独特の雰囲気。
三楽章、ゆっくり目のファゴット。感情の入った演奏で、とても強い共感を感じます。遠慮なく切れ込んで来る凄みはなかなかです。限界近くで吠えるトロンボーン。モノラル録音ですが、色彩感はくっきりとしていて鮮明です。お風呂のような残響の中に響くトロンボーンのソロは軽く演奏されます。ティンパニの後の金管は、激しく不協和音がぶつかり合い、壮絶な響きです。限界ギリギリの非常に温度感の高い響きは出色です。暖かいチェレスタ。
アンドレ・プレヴィン/シカゴ交響楽団
★★★★★
一楽章、シカゴsoらしい明快に鳴る金管が印象的な演奏です。録音も良くとても見通しが良いです。ダイナミックレンジも広く、金管がグッと前に出て来ます。激しい部分では金管が盛大に鳴り響いて大迫力ですが、静寂感も素晴らしいです。冷たい響きではありませんが、この演奏なら納得です。とても伸びやかで柔らかい響きは、ロシアや東欧のオケとは一線を画すものですが、この演奏は良いです。比較的落ち着いたプレスト。猛烈に突進して来るような金管。強烈な主張はしませんが、作品の緻密さなどが確実に伝わって来ます。
二楽章、とても滑らかに流れて行きます。これだけの難曲を軽々と演奏するシカゴsoはさすがです。この作品は硬く冷たい響きが当たり前と思っていましたが、この伸びやかで柔らかい響きでも実に素晴らしい。
三楽章、正確無比で作品に書いてある全ての音が表現されているような演奏です。これだけの曲を難なく演奏するシカゴsoと、それを完璧に統率しているプレヴィンにも頭が下がります。楽しんでいるかのようなトロンボーンのソロ。ティンパニの後の金管は、壮絶な響きではありませんが、パワー全開の充実した響きです。最後のチェレスタも暖かい。
キリル・コンドラシン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
★★★★★
一楽章、少し離れた所から硬く強い響きです。推進力のある速めのテンポで、細部にはこだわらない演奏です。かなり激しく咆哮する金管。快速にどんどん進みます。下品なトランペット。遠慮なく打ち込まれるティンパニ。生き生きとした演奏です。プレストもかなりの疾走感です。打楽器も派手に入ります。この曲の音響的効果を最大限に狙ったような演奏です。とにかく物凄い勢いで走り抜けています。ビービーとなりミュートしたトランペット。最近の整理されて落ち着いた演奏とはかなり様相が違います。棘がいっぱい出ていて襲い掛かって来るような感じがします。
二楽章、この楽章も速めのテンポでとても表情豊かです。夜に静かに鳴り渡る打楽器。
三楽章、良く歌うファゴット。ビリビリと強烈なトランペット。粘りがあって、濃厚な色彩と叩き付けるような表現で強烈です。テンポも速めでスピード感があります。明快に鳴るトロンボーンのソロ。空気を引き裂くような表現の幅が広いソロです。ティンパニの後の金管は、壮絶に音がぶつかって鳴り響きます。憂いのうるチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ケンナジー・ロジェストヴェンスキー/ボリショイ劇場管弦楽団
★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで強い響きです。トロンボーンも強烈です。明快に金管を鳴らすとてもメリハリの効いた演奏です。暴力的に叩きつけるティンパニ。弱音の表現も豊かで、ロジェストヴェンスキーらしいサービス精神旺盛な演奏です。疾走感のあるプレスト。特に強調する訳ではありませんが、さりげなくユーモアのある表現などなかなか良い演奏です。
二楽章、暖かく静かに始まります。とても静かなトリオ。とても静かな弱音とティンパニの強打との振幅もとても広い。
三楽章、とても遅いテンポで始まります。一音一音に力を込めるような演奏ではありませんが、流れの中で良く表現されています。突き刺さるようなトランペット。トロンボーンのソロもとても豊かな(下品な?)表現です。ティンパニに後の金管は、強烈に突き抜けては来ませんが、壮絶な響きはとても良く感じられます。かなりゆっくりと叩きつけて来ます。静まってからは消え入るような弦です。一転して淡々と演奏されるチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
キリル・コンドラシン/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★☆
一楽章、金属的な響きのトランペット。トロンボーンも激しく咆哮します。力の漲るような演奏です。スタジオ録音ですが、凄まじい熱気です。木管や弦も生き生きとしています。コンドラシンの作品への共感と愛が感じられます。弱音部分では夜のような暗さも感じられます。録音の古さからか少しうるさい感じも無くはありませんが、それを上回る熱気です。表現もとても豊かです。テンポは終始速めで進みます。プレストも疾走感があります。嵐のように荒れ狂う演奏。
二楽章、この楽章も速めのテンポで明確に演奏されます。奥行き感を感じさせるシロフォン。金管はかなり前に出て来ます。闇夜に響くような打楽器。
三楽章、ゆっくり目のファゴット。ガリガリと切り込んで来る弦。最近の流れの良い演奏とは一線を画す棘がたくさんある演奏です。ビブラートを掛けて柔らかく歌うトロンボーンのソロ。速めのテンポのティンパニ。あまり音がぶつかり合わず壮絶な響きでは無い金管。あまり静まらず強い木管。うつろなチェレスタ。
クシシュトフ・ウルバンスキ/NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団
★★★★☆
一楽章、クリアで明晰な演奏です。スネアの装飾音符もはっきりと聞こえます。作品をストレートに表現するような演奏です。とても良くコントロールされていて規律正しいオケが整然と演奏しています。一時代前の混沌とした響きとは一線を画すとても見通しの良い演奏です。プレストはかなり激しく躍動感のある演奏です。スネアは締まった良い音で鳴っています。
二楽章、落ち着いたテンポで丁寧に演奏されます。ライヴ録音でありながらこれだけの透明感のある演奏は素晴らしいです。
三楽章、とてもゆっくりとしたテンポの序奏。実に精緻な演奏です。オケも粘り気の少ない爽やかな響きで、疾風怒濤のように駆け抜ける部分でも、軽々とこなして明晰な演奏を支えています。ファゴットもトロンボーンのソロもとても上手い。ティンパニに後の金管は、とても柔らかい響きで壮絶な雰囲気はありません。冷たく悲しい終盤。物悲しいチェレスタ。
セミヨン・ビシュコフ/WRD交響楽団
★★★★☆
一楽章、一音一音に力が込められています。少し奥まった金管。強い色彩感と引き締まったアンサンブルです。とても統率が取れていて、雑味が全くありません。ゆったりとしたテンポでとてもクリアです。遅めのテンポですが、疾走感のあるプレスト。シャープに響くスネア。
二楽章、一音一音がとても丁寧で精度の高い演奏です。無駄なものを削ぎ落したようなクリアさ。静かな中から僅かに聞こえる打楽器。
三楽章、感情を込めて歌うファゴット。金管は控えめで咆哮とは遠い、極めて整然とした響きで、ロシアのオーケストラの演奏とは一線を画すものです。トロンボーンのソロも控えめです。ティンパニの後の金管は、あまり音がぶつかり合わずにスッキリとした響きです。ティパニに刻むリズムが強く響きます。壮絶な雰囲気よりも輝かしい感じがします。フワッとした響きのチェレスタ。
アンドリル・ネルソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
★★★★☆
一楽章、鋭い響きで濃厚な色彩の演奏です。豊かな残響を伴った木管が美しい。金管が激しく咆哮することは無く、柔らかい響きで一貫しています。プレストは少し前へ行こうとする勢いがあります。強く刻み付けるような表現も無く、自然に流れて行きます。濃厚な色彩で強い響きのピッコロ。
二楽章、伸びやかで美しい弦。濃厚な色彩で美しく演奏されます。これだけ豊かな色彩感で描き分けられている演奏はなかなか無く、とても貴重な演奏です。
三楽章、ゆっくりと演奏されるファゴットがとても豊かに歌います。爆演を期待していると肩透かしを食います。とても洗練された美しさです。力が抜けて軽い金管。伸びやかに歌うトロンボーン。とてもゆっくりなティンパニの後の伸びやかで余裕さえも感じる金管。深く沈み込み消え入るような弱音。ゆっくりと物悲しいチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ヘルベルト・ケーゲル/MDR交響楽団
★★★★☆
一楽章、モノラル録音のようです。引き締まった表現の第一主題。金管が咆哮するようなことはありませんが深い彫琢の演奏です。温度感が低く静寂感があります。トランペットが悲痛な表現の演奏をしますが、少し奥まっています。一音一音が立っていてとても力があります。
二楽章、硬く冷たく強い演奏です。とても集中力が高く細部まで張りつめています。浮遊する木管。
三楽章、かなり強烈に響くトランペット。深く彫られた痛烈な表現が素晴らしい。叩きつけて来るような強い弦。どの楽器も凄く力があって、一音一音に込められたエネルギーが凄い。最後の金管は、壮絶な響きには聞こえますがあまり音は前に出て来ません。静まってからも弦のピィチィカートがとても強い。最後は淡々と終わりました。
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/フィルハーモニア管弦楽団
★★★★
一楽章、ロジェストヴェンスキーらしい粘っこい表現。ロシアのオーケストラとの演奏のような冷たい響きでは無く、温度感があります。表現は積極的で、熱気さえも感じる演奏です。フィルハーモニアoもロジェストヴェンスキーに応えてかなり咆哮します。ケーゲルの演奏程ではありませんが、一音一音に力があります。嵐のような凄いスピード感のプレスト。
二楽章、若干ザラつく弦。生き生きとした豊かな表現です。ピッコロなどもかなり前に出て来ます。
三楽章、とてもゆっくりと演奏されるファゴット。熱気を帯びたトランペットの咆哮。時折顔を出すユーモアのある旋律はとても楽しい。トロンボーンのソロは真面目に演奏されました。テンパニの後の金管は、鋭い響きです。かなり冷たい弦。あまり余韻の残らないチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ルドルフ・バルシャイ/ケルン放送交響楽団
★★★★
一楽章、整然として整った演奏です。金管は控えめです。静寂感もあって流れの良い刺激の少ない演奏でもあります。強い緊張感や冷たさは無く、少し緩い空気感もあります。ティンパニはとても良い音で鳴っています。余裕を持って鳴らしながらとても精緻で、完成度の高い演奏です。凄い疾走感のあるプレストですが、咆哮することはありません。
二楽章、柔らかく伸びやかで暖かい。見通しが良く色彩感も豊かです。大きな表現をすることも無く、作品を忠実に再現しようとしているようです。
三楽章、強く感情を込めることの無いファゴット。目の覚めるようなトランペット。精緻で伸びやかな演奏はとても気持ちが良い。トロンボーンのソロも大きな表現はせず、作品に任せている感じです。硬質なティンパニのクレッシェンドの後の金管はテンポが速く、ティンパニがはっきりと聞こえて、壮絶な響きではありません。柔らかいチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー歌劇場管弦楽団
★★★★
一楽章、響きを伴って若干モヤッとした響きです。スネアの装飾音符がハッキリと別れて聞こえました。金管は咆哮することなく、落ち着いています。とても柔らかい演奏で、とげとげしいところはありません。録音のせいか、ティンパニの強打も前には出て来ず、奥で音が広がる感じです。この尖った作品を完全に過去のものとして、マイルドに聞かせています。プレストも滑らかで落ち着いています。嵐のような激しさは全くありません。打楽器が入っても急に音量が上がることはありません。不思議なくらい穏やかな演奏です。ゆっくりなテンポでスタッカート気味では無いファゴットの演奏など、これまで聞いて来た演奏とはかなり趣きが違います。
二楽章、暖かく滑らかな弦。ガリガリと引っ掛かるようなことは全くありません。粒立ちの良い打楽器。
三楽章、どこまでも美しく柔らかく自然に流れて行く演奏。この曲のイメージとは全く違う演奏です。トロンボーンのソロもとてもの伸びやかで柔らかく美しい。とても速いテンポに加速するティンパニの後、そのままのテンポで金管になだれ込みます。金管はあまり激しく音がぶつかり合うことは無く、整った響きです。確実な足取りで正確に演奏されるチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ケンナジー・ロジェストヴェンスキー/サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
★★★★
一楽章、モノラル録音のようで何とももっさりとした音です。聞き進むと録音にも慣れて来ます。打楽器の強打はリミッターが掛かっているようです。ロジェストヴェンスキーらしい粘っとりとした表現です。プレストはそんなに速くは無く、尾を引くように表現して行きます。
二楽章、この楽章冒頭もゆっくりとしたテンポです。かなり濃厚な演奏です。それぞれの楽器の音色にも粘りが感じられるようでかなりハイカロリーです。
三楽章、とてもゆっくりとしたテンポの序奏。トランペットはかなり奥まっています。ゆっくりと濃厚で表現も豊かな演奏ですが、金管が全体に奥まっていて、伸びて来ないのが少し残念です。トロンボーンのソロもこれでもかと言うような表現です。ティンパニの後の金管もゆっくりと壮大な演奏なのですが、強く感じるだけで実際に音は前には出て来ません。サービス精神旺盛で聞かせどころ満載の演奏ですが、録音が悪いのがとても残念でした。最後のチェレスタも思いにふけるような表現でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ネーメ・ヤルヴィ/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
★★★☆
一楽章、叩きつける打楽器。少し奥まって響く金管はかなり激しく鳴らされます。かなりくっきりと浮かび上がる楽器。ゆっくりとしたテンポで良く歌うファゴット。静寂から炸裂までの振幅はかなり大きい演奏です。整然としていて鋭角に響く金管はとても心地良いものです。あまり疾走感の無いプレスト。弦は少し詰まった感じで伸びやかさには欠けます。スネアが緩く、ドタドタとした打楽器。静かな部分は消え入るような弱さなので、かなりダイナミックレンジは広いです。
二楽章、柔らかい響きの冒頭。残響を伴って柔らかく暖かい響きの演奏です。打楽器はあまり際立って聞こえません。
三楽章、鋭いトランペットやティンパニの強烈なクレッシェンドがあったり所々にギョッとさせられるような表現が散りばめられています。速い部分は快速です。ティンパニのクレッシェンドはかなり急いだ感じでした。続く金管きかなり鋭い響きで壮絶ですが、何故そんなに急ぐと言う感じもします。チェレスタもテンポが速く、少し事務的に感じました。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団
★★★☆
一楽章、録音レベルが低く、少し遠目に定位するオーケストラ。軽い響きの演奏です。金管も激しく前に出て来ることは無く、奥で鳴り響きます。激しく咆哮してもアンサンブルが乱れることは無く整然としています。あまり強い主張はせずに作品をストレートに演奏している感じです。疾走するプレスト。アンサンブルが整っているのか、大人数で演奏しているようには聞こえません。
二楽章、とても滑らかで尖ったところはありません。軽々とサラッと流れて行きます。あまりに軽く、滑らかに流れて行くのでBGMのような感覚になってしまいます。打楽器も耳を澄まさないと聞こえません。
三楽章、あまりに静かなので、ボリュームを少し上げた。ゆっくりと演奏されるファゴット。それでも引っかかるところはあまり無く、流れの良い演奏です。スコアをほぼ完璧に再現したような演奏ですが、一方でお行儀の良い演奏で、あまり面白くないかも知れません。トロンボーンのソロも軽いです。ティンパニの後の金管は、壮絶な不協和音ですが、ブレンドされた柔らかい響きです。柔らかく寂しげなチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ベルナルト・ハイティンク/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★☆
一楽章、一音一音丁寧に演奏されます。金管は咆哮しませんが、ブレンドされたバランスの良い響きです。おそらく放送用の録音で、細部までは分かりませんし、色彩感もあまり鮮明ではありませんが、とても統率の取れた演奏だと言うことは分かります。温度感も冷たくは無く、暖かいです。ハイティンクの演奏では常に感じることですが、細部まで厳格に統制された緻密な演奏です。プレストはゆったりとしたテンポで疾走感は全くありません。プレスト以外はそんなに遅いとは感じませんでしたが、一楽章だけで30分もかかっていた。
二楽章、ゆっくりと丁寧に演奏します。ケーゲルのような一音一音が強固な感じではありませんが、この演奏も、一音一音に非常に神経が込められています。豊かな響きを伴った打楽器。
三楽章、非常にゆっくりと演奏されるファゴット。金管が突出することは無く面で押してくるような感じです。表情豊かなトロンボーンのソロ。ティンパニに後の金管はかなりくすんだ響きで壮絶さは感じません。少しためらいながら演奏されるチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ソビエト国立文化省交響楽団(ライヴ)
★★★
一楽章、シャリシャリと響くシンバル。サスペンドシンバルも確実にかぶってくる。かなり五月蠅い金管。危なっかしいオーボエ。吐き捨てるように下品な金管。かなり長い残響です。強烈なティンパニ。あまり疾走感の無いプレスト。シンバルの径が小さく刺激のある音です。アンサンブルはかなり乱れ、崩壊寸前です。ロジェストヴェンスキーらしい濃厚な表現のファゴット。
二楽章、ゆっくりと丁寧に演奏されます。ウネウネとした木管。かなりはっきりとした打楽器。
三楽章、とてもゆっくりとしたテンポのファゴット。かなり濃厚に歌います。強烈に突き刺さるトランペット。サービス精神旺盛で良く歌います。色々ありますが、楽しい演奏です。トロンボーンも楽しそうです。ゆっくりとしたティンパニの後の金管は、あまり音がぶつかり合わず思ったほど前には出て来ません。たどたどしい足取りのチェレスタ。
ユッカ=ペッカ・サラステ/シュターツカペレ・ドレスデン
★★★
一楽章、流れの良い演奏です。とても整然としていて、壮絶な感じはありません。柔らかくて伸びやかな響きが美しいです。プレストも整然としていて、強烈な感じは無く、サラリと流れて行きます。一音一音に力を込めるよりも流れを優先しているような演奏です。
二楽章、折り重なる弦が美しい。クラリネットも滑らかで美しい。打楽器が左右に分かれていて面白い。
三楽章、ユックリトしたテンポでとても豊かに歌うファゴット。最初の頂点も控えめで広がりのある響きです。全体にゆったりとしたテンポでガリガリと刻み付けるような演奏では無く、とても軽いタッチで描かれています。ティテンパニの後の金管はかなり奥にトランペットがいて、他の楽器が周りを囲んでいるようなフワッとした響きで壮絶な響きではありません。最後もどこか暖かい。
ヴァシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リバプール・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、鋭い響きの冒頭。その後も歯切れの良い演奏です。金管は奥まっていて、木管が若干強い録音です。クリアで明快な演奏ですが、その分粘りや壮絶さは感じません。強い疾走感は無いプレスト。かなり割り切れた演奏のように感じます。
二楽章、大きな表現はせず、淡々と作品を音に変えて行きます。とても透明感の高い演奏が特徴ですが金管は咆哮せす、少し大人しい演奏です。打楽器はとても弱くあまり聞こえません。
三楽章、とても弱くゆっくりと始まります。表情豊かなファゴット。淡々と演奏が進んで行きます。作品を遠目から見ている洗練された演奏ではありますが、少し物足りない感じはあります。トロンボーンのそろも真面目です。ティンパニの後の金管も炸裂すると言う程の咆哮では無く、安定した響きで壮絶さはありません。粒立ちのはっきりとしたチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団
★★★
一楽章、少し遠目に位置するオーケストラ。スリムでスッキリとした響きです。静寂な部分はとても美しいですが、金管が入ると少しマットな響きになります。強い表現はありませんが、丁寧には演奏されています。金管も咆哮することは無く、節度を保った演奏です。あまり疾走感は無く、落ち着いたプレスト。
二楽章、弱音部分では空間を感じさせる録音です。Ebクラが美しい。作品をストレートに音にしている感じで、ヤンソンスの主張はほとんど感じられません。打楽器も強調されません。
三楽章、とてもゆっくりと演奏されるファゴット。とても抑制されていて、金管が炸裂するようなことはありませんが、その分、弱音は消え入るように弱く演奏されます。弱音部分の色彩感や豊かな響きが美しい演奏です。控えめで柔らかいトロンボーン。ティンパニの後の金管も抑え気味で壮絶な雰囲気ではありません。淡々と演奏されるチェレスタ。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ユージン・オーマンディー/フィラデルフィア管弦楽団
★★
一楽章、音像が大きい録音です。スピーカー一杯に音が広がります。セッション録音なので、とても丁寧に演奏されています。硬さや冷たさは感じません。全ての音が前に出てきて奥行き感はあまりありません。プレストはあまり疾走感が無く、落ち着いています。
二楽章、ゆっくりとしたテンポで大きめに始まります。安全運転で緩い感じがします。
三楽章、とてもゆっくりとしたテンポで始まります。確実な足取りで、さらに安全運転感が高まります。余裕綽綽で脱力した演奏が魅力になる場合もありますが、この作品では、プラスには働いていないように感じます。トロンボーンのソロは目の前で鳴ります。ティンパニの後の金管もとても淡白です。最後も速めのテンポであっさりとしています。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団(ライヴ)
★
一楽章、この頃のライヴ独特のモヤーッとした響きと、デッドで音が短い金管。とても静かな第二主題。ステレオ録音ではありますが、奥行き感も無く、ホルンがデッドに鳴ります。緊張感のあるプレストのフガートはなかなか良いですが、やはり金管が入るとデッド過ぎて雰囲気が悪くなります。この当時のライブ録音としてはかなり良い状態だと思いますが、この作品の複雑さや起伏の激しさを聞くには不十分です。弱音もヒスノイズに隠れて細かなところまでは聞けません。
二楽章、淡々と演奏される主題。木管楽器はどれも引き締まっていて良い響きです。
三楽章、序奏のファゴットも淡々としています。トロンボーンも非常に音が短い。ティンパニに後の金管も壮絶な響きでは無く、とてもデッドで、浅い響きです。深い闇に落ちて行くような演奏。チェレスタは速めのテンポで淡々と演奏されます。