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たいこ叩きのシューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」名盤試聴記
ヴォルフガング・サヴァリッシュ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、豊かな残響を伴って柔らかいホルンの序奏。トゥッティは力みが無く抑えたものです。重々しく尾を引くような第一主題。第二主題は速いテンポですが、しっかりと表情があります。控え目なトロンボーンの第三主題。提示部とは違って良く弾む展開部の第一主題。活発に動く第二主題。表現はされているのですが、心に楔のように打ち込まれるような表現では無く、サラッと通り過ぎるような爽やかな表現です。
二楽章、熱血漢の演奏では無く、自然体の表現なので、響きの美しさが無いとちょっと厳しいのですが、この演奏は表現もそこそこで美しさもそこそこと言う感じで、強い魅力が無いのがしいて言えば難点でしょうか。響きには深みはあるのですが・・・・。抑制が効いていて常に冷静にコントロールされています。
三楽章、中庸の表現で温度感があります。サラッと流れて行き引っかかるところがありません。トリオはたっぷりと歌います。とても豊かな歌です。
四楽章、少しゆったりとしたテンポで重い第一主題。あまり歌わない第二主題。トゥッティでも響きが内側に凝縮するような密度の濃い響きです。トロンボーンも美しい響きですが全開にはなりません。最後まで全開にはならずに終わりました。
まさに中庸と言える演奏で、とりたてて目立った表現はありませんでした。その分美しさも際立っていなかったのがとても残念な演奏でした。
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ヨハネス・ヴィルトナー/フィルハーモニア・カッソヴィア
★★★
一楽章、豊かな響きでテンポの速いホルンの序奏。オーボエも残響を伴って美しい響きです。トゥッティはあまり広がりが無く塊になったような響きです。第一主題へ向けて激しく加速しました。きりっと引き締まった表現の第一主題。第二主題も締まった表現で遊びなどはありません。第三主題も塊になって迫って来ます。展開部の第一主題は提示部の時よりもさらに速く全く隙を見せません。常に速めのテンポで緊張感の高い演奏です。コーダの前はかなり速くなりましたが、コーダで急ブレーキでした。響きはとても爽やかです。
二楽章、この楽章も速いテンポであっさりとした表現で無駄が無く引き締まっています。Bへ入っても穏やかな雰囲気は無く、むしろきびきびと動く感じの演奏です。キリッとした演奏なのですが、安らかな部分が無くちょっと疲れます。
三楽章、非常に密度の濃い演奏なのですが、その分とても窮屈に聞こえます。遊びと言うか、ゆとりと言うかそんなものが無いのです。聞いていてもどこかに力が入ってしまうような感じがします。トリオもテンポが速めで全く隙が無いのです。主部が戻っても木管に滑らかさが無く引っかかります。
四楽章、やはり引き締まった表現の演奏です。第二主題はあまり弾みません。どこか力みがあるような、硬さも感じます。コーダでガクッとテンポを落として弦の4つの音をゆっくりと演奏しました。
とても締まりがあってキリッとした演奏でしたが、その分常に緊張感があって聞いている側もどこか力が入っているような感じが抜けない演奏でした。ゆったりと解放される部分が無かったのが残念です。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、残響を含んでふくよかなホルンの序奏。速めのテンポで演奏されます。トゥッティで歪っぽいです。あまり弾まず重い第一主題。第三主題まで、ほとんどテンポは変わりません。ライヴ独特の熱気も感じます。さりげなく奥ゆかしい歌。コーダも熱気がありますが、歪が酷いです。
二楽章、テンポが動いて豊かに歌います。Bも速めのテンポで颯爽と進みます。テンポも動いて積極的な表現もありますが、トゥッティの歪はかなり酷いです。
三楽章、この楽章も速めのテンポで活発な表現です。トリオの前で大きくテンポを落としてたっぷりと歌います。ジュリーニの指揮から自然に出てくる歌はとても魅力的で美しいです。
四楽章、この楽章も速めのテンポで激しい表現の第一主題。第二主題も怒涛のように押し寄せてくる音楽の波です。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分は若干テンポをおとして豊かに歌いました。コントラバスが団子のようになっていて何をやっているのか分かりません。ジュリーニにしては珍しい激しい表現です。
ジュリーニにしては珍しい速めのテンポと起伏の激しい演奏でした。その中にも豊かな歌がありました。ただ、録音が歪っぽく木管やトゥッティで歪むのがとても残念でした。
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サー・ゲオルク・ショルティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、締まった響きのホルンの序奏。ゆったりとたっぷり歌うオーボエ。堂々としたトゥッティ。ショルティらしくくったく無く鳴り響く金管。すっきりとした響きで弾む第一主題。速めのテンポでリズミカルな第二主題。コントラストがとても明快で全てが開示されたような音楽です。あまりにも明快で、シューベルトらしいくすんだような奥ゆかしさがありません。トゥッティのものすごいエネルギー感もショルティらしいです。竹を割ったような曖昧さの全く無いデジタル的とでも言うような演奏です。
二楽章、カチッとしたリズムの刻み。明快な歌。テンポの動きも僅かですがあります。Bも速めのテンポであからさまで奥ゆかしさがありません。とても健康的で、吹っ切れています。豪快に鳴り響く金管はこの作品にはあまりふさわしく無いように感じます。
三楽章、一点の曇りもない明快な響きで爽快感があります。トリオは良く歌います。壮麗な雰囲気すらあります。
四楽章、この楽章でも明快な表現が続きます。第二主題もとても分かり易い歌です。金管がすっきりと突き抜けて鳴り響きます。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分も明快な歌です。とても分かり易く、単刀直入で一直線な演奏で、この一途さには好感が持てますが、こんなに単純で良いのだろうか?と言う疑問も湧いて来ます。コーダも豪快な成りっぷりでした。
とても明快で、分かり易く単刀直入で一直線な演奏でした。オケをしっかりと鳴らすのもショルティらしいものでした。ただ、あまりにも単純になり過ぎた表現は、シューベルトがこれで言いのだろうか?と言う疑問にもなりました。
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ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団
★★★
一楽章、陰影のあるホルンの序奏。優しい弦。瑞々しい木管。ゆったりと落ち着きのあるトゥッティ。目立った表現は無くオーソドックスな演奏です。第二主題は速めのテンポで木管の存在感が強いです。静寂感があって木管が浮かび上がります。コーダはガクッとテンポを落としました。
二楽章、大きな主張は無く、中庸の演奏です。深い表現は無くサラサラと流れて行きます。テンポの動きもほとんどありません。Bも速めのテンポでとてもあっさりとしています。
三楽章、実在感のある弦とくっきりと浮かび上がる木管。生き生きと楽しげに歌う木管。
四楽章、とてもきっちりとまとまった演奏で、特に不満は無いのですが、特に強い主張も無いので、あまり個性を感じさせません。自然体で作品と正面から対峙した演奏です。歌も奥ゆかしくとても上品です。分厚い弦の堂々としたコーダでした。
安定感のある自然体の演奏で、強い個性は感じませんでした。くっきりと浮かび上がり生き生きとした表情の木管や分厚い弦を響かせる堂々としたコーダなど聞かせどころもありました。
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オイゲン・ヨッフム/ベルリン放送交響楽団
★★★
一楽章、ふくよかなホルンの序奏。ゆったりとしたテンポで進みます。重々しいトゥッティ。大きく加速して第一主題へ入ります。積極的に強弱の変化があり弾みます。第二主題は歌います。テヌートぎみの第三主題。次第に熱気を帯びて来て音楽に激しさが加わります。オケの反応もとても敏感です。コーダへ向けてテンポを速めて興奮を煽るような表現です。
二楽章、Bは良く歌いますが、とても現実的な雰囲気です。主部に戻る前はグッとテンポを落として残照のような表現でした。テンポの動きに合わせて歌う濃厚な表現です。
三楽章、アンサンブルの乱れもあります。トリオの前で大きくテンポを落としました。トリオに入ってもテンポを大きく動かして濃厚な表現の部分があります。
四楽章、この楽章も少し遅めのテンポで豊かな表現です。第二主題の前でトランペットが突き抜けて来ます。第二主題もゆったりと優雅な表現です。この楽章に入ってからヨッフムらしいトランペットの強奏が見られます。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分もとてもゆったりとした表現です。コーダでは金管の強奏が目立ちました。
ゆったりとしたテンポで豊かな表現の演奏でした。四楽章に入ってからのトランペットの強奏はヨッフムらしいものでした。ただ、演奏がとても現実的で夢見心地のような雰囲気が無かったところが今ひとつでした。
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