目次
たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記
クラウディオ・アバド シカゴ交響楽団
★★★★☆
私の青春のころの録音で、当時何度も何度も聞いた記憶があります。メータの演奏よりは細身な印象でしたが、細部まで、行き届いた演奏だったような記憶ですが、今聞きなおすとどんな印象でしょうか。
一楽章、ホールの響きを豊かに伴った冒頭です。同じシカゴsoでもショルティの演奏のようにオケが近くないので、全体を見渡すことができます。
この演奏でもアバドは特に何かを主張することもなくオケに任せているような印象です。オケもショルティの時よりも、かなり余裕をもって演奏しているようです。それでも2003年のルツェルンの演奏よりも、若い勢いのようなものが演奏にも現れていて、好感が持てます。
弱音部は美しいですが、テンポはあっさりねばることもなく、微妙なニュアンス付けがなされています。ルツェルンの演奏よりも格段に表情は豊かです。オケも統一感があって、こちらの演奏の方が私は好きです。
強奏部分でも、強い推進力があって、やはり、若いころのアバドはなかなか良い演奏をしていたんだなぁと改めて感じます。聴き進むにつれて、大きい波の中に引き込まれて行くような不思議な力を持った演奏です。メータ、ウィーンpoのような豪快さはありませんが、とても繊細で丁寧な演奏です。
二楽章、何の違和感もない中庸なテンポでの開始です。オケはとても美しい。テンポが大きく動くこともなく、安心して聴いていられる安堵感があります。そして、この演奏にはルツェルンとの演奏にはなかった歌がある。心和む良い演奏です。
三楽章、ちょっとつんのめったようなティンパニ、でも違和感は感じません。この高性能オケを余裕を持たせながら美しい響きの中で音楽が進んで行くのはとても心地よいです。マーラーの音楽が持つメッセージ性などはあまり表現していないかもしれませんが、純粋な音楽としての完成度はかなり高い演奏だと思います。
四楽章、とても、ゆっくりと心のこもった独唱、この独唱の振幅の大きな歌唱は感動的です。アバドの控えめな表現とは対照的です。すばらしい独唱でした。
五楽章、冒頭の金管が最初の三つの音をテヌートぎみに演奏したのはナゼだろう?
遠くで響くホルンのバンダも心地良い。さすがにオケは抜群に上手いです。金管群はショルティの演奏のようなフルパワーではないので、とても美しいです。とにかく、このスーパーオケの底力を思い知らされる。ffでも余裕たっぷりの美しさは、この演奏の特徴です。
アバドの指揮なので、没個性と言えば確かにそうなのだが、大きくデフォルメされた部分もないので、作品そのものを聴くには良いでしょう。余計なことは考えずに、美しい音楽が流れて行くのにどっぷりつかるのも良いかもしれません。
オケも独唱も合唱も文句のつけようがありません。
マーラーの復活を聞くと言うよりも、音響の構築物としての美しさを聴くCDだと思いました。
レナード・バーンスタイン ロンドン交響楽団
★★★★☆
この時代のバーンスタインの演奏はかなり良いと思っています。ニューヨーク時代の荒れた演奏から、潤いのある音楽へと変化していった時代だと思います。
同じくロンドンsoと録音したストラヴィンスキーの春の祭典も私にとっては同曲のベストの一つです。
一楽章、すごくゆっくりな出だしです。一音一音刻むようにとても堅実な足取りです。後にニューヨークpoとの録音を予感させるような、この時期から音楽への共感や没入の度合いがどんどん深くなっていったのでしょうか。
この時期の演奏がこれなら、後の常軌を逸したとも思われる演奏は進化系として納得できます。
起伏の激しさや表情の豊かさはニューヨークpoよりもこちらの演奏の方が上かも知れません。
ロンドンsoもよくついていっています。シカゴsoほどのスーパーオケの完璧さは求められませんが、いろんな指揮者の要求に応えることができる世界でも数少ないオケの一つだと思います。
この遅いテンポでも緊張感が途切れないのは、さすがです。音が散漫になることはありません。
二楽章、こちらもゆっくりな演奏ですが、テンポの揺れが絶妙です。細かな表情もあり、後の演奏よりも、こちらの方が細部まで行き届いた演奏だと思います。音楽に浸ることができる良い演奏でした。
三楽章、冒頭のティンパニの残響が長い。まったく音を止めていないのかな。テンポは一般的な範囲です。表情は豊かです。格別に音が美しいということもないのですが、ニューヨークpoとの録音の時に若干感じた鈍重さはありません。
四楽章、美しいコラールです。独唱にも細部にわたってバーンスタインが指示したのでしょう。強弱の変化などもあって、テンポも大きく動いて、なかなかの聞かせどころです。
ただ、近くにいるパートと遠くにいるパートがあって、多少不自然な録音になっているのが気になります。
五楽章、かなり短めの音の処理で始まりました。バンダは豊かな響きを伴って伸びやかです。
テンポは遅めではありますが、ニューヨークpoとの録音ほど極端な遅さではないので、普通に聴くことができます。若干アンサンブルが乱れることもありますが、それよりも積極的な表現が前面に出てきて、バーンスタインの解釈をロンドンsoも果敢に音楽にしようとしているようすが伺えて、うれしくなります。そして、次第に音楽もヒートアップしてきます。
この演奏は国内では、あまり評価されていなかったような気がするのですが、これはかなりの好演です。
バンダのシンバルがやたらとでかいのが、ちょっと・・・・・(^ ^;
クラッシュ・シンバルは全体に遅れ気味で、その上落ちているところもあって、ちょっと・・・・・・です。かなり大きいシンバルを使っているようで、すごいエネルギー感はありますが。
合唱の中から浮かび上がる独唱が、霧が次第に晴れて女神が出現するように、クレッシェンドをともなって、次第にはっきりと現れてくるのが見事です。
ホールの豊かな響きも手伝って、すごく神秘的な雰囲気を醸し出していてすばらしい。この合唱の弱音部分はこれまで、聞いた中でもベストかもしれません。
終結部はニューヨークpoの録音と同じく超スローテンポになります。ホールの響きが豊かなので、こちらの演奏のほうがスケール感があります。
最後は鳥肌が立つような、壮絶な盛り上がりで、個人的にはニューヨークpoとの録音よりもこちらの方が好きです。こちらの方が、あくまでもマーラーの作品の範疇にある演奏だと思います。
ニューヨークpoとの録音を高く評価される方には、こちらの演奏も是非聞いてみてください。
また、ニューヨークpoとの録音には、ちょっとついて行けないという方も、この録音は是非聞いてみてください。
若い頃のニューヨーク時代の荒削りな部分は影を潜め、音楽への共感が深くしかも、表情も豊かで、オケもロンドンsoなので、安定感もあります。多少の乱れはありますが、全体の出来の良さからすれば、ほとんど問題にならないでしょう。
また一つすばらしい名演奏に出会いました!
サー・ゲオルグ・ショルティ シカゴ交響楽団
★★★★☆
ショルティ二度目の録音。
マルチ録音の典型的なオンマイクでの収録。ショルティのデッカへの録音は全て同じ傾向の録音です。
弦楽器からは松脂が飛び散り、金管楽器のベルに頭を突っ込んで聞いているような、極めて近い位置で演奏を聞いているような録音です。録音の方向としては、インバルのワンポイントを基本にした録音とは正反対。インバルの録音では、ホールの天井の高さまで分かるような全体を捉えた録音で楽器の響きもホールに響く時間軸も捉えた伸びやかな音質に対して、このショルティ盤は楽器一つ一つを聴くような録音です。
録音の影響も大きいのだと思いますが、かなり男性的で筋肉質な演奏。ゴツゴツとした力演です。
一楽章、冒頭からもの凄いスピード感ではじまる。一音一音の粒立ちがはっきりしているし、ブラスセクションも強いアタックで入ってくるので、ダイナミックレンジが広い演奏に感じる。
また、色彩感が豊かなのもこの演奏の特徴でしょう。ただ、かなりのオンマイクで録られているので、楽器の生音を聞いている感じが非常に強く、ホールに広がっていく響きは全く捉えられていない。実際のコンサートでは、絶対に聞けない音です。
スピード感と言うか、何かに追いかけられているような独特の緊張感を聞き手に与える演奏です。
スコアを顕微鏡で見ているような、楽器の動きが手に取るように分かる。音楽を聴いているというのとは、ちょっと違う、オーディオのためと割り切った録音なのか・・・・・・。
シカゴ交響楽団は抜群に上手いし、ショルティの指揮もアゴーギクを効かせて微妙な動きがあったり、世間で言われるほど無機質なものではない。
二楽章、比較的遅めのテンポで、弦の表情も豊かだが、極端なオンマイクのせいで、豊かな響きに包まれるような優しさは望めないのが残念なところです。本来なら、美しい響きに包まれて音楽に身をゆだねたいところですが、この演奏ではこの楽章でも、緊張を要求されます。
三楽章、少し速めのテンポでスタート、細かなアーティキュレーションの表現も難なくこなし、音楽が進んでいく。早いパッセージも余裕でこなす、オケの実力には脱帽!ホールトーンも含めたもう少しオフマイクで録られていれば、もっと音楽的な評価がされていたのかもしれないが、あまりにも細部の音まで聞こえてしまうので、機械が演奏するかのような無機質感を与えてしまうでしょう。とにかく、細部にわたり表情づけがなされています。
四楽章、とにかくマイクが近すぎて、コントラルトの独唱もホールの響きが伴わないので、興醒めしてしまいます。この演奏には緩むところがない。
五楽章、冒頭の低弦から松脂が飛び散るようなド迫力、しかし、バンダは程よい距離感を保っているし、弱音部の表情は豊かだ。ffでも次々と泉のように途切れることなく湧き上がってくるブラスセクション。世界中から名人を集めたルツェルンよりもこちらの方が上手かもしれない。
それくらい名人芸を難なくやってしまう、この集団は凄い!
このオケのパワーを利用してショルティの指揮もクレッシェンドして、次のフレーズへ入るときに少し間を取ったりして、音楽の高揚感をさらに高めていく。
ショルティって、もっと荒っぽい指揮者かと思っていたが、こうやって細部も聞き込んでみると、すごく音楽的で歌心のある指揮者なんだと見直してしまった。
合唱が入って、合間の弦の旋律も川の流れのようにとうとうと流れて行く、そして抑制のきいた合唱、独唱との和音もバッチリ決まる。
パイプオルガンが入ってくる最強音部も力強い。本当に良く鳴るオーケストラだ。
すばらしい演奏なのだが、オンマイクが災いして、音楽に酔うことができないのが残念。
すばらしい彫刻をほどこした柱時計をわざわざ開けて内部にギッシリ詰まった歯車を見て、「凄い!」と感動しているような何か違和感を感じてしまうのは、すごく残念です。
この録音は音響空間を捉えたステレオ録音ではなく、大量のマイクをそれぞれの楽器の前に立てて、他の楽器との干渉を避けるために衝立をたてて一つ一つの楽器をモノラルで録音したものをミキサーのパンポットで定位を決めて行く作業でスピーカーの間に楽器を配置したものです。
奥まった位置にある楽器には少し多めにエコー成分をミックスすることで奥に定位させることもできる。モノラル録音の集合体をステレオに聞こえるように操作して作り出したものなのです。だから、楽器の音は生々しく聞こえますが、空間を感じ取ることができないのです。
ショルティとデッカの録音は基本的にこの音作りで、一世を風靡したわけで、この異常とも思えるオンマイクのマルチ・モノ録音があったからこそ、ショルティは二十世紀を代表する巨匠としての地位を確立したわけでもある。
だから、この録音を否定するわけにも行かないのだが、もう少しオフで録っていてくれれば、音楽を聴くことができたと思うし、ショルティに対する評価も変わっていたのではないかと思う。再生するときにホールのエコー成分を付加する装置も売られているので、少しホールトーンを載せてやると、多少なりとも音楽を聴くことができると思います。
それでも、この演奏はスーパー・オケと巨匠が残した名盤であることには間違いない。オーケストラの機能美を聴きたい人には迷いなくお勧めします。
ホールの響きを含めた、大きい意味での音楽を聴きたい人には、このCDでは音楽に酔いしれることは困難ではないかと思います。
ミヒャエル・ギーレン バーデンバーデン・フライブルクSWR交響楽団
★★★★☆
ギーレンの演奏は、昔FM放送で何度か聴いたことはあるのですが、たまたま車の中とか、正対して聴くのは今回が初めてです。
一部では、冷徹の大指揮者などといわれているそうですが、どのような演奏をするのでしょうか。
一楽章、何も思い入れがないかのような導入。オケはアンサンブルもきっちり決まるし金管の音色も明るく、上手いです。
導入部は素っ気なかったのですが、独特の表現があります。他の指揮者に比べて対旋律やハーモニーの下をはっきり演奏させているので、普段聞こえてこない音も聞き取れます。
オケはかなり鍛えられているようで、マスの一体感はすばらしいです。
コントロールも行き届いていて決して暴走することはありませんし、録音の良さも手伝って、弦も繊細な響きが心地よい演奏です。
感情の表出がある演奏ではありませんが、世間で言われるような冷たい演奏だとは思いません。
二楽章、かなり速めのテンポ設定です。一つ一つのフレーズに表現をつけるような、ねちっこいタイプの指揮者ではなさそうです。かなり淡白なのかもしれませんが、とても美しい演奏です。
音の扱いがかなりテヌートっぽい部分が多い感じがします。この指揮者の特徴なのでしょうか。
三楽章、ソフトな音色のティンパニとクリアな弦と木管。確かに響き自体の温度感は低く感じるかもしれません。打楽器なども場面場面での音色も選りすぐりの最良の音色で登場してきます。
ギーレンとの長いコンビで相当鍛えられている印象をうけます。テュッティの一体感やバランスの良さは、なかなか聴けないレベルで、これだけ高水準の演奏を聞かせてくれる組み合わせも稀だと思います。
誇張することはありませんが、自然な音楽としての抑揚はもちろんありますし、無機的な演奏ではありません。
受け狙いや、大見得を切るようなところが一切ないので、印象に残りにくいので、損をしているでしょうね。
四楽章、独唱も実にクリアに録られていまて、とても美しいです。全く誇張することなく、聞き手を引き込むことができる演奏というのは、本当にすばらしいものです。
五楽章、混濁することなく、伸びやかなffです。
同じように、何もしないアバド=ルツェルンの演奏が非常に楽天的に聞こえたのに対して、こちらはかなりシリアスな印象です。
それにしても、ドイツのオーケストラって、地方都市のオケでも水準が高いのに驚かされます。うるさい音は一切出さない。
表現は決して濃くないのですが、響きの温度感が低く張り詰めた緊張感のような空気を生み出しているので、ズシリと重いものが残る演奏です。
合唱はオケとは違って発声もはっきりしているし、響きも明るい。
合唱が入ってからは割りと速めのテンポで進んでいます。合唱が抜けるまで、速いままでした。
最後のオケだけの部分は少しテンポが遅くなりましたが、バーンスタインの演奏のような壮大なクライマックスを期待すると裏切られます。
見事な演奏ではありましたが、どう評価して良いのか私には分かりません。
ん~。何だったんだろう?
ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団
★★★★☆
一楽章、強いアクセントもなくおもむろな出だしでした。低弦の第一主題も強調されることもなく、とてもマイルドな響きです。同じシカゴ交響楽団でもショルティの演奏とは全く音色が違います。ゆったりとした音楽の流れが心地よく感じます。ハイティンクらしく作為的な部分を感じさせない演奏です。 第二主題への移行も自然で、いつの間にか変わったという感覚です。個々の楽器が突出して登場することが無いので色彩的には淡い感じの演奏です。展開部で現れる第一主題の後のティンパニも強打されることはありません。ドロドロすることなくサッパリとした表現に終始したとても美しい演奏でした。
二楽章、速めのテンポです。テンポが大きく動くこともなく、この楽章もあっさりとした表現です。あっさりとした表現ではありますが、とても丁寧に描かれています。
三楽章、ソフトなティンパニから始まりました。控え目な表現で、ハイティンクの主張よりも作品に語らせる演奏なのでしょうか。誇張もなくマイルドで自然な音楽の流れに身をゆだねて流れる音楽にどっぷりと浸っていられる演奏は貴重な存在だと思います。 ブラスセクションが飛び抜けてこちらに突き刺さってくるようなことも一切ありません。とてもバランスに気を使って演奏しています。
四楽章、独唱が静かに歌い始めました。余力を残した豊かな歌唱です。次第にテンポを落として天国へ!
五楽章、ここでも金管と弦がバランス良く鳴っています。良い距離を保ったホルンのバンダです。穏やかな復活の動機。展開部でも絶叫することは全くない。とても美しい。シカゴのブラスセクションとしては、相当に余裕をもって演奏しているのではないだろうか。ライヴでこれだけ抑制の効いた演奏をするのも大変なことだと思います。この演奏を制御し続けるハイティンクの力量も相当のものだと感心します。トランペットのバンダも良い距離にいます。静かに、ゆったりとしたテンポで歌い始める合唱。途中に入る独唱もゆったりとしたテンポで飛び抜けてはきません。力みのないクライマックス。広々とした広大な世界(天上界)を再現しています。シカゴ交響楽団をフルパワーで演奏させることなく、力まず誇張することもなく、自然体を貫いて、常に美しい演奏を実現しました。またここで実現した美しい造形は見事なものでした。ハイティンクの演奏の場合、繰り返して聴いて良さが分かる場合が多いので、再度聴いてみたいと思います。
小林研一郎/日本フィルハーモニー交響楽団
★★★★☆
一楽章、豪快にアクセントを付けて入った弦のトレモロが次第に弱くなってから低弦の第一主題が始まりました。克明に刻まれる低弦、その上に様々な楽器が乗っかり色彩豊かな演奏です。激しいコバケンの唸り声。それに合わせるように激しい演奏をする日フィルです。 第二主題以降も生き生きとした音楽が奏でられて行きます。小気味良いテンポで音楽を運んでいます。音楽はものすごく濃厚に表現されています。テンポもすごく動いて音楽の表現をさらに印象付けています。オケの技量も欧米のものと遜色ありません。
二楽章、オケの集中力も高く音が立っています。フレーズの終わりでテンポを落としたり、少し間を空けたり自在な表現です。豊かな歌があり、また音楽の振幅も幅広くコバケンの作品への共感が伺い知れます。
三楽章、思いっきり叩き付けるティンパニから始まりました。速めのテンポでアーティキュレーションにも反応の良い表情豊かな演奏です。トランペットのffの部分ではさらにテンポが速くなりました。息つく暇も与えずに思いのたけをぶつけてきました。
四楽章、この楽章も速めのテンポでどんどん音楽が押し寄せてきます。太く豊かな声の独唱。
五楽章、荒れ狂うような冒頭。あまり残響を伴わないバンダのため距離感を感じません。展開部は速いテンポで演奏されます。とても彫りの深い音楽を刻み付けて行きます。コバケンの妥協を許さない音楽への姿勢がこのような深い音楽を生み出したのだと思います。強奏部分では荒れ狂うような演奏で、弱奏部分では魂を込めたような演奏がとても心に残ります。所々で長いパウゼがありこれが緊張感を生み出します。トランペットのバンダも残響をあまり含まないので距離感を感じないのがちょっと残念です。極めて抑えた音量で開始した合唱。二重唱はオケともからんでとても良かった。合唱が指揮を見ずに、練習通り歌ったのか?オケと合唱のアンサンブルがズレる場面もありました。頂点の手前で大きくritして見事な頂点を築き上げました。オケに対して合唱の声質に芯が無いようで存在感が薄いようで少し残念でした。それにしても大熱演!コバケン渾身のすばらしい演奏でした。
パーヴォ・ヤルヴィ フランクフルト放送交響楽団
★★★★☆
一楽章、強烈な存在感の低弦の第一主題。オケと一体感のあるブラスセクション。弱めに丁寧に演奏された第二主題。集中力の高い演奏をしているようで、静寂感があります。オケはとても上手いです。緩急の変化も激しい。テンポを落として演奏する部分では、作品を慈しむように丁寧な演奏をしています。終結部ではずっと遅いテンポでしたが、弛緩することなく緊張感を維持したすばらしいものでした。
二楽章、細心の注意を払って演奏されたような微妙な表情の冒頭でした。テンポは速めです。予想外のところで強弱の変化が・・・・・。羽毛のような繊細な表情の弦。オケに溶け込んで美しいピッコロ。すばらしく美しい二楽章でした。
三楽章、マットな響きのティンパニ。ヴァイオリンの主題はすごく繊細な表情です。旋律が強調されて前面に出てきます。テンポを早める部分では生き生きした演奏をしています。
四楽章、冒頭の独唱に寄り添う弦はものすごく弱い音でした。明るい声質の独唱です。最後はゆってりとしたテンポになって天国へ!
五楽章、余裕を持った金管のffでした。バンダのホルンが入る前に次々に弦が入ってくるところはアクセントを付けて入ってきました。バンダのホルンは適度な距離感です。トロンボーンのコラールはすごく明るい音色でした。金管はどのパートも音離れが良く明るい音色です。
ずっとここまでオケはフルパワーは出していないのではないかと思います。トランペットのバンダは遠くにいます。バンダのトランペットのファンファーレの音の広がりは見事でした。
合唱は最初、長い音を長く保って演奏しました。 二重唱からかなりテンポが早くなりました。合唱とともにオケもフルパワーです。合唱が終わる直前で大きくritしました。すばらしいクライマックスでした。 弱音部分の微妙な表現に神経の行き届いた演奏でした。また、予想外のところで大胆なテンポの変化もあり個性的な名演奏だったと思います。