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たいこ叩きのブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」名盤試聴記
ロブロフォン・マタチッチ/フィルハーモニア管弦楽団
★★★☆
一楽章、速いテンポで豪快な演奏です。ところどころで突然pに落としてクレッシェンドしたり、積極的な表現です。
思い切りの良い表現が気持ちいい演奏で、「ロマンティック」と言うよりは「マッチョ」な感じがします。
マタチッチの演奏は、他の曲でも、私の感覚よりも速いテンポ設定が多いです。
二楽章、アゴーギクを利かせて積極的な表現なのですが、消え入るような繊細な弱音はあまりありません。
弦の音の頭が結構立っていて滑らかな感じよりも、ゴツゴツした印象。全体的に硬質な音です。この音質はマタチッチの好みなのでしょうか。
三楽章、ちょっとせせこましい印象です。もう少し穏やかな表現でも良いように思いますが、それだけ没個性の演奏ではなく、マタチッチの音楽を表出しているので、好感が持てます。
四楽章、版の関係か、聞きなれない部分が随所にあります。
緩急の差もあり特に緩のところは良い雰囲気です。全体として捉えると、好き嫌いは分かれる演奏かもしれませんが、聞かせどころは心得ている演奏で、ちょっとこれは!と思わせる部分と、すごく惹きつけられる部分を持っています。
コーダの盛り上がりは凄かった!
デニス・ラッセル・デイヴィス/リンツ・ブルックナー管弦楽団
★★★☆
一楽章、筋肉質で伸びのあるホルンの第一主題。バランスは良いですが、厚みはあまり無いトゥッティ。第一稿を聞くのはこれが三回目ですが、なかなかなじめないですね。コラールは弱く入って次第に強くなりました。第一稿の録音はどれも少し高域に寄った録音に感じるのですが、これは版の問題なのでしょうか?
二楽章、とても速い主要主題。速足で歩くようなテンポです。ノリントンやハーディングの演奏のような豊かな表情の演奏ではありません。あまり細かな細工はせずに作品を自然体で演奏しているようです。副主題から少しテンポは落ち着きました。
三楽章、寂しげなホルン。積極的に歌いますが響きはとてもデッドで、残響はほとんどありません。中間部は穏やかで心地良い演奏でした。
四楽章、バランス良く美しい第一主題。弦の涼しげな表現があったり、整った精緻な演奏を聞かせる部分もあり良い演奏です。ただ、ブルックナーにしては響きがデッド過ぎると思います。また、ブルックナーならばもう少し低域が厚い響きであって欲しいと思います。
自然体の演奏でバランス良く精緻な演奏でした。ただ、残響が少ないデッドな録音はあまりブルックナーにはふさわしくないように感じました。また、ブルックナーであればもう少し低域の厚みが欲しいとも思いました。
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朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、朝比奈らしい作為的なところがない演奏です。ベートーヴェンの演奏では、全く感じませんでしたが、この演奏ではオケの技量が・・・・と思う部分も多少あります。
オケの音色にもう少し深みが欲しいと感じる部分があります。ウィーンpoの演奏と比較してしまうから問題なのかもしれませんが・・・・・・。
ちょっと野暮ったい感じがあります。
二楽章、自然体なのですが、ちょっと平板な感じがして、引き込まれるような表現がありません。もう少し踏み込んだ表現があっても良いのではと思います。
三楽章、遅めのテンポです。このテンポだとオケが持たないのではないかと心配になります。オケの集中力もあまり高くないようで、散漫に感じます。音も寄ってきません。
朝比奈が指揮をした、在京のオケの録音では演奏のムラはあまり感じませんでしたので、大阪poの集中力にはかなりムラがあったのではないかと想像します。
四楽章、速めのテンポです。かなり前のめりです。凄い推進力です。
それと、前の三つの楽章とは音の集まり方が全然違うんですが、明らかにホールが違います。三回のコンサートから継ぎはぎのCDの欠点ですね。
せめて、同じホールでの演奏を継ぎはぎして欲しかった。全部、このホールの演奏をCDにすれば良かったのではないかと思いますが、このホールの前三つの楽章の演奏はそんなにひどかったのか?
音は集まってきているし、推進力もあるし、なんでこんなに急にやる気満々になるんだ!
収録に関する記載があるから、分かったけど、記載がなかったら、こんなに演奏が変わったらおかしいですよ。
この楽章は、サントリーホールで収録したものか?この楽章だけ残響成分が多い。大フィルは東京のコンサートだけはやる気が違うと言われているので、多分東京の演奏だと思う。
クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、細身で美しいホルンの第一主題。ブルックナー・リズムのトゥッティは穏やかです。第二主題は少し速めのテンポです。第三主題も豪快には鳴りません。誇張は無くとても自然な流れです。展開部は壮麗な響きです。コラールは速いテンポながら自然で美しいものでした。再現部でもトゥッティは抑えられています。ウィーンの森を感じさせる部分はごく僅かです。コーダはテンポが速く落ち着きがありません。
二楽章、さりげなく歌う主要主題。副主題も控え目な歌です。過不足無く整った演奏なのですが、ブルックナーらしい素朴な雰囲気があまり無く、現代的な雰囲気です。クライマックスも音が充満するような大きな盛り上がりではありませんでした。
三楽章、冒頭のホルンとトランペットは森の中から響いてくるような良い雰囲気でした。自然な歌があります。滑らかな木管。速いテンポで金管の輝かしい響きが心に残ります。とても豊かに歌うトリオ。最後は金管がかなり強く吹いているようなのですが、音圧としては伝わってきません。
四楽章、ここの第一主題もかなり強く演奏しているようなのですが低域が伴わないので音圧としては届きません。第二主題はあまり歌わずにあっさりと過ぎて行きます。第三主題も高音域だけが強く響く感じで展開部も前はゆっくりとしたテンポでとても穏やかでした。展開部の第二主題はゆったりとたっぷり歌いましたが、後半は速いテンポでした。再現部の第一主題でも高音域が強く逆三角形のバランスで頭でっかちに感じます。コーダのウィーンpoらしい美しいホルン。そして終結部の力強い第一主題はさすがでした。
全体に速めのテンポでしたが、歌うところはしっかりと歌い。鳴らすところも十分に鳴らす演奏でしたが、トゥッティでは高音域が強く、それに低音域が伴っていないので、頭でっかちの響きになり、ブルックナーらしい分厚い響きを聞くことはできませんでした。
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イシュトヴァン・ケルテス/ロンドン交響楽団
★★★
一楽章、はっきりとした存在感のホルンの第一主題。埃っぽい木管。オンマイクぎみで分離するトゥッティ。テンポを速めて活発に動く第二主題。第三主題もブレンドされた一体感や厚みがありません。別々に録ってきたものをミキサーでブレンドしているようでトゥッティの響きは不自然です。コラールの直前でホルンの第一主題を突然大きく吹きます。コラールは元気が良く輝かしいです。残響成分がほとんど無いので、奥行き感や落着きがありません。コーダの第一主題もとても力強いのですが、ちょっとあからさまです。
二楽章、独特の歌い回しの主要主題。感情のこもった副主題。動きが活発で生き生きとした演奏です。ホルンが演奏する主要主題はとても豊かに歌いました。
三楽章、近くで鳴るオケ。オケを豪快に鳴らして一気に進める感じがあります。トリオも速めのテンポですが、テンポも動いて豊かに歌います。力強く前へ進み積極的な表現で、気持ちよく鳴り響きます。
四楽章、この楽章もかなり速めのテンポです。第二主題もとても良く歌います。自然や森をイメージさせる演奏ではありません。都会的です。第三主題も豪快に金管が鳴り響きます。展開部の序奏主題では次第にテンポを速めて緊張感を高めます。感動的なコラールでした。終結部も豪快でした。
オケを豪快に鳴らして、速めのテンポで一気に聞かせる演奏でした。ただ、自然や森をイメージさせる演奏では無く、都会的でした。
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クラウディオ・アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団
★★★
一楽章、締まって細身のホルン。穏やかなトゥッティ。第二主題も特に表現は無く速めのテンポで過ぎて行きます。金管はとてもまろやかです。第三主題も金管は控えめでとても柔らかくまろやかです。金管が吠えない分、低弦の厚みを感じることができます。柔らかく美しいコラール。この演奏では初めてコーダでホルンが強く吹きました。
二楽章、静かで内面的な主要主題。ほとんど表情の無い木管。弱音の美しさに重点を置いた演奏で、静かな演奏が空間に広がって行きます。大きな表現はありませんが、切々と語りかけてくるような真摯な表現です。コントラバスを伴ったバランスの良い厚みのある響きです。あまりに内面に向かう音楽で寂しさを感じてしまいます。クライマックスは抑えられて柔らかい響きの中に金管のビーンと鳴る響きが加わります。
三楽章、とても弱いホルンとトランペットですが、すぐに盛り上がります。速いテンポで颯爽と進みます。速いテンポで畳み掛けるような表現です。弱音が繊細で、細かな表情がありますが、トゥッティは抑え気味でブルックナーらしい重厚で豪快なトゥッティは聞けません。温かいトリオ冒頭のフルート。
四楽章、一瞬バッハを感じさせる第一主題。その後第二主題までは力強い演奏でした。サラッとほとんど表情が無く進む第二主題。弱音は消え入るような弱さです。第三主題も抑えていて全開には程遠い響きです。展開部で演奏される第一主題も抑えた表現で柔らかいです。金管の奏者たちは欲求不満になるのではないかと思う程執拗に抑えたトゥッティです。コーダのコラールも抑えた音量で始まりますが次第にホルンが浮かび上がり空を舞うようです。最後はかなり解放されて強奏して終わりました。
繊細な弱音が特徴的で、ひたすら内面に向かうような演奏でした。トゥッティはほとんどの部分で抑えたバランスで柔らかい響きでした。アバドはパイプオルガンをイメージしていたのでしょうか。
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ロヴロ・フォン・マタチッチ/スイス・ロマンド管弦楽団
★★★
一楽章、細身で硬質なホルンの第一主題。この録音では分かりにくいですが、かなり豪快に鳴っているトゥッティ。あまり表情が無くそっけない第二主題。第三主題も豪快に鳴っているようですが、トランペットだけが分離しているような録音です。録音状態があまり良くなく、響きがバラバラで浅い響きになっています。コラールは弱く始まって次第に強くなりました。コーダのホルンも豪快に鳴らされますが、音が切れ切れになってちょっと雑な感じがします。
二楽章、あまり歌わずにサラッと流れる主要主題。トランペットが投げやりで雑に演奏するのがとても気になります。タメや間などもあまり無くサラサラと流れて行きます。クライマックスでも金管がブレスではっきりと穴を開けます。
三楽章、テンポが速く勢いがあります。ホルンの強奏も豪快でした。野暮ったく泥臭いトリオ。
四楽章、思い切り良く鳴り響く第一主題。ゆったりと湧き上がるような第二主題はとても美しい表現です。第三主題は録音の問題で時折音がこもります。この現象はこの後もずっと続きます。展開部の第二主題もゆったりとしたテンポで夢見るような演奏です。終結部も豪快に鳴らして終わりました。
雑な部分があったり、トゥッティの豪快な演奏もあり、三楽章トリオの野暮ったい表現だったり、四楽章の第二主題の夢見るような美しさもあったり、とても変化に富んだ演奏でした。しかし、録音が悪く周期的にこもる音は演奏を伝え切らないものでした。
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