ベートーヴェン 交響曲第8番

ベートーヴェンの交響曲第8番は、1812年に作曲され、彼の交響曲の中でも小規模で明るい作品です。第7番の壮大なリズムの高揚感や、第9番のスケールの大きさとは対照的に、第8番は軽快でユーモアに富んだ要素が強調されています。この作品は、ベートーヴェンが持つ陽気で楽観的な一面を表現しており、彼の交響曲の中でも親しみやすく、遊び心が感じられる作品です。

曲の特徴

  1. ユーモアと遊び心
    第8番にはベートーヴェン独特のユーモアが随所に見られます。リズムやメロディーの突然の変化や、予期せぬ強弱のコントラストなど、聴き手を驚かせる要素が満載です。特に第2楽章では、メトロノームの音を模したリズムが登場し、彼が敬愛していた友人でメトロノームの発明者であるメルツェルに捧げられたユーモアとされています。
  2. コンパクトな構成
    第8番は、ベートーヴェンの他の後期交響曲に比べて短く、全体的にシンプルでコンパクトな構成です。楽章数や各楽章の長さも比較的短く、古典派の形式美が感じられる一方で、ベートーヴェンの個性が光る工夫が凝らされています。
  3. 古典派への回帰と独自性
    ハイドンやモーツァルトの伝統的な交響曲の様式を受け継ぎながらも、ベートーヴェンらしい革新的な要素が取り入れられています。古典的なシンプルさと彼のユーモラスなひねりが加わり、親しみやすさと新鮮さが同居しています。

各楽章の概要

  • 第1楽章:Allegro vivace e con brio
    活気に満ちた軽快な楽章で、力強く陽気な主題が展開されます。シンプルながらもエネルギーに溢れており、ユーモラスな要素も含まれています。聴き手を楽しませる工夫が随所に施されています。
  • 第2楽章:Allegretto scherzando
    メトロノームの音を模した軽やかなリズムが特徴の楽章で、独特のリズム感が印象的です。繰り返される音型が、まるで機械のように精密に動く様子を連想させ、親しみやすく愛嬌のある雰囲気が漂います。
  • 第3楽章:Tempo di Menuetto
    メヌエット形式で、優雅で穏やかな旋律が流れる古典的な楽章です。ベートーヴェンの交響曲には珍しいメヌエット楽章で、舞踏的な美しさが感じられ、聴く人に落ち着きを与えるような趣があります。
  • 第4楽章:Allegro vivace
    生き生きとしたフィナーレで、急速なテンポとリズミカルな展開が続きます。ときおり現れる予期せぬ音の跳躍や強弱の変化がユーモアを感じさせ、最後まで勢いよく駆け抜けるような楽章です。

総評

交響曲第8番は、ベートーヴェンの交響曲の中で異彩を放つ、軽快で遊び心にあふれた作品です。前作の第7番と次作の第9番に比べると、控えめで小規模な印象ですが、その分、彼のユーモアや伝統への敬意が表れています。複雑なドラマティックな展開よりも、シンプルさの中にある表現力が際立ち、ベートーヴェンの多彩な才能を感じさせる交響曲です。

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たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第8番名盤試聴記

パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ヤルヴィ★★★★★
一楽章、速いテンポで音も短めでコンパクトな演奏です。余分な贅肉を削ぎ落としたような締った響きです。優しい表情を見せる部分と激しい部分との対比がはっきりとしています。ティンパニが楽譜に無いクレッシェンドをよくしますが、これは音楽の熱気を煽るのにはとても良いです。

二楽章、弾けるような木管の刻み。強弱の変化に敏感に反応するオケ。テンポを大きく落とす部分もありました。

三楽章、アタッカで入りました。速いテンポです。トランペットは独特の表現で音を短めに演奏していました。

四楽章、この楽章も非常に速いです。このテンポにオケが必死で喰らいついて行きます。小さい編成のオケですが、とてもまとまりがあります。ティンパニはとてもよくクレッシェンドします。

テンポの動きやティンパニのクレッシェンド。短めに演奏するなどいろんな工夫がありました。そして、四楽章は凄い熱演でした。編成の小さいオケでしたが、豪快ささえも感じるような演奏でした。
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朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、この曲でもゆったりとしたテンポで、低域の厚い、それでいて優しい音がします。伸びやかで、癒されるベートーベンです。
ベートーベンの交響曲は指揮者によって、全くと言って良いほど表情を変える。解釈の幅が広いということは、作品としての懐が深いと言うのか、奥深さがあるのでしょう。
このゆったりとしたテンポでも音楽が弛緩することなく、細部まで行き届いています。このあたりは日本人の几帳面さがとても良い方向に働いていると思います。
ゆったりしていながら、繊細です。

二楽章、朝比奈自身は自らのことを凡人だと言っていましたが、これは凡人がなせる業ではありません。
この自然なたたずまいの音楽は何かを極めた確たる自信や信念が無ければできないことだと思います。
全く、誇張することなく、自然体で、それが感動を生む音楽になると言うすばらしさ。まだ二曲目ですが、きっとこの全集はすばらしいものになっているでしょう。

三楽章、とにかくスケールが大きくて、とこか部分部分を取り上げてどうのこうの言うことは全くの駄弁になってしまうでしょう。それほどすばらしい演奏です。

四楽章、こんなに優しいベートーベンは聴いたことがありません。この演奏が日本人によってなしえたことに対して驚きを隠しません。

演奏が終わっても聴衆の拍手も熱狂するような拍手ではありません。それで良いと思います。
むしろ拍手をせずに、ずっと余韻を味わっていたいような、とにかくすばらしい演奏でした。

オトマール・スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ

icon★★★★★
一楽章、音が出た瞬間にホッとするような、本来収まるべきところに、きちんと収まっている安心感や安定感のある演奏です。派手さはありませんが、いぶし銀のような輝きがちりばめられたような魅力のある演奏です。
スウィトナーの指揮もハッタリのような小細工もありませんし、テンポを動かしてオケを引きずり回すようなことも一切ない、堂々とした指揮です。
指揮者とオーケストラ双方が何をするべきか十分に知り尽くしていて、阿吽の呼吸で音楽が生まれてくるような自然さが本当に魅力的です。
ベルリンpoのような分厚い響きではありませんが、とても繊細な美しい響きをもったオケです。

二楽章、小気味良いテンポです。これと言った特徴もないのですが、この力みのない自然な演奏が優しい。

三楽章、スピーカーの周辺が古い時代のドイツになったような、空気まで音楽と一緒に運んできてくれたようです。やはり良い演奏は空気を変えてくれます。

四楽章、スウィトナーの演奏について、多くを書くことができないのですが、これは演奏がドイツ音楽のど真ん中を行っているようで、完成度もすばらしいレベルに達していると思うのです。

どこがどうのとか言うような演奏ではなく、どこを取っても誇張することなく自然体でベートーベンがにじみ出ているようで、すばらしいとしか言いようが無い。

ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、「英雄」よりもこちらの方が勢いがあります。リズムも弾むしテンポ感もとても良い。音楽が前へ前へと進もうとするエネルギーがあってとても良いです。
元気な演奏で、作品にふさわしいと思います。

二楽章、この楽章もリズムが弾んで聞く側も一緒に弾みながら聞けます。

三楽章、とても明るい演奏で、この作品が持っている人生の希望や祝福がとてもゆく表現されていると思います。

四楽章、賑やかで元気です。聞く側にエネルギーを与えてくれるような、すごく良い演奏でした。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで始まりました。くっきりと浮かび上がるクラリネット。スフォルツァンドもはっきりと表現されています。弱音の静寂感と巨大なスケールのトゥッティの対比が凄くて圧倒されます。ヴァイオリンにffの指定のあるところを極端に音量を落として、聞いていてハッとさせられました。テンポは遅いのですが、演奏には勢いと熱気があって、あまり遅さを感じさせません。

二楽章、この楽章も遅いテンポです。微妙な表情付けもきちんと揃っていて、徹底したリハーサルの厳しさを感じさせます。

三楽章、暖かみがあって美しいファゴット。柔らかいトランペット。トリオからのホルンもとても柔らかく美しい。安らぎを感じる音楽です。細部に渡る表現も徹底していて見事です。

四楽章、冒頭の弱音とそれに続く巨大なトゥッティの対比が圧倒的です。幸福感に溢れた雰囲気がとても良いです。

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、とても美しい響きで開始しました。テンポもよく動いています。この小規模な交響曲に合うような爆発しないコンパクトなトゥッティ。スフォルツアンドの指示にもとても敏感です。

二楽章、速めのテンポで、この曲を誇大には表現しようとしていないようです。とても良く歌います。作品と一体になって表現が積極的です。

三楽章、伸びやかに歌う弦。弱音部分では大切な物を扱うような丁寧な演奏でした。トリオのホルンもとても美しかった。作品に入り込んでいるような充実した表現はとてもすばらしい。

四楽章、この楽章も速めのテンポです。このテンポだと終盤のティンパニが大変そうです。速いテンポで生き生きとした表情がとても良いです。終盤のティンパニも難なくこなし見事にまとめました。

コンパクトに颯爽とした演奏でした。作品を完全に自分達のものにしてにじみ出るような表現も見事でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1966年東京文化会館ライヴ

カラヤン★★★★★
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、速いテンポにティンパニが遅れます。豪華で華やかな第一主題。流れるような第二主題。途切れること無く次から次へと音楽が湧き上がるような豊かさがあります。また、この作品の密度の高さをさらに凝縮したような濃い表現はなかなかです。

二楽章、表情豊かに歌う主題。厚みのある響きでとても豊かです。

三楽章、何とも言えない揺れと歌があります。トリオでは美しいハーモニーのホルンと伸びやかなクラリネットです。

四楽章、この楽章は凄く速いテンポで活気に溢れて生き生きとしています。オケも乗っていて勢いがあります。ティンパニがこのテンポでオクタープ跳躍の八分音符をよく演奏するもんだと関心します。華やかに終わりました。

豪華で華やか、そして活気に溢れて生き生きとした演奏でした。この当時これだけ速いテンポの演奏をしていたのにも驚きです。

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投稿者: koji shimizu

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