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たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第5番「運命」名盤試聴記
ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★☆
一楽章、これも速い。クライバーほどの速さではありませんし、クライバーのスピード感とは全くちがいます。
前へ行こうとするような推進力はありません。
オーケストラは見事に鳴っていて、とても気持ちが良いです。
二楽章、チャイコフスキーやR・シュトラウスを演奏すると、あけだけ饒舌なカラヤンがどうしてベートーベンの演奏になると、何もないような演奏になってしまうのでしょう。
とても美しい音楽ではあるのですが、内面から熱いものがこみ上げて来るような音楽ではないのが残念です。
三楽章、オケの響きにすごい厚みがあるのに、テンポの速さが不釣合いな感じがします。
四楽章、まるでコンクールの模範演奏を聴くような、どこをとっても過不足無く、しかし余分な感情移入や表現は避けているような演奏で、「運命」を聴くときの基準にするには良いかもしれませんが、この演奏を聴いて音楽に共感したりのめりこんだりすることはできません。
音響としては見事なのですが・・・・・・・。
ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団
★★★☆
一楽章、長いフェルマーターでした。音楽に躍動感があります。
音楽がしなやかで、暖かい響きで、ガツンと来ることはありません。
二楽章、ゆったりとしたところでは、テンポも落としてたっぷりと歌うところもワルターの良さですね。トランペットも奥まったところで鳴り響いていて、突き抜けてはきません。とてもまろやかな音楽です。
作品や人間に対する慈愛のようなものさえ感じさせる演奏です。張りつめた緊張感ではなく、神の前にいる安らぎのような心穏やかになるすばらしい演奏です。
三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで演奏されています。
四楽章、暖かい響きが逆に輝かしさを表現しにくくしているようです。トランペットが突き抜けてこないので、高揚感はどうしても抑えられます。
最後に勝利を勝ち取って、高々と勝利の雄たけびを上げるような力強さがないのが、残念なところです。
ヨゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団
★★★☆
一楽章、きっちりしたテンポに乗った演奏です。落ち着いた感じがとても良いです。
二楽章、穏やかな響きと急激なダイナミックの変化がなく、癒し系の「運命」です。表現も大袈裟なところは全くなく、安心して聴く事ができます。
三楽章、ホルンも音が開くこともなく美しい演奏です。
四楽章、控え目なファンファーレ。レガートぎみの演奏で音の角が立たないので、とても聴き易い。
エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、独特の弦の鋭い音、木管の動きが克明なところは「英雄」のときと同様です。
珍しくアンサンブルが乱れるところもあります。ホルンの主題が控えめなのも意外でした。
ロシアの「運命」を強く主張しています。ドイツの伝統に根ざしたものとは別世界なのですが、ムラヴィンスキーの強い意思が反映された演奏には十分な説得力があります。
二楽章、一般的な演奏ではテヌートぎみに演奏される部分でもトランペットがアクセントでマルカートぎみに演奏する箇所があるのも独特です。
三楽章、ロシアの音楽文化は、ドイツ、オーストリアとは全く別の様式を確立しているんだなあと思わせます。
四楽章、予想もしないところでティンパニのクレッシェンドがあったり、普段は聞こえない楽器が、ちょくちょく顔を出しますが、音楽としての高揚感はすごいものがあります。
やはり、チャイコフスキーのような怒涛のコーダでした。特に最後の音は「1812年」でした。
朝比奈 隆/NHK交響楽団
★★★
一楽章、朝比奈のこれまでの演奏に比べると、速めのテンポです。この演奏も4番と同じく音の輪郭が明瞭な演奏です。生命感に溢れた演奏で、これまで聴いた天国的な悟りのような自然体とは違った良さが聴かれます。
これはN響が長年培ってきたドイツ音楽に対する伝統なのでしょうか。
二楽章、ゆったりしたテンポです。生き生きした活力ある演奏ですが、個人的には朝比奈には天国的な自然体の演奏を望みたいです。これはこれで良い演奏なのですが、朝比奈じゃないとできない境地があると思うのですが、この演奏だったら他の指揮者でもできるんじゃないかと思えてきます。
三楽章、この楽章もゆっくりめのテンポです。朝比奈の自然体はオケの自発性やオケにとっての自然体も尊重しているのかもしれません。
だから、N響の持っている音楽と朝比奈の音楽を共存させようとしているのかもしれません。
ただ、この演奏はN響が持っているものが強く出ていて朝比奈らしさは影を潜めているように感じます。
四楽章、さすがにN響の底力を見せ付けられます。日本のトップオケらしい厚みと伸びやかさはさすがです。
これまでの朝比奈の演奏では聴いたことがないくらいダイナミックな演奏です。
演奏自体は良かったと思いますが朝比奈を聴けたかと言われたら私には少し疑問を感じた演奏でした。
シュミット・イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、ガツガツと刻む弦の第一主題。潤いのある美しい響きです。まさに中庸と言うような演奏で何の変哲もない演奏ですが、ウィーンpoの美しさを十分に生かした演奏です。歯切れのいいリズムです。
二楽章、第一主題、第二主題とも大きく歌うことはありません。作為的な部分は全くなく、自然な流れの演奏です。自然体ゆえか、緊張感や静寂感は無く、ピーンと張ったような締りはありません。
三楽章、ウィーンpoらしくビンビンと鳴るホルンの主題。
四楽章、力強い第一主題。強弱の変化にあまり敏感ではないので、緩く感じてしまいます。コーダでも絶叫することは無く、紳士的な範囲の演奏でした。
中庸と言う言葉がぴったりの演奏でした。作品そのものを知るためには良い演奏だと思いますが、+αを求めると期待は裏切られます。
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ニコラウス・アーノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団
★★★
一楽章、薄く細い響きの第一主題。弾けるようなホルン。速めのテンポで独特の節回しの第二主題。金管は鋭い響きです。低域があまり厚みが無く、重心が高い感じの演奏です。
二楽章、あまり歌うことの無い第一主題ですが、清潔感があります。控え目なトランペットの第二主題。透明感の高い変奏。
三楽章、この楽章でもホルンが元気に鳴り響きますが、ホルン以外はあまり活発に表現はせず、起伏はあまり激しくありません。トリオもあっさりと軽い表現です。
四楽章、弾むように演奏される第一主題。とても軽くサラッとした演奏で、作品の骨格や重量感は感じさせません。
シャープで軽い演奏でした。これまでのベートーベンの重量感のある演奏とは一線を画すもので、新しいベートーベン像を聴かせてくれました。ただこの演奏に惹かれるかと聴かれると疑問を感じます。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1966年東京文化会館ライヴ
★★★
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。
一楽章、速いテンポでフエルマーターも短くすぐに次へと入って行きました。この演奏でもフルスイングするような豪快でスピード感のある演奏を聞かせます。第二主題もとても速くあまり落ち着きが無い感じです。カラヤンのライヴ独特の激しさがありますが、速いテンポをオケが消化しきれていないような感じがします。
二楽章、録音の問題だと思いますが奥行き感があまり無く浅く薄っぺらい感じがします。この楽章も速いテンポを基調としていて、あわただしい感じで、どっしりとした落ち着きはありません。
三楽章、厚みを感じさせる冒頭。ホルンは奥まっていなくて、表面に出てきます。この楽章もテンポは速いです。最近のベーレンライター版の演奏に比べると響きが厚くぼってりとした感じがあって、すっきりとした演奏にはなっていません。
四楽章、明るく力強い第一主題。怒涛のような分厚い響き。第二主題に入っても速いテンポです。コーダは物凄く速いテンポで一気呵成に終わりました。
速いテンポで一気に聞かせる演奏でしたが、テンポの速さに比して響きが分厚過ぎて、もたれるような感じがしました。もっと速いテンポで演奏されるピリオド楽器の演奏はスリムな響きですっきりとしているので、このテンポでこの響きには違和感を感じました。