ヴァレーズ イオニザシオン

エドガー・ヴァレーズの「イオニザシオン(Ionisation)」は、1931年に発表された、現代音楽において革命的な意味を持つ打楽器アンサンブルのための作品です。この曲は、伝統的な旋律や和声から離れ、純粋に「音のリズムと音色」に焦点を当てたものとして知られています。作曲当時のヴァレーズは、音楽において「音響の科学的探究」を目指し、リズムや音の物理的な特性に基づいた表現を追求していました。「イオニザシオン」はその探求の成果であり、彼の代表作のひとつとされています。

「イオニザシオン」の特徴と楽器構成

  1. 打楽器アンサンブルによる革新的な編成 この曲は、13人の演奏者によって演奏され、各演奏者が1つから複数の打楽器を担当します。楽器編成にはティンパニ、バスドラム、スネアドラム、シンバル、ウッドブロック、カウベル、タンブリン、トライアングルなど、多様な打楽器が含まれており、シロフォンやピアノの低音域も使われます。また、サイレンやライオンズ・ロア(ライオンの鳴き声を模した効果音)など、通常のオーケストラにはない特殊な楽器も使用されており、これが独特な音響空間を生み出しています。
  2. リズムと音色の探求 「イオニザシオン」の最大の特徴は、リズムと音色を組み合わせた音響の探求にあります。曲はメロディや調性から解放され、純粋にリズムの構造が音楽の流れを決定しています。リズムは非常に複雑で、多層的なパターンが交錯し、まるで複数の音の粒子がぶつかり合っているかのように聞こえます。このリズムの組み合わせと打楽器の音色の違いが、独自の音響的な宇宙を作り出しています。
  3. タイトルの意味と音響イメージ タイトル「イオニザシオン」は、電離(イオン化)を意味し、物理的な過程に由来しています。ヴァレーズは、音楽がエネルギーや力の流れを表現できると考え、この曲のタイトルには「音の粒子が分解し、再構成されるプロセス」を暗示しています。つまり、「音の電離」が行われるイメージを反映させているのです。こうしたコンセプトは当時の音楽において非常に斬新で、科学やテクノロジーから影響を受けたものでした。
  4. 空間と動きの感覚 「イオニザシオン」は、音が空間内を移動し、様々な方向から響いてくるような立体的な音響効果を生み出しています。この音の動きや空間的な広がりは、ヴァレーズの作品の特徴の一つであり、彼が「音の彫刻」とも呼ぶ感覚が具現化されています。楽器が重ねられたり、急激に消えたりすることで、音の流動性と動的な感覚が強調され、音楽の枠を超えた体験を提供しています。

全体の印象と影響

「イオニザシオン」は、打楽器のみを用いた最初の大規模な現代音楽作品の一つとされ、20世紀の音楽における重要なマイルストーンとなりました。音楽におけるリズムと音色の探求を新たな次元に引き上げ、後の作曲家に大きな影響を与えました。特にリズムに焦点を当てた構成や、音の物理的特性への意識は、ミニマル音楽や電子音楽、さらには実験音楽など、様々なジャンルにインスピレーションを与え続けています。

そのため、「イオニザシオン」は、音楽の表現がメロディや和声の枠を超え、音そのものの力を探求するという新しい可能性を示した作品と評価されています。

使用楽器
Player 1 : Chinese Cymbal , Orchestral Bass Drum , Tamtam(High) , Cow Bell
Player 2 : 2 Tamtam(High/Low) , Gong , Cow Bell
Player 3 : Bongo , Tenor Drum , 2 Orchestral Bass Drum
Player 4 : Tenor Drum , Military Drum
Player 5 : Siren(High) , Lion’s Roar
Player 6 : Siren(Low) , Slap-stick , Guiro
Player 7 : 3 Wood Block , Triangle , Claves
Player 8 : Snare Drum , 2 Maracas(High/Low)
Player 9 : Snare Drum , Suspended Cymbal , Tarole
Player 10 : Pair of Cymbals , Sleigh Bells , Chimes
Player 11 : Guiro , Castanets , Glockenspiel(Keyboard Style with Resonators)
Player 12 : Tambourine , 2 Anvil , Tamtam(Very Deep)
Player 13 : Slap-stick , Triangle , Sleigh Bells , Piano

ピエール・ブーレーズ/ニューヨーク・フィルハーモニック

★★★★★

だるい感じの冒頭。広い空間に音が広がります。大太鼓がクレッシェンドして、静かに演奏される主題。後ろでボンゴが残響を伴って響きます。Slap-stickがパチッと強く響きます。タロール(胴が浅く径も小さいスネア)は抜けが良く軽い響きです。Military Drumは割と引き締まった響きです。アクセントはどのスネアも強めです。Lion’s Roarはギーッとなります。サイレンは極端に小さく町の遠くで鳴っている感じです。打音は一つ一つが立っていて、細かい楽器もとても鮮明です。冷たい空気感の中に音が広がって行きます。小さい音が空間に広がって美しいです。衝撃と共に崩れ落ちて、細かい打楽器が動き回ります。

とても冷静で全ての音を聞かせるような情報量の多い演奏で、空間も感じさせる良い演奏でした。

ケント・ナガノ/フランス国立管弦楽団

ニガノ★★★★☆

暗い中に静かに鐘や2種類の低い響きサイレンが鳴る怪しい雰囲気。ライオンの唸り声の後に大きくクレッシェンドした後にスネアのリズムが出現します。その後ろでボンゴがリズムを刻みます。軽いアクセント。次にタロール(胴が浅く径も小さいスネア)が同じ主題を演奏します。抜けの良い音ですが、タロールらしいハイピッチではありませんしスネアが緩く他の大きいスネアとのチューニングの方向性が違います。次にミリタリードラムが同じ主題を演奏します。こちらは重い音で、楽器の色彩感が強く出ています。後ろで様々な楽器が動いています。金属系の打楽器とサイレンが鳴ります。どの楽器も強く出て来ることは無く、自然なバランスで演奏されている分、色彩感は乏しいように感じます。チューブラベルやピアノも入り、ライオンの唸り声も入って、破滅的な雰囲気になって曲は終わります。

この曲は、音が空間にどのように広がるかや色彩感や空気感を楽しむ作品ではないかと思います。その意味では少し魅力に乏しいように感じました。

ストラスブール・パーカッション・グループ

ストラスブール・パーカッション・グループ★★★★☆

猫が鳴くような異様な響きのサイレンが奥から響き、他の打楽器は前にいます。軽快な主題ですが、少し緩くミュートしているような響きです。サイレンの奥行き感はとても良いです。タロール(胴が浅く径も小さいスネア)は抜けの良い響きですが、ハイピッチでは無いですが、アクセントはとても強くパシッと決まります。ミリタリードラムは深い胴でドドドとマットな響きです。様々な楽器が前に出てきてくっきりと浮かび上がりまがLion’s Roarは少し陰に隠れています。サイレンが強めでとても異様な雰囲気を醸し出します。最後は壊滅的で崩れ落ちるような雰囲気よりもとても力強い演奏でした。静かな部分の音が拡散していく部分があまり感じ取れず、比較的強い音が支配的な演奏でした。13人で演奏するように書かれた曲を6人で演奏するように編曲して演奏しているとのことですが、特に技術的に無理をしているような部分は全く感じませんでした。

マルチモノのような録音で、一つ一つの楽器は鮮明に捉えられていますが、空間をあまり感じることが出来ませんでした。

ズービン・メータ/ロスアンジェルス・パーカッション・アンサンブル

メータ★★★★

とても浅い音場感。サイレンも含めて色んな楽器が登場します。多くの楽器が前に来ます。速いテンポで、軽快に演奏される主題。Slap-stickがパチーンと強く響きます。Lion’s Roarはゴリゴリとした響き。タロール(胴が浅く径も小さいスネア)は、とても軽い良い響きです。Military Drum少し緩いチューニングであまり重くありません。テンポは速く、強弱の変化も明快で、活発な演奏です。サイレンもあまり奥まってはおらず、浅くマットです。とても簡単にやってのけた感じで、刺激も無く流れて行きました。最後は、衝撃はありますが、崩れ落ちるような雰囲気ではありませんでした。

躍動感があって、元気な演奏でしたが、奥行き感や空間に音が広がる感じが無く、あまり音を楽しめませんでした。

ピエール・ブーレーズ/シカゴ交響楽団

ブーレーズ★★★★

とても静かですが、広がりのある音場感。金属系打楽器が鳴って、大太鼓はあまり聞こえず、主題に入ります。軽い主題。後ろで小さくボンゴが響きますがあまり残響は感じません。とても軽めのアクセント。タロール(胴が浅く径も小さいスネア)は径が小さいと分かる響きです。Military Drumはあまりはっきりと違いが分かりませんでした。情報量はとても多いです。サイレンはニューヨークpoとの演奏をさらに弱くしている感じで、ほとんど聞こえません。最後は絶望的な破壊を感じる衝撃です。

Military Drumの胴の深さや重さを感じなかったのは残念でした。また、サイレンはいくら何でも抑え過ぎだと思います。

スザンナ・マルッキ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン

スザンナ・マルッキ★★★

スネアoffのロールが大きい冒頭。サイレンが響き。あまり大きくクレッシェンドせずに主題に入ります。少し胴鳴りがしているようなスネアです。軽いアクセント。Lion’s Roarゴーッと鳴ります。タロール(胴が浅く径も小さいスネア)は、スネアは緩めですが、高い響きです。Military Drumは胴の深さはあまり感じませんがブツブツとした深い胴のスネア独特の響きです。サイレンはかなり弱めです。ライヴのせいか、弱音の静寂感があまりありません。最後もあまり大きな衝撃では無く、全体に角が無く、自然に流れるような演奏でした。

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The Oberlin Percussion Group

★★★

金物打楽器が大きめで、サイレンも高い音です。あまり大きくクレッシェンドせずに主題に入ります。ゆっくりめで、とても大きく強弱を付けて演奏します。ボンゴも大きめです。Tarole(胴が浅く径も小さいスネア)は引き締まっています。トゥッティでテンポが遅くなったり変化も大きい演奏です。全体に騒々しい感じがあります。最後の衝撃はあまり大きくなし、ここまでの騒々しさとは違った雰囲気です。静かな空間に音が広がって行く雰囲気では無く、自分が思っているイメージとは違いましたが、こんな演奏もあるんだと感じる演奏でした。

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アマディンダ・パーカッション・グループ、モンド・クァルテット、ブダペスト・リスト音楽院の学生

★★★

豊かな響きです。低いサイレン。色んな楽器が鮮明です。あまり大きくクレッシェンドせずに主題にはいります。速めのテンポで胴鳴りしているスネア。Tarole(胴が浅く径も小さいスネア)がかなり強く入ります。Military Drumも最初のスネアを使っています。リムショットなどもあり、あまり聞いたことの無い音が聞こえます。「何だこりゃ」というような表情の客席が面白いです。最後はあまり大きな衝撃ではありませんでした。

かなり色んな音が聞こえる演奏でしたが、起伏はあまり大きくありませんでした。

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パスカル・ロフェ/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団とフランス国立管弦楽団の打楽器奏者

パスカル・ロフェ★★

硬い響きのサイレン。サスペンドシンバルも大きめ。あまりクレッシェンドせずに主題に入ります。緩めのスネア。アクセントの一撃は強めです。Tarole(胴が浅く径も小さいスネア)は詰まった響きです。Military Drumは胴鳴りがしているような響きです。全体で演奏した時のスネアの緩さで全体が緩い感じになります。録音もデッドなので、あまり空間や奥行き感を感じません。ピアノの衝撃はあまり強くありませんでした。

硬いサイレンと緩いスネア。どちらも好きな響きではありませんでした。

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パリ・パーカッション・グループ

パリ・パーカッション・グループ

低いサイレンが突然大きくなります。Lion’s Roarが動物の唸り声らしい響きです。あまり大きくクレッシェンドせずに主題に入ります。かなり深く緩いスネア。Tarole(胴が浅く径も小さいスネア)も緩いですが、先の深い胴のスネアとの対比ば良く出来ています。Military Drumも最初のスネアを使っています。サイレンは程よいバランスですが高低差があまりありません。最後の衝撃はあまり強く無く、色彩も音量の変化もあまり無く、音のオブジェとしては、あまり一つ一つの音が際立っていないような感じがしました。

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投稿者: koji shimizu

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