シベリウス 交響曲第3番
シベリウスの交響曲第3番は、彼の作品の中でも特に独自のスタイルが確立された作品で、シンプルでありながら独特の構造と豊かな感情を持っています。交響曲第2番と第3番の間には大きな変化が見られ、より内省的で抑制の効いた作風が特徴です。この交響曲は、シベリウスがロマン主義から脱し、より簡素で力強い音楽表現に向かっていった過程を示す作品としても注目されています。
1. 楽章構成と内容
交響曲第3番は、全3楽章で構成されており、各楽章が異なる性格を持っています。
- 第1楽章 (Allegro moderato): 明るく快活なムードで始まります。牧歌的な雰囲気が漂い、弦楽器と木管楽器が美しい調和を見せます。この楽章には、シベリウス独特の「流れるような音楽の動き」が感じられ、シンプルながらも洗練された旋律が印象的です。
- 第2楽章 (Andantino con moto, quasi allegretto): 中間楽章として、ゆったりとしたテンポで穏やかな旋律が展開されます。シンプルで親しみやすいメロディが主体となり、シベリウスの「静かな抒情性」が感じられます。リズムも静かに流れていくようで、夢見るような雰囲気が漂います。
- 第3楽章 (Moderato – Allegro ma non troppo): 終楽章で、序奏部から少しずつエネルギーが高まっていき、壮大なフィナーレへと導かれます。この楽章はフィンランドの民族的な響きが強調され、全体が明るい高揚感で包まれます。途中でテンポが上がり、弦楽器と管楽器が複雑に絡み合いながら力強いクライマックスを築きます。
2. シンプルさと抑制の美学
- シベリウスの交響曲第3番は、前作の第2番と比べてかなり抑制の効いた作風です。派手な部分が少なく、音楽の進行も緩やかで内向的です。しかし、シンプルであるからこそ、各楽器の役割が際立ち、緻密なオーケストレーションとバランスが求められています。
- シベリウスはこの交響曲で「内なる力」を表現し、表面的な華やかさよりも内的な感情の深さを追求しました。これは彼の音楽の新しい方向性を示す重要な作品です。
3. フィンランドの精神
- シベリウスの交響曲第3番にはフィンランドの自然や精神性が背景にありますが、露骨に民族的な要素を取り入れることはせず、むしろ暗示的な形でフィンランドの雰囲気を表現しています。
- 特に第3楽章のフィナーレは、フィンランドの美しい風景と、力強くしなやかな民族性を象徴していると言われています。
4. 音楽的特徴と影響
- この交響曲は、当時のシンフォニー作品としては珍しく「短い」ものとしても注目されました。シベリウスはこの作品でシンプルで明瞭な構成を目指しており、聴衆に「音楽の本質」を感じさせようとしています。
- シンプルな動機や短いフレーズが繰り返し登場し、それが複雑に絡み合うことで豊かな音響が生まれています。
5. まとめ
シベリウスの交響曲第3番は、彼の作風が新しい方向へと進化し始めた時期を象徴する作品です。簡素な美学の中に深い感情が込められており、シベリウスの音楽が持つ「内なる静けさ」を表現した名作です。フィンランドの自然と人々の精神が暗示的に描かれ、聴く者にシンプルで深い印象を与えます。
たいこ叩きのシベリウス 交響曲第3番名盤試聴記
レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団
★★★★★
一楽章、柔らかく控え目の表現から始まった第一主題が次第に大きくなって積極的な表現になります。とても豊かな表情です。大らかなトゥッティの響きです。第二主題もよく歌います。作品への共感が表れた積極的な表現。渋く淡い色彩ですが、一体感のある響きです。
二楽章、淡くピツィカートと同化するフルートですが、ここでもよく歌います。暖かみのある心のこもった演奏です。
三楽章、前半はあまり活発な動きはなくむしろどっしりと落ち着いた表現です。充実したクライマックスの折り重なる響きが美しい。
渋く淡い響きですが、作品への共感を感じさせる歌に満ちた演奏でした。クライマックスの折り重なる響きがとても美しかったです。
コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団
★★★★★
一楽章、厚みがあって柔らかい第一主題は躍動的です。色彩感がとても濃厚で鮮明です。伸び伸びと鳴り響く金管から消え入るような弱音まで、幅広い振幅です。特別な表現はありませんが、作品そのものが持っている良さを十分に伝えて来ます。
二楽章、暗闇に明かりがともるようなフルートの動機。柔らかく穏やかな演奏が続きます。とても鮮明な色彩は見事です。素朴な旋律が切々と歌われます。
三楽章、生き生きとくっきりと浮かび上がる木管。泉からこんこんと湧き出るように次から次へと登場する金管が充実した響きでとても豊かです。精緻で整然と整った演奏は見事でした。
濃厚な色彩感と、消え入るような弱音から、くったく無く鳴り響く金管まで幅広い振幅の音楽ですが、自然体で作品そのものが語る演奏はとても見事なものでした。
コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団
★★★★★
一楽章、波が押し寄せるように間を置いて音が強くなる第一主題。伸びやかなホルン。厚みのある響き。少し寒さを感じさせる第二主題。少し離れたところからステージを眺めているような音場感。重厚なブラスの響きで終わりました。
二楽章、他の楽器に比べて静かなフルートの動機。あまり音を短く演奏しな木管が自然で美しいです。弦も音を長めに演奏するのが上品でとても良いです。ピィツィカートに乗って演奏される弦の変奏も北欧の寒さをイメージさせます。
三楽章、活発な動きですが、しっかりとコントロールされていて暴走は全くしません。次第にテンポを上げて盛り上がります。ティンパニのクレッシェンドも効果的でした。
とても上品で格調高い演奏でした。冷静でしっかりと設計された盛り上がりも見事でした。
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、躍動感があって純粋な響きで熱気も感じさせる第一主題。いつものムラヴィンスキーの冷徹なまでの緊張感は無く、とても生き生きとした木管や弦の動きがとても良いです。
二楽章、太い響きで豊かに歌うフルート。統制のとれた見事なアンサンブルはさすがレニングラードpoです。
三楽章、感情に没入して行くことはありませんが、統制の取れた歌です。金管の咆哮もさすがにソ連のオケですが粗暴な演奏には全くならないところがムラヴィンスキーです。
極度の緊張感はありませんでしたが、統制の取れた見事なアンサンブルと豊かな歌。圧倒的な金管の咆哮も素晴らしい演奏でした。
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エサ=ペッカ・サロネン指揮 スウェーデン放送交響楽団
★★★★★
一楽章、控えめでリズミカルな第一主題が盛り上がり木管に引き継がれます。若干の寒さを感じさせる第二主題。弱音の静寂感はとても良いです。精緻でありながら振幅も大きな表現でグッと迫って来るものがあります。
二楽章、ゆったりとしたテンポで歌うフルートの動機。少し寂しく穏やかに揺られる主題もとても美しく作品に身をゆだねることができます。
三楽章、前半の激しい部分の強弱の表現も明快で、頂点でしっかりと爆発しました。フィナーレも激しいホルンの咆哮。深みがあって力強い演奏です。
精緻でありながらダイナミックな表現もありなかなか良い演奏でした。
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オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団
★★★★★
一楽章、豊かな残響をともなってふくよかな第一主題。金管もブレンドされてとても美しいです。第二主題は暗く寒い雰囲気です。ここぞと言うところでのエネルギーの放出にも不足は無く、濃厚な色彩と表現は出色です。
二楽章、ゆったりとしたテンポで暗闇に浮かび上がるようなフルート。柔らかく美しい響きです。大きな表現ではありませんが、感情が込められた美しい歌もとても魅力的です。とても丁寧でブレンドされたバランスが見事です。ゆったりとしたテンポの歌は素晴らしい美しさです。
三楽章、この楽章でも克明で、表現の振幅の大きな演奏です。フィナーレ部に入っても深みのある表現でぐいぐいと詰めてきます。最後の充実した響きも見事でした。
北欧の寒さや暗さを持った演奏で、内面からにじみ出るような表現もブレンドされた美しい響きも見事でした。
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オッコ・カム指揮 ヘルシンキ放送交響楽団
★★★★★
一楽章、重量感のあるコントラバス。爽やかで清涼感のある響きです。一転して暗く沈みこむ第二主題。トゥッティでも伸びやかで柔らかい響きで大自然の雄大さを表現するにはピッタリです。
二楽章、ゆっくりしとたテンポで全く作為的な表現が無く自然な表現の演奏です。オケのナチュラルな響きもとても魅力的です。カムもオケに伸び伸びと演奏させているようで、硬さや力みなども全くありません。
三楽章、少し緊張感が高まりますが、それでも伸びやかなAllegro。フィナーレも力みは無く伸びやかですが、壮大なスケール感でとても良いバランスで締めました。
自然で伸びやかで美しい響きで、表現にも作為的な部分は無く爽やかで清涼感のある演奏は素晴らしいものでした。
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