カテゴリー: ショスタコーヴィチ:交響曲第8番名盤試聴記

ショスタコーヴィチ交響曲第8番

ショスタコーヴィチの交響曲第8番は、1943年に作曲された重厚で暗い雰囲気の作品で、彼の交響曲の中でも特に悲劇的な内容が込められています。第7番「レニングラード」がナチス・ドイツによる包囲戦への抵抗をテーマにした明るい勝利の音楽であるのに対し、第8番は戦争の苦しみや悲劇を深く描いたもので、聴く者に強烈な印象を残します。

この交響曲は5つの楽章で構成され、シリアスでドラマチックな展開が特徴です。特に以下のような要素が見どころです。

  1. 第1楽章:深い悲しみと不安感
    第1楽章は長大で重々しく、哀しみと恐怖が感じられる音楽です。弦楽器のうねりが暗い雰囲気を強調し、金管楽器が不安なムードを煽ります。戦争の恐怖と人々の苦悩を描いたような楽章です。
  2. 第2・第3楽章:緊張と狂気
    第2楽章と第3楽章は短く、緊張感に満ちたスケルツォ的な性格を持ちます。特に第3楽章は機械的で激しいリズムが支配的で、狂気や戦争の破壊性が反映されています。
  3. 第4楽章:内面の静けさ
    第4楽章はスローで、全体として内省的な雰囲気があります。この楽章では、戦争の悲劇に対する静かな祈りや、喪失の痛みが感じられ、全体的に沈黙の中に包まれるような印象を与えます。
  4. 第5楽章:かすかな希望の光
    最終楽章では穏やかな旋律が流れ、どこか希望を取り戻すような音楽が展開されますが、明確な勝利や救いというよりも、痛みを抱えながらも未来を見据えようとするような終わり方です。

ショスタコーヴィチの交響曲第8番は、戦争の破壊や苦しみに対する深い洞察が表現されており、悲壮感と強烈な内面の叫びが特徴です。このため、戦争の「勝利」だけでなく、その裏にある犠牲と痛みを忘れてはいけないというメッセージが込められているとされています。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1982年ライヴ

★★★★★

一楽章、一音一音に深みのある序奏。密度が高く厳しい第一主題。淡々と冷たい第二主題。とても寂しい演奏です。もの悲しい第三主題。ティンパニは控えめです。トランペットの第二主題は安定感があって強いです。鍛え抜かれたレニングラードpoの演奏は素晴らしい。感情が込められて悲痛なイングリッシュ・ホルン。

二楽章、音が溢れてきて圧倒されます。色彩感もとても濃厚です。

三楽章、高い集中力が感じられる均整の取れた演奏。力強いトランペット。

四楽章、薄いドラば盛大に鳴ります。早めに静まって、かなり抑えられた葬送の音楽。コントラバスの上を漂うヴァイオリン。鋭く響くピッコロ。陰影のあるクラリネット。かなり暗い雰囲気の演奏です。

五楽章、少しずつ雰囲気を変えるファゴット。高い緊張感を保ち続ける見事な演奏です。
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エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1983年3月15日

★★★★★

一楽章、少し遠目で柔らかい序奏。冷たい第一主題。第二主題も冷徹に厳格に進みます。鬱々として暗い第三主題。ティンパニは控えめです。トランペットは少し奥まっていますが、安定感があります。行進曲風の部分もどっしりとした安定感です。整然としていて、統制が取れています。淡々としたイングリッシュ・ホルン。

二楽章、見事な集中力。軽々と演奏しているように聞こえますが、鍛え抜かれたレニングラードpoの集中力は素晴らしい。

三楽章、深みのある弦の刻み。ムラヴィンスキーが完璧にコントロールしていて、全く乱れることはありません。素晴らしいトランペットのソロ。

四楽章、割と早めに静まります。とても静かで凝縮された葬送の音楽。コントラバスの上をヒラヒラと舞うようなヴァイオリン。僅かにビブラートが掛かったホルン。最初は少しかすれたように響くピッコロ。高音が突き抜けて、次第に舞い降りて来ます。密度の高いクラリネット。

五楽章、雲の中から日が差すようなファゴット。集中力が高く歌うチェロ。鋭く冷たいオーボエ。切れ味鋭い刃物のような金管。

キリル・コンドラシン/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

★★★★★

一楽章、重量感のある序奏。消え入るように弱く演奏される第一主題。少し速めですが、第二主題も静かですが豊かに歌います。第三主題は弱々しい。スネアきかなり近い。ミキシングのミスだと思います。全体に速めのテンポでグイグイと進みます。トランペットも力強いです。アレグロはかなり速いです。激しい打楽器のクレッシェンド。哀愁を感じさせるイングリッシュ・ホルンは細身で少し遠いです。

二楽章、この楽章も速めのテンポでかなり荒々しい。速いテンポが緊迫感を生んでいます。超絶技巧のような演奏。

三楽章、少しアンサンブルが緩い弦の刻み。この楽章も速いテンポでくっきりと描き分けられて行きます。強烈なティンパニ。

四楽章、尋常では無い強奏。葬送の音楽も速いテンポで、とても静かです。とても振幅の激しい演奏で、魂をぶつけて来るような感じです。

五楽章、前の楽章とは対照的にゆっくりと、日が差すようなファゴット。とても積極的に表現されて、激しく叩き付けるような演奏です。ティンパニの強打は凄い!どの演奏とも違う独特の世界です。

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ベルナルト・ハイテンク/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2000年

★★★★★

一楽章、勢いのある序奏。かなり激しく反応しているオケ。第一主題は極端に音量を落とすことはありません。大きなうねりのある演奏です。第二主題も豊かな表現です。弦を中心に盛り上がるエネルギー感も凄いです。悲しみが伝わって来るイングリッシュ・ホルン。

二楽章、強いティンパニの一撃、弦も生き生きとした表現です。

三楽章、弦の刻みの間に入るコントラバスも濃厚で、鮮明な色彩感です。柔らかいトロンボーンの刻み。ベルリンpoらしい引き締まったスネアも良い。

四楽章、冒頭はあまり強いエネルギー感ではありません。静まってからの表現も意欲的です。どの楽器も良く表現しています。

五楽章、のどかで穏やかなファゴット。打楽器のロールの後のトロンボーンでテンポを落としました。音楽に命が宿っているような生き生きとした演奏です。

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クリストフ・エッシェンバッハ/エーテボリ交響楽団

★★★★★

一楽章、ゆったりとしたテンポで、チェロのジーと言う響きが強い序奏。独特のバランスです。ゆっくりと凝縮した第一主題。第二主題もゆっくりです。第三主題もゆっくりですが、音が拡散せず、ギュっと締まって強い音です。一つ一つの音に力がこもっています。金管も炸裂してかなり激しいです。まるでマーラーを聞いているような激しさです。引き締まって細身のイングリッシュ・ホルンですが、感情を込めて訴えて来ます。

二楽章、ゆっくりと粘りのある表現。大きくテンポを動かす部分もあります。録音にもよるのかも知れませんが、音が前に出て来るので、とても激しい演奏に感じます。

三楽章、乾いた響きでリズムが刻まれれます。柔らかくリズムを刻むトロンボーン。激しいクライマックス。

四楽章、力を込めたまま静まって行きます。暗い葬送の音楽。絶望的に暗い演奏です。

五楽章、よく歌うファゴット。続くチェロは硬く陰影があります。明確で強い表現です。暗闇の中から響くようなバスクラもとても豊かな表現です。続くファゴットもテンポも動いて表現します。

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ワシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リバプール管弦楽団

★★★★★

一楽章、厚みがあって柔らかい序奏。とても抑えられた第一主題。第二主題も内に秘めた静かな演奏です。暖かみのある第三主題。若干緩めですが、スネアが良く鳴っています。金管は抑えられていて前には出て来ません。ペトレンゴはとても良くオーケストラをコントロールしています。良く整ったバランスの録音です。

二楽章、重量感は無く、軽く美しい演奏です。

三楽章、ガリガリと乾いた響きでリズムを刻みます。とても良く響きますが、悲痛では無い木管。キリッとしたトランペットのソロ。ティンパニも軽い響きです。

四楽章、大太鼓が硬い撥で鋭く強打しています。葬送の音楽も静かですが、それ程暗いものではありません。ホルンも細身で美しい。ピッコロもピンポイントで美しい。とても録音は良いです。

五楽章、柔らかく歌うファゴット。抑制された端正でとても美しい演奏です。

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マリス・ヤンソンス/ピッツバーグ交響楽団

★★★★★

一楽章、コントラバスの厚みは無く、エッジの効いた序奏です。とても静かで消え入るような第一主題。層が重なって拡がります。第二主題も線が細くロシアの音楽のイメージとはかなり違う演奏です。かなり寂しい雰囲気の第三主題。スネアはかなり遠くから響きます。トランペットは奥から強く響きますが、荒れ狂うような感じは全くありません。イングリッシュ・ホルンも細身ですが、美しい。全体にとても静かで、全く波が無く静まった湖面のような演奏でした。

二楽章、重い演奏です。とても静かで、金管が入っても整然としていて、全く波立つことがありません。

三楽章、木管も悲痛な感じは全く無く、美しく響きます。トロンボーンが刻むリズムはとてもソフトです。この作品の演奏としては、かなり異色です。

四楽章、消え入るような弱音に焦点が当てられ、聞き耳を立てるような演奏ですが、その弱音が美しい。陰鬱な雰囲気はとても良く表現しています。

五楽章、ゆっくりと演奏されるファゴットが残響を含んでとても美しい。恐らくこの作品の演奏としては、賛否の分かれるものだと思いますが、私にはとても良い演奏でした。

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ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団

★★★★☆

一楽章、柔らかくアンサンブルも緩い序奏。あまり静まらず緊張感の無い第一主題。微妙に揺れる第二主題。大きく歌う表現豊かな第三主題。とても良く歌い感情のこもった演奏です。テンポの変化も大きく、次第に表現がキリッとして来ました。

二楽章、柔らかい弦と、キリットした響きの木管が対比されます。くっきりと浮かび上がるピッコロとEbクラ。

三楽章、一音一音が離れている弦の刻み。木管は強いですが、悲痛ではありません。トロンボーンは弦とは違って緩めの刻みです。ハイピッチなスネア。あまり強い盛り上がりを感じさせません。

四楽章、大きく引いて行く感じはありません。暗い葬送の音楽を演奏する低弦の上をさまようような高弦。ライヴ録音ですが、とても鮮明です。

五楽章、とても良く歌うファゴット。色んな楽器が生き生きと表現しています。

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テオドール・クルレンツィス/SWR交響楽団

★★★★☆

一楽章、重量感のある序奏。ウェットで濃厚な色彩感。とても緊張感のある第一主題。ゆっくりと丁寧に演奏して行きます。第二主題も消え入るような静寂感です。第二主題もゆっくりとしています。弦の中に埋もれて響く金管。色彩感はとても濃厚で密度も高い。重苦しい雰囲気もあります。

二楽章、柔らかく始まりました。ピンポイントに浮かぶ表情豊かな木管。

三楽章、ガリガリと刻まれる弦。あまり悲痛な響きでは無い木管。残響を伴って柔らかいトランペットのソロ。

四楽章、重々しい音楽が次第に静まって行きます。葬送の音楽もとても静かです。美しいホルン。暗い雰囲気はとても良く表現されています。

五楽章、柔らかくこもった響きのファゴット。打楽器も入って盛り上がる部分でもそんなに強いエネルギー感はありません。テヌート気味のバスクラ。次第に脱力して行くような表現がとても良い。

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エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団

★★★★☆

一楽章、激しい序奏。埃っぽくでザラザラした第一主題。第二主題もザラザラしていますが、ムラヴィンスキー独特の緊張感が伝わって来ます。ウェットなスネア。金管もかなり激しい演奏です。生々しいイングリッシュ・ホルン。トランペットはかなり強く、振幅の大きな演奏です。

二楽章、かなり激しい表現です。ピッコロの演奏も厳しい。

三楽章、乾いた響きの弦。悲痛な響きの木管。濃厚な色彩感もこのコンビの特徴です。

四楽章、良く歌うファゴット。ムラヴィンスキーらしい厳しい表現です。

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エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロンドン交響楽団


★★★★

一楽章、ちょっとレンジが狭い感じの録音です。歪っぽくてザラザラした第一主題。第二主題もヴァイオリンの弱音は埃っぽい。第三主題は憂鬱で寂しい演奏です。展開部はかなり遅いです。スヴェトラーノフの演奏なので、もっとガツンと来るかなと思っていましたが、あまり強烈な演奏ではありません。イングリッシュ・ホルンは淡白です。トランペットはかなり強烈に響きました。

二楽章、かなり粘っこい表現です。一楽章よりもコントラストや表現が出て来ますが、それでもスヴェトラーノフの本調子では無いように感じます。

三楽章、かなり乾いた刻み。かなり演奏が生き生きとして来ました。ピリッとしたトランペットのソロはとても良い。緩いスネア。それぞれの楽器が立ってきました。

四楽章、あまり暗くは無く、歌う葬送の音楽。ピッコロは抑えられていて静かです。

五楽章、明るい雰囲気に一変するファゴットがとても良い表現です。秘めたようなチェロ。最初は寝ぼけているような演奏でしたが、完全に生き返って、深く抉った見事な演奏になって来ました。自在な表現で完全にコントロールされています。尻上がりに良くなりましたが、前半が悪すぎました。

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ベルナルト・ハイティンク/バイエルン放送交響楽団 2006年

★★★★

一楽章、コントラバスの上に乗る弦もバランス良く聞こえる序奏。悲痛な感じはあまり無く、暖かい第一主題。柔らかい第二主題。伸びやかな表現です。金管や打楽器も制御されていて、荒れ狂うような演奏ではありません。イングリッシュ・ホルンも暖かく歌い、安らかです。

二楽章、とてもマイルドな響きで、強い表現はありません。

三楽章、落ち着いた弦の刻み。木管も悲痛な響きでは無く、控えめに響きます。トロンボーンも整然と演奏します。トランペットはレガート気味に演奏します。スネアも程よく締まっています。

四楽章、ゆっくり目のテンポで丁寧に演奏しながら弱まって行きます。ここでも暖かみのある葬送の音楽。ムラヴィンスキーのような冷徹な演奏ではありませんが、こんな演奏もありかなと感じます。

五楽章、のどかで安らかなファゴット。クライマックスでもそんなに大きな振幅は無く、少し平板な感じもありますが一つ一つの響きはとても美しく魅力的です。

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セミヨン・ビシュコフ/WRD交響楽団

★★★★

一楽章、鮮明な響きです。密度の高い第一主題。第二主題も静かに切々と演奏されます。物悲しい第三主題。展開部の打楽器やトランペットは良いバランスで、落ち着いています。

二楽章、少し遅めのテンポで克明に表現します。痛みを感じさせる演奏です。

三楽章、枯れた響きの弦に悲鳴のように響く木管。スネアも引き締まっていて良い音です。

四楽章、前の楽章の悲痛な響きから、諦めにも似たような響きになり、悲し気な演奏になります。重苦しい雰囲気はとても良く表現しています。

五楽章、どこか陰のある音楽です。オケも上手く過不足なく表現されています。

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ルドルフ・バルシャイ/ケルン放送交響楽団

★★★

一楽章、豊かな残響で美しいですが、少し薄い響きの序奏。極端に音量を落とすことなく演奏される第一主題。ゆっくりと丁寧で美しい演奏です。深く刻まれるリズムに乗って柔らかく響く第二主題。かなり憂鬱な第三主題。展開部に入ってもテンポは遅く、ちょっと鈍重な感じを受けます。金管はバランス良く、突出して来ることはありません。録音はとても良いです。とても良く歌うイングリッシュ・ホルン。全体に静かで美しい演奏です。暗い雰囲気はとても良く表現しています。

二楽章、引きずるように重い表現です。この重さが鈍さにも繋がるように感じてしまいます。とても丁寧なのですが、その分勢いが無い。

三楽章、落ち着いた弦の刻み。木管も美しく、悲痛な響きではありません。トロンボーンの刻みも柔らかい。余裕を感じるトランペット。

四楽章、淡々と演奏される葬送の音楽。

五楽章、控えめなファゴット。丁寧で落ち着いていて、安定感がありますが、表現はあまり積極的ではありません。

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クルト・ザンデルリンク/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1997年

★★★

一楽章、あまり重量感が無く、密度も薄い序奏。ゆっくりと注意深く演奏される第一主題。穏やかな第三主題ですが、やはり密度は薄い。金管や打楽器は制御されていて、落ち着いています。ロシア音楽特有の凶暴さは感じません。哀愁に満ちた再現部。密度は濃くありませんが、注意深く丁寧な演奏が印象に残ります。

二楽章、ゆっくり目で、粘りのある表現です。金管は常に控えめで突き抜けて来ることはありません。

三楽章、ビオラがマットです。強い主張は無く、作品をありのままに演奏している感じですが、色彩感もあまり濃くはありません。引き締まったスネアはベルリンpoらしい。

四楽章、葬送の音楽ですが、そんなに暗く悲痛なものではありません。暗い音楽ですが、とても穏やかで、波がうねるように音楽が交錯するような演奏ではありません。

五楽章、とてもゆっくりとしたテンポで、穏やかです。チェロも淡々とした演奏です。盛り上がった場面では、ここぞと言う所で、粘っこく濃厚な表現もあります。テンポを少しずつ落として行くところもとても穏やかです。最後もそんなに暗くはなりませんでした。

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ケンナジー・ロジェストヴェンスキー/ソビエト国立文化省交響楽団

★★★

一楽章、豊かな残響と高音域を少し強調した響き。冒頭から熱量の高い序奏です。落ち着いた始まりから振幅の大きな第一主題。内に秘めたような第二主題。憂鬱ですが、表現は大きい第三主題。展開部に入って、打楽器と金管が強烈です。シャリシャリとしたスネア。トランペットも熱を帯びて凄い演奏です。この作品でこれ程まで荒れ狂う演奏は初めです。ロジェストヴェンスキーらしい爆演です。艶めかしいイングリッシュ・ホルン。突然強く立ち上がるトランペット。

二楽章、速めのテンポで活動的です。とても生々しい演奏です。とにかくトランペットが強烈です。

三楽章、潤いのある弦の刻み。絶叫する木管。ヤンソンスの演奏とは対極の演奏です。ビリビリと鳴るトランペット。ジャリジャリとウェットなスネア。

四楽章、ビリビリと下品な響きが静まって行きます。騒々しい葬送の音楽。ビブラートの掛かったホルンも下品に感じます。潤いのあるクラリネット。

五楽章、速めのテンポであまり味わいの無いファゴット。伸びやかなチェロ。高音域が強調されていて、木目が粗く、ちょっと痛い響きです。バリバリと響くティンパニ。ギョッとするように飛び出すトロンボーン。サービス精神旺盛な演奏なのですが、そんな作品なのか?と感じるところもあります。

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マクシム・ショスタコーヴィチ/ロンドン交響楽団

★★☆

一楽章、シルキーで滑らかな序奏。ゆっくりと注意深く演奏される第一主題。これでもかと言うくらい濃密ですが、かなり遅く少し間延びしているように感じます。第二主題もかなり遅いですが、オケの集中力は高いです。陰鬱な第三主題。展開部に入ってかなり凶暴になります。打楽器のロールも盛大です。ストレートであまり歌わないイングリッシュ・ホルン。かなり力のこもった演奏ですが、少し凡長な感じがあります。

二楽章、この楽章もかなりの力感です。力が入っていて、激しい演奏で悪くは無いのですが、直球勝負のようで単調です。

三楽章、かなりの力演です。強弱の振幅も大きく、ロンドンsoも上手く、マクシムの本気度の高さも感じるのですが、あまりにもストレート過ぎて魅力が乏しいのがとても残念です。

四楽章、凄いパワーから少しずつ穏やかになります。かなり抑えられた葬送の音楽ですが、あまり悲しさや暗さはありません。

五楽章、静かに始まり動きが加わるファゴット。チェロも静かに流れて行きます。力のこもった振幅の大きな演奏でしたが、あまりにも浅い演奏に感じました。

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ベルナルト・ハイティンク/シュターツカペレ・ドレスデン 2004年

★★

一楽章、ゆっくりと柔らかく丁寧な序奏。少し埃っぽい第一主題。乾いていて潤いの無い第二主題。細い響きの第三主題。緩いスネア。金管もザラザラしていて、あまり美しい響きではありません。トランペットの強奏も汚い。

二楽章、ゆったりとしたテンポで堂々とした演奏です。

三楽章、乾いた響きの弦の刻み。木管は強くはありませんが悲痛な響きです。トランペットが歪んでいるのか、そんなに強い訳では無いのに、とにかく汚い。

四楽章、大太鼓のインパクトは硬い撥で、とても良い音です。葬送の音楽はあまり暗くはありません。あまり悲痛な感じはありません。

五楽章、柔らかくのどかな雰囲気のファゴット。録音の影響なのか色彩感もあまり感じません。トロンボーンは重量感があります。

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ウラディーミル・ユロフスキ/オーケストラ不明

一楽章、くっきりとした低弦と、密度薄く上に乗る弦。かなり音量を落とした第一主題。第二主題も静かで集中力の高い演奏です。緩いスネア。金管は奥に引っ込んでいて、音圧の変化が無く平板に聞こえます。淡々としているイングリッシュ・ホルン。

二楽章、録音のせいか、色彩も淡白で、密度の薄い演奏に感じます。

三楽章、ユロフスキの経歴からすれば、2000年代の録音のはずですが、どうしてこれほどまでに密度の薄い響きなのか。

四楽章、オフ気味で重量感も無く、演奏を楽しめませんでした。

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