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シューベルト 交響曲第8番「未完成」

シューベルトの交響曲第8番「未完成」は、ロマン派音楽の名作のひとつとして非常に有名です。シューベルトはこの曲を1822年に作曲しましたが、楽章が2つしか完成していないため「未完成交響曲」として知られています。通常、交響曲は4つの楽章で構成されることが多いですが、この作品は第1楽章と第2楽章のみが残されています。

構成と特徴

  1. 第1楽章 (アレグロ・モデラート)
    最初の楽章は、陰影に富んだメロディーと豊かな感情表現で始まり、特に弦楽器が印象的に使われています。低音の弦楽器が奏でる重厚なメロディが、深い哀愁や孤独感を漂わせ、聴く人に強い印象を与えます。また、明るい旋律が時折現れますが、全体としては悲しげで静かな美しさを湛えた楽章です。
  2. 第2楽章 (アンダンテ・コン・モート)
    第2楽章は第1楽章とは対照的に、穏やかでリリカルな雰囲気が漂います。美しく流れるような旋律が続き、特に木管楽器の柔らかい音色が特徴的です。この楽章は心の平穏や安らぎを感じさせる部分が多く、シューベルトの持つ豊かなメロディーセンスが発揮されています。

「未完成」の謎

シューベルトがこの交響曲を2楽章のみで終えた理由については、さまざまな推測がありますが、真相は不明です。彼が何かの理由で作曲を中断したのか、意図的に未完にしたのか、または第3楽章や第4楽章が失われたのかは解明されていません。

この曲の魅力

「未完成交響曲」は、深い情感や哀愁を含む旋律と美しいハーモニーが特徴で、短いながらも非常に完成度が高い作品とされています。シンプルでありながらも、心に残る豊かなメロディと繊細なアレンジが、聴く人を引き込む魅力があります。そのため、今もなお多くの人々に愛され、頻繁に演奏される名曲となっています。

シューベルトの音楽の魅力を存分に味わえる「未完成交響曲」は、ロマン派音楽の感動を体感するのにぴったりの作品です。

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第8番「未完成」名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、低域が厚い冒頭、ゆったりとしたテンポで重量感溢れる演奏。ティンパニも深い響きです。
ショルティが指揮をするときとは全く違う響きです。メロディーには歌がありますが、奥ゆかしい表現で上品です。
重厚な響きで、これがあのシカゴsoかと思うほどです。ドイツ系のオーケストラだと言われても疑う人はいないと思います。重厚な響きではありますが、暖かい。

二楽章、美しいホルンのメロディです。この楽章もゆったりと堂々としたテンポでジュリーニの芸風の品のよさがにじみ出ています。
分厚い低音に支えられて、その上に美しいメロディーが乗るので、常に音楽が芳醇な香りに満ちています。
「未完成」が本当に美しい作品であることを十分に感じさせてくれる演奏です。

ショルティファンの方には是非この暖かい音楽を聴いてみて欲しいです。
ショルティ/シカゴsoも相性の良い曲の場合は、それこそ超絶と言える演奏をしますが、こんなに暖かく歌に満ちた音楽をシカゴsoがする。ジュリーニの音楽にも感動しますが、シカゴsoの懐の深さにも感激します。
曲が終わってからもしばらく静けさを楽しみたいようなそんな演奏でした。
すばらしかった。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、引き締まった響きと、引き締まった表現が作品の繊細さと美しさを強調するかのようで、とても良い雰囲気を持っています。
静かに上品な音楽。ムラブィンスキーの格調高くよどみの無い音楽が見事に再現されていてすばらしい演奏です。

二楽章、美しい。寒色系の響きが作品の持つ、高貴さをさらに強調しているようです。木管のソロも胸を打つ美しさと表現です。

曲のほとんどの部分が弦と木管で構成されているので、金管が暴れることもありませんので、チャイコフスキー化することもありません。
すばらしい名演でした。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

ムラヴィンスキー東京ライブ★★★★★
一楽章、盛大なヒスノイズのなかから低弦の旋律が聞こえます。ムラヴィンスキー特有の緊張感が支配しています。音楽が迫りくる迫力も凄いものがあります。波が押し寄せてくるようなクレッシェンド。トロンボーンの咆哮!凄いです。本番一発にかける集中力の高さには驚かされます。

二楽章、木管が豊かに歌います。ffは思いっきり来るので、びっくりさせられます。全体に締まった音質がかえって音楽が凝縮されているような印象を与えてくれます。高い集中力で渾身の名演だと感じました。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、コントラバスに重点を置いた重い序奏。豊かな響きを伴って美しく歌う木管の第一主題。ゆったりと伸びやかな第二主題。とても美しい音楽がすごくゆったりと流れて行きます。かなりダイナミックですが、ゆったりとしたテンポが音楽を雄大に聴かせます。カラヤンの音楽を表面だけ磨かれた音楽と言われることがありますが、この時期はカラヤンとベルリンpoの絶頂期で、ベルリンpoもカラヤンの楽器として最高に機能していた頃だと思います。この極限まで磨かれた美しい音楽をどうして否定できるでしょうか。この美しい作品をこれほどまで美しく演奏する指揮者とオケがあったでしょうか。この比類なき美しさは素晴らしいものです。

二楽章、この楽章もゆったりと進みます。美しいヴァイオリン。遅いテンポでも見事に揃ったアンサンブル。テンポを動かしたり、大げさな表現はありません。ひたすら作品の美しさを徹底的に表現した演奏です。この演奏ではカラヤンの存在が消えています。最後は少しずつテンポを落として終わりました。

作品の美しさを追求した演奏は、本当に美しく素晴らしいものでした。

ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

ヴァント★★★★★
一楽章、かなりはっきりとした存在感の序奏。柔らかい第一主題。たっぷりと歌う第二主題。躍動感があって生き生きとした表現の演奏です。微妙なテンポの動き。輪郭のはっきりとした克明な表現。テンポを落としてたっぷりと歌う部分はなかなか美しいです。

二楽章、豊かな美しい歌です。テンポを落として濃厚に歌います。作品を慈しむような丁寧で非常に美しい表現です。感情がこもってテンポが自由に、しかも絶妙に動きます。最晩年のヴァントの芸術の高みを感じさせる見事な演奏です。最後は別れを惜しむようにゆっくりとしたテンポで終わりました。

ライヴでありながら、とても美しい演奏でした。また、ライヴならではのテンポの自由な動きも作品への共感が感じられる素晴らしいものでした。別れを惜しむような最後も見事でした。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット★★★★★
一楽章、とても弱い序奏。感情を込めて歌う第一主題。次第に熱気をはらんで来ます。粘っこい表現でとても濃密な演奏です。生命力を感じさせる生き生きとした表情、正に音に命が宿っているような凄さ。

二楽章、この楽章でも濃密な歌が聞かれます。この濃厚な歌がとても美しい音で演奏されています。ロンドンpoも頑張っています。とても感情がこもって迫りくるような歌です。一音一音に力があって、それぞれに意味がこめられているような、それくらい濃い演奏です。これだけ濃厚な「未完成」を聞いたことがありません。最後は止まりそうなるくらいテンポを落として終わりました。

とても濃厚で感情のこもった演奏でした。音に命が宿っているような生命力を感じさせる演奏は素晴らしいものでした。
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カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年東京ライヴ

icon★★★★★
一楽章、硬く重い序奏。ゆっくりと潤いのある第一主題。テンポの動きもあります。第二主題もゆったりとしています。この遅いテンポでも弛緩することなく、一体感を保っているのは素晴らしいです。トロンボーンも強く出ます。トゥッティでのエネルギーの発散も凄いです。

二楽章、作為的な部分は全くなく、自然体の演奏ですが、とても美しいです。大きな表現もありませんが、自然に音楽が湧き上がるようなとても心地良い演奏です。天に昇るような最後でした。

とても自然で美しい演奏でした。内面から自然に湧き上がるような音楽はとても素晴らしいものでした。
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ヴォルフガング・サヴァリッシュ/シュターツカペレ・ドレスデン

icon★★★★★
一楽章、柔らかく大きめの序奏。非常に柔らかくうっとりするような第一主題。リズミカルに歌う第二主題。流れるように進む音楽です。弦のトレモロなど激しいところは激しいです。トロンボーンも気持ちよく吹き鳴らされます。シュターツカペレ・ドレスデンの美しい響きが良く生かされた演奏で、とても心地良い演奏です。

二楽章、ゆっくりとしたテンポのホルン。第一主題もとてもゆっくりです。一歩一歩噛みしめるような歩みです。中間部の木管もとても美しいです。個性の強い演奏ではありませんが、ドイツの伝統に根差した重みのある演奏だと思います。

ゆったりとしたテンポで柔らかく美しい響きの演奏でした。強い個性はありませんが、伝統の重みを感じさせる深い演奏だったと思います。
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トレヴァー・ピノック/ヨーロッパ室内管弦楽団

ピノック★★★★★
一楽章、暗く重い序奏。一転して活動的で歌う第一主題。テンポも速く音も短めです。優雅に舞うような第二主題。トゥッティは重く沈みます。表現の浮き沈みが大きい演奏です。作品が持っている切迫した緊張感はとても良く表現しています。苦しみ悶えるような表現もあります。トランペットが鋭く強く入って来ます。

二楽章、速いテンポで進みます。とても良く歌う演奏です。鋭いトランペット。硬質なティンパニ。テンポも動いて起伏の激しい演奏で感情のこもった表現です。

切迫感や緊張感。苦しみ悶えるような表現もあり、なかなか踏み込んだ表現の演奏で、非常に起伏の激しいものでした。古楽器の指揮者にしては感情表現も十分にあり聞き応えのある演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第8番「未完成」の名盤を試聴したレビュー

シューベルト 交響曲第8番「未完成」2

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第8番「未完成」名盤試聴記

ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★★☆
一楽章、割と速めのテンポか。音楽の高揚に合わせてテンポが速くなったりしました、意外なところで一旦音量を落としてクレッシェンドがあったりと、かなり積極的な音楽です。
ワルターの人柄なのか、私にはピーンと張りつめたような緊張感が感じられないのですが、無用な緊張感を作らないところがワルターの良さなのかも知れません。
個人的には、緊張感や静寂感のある演奏が好きです。

二楽章、とても遅いテンポでの開始です。すごくたっぷりと歌っていて心地よい演奏です。
歌に溢れてしなやかなワルターの音楽の良さは「未完成」のような美しい曲にはピッタリです。

二楽章はとても良かったです。

カール・ベーム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、速めのテンポでしっかりと演奏されています。しっかりしたベースの上に音楽が乗っているような感じがします。タメどころはしっかりタメがあり音楽をしている感じが十分します。集中力が高く劇的な演奏です。ベルリン・フィルがいぶし銀のような音色で演奏しています。

二楽章、この楽章も速めのテンポで弛緩することなく演奏が続きます。美しく歌う木管のソロ。

二つの楽章を大きく捉えて音楽作りがされているような演奏で一気に「未完成」を聴かせてくれました。個人的には、もう少しテンポが遅めの方が好みでした。

レナード・バーンスタイン/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、速めのテンポの序奏、第一主題の伴奏の弦の表情がとても豊かです。テンポも積極的に動きます。第二主題も細かい表情付けがあります。力が湧き上がるような力強い演奏です。コンセルトヘボウの濃厚な色彩も十分に生かしたカラフルな演奏です。生命感や躍動感があり、表現の振幅も激しく、音楽が前に前にと進んで行きます。とても感情の込められた歌のある演奏でした。

二楽章、一転してゆったりと穏やかな演奏です。アゴーギクも随所に見られ豊かな歌です。美しいクラリネットとオーボエのソロでした。鮮明で鮮やかな音楽です。一音一音にしっかりと魂が込められたような重みが感じられます。テンポも動きますし表現の振幅も広いし、時に表現に凄味さえも感じる演奏です。最後のテンポを落としてゆっくりと演奏される音楽は、正に天にでも昇るような雰囲気の音楽でした。

バーンスタインの感性をストレートに表現した音楽でした。とても表現の幅の広い演奏で、特に最後のテンポを落とした表現は素晴らしかったですが、トゥッティで角が立って少し荒い感じがあったのが残念でした。

オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★★
一楽章、ゆったりと、一音一音確かめるかのような丁寧な演奏です。
カラヤンのライブのようなボッテリした肥満ぎみの響きではなく、細身ですっきりしているのが、この曲には合っています。
ゆっくりのテンポでうねりながら音楽が高揚していく部分はすばらしいです。
とてもスケールの大きな演奏を聴かせてくれます。

二楽章、表情が豊かな演奏ですが、音楽はしっかりとした足取りで進みます。

オットー・クレンペラー/ウィーン・フィルハーモニー弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、チェロとコントラバスのバランスが良い序奏。クレンペラーにしては珍しく大きく歌う第一主題。ゆったりとして穏やかな第二主題。クレンペラーって脱力系で何もしない人だと思っていましたが、この演奏は集中力も静寂感もあります。テンポも若干ですが、動いています。ダイナミックの変化も大きく起伏の激しい演奏です。

二楽章、中間部でも良く歌います。主部が戻ると速めのテンポで淡々とした演奏になります。やはり起伏が大きく積極的な演奏です。泰然自若がクレンペラーの持ち味だと思っていましたが、この演奏は作品への共感や積極性が感じられました。

泰然自若を持ち味にしているクレンペラーの演奏にしては、共感や積極性が感じられました。いつもはもっと脱力系で、あまり表情も無いのですが、どっちが本当なんでしょう。
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チャールズ・マッケラス/ジ・エイジ・オヴ・インライトゥンメント・オーケストラ

icon★★★★
一楽章、ゴリゴリとした音で歌う序奏。オーボエが強い第一主題。速いテンポで軽快な演奏です。第二主題は古楽器らしく鋭い響きです。演奏時間からするとそんなに速くは無いようなのですが、速い部分はとても速いです。強奏部分でもあまり実態の無いような透明な感じであまり量感を感じません。鋭角的で重心も高い感じです。

二楽章、弓が弦をこする音や木管のサラッとした音が強調されていて、普段シューベルトに感じている温度感とは違う感じがします。また、音を短く演奏するところもあり、古楽器の演奏らしいです。

とても涼しげで爽やかな演奏でした。作品が本来持っているものとは違うような気もしますが、この爽やかな響きはなかなか良かったです。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/BBC交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★☆
一楽章、ヒスノイズの中に雄大な序奏。柔らかく歌う第一主題。穏やかで抑えた第二主題。豊かな響きで柔らかい音質がとても良いです。トロンボーンもとても柔らかいです。悲痛な叫びのようなものは表現されず、とても柔らかく優しい音楽でした。

二楽章、冒頭のホルンからとても良く歌います。ゆったりとしたテンポで次から次からと豊かに歌い続けます。とても遅いテンポでゆっくりと歩くようです。クラリネットもオーボエも大きな表現です。トゲトゲしく出っ張る部分はなだらかにならされて、滑らかな肌触りになっています。

とても滑らかで、しかも豊かに歌う演奏でした。柔らかく優しい音楽はとても心地良いもので、作品の穏やかな面を良く表現したものでした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★☆
1987年のライブ録音です。

一楽章、ジュリーニの演奏の直後に聴いたせいか、テンポの速さと落ち着きのなさを感じてしまいました。(注、カラヤンのテンポが一般的なテンポ設定でジュリーニが遅いのです)
ライブならではの、人気(ひとけ)が何ともいえない良い雰囲気を作っています。
ジュリーニの重厚な演奏に比べると、ライブならではの熱気があり、音楽が押し寄せてくるような迫力があります。
1987年と言えばカラヤンも晩年の演奏ということになりますが、ジュリーニの境地とはかなり違うと思わせてくれます。
まだまだ、燃えたぎるような情熱が溢れています。

二楽章、クラリネットのソロがとても上手い。スタジオ録音では磨き上げた音楽の造形美を聴かせるカラヤンですが、やはりライブだと、マイクセッティングの限界もあるので、磨き上げた美しさを聴くことはできませんでした。

ベートーベンやマーラーの作品であればライブの熱気はプラスに働きますし、熱気のために造形美が多少崩れても、伝わってくるものがあればOKの場合がありますが、こと「未完成」となると作品自体がとても美しい作品なだけにスタジオ録音が向いているのかもしれません。

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団

icon★★★☆
一楽章、かなり速めのテンポを取っています。強弱の振幅もコンパクトにまとまっています。
弱音部の木管は美しい音色でした。

二楽章、一転して、ゆっくりの二楽章です。
弱音部に神経を使った美しい演奏です。すごく感情のこもったクラリネットのソロ、オーボエのソロ!N響が、1973年でこんなに美しい演奏をしていたとは、正直驚きです。
天国へ昇って行くような最後でした。

一楽章はあっさりしていましたが、二楽章は濃密な演奏でした。
この当時のN響は、指揮者によって出来不出来の「差」が大きいと言われていましたが、この演奏は特に二楽章が良かったです。

イーゴリ・マルケヴィチ/フランス国立放送交響楽団

マルケヴィチ★★★☆
一楽章、ゴロゴロとした音の序奏。フランスのオケらしく開いた音の第一主題。盛り上がりに合わせてテンポが速くなります。第二主題はカチッとした硬い感じです。華やかですがすがしい響きです。雑味が無く澄んだ感じで、曲のイメージとは違い、爽やかな朝のイメージの演奏です。速めのテンポでサラッと過ぎて行きます。

二楽章、この楽章も速めのテンポで特に目立った表情も付けずにサラッと流れて行きますが、贅肉を削ぎ落としたようなスリムで透明感の高い響きです。トゥッティはかなり思い切って鳴らしています。

贅肉を削ぎ落としたようなスリムで透明感のある演奏で、雑味が無く爽やかでした。曲の本来のイメージとは違うような気がしますが、違った面を聞かせてくれたと思います。
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フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ

ブリュッヘン★★★☆
一楽章、チェロが大きめの序奏。速いテンポであっさりとした第一主題。独特の歌い回しの第二主題。トランペットが強いです。テンポは速くなったり遅くなったりします。テンポを落とした部分では伸びやかな音楽が聞けます。

二楽章、速めのテンポでどんどん進みます。古楽器独特のサラッとした響きでとても淡泊に感じます。作品に対する思い入れがあまり無いような感じで、感情を込めた表現などは無く、整然と楽譜に書かれているものを音にして行っているような感じの演奏です。

作品への思い入れなどは無く、整然とした演奏でした。古楽器ならではのスリムな響きの美しさはありましたが、それだけと言う感じを受けました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第8番「未完成」の名盤を試聴したレビュー

シューベルト 交響曲第8番「未完成」3

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第8番「未完成」名盤試聴記

ニコラウス・アーノンクール/ウィーン交響楽団

アーノンクール★★★
一楽章、重い序奏。憂いを感じさせる第一主題。とてもリズム感の良い演奏です。サラッと流れる第二主題。ティンパニが入るあたりからホルンまでテンポを落としました。突然トロンボーンが飛び出してきてびっくりします。テンポはたまに動きますが、トロンボーンの音の頭にアクセントを入れたりするのが、通常の演奏とは違いますし、この作品のしっとりとした雰囲気とは合わないような感じがします。

二楽章、アーノンクールは新解釈をすることに必死なのか、普通では無いところにアクセントを入れたりしますがどこか不自然です。この作品から若々しい息吹きを感じさせることには成功しているとは思うのですが。

きっとスコアを研究した成果だったのでしょう。しかし、普段から聞きなれた演奏から抜け出せない凡人には何をやっているのか良く分かりません。とても若々しい演奏だったとは思うのですが・・・・・・。
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ハンス・クナッパーツブッシュ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

クナッパーツブッシュ★★
一楽章、深々とした冒頭。おもむろなテンポでの開始でした。厚い低音の上に軽く旋律が乗っかっているようなバランスで、堂々とした演奏です。

二楽章、

リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ムーティ★★
一楽章、消え入るような序奏。滑らかで歌う第一主題。盛り上がりに合わせてテンポを速める部分もありました。

二楽章、あまり感情込めた演奏ではありません。また、緊張感などもほとんど感じられません。歌はありますが、ただ普通に演奏している感じがします。

特に目立った特徴も無く、普通の演奏と言う感じでした。
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クラウディオ・アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団

アバド★★
一楽章、芯があってゴロゴロと重い序奏。オーボエの方が強めの第一主題。とても響きのある第二主題。弦がレガートに演奏されて音楽が途切れることなく続いて行きます。強弱の変化はあまり大きくなく、平板な印象を受けます。わずかな間やさりげない歌など微妙な表現があります。

二楽章、特に美しい響きや深みのある表現があるわけでは無く、全体に緩い感じがします。

とても微妙な表現の多い演奏でしたが、深みのある表現や引き込まれるような美しさや静寂感は無く、緩い感じの演奏に聞こえてしまったのは残念です。
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小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ

小沢征爾
一楽章、美しいし繊細な音楽です。ホルンのハーモニーも美しい、小沢の流麗な音楽が、この曲にはぴったりです。
少しテンポが動く部分もありますが、表現は奥ゆかしい。もう少し奥深さが欲しい気がするのですが、録音の問題なのか・・・・・。
演奏自体には過不足なく、不満と言うほどの不満はないのですが、この演奏を選ぶ理由も無いところが、残念なところです。

二楽章、模範演奏を聴いているような、何とも面白くない演奏で、私の心が騒ぐような部分が残念なことにありません。

小沢征爾/シカゴ交響楽団

小澤征爾
一楽章、ゴツゴツと硬い序奏。浅い響きの第一主題。何とも深みや潤いの無い演奏です。

二楽章、歌ってはいるのだけれど、どこかよそよそしい感じで、あまり心に響きません。

あまりに潤いの無い音楽。カサカサとした肌触りはシューベルトの音楽とは相いれないもののように感じました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第8番「未完成」の名盤を試聴したレビュー

シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」

シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレート」(「グレート交響曲」)は、シューベルトがその生涯の晩年に完成させた、スケールが大きく荘厳な作品です。「ザ・グレート」のタイトルは、シューベルトの交響曲第6番「小ハ長調」との区別のために「大ハ長調」と名付けられたことに由来しています。この交響曲は、長大で重厚な構成と、豊かなメロディーによって聴衆に感銘を与え、シューベルトの交響曲の中で最高傑作のひとつとされています。

構成と特徴

「ザ・グレート」は全4楽章で構成されており、それぞれがシューベルトらしいメロディアスな魅力と緻密な構成を持っています。

  1. 第1楽章 (アンダンテ – アレグロ・マ・ノン・トロッポ)
    穏やかな序奏から始まり、やがて軽快で生き生きとした主題が登場します。明るく快活なハ長調の旋律が特徴で、広がりのある美しいメロディが展開されます。リズミカルで力強い部分と柔らかい部分のコントラストがあり、冒険心や希望を感じさせる楽章です。シューベルト独自の「歌心」が随所に現れ、楽器間の掛け合いも見事です。
  2. 第2楽章 (アンダンテ・コン・モート)
    第2楽章は緩やかで荘厳な雰囲気に包まれ、深い情感が表現されています。序奏でのホルンと弦楽器の対話がとても印象的で、特にシューベルトが得意とした「詩的な抒情」が感じられる楽章です。この楽章は、自然や牧歌的な情景を思わせる静かな美しさが広がっており、どこか心に染み入るような旋律が展開されます。
  3. 第3楽章 (スケルツォ:アレグロ・ヴィヴァーチェ)
    生き生きとしたリズムと活気あるメロディが展開され、力強い響きが特徴のスケルツォです。リズムの変化や軽快な動きにより、まるで踊り出すような楽しさが感じられます。この楽章は、シューベルトが持つ明るいユーモアと豊かな表現力が発揮されており、次第に音楽が高揚していくダイナミックな魅力があります。
  4. 第4楽章 (フィナーレ:アレグロ・ヴィヴァーチェ)
    フィナーレは堂々とした旋律が展開され、まさに「大交響曲」にふさわしいフィナーレを締めくくります。緻密な構成と激しいエネルギーが感じられ、クライマックスに向かって音楽が高まり続けます。壮大なテーマが繰り返され、最終的には圧倒的な迫力で幕を閉じます。シューベルトらしい豊かな和声と、力強くも感動的な終結が、聴く人に大きな満足感を与えます。

音楽的意義と評価

シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレート」は、彼の作曲技術が最高峰に達した作品であり、その長さと複雑さから「交響曲の大作」として評価されています。特に、ロマン派の作曲家たちに大きな影響を与えた点が特徴的です。シューマンがこの交響曲を称賛したことでも知られ、ブラームスやマーラーなど後世の作曲家たちにとっても重要な作品とされました。

また、この交響曲はシューベルトが独自に開拓した「歌曲風のメロディ」をオーケストラに応用した点でも革新的です。どの楽章も豊かな旋律美が印象的であり、まるで「歌のように歌われる交響曲」として人々に愛されています。シューベルトの「ザ・グレート」は、シューベルトが持つ抒情性と壮大さが結びついた、まさにその名にふさわしい偉大な交響曲といえます。

シューベルトが築いた音楽世界の集大成であり、交響曲としてもロマン派の到来を告げる作品として、現在もなお多くの人々に愛され続けています。

4o

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」名盤試聴記

マルク・ミンコフスキー/グルノーブル・ルーヴル宮音楽隊

icon★★★★★
一楽章、とても豊かな残響の中に響くホルンの序奏。続く木管もとても豊かな響きです。ゆっくりとしたテンポでたっぷりと歌います。深い響きのトゥッティ。第一主題へ向けてアッチェレランドしました。爽やかな響きで弾む第一主題。ふくよかで柔らかい響きで歌う第二主題。テヌートぎみに演奏される第三主題。古楽器による演奏ですが、響きの鋭さはあまりありません。むしろマイルドで柔らかい響きです。とても反応の良いオケです。

二楽章、とても表情豊かなオーボエ。歯切れの良い弦。速めのテンポでサクサクと進みます。Bはゆったりと厚みのある響きでとても感情のこもった表現です。古楽の指揮者の演奏でよくある、速いテンポや極端なアクセントなどは無く、とても自然でバランスの良い美しい演奏です。流れていく音楽に安心して浸ることができます。

三楽章、厚みがあり豪快な弦に続く木管がくっきりとチャーミングな表情で浮き上がります。とても活発で豊かな表現です。トリオもたっぷりと感情を込めて湧き上がるように歌います。うっとりするような美しい歌です。強弱に敏感に反応して引き締まった表現の部分もあります。

四楽章、勢いとスピード感のある第一主題。とても積極的で激しささえも感じさせる演奏です。第二主題は一転して柔らかい音色ですが、やはり表現は積極的でダイナミックです。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分も生き生きとした豊かな表現でとても良いです。続くトロンボーンも厚みのある響きの中にブレンドされるようにしかし、力強く響きます。ずっと続くスピード感は素晴らしいです。作品の豊かさを存分に感じさせてくれる演奏です。厚みのある豊かな響きのコーダでした。

とても豊かな表現で、くっきりと浮かび上がる木管やトゥッティの柔らかい響きなど、魅力満載の演奏でした。スピード感やダイナミックな表現もとても魅力的でした。音楽を聴く喜びを感じさせてくれる素晴らしい演奏でした。
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カール・ベーム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ポンポンと少し弾むようなホルンの序奏。続くオーボエはしっとりとしています。第二主題の前はかなりテンポを上げましたが第二主題では元のテンポです。音楽がダイナミックでトロンボーンなどは遠慮なく吹かれます。カラヤンが指揮するベルリンpoのような豪華絢爛な響きではなく、質実剛健でガッチリとしていて力強い響きです。深みのある弦の響き。彫りの深い克明な音楽。

二楽章、Aはリズミカルな表現で、絶頂期のベームのはち切れんばかりのピーンと張った音楽がすばらしい。Bも速めのテンポで一気に聞かせます。この楽章でもトロンボーンは遠慮なく強奏されます。

三楽章、豪快な弦とそれに続くチャーミングな木管との対比もとても良い。弱音部では小船に揺られるような心地よさです。ガリガリと弾かれる弦の凄味もなかなかのものです。中間部で歌うオーボエやその他の木管。スケルツォ主部が戻ると、また豪快な弦とチャーミングな木管の対比になります。この豪快なエネルギーは晩年のベームには無いものです。

四楽章、この楽章でも凄いスピート感とエネルギーの放出が凄いです。第二主題もとても瑞々しく生命感のある演奏で惹きつけられます。音楽の勢いの凄さに圧倒されます。

ベームの絶頂期の見事な記録でした。凄いエネルギーの放出とスピート感。この曲を一気に聴かせてくれる名演でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、豊かな響きのホルンの序奏。流れるように滑らかな第一主題。巨大なトゥッティ。とても躍動感があります。小気味良いテンポの第二主題。「未完成」のなだらかな表現とは打って変わって、切り立つ壁のようなゴツゴツした音楽で、とても生命感があります。そして、どのパートも美しい。トロンボーンの強奏も胸がすくような心地よい響きです。深い彫琢の弦の刻み。最後はテンポを速めました。

二楽章、速めのテンポで演奏されるオーボエ。瑞々しい弦の響きがとても美しい。Bは流れるようにレガートで演奏されます。生命の躍動を表現しているかのようなA。再び現れるBでも生命感に溢れた演奏です。

三楽章、凄く速いテンポで激しい弦の演奏から開始しました。意図的な表情付けはありませんが、自然な抑揚があり、とても流れの良い音楽です。これでもかと畳み掛けるように音楽が押し寄せてきます。中間部はゆったりととてもゴージャスな響きでカラヤンとベルリンpoの黄金期を感じさせます。スケルツォ主部が戻り、再び速いテンポでガリガリと激しい演奏です。合間に聞こえる優雅な木管のソロ。

四楽章、激しく躍動的な第一主題。引き締まった表現で緊張感があります。優しいけれども躍動感のある第二主題。展開部のトロンボーンの見事な強奏。畳み掛けるような凄いスピード感。

見事な造形美で美しい演奏でした。

ハンス・クナッパーツブッシュ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、拍手が鳴りやむ前に演奏が始まります。速めのテンポで柔らかいホルン。続く木管や弦も生き生きとしています。巨大なトゥッティ。楽しげに弾む第一主題。動きのある第二主題。金管を思い切って咆哮させるダイナミックな演奏で激しいです。とても感情のこもった歌もあります。テンポも速めで活発です。

二楽章、Aのオーボエやクラリネットもとても表情が豊かです。ピアノとフォルテシモの切り替えもとても思いきりが良くダイナミックです。Bに入っても相変わらず表現は豊かです。この作品がこんなに激しいものだったかと再認識させられるほど金管が激しく方向します。

三楽章、ここでも巨大な響きの冒頭。とても表現が大きくて、豪放磊落な印象です。強烈に吹きまくる金管はもうシューベルトの音楽では無いような雰囲気です。

四楽章、凄く積極的で躍動的な第一主題。大きな流れのある第二主題。聞き手にグッと迫ってくるような作品に対するクナッパーツブッシュ独特の共感。とにかく激しく巨大です。コーダの凄いテンポダウンと速いテンポが交互に現れる部分は圧巻です。

この演奏が、この作品の本来の姿かどうかは疑問ですが、この曲をこれだけ面白く聞かせてくれる演奏も珍しいし、とても貴重な存在です。

ハインツ・レーグナー/ベルリン放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、豊かな残響をともなってゆっくりと柔らかい響きのホルン。続く木管もゆったりと柔らかく心地よく歌います。トゥッティも重厚で柔らかい響きが魅力的です。第一主題からテンポを速めて活発な動きになります。木目細かい美しい響きです。

二楽章、美しいAのオーボエ。強弱の変化はそんなに大きくなく、なだらかな変化です。Bもなだらかにつながる美しい旋律。シューベルトらしい美しく上品な演奏です。力みが無く自然体の表現の中から作品の美しさがにじみ出てくるような演奏に心が打たれます。

三楽章、生き生きとしていて潤いがあって美しい木管と繊細な弦。自然体で奇をてらうことは全くありませんが、演奏は集中力があって聞き手を引き込む力があります。ゆったりと穏やかに歌う中間部。

四楽章、荒々しくはありませんが、躍動感があり積極的な表現の第一主題。金管は突出してくることは無くとても良いバランスを保っています。

自然体で、とても美しい演奏でした。シューベルトらしい上品な表現と響きで、それでいて集中力も高い演奏で、聞いていて引き込まれるような演奏でした。

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーニー管弦楽団 1975年東京ライヴ

icon★★★★★
一楽章、暗闇に明かりがともるようなゆったりとしたホルン。柔らかい弦。艶やかな木管。重厚なトゥッティ。落ち着いて堂々とした第一主題。第二主題もゆっくりとしたテンポでしみじみとしています。弱めに入って次第に大きくなるトロンボーン。ベルリンpoとのスタジオ録音のようなピーンと張った力強さはありませんが、枯れた風情のしみじみとした演奏です。コーダの湧き上がるような力強さもとても良いです。

二楽章、美しいオーボエ。僅かに動くテンポにも自信が感じられます。シューベルトの美しさを十分に伝える演奏です。テンポの動きが自然で、心に沁み入るような弦の旋律。こんなに素晴らしい演奏を日本でしていたとは。金管も適度に前に出てきます。生き生きと有機的に動く楽器。大きな表現はありませんが、共通の言葉を話しているような一体感で音楽が作られて行きます。

三楽章、自然な表現が美しい弦。チャーミングな木管の表情。とても落ち着いた大人の演奏です。伸び伸びとした中間部。穏やかで落ち着いたたたずまいがとても安らかな気持ちにさせてくれます。

四楽章、自然な表現で過不足ありません。穏やかで優しい第二主題。ベートーヴェンの9番の歓喜の主題を引用した旋律はとてもよく歌いました。重厚なトゥッティはさすがです。華やかに解放されるクライマックス。コーダで少し重くなる低弦。

自信に充ち溢れた堂々とした演奏でした。穏やかで落ち着いた弱音から、華やかに解放さたクライマックスまで、とにかく見事な演奏でした。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、録音年代の古くレンジが狭いのが良くわかるホルン。微妙なテンポの動き。のどかな雰囲気のオーボエ。第一主題へ向けて急加速。生き生きとした表情の第一主題。表現も大きいです。第二主題でもテンポが動きます。トロンボーンに旋律が出るところではまたテンポが少し落ちてまた加速します。目まぐるしいテンポの変化。再び第二主題が出るとまたテンポはゆっくりになります。強弱の変化もとても敏感な反応です。最後はテンポを上げて力強く終わりました。

二楽章、ゆっくりとしたテンポです。豊かな表情のオーボエ。この楽章でもテンポがよく動いて、曲を大きく感じさせます。さらにテンポを落として濃厚な表現があります。表現もとても積極的です。感情の赴くままに自在なテンポの変化です。

三楽章、激しく強いエネルギーを放出してくる演奏です。ゆったりとしたテンポで感情を乗せて歌います。美しい歌でとても心地良いです。この楽章でもテンポはよく動きます。

四楽章、速いテンポで勢いのある第一主題。幅広い表現力。落ち着いた第二主題。切迫感のあるテンポの追い込み。フルトヴェングラーとオケが一体になった見事な動きでした。

フルトヴェングラーらしくテンポが自在に変化して、感情が込められた演奏でした。表現の幅もとても広くて充実した演奏でした。

ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

ヴァント★★★★★
一楽章、柔らかく美しいホルンの序奏。続く弦や木管も澄んだ響きで美しいです。トゥッティは力強く鳴ります。第一主題に入る前はとても堂々としていました。第一主題はテンポが速く躍動感があります。第二主題も特に表情は付けられていませんが、とても澄んだ美しい響きです。第三主題が盛り上がったところでの弦の強弱の変化はとても大きかったです。一つ一つの楽器の音に力があって、しっかりと存在を主張しています。コーダに入ってテンポを落としました。充実した響きです。

二楽章、強弱の変化にも敏感です。抑制的であまり歌いません。Bは自然で柔らかく穏やかで安らぎを感じます。テンポも自然な動きです。トロンボーンがかなり強烈に吹きます。強弱の振幅はかなり大きい演奏です。楽章の終わりごろにはかなりテンポが遅くなりました。

三楽章、純度が高く密度の濃い演奏で、大きな表現はありませんが、絡み合う楽器が有機的で、とても生き生きとしています。祝典的な雰囲気のトリオ。主部に戻るとテンポが速くなりました。

四楽章、とても演奏が引き締まっていて充実した演奏です。スピード感もあって、オケが全力で演奏しているのが分かります。第二主題の最後で全開になりました。ヴァントの気合いがオケに乗り移ったような入魂の演奏。凄い集中力でとても充実した演奏になっています。重い弦と華やかな金管が交互に現れるコーダ。充実した見事な演奏でした。

ヴァント入魂の素晴らしい演奏でした。ヴァントの気迫にオケも応えて充実した美しい演奏を繰り広げました。小細工は無く、正面から堂々と作品と向き合ってこのような充実した演奏ができたヴァントの晩年は素晴らしいものだったんだと実感します。
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ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

アーノンクール★★★★★
一楽章、間を空けて歌う序奏のホルン。続く木管の部分ではテンポを速めます。トゥッティでは最初の音を強く続く音は少し音量を落として演奏します。第一主題に向けてテンポを速めました。第一主題の最初はとても抑えた表現です。次第に音量を上げて音楽も弾むようになります。テヌートぎみに演奏される第二主題。トロンボーンの第三主題よりも伴奏の弦のほうに重点を置いて波が寄せては引いて行くような表現でした。細部の表現にもこだわりを見せていて、普段はあまり意識しない音に注意が向きます。コーダはかなりテンポが速くなりました。

二楽章、オーボエはテンポも動いて良く歌います。テンポも良く動きます。Bはとても穏やかです。いつものアーノンクールの不自然なアクセントなどは無く、意外と自然な演奏です。

三楽章、速いテンポですが、間を取ったりしてテンポが動きます。しっかりと表情が付いていてリズミカルです。リズムの絡みが見事に表現されています。中間部も良く歌っていて、アーノンクールの演奏とは思えないです。こんな面もあったとは驚きです。とても穏やで盛り上がったところでは華やかな中間部です。

四楽章、速いテンポでスピード感があります。柔らかい表現でここでも良く歌う第二主題。トゥッティでは巨大な響きを引き出します。コーダも堂々としたものでした。

どちらかと言うとキワモノの部類だと思っていたアーノンクールがこんなに正統な演奏をするとは思いませんでした。歌に溢れて自然で柔らかい表現やコーダの堂々とした演奏は素晴らしかったです。
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サー・エイドリアン・ボールト/BBC交響楽団

ボールト★★★★★
一楽章、ゆっくりと語りかけるようなホルンの序奏。続くオーボエや弦もとても優しい表現です。あまり大きな響きにはならない控え目なトゥッティはシューベルトらしいです。第一主題へ向けてアッチェレランドしました。最初強く次第に弱くなる第一主題。テヌートぎみに演奏されます。柔らかく歌う第二主題。次第にテンポが速くなって、シャキッとした表現になって行きます。第三主題も途中からテンポが速くなります。最初は柔らかく優しい表現でしたが、曲が進むにつれて音に力が増してきました。テンポも速くなり、積極的な表現になっています。

二楽章、遠くから響くオーボエ。潤いのある弦が美しいです。Bからも柔らかい響きですが、テンポは速めで表現はあっさりとしています。ホルンがかなり強奏します。テンポを落とした部分の柔らかい表現には味わいがあります。

三楽章、美しく揺れる弦。力強く勢いのある強奏部分と柔らかく優しい弱音部分の対比が見事です。揺れながら歌うトリオ。

四楽章、シルキーな弦が美しいです。クレッシェンドに従って追い立てるような表現も見事です。あまり歌わないオーボエの第二主題。どっしりとした堂々とした歩みです。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分は豊かに歌いました。コーダで一瞬ガクッとテンポを落としました。最後もテンポを落として終わりました。

作品を正面から捉えた堂々とした演奏でした。弱音の柔らかく優しい響きと強奏の力強く勢いのある響きとの対比も見事でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」の名盤を試聴したレビュー

シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」2

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」名盤試聴記

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、ホールの響きを伴ってふくよかなホルンの序奏です。合いの手で入る弦も優しい響きです。第一主題は重厚な響きでことさら強く演奏することは無く、それがかえって作品の巨大さを表しているような感じがします。ゆったりとした足取りで進みます。オーボエが演奏する第一主題も優しくしなやかです。第二主題の手前で少しでけテンポを上げました。第二主題は動きがありますが、それでも優雅です。とても静かで雄大なffです。コーダはすごくテンポが遅くなりました。

二楽章、遅めのテンポで歌うオーボエ。美しい弦とオケの見事なアンサンブルがすばらしい。Bへの移行部分をゆっくりと解説するかのように丁寧に演奏しました。Bもとても静かです。この演奏は全くの別世界です。この曲の概念を根底から覆すような演奏です。遅いテンポに静寂感、ffでも力が抜けたようなゆったりとした空間の再現は見事です。盛り上がったところで大きくテンポを落としました。その後も遅いままで進みましたが、途中でまたテンポを上げました。テンポはよく動きます。最後はすごくテンポを落としました。

三楽章、ゆっくりとしたテンポで、荒ぶることもなく整然とした演奏です。とても穏やかで優雅です。アクセントなども強調しないので、ひっかかるところが無く、音楽の流れがとてもゆったりとしています。トリオも非常にゆったりとした大河の流れのように静かに同ずることなく流れて行きます。この曲がこんなに静かで美しい曲だとは思いませんでした。チェリビダッケの演奏は、その曲の新しい側面を見せてくれることがよくあるので、聞くのが楽しみになります。

四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポで大きな流れです。柔らかい表情の第二主題。全体の響きから突出することのないトロンボーン。目が覚めるようなティンパニの強打からオケにも緊張感が感じられるようになってきました。最後の音はデクレッシェンドしました。

最後は歓喜に溢れるような雰囲気ではありませんでしたが、この曲の違う面を十分に感じさせる演奏は凄いと思いました。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、もやーっとした響きのホルン。続く木管はゆっくりとしたテンポでおおらかな表現です。トゥッティは重くありません。テンポは微妙に変化しています。生き生きと躍動感のある第一主題。独特の粘りがあって豊かに歌う第二主題。トロンボーンが登場した後も豊かな表現です。フワーッとした柔らかい響きが魅力的な演奏です。次々と湧き上がるような金管もとても良いです。

二楽章、豊かに歌うオーボエ。テンポも微妙に動きますが、とても自然です。特に目立った表現はありませんが、いかめしく無く、どぎついことも無い暖かい演奏の安心感があります。

三楽章、この楽章でも微妙なテンポの変化があります。

四楽章、少し緊張感のある第一主題。常に温度感があって暖かい演奏です。良く歌う第二主題。力みも無く穏やかです。コーダも絶叫することなく穏やかでした。

暖かく、穏やかな演奏で、豊かな歌と微妙なテンポの動きのある演奏でした。作品を慈しむような暖かみはワルターならではだと思います。

カルロ・マリア・ジュリーニ/パリ管弦楽団

ジュリーニ★★★★☆
一楽章、伸びやかなホルンの序奏。続く弦や木管もとても良く歌います。そしてその歌がとても自然です。フワーッとして広大なトゥッティ。テヌートで演奏される第一主題。活発に弾むイメージがある第一主題が全く違う表現に少し戸惑います。第二主題もジュリーニのさりげない歌があります。重くどっしりとしたテンポです。とても柔らかくふくよかな響き。力みの無い柔らかく美しい響きです。

二楽章、柔らかく美しいオーボエ。トゥッティでもフワーッとした何とも言えない柔らかい響きです。この楽章もゆっくりとしたテンポで優雅に歌います。Bも優雅でとても美しいです。さらにテンポを落として優雅さも極まるような部分もありました。

三楽章、遠くに広がる弦楽器が豊かな残響を伴って柔らかく響きます。とてもゆったりとしたテンポで舞うような雰囲気です。トリオもさりげなく美しい歌です。豊かな響きに包まれてどっぷりと音楽に浸れるような演奏です。

四楽章、一転して緊迫感のある演奏になりました。活発に動くオケ。第二主題は再び優雅な表現になりました。トロンボーンの強奏部分もがなり立てるようなことは無く、余裕を持って軽々と響きます。コーダも十分余裕を持った落ち着いたものでした。

とてもゆったりとしたテンポで優しく優雅な演奏でした。さりげなく自然な歌もとても美しいものでした。常に余裕を持った大人の演奏はなかなか魅力的なものがありました。
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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年

icon★★★★☆
一楽章、遠くから響くホルンの序奏。続く木管はゆっくりと進みます。トゥッティはあまり強奏はしません。とても軽く演奏しています。優しい序奏です。第一主題へ向けて加速しました。第一主題はティンパニがボンついて厚みのある響きです。第二主題の中でテンポが動きます。第三主題の前でテンポが落ちました。柔らかく始まった第三主題が次第に強くなりますが、あまり音量感はありません。テンポはとても良く動きます。テンポを落とした部分では濃厚な表現があります。再現部の第三主題は脱力したようにテンポを落として始まり次第に盛り上がりながらテンポを速めました。このあたりの表現はさすがにフルトヴェングラーと言える表現です。

二楽章、ゆっくりとたっぷり濃厚に歌うオーボエ。クラリネットも濃厚でロマンティックです。Bへ入る前にテンポがさらに遅くなりました。感情の赴くままに動くテンポは絶妙でうっとりとします。1回目のBの最後の部分では止まりそうなくらいに遅いテンポになります。最後も凄く遅いテンポで終わりました。

三楽章、コントラバスがボンついて歯切れが悪い冒頭部分。中間部も感情を込めて歌います。

四楽章、ゆっくりと始まった第一主題が次第に速くなります。どんどん加速して行きます。第二主題でもテンポが次第に速くなります。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用もゆっくりとしたテンポで始まりましたがトロンボーンが出るあたりでは速くなっています。このテンポの動きに不自然さを感じさせないのがフルトヴェングラーらしいところです。速いところはかなり速くなり、テンポの振幅はとても大きいです。コーダもかなり速いテンポになり最後は遅くなって終わりましたが大きな盛り上がりでは無く勝利を勝ち取った喜びのような表現はあまりありませんでした。

かなりテンポの振幅の大きなロマンティックな演奏でしたが、最後が輝かしい終わり方では無かったのが唯一残念なところです。
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ヘルベルト・ブロムシュテット/シュターツカペレ・ドレスデン

icon★★★★☆
一楽章、暗闇にろうそくの炎が灯るようなホルンの序奏。続く木管や弦はゆったりとしたテンポで伸びやかで良く歌います。艶やかなオーボエが美しいです。巨人の歩みのようなトゥッティ。ゆっくりとしたテンポで噛んで含めるように語りかけてきます。テンポを速めて第一主題に入ります。オケが一体になって弾みます。木管の3連符のクレッシェンドも整って美しいです。陰影をたたえる第二主題。色んな楽器が交錯する第三主題。自然体の演奏ですが、表現はキリッと締まっていて演奏を格調高いものにしています。

二楽章、いつものブロムシュテットと同じく、全く作為的なことは無く、楽譜に書かれていることに忠実に演奏しています。オーボエをはじめとする木管は深く美しい響きです。Bでは少しアゴーギクを効かせるような微妙なテンポの動きもありました。

三楽章、生き生きとした木管がとても美しいです。舞い踊るような豊かな表現です。トリオも豊かに歌います。

四楽章、響きは厚くありませんが、シルクのような肌触りの弦の動きが美しいです。オケ全体で作り出す脈動のような第二主題。ベートーヴェンの「歓喜の主題」からの引用部分はゆったりと深い表現でした。トゥッティでもトロンボーンが全体の響きに溶け込んで一体感のある演奏はとても美しいです。コーダは爆発するような歓喜や勝利の喜びではありませんでしたが、この演奏には良いバランスでした。

自然体でありながら、表現も十分にあって美しい演奏でした。抵抗なく聞けるバランスの良い演奏で、なかなか良かったと思います。
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ジョン・エリオット・ガーディナー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ガーディナー★★★★☆
一楽章、豊かな残響でふくよかなホルンの序奏。生命感があって良く歌います。艶やかなオーボエ。速いテンポの第一主題。シルキーな弦。整ったアンサンブルで弾みます。第二主題も速いテンポです。チェロなども深く切れ込んで来ます。トゥッティはあまり強奏はしません。かなり余力を残しています。豊かで美しい響きで表現も豊かでとても良いですが、金管が全開にならないのがもどかしいです。

二楽章、とても良く歌うオーボエ。弦も潤いがあってとても美しいです。Bは速いテンポで始まりましたが次第にテンポが少し遅くなりましたがまた速くなったりしています。主部が戻ると生き生きと活気のある表現です。ホルンはビービーとかなり吹いていますが、トロンボーンは抑えられています。

三楽章、生き生きとした表情の木管。勢いのある激しい演奏です。主に古楽演奏をしている指揮者からこんなに自然な表現を聞けるとは思いませんでした。トリオも賑やかでかなり積極的な表現です。テンポも動いて濃厚な演奏で、感情を込めた表現とは無縁と思っていた古楽の指揮者からこんなに深く感情表現する演奏を聴くのは初めてです。

四楽章、この楽章も速いテンポで凄く勢いがあります。スピード感が尋常ではありません。キリッと引き締まった表現も見事です。第二主題に入っても勢いは止まりません。次から次へと大きな波が押し寄せるようです。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用はとても良く歌います。重量感のあるコーダも見事でした。

一楽章、二楽章は少し欲求不満になりそうでしたが、三楽章、四楽章の大きな表現と凄く勢いのある演奏は見事でした。古楽の指揮者からこれだけ感情豊かな演奏が聴けるとは思いませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」の名盤を試聴したレビュー

シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」3

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、フワーッと長めに演奏されるホルン。序奏が木管に引き継がれてのどかな雰囲気です。テンポが微妙に動きます。第二主題の前でテンポを上げて、第二主題もそのままのテンポです。クレッシェンドが波が大挙して押し寄せてくるような重量感があります。トロンボーンは極端に強奏はせず、美しい響きの演奏です。弦の深みのある音がとても美しいです。終盤に演奏されるトロンボーンの付点の付いた音符の演奏が華やかで、すばらしい盛り上がりでした。

二楽章、哀愁を感じさせる木管のメロディー。一転してせきたてるような弦。Bは美しい旋律が強弱織り交ぜて演奏されます。弱音の美しさは際立っています。テンポはよく動きます。トゥッティでもオケを限界近くまで鳴らすことはなく、美しい響きが続きます。

三楽章、伸びやかで柔らかな響きの弦。せきたてるようなクレッシェンド。うねるように迫ってくる弦。中間部でもテンポが動きます。

四楽章、躍動的でアクセントに敏感な第一主題。強弱の変化にも敏感です。優雅に舞うような第二主題。歓喜の主題の引用部分から引きずるように重くなったりすることがあります。ギャロップのように軽快な第二主題の再現。テンシュテットが指揮するマーラーのような叩きつけるようなトゥッティではなく、力加減にすれば七分目ぐらいの力みの無い演奏です。コーダから引きずるように重くなりました。最後はデクレッシェンドで終わりました。

ベームの演奏のようなパーンと張った演奏に比べると、しなやかな演奏ではあったのですが、その分、勝利を掴み取った喜びの表現は控え目で、感情的な振幅も狭かったように感じました。

朝比奈 隆/東京都交響楽団

icon★★★★
一楽章、霧の中から響くような、ゆったりとしたホルンが終わると若干テンポを上げて歩き始めます。明るい響きのトロンボーン。オケのエネルギーを上回るような、力強いティンパニですが、第一主題ではドタバタしてうるさいですし旋律よりもリズムを刻む楽器の存在感が大きいです。第二主題は少しテンポが速いです。レガートに演奏されるトロンボーン。付点のリズムが甘いところもあります。オケに力みは無く自然体の演奏ですが、ティンパニがかぶって来るので、全体のバランスを崩しています。

二楽章、遅めのテンポ良く歌うオーボエ。シルキーな弦。テンポの揺れ動きも自然で心地の良いものです。テンポをさらに落して語りかけるような優しく味わいのある表現。

三楽章、一転して速いテンポです。踊るように活発な表現です。ゆったりと大きな中間部。テンポもよく動いて積極的な表現をしています。美しいメロディーをとても優しく演奏しています。主部が戻ると再び活発な演奏になります。

四楽章、柔らかい第二主題。やはりティンパニはオーバーバランスです。重量感のあるトゥッティ。テンポの変化にアンサンブルの乱れが出ます。最後はエネルギーが発散されるような感じは無く比較的穏やかでした。

優しい表現やテンポの自然な動きなど、魅力的な表現がたくさんありました。一方でリズムの甘さやアンサンブルの乱れやティンパニのバランスなどライブならではの問題もありました。

オトマール・スイトナー/シュターツカペレ・ベルリン

スイトナー★★★★
一楽章、浅い響きのホルン。なだらかなトゥッティ。柔らかく深みのある弦。軽く弾む第一主題。速めのテンポの第二主題。控え目なトロンボーン。その代わり豊かに鳴る弦。金管は抑えめの演奏で力強さはありありませんでした。

二楽章、憂いを感じさせるオーボエ。テンポは速めです。ヴァイオリンがいぶし銀のような渋い輝きを放ちます。流れるようなBの旋律。コントラバスの動きがとても良く分かります。歌ってはいますが、大きい表現ではなくとても奥ゆかしい歌です。

三楽章、躍動感があって少し追い立てるような冒頭でした。楽しげなトリオです。

四楽章、弦はとても活発ですが、金管はあまり吠えません。第二主題も滑らかであまり弾みません。ベートーヴェンの歓喜の主題を改変されて引用された部分はゆったりとおおらかな表現です。テンポが動くところも何度かありました。テンポを落として堂々としたコーダ。

奥ゆかしい歌や滑らかな表現。テンポを落として堂々としたコーダなど、聞きどころが散りばめられた演奏でしたが、リズムがあまり弾まなかったので、活気のある演奏にはならなかったのと、シュターツカペレ・ドレスデンの美しさを捉えきった録音では無く、美しさが伝わってこなかったのがとても残念でした。

リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ムーティ★★★★
一楽章、豊かな残響を含んで少し遠いホルン。バランス良く滑らかな響き。テンポはとても良く動いています。第一主題に向けて大きく加速しました。第一主題はあまり弾みません。第二主題も速めのテンポでたっぷりと歌い振幅の大きい音楽です。トロンボーンの第三主題はあまり大きくクレッシェンドしませんでしたが、周りの弦楽器は大きな表現でした。色彩感はありますが、音の密度はあまり高くありません。テンポを落として濃厚なコーダでした。

二楽章、この楽章でもテンポは良く動きます。Bはしみじみとした滑らかで美しい表現です。弱音の静寂感もなかなか良いです。強弱の対比も大きく、ムーティの気迫が伝わって来るようです。テンポの頻繁な変化もムーティの作品への思い入れを感じさせます。二度目のBもゆったりとしたテンポでたっぷりと歌います。

三楽章、スピード感のある演奏です。華やかな雰囲気のトリオ。この楽章でもテンポの動きがあり情熱的な演奏です。

四楽章、この楽章でも冒頭から大きなテンポの動きがありました。活発な動きを見せる第一主題。第二主題も弦の刻みが強調されていてリズミックです。あまりに大きなテンポの動きにわざとらしさを感じて来ました。コーダはクナッパーツブッシュばりの超スローテンポの弦と速いテンポの金管が交互に演奏するものでした。

かなり積極的にテンポを動かす演奏で、ムーティの意気込みを感じさせる演奏でしたが、ちょっと演出過剰とも思える部分もあり素直に受け入れられませんでした。
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レナード・バーンスタイン/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、豊かな響きでふくよかなホルンの序奏。続く木管の表情もとても豊かです。細部までいろんな表情が付けられています。第一主題の途中で急激にテンポを速めました。速いテンポのまま第二主題に入りました。かなり起伏の大きい演奏で激しいです。トロンボーンの強奏部分は全開にはならず抑え気味でした。終盤でさらにテンポを上げました。最後はグッとテンポを落として演奏しましたが所々金管を全開にしない部分があり、ちょっと欲求不満になります。

二楽章、色彩感が濃厚な木管、シルキーな弦が美しい。テンポを動かしたり、間を空けたりとても表現の幅が広い演奏です。わずかにテンポを落としてBへ入りました。Aに戻る前に大きくテンポを落としました。オケを全開にすることはなく、抑え気味の演奏です。コーダはかなりゆっくりとしたテンポで克明な演奏でした。

三楽章、激しい演奏ですが、表情もすごく豊かでまるで生き物のようです。中間部はわずかにテンポを落として演奏しています。お祭りの賑わいのような華やかな雰囲気です。この部分でこんな雰囲気を感じさせる演奏を今まで聴いたことがありません。スケルツォ主部が戻って、再び豊かな表現です。

四楽章、元気の良い第一主題。弦の細かいパッセージのアクセントもしっかりと付けられています。ぐっと感情を抑えたような第二主題。ここでもトロンボーンは全開にはなりません。

とても表情豊かな演奏でしたが、最後まで全開にはならない演奏が理解できませんでした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」の名盤を試聴したレビュー

シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」4

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」名盤試聴記

ヴォルフガング・サヴァリッシュ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

サヴァリッシュ★★★
一楽章、豊かな残響を伴って柔らかいホルンの序奏。トゥッティは力みが無く抑えたものです。重々しく尾を引くような第一主題。第二主題は速いテンポですが、しっかりと表情があります。控え目なトロンボーンの第三主題。提示部とは違って良く弾む展開部の第一主題。活発に動く第二主題。表現はされているのですが、心に楔のように打ち込まれるような表現では無く、サラッと通り過ぎるような爽やかな表現です。

二楽章、熱血漢の演奏では無く、自然体の表現なので、響きの美しさが無いとちょっと厳しいのですが、この演奏は表現もそこそこで美しさもそこそこと言う感じで、強い魅力が無いのがしいて言えば難点でしょうか。響きには深みはあるのですが・・・・。抑制が効いていて常に冷静にコントロールされています。

三楽章、中庸の表現で温度感があります。サラッと流れて行き引っかかるところがありません。トリオはたっぷりと歌います。とても豊かな歌です。

四楽章、少しゆったりとしたテンポで重い第一主題。あまり歌わない第二主題。トゥッティでも響きが内側に凝縮するような密度の濃い響きです。トロンボーンも美しい響きですが全開にはなりません。最後まで全開にはならずに終わりました。

まさに中庸と言える演奏で、とりたてて目立った表現はありませんでした。その分美しさも際立っていなかったのがとても残念な演奏でした。
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ヨハネス・ヴィルトナー/フィルハーモニア・カッソヴィア

ヴィルトナー★★★
一楽章、豊かな響きでテンポの速いホルンの序奏。オーボエも残響を伴って美しい響きです。トゥッティはあまり広がりが無く塊になったような響きです。第一主題へ向けて激しく加速しました。きりっと引き締まった表現の第一主題。第二主題も締まった表現で遊びなどはありません。第三主題も塊になって迫って来ます。展開部の第一主題は提示部の時よりもさらに速く全く隙を見せません。常に速めのテンポで緊張感の高い演奏です。コーダの前はかなり速くなりましたが、コーダで急ブレーキでした。響きはとても爽やかです。

二楽章、この楽章も速いテンポであっさりとした表現で無駄が無く引き締まっています。Bへ入っても穏やかな雰囲気は無く、むしろきびきびと動く感じの演奏です。キリッとした演奏なのですが、安らかな部分が無くちょっと疲れます。

三楽章、非常に密度の濃い演奏なのですが、その分とても窮屈に聞こえます。遊びと言うか、ゆとりと言うかそんなものが無いのです。聞いていてもどこかに力が入ってしまうような感じがします。トリオもテンポが速めで全く隙が無いのです。主部が戻っても木管に滑らかさが無く引っかかります。

四楽章、やはり引き締まった表現の演奏です。第二主題はあまり弾みません。どこか力みがあるような、硬さも感じます。コーダでガクッとテンポを落として弦の4つの音をゆっくりと演奏しました。

とても締まりがあってキリッとした演奏でしたが、その分常に緊張感があって聞いている側もどこか力が入っているような感じが抜けない演奏でした。ゆったりと解放される部分が無かったのが残念です。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、残響を含んでふくよかなホルンの序奏。速めのテンポで演奏されます。トゥッティで歪っぽいです。あまり弾まず重い第一主題。第三主題まで、ほとんどテンポは変わりません。ライヴ独特の熱気も感じます。さりげなく奥ゆかしい歌。コーダも熱気がありますが、歪が酷いです。

二楽章、テンポが動いて豊かに歌います。Bも速めのテンポで颯爽と進みます。テンポも動いて積極的な表現もありますが、トゥッティの歪はかなり酷いです。

三楽章、この楽章も速めのテンポで活発な表現です。トリオの前で大きくテンポを落としてたっぷりと歌います。ジュリーニの指揮から自然に出てくる歌はとても魅力的で美しいです。

四楽章、この楽章も速めのテンポで激しい表現の第一主題。第二主題も怒涛のように押し寄せてくる音楽の波です。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分は若干テンポをおとして豊かに歌いました。コントラバスが団子のようになっていて何をやっているのか分かりません。ジュリーニにしては珍しい激しい表現です。

ジュリーニにしては珍しい速めのテンポと起伏の激しい演奏でした。その中にも豊かな歌がありました。ただ、録音が歪っぽく木管やトゥッティで歪むのがとても残念でした。
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サー・ゲオルク・ショルティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、締まった響きのホルンの序奏。ゆったりとたっぷり歌うオーボエ。堂々としたトゥッティ。ショルティらしくくったく無く鳴り響く金管。すっきりとした響きで弾む第一主題。速めのテンポでリズミカルな第二主題。コントラストがとても明快で全てが開示されたような音楽です。あまりにも明快で、シューベルトらしいくすんだような奥ゆかしさがありません。トゥッティのものすごいエネルギー感もショルティらしいです。竹を割ったような曖昧さの全く無いデジタル的とでも言うような演奏です。

二楽章、カチッとしたリズムの刻み。明快な歌。テンポの動きも僅かですがあります。Bも速めのテンポであからさまで奥ゆかしさがありません。とても健康的で、吹っ切れています。豪快に鳴り響く金管はこの作品にはあまりふさわしく無いように感じます。

三楽章、一点の曇りもない明快な響きで爽快感があります。トリオは良く歌います。壮麗な雰囲気すらあります。

四楽章、この楽章でも明快な表現が続きます。第二主題もとても分かり易い歌です。金管がすっきりと突き抜けて鳴り響きます。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分も明快な歌です。とても分かり易く、単刀直入で一直線な演奏で、この一途さには好感が持てますが、こんなに単純で良いのだろうか?と言う疑問も湧いて来ます。コーダも豪快な成りっぷりでした。

とても明快で、分かり易く単刀直入で一直線な演奏でした。オケをしっかりと鳴らすのもショルティらしいものでした。ただ、あまりにも単純になり過ぎた表現は、シューベルトがこれで言いのだろうか?と言う疑問にもなりました。
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ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団

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一楽章、陰影のあるホルンの序奏。優しい弦。瑞々しい木管。ゆったりと落ち着きのあるトゥッティ。目立った表現は無くオーソドックスな演奏です。第二主題は速めのテンポで木管の存在感が強いです。静寂感があって木管が浮かび上がります。コーダはガクッとテンポを落としました。

二楽章、大きな主張は無く、中庸の演奏です。深い表現は無くサラサラと流れて行きます。テンポの動きもほとんどありません。Bも速めのテンポでとてもあっさりとしています。

三楽章、実在感のある弦とくっきりと浮かび上がる木管。生き生きと楽しげに歌う木管。

四楽章、とてもきっちりとまとまった演奏で、特に不満は無いのですが、特に強い主張も無いので、あまり個性を感じさせません。自然体で作品と正面から対峙した演奏です。歌も奥ゆかしくとても上品です。分厚い弦の堂々としたコーダでした。

安定感のある自然体の演奏で、強い個性は感じませんでした。くっきりと浮かび上がり生き生きとした表情の木管や分厚い弦を響かせる堂々としたコーダなど聞かせどころもありました。
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オイゲン・ヨッフム/ベルリン放送交響楽団

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一楽章、ふくよかなホルンの序奏。ゆったりとしたテンポで進みます。重々しいトゥッティ。大きく加速して第一主題へ入ります。積極的に強弱の変化があり弾みます。第二主題は歌います。テヌートぎみの第三主題。次第に熱気を帯びて来て音楽に激しさが加わります。オケの反応もとても敏感です。コーダへ向けてテンポを速めて興奮を煽るような表現です。

二楽章、Bは良く歌いますが、とても現実的な雰囲気です。主部に戻る前はグッとテンポを落として残照のような表現でした。テンポの動きに合わせて歌う濃厚な表現です。

三楽章、アンサンブルの乱れもあります。トリオの前で大きくテンポを落としました。トリオに入ってもテンポを大きく動かして濃厚な表現の部分があります。

四楽章、この楽章も少し遅めのテンポで豊かな表現です。第二主題の前でトランペットが突き抜けて来ます。第二主題もゆったりと優雅な表現です。この楽章に入ってからヨッフムらしいトランペットの強奏が見られます。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分もとてもゆったりとした表現です。コーダでは金管の強奏が目立ちました。

ゆったりとしたテンポで豊かな表現の演奏でした。四楽章に入ってからのトランペットの強奏はヨッフムらしいものでした。ただ、演奏がとても現実的で夢見心地のような雰囲気が無かったところが今ひとつでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」の名盤を試聴したレビュー

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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★
一楽章、闇の中から明かりがともるようなホルンの序奏。強弱の対比もしっかりと付いています。クレンペラーの晩年の緩んだ演奏とは違い、締まりがあります。テンポは頑なに動きません。響きには集中力が感じられ、音が集まって来ているようです。テンポは本当に動きません。ちょっと間延びするような部分もあります。

二楽章、あまり歌わずにそっけなく過ぎて行きます。Bもテンポが動くことは無く、淡々としています。盛り上がったところでもテンポは変わらないので、やはり間延びした感じを受けます。テンポが変化する時は遅い方へ動きます。

三楽章、この楽章はテンポが遅めで重い感じがあります。トリオでは少し歌いました。

四楽章、冒頭より少ししてテンポが少し遅くなります。第二主題も遅めのテンポであまり弾みません。テンポは遅いですが、オケは集中力を保っています。やはりテンポは遅くなる方向に動きます。

ほとんどテンポは動かず、動いても遅い方へ動くので、緊張感を維持するのが大変です。オケも良く付いて来ていると思います。表現らしい表現も無く、頑なにテンポを維持する演奏に何を求めたら良いのか私には分かりませんでした。
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クラウディオ・アバド/ヨーロッパ室内管弦楽団

アバド★★
一楽章、あまり残響が無くデッドな中で演奏が始まります。軽い第一主題。第二主題も速めのテンポであっさりとした演奏です。第三主題も奥まっていて、クレッシェンドした後も弦に隠れています。残響が少ないからか、とても寂しい感じでとてもシンプルです。賑やかに盛り上がることが無く、とても静かです。オケは敏感に反応していますが、歌はあまりありません。トロンボーンや金管はとても控え目です。アバドは病気から復帰後、大音量を嫌ったと言われていますが、それが如実に表れている演奏です。

二楽章、奥ゆかしい歌です。強弱の急激な変化よりも滑らかに流れる音楽が印象的です。Bは速めのテンポですが、良く歌います。デッドな分楽器の動きがとても良く分かります。残響はあまり伴っていませんが、ピーンと張った美しい響きです。やはり金管に強奏はさせません。

三楽章、楽しそうに歌います。トリオは速めのテンポで動きのある演奏です。微妙なテンポの動きも見られます。主部が戻ると積極的な表現です。

四楽章、第一主題よりも僅かにテンポを落としてたっぷりと歌う第二主題。金管はとても控え目です。ベートーヴェンの歓喜の主題を引用した部分も良く歌いましたが、続くトロンボーンはほとんど聞こえません。金管がほとんど聞こえないくらいのバランスで演奏されるので、演奏の熱気のような盛り上がりがほとんどありません。コーダの勝利を勝ち取ったような歓喜の盛り上がりも当然ありません。

金管がほとんど聞こえないようなバランスで演奏する必然性が分かりません。楽譜に書かれていることを無視しているようにも感じます。弦や木管は豊かな表情で演奏していたので、金管のバランスにはがっかりでした。
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ポール・マクリーシュ/デンマーク放送交響楽団

マクリーシュ
一楽章、とても速いテンポであっさりと演奏されるホルンの序奏。一瞬力が入ったかと思ったらサッと抜く、独特の力の入り方と抜き方です。第一主題へ向けて急加速しました。とても速い第一主題です。テンポが速いので、良く弾みます。第二主題もものすごく速いテンポです。ちょっと速すぎて落ち着きがありません。トロンボーンは抑えられています。なぜ、これだけあわてた演奏をしないといけないのか分かりません。

二楽章、この楽章は一般的なテンポですが、ほとんど歌うことは無く、スッと力を抜く独特の表現です。

三楽章、冒頭から一般には強く演奏しない部分を強く演奏しました。トリオも表現は控えめであっさりとしています。

四楽章、この楽章は速めのテンポで、リズミカルです。強弱の変化にも敏感です。第二主題はほとんど歌わず平板です。オケはこの奇抜な演奏にも高い集中力で応えています。ベートーヴェンの「歓喜の主題」の引用部分もサラッと過ぎてしまいます。コーダもあっさりとしていました。

楽譜の研究や時代考証などから、独自の解釈を持ち込んでいるのだと思いますが、論理的には正しいものであっても聞いていて心地よくなければ、演奏する意味はあまり無いと思うのですが・・・・・。
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