カテゴリー: 交響曲

ブルックナー 交響曲第7番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第7番名盤試聴記

ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2007年ライヴ

アーノンクール★★★★☆
一楽章、押したり引いたりしながら涼しげな第一主題。ガット弦を使用しているのでしょうか?ホルンやトランペットが激しく咆哮します。速いテンポで色んな楽器が入れ替わる第二主題。金管はどこでもかなり強く入って来て、少しうるさいくらいです。テンポは速く前へ進む力が強いです。コーダの金管の咆哮も壮絶で気持ち良いくらいに鳴り響きます。

二楽章、ワーグナーチューバの主要主題の後の弦が音の頭を演奏した後すぐに弱く演奏します。悲痛な叫びのような弦。Bはとても速いテンポでしなやかに揺れ動くような演奏です。この楽章でも金管はかなり激しく吹いています。クライマックスで打楽器は入りませんでした。とても動きのあるワーグナーチューバ。空を浮遊するようなホルンで終わりました。

三楽章、速めのテンポで弦も金管も鋭い響きです。この楽章でも金管が吠えてかなり激しいです。主部とは対照的におだやかな中間部はとても良く歌います。

四楽章、この楽章でも速いテンポの第一主題。颯爽と進む第二主題。第三主題はチェリビダッケとは逆にとてもテンポが速くなります。金管も良く鳴らしているのでとても快活な音楽になっています。コーダの前も強烈でした。コーダはトランペットがテヌートぎみに演奏しました。

今まで聞いたことのないような金管の強烈なブルックナーでした。弦も金管も鋭い響きで、今までのブルックナー像とは大きく違う演奏でしたが、この演奏はこれで楽しめました。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

ヴァント★★★★☆
一楽章、速めのテンポで感情移入を極力抑えるような演奏です。第二主題も粘ることなくサラッと過ぎて行きます。とても誠実で清潔感に溢れた演奏です。かなりクレッシェンドする再現部終盤のティンパニ。整然としていますが、コーダは全開かと思えるほど金管が強く吹きました。

二楽章、無駄な表現が無く、切々と頑なに訴えてくるような感じの演奏です。Bに入る前のワーグナーチューバは不穏な空気が漂います。Bに入ってもテンポの揺れも無く厳格に進んで行きます。精緻な演奏には清涼感さえも感じます。クライマックスへ上り詰める堅固な足取り。そしてクライマックスで炸裂する金管ですが、これもとても統制が取れています。空から神が舞い降りるような美しいコーダのホルンでした。

三楽章、誇張の無い自然体の演奏ですが、吹き荒れる嵐のようなスケルツォ主題です。一転してとても穏やかな中間部です。主部の緊張から一気に開放されます。この表現の変化は素晴らしいです。

四楽章、この楽章でも自然で大きな表現の無い第一主題ですが、美しい響きです。第二主題は速いテンポですが、音量の変化など表現がありました。とても克明で楽器の出入りなどもとても明確で鮮明です。シャープで見通しの良い演奏です。コーダは豪快に金管が鳴って終わりました。

自然体で誇張した表現などは全く無く、作品そのものを聞かせる演奏でした。とても緻密でシャープな演奏で、楽器の動きも手に取るように分かる演奏でしたが、後年のベルリンpoとの録音のような分厚さやスケール感には僅かに及ばなかったように感じました。
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ロヴロ・フォン・マタチッチ/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

マタチッチ★★★★☆
一楽章、すごくゆっくりと感情のこもった第一主題。テンポの微妙な揺れもあります。強烈な盛り上がりでした。かなり激しく咆哮します。第二主題もゆっくりとしています。一つ一つ爪痕を残すような強い音です。コーダも壮大で強烈です。

二楽章、一転して柔らかくしなやかな主要主題。激しい部分はやはりかなりの激しさです。Bに入る前のワーグナーチューバはかなり厚い雲に覆われて暗い空になりました。Bはとても柔らかい表現です。主要主題が戻ってからも金管は強烈です。二度目のBは揺れるような表現で僅かに強弱の変化があります。クライマックスでもトランペットが高らかに主題を演奏しますが録音のせいで荒れた響きになります。ビブラートをかけたワーグナーチューバが歌います。

三楽章、ガツガツと一歩一歩踏みしめるような力強いスケルツォ主題。木管などの細かい動きもとても良く分かります。トゥッティは巨大なスケールです。小節の頭に重点があってとてもリズミックです。中間部はとてもゆっくりとしていてのどかです。主部が戻ると再び巨大で少し暴力的な演奏が現れます。

四楽章、リズミカルで歯切れの良い第一主題の終わりでテンポを遅めます。祈るように美しい第二主題。展開部の第一主題に呼応するトロンボーンがとても美しいです。再現部の第三主題は物凄く激しいです。コーダで遠慮なく絶叫するトランペット。

豪快にオケを鳴らした積極的な表現の演奏でした。普段聞こえない音もたくさん聞こえて新しい発見もたくさんありました。ただ、トゥッティで音が荒れる録音がとても残念でした。
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オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン

スウィトナー★★★★☆
一楽章、ふくよかで柔らかい響きの第一主題。自然な歌です。第二主題もうっとりとするような美しい響きです。速いテンポですが、落ち着きのある第三主題。トゥッティでも音が荒れることは無くふくよかな響きを保っています。コーダでエネルギーを解放したような壮大な演奏になりました。

二楽章、静かでしなやかな主要主題。Bはテンポが速めですが、ここでもしなやかな演奏です。何の誇張もありませんので、気が付くとどんどん音楽が通り過ぎます。クライマックスの頂点に入る前のタメなどここぞと言う所で心憎い表現があります。このクライマックスもここまで貯めてきたエネルギーを解放するような壮大なものでした。ワーグナーチューバはかなり速く進みます。ホルンに神は現れませんでした。

三楽章、ゆったりと優しい主要主題。トゥッティは巨大です。心が安らぐ中間部。

四楽章、繊細な第一主題。速めのテンポであっさりと進む第二主題。透明感があって静寂感もとても良いです。第三主題も落ち着いています。再現部の第三主題の最後は大きくテンポを落としました。やはりあっさりと進む第二主題。再現部の第一主題の弦の部分はテンポが速く金管が出る部分ではテンポが遅くなります。コーダに入って一旦大きく落としたテンポを次第に速めてクライマックスへ向かいますが、クライマックスは一楽章のコーダのようなエネルギーを開放するような演奏では無く、金管が控えめな演奏で終わりました。

ふくよかで柔らかく美しい演奏で、透明感がある弱音と、何度か殻を突き破るようなトゥッテイとの対比も見事でしたが、二楽章の最後のホルンに神を感じることができなかったのがとても残念でした。
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サー・コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団

デイヴィス★★★★☆
一楽章、とても静かでゆっくりと祈るような第一主題。間を取ったりテンポの動きもあります。清涼感があって美しい弦。第二主題もゆっくりでとても爽やかです。落ち着いて穏やかな第三主題。金管も透明感があって音放れの良いスッキリとした響きでとても心地良いものです。金管全開ですが、すがすがしい響きのコーダです。

二楽章、通常のアダージョではなくスケルツォになっています。この楽章もゆったりとしたテンポです。もったりすることもなく、かといって鋭くなりすぎることもなく、非常に美しい響きの演奏です。中間部もゆっくり目ですが、少し緊張感があって、解放されたような安堵感がありません。

三楽章、ここはアダージョです。ゆっくりと、ゆっくりとそして静かに流れる大河のような主要主題。白波は立たずに穏やかな表面です。Bの直前のワーグナーチューバは黒い暗雲が立ち込めるような雰囲気です。いつくしむように暖かいB。主部が戻るとやはりとてもゆっくりと感情の込められた主要主題です。柔らかく美しい弦。輝かしい金管。ブレンドされた響きはとても美しいです。シンバルが炸裂してトランペットもかなり強く演奏しますが、デイヴィスらしいジェントルなクライマックスでした。速めのテンポのワーグナーチューバ。ゆっくりと天に昇って行くホルンですが、あまり強い印象ではありません。

四楽章、弾みますが、重厚な第一主題。速いテンポで強弱の変化を付け積極的な第二主題。第三主題も激しく荒々しい表現にはならず、ここでもジェントルです。コーダは大きくテンポを落としてから加速します。トゥッティでテンポを落として壮大に終わりました。

ゆったりと落ちつてとても美しい響きの演奏でした。トゥッティでも金管が荒々しく暴走することは無く、常にジェントルな演奏でとても心地良いものでした。
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エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★☆
一楽章、柔らかく伸びやかな第一主題。流れるような第二主題。奥行き感があって美しいトランペット。速めのテンポの第三主題。ここまで重量感は無くく軽快な演奏が続きます。展開部のチェロの旋律もとても整っていて、ここまでの印象は凄くシャープで都会的な演奏に感じます。コーダは全開で壮大な演奏でした。

二楽章、ゆったりと伸びやかで静寂感もあります。大きな表現は無く、作品に忠実な演奏です。Bは速めでやはりシャープでブルックナーらしい自然を感じさせる演奏ではありません。演奏事態は見事なアンサンブルと美しい響きなのですが、とにかく涼やかで清涼感に溢れていてブルックナーとは思えません。クライマックスでシンバルは入りませんでした。ワーグナーチューバはふくよかでとても美しいです。最後のホルンは薄くなりながら空へ神が昇って行くようでした。

三楽章、突き抜けるように鋭いトランペットのスケルツォ主題ね金管は屈託無く伸び伸びと鳴り響きます。とても整ったアンサンブルで見通しが良いです。中間部は柔らかい弦が独特の節回しで歌います。

四楽章、リズミカルな第一主題。息の入ったクラリネット。第二主題は速いテンポであっさりと演奏されます。第三主題のフレーズの終わりでテンポを少し落とします。とても充実した美しい響きです。とても良く鳴るオケです。コーダはあまりテンポが遅くなりません。最後も充実した響きで終わりました。

とても美しい充実した響きで、見事なアンサンブルで見通しの良い演奏を聞かせてくれました。感情の入り込む余地は無く、作品そのものを厳格に鳴らそうとしているようでした。ただ、その響きが鋭くブルックナーらしい響きでは無かったように感じました。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、ゆったりと伸びやかな第一主題。高音楽器に移った第一主題ではヴァイオリンの響きがとても美しい。控え目な音量から少しクレッシェンドした第二主題。とても伸びやかで広々とした空間をイメージさせるホルン。第三主題の前は大きくritしました。羽毛のようなヴァイオリンの弱音。かなり強く演奏されたコーダ。

二楽章、この楽章もすごく伸びやかで切々と歌います。(B)は安らぎに満ちた安堵感のある演奏です。音楽を大きく捉えた歌がとても心地よい演奏です。再び戻った(A)の終わりごろにはマイルドなトランペットが聞けました。6連音符に乗せられた(A)の部分では少しずつ少しずつ盛り上がり壮大なクライマックスを演出しました。荘厳な雰囲気のワーグナーテューバです。繊細なヴァイオリン。暗闇にどんどん向かって行くような音楽がホルンに救われて天に昇り終わります。

三楽章、古風な響きの冒頭のトランペット。強奏部分はかなり激しい演奏です。トロンボーンは咆哮と言っても良いような激しさです。中間部はたっぷりと歌います。戻った(A)ではトロンボーンがビーンと言う響きで耳に残る凄い存在感の演奏です。

四楽章、若干遅めのテンポで演奏される第一主題。丁寧に演奏される第二主題。力強い第三主題、金管はかなり強力です。第二主題の再現も強弱の変化がありとても良く歌っています。比較的速めのコーダ、輝かしい終結でした。

とても統制のとれた美しい演奏でした。

クラウディオ・アバド/ルツェルン・祝祭管弦楽団

アバド★★★★
一楽章、静寂の中に細かな動きのある第一主題が提示されます。あまり表情の無い第二主題。次第にテンポを上げて躍動感のある演奏になります。弦は暖かく厚みのある響きですが、金管が入ると鋭いトランペットが目立ってとても鋭角的な響きになりますがその分パリッとしたスッキリとした切れ味になっています。輝かしいコーダでした。

二楽章、アバドの演奏なので、大きな表現はありませんが、整ったアンサンブルで切々と訴えるような演奏です。Bは速めのテンポで歌います。クライマックスはアバドにしてはかなり激しい盛り上がりでした。ワーグナーチューバには神々しさはありませんでした。最後のホルンも朗々と歌います。

三楽章、ガリガリと刻み付けるような主要主題ですが、あまり重量感はありません。ゆったりと穏やかで安らかな中間部。

四楽章、躍動感のある第一主題。静寂感のある第二主題。重量感のある第三主題。重厚で輝かしいコーダはさすがでした。

目立った表現はありませんでしたが、整ったアンサンブルで切々と訴えるような表現や重厚で輝かしいコーダは見事でした。
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セルジウ・チェリビダッケ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1992年ライヴ

チェリビダッケ★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで深く感情を込めてたっぷりと歌う第一主題。非常に表現意欲の旺盛な第二主題。第三主題も豊かな表現です。厚みのある豊かな響きです。コーダではかなり思い切って金管に吹かせています。

二楽章、冒頭から良く歌います。Bに入っても音楽は軽くなりません。この遅いテンポでも整ったアンサンブルと厚みのある響きを聞かせます。波が押し寄せてくるようなクライマックス。ワーグナーチューバの後に入るホルンはかなり強く入りました。相当遅いテンポの演奏でしたが、あまり感動はしませんでした。

三楽章、小節の頭を強く演奏する弦。この楽章もかなり遅いテンポです。金管が良く間が持つなと感心します。後に録音するミュンヘンpoとのライヴよりも完成度は低いような感じがします。ミュンヘンpoの時に感じた自然な息遣いやしなやかさが感じられません。中間部もチェリビダッケの微妙な表現は再現されません。かなり剛直な感じの演奏です。

四楽章、とても躍動的な第一主題。この楽章はあまり遅くありません。第二主題に入るとテンポはぐっと落ちて祈るような演奏ですがやはりこの遅さを持て余しているような感じを受けます。第三主題はさらに遅くなります。展開部に入るとまた速めのテンポの第一主題になります。コーダはほとんどテンポを落としません。

遅いテンポの演奏ではありましたが、チェリビダッケの精神性を表現するまでには至らなかったように感じました。38年ぶりのベルリンpoと手兵のミュンヘンpoでは同じように指揮しても短期間では伝わり切らない部分も多かったのではないかと思います。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

スクロヴァチェフスキ★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで深く歌う第一主題。ホールトーンを含んだ美しい響きです。第二主題の前のトゥッティも伸びやかで美しい響きでした。非常に抑えた音量の第二主題。コーダもゆったりと伸びやかです。トランペットがかなり強く盛り上げます。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで感情のこもった主要主題。テンポも動きます。羽毛のような柔らかさの弱音。混沌とするBの直前のワーグナーチューバ。艶やかで豊かに歌うB。全般にトランペットは強いです。6連音符に支えられた主題は厚みのある低域の上に乗り柔らかい響きです。そしてクライマックスへ向けてトランペットが吼えますが、荒々しさはありません。葬送音楽らしいワーグナーチューバが豊かに歌います。天に上って遠ざかっていくホルン。

三楽章、とても弱い音から始まって、ここでもトゥッティでは強いトランペット。響きは溶け合いませんがかなり強いトゥッティです。下で支える音が強く柔らかい響きの中間部。

四楽章、あまり弾みませんが豊かな残響を伴って美しい第一主題。速めのテンポであっさりと進む第二主題。トランペットが入らないので、比較的大人しい第三主題。コーダもトランペットが強く最後まで音を残しました。

消え入るような弱音から、トゥッティのトランペットの炸裂まで、とても強弱の振幅の大きな演奏でした。大きな表現はありませんでしたが、残響を伴った美しい響きでした。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

ショルティ★★★★
一楽章、サラッとした肌触りの弦が美しい第一主題。第二主題はとても弱い音で始まりました。テンポが遅くなります。金管はショルティ/シカゴsoにしては抑え気味です。第三主題も力が抜けた柔らかくしなやすなものです。この演奏は弱音がとても美しくいつものシカゴsoのはち切れんばかりの金管の強奏はいまのところありません。展開部のチェロの旋律も良く歌います。どっしりと地に足が付いた演奏です。一体になって動くアンサンブルの精度はさすがです。コーダはとてもゆっくりと始まり少し加速して大きな盛り上がりで終わりました。

二楽章、静かに歌う主要主題。弱音の緩やかな美しさに重点を置いている演奏のような感じがします。この楽章もとてもゆっくりとしたテンポで落ち着いた演奏です。Bはテンポの揺れも伴って豊かに歌います。自然に主部へ戻って行きます。厚みがあって豊かな弦。二度目の主部の最後の金管はシカゴsoらしい見事な咆哮でした。クライマックスも巨大なものでしたが、トランペットが軽々と鳴り過ぎているようで、浅い感じがしました。たっぷりと歌うワーグナーチューバ。最後のホルンに神は現れませんでした。

三楽章、ゆったりとしたテンポでビーンと鳴る金管。中間部はさらに遅く安らかな演奏ですが感情のこもった歌です。屈託無く鳴り響く金管はとても気持ち良いものです。

四楽章、落ち着いていてあまり弾まない第一主題。深く語りかけてくるような第二主題。活発な動きのある第三主題。展開部は軽く弾む演奏でした。再現部に入って第三主題は重量感のある演奏になります。軽々と鳴り響く金管はやはりこの演奏の魅力になります。ゆっくりとしたテンポからどんどん加速して充実した響きでコーダを終えました。

軽々と鳴り響く金管がとても気持ちよく、弱音にもとても神経を使った演奏でダイナミックの幅も大きい演奏でした。また、アンサンブルの精度も見事なものでしたが、何故か統一感が無かったような感じがしました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第7番3

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第7番名盤試聴記

オイゲン・ヨッフム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1974年ライヴ

ヨッフム★★★☆
一楽章、静かで暗闇の中に響くような第一主題。力みの無い穏やかな第二主題。活発な動きを表現する第三主題。展開部のチェロの旋律は暖かみがありました。トゥッティは厚みのある響きですが、とても穏やかで包み込むような響きです。弱音部分はとても静寂感があって、暗闇の中にぽつんと明かりが灯るような感じです。コーダはトランペットのバランスが弱く録音されているようで、激しく演奏していてもそれが届いて来ないのだと思いました。

二楽章、重厚で暖かい主要主題。Bは流れるようにサラサラと過ぎ行く音楽です。柔らかく包み込むような響きがとても心地良いです。力みが無く自然な音楽の流れに身をゆだねているような演奏で、作為的な部分は一切感じません。クライマックスでのトランペットはとても遠いです。最後のワーグナーチューバからホルンに受け継がれる部分は柔らかくとても美しいものでした。

三楽章、トランペットが突き抜けて来ないので、荒々しさは感じません。ちょっと重い感じがあります。

四楽章、軽やかな動きの第一主題ですが、テンポの動きで重くなる部分もあります。伸びやかに内面から歌うような第二主題。重厚な第三主題。湧き上がるようなコーダ。ここでもトランペットは遠く大きな盛り上がりは感じません。

柔らかく包み込むような暖かい響きで自然な流れの演奏でした。ただ、トランペットが遠く、激しさなどは全く伝わって来ないのが残念でした。
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オットー・クレンペラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

クレンペラー★★★
一楽章、乾いた響きの第一主題ですが、かなり積極的に歌っています。リズミカルに歌う第二主題。第三主題の前は盛り上がりに合わせてテンポを落とし、そのまま第三主題に入りました。第三主題も活発な動きがあります。展開部のチェロの旋律も表現意欲のある演奏でした。コーダは速いテンポで始まってトゥッティからテンポを遅くしてかなり強く演奏しました。

二楽章、主要主題も大きな強弱の変化を付けて表現します。クレンペラーのことを即物主義と言う人もいますが、この演奏を聞くとかなり感情移入があって即物主義とは違うような感じがします。Bも微妙なテンポの動きがあって歌います。クライマックスもかなり激しいですが美しい演奏ではありません。最後のホルンはあまりにも現実的過ぎます。

三楽章、物々しい主要主題。同じリズムを繰り返す部分で一旦音量を落としてクレッシェンドしました。コントラバスやティンパニがかぶってきます。一転してゆったりと安らぎを感じさらる中間部。主部が戻るとかなりいかつい表情の演奏で、威圧的です。

四楽章、第一主題の最後でテンポを落とします。ゆっくりと優しい第二主題。第三主題はまた物々しい表現です。第一主題の再現ではテンポが大きく動きます。スケールの大きなコーダでした。

即物主義と言われるクレンペラーですが、テンポの動きや積極的な歌もあって即物主義のイメージとは違う演奏でした。ただ、二楽章最後のホルンがあまりにも現実的だったのと、響きに美しさが無かったのが残念でした。
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ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、非常に弱い弦のトレモロ、速目のテンポでも積極的な表情が付けられた第一主題。トランペットに比べて弱めなホルン。大聖堂の豊かな響きが音楽の合間に響きます。アンサンブルが時折乱れます。響きも薄く、ブルックナーの音楽らしくはありません。アマチュアかと思わせるフルート。トランペットが登場すると弦楽器の響きの薄さが際立ちます。全体にフワッとした響きからトランペットだけが異常に突き抜けてきます。

二楽章、大聖堂の響きを伴って柔らかな響きです。すごく編成が小さいように感じる音の薄さ、弦の弱弱しさ。パーテルノストロは強い主張をすることなく、楽譜をひたすら音に変えていっているようで、アクの強い演奏ではないので、初めてこの曲を聴く人には良いかも知れませんが、オケの技術的な面がどうしてもひっかかります。クライマックスでもトランペットがとても強かった。

三楽章、この楽章でもトランペットが異常なバランスで突き抜けてきます。トロンボーンやホルンはほとんど聞こえません。残響はすごい響きで引き込まれそうになります。中間部はのどかな雰囲気でした。あまりのトランペットの強さに辟易としてきます。

四楽章、速目のテンポです。トランペット以外は溶け合った柔らかい響きなのですが、トランペットだけが浮いています。ホルンなどは豊かな表情があって美しいです。他のパートは表情付けもあるようなのですが、一本調子のトランペットに支配された演奏になってしまったのは残念でした。

リッカルド・ムーティ/ミラノスカラ座フィルハーモニー管弦楽団

ムーティ★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポでたっぷりとした歌で主題の中でもテンポが動きます。とても感動的な歌です。第二主題に入っても弦の豊かな歌です。第三主題の前はあまり大きな盛り上がりではありませんでした。とても良く歌う演奏です。ゆっくりと堂々としたコーダでした。

二楽章、この楽章も遅めのテンポで音量を落とした弦が美しいです。Bも柔らかく美しい弦が控えめに歌います。主要主題の再現の後半あたりからテンポが少し速くなりました。Bの再現ではテンポが動きます。溢れ出すようなクライマックス。ワーグナーチューバの「葬送音楽」は速めのテンポですが、良く歌いますが神を感じさせる演奏ではありません。低く空を飛ぶようなホルン。

三楽章、トゥッティのパンチ力はなかなかです。トランペットとトロンボーンが旋律を演奏した後同じリズムを繰り返す部分で音量を落とします。伸びやかでのどかな中間部。

四楽章、あまり弾まず躍動感に乏しい第一主題。速いテンポで淡々と演奏される第二主題。途中から遅くなる第三主題。金管はあまり強くなく、柔らかい響きです。かなり頻繁にテンポが動きます。コーダもあまり大きな盛り上がりではありませんでした。

良く歌い、テンポの頻繁な動きなど、ムーティの積極的な表現の演奏でしたが、その表現が空回りしているような感じであまり心に届く演奏には感じませんでした。
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サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

バルビローリ★★
一楽章、少し混濁する第一主題。テンポの速い第二主題はぐいぐいと進みます。第三主題も速めで、録音もあまり良くないので、美しい響きもありません。展開部のチェロの旋律はゆったりと深い歌を聞かせます。展開部の第一主題は叫ぶような演奏でした。コーダの前の第一主題はとても遅いです。速いテンポと遅いテンポの差がとても大きい演奏です。録音のせいか怒涛のようなコーダでした。

二楽章、ゆっくりとしていますが、音程の悪いワーグナーチューバ。テンポの動きもあって強く感情を吐露します。Bは速いテンポでサラサラと流れます。主要主題が戻るとまた、遅いテンポになりますが、少し間延びした感じがします。クライマックスは絶叫するような演奏で激情型の演奏のようです。最後のホルンに神は現れませんでした。

三楽章、音が短めなトランペット。スケルツォ主題のトゥッティは混濁するのもあってかなり激しく聞こえます。ゆっくりとした中間部。

四楽章、軽快な第一主題。かなり速いテンポになる第二主題。第三主題も混濁するので激しく聞こえますが、テンポは遅めです。第一主題の再現も激しいです。コーダは一旦テンポを落としますがその後猛烈に加速して終わります。

遅めのテンポ感情を込める部分と、速いテンポで一気に進む部分がはっきりと区別された演奏でしたが、表現にあまり深みが無く、トゥッティでの混濁やライヴならではの傷も多くあったのがとても残念でした。
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エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1967年ライヴ

ムラヴィンスキー
一楽章、深い呼吸で歌う第一主題。鋭く交錯する金管。レニングラードpo独特の鋭い木管による第二主題。弦もとても鋭い響きです。第三主題の前もトランペットがかなり鋭く強いです。第三主題はゆっくりとしたテンポで、ほのぼのと進みます。展開部のチェロの旋律も松脂がたくさん弓に付いているような音です。再現部の前もトランペットが強烈でした。トランペットがギンギンと鳴り響いて少しうるさいです。再現部の最後に登場するティンパニはほとんど聞こえませんでした。コーダもトランペットばかりが目立ちます。

二楽章、集中力の高い弱音。ゆったりとしたテンポのBですが、響きが鋭く穏やかさはあまり感じません。二度目のAでもトランペットは非常に強烈です。速いテンポのワーグナーチューバ。最後のホルンに神を感じることができませんでした。

三楽章、かなり力強い演奏です。トランペットが弾む音をスタッカートぎみに演奏しました。この主要主題もトランペットが強烈です。中間部はゆったりとのどかですが、途中でトランペットが遠慮なく入って来ます。デッドな録音もあってとても強烈な音でブルックナーの雰囲気ではありません。

四楽章、速いテンポですが、軽快に弾む感じでは無く、強くシコを踏むようなドタドタした感じです。第二主題も硬質な響きです。第三主題はトランペットもトロンボーンも炸裂です。響きガブレンドされないので、雑な感じもします。

デッドな録音で、強い弦と金管の突き刺さるような強烈な演奏でした。この強烈さは野蛮にさえ感じるもので、ブルックナーの音楽とは思えませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ブラームス 交響曲第4番

ブラームスの交響曲第4番は、1884年から1885年にかけて作曲され、1885年にウィーンで初演されました。この作品は、彼の最後の交響曲であり、全体にわたって深い情感と高い音楽的表現が特徴です。特に、彼の特有の構築的なスタイルと、重厚なオーケストレーションが見事に融合した作品となっています。

構成と特徴

交響曲第4番は、全4楽章からなり、各楽章が明確に異なる表情を持ちながらも、全体として強い統一感を持っています。

  1. 第1楽章 (アレグロ・非常に速く)
    力強い弦楽器の主題で始まり、その後木管楽器や金管楽器が続きます。この楽章は非常にドラマチックで、緊張感が高く、感情の起伏が激しいものとなっています。特に、ハ短調の重々しい雰囲気が感じられ、荘厳な音楽の流れが印象的です。主題の再現や展開が巧みに行われ、全体を通しての音楽的な緊張感が持続します。
  2. 第2楽章 (アダージョ)
    この楽章は、非常に美しく、抒情的な旋律が特徴的です。特に、フルートとホルンによるメロディが感動的で、聴く者の心に深い感情を呼び起こします。この楽章は、静けさと内面的な深さを持ちながら、ブラームスの音楽における繊細さと情熱が見事に表現されています。
  3. 第3楽章 (ペレアスとメリザンド – アレグロ)
    この楽章は、軽快なスケルツォの形式を持ち、明るく楽しい雰囲気があります。舞曲的なリズムが感じられ、軽やかなメロディが印象的です。ブラームス独特のリズム感やユーモアが感じられ、全体のバランスを保つ重要な役割を果たしています。
  4. 第4楽章 (アレグロ・エピローグ)
    最後の楽章は、非常に力強く、同時に内面的な深さも持ち合わせています。この楽章では、ブラームスの「パッサカリア」が用いられ、特に印象的なテーマが展開されます。この主題は、古典的な形式を取り入れながらも、彼自身の個性的な音楽語法で描かれ、力強いフィナーレへと進みます。楽章全体にわたって、ブルックナーの宗教的なテーマが感じられ、壮大なエンディングが印象的です。

音楽的意義と評価

交響曲第4番は、ブラームスの作品の中でも特に重要な位置を占めており、彼の音楽の成熟を示す作品とされています。特に、この交響曲における構成の巧妙さや、音楽的な対比の豊かさが、彼の作曲家としての特異性を際立たせています。

また、この作品はブラームスが自身の作曲スタイルを確立し、古典音楽の伝統を引き継ぎながらも、新たな表現を追求した結果生まれたものです。深い情感と強い構造を持つこの交響曲は、聴衆に深い感動を与え、今日でも多くのオーケストラによって演奏され続けています。

ブラームスの交響曲第4番は、彼の音楽における人間の感情や思索を豊かに表現した名作として、長い間、多くの人々に愛されている作品です。

4o mini

たいこ叩きのブラームス 交響曲第4番名盤試聴記

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、豊かな響きをともなって、なんとも柔らかい弦の響き、その合間を縫うように艶やかな木管。この演奏でも骨格の非常にガッチリとした堂々とした風格が漂います。美しい演奏にどっぷりと身を任せることができます。奇を衒うようなことは無く、正々堂々と正面から作品に向き合っている演奏です。ウィーンpoの深みのある響きも魅力的です。

二楽章、ゆったりとしたテンポで音楽を噛み締めるように進みます。誇張することもなく自然な歌で時の流れを忘れてしまいそうです。深みがあって美しい!

三楽章、いぶし銀のように渋い響き。ソロもこの音でなければと思わせる統一感のある美しさです。トゥッティは重量感溢れる一体感です。

四楽章、トゥッティでもがっちりした骨格に乗っている安定感!すばらしい名演でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、充実した響きの第一主題。弦に絡む木管も克明です。抑揚もあり音楽が生き生きとしています。オケの一体感はすばらしく、完璧なアンサンブルで音楽が押し寄せてきます。絶頂期のカラヤンとベルリンpoの凄さを如実に示す演奏だと思います。

二楽章、非常に美しい第二主題。厚みのある弦楽器、寸分の狂いもない見事なアンサンブル。第二主題の再現は感動的です。

三楽章、スピード感のある演奏です。音楽が生き物のように機敏に動きます。マッシヴなパワー感もすばらしく、カラヤンの残した作品の中でも貴重な記録なのではないかと思います。

四楽章、トゥッティの輝かしい響き。すばらしい演奏でした。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ヒスのイズの中からメタリックな第一主題が聞こえます。とても良く歌い流れの良い演奏です。とても滑らかな第二主題。静寂感もあり、とても良い演奏です。硬質なティンパニが少しメタリックな響きの演奏にピッタリです。木管楽器が立っていて美しいです。一音一音丁寧に心のこもった演奏です。

二楽章、控え目で奥ゆかしい木管の第一主題。力のある三連音の動機。穏やかなチェロの第二主題。第二主題の再現はとても美しい。

三楽章、間を空ける部分もあります。とても生き生きとして快活な演奏ですがとても落ち着いた足取りの確かな演奏です。オケがワルターと演奏できることに嬉々としているような様子がにじみ出るような、とても楽しげで豊かな表現です。

四楽章、力みの無い穏やかな冒頭。歌う木管。弦も自然な歌で好感が持てます。必要以上に金管を強奏させることはなく、表面を飾ることもなく、自然ににじみ出る渋さがすばらしい演奏でした。

レオポルド・ストコフスキー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、強弱を大きく変化させて歌う第一主題。チェロホルンの旋律の後からホルンをかなり強く吹かせました。ホルンを中心に金管はかなり強く演奏してダイナミックです。かなり激しい演奏で畳み掛けるように押し寄せてきます。

二楽章、この楽章でもかなり強めに吹かれたホルンの動機。落ち着いた第一主題。美しいヴァイオリンの変奏。対位法的に絡むパートも上手く表現されて美しい第二主題。再現部も非常に美しい。第二主題の再現も重厚で暖かみのある響きで音楽に引き込まれます。ストコフスキーは小手先の表面的な効果ばかり追いかけていた人かと思っていましたが、こんなに美しい内面から湧き上がる音楽を演奏していたのかと改めて見直しました。

三楽章、元気良く始まりました。第二主題で僅かにテンポを落として穏やかな音楽です。展開部からは生き生きとした生命感溢れる音楽です。テンポを落としてホルンの主題の変奏。再現部で元のテンポに戻り、再び元気な演奏です。華やかなコーダ。

四楽章、強弱の変化は絶妙です。ホルンの強奏が効果的です。

ブラームスの音楽と言うととかく渋いと思いがちですが、この演奏は華やかで色彩感豊かな演奏でした。ブラームスを違った角度から聴かせてくれた名演です。

カルロ・マリア・ジュリーニ/シュターツカペレ・ベルリン 1996年ライヴ

ジュリーニ★★★★★
一楽章、ゆったりと優しい第一主題。自然な歌の第二主題。オケは少し遠くにありますが、豊かな残響を伴って奥行き感のある美しい響きです。静寂感もあり、緊張感も伝わって来ます。ゆっくりゆっくり音楽が進みます。どっしりとして堂々たるコーダでした。

二楽章、響きを伴って豊かなホルン。ヴァイオリンの第一主題の変奏はは夢見心地のような美しさです。朗々と歌う第二主題。第二主題の再現はとても美しいです。最後は深みのあるホルンで締めくくられました。

三楽章、物凄くゆっくりで丁寧な第一主題。豊かな残響で巨大な響きになります。ジュリーニの最晩年の芸風に如実に示している演奏です。

四楽章、細かな動きも決して荒くはならずとても丁寧です。金管も木管も奥まったところから響いてくるので、金管が強奏してもバランスが崩れません。滑らかな歌が美しいです。とても遅いテンポですが、弛緩しません。

凄く遅いテンポで美しい歌と奥行き感のある美しい響きで、夢見心地のような表現や巨大な響きも併せ持つ良い演奏でした。晩年の遅いテンポで音楽の密度自体が薄まったような演奏もありましたが、この演奏は終始密度を保っていました。
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カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1978年ザルツブルグライヴ

ベーム★★★★★
一楽章、冒頭から硬派の演奏を感じさせるカチッとした表現。僅かな揺れのある第二主題ですが、非常に手堅い演奏はここでも続きます。厳格でほとんど遊びが無く切々と訴えて来ます。

二楽章、ゆっくりと薄暗いホルンの動機。続く木管も静かでインテンポで微動だにしません。第一主題はとても静かです。ヴァイオリンの第一主題の変奏から少し華やかになりますが、基本はとても芯の強い音楽です。第二主題は静かなチェロの周りをヴァイオリンが彩ってとても美しくあまりチェロは強調されていません。第二主題の再現は重厚ですが、とても穏やかです。アバド/ベルリンpoの演奏が「動」だとすると、この演奏は「静」です。

三楽章、堂々とした第一主題。テンポの揺れなどは全く無く、がっちりとしています。柔らかく美しいホルン。再現部の第一主題も巨大な響きです。

四楽章、どっしりとした中にも豊かな表現があって、金管もビリビリと鳴ります。とても重厚で、巨匠の風格の演奏です。自信に溢れていて最後も実に堂々としていました。

遅めのテンポで、テンポの揺れなどは無くどっしりと構えた演奏で、がっちりとしていました。でも大人しい演奏では無く、金管が鳴るところではビリビリと鳴るし、二楽章第二主題のチェロの周りを彩ったヴァイオリンとのバランスなども素晴らしいものでした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1983年ザルツブルクライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、弱い音からスーッと入る第一主題。ライヴでの一体感のある分厚い響きにはいつもながら関心します。重厚な響きはブラームスらしいです。第二主題は大きな表現はありませんが、全体の構成の中にきっちりと収まっている感じがします。展開部の第一主題は弱々しいとさえ感じるくらい優しい演奏です。ベルリンpoのライヴでのこの合奏力には舌を巻くしかありません。堂々とした風格の横綱相撲です。

二楽章、ホルンの後に木管と弦のピツィカートだけになった部分の静寂感はとても良いです。ヴァイオリンの第一主題の変奏もとても美しいです。第二主題は静かですが、とても心に訴えてくる表現で素晴らしいです。第一主題の再現も柔らかく心に染み入るようです。ゆったりと暖かく厚みのある第二主題の再現。最後のホルンは力強い演奏でした。

三楽章、オケが一体になってスピード感のある第一主題です。活発に歌う第二主題。展開部の第一主題はティンパニを含めた分厚い響きが印象的です。ティンパニの存在感はとても大きいです。

四楽章、ソロや旋律を演奏する楽器を伴奏するパートが常に包み込むようなバランスで、とても良く溶け合っています。充実した響きの中で演奏される音楽も作品を正面から捉えた堂々としたもので、素晴らしいです。

分厚い響きで一体感のある演奏で、とても見事でした。弱々しく優しい表現から、凄く厚みのある強靭な響きまでブラームスをしっかりと聞かせてくれました。素晴らしい演奏でした。
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ロリン・マゼール/バイエルン放送交響楽団 1995年ライヴ

マゼール★★★★★
一楽章、ゆったりとたっぷり歌う第一主題。チェロとホルンの旋律も豊かです。さらにゆっくりとなった第二主題。響きはすっきりしていますが、テンポを落として濃厚な表現もあります。とても粘着質で濃密です。テンポの変化も多いです。

二楽章、とても静かに演奏される第一主題。ヴァイオリンの第一主題の変奏は夢見るような美しいものでした。テンポはゆっくりです。とても感情が込められて美しい第二主題。遅いテンポですが、のめりこんでドロドロになることは無く、聞くのに負担はあまり感じません。最後のホルンの主題はすごく遅いテンポです。

三楽章、ゆったりと堂々とした第一主題。タメがあったりします。再現部の第一主題は一音一音切り分けるような表現です。マゼールらしい自由奔放な演奏です。強力な金管。コーダでもテンポが遅くなりました。

四楽章、シャコンヌ主題を大きくクレッシェンドしました。ゆったりと始まりましたが、途中でテンポが速くなります。本当に自由にテンポが動きます。太く暖かいフルート。強弱の変化も大きくとても積極的な表現です。交響曲第二番の回想部分はゆっくりと一音一音刻み付けるような演奏でした。最後のトロンボーンはとてもゆっくりでした。そのままゆっくりのテンポで終わりました。

マゼールの思いのままに自由にテンポが動く演奏でした。若いころはわざとらしい表現も見受けられましたが、この演奏では自然なテンポの動きと表現で、それがもたれることが無く最後まですっきりと聞けました。
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カルロス・クライバー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

クライバー★★★★★
一楽章、ゆっくりと哀愁に満ちた表現で豊かに歌います。表現の限りを尽くしたような第一主題。滑らかに歌う第二主題。エネルギーに溢れて若々しい表現です。ガツガツと動く弦など、とても活動的です。スピード感や激しさもあります。

二楽章、音が短めで弾むようなホルンの動機。静かに内に秘めるような第一主題。ヴァイオリンの第一主題の変奏はとても美しいです。湧き上がるように美しい第二主題。分厚く流れる第二主題の再現。コーダはとても壮麗でした。

三楽章、独特の間がある第一主題。展開部のホルンもウィーンpoならではの柔らかいものです。若々しく元気な演奏です。テンポの微妙な変化などとても練られています。

四楽章、シャコンヌ主題の後に絡み合う木管がとても生き生きと動き回りました。テンポは速く快活です。陰影を感じさせるフルートのソロ。シャコンヌ主題が再現してから激しく活発に動くようになります。最後はテンポを速めて緊張感が高まって終わりました。

とてもこだわった独特の表現があり、とても練られた演奏でした。若々しく元気な演奏は作品に合っているかは分かりませんが、クライバーのこだわりは十分に伝わって来ました。
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ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団

バレンボイム★★★★★
一楽章、深い呼吸で最初の音を長めに演奏してたっぷりと歌う第一主題。そよそよとそよく風のような雰囲気から次第に加速して激しくなって、ホルンとチェロの旋律になります。この旋律も良く歌います。音の鮮度が高く生き生きとした若々しい躍動感があります。波が押し寄せるように押したり引いたりする展開部の第一主題。コーダに入ると演奏は激しくなりますが、演奏は整然としていて、熱気はあまり感じません。

二楽章、活発な動きのある第一主題ですが、感情は抑えているような感じがします。枯渇することなく絶え間なく湧き上がる泉のような豊かな音楽です。第二主題は豊かに歌います。とても反応が良くストレートに表現するオケ。再現部の第一主題はかなり激しい演奏です。第二主題はとても厚みのある演奏です。

三楽章、はつらつと元気の良い第一主題。ガツガツと深く切れ込んでくる弦。ブラームスにしては色彩感も豊かです。

四楽章、最初強く入って次第に弱くなったシャコンヌ主題。暖かいフルートのソロ。シャコンヌ主題が再現されてからは激しい演奏です。コーダは若いオケのエネルギーがはじけるような爆発でした。

若いエネルギーが作品を掘り起こすような演奏でした。若々しくはつらつとした演奏はこの作品の本来の姿では無いかも知れませんが、演奏自体はとても魅力的なものでした。
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ベルナルト・ハイティンク/ヨーロッパ室内管弦楽団

ハイティンク★★★★★
一楽章、何の変哲も無い手堅い第一主題。表現を荒げることも無く穏やかな表現です。途中で押すような第二主題。展開部の第一主題は提示部よりも穏やかで力みの全く無い演奏です。強い爪あとを残して訴えてくる表現はハイティンクならではです。

二楽章、静寂の中に響く第一主題。木管の合間に入るホルンはとても静かな演奏でした。ヴァイオリンの変奏はとても美しいものです。すがすがしい雰囲気の第二主題。第二主題の再現はとても安らかで安堵感のあるこの上ない演奏です。ハイティンクに向かってオケがとても高い集中力を示しているところはさすがです。

三楽章、速いテンポですが、しゃかりきになることは無く、ここでも穏やかです。

四楽章、テヌートぎみのシャコンヌ主題。室内オケですが、深みのある響きは素晴らしいです。コーダの最初はテンポを落としてここでも力みのない演奏でした。

いつもながらの力みの無い演奏でしたが、ハイティンクらしい深みのある響きとオケの高い集中力が生み出す一体感のある表現は素晴らしいものでした。
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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1988年ルツェルンライヴ

バーンスタイン★★★★★
一楽章、豊かな響きで感情のこもった第一主題。冒頭から非常に感情の起伏の激しい演奏です。まるで生き物のようにダイナミックにうねる音楽です。ゆっくりとしたテンポで歌う第二主題。分厚い響きで強く感情をぶつけてくる演奏です。凄いはげしさです。堂々としたコーダでした。

二楽章、しっとりとして美しく歌う第一主題。すごくゆっくりとしたテンポで深く歌う第二主題。そよぐ風のようでとても美しい演奏です。ウィーンpoもバーンスタインに共感するような深みのある演奏で応えています。この楽章でも感情の起伏は大きいです。第二主題の再現も非常に遅いテンポで、今度は厚みのある響きで豊かに歌います。

三楽章、テンポはそんなに遅くはありませんが、とても重量感のある第一主題。伸びやかな第二主題。展開部のホルンも美しく豊かに歌います。

四楽章、ゆっくりと演奏されるシャコンヌ主題。豊かに歌う木管。オケに溶け込んで響いてくるフルート。それまで静寂感に包まれていましたが、シャコンヌ主題の再現から激しくなります。ティンパニの激しい強打。金管の強奏。

晩年のバーンスタインらしい、躊躇無く感情を吐露する演奏でした。思い切って遅いテンポを取る部分など、個性的な演奏でした。賛否は分かれる演奏だと思いますが、私はこんな感情をストレートに表現した演奏は大好きです。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1989年ライヴ

ジュリーニ★★★★★
一楽章、細い線で美しい第一主題。遅いテンポで木管などの細かな動きも手に取るように分かります。第二主題もさりげない歌です。展開部の第一主題も静かでとても繊細な演奏です。バランスが高域寄りで少し腰高な感じの響きです。

二楽章、この楽章も遅いテンポです。内面へ向かうように静かなクラリネットの第一主題とは対照的に解放されたように歌うホルン。ゆっくりですが、豊かに歌う第二主題。とても静かな演奏です。この世のものとは思えないような美しさです。ゆったりと流れる第二主題の再現も凄く美しいです。これだけ美しい演奏ができるのはジュリーニだけだと思えるような優雅な美しさです。

三楽章、とてもゆっくりで勢いは感じません。自然な歌の第二主題。このテンポは弛緩するかどうかのギリギリのところのような感じがします。ホルンの主題の変奏も豊かな歌です。

四楽章、穏やかなシャコンヌ主題。変奏に入ってもとても豊かに歌います。これだけ豊かな歌はジュリーニならではすも知れません。陰影のあるフルートのソロ。シャコンヌ主題の再現の後も金管はあまり吠えません。この演奏には合っていると思います。コーダもとても遅いです。いろんな楽器の動きがとても良く分かります。

これだけ遅いテンポで豊かに歌い、非常に美しい演奏を聞かせてくれました。この演奏の遅さはギリギリの遅さと言う感じで、絶妙でもありました。こんなに美しいブラームスは初めてかも知れません。
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クルト・ザンデルリング/ベルリン交響楽団

ザンデルリング★★★★★
一楽章、ゆっくりと感情を込めて歌う第一主題。ゆっくり流れる音楽がとても心地良いです。第二主題も歌います。鮮度の高いヴァイオリンと暖かみのある中音域が特徴的な響きです。弱音は柔らかく優しいです。大きな表現はありませんが、自然体でテンポが遅いので、作品の美しさをゆっくりと味わうことができます。

二楽章、遅めのホルンの動機。静かに演奏される第一主題ですが、凄く音量を落としていると言うほどではありません。テンポが遅いので、一つ一つの楽器がとても伸びやかに歌います。とても穏やかで安らぎを感じさせる第二主題。ゆったりとした自然なたたずまいがとても良いです。非常にゆっくりと流れる大河のような第二主題の再現。自然体で堂々とした演奏の安定感は抜群です。

三楽章、この楽章もどっしりと落ち着いたテンポで演奏される第一主題。第二主題も伸びやかに歌います。展開部のホルンによる変奏もゆっくりとしたテンポで柔らかく美しく豊かな歌を聞かせます。コーダは広大なスケールでした。

四楽章、シャコンヌ主題に続く木管が豊かに歌います。暗闇に響くようなフルートのソロ。シャコンヌ主題の再現はとても柔らかい響きです。柔らかくしなやかな響きはとても美しいです。次第に盛り上がってゆっくりとしたテンポで登場するトロンボーン。

ゆっくりとしたテンポで、柔らかく美しい響きで、とても良く歌う演奏でした。ゆっくりとしたテンポで作品の美しさも伝わって来ますし、トゥッティの大きなスケール感も見事でした。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

ヴァント★★★★★
一楽章、速いテンポであっさりと演奏される第一主題。第二主題は少し遅めで豊かに歌います。とても引き締まっていてカチッとしています。金管も力強く演奏しています。速いテンポで畳み掛けるような演奏で、強弱の振幅も大きくとても力強く生命力を感じさせる演奏です。

二楽章、少し弱めで寂しそうなホルンの動機。第一主題は消え入るような弱さです。第二主題も速めですが、とても豊かな歌で美しいです。うねるようにねばりのある第二主題の再現。

三楽章、金管がパリッとした響きでしっかりと主張する第一主題。さりげなく歌う第二主題。展開部では噴火口を覗き込むような深いコントラバスの響きでした。男性的なホルンの主題の変奏。とても引き締まって感肉質の演奏です。輝かしい程の金管の響きです。

四楽章、とても激しいシャコンヌ主題。続く木管は速いテンポで活発な動きです。その後もとても積極的な表現です。フルートのソロも速いテンポで暗闇に響くような感じはありません。シャコンヌ主題の再現もとても激しいです。今までブラームスの演奏では聞いたことが無いほどの激しさです。コーダのトロンボーンも強烈です。

速めのテンポで大きな振幅のある演奏で、生命感や躍動感を感じさせる演奏でした。キリッと引き締まって筋肉質でブルックナーのように金管が吼えました。
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ダニエル・ハーディング/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ハーディング★★★★★
一楽章、細く鋭い響きで揺れを感じさせる第一主題。編成が小さいこともあってか、機敏な動きです。トランペットが強く出て来ます。多層的な響きでいろんな音が聞こえてくる演奏です。ホルンとチェロの旋律の再現はマルカートになったりテヌートになったりと変化があります。

二楽章、静かに演奏される第一主題。爽やかで美しいヴァイオリン。秘めるように歌う第二主題。第二主題の再現は少し響きが薄いですが、とても良く歌っています。とても爽やかで清々しい演奏です。木管も透明感があります。

三楽章、涼しげで軽い第一主題。控えめの音量ですが、豊かに歌う第二主題。爽快な響きでとても新鮮です。ホルンの主題の変奏はとても柔らかく美しい歌でした。編成が小さいことを生かしてとても反応の良い演奏で、しかも細部まで聞き通せる演奏は貴重です。トゥッティの厚みも申し分ありません。

四楽章、だんだん弱くなるようなシャコンヌ主題。続く木管はとても豊かな表現でした。速めのテンポで進みますが、この爽やかな響きがとても心地良いです。暗闇の静寂の中に響くようなフルートのソロ。交響曲第二番の回想も歯切れの良い演奏でとても気持ちの良いものでした。コーダも見事に整ったアンサンブルでした。

速めのテンポで颯爽として若々しい演奏でした。小さい編成で、多層的な響きも見事に聞かせてくれました。爽やかな中にも豊かな歌もありとても良い演奏でした。
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チョン・ミョンフン/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

チョン★★★★★
一楽章、最初の音を長めに演奏して、独特な波が押したり引いたりするような第一主題。テンポはゆっくりとしています。テンポの動きや細密な表現など、とても個性的です。強弱の変化もとてもダイナミックです。オケが一体になったエネルギーがこちらに押し寄せて来るような感じです。

二楽章、朗々と歌うホルンの動機。第一主題も豊かに歌います。ヴァイオリンの第一主題の変奏は爽やかで美しい演奏でした。伸び伸びと歌う第二主題。弦の刻みがガツガツととてもしっかりと刻み付ける演奏になっています。ゆっくりと絞り出すような濃厚な表現の第二主題の再現。コーダの前は自然にテンポが遅くなって訴えかけてくるような表現でした。

三楽章、力強く活発な動きのある第一主題。間を取る部分もありました。テンポは速いです。展開部の第一主題はテンポも動いてかなり積極的な表現です。ホルンの主題の変奏ではテンポも遅くなり、とても柔らかい響きでした。強弱の変化や間の取り方などかなり個性的で大胆です。金管も強いです。

四楽章、ここでも独特の強弱の変化があったシャコンヌ主題。短い音が楔を打ち込むようにグサッと突き刺さって来ます。嵐のように歌う弦。フルートのソロはテンポを落として濃厚な表現をします。シャコンヌ主題の再現は途中でテンポが伸びたり大きくクレッシェンドしたりとかなり大胆な表現です。この作品を色彩、表現ともに豊かに聞かせてくれます。コーダのトロンボーンはスタッカートぎみの演奏でした。

かなり自由に積極的な表現をした演奏でした。細密な表現から、大胆な間やテンポの動き。新たなブラームス像を打ち立てようとするような革新的な演奏で、とても良かったです。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブラームス:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

ブラームス 交響曲第4番2

たいこ叩きのブラームス 交響曲第4番名盤試聴記

朝比奈/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈★★★★☆
一楽章、録音レベルが高いのかかなりの情報量のように感じます。大阪フェスティバルホールでの1995年のライヴ録音ですが、残響成分の少ないドライな音です。晩年のベートーヴェンの全集と同様に自然体の演奏スタイルです。とくに何かを主張するでもなく、楽譜に語らせるような演奏で、力みもなく安定感のあるスケールの大きな演奏になっています。

二楽章、大阪psoの自発的な音楽が聴かれます。豊かに音楽が奏でられていて嬉しくなります。なかなかの好演です。

三楽章、大編成のオケが「よっこらしょ」と動き出したような冒頭。ちょっと重い感じはありましたが、音楽が進むにつれて一体化して行きました。

四楽章、頂点が三楽章にあったのか微妙な感じがしました。この演奏は頂点が四楽章にあると思います。

オトマール・スイトナー/シターツカペレ・ベルリン

icon★★★★☆
一楽章、美しく哀愁に満ちた主題を歌います。孤高の寂しさを感じさせる中間部。良くコントロールされたオケが美しい音楽を紡ぎだします。

二楽章、深い響きのホルン。伝統に支えられた奥ゆかしく端正な演奏が心に染み入ります。どのパートも美しく、どこか陰影を持ったこの作品を美しく彩ります。第二主題も伸びやかで美しい。

三楽章、生き生きとして豪快な第一主題。豪快に一気に演奏されました。

四楽章、金管の強奏も抑制が効いていて暴走することなく大変美しい。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、ゆったりしたテンポでロマンティックな雰囲気で歌う第一主題。シルキーで艶やかなヴァイオリンはこの曲でも健在です。弱音が空間に溶けていくような静寂感が独特な美しさです。この演奏も弱音を主体に作られているような穏やかで静かな演奏です。

二楽章、美しいホルンとそれに続く木管。ヴァイオリンの繊細で艶やかな響きがとても美しい。静かに演奏される第二主題。第二主題に絡むヴァイオリンが涼しげでとても清涼感があります。第二主題の再現はとても穏やかで重厚でした。この楽章も静かな演奏でした。

三楽章、遅めのテンポで、快活さはあまり感じられず、穏やかな大人の雰囲気です。トライアングルも控え目でとても良いバランスです。速いパッセージも滑らかです。チェリビダッケは特に弱音の繊細さに気を使っているようで、とても美しく引き込まれるような弱音です。

四楽章、せわしなく激しいアタックが聞かれます。太い音のフルート・ソロ。ゆったりと語りかけるように掛け合う木管。ここまで抑えられていたトランペットが一時吼えますがすぐに静まり、最後も金管を強く演奏させることもなく終りました。

とても静かで穏やか。優雅なブラームスでした。こんな演奏も良かったと思いました。

クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

アバド★★★★☆
一楽章、揺れ動くような第一主題。次から次へと音が湧き上ってくるような積極的な演奏です。表情も豊かです。激しい表現もあり、振幅の大きな演奏になっています。かなり激しい表現で勢いもあります。

二楽章、しっかりと芯のあるホルン。陰影を感じさせる第一主題。美しく歌う第二主題。温度感は少し高めです。分厚く流れる第二主題の再現。

三楽章、鮮度が高く生き生きとした動きのある第一主題。積極的な表現です。スピード感もありなかなかの演奏です。キリッとしたホルンもとても良いです。トランペットも若々しくはつらつとした響きです。

四楽章、豊かに歌いますが、静寂感や透明感はあまりありません。動きのある部分はとても活動的で活発に動きます。

生き生きとした表情で良く歌う演奏でした。若々しくはつらつとした表現もとても好感の持てるもので、ベルリンpoの芸術監督に就任間もないアバドの意気込みを感じさせる演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1984年ライヴ

カラヤン★★★★☆
一楽章、遠くから響いてくるような、静かな第一主題。第二主題は粘るように歌います。冷たい朝露にぬれているような展開部の第一主題。滑らかなクラリネット。いつものような分厚い弦の響きはあまり感じられません。

二楽章、芯のしっかりとしたホルンの動機。うつろな木管の第一主題。解き放たれたように広がるヴァイオリンの第一主題の変奏。暖かくほのぼのと歌う第二主題。マイヤー事件の後とは思えない整ったアンサンブルです。第二主題の再現は暖かく重厚です。

三楽章、83年のライヴのようなスピード感はありません。あまり先へ進もうとするエネルギーは無く、その場にとどまっています。コントラバスをあまり拾っていない感じで、分厚い響きはありませんが、一体感はさすがに素晴らしいです。

四楽章、弱音の微妙な表現と静寂感はなかなか聞かせます。木管のソロも美しいです。コントラバスがフワーッとした響きで録音されているので分厚さを感じませんが、それでも普通のオケよりも格段に厚い響きです。ソロの小さい響きとトゥッティの大きな響きの差がとても大きいので、コーダなどはとても巨大な演奏を聴いている感覚になります。

弱音から巨大なトゥッティまでとても振幅の大きな演奏でしたが、83年のライヴのようなスピード感や分厚く強靭な響きが無かった点が僅かに残念な点でした。
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クリストフ・フォン・ドホナーニ/クリーブランド管弦楽団

ドホナーニ★★★★☆
一楽章、盛大なヒスノイズの中から聞こえて来ます。フレーズを大きく捉えて歌います。大きな波が押し寄せて来るような感じです。僅かにテンポの揺れがある第二主題。ティンパニも思い切り良く入って来ます。きっちりとしていて引き締まった演奏です。とても激しいコーダです。

二楽章、静かに穏やかに歌う第一主題。美しく歌う第二主題、チェロの周りを彩るヴァイオリンなどのバランスもとても良いです。録音のせいか、すこしざらつく第二主題の再現。余分な厚みが無くすっきりとした響きです。

三楽章、録音にもよるのか華やかな第一主題。トゥッティでも肥大した分厚さでは無く引き締まって硬質な厚みの響きです。ホルンは柔らかく美しい音で豊かに歌いました。深みがあって勢いもあるコーダです。

四楽章、活発に動いて生き生きとそして勢いのある演奏が続きます。エネルギーに溢れて若々しい演奏です。

若々しいエネルギーでとても良く歌う演奏でした。肥大化せずにカチッと引き締まった響きもとても良かったです。
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ギュンター・ヘルビッヒ/ベルリン交響楽団

ヘルビッヒ★★★★☆
一楽章、羽毛の肌触りのように繊細で優しい第一主題。極めて誠実で大きな表現は極力避けているような演奏です。清涼感のある響きで温度感は低いのでとても冷静な演奏に感じます。トゥッティでも荒げることは無く穏やかな演奏です。

二楽章、とても静かな第一主題。ヴァイオリンの第一主題の変奏もとても美しいです。静かに歌う第二主題。紳士的で折り目正しい演奏で、緩いところが無くカチッとしています。とにかく安らかで穏やかです。第二主題の再現でも厚みはあまり感じません。清涼感のある響きなので、分厚い低音などはあまり感じません。凄く美しい演奏なのですが、箱庭のようなこじんまりとした感じがあります。

三楽章、低域が薄く爽やかな響きの第一主題。控えめで穏やかな第二主題。激しさは全く無く整然としていてとても落ち着いています。再現部の第一主題のトゥッティでもいきなり音が立ち上がる感じでは無く、なだらかに音量が上がって行く感じで荒々しさとは全く縁の無い演奏です。

四楽章、テヌートぎみに演奏されるシャコンヌ主題。とても端正で美しい演奏で、これはこれで良いような感じもしますが・・・・・・。うつろなフルート。コーダのトロンボーンさえも美しい。インテンポで終わりました。

激しさや荒々しさとは無縁の、これだけ美しい演奏を聞かされると、抗し難いものはありました。こんなブラームスもあるのかと言うのが正直な感想です。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブラームス:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

ブラームス 交響曲第4番3

たいこ叩きのブラームス 交響曲第4番名盤試聴記

ハンス・クナッパーツブッシュ/ブレーメン・フィルハーモニー管弦楽団

クナッパーツブッシュ★★★★
一楽章、レトロな響きです。低域が分厚く恰幅の良い堂々とした演奏です。音楽の高揚に伴ってテンポが速くなってきました。作品への共感と熱い思いが伝わってくる演奏です。

二楽章、クナッパーツブッシュの感情の赴くままにテンポが動いているようです。この動きは自然で聴いているこちらも共感できるものです。

三楽章、遅めのテンポで開始しますが、いつの間にか一般的なテンポになっています。低域が厚いので安定感があります。音楽が進むにつれて熱気を帯びてきました。

四楽章、激しい金管の咆哮やクナッパーツブッシュの足踏みなども録音されています。振幅も幅広い表現の演奏です。音の輪郭もくっきりとした演奏だと思います。不自然に拍手をカットしてあるので、終わり方が変なのが残念です。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

ムラヴィンスキー★★★★
セッション録音1973/04/27

一楽章、いつものように凝縮された厳しい響きです。静寂感があります。集中力の高い演奏です。絶妙な表情付けが各パートへ受け継がれます。息の長いフレーズとして大きくつかんで演奏するところはなかなか魅力的です。

二楽章、速めのテンポです。陰影に満ちたホルン。精度の高いアンサンブル。当時のソビエト連邦最高峰のオーケストラとして存在したオケらしいすばらしい演奏です。

三楽章、開放的なメロディでも音が中心へ凝縮してきて開放されないのが、唯一の難点です。表現も厳格にトレーニングされている印象で、乱れません。

四楽章、川の流れのようにとうとうと演奏される一体感のある旋律は見事です。終始集中力の高い演奏でした。

コンサート録音1973/04/28

一楽章、第一主題の陰で動く木管が生き生きとしていました。このコンサートでも集中力がありオケの一体化がすばらしい。音に力があり、音楽を強く印象付けます。

二楽章、やはり速めのテンポ設定です。重厚な弦。息の長いチェロの第二主題。

三楽章、快活な音楽ですが、開放されたような伸び伸びとした音楽にはなりません。

四楽章、表情豊かで統率力のある演奏です。

イーゴリ・マルケヴィチ/ラムルー管弦楽団

マルケヴィチ★★★★
一楽章、優しくゆらゆらと揺れる第一主題。響きにはあまり厚みが無く、ちょっと弱弱しい感じがします。金管も軽々と鳴る感じが無く重い音です。あまり感情を込めるような演奏では無く、作品に忠実な演奏ですが、このオケの力量だと厳しい感じがあります。ガリガリとかきむしるような激しい弦。

二楽章、ビブラートを掛けて締まったホルンの響き。美しく歌う第二主題ですが、チェロの響きが少し硬いです。第二主題の再現の後は華やかで美しかったです。引き締まったホルンが戻ってきて終わります。

三楽章、鋭角的に響くトランペットを含む第一主題。とても引き締まって厳しい表現です。第二主題は少し落ち着きます。展開部の第一主題もテンポも速く攻撃的です。凄い激しさで前の二つが楽章とは対照的です。ティンパニも強烈でした。

三楽章、ここでも金管が鋭く鳴り響きます。ポツンと寂しそうなフルートやクラリネット。激しいティンパニのクレッシェンドに続いてトロンボーンも激しく吠えます。かなり悲痛な演奏です。金管を遠慮なく吹かせていて相当に激しいです。

最初の二つの楽章はそうでも無かったのですが、後半の二つの楽章では鋭く引き締まって激しい表現の演奏でした。こけだけ激しい演奏も珍しいのではないかと思います。
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マリス・ヤンソンス/グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団 2001年ルツェルンライヴ

ヤンソンス★★★★
一楽章、揺れるように歌う第一主題。厚みのある明るい響きです。切れ味鋭く明快な表現です。枯れた感じは無く若々しくはつらつとしています。激しい部分ではオケが一体になって迫って来ます。

二楽章、朗々と演奏されるホルンの動機。積極的に歌われる第一主題。ヴァイオリンの第一主題の変奏は爽やかで美しいです。細身の第二主題。かなり激しい表現もあります。第二主題の再現は暖かく厚みがあります。コーダのホルンの動機は壮大でした。

三楽章、速いテンポで活発で躍動感のある第一主題。やはり若々しい表現です。第二主題もしっかりと表情がありました。展開部のホルンは明るく浅い響きでした。この楽章も激しい表現がありまい。

四楽章、一つ一つの楽器がキリッと浮かび上がる木管。シャコンヌ主題の再現からのエネルギーの発散はなかなかです。作品の陰の部分は全く表現せず、楽譜に忠実に鳴らすところはしっかりと鳴らす演奏です。コーダのトロンボーンも気持ちよく鳴り響きます。

明るく振幅の大きい演奏で、作品の陰の部分はほとんど表現されませんでしたが、躍動感のある若々しい演奏はこれで魅力がありました。
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マンフレート・ホーネック/ベルリン・ドイツ交響楽団

ホーネック★★★★
一楽章、静かに始まる第一主題。弦は深みと厚みのある響きです。コーダに入るといろんな音が聞こえて来ます。

二楽章、速めのテンポで演奏されたホルンの動機。漂うようなヴァイオリンの第一主題の変奏。抑制的な第二主題。再現部あたりから熱気のある演奏になって来ました。静かな湖面を眺めるような第二主題の再現。

三楽章、速いテンポで力強い第一主題。とても速いテンポで慌ただしいです。金管も明快に鳴らしていてストレートな表現です。

四楽章、テヌートぎみに演奏されるシャコンヌ主題。この楽章も速いテンポでとても明快な表現です。美しく歌うフルートのソロ。シャコンヌ主題が再現してからも弦の動きなどがとてもはっきりとしています。切れ味鋭いコーダでした。

静かにたたずむような第一楽章から、次第に熱気を帯びてきて三楽章からはとても明快にオケを鳴らしたストレートな表現の演奏でした。
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ヘルベルト・ブロムシュテット/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ブロムシュテット★★★★
一楽章、とても豊かな表情で強弱の変化を付ける第一主題。チェロとホルンの旋律も豊かな歌です。第二主題も柔らかく歌います。特に分厚い響きなどはありませんが、歌謡性に富んだ演奏です。

二楽章、とても静かな第一主題。ビブラートを掛けるホルン。水を得た魚のように生き生きとしたヴァイオリンの第一主題の変奏。第二主題もとても良く歌います。どの楽器も非常に良く歌います。第二主題の再現はあまり厚みがありませんが、やはりここでもたっぷりと歌います。

三楽章、あまり厚みが無くスリムで軽快な第一主題。独特の表現の第二主題。活動的で軽快な演奏です。この楽章ではホルンにビブラートはありません。金管も軽く軽快な演奏を一層軽く聞かせています。

四楽章、ブレンドされた柔らかい響きでゆったりと演奏されるシャコンヌ主題。続く木管は豊かに歌います。フルートのソロもとても良く歌っています。この演奏は可能な表現をし尽くしているような演奏です。躍動感があって積極的な表現に徹しています。ただ、トゥッティはとても軽いです。

非常に豊かな表現で、表現し尽くしたと言っても良いような演奏でした。ただ、トゥッティがあまりにも軽く、全く力を使っていないような感じだったのは表現豊かな演奏としてはバランスが取れないような感じがしました。
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イシュトヴァン・ケルテス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ケルテス★★★★
一楽章、ワウ・フラッターが酷く音程が不安定です。第二主題はあっさりとしています。大きな仕掛けは無く、自然体の演奏ですが、かなり情熱的な感じがします。

二楽章、静かで内面へ向かうような第一主題。第二主題はあまり大きく歌いませんが、周りをヴァイオリンが彩っています。第二主題の再現は深みのある響きですが、録音がナローレンジなのと、ワウ・フラッターが酷いのであまり良く分かりません。

三楽章、ナローレンジで軽い第一主題。古いラジオを聴いているような音です。コーダはかなり激しくなりました。

四楽章、穏やかで柔らかいシャコンヌ主題。続く木管は大きくクレッシェンドしました。僅かに明るさを残したフルートのソロ。シャコンヌ主題の再現の途中から入るヴァイオリンがとても強く入ってそれ以降も力強い演奏です。コーダへ向けてもとても力強く元気で活力のある演奏です。

ナローレンジでワウ・フラッターもあり聞きづらい演奏でしたが、枯れた演奏では無く、激しい部分はかなり激しく生き生きとした生命感のある演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブラームス:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

ブラームス 交響曲第4番4

たいこ叩きのブラームス 交響曲第4番名盤試聴記

トーマス・ヘンゲルブロック/北ドイツ放送交響楽団

ヘンゲルブロック★★★☆
一楽章、速いテンポでゆらゆらと揺れるような第一主題。シンコペーションの重い部分をかなり強く演奏するので、とてもリズムの乗りが良いです。再現部の前はとてもゆっくりとしたテンポで味わい深い演奏でした。

二楽章、かなりしっかりとした存在感のある第一主題で音量も大きいです。ゆっくりと豊かに歌う第二主題。主題に絡むヴァイオリンも美しいです。第二主題の再現はあまり厚みがありません。鮮明な色彩感があります。

三楽章、速いテンポで少し滑るような感じのある第一主題。第二主題に絡むフルートの表現がとても大きかったです。最初は滑るような感じがありましたが、展開部以降はしっかりと地に足が付いている演奏です。

四楽章、木管が強いシャコンヌ主題。速いテンポで弱音部分の音量が大きいのですが、トゥッティの音量はさほど大きく無く、強弱の変化はあまり大きくありません。アゴーギクを効かせたフルートのソロ。生き生きとしたクラリネット。コーダも大きな盛り上がりはありませんでした。

速いテンポで生き生きとした表情の演奏でしたが、録音によるものなのか、消え入るような弱音は無く、また、トゥッティの音圧も感じさせない演奏には不満を感じました。
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ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団

icon★★★一楽章、柔らかく繊細で大きく歌う第一主題。晩年の演奏のような非常に遅いテンポ設定ではありません。金管も積極的に演奏します。

二楽章、朗々と歌うホルンと木管の動機。とてもたっぷりと歌います。ヴァイオリンの第一主題の変奏は静かでとても美しいです。三連音の動機はゆっくりです。第二主題もゆっくりでとても感情のこもった演奏です。第二主題の再現もとてもゆっくりとしたテンポで深く感情を込めた美しい演奏です。その後も重厚に盛り上がります。壮大なホルンの動機で終わります。

三楽章、優雅で余裕を感じさせる第一主題。むしろ第二主題が活発に感じられます。柔らかいホルンによる主題の変奏。繰り返されるうちに力強くなる第一主題。

四楽章、静寂感のあるフルートのソロ。コーダのアッチェレランドは絶妙でした。

チェリビダッケの晩年の演奏のような非常に遅いテンポでは無く、少し遅め程度の演奏でしたが、ブラームスらしさはあまり感じませんでした。
一楽章、チリチリと言うノイズの中から音楽が聞こえます。木目の粗い音ですが表情はとても豊かな演奏です。嵐のような激しさもある熱気のこもった演奏です。

二楽章、次から次から音楽が湧き上がってくるような豊かさがありました。

三楽章、かなり熱のこもった力演です。

四楽章、名演なのかもしれないのですが、録音の古さから良い部分を聞き取ることがあまりできませんでした。

セルジウ・チェリビダッケ/シュツットガルト放送交響楽団 1974年ライヴ

チェリビダッケ★★★
一楽章、柔らかく繊細で大きく歌う第一主題。晩年の演奏のような非常に遅いテンポ設定ではありません。金管も積極的に演奏します。

二楽章、朗々と歌うホルンと木管の動機。とてもたっぷりと歌います。ヴァイオリンの第一主題の変奏は静かでとても美しいです。三連音の動機はゆっくりです。第二主題もゆっくりでとても感情のこもった演奏です。第二主題の再現もとてもゆっくりとしたテンポで深く感情を込めた美しい演奏です。その後も重厚に盛り上がります。壮大なホルンの動機で終わります。

三楽章、優雅で余裕を感じさせる第一主題。むしろ第二主題が活発に感じられます。柔らかいホルンによる主題の変奏。繰り返されるうちに力強くなる第一主題。

四楽章、静寂感のあるフルートのソロ。コーダのアッチェレランドは絶妙でした。

チェリビダッケの晩年の演奏のような非常に遅いテンポでは無く、少し遅め程度の演奏でしたが、ブラームスらしさはあまり感じませんでした。
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ジェームズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団

レヴァイン★★★
一楽章、速いテンポで少し慌ただしい第一主題。とても良く歌います。どうもこの速いテンポが落ち着きの無い演奏に感じられます。活動的で躍動感はあるのですが、どっしりとした落ち着きはありません。一気呵成に聞かせるような迫力はあります。

二楽章、第一主題はとても弱い音で演奏されます。ヴァイオリンの第一主題の変奏に入ると一気に空気が変わって、清涼感が出ます。第二主題はとても良く歌っていて心地良い演奏です。第一主題の再現も柔らかく美しいです。

三楽章、伸びやかで生き生きとして美しい第一主題。第二主題もサラサラとして美しい響きでした。軽快な音楽に重いティンパニが少し合わないような感じがします。別世界のように美しいホルン。激しく動きの活発な演奏です。

四楽章、動く部分がとても強調されている感じで活発な表現です。フルートのそろは暖かくオケから浮き上がらず、溶け込んでいます。交響曲第二番からの引用部分などは元気いっぱいです。コーダのトロンボーンは今まで聞いたことが無いくらいに明るい演奏でした。堂々と終わりました。

生き生きとして明るい表現で良く歌う演奏でした。レヴァインらしくあっけらかんとして気持ちよく鳴らすことに徹した演奏のように感じました。
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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★
一楽章、ゆったりと静かにたたずむような第一主題。第二主題もゆっくりですが、あまり表情はありません。大きな表現は避けてひたすら楽譜に忠実な演奏をしているようです。古い録音ですが、とても美しい音で録音されています。コーダでかなりテンポを速めます。

二楽章、抑制的で静かな第一主題。ヴァイオリンの第一主題の変奏も過度に感情移入せずにあっさりと過ぎて行きます。第二主題も大きな表現ではありませんが、しみじみとした雰囲気がにじみ出るような渋い演奏です。第二主題の再現も大きく動かない静かな表現が感動的です。

三楽章、鮮度の高い音で始まる第一主題ですが、表現は悪いですが、足がもつれるようにテンポが変化します。ふくよかなホルンによる変奏。

四楽章、少し弱々しいシャコンヌ主題。オケに溶け込むようなフルートのソロ。間があって間の静寂感がとても印象に残ります。シャコンヌ主題が再現されたあたりから演奏が激しくなります。コーダではテンポを速めて終わりました。

静かで抑制的な前半二楽章とテンポの動きが大きくなる三楽章、後半はかなり激しくなる四楽章、クレンペラーの表面を全く飾らない演奏が私にはあまり理解ができませんでした。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ放送交響楽団

ショルティ★★★
一楽章、遠くから響いて来るような第一主題。ゆらゆらと揺れながら歌います。音の立ち上がりが鋭く敏感な反応をするシカゴsoはいつもながらに素晴らしいです。ただ、あまり分厚い響きではありません。

二楽章、ゆっくり目のホルンの動機。静かに歌う第一主題。涼やかで美しい第二主題。第二主題の再現はゆっくりとここでも静かでしみじみとした演奏です。とても穏やかで静かな演奏でした。

三楽章、サラッとしていて爽やかな第一主題。第二主題もサラッとしていて穏やかです。コーダでもトランペットが控えめでいつものシカゴsoの演奏に比べるとおとなしいです。

四楽章、バランスの良いシャコンヌ主題。続く木管は静かに歌います。必要以上に感情移入することは無く、楽譜に忠実な表現をしているようです。フルートのソロも静かであまり表情がありません。

見事に整った演奏を聞かせてくれましたが、聞き終えて特に感慨はありませんでした。
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ジョルジュ・プレートル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

プレートル★★★
一楽章、少しくすんだ暖かみのある第一主題です。テンポの動きやタメがあったりします。あっさりと進む第二主題。テンポの動きはとても多くあり濃厚な主張のある演奏になっています。

二楽章、あまり音量を落とさない第一主題。ホルンの動機は寂しそうな響きで美しいです。第一主題の再現はきめが粗く少しザラザラとした感じがあります。波打つようにたっぷりと歌う第二主題。第二主題の再現も厚みを伴って押し寄せたり引いたりするように豊かに歌います。

三楽章、爽やかな響きでゆっくりとしたテンポでさらにテンポが動く第一主題。小節の頭を少し押すような揺れのある第二主題。

四楽章、速いテンポで少し雑に感じたシャコンヌ主題。続く木管は凄く速いテンポになりました。押したり引いたりする呼吸を感じさせる演奏です。フルートのソロは独特の表現です。シャコンヌ主題の後の緊張感のある表現。交響曲第二番の回想はとてもテンポが速いです。コーダはかなり激しくなって終わりました。

テンポが良く動いて個性的な表現の演奏でした。テンポや音量の変化で揺れるような表現も随所にありましたが、重厚でどっしりとした表現はありませんでした。
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クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

アバド★★
一楽章、ゆらゆらと揺れる第一主題は何か秘めたものを感じさせます。あまり表情の無い第二主題。

二楽章、冒頭で音がこぼれるホルンの動機。静かに内面へ向かうような第一主題。三連符の盛り上がりはあまり大きくありません。穏やかな第二主題。サワサワっと表面を波立てるような淡い表現。トゥッティでもあまり力を入れません。第二主題の再現は落ち着いて美しいものでした。

三楽章、歯切れの良い演奏ですが、小じんまりとまとまり過ぎている感じがします。透き通るような第二主題。再現部は力強いですが、音が広がらないので、小さくまとまった感じは否めません。ホルンもとても浅い響きです。

四楽章、大きな特徴は無く、何となく音楽が流れて行きます。強弱の振幅もあまり大きくありません。響きに深みが無く浅い演奏に感じました。

アバドの演奏らしく強い主張はありませんでした。強弱の振幅もあまり大きくは無く、響きも浅く時折美しい表現を聞かせる部分もありましたが、あまり魅力を感じませんでした。
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シャルル・ミュンシュ/ボストン交響楽団

ミュンシュ★★
一楽章、ゆったりとしたテンポでどっしりとした第一主題。チェロとホルンの旋律の合いの手に入る弦の刻みは少し流れているような感じがします。第二主題もあまり大きく歌わず落ち着いた表現です。展開部の第一主題もとても優雅です。コーダへ向けて次第に熱く燃えるような演奏です。

二楽章、あまり潤いの無いクラリネットの第一主題。積極的に歌う第二主題ですが、響きは少し乾いています。短い音は全てスタッカートぎみになります。非常に穏やかな第二主題の再現。コーダでホルンに主題が戻るところは壮大でした。

三楽章、少し速いテンポで勢いのある第一主題。金管も強いです。第二主題あたりから少しテンポが遅くなったような感じがします。トランペットが強く突き抜けてきます。

四楽章、一音一音切るようなシャコンヌ主題。続く木管はゆっくりと歌います。遅いテンポで笛らしいフルートのソロ。コーダの手前でティンパニの激しいクレッシェンド。コーダはゆっくりとしたテンポで確実な足取りで終わりました。

短い音がさらに短めに演奏されて不自然でした。壮大なスケール感を感じさせる部分や突き抜けてくるトランペットの激しさもありましたが、乾いた響きで潤いが感じられない演奏でした。
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ヴォルフガング・サヴァリッシュ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

サヴァリッシュ
一楽章、ゆったりとしていますが、少し響きが浅い感じがする第一主題。音の密度が少し薄いような感じもします。作品を正面から捉えた真面目な演奏なのですが、それぞれの楽器が融合せず、バラバラな感じも受けます。そのためちゃっちい演奏に感じます。

二楽章、静かに淡々と演奏される第一主題。ヴァイオリンの第一主題の変奏は美しいです。第二主題の前の三連音の動機にはダイナミックさが無く、こじんまりとした感じです。大きな表現で歌う第二主題はとても美しいです。そよそよとした弦や木管が美しいです。トゥッティの激しさは無く、丁寧な感じです。第二主題の再現は安らかで穏やかです。

三楽章、あまり響きの厚みが無く少しもたつくような第一主題。

四楽章、一音一音切るようなシャコンヌ主題。フルートのソロはオケの響きに溶け込んでいて、浮き上がっては来ません。トゥッティでもあまり激しくありません。

感情を吐露するようなことは無く、オケが爆発することも、弱音の極め付けの美しさも無く、小さくまとまった演奏にはあまり好感が持てませんでした。
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フランツ=パウル・デッカー/シドニー交響楽団

デッカー
一楽章、高域があまり含まれていないのか、モヤーッとした響きの第一主題。録音の問題もあるのだろうが、穏やかと言うか緩いと言うか表現の振幅も無く何となく流れて行ってしまう感じです。

二楽章、あまり音量を落とさない第一主題。ほとんど抑揚の無い第二主題。カチカチに硬い第二主題の再現。ほとんど歌いません。

三楽章、ティンパニが全体の響きを支配するような深い響きの演奏をしていますが、二楽章で感じた硬さがずっと付きまとってしまって、浅い演奏に感じます。

四楽章、ここでもほぼ一本調子のシャコンヌ主題。フルートのソロは細身ですが、豊かに歌いました。オケの力量なのか、コーダも浅い響きで表面だけなぞったような演奏に感じました。

ほとんど歌わず硬い表現で、しかも浅い響きで、作品の内面には全く踏み込まない演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブラームス:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 交響曲第5番

チャイコフスキーの交響曲第5番は、彼の円熟した作風を感じさせる大変ドラマチックで情熱的な作品です。ロシアの作曲家としての個性が強く出ており、聴き手に深い印象を与える構成が特徴です。以下、各楽章について簡単にご説明します。

1. 第1楽章:Andante – Allegro con anima

冒頭の「運命の動機」とも呼ばれる、厳かなクラリネットの旋律が印象的です。これが楽章全体の基調をつくり、運命や苦悩、希望が交錯するような展開を見せます。その後、活気あるアレグロの部分に移行し、メロディが力強くなっていきます。

2. 第2楽章:Andante cantabile, con alcuna licenza

美しいホルンのソロで始まるこの楽章は、ロマンチックで優雅なメロディが特徴です。中でもホルンのソロはとても有名で、しっとりとした情緒と繊細な表現が際立ちます。愛と苦悩が入り混じったような感情が漂い、心に深く響くような雰囲気です。

3. 第3楽章:Valse: Allegro moderato

この楽章はワルツのリズムが基調となり、軽やかでリズミカルです。甘美でやわらかい旋律が繰り返され、チャイコフスキーらしい「ロシアのロマンチシズム」が感じられる一方で、やや不安定な要素も含んでおり、単なる美しいワルツに留まらない深みが感じられます。

4. 第4楽章:Finale: Andante maestoso – Allegro vivace

最後の楽章は荘厳で、勇ましい「勝利のテーマ」が力強く奏でられます。運命に打ち勝つかのような威厳に満ちた雰囲気が広がり、壮大なクライマックスへと導かれます。特に最後の部分は圧巻で、聞く者に高揚感と感動を与えるエンディングです。

全体の印象

この交響曲第5番は「運命」と「勝利」のテーマが貫かれており、チャイコフスキーの複雑な感情が音楽に反映されています。感情の深み、激しさ、そして優雅さが融合し、聴き手を壮大な音楽の旅へと誘います。

たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第5番名盤試聴記

ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

ハイティンク★★★★★
一楽章、陰鬱感がとてもよくてでいるクラリネットです。表現が大げさではないところがかえってロシアの大地の厳しさを伝えてくるようで、良い感じです。
ホールの響きを伴って、すごく美しい響きを聞かせてくれます。短い音符と音符の間に残響がホールに広がっていくところがとても心地よい。
強弱の振幅が狭く、そのことがかえって演奏上の効果を生んでいるような不思議な演奏で、ロシア物と言うと、爆演が連想されがちですが、この演奏は、そのような演奏スタイルを真っ向から否定しているような演奏で、非常に美しいです。
爆演ではありませんが、オケは過不足無く、気持ちいい音で鳴っています。

二楽章、アンサンブルの精度が非常に高く、オケがこの演奏に集中しているのも感じ取れます。
ホルンのふくよかで豊かなソロ。ロシアのオケのような筋肉質のホルンではありません。とても格調高いソロです。
また、カラヤンの演奏のように編成を大きくしていないので、響きに透明感があります。
作為的なところが全くないので、最初に聴いたときには拍子抜けするかもしれませんが、これはすごい名演です。
ティンパニのクレッシェンドもオケを煽るような極端なクレッシェンドはしません。しかし、見事です。
愛情が満ち溢れた演奏で、音楽にどっぷりと浸ることができます。

三楽章、とても清廉な演奏で、グラマラスな部分もありませんが、作品に対する真摯な表現に心打たれます。

四楽章、本当に美しい音色のオケであることを再認識させてくれます。
ここでも、ティンパニはほとんどクレッシェンドしていないと言って良いほどです。まったく力まない金管。それでも自然に音楽は高揚して行きます。人工的な演出なしで、これだけ作品にのめり込める演奏は、そうあるものではありません。

巷では、このCDのことが話題にのぼることはありませんが、私はこれがベストです。

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、クラリネットのソロを支える弦が柔らかく厚みのある響きで美しい。
予想通り遠慮なく吹きまくる金管。さすが爆演の巨匠!
爆演とは言うものの、弱音部は美しいし、響きの透明感もあるし、なかなか良い演奏です。
聴いていて嬉しくなるほど、吹きまくる金管。弱音部でも十分歌うので、コテコテの印象は拭えないですが、でもロジェヴェンがやりたいことは、みんなやってみたいことなんだと思いますよ。
普通の人は理性がブレーキを掛けるので、ここまでしないだけで。
この演奏も生で聴けたら熱狂の嵐でしょう。
演奏は力ずくと言う感じはあります。もっと自然な流れで金管が入れば良いのですが、こちらが予想する以上の大きさで遠慮なく入ってくる金管には、下品さを感じる人もいるでしょう。

二楽章、ホルンのソロもふくよかな音色でとても美しいです。
金管は限界近い音量で吹かされているのではないだろうか?凄いです。

三楽章、他の演奏では聞こえなかったところで金管が入っていることを分からせてくれます。

四楽章、朗々と歌う弦。音楽の振幅が尋常でなく広い。でも、この演奏共感できるなぁ。
ハイティンクの演奏が禁欲的とも思えるほど無駄に力むことなくすばらしい音楽を作り上げましたが、俗人には、ロジェヴェンの演奏に流れ勝ちだと思います。
でも、そこにブレーキをかけずに、思ったままをやってしまうのが凄い。
チャイコフスキーの楽譜ってpが4つも5つもあるし、fだって5つも6つもあるわけだから、楽譜に従えばハイティンクの演奏にはならないはずで、この演奏の方が正論なのかもしれません。

説得力十分なすばらしい名演でした。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、遅いテンポで暗闇に包まれたようなクラリネットの旋律。第一主題もすごく遅いテンポで、一歩一歩確かめながら歩くような、ともすればダレるぎりぎりのテンポです。嵐のような金管の強奏。遅いテンポで朗々と歌う弦。第一主題の再現はとても美しい。柔らかくしなやかで美しい弱音と、力強く鳴り響く金管の強奏が見事に対比されていて、すばらしい演奏です。コーダでテンポをかなり速めました。

二楽章、この楽章も遅いテンポで、序奏でも幅広い強弱の変化です。ホルンのソロも強弱の変化を付けて歌います。オーボエ、クラリネット、ファゴットと色彩の変化も鮮明です。弦の主要主題も柔らかく美しい。中間部に入る前はテンポが動きました。中間部に入ってからテンポを速めました。主要主題が戻るとまたテンポが遅くなりました。チェリダッケの演奏って、テンポが遅くなった分、音楽の密度も少し薄まっているように感じることがあります。これはオケの響きの透明感がそう感じさせる原因かも知れませんが・・・・・。

三楽章、とても穏やかなワルツです。中間部は生き生きとした表現の幅の広い演奏です。主部の主題が戻って、強い表現ではありませんが、節度のある表現です。最後も柔らかくゆったりと終りました。

四楽章、テンポが遅いのですが、アゴーギクを効かせたりして、濃厚な表現をしたりはしませんので、もたれるような演奏にはなりません。第一主題はガツガツと刻むようにしっかりと深い切り込みでした。木管の第二主題も透明感の高い音でとても滑らかでした。金管の「運命の動機」がデクレッシェンドします。再現部はテンポを速めました。全休符の前は緩急の変化が大きいです。コーダはトランペットが高らかに歌い上げます。

とても透明感の高い響きで、表現も押し付けがましくなく、ゆったりと穏やかな表現をベースにしていますが、いつの間にか音楽に身をゆだねているような演奏で、自然に引き込まれていました。

ヴァレリー・ゲルギエフ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2008年ライヴ

ゲルギエフ★★★★★
一楽章、陰鬱な運命の動機。背景で動く弦の表現がとても大きく感情がこもっているようです。感情が込められて生き生きとした第一主題。刻み付けるように強い弦。第二主題も大きく歌います。ウィーンpoの濃厚な色彩を存分に生かした演奏です。金管も遠慮なく咆哮します。テンポも劇的に変化します。とても濃厚に音楽を聞かせてくれます。

二楽章、太くふくよかなホンルの第一主題。とても若々しく元気のある表現です。迫って来るように強く歌う弦の第一主題。中間部に入るとクラリネット、ファゴット、弦と波打つようにうねりながら次第に音楽が盛り上がります。運命の動機では強烈なトロンボーンの咆哮です。原色で彩られた強い色彩。テンポも動いて大きな表現の演奏です。長く尾を引くクラリネット。

三楽章、少しテンポは速いですが、ウィンナ・ワルツらように優雅に舞うような演奏です。中間部の弦の細かい刻みもキリッと立っています。この細かい弦の刻みに乗る主要主題ですが、刻みの表現がとても積極的です。

四楽章、テンポは速いですが、全身を包み込むように迫ってくる序奏。音楽の起伏がとても大きいです。第一主題は少しテンポが遅くなり、一音一音刻み付けるように強い演奏でした。いろんな音が豊かに聞こえてきます。バストロンボーンが豪快です。ウィーンpoは元々色彩感のあるオケですが、それでもこれだけ濃厚な原色の色彩を聞かせることはあまり無いと思います。コーダはとても力強い弦で始まりました。豪快に終わりました。

濃厚な表現と、原色の強い色彩感で彩られた強烈な演奏でした。元々色彩感のあるウィーンpoですが、これだけ濃厚で強烈な原色の色彩を引き出したゲルギエフも凄いと思いました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1983年ライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、大きなうねりを持って歌う運命の動機。深みがあり分厚い響きです。少し距離のあるところから響くような第一主題。とても美しく歌います。トランペットとトロンボーンは近く、ホルンはかなり奥まっていて、そこからの強奏が壮大なスケール感を生み出します。第二主題の前で大きくテンポを落としました。第二主題も美しく歌います。表現の限りを尽くして歌うような演奏です。ゆったりと優雅に歌う再現部の第一主題。滑らかで美しい演奏でした。

二楽章、厚みのある響きが押しては引いて行きます。ウィンナ・ホルンらしい柔らかい第一主題です。弱く始まって次第に伸びやかに盛り上がります。第二主題も細く美しい演奏です。ゆっくりと美しく歌う弦の第一主題、周りを彩るホルンやオーボエもとても美しいです。第二主題の盛り上がりも凄い厚みとエネルギーあります。中間部のクラリネットもウィーンのクラリネットらしい深みのある響きで大きく歌いました。盛り上がったところでの運命の動機はあまり力を入れずに軽めの演奏でした。続くピィツィカートはとてもゆっくり始まりました。粘っこい表現の部分もありました。

三楽章、生き生きと表情豊かな主要主題。色彩感も濃厚で色鮮やかです。中間部の表現もとても豊かです。堂に入る表現でとても整然としていて、自信に溢れています。テンポの動きも何となく納得させられます。

四楽章、熱く訴えてくる序奏。トランペットは控えめですが、背景のピィツィカートは積極的に鋭く刻み込んで来ます。猛烈に激しい第一主題。激しい演奏ですが、その激しさはロシアのものとは違いとても洗練されています。情熱的で熱い演奏です。スタジオ録音とは全く違うカラヤンの人間らしい演奏に感動します。僅かにテンポを速めて終わりました。

スタジオ録音とは違い、豊かに美しい歌に溢れた演奏で、人間らしい感情もこもった生き生きとした演奏で、激しさもありましたが、とても洗練された表現で非常に美しかったです。
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ハンナ・チャン/カタール・フィルハーモニー管弦楽団 2014年プロムスライヴ

チャン★★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで染み入るような運命の動機。速いテンポで演奏される第一主題。一体感があって力強い響きのトゥッティです。訴えかけるような表現もなかなか良いです。ストレートに大きく歌い、感情の起伏の激しい演奏です。スピード感もります。中東の聞いたことの無いオケですが、かなり技術レベルは高いようです。感情のこもった強い表現と大きく大胆なテンポの動き。

二楽章、ゆったりと静かな序奏。柔らかく美しいホルンの第一主題。かなり強烈な運命の動機。強く感情をぶつけてくるような演奏です。凄く大きな振幅で、優しい弱音と強靭なトゥッティとの対比も見事です。

三楽章、繊細で美しい弦。テンポの動きも自然です。最後は大きくritしました。

四楽章、起伏のある運命の動機。物凄く速い第一主題。展開部も猛烈なスピードのまま進みます。聞きすすむうちにこのテンポはこれで良いのではないかと思うようになります。コーダはオケが一体になった強い盛り上がりでした。

かなり自由にテンポが動いて表現も自由で新鮮な演奏でした。聞いたことの無いオケでしたがなかなか充実した演奏と技量でした。
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レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

バーンスタイン★★★★★
一楽章、冒頭から遅く引きずるように重い運命の動機。とても濃厚な歌です。第一主題は普通のテンポです。サクサクと舞うように動く音楽。強弱の振幅も大きくとてもダイナミックです。金管もなかなか強烈です。テンポの動きもとても大きいです。普通のテンポと極端に遅い部分があります。再現部の第二主題もとても遅く深く感情のこもった濃厚な歌です。オケが一体になって迫ってくるような凄い迫力です。バーンスタインの気迫が乗り移っているような感じです。色彩もとても濃厚です。コーダに入り加速したと思ったら急にテンポが落ちて止まりそうになって終わりました。

二楽章、暗闇の中から迫って来てまた遠ざかりまた近づいてきてホルンのソロになります。ゆっくりと感情のままに自由に歌うホルン。マーラーと同じように完全にバーンスタインの世界です。第二主題もとても濃厚に歌います。物凄く遅いです。弦の第一主題も遅く、伸びやかに歌います。弦の第二主題もとても遅くこってりとこれでもかと言うほどに濃いです。中間部のクラリネットから少しテンポが速くなります。運命の動機に向かって速くなりますが、運命の動機でまた遅くなって一音一音刻み付けるような演奏です。テンポは感情の赴くままにとても良く動きます。二度目の運命の動機の強奏は速めのテンポでとても激しいものでした。コーダはまた止りそうな遅さです。

三楽章、少し遅い程度のテンポの主要主題です。 ファゴットが豊かに歌います。中間部の弦の細かい動きは静かな中にも背景にエネルギーを蓄えているような演奏です。コーダはまた止りそうなくらい遅いテンポで感情をこめた演奏になりました。

四楽章、強い感情のこもった運命の動機。トランペットが入ってから一時凄くテンポが遅くなりました。第一主題の前もとても遅いです。第一主題は逆に速いテンポでとても活発な動きの演奏です。テンポが頻繁に変わります。金管は激しく咆哮します。ゆっくりと踏みしめるようなコーダ。物凄い高揚感です。最後の四つの音もゆっくりと叩きつけるように演奏しました。

バーンスタインの感情の赴くままに大きくテンポが動く演奏でした。特に遅い部分の遅さは尋常ではありません。これだけ濃厚な演奏はロシアの指揮者とオケでもできないと思います。この演奏に付いていけない人もいると思いますが、好きな人にはたまらない演奏だと思います。
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ユーリ・テミルカーノフ/サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団

テミルカーノフ★★★★★
一楽章、クラリネットに合わせて強弱の変化がある弦は溶け合って厚みのある響きです。奥まったところからキラキラと輝くようなトランペット。ムラヴィンスキー時代の強い響きとは違い柔らかくしなやかな響きです。第二主題はゆっくりと波打つような演奏でした。テンポの大きな動きもありますが、流れの良い演奏です。コーダでトランペットが突き抜けて演奏します。

二楽章、大きく豊かに歌うホルンが美しいです。第一主題が弦に移っても豊かな歌です。運命の動機に向けた木管はかなり速いテンポになります。運命の動機は少し落ち着いたテンポになりますが、荒れ狂うような金管の咆哮ではなく、とても抑制の効いた演奏です。波が押しては返すような自然な揺れと歌です。

三楽章、湧き上るように揺れる主要主題。とても豊かな音楽です。木管に主要主題が引き継がれるとテンポは速くなります。繊細で伸びやかな中間部の弦。深く克明に刻み付けるような演奏です。活発な動きの演奏でした。

四楽章、とても力強い運命の動機。大きなテンポの動きとともに演奏されるトランペット。速いテンポで刻み込まれる第一主題。とても大きく強い表現です。トランペットも伸びやかに美しく響いて来ます。怒涛のようなトッティ。ガリガリと力強いコーダ。トランペットが高らかに鳴り響きます。大きな勝利の歓喜を演出した演奏でした。

ムラヴィンスキー時代の凄みのあるアンサンブルの精度などは陰を潜めて、その分伸びやかで流れの良い演奏でした。豊かな歌と、刻み込むような深みのうる演奏。そしてコーダの勝利に溢れた演奏と、とても良い演奏でした。
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エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団 東京ライヴ

スヴェトラーノフ★★★★★
一楽章、ゆっくりと感情のこもった運命の動機。響きも柔らかくまろやかです。たっぷりと間をとったり大きくふくらんだりします。速いテンポで弦の刻みが立っています。第一主題はとても敏感な反応の表現です。ダイナミックに鳴り響く金管のパワーはさすがです。色彩感もとても濃厚です。優しさと強さを併せ持つような第二主題。オケのエネルギーが突進してくるような迫力。畳み掛けるように次々と押し寄せてくる音楽。速めのテンポで有無を言わせずに突き進む演奏です。第二主題の再現は最初柔らかく穏やかですが、次第に力が増してきて強大な表現になります。物凄い気迫の演奏です。

二楽章、ゆっくりと静かですが、非常に深い序奏。ビブラートのかかったホルンのソロ。少し伸びやかさには欠けますが、ふくよかで美しいです。オーボエの第二主題は第一主題のホルンのふくよかさとは全く対局にあるような鋭利な響きで、色彩感の濃厚さを印象付けます。弦にーよる第二主題はゆっくりととても柔らかい演奏でした。このゆっくりとした時間の流れがとても心地良いです。大きく吠えるトランペットの運命の動機。優しい弦の第一主題。金管が吠えた後のこの柔らかさにも惹きつけられます。その後も激しい音楽の起伏があります。二度目の運命の動機はとても遅く、トロンボーンもトランペットもかなり激しく轟き渡るように吠えます。静かに大きく歌うクラリネットで終わりました。

三楽章、速いテンポですが、柔らかくサラッとした主要主題。ゲシュトップしたホルンが強く響きます。豊かに歌う演奏です。中間部も速いテンポで敏感に強弱の変化を付けています。とても活発に動いて生き生きとしています。

四楽章、伸び伸びと演奏される弦の運命の動機。最初は穏やかですが、次第に強烈になってくるトランペット。第一主題は凄く速いテンポでかなり激しい演奏です。嵐のような猛烈な金管や弦の演奏です。金管の咆哮は凄いです。コーダは少しテンポが落ちますが、金管の咆哮は続きます。勝利に溢れた高揚でした。

ゆっくりと感情のこもった表現から、強烈な金管の咆哮まで、物凄く振幅の大きな演奏でした。テンポの変化も手慣れたもので、まさに自家薬篭中といった感じでした。生で聞いた人はさぞかし感動したことでしょう。すさまじい演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 交響曲第5番2

たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第5番名盤試聴記

小林 研一郎/日本フィルハーモニー交響楽団

小林★★★★☆
一楽章、非常にゆっくりと噛みしめるように丁寧な冒頭。かなり思い入れのある演奏のように感じます。
テンポの動きも大きいですが、わざとらしいところがなく自然に受け入れることができる音楽で、好感が持てます。日フィルも反応の良い演奏で応えています。これはすばらしい演奏になるような予感があります。

二楽章、僅かなビブラートをかけたホルンのソロも美しい。この楽章もテンポの動きが大きくて、劇的な表現で聴き手を圧倒します。

三楽章、集中力も高く、聴いていて飽きが来ない。

四楽章、音楽の高揚感がすばらしい。コバケンの熱い指揮が伝わる演奏です。
表現も積極的でオケと指揮者の一体感もありとても良い演奏だと思います。
この録音以後のCDも出ているので聴いて見たいと思いました。
小林研一郎がこんなに熱い音楽を演奏しているとはおもいませんでした。このホームページを作ったおかげで、いろんな演奏を聴くようになって、日本の演奏家の水準の高さに驚かされることが多く嬉しいことです。
これまで、欧米の演奏には及ばないと思っていた、私の認識は間違いだったことを思い知らされる演奏です。これが1995年の演奏なのですから、この録音から約15年経過している最新の演奏はどんなだろうと思いをめぐらせると、もっと日本の演奏家のCDをたくさん聴いて見たい衝動に駆られます。

すばらしい演奏でした。大満足!

エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団

スヴェトラーノフ★★★★☆
一楽章、非常にゆっくりと演奏される運命の動機。引きずるように重い演奏で、冒頭からスヴェトラーノフの世界です。波のように強弱を繰り返す第一主題。炸裂する金管。濃厚に歌う弦。第二主題も抑揚を繰り返します。凝縮されたような密度の高い音楽。再現部でも第一、第二主題ともとても豊かに歌います。ビリビリと遠慮なく響くトランペットがロシアのオケらしいです。

二楽章、ビブラートを掛けて歌うホルンの第一主題。弦による第一主題も豊かに歌います。弦の第二主題ではテンポを速めたり遅くなったりします。独特の強い響きのクラリネット。ロシアのオケらしい強力な運命の動機。激しい起伏のある演奏です。二度目の運命の動機の強奏は一回目よりもさらに強力でした。

三楽章、速いテンポで敏感な反応の演奏です。追い立てるようなテンポですが、表現は豊かです。もっと穏やかな音楽だと思っていましたが、かなり攻撃的です。

四楽章、とてもゆっくりと感情を込めて歌う運命の動機。かにり強く感情を吐露している感じです。遠くから響く鋭いホルンが独特の空気を生み出します。第一主題からは一転して猛烈な速さになります。嵐のような弦に荒れ狂うような金管。めまぐるしいテンポの変化と圧倒的な音量で迫ってくる演奏。力強いコーダ。コーダも物凄いテンポで駆け抜けます。

ゆっくりとする部分はとてもゆっくりで、テンポを速める部分は猛烈な速さになる、メリハリのある演奏でした。ロシアらしく、スヴェトラーノフらしい強烈で圧倒的な音量で迫ってくるトゥッティも凄かったです。
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マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団 2009年ライヴ

ヤンソンス★★★★☆
一楽章、歯切れの良いクラリネットの運命の動機。後ろで動く弦の振幅がとても大きいです。第一主題も振幅の大きな歌です。弦の盛り上がりに比べると金管は突出しません。とても濃密に歌う弦や木管が印象的ですが、金管のリズムを刻みながらのクレッシェンドなど、作為的な感じがする部分もあります。

二楽章、伸びやかに美しく歌うホルンの第一主題。オーボエの第二主題もとても豊かに歌います。弦に引き継がれる第一主題も大きく歌います。作品を余すところ無く表現している演奏です。クラリネットで演奏される新たな旋律も艶やかで伸びやかです。盛り上がる運命の動機は軽く演奏されます。ずっと一方的に攻め立てられているような感じで、穏やかに安らぐ部分がありません。最後のクラリネットも豊かに歌いました。

三楽章、まさにワルツで、踊るように動く音楽です。中間部へ向けてテンポが速くなります。速いテンポで活発な表現です。とても力強い演奏です。

四楽章、分厚く豪快に演奏される運命の動機。強弱の変化も大きくとても積極的な表現です。第一主題も攻撃的なくらい積極的に迫って来ます。金管も豪快に鳴り響きます。この演奏を聞くと、ヤンソンスがロシアで音楽を学んだことが思い出されます。細かい表情付けもありますが、とにかく豪快に金管が鳴り響きます。力強く勢いのあるコーダ。突然音量を落としてクレッシェンドする部分もありました。

ロシア出身の指揮者らしく豪快に金管を鳴らしたとても力強い演奏でした。また、表情もとても豊かで表現し尽くしたような演奏でもありましたが、作為的な音量の変化もあり少し違和感を感じる部分もありました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

ホーレンシュタイン★★★★☆
一楽章、暗く尾を引くような運命の動機。金管の爆発は物凄いです。タメの後に強いアクセントで演奏する弦の表現がありました。奥深いところから湧き上るような強いエネルギーの放出を感じさせるような強烈な演奏です。遅いテンポで一音一音深く刻み込むように強い響き。さしてトロンボーンの咆哮。オケが一体になって表現してくる迫力も凄いです。コーダの盛り上がりも少しテンポを落として濃厚な表現です。

二楽章、何か吐き出すように歌う序奏。遠くから鳴るようなホルンの第一主題。締め付けられるようなオーボエの第二主題。少しザラつきはありますが、伸びやかに歌う弦の第一主題。まるでカデンツァのようにゆっくりと自由に歌うクラリネット。運命の動機ではトロンボーンがかなり強烈です。激しい弦第二主題、合間に響く金管も強いです。再び現れる運命の動機はやはりトロンボーンが物凄い咆哮です。最後のクラリネットもゆっくりとたっぷりとした歌でした。

三楽章、ザラツキ感のある弦ですが、訴えかけてくるように迫って来ます。集中力があって音に力があります。

四楽章、大きく強く訴えてくる序奏。ゆったりと大きな第一主題。ここでも金管はかなり強めです。木管も弦もとても良く歌いますが、緊張感があります。とても濃い表現と強烈な強弱の振幅です。コーダで高らかに演奏されるトランペットですが、華やかさは無く、厳しい緊張感があります。最後は一旦ゆっくりになって豪快に演奏されたトランペットとホルンの後は加速して終わりました。

物凄く激しい爆発と深みのある歌のある振幅の大きな演奏でした。演奏には緊張感や厳しさが漂っていて、華やかに勝利を手放しで喜ぶようなコーダではありませんでしたが、迫りくるような力強い演奏には説得力がありました。
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リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

ムーティ★★★★☆
一楽章、ゆっくりと、とても感情のを込めて大きく歌う運命の動機。第一主題もとても良く歌います。楽しそうな程の表現です。第二主題も豊かなカンタービレです。とても積極的な表現で、オケが前のめりになっているかと言うほどの演奏です。色彩感はあまり濃厚ではありませんが、豊かで伸びやかな響きです。テンポを大きく動かして意欲的な演奏です。

二楽章、大きく広がる序奏。ふくよかで柔らかいホルンのソロ。くっきりと浮かぶ第二主題。泉から水が湧き出るように豊かな弦の第一主題。中間部のクラリネットはアゴーギクを聞かせて歌います。スケールの大きい運命の動機。次の第一主題は速めのテンポで盛り上がりも大きいです。第二主題も大河の流れのようです。二回目の運命の動機はゆっくりとさらに大きなスケールの演奏でした。

三楽章、ふくよかで優雅なワルツの主要主題。スタジオ録音と言うこともあってとても柔らかく豊かな響きです。ファゴットの最初をゆっくりそのあと少しテンポを速めました。ゆっくり確実な中間部。テンポの動きも多く、なかなか積極的な演奏です。

四楽章、控えめな音量ですが、厚みのある運命の動機。フィラデルフィアoらしい余裕のあるトランペット。スピード感のある第一主題。活発に動く第二主題。高揚感のあるコーダの運命の動機。高らかに鳴らされるトランペット。

感情が込められて豊かなカンタービレの演奏でした。テンポの動きもあり大きなスケールで良い演奏でした。
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ルドルフ・ケンペ/バイエルン放送交響楽団 1975年ライヴ

ケンペ★★★★
一楽章、とても遅いテンポで物思いにふけるような運命の動機。マイルドな響きですが、感情のこもった第一主題。色彩は墨絵のようなモノトーンです。振幅の大きな演奏で、表現も積極的です。第一主題の再現もとても感情の込められた歌です。金管も激しく鳴らされるし、弦も木管も大きな表現です。

二楽章、序奏から感情のこもった大きな表現の演奏です。ちょっと詰まった感じのホルンの第一主題。豊かに伸び伸びと演奏される弦の第一主題。運命の動機の強奏はかなりテンポが速く軽く演奏されます。感情のこもった演奏が続いてきたのに、この運命の動機が軽くあっさりと演奏されたのはちょっと肩透かしの感じがします。コーダも豊かに歌います。

三楽章、柔らかく伸びやかに歌う主要主題。テンポの動きもありアゴーギクも効かせて豊かな表現の演奏です。

四楽章、ケンペの強い感情移入を感じさせる序奏。金管の枯れたモノトーンの響き。生き生きと活動的な第一主題。テンポが良く動き次第に熱気を帯びてきています。最後もテンポをかなり速めて終わりました。

深い感情移入で、テンポもとても良く動く演奏で、演奏も次第に熱気を帯びてなかなかの熱演でした。ただ、弱音部分では濃厚に歌う演奏が、強奏部分で凄くテンポが速くあっさりとなってしまうのが肩透かしと感じる部分もありました。
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フランツ・ウェルザー=メスト/グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★★
一楽章、陰鬱な運命の動機、引きずるような弦。ロシアの冬を連想させるようなとても暗い序奏です。速いテンポの第一主題ですが、ここでも重く暗い雰囲気が支配しています。室内楽のような第二主題。展開部の第一主題は大きい表現で、木管が音を短めに演奏します。盛り上がりは激しくなりますが、アンサンブルはとても良い精度です。

二楽章、抑揚はありますが、淡々とした序奏。少し浅いですが、美しいホルンのソロ。盛り上がった運命の動機はテンポが速くあっさりと演奏されます。ピィツィカートの後の弦の第一主題は伸びやかで美しい演奏でした。

三楽章、速いテンポで少し落ち着きの無い主要主題。オケのメンバーが若いのもあるのかも知れませんが、深みや一体感のある動きは感じません。中間部の弦の細かい動きは見事ですが、かなり速いテンポで慌ただしいです。

四楽章、速いテンポですが、細かく表情を付けられた序奏。激しく刻む第一主題。さらにテンポを速めながらかなり強いトゥッティです。感情を込めてエネルギーを発散します。ここまで抑えていたものを一気に放出するような物凄いパワー全開の演奏になりました。コーダの最後もアッチェレランドして一気に終わりました。

明らかに四楽章にピークを持ってきた演奏で、四楽章の猛烈なテンポとエネルギーの発散は凄いものがありました。ただ、そこまでの三つの楽章の密度が少し薄い感じがしました。
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Yuval・ゾーン/エルサレム交響楽団

ゾーン★★★★
一楽章、独特のタメのある運命の動機。力強くキレの良い金管。割と明るくて見通しの良い演奏です。ねばっこく旋律を歌うことも無く、サラッとした表現です。編成は小さいですが、金管とティンパニが思い切り良く演奏するので、ダイナミックですが少し乱暴な感じがする部分もあります。速いテンポを基調にした明るい演奏でした。

二楽章、とても明るいのですが、深みの無いホルンのソロ。かなり大きな極端な表現もします。弦の第二主題は透明感があって美しいです。豪快に鳴り響くトランペットの運命の動機。

三楽章、速めのテンポで軽い主要主題。爽やかに刻まれる中間部の弦。この演奏にはロシアの重く暗い空気感はありません。とても軽やかで澄んだ演奏です。

四楽章、はっきりと明快な運命の動機。弦に比べるとかなり強い金管とティンパニ。明るいホルンがちょっと異様です。やはり軽い第一主題。ぐいぐいと速いテンポで、爽やかに力強く鳴り響く金管。コーダも爽やかで涼しげです。

金管は強く鳴り響きますが、全体の印象としては、速めのテンポでさらりと明るく爽やかな演奏と感じました。ロシアの重く暗い空気感は全く無く、聞いていてスッキリする演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 交響曲第5番3

たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第5番名盤試聴記

ウラディーミル・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団 1991年フランクフルトライヴ

フェドセーエフ★★★☆
一楽章、クラリネットの後ろの弦が大きな抑揚で伴奏しています。クラリネットの運命の動機はそれほど暗くありません。少し速めのテンポの第一主題は感情を込めて歌います。弦のエネルギーがとても強いです。展開部の第一主題はゆっくりとしたテンポでさらにテンポも動いて豊かに歌います。遅いテンポを基調に、ロシアのオケの特徴の力で押し切るような演奏では無く、しなやかで洗練された演奏です。

二楽章、暗闇から静かに響いて来るような序奏。あまり大きな抑揚は無く静かです。ロシアのオケらしくビブラートをかけたホルン。そのビブラートも大きくは無く自然で美しいです。第二主題も自然で大きくは歌いません。ゆったりと穏やかな弦の第一主題。第二主題も静かで穏やかに始まります。運命の動機へ向かって急加速します。かなり大きなエネルギーです。第一主題の再現もとても美しいです。分厚い弦を突き抜けるように強く響く金管。

三楽章、速いテンポですが、優雅な主要主題。中間部の弦の細かい動きの精度も高いです。

四楽章、速めのテンポで最初はちょっと雑かな?と感じましたが、しっかりと身のある演奏になって行きます。強く刻み込まれる第一主題。第二主題は感情を込めて歌います。速いテンポでかなり高揚感のある演奏です。どんどんテンポを煽って激しさが増して行くと思ったら遅くなったりもします。コーダに入るとやはりトランペットが強烈に突き抜けて来ます。最後は猛烈なアッチェレランドで盛り上がって終わりました。

四楽章のコーダまではとても良い演奏でした。しなやかで洗練されていて、穏やかな表現もあるロシアらしさはあまり感じさせない演奏でしたが、四楽章のコーダから強烈に突き抜けるトランペットと猛烈なアッチェレランド。このアッチェレランドが曲の流れを壊したような感じがしました。
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エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、レニングラードpoはドイツ・オーストリアのオーケストラとは全く違う音色を持っています。
冒頭のクラリネットの陰鬱感の表現などレニングラードpoならではです。
また、ムラヴィンスキーの指揮はもう少し若い世代のロシアの指揮者の多くが爆演型なのに対してムラヴィンスキーの音楽は紳士的で格調が高いです。
この演奏では、少し速めのテンポで、あまり濃い表情付けはしていない感じもしますが、金管が入る部分ではクレッシェンドを多用します。

二楽章、この楽章にはもう少し安らぎのような安堵感を求めたいと私は思うのですが、ここでも厳しい雰囲気が続きます。
また、ホルンのソロも締まった音質でふくよかさには欠けます。クラリネットの低音域などもコ゜ムホースにマウスピースを付けて吹いているような音色で、どう考えても高級な楽器は使っていないような感じがします。
それでもこれだけ集中力の高い演奏をするのには驚かされます。

三楽章、この楽章も速めのテンポを取っています。快速です。もう少しゆったりと味わいがあっても良いような気がしますが・・・・・・。

四楽章、決して爆演ではありませんが、剛の演奏です。激しい。
チャイコフスキーの後期の交響曲のうち、この5番が一番優しい音楽だと思うのですが、ムラヴィンスキーの手にかかると、鬼の形相に変化してしまうと言ったら言い過ぎでしょうか。

豪快な演奏でした。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 1983年3月19日(ステレオ)

icon★★★
一楽章、レニングラードpo独特の音色です。ガラガラと鳴るクラリネット、鋭いバイオリン、細く筋肉質のホルン。
速めのテンポであまり表情もなく音楽が進みます。表情の変化はあまりありませんが、終始厳しい表情のままと言った方が適当でしょう。
楽譜に指定のないクレッシェンド、それも一旦音量を落としてからのクレッシェンドがいくつかありました。

二楽章、ビブラートをかけて、ちょっと詰まったような音色のホルンです。もっと伸び伸びとした音色を求めたいところですが、これもレニングラードpoの伝統であり、代々受け継いでいってもらいたい個性です。

三楽章、

四楽章、この楽章も一楽章と同様に速いテンポです。
また、音楽のスピード感と言うか疾走感もムラヴィンスキーの演奏の特徴でもあると思いますし、魅力でもあると思います。

コーダへ向けての音楽の高揚感はすばらしいものがあります。

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団

マタチッチ★★★
一楽章、暗闇から響いてくるような運命の主題。きびきびとした動きで強弱の変化に敏感な第一主題。トゥッティの響きは少し薄い感じがします。揺れ動くように歌う第二主題。力強く前へ進む展開部の第一主題。コーダで一旦テンポが速まって、鋭いトランペットが響きます。

二楽章、伸びやかさが無く委縮したような響きのホルン。弦の第一主題はテンポも強弱も変化がありました。中間部に入るとテンポが速く激しい波が押し寄せて来ます。大きく盛り上がって、運命の主題は切れのある演奏でした。タメが無くどっしりとした演奏ではありません。

三楽章、柔らかく繊細な弦の主要主題。この楽章も速めのテンポで流れるような音楽です。くっきりと浮かび上がる弦と木管。

四楽章、小さくまとまった弦の序奏。トランペットはすっきりと鳴り響きます。第一主題も弦が弓をいっぱいに使ったわうな豪快さはありません。木管の第二主題はあまり表情がありませんでしたが、弦に主題が移るととても豊かな表情になりました。マタチッチらしい雄大なコーダ。

四楽章の中間あたりからはマタチッチらしい豪快で雄大な演奏でしたが、二楽章のホルンや四楽章の序奏の弦など、萎縮したような小さい演奏になっていたのが、不自然な感じがしました。
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リッカルド・シャイー/ベルリン放送交響楽団 1983年ライヴ

シャイー★★★
一楽章、豊かな残響を伴っていますが、ドイツのクラリネットの響きとは少し違う感じがします。速めのテンポで明るい第一主題。割と色彩ははっきりとしています。自然に歌う第二主題。展開部に入ると推進力のある演奏になります。

二楽章、暗雲が立ち込めるような序奏。細く芯のあるホルンですが、伸びやかに歌います。弦による第一主題はホルンと違ってあっさりとしています。弦に現れる第二主題は速めのテンポであっさりと演奏されます。中間部のクラリネットも速いテンポです。その後も速いテンポを維持して、盛り上がった運命の動機は少しテンポを落としますが、かなり余裕のある響きです。続く弦の第一主題はゆっくりと歌いますが、次第にテンポが速くなります。コーダの前のクライマックスでは波がうねるように複雑に絡み合う楽器の動きがとても良かったです。

三楽章、テンポが速く流れるような主要主題。テンポの動きが少しありますが、基本的にはあっさりとした表現でとても爽やかに進んで行きます。

四楽章、ゆっくりと柔らかく穏やかな序奏。金管が入ってもテヌートぎみでなだらかな盛り上がりです。急に活発に動き出す第一主題。強奏部分でも荒げることは無く、とても美しい響きです。コーダも速いテンポですが、奥まったところから響くトランペットが大きな盛り上がりを妨げているように感じます。

基本的には速めのテンポで大きな表現や強弱の変化もあまり大きくない演奏で、あまり強い個性は感じませんでした。
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朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈★★☆
一楽章、いつものように遅めのテンポでじっくりと音楽が進んで行きます。スケールが大きく懐の深い音楽です。
ゆったりとしたテンポで朗々と歌われる音楽にも惹かれるものがあります。朝比奈が師事したメッテルもロシア人であり、指揮者として最初に演奏したのが、この曲です。
そういう意味では、朝比奈の十八番なのかもしれません。
しかし、この頃にはすでにブルッナー指揮者としての名声が確立しているし、ベートーヴェンの演奏でもすばらしいCDを残しています。
この演奏でも、チャイコフスキーの優雅さよりも、どっしりと構えた重厚な音楽になっています。

二楽章、ホルンの音色に深みがあまりなく、細い音なのが少し残念なところです。
朝比奈らしく無理やり金管を吹かせるようなこともなく、自然体で、音楽に身を任せることができる演奏です。

三楽章、

四楽章、伸びやかで豊かな響きが魅力的、ゆったりとしたテンポも豊かさを感じさせてくれるのだと思います。

ただ、自然体で作品に語らせるタイプの指揮者なので、他に語り口の上手い指揮者による演奏も多いだけに、この曲を面白く聴かせてくれるわけではないので、不満に感じる部分もあると思います。

アラン・ギルバート/ニューヨーク・フィルハーモニック

ギルバート★★☆
一楽章、あっさりとした運命の動機。さらりと歌う第一主題。交錯するような金管。第二主題も速いテンポであっさりとしています。金管はかなり強く咆哮します。奥まって響く弦とは対照的です。

二楽章、感情のこもった深い序奏。僅かにビブラートのかかった丁寧なホルンのソロ。生き生きとした表情の弦の第一主題。中間部のクラリネットはアゴーギクを効かせて歌います。ファゴットは少し遠いです。突然犬の鳴き声がします。野外コンサートのようです。運命の動機の強奏はゆったりとしていて、穏やかなトランペットとビリビリと響くトロンボーンが対照的です。運命の動機の後は速いテンポでどんどん進みます。二回目の運命の動機は速いテンポでした。

三楽章、野外コンサートでも集中力を保って良い演奏を続けています。中間部の弦の細かい動きはゲツゲツせずにソフトでした。繊細な表現の弦はなかなかです。微妙なテンポの動きもあります。

四楽章、サクッと歯切れの良い運命の動機。第一主題の前の金管はかなり強く演奏しました。穏やかで繊細な弦と奥まった木管、激しい金管とセクションによって性格の違う音楽を奏でているような感じです。コーダもマットで穏やかな弦に金管が襲い掛かるような激しさです。最後はテンポを速めて強烈な金管の演奏でした。

野外コンサートと言う事もあって、条件は悪かったのだと思いますが、それでも集中力を保った演奏でした。穏やかで繊細な弦と奥まった木管、激しい金管とセクションによって性格の違う音楽を奏でているような感じで、特に金管の激しさは少し違和感がありました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、流れるような演奏なのですが、ハイティンクの演奏のような透明感には乏しいです。
これは、ベートーヴェンのときにも感じたことなのですが、カラヤンの演奏には厚みはあるのですが、透明感がないです。僅かに濁った厚みのある響きの上に旋律が乗っかるのですが、その旋律にも深みが感じられません。
今では廃盤になってしまっているハイティンクの演奏がいかにすばらしいか改めて感じることができました。音楽の透明感と深みはハイティンクの演奏の方が遥かに上です。

二楽章、カラヤンのチャイコフスキー支持者はたくさんいらっしゃると思っていますが、私にはチャイコフスキーの5番はハイティンクが不動のベストなのです。
他の演奏が安っぽく聞こえてしまう。
低音を僅かに先に演奏させるカラヤンの考えに従ってのピチカートですが、全然揃いません。まるでハープのようです。
私たちは、市場にある膨大な数のCDを全て聴くことはできません。だから評論家の「推薦」の文字を信じて盲目的にCDを買ってしまうわけですが、実際には、すばらしい演奏の一部が闇に葬られて行っているのも事実なのではないかと思います。

三楽章、突然大きな音で短い音を吹くホルンが滑稽です。世界最高のオーケストラと言われるベルリンpoの音がどうしてこんなに透明感がないのでしょうか。

四楽章、激しいティンパニのクレッシェンド。この演奏を聴くとチャイコフスキーの音楽が低俗なものに聞こえてしまいます。仕掛けや演出がなくても、すばらしい曲なのに・・・・・・。

ロリン・マゼール/クリーブランド管弦楽団

マゼール★★
一楽章、あまり大きな表情の無い運命の動機。ただ、響きは分厚いです。ザラッとした弦の刻みに乗って豊かに歌う第一主題。マルチマイクなのか、トロンボーンのタンギングがはっきりと分かります。弦も金管も明快に反応するパリッとした表現で細部までスッキリと見通せる演奏です。

二楽章、抑揚のある序奏。ふくよかで美しいホルンのソロ。第二主題もくっきりとしています。弦で演奏される第一主題は速めのテンポになります。近接したマイクポジションのおかげで、目の覚めるような新鮮な音になっています。クラリネットの旋律の前からテンポが落ちて、クラリネット、ファゴットととてもゆっくりとした演奏です。明るくシャープな響きの運命の動機。響きは原色の濃厚な響きですが、表現は意外とあっさりしています。

三楽章、シャープで生き生きとした主要主題。中間部の弦の細かい動きにもアクセントが付けられています。終わり近くで突然音量を落とすことが二度ありました。

四楽章、後ろで動く弦が活発な序奏。ティンパニは僅かなクレッシェンドでした。落ち着いた第一主題。金管の運命の動機はゆっくりと穏やかに演奏されます。その後急にテンポが速くなります。めまぐるしいテンポの変化であまり落ち着きがありません。コーダの運命の動機もとても速く軽い表現で、大きな盛り上がりはありませんでした。

マルチマイクで、細部まで見通せる明晰な演奏でしたが、突然の音量の変化やテンポのめまぐるしい変化に付いて行けませんでした。最後の運命の動機の速いテンポでの軽い表現も肩透かしでちょっとがっかりな演奏でした。
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イーゴリ・マルケヴィチ/ロンドン交響楽団

マルケヴィチ★★
一楽章、速めのテンポであっさりと演奏するのかと思ったら、大きな間を取ったりもします。とても暗い響きです。第一主題は鋭いリズムのキレのある歌です。トロンボーンなどはかなり吹きますが意外と軽いトゥッティです。テンポは速く、金管がオンマイクでかなりデッドで奥行き感がありません。テンポが速い分、リズムの乗りはとても良くリズムに合わせて音楽が抑揚します。コーダもとても速いです。

二楽章、サラッと流れていくようですが、かなりの抑揚があります。太く柔らかいホルンのソロ。前へ進む力の強い第二主題。弦だけの盛り上がりもかなり大きいです。透明感の高い中間部のクラリネット。かなり強い運命の動機ですが、やはりオンマイクでデッドなので、金管の響きが浅く余韻がほとんどありません。積極的な表現のトランペット。二度目の運命の動機も強烈に響くトロンボーン。

三楽章、速いテンポでセカセカした主要主題。ファゴットもとても速いです。中間部は凄いスピード感です。

四楽章、あまり厚みが無く軽い運命の動機。この楽章も速いテンポです。響きが浅く軽い演奏です。第一主題はやはり金管が激しいです。ティンパニも残響をあまり伴っていないので、トントンと軽く響きます。ゆっくりと噛みしめるようなコーダ。金管の短い音が凄く短く違和感があります。最後はテンポを速めて終わりました。

基本的に速いテンポでリズムの乗りの良い演奏でしたが、金管がかなりのオンマイクで余韻も無く軽く浅い響きに支配されていました。速いテンポも影響しているのかも知れませんが、深みの無い演奏であまり共感できませんでした。
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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★
一楽章、静かに始まった運命の動機ですが、急に強くなり音色も変化して行くクラリネット。ほとんど感情を込めずに演奏される第一主題。それでも金管はかなり激しく演奏します。第二主題も速いテンポで素っ気無い演奏です。トロンボーンなどはかなり激しく強奏して迫って来ます。引き締まって豊かな表情の部分もあります。私は、クレンペラーと言う人がよく分かりません。全く感情を込めずに脱力したような演奏があったかと思うと、凄く力感溢れる演奏があったり、何が実像なのかつかめないのです。

二楽章、箒で掃くようにさらっとした序奏。非常に豊かな表情のホルンのソロ。くっきりとしたオーボエの第二主題。芳醇な弦の第一主題。壮大な運命の動機。最後はたっぷりと歌う、クラリネットでした。

三楽章、生き生きと爽やかな主要主題。中間部はシャープに動く弦。

四楽章、かなり強めで堂々とした運命の動機。大きな表現の第一主題。ゆったりとしていて雄大です。テンポも遅く重い金管。頑として動かないテンポで音楽の間が持たない感じを受ける部分もあります。コーダに入った後に僅かにテンポが速くなりましたが、最後はまた元のテンポで重く終わりました。

楽章が進むにつれて音楽が重くなってきて、最後は勝利の喜びとは違う空気でした。
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ミハイル・プレトニョフ/ロシア・ナショナル管弦楽団

プレトニョフ★☆
一楽章、ニュートラルでストレートなクラリネットの運命の動機。あまり暗さはありません。適度な歌でテンポも中庸な第一主題。金管は凄く控えめです。金管が控えめだったのは最初だけで、その後は普通のバランスで適度に響いています。特に目立った表現も無く中庸の演奏です。

二楽章、控えめですが、残響を伴って緩やかなビブラートで美しいホルンのソロ。前面で演奏される弦の第一主題と奥まったところで響くホルンの対比が美しいです。運命の動機の強奏は速いテンポで金管が強く響きます。その後は速いテンポで進みます。ロシアのオケらしいドギツイ強烈さは無く、すっきりと爽やかな響きのオケです。

三楽章、テンポの動きはほとんどありません。中間部は繊細な弦の動きが美しいです。

四楽章、かなりたっぷりと演奏される運命の動機。徐々にクレッシェンドするトランペット。かなり速い第一主題は切り込むように鋭く食い込んで来ます。大きな仕掛けなどは無く、楽譜に忠実な演奏です。その分個性はありません。また、響きにも極上の美しさが無いので、ちょっと厳しい感じがします。朗々と歌うコーダのトランペット。

強い個性や主張は感じられない演奏でした。楽譜を忠実に音にする演奏だったと思います。響きに極上の美しさが感じられなかったので、この演奏に惹きつけられることはありませんでした。
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ネーメ・ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団

ヤルヴィ
一楽章、黒い雲が空を覆い尽くすような暗い運命の動機。薄いカーテンの向こうから響いて来るような第一主題。金管はそれなりに鳴りますが、あまりスケールの大きな演奏ではありません。大きく音量を変化させて歌う第二主題。力みがあるのか、トゥッティは少し硬直した響きに感じます。ファゴットの第一主題は哀愁に満ちた美しいものでした。

二楽章、詰まったようなホルン。凄く小さく委縮したようなソロです。弦の第一主題も伸びやかさがあまりありません。中間部のクラリネットはゆっくりとしかも大きくアゴーギクを効かせて歌いました。運命の動機はテンポを落として大きな表現でした。どうも強奏で音が硬くなる感じがして伸びやかな響きになりません。

三楽章、何かぶっきらぼうな主要主題。しなやかさや柔らかさが感じられません。テンポの動きもありますが、浅い演奏に感じます。

四楽章、あまり鳴りが良くなく思い切りの悪い感じがする運命の動機。遠くから響いてくるようなトランペット。かなり速いテンポの第一主題。金管の鳴りもあまり良くない感じで響きが重いです。コーダも委縮しているように伸びやかさがありません。最後も勝利の歓びなどはあまり感じることが出来ない硬い演奏でした。

あまりに委縮した伸びやかさの無いスケールの小さい音楽でした。この演奏に関してはパパ・ヤルヴィどうしたんだろう?と言う演奏でした。
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Ilya Stupel/リヴィウフィルハーモニー管弦楽団

Stupel
ウクライナ最古のオーケストラの一つだそうです。

一楽章、重く暗い空気は無く、軽くサラッとした運命の動機。明るく俊敏な反応で歌う第一主題。金管は控えめで、ビリビリとは響きません。第二主題は、響きに透明感が無く、きつい響きになることがありますし音程が合わず響きが濁ることもあります。トランペットはほとんど聞こえて来ません。ほとんどインテンポで間延びした部分もありましたが、コーダで一時テンポを速めました。

二楽章、僅かな抑揚しか無い序奏。ビブラートのかかった細く締まったホルンのソロ。この楽章はテンポの動きもありますが、表現はあまり積極的ではありません。中間部のクラリネットはとても速いテンポです。運命の動機でも他の音にかき消されてしまうトランペット。続く第一主題はやはり抑制的で、あまり歌いません。最後のクラリネットもほとんど歌わずあっさりと終わりました。

三楽章、とても速いテンポで素っ気ない主要主題。中間部の弦の刻みは表情があって迫って来るようなエネルギーがありました。

四楽章、トランペットだけ反響板の後ろからでも演奏しているように音が出て来ません。激しいティンパニのクレッシェンドに合わせて激しく演奏される第一主題。テンポは動くのですが、テンポを落とした部分の間が悪い感じで間延びしてしまいます。トロンボーンは突出するような場面が多くあります。コーダはかなり速いテンポで演奏にムラがあるような感じがします。最後はトランペットもしっかりと出て来て荒々しく終わりました。

テンポの動きや表現が独特で、違う曲を聞いているような感覚になりました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第1番「巨人」

マーラーの交響曲第1番「巨人」は、彼が書いた最初の交響曲であり、若きマーラーの感性や独特な世界観が詰まった作品です。「巨人」という副題が示すように、この曲には自然、人生、そして人間の内面的な葛藤といった壮大なテーマが感じられます。以下、各楽章について説明します。

1. 第1楽章:Langsam, schleppend – Immer sehr gemächlich

静かな導入で始まり、自然が目覚めるかのように、鳥のさえずりや野原の風景を連想させる音楽が流れます。最初は穏やかですが、徐々に力強さが増し、生命が湧き立つようなエネルギーを感じさせます。ここにはマーラーが愛した自然と生命の息吹が表現されており、聴く人を幻想的な世界へと引き込みます。

2. 第2楽章:Kräftig bewegt, doch nicht zu schnell

この楽章は、オーストリアの民俗舞踊「レントラー」を取り入れたものです。快活でリズミカルなメロディが特徴で、田舎の素朴な楽しさやお祭りの雰囲気が伝わります。途中でテンポが変わり、しっとりとしたメロディが現れるなど、軽やかさと美しさが共存しています。

3. 第3楽章:Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen

この楽章は独特で、葬送行進曲の形式で展開されます。最初に、子供の歌「フレール・ジャック」の旋律が短調で静かに現れ、やや不気味な雰囲気を作り出します。これはマーラーのユーモアと皮肉が現れている部分でもあります。その後、ユダヤ風の音楽やカフェ音楽風のメロディが続き、人生の悲しみや喜びが交錯するような印象を与えます。

4. 第4楽章:Stürmisch bewegt – Energisch

最後の楽章はドラマチックで、激しい情熱に満ちています。冒頭からトランペットやティンパニの迫力ある音で幕が開き、混乱や葛藤、そして勝利へと向かう激しい展開が続きます。終盤に向かって大きな高揚があり、ついには輝かしいフィナーレで締めくくられます。

全体の印象

「巨人」は、若いマーラーのエネルギーや感性が強く表れた作品です。自然の美しさ、人間の感情、人生の苦しみと歓喜が詰まっており、彼の音楽に対する哲学が垣間見えます。また、伝統的な交響曲の枠を超えた大胆な構成が、マーラーの独創性を感じさせます。

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
1990年のライブ録音です。

一楽章、遅めのテンポで冒頭から重い雰囲気にあふれています。開始2分の間にもかなりテンポが動いています。テンポの動きに伴ったアゴーギクも十分。シカゴsoもショルティの演奏とは違った音楽的な面を聴かせてくれます。
テンシュテットって全身がアゴーギクで出来上がっている人ではないかと思わせるくらい自由にテンポが動き、その動きに合わせて表現が変化する。だから音楽の密度がものすごく濃い。
全体に遅いテンポで着実な足取りで油絵のような濃い音楽を刻んで行く。凄い!圧倒されます。

二楽章、音楽が生き生きしている。とにかく凄い。いつもながら引き込まれてしまいます。
オケの上手さがこのような形で音楽として演奏されると、オケの機能の高さの重要性も感じます。

三楽章、コントラバスのソロもとても表情豊かです。作品と指揮者、オケが一体になって音楽が出来上がって行く。これだけ自在に音楽を引き出せるテンシュテットの能力の高さにも驚かざるを得ない。オケの集中力の高さも、音楽監督のショルティが振る以上かもしれない。
それにしても、ライブでこれだけの集中力を発揮するシカゴsoもすばらしい。また、指揮者によってこれだけ表情を変えることができるのもオケの懐の深いところですね。

四楽章、ffでも全くアンサンブルが乱れない。この楽章もテンポは遅めです。他のCDでは聴かれなかったバストロンボーンのffが出てきたり。色彩のパレットをひっくり返したような色とりどり!
さらに遅いところは、たっぷりと歌い続けます。
テンシュテットの演奏は華麗さやきらびやかさなどとは無縁の演奏です。どちらかと言うと、内面へ内面へと向かう。内面へ問い詰めた結果が外部に放出されたのが、テンシュテットの音楽で、そこには作品に対する深い共感があるのでしょう。
表面が磨かれた、美しい音楽を聴きたい人には「他を当たってくれ!」と頑固親父が言っているようです。
内面の葛藤や共感やいろんなものが音として発散されるが、臭いものや汚いものも一緒に吐き出すような壮絶さがあります。テンシュテットにとっては音楽は、綺麗ごとではなかったのでしょう。終わりに近づくにしたがって、人生に疲れ果てたような、黄昏を感じさせます。

すさまじい絶叫で終演!このライブでシカゴsoはほとんどノーミスだったのではないだろうか。

フランソワ=グザヴィエ・ロト/バーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで弱音で注意深く演奏されるオーボエとファゴットの動機。トランペットのファンファーレを暗示するようなクラリネットの旋律が霧の中にボヤーッと浮かび上がります。バンダのトランペットもかなりの距離感ですが、鮮明に聞こえます。遠近のコントラストや色彩感がとても鮮明です。オケの技術レベルは相当に高いようで、とても美しい演奏です。控え目ですが、とても美しいチェロの第一主題。展開部の雰囲気が沈む感じも上手く表現されています。抜けの良いE♭クラ。トランペットのファンファーレも非常に輝かしく美しい。トゥッティでも整然として全く乱れることのないオケもすばらしい。

二楽章、一楽章から一転して速めのテンポです。弾むように軽快なスケルツォ主部ですが突然入ってくるホルンやティパニが強烈です。中間部は意図的に歌うことは無いようですが、デュナーミクの変化などははっきり付けるので表現は豊かです。スケルツォ主部が戻ると再び生き生きとした活気に溢れる演奏が展開されます。

三楽章、遠くから豊かな残響を伴って響くティンパニ。そのティパニとほぼ同じ音量で開始されるコントラバス。その後いろくな楽器が重なってきますが、とても透明感の高い演奏です。中間部冒頭のヴァイオリンのメロディはヴェールに包まれているような美しさでした。鮮度の高い音色で音楽が生き生きしています。

四楽章、一撃の後にすぐ音を止めたシンバル。すごく透明感の高いブラスセクション。かなり強奏はされていますが、整然としています。抑制的な第二主題が次第に力を持って大きなうねりになります。展開部で突き抜けて来るトランペットも凄い!コーダでの伸びやかなブラスセクション。力強いクライマックスを築き上げました。

ギーレン以来の透明感の高い響きを生かして、明晰な演奏はすばらしいものでした。
凄かった。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★★★
一楽章、弦のフラジオレットに隠れるようなオーボエとファゴット。生き生きとした生命観の宿るクラリネット。ミュートをしたトランペット。穏やかな第一主題。青春の息吹に溢れています。温度感があって暖かい演奏です。トランペットのファンファーレからの金管の強奏は凄いものでした。若さの爆発でした。

二楽章、とても明るい活気に溢れる演奏です。表現も積極的で演奏がこちらに迫ってきます。中間部の弦は人数を減らして演奏しているような静けさがあります。スケルツォ主部が戻るさらに活気に溢れた演奏になり、青春の希望に溢れた様子が上手く表現されています。

三楽章、主題が重なってから登場するオーボエやその後の演奏も表情がとても豊かです。中間部はとても丁寧に一音一音確認するように演奏されます。オケの響きには温度感があって暖かいです。主部の回帰は最初のテンポよりも速めですがその後テンポを落としました。

四楽章、冒頭から第一主題にかけては、途中ガクッとテンポを落とす部分もあり、びっくりさせられました。第二主題は録音の古さから美しさは感じませんが、息の長い歌がとても良かったです。展開部でもテンポが凄く変化します。かなり金管を鳴らした展開部でした。その後もテンポは自由に動きます。トランペットのファンファーレの後でもテンポを大きく落として克明な表現です。

青春の希望に溢れる輝かしい演奏はすばらしいものでした。特に四楽章のテンポを落とした表現はすばらしかったです。

マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、極めて静かなフラジオレット。ゆっくりと丁寧に演奏される木管。やはりゆっくりと遠くから響くバンダのトランペット。少しテンポを上げて軽い表情の第一主題が序奏と表情を一転させます。提示部の反復の前でテンポを上げて反復の直前でテンポを落としました。鋭く突き刺さってくるトランペット。展開部へ入っても登場する楽器の輪郭が鮮明で密度も濃く、くっきりと浮かび上がります。ミュートを付けたトランペットのファンファーレは強烈でした。ミュートを外してオープンになったトランペットのファンファーレも突出していました。すごいダイナミックレンジです。

二楽章、主旋律以外の弦もガリガリと強く入って来ます。とても躍動感のある音楽です。中間部ではサクサクと進むかと思えば突然立ち止まってみたりもします。伸び伸びとオケのメンバーが楽しそうに音楽をしている様子が伝わってくるようなほほえましい演奏です。

三楽章、とても静かなティンパニとコントラバスの主題。続いて登場する楽器もバランス良く抑えた音量です。おどけた表情で歌うオーボエ。主部の中間部はテンポも動いてたっぷりと歌いました。ハープから始まる中間部のヴァイオリンは少し硬い感じで夢見心地とは行きませんでした。主部が戻って引きずるような重い雰囲気が中間部と対照的で見事な描き分けです。朗々と歌うトランペットも意表を突いた演出です。

四楽章、三楽章の静寂から一転して嵐のような第一主題。サンフランシスコsoのシャープな響きと圧倒的なパワー感が作品にピッタリでとても気持ちが良いです。第二主題も弱音ではありますが、解き放たれたように伸びやかで美しい演奏です。展開部へ入るところで大きくテンポを落としました。屈託無く伸びやかな金管は見事です。まるで全盛期のシカゴsoを聴いているような感覚になります。再現部でも登場する楽器はくっきりと浮かび上がりとても存在が明確です。トランペットのファンファーレの前はかなりテンポが速かったです。ファンファーレの直前にテンポを落としました。コーダでも金管の圧倒的なパワーが炸裂します。

最後は青春の爆発でした。すばらしく美しくシャープな響きと、すごいダイナミックレンジでまさに巨人でした。
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ダニエレ・ガッティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ガッティ★★★★★
一楽章、低音もバランスの良いフラジオレット。滑らかで潤うのあるクラリネット。大きくクレッシェンドするオーボエ。遠くから響くバンダのトランペット。くっきりと克明な音楽です。ゆったりとしたテンポで朗々と歌う第一主題。提示部の反復指定の前でのテンポの変化はありませんでした。反復は行われませんでした。展開部に入って音楽が次第に陰鬱に沈み込む雰囲気は良く表現されていました。ファンファーレの部分も非常にゆったりとしたテンポで堂々とした表現です。

二楽章、ゆったりとしたテンポで抉るような低弦の冒頭です。強いエネルギーをぶつけて来る主題。中間部では少しテンポを速めて、優雅に歌います。トランペットが入るところで一旦テンポを速め快活な演奏になりました。主部が戻って豪快に鳴るホルン。

三楽章、すごく歌い表情豊かなコントラバスのソロ。くっきりと浮かび上がるオーボエ。そっと大切な物を扱うように丁寧な中間部のヴァイオリン。主部が戻ると色彩感豊かな演奏になります。登場する楽器のカラーがとても鮮明でカラフルです。

四楽章、強烈なシンバルの一撃。ゆったりと恰幅の良い第一主題。弦の激しい動きが強調されています。テンポは遅めですが、ライヴらしい熱気もはらんでいます。内に秘めたような息の長い歌をしなやかに歌う第二主題は酔わせてくれます。展開部が始まってしばらくするとテンポをぐっと落としました。ここでも弦の激しい動きが強調されています。ガッティの声も聞こえます。ホルンの咆哮はウィーンpoならではの凄いものです。再現部は一楽章冒頭の緊張感とは一転して、雄大な雰囲気のものでした。朗々と歌う弦が一時の安らぎを与えてくれます。終始ゆったりとしたテンポで堂々と演奏されています。遅いテンポでスケールの大きなコーダでした。

ゆったりとしたテンポで堂々と、そしてしなやかな演奏はすばらしかったです。
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ユーリ・シモノフ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

シモノフ★★★★★
一楽章、非常に遠くから聞こえるフラジオレット。さらに遠いバンダが美しく響きます。穏やかな第一主題。録音レベルが低いのか、遠くから響く音楽が夢見心地です。かなりダイナミックレンジは広いようです。鋭いミュートしたトランペットのファンファーレ。二度目のファンファーレまではテンポを落として濃厚な表現でした。二度目のファンファーレからは一転して速いテンポになりました。賑やかに盛大に盛り上がって終わりました。

二楽章、遅めのテンポです。くっきりとした隈取りで清涼感のある響きですが、濃厚な色彩です。オケも積極的に色彩を演出しています。静かで穏やかな中間部。シルクのような滑らかさです。途中でテンポを落としてたっぷりと歌います。主部が戻って、ホルンも強力に吹きます。シンバルも豪快に炸裂します。すごく色彩感豊です。

三楽章、消え入るような弱音の中からコントラバスのソロが聞こえます。テンポも動いて歌っています。中間部は羽毛で肌を撫でられるような、柔らかで繊細な演奏です。透明感のあるクラリネット。

四楽章、ゆったりとしたテンポで力強いブラスセクション。テンポを落として表情豊かな表現もあります。ブルー系のトーンで温度感は低いですが、とても見通しの良い演奏で、アンサンブルもとても良いようです。第二主題はとても美しい。深い歌を歌います。展開部へ入る前もゆっくりでした。すごいエネルギーと色彩感の展開部。表現も締まっていてとても良い演奏です。再現部の静寂感もすばらしい。滑らかな弦が美しい。二度目のファンファーレはちょっと指が回り切らなかったような感じがしました。コーダはテンポを速めて力強い突進力です。

美しく、繊細で、しかも青春のエネルギーの爆発を見事に表現しました。期待せずに聞いたのですが、すばらしい演奏でした。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★★
一楽章、非常に音に力のある録音です。美しい木管。鋭く響くバンダのトランペット。ゆっくりと感情表現するホルン。控え目で奥ゆかしいチェロの第一主題。良く歌う音楽。鮮烈な色彩感。濃い色彩で刻み込むように力強い金管。第一主題が展開されると楽しい雰囲気になります。ファンファーレの前に弦と木管が交互に出るのが強調されていました。ミュートを付けたトランペットが突き抜けてきます。ファンファーレの後はすごくテンポを落として濃厚な表現です。すばらしいコントラスト。

二楽章、この楽章も良く歌い、色彩感も濃厚で強いコントラストです。マッシヴで強力なパワー感。中間部も動きがあって生命感に溢れています。主部が戻って、沸きあがる豊かな音楽です。

三楽章、粒立ちのはっきりしたティンパニ。乾いた音のコントラバス。棒吹きのようなオーボエ。歌うクラリネット。活発に動く部分と、静かに流れる部分の対比もはっきりしています。中間部も動きがあって生き生きとしています。主部が戻ってもとても良く歌う楽器が次々と登場します。積極的な表現がとても魅力的です。

四楽章、打楽器の強打で激しく歪みます。力強く演奏される第一主題の影で動く弦の表現もしっかりと聞き取れます。ピーンと張った若々しいエネルギーの発散を感じさせます。第二主題も良く歌います。展開部も強烈な色彩の金管。有り余るエネルギーが体当たりしてくるような凄い演奏です。力を出し切って疲れるようにテンポを落として再現部に入りました。感傷的になる部分もあります。本当に良く歌う演奏です。この楽章のファンファーレはゆっくりでした。二度目のファンファーレの後はテンポをガクッと落としましたが、その後テンポを速め、また凄く遅くなって、そのままコーダでした。

凄く濃厚な色彩と、濃厚な表現。テンポも自在で強烈な表現の演奏は現在では聴けないものです。すばらしい演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第1番「巨人」の名盤を試聴したレビュー