ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」6
たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」名盤試聴記
サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団
★★☆
ショルティとシカゴsoとの演奏となると、ジャケットと同じようなキンキラキンな演奏を想像してしまうのですが、はたしてどうでしょう。
一楽章、やはり鋭いトランペットがショルティらしいです。ショルティの録音に共通する高音域を少し強調する録り方なので、ベートーベンのイメージからすると腰高なイメージに感じます。
また、音楽に陶酔するような、情緒的なことは一切ない指揮者なので、切れ味鋭くスッキリ、バッサリです。
二楽章、締まった音のティンパニもいつも通り。と言うかショルティのCDではティンパニはこの音しかないです。ベートーベンであろうが、マーラーであろうが、ストラヴィンスキーであろうが、全く同じ音です。
カラヤンの演奏にも味わいがなかったですが、この演奏も全く味わいはありません。
ただ、オケの完璧さと言う点ではカラヤンと共通するところがあります。
三楽章、ゆったりとしたテンポで良い感じのはじまりです。響きの透明度はカラヤンの演奏よりこちらの方が良いです。
ただ、美しい音が並んでいるだけで、音楽の深みや慈愛に満ちた音楽とは程遠い演奏です。
四楽章、音響の構築物としては完璧なのですが、音楽としての深みを感じられないのがとても残念です。
完璧な演奏の爽快感はあります。
グスタフ・クーン/ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団
★★☆
一楽章、淡い色彩で密度も薄い響き。ポンポンと響くティンパニ。高域があまり含まれていない録音なので、淡く聞こえるようです。音の鮮度があまり高くないように感じてしまいます。あまりこの演奏の特徴が伝わってきません。演奏に表情やニュアンスが感じられません。
二楽章、一つのフレーズの中での強弱の変化などがあまり無く、締まった表現が感じられないのです。ティンパニの音色も曲に合っていなように感じます。他の曲でも感じたのと同じで、緩い感じがどうしてもしてしまいます。
三楽章、静かな演奏です。ソフトタッチで柔らかいです。表現が締っていないので、このようなゆったりとした楽章では穏やかな雰囲気になってとても良いです。さらさらと滑らかに流れて行きます。
四楽章、あまり激しさが無く響きも薄い冒頭。また、レチタティーヴォも軽い感じでした。とても柔らかく優しい歓喜の主題。独唱も柔らかい声です。合唱はあまり響きを伴わず、浅い響きです。歓喜の合唱は合唱にあまり残響を伴わないので力強いですが、その分生の声がブレンドされないので、バラバラに聞こえます。最後は少しアッチェレランドして終わりました。
四楽章の合唱は力強かったですが、そのほかは終始柔らかい表現で、あまり強い主張は感じられない演奏でした。
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シャルル・ミュンシュ/ボストン交響楽団
★★☆
一楽章、結構激しい第一主題。速めのテンポで推進力が強い演奏です。ティンパニのクレッシェンドの前でテンポが速くなりました。追い立てるようなテンポで先へ先へと進みます。もの凄い勢いと激しさです。ミュンシュの感情に任せたテンポの動きはパリoの発足ライヴの幻想で思い知らされましたが、この演奏でもそのままです。
二楽章、この楽章も前のめりで勢いのある演奏です。詰まったようなティンパニの響き。躍動感もあり歌もあります。勢いは凄いのですが、アンサンブルの乱れがあったり、若干雑な印象もあります。
三楽章、一転して浮遊感のある幻想的な表現です。精緻な演奏ではなく、だいたい合っていれば良しと言うような感覚の演奏です。アクセントも強く少し荒い感じもあります。
四楽章、トランペットが強烈な冒頭。レチタティーヴォもそこだけクローズアップされたように大きく鳴り響きます。歓喜の主題もあまり音量を落とさずに普通に演奏します。トランペットが加わるあたりでは、歓喜が溢れ出すような感情に満ちた表現です。細身のバリトン独唱。歯切れの良い合唱。予想外に大人しい行進曲。トライアングルがあまり良い音ではありません。歓喜の合唱は盛大で音を短めに歌う合唱。合いの手のトランペットも音は短めです。合唱は混濁します。Prestissimoは意外と落ち着いたテンポで終わりました。
感情の動きの大きさをそのまま演奏に表現したような演奏でした。盛大な歓喜の合唱などストレートな表現の多い演奏でしたが、感情に傾く分、アンサンブルの乱れや雑なところがあったのと、歓喜の合唱などで音を短く演奏したのが、不思議でした。
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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団
★★
一楽章、遅いのか、テンポがかなり変わっているのか、たどたどしいような感じさえ受けてしまう冒頭です。途中から落ち着いてきたようです。
冒頭部分はフルトヴェングラーが意図したテンポの動きだったのか?「振ると面食らう」と言われるほど、分かりにくい指揮で有名だったフルトヴェングラー。もしかしたらオケのメンバーが面食らってあんなたどたどしい冒頭になったのではと思うのは私だけです。
やはりテンポは動きます。
二楽章、遅めのテンポで始まりましたが、タメがあって力強い冒頭でした。すぐに一般的に聴くくらいのテンポ設定になります。パートによって付点が甘いところもあります。
こんなにテンポが動いて良いのかと思うくらい自在なテンポ。スケルツォの速いテンポのイメージよりもゆったりとした部分の旋律を歌っているのが印象的です。
三楽章、遅い!私は、ある程度録音が良くないと、音楽に浸ることができないタイプなので、この録音から美しさを感じ取ることができません。このテンポだと、朝比奈の演奏にはどっぷり浸ることができました。しかし、この録音に酔いしれることができないのです。
この楽章でも、テンポが大きく動いて、作品に没入しているフルトヴェングラーの凄さを垣間見ることはできるのですが、何度も聴きたいとは思わないです。
四楽章、この楽章もテンポは楽譜を無視しているかのように動きます。またトランペットが強く長めに吹く部分が印象的です。
独唱陣はN響の73年のメンバーより上手いです。
ただ、オケは低音が遅れたり、いろいろあります。
プレスティシモからは猛烈なアッチェレランドでその上録音も悪いので、オケが付いていけているのかシンバルにかき消されて分かりません。
ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団
★★
一楽章、全曲に共通したまろやかな響きの演奏です。
わずかにテンポを煽るようなスピード感もあります。爽やかに整った演奏です。
ひっかかる部分が無く滑らかに音楽が進みます。
二楽章、切れの良い軽快な演奏です。トランペットやティンパニにアンサンブルの乱れが若干あります。
三楽章、中庸です。取り立てて表現が際立っているということはありません。
四楽章、非常に大人しく控え目な出だしでした。すごく小さい編成で演奏しているような錯覚に陥ります。
合唱も控え目です。とても抑制の効いた演奏です。
リミッターがかかったようにffが抑えられるので、とても品の良い演奏に聞こえますが、欲求不満にもなりそうです。
モノトーンで彩られた感じで、原色のような鮮やかな色彩感はありません。
ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団
★★
一楽章、アクセントの強い断片的な動機。少し高域に寄った録音です。極めてオーソドックスで奇をてらうような事は全くありません。ティンパニのクレッシェンドは激しいものでした。次第に演奏に激しさが加わって来ます。
二楽章、確実に拍を刻み厳格に進みます。木管が大きくはっきりと聞こえる割にティンパニが遠いです。豪快に唸りを上げる弦。
三楽章、二楽章の豪快さから一転して穏やかですが、速めのテンポであっさりと進みます。聞き進むうちにこのテンポの速さが気になります。どうしてこんなに速いのか?
四楽章、冒頭の金管も低弦のレチタティーヴォも激しいです。低弦の歓喜の主題もテンポは速めです。金管の歓喜の主題は響きが浅いです。合唱も奥行き感が無く浅い響きになっています。Alla marcia Allegro assai vivaceの前のフェルマーターのティンパニにデクレッシェンドが書かれていますが、大きいままでした。テンポが速く力強い歓喜の合唱ですが、深く踏み込んだ表現は無く、軽い印象の演奏です。Prestissimoは割と落ち着いています。最後はアッチェレランドして終わりました。
豪快に弦を鳴らした演奏でしたが、録音のせいか、響きが浅く、表現も踏み込んだ表現では無かったので、あまり印象に残る演奏ではありませんでした。
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イーゴリ・マルケヴィチ/ラムルー管弦楽団
★★
一楽章、編成が小さいように感じるまとまりの良さ。第一主題もティンパニ以外はほとんど力を入れずに演奏しているように感じます。あまり残響を含んでいないので、ヴァイオリンなどは少し枯れた音です。録音のレンジも狭いようで、コントラバスも軽い響きがします。ティンバニのロールはわずかなどクレッシェンド程度です。
二楽章、残響が少なく生々しい音のティンパニ。ザクザクと躍動感のある音楽が前進します。すっきりとした見通しの良いアンサンブル。フランスのオケらしい明るいホルン。以外に情緒的に動くテンポ。
三楽章、美しくすがすがしささえ感じさせます。深く感情移入するような演奏ではあませんが、過不足無く歌はりますがテンポは速めでどんどんあっさりと進みます。トランペットは奥まったところからあまり抜けてきません。
四楽章、弱めの冒頭です。レチタティーヴォもコントラバスが軽く量感がありません。トランペットの4分音符も短めで、とても軽い演奏です。静かで爽やかな歓喜の主題。バリトン独唱も粘りません。合唱はかなり人数が少ないのか、とても弱いです。行進曲の前のフェルマーターのティンパニは楽譜通りデクレッシェンドしました。テノールも明るく明快な歌唱です。それにしてもオケの響きには厚みがありません。合唱がオフマイクになっているのか、あまり明瞭ではありません。特に男声合唱が心もとない。Prestissimoも落ち着いたテンポです。
深い感情移入は無く、熱狂などはもちろんありません。それはそれで音楽の表現なので、良いのですが、合唱がオフぎみで聞き取りにくく、オケの響きもとても薄く浅い響きになってしまったのが残念です。
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ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団
★★
一楽章、静かな音がこだまするような冒頭。少し間を空けて入った第一主題。濃厚な表情付けは行われず、あっさりとした表現です。第二主題もあっさりとしています。感情の起伏も大きくはなく、整然としています。ティンパニのロールは激しいクレッシェンドがありました。響きも爽やかで清涼感があります。
二楽章、吸い込まれそうになる弱音の美しさ。強奏部分でも力を込めることは無く、サラリと流れて行きます。中間部の最後はかなりテンポを落としました。
三楽章、静かに深く厳かに歌います。テンポが速まったり、遅くなったり自在に動きながらかなり速いテンポになります。
四楽章、荒れ狂うような冒頭では無く、とても落ち着いて整った演奏です。レチタティーヴォも重厚感は無く、サラッとしています。二楽章を回想する部分はとても表情豊かでした。テンポも大きく動きますが、極端に煽り過ぎているような感じがして不自然です。伸びやかなバリトン独唱。合唱も実在感があって美しく量感があります。行進曲の前のフェルマーターのティンパニは楽譜と違ってデクレッシェンドしませんでした。行進曲はとても速いテンポです。歓喜の合唱もかなり速いテンポです。その後もテンポは大きく動きますが、かなり強引なテンポの動きで不自然です。自然な感情の動きから出て来るテンポでは無く、最初からここはこのテンポと決めて、そこへ無理やり持って行くような感じがしてどうも好きになれません。
弱音部分がとても美しい演奏でしたが、テンポの動きが作為的で、私にはとても不自然に感じました。感情の動きと連動したテンポの動きなら良かったと思うのですが・・・・・。
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エマニュエル・クリヴィヌ/ラ・シャンブル・フィルハーモニク
★★
一楽章、第一主題の断片が詰まっているように速い演奏です。音をあまり伸ばさずに軽く演奏した第一主題。一部テヌートぎみに演奏するなど独特の表現です。速いテンポで強弱の変化などにも独特の表現がありますが、ちょっとぶっきらぼうな感じを受けます。乾いた響きのティンパニのクレッシェンド。速いテンポではつらつとしていますが、激しい表現です。コーダではクレッシェンド、デクレッシェンドを繰り返す独自の表現がありました。
二楽章、あまり凹凸なく比較的平板に流れています。ガット弦の鋭い響き。テンポがわずかに動いたり、テヌートで演奏したり色んな表現をしています。
三楽章、かなり速いテンポの演奏で、あまり味わいがありません。ナチュラルホルンでのソロはかなり大変そうでした。
四楽章、独唱陣がステージ奥の下手側に陣取っています。トランペットがあまり聞こえずフルートが聞こえる冒頭。レチタティーヴォはピリオド楽器独特の鋭く伸びのある音ですが、コントラバスはあまり聞こえず響きが薄いです。独特の歌い回しがあります。ヴァイオリンのすがすがしい歓喜の主題。トランペットがベルに手を当てて音程を調整しています。三楽章のホルンもそうですが、なんでこんなに難しい方法であえて演奏しないといけないのか分かりません。フェルマーターでティンパニはデクレッシェンドしませんでした。行進曲もとても速いです。歓喜の合唱は女声ばかり聞こえて男声合唱はあまり聞こえませんでした。Prestissimoは最後加速して急減速して終わりました。
クリヴィヌ自身が楽譜の研究をした成果だと思いますが、独特の表現が随所にありました。ただ、普段から聞きなれた演奏とは大きく違うので抵抗もありました。また、ピリオド楽器の扱いの難しさなどから木管の音程が不安定だったり、ホルンのソロの音が出たり引っ込んだりする部分もあり、なぜあえて難しい楽器で演奏しないといけないのか、私には理解できませんでした。
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