ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」5
たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記
朝比奈 隆/NHK交響楽団
一楽章、晩年の演奏スタイルとは少し違って、かなりロマンティックな演奏で、感情の揺れにあわせてテンポも動きます。とくに木管の美しいメロディはたっぷり歌わせています。
また、テンポも晩年の演奏に比べて速めで、推進力もあり力強い演奏です。アゴーギクも効かせた表現力のある気迫のこもった指揮です。
二楽章、かなり劇的な表現です。晩年の自然体へ至るプロセスを順を追って聴いてみたい気持ちになります。
ライナーノートによると、この録音が朝比奈の一番古い「英雄」だそうです。
三楽章、ダイナミックな表現も晩年とは違います。当時の感情をストレートに表現したものであれば興味深いものです。晩年の自然体もすばらしいものがありますが、この当時すでに「英雄」の演奏スタイルを確立していたと思われます。
この演奏もなかなか魅力的です。
四楽章、スピード感のある演奏です。ロマン溢れる表現ですが、作為的なところは全く感じさせない表現で、その意味ではこの時期すでに自然体の源流が生まれていたと言う事か。
正直なところ朝比奈の60年代の録音にはあまり興味がなかったのですが、聴いてみてさらに朝比奈のことを知りたいと思うようになりました。
カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★☆
一楽章、巷で言われているほど悪くはないと思います。ライブほどの凄みはありませんが、整った演奏ですし、音を置きに行くような演奏でもありません。勢いもあります。
ただ、ライブで聴くようなどっしりと骨格のしっかりした演奏よりも少し腰高で時に音が宙をさまようような感覚があるところがマイナス点かもしれません。
二楽章、悲しみの淵へ落ちて行くような演奏はライブじゃないとなかなか実現しないのかもしれませんね。この楽章も悪くはありません。
もう少し、悲しみの表現があれば良かった。
三楽章、
四楽章、コントラバスもゴリゴリと力強い。演奏としてはかなり良いと思いますが、やはりベームのライブを聴いてしまった後では、物足りなさを感じてしまいます。
サー・ゲオルグ・ショルティ/ハンブルク・北ドイツ放送交響楽団
★★★☆
一楽章、シカゴsoとのスタジオ録音のようなキンキンした音ではなく、マイルドで聴きやすい録音です。
ショルティ最晩年の演奏と言えども、そこはショルティ。音楽の推進力はさすがです。骨格のがっちりした音楽作りも変わらないところです。
前へ行こうとする推進力の中に熱いものを感じさせる演奏です。
ただ、ベートーベンの内面を表出するようなタイプの指揮者ではないので、どちらかと言うと造形の美しさを聞くべき演奏なのではないかと思います。
音楽の流れは、ひっかかるようなところや強調するところもなくとてもスムーズです。
二楽章、ショルティらしく感傷的になるようなことは一切なく、淡々と音楽が進みます。
テンポ設定も速めで、葬送行進曲のイメージとはかけ離れていると思います。ひたすら、音の美しさを追求しているのでしょうか。
三楽章、一楽章は中庸なテンポでしたが、二楽章、三楽章は速いです。
推進力があって、若々しい気迫溢れる音楽になっています。最晩年の演奏がこれだけ力強いと言うのも、ショルティならではですね。
この指揮者は一生枯れることなく演奏活動を終えたのでしょう。晩年には散漫な演奏をした巨匠もいましたが、ショルティは集中力の高い演奏を続けていたことは驚きです。
四楽章、この楽章もテンポは速めの設定です。
「英雄」という作品に込められた内的なものは表現していないかもしれませんが、これだけ瑞々しく生命感に溢れた演奏も良いものです。
フリッツ・ライナー/シカゴ交響楽団
★★★☆
一楽章、すごく間を空けた二つの主和音。良く鳴るトランペット。スピート感と緊張感のある演奏です。あまり濃厚な表現やテンポの揺れなどはありませんが、とても引き締まった強いエネルギーを放つ演奏です。録音は古くモノラルですが、美しい響きの演奏です。シカゴsoの筋肉質の響きはショルティの時代に出来上がったものでは無いことがこの演奏で分かります。コーダのトランペットの第一主題にスラーとスタッカートを織り交ぜた演奏をしました。これはちょっと違和感がありました。
二楽章、暗く沈む音楽です。レイ・スティルのオーボエか、鋭い響きです。金管が独特のフレージングをします。トランペットがかなり強く吹きます。
三楽章、テンポは速いですが、スピード感と湧き上がるような生命感の生き生きとした音楽です。そこまでの積極的な音楽からすると、控え目なトリオのホルン。
四楽章、激しく怒涛のような序奏。この楽章でもスピード感は健在です。トランペットが強く演奏します。シカゴsoらしくホルンも強力です。ホルンが朗々と歌う部分で突然音量を落としたりしました。コーダの金管もシカゴsoらしい強奏でした。
スピート感と緊張感のある演奏で、最後まで続く推進力はなかなかでしたが、独特のフレージングや突然の音量変化などはちょっと抵抗がありました。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、いつもながらに振幅の大きい音楽です。しかし、テンシュテットがマーラーを指揮するときのような、常軌を逸したかのような表現はありません。
二楽章、沈み込んでいく表現は、さすがです。テンポも大きく動いています。音楽が進むにつれて表現の幅が広がってきているようです。
三楽章、表現の思い切りが良いので、ちょっと下品になりそうな部分も納得してしまいます。
四楽章、テンポを落としたところでは、じっくり歌います。でも、同じ年に録音した第九のライブに比べるとかなり大人しいように感じます。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、速い!テンポが速いと、スピード感があるというのは違います。
この演奏はテンポが速い。快速に飛ばします。ただ、音楽が前へ行こうとはしません。
オーケストラのアンサンブルはバッチリ決まります。響きは厚く、このテンポには厚すぎるような感じさえします。
フェラーリにでも乗ってアウトバーンをブッ飛ばしながら聞くのにちょうど良いような演奏で、ベートーヴェンが作品に込めた、人間の自由とか解放などとは無縁です。
ただ、ひたすらかっこよく颯爽としていることにだけ重点を置いた演奏のようです。
トランペットはファンファーレのように気持ちよく鳴り響きます。これはこれの楽しみ方があるのでしょう。
二楽章、美しいです。重さや暗さはもちろんありません。美しい音の構築物として聴くべき演奏ですね。ベートーヴェンの精神性を考えると演奏とのギャップに不満が出てきますが、心地よい音響として楽しむことに割り切れば、このゴージャスな演奏はなかなか良いです。
それにしても、オケは良く鳴ります。気持ちいいくらいです。
三楽章、かなり編成が大きいのか、強弱の変化はすこく幅があります。とても明るいホルンの響きが印象的でした。
豪華絢爛でした。
四楽章、全楽章を通して、速いテンポ設定でした。このテンポで演奏されると、別の観点で感動します。
すごい。確かにベートーヴェンの内面を抉り出すような演奏ではないけど、一つの基準として捉えるには良いかも知れません。
これだけ、音響的に磨いた演奏を聴いておけば、内側へ没入して行くタイプの演奏の凄みも十分感じることができると思います。最初にベートーヴェンを気持ちよく聴くには良いでしょう。
クラシック・ファンがこのような演奏からスタートすることも否定してはいけないのではないかと思いました。
最初は抵抗があったけど、気持ちの持ちようで、気持ちよく聞けました。
ギュンター・ヘルビッヒ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、ホールに響く音がすごく綺麗でした。テンポは速めでスピード感があってなかなか良い演奏です。
強烈な主張はしてきませんが、不足なく表現はしています。
二楽章、表現は控えめながら、ジワジワと迫り来るものがあります。響きも透明感があって、混濁することはありません。美しいです。突き抜けてくるところも、しっかりあります。
ぐっと沈み込むような演奏ではありませんが、表現の振幅は広くなかなか聴き応えがあります。
三楽章、オケは十分鳴らしていますが、比較的端正な演奏で、危なっかしさなどもありません。
響きが明るいので、ドイツ的な重さは感じられません。
四楽章、響きが明るくて開放的なので、南国風ベートーベンといった趣きで、内面的なものを表出するというよりも、楽天的な演奏です。
ホルンの咆哮はすごい!控えめなトランペットに対して、遠慮なく吹きまくるホルンに拍手!!!!
カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、ゆったりしたテンポです。朝比奈と同じぐらいのテンポ設定でしょうか。
ゆったりしたテンポではありますが、響きはすっきりしていて、野暮ったい演奏にはなりません。
むしろ響きが薄いかもしれません。スピード感もありませんが、丁寧に一音一音を奏でるような演奏です。ジュリーニの歌にあわせてテンポも微妙に変化しています。
「英雄」の演奏にしては、女性的かもしれません。豪快な演奏とは遠い、非常にナイーブで繊細な「英雄」です。
とても穏やかな「英雄」です。木管楽器のメロディは蝶が舞うような優雅さがあります。一音一音大切に大切に演奏していて、暴発するようなこともありません。
二楽章、少ない人数で演奏しているのでしょうか。とても寂しげな感じが表現されています。この楽章はジュリーニの面目躍如と言ったところでしょうか。
すごく静かな二楽章です。これは生で聴けたら良かっただろうなあと思います。
ずっとレガートな感じで、ガツンとくることは絶対にありません。音楽の洪水の中に浮かんでいるような、そしてゆったりと癒されているような心地よさです。
ジュリーニにしか表現できない特別な世界のように思います。この演奏に抵抗を感じる人もいるでしょう。今までの概念とは全く違います。
三楽章、この楽章もゆったりしたテンポで演奏されます。
四楽章、遅いテンポで音楽にどっぷりと浸ることができるのですが、ベートーベンの音楽ってpがあってfになって、またpになっての繰り返しのような音楽だと思うのですが、ジュリーニの演奏は全体がレガートになっているような感じでpからfに変わるところの境目に壁がそそり立つような変化がなく、緩やかにfへ移行するようなところがあるので、しなやかなのですが、女性的な演奏に聞こえるんです。
この遅さは、オケも聴衆も忍耐です(^ ^)
この演奏には賛否両論があると思います。
「英雄」フリークには絶対に聞いておいて欲しい演奏ですが、あまり数を聴かない人にはお勧めできません。
ファビオ・ルイージ/デンマーク放送交響楽団
★★★
一楽章、最初の主和音二つは速かったですが、その後の第一主題は一般的なテンポです。ffでも当たりはソフトでガツガツとした演奏ではなく、優雅な雰囲気です。提示部の反復がありました。激しい部分を激しく感じさせないように演奏しているように感じます。トランペットはベートーベンの楽譜の記載に従って演奏しています。
二楽章、フワッとしていますが、主要主題の悲しみの表現はあります。テンポも動くところがありました。ただ、基本はほとんどインテンポです。ルイージの指揮を見ているとかなり起伏のある演奏をしているようなのですが、音圧としてあまり届いて来ません。Cの後半でテンポを落としてたっぷりと歌いました。
三楽章、湧き上がるような生き生きとした動きのある音楽です。ティンパニが強烈でした。
四楽章、フワッとした柔らかい響きが特徴的で、音楽の起伏はありますが、イメージとしては穏やかな演奏と言う感じです。
オケのメンバーも楽しそうに演奏していました。ガリガリ、ゴツゴツした演奏ではなく、とても柔らかくソフトなベートーベンでした。
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ハンス・シュミット・イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、明るく軽い響きの主和音。流れるような第一主題。前へ進む力の強い演奏です。とても良く歌うオケ。重さは無く、かなり軽快で優雅です。晴れ渡る空のようにスカッとした軽やかな気分にさせてくれる演奏です。色彩感は鮮明です。
二楽章、この楽章でもとても良く歌う主要主題。明るい響きで、悲嘆にくれるような演奏ではありませんが、歌に満ち溢れています。Bに入っても明快で、良く歌う演奏が続きます。Cに入っても悲壮感はあまり無く、暗く落ち込んで行く感じはありません。カラッとした雰囲気です。
三楽章、この楽章も弾むように軽快です。ふくよかなトリオのホルン。
四楽章、序奏の最後でゆったりしました。明るく美しい弦の響き。歌う木管。低域があまり収録されていないから軽快に聞こえるのでしょうか。トゥッティでも分厚い響きはありません。クライマックスでかなり強く吹くホルンですがスケール感はありません。コーダで吠えるホルンが凄いです。
とても良く歌う演奏は魅力的でしたが、反面演奏が軽く軽快な英雄でした。この作品はもっと重量感のあるものだと思うのですが・・・・。
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ヘルベルト・ブロムシュテット/パリ管弦楽団
★★★
一楽章、流れるような第一主題。スピード感のある演奏で、歌も十分です。提示部の反復がありました。作品の持っている荒々しさや激しさも良く表現しています。とても良く歌い、快速で進む音楽。トゥッティの厚みも申し分ないです。バットをフルスイングするような豪快なトゥッティ。かなりの燃焼度の演奏です。コーダのトランペットは楽譜通りです。
二楽章、速めのテンポですが、ほの暗い雰囲気です。一楽章のスピード感は影をひそめ、たたずむような演奏です。Bに入って透明感の高い木管が美しいです。トランペットの強奏やティンパニの強打もあり、かなり起伏の激しい音楽です。
三楽章、舞い踊るような躍動感です。見事な木管のアンサンブル。凄く表現の幅が広いトリオのホルン。それぞれの楽章にはっきりとしたカラーを持たせているようで、楽章ごとの描き分けがはっきりしています。
四楽章、とても軽やかな演奏です。良く歌い表現の幅も広いです。この楽章をとても軽く演奏しました。
楽章ごとの描き分けが見事でしたが、四楽章をすごく軽く演奏したのが、ちょっと意外でしたし、個人的には不満です。
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