カテゴリー: 交響曲

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」5

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★☆
1967年の録音

一楽章、晩年の演奏スタイルとは少し違って、かなりロマンティックな演奏で、感情の揺れにあわせてテンポも動きます。とくに木管の美しいメロディはたっぷり歌わせています。
また、テンポも晩年の演奏に比べて速めで、推進力もあり力強い演奏です。アゴーギクも効かせた表現力のある気迫のこもった指揮です。

二楽章、かなり劇的な表現です。晩年の自然体へ至るプロセスを順を追って聴いてみたい気持ちになります。
ライナーノートによると、この録音が朝比奈の一番古い「英雄」だそうです。

三楽章、ダイナミックな表現も晩年とは違います。当時の感情をストレートに表現したものであれば興味深いものです。晩年の自然体もすばらしいものがありますが、この当時すでに「英雄」の演奏スタイルを確立していたと思われます。
この演奏もなかなか魅力的です。

四楽章、スピード感のある演奏です。ロマン溢れる表現ですが、作為的なところは全く感じさせない表現で、その意味ではこの時期すでに自然体の源流が生まれていたと言う事か。

正直なところ朝比奈の60年代の録音にはあまり興味がなかったのですが、聴いてみてさらに朝比奈のことを知りたいと思うようになりました。

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、巷で言われているほど悪くはないと思います。ライブほどの凄みはありませんが、整った演奏ですし、音を置きに行くような演奏でもありません。勢いもあります。
ただ、ライブで聴くようなどっしりと骨格のしっかりした演奏よりも少し腰高で時に音が宙をさまようような感覚があるところがマイナス点かもしれません。

二楽章、悲しみの淵へ落ちて行くような演奏はライブじゃないとなかなか実現しないのかもしれませんね。この楽章も悪くはありません。
もう少し、悲しみの表現があれば良かった。

三楽章、

四楽章、コントラバスもゴリゴリと力強い。演奏としてはかなり良いと思いますが、やはりベームのライブを聴いてしまった後では、物足りなさを感じてしまいます。

サー・ゲオルグ・ショルティ/ハンブルク・北ドイツ放送交響楽団

ショルティ★★★☆
一楽章、シカゴsoとのスタジオ録音のようなキンキンした音ではなく、マイルドで聴きやすい録音です。
ショルティ最晩年の演奏と言えども、そこはショルティ。音楽の推進力はさすがです。骨格のがっちりした音楽作りも変わらないところです。
前へ行こうとする推進力の中に熱いものを感じさせる演奏です。
ただ、ベートーベンの内面を表出するようなタイプの指揮者ではないので、どちらかと言うと造形の美しさを聞くべき演奏なのではないかと思います。
音楽の流れは、ひっかかるようなところや強調するところもなくとてもスムーズです。

二楽章、ショルティらしく感傷的になるようなことは一切なく、淡々と音楽が進みます。
テンポ設定も速めで、葬送行進曲のイメージとはかけ離れていると思います。ひたすら、音の美しさを追求しているのでしょうか。

三楽章、一楽章は中庸なテンポでしたが、二楽章、三楽章は速いです。
推進力があって、若々しい気迫溢れる音楽になっています。最晩年の演奏がこれだけ力強いと言うのも、ショルティならではですね。
この指揮者は一生枯れることなく演奏活動を終えたのでしょう。晩年には散漫な演奏をした巨匠もいましたが、ショルティは集中力の高い演奏を続けていたことは驚きです。

四楽章、この楽章もテンポは速めの設定です。

「英雄」という作品に込められた内的なものは表現していないかもしれませんが、これだけ瑞々しく生命感に溢れた演奏も良いものです。

フリッツ・ライナー/シカゴ交響楽団

ライナー★★★☆
一楽章、すごく間を空けた二つの主和音。良く鳴るトランペット。スピート感と緊張感のある演奏です。あまり濃厚な表現やテンポの揺れなどはありませんが、とても引き締まった強いエネルギーを放つ演奏です。録音は古くモノラルですが、美しい響きの演奏です。シカゴsoの筋肉質の響きはショルティの時代に出来上がったものでは無いことがこの演奏で分かります。コーダのトランペットの第一主題にスラーとスタッカートを織り交ぜた演奏をしました。これはちょっと違和感がありました。

二楽章、暗く沈む音楽です。レイ・スティルのオーボエか、鋭い響きです。金管が独特のフレージングをします。トランペットがかなり強く吹きます。

三楽章、テンポは速いですが、スピード感と湧き上がるような生命感の生き生きとした音楽です。そこまでの積極的な音楽からすると、控え目なトリオのホルン。

四楽章、激しく怒涛のような序奏。この楽章でもスピード感は健在です。トランペットが強く演奏します。シカゴsoらしくホルンも強力です。ホルンが朗々と歌う部分で突然音量を落としたりしました。コーダの金管もシカゴsoらしい強奏でした。

スピート感と緊張感のある演奏で、最後まで続く推進力はなかなかでしたが、独特のフレージングや突然の音量変化などはちょっと抵抗がありました。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、いつもながらに振幅の大きい音楽です。しかし、テンシュテットがマーラーを指揮するときのような、常軌を逸したかのような表現はありません。

二楽章、沈み込んでいく表現は、さすがです。テンポも大きく動いています。音楽が進むにつれて表現の幅が広がってきているようです。

三楽章、表現の思い切りが良いので、ちょっと下品になりそうな部分も納得してしまいます。

四楽章、テンポを落としたところでは、じっくり歌います。でも、同じ年に録音した第九のライブに比べるとかなり大人しいように感じます。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、速い!テンポが速いと、スピード感があるというのは違います。
この演奏はテンポが速い。快速に飛ばします。ただ、音楽が前へ行こうとはしません。
オーケストラのアンサンブルはバッチリ決まります。響きは厚く、このテンポには厚すぎるような感じさえします。
フェラーリにでも乗ってアウトバーンをブッ飛ばしながら聞くのにちょうど良いような演奏で、ベートーヴェンが作品に込めた、人間の自由とか解放などとは無縁です。
ただ、ひたすらかっこよく颯爽としていることにだけ重点を置いた演奏のようです。
トランペットはファンファーレのように気持ちよく鳴り響きます。これはこれの楽しみ方があるのでしょう。

二楽章、美しいです。重さや暗さはもちろんありません。美しい音の構築物として聴くべき演奏ですね。ベートーヴェンの精神性を考えると演奏とのギャップに不満が出てきますが、心地よい音響として楽しむことに割り切れば、このゴージャスな演奏はなかなか良いです。
それにしても、オケは良く鳴ります。気持ちいいくらいです。

三楽章、かなり編成が大きいのか、強弱の変化はすこく幅があります。とても明るいホルンの響きが印象的でした。
豪華絢爛でした。

四楽章、全楽章を通して、速いテンポ設定でした。このテンポで演奏されると、別の観点で感動します。
すごい。確かにベートーヴェンの内面を抉り出すような演奏ではないけど、一つの基準として捉えるには良いかも知れません。
これだけ、音響的に磨いた演奏を聴いておけば、内側へ没入して行くタイプの演奏の凄みも十分感じることができると思います。最初にベートーヴェンを気持ちよく聴くには良いでしょう。

クラシック・ファンがこのような演奏からスタートすることも否定してはいけないのではないかと思いました。
最初は抵抗があったけど、気持ちの持ちようで、気持ちよく聞けました。

ギュンター・ヘルビッヒ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、ホールに響く音がすごく綺麗でした。テンポは速めでスピード感があってなかなか良い演奏です。
強烈な主張はしてきませんが、不足なく表現はしています。

二楽章、表現は控えめながら、ジワジワと迫り来るものがあります。響きも透明感があって、混濁することはありません。美しいです。突き抜けてくるところも、しっかりあります。
ぐっと沈み込むような演奏ではありませんが、表現の振幅は広くなかなか聴き応えがあります。

三楽章、オケは十分鳴らしていますが、比較的端正な演奏で、危なっかしさなどもありません。
響きが明るいので、ドイツ的な重さは感じられません。

四楽章、響きが明るくて開放的なので、南国風ベートーベンといった趣きで、内面的なものを表出するというよりも、楽天的な演奏です。

ホルンの咆哮はすごい!控えめなトランペットに対して、遠慮なく吹きまくるホルンに拍手!!!!

カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、ゆったりしたテンポです。朝比奈と同じぐらいのテンポ設定でしょうか。
ゆったりしたテンポではありますが、響きはすっきりしていて、野暮ったい演奏にはなりません。
むしろ響きが薄いかもしれません。スピード感もありませんが、丁寧に一音一音を奏でるような演奏です。ジュリーニの歌にあわせてテンポも微妙に変化しています。
「英雄」の演奏にしては、女性的かもしれません。豪快な演奏とは遠い、非常にナイーブで繊細な「英雄」です。
とても穏やかな「英雄」です。木管楽器のメロディは蝶が舞うような優雅さがあります。一音一音大切に大切に演奏していて、暴発するようなこともありません。
二楽章、少ない人数で演奏しているのでしょうか。とても寂しげな感じが表現されています。この楽章はジュリーニの面目躍如と言ったところでしょうか。
すごく静かな二楽章です。これは生で聴けたら良かっただろうなあと思います。
ずっとレガートな感じで、ガツンとくることは絶対にありません。音楽の洪水の中に浮かんでいるような、そしてゆったりと癒されているような心地よさです。
ジュリーニにしか表現できない特別な世界のように思います。この演奏に抵抗を感じる人もいるでしょう。今までの概念とは全く違います。

三楽章、この楽章もゆったりしたテンポで演奏されます。

四楽章、遅いテンポで音楽にどっぷりと浸ることができるのですが、ベートーベンの音楽ってpがあってfになって、またpになっての繰り返しのような音楽だと思うのですが、ジュリーニの演奏は全体がレガートになっているような感じでpからfに変わるところの境目に壁がそそり立つような変化がなく、緩やかにfへ移行するようなところがあるので、しなやかなのですが、女性的な演奏に聞こえるんです。

この遅さは、オケも聴衆も忍耐です(^ ^)
この演奏には賛否両論があると思います。
「英雄」フリークには絶対に聞いておいて欲しい演奏ですが、あまり数を聴かない人にはお勧めできません。

ファビオ・ルイージ/デンマーク放送交響楽団

ルイージ★★★
一楽章、最初の主和音二つは速かったですが、その後の第一主題は一般的なテンポです。ffでも当たりはソフトでガツガツとした演奏ではなく、優雅な雰囲気です。提示部の反復がありました。激しい部分を激しく感じさせないように演奏しているように感じます。トランペットはベートーベンの楽譜の記載に従って演奏しています。

二楽章、フワッとしていますが、主要主題の悲しみの表現はあります。テンポも動くところがありました。ただ、基本はほとんどインテンポです。ルイージの指揮を見ているとかなり起伏のある演奏をしているようなのですが、音圧としてあまり届いて来ません。Cの後半でテンポを落としてたっぷりと歌いました。

三楽章、湧き上がるような生き生きとした動きのある音楽です。ティンパニが強烈でした。

四楽章、フワッとした柔らかい響きが特徴的で、音楽の起伏はありますが、イメージとしては穏やかな演奏と言う感じです。

オケのメンバーも楽しそうに演奏していました。ガリガリ、ゴツゴツした演奏ではなく、とても柔らかくソフトなベートーベンでした。
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ハンス・シュミット・イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

イッセルシュテット★★★
一楽章、明るく軽い響きの主和音。流れるような第一主題。前へ進む力の強い演奏です。とても良く歌うオケ。重さは無く、かなり軽快で優雅です。晴れ渡る空のようにスカッとした軽やかな気分にさせてくれる演奏です。色彩感は鮮明です。

二楽章、この楽章でもとても良く歌う主要主題。明るい響きで、悲嘆にくれるような演奏ではありませんが、歌に満ち溢れています。Bに入っても明快で、良く歌う演奏が続きます。Cに入っても悲壮感はあまり無く、暗く落ち込んで行く感じはありません。カラッとした雰囲気です。

三楽章、この楽章も弾むように軽快です。ふくよかなトリオのホルン。

四楽章、序奏の最後でゆったりしました。明るく美しい弦の響き。歌う木管。低域があまり収録されていないから軽快に聞こえるのでしょうか。トゥッティでも分厚い響きはありません。クライマックスでかなり強く吹くホルンですがスケール感はありません。コーダで吠えるホルンが凄いです。

とても良く歌う演奏は魅力的でしたが、反面演奏が軽く軽快な英雄でした。この作品はもっと重量感のあるものだと思うのですが・・・・。
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ヘルベルト・ブロムシュテット/パリ管弦楽団

ブロムシュテット★★★
一楽章、流れるような第一主題。スピード感のある演奏で、歌も十分です。提示部の反復がありました。作品の持っている荒々しさや激しさも良く表現しています。とても良く歌い、快速で進む音楽。トゥッティの厚みも申し分ないです。バットをフルスイングするような豪快なトゥッティ。かなりの燃焼度の演奏です。コーダのトランペットは楽譜通りです。

二楽章、速めのテンポですが、ほの暗い雰囲気です。一楽章のスピード感は影をひそめ、たたずむような演奏です。Bに入って透明感の高い木管が美しいです。トランペットの強奏やティンパニの強打もあり、かなり起伏の激しい音楽です。

三楽章、舞い踊るような躍動感です。見事な木管のアンサンブル。凄く表現の幅が広いトリオのホルン。それぞれの楽章にはっきりとしたカラーを持たせているようで、楽章ごとの描き分けがはっきりしています。

四楽章、とても軽やかな演奏です。良く歌い表現の幅も広いです。この楽章をとても軽く演奏しました。

楽章ごとの描き分けが見事でしたが、四楽章をすごく軽く演奏したのが、ちょっと意外でしたし、個人的には不満です。
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ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」6

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

宇野功芳/新星日本交響楽団

宇野功芳★★☆
一楽章、最初から揃わなかった。指揮者が本職ではないので、バトンテクニックがどうのこうのとは言ってはいけないのでしょう。
しかし、それにしても、推進力の無い音楽です。意味の分からないところで極端にテンポが落ちたりして、聞いていて笑ってしまいました。
極端なテンポの動きなど、宇野のやりたかったことは理解できないわけではない。ただ、指揮者としてのカリスマ性のようなものはどう考えてもないので、オケのメンバーを本気にさせることが出来なかったのではないかと思います。
これで楽員からの自発性のようなものを導き出せていたらすごい演奏になっていたかも知れない。
それでも聴くかぎりでは、オケは協力的に演奏しているようには聞こえます。
面白い演奏でした。

二楽章、日本のオケの演奏なので、楽員も真面目に演奏していて、散漫になったりはしないので、聴くのが苦痛になるようなことはありません。
テンポが動いたり、いろんなことで表現しようとすることが上滑りしている感じがあって、宇野がやりたいことを、オケが完全に昇華できていないような感じで、オケのメンバーの共感が無いのか、音楽に深みや凄みが不足しているのが残念なところです。
しかし、それは指揮が本業でない人に求めるのは酷でしょう。

三楽章、すごく遅いです。この遅さに意味を感じさせることができないところが弱さですね。アマオケが基本練習をしているような感じに聞こえてしまいます。
遅いテンポをさらに遅くする部分もあり、一般的に聞いている「英雄」像とはかなり違っています。
このテンポに緊張感を保つことができなくて、音楽が弛緩してしまっているように思います。

四楽章、奇抜な演奏でした。仕掛けがいっぱいあって、「お化け屋敷」を抜け出たときの開放感とでも言いましょうか。上質かどうかは別にして、一つのエンターテイメントだったのではないかと思います。

音楽に限らず、一つの主張を貫き通すことは大変なエネルギーが必要です。
それをやり遂げたことは、すばらしいことであり、近年何を主張しているのか、さっぱり分からない演奏が溢れていることを考えると、このようなアクの強い演奏の存在価値は十分あるのではないでしょうか。
好き嫌いは当然分かれるでしょうし、批判もあるでしょう。
また、ベートーヴェンの演奏様式とか専門的にはどうなのかは私には分かりません。
でも、面白い演奏でした。
少なくとも、私にとってはキャプランの「復活」よりも、ずっとこちらの方が良かった。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈1985★★☆
一楽章、いつものゆったりしたテンポです。音楽の振幅は1990年代の全集の演奏の方が大きいように思います。
朝比奈の演奏も年代を追うごとに深みを増して行くようで、1990年代の演奏の自然体と力強さには及ばないような気がします。

二楽章、途中、テンポを速めるところもあります。やはり、集大成へ至るプロセスの演奏のように思います。この頃はまだ迷いがあったのではないかと推察します。
自然体で、力みのない演奏にはなりきれていないところが興味深いところです。
トランペットのヴィブラートもちょっと気になります。ティンパニもテンポの変化にうまく合わせられないところもあり、朝比奈のテンポ設定も徹底されていなかったと思われます。

三楽章、

四楽章、音楽に身をゆだねることができるような、最晩年の演奏の片鱗も時々顔を出します。ただ、壮大なスケール感は感じませんでした。
それにしても、この録音の時点で77歳だった朝比奈が、この後の録音で見せた新化はすごいことだと思います。朝比奈本人が真のベートーベンを追及し続けたことも凄いことだと思います。
基本的な解釈をほとんど変えない指揮者もいますが、朝比奈は謙虚に新しい発見があれば演奏を変えて行った。

演奏の完成度と言うことからすると、この録音は過渡期の演奏のように私には思えました。

ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団 2012Proms

バレンボイム★★☆
一楽章、速めのテンポで、ゴツゴツした感じは無くフワッとした雰囲気です。適度に強弱が付けられていて弾力のある演奏です。大きくテンポを落とす部分もありました。再現部の美しいホルン。とても柔らかい響きが特徴で作品の激しさはあまり表現されません。楽譜に指定の無いティンパニのクレッシェンドや全体の音量を落としたりして、独自の表現をします。

二楽章、暖かい響きであまり哀しみを感じません。むしろ哀しみを超越した穏やかささえ感じるような演奏です。伸びやかな木管。この楽章でもティンパニが楽譜に無いクレッシェンドをしました。テンポが動いたりしますが、大きく歌うことはありません。

三楽章、元気良く躍動感のあるトリオのホルン。

四楽章、冒頭部分も荒々しさはありません。とても穏やかです。

とても柔らかく穏やかな演奏でした。本来、勇壮で激しかったり、荒々しかったり、そして哀しみの表現がある曲だと思いますが、そのような表現はほとんど無い演奏でした。
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ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★
一楽章、一聴して特徴を感じる演奏ではありませんが、意外なところでタメがあったり、トランペットが突き抜けてきたりする部分もありますが、中庸の安心感があります。
録音年代から考えると美しい音で録られています。
ただ、やはりトランペットがくせ者で、一人別世界の音楽をしているようで、おかしいです。

二楽章、リズムの処理のせいか?ちょっとはずみ過ぎるような感じで、軽く聞こえます。合奏技術は今のオケに比べると低いのですが、ワルターの音楽が泉からこんこんと湧き出すような豊かさが魅力です。
指揮者の情念を爆発させることもありませんし、強い推進力も巨大なスケール感もありませんが、穏やかな優しさが特徴です。

三楽章、ゆったりとした演奏で味わい深かった。

四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポで入りました。丁寧な音の扱いが印象に残ります。

ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

icon★★
一楽章、すごく短い音が二発・・・・・。テンポも速めです。音楽にはスピード感があります。
音楽が瑞々しく生き生きとしていて、なかなか良い演奏です。勇壮に進む音楽が魅力的です。
四分音符が単発で出てくるところの音の処理が短いのが気になります。ヨッフムの演奏では長めに余韻を作る感じさえあったのですが、ヴァントの演奏は全く反対の処理です。
音楽の流れがそこで止まるような感じがして、この処理はあまり好きになれません。

二楽章、ここでも少し速めのテンポをとっていて、心地よい演奏になっていますが、悲しみを表現しようとはあまりしていないような、開放感があります。

三楽章、非常に明るい音色のホルンです。

四楽章、ここでも、単発の音符を短く切るのが気になります。テンポはあいかわらず速めです。

私には、このヴァントの演奏が小ぢんまりした音楽に聞こえます。スケールの大きな演奏には聞こえませんでした。
オケは申し分なく上手いのですが、何か分かりませんが惹きつけられるものがありませんでした。

レオポルド・ストコフスキー/ロンドン交響楽団

icon★★
一楽章、ザラッとした肌触りの音です。音が薄い分響きが明るく、トゥッティへ向かうクレッシェンドにも勢いがあるので、音楽に生命感があります。とてもスピード感があり音楽が前へ前へ行こうとします。再現部のホルンはとても美しかったです。ストコフスキーの晩年の演奏ですが、表現が生き生きとしていて、とても若々しい演奏で驚かされます。録音年代からすると音の木目が粗い上にFレンジが狭いのが残念です。強弱のコントラストもはっきりしていて、気持ち良い演奏です。

二楽章、サラッとして、テンポも速めでリズムが跳ねるので、悲嘆にくれるような演奏ではありません。ザラついた弦の響きがすごく古い録音を聞いているような感じがしてとても気になります。後半の盛り上がる部分ではテンポを速めて、ホルンもかなり強く演奏させました。最後にはティンパニのクレッシェンドもありました。テンポはかなり大きく変わります。葬送行進曲にしてはテンポが速く、弾むような演奏なので、哀しみが込み上げるような演奏とはかなり遠い演奏す。ストコフスキーはこの楽章で何を表現したかったのだろう。

三楽章、この楽章も速いテンポで軽快に進みます。速いテンポに任せて表現もダイナミックで迷いがありません。トリオのホルンはガクッとテンポを落として雄大な演奏でした。ホルンはかなり強く主張します。テンポが速く軽快でダイナミックな主部と、テンポを落として雄大に演奏するホルンの対比が明確に表れた演奏でした。

四楽章、この楽章も速めのテンポです。速めのテンポで生命感のある演奏になっています。クライマックスの最初は弱めに入って次第に強く演奏されました。時に強奏するホルンが豪快に鳴り渡ります。

全体に、軽くサラッとした明るい演奏でした。

エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団

icon★★
一楽章、ジャリッとしたメタリックな響きの冒頭の主和音。快速に飛ばします。ドイツの響きとは明らかに違います。華やかで明るい響きです。歌は良く伝わって来ます。しなやかに流れる音楽はベートーベンの音楽ではないように感じます。テンポも動いで重く引きずるような表現もありますが、基本的には、あまり重量感のある演奏ではありません。ベートーベンの音楽って強弱の変化があって縦に動く音楽だと思うのですが、この演奏は横に流れる演奏です。ベートーベンは音楽の歴史で初めて強弱の指定を詳細にした人でもあるのですがら。溢れるような熱気が伝わって来ます。トランペットが強奏しますが、響きが浅いです。

二楽章、やはり滑らかに横に流れる音楽。音楽が深い悲しみに沈み込む感じは無く、浮遊するような演奏です。テンポが動いてアンセルメなりの共感があるのでしょうが、何か違うような違和感を感じます。ベルの前にマイクを置いたような浅いトランペットが強く鳴り響きます。

三楽章、やはりエレガントに横揺れの音楽です。もっと強いところがガツンと来ないとどうもしっくり来ません。トリオのホルンも独特の優雅な響きでした。とても良く歌い、表現意欲は高いです。

四楽章、弦は室内楽のような精緻なアンサンブルを聞かせます。木管の流麗な演奏はフランス音楽を聴いているような錯覚に陥ります。朗々と歌うホルンも独特でした。最後は僅かにアッチェレランドして、最後の音には間を置いて入りました。

アンセルメなりの共感は感じられるのですが、横に揺れるエレガントな音楽はベートーベンの音楽としては、違和感がありました。
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グスタフ・クーン/ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団

クーン★★
一楽章、僅かに速い程度のテンポですが、音楽の起伏があまり大きくありません。シルキーで美しい響きです。テンポを大きく動かしたりアゴーギクを効かせたりすることは無く、淡々と進みますが、重量感は無く軽い演奏です。提示部の反復がありました。トランペットも柔らかく、突き抜けては来ません。柔らかくフワッとした響きの演奏なのですが、反面力強いエネルギー感はあまり感じません。角張ったところの無い、女性的な優しい英雄に感じました。

二楽章、静かな主要主題。心のこもった美しい歌です。悲しみを強く表現した演奏ではありません。この楽章も淡々と進んで行きます。Bに入ってトランペットが登場してもやはり柔らかく、突き抜けて来るようなことはありません。古楽器の演奏では、トランペットが突き抜けて来るので、そういう演奏とは全く違ったアプローチなのでしょう。本来なら強く届くトランペットが柔らかいので、軟弱な英雄のような感じが付きまといます。

三楽章、ヴァイオリンなどは音量が大きくなるのですが、低音が伴わないので、ダイナミックな演奏には聞こえません。淡泊で躍動感もあまり感じません。

四楽章、音楽がその場でとどまっていて、前へ行こうとはしません。力強さが無いのです。丁寧で柔らかい演奏ではあるのですが、この作品の持つ勇壮な部分はほとんど表現されていません。コーダも勝利に湧き上がるような表現はありませんでした。

とても優しく丁寧な演奏でしたが、力強さが無く、女声的な演奏でした。終楽章のコーダも湧き上がるような表現は無く、私には燃焼度の低い演奏に感じました。
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ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」7

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

ムーティ
一楽章、団子になったような固まった音です。生き生きとした第二主題。音楽に締まりが無く、肥大したような演奏です。提示部の反復がありました。ゴージャスなフィラデルフィア・サウンドがこのような肥大した演奏を生んでいるのか、ムーティの指揮がこのような演奏を要求しているのか分かりませんが、あまりにも鈍重な演奏です。さすがに良く歌います。太い流れの外側で良く歌う音楽が奏でられています。強弱の変化にあまり敏感では無く、なんとなく流れで演奏しているような感じがします。

二楽章、哀しみを表現しようとしていますが、フワッとした暖かいサウンドが哀しみを感じさせません。美しく歌う木管。

三楽章、ムーティの指揮を見ているとかなりダイナミックに表現しようとしているようなので、音楽が鈍いのは録音の問題なのでしょうか。明るくふくよかなトリオのホルン。

四楽章、所々で間を取ってとても良く歌います。オケは強弱の変化も付けているようですが、録音が団子のようになってしまっていて、とても鈍い演奏に聞こえてしまうのがとても残念です。分厚く豊かな響きはさすがです。

歌もあって美しい木管やオケの分厚い響きなど良い面もあったのですが、録音が団子のようになった音で、ダイナミックの変化に対してとても鈍い反応で、俊敏な反応が消されてしまっていたのはとても残念で、このコンサートの実情を捉えていないと思います。
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ジャナンドレア・ノセダ/ミラノ・スカラ座管弦楽団

ノセダ
一楽章、少し速めのテンポですが、あまり抑揚の無い演奏です。提示部の反復がありました。ノセダの激しい動きの割に演奏には激しさは無く、音量がエネルギーとなって伝わって来ません。凄みや迫力を欠いた演奏のように感じます。弓をいっぱいに使って豪快に演奏しているような感じを受けません。

二楽章、この楽章では、一楽章で不満に感じたエネルギー感の無さが逆に柔らかい響きになって、癒しの音楽になっているようです。ただ、演奏自体はテンポの動きも大きな歌も無く淡々と流れて行きます。

三楽章、そこそこの演奏はしているのですが、これと言った特徴の無い演奏です。軽いトリオのホルン。

四楽章、柔らかく入って次第に盛り上がった序奏。速いテンポの変奏。木管は通る音で豊かな表情の演奏をしています。ノセダの大きな動きの指揮と、演奏が合っていないように感じます。指揮は必死ですが、オケは安全運転で、弓をいっぱいに使って最大限の表現をしようとはしていないように感じます。コーダも非常に軽い演奏です。

オケがノセダの指揮に共感していないように感じました。とても軽い演奏で、オケは安全運転で能力を最大限に発揮しようとはしていないように感じました。
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ジョン・エリオット・ガーディナー/オルケストル・レヴォリューショネール・エ・ロマンティーク

ガーディナー
一楽章、ピリオド演奏らしく鋭い弦。テンポは決して遅くはありませんが、極端に速い演奏ではありません。荒々しくはありませんが、強弱の変化はしっかりと付けられています。特徴のあるファゴットがとても良く聞こえます。良く歌いますが、テンポ設定が中途半端で、深みも無い代わりに疾走感もありません。ベートーベンの作品は貴族相手に作曲したものでは無いはずなのに、この動画では、貴族の屋敷で演奏しているようで、不自然です。

二楽章、あっさりとした主要主題。ベタベタしたティンパニ。編成が小さいためか、響きに厚みがありません。何か中途半端な印象派拭えません。ベートーベンのメトロノームの指定に従った速いテンポの猛烈な演奏でも無いし、かと言って、深く感情移入するような演奏でも無く何をしたいのか分かりません。

三楽章、豊かな表情と音色の変化が楽しめるトリオのホルン。

四楽章、音楽が停滞していて、前へ進む力がありません。聴き方によっては、優雅な演奏とも言えると思いますが、この作品の持っている力強さはありません。

ほとんどのピリオド演奏のような快速のテンポ設定では無く、音楽が停滞していて、前へ進む力強さも無く、中途半端な演奏に感じました。
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ベートーヴェン 交響曲第4番

ベートーヴェンの交響曲第4番は、1806年に作曲され、1807年に初演されました。この交響曲は、力強い「英雄」第3番や運命的な第5番に挟まれているため、やや控えめな印象を持たれがちですが、独自の繊細さとユーモア、明るさに満ちた作品です。ベートーヴェンの交響曲の中では比較的小規模ですが、彼の軽やかで遊び心に富んだ一面が表れています。

曲の特徴

  1. 穏やかで明るい雰囲気
    第4番は、前作「英雄」とは対照的に、全体に明るく親しみやすい雰囲気を持っています。重厚さや劇的さよりも、軽快さや優美さが重視されており、聴きやすい交響曲として愛されています。古典派のシンプルな形式美と、ベートーヴェンらしい創造性が巧みに融合しています。
  2. ウィットと遊び心
    この交響曲にはベートーヴェンのユーモアやウィットが感じられる場面が多く、特に序奏の静かな始まりから突如として生き生きとしたメロディが現れる部分など、聴き手を驚かせる工夫が随所に見られます。さらに、第3楽章のスケルツォなどではリズミカルで遊び心のある要素が際立ちます。
  3. ハイドンやモーツァルトの影響とベートーヴェンの個性の融合
    古典派の巨匠であるハイドンやモーツァルトの影響が強く感じられますが、彼らの影響を受けつつも、ベートーヴェン特有のエネルギーやダイナミクスが加えられています。このため、作品全体にどこか懐かしさと新鮮さが同居しています。

各楽章の概要

  • 第1楽章:Adagio – Allegro vivace
    静かな序奏で幕を開けた後、軽快で活気ある主題が展開される。非常に明るく親しみやすい楽章で、エネルギッシュながらも軽やかな印象。
  • 第2楽章:Adagio
    美しく穏やかな旋律が特徴の楽章で、優雅で抒情的な雰囲気に満ちています。心にしみるような感動的なメロディが続き、聴き手を静かな世界へと誘います。
  • 第3楽章:Scherzo: Allegro vivace
    リズムが特徴的なスケルツォで、ウィットに富んだ明るい雰囲気が漂います。トリオ部分ではテンポが少し落ち着きますが、再びスピーディーに展開し、躍動感に溢れています。
  • 第4楽章:Allegro ma non troppo
    フィナーレは陽気で軽やかに進みます。いたずらっぽい雰囲気と活気に満ちたメロディが繰り返され、エネルギッシュなエンディングへと向かいます。

総評

ベートーヴェンの交響曲第4番は、彼の遊び心と軽やかな表現力が発揮された作品で、特に「英雄」や第5番の重厚さとは対照的な魅力を持っています。親しみやすく、温かみのある音楽が特徴で、ベートーヴェンの多面的な才能を感じられる作品です。その明るい響きとユーモアが、聴く人に癒しと喜びを与えます。

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第4番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、遅いテンポで揺ら揺らと揺れるような冒頭です。軽快な部分もテンポは遅く弾むような感じではありませんが表現が豊かで、聴き手をグッと引き込むような力があります。一つ一つの音に力があって、音楽を刻み込むような表現力です。ダイナミックの変化も大きく、トゥッティの分厚い響きはさすがです。

二楽章、心地よい歌があって、音楽がとても有機的です。ウィーンらしい音の開かない美しいクラリネット・ソロです。色彩感も濃厚ですし、表現も一音一音刻み付けるように濃厚で説得力があります。

三楽章、テンポは遅めですが、音楽に動きがあって生命感に溢れています。

四楽章、歌とともにダイナミックな演奏です。羊皮のティンパニに硬いマレットで打ち込む音にも重量感があってすばらしいです。

重量感があって、さらに生命感に溢れたすばらしい演奏でした。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈/大阪フィル★★★★★
私は、元々朝比奈のファンではなかったのです。今回のベートーベンの二種の全集を聴くまでは。
この全集も私の友人に熱烈な朝比奈のファンがいるので、貸してくれたのを聴いたのです。それがこんなにすばらしいとは・・・・・・・。
そもそも私がクラシック音楽を聴き始めたのは、中学校で吹奏楽部に入部してからなのですが、その当時FMで放送されるNHK交響楽団のライブなどは管楽器が上手いとはいえないような演奏が多かったので、それ以降、日本のオケのCDがあっても全く選択肢には入ってこなかったのです。
しかし、今回の二種の全集を聞いて、私の偏見は完璧に払拭されました。

一楽章、メリハリがあってダイナミックです。

二楽章、ゆったりとした音楽にどっぷり浸っています。

三楽章、

四楽章、かなり遅めのテンポです。充実した演奏でした。

バリー・ワーズワース/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、カラフルでダイナミックな演奏です。華やかと言うか派手と言っても良いような演奏です。
表現も元気。この無邪気な元気さは意外と魅力的でした。

二楽章、このオケのパウカー(ティンパニ奏者)は音色に対して何も考えていないのだろうか。このモターッとした音離れの悪い音は何とかして欲しい。
くったくなく伸び伸びとした演奏で魅力はあります。

三楽章、この楽章も元気いっぱいの演奏で、はつらつとしています。まるで学生オケに学生指揮者で演奏しているような、楽しい演奏で、ベートーヴェンの内面云々とかは「なし」です。

四楽章、ファゴットもおどけたようにひょうきんな表情で、終始楽しい演奏を展開しました。

アッケラカンとした演奏で楽しかった。こんなのもアリですね!

デヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、短い音をテヌートせずに短く演奏しています。どっしりと構えた風格のあるヘートーヴェンのイメージとはまるっきり違う、腰の高い(軽い)と言ったら失礼でしょうか。
軽快さに、おちゃめで子供っぽい無邪気さのようなものが溢れているような音楽で、子供の発刺とした元気さ。よそゆきのでおめかしした大人の雰囲気ではありません。
私には、この演奏は受け入れることができます。こんなベートーヴェンも好きです。

二楽章、ホールの響きが豊かで暖かいので、音色は気持ちいいです。深々とした響きとは逆に「悪ガキ」のような、やりたい放題の演奏のミスミッチが面白いです。
悪ガキの仕掛けにあちこちで引っ掛かります(^ ^;

三楽章、ここでもやりたい放題で良い演奏です。

四楽章、この楽章もテンポが速くで颯爽としています。バロックティンパニの存在感は大きいです。
木管の面食らったような速いパッセージも愛嬌があってとても良かった。

この曲の全く違った一面を聞かせてくれてとても楽しかったです。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
1987年録音

一楽章、暗闇に次第にロウソクの炎が立ちの昇るような幻想的な雰囲気さえする序奏。主部に入るとダイナミックで生き生きとした動的な音楽になります。どの楽器も有機的に音楽を受け継いで行きます。最弱音から最強音までの幅が非常に広いようで、表現の幅もとても広く、また余裕もあります。しっとりと潤いのある音でとても美しい。

二楽章、美しく整った弦の清涼感のある演奏です。クラリネットの旋律の後ろにいる弦の起伏が激しくチェリビダッケの気迫が伝わってきます。色彩感もくっきりしていて濃厚です。

三楽章、遅いテンポですが、音楽は前へ行こうとする推進力を持っています。強弱の振幅の幅が広くダイナミックです。一音一音への集中力が高くすばらしい演奏です。

四楽章、とても表情豊かです。音に力があって、とてもパワフルで豪快な演奏です。

遅いテンポの演奏でしたが、豪快に駆け抜けるような、そして一服の清涼感のような演奏でした。

1995年録音

一楽章、1987年の録音よりも温度感が高く、混沌とした雰囲気ですが一音一音非常に丁寧な演奏です。主部に入っても落ち着いた表現で、テンポも遅いのであまり躍動感がありませんでしたが、曲が進むにつれて躍動感が出てきました。消え入るような静寂感からトゥッティまでの幅の広いダイナミックな演奏はさすがです。

二楽章、遅いテンポで着実に踏みしめるような演奏です。くっきりと浮かび上がるクラリネット。重心が低く重量感のある演奏で、1987年の演奏とはかなり違います。

三楽章、やはりこの演奏でも遅いテンポですが、音楽は生き生きとしていて、推進力があります。トゥッティのどっしりと重心の低い重厚な響きは充実していてすばらしい。

四楽章、ダイナミックで豊かな表情が魅力的です。豪快な演奏ですが、荒くなることはなく、とても丁寧です。

重心が低くダイナミックな演奏でした。個人的な好みは1987年の録音かな?

ルネ・レイボヴィッツ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

レイボヴィッツ★★★★★
一楽章、割と速めのテンポで、注意深く混沌とした序奏から一転して速いテンポで軽快な第一主題。テンポも動いて推進力のある演奏です。鳴らすところは豪快に鳴らします。アンサンブルががっちりと噛み合っていて、とても見通しの良い演奏です。贅肉をそぎ落としたような質実剛健な感じです。演奏に魂がこもったような迫力が凄いです。

二楽章、弦のクレッシェンドにも迫力があります。第二主題のクラリネットの密度の濃い響きと静寂感。

三楽章、この楽章も非常にテンポが速いです。このテンポにオケが付いて行けないのか、音の扱いが僅かに雑になる部分があります。トリオは生き生きとした良い演奏です。

四楽章、この楽章も非常に速いテンポですが、高い集中力で、生き生きと躍動感のある音楽を演奏しています。ベートーベンのメトロノーム記号に従った最初の録音と言う事らしいですが、この演奏が世に出た時の評価はどうだったんでしょうか。今ではベーレンライター版の速いテンポの演奏が多くなりましたが、この録音当時では、評価が分かれたでしょう。それでもこれだけ違和感なくまとめあげたレイボヴィッツの手腕はたいしたものです。

三楽章で、僅かに雑になった部分は残念でしたが、ベートーベンのメトロノーム指定に従った最初の録音がこれほどの完成度で演奏されたことに驚きます。そして、生命感や躍動感のある演奏は素晴らしいものでした。
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カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年東京ライヴ

ベーム★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで、凄く音量を落とした静かな静寂感に溢れる序奏で、夢の中のような感じです。低域が分厚くどっしりとしたトゥッティ。第一主題もどっしりとしたテンポで柔らかい響きです。自然体の落ち着いたしかも自信に溢れる演奏です。どっしりとした安定感はベームらしい演奏です。

二楽章、この楽章もゆったりとしていて、とても丁寧な演奏です。ウィーンpoらしい凝縮された響きのクラリネットの第二主題。特に大きな表現などはありませんが、自然体の堂々とした演奏です。

三楽章、とても柔らかく、静けさが際立った演奏です。穏やかで優しい表現ですが、響きはどっしりとしていて、とても安定感があります。

四楽章、この楽章もゆっくり目のテンポで落ち着いた演奏です。全く力みの無い安定感抜群の自然体の演奏には好感が持てます。柔らかくまろやかな響きもとても美しいです。

力みの全く無い、自然体の演奏で、作品のありのままを示した演奏でした。柔らかくまろやかな響きもとても美しく素晴らしい演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年ザルツブルクライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、有機的で、表情がとても豊かな序奏。巨大な響きのトゥッティ。落ち着いたテンポの第一主題。強弱の変化に伴ってテンポも動きます。くっきりと浮かび上がる木管。とても良く歌います。強弱の変化の幅もとても広く表現力豊かな演奏です。

二楽章、この楽章も豊かな表現です。テンポも動かして歌う第二主題。ライヴならではの表現意欲の表れた演奏です。音楽が疾走したり止まったり変化に富んでいます。

三楽章、この楽章も非常に表情の豊かな演奏です。スタジオ録音はもっと無表情だったと思いますが、このライヴはとても表情が豊かです。やはりライヴのカラヤンは別人です。

四楽章、この楽章も豊かな表現で生き生きとしています。この頃が、カラヤンとベルリンpoの絶頂期だったんだと思います。ティンパニも含めたダイナミックな変化も素晴らしいです。

とても表情豊かで生き生きとした音楽でした。テンポも動いて自在な表現の演奏でした。やはりカラヤンのライヴは凄いです。
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カルロス・クライバー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1983年ライヴ

クライバー★★★★★
一楽章、深く歌う序奏。強弱の幅も大きく、表現も厳しく引き締まっています。音に勢いがあって、凄いエネルギーを感じさせる演奏です。とても良く歌う演奏が続きます。

二楽章、静寂の中から豊かな歌が聞こえます。第二主題でも微妙にテンポが動いて歌います。強奏部分には湧き上がるような力があります。

三楽章、速めのテンポで活動的です。トリオは喜びに満ちている感じでした。

四楽章、この楽章も速いテンポで活気に溢れた演奏です。疾風のように駆け抜ける弦楽器。

豊かな歌と疾走する音楽が両立した演奏でした。非常に力強い音もあれば、速いパッセージを軽々と演奏したりとても多彩な演奏は素晴らしいものでした。
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ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団 2012Proms

バレンボイム★★★★★
一楽章、ゆったりと探るような序奏。一歩一歩確実に進みます。清涼感のある響きです。第一主題も落ち着いたテンポですが、強弱の幅は大きく、音楽もうねるように生き生きとしています。テンポも感情がこもって動きます。すごく勢いのある演奏でした。

二楽章、心のこもった歌がひしひしと伝わって来ます。クラリネットの第二主題もテンポが動いて自由に歌います。編成の小さいオケが一体になって動く様子はなかなか良いものです。

三楽章、動きがあって躍動感があります。活発にそして積極的に動くオケです。トリオはグッとテンポを落としてたっぷりと歌います。

四楽章、この楽章も濃厚な表現です。木管もくっきりと浮かび上がり色彩感もとても豊かです。音に力があって、勢いがあります。オケが一体になったエネルギーの放出は素晴らしいものがあります。

オケが一体になったスピード感やエネルギーの放出は素晴らしいものがありました。たっぷりと深く歌われる歌や活発に動く躍動感など、非常多くの魅力がある演奏でした。バレンボイムのベートーベンを聴いて初めて良い演奏だと感じました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ヤルヴィ★★★★★
一楽章、揺れ動く冒頭。幽玄の世界へ導かれる序奏。第一主題に入る前に一旦音量を落としてクレッシェンドしました。非常に力強い第一主題。バレンボイムの演奏も良かったですが、それよりさらに音に力があり、剛速球を投げ込まれる感じの演奏です。強弱の変化も思い切りが良く、ダイナミックですが、弱音の繊細さもありますし表現も積極的です。

二楽章、一転して柔らかい第一主題。テンポが自由に動いて歌う第二主題。ナチュラルトランペットが鋭い響きです。

三楽章、かなり速いテンポですが表情はしっかりと付けられていて、演奏に締りがあります。

四楽章、この楽章もかなり速いです。ティンパニが突然強打したりして、演奏に工夫があります。音楽が固まりになって非常に強い演奏を繰り広げています。凄い勢いの演奏です。

音に力があって、剛速球を投げ込んでくるような、非常に強力な演奏でした。しんし、柔らかさや繊細さも表現されていて、とても良い演奏でした。
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トーマス・ヘンゲルブロック/北ドイツ放送交響楽団

ヘンゲルブロック★★★★★
一楽章、ゆったりと探るような序奏。巨大なトゥッティ。第一主題に向けての加速はなかなか良かったです。すごく勢いのある第一主題。トランペットの明るい響きが演奏を開放的にしています。思い切りの良い強奏。第二主題は大きく歌うことはありませんが、第二主題以降も凄いスピード感と激しさです。オケを強力にドライブした豪快な演奏です。

二楽章、この楽章も速めのテンポです。トランペットの弾むリズムが短く演奏されました。陰影をたたえて美しく歌うクラレネットの第二主題。オケがとにかく良く鳴ります。

三楽章、とても速いテンポです。豊かに歌うトリオのオーボエ。トランペットがビリビリと良く響きますが、低い音が少し下品に感じることもあります。

四楽章、この楽章もすごく速く勢いのある演奏です。音が襲い掛かってくるような感じさえ受けます。集中力が高くグイグイと引っ張られます。最後のテンポを落とす部分はこれまでの勢いとは対照的にゆったりたっぷりと歌いました。

高い集中力で強力にグイグイ進むかと思えば、ゆっくりとたっぷり歌い部分もあり変化もある演奏でした。基本的には豪快な演奏でしたが、細部まで行き届いた良い演奏でした。
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フランス・ブリュッヘン/オランダ放送室内フィルハーモニー管弦楽団

ブリュッヘン★★★★★
一楽章、慎重に探るような序奏。濃厚な色彩で木管が浮き上がります。深く大きなトゥッティ。あまり加速せずに第一主題に入りました。音の輪郭がくっきりとしていて、克明な演奏です。ティンパニがダブルストロークで弱音のロールを叩きました。

二楽章、ティンパニがしっかりと打ち込まれます。アンサンブルが良く、透明感の高い響きです。

三楽章、僅かに速いと言う程度のテンポで細かな表情も付けられています。トリオもあまりテンポを変えずに入りました。オケの特質なのか透き通るような透明感のある響きはとても魅力的です。

四楽章、速めのテンポです。強弱の変化にも幅があります。表情がキリッと締まっていて硬いゴムボールが弾むような躍動感です。オケが一体になった俊敏な反応は素晴らしいです。

透明感の高い響きと反応の良いオケの俊敏な反応で、キリッと締まった表情の演奏は爽快感があって素晴らしかったです。
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クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ティーレマン★★★★★
一楽章、深みのある響きで、表情も微妙に付けられています。トゥッティの前に十分間を置きました。第一主題は僅かに速い程度でブライトコプフ版の伝統に根差した演奏です。第二主題が出るところでテンポを落としました。テンポはとても良く動いていて、かなり自由な演奏です。

二楽章、品よく歌う第一主題。第二主題に入る前にも大きくテンポを落としました。非常にゆっくりとした第二主題。これまで聞いたことが無いほどテンポが良く動きます。

三楽章、この楽章は一転してとても速いテンポですがなだれ込むような勢いは無く、丁寧に演奏されています。トリオはゆったりとしました。主部との対比がはっきりとしています。

四楽章、テンポはそんなに速くはありませんが、とても活発な演奏です。強弱の反応も良く、オケが作品にとても慣れている感じが伝わって来ます。最後は凄い勢いでした。

作品への愛着から生まれるテンポを自由に動かして、自在な演奏でした。二楽章の非常にゆったりとした第二主題やフィナーレの最後の凄い勢いなど変化にも富んだ演奏で楽しませてくれました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第4番2

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第4番名盤試聴記

エフゲニ・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 レニングラードライヴ

ムラヴィンスキー★★★★☆
1973年4月28日のライブ録音です。

一楽章、凝縮された音が全体の響きを探るように始まりました。細心の注意を払って周りの音を聴きながらのアンサンブルです。強奏部でも凝縮された響きは変わりません。ムラヴィンスキーの指揮は速めのテンポでオケをグイグイと統率して行きます。弱音部と強奏部との対比をはっきりさせて劇的な演奏です。

二楽章、表情豊かな演奏です。高い集中力と凝縮された音が高い緊張感を演出します。この時代に旧ソ連のオーケストラがこれだけのアンサンブル精度を保っていたと言うのは、すごい驚きです。

三楽章、この楽章も速いテンポです。表情は厳しいですが、時折音と戯れるような表現が魅力的です。

四楽章、やはり速めのテンポでグイグイとオケを引っ張ります。伸び伸びと歌う木管。凄い勢いのまま終りました。

朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、自然体の力みの無い演奏は、この四番でも貫かれています。テュッティの響きがホール全体に広がる感じがとても豊かで、このゆったりとしたテンポの演奏にマッチしていてすばらしいです。

豊かで厚い低音部の上に中高域が乗るピラミッド音形は、演奏を優しい響きにしていて、朝比奈の自然体の音楽の運びとあいまって、この全集のすばらしさの一つになっています。

テンポが遅くても音楽が弛緩しない。緊張感を保ったまま音楽が続いていくのもすばらしい。

二楽章、ゆりかごに揺られるような自然で安心感のある音楽。

三楽章、私はベートーヴェンの交響曲はもっと激しく厳しい表情だと思い込んでいた。この朝比奈の全集を聴くまでは。

ベートーヴェンがこんなに優しく、心を癒してくれる音楽だとは!これまで聴いてきた欧米の名指揮者の演奏からは聴くことができない自然で優しい音楽は世界に誇っても良いすばらしいものだと思います。

四楽章、この7年後に録音した大阪poとの録音を聞くのも楽しみです。

クラウス・テンシュテット/ニューヨーク・フィルハーモニック

テンシュテット/ライブ★★★★
一楽章、冒頭から怪しげな雰囲気、表現の幅も大きくテンシュテットらしい。テンポも動く。ボストンsoよりもニューヨークpoとの相性が良いようです。

ボストンsoの奥ゆかしさとはまるで違う、ニューヨークpoは乗りが良い!

二楽章、テンシュテットは奥ゆかしいという言葉とは無縁の指揮者なので、彼の表現しようとすることに反応の良いオケとの組み合わせでないと、本領発揮とはなりにくいけれど、この当時のニューヨークpoのアンサンブルは悪い。

三楽章、怒涛の開始、やはりこの表現の振幅の大きさがテンシュテットの特徴です。有無を言わせずテンシュテットの世界へ引き込んでしまう。指揮にもなれてきたのか、アンサンブルも次第に良くなってきました。

四楽章、音楽の推進力は凄い。木管楽器からも生き生きとした演奏を引き出しています。テンポの動くも自在。この全集は録音年代もオケもバラバラなので、出来不出来の差も大きいので、万人向けのCDではありませんが、テンシュテットファンにはお勧めです。

オトマール・スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ

icon★★★★
一楽章、静寂感の中から音が浮き立つような、いい雰囲気です。派手さはないけれど、艶やかな弦の響きが心地よい。淡い色彩で彩られていくので、とても品の良い演奏です。

二楽章、ソロの楽器が色彩的に際立ってこないので、聞き流してしまいそうですが、美しいソロです。

三楽章、低域の一部をカットしているようなので、重量感はありません。それが品の良い演奏にしている一因でもあります。

四楽章、中庸で節度ある演奏で安心して聴くことができます。

オイゲン・ヨッフム/ロンドン交響楽団

icon★★★★
一楽章、新鮮で清々しい響きがとても良いです。この全集は曲によってバランスが微妙に違っていて、高音域寄りの録音の演奏はうまり良い印象がありませんでした。

実際の演奏はもっと厚みのある音がしているのだと思うのですが、全体に低音域が薄い録音で、作品と音作りが合っていないような感じがしました。

二楽章、この録音は高音域が突出していないので、良いです。

艶めかしい木管も魅力的。音楽の揺れも心地よい演奏です。ティンパニもとても良い音です。

三楽章、もう少し低音域に厚みがあればとは思いますが、この曲は全集の中ではかなり良い方です。また、全集全体は生気に溢れた、活力のある演奏でした。

四楽章、非常に骨格のしっかりした作りで、安定感があります。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★★
1995年の録音ですので、新日本poの録音より後のものになります。
新日本poとの全集と大阪poとの全集の間の録音です。

一楽章、基本的には大阪poとのライブと同じ解釈です。大阪poよりも音色が華やか力強い演奏です。
ソロの音色も立っています。演奏の勢いは大阪poとの演奏を上回ると思います。

二楽章、これまで聴いた新日本poや大阪poの演奏よりも現実味のある演奏で、こちらに迫り来る演奏です。

三楽章、前進しようとするエネルギーが強い演奏で、その面では新日本poとの演奏とはかなり違うように感じます。

四楽章、やはりゆったりしたテンポをとっていますが、音の輪郭がくっきりしていて明瞭です。

これまで聴いた朝比奈の演奏の中では一番生命力を感じる演奏です。
違う言い方をすると人間臭いといえるかもしれません。
活力に満ちた良い演奏でした。

エフゲニ・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
1973年の東京ライヴです。

一楽章、注意深い感じで音を探りながら演奏が始まったような感覚がありました。
ティンパニが入ったあたりからは、快速です。普段聞くレニングラードpoの音に比べると幾分かマイルドな響きです。
鍛え抜かれたアンサンブルの精度はすごいものがあります。
響きはマイルドに聞こえても、厳しい表情は健在で、孤高の名指揮者のたたずまいは常に持ち合わせています。

二楽章、速いテンポで緩み無く進みます。音楽の抑揚もすごく統率が行き届いているようです。
オケの響きはドイツのそれとは違った趣きがあります。

三楽章、この楽章も速いです。

四楽章、細かいパッセージも完璧ですし、細かい表情も統一されていて、とても感心します。

ムラヴィンスキーの音楽は独特の世界がありますので、好き嫌いは分かれるかもしれませんが、爆演型が多いソ連の指揮者の中にあって、これほど純音楽としての完成度を求めた指揮者もいないと思います。

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団

ヤンソンス★★★★
一楽章、そっと撫でるような柔らかく優しい序奏。深みのあるトゥッティ。第一主題はあまり速くはありません。第一、第二主題ともあまり歌いません。歌よりも一つ一つのフレーズのつながりや流れを重視しているように感じます。

二楽章、速めのテンポでこだまするように次第に静かになった冒頭。抑制的ですが、内に秘めた感情が伝わって来るような演奏です。クラリネットの第二主題も弱音に思いを込めたような演奏です。楽譜に書かれている音の動きがとても良く分かります。

三楽章、速めのテンポですが、丁寧な演奏です。フッと力を抜くところもあります。トリオはたっぷりと歌います。

四楽章、前へ前へ進もうとする力のある演奏です。オーケストレーションの見通しがとても良い演奏で、とても動きが良く分かります。弱音がとても美しい演奏でした。

大きな表現は無く、むしろ抑制的な表現でしたが、特に弱音部で内に秘めたような感情が伝わって来るような演奏でした。また、パートごとの音の受け渡しなどがとても良く分かる演奏で、精緻な演奏を聞かせてくれました。ただ、そこに感動があったかと聞かれるとちょっと?です。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第4番3

ベートーヴェン 交響曲第4番名盤試聴記

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★☆
一楽章、テンポは中庸、旋律の歌が魅力的な演奏です。

二楽章、安堵感が漂う優しい音楽が心地よい。

三楽章、歌があって、美しい演奏です。

四楽章、色彩のコントラストもあるし、歌も美しいのですが、残念ながら最新の録音に比べるとかなりナローレンジなので、美しさは想像するしかありません。

フルトヴェングラーのようにテンポが大きく動く指揮者の場合は、多少録音が悪くても演奏に込められた魂のようなものを聴くことができますが、ワルターのような美しい演奏をする指揮者の音楽は、録音の古さは大きなマイナス要因になってしますのが、残念なところです。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、美しい演奏ですが、どういうわけか響きに透明感がありません。
強弱の変化にもオケが敏感に反応するし、近代的な演奏の機能美を聴くにはとても良い演奏です。
録音のせいなのか、横方向への広がりがなくて、縦方向にいろんな楽器が積み重なって窮屈に感じてしまいます。

二楽章、とにかく、そつなく美しくです。

三楽章、入門用に聴くのであれば、オケは抜群に上手いし、カラヤンのブランド力もあるし、良いかもしれません。
私だったら、スウィトナーを勧めますが、初心者の気持ちとしては、聞いた事のない名前の指揮者のCDを買うより、カラヤンを買うほうが、気持ちの上では納得できるのではないかと思います。
また、それがカラヤンの功績だったのだと思います。

四楽章、ダイナミックな演奏で、気持ちが良いです。カラヤンの解釈には迷いがないので、聴いているこちらも「これで良いんだ!」と妙に納得させられます。

内面のことさえ言わなければ、とても良い演奏です。

ヨゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団

icon★★★
一楽章、静寂感があります。ティンパニや金管が控え目なので、ダイナミックさには欠けますが、品の良い演奏です。
マイルドな響きが全体を支配していて、穏やかで遠くで音楽が鳴っているような感じがします。

二楽章、滑らかな音の処理で心地よい演奏です。
録音が古いため楽器一つ一つの音色が明確に分離せずに全体にモノトーンのような響きになります。

三楽章、とても穏やかなベートーヴェンです。

四楽章、

ヘルマン・シェルヘン/ルガノ放送管弦楽団

シェルヘン★★★
一楽章、豊かな低域を含んだふくよかな響きです。途中からテンポがすごく速くなりました。ギョっとするような大胆な表現もあります。快速でブッ飛ばして終りました。

二楽章、アンサンブルが乱れるところもありますが、人間味があって暖かい音楽です。

三楽章、かなりテンポ設定は速いです。音楽の起伏はしっかりと描いています。中間部は少しテンポを落としました。

四楽章、この楽章も速いです。強奏部ではさらにテンポを煽るかのように激しい演奏です。速いテンポでも見事に演奏しきったオケもすばらしいのですが、どこか人間臭くて野暮ったさが感じられてなりません。それがこの演奏の魅力だといえばそうなのですが・・・・・。

アルトゥーロ・トスカニーニ/NBC交響楽団 1951年

トスカニーニ★★★
一楽章、古い録音で音は硬いですが、聞くに堪えないような音ではありません。ゆっくりとゆっくりと進む序奏。音に力があって強い響きです。ザクザクと刻まれる第一主題。非常に力強い演奏です。

二楽章、速めのテンポで深く感情を込めることは無く、あっさりとした表現で進みます。第二主題もアゴーギクを効かせることも無くあっさりと進みます。ほとんど歌わず厳格に楽譜に忠実に進む音楽は賛否が分かれると思いますが、ガリガリと刻まれる弦の力強さはなかなかです。

三楽章、この楽章でも怒涛の勢いです。トリオでも勢いはそのままです。勢いで一気に押し切ってしまうような演奏です。

四楽章、この楽章も速いテンポで勢いがあります。トゥッティのエネルギー感も凄いです。重量感がありながら、推進力もある演奏でトスカニーニの凄さが感じられます。

とても強いエネルギーを武器に怒涛の勢いで一気に聞かせる演奏でした。演奏の凄さも感じましたが、ほとんど歌わずに厳格に進む二楽章はちょっと違和感を感じました。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★
一楽章、比較的大きな音で淡々と歌われる序奏。重戦車が動き出すような重々しい第一主題。止まりそうなシンコペーション。第二主題は幾分軽くなりますが、ザラッとした響きで歪も感じます。テンポの変化もありますが、遅い方へ動きますので、益々重くなります。

二楽章、感情を込めると言う事は無く、淡々と進みます。第二主題も内に秘めたような表現は無く、開けっぴろげな感じさえします。

三楽章、非常にゆっくりとしたテンポなのですが、録音が悪くザラッとした響きで潤いがありません。

四楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポです。感情移入されて歌うことは無く、ひたすら楽譜に忠実な演奏ですがテンポは重くなるように動きますがほとんどの部分はインテンポです。長い編成の列車が走るような重量感はあります。

極めて遅いテンポで悠然と進む演奏でした。小さいことには目もくれず大きく作品を捉えた重量感のある演奏でしたがあまりの自然体で力の入るところも無かったのが肩すかしでした。
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シュミット・イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

イッセルシュテット★★☆
一楽章、柔らかくどっしりとした豊かな響きの序奏。トゥッティもフワッとした柔らかい響きです。第一主題は落ち着いたテンポであまり躍動感がありませんが穏やかな演奏です。

二楽章、非常にゆっくりとしたテンポで豊かに歌います。柔らかく厚い響きなのですが、緊張感が感じられず緩い感じがします。このおおらかさがイッセルシュテットの持ち味なのかも知れませんが、私には合いません。

三楽章、この楽章は少し速めのテンポですが、やはり柔らかくスピード感はありません。

四楽章、この楽章は落ち着いたテンポで確かめるように確実に進みます。ブライトコプフ版の演奏としては正攻法の演奏だと思いますが、それ以上でもそれ以下でも無いような演奏で、個性などはほとんど伝わってきません。自然体の演奏なのですが、それが感動する演奏と何も感じない演奏の違いは何なんでしょう?

とても柔らかい響きの落ち着いた演奏でしたが、緩い感じがあって、緊張感などは感じられませんでした。
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エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団

icon★★
一楽章、重々しく暗い雰囲気の序奏。ゆったりと確実な足取りです。第一主題もあまり速くはありません。録音の古さから少しザラッとした弦の響きです。ギュッと締ったりゴツゴツしたりするようなことは無く、柔らかくフワッとした音楽です。

二楽章、この楽章もゆったりとしたテンポで優雅に始まりました。響きに透明感が無く、モヤッとした感じが常に付きまとい、響きが肥大化しているような感じがします。

三楽章、キリッと引き締まった演奏が好きなのですが、この演奏はどうも緩い感じがします。この緩さがアンセルメが得意としたフランス音楽やロシア音楽では華やかな響きとなって良い方向に作用したのだと思いますが、ベートーベンの交響曲では、もっと雑味の無い純粋な音を求めたい感じがします。

四楽章、大きな表現はなく、作品と正面から向き合った演奏ですが、やはり響きがベートーベンの響きでは無いように感じます。強弱の変化などの感応も敏感では無く、ベートーベンらしさがありません。

フランス音楽やロシア音楽では華やかな響きが特徴のスイス・ロマンドですが、ベートーベンの演奏になると、響きがモヤッとした感じがあり、透明感がありません。もっとゴツゴツとして男性的な音楽だと思うのですが・・・・・。
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グスタフ・クーン/ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団

クーン★☆
一楽章、この人の演奏はなぜか密度が薄い。表現も平板で、躍動感も無く、引き込まれるものがありません。ダイナミックの変化も少なく演奏に魅力を感じません。

二楽章、歌もあまり無く、音楽が空中分解しているような音が集まって来ないところがあります。クラリネットの第二主題もほとんどテンポは動きませんでした。

三楽章、表現に積極性が無く、何かを伝えようとする意欲が感じられません。何となく音楽が流れて行く感じで、厳しい表現はありません。トリオのオーボエも一本調子で、あまり歌いません。まるで練習を聴いているような緊張感の乏しい演奏です。

四楽章、この楽章は集中力があります。表現もダイナミックです。この楽章の生き生きとした演奏を聴くと、これまでの演奏は何だったのかと思います。

三楽章までの集中力の乏しい、表現も平板な演奏はとても退屈でした。四楽章で少し盛り返しましたが、三楽章までの印象が強く、あまり良い印象はありません。
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エマニュエル・クリヴィヌ/ラ・シャンブル・フィルハーモニク

クリヴィヌ
一楽章、鋭い響きであまり大きな表情の無い序奏。強弱の変化もあまり無く淡々と進みます。第一主題に入る前に一旦音量を落としてクレッシェンドしました。ティパニが弱音のロールをダブルストロークで叩きました。

二楽章、速いテンポです。あっさりと演奏される第一主題。ほとんど感情移入は無く、ひたすら淡々と進みます。

三楽章、抑えた音量で速いテンポで始まりました。この楽章でも表現は抑え気味で淡々と演奏されています。トリオもほとんどテンポを変えず、またあまり歌わずに進みます。

四楽章、この楽章もとても速いテンポです。木管が軽く演奏するのがかえってスピード感を演出しています。

ピリオド楽器で、ほとんど無表情で軽い演奏でした。このような無表情の淡々とした演奏にどんな意味があるのか私には分かりませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」

ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は、最も有名で象徴的な交響曲の一つであり、1804年から1808年にかけて作曲されました。この作品は、運命に立ち向かう人間の強い意志を表現していると言われ、その劇的な構成と強烈なリズムで聴く人に強い印象を与えます。「タタタタ―ン」という冒頭の4つの音は、音楽史上最も有名なモチーフの一つで、「運命が扉を叩く音」とも称されます。

曲の特徴

  1. 運命的なテーマと力強い表現
    第5番は、特に冒頭の動機(4つの音)が「運命」を象徴するとして有名です。この短いモチーフが全曲を通して展開され、緊張感や劇的な力が生み出されています。この音型が繰り返され、曲全体に一貫した統一感をもたらし、ベートーヴェンの独特な意志の強さが感じられます。
  2. 闘争から勝利へのドラマ
    第5番は、暗闇から光へと向かうようなドラマティックな展開が魅力です。特に第1楽章では不安と葛藤の表現が強く、第4楽章に至るまで段階的に盛り上がっていき、最後には凱旋するかのような堂々としたフィナーレに達します。これは「絶望から希望へ」「苦悩から勝利へ」というテーマで語られることが多く、人間の勇気や決意を象徴する楽曲とされています。
  3. 統一感のある構成
    各楽章に共通のリズムパターンやモチーフが登場し、交響曲全体に統一感を与えています。ベートーヴェンは、同じテーマを反復しながら変化させていくことで、統一感と発展性を両立させました。この手法は、後の作曲家にも多大な影響を与えました。

各楽章の概要

  • 第1楽章:Allegro con brio
    「運命の動機」として知られる4つの音で開始される劇的な楽章です。力強く疾走するリズムと、緊張感あふれる展開が特徴で、まさに運命に立ち向かう意志が感じられます。
  • 第2楽章:Andante con moto
    緩やかで変奏形式を用いた穏やかな楽章ですが、厳かで力強いテーマが含まれています。第1楽章の緊張感から一転し、深い抒情性と内省的な雰囲気が広がります。
  • 第3楽章:Allegro
    スケルツォの形式で、暗闇から少しずつ希望が見えてくるような楽章です。低弦による重厚なテーマが印象的で、中間部のトリオ部分では、ホルンが重要な役割を果たします。この楽章から第4楽章への流れは途切れることなく、勝利への期待が高まります。
  • 第4楽章:Allegro
    勝利と解放感を象徴するような、明るく力強いフィナーレです。全楽器が力を合わせて、壮大で華麗なエンディングを迎えます。第1楽章の緊張感とは対照的に、晴れやかな歓喜が広がり、圧倒的な高揚感で曲を締めくくります。

総評

交響曲第5番「運命」は、ベートーヴェンの人生観や闘争心が色濃く反映された作品であり、彼の作品の中でも最も象徴的な一つです。運命に立ち向かい、希望へと進むという普遍的なテーマが込められており、時代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。その力強さ、統一感、ドラマチックな展開は、ベートーヴェンの天才的な作曲技法と、音楽に対する深い探究心を示しています。

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第5番「運命」名盤試聴記

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

iconicon★★★★★
一楽章、一音一音克明に刻むような第一主題。非常に力感のある演奏で、力強い。続いて穏やかな第二主題が出されるが、ここも非常に力強い。ホルンはかなり強奏します。暗の部分を激しく表現しました。

二楽章、一楽章とは打って変わって穏やかな冒頭です。音楽の振幅は大きく、トランペットも輝かしい。とても微妙な表情付けが各所に施されていて、それが徹底されています。トゥッティの思いっきりの良さはなかなか豪快です。

三楽章、この楽章でも音楽の振幅が幅広くダイナミックです。混沌とした静寂からのクレッシェンドも凄い。

四楽章、ゆっくりと勝利のファンファーレが鳴らされます。音楽に動きがあって、生き生きしています。強奏部分はかなり激しいですが、キチッと整っています。突き抜けてくるトランペットが気持ちよく鳴り渡ります。最後の追い込みも良く、見事に勝利を歌い上げました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈/大阪フィル★★★★★
一楽章、堂々としたテンポです。いつもながらですが、この自信に満ちた安定感には感服させられます。
テンポを煽らずに音楽を高揚させていくところも、朝比奈の堂に入ったところで、さすがです。
カラヤンの演奏よりも編成が小さいので、音に透明感があるし、朝比奈のほうが遥かにスケールが大きい。

二楽章、トランペットが突き抜けてきます。新日本poとの演奏では豊かなホールトーンにブレンドされて、とがった部分はかなりマイルドになっていましたが、この演奏ではもっと起伏の激しい音楽になっています。
激しくffをぶつけてくる部分と、おだやかで、癒されるような部分の対比が見事です。

三楽章、全く仕掛けのない自然体です。

四楽章、オケは決して世界最高水準だとは言えないけれど、それをカバーして余りあるほど、演奏に対する集中力が高く、朝比奈をサポートするような献身的な演奏で感動します。

オイゲン・ヨッフム/ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、少し陰影のある演奏の中に、すごく明るいホルンの動機が現れます。これがとても印象的だし効果的です。
足取りも、堅実に一歩一歩進むような老獪さがあります。テンポ設定も速すぎず私にはちょうど良い感じがします。

二楽章、力むことなく、どっしり構えた良い演奏です。木管や弦の奏でる旋律は柔らかく。しっかりした骨格の上に柔軟な旋律が乗っかっている安定感はすばらしい。

三楽章、こんとんとした中から躍動感や生命力湧き上がる。

四楽章、テンポ感もとても良かった。とても力強く旋律を歌い上げた、生命の躍動を見事に訴えかける名演奏でした。

この全集は録音のバラツキによって曲によって、かなりイメージが違うものになっているのが少し残念でしたが、この「運命」はすばらしい演奏でした。

デヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、予想もしないところでクレッシェンド。まあ、とにかくこの全集は楽しませてくれます。しかも、完成度が高い。ジンマン独自の時代考証などと言うどうにでも解釈を正当化できる注釈付きの怪しい楽譜を使っての演奏ですが、聞く側にしてみれば、演奏のバリエーションが増えて選択肢が増えることは良いことはあっても、悪いことはないので、このようなハチャメチャな演奏がCDになることは大歓迎!
オーボエのソロ(カデンッア?)は、また聴いたことのない旋律でした。

二楽章、この全集で聴いた曲はどれもそうなのですが、音をスタッカートぎみに演奏することと、アクセントを強調するのが全曲を通しての特徴です。
このような奏法で演奏されるので、音楽はとても軽快です。このように演奏されると当時の大衆にもベートーヴェンの音楽が受け入れられたのが分かるような気がします。
ベートーヴェンが記したテンポ指定ももしかしたら正しかったのではないかと思いたくなるような演奏です。

三楽章、常に演奏は軽快で、重くなることはありません。テンポが速いので、弦楽のコンチェルトでも聴いているような楽しさです。
この全集は値段も安かったし買って大正解だなあと思っています。もちろんこの全集は、これまで評価されてきた名演奏の全集をもっている人にしかお勧めすることはできませんが、いくつか全集を持っていらっしゃる方には絶対にお勧めです。

四楽章、小編成の機動性を生かした機敏な反応の演奏も気持ちが良い。
ガリガリと音のエッジが立っていて、全体にリズムが弾む感じで、従来の名演で聴く重厚な演奏とは完全に隔絶しています。

聴き進むにつれて、この演奏が本来のベートーヴェンの姿だったのではないかとさえ思えてきます。これまでの名演の数々もすばらしいもので、決して色あせることはないのですが、初演当時はこんな演奏を本当にしていたのではないかと思えてきます。良い演奏でした。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1980年ライヴ

バーンスタイン★★★★★
一楽章、重々しく、少し大げさに聞こえる第一主題。ゆったりとしたテンポで強弱の反応の良い演奏です。第二主題はとても穏やかな表情で安らぎを感じます。確かめるようにゆっくりと進みます。バーンスタインはこのころすでにかなり遅いテンポをとって粘っこい表現をしていたのですね。

二楽章、弾んで良く歌う第一主題。テンポも動きます。奥まったところからいぶし銀のような響きのトランペットによる第二主題。とても良く歌いますが、上品です。

三楽章、注意深く濃厚な表現です。トリオも生き生きとしています。

四楽章、とても力強い第一主題。強弱の変化がしっかりと付けられていて、生命力を感じさせる演奏です。深みのある響き。濃厚に塗り込められる音楽。ダイナミックの幅も非常に広く最大限の表現をしようとしています。見事な頂点を築いて曲を閉じました。

遅いテンポと濃厚な表現。生き生きとした生命感。すばらしい表現でした。
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クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ティーレマン★★★★★
一楽章、拍手が鳴りやむ前に始まりました。分厚い響きでどっしりと奥行き感のある響きです。速めのテンポですがたっぷりと歌う第二主題。音が次から次から湧き出してくるようでとても豊かな演奏です。

二楽章、第一主題の木管が登場するあたりからテンポを落としてたっぷりと歌います。明るく伸び伸びとしたトランペットの第二主題。グサグサと心に染み入るような深い演奏です。

三楽章、ウィーンpoもティーレマンに共感して積極的に音楽を作り出しているようです。トリオに入ってグッとテンポを落としたり間を空けたりしました。

四楽章、凄く遅く始まった第一主題ですが、次第に加速してかなり速いテンポになりました。第一主題が戻ると冒頭と同じように遅いテンポから加速します。弱音部分はかなり抑えていて、ダイナミックの幅は広いです。コーダは凄い加速でした。ウィーンpoの凄い集中力を見せつけられました。畳み掛けるように終わるかと思ったら最後はゆっくりと一音一音に魂を込めるように終わりました。

ティーレマンの自由奔放な音楽にウィーンpoも共感して素晴らしい演奏を展開しました。個性の強い演奏には好みが分かれるかも知れませんが、これだけしっかりと主張されると納得します。
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パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ヤルヴィ★★★★★
一楽章、マットな響きの第一主題。速めのテンポで強弱の変化もーにも俊敏に反応しています。気持ちよく鳴り響くホルン。独特の歌い回しの第二主題。展開部は幾分テンポを落としています。ブリブリと響くナチュラルトランペット。強弱の反応が良いので、とても締った演奏に聞こえます。

二楽章、テンポは速く、この第一主題も独特の歌い回しです。第二主題も二つ目の八分音符を長めに演奏しています。全体に音が短めで、はつらつとした表現です。

三楽章、すごく弱い音で演奏された冒頭。張りのあるホルンの主題。とても緻密に音楽が作られているようです。トリオでも独特の表現があります。活発に動く音楽。

四楽章、力強い第一主題。余分な音が無くスリムに引き締まった演奏です。次第に熱気に包まれて激しさを増して行きます。オケが一体になったエネルギー感は凄いです。ピッコロのオブリガートの部分の表現も音量を落として独特でした。コーダのトランペットも力強いものでした。

いたるところの表現に工夫を凝らした強い主張の演奏でした。ヤルヴィの演奏独特の締りのある俊敏な演奏でなかなか良かったです。
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ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団

バレンボイム★★★★★
一楽章、大上段に構えた大げさな第一主題。とても良く鳴るホルン。伸びやかに歌う第二主題。トゥッティでのエネルギーの発散は大きく。とても起伏の激しい音楽ですし、内面へ刻み込むような演奏でもあります。

二楽章、深みがあって柔らかく美しい第一主題。木管がとても良く歌います。ティンパニも金管も積極的に音楽を奏でています。

三楽章、冒頭も主題も大きな表現がありました。トリオで唸りを上げる低弦。

四楽章、開放されたような第一主題ではありませんでしたが、オケに一体感があり生き生きとした表現の演奏です。コーダの加速も凄い気迫が感じられました。

凄いエネルギーがぶつかってくるような演奏でした。オケが一体になって音楽を作り上げようとする強い意志の力を感じさせる素晴らしい演奏でした。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット★★★★★
一楽章、冒頭から激しい演奏です。第二主題もテンポを落とさずに入りました。ホルンの激しい咆哮。ティンパニの強打。テンポを落とすところはゆっくりとたっぷりと歌います。テンポの速い部分では前へ前へと進もうとします。

二楽章、生き物のうに動きのある第一主題。スケール大きく高らかに歌う第二主題。変奏でも豊かな響きです。テンポも良く動きます。

三楽章、咆哮するホルンの主題。トリオでも感情を込めて演奏する弦。

四楽章、非常にゆっくりと演奏される第一主題が次第に加速します。感情とともにテンポが動き、次々に湧き出すような音楽がとても豊かです。感動的な第一主題の再現。

非常に激しく感情をぶつけてくる演奏でした。テンポの動きや音楽の起伏も激しく感動的な演奏でした。
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カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1977年東京ライヴ

ベーム★★★★★
一楽章、伸びやかな第一主題。続く部分は音が次々に湧き出すようです。しっかりと踏みしめるように進みます。抑えられたホルン。ゆったりとした第二主題。

二楽章、奥ゆかしく歌う第一主題。少し奥まったところから響くトランペットの第二主題。注意深く演奏される弱音。とても良く歌う第一変奏。テンポの僅かな動きもあります。

三楽章、深みがあり心のこもった冒頭部分。アンサンブルの乱れは若干ありますが、気迫がそれに勝っているようです。遅く確かめるようなトリオの低弦。広大な空間を感じさせるスケールの大きなコーダ。

四楽章、高らかに演奏される第一主題。生き生きとした生命感と推進力。金管も全開になり熱気が込み上げて来ます。素晴らしい盛り上がりです。

スケールが大きく気迫のこもった演奏でした。四楽章のコーダは圧巻でした。
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アルトゥーロ・トスカニーニ/NBC交響楽団 1952年

トスカニーニ★★★★★
一楽章、録音年代からしてレンジは狭いですが、雰囲気は伝わって来ます。速いテンポでキビキビ進みます。第二主題もほとんど歌わず確実に前進します。展開部の前は凄い推進力でした。高い集中力で一点へ向かって突き進むような演奏です。再現部からも畳み掛けるような激しい演奏が続きます。

二楽章、この楽章でもあまり歌わない第一主題。速いテンポであっさりと進む第二主題。第一変奏は少し歌いますが深く感情を込めるような演奏ではありません。コーダも疾走感があります。

三楽章、ホルンの主題のバックでザクザクと刻む弦。トリオの低弦もガリガリと激しく刻みます。

四楽章、力強く鳴り渡る第一主題。ホルンも激しい。オケが一体になった凄い集中力です。コーダの凄い加速から壮絶なトゥッティで終えるすさまじい演奏でした。

録音は古く、感情移入するような演奏ではありませんでしたが、高い集中力で、一点へ向けて突き進むようなすさまじい演奏でした。
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ヘルベルト・ブロムシュテット/シュターツカペレ・ドレスデン

ブロムシュテット★★★★★
一楽章、たっぷりと伸ばされたフェルマーター。余分な力が抜けて自然で美しい演奏です。すがすがしい第二主題。押しつけがましいところは一切なく、作品のあるがままの演奏です。

二楽章、静かに美しくゆったりと演奏される第一主題がとても安堵感があります。切れ味鋭くしかも美しいトランペットの第二主題。第一変奏も自然な歌で深みがあります。展開部の第二主題はさらにゆったりと伸びやかに歌います。テンポもとても自然に動いています。弱音の弦がとても優しく美しいです。

三楽章、この楽章も自然に湧き出すような美しい音楽です。テンポは確実な足取りです。トリオもがなり立てることは無く、それでも過不足ない演奏です。動きがくっきりとしています。一つ一つの音の動きが生き生きとしています。

四楽章、オケが一体となった柔らかい響きの第一主題。シターツカペレ・ドレスデンの伝統に根差した美しい響きが随所に聞かれます。この全くけがれのない響きは現代の宝ですね。コーダも見事でした。

力みの無い自然体の演奏にシターツカペレ・ドレスデンの美しい響きが花を添えた素晴らしい演奏でした。
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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年ライヴ

icon★★★★★
一楽章、フェルマーターと次の音の間に大きな間がある第一主題。叩き付けるような力強さです。ホルンも明快に鳴らされます。あまり歌わない第二主題。深く重く刻み込まれる弦。オーボエのソロへ向けて大きくテンポを落としました。ソロが終わり再現部へ向けては再びテンポを速めています。テンポは頻繁に変わっています。非常に重く突き刺さって来るような表現でした。

二楽章、第一主題の深い歌。高らかに吹き鳴らされるトランペットの第二主題。コントラストも明快です。自然なテンポの動きと息遣い。

三楽章、テンポも大きく動いて、たっぷりと歌う冒頭。克明に刻み付けるようなホルンの主題。トリオの低弦はサラッとしていて軽いですが、ヴァイオリンはかなり強いです。コーダの最後はかなり伸ばされました。

四楽章、高らかに歌うトランペットの第一主題。ホルンがはいる手前でも少しテンポが遅くなりました。また、煽るようにテンポが速くなったり、トロンボーンが出る前でも遅くなりました。テンポは頻繁に動いています。突き抜けるように激しく吹き鳴らされるトランペット。テンポの動きと共に強弱の変化も独特でとても効果的です。凄い勢いのコーダでしたが、最後はテンポを落として終わりました。

凄く重く濃厚な演奏でした。テンポの大きな動きや強弱の変化。そして刻み込むような強い音。コントラストもはっきりとした良い演奏でした。
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ルネ・レイボヴィッツ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

レイボヴィッツ★★★★★
一楽章、凄く速く勢いのある第一主題。凄い推進力です。速いテンポに合わせるようにすっきりと歌う第二主題。めまぐるしく音楽が変化して行きます。弱音からクレッシェンドすると音楽がぐっと迫って来ます。オケも水を得た魚のように生き生きと動いています。

二楽章、静寂の中に響く第一主題は速いテンポでさらりと演奏されます。伸びやかに鳴り響くトランペットの第二主題。とても音がすっきりとすがすがしい響きですが力も十分にあります。変奏の動きが克明で表現意欲を感じます。

三楽章、激しく鳴るホルンの主題。この楽章のテンポも速いですが、違和感はありません。トリオの弦はガリガリと激しく演奏している訳ではありませんが、十分に存在感とスピード感を印象付ける演奏です。

四楽章、突き抜けるように高らかに演奏される第一主題。この楽章も速いテンポでスピード感があります。オケにとってもこの当時このテンポには新鮮味があったのか、とても集中力があって良い演奏をしています。金管も思い切りが良くとても良く鳴ります。コーダのアッチェレランドの緊張感と、それが終わったところのフッと空気が変わるような変化も見事でした。最後は力強く勝利を歌い上げて終わりました。

ベートーベンのメトロノームの指定に合わせた最初の演奏と言う事で有名ですが、奇異な演奏では無く、とても誠実に正面から挑んだ演奏でした。緊張感やスピード感ね何よりも力強い生命感がとても心を打つ演奏だったと思います。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」2

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第5番「運命」名盤試聴記

朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、この全集一貫して言えることですが、ゆったりと堂々とした演奏です。一歩一歩踏みしめるような安定感があって、小細工など全く似合わない実に立派な演奏です。
テヌートを多用されていて、雄大さがさらに強められているように感じます。
これだけテンポが遅くても音楽が緩慢にならないところもすばらしい。

二楽章、テンポが遅いので、一音一音丁寧に演奏されています。日本のクラシック音楽界の重鎮として、朝比奈は尊敬されていたんだなあと感じるに十分な音楽です。
ヘタをすると音楽が散漫になりかねないテンポ設定でも、緊張感が維持されているのは、朝比奈の力量と言うようりも、人柄というか楽員との強い信頼関係が出来ていたのではないかと想像します。

三楽章、どこかのパートが突出して上手いとか感じることはないのですが、ブレンドされた響きが美しい演奏です。

四楽章、かなり余裕をのこしたファンファーレでした。私が抱いていたベートーベン像を良い意味でこの演奏は、覆してくれました。ベートーベンと言うのは、もっとゴツゴツした男っぽいものだと思い込んでいました。

こんなに優しいベートーベンには初めて接したし、それがものすごく説得力がある。最後まで力みの無い自然体。人間臭さから神に近づくと、こんな演奏ができるようになるのでしょうか。全集としても出来不出来の差もあまりなく、ライブでありながら、すばらしい完成度です。

クラウス・テンシュテット/キール・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット/ライブ★★★★☆
一楽章、冒頭から、強烈。鮮血飛び散るような殺気立った演奏です。畳み掛けるようなテンポにオケが必死に喰らい付いていくようです。テンシュテットの演奏はいつもそうですが、大変起伏が激しい。

輪郭がクッキリした音楽。ティンパニとともに雪崩を起こすように襲い掛かってきます。

ミスもありますが、ミスなんかどうでも良いような気迫です。

二楽章、ティンパニはたびたび間違えています。オケは決して上手くはありませんが、必死さは十分伝わってきます。

三楽章、朝比奈のように楽譜に書かれていることに忠実に演奏する、自然体とは対照的な演奏です。テンシュテットの天性の音楽性なのか、意図した仕掛けなのかは判断がつきませんが、聴く者を引き込む力を持っているすごい演奏であることは間違いありません。

四楽章、咆哮するトランペットのファンファーレ!アンサンブルはかなり乱れますが、テンシュテットにとっては些細なことなのでしょう。自分の心の中の音楽を再現できれば、小さなミスはどうでも良い。

トロンボーンとホルンもティンパニも全力。まさに狂気です。

カルロス・クライバー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、速い!畳み掛けるようなテンポで始まったと思ったら、ホルンの主題で一気にテンポが落ちて、次第にテンポが上がって・・・・・・。

鮮血ほとばしるような、非常にホットな演奏です。すごい集中力。

表情もすごく豊かです。

二楽章、一楽章から一転して、ゆったりしたテンポです。緊張感が静寂感とともに伝わってきます。すばらしい!

三楽章、湧き上がる感情をストレートにぶつけてくるクライバーの演奏には凄みを感じます。また、リズムの躍動もこの演奏の特徴です。

四楽章、強弱の振幅もすごく広い、テンポの動きも湧き上がる感情を抑えることなくストレートです。オケもクライバーの好演に必死に応えているようです。ウィーンpoからこれだけ本気の演奏を引き出した指揮者も少ないのではないかと思います。

剛速球を投げ込まれたような演奏でした。すばらしい!

エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、弦と弓のこすれる音がザラザラと響く第一主題。瑞々しく艶やかな響きです。ゆったりとしたテンポで歌う第二主題。音楽に活気があって推進力があります。テンポも大きく動く部分があります。

二楽章、豊かに歌う第一主題。明るく突き抜ける気持ちの良いトランペットの第二主題。色彩感が豊かで美しい響きは聴いていてとても心地良いものです。自然な流れの中で豊かに歌う音楽もとても良いです。

三楽章、注意深いですが、それでも歌う冒頭。気持ちよく鳴るホルンの主題。

四楽章、明るく鳴り響く第一主題。湧き出すようなエネルギーを感じさせる演奏です。コーダから終わりへ向けて少しアッチェレランドしました。

瑞々しく艶やかな響きで、豊かに歌い推進力のある演奏はなかなか良かったです。
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ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団 1966年

オーマンディ★★★★☆
一楽章、低域を伴った豊かな響きの第一主題。艶やかで美しい響きです。木管が美しく歌う第二主題。テンポは変化なくすっきりと進みます。

二楽章、ゆったりとたっぷりと歌う第一主題。一楽章のすっきりとした演奏とは対照的にねっとりとした表現です。きりっと立った木管が美しいです。

三楽章、テンポも動いて歌う冒頭。張りがあり元気なホルンの主題。トリオの低弦の動きもゴリゴリと活発です。コーダの最後は猛烈なクレッシェンドでした。

四楽章、ゆっくりと刻み付けるような第一主題。さすがに豊麗な響きです。適度にスピード感もあり、集中力も感じる演奏です。楽譜に無い、一旦音量を落としてクレッシェンドする部分もありました。

フィラデルフィアoの豊麗な響きを存分に引き出した演奏で、艶やかで美しい演奏でした。ゆったりとねっとりと歌う楽章やスピード感のある楽章など変化のある演奏でなかなか良かったです。
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オトマール・スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ

icon★★★★
一楽章、テンポの動きと高揚感が一体になっていて、それでいてバランス感覚もとても良い。
この全集を通して一貫しているのは、節度がある格調高い演奏です。品のある大人のベートーベン

二楽章、とても美しくてガラス細工のような繊細さ。細部の細部にいたるまで研ぎ澄まされた、ハッタリとは無縁の演奏です。
少し古めかしいトランペットの音にも伝統を感じます。旋律を大げさに歌うこともありません。
スタジオ録音ならではの均整の取れたベートーベンです。

三楽章、金管の咆哮と言うような凶暴なシーンもありません。
この曲は、このオケでスヴェトラーノフの指揮で聞いたことがありますが、スヴェトラーノフが指揮をしても、このいぶし銀のような音色を失うことがありませんでした。そして、暴走することもありませんでした。
ウィーンpoとは違う伝統を持っている良いオーケストラだと思います。

四楽章、トランペットのファンファーレもテヌートにしないので、あっさりしています。アッチェレランドも一糸乱れぬアンサンブル。熱気を帯びてはきますが、爆発はしません。
ベルリンpoのようなグラマラスなところもありません。でも、この繊細さはすばらしい。

ドイツにはすごいオーケストラが地方都市にもあるところが音楽文化の深いところですね。

ハインリッヒ・シフ/オランダ放送室内管弦楽団

シフ★★★★
一楽章、速いテンポでフェルマーターも短い第一主題です。切迫したような緊張感があります。オケの響きは透明感があって美しいです。

二楽章、この楽章も速いテンポで弾む第一主題。柔らかい第二主題。とても良く歌います。ティンパニのクレッシェンドがありました。

三楽章、ここでも良く歌う冒頭。張りのある響きのホルンによる第一主題。トリオは凄く速いテンポで駆け抜けるようです。

四楽章、トランペットが突き抜けて来ないので柔らかい感じになる第一主題。コーダは大きく盛り上がること無く終わりました。

暗から明を強調したような演奏では無かったのですが、演奏の所々にこだわりがあり個性を感じさせられました。美しい演奏でしたし良かったのですが、個人的にはトランペットが突き抜けて、最後は解放されるような演奏が好きです。
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チョン・ミョンフン/ソウル・フィルハーモニー管弦楽団

チョン★★★★
一楽章、割と速めのテンポで進みますがとても柔らかい響きで、金管は奥まっています。あまり歌わずに淡々と進む第二主題。

二楽章、テンポが動いて歌う第一主題。奥まったところから鳴るトランペットの第二主題。弦や木管の近さに比べると、金管はとても遠いです。

三楽章、淡々と進む主部。トリオはスピード感があります。

四楽章、速いテンポの第一主題ですが、やはりトランペットは奥まっていて強くは響きません。引き締まった厳しい表現もあります。オケが一体になった集中力も感じさせます。コーダへ向けて熱気が伝わって来ます。コーダのアッチェレランドも素晴らしかったです。

四楽章は素晴らしい熱気と一体感でした。ただ、そこに至るまでが淡泊で、フワッとした演奏だったのが残念でした。
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クルト・マズア/フランス国立管弦楽団

マズア★★★★
一楽章、深みがあって柔らかい第一主題はフェルマーターが短めでした。あまり歌うことなく自然体で進む第二主題。

二楽章、この第一主題も大きく歌うことは無く、淡々と進んで行きます。付点の短い方の音を強調するような第二主題。変奏も奥ゆかしい歌です。展開部で現れる第二主題でティンパニがクレッシェンドしました。

三楽章、あまり強く吹かないスケルツォ主題。トリオもガツガツと刻み込むような演奏ではなく、軽いタッチです。ここまでの演奏は楽譜に忠実に自然体で中庸の演奏と言う感じです。

四楽章、エネルギーをぶつけてくるような感じはなく軽い第一主題。少しずつ熱気を感じるようになって来ました。常にオケを限界まで鳴らすことはせず、常に柔らかい響きで音楽を作っています。とても軽くスマートな演奏でした。

深く感情移入せずに、自然体で中庸な演奏で、オケを限界まで鳴らすことも無く、常に柔らかく美しい響きで音楽を作ったスマートな演奏でした。作品の姿を知るには良い演奏だったと思います。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

★★★★
一楽章、非常にゆったりとした第一主題。広大な雰囲気の第二主題。提示部の反復はありませんでした。再現部の第二主題も大きく歌うことはありませんが、自然体でおおらかな演奏です。

二楽章、ゆっくりと淡々と演奏される第一主題。変奏でもあまり動きはありません。鋭角的な強弱の変化は無く、なだらかに変化して行く音楽です。

三楽章、柔らかく、ゴリゴリしないトリオの低弦。この楽章もとてもゆったりとしたテンポです。自然体で作為的な部分は一切ありませんが、楽器の受け渡しはくっきりとしています。

四楽章、力強い第一主題。これまでの楽章に比べるとテンポは速めです。トロンボーンが強烈で、ここまでの音楽の流れからすると違和感があります。コーダの加速もわずかでした。

非常にゆったりとしたテンポで巨人の歩みのような演奏でした。常に自然体で、おおらかな流れでスケールの大きいものでしたが、ライヴならではのトロンボーンの突出などが違和感があったのがちょっと残念でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1988年ライヴ

カラヤン★★★★
一楽章、速いテンポの第一主題です。第二主題も速いテンポで表情もあまり無く淡々と進みます。展開部の前のホルンはゆっくりでした。コーダで現れる第一主題はテンポを落として叩き付けるように演奏しました。

二楽章、この第一主題も速めです。レガート奏法のトランペットの第二主題はいかにもカラヤンらしい演奏です。変奏に入ってもあまり歌いません。

三楽章、冒頭のフェルマーターへ向かっても大きくritはしませんでした。ホルンの主題は豪快に鳴り渡りました。トリオの低弦も意外と整然としていました。

四楽章、伸びやかに響く第一主題。オケは気持ちよく鳴ります。奥から響くようなトロンボーン。次第に熱くなる演奏はなかなかです。レガートで音がつながったトランペットの主題にはちょっと違和感を感じます。コーダもアッチェレランドもかなり思い切って速くなりました。

あまり歌わずにスマートな演奏でした。歌わないことで外観を美しく保つのが目的だったのでしょう。それでもライヴらしく四楽章では熱がこもってきました。ただ、レガートで演奏されるトランペットには少し違和感を感じてしまいました。
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リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ムーティ★★★★
一楽章、厚みのある第一主題。速いテンポでグイグイ進む第二主題。展開部に入って僅かにテンポが落ちてそれまで前へ進む力が強い演奏でしたが、黄昏れるような感じです。再現部以降も落日のような一抹の寂しさをまとったような演奏でした。

二楽章、あまり大きく歌うことの無い第一主題。奥まったところでキラキラと輝くようなトランペットの第二主題。変奏からはテンポも動いて豊かに歌います。生き生きとした表情の木管。

三楽章、速いテンポの冒頭部分。威勢の良いホルンの主題。低弦が確実に刻むトリオ。くっきりと明朗で立体感のある演奏です。

四楽章、前の楽章のコーダのテンポ感からするとかなり速いテンポの第一主題。そのままのテンポで進みます。唸りを上げるホルン。かなり強力にオケをドライブしています。力強く前に進みます。

一楽章の黄昏た雰囲気から四楽章の勝利までとても明快に描かれた演奏で、オケも非常に強力にドライブされた演奏でしたが、四楽章冒頭の第一主題がそれまでの流れからすると速すぎる感じがあったのが残念でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」3

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第5番「運命」名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、これも速い。クライバーほどの速さではありませんし、クライバーのスピード感とは全くちがいます。
前へ行こうとするような推進力はありません。
オーケストラは見事に鳴っていて、とても気持ちが良いです。

二楽章、チャイコフスキーやR・シュトラウスを演奏すると、あけだけ饒舌なカラヤンがどうしてベートーベンの演奏になると、何もないような演奏になってしまうのでしょう。
とても美しい音楽ではあるのですが、内面から熱いものがこみ上げて来るような音楽ではないのが残念です。

三楽章、オケの響きにすごい厚みがあるのに、テンポの速さが不釣合いな感じがします。

四楽章、まるでコンクールの模範演奏を聴くような、どこをとっても過不足無く、しかし余分な感情移入や表現は避けているような演奏で、「運命」を聴くときの基準にするには良いかもしれませんが、この演奏を聴いて音楽に共感したりのめりこんだりすることはできません。

音響としては見事なのですが・・・・・・・。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★☆
一楽章、長いフェルマーターでした。音楽に躍動感があります。
音楽がしなやかで、暖かい響きで、ガツンと来ることはありません。

二楽章、ゆったりとしたところでは、テンポも落としてたっぷりと歌うところもワルターの良さですね。トランペットも奥まったところで鳴り響いていて、突き抜けてはきません。とてもまろやかな音楽です。
作品や人間に対する慈愛のようなものさえ感じさせる演奏です。張りつめた緊張感ではなく、神の前にいる安らぎのような心穏やかになるすばらしい演奏です。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで演奏されています。

四楽章、暖かい響きが逆に輝かしさを表現しにくくしているようです。トランペットが突き抜けてこないので、高揚感はどうしても抑えられます。

最後に勝利を勝ち取って、高々と勝利の雄たけびを上げるような力強さがないのが、残念なところです。

ヨゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団

icon★★★☆
一楽章、きっちりしたテンポに乗った演奏です。落ち着いた感じがとても良いです。

二楽章、穏やかな響きと急激なダイナミックの変化がなく、癒し系の「運命」です。表現も大袈裟なところは全くなく、安心して聴く事ができます。

三楽章、ホルンも音が開くこともなく美しい演奏です。

四楽章、控え目なファンファーレ。レガートぎみの演奏で音の角が立たないので、とても聴き易い。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、独特の弦の鋭い音、木管の動きが克明なところは「英雄」のときと同様です。
珍しくアンサンブルが乱れるところもあります。ホルンの主題が控えめなのも意外でした。
ロシアの「運命」を強く主張しています。ドイツの伝統に根ざしたものとは別世界なのですが、ムラヴィンスキーの強い意思が反映された演奏には十分な説得力があります。

二楽章、一般的な演奏ではテヌートぎみに演奏される部分でもトランペットがアクセントでマルカートぎみに演奏する箇所があるのも独特です。

三楽章、ロシアの音楽文化は、ドイツ、オーストリアとは全く別の様式を確立しているんだなあと思わせます。

四楽章、予想もしないところでティンパニのクレッシェンドがあったり、普段は聞こえない楽器が、ちょくちょく顔を出しますが、音楽としての高揚感はすごいものがあります。

やはり、チャイコフスキーのような怒涛のコーダでした。特に最後の音は「1812年」でした。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★
一楽章、朝比奈のこれまでの演奏に比べると、速めのテンポです。この演奏も4番と同じく音の輪郭が明瞭な演奏です。生命感に溢れた演奏で、これまで聴いた天国的な悟りのような自然体とは違った良さが聴かれます。
これはN響が長年培ってきたドイツ音楽に対する伝統なのでしょうか。

二楽章、ゆったりしたテンポです。生き生きした活力ある演奏ですが、個人的には朝比奈には天国的な自然体の演奏を望みたいです。これはこれで良い演奏なのですが、朝比奈じゃないとできない境地があると思うのですが、この演奏だったら他の指揮者でもできるんじゃないかと思えてきます。

三楽章、この楽章もゆっくりめのテンポです。朝比奈の自然体はオケの自発性やオケにとっての自然体も尊重しているのかもしれません。
だから、N響の持っている音楽と朝比奈の音楽を共存させようとしているのかもしれません。
ただ、この演奏はN響が持っているものが強く出ていて朝比奈らしさは影を潜めているように感じます。

四楽章、さすがにN響の底力を見せ付けられます。日本のトップオケらしい厚みと伸びやかさはさすがです。
これまでの朝比奈の演奏では聴いたことがないくらいダイナミックな演奏です。

演奏自体は良かったと思いますが朝比奈を聴けたかと言われたら私には少し疑問を感じた演奏でした。

シュミット・イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

イッセルシュテット★★★
一楽章、ガツガツと刻む弦の第一主題。潤いのある美しい響きです。まさに中庸と言うような演奏で何の変哲もない演奏ですが、ウィーンpoの美しさを十分に生かした演奏です。歯切れのいいリズムです。

二楽章、第一主題、第二主題とも大きく歌うことはありません。作為的な部分は全くなく、自然な流れの演奏です。自然体ゆえか、緊張感や静寂感は無く、ピーンと張ったような締りはありません。

三楽章、ウィーンpoらしくビンビンと鳴るホルンの主題。

四楽章、力強い第一主題。強弱の変化にあまり敏感ではないので、緩く感じてしまいます。コーダでも絶叫することは無く、紳士的な範囲の演奏でした。

中庸と言う言葉がぴったりの演奏でした。作品そのものを知るためには良い演奏だと思いますが、+αを求めると期待は裏切られます。
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ニコラウス・アーノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団

アーノンクール★★★
一楽章、薄く細い響きの第一主題。弾けるようなホルン。速めのテンポで独特の節回しの第二主題。金管は鋭い響きです。低域があまり厚みが無く、重心が高い感じの演奏です。

二楽章、あまり歌うことの無い第一主題ですが、清潔感があります。控え目なトランペットの第二主題。透明感の高い変奏。

三楽章、この楽章でもホルンが元気に鳴り響きますが、ホルン以外はあまり活発に表現はせず、起伏はあまり激しくありません。トリオもあっさりと軽い表現です。

四楽章、弾むように演奏される第一主題。とても軽くサラッとした演奏で、作品の骨格や重量感は感じさせません。

シャープで軽い演奏でした。これまでのベートーベンの重量感のある演奏とは一線を画すもので、新しいベートーベン像を聴かせてくれました。ただこの演奏に惹かれるかと聴かれると疑問を感じます。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1966年東京文化会館ライヴ

カラヤン★★★
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、速いテンポでフエルマーターも短くすぐに次へと入って行きました。この演奏でもフルスイングするような豪快でスピード感のある演奏を聞かせます。第二主題もとても速くあまり落ち着きが無い感じです。カラヤンのライヴ独特の激しさがありますが、速いテンポをオケが消化しきれていないような感じがします。

二楽章、録音の問題だと思いますが奥行き感があまり無く浅く薄っぺらい感じがします。この楽章も速いテンポを基調としていて、あわただしい感じで、どっしりとした落ち着きはありません。

三楽章、厚みを感じさせる冒頭。ホルンは奥まっていなくて、表面に出てきます。この楽章もテンポは速いです。最近のベーレンライター版の演奏に比べると響きが厚くぼってりとした感じがあって、すっきりとした演奏にはなっていません。

四楽章、明るく力強い第一主題。怒涛のような分厚い響き。第二主題に入っても速いテンポです。コーダは物凄く速いテンポで一気呵成に終わりました。

速いテンポで一気に聞かせる演奏でしたが、テンポの速さに比して響きが分厚過ぎて、もたれるような感じがしました。もっと速いテンポで演奏されるピリオド楽器の演奏はスリムな響きですっきりとしているので、このテンポでこの響きには違和感を感じました。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」4

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第5番「運命」名盤試聴記

クレール・ジボー/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、ホールが良く鳴っていて、心地よい響きです。あれっ?と思うような表現もあったりしますが、この演奏も屈託無く、伸び伸びとした演奏です。

二楽章、クラシック音楽初心者の人が、とりあえず聴いてみるという目的には良い全集でしょう。
9番はちょっと、いただけない演奏でしたが、その他は強いアクもなく、その分作品の内面を抉り出すようなこともありませんが、録音も悪くはないので、響きとして快適に聴くこともできるので、1,500円は安いです。

三楽章、全く遠慮なく吹きまくるホルン。

四楽章、ここでもホルン全開です。この全集はあまり考えずに、気持ちよく響いている音を楽しめば良いんだと納得しました。

宇野功芳/新星日本交響楽団

宇野功芳★★
一楽章、遅い出だしであまり緊張感も無かった。音楽に推進力が無く、停滞感が支配しています。緊張感が無く、テンポを落としたプローベのような感じさえします。途中でさらにテンポを落とす場面もありました。

二楽章、散漫な部分があるかと思うと、切々と音楽を訴えてくる部分もあり、宇野の音楽がオケに完全に伝わっていないように感じます。

三楽章、この楽章もテンポが遅く、音楽が弛緩しているようにさえ感じてしまいます。

四楽章、すごく遅い冒頭でオケもアンサンブルを合わせるのに苦労している様子が伺えます。聴いているこちらが、テンポの遅さに付いて行けませんでした。

小澤 征爾/シカゴ交響楽団

小澤★★
一楽章、速いテンポで勢いのある第一主題。第二主題に入っても安らぐ感じは無く、せかされる印象であまり落ち着きがありません。若い頃の小澤のあふれんばかりのエネルギーを強く感じさせる勢いがあります。

二楽章、一転してゆったりとしたテンポで歌う第一主題。微妙なテンポの動きもあります。付点を強調した第二主題。

三楽章、一楽章の勢いは消え去り、あまり力強く無い主題です。トリオのチェロとコントラバスは浅い響きで重量感はありません。

四楽章、強い音ですが、表面的な第一主題。強弱の変化が俊敏ではなく、締った演奏ではありません。コーダでもトランペットが浮いているような感じがしました。最後はちょっとバタバタした感じもありました。

一楽章の勢いからかなりの名演を期待しましたが、最後はバラバラな感じになってしまいました。若さのエネルギーが空回りしたような印象です。
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マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ヤンソンス★★
一楽章、速いテンポの第一主題。控えめなホルン。淡々とした第二主題。あまり大きな表現は無く淡々としていますが、非常に精緻な演奏で、楽器の出入りなどオーケストレーションがとても良く分かります。

二楽章、自然に歌う第一主題。ここでも控えめなトランペットの第二主題。変奏も自然な流れです。

三楽章、主題を演奏するホルンはここでも控えめです。トリオも強調することは何も無く、あっさりと進みます。

四楽章、かなり解放されたトランペットの第一主題。引っかかるようなところは全く無く、テンポの動きもほとんど無く、極めてオーソドックスな表現です。金管を突出させること無くマイルドな響きで音楽を作っていますが、反面欲求不満になるような煮え切らない感じが残ります。軽くサラッと流した感じに聞こえてしまいました。

自然体であっさりとした演奏でした。全く力むことは無く燃え上がるような感情表現もありませんでした。精緻な演奏ではあったのですが、煮え切らないような感覚になってしまった演奏でした。
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ルドルフ・ケンペ/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

icon
一楽章、バランスの良いマイルドな音色です。冒頭のフェルマーターは長かった。

落ち着いた堅実なテンポの音楽運びで、切迫感がなくゆとりさえ感じます。テンポの動きもありますが、情動的で自然発生的な動きのように感じます。

二楽章、低域が厚いピラミッド型のバランスが常に保たれているので、すごく音楽が穏やかです。録音特性自体もナローレンジなのだと思いますが、無理にワイドレンジに聞こえるようにした録音よりは自然だし、この程度のナローレンジであれば聴いているうちに慣れてきます。

三楽章、金管楽器も控えめです。

四楽章、トランペットがほとんど聞こえません。盛り上がりを期待したところで肩透かしを食わされます。

最後まで解放してもらえないような不満が残りそうです。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」の名盤を試聴したレビュー