カテゴリー: 交響曲

マーラー 交響曲「大地の歌」名盤試聴記

マーラーの交響曲「大地の歌」(Das Lied von der Erde)は、彼の円熟期に作曲された交響曲的な声楽作品で、独唱とオーケストラによる壮大な楽曲です。東洋の詩にインスパイアされた歌詞を元にしており、人生や自然、無常、そして死といったテーマを深く探求しています。マーラーはこの曲を交響曲第9番として書き始めましたが、当時「第9交響曲を作曲した作曲家は早死にする」という迷信を恐れ、正式な交響曲としては数えずに「大地の歌」と命名しました。

この作品には6つの楽章(歌)があり、特に有名な第1曲「酒に酔って春の歌をうたう」や、感動的な第6曲「別れ」が挙げられます。中国の詩人・李白や孟浩然の詩がドイツ語訳され、それを基にマーラーが自身の解釈を加えた歌詞で、東洋的な情緒と西洋音楽が融合しています。

音楽的には、マーラー特有の豊かなオーケストレーションや劇的な展開が特徴で、深い感情を揺さぶるメロディや、緊張と解放のダイナミズムが聴きどころです。特に「大地の歌」を名盤で聴き比べると、指揮者や歌手の解釈によって楽曲の雰囲気が大きく変わります。有名な録音としては、ブルーノ・ワルター指揮の録音や、レナード・バーンスタインによるものなどがあり、それぞれが独特の世界観を表現しています。

この曲は、「生と死の境界線での瞑想」とも呼ばれ、マーラーの思想や感性が強く反映された、非常に深い作品と言えるでしょう。

たいこ叩きのマーラー 交響曲第「大地の歌」名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 Brigitte Fassbaender,(Alto) MS,Francisco Araiza, (Ten)(1987Live)

ジュリーニ/ウィーンpo★★★★★

一楽章、ゆったりとしたテンポですが、かなり籠った響きのホルン。とても伸びやかなアライサの独唱。独唱もオケも激しい演奏です。アライサもかなり強く主張します。

二楽章、晩秋の寂しさを感じさせるオーボエ。僅かに粘りのある声質ですが、最初は控えめなファスベンダー。ウィーンpoがとても寂しさを表現しています。ファスベンダーはとても振幅の大きい歌唱です。

三楽章、ゆっくりと余裕のあるテンポです。てとも表情豊かなアライサ。独唱は二人ともとても良いです。

四楽章、濃厚な色彩のオケ。テンポが速くなっても余裕たっぷりのファスベンダー。さらにファスベンダーは先へ先へと引っ張ります。

五楽章、少しだけテンポが動きました。アライサはとても力強い。

六楽章、ウィーンpoがほの暗い寂しさをとても良く表現しています。オケの響きは作品にピッタリです。ファスベンダーも伸びやかに豊かな表現です。ファスベンダーは激しくなっても絶叫にはならず美しい歌唱です。別れに抵抗するようなホルンと木管。絶望するようなホルンとトロンボーン。空の彼方へ別れて行きました。
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ベルナルト・ハイティンク/ロンドン交響楽団 テノール・アンソニー・ディーン・グリフィー、メゾソプラノ・クリスチャン・ストティジン

ハイティンク★★★★★

一楽章、とてもゆっくりとしたテンポで奥行き感があって豊かに響くホルン。奥から突き刺さるようなトランペット。伸びやかで堂々としていて表現も豊かなグリフィー。叫ぶような強い表現もあります。

二楽章、秋の夕暮れのような寂しさです。低音で身体の鳴りを伴って粘りのあるストテイジン。オケは柔らかく伸びやかで広々としています。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで落ち着いています。伸びやかで自由に歌っているようです。

四楽章、ハイティンクは独唱をあまり縛っていないようで、二人ともとても自由に歌っているようで、力が抜けていて伸びやかです。テンポが速くなる部分もそんなに速くならずゆっくり目です。ゆっくりのテンポに味わいがあります。

五楽章、僅かにテンポが動きました。この楽章も少し遅めです。ゆっくりのテンポですが、細部まで丁寧で音楽に身をゆだねることが出来ます。

六楽章、奥から響きを伴うオーボエ。静かに語り掛けるストテイジン。とても優しい演奏です。ストテイジンはとても穏やかであまり激しく絶叫しません。オケも切々と訴えて来ます。ストテイジンもオケも迫りくる別れにあまり抗せず静かに受け入れている感じです。とても美しい演奏です。天国へ昇って行くようなストテイジン。空の彼方へと別れて行きました。美しい演奏でした。
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ブルーノ・ワルター/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 コントラルト:キャスリーン・フェリア テノール:ユリウス・パツァーク

★★★★★

一楽章、録音年代を考えるとかなり良い音です。少し距離があって鋭く響くホルン。トランペットも鋭く響きます。若干テンポを落としてパツァークの独唱。力のある歌声で丁寧に歌います。とても生命観の漲る演奏で、生き物のような演奏です。パツァークの独唱はとても作品に合っているように感じます。

二楽章、静かで哀愁を感じさせる演奏です。オケも良く反応していて、切れが良いです。フェリアはオケとのバランスも良く、一緒に歌っています。

三楽章、とても表情豊かな木管。落ち着いていて上品なパツァークの独唱。

四楽章、繊細なヴァイオリン。優しく歌う、フェリア。金管も気持ちよく鳴ります。とても良く歌たい、美しい演奏です。

五楽章、自然なテンポの動きがありました。マーラーの弟子であったワルターが作品を熟知していて、作品を愛しているのが良く分かります。

六楽章、冒頭はあまり大きな表現では無く、自然に流れました。1つ1つの楽器が立っていて、とても古い録音だとは感じさせません。フェリアも大げさな表現はしませんが、慈しむような歌です。オケはとても良く反応します。ウィーンpoがとても献身的に演奏しています。私は、ワルターの演奏をあまり素晴らしいと感じたことはあまりありませんが、この演奏は素晴らしいです。別れに激しく抵抗するようなオケ。激しい感情の起伏。悲しい別れでした。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 アグネス・バルツァ(コントラルト)クラウス・ケーニヒ(テナー)

★★★★★

一楽章、細身のホルンが鋭くクッキリと響きます。テノールが入る前に少しrit。伸びやかなテノール。激しく咆哮するような作品ではありませんが、克明に描かれています。ミュートしたトランペットもシャープです。一つ一つの音にこだわりがあるような演奏で、一音一音が強いです。

二楽章、憂いがあって、うつろな冒頭。細身ですが、それぞれの楽器が克明です。ほの暗いコントラルト。細身で繊細なヴァイオリン。

三楽章、生き生きとした動きがあって、ケーニヒの独唱もリズミカルです。

四楽章、甘美な部分と激しい部分の対比もなかなか良いです。

五楽章、木管の動きも生き生きとしていて、とても克明です。ケーニヒの独唱によって作品に引き込まれていくような感じがします。

六楽章、地獄から沸き上がる暗黒に、花がポツンと咲き弾けるような冒頭。丁寧なバルツァの独唱。とても伸びやかです。テンシュテット/ロンドンpoの録音の中では比較的良い録音なのでは無いかと思います。細かな動きもしっかりとテンシュテットがコントロールしていて、ロンドンpoも見事に応えています。バルツァの独唱を包み込むようなオケの響きも素晴らしい。バルツァの声が張ったところで録音が若干歪っぽくなります。他のマーラーの交響曲のように激しく咆哮するようなことはありませんが、深い彫琢はさすがです。暖かい別れでした。

サイモン・ラトル/バイエルン放送交響楽団 Magdalena Kožená: mezzosoprano Stuart Skelton: Tenor

★★★★★

一楽章、ちょっと詰まったようなホルン。小さくまとまった感じを受けます。独特の歌い回しで、かなり個性的に歌うスケルトン。繊細に独唱に寄り添うオケ。

二楽章、現実的なオーボエ。柔らかい弦。コジェナーの歌声はとてもナチュラルで美しいです。

三楽章、ホルンと戯れるような木管。コジェナーのナチュラルな歌唱とは対照的に独特の歌を聞かせるスケルトン。

四楽章、バイエルン放送soはとても柔らかい響きです。テンポが速くなっても響きが整っています。コジェナーは速い部分でもしっかりと発音します。

五楽章、僅かにテンポが動きましたが、自然でした。かなりゆっくりとしたテンポになりました。テンポの動きが大きく、表現も豊かです。

六楽章、感情を込めて豊かに歌たうオーボエ。コジェナーの独唱はこれまで聞いた中でもベストな位の美しい歌です。オケの表現も豊かで柔らかく美しい。コジェナーの歌は素晴らしい!。惜別の感情が伝わるような演奏。別れの前の複雑な心境を吐露するような色んなものが交錯する演奏です。暖かいけれどとても悲しい別れでした。
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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団 クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ) フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)

★★★★★

一楽章、豊かで伸びやかな響きのホルン。トランペットは奥まったところから鋭い響きです。太い声のヴィダーリヒ。表情豊かに語り掛けて来ます。

二楽章、ゆったりとしたテンポであまり感情を込めないオーボエ。それでもオケは自然に歌います。多くの指揮者と録音を残しいるルートヴィヒですが、この録音はやはり若々しい。独唱の盛り上がりに合わせてオケの波も押し寄せて来ます。

三楽章、とてもゆっくりとしたテンポです。当然独唱も弾むことなく穏やかですが、これはこれでなかなか良いです。7番でもとんでもなく遅いテンポの名盤を残していますが、クレンペラーはこのような意表を突いたテンポの演奏は天才的です。

四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポでルートヴィヒも伸びやかに表情豊かに歌います。テンポが速くなる部分もかなり遅く落ち着いています。ルートヴィヒも余裕綽々です。

五楽章、この楽章もゆったりとしています。若干テンポが動きました。

六楽章、とても感情を込めて歌うルートヴィヒ。クレンペラーと言う指揮者は掴みどころが無く、芸風があまり良く分からないのですが、脱力したような演奏が多いように感じています。この演奏は、そんな中でも豊かに表現している演奏だと思います。別れを前にした何とも言えない寂しさを良く表現しています。ルートヴィヒは分かれに抗うような表現もありました。ルートヴィヒはとても感情が乗った素晴らしい歌唱です。雲の彼方へと別れて行きました。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 クリスタ・ルートヴィヒ(MS)ルネ・コロ(T)

★★★★★

一楽章、豊かな響きで広い空間に伸びやかなホルン。トランペットは奥まって響きます。コロの独唱も非常に伸びやかです。語り掛けるような歌唱です。とても滑らかで美しいです。

二楽章、物悲しいオーボエ。ルートヴィヒの歌も艶やかで美しいです。カラヤン独特のシルキーな美しさです。ファゴットもオーボエも寂しさをとても良く表現しています。

三楽章、この世のものとは思えない美しい木管。コロはあまり弾まず丁寧に歌います。テンポもゆったりとして落ち着いています。

四楽章、テンシュテットのような細部を抉り出すような演奏ではありませんが、細部までとても美しい。金管は奥まっていて、整然とした音場感です。

五楽章、バーンスタイン程ではありませんが、テンポが少し動きました。

六楽章、ほの暗く寂しい冒頭。カラヤンの演奏には賛否も分かれることがありますが、これだけ美しい演奏を数多く残しているのはカラヤンの偉業として称えられるべきものと思います。静寂の中に柔らかい響きが心に沁みます。棘が立つような刺激は無く、自然に流れて行きます。少し寒く悲しい別れでした。

ジュゼッペ・シノーポリ/ドレスデン国立管弦楽団 イリス・フェルミリオン(アルト)、キース・ルイス(テノール)

★★★★★

一楽章、フィルハーモニアの演奏よりもシャープで透明感のある響きです。少し細身ですが表現力のあるテノール。

二楽章、哀愁に満ちたオーボエ。とても寂しさのある良い表現です。僅かに粘りのあるアルト。とても滑らかに流れ、寂しさをとても良く表現しています。

三楽章、ゆったりとしたテンポで青春のホワッとした雰囲気が良いです。

四楽章、澄んだ美しい響きです。独唱も澄んだオケの響きに合っていてとても良いです。馬が駆ける部分は、そんなに極端にテンポは速くなりません。アルトも丁寧に歌います。

五楽章、僅かにテンポが動きました。独唱はどちらも極端な表現はせずにオケの中に自然に溶け込んでいます。

六楽章、強く悲しみを表現してはいないオーボエ。自然な表現ながら切々と訴えて来るアルト。美しい響きには魅了されます。自然な盛り上がりに独唱もとても良いバランスの歌唱です。オケも自然で突出したりすることも無く美しく流れて行きます。フェルミリオンの独唱は清澄でとても良いです。優しい別れでした。

強い主徴はありませんでしたがとても美しい演奏でした。

カルロ・マリア・ジュリーニ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 Fassbaender, Brigitte (Mezzo Soprano), Araiza, Francisco (Tenor)

★★★★☆

一楽章、鋭く涼やかな響きで、アライサの独唱も爽やかです。温度感が低いと言う意味では独特な演奏です。マーラーのオーケストレーションもとても良く分かる演奏で、色んな楽器が出て来て色彩感が豊かです。トランペットが鋭く伸びやかです。

二楽章、一人寂しいオーボエ。ファスベンダーの独唱も癖が無く伸びやかです。左右一杯に音場感が広がります。

三楽章、ゆったりと余裕のあるテンポで、とても落ち着いたアライサの独唱。

四楽章、繊細なヴァイオリン。明るく反応の良いオケ。とてもダイナミックで金管が炸裂します。

五楽章、僅かにテンポが動きました。アライサの独唱は何のストレスも無く伸びやかで気持ちが良いです。細かな楽器の動きも精緻です。

六楽章、フワーッとしたホルン。ファスベンダーの伸びやかな歌は素晴らしい。ただ、ベルリンpoの響きが洗練されていて明るい。独唱と一体になった響きも素晴らしい。この明快な響きが最後の別れでどうなるかです。やはり、明るい響きで分かれはあまり表現されませんでした。とても良い演奏だっただけに最後は残念でした。
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ロリン・マゼール/バイエルン放送交響楽団 Ben Heppner, tenor Waltraud Meier, mezzo- soprano

★★★★☆

一楽章、少しマットなホルン。控えめに入ったヘップナーの独唱ですが強い所はしっかりと張った声で表現します。オケの響きは柔らかく羽毛のように繊細です。

二楽章、かなり弱く演奏されるオーボエ。作品に合ったマイヤーの澄んだ歌声です。弱音部が美しい演奏です。

三楽章、静かに演奏されますが、豊かな表現の木管。ヘップナーとマイヤーの声質が近いので、とても統一感のある演奏に聞こえます。

四楽章、穏やかに優しく語り掛けるマイヤー。金管も整然としていて、美しいです。テンポが速くなってもはっきりと歌うマイヤー。

五楽章、少しテンポが動きました。二回目は広くテンポが動きました。

六楽章、鋭く反応するホルン。とても濃厚なオケ。とても録音が良くオーボエの生き生きとした表現も十分に伝わって来ます。ビシュコフとの演奏よりも控え目で、自然な歌唱のマイヤー。木管の緻密な動きは見事です。柔らかく繊細な弦も素晴らしい。力みの無いマイヤーの歌唱もとても良いです。消え入るような弱音も美しい。最後が現実的過ぎたのが唯一残念。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/BBCフィルハーモニック Alfreda Hodgson, alto John Mitchinson, tenor

ホーレンシュタイン★★★★☆

一楽章、かなり近いトランペット。トランペットよりも奥まっているミッチソンの独唱は丁寧で流れるような歌唱です。トランペットがかなりうるさい。明らかにミキシングのミスだと思います。

二楽章、あまり物悲しさを感じさせないオーボエ。かなり粘りのあるホジソン。

三楽章、あまり動きの無い木管。ここでも流れるような歌唱であまり弾むことはありませんでした。テンポはゆったりとしています。トライアングルもカチーンと響きます。

四楽章、たっぷりと歌うホジソン。テンポが速くなっても後ろに引っ張られるように前に進みません。

五楽章、この楽章もゆったりとしたテンポでかなり大きくテンポが動きました。テンポは何故か後ろへ後ろへ行く感じです。

六楽章、暗い中で音楽が進みます。優しく語り掛けるホジソンは絶叫しません。オケも暗く悲しいです。波が押し寄せるように悲しみが次から次から迫って来ます。ホジソンの静かな独唱が別れの悲しさを際立たせています。この楽章は素晴らしい演奏です。死に絶えるような別れです。
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ピエール・ブーレーズ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ミヒャエル・シャーデ(T) ヴィオレータ・ウルマーナ(Ms)

★★★★☆

一楽章、渋い響きのホルン。色彩感は乏しくマットな響きです。ストレートで伸びやか、オケとは対照的にブライトなシャーデの独唱。

二楽章、モヤが掛かっているようなオーボエ。強い粘りが無く、比較的ナチュラルなウルマーナの独唱。

三楽章、落ち着きのある木管。シャーデもあまり弾まず落ち着いています。

四楽章、絶叫すること無く優しく歌たうウルマーナ。テンポが速くなっても金管も荒々しくならず、比較的穏やかです。ウルマーナもしっかりと発音します。

五楽章、ほんの僅かにテンポが動きました。独唱はどちらも自然な歌唱で、落ち着いています。

六楽章、柔らかい低音。ホルンも控えめです。オーボエはテンポも動いて表現します。とてもまろやかな演奏です。ウルマーナは絶叫せず、切々と語り掛けて来ます。とても優しい独唱。しみじみとしたウィーンpoの音色。暖かい響きの中で、少しずつ遠ざかって別れて行きました。

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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン) ジェームス・キング(テノール)

★★★★

一楽章、奥まって豊かな響きを伴ってちょっと鋭いホルン。トランヘットも鋭角に響きます。ピンポイントで生命観のあるキングの独唱。芯のしっかりした、語り掛けるような歌唱から絶叫まで幅広い表現です。

二楽章、とてもゆっくりとしたテンポの演奏です。フィッシャー=ディースカウはとても粘りのある歌です。アルト独唱のようなピーンと張った感じは無く、沈んだ雰囲気です。

三楽章、しっとりとした響きのオケ。キングの歌はとても活き活きとした活発な表現です。

四楽章、やはりバリトンでは無いなと感じます。どうしても違和感があります。テンポが速くなってどんどん加速します。フィッシャー=ディースカウの表現はちょっとやり過ぎのようにも感じます。この楽章はテンポの振幅がとても大きい演奏でした。

五楽章、冒頭で大きなテンポの動きがありました。この楽章はかなりテンポが動いて自由に歌っています。最晩年のやりたい放題の演奏を思わせるような自由な演奏。この時代でもその片鱗を見せていたのか。

六楽章、オーボエとホルンの対比がとても鮮やかです。キングの生命観はあっても節度のある表現と、フィッシャー=ディスカウの大げさな表現が水と油のような感じがします。テンシュテットのような細部まで抉り出すような演奏ではありませんが、黄昏の雰囲気はとてもあります。重く暗い雰囲気の中にオーボエが華やかに響きます。やはりフィッシャー=ディースカウの表現は大き過ぎるように感じます。かなりあっさりとした別れでした。

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団 クレメント、ベイカー 1970年Live

★★★

一楽章、マットなホルン。ヴァイオリンもあまり高域まで捉えていないような録音です。ほとんどテンポを変えずにテノールの独唱が入ります。テンシュテットの演奏に比べると、オケの反応があまり敏感では無いように感じます。その分流れは良いです。Live録音のためか音の伸びやかさはありません。

二楽章、しっかりと地に足が付いているオーボエ。細かな楽器の動きはあまり表現されず、大きな流れとして作品を捉えているような演奏です。広大な響きが素晴らしい。

三楽章、あまり活発には動かない木管。クレメントの独唱も弾むような歌唱では無く、落ち着いています。

四楽章、録音によるものか、ベイカーの独唱の声が粘って、伸びやかに響きません。激しく速い部分をベイカーは見事に歌いました。

五楽章、若干テンポを動かして歌うクレメント。

六楽章、黄昏を感じさせる冒頭。寂しげなホルンに続いて朗々と歌うベイカー。オーボエが独特の雰囲気があります。ベイカーは弱音からffまでとても表現の幅が広いです。包み込まれるような中に悲しい別れです。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団 ペーター・シュライアー(テノール)、ヤルド・ヴァン・ネス(メゾ・ソプラノ)

インバル★★★

一楽章、速いテンポで自然な空間に広がるオケ。非常に表現豊かなシュライヤー。かなり激しい演奏です。シュライヤーはとても軽々と発声しています。シュライヤーの独唱は見事です。オケの反応もテンシュテットの演奏に迫る敏感な反応です。

二楽章、シュライヤーに比べると明らかに声量不足なネス。初秋の寂しさは感じます。

三楽章、ゆったりとしたテンポで美しい木管。シュライヤーは美しく、表現もとても豊かです。

四楽章、DENONの録音は基本的にワンポイント録音のはずなので、このシュライヤーとネスの声量の差は実際の差だったのでしょう。ネスは少し奥まった場所から歌っているようにさえ感じます。テンポが速くなる部分は音を繋げて歌っている感じではっきりとした発音です。オケの振幅は大きく静寂と激しい部分の対比も見事です。

五楽章、全くテンポは動きませんでした。独唱の後ろのオケはとても色彩感が豊かです。シュライヤーの表現の幅もとても広いです。

六楽章、オーボエが豊かな残響を伴って美しい。ネスの独唱には力が無く伸びやかさも無く、とても弱々しくオケから抜け出て来ません。最後もあまり別れを感じることはありませんでした。
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セミョン・ビシュコフ/ケルンWDR交響楽団 Magdalena Waltraud Meier – mezzo-soprano Torsten Kerl – tenor

★★★

一楽章、鋭く鳴り響くホルン。細く詰まったようなケルルの独唱。柔らかいオケ。オケとは分離してくっきりと浮かび上がる独唱。

二楽章、少し秋の寂しさを感じさせるオーボエ。フルートも寂しい演奏です。マイアーの独唱も細身ですが、オケと分離した感じはありません。オケは秋の寂しさをとても良く表現しています。マイアーの独唱も少し詰まった感じで伸びやかではありません。

三楽章、ゆったりとしたテンポで、落ち着いた独唱。オケもバタつくことなく落ち着いた演奏です。

四楽章、語り掛けるようなマイアーの独唱。とても良く歌っていて表現が豊かです。テンポが速くなってもゆったりと落ち着いています。

五楽章、テンポはほとんど動きませんでした。

六楽章、低音とオーボエ、ホルンが上手くバランスしています。柔らかいオケの響きがとても心地良いです。マイアーの声はかなり強いです。このマイアーの強い声が最後のの別れをどのように表現するのか。あまり別れは表現されなかったように感じました。
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カルロス・クライバー/ウィーン交響楽団 クリスタ・ルートヴィヒ、ヴァルデマール・クメント

★★

一楽章、ちょっと詰まったようなホルン。二つ目の音を少し長めに演奏しました。テンポを変えずに独唱に入ります。オケに比べるとクレメントの独唱が大きいです。とても力強い演奏で、前に進む力があります。

二楽章、詰まったような録音であまり状態は良くない。ルートヴィヒは朗々と歌います。

三楽章、それ程弾むことは無く歌っています。

四楽章、録音が悪いため、美しいとは感じません。金管も籠っていて、何をやっているか良く分かりません。テンポが速くなる部分との対比もあまり強くはありませんでした。

五楽章、独唱が入る部分で少しテンポを落としました。

六楽章、速めのテンポで淡々と進みます。速いテンポで何故そんなに別れ急ぐのかと思わせるような演奏。さらにテンポを速めたり、テンポは動きます。ルートヴィヒはかなり大きな声で訴えたり、とても表現の幅が広いです。とても現実的で、別れを感じることが出来ませんでした。

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ピーター・ウンジャン/トロント交響楽団 Susan Platts, mezzo-soprano Michael Schade, tenor

ウンジャン★★

一楽章、少し近いホルン。少しメタリックなシャーデの独唱。

二楽章、秋の物悲しさを感じます。少し粘りのあるプラッツの独唱。オケと独唱は良いバランスです。プラッツの独唱はあまり伸びやかに響きません。

三楽章、中庸のテンポで落ち着いた独唱。少し強い主張もありました。

四楽章、冒頭の歌唱が聞き取りにくかった。金管が入っても柔らかい響きです。テンポが速くなる部分の独唱もあまりはっきりと聞こえません。

五楽章、少しテンポが動きましたが動きは独特でした。

六楽章、プラッツの独唱は悪くはないのですが、伸びやかさには欠けていて、届いて来ません。ベイカーの独唱とは対照的です。木管も激しく歌うことは無く控えめです。少し別れの悲しさを感じました。
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レイモンド・レッパード/BBCフィルハーモニック Janet Baker, mezzo-soprano John Mitchison, tenor

★★

一楽章、浅く薄っぺらいホルン。トランペットもトランペットも近くで鳴ります。かなり濃い表現で伸び伸びと歌うのミッチンソン。

二楽章、声量豊かに訴えかけるベイカー。とても表現力がある歌唱です。

三楽章、ゆったりとしたテンポで生き生きとした木管。ここでもねっとりとした表現のミッチンソン。

四楽章、濃厚な表現ですが、声質は粘りが無いので聞きやすいベイカーの歌唱。シンバルが鳴り響きます。あまりテンポは速くなりません。

五楽章、かなり大きくテンポが動きました。その後もテンポを動かしながら大きな表現です。

六楽章、この楽章でも朗々と歌うベイカーです。表現の幅が凄く広いです。これだけ強力に歌うと最後の別れはどうなるのか、このままでは無いとは思うが・・・・。オケは来る別れに抗するような演奏をするが、ベイカーはまだまだ強力です。まるで狂っているかのように歌うベイカー。「永遠に」の繰り返しで突然弱くなって、不自然でした。
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エドワード・ガードナー/BBC交響楽団 Claudia Mahnke mezzo-soprano Stuart Skelton tenor

ガードナー★☆

一楽章、遠くから響くホルン。トランペットも奥まっています。スケルトンの独唱は強いです。やはり独特の個性があります。

二楽章、録音のバランスか、オケはとても控えめで繊細です。マーンケの独唱はスケルトンに比べると弱いです。

三楽章、落ち着いたテンポです。スケルトンの独唱も落ち着いていてあまり弾みません。

四楽章、マーンケの独唱は声量も少ないですし、歌唱もとても優しいです。オケも小じんまりしていて全くダイナミックではありません。

五楽章、少しテンポが動きました。マーンケとは対照的に声量も大きく積極的に歌うスケルトン。

六楽章、サラッとした響きのオケ。オケに激しさはほとんど感じません。独唱に合わせて静かに進みます。別れもあっさりしています。辛さも悲しさも感じませんでした。
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レナード・バーンスタイン/イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 クリスタ・ルートヴィヒ(A)、ルネ・コロ(T)

一楽章、モヤーッとした響きのホルン。コロの独唱はオケから分離して伸びやかに響きます。オケは少し乱暴な感じがします。コロの独唱は熱のこもった歌唱です。

二楽章、うつろに漂う雰囲気があります。ルートヴィヒも伸びやかで作為的なところの無い自然な歌です。

三楽章、とても現実的でオケが独唱に寄り添うような配慮があまり感じられません。オケは意欲的なのですが・・・。

四楽章、テンポも動いて美しく歌たうルートヴィヒ。馬を駆ける若者の部分はかなりのスピードです。どうしても夢見心地のような響きにはなりません。

五楽章、少しテンポが動きましたが、ウィーンpoとフィッシャー=ディスカウの演奏のような大げさな表現ではありませんでした。切れ味の良いコロの独唱。この演奏は独唱がどちらもとても良いです。

六楽章、ドラがゴンと響き、ホルンがあまりにも無神経に吹き興醒めします。クラリネットもオーボエもホルンもあからさま過ぎに感じます。表情豊かな独唱とは水と油のように感じてしまいます。柔らかい独唱にシルクのような布でサポートせず、角材で応じているような違和感があります。感情を乗せて歌うルートヴィッヒに、全く感情移入せず、自分たちは別の道を行くと言っているような、ある意味別れです。
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ルドルフ・ケンペ/BBC交響楽団 Janet Baker, mezzo-soprano Ludovic Spiess, tenor

一楽章、中央から響くホルン。遠くから響くスピースの独唱。金管も吠えて色彩感も濃厚です。スピースも吠えるオケに合わせてかなり激しく歌います。

二楽章、あまり寂しさを感じさせないオーボエ。この演奏でも強力なベイカーの独唱。ベイカーの独唱は寂しさとは程遠いように感じます。

三楽章、ゆったりとしたテンポで確実に歩みます。この演奏は2人の独唱とも表現が大きいです。

四楽章、テンポの速いところはあまりはっきり発音されていないように感じました。

五楽章、ここでも大きい表現でテンポも動きました。

六楽章、軽い冒頭。この楽章でもほとんど絶叫状態のベイカーに辟易します。さんざん絶叫した後に「Ewig」で静かになるのがあまりにも作為的で作品に入る込むことが出来ませんでした。

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サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団 Kathleen Ferrier, contralto Richard Lewis, tenor

一楽章、冒頭のホルンが入っていません。かなり埃っぽい録音です。いかにも古めかしい音です。力強いルイスの独唱ですが、少し開けっ広げな感じがします。

二楽章、淡々と演奏するオーボエ。録音のせいか硬い声に聞こえるフェリアの独唱。

三楽章、歯切れよく良く弾むルイスの独唱。

四楽章、粘りのあるフェリア。かなり硬く強く響きます。テンポが速くなる部分はかなり速いです。

五楽章、テンポは動きました。

六楽章、録音が悪いせいかあまり細部まで聞き取れず、独唱もあまり豊かな表現をしているようには感じません。消え入るようなクラリネット。録音が酷すぎた。

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マーラー 交響曲第9番

マーラーの交響曲第9番は、彼が生涯最後に完成させた交響曲で、人生の終末や死への瞑想をテーマとした非常に深い作品です。この曲は4つの楽章で構成されており、マーラーが直面していた死への恐れや、人生の無常、別れへの思いが音楽の中で表現されています。マーラーの作品の中でも特に内省的で、個人的な感情が色濃く反映されています。

各楽章の特徴

  1. 第1楽章:冒頭は不安や緊張感が漂う静かな始まりからスタートし、徐々に感情が高まり、激しいクライマックスを迎えます。この楽章は、人生への執着や死への恐れを表現しているとされています。特に、心臓の鼓動のような動機が繰り返され、不安感が強調されています。
  2. 第2楽章:民俗的なリズムが特徴で、田園風景を思わせるような牧歌的な雰囲気が漂っていますが、突然の不協和音や鋭いアクセントが挿入され、ただ穏やかなだけではなく、どこか風刺的な要素も含まれています。これには「死を予感するユーモア」という解釈もあります。
  3. 第3楽章:急速なリズムで進行し、神経質で不安定な感覚が強いスケルツォです。マーラーの他の作品にも見られるスケルツォ的な要素があり、狂気や混乱、絶望が垣間見えるような激しい楽章です。
  4. 第4楽章:最後の楽章は、ゆっくりとしたテンポで、非常に感動的で美しいアダージョです。この楽章では、穏やかで静かな響きが徐々に消えゆくように終わります。このフィナーレは「別れの音楽」とも解釈され、静かに消え去る終わり方が、死や永遠の眠りを象徴しているとされています。

演奏解釈と名盤

マーラーの交響曲第9番は演奏者によって解釈が大きく異なる作品であり、指揮者による解釈の違いが明確に出る曲でもあります。有名な録音には、レナード・バーンスタイン、ヘルベルト・フォン・カラヤン、クラウディオ・アバドなどの指揮者によるものがあり、それぞれがマーラーの終末的なメッセージを独自の解釈で表現しています。バーンスタインの演奏は特に感情表現が豊かで、マーラーの悲哀や別離への痛みが強調されており、カラヤンの演奏は音の美しさや洗練が際立っています。

マーラー第9番の意義

この曲は、マーラーが亡くなる前年に完成したもので、彼が生と死をどのように受け止めていたかを感じ取れる非常に個人的な作品です。第9番の終わり方には静かな諦念が漂い、人生の儚さや終焉への受容を表現しています。そのため、聴く人にとっても特別な感動を与えると同時に、深い哲学的な問いかけを投げかける楽曲となっています。

4o

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、残響に乏しい音場に孤立感があります。ちょっと不安定なホルン。すこし速めの第一主題。僅かに控え目な第二主題。金管の見事なアンサンブル。シンコペーションがとても強調されていて、裏で動く金管もとても克明です。荒れ狂うようなことは無く、整然とした演奏です。ベルリンpoも余裕を持って美しい演奏を続けています。消え入るような最弱音に引き込まれます。色彩感もとても豊かです。強烈なエネルギーの銅鑼の一撃に続いてこれまた強烈なトロンボーンのシンコペーション。色んな楽器が交錯して行くところをとても立体的に表現します。すばらしい表現力です。弱音部で演奏されるソロ楽器がそれぞれしっかりと立っていて、強い存在感を主張します。柔らかく美しい楽器が連なったコーダでした。

二楽章、くっきりと立ったクラリネット、穏やかなホルン。活発な弦。ホルンがトリルをたまにクレッシェンドします。しっとりとした弦の響きがとても美しい。Bへ入っても急激なテンポの変化がなくすんなりと入りました。金管楽器は若干抑え目で、弦を主体に音楽が作られて行きます。穏やかなC、木管楽器が生き生きと演奏します。二度目のBは一度目よりも速いテンポでスピード感があります。造形が整っていてとても美しい構造の演奏です。Aの再現はとてもゆったりとしたテンポで始まりました。フルートのフラッターがとても良く聞こえます。Bが再現するあたりからホルンの低い音が強烈に響きます。次第にテンポを上げてかなり早くなったところでAが再現します。どの楽器も極上の響きで登場するあたりはさすがにベルリンpoと思わせる演奏です。最後は少しテンポを落として終りました。

三楽章、明快な金管。活発な動きで生き生きとした音楽です。彫りの深い音楽で、とても克明に描かれています。金管はかなり強奏しますが、理性の及ぶ範囲にとどまっています。Bも豊かな色彩です。美しい造形を保ちながら深い彫琢の音楽が繰り広げられます。最後はベルリンpoの上手さを見せ付けるように豪華絢爛な響きで終りました。

四楽章、緊張から穏やかで安堵感のある音楽に移行する弦の第一のエピソード。すごく弱く演奏されたファゴット。控え目なホルン。ヴァイオリン独奏などの弱音部に凄いエネルギーが込められています。弦楽合奏も凄いアンサンブルの精度で、他にも重なり合う管楽器も有機的で、カラヤンの見事な統率が伺えます。弱音に込められるエネルギーと言うか魂とでも言えば良いのか、凄い雰囲気です。第二のエピソードでも弱音で木管の発するメッセージの強さと美しさの引力に引き込まれそうになります。クライマックスでの伸びやかなトランペットもすばらしい。次第に惜別の悲しさを訴えて来ます。この世のものとは思えないような美しいコーダ。別れ際にそっと抱きしめられるような別れです。

これほど有機的な演奏に出会うことはめったに無いと思います。すばらしい演奏でした。

レナード・バーンスタイン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

マ>icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで暗闇に浮かび上がる楽器が神秘的です。とても感情のこもってたっぷりとした表情で穏やかな第一主題です。ホルンの二度下降動機から暗転します。金管もかなり強奏します。凄い金管の咆哮。音楽の振幅がものすごく激しいです。くっきりとしたくま取りで積極的に表現します。同じベルリンpoでもカラヤンの演奏とはかなり違った作品への没入です。作品と一体になったバーンスタインが強いエネルギーを発散しています。一音一音に意味を持たせたような生命感に溢れる演奏です。コーダの前のホルンも美しい。コーダのヴァイオリン独奏も柔らかく美しい。

二楽章、快速なテンポで抜けの良いクラリネット。とても積極的で表情豊かで生き生きした演奏です。途中から入ってくる楽器が思いっ切り良く入って来ます。Bからもにぎやかで活気に満ちています。Cは少しテンポを落として穏やかな表現ですが時折顔を出すAの要素はとても活気に溢れています。とにかく生き物のように音楽が動き回ります。再び入るCへはゆっくりと入りました。音一つ一つに強いエネルギーがあって、この時の演奏の集中度の高さを感じさせます。

三楽章、トランペット、弦、ホルンの入りに独特の間があります。トランペットとホルンの間に入る弦がもの凄い勢いとエネルギーでした。とても積極的な表現で、入ってくる楽器が思い切って強く入りますのでとても色彩感も濃厚です。柔らかい部分と激しい部分の描き分けがとてもはっきりしています。最後は強烈に荒れ狂って終りました。

四楽章、冒頭の緊張感から穏やかで心安らぐ主要主題へと引き継がれます。非常に感情のこもった、思い入れたっぷりのメロディーが波のように押し寄せる演奏です。抑揚があって大きく歌います。すごい感情移入で、こちらも引きずり込まれます。太く艶やかなヴァイオリン独奏。一つ一つの音に強いエネルギーがあって、とても感動的です。音楽が次々と湧き上がってきてとても豊かです。第二のエピソードの前では、バーンスタインの唸り声も聞こえます。強烈に叫ぶトランペット。一つ一つの音に感情が込められていて、とても重い。コーダに入っても一つ一つの音には力があり、浮遊感はありません。別れの悲しさはあまり感じませんでした。

レナード・バーンスタイン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆっくりと丁寧な冒頭。柔らかく豊かな第一主題。第二主題の分厚い響き。濃厚な色彩で描かれて行きます。非常に重い展開部冒頭。別れの切なさを切々と歌います。輝かしいブラスセクション。別れの空虚さを何度も垣間見せます。オケは気持ち良いくらいに鳴り響きます。トロンボーンのシンコペーションも凶暴です。ミュートを付けたトランペットの音がキリッと立っていて演奏の集中度の高さを感じさせます。コーダ手前のハープに導かれるホルンやクラリネットもとても美しい。寂しげなコーダ。

二楽章、くっきりと美しいクラリネット。控え目なホルン。艶やかで美しい弦。登場してくる楽器が有機的に結びついて生き物のように生き生きとした演奏です。オケがコンセルトヘボウだからと言うこともあると思いますが、とにかく色彩が豊かで、濃厚で油絵を見ているような感覚です。目の覚めるようなシンバル。ビンビン鳴り響くトロンボーン。どの楽器をとってもすばらしい!最後のAが出現するところの急激なテンポの変化(遅くなる)には驚きました。

三楽章、最初のトランペットとホルンの間に「間」がありました。少し速目のテンポで進みます。強弱の振幅が非常に大きく、とてもドラマティックな演奏です。最後は雪崩れを打って押し寄せるように終わりました。

四楽章、感情のこもった深い歌です。泉からこんこんと水が湧き出すように絶え間なく豊かに歌い続けます。不気味な雰囲気のファゴットのモノローグ、艶やかなヴァイオリン独奏。生前の幻影を見るかのように寂しげな第2エピソード。バランスのとれたクライマックス。夢見心地のようなコーダ。死に絶える人を暖かく包み込むような、悲しみの中にも暖かみのある演奏です。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★★★
一楽章、暗闇の中から光が見えるような序奏。序奏の緊張を解きほぐすように柔らかく安らいだ心地の第一主題。第二主題が現れると暗雲が立ち込めるように暗転します。ティンパニの激しいクレッシェンド。とても微妙な表情付けがされています。金管も遠慮なく強奏します。オケも力強くしかも、この当時の録音を考えるととても美しい。この曲の初演者の自信なのか、作品への共感と堂々としたスケールの大きな演奏には感動させられます。うつろでさまようような表現も見事です。銅鑼の強打の響きとバランスの取れたトロンボーンのシンコペーション。音楽が立体的で生命感があってすばらしい。コーダ手前のホルンとフルートの絡みの部分のオケの響きにも独特の深みがあって、なかなか聞きものです。すばらしい第一楽章でした。

二楽章、ゆったりとしたテンポで、優雅に舞うように始まりました。響きに透明感があって、とても美しい演奏です。Bはかなり速いテンポですごく活発です。アーティキュレーションの表現にも敏感でとても生き生きしています。Cは一転して穏やかで対比が見事です。再び現れるBでもバッチリ決まる打楽器が気持ち良い。再びのCでは寂しげな雰囲気。Aの再現では暗い影が現れ荒れ模様に。最後のAに入る時にホルンが大きくリタルダンドしました。表現も色彩感もとても豊かで、コロンビア交響楽団が寄せ集めのオケだとは思えないすばらしい演奏です。

三楽章、深みのあるコントラバス。張りのある金管。どの楽器も強い音で交錯します。Bになり少し穏やかになりますが、依然として活発な楽器の動きがあります。二度目のBでも勢いのあるブラスセクション。普段は温厚で暖かい音楽を作るワルターの人が変わったような激しい演奏です。Cで穏やかな安らぎのある音楽になりました。終盤のAの緊張とCの穏やかさの対比がすばらしい。最後はかなり強烈なトゥッティでしたが、しっかりとワルターが手綱を締めていて、暴走はありません。

四楽章、大きく歌うヴァイオリンの主要主題。次から次からと旋律が湧き上がってくるような自然な音楽です。ファゴットは少し音を短めに演奏しました。第一のエピソードが高まる部分は非常に感情がこもっていて感動的です。独奏ヴァイオリンも美しい。第二のエピソードは憂鬱で孤独な感じを表しています。クライマックスの激しい金管の演奏も強烈ですが、伸びやかなものでした。暖かい別れでした。

最近の演奏からすると一時代前の演奏かも知れませんが、この作品の初演者としての自信と共感に溢れるすばらしい演奏でした。

レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団

セーゲルスタム★★★★★
一楽章、非常にゆっくりとした冒頭。アウフタクトから強拍に繋がる表現が見事な第一主題。うごめくような第二主題。色彩感も豊かで、ダイナミックの変化の幅も大きい演奏です。展開部の手前の、分厚い響きのトゥッティ。オケのエネルギー感も相当なものです。ちょっと内側を叩いたようなベタッとしたティンパニの響き。展開部に入って暗い音楽が続き、ハープが出て第一主題の変形が現れると薄日が差すように明るい雰囲気になります。録音も良く、音が立っていて、金管も迫力があります。トロンボーンのシンコペーションはチャーバとのバランスの良い響きでした。葬送行進曲のミュートをしたトランペットのシャキッとした音。冒頭とは違い少し華やいだ再現部。穏やかで美しいコータ゜。

二楽章、ゆったりとしたテンポです。柔らかいホルンが美しい。Bは速いテンポです。Cの何とも言えないのどかで穏やかな雰囲気。音楽にどっぷりと浸ることができます。楽器一つ一つがしっかりと立っていて、しかもとても透明感が高い演奏で、聞いていて嬉しくなります。

三楽章、情報がスッキリと整理されていて、とても見通しの良い演奏です。アゴーギクを効かせたり、テンポを頻繁に動かしたりしているわけではありませんが、とても密度の高い演奏で、濃厚です。テンポを落とした部分では、一音一音心を込めるような丁寧な演奏で、力で押すような演奏ではなく、心を動かされます。最後は少しテンポを上げてにぎやかに終わりました。

四楽章、ゆっくりと感情を込めた序奏。大切なものを扱うように丁寧な主要主題はすごく感情がこもっています。控え目なファゴットのモノローグ。第一のエピソードの弱音部分はとても繊細で美しい表現です。ホルンの主要主題の後の弦の充実した響きもとても美しい。切々と語りかけるような演奏が続きます。第二のエピソードの導入部は僅かに速めのテンポです。トランペットが強いクライマックス。クライマックスを過ぎて、コーダに至るまでの間は、夕暮れを思い出させるような、切なさを感じさせる演奏でした。コーダは大切な人との別れを涙にくれながらもしみじみと味わうような温かいものでした。

非常に濃厚で深い音楽を聞かせてくれました。すばらしい演奏だったと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2004年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、深い息遣いの第一主題。騒ぎ立てずに落ち着いた第二主題。盛り上がりのエネルギーはすごいです。展開部は暗闇の中を手探りで進むような感じから次第に明るくなっ行く感じです。オケはとても良く鳴ります。自然な流れで演奏されているような感じですが、実際にはかなり細部にわたって緻密な表現がなされています。普段のハイティンクの演奏ではめったに聴かれないような、オケの限界ギリギリの咆哮で、すごいです。再現部も波がうねるように色んな楽器が絡み合って、深い表現をします。緊張から解放されたようなコーダ。穏やかな部分と激しい部分の起伏の大きな演奏でした。

二楽章、とても軽く始まりました。弦が入るところは心持ちテンポを落としました。この楽章でも起伏の激しい演奏です。底から突き上げるようなコントラバス。ほとんどテンポを変えずにBへ入りました。次第にテンポを上げて、とても生き生きとした表情です。Cも動きがあって、穏やかと言うよりも生命感があります。色彩感も濃厚です。二度目のBもとても明瞭な表現で、オケが生き物のように活発に動きます。深いところから湧き上がるような音色がとても魅力的です。ホルンが遠慮なく吹きまくります。穏やかななって終わりました。

三楽章、比較的ゆっくりの序奏からAに入ると一転して速いテンポになります。滑らかに演奏されるB。Cは少し細身のトランペットです。オケがハイティンクの音楽を献身的に表現しようとしているように感じます。最後はとても賑やかで、色彩のパレットを広げたような眩い演奏です。急激な追い込みは無く、わずかにテンポを速めて終わりました。

四楽章、内面から湧き上がるような序奏。大きく捉えて歌われた主要主題。うら寂しい第一のエピソードの最初のヴァイオリン独奏。川の流れのように豊かな弦楽合奏。感情のこもった高まりです。第二のエピソードは入ってくる木管が細心の注意を払って入って来ます。夕暮れの寂しさのような感じがしました。音の洪水のようなものすごいクライマックスです。消える寸前のロウソクが強い光を放つように、金管が音を放ちます。そして、死へ向かって次第に衰えて行きます。雪が降る寒い夕暮れの別れです。心が抉られるような深い音楽です。

とても起伏の激しい演奏でした。生命感に溢れた生き物のような音楽から、次第に力が衰えて悲しい別れに至るまでを見事に表現しました。とても感動的なすばらしい演奏でした。
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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、暗闇の中で探るような冒頭部分。ゆっくりと美しい第一主題。バランスの良い金管。ライヴならではの熱気も感じられます。穏やかな部分ではもっとゆったりとたっぷりと演奏して欲しい部分もありますが、速めであっさりと進みます。第三主題のクライマックスも爆発することは無く控え目でした。金管には熱気とともに感情のこもった強い響きがあります。コーダの手前のホルンは筋肉質でライヴとは思えない良いバランスです。コーダのヴァイオリン独奏は枯れた響きで黄昏感があります。

二楽章、抜けの良いクラリネット。締まりあって活発な表現です。Bへ入ってもあまりテンポは変わりません。積極的な表現で訴えかけて来ます。色彩の変化も見事に表現しています。最後のBではテンポをかなり速めます。

三楽章、ミュートを付けた金管が激しい。ライブでありながらキチッと整ったアンサンブルを聞かせるオケはさすがです。別れの寂しさを予感させるトランペット。最後のホルンやトランペットの強奏はなかなかでした。

四楽章、暖かみがあり感動的な主要主題。ホルンの主要主題も感情がこめられて深みがあります。寂しげなヴァイオリン独奏。寂しさはありますが、感情が込められて暖かい響きです。第二のエピソードも物悲しいですが、響きには力があって、熱気を感じます。クライマックスで強力なトランペットやホルンが情感豊かに演奏します。寒々としたコーダ。こんなに同じ曲で温度感を変えるとはすごいことです。ゆっくりと歩いて去っていくような別れでした。

ライヴならではの熱気のこもった演奏で感情をこめた深みのある表現もとても良かったですが、四楽章コーダの寒々とした表現は同じ曲の中でこれだけ温度感を変えることができるなんてとても驚きでした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、とてもゆったりとしたテンポで始まりました。ショルティと同じオケとは思えないような柔らかい音です。とても優しい表情の演奏です。金管も余力を残した上にバランスを重視した美しいハーモニーです。どことなく寂しげな表情が「別れ」の切なさを感じさせます。ミュートをつけたトロンボーンの見事なアンサンブル。どのパートも絶妙なアンサンブルを聞かせます。そして、この演奏が持っている独特の寂しさ切なさは特筆に価します。鐘も柔らかい響きです。これだけ悲しい陰を引きずりながら聴き手の心を揺さぶる演奏はすばらしいです。コーダからもとても切ない。

二楽章、ゆったりとしたテンポでふくよかな響きです。テンポの変化は僅かで流れが良いです。ショルティ/シカゴsoのようなしゃかりきになって演奏しているような雰囲気はなく、とても柔らかい音色で心なごむ演奏です。細かなことは考えずにジュリーニの音楽に身を任せて流れていく音楽にどっぷりと浸っていたいように気持ちにさせる演奏です。音楽を聴く喜びを心から感じさせてくれる演奏だと思います。木管楽器もとても美しく生き生きとした表情です。

三楽章、豊かにホールに音が広がります。この楽章もゆったりとしたテンポで確実な足取りです。トロンボーンは低音が一体になっているところはとても重量感ある音です。後半、少し動きが少ない部分ではとても雄大なクライマックスでした。最後も力みのない終結でした。

四楽章、祈るような冒頭。惜別の思いが込み上げてくるような主要主題です。天国から聞こえてくるよあなホルンの主要主題。一つ目の山に向かって語りかけるように感動的な演奏をする弦楽。艶やかな独奏ヴァイオリンと潤いのある木管がとても美しい。抑え気味のクライマックスでした。とても幻想的な雰囲気のコーダ。

一楽章のすばらしい出来に続く楽章がいまひとつだったのはとても残念です。
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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、断片的に登場する楽器が浮き上がります。穏やかな雰囲気の第一主題。不安を掻き立てるかのような第二主題。金管の緊張感と弦の開放感が上手く演出されています。展開部の抑えぎみのトロンボーン。印象的なハープの響き。ミュートをしたトロンボーンのすばらしいアンサンブル。クライマックスでも各パートが溶け合った力強い響き。鐘が演奏される前のミュートを付けたトランペットがホールの残響を伴って浮かび上がりました。鐘は柔らかい響きです。コーダの前のホルンとフルートの掛け合いも美しく、オケの実力の高さを伺わせます。コーダの独奏ヴァイオリンと木管、ホルンも淡い色彩でとても美しい演奏でした。

二楽章、軽快なテンポで始まりましたが、弦の入りで一旦テンポを落としてまたテンポを戻しました。テンポが上がってトロンボーンの強奏は分厚い響きで見事でした。ホルンの速いパッセージを活気溢れる演奏で盛り上げます。強いグロッケンがカチーンと来ました。フルートのフラッターが良く聞こえます。テンポは微妙に動きます。

三楽章、直接音と直接音の間をホール内に飛んでゆく音が豊かに響きます。いろんな音が乱れ飛ぶように激しい演奏です。がっちりとした骨格の上に音楽が作られているような安定感と精度の高さを感じます。激しい演奏ではありますが、オケは常に余力を残して美しい音の範囲で演奏しています。気持ちよく鳴り渡るホルン。フルートのフラッターがとても良く聞こえます。最後はそんなにテンポを上げることはありませんでした。

四楽章、必要以上の感情移入を避け、作品の本質に迫ろうとするような演奏です。大河の流れのようにとうとうと流れる弦楽合奏。自然な音楽の流れに身を任せているととても心地よい気分です。木管の寂しげなメロディはこの世との別れを惜しんでいるかのようです。クライマックスでの金管のパワーも凄い!コーダは静寂の中に弦楽合奏が浮かび上がります。死に行く者の体をそっとさするように大切に大切に、そして消え入るように演奏されています。マーラーの指示通りに死に絶えるように消えて行きました。

見事な構成力でダイナミックな最強音から消え入るような最弱音まで幅広い音楽を聴かせてくれました。すばらしい演奏でしたが、もっと感情の吐露があっても良かったのではないかと思いました。

クラウディオ・アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、深く刻むハープ、ビーンと長く尾を引くホルン。柔らかい響きの第一主題。どれもとても美しい。深みのあるティンパニ。音楽のコントラストがはっきりしていて、濃淡や明暗の変化がとても分かり易い演奏です。テンポはどちらかと言うと速めのテンポでどんどん進んで行きます。トロンボーンのシンコペーションは強烈でした。全体の響きは透明感があり美しいです。太く豪快な線はありませんが、繊細でエレガントな美しさがこの演奏の特徴のようです。

二楽章、ファゴットの後の弦を一旦大きくテンポを落としてから入りました。深々とした厚い響きがすばらしいです。テンポは何度か変化します。Bはかなりれ速めのテンポです。品良くくどくならない程度に歌っています。Cでゆったりとテンポを落として豊かな響きです。オケはとても良く鳴り聞いていて気持ち良い響きです。再現するBはかなり速いです。

三楽章、コントラバスの豊かな響きが全体の響きに厚みを持たせ大きく広がります。深い感情移入をするようなタイプの演奏ではありませんし、スケールの大きな演奏でもありませんが、非常に美しくスタイリッシュな演奏です。

四楽章、暖かく包み込まれるような主要主題。第1のエピソードの部分では、弦が重なりあって盛り上がりますが、深く感情移入することはありません。第2のエピソードでも寂しさを強調するような表現はありません。作品を強調することは無く、作品をありのままに表現しているようです。オケの能力をフルに発揮した輝かしいクライマックスです。コーダへ向かって黄昏て行く雰囲気はなかなか良く、次第に力を失って行くような感じが出ています。コーダは消え入るような弱音で、寒さの中での別れのような雰囲気でした。

作品に没入して感情表現するような演奏ではありませんでしたが、作品そのものに語らせるような演奏で、それを実現するために世界中から名手を集めたオケで、すばらしく美しい演奏でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団

エッシェンバッハ★★★★★
一楽章、ゆっくりと非常に注意深く開始される序奏。大きな息遣いの第一主題。波が寄せては返すような自然な揺れがとても心地よい演奏です。凝縮された濃密な音楽です。トゥッティで少し歪みます。展開部でチューバの響きがとても効果的に使われています。オケの響きも濃厚で色彩感豊かです。トロンボーンのシンコペーションは非常に強烈でした。続くティンパニもかなりの強打でした。音楽に常に動きがあって、生命観に満ちています。とても充実した音楽です。とても良く響くフルート。どのパートも伸び伸びと良く鳴ります。夕日を思わせるホルン。すばらしい精緻な演奏でした。

二楽章、ファゴットよりも弦の方が聞こえる冒頭。フランス的なクラリネット。少し野暮ったく演奏されるB。トロンボーンの旋律の部分で急にテンポを速めました。Cに入っても何かせかされているような感じで、あまり穏やかな雰囲気にはなりません。音の密度は非常に高い演奏です。マーラーの指定の「きわめて粗野に」の通り色んな楽器が次々に飛び出してくるような演奏でした。

三楽章、軽く吹かれるトランペットとは対照的に強奏されるホルン。複雑に絡むオーケストラを見事に統率しています。とても厳しい雰囲気が漂う演奏です。集中力は非常に高いです。最後はあんまり急な追い込みはありませんでした。

四楽章、緊張感の高い主要主題。内へ内へと凝縮されて行く音楽。聞いていて緊張を強いられるように感じます。重く響く金管や、深く切れ込んでくる現など、この演奏では、別れが辛く厳しいもののように描かれているような感じです。達観したようなおおらかさは全く無く、深刻な悲しさがあります。コーダの前ではうつろになって来ます。最後は悟りの境地か、穏やかな別れになりました。

この演奏をどう評価して良いのか分かりません。非常に密度の高い音楽でしたし、オケの集中力も素晴らしい演奏でした。しかし、四楽章のあまりにも悲痛で厳しい表現を心地よいものとは感じることができませんでした。演奏の水準は文句なく第一級のものだと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2011ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、とても穏やかな第一主題。第二主題も力みの無い穏やかな演奏です。少しoffぎみの録音で、いつものコンセルトヘボウの濃厚な色彩感はありませんが、水彩画のような淡い色彩はあります。ダイナミックレンジが圧縮されたような強弱の音量差の少ない録音。展開部に入って美しいホルン。ミュートを付けたトランペットの激しい演奏。影で動くパートの表情が大きくうねります。トロンボーンのシンコペーションの前に出るトランペットが強烈でした。葬送行進曲でもミュートしたトランペットが高らかに鳴り響きます。柔らかい響きの再現部冒頭。柔らかいホルン。深みのあるオケの響きはさすがです。味わい深いコーダ。

二楽章、ハイティンクに関してよく言われる中庸がこの楽章でも当てはまります。テンポ、表現、どこを取っても中庸です。大げさな表現は無く、普通に過ぎて行きます。Bも大きなテンポの変化は無く、自然に入って行きました。抑えぎみで柔らかいトロンボーン。ゆったりと穏やかなC。しかし、この中庸が、一定のクォリティを保証してくれるのが、ハイティンクのハイティンクたるゆえんで、オケの精度や深い響きなどはハイティンクじゃないと出来ない演奏です。二度目のBへの入りはゆっくり変わりました。

三楽章、絶対に踏み外さない安定感。オケも咆哮することは無く、とても抑制の効いた演奏で穏やかで静かな演奏です。最後は時間をかけて少しずつテンポを速め、最後まで同じように速めて(急加速せず)終わりました。

四楽章、すごく感情の込められた序奏は間を取ってたっぷりと演奏されます。続いてとても暖かみのある主要主題。内側から込み上げてくるような演奏です。ブルックナーを聴くような神聖なホルンの主要主題。第一のエピソードの最初のヴァイオリン独奏はうつろな寂しさがありました。第二のエピソードの導入部ではあまり寂しさを感じさせるものではありません。淡々と演奏されました。巨大なクライマックスも絶叫もありませんでした。コーダは暖かい響きで、内側からジワーッと別れの悲しみを感じさせる演奏でした。

安定感抜群の演奏で、大げさな表現などは皆無で、純粋に楽譜に書かれていることを音にしていますが、内面から滲み出すような別れの悲しみの表現は見事でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、闇の中に現れる緊張感から、第一主題で開放されます。細い糸を紡いで行くように複雑に音楽が絡み合って行きます。展開部の重い響きが印象的です。クライマックスでも咆哮するようなことはなく、極めて冷静に音楽が進んで行きます。銅鑼とともに現れるトロンボーンのシンコペーションも余力を残して、制御されています。マーラーが楽譜に記した細かい書き込みはほとんど無視したと言われるクレンペラーの演奏ですが、その分演奏の流れはとても良く、自然に身を任せることができます。コーダはとても柔らかく美しいものでした。

二楽章、この楽章はオケによって色んな色彩感を聞くことができるので楽しい。ふくよかなホルン。ちょっとだけ金属的な弦。トライアングルが異様に近いところで演奏しているような録音です。テンポの変化は自然です。金物打楽器のレベルを高めに録っているのか、突然のシンバルに全体をマスクされます。次第に迫ってくる暗い影が自然に表現されています。

三楽章、落ち着いたテンポで、とりたてて騒ぎ立てることもなく、また深く感情移入することもなく、自然に淡々と音楽が進みます。大太鼓の弱音のトレモロが入った後も堂々とした落ち着いたテンポでスケールの大きさを感じさせます。最後も大きくテンポを煽ることはなく、着実な足取りでした。

四楽章、緊張感のあるヴァイオリンから弦楽合奏に移り凄く安堵感を与えてくれます。しかしすぐに哀しみを含んだ音楽になって行きます。テンポが動いたり大きく歌うこともなく自然な流れです。ハープの上に乗って演奏される木管がとても悲しそうです。クライマックスのトロンボーンは強烈でした。この曲で初めてフルパワーだったのではないか?コーダからの表現も客観的で自らの別れの悲しさと言うよりは、自分とは別の人の別れを見ているような演奏でした。

自然な流れで、感情を抉り出すような演奏ではありませんが、安定感のある演奏でした。

リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

シャイー★★★★
一楽章、サーッと言うヒスノイズのような音の中から演奏が聞こえます。非常にゆっくりとしたテンポで演奏されます。まさにため息のような第1主題。柔らかく美しい響きです。テンポは遅いのですが、音の密度はあまり高くなく、ふわっとしています。クライマックスで音が混濁して、色彩感があまり分かりませんでした。テンポは遅いですが、感情移入することは無く演奏自体は淡々と進んでいます。

二楽章、この楽章もゆっくり目のテンポです。コンセルトヘボウ独特の濃厚な色彩はあまり感じませんが、まろやかな響きです。Bに入って、最初はそんなには速くない感じがしましたが、実際にはかなり速くなっています。Cに入ってから次第にテンポを落とし、のどかな雰囲気です。ここのBも、入りはゆっくりですぐに速くなりました。テンポはよく動いて表情も多彩です。

三楽章、軽いトランペットの序奏に続く力強いA。豪快にホールに響くティンパニ。深い響きのコントラバス。オケはいつものように美しく鳴っているのだろうけれど、off気味の録音で色彩感に乏しいのが残念なところです。柔らかい表情のB。ノイズのせいなのか、弱音での緊張感があまりありませんし、音 の密度もやはり高いとは言えない感じで、漠然と演奏されているように感じてしまいます。あまりテンポを上げずに終わりました。

四楽章、厚みがあり暖かい主要主題。意図的に歌うことは無く、自然に任せているようです。第一のエピソードでは別れを迎えるう つろな雰囲気をうまく表現しています。ホルンに現れる主要主題も寂しさを感じさせるものでした。第二のエピソードも別れを強く印象付けるものです。コーダ もすばらしい演奏でした。

三楽章までは、散漫で何をしたいのか正直分からないような演奏でしたが、四楽章では、意図的な解釈を加えないことで、作品からにじみ出るような別れの寂しさを見事に表現しました。
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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、ふわっと柔らかい第一主題。この録音も低域が薄く厚みに乏しい響きです。また、奥行き感もあまりありません。微妙なテンポの動きによって濃厚な表情が付けられて行きます。揺り篭に揺られるような音楽。衝撃音だけのシンバル。一時の穏やかな安らぎ。展開部の前の頂点は、そんなに大きな頂点ではありませんでした。トロンボーンのシンコペーションもあまり強烈ではありませんでした。晩年のライヴ録音では、濃厚なコントラストで強烈な主張を展開しましたが、この頃の音楽はそれほど強い主張は無く、色彩も淡い感じです。コーダは独奏ヴァイオリンと木管の絡みがかなりはっきりと演奏されます。

二楽章、頭の音を強く演奏するファゴット。響きが薄く、残響成分も少ないので、豊かさもありません。Bはかなり速く感じます。表現は積極的ですが、ちょっと雑な演奏のような感じで、バーンスタインのニューヨーク時代をイメージさせます。Cはゆったりとして落ち着いた雰囲気です。再び現れるBがやはり落ち着きが無い。再度のCはゆったりと歌います。Aは前のCから引き継いでゆったりとしたテンポで、始まり次第にテンポを速めますが、ここでは雑な感じはありません。むしろマーラーのオーケストレーションを見事に再現しています。途中で大きくテンポを落として、一瞬止まるような部分もありました。なかなか豊かで大胆な表現です。

三楽章、トランペットと弦。ホルンと弦のそれぞれの間を少し空けて重々しく始まりました。その後急加速して、生命観に溢れる生き生きとした表現です。この躍動感はバーンスタインの若い頃の特質を思い起こさせます。各楽器の動きがとても克明ですが、響きの薄さと奥行き感の無さがとても残念です。

四楽章、暖かみがあって深い主要主題は非常に感情が込められてうねりのような音楽になっています。登場する楽器が大変明快に現れます。弦が重層的に重なって押し寄せてくる部分は勢いもありなかなか良い演奏でした。そこから静まるところの引きも良い表現でした。第2のエピソードのうつろな寂しさもとても良く表現されています。クライマックスは少し薄い感じがしました。コーダはあまり別れを感じさせる演奏ではありませんでした。

バーンスタインの音楽が完熟する前の過渡期の演奏だったのではないかと感じました。濃厚な表現や躍動があるかと思えば、とてもあっさりとした部分もあり、まだ定まっていないような感じがありました。
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ワレリー・ゲルギエフ/ロンドン交響楽団

icon★★★☆
一楽章、静かで控えめな第一主題。第二主題も騒然とすることは無く、穏やかです。残響感に乏しく、狭い空間で演奏しているような感じを受けます。展開部に入る前の頂点も狭い印象を拭うことはできず、スケールの小さい演奏に感じました。展開部冒頭は速めのテンポです。展開部は全体的に速めのテンポですが、マーラーの複雑なオーケストレーションはあまり表現されず、主旋律に重きが置かれ、他のパートは削ぎ落とされているような感じの響きです。トロンボーンのシンコペーションも全開ではありません。葬送行進曲も速いテンポで重さはありません。再現部に入って、ハープに導かれて出るホルンの響きも浅く、この演奏を象徴しているような感じがします。

二楽章、四つの音の初めの音に軽くアクセントを入れた冒頭。美しい音で抜けて来るクラリネット。弦の最初は少し遅くなりました。とても生き生きとした音楽です。Bも活発な動きです。音の強弱が明瞭で躍動感があります。Cはテンポが動いて歌います。途中で顔を出すAはテンポを上げて活発に動きました。再び現れるBも活発に動きます。シンバルが豪快に鳴ります。最後のBはとても速かったです。

三楽章、分厚い弦の響き。この楽章でも積極的な音楽が続きます。トランペットのソロは柔らかいと言うよりも細い感じです。オケは絶対に全開にはならず、常に制御されています。最後は色彩のパレットをいっぱいに広げて、狂ったように終りました。

四楽章、ゆったりとたっぷり演奏される序奏。感情の込められた主要主題。ホルンの主要主題が間接音をあまり含まないので、とても浅く聞こえます。第一のエピソードは速いテンポで淡々と進みます。第二のエピソードはすごく速いテンポです。ゲルギエフは感情の入り込む余地を無くそうとしているかのようです。ここでのクライマックスが初めて全開になった感じですごいエネルギー感でした。コーダもテンポは速いですが、寂しい冷たい空気を感じさせます。

二楽章と三楽章の躍動感を強調することで、四楽章の静を演出したようです。とても個性的なテンポ設定で、この曲の違った面を聴かせてくれたようにも感じました。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★
一楽章、とても明快な音でしっかりとした演奏です。さらりとした第一主題。テュッティの何とも言えない暗闇に突入するような雰囲気は独特のものです。展開部でもホルンがキリッと浮かび上がります。第三主題の頂点は全開です。弱音と強音が明快に区別されていて、onとoffのように単純な音楽のような錯覚に陥りそうです。主役がすごく強調されていて、その裏で動いているパートがあまり聞こえないので、複雑な構造が分からず薄い音楽に感じてしまいます。「最大の暴力で」と指示されたトロンボーンはその通り強烈でした。鐘はチューブラベルです。コーダの前のホルンはとても美しく、他のパートもすごく幻想的な雰囲気でした。

二楽章、ゆっくりとしたテンポです。弦は弓を跳ねさせているように強いアタックでした。ゆったりとしたテンポからテンポを上げるところの変化が大きくて全く別の曲を聴いているような感覚に襲われます。穏やかな部分はとても安堵感のある良い演奏です。また、テンポを上げるところが違和感があるんですよね。終わりに向けても弦は弓を跳ねるような演奏でした。

三楽章、少し抑えぎみのトランペットから開始しました。しばらくするといつものように全開になります。金管も抑えるところは抑えているのですが、強奏部分では弦もしゃかりきになって演奏しているように聞こえて、onとoffがはっきりしているような演奏です。ホルンなども間接音よりも直接音が強調されて音楽に奥行きを与えません。これは録音の問題もあるのかも知れませんが、全ての音が前へ出てくるので、全てさらけ出したような、あられもない姿になっているように感じます。

四楽章、とても安らかで安堵感のある主要主題。僅かに硬質なホルン。分厚い弦楽合奏。弦楽によってマーラーの人生への惜別の思いが切々と語られて行きます。孤独と寂しさを訴える木管。クライマックスで金管が登場すると全開。まさにopenになってしまって、そこまで貯めてきた感情を全て放出してしまい、ちょっと興ざめします。コーダからも直接音が強く、フワッとした羽毛のような柔らかさがありません。「死に絶えるように」と書かれている最後の表現としては、音の力があり過ぎだと思います。

これはシカゴのオーケストラホールの音響特性にもよるのだと思いますが、間接音が少な過ぎで、とても強い音が全体を支配しています。この曲の持っているメッセージとは相容れないオケの特性だと思います。

ジェームズ・レヴァイン/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★
一楽章、暖かいハープの調べ。第一主題も暖かい。テュッティは何かが崩れるような巨大な響きです。すごい情報量で音の洪水が押し寄せてきます。レヴァインの演奏に共通するティンパニの強打。弱音部でも暖かく、ピーンと張り詰めたような緊張感はありません。そして、色彩感がモノトーンのように淡白なのもレヴァインのマーラーの特徴です。濃厚な表情は付けられていないので、音楽自体は淡々と進む感じです。金管もかなり強奏されますが、一音一音に重さは感じません。とても心地よい響きで音楽が進んで行くのですが、この作品がこれで良いのか、ちょっと疑問に感じます。コーダは柔らかい独奏ヴァイオリンと木管が美しかった。

二楽章、抜けが良く生き生きとしたクラリネット。弦楽器はゆっくりと演奏をはじめました。Bはかなりテンポを上げました。付点のリズムが正確に演奏できないくらい速いテンポです。金管は遠慮なく強奏します。とても気持ちの良い演奏です。狂乱も見事に再現されています。演奏自体はとても上手いのですが、感情的に何も迫ってくるものが無いのが、これで良いのか、疑問です。レヴァインはこの作品を音響として捉えているようで、その意味では見事ですばらしい音響空間を再現しています。

三楽章、軽く演奏された冒頭のトランペット。相変わらずティンパニは思いきり良く入って来ます。金管は強奏されるのですが、色彩感はありません。マーラーの複雑なオーケストレーションを表現しているとは言えないようです。ただ、アンサンブルの精度などは非常に高く、精緻な演奏ではあります。

四楽章、かなり思いっきり演奏された冒頭でした。すごく感情が込められたように感じます。分厚い弦が歌います。寂しげな独奏ヴァイオリンが別れの悲しさを歌います。第一のエピソードの高まったところでレヴァインの声も録音されています。これまでの楽章とは一転して良く歌います。一つ一つの音に感情が込められています。コーダは特に感情が篭った演奏ではありませんでした。

総じて、あっけらかんとした演奏でした。

ウイン・モリス/ロンドン交響楽団

モリス★★★
一楽章、予想したほど遅くは無く、普通のテンポで始まりました。第一主題も目立った表情付けはされていません。響きが浅く、テンポの動きもほとんど無く、機械が一定に刻んでいるような感覚です。展開部に入る前の頂点でもテンポは動かず、ゆっくりのままで、とても無機的に感じました。金管を激しく吹き鳴らせますが、内面を抉るような音楽にはなっていません。トロンボーンのシンコペーションの部分でも、あまりにもきっちりとテンポを刻むので、聞いていて堅苦しく感じました。

二楽章、暖かい響きです。この楽章もスタートから全くテンポが動きません。Bは速めのテンポです。ここで初めて動きのある音楽が聞けました。Cはテンポも動いて自然です。二度目のCはすごく遅かったです。

三楽章、あまりにもカッチリと2拍子を刻むので、音楽が縦に振れているようで、横へ揺れるような曖昧な動きが無いので、とても硬いです。音楽が前に進もうとする力が無いので、とても遅く感じます。最後はものすごく遅いテンポから時間をかけて僅かにテンポを速めて終わりました。

四楽章、この楽章もゆっくりですが、感情のこもった主要主題です。ファゴットのモノローグは消え入るような弱い音量でした。ヴァイオリンの弱音が羽毛のようなフワッとした柔らかい肌触りでとても美しい。この楽章は、これまでと打って変わって、とても感動的な演奏です。三楽章までは、遅さが音楽を停滞させていたような感じがありましたが、この楽章では、そのテンポの遅さが音楽をとても深いものにしています。聞き手を引き込むような集中力。三楽章までの演奏が嘘のようです。切々と別れを告げるコーダも感動的でした。

四楽章だけなら満点の演奏でしたが、そこに至るまでがあまりにも不自然な動きだったのが残念です。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団 1966年

ホーレンシュタイン★★★
一楽章、独特の音の切り方をする第一主題。かなりストレートに感情をぶつけてくる演奏で、頂点では絶叫します。録音は古く常にノイズが付きまといますが、音には力があり、濃厚な演奏です。強烈なトロンボーンのシンコペーションの後のティンパニもかなり強打します。葬送行進曲の鐘がくっきりと浮かび上がります。とても激しく起伏に富んだ演奏です。コーダは一転して柔らかいヴァイオリン独奏です。

二楽章、明るいクラリネットと少しこもったホルン。ゆっくりとしたテンポですが、テンポは揺れ動きます。大きくテンポを落とす部分もあります。ぐっと早まるB。メリハリがあって躍動感があります。Cは音が痩せぎみなので、穏やかさはあまり感じません。二度目のBへの切り替わりはゆっくりから入りました。テンポはよく動きます。最後のAでは下品なくらいに大きくホルンが吹きましたし、とても遅いテンポです。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで始まりました。途中でテンポを落として強く濃厚な表現です。ここまで管楽器の小さいミスはたくさんあります。録音は古いですが、色彩感は濃厚です。とても情熱的で熱気を感じさせます。

四楽章、音楽を大きくくくって歌った第一主題。第二のエピソードでは登場する木管が唐突で淋しさは感じませんでした。テンポは速めでグイグイと進む力強さがあります。クライマックスで突き抜けるトランペット。コーダは暖かく、あまり別れの寂しさは感じませんでした。

個性的な演奏で、聞かせどころもたくさんありました。最新の録音で聞いてみたい演奏でした。
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ラファエル・クーベリック/ニューヨーク・フィルハーモニック 1978年

クーベリック★★★
一楽章、あまり抑揚の無い第一主題ですが、かえって脱力感が伝わってきます。第二主題もあまり表情は付けられていません。トゥッティはかなりのエネルギー感でした。展開部に入って、ミュートした金管が強烈に演奏します。金管やティンパニが強烈です。全体に金管が強めに演奏されるので、濃厚な色彩感です。決して美しい演奏ではありませんが、力があって生き生きとした演奏です。

二楽章、サラッと流れの良い演奏で引っかかるところがありませんが、音楽には活気があって生命感に溢れています。Bに入っても大きくテンポを速めることはありませんでした。この楽章でも金管が強い感じです。Cがあまり美しくないのが、この頃のニューヨークpoらしいところです。美しくはありませんが、躍動感や生命感など人間臭い演奏で、嫌いな演奏てせはありません。クライマックスではテンポを速めて、シンバルも炸裂しました。その後は大きくテンポを落として黄昏るように終わるかと思っていましたが、オケは元気なままです。

三楽章、金管に比べると弱い弦。一音一音刻み込むような強い音です。管楽器は生き生きとしていて色彩感も濃厚です。中間部の穏やかな部分でも、生き生きとした表情は変わらず、血の気が多い感じがします。これはこの頃のニューヨークpoの特徴か?積極的な音楽なのですが、ちょっと雑な感じもします。

四楽章、浅く深みの感じられない主要主題。注意深く進む第一のエピソードですが、美しさはあまりありません。弦が主体になると音楽が淡泊になって、サラサラと流れて行きます。第二のエピソードでは木管が踏み込んだ表現をしますが強く訴えてくるような表現ではありません。コーダに柔らかさや深みが感じられません。

管楽器主体の部分では生命感に溢れた生き生きとした演奏でしたが、少し雑な印象がありました。弦主体になると表現が浅く深みの無い音楽になってしまい、四楽章のコーダでも心動かされることはありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団 1969年

セル★★☆
一楽章、非常にあっさりと演奏される第一主題。ほとんど抑揚もなくさらりと流れる第二主題。ためなともなくひっかかるところが無くすんなりと音楽がすすんで行きます。セル好みの締まったホルンの響き。テンポも速めで感情移入などは全く無いように感じます。縦の線がきっちりしていて、とてもシンプルに聞こえます。力で押すようなこともありません。オケは余裕を持って演奏しています。情に流されるような演奏ではなく、理詰めで音楽が構築されていて、こちらも感情が動くことはありません。

二楽章、ホルンのトリルが強調される以外は、特に目立った表現は無く、流れて行きます。Bに入ってもテンポは僅かに速くなりました。トロンボーンも大きく叫ぶことはありません。最後のBはとても速いテンポでした。最後のAはゆっくりですが、やはり感情を込めるような演奏ではありません。

三楽章、

四楽章、全く抑揚なく演奏される序奏。同様に全く思い入れが無いかのように演奏される主要主題。第一のエピソードも速めのテンポで淡々と進みます。タメやねばったり、うなったりすることは無く、この曲をとてもシンプルにストレートに伝えているようです。第二のエピソードも感情移入されていないので、こちらの感情が動くこともありません。消え入るような弱音で演奏されるコーダ。すごい透明感で美しいです。

非常に透明感が高く美しいコーダにはグッと来ました。しかし、そこまでの音楽の運びがあまりにもシンプルで、私には肩すかしのような感じが残ってしまいました。
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ケント・ナガノ/ハレ管弦楽団 1996年5月 東京

ナガノ★★
一楽章、非常に録音レベルが低く最初はかなり聞き取りにくい状態でした。あまり思い入れの無いような第一主題。作品に込められたメッセージは全く関係ないかのように淡々と進められます。第二主題から高まったトゥッティも巨大な響きではありませんでした。展開部の前はかなりテンポを煽ったのは迫力がありました。音色は暖色系で、あまり密度の高い響きではありません。少し緩い雰囲気さえありますので、陰鬱な部分の落ち込みがあまり無く、浅い感じが常にあります。トロンボーンのシンコペーションもトロンボーンよりもチューバの響きが強く、強烈な印象はありません。コーダの前のフルートも静寂感や緊張感は伝わって来ません。

二楽章、暖かいホルン。温度感があり厳しさは感じません。Bは速めのテンポであっさりと演奏されます。Cは暖色系の音色が幸いして、穏やかで温かい演奏です。最後のBはかなり速いです。

三楽章、この楽章は遅めのテンポで非常に落ち着いた演奏です。感情移入などは全く無く、ずっと淡々と進んでいます。オケも咆哮することも無く、とても制御されています。最後のテンポの追い込みもあんまり激しくありませんでした。

四楽章、ほとんど歌わない主要主題。ファゴットのモノローグはとても弱く消え入るようでした。あまりにも素っ気ないこの演奏が私には、ただ演奏しているだけにしか聞こえません。感情的に沈んだり、高まったりすることが無いのです。第二のエピソードもテンポが速く、淋しさも感じられません。

ナガノはこの演奏で何を表現したかったのか、私には分かりませんでした。
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ミヒャエル・ギーレン/北ドイツ放送交響楽団 2010年ライヴ

ギーレン★★
一楽章、ミュートしたホルンが少し長めに尾を引く冒頭。穏やかな第一主題。流れるような第二主題。頂点でも絶叫することは無く、良くコントロールされています。暗闇の中に落とされたような展開部。ずっと暗闇が広がっているような感じです。ハープの動きが強調されています。トロンボーンのシンコペーションはとても長く吹き伸ばされた印象で、ゆっくりしたテンポになっています。色彩感は豊かです。柔らかく美しいコーダ。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで暖かいファゴットと弦。冷たく突き抜けるクラリネットが対照的。舞踊風な音楽と言うよりも、しっかりと足を踏みしめるような確実さがあります。Bは流れを損なわない程度に速くなりました。トロンボーンにメロディーが出る頃にはかなり速くなっています。Cはあまり穏やかさを感じません。二度目のCはすごくゆっくりとした演奏です。最後のAもすごくゆっくりですすが、終わりに向けて脱力いるようにさらにテンポを落とします。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで始まりました。Bもゆっくりなので、おどけたような雰囲気はありません。二度目のAは引きずるような感じがします。二度目のBは幾分明るい表現になりました。細いトランペット。どうも音楽がチグハグしているような感じがして、しっくり来ません。ハープが出る部分も非常に遅いです。最後もテンポは僅かに上げますが、とても落ち着いています。

四楽章、感情を込めずに無機的に演奏される主要主題。浅い響きのホルン。感情が込められることはほとんど無く、無表情に音楽は進みます。ただ、弦の厚みのある柔らかい響きは魅力的です。第二のエピソードも寂しさはほとんど感じません。なかなか壮大なクライマックス。冷たい冬の別れです。

ほとんど感情移入を断ち切ったマーラーの9番の演奏は、解釈の一つとして認めますが、やはり聞いていて共感できませんでした。
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ディミトリ・ミトロプーロス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1960年

ミトロプーロス★★
一楽章、チリチリと言うスクラッチノイズの中から音楽が聞こえます。倍音成分がほとんど無く、硬い響きです。浮遊感のある第一主題。かなりキツイ響きのトゥッティ。頂点ではかなり激しく動きも大きい演奏です。かなり情熱的な演奏のように感じます。再現部に入っても金管がかなり激しく演奏しています。色んな楽器が活発に動いています。一転して穏やかになるコーダ。

二楽章、この当時の演奏としては、非常に整っていると思います。なかなかスタイリッシュです。もっと良い録音で聞きたかったですね。最後のAはゆっくりとしたテンポになりますが、楽器の動きは克明で抉り出すような表現です。

三楽章、トランペットとホルンの間に演奏される弦が壮絶な響きでした。遅めのテンポで進むが、途中で一旦テンポを落としたりします。危なっかしいトランペットのソロ。最後までほとんどテンポを上げませんでした。

四楽章、ゆっくりと演奏される主要主題ですが、あまり感情移入はしていないようです。第一のエピソードの二回のヴァイオリン独奏の間の弦楽合奏も動きがあって素晴らしかった。第二のエピソードは速いテンポで始まりました。ここでも感情移入はほとんど無いように感じます。クライマックスのエネルギー感はすごいです。

とても客観的な演奏だったように感じましたが、頂点では遠慮なくドカーンと来るところの対比が面白い演奏でした。ただ、やはり録音の古さがいかんともしがたい。
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アンドレ・プレヴィン/ケルン放送交響楽団 2001年

プレヴィン★★
一楽章、力が抜けて穏やかで美しい第一主題。第一主題の途中でひっくり返るホルン。テンポが動いたり、オケが咆哮することも、大きく歌ったりすることは無く、作品を客観的に見ているような演奏です。ティンパニは硬質で非常に軽い響きです。トロンボーンのシンコペーションの前もシルキーで滑らかです。トロンボーンのシンコペーションは何かを発散するようなパワーがありました。葬送行進曲のトランペットのファンファーレも整然としていて、美しい演奏です。

二楽章、Bへの変化も大きなテンポの変化は無く、滑らかに音楽が進んでいます。トロンボーンも抑えた演奏で、マーラーが「きわめて粗野に」と指定したのとはかなり離れた演奏のようです。Cの中にAが現れる前はテンポを落としてAを導きました。

三楽章、深く刻み込まれるような演奏ではなく、とても軽い演奏で、その分流れがスムーズで美しいものとなっています。Bも大げさな表現は無く、軽い演奏です。Aが戻っても決して重くはなりません。再びBが再現した部分では、Ebクラリネットが楽しそうです。Cは滑らかなトランペット。最後は僅かにテンポを速めた程度でした。音楽的な興奮よりも、造形的な美しさを優先していねのでしょうか。

四楽章、ほとんど抑揚の無い主要主題。第一のエピソードのヴァイオリン独奏も何かを表現しようとはしていないようで、淡々と音符を音にしている感じです。こんな演奏なので、聞いていても心が動かされるようなことは無く、作品と共感しようとしても拒絶されるようで、できません。丁寧には演奏されているのですが、内面に訴えて来るものが無いです。クライマックスでも美しくすがすがしいトランペット。コーダも浮遊感のある美しい演奏でしたが、別れの悲しさなど内面に届くことはありませんでした。

プレヴィンはつくづくマーラー指揮者じゃないという事を感じさせられました。
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ヤンスク・カヒッゼ/トビリシ交響楽団

カヒッゼ
一楽章、かなりはっきりとしたチェロとホルン。ゆっくりとした第一主題ですが、どこか安っぽい音がしています。トランペットの高音が突き抜けて来るかと思えば、所々で金管が弱い部分もあり、一般的なこの曲の印象と違います。こんな曲だったっけ?と思うような部分がいくつもあり、不思議な感覚です。演奏するだけで精一杯と言う感じで、表現がどうとか、楽譜に書かれていることを正確に音にするとか言う次元ではありません。トロンボーンのシンコペーションも厚みの無い響きでした。ホルンにビブラートを掛けるのも旧ソビエトの名残でしょうか。コーダも潤いの無い音で味わいもありませんでした。

二楽章、透明感の無いクラレネット。潤いが無くささくれ立ったような弦。Bへの切り替わり時にオケのメンバーが迷ったような怪しい変化でした。トロ ンボーンの旋律がほとんど聞こえません。トランペットのミュートを付けた細かいパッセージも怪しい。管楽器は吹きやすいように吹いているような感じがしま す。音程も怪しいところが随所にあります。

三楽章、トランペットに比べると弱いホルン。かなり頼りない演奏で、聞いていてハラハラします。この曲はこのオケには技術的にかなり無理があるようです。バランスもおかしいところがたくさんあります。

四楽章、テンポを動かして感情移入しようとするカヒッゼですが、音楽は浅く深まることはありません。粗暴な金管が容赦なく吹かれます。トランペットだけが大きく突き抜けるクライマックス。特に何の感慨も無く終わりました。

演奏するので精一杯と言う感じのコンサートで、何かを表現したとか訴えたとかと言う次元ではありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第5番

シベリウスの交響曲第5番は、フィンランドの作曲家ジャン・シベリウスによって1915年に作曲された作品で、彼の交響曲の中でも特に人気の高い楽曲です。この曲はシベリウスの故郷フィンランドの自然の美しさや、生命の神秘と壮大さを反映しており、聴く者に深い感動を与えます。全3楽章から成り、特に最後の楽章の「白鳥の飛翔」とも呼ばれるモチーフが有名です。

各楽章の特徴

  1. 第1楽章
    穏やかな朝の風景を想起させる静かな序奏で始まり、次第に壮大な響きへと発展します。この楽章は、シベリウスが自身の自然体験から着想を得たと言われており、フィンランドの広大な風景が音楽を通して描かれます。明るいファンファーレのようなホルンと、弦楽器の力強い響きが絡み合い、ドラマチックな展開が特徴です。
  2. 第2楽章
    穏やかで親しみやすい音楽が流れるこの楽章は、木管楽器と弦楽器によるリズミカルな変奏が特徴です。シンプルでメランコリックなテーマが静かに展開し、牧歌的な雰囲気が漂います。シベリウス特有の繊細なリズムと色彩感が生かされ、柔らかいながらも深い情感が表現されています。
  3. 第3楽章
    最も有名な楽章で、「白鳥の飛翔」として知られる荘厳なテーマが登場します。この楽章は、シベリウスが白鳥の群れが空を飛ぶ姿に感動した体験をもとにしており、ホルンの堂々としたモチーフが白鳥の飛翔を象徴しています。このテーマはシンプルながら力強く、壮大な自然と生きる歓びを表現しており、楽章全体にわたって何度も繰り返されます。終盤では劇的に音楽が高揚し、静寂の中に感動的に終わる独特のフィナーレが印象的です。

音楽的な特徴と評価

シベリウスの交響曲第5番は、彼の他の作品と同様にフィンランドの自然美を反映し、オーケストラを巧みに使った透明感ある音色が特徴です。リズムの変化や色彩感が豊かで、シンプルなモチーフが繰り返し使われながらも、少しずつ異なる響きに変化し、全体として自然な調和が感じられる構造になっています。

この交響曲は、シベリウスが「作曲の達成感と自然への感謝」を表現したとされ、シンプルでありながら深い精神性が評価されています。シベリウスは最初この曲を1915年に完成させましたが、その後さらに推敲を重ね、1921年に現在の最終版が完成しました。この改訂版によって作品はさらに洗練され、交響曲第5番はシベリウスの最高傑作の一つとして位置づけられるようになりました。

4o

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第5番名盤試聴記

コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、大自然の中、遠くから響いてくるようなホルン。木管も締まっていて美しいです。静寂感があって、とても上品なたたずまいです。トランペットも奥まったところから残響を伴って響いてきます。トゥッティでも奥から鋭く響いてきますが、響きに拡がりが無くスケールの大きな響きにはなりません。大きな表現はせず、作品を自然に演奏していますが、その自然さが作品の深みを表現しているような演奏です。
二楽章、静かに演奏されますが、主題がとても良く分かります。とても愛らしい歌です。最後にテンポを落とした歌はとても美しいものでした。
三楽章、控え目で決して出しゃばらないホルンの鐘の響き。自然ですが、表情のあるオーボエやフルート。ヴェールをまとっているような美しい弦。バランスの良いクライマックス。

何の誇張も無く自然体の演奏でしたが、作品の味をしみじみと感じさせてくれる演奏でした。美しい響きもとても魅力的でした。

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、大自然を感じさせる非常に伸びやかなホルン。続く木管も生き物のように生き生きとしています。室内オケとは思えない巨大な拡がりのトゥッティ。内面から自然に湧き上がるような豊かな音楽。音が一音一音立っていてとても明快です。
二楽章、常に音楽が揺れて歌います。動きは活発ですが、とても繊細で細部まで神経が行き届いている感じです。
三楽章、とても積極的な表現で疾走感がある第一主題。テヌートぎみのホルンが壮大な鐘のモチーフを演奏をします。トランペットで演奏される鐘のモチーフもとても美しいです。決して力みませんが美しく壮大なクライマックス。

力みは全くありませんが、内面から湧き上がるような豊かな音楽。細部まで神経の行き届いた美しく整った演奏。穏やかですが、祝典的な雰囲気をとても良く表現した演奏でした。

コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、澄んで伸びやかなホルン。艶やかで締まりのある木管が静寂感の中にくっきりと浮かびます。第一主題もとても明瞭です。肌触りはあっさりしていますが、色彩感はとても濃厚です。とても静かで消え入るような展開部冒頭。スケルツォ主題とても可愛らしく演奏されます。終結部の最後はかなり激しい演奏でした。
二楽章、一転して穏やかで、素朴な歌です。必要以上の主観的な表現はしませんが、作品の美しさを余すところ無く表現しています。
三楽章、第一主題の細かい動きもとても明快に聞こえます。一体感のある動きで静寂感もあります。ホルンの鐘の響きのようなモチーフが盛り上がって広大な空間を表現します。とても表情豊かな第二主題。とても弱く演奏される弦のトレモロ。弱音が小さく、それでいてとても明瞭なので、ffとの対比が効果的です。感動的なクライマックスの充実した響きが見事でした。

肌触りはあっさりしていますが、濃厚な色彩で彩られた美しい演奏。明確でくっきりと浮かび上がる楽器。消え入るような集中力のある弱音から最後の感動的なクライマックスまで、とても充実した素晴らしい演奏でした。

レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

バーンスタイン★★★★★
一楽章、遠い山から響いて来るようなホルン。引き締まって美しく濃厚な色彩の木管。とてもゆっくりとしたテンポです。少し暗雲が立ち込める第二主題。重く粘っこい表現で、冷たさは全く感じません。
二楽章、静寂感があって繊細な弱音。最後は物凄く遅いテンポで濃厚に歌います。
三楽章、遅いテンポなので、第一主題に疾走感はありません。ホルンの鐘のモチーフは巨大で壮麗で圧倒されます。従来のシベリウスの音楽の枠を完全に超えています。感動的なコーダでした。

この作品をこれほど濃厚で感動的に演奏したのは他に記憶がありません。これまでのシベリウスの常識を完全に超えて(逸脱して)いますが、これは素晴らしい演奏でした。
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サイモン・ラトル指揮 バーミンガム市交響楽団

ラトル★★★★★
一楽章、爽やかな自然をイメージさせるホルン。第一主題は豊かな表情で歌います。第二主題は少しテンポを速めますが、弦も含めてとても積極的な表現です。金管は心地良く鳴り響きます。
二楽章、大きな表現ではありませんが、細部まで神経細やかな表現がされています。
三楽章、大きい物が駆け抜けるような感じの第一主題。ホルンの鐘のモチーフはフワフワとした音色で速めのテンポで演奏された後に力強い演奏になります。間を空けたりテンポを落としてたっぷりと歌う部分もあります。感動的に盛り上がって終わりました。

細部まで表現の行き届いた演奏で、テンポの動きもありました。シベリウスにしては表現が大きい感じはありましたが、なかなか聞かせる演奏でした。
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オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団

ヴァンスカ★★★★☆
一楽章、細身ですが、遠くから迫って来るホルン。木管の第一主題は清涼感があります。金管はしっかりと鳴らします。墨絵と言うほどではありませんが、かなり淡い色彩です。ティンパニの強打には驚かされました。
二楽章、この楽章は木管がかなり濃厚な色彩を発します。
三楽章、かなり疾走する第一主題。ホルンの鐘のモチーフは控えめでアタックも強く無く始まりましたが、次第に強くなります。弱音で間を取ったりする表現もなかなか良いです。最後は絶叫することなく、余裕たっぷりでした。

強弱の振幅がはっきりとした演奏でしたが絶叫するような咆哮はありません。さりげない表現もなかなか良かったです。
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エサ=ペッカ・サロネン指揮 スウェーデン放送交響楽団

サロネン★★★★☆
一楽章、とても雄大なホルン。涼しげな第一主題。トランペットと共に入るティンパニの意表を突く強打にびっくりさせられます。トゥッティはとても雄大でスケールが大きいです。冷たくはありませんが涼しげです。ここ一発のエネルギーはなかなかです。
二楽章、トゥッティの雄大さとは対照的な木管の小さなソロ。
三楽章、激しい疾走感ではありませんが、前へ進む力のある第一主題。ここでもティンパニが意表を突く強打です。ホルンの鐘のモチーフはゆっくりめで控え目で始まり、その後さらに遅くなります。フィンランドの指揮者の演奏としてはかなり強いコーダでした。.

雄大で、振幅の大きな演奏で、涼しげな空気に支配されていました。意表を突くティンパニの強打には何度も驚かされました。
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レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団

icon★★★★
一楽章、伸びやかで豊かな表情で感動的な冒頭のホルン。表現を意図的に抑えているような第一主題。弦のトレモロに埋もれるような第二主題。渋い響きで高揚しても濃厚な色彩にはなりません。スケルツォの荒々しさは程ほどでした。
二楽章、内面へ凝縮して行くような主題。動き回る旋律ですが、決して外へと発散することは無く、内側へと凝縮して行きます。華美にならず、純粋な作品愛が感じられる演奏です。とても安堵感があります。
三楽章、弦のトレモロにも力があって、力強い第一主題。少しテヌートぎみのホルンのモチーフは次第に力を増してきてマルカートになります。ホルンに提示されたモチーフがトランペットに表れても色彩感が乏しいので、鮮明な輝かしさはありません。

とても素朴な雰囲気の演奏でしたが、色彩感が乏しく祝典的な輝きはあまり感じませんでした。

サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★★
一楽章、大きく歌うホルン。木管の主題もとても豊かに歌います。第二主題も感情がこもった表現です。とても感情表現が大きく振幅の激しい演奏です。録音の古さからか、若干メタリックでザラザラとした弦。
二楽章、表情豊かで深みのある第一主題。感情が込められている分暖かい演奏になっています。表現やテンポの動きなど作品への共感を感じさせます。
三楽章、あまり疾走感の無い第一主題。強弱の変化はとても大きいです。感情のこもった大きな表現はなかなか良いです。ある意味絶叫と言っても良い程のかなり激しく盛り上がるコーダ。

かなり感情の込められた演奏で、表現やテンポの動きの大きなものでした。作品への共感をとても感じさせる演奏でしたが、美しさはありませんでした。
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ロリン・マゼール指揮 ピッツバーグ交響楽団

マゼール★★★★
一楽章、マゼールらしいこねくり回すようなホルン。ゆっくりとしたテンポで濃厚な第一主題。ピッツバーグsoはシルキーな響きでは無く、密度が薄く、表面がザラザラとした感じの響きです。
二楽章、かつての強引な表現は影を潜め自然な表現とゆったりとしたテンポで心地良く音楽が流れて行きます。最後はかなりゆっくりになりました。
三楽章、強弱の変化の大きい第一主題。ホルンの鐘のモチーフは最初は弱く演奏されますが、二度目にはテンポも落として強く演奏されます。強弱の変化はかなり意識して強く付けているようです。最後は大きな盛り上がりでしたが、テンポも速めてしまったので、感動的な感じはありませんでした。

ゆっくりとしたテンポを基調にして豊かな表現の演奏でした。テンポも遅くすることもあり、濃厚な表現もありました、ただ、最後にアッチェレランドしてしまうので、感動的にはならなかったのが残念でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シベリウス:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第5番2

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第5番名盤試聴記

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 モスクワ放送交響楽団

icon★★★
一楽章、伸びやかに大きく歌うホルンですが、独特の響きは好き嫌いが分かれそうです。続く木管は涼しげです。やはりこの曲でもトランペットは強烈です。劇的で振幅の大きな表現。とても激しい音楽になっています。この曲がこんなに激しい曲だったか?と思わせるほど激しい演奏です。嵐のように強烈に吹き荒れる音。表現もすごく積極的です。ギンギンのコーダ。凄い演奏です。
二楽章、この楽章でも積極的な歌は変わりません。本当に良く歌います。振幅の大きな演奏も変わりありません。この曲はもっと穏やかな曲だと思っていましたが、この考えを根底から覆すような演奏です。
三楽章、激しく箒で掃くようなホルン。アクセントを付けて短めに演奏します。トランペットはホルンほど強いアクセントにはなっていませんが、ブレスがはっきりと分かる演奏は少し雑に感じます。まさに咆哮と言うにふさわしい絶叫です。

とにかく強烈な演奏でした。シベリウスも演奏によってこんな風にもなるんだ。と言う驚きに満ちた演奏でしたが、これはシベリウスの音楽ではないと思いました。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★
一楽章、大自然を感じさせる伸びやかなホルン。透明感があって生き生きと動く木管の第一主題。緊迫感のある第二主題。やはりこの曲でも豪華に鳴り響くトランペット。カラヤンのセッション録音では良くある演奏ですが、表面はとてもきれいなのですが、内面に深く切り込むような表現がありません。コーダは豪快に鳴り響きます。
二楽章、あまり表現は無く、淡々と朴訥とした主題。変奏もあまり深い表現も無く、美しく過ぎて行きます。
三楽章、疾走感のある第一主題。激しさも思い切った激しさではなく美しさを意識したものです。ホルンの鐘の響きはレガート奏法であまり鮮明ではありません。快活で動きのある木管。終結の金管の豪快な鳴りっぷりは見事でした。倍管にした狙いは見事に反映しています。

おおむね淡々とした表現で、深く切り込むような表現はありませんでした。ただ、終結の豪快な金管は見事でした。

ユッカ=ペッカ・サラステ指揮 オスロ・フィルハーモニー管弦楽団

サラステ★★★
一楽章、美しいホルン。北欧の澄み切った空気を連想させるような木管の第一主題。大きな表現や主張はせず、作品そのものを忠実に演奏することによって作品の美しさを表現しようとしているようです。波打つような金管。飛び跳ねるように躍動する木管。最後はかなり速いテンポになって終わりました。
二楽章、ライヴとは思えない、とても澄んでいて美しい演奏です。ただ、冷たさはほとんど感じません。ライヴを感じさせないほどの静寂感です。
三楽章、引き締まった第一主題。ホルンの鐘のモチーフからの盛り上がりも見事でした。淡々と演奏される第二主題。この楽章も最後は速くなりました。

冷たい空気感は感じない演奏でしたが、非常に美しい演奏でした。感動的に盛り上がるところでテンポを速めて行くので、感情があふれ出ることはありませんでした。
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ウラディーミル・アシュケナージ指揮 フィルハーモニア管弦楽団

アシュケナージ★★★
一楽章、遠くから近づいて来るようなホルン。氷のような冷たさを感じさせる木管の第一主題。シベリウスらしい冷たい空気が支配しています。スケルツォ主題は生き生きとした躍動感がありますが、響きは透明感があって美しいです。
二楽章、作品に真摯に向き合っているようで、とても真面目な演奏です。
三楽章、前へ進む力はあまり感じない第一主題。最後はあまり落ち着きの無いあっけらかんとした終わり方でした。

冷たい空気感と真摯に作品に向き合った演奏でしたが、最後の落ち着きの無いあっけらかんとした演奏で全体のバランスが保たれていない感じがしました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1965年)

カラヤン★★☆
一楽章、おそらくザイフェルトであろうホルンのふくよかな演奏。艶やかな木管の主題。冷たい空気感はありません。後のEMIとの録音のような豪華絢爛な感じは無く、作品には正直な演奏です。ただ、シベリウスにしては余分な贅肉が付き過ぎている感じで、ブヨブヨとした響きです。
二楽章、速めのテンポですが、色彩は濃厚です。余分なものを削ぎ落としたような純粋な感じはありません。
三楽章、疾走感のある第一主題ですが、やはり響きがふくよか過ぎます。第二主題も豊かな響きでふくよかです。コーダではテンポを速めました。

シベリウスらしい余分なものを削ぎ落としたような純粋さは無く、かなりふくよかな演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

カラヤン★★☆
一楽章、引き締まったホルン。少し冷たい木管の主題。第二主題も鋭い響きです。後のベルリンpoとの録音のようなふくよかさや豪華絢爛な演奏ではありません。大きな表現はありませんが、突き刺さってくるような鋭い響きが特徴的です。コーダは激しい演奏です。
二楽章、素朴な表現の主題。
三楽章、あまり前へ進もうとはしない第一主題。ホルンの鐘のモチーフは少しバリバリと演奏するので、荒く聞えます。少し寂しさを感じさせる第二主題。豪快に鳴り響くコーダですが、少し雑な感じもします。

引き締まって鋭い響きで、冷たい空気感もありましたが、荒く雑な感じもありました。
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ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 NHK交響楽団

ブロムシュテット★★
一楽章、デッドですが歌うホルン。潤いのある木管。デッドな録音でどの楽器も全て前に出てきます。ヒスノイズが盛大です。トランペットも輝かしく美しいです。
二楽章、一昔前に比べるとN響もとても良く鳴るようになりました。ライヴですが、伸びやかに鳴ります。ただ、寒さは感じません。
三楽章、積極的な表現ですが、前へ進む力はあまり無い第一主題。浅い響きのホルンの鐘のモチーフ。コーダでテンポを速めました。

かなりの熱演でしたが、デッドな録音で全ての楽器が前に出で来るので、奥行き感が無く浅い響きになりました。また、冷たさも感じさせませんでした。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 BBCフィルハーモニック

ホーレンシュタイン
一楽章、古いライヴならではのデッドで近接した音場感です。速めのテンポであまり感情を込めずに進みます。トランペットの汚い響きで、シベリウスらしい自然の清々しさを感じることが出来ません。
二楽章、温度感は高く、冷たい空気はありません。
三楽章、スピード感はありますが、かなり太い響きの第一主題。かなり活発に動く演奏で、積極的な表現です。最後は盛大に盛り上がりましたが、やはり雑な響きで、シベリウスらしい精錬さはありませんでした。

速めのテンポで力強く進む演奏でしたが、古いライヴ録音らしく、トゥッティでの雑に聞える響きがシベリウスらしさを削いでいました。
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ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団

オーマンディ
一楽章、録音が古いせいか硬い響きのホルン。木管の第一主題も団子になるような塊に聞えます。騒々しいトゥッティでシベリウスらしい無駄なものを削ぎ落とした精錬さは感じません。コンベアに乗った流れ作業のように処理されて行く音楽。冷たさや自然を感じることもありません。むしろ都会的な雰囲気さえあります。
二楽章、慌ただしくやはり騒々しいです。
三楽章、豊かな表情と疾走感のある第一主題ですが、荒々しさがあります。ホルンの鐘のモチーフは痩せていて豊かな響きではありません。熱気さえ感じさせる演奏で、シベリウスの音楽のイメージとは遠い演奏でした。

録音の古さもあり、騒々しく暑い演奏でした。表面だけを取り繕ったような演奏であまり良い演奏とは思えませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シベリウス:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第6番

シベリウスの交響曲第6番は、彼が1923年に作曲した作品で、交響曲第5番の劇的な性格とは対照的に、清らかで内省的な美しさを湛えた曲です。シベリウス自身はこの曲を「清水のように純粋な作品」と表現しており、音楽はどこか冷たくも清々しい空気感を持っています。彼の交響曲の中ではあまり華やかさはありませんが、フィンランドの静かな自然や繊細な色彩が見事に描かれており、その詩的な響きが魅力です。

各楽章の特徴

シベリウスの第6交響曲は全4楽章から成り立っています。主に古典的な4楽章形式に沿っているものの、音楽は独特の抑制されたエネルギーと、慎ましい美しさに満ちています。

  1. 第1楽章Allegro molto moderato
    穏やかな導入部から始まり、抑制された旋律が淡々と流れるように進んでいきます。この楽章では、フリギア旋法(民族的な響きが特徴の音階)が使われ、シベリウスの作品に特有の神秘的で古風な雰囲気を生み出しています。弦楽器や木管楽器の柔らかな響きが重なり合い、静謐な世界が広がります。
  2. 第2楽章Allegretto moderato
    この楽章は叙情的でありながらも控えめで、シベリウスらしい繊細な表現が特徴です。淡々とした旋律が続く中で、木管楽器や弦楽器が互いに絡み合い、柔らかな音楽が進行します。シベリウス特有の淡い色彩が漂い、短いながらも心に残る美しい楽章です。
  3. 第3楽章Poco vivace
    ここでは、弦楽器の軽やかなリズムが印象的で、少し速めのテンポで進みます。前の2楽章とは少し異なり、生命力が増した感じで進行し、管楽器の力強い響きが際立ちます。牧歌的で少し踊るようなリズムも含まれ、北欧の静かな自然が目の前に広がるような開放感を感じさせます。
  4. 第4楽章Allegro molto
    最終楽章は、落ち着いた旋律が繰り返される一方で、次第に力強さを増していきます。曲全体を通じて抑えられていた感情が少しずつ開放され、フィナーレでは小さな頂点を迎えますが、大きな劇的展開には至らず、静かな余韻の中で終わります。この構成は、シベリウスの自然観や人生観が反映されたものともいわれ、日常の中に潜む穏やかな美しさを讃えています。

音楽的な特徴と評価

シベリウスの交響曲第6番は、派手な効果音や大規模な盛り上がりを避け、純粋で自然体の美しさが追求された作品です。フリギア旋法や全体的な透明感は、聴く者に静寂と内省の空気を感じさせ、どこか神秘的な世界観に包まれています。この交響曲は、シベリウスの音楽の中でも特に詩的で控えめな美しさが際立っており、「北欧の冬」を連想させるような静かな情景が広がります。

他のシベリウスの交響曲に比べて大規模なドラマ性はありませんが、フィンランドの静寂や自然の美しさ、そして彼の精神的な深みが凝縮されており、聴く者の心を穏やかに浄化してくれる作品です。そのため、シベリウスの交響曲第6番は、内面の静寂や自然の神秘を愛する人々にとって特別な意味を持つ曲として評価されています。

4o

たいこ叩きのシベリウス交響曲第6番名盤試聴記

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、凛とした冷たさをもった序奏主題。第一主題も素朴で華美なところはありません。舞うような第二主題。音楽の振幅も自然でゆっくりと波が押し寄せるような感覚です。金管が突き抜けてくることも無く柔らかい美しい響きです。

二楽章、静寂感のある第一主題。どの楽器も生き生きとしていて、有機的です。

三楽章、活発に動きますが、それをさらりと演奏します。初めて金管が突き抜けて来ましたが気持よく鳴り響きました。

四楽章、パステル画のような淡い色彩なのですが、ここぞと言うところでは濃く強いカラーを出します。中間部でのティンパニの一撃も見事な音色と絶妙な強さです。美しく消えて行きました。

柔らかく美しい響きですが、いざと言う時には、強く濃厚な色彩に変化します。とても有機的な音楽がすばらしかったです。

コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆっくりと波が押し寄せるように次から次からと変化し、柔らかく祈るような序奏主題。鮮やかな色彩の第一主題。第二主題も生き生きとして色彩感の豊かな演奏です。第一主題の再現も輪郭がくっきりとしています。軽快に動いて濃厚な色彩はとても素晴らしいです。

二楽章、強い主張はありませんが、色彩感豊かな演奏で作品のありまののを描くことで、作品の美しさを伝えて来る演奏です。細かな動くもとても克明です。

三楽章、第一主題の動きもとても俊敏な動きで活発で生き生きとしています。ハープがとてもはっきりと聞こえます。金管も思い切って入って来ます。

四楽章、ここでも生命感に満ちた主要主題。中間部に入るとさらに生き生きと活動的な動きです。金管やティンパニが遠慮なく気持ちよくズバッと入って来ます。振幅の非常に大きな演奏です。最後は静寂の中に消えて行きました。

すごく振幅が大きく、色彩感も濃厚で切れ味の鋭い演奏でした。自然体の表現の中から作品の美しさを十分に伝える演奏は素晴らしいものでした。

オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団

ヴァンスカ★★★★★
一楽章、あまり冷たさはありませんが、生き生きとした豊かな表情が魅力的です。柔らかい第二主題。とても美しいです。最初はかなり抑えた音量で始まりましたが、金管やティンパニなどはとてもダイナミックな演奏です。

二楽章、もの思いにふけるような深い主要主題。この楽章でも自然で豊かな表現です。そして、ダイナミックな金管。

三楽章、生き生きと弾むリズム。美しいですが、強烈な金管。

四楽章、どこを取っても生き生きとした動きがあります。中間部もとても豊かな表情です。最後は静かに人生を閉じるように終わりました。

この作品をこれだけ表情豊かに表現した演奏は初めてです。生き生きとした演奏は素晴らしいものでした。
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シベリウス:交響曲第6番の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第6番-2

シベリウス:交響曲第6番ベスト盤アンケート

たいこ叩きのシベリウス交響曲第6番名盤試聴記

レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、清涼感がありますが内面から熱いものが込み上げてくるような序奏主題。感情が込められて、しみじみとした第一主題。アーティキュレーションに敏感に反応する活発な動きの第二主題。再現部のチェロも歌います。とても表情豊かな演奏で積極的に語りかけて来ます。最後はトランペットが大きくクレッシェンドしました。

二楽章、静かに歌う冒頭主題。主要主題も静かに始まります。まとまりのある充実した響きです。

三楽章、くっきりと浮かび上がるほどではありませんが、適度な色彩感を持った第一主題。第二主題のフルートもマットですが、良く歌います。その後も滑らかに活発に動きます。目の覚めるような金管で終わりました。

四楽章、柔らかく美しい主要主題。中間部で、大きな表現で活発な演奏になります。クライマックスでも咆哮することは無く、抑制が効いています。静かに消えて行きました。

美しく良く歌い、充実した響きでまとまりの良い演奏でした。程よい色彩感で内面から湧き出すような表現はとても良かったです。

エサ=ペッカ・サロネン指揮 スウェーデン放送交響楽団

サロネン★★★★☆
一楽章、涼やかな序奏主題。色んな楽器の絡みが見事に表現されています。第二主題は躍動的では無く、とても落ち着いた大人の雰囲気です。常に張り詰めた冷たい空気感があってシベリウスらしい演奏です。

二楽章、静寂感のある主題。サロネンは大きな表現はせずに、作品を忠実に演奏しているようです。

三楽章、少し演奏に熱気を帯びてきた感じで温度感が少し上がった気がします。荒々しく金管が演奏します。

四楽章、深みのある響きや、静寂な部分と強烈に迫って来る部分の変化がとても大きく聞き応えがあります。

冷たい空気感のある前半から、次第に熱気を帯びて荒々しく強烈に迫って来る金管などなかなか聞き応えがありました。
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サー・サイモン・ラトル指揮 バーミンガム市交響楽団

ラトル★★★★☆
一楽章、とても厳しい寒さを感じさせる序奏主題。アンサンブルの精度も高く静寂感も感じます。第一主題で僅かに温度が上がります。それでもとても厳しい静寂感です。とても上品な第二主題。精緻な演奏です。

二楽章、楽譜に書かれていることを忠実に再現しようとするようなアプローチです。

三楽章、オーケストラはとても上手いです。金管の最後はかなり荒々しく鳴りますがそれでも美しく余裕があります。

四楽章、シベリウスにしては色彩感が濃厚です。この作品の演奏としてはかなり振幅も激しいです。最後もとても冷たい響きで終わります。

イギリスのオケの演奏にしてはかなりシベリウスらしい寒さは伝わりました。振幅の大きな演奏でしたが、楽譜に忠実な演奏で、精緻で美しい演奏でなかなか良いものでした。
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コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団

icon★★★★
一楽章、雪原の寒さを感じさせる序奏主題。豊かな表情の第一主題。サラッとした美しい響きです。

二楽章、静寂感の中に繊細な弱音が響きます。弱音の美しさが際立っています。

三楽章、しっかりとした強弱の変化のある締まった第一主題。再現部でも表情豊かな弦。

四楽章、中間部へ移行する部分の木管の動きも活発で生き生きとしていました。クライマックスの盛り上がりは控え目でした。

美しく、豊かな表情と活発な演奏でした、ただ、四楽章のクライマックスの盛り上がりがあまりにも控え目だったのが唯一残念な部分でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★
一楽章、祈りのようで感情が込められて美しい序奏主題。神聖な雰囲気の第一主題。動きも表情もある第二主題。分厚い響きはこの曲でも変わりません。充実した響きのコーダでした。

二楽章、もっと冷たい雰囲気があっても良いと思うのですが、響きは暖かいです。一体感のある木管のアンサンブルは素晴らしいです。

三楽章、あまり表情の無い第一主題。第二主題もあまり表情がありません。ただ、オケのフルパワーには圧倒されます。

四楽章、感情が込められた感じは無く、あまり大きくは歌わない主要主題。中間部は活発な表現です。咆哮するホルンや激しいティンパニ。分厚いオケの響きと倍管にした金管の圧倒的なパワーはさすがですが、シベリウスにしてはボッテリとし過ぎなのではないかと思います。

美しい演奏ではありましたが、あまり表現が無く、オケの豪華な響きに頼ったような演奏でした。分厚いオケの響きと倍管にした金管の圧倒的なパワーはさすがですが、シベリウスの音楽はもっと冷たく引き締まったものでは無いかと思います。

サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★
一楽章、とても涼やかな序奏主題ですが、録音の古さか繊細さはありません。第一主題も静けさの中にあります。第二主題も清らかで澄んだ雰囲気の演奏です。弦のアンサンブルには緩さも感じます。

二楽章、作品をいつくしむような暖かみが魅力的ですが、オケのたどたどしさは少しマイナス点です。

三楽章、マイルドで暖かい金管。シベリウス独特の冷たい厳しさは感じません。

四楽章、中間部は落ち着いたテンポで切迫感はありません。私には少し重く感じます。この暖かさはバルビローリの暖かさなのか、オケの緩さなのか私には分かりません。

暖かみのあるシベリウスでした。この暖かみを評価する人もいるようですが、私にはバルビローリの暖かさなのか、オケの緩さなのか分かりませんでした。
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ウラディーミル・アシュケナージ指揮 フィルハーモニア管弦楽団

アシュケナージ★★★
一楽章、室内楽のように小さい音場の序奏主題。強い寒さを感じさせることはありません。第一主題も自然に表れます。第二主題も控えめで上品です。

二楽章、ピーンと張り詰めたような空気感は無く、暖かく緩い感じです。

三楽章、動きがあって表現意欲を感じさせる演奏です。金管は空間を突き破るように入って来ます。かなり激しい演奏でした。

四楽章、振幅も大きく、歌も積極的に歌います。しつこくうるさい感じの演奏です。

積極的に表現する演奏で、振幅も大きい演奏でした。こんな演奏もありかな?とは思いますが、でもこの作品にはあまり合っていないような感じがしました。
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トーマス・ダウスゴー指揮 フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

ダウスゴー★★★
一楽章、会場のノイズは多いですが、神聖な感じのある序奏です。第二主題から少し団子状になってモヤーッとします。録音によるものだと思いますが、騒々しくて、冷たい静寂感はありません。

二楽章、主要主題などはかなり聞かせる演奏でしたが、雑な感じで滑らかさがありません。

三楽章、とても活発に動いて躍動感があって、ダイナミックです。ただ、精緻な感じは無く、大雑把です。かなり激しくなって終わりました。

四楽章、中間部は強弱を明快に付けた独特の表現。ティンパニもかなり強めに入ります。この作品にしては珍しく荒々しい演奏です。強烈な金管!

荒々しい部分の激しさはこの曲の演奏としては珍しいものでしたが、これはこれで良かったのですが、弱音部分の精緻さが無く雑な感じになってしまったのが残念でした。
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ネーメ・ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団

ヤルヴィ★★
一楽章、涼やかな序奏主題。ゆったりと深みのある第一主題。快速で軽快な第二主題。パパヤルヴィの演奏はいちも固さと中央に小じんまりと集まる感じがあるのですが、この演奏でも同じように感じます。

二楽章、ピーンと張り詰めた静寂感も無く、やはり固く伸びやかさや広がりがありません。

三楽章、ベターッとしてあまりリズムが弾みません。

四楽章、中間部のティンパニの一撃もとても軽いです。

パパヤルヴィ独特の固さがあって伸びやかさの無い響きがどうしても好きになれません。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 モスクワ放送交響楽団

icon
一楽章、蒸し暑い夜を連想させるようなヴァイオリンの序奏主題。シベリウスの冷たい空気感とはかなり隔たりがあります。この全集に共通する大きな歌の第一主題。第二主題もとても表情豊かです。

二楽章、この楽章も積極的で振幅の大きな音楽です。木管は生き生きとして生命感とぬくもりがあります。

三楽章、とても激しく突進してくる音楽。いつものように予想以上の大きさで入ってくる金管。

四楽章、主要主題もとても良く歌います。ビェーと響き、容赦なく汚い金管。

よく歌う積極的な演奏でしたが、金管の容赦ない下品な響きはシベリウスとは相いれないものだと思います。また、響きの温度が高いのもシベリウスの作品には合っていません。

シベリウス:交響曲第6番の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第7番

シベリウスの交響曲第7番は、彼が1924年に完成した最後の交響曲で、わずか1楽章のみで構成されている非常に独特な作品です。シベリウスは、従来の4楽章構成の交響曲形式から離れ、この曲を交響詩のように「シンフォニア・ファンタジア」と名付けようとしましたが、最終的には「交響曲第7番」として発表しました。この作品は、シベリウスの創造的な円熟期を象徴しており、短いながらも深遠で荘厳な雰囲気が漂っています。

曲の構成と特徴

この交響曲は、1楽章構成でありながら、まるで複数の楽章が1つに凝縮されたような独自の形式を持っています。音楽は変化に富み、様々なテンポや雰囲気が移り変わるため、シベリウスの交響曲の集大成ともいえる充実感があります。

  1. 冒頭 – Adagio
    静かに始まる序奏部分では、弦楽器の豊かな響きが広がり、瞑想的で神秘的な雰囲気が漂います。ゆったりとしたテンポで始まり、低音部の穏やかな流れに乗って、徐々に厚みを増していきます。この冒頭の音楽は、静寂と壮大さが同居するような特別な美しさがあります。
  2. トロンボーンの主題
    曲の中盤に現れるトロンボーンの荘厳な主題は、この交響曲の象徴的な部分であり、シベリウスが用いたユニークな特徴のひとつです。この主題が登場することで、音楽は一層の重厚感を増し、神秘的で荘厳な空気が漂います。トロンボーンの堂々とした響きが楽曲全体の軸となり、ある種の宗教的な感覚をも呼び起こします。
  3. 音楽の流れとテンポの変化
    この交響曲は、シームレスにテンポが変わり、AdagioからAllegro、そして再びAdagioへと展開されます。その流れの中で、まるで一つの生命体のように音楽が自然に発展し、緩急のバランスが取れた構造を形成しています。この形式は、シベリウスならではの自然への深い愛情やフィンランドの風景のような、ゆったりとした変化が感じられます。
  4. 終結 – 静けさへの収束
    終盤に向けて、音楽は静けさを取り戻し、穏やかに終わりを迎えます。トロンボーンの主題が再び現れ、神秘的な空気を残しながら音楽は次第に収束していきます。大きなフィナーレを迎えるのではなく、まるで霧の中へと消えていくような形で終結し、聴き手に深い余韻を残します。

音楽的な特徴と評価

交響曲第7番は、シベリウスの晩年の音楽的な探求の集大成ともいえる作品で、緻密な構造と表現力が融合した独自の世界観を持っています。この曲の静かな美しさや内面的な深み、そして抑制されたエネルギーが、シベリウスの個性を象徴しています。彼はこの交響曲を「自然のリズム」とも表現しており、まるでフィンランドの静かな湖や広大な森のように、聴く者に自然と一体になる感覚をもたらします。

シベリウスの第7交響曲は、他の交響曲に比べて実験的でありながらも、音楽史に残る重要な作品とされています。特にこの曲は、20世紀の交響曲の可能性を広げ、音楽表現の新しい地平を切り開いたとして高く評価されています。

4o

たいこ叩きのシベリウス交響曲第7番名盤試聴記

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団

ベルグルンド★★★★★
柔らかく豊かな響きで、抑制的ですが、たっぷりと感情が込められた歌。神のお告げのようなトロンボーン。ゆったりとスケールの大きな演奏は、後のヨーロッパ室内oとの演奏では聞けなかったものです。ほの暗い雰囲気は独特のものです。絶妙なバランスで荒ぶることもありません。どっしりと落ち着いていて、テンポが速い感じは全く受けません。終結部の神々しさは素晴らしいものです。

柔らかく豊かな響きと、ほの暗い雰囲気。絶妙なバランスで荒ぶることの無い演奏でした。神々しい表現は素晴らしいものでした。

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パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

icon★★★★★
深いところから次第に迫りくる何かを感じさせる冒頭。続いて静かで厳かな演奏です。ゆったりとして伸びあがるようなフルートのメロディ。霧が立ち込める中から響いてくるような幻想的な音楽。力みも無く柔らかく美しいトロンボーン。スケルツォ的な部分での緻密なアンサンブル。見事な精度です。シベリウス独特の寒い空気感もはっきりと存在しています。表現も細かく付けられていて無表情になることはありません。終結部で再現されるトロンボーンは神々しい雰囲気でした。ホルンは神の声のようです。最後の分厚い響きが沈んでいくのも素晴らしいものでした。

上品で格調高く、表現力も十分でした。終結部で再現されるトロンボーンとそれに絡むトランペットなどの神々しい響きは素晴らしいものでした。

レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団

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粒のはっきりしたティンパニ。次第に迫り来るように少しクレッシェンドした上昇音階。荘厳な雰囲気の中で戯れるようなフルート。大きく歌うフルートと他の木管。分厚い響きです。トロンボーンの第一主題にはあまり神々しさは感じられませんでした。楽器の動きがとても活発です。ティンパニのクレッシェンドも金管のクレッシェンドも激しいです。三度目のトロンボーンも神々しさはありませんでしたが、その後はとても激しい表現になりました。最後も分厚く充実した響きでした。

分厚く充実した響きで、激しい表現の演奏でした。神々しさはありませんでしたが、積極的に動く演奏は魅力がありました。

コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

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ドロッとしたティンパニ。音階の上昇に従ってクレッシェンドします。歌のあるフルート。とても厳粛な雰囲気で曲が進みます。まるで神を導き入れる儀式のようです。天から響くようなトロンボーンの主題が神の降臨のようで、とても神秘的です。個々の楽器の色彩がとてもはっきりしていて、激しく盛り上がる部分では目が眩むようでさえあります。中間で現れるトロンボーンは少し荒れた雲間から神の光が照らされるようでした。スケルツォ的な部分でも落ち着いた表現でした。トゥッティのエネルギー感はとても凄く強弱の振幅もとても幅広いです。再びの神の降臨のようなトロンボーンにはホルンやトランペットも従えて壮大です。そしてホルンによって残照のような響きで彩られます。

神々しいトロンボーン。色彩感豊かで激しく盛り上がる部分では目が眩むほどでした。作品そものもに語らせる演奏でしたが、これだけ見事に作品の素晴らしさを伝える演奏はそう無いと思います。

レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

バーンスタイン★★★★★
冒頭から、晩年のバーンスタインらしい非常に感情のこもった表現です。とても豊かな表現。雄弁なトロンボーン。シベリウスらしい演奏ではありませんが、振幅も大きく個性豊かな演奏にはそれなりの説得力があります。作品の持つ神々しさよりも人間臭い演奏なのですが、バーンスタインの作品への愛情を随所に感じることが出来る演奏で、この演奏はこれで良いと感じます。これだけ激しい振幅のある演奏だとマーラーのようにも聞えますが、バーンスタインの内面ではこのような音楽が鳴り響いているのでしょう。これだけ強烈な個性を表出するのは、とても勇気のいることですし、これまでの既成概念に捉われない演奏を堂々と行う強い意志もすばらしいと思います。

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ダニエル・ハーディング指揮 マーラー・チェンバーオーケストラ

ハーディング★★★★★
暗闇から湧き上るような弦。雑味が無く純粋です。大きなうねりの中からトロンボーンが出現します。北欧の澄んだ空気感があります。振幅も激しい演奏です。透明感が高く、ハーディングの指揮に機敏に反応するオケの見事なアンサンブルも素晴らしい。ティンパニの劇的にクレッシェンドも凄い!

激しい振幅でしたが、透明感が高く見事なアンサンブルの素晴らしい演奏でした。
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オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団

ヴァンスカ★★★★★

暗闇から次第にはっきりとした形を現す弦。暖かく穏やかな木管。力みが無く穏やかな自然体で伸びやかです。とても安らかな気持ちになる演奏です。大空に鳴り響く神の声のようなトロンボーン。どこを取っても余裕のある美しい響きです。激しい部分は激しいですが、それでも音が硬くなったりせず、とても自然です。

これだけ自然体で美しい演奏は素晴らしいです。
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シベリウス:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー