マーラー 交響曲「大地の歌」名盤試聴記
マーラーの交響曲「大地の歌」(Das Lied von der Erde)は、彼の円熟期に作曲された交響曲的な声楽作品で、独唱とオーケストラによる壮大な楽曲です。東洋の詩にインスパイアされた歌詞を元にしており、人生や自然、無常、そして死といったテーマを深く探求しています。マーラーはこの曲を交響曲第9番として書き始めましたが、当時「第9交響曲を作曲した作曲家は早死にする」という迷信を恐れ、正式な交響曲としては数えずに「大地の歌」と命名しました。
この作品には6つの楽章(歌)があり、特に有名な第1曲「酒に酔って春の歌をうたう」や、感動的な第6曲「別れ」が挙げられます。中国の詩人・李白や孟浩然の詩がドイツ語訳され、それを基にマーラーが自身の解釈を加えた歌詞で、東洋的な情緒と西洋音楽が融合しています。
音楽的には、マーラー特有の豊かなオーケストレーションや劇的な展開が特徴で、深い感情を揺さぶるメロディや、緊張と解放のダイナミズムが聴きどころです。特に「大地の歌」を名盤で聴き比べると、指揮者や歌手の解釈によって楽曲の雰囲気が大きく変わります。有名な録音としては、ブルーノ・ワルター指揮の録音や、レナード・バーンスタインによるものなどがあり、それぞれが独特の世界観を表現しています。
この曲は、「生と死の境界線での瞑想」とも呼ばれ、マーラーの思想や感性が強く反映された、非常に深い作品と言えるでしょう。
たいこ叩きのマーラー 交響曲第「大地の歌」名盤試聴記
カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 Brigitte Fassbaender,(Alto) MS,Francisco Araiza, (Ten)(1987Live)
★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポですが、かなり籠った響きのホルン。とても伸びやかなアライサの独唱。独唱もオケも激しい演奏です。アライサもかなり強く主張します。
二楽章、晩秋の寂しさを感じさせるオーボエ。僅かに粘りのある声質ですが、最初は控えめなファスベンダー。ウィーンpoがとても寂しさを表現しています。ファスベンダーはとても振幅の大きい歌唱です。
三楽章、ゆっくりと余裕のあるテンポです。てとも表情豊かなアライサ。独唱は二人ともとても良いです。
四楽章、濃厚な色彩のオケ。テンポが速くなっても余裕たっぷりのファスベンダー。さらにファスベンダーは先へ先へと引っ張ります。
五楽章、少しだけテンポが動きました。アライサはとても力強い。
六楽章、ウィーンpoがほの暗い寂しさをとても良く表現しています。オケの響きは作品にピッタリです。ファスベンダーも伸びやかに豊かな表現です。ファスベンダーは激しくなっても絶叫にはならず美しい歌唱です。別れに抵抗するようなホルンと木管。絶望するようなホルンとトロンボーン。空の彼方へ別れて行きました。
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ベルナルト・ハイティンク/ロンドン交響楽団 テノール・アンソニー・ディーン・グリフィー、メゾソプラノ・クリスチャン・ストティジン
★★★★★
一楽章、とてもゆっくりとしたテンポで奥行き感があって豊かに響くホルン。奥から突き刺さるようなトランペット。伸びやかで堂々としていて表現も豊かなグリフィー。叫ぶような強い表現もあります。
二楽章、秋の夕暮れのような寂しさです。低音で身体の鳴りを伴って粘りのあるストテイジン。オケは柔らかく伸びやかで広々としています。
三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで落ち着いています。伸びやかで自由に歌っているようです。
四楽章、ハイティンクは独唱をあまり縛っていないようで、二人ともとても自由に歌っているようで、力が抜けていて伸びやかです。テンポが速くなる部分もそんなに速くならずゆっくり目です。ゆっくりのテンポに味わいがあります。
五楽章、僅かにテンポが動きました。この楽章も少し遅めです。ゆっくりのテンポですが、細部まで丁寧で音楽に身をゆだねることが出来ます。
六楽章、奥から響きを伴うオーボエ。静かに語り掛けるストテイジン。とても優しい演奏です。ストテイジンはとても穏やかであまり激しく絶叫しません。オケも切々と訴えて来ます。ストテイジンもオケも迫りくる別れにあまり抗せず静かに受け入れている感じです。とても美しい演奏です。天国へ昇って行くようなストテイジン。空の彼方へと別れて行きました。美しい演奏でした。
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ブルーノ・ワルター/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 コントラルト:キャスリーン・フェリア テノール:ユリウス・パツァーク
一楽章、録音年代を考えるとかなり良い音です。少し距離があって鋭く響くホルン。トランペットも鋭く響きます。若干テンポを落としてパツァークの独唱。力のある歌声で丁寧に歌います。とても生命観の漲る演奏で、生き物のような演奏です。パツァークの独唱はとても作品に合っているように感じます。
二楽章、静かで哀愁を感じさせる演奏です。オケも良く反応していて、切れが良いです。フェリアはオケとのバランスも良く、一緒に歌っています。
三楽章、とても表情豊かな木管。落ち着いていて上品なパツァークの独唱。
四楽章、繊細なヴァイオリン。優しく歌う、フェリア。金管も気持ちよく鳴ります。とても良く歌たい、美しい演奏です。
五楽章、自然なテンポの動きがありました。マーラーの弟子であったワルターが作品を熟知していて、作品を愛しているのが良く分かります。
六楽章、冒頭はあまり大きな表現では無く、自然に流れました。1つ1つの楽器が立っていて、とても古い録音だとは感じさせません。フェリアも大げさな表現はしませんが、慈しむような歌です。オケはとても良く反応します。ウィーンpoがとても献身的に演奏しています。私は、ワルターの演奏をあまり素晴らしいと感じたことはあまりありませんが、この演奏は素晴らしいです。別れに激しく抵抗するようなオケ。激しい感情の起伏。悲しい別れでした。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 アグネス・バルツァ(コントラルト)クラウス・ケーニヒ(テナー)
一楽章、細身のホルンが鋭くクッキリと響きます。テノールが入る前に少しrit。伸びやかなテノール。激しく咆哮するような作品ではありませんが、克明に描かれています。ミュートしたトランペットもシャープです。一つ一つの音にこだわりがあるような演奏で、一音一音が強いです。
二楽章、憂いがあって、うつろな冒頭。細身ですが、それぞれの楽器が克明です。ほの暗いコントラルト。細身で繊細なヴァイオリン。
三楽章、生き生きとした動きがあって、ケーニヒの独唱もリズミカルです。
四楽章、甘美な部分と激しい部分の対比もなかなか良いです。
五楽章、木管の動きも生き生きとしていて、とても克明です。ケーニヒの独唱によって作品に引き込まれていくような感じがします。
六楽章、地獄から沸き上がる暗黒に、花がポツンと咲き弾けるような冒頭。丁寧なバルツァの独唱。とても伸びやかです。テンシュテット/ロンドンpoの録音の中では比較的良い録音なのでは無いかと思います。細かな動きもしっかりとテンシュテットがコントロールしていて、ロンドンpoも見事に応えています。バルツァの独唱を包み込むようなオケの響きも素晴らしい。バルツァの声が張ったところで録音が若干歪っぽくなります。他のマーラーの交響曲のように激しく咆哮するようなことはありませんが、深い彫琢はさすがです。暖かい別れでした。
サイモン・ラトル/バイエルン放送交響楽団 Magdalena Kožená: mezzosoprano Stuart Skelton: Tenor
一楽章、ちょっと詰まったようなホルン。小さくまとまった感じを受けます。独特の歌い回しで、かなり個性的に歌うスケルトン。繊細に独唱に寄り添うオケ。
二楽章、現実的なオーボエ。柔らかい弦。コジェナーの歌声はとてもナチュラルで美しいです。
三楽章、ホルンと戯れるような木管。コジェナーのナチュラルな歌唱とは対照的に独特の歌を聞かせるスケルトン。
四楽章、バイエルン放送soはとても柔らかい響きです。テンポが速くなっても響きが整っています。コジェナーは速い部分でもしっかりと発音します。
五楽章、僅かにテンポが動きましたが、自然でした。かなりゆっくりとしたテンポになりました。テンポの動きが大きく、表現も豊かです。
六楽章、感情を込めて豊かに歌たうオーボエ。コジェナーの独唱はこれまで聞いた中でもベストな位の美しい歌です。オケの表現も豊かで柔らかく美しい。コジェナーの歌は素晴らしい!。惜別の感情が伝わるような演奏。別れの前の複雑な心境を吐露するような色んなものが交錯する演奏です。暖かいけれどとても悲しい別れでした。
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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団 クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ) フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)
一楽章、豊かで伸びやかな響きのホルン。トランペットは奥まったところから鋭い響きです。太い声のヴィダーリヒ。表情豊かに語り掛けて来ます。
二楽章、ゆったりとしたテンポであまり感情を込めないオーボエ。それでもオケは自然に歌います。多くの指揮者と録音を残しいるルートヴィヒですが、この録音はやはり若々しい。独唱の盛り上がりに合わせてオケの波も押し寄せて来ます。
三楽章、とてもゆっくりとしたテンポです。当然独唱も弾むことなく穏やかですが、これはこれでなかなか良いです。7番でもとんでもなく遅いテンポの名盤を残していますが、クレンペラーはこのような意表を突いたテンポの演奏は天才的です。
四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポでルートヴィヒも伸びやかに表情豊かに歌います。テンポが速くなる部分もかなり遅く落ち着いています。ルートヴィヒも余裕綽々です。
五楽章、この楽章もゆったりとしています。若干テンポが動きました。
六楽章、とても感情を込めて歌うルートヴィヒ。クレンペラーと言う指揮者は掴みどころが無く、芸風があまり良く分からないのですが、脱力したような演奏が多いように感じています。この演奏は、そんな中でも豊かに表現している演奏だと思います。別れを前にした何とも言えない寂しさを良く表現しています。ルートヴィヒは分かれに抗うような表現もありました。ルートヴィヒはとても感情が乗った素晴らしい歌唱です。雲の彼方へと別れて行きました。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 クリスタ・ルートヴィヒ(MS)ルネ・コロ(T)
一楽章、豊かな響きで広い空間に伸びやかなホルン。トランペットは奥まって響きます。コロの独唱も非常に伸びやかです。語り掛けるような歌唱です。とても滑らかで美しいです。
二楽章、物悲しいオーボエ。ルートヴィヒの歌も艶やかで美しいです。カラヤン独特のシルキーな美しさです。ファゴットもオーボエも寂しさをとても良く表現しています。
三楽章、この世のものとは思えない美しい木管。コロはあまり弾まず丁寧に歌います。テンポもゆったりとして落ち着いています。
四楽章、テンシュテットのような細部を抉り出すような演奏ではありませんが、細部までとても美しい。金管は奥まっていて、整然とした音場感です。
五楽章、バーンスタイン程ではありませんが、テンポが少し動きました。
六楽章、ほの暗く寂しい冒頭。カラヤンの演奏には賛否も分かれることがありますが、これだけ美しい演奏を数多く残しているのはカラヤンの偉業として称えられるべきものと思います。静寂の中に柔らかい響きが心に沁みます。棘が立つような刺激は無く、自然に流れて行きます。少し寒く悲しい別れでした。
ジュゼッペ・シノーポリ/ドレスデン国立管弦楽団 イリス・フェルミリオン(アルト)、キース・ルイス(テノール)
★★★★★
一楽章、フィルハーモニアの演奏よりもシャープで透明感のある響きです。少し細身ですが表現力のあるテノール。
二楽章、哀愁に満ちたオーボエ。とても寂しさのある良い表現です。僅かに粘りのあるアルト。とても滑らかに流れ、寂しさをとても良く表現しています。
三楽章、ゆったりとしたテンポで青春のホワッとした雰囲気が良いです。
四楽章、澄んだ美しい響きです。独唱も澄んだオケの響きに合っていてとても良いです。馬が駆ける部分は、そんなに極端にテンポは速くなりません。アルトも丁寧に歌います。
五楽章、僅かにテンポが動きました。独唱はどちらも極端な表現はせずにオケの中に自然に溶け込んでいます。
六楽章、強く悲しみを表現してはいないオーボエ。自然な表現ながら切々と訴えて来るアルト。美しい響きには魅了されます。自然な盛り上がりに独唱もとても良いバランスの歌唱です。オケも自然で突出したりすることも無く美しく流れて行きます。フェルミリオンの独唱は清澄でとても良いです。優しい別れでした。
強い主徴はありませんでしたがとても美しい演奏でした。
カルロ・マリア・ジュリーニ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 Fassbaender, Brigitte (Mezzo Soprano), Araiza, Francisco (Tenor)
一楽章、鋭く涼やかな響きで、アライサの独唱も爽やかです。温度感が低いと言う意味では独特な演奏です。マーラーのオーケストレーションもとても良く分かる演奏で、色んな楽器が出て来て色彩感が豊かです。トランペットが鋭く伸びやかです。
二楽章、一人寂しいオーボエ。ファスベンダーの独唱も癖が無く伸びやかです。左右一杯に音場感が広がります。
三楽章、ゆったりと余裕のあるテンポで、とても落ち着いたアライサの独唱。
四楽章、繊細なヴァイオリン。明るく反応の良いオケ。とてもダイナミックで金管が炸裂します。
五楽章、僅かにテンポが動きました。アライサの独唱は何のストレスも無く伸びやかで気持ちが良いです。細かな楽器の動きも精緻です。
六楽章、フワーッとしたホルン。ファスベンダーの伸びやかな歌は素晴らしい。ただ、ベルリンpoの響きが洗練されていて明るい。独唱と一体になった響きも素晴らしい。この明快な響きが最後の別れでどうなるかです。やはり、明るい響きで分かれはあまり表現されませんでした。とても良い演奏だっただけに最後は残念でした。
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ロリン・マゼール/バイエルン放送交響楽団 Ben Heppner, tenor Waltraud Meier, mezzo- soprano
★★★★☆
一楽章、少しマットなホルン。控えめに入ったヘップナーの独唱ですが強い所はしっかりと張った声で表現します。オケの響きは柔らかく羽毛のように繊細です。
二楽章、かなり弱く演奏されるオーボエ。作品に合ったマイヤーの澄んだ歌声です。弱音部が美しい演奏です。
三楽章、静かに演奏されますが、豊かな表現の木管。ヘップナーとマイヤーの声質が近いので、とても統一感のある演奏に聞こえます。
四楽章、穏やかに優しく語り掛けるマイヤー。金管も整然としていて、美しいです。テンポが速くなってもはっきりと歌うマイヤー。
五楽章、少しテンポが動きました。二回目は広くテンポが動きました。
六楽章、鋭く反応するホルン。とても濃厚なオケ。とても録音が良くオーボエの生き生きとした表現も十分に伝わって来ます。ビシュコフとの演奏よりも控え目で、自然な歌唱のマイヤー。木管の緻密な動きは見事です。柔らかく繊細な弦も素晴らしい。力みの無いマイヤーの歌唱もとても良いです。消え入るような弱音も美しい。最後が現実的過ぎたのが唯一残念。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/BBCフィルハーモニック Alfreda Hodgson, alto John Mitchinson, tenor
★★★★☆
一楽章、かなり近いトランペット。トランペットよりも奥まっているミッチソンの独唱は丁寧で流れるような歌唱です。トランペットがかなりうるさい。明らかにミキシングのミスだと思います。
二楽章、あまり物悲しさを感じさせないオーボエ。かなり粘りのあるホジソン。
三楽章、あまり動きの無い木管。ここでも流れるような歌唱であまり弾むことはありませんでした。テンポはゆったりとしています。トライアングルもカチーンと響きます。
四楽章、たっぷりと歌うホジソン。テンポが速くなっても後ろに引っ張られるように前に進みません。
五楽章、この楽章もゆったりとしたテンポでかなり大きくテンポが動きました。テンポは何故か後ろへ後ろへ行く感じです。
六楽章、暗い中で音楽が進みます。優しく語り掛けるホジソンは絶叫しません。オケも暗く悲しいです。波が押し寄せるように悲しみが次から次から迫って来ます。ホジソンの静かな独唱が別れの悲しさを際立たせています。この楽章は素晴らしい演奏です。死に絶えるような別れです。
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ピエール・ブーレーズ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ミヒャエル・シャーデ(T) ヴィオレータ・ウルマーナ(Ms)
一楽章、渋い響きのホルン。色彩感は乏しくマットな響きです。ストレートで伸びやか、オケとは対照的にブライトなシャーデの独唱。
二楽章、モヤが掛かっているようなオーボエ。強い粘りが無く、比較的ナチュラルなウルマーナの独唱。
三楽章、落ち着きのある木管。シャーデもあまり弾まず落ち着いています。
四楽章、絶叫すること無く優しく歌たうウルマーナ。テンポが速くなっても金管も荒々しくならず、比較的穏やかです。ウルマーナもしっかりと発音します。
五楽章、ほんの僅かにテンポが動きました。独唱はどちらも自然な歌唱で、落ち着いています。
六楽章、柔らかい低音。ホルンも控えめです。オーボエはテンポも動いて表現します。とてもまろやかな演奏です。ウルマーナは絶叫せず、切々と語り掛けて来ます。とても優しい独唱。しみじみとしたウィーンpoの音色。暖かい響きの中で、少しずつ遠ざかって別れて行きました。
レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン) ジェームス・キング(テノール)
一楽章、奥まって豊かな響きを伴ってちょっと鋭いホルン。トランヘットも鋭角に響きます。ピンポイントで生命観のあるキングの独唱。芯のしっかりした、語り掛けるような歌唱から絶叫まで幅広い表現です。
二楽章、とてもゆっくりとしたテンポの演奏です。フィッシャー=ディースカウはとても粘りのある歌です。アルト独唱のようなピーンと張った感じは無く、沈んだ雰囲気です。
三楽章、しっとりとした響きのオケ。キングの歌はとても活き活きとした活発な表現です。
四楽章、やはりバリトンでは無いなと感じます。どうしても違和感があります。テンポが速くなってどんどん加速します。フィッシャー=ディースカウの表現はちょっとやり過ぎのようにも感じます。この楽章はテンポの振幅がとても大きい演奏でした。
五楽章、冒頭で大きなテンポの動きがありました。この楽章はかなりテンポが動いて自由に歌っています。最晩年のやりたい放題の演奏を思わせるような自由な演奏。この時代でもその片鱗を見せていたのか。
六楽章、オーボエとホルンの対比がとても鮮やかです。キングの生命観はあっても節度のある表現と、フィッシャー=ディスカウの大げさな表現が水と油のような感じがします。テンシュテットのような細部まで抉り出すような演奏ではありませんが、黄昏の雰囲気はとてもあります。重く暗い雰囲気の中にオーボエが華やかに響きます。やはりフィッシャー=ディースカウの表現は大き過ぎるように感じます。かなりあっさりとした別れでした。
ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団 クレメント、ベイカー 1970年Live
★★★
一楽章、マットなホルン。ヴァイオリンもあまり高域まで捉えていないような録音です。ほとんどテンポを変えずにテノールの独唱が入ります。テンシュテットの演奏に比べると、オケの反応があまり敏感では無いように感じます。その分流れは良いです。Live録音のためか音の伸びやかさはありません。
二楽章、しっかりと地に足が付いているオーボエ。細かな楽器の動きはあまり表現されず、大きな流れとして作品を捉えているような演奏です。広大な響きが素晴らしい。
三楽章、あまり活発には動かない木管。クレメントの独唱も弾むような歌唱では無く、落ち着いています。
四楽章、録音によるものか、ベイカーの独唱の声が粘って、伸びやかに響きません。激しく速い部分をベイカーは見事に歌いました。
五楽章、若干テンポを動かして歌うクレメント。
六楽章、黄昏を感じさせる冒頭。寂しげなホルンに続いて朗々と歌うベイカー。オーボエが独特の雰囲気があります。ベイカーは弱音からffまでとても表現の幅が広いです。包み込まれるような中に悲しい別れです。
エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団 ペーター・シュライアー(テノール)、ヤルド・ヴァン・ネス(メゾ・ソプラノ)
一楽章、速いテンポで自然な空間に広がるオケ。非常に表現豊かなシュライヤー。かなり激しい演奏です。シュライヤーはとても軽々と発声しています。シュライヤーの独唱は見事です。オケの反応もテンシュテットの演奏に迫る敏感な反応です。
二楽章、シュライヤーに比べると明らかに声量不足なネス。初秋の寂しさは感じます。
三楽章、ゆったりとしたテンポで美しい木管。シュライヤーは美しく、表現もとても豊かです。
四楽章、DENONの録音は基本的にワンポイント録音のはずなので、このシュライヤーとネスの声量の差は実際の差だったのでしょう。ネスは少し奥まった場所から歌っているようにさえ感じます。テンポが速くなる部分は音を繋げて歌っている感じではっきりとした発音です。オケの振幅は大きく静寂と激しい部分の対比も見事です。
五楽章、全くテンポは動きませんでした。独唱の後ろのオケはとても色彩感が豊かです。シュライヤーの表現の幅もとても広いです。
六楽章、オーボエが豊かな残響を伴って美しい。ネスの独唱には力が無く伸びやかさも無く、とても弱々しくオケから抜け出て来ません。最後もあまり別れを感じることはありませんでした。
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セミョン・ビシュコフ/ケルンWDR交響楽団 Magdalena Waltraud Meier – mezzo-soprano Torsten Kerl – tenor
★★★
一楽章、鋭く鳴り響くホルン。細く詰まったようなケルルの独唱。柔らかいオケ。オケとは分離してくっきりと浮かび上がる独唱。
二楽章、少し秋の寂しさを感じさせるオーボエ。フルートも寂しい演奏です。マイアーの独唱も細身ですが、オケと分離した感じはありません。オケは秋の寂しさをとても良く表現しています。マイアーの独唱も少し詰まった感じで伸びやかではありません。
三楽章、ゆったりとしたテンポで、落ち着いた独唱。オケもバタつくことなく落ち着いた演奏です。
四楽章、語り掛けるようなマイアーの独唱。とても良く歌っていて表現が豊かです。テンポが速くなってもゆったりと落ち着いています。
五楽章、テンポはほとんど動きませんでした。
六楽章、低音とオーボエ、ホルンが上手くバランスしています。柔らかいオケの響きがとても心地良いです。マイアーの声はかなり強いです。このマイアーの強い声が最後のの別れをどのように表現するのか。あまり別れは表現されなかったように感じました。
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カルロス・クライバー/ウィーン交響楽団 クリスタ・ルートヴィヒ、ヴァルデマール・クメント
一楽章、ちょっと詰まったようなホルン。二つ目の音を少し長めに演奏しました。テンポを変えずに独唱に入ります。オケに比べるとクレメントの独唱が大きいです。とても力強い演奏で、前に進む力があります。
二楽章、詰まったような録音であまり状態は良くない。ルートヴィヒは朗々と歌います。
三楽章、それ程弾むことは無く歌っています。
四楽章、録音が悪いため、美しいとは感じません。金管も籠っていて、何をやっているか良く分かりません。テンポが速くなる部分との対比もあまり強くはありませんでした。
五楽章、独唱が入る部分で少しテンポを落としました。
六楽章、速めのテンポで淡々と進みます。速いテンポで何故そんなに別れ急ぐのかと思わせるような演奏。さらにテンポを速めたり、テンポは動きます。ルートヴィヒはかなり大きな声で訴えたり、とても表現の幅が広いです。とても現実的で、別れを感じることが出来ませんでした。
ピーター・ウンジャン/トロント交響楽団 Susan Platts, mezzo-soprano Michael Schade, tenor
★★
一楽章、少し近いホルン。少しメタリックなシャーデの独唱。
二楽章、秋の物悲しさを感じます。少し粘りのあるプラッツの独唱。オケと独唱は良いバランスです。プラッツの独唱はあまり伸びやかに響きません。
三楽章、中庸のテンポで落ち着いた独唱。少し強い主張もありました。
四楽章、冒頭の歌唱が聞き取りにくかった。金管が入っても柔らかい響きです。テンポが速くなる部分の独唱もあまりはっきりと聞こえません。
五楽章、少しテンポが動きましたが動きは独特でした。
六楽章、プラッツの独唱は悪くはないのですが、伸びやかさには欠けていて、届いて来ません。ベイカーの独唱とは対照的です。木管も激しく歌うことは無く控えめです。少し別れの悲しさを感じました。
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レイモンド・レッパード/BBCフィルハーモニック Janet Baker, mezzo-soprano John Mitchison, tenor
★★
一楽章、浅く薄っぺらいホルン。トランペットもトランペットも近くで鳴ります。かなり濃い表現で伸び伸びと歌うのミッチンソン。
二楽章、声量豊かに訴えかけるベイカー。とても表現力がある歌唱です。
三楽章、ゆったりとしたテンポで生き生きとした木管。ここでもねっとりとした表現のミッチンソン。
四楽章、濃厚な表現ですが、声質は粘りが無いので聞きやすいベイカーの歌唱。シンバルが鳴り響きます。あまりテンポは速くなりません。
五楽章、かなり大きくテンポが動きました。その後もテンポを動かしながら大きな表現です。
六楽章、この楽章でも朗々と歌うベイカーです。表現の幅が凄く広いです。これだけ強力に歌うと最後の別れはどうなるのか、このままでは無いとは思うが・・・・。オケは来る別れに抗するような演奏をするが、ベイカーはまだまだ強力です。まるで狂っているかのように歌うベイカー。「永遠に」の繰り返しで突然弱くなって、不自然でした。
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エドワード・ガードナー/BBC交響楽団 Claudia Mahnke mezzo-soprano Stuart Skelton tenor
★☆
一楽章、遠くから響くホルン。トランペットも奥まっています。スケルトンの独唱は強いです。やはり独特の個性があります。
二楽章、録音のバランスか、オケはとても控えめで繊細です。マーンケの独唱はスケルトンに比べると弱いです。
三楽章、落ち着いたテンポです。スケルトンの独唱も落ち着いていてあまり弾みません。
四楽章、マーンケの独唱は声量も少ないですし、歌唱もとても優しいです。オケも小じんまりしていて全くダイナミックではありません。
五楽章、少しテンポが動きました。マーンケとは対照的に声量も大きく積極的に歌うスケルトン。
六楽章、サラッとした響きのオケ。オケに激しさはほとんど感じません。独唱に合わせて静かに進みます。別れもあっさりしています。辛さも悲しさも感じませんでした。
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レナード・バーンスタイン/イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 クリスタ・ルートヴィヒ(A)、ルネ・コロ(T)
一楽章、モヤーッとした響きのホルン。コロの独唱はオケから分離して伸びやかに響きます。オケは少し乱暴な感じがします。コロの独唱は熱のこもった歌唱です。
二楽章、うつろに漂う雰囲気があります。ルートヴィヒも伸びやかで作為的なところの無い自然な歌です。
三楽章、とても現実的でオケが独唱に寄り添うような配慮があまり感じられません。オケは意欲的なのですが・・・。
四楽章、テンポも動いて美しく歌たうルートヴィヒ。馬を駆ける若者の部分はかなりのスピードです。どうしても夢見心地のような響きにはなりません。
五楽章、少しテンポが動きましたが、ウィーンpoとフィッシャー=ディスカウの演奏のような大げさな表現ではありませんでした。切れ味の良いコロの独唱。この演奏は独唱がどちらもとても良いです。
六楽章、ドラがゴンと響き、ホルンがあまりにも無神経に吹き興醒めします。クラリネットもオーボエもホルンもあからさま過ぎに感じます。表情豊かな独唱とは水と油のように感じてしまいます。柔らかい独唱にシルクのような布でサポートせず、角材で応じているような違和感があります。感情を乗せて歌うルートヴィッヒに、全く感情移入せず、自分たちは別の道を行くと言っているような、ある意味別れです。
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ルドルフ・ケンペ/BBC交響楽団 Janet Baker, mezzo-soprano Ludovic Spiess, tenor
★
一楽章、中央から響くホルン。遠くから響くスピースの独唱。金管も吠えて色彩感も濃厚です。スピースも吠えるオケに合わせてかなり激しく歌います。
二楽章、あまり寂しさを感じさせないオーボエ。この演奏でも強力なベイカーの独唱。ベイカーの独唱は寂しさとは程遠いように感じます。
三楽章、ゆったりとしたテンポで確実に歩みます。この演奏は2人の独唱とも表現が大きいです。
四楽章、テンポの速いところはあまりはっきり発音されていないように感じました。
五楽章、ここでも大きい表現でテンポも動きました。
六楽章、軽い冒頭。この楽章でもほとんど絶叫状態のベイカーに辟易します。さんざん絶叫した後に「Ewig」で静かになるのがあまりにも作為的で作品に入る込むことが出来ませんでした。
サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団 Kathleen Ferrier, contralto Richard Lewis, tenor
★
一楽章、冒頭のホルンが入っていません。かなり埃っぽい録音です。いかにも古めかしい音です。力強いルイスの独唱ですが、少し開けっ広げな感じがします。
二楽章、淡々と演奏するオーボエ。録音のせいか硬い声に聞こえるフェリアの独唱。
三楽章、歯切れよく良く弾むルイスの独唱。
四楽章、粘りのあるフェリア。かなり硬く強く響きます。テンポが速くなる部分はかなり速いです。
五楽章、テンポは動きました。
六楽章、録音が悪いせいかあまり細部まで聞き取れず、独唱もあまり豊かな表現をしているようには感じません。消え入るようなクラリネット。録音が酷すぎた。