カテゴリー: 交響曲

シベリウス 交響曲第3番

シベリウスの交響曲第3番は、彼の作品の中でも特に独自のスタイルが確立された作品で、シンプルでありながら独特の構造と豊かな感情を持っています。交響曲第2番と第3番の間には大きな変化が見られ、より内省的で抑制の効いた作風が特徴です。この交響曲は、シベリウスがロマン主義から脱し、より簡素で力強い音楽表現に向かっていった過程を示す作品としても注目されています。

1. 楽章構成と内容

交響曲第3番は、全3楽章で構成されており、各楽章が異なる性格を持っています。

  • 第1楽章 (Allegro moderato): 明るく快活なムードで始まります。牧歌的な雰囲気が漂い、弦楽器と木管楽器が美しい調和を見せます。この楽章には、シベリウス独特の「流れるような音楽の動き」が感じられ、シンプルながらも洗練された旋律が印象的です。
  • 第2楽章 (Andantino con moto, quasi allegretto): 中間楽章として、ゆったりとしたテンポで穏やかな旋律が展開されます。シンプルで親しみやすいメロディが主体となり、シベリウスの「静かな抒情性」が感じられます。リズムも静かに流れていくようで、夢見るような雰囲気が漂います。
  • 第3楽章 (Moderato – Allegro ma non troppo): 終楽章で、序奏部から少しずつエネルギーが高まっていき、壮大なフィナーレへと導かれます。この楽章はフィンランドの民族的な響きが強調され、全体が明るい高揚感で包まれます。途中でテンポが上がり、弦楽器と管楽器が複雑に絡み合いながら力強いクライマックスを築きます。

2. シンプルさと抑制の美学

  • シベリウスの交響曲第3番は、前作の第2番と比べてかなり抑制の効いた作風です。派手な部分が少なく、音楽の進行も緩やかで内向的です。しかし、シンプルであるからこそ、各楽器の役割が際立ち、緻密なオーケストレーションとバランスが求められています。
  • シベリウスはこの交響曲で「内なる力」を表現し、表面的な華やかさよりも内的な感情の深さを追求しました。これは彼の音楽の新しい方向性を示す重要な作品です。

3. フィンランドの精神

  • シベリウスの交響曲第3番にはフィンランドの自然や精神性が背景にありますが、露骨に民族的な要素を取り入れることはせず、むしろ暗示的な形でフィンランドの雰囲気を表現しています。
  • 特に第3楽章のフィナーレは、フィンランドの美しい風景と、力強くしなやかな民族性を象徴していると言われています。

4. 音楽的特徴と影響

  • この交響曲は、当時のシンフォニー作品としては珍しく「短い」ものとしても注目されました。シベリウスはこの作品でシンプルで明瞭な構成を目指しており、聴衆に「音楽の本質」を感じさせようとしています。
  • シンプルな動機や短いフレーズが繰り返し登場し、それが複雑に絡み合うことで豊かな音響が生まれています。

5. まとめ

シベリウスの交響曲第3番は、彼の作風が新しい方向へと進化し始めた時期を象徴する作品です。簡素な美学の中に深い感情が込められており、シベリウスの音楽が持つ「内なる静けさ」を表現した名作です。フィンランドの自然と人々の精神が暗示的に描かれ、聴く者にシンプルで深い印象を与えます。

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第3番名盤試聴記

レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、柔らかく控え目の表現から始まった第一主題が次第に大きくなって積極的な表現になります。とても豊かな表情です。大らかなトゥッティの響きです。第二主題もよく歌います。作品への共感が表れた積極的な表現。渋く淡い色彩ですが、一体感のある響きです。

二楽章、淡くピツィカートと同化するフルートですが、ここでもよく歌います。暖かみのある心のこもった演奏です。

三楽章、前半はあまり活発な動きはなくむしろどっしりと落ち着いた表現です。充実したクライマックスの折り重なる響きが美しい。

渋く淡い響きですが、作品への共感を感じさせる歌に満ちた演奏でした。クライマックスの折り重なる響きがとても美しかったです。

コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、厚みがあって柔らかい第一主題は躍動的です。色彩感がとても濃厚で鮮明です。伸び伸びと鳴り響く金管から消え入るような弱音まで、幅広い振幅です。特別な表現はありませんが、作品そのものが持っている良さを十分に伝えて来ます。

二楽章、暗闇に明かりがともるようなフルートの動機。柔らかく穏やかな演奏が続きます。とても鮮明な色彩は見事です。素朴な旋律が切々と歌われます。

三楽章、生き生きとくっきりと浮かび上がる木管。泉からこんこんと湧き出るように次から次へと登場する金管が充実した響きでとても豊かです。精緻で整然と整った演奏は見事でした。

濃厚な色彩感と、消え入るような弱音から、くったく無く鳴り響く金管まで幅広い振幅の音楽ですが、自然体で作品そのものが語る演奏はとても見事なものでした。

コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、波が押し寄せるように間を置いて音が強くなる第一主題。伸びやかなホルン。厚みのある響き。少し寒さを感じさせる第二主題。少し離れたところからステージを眺めているような音場感。重厚なブラスの響きで終わりました。

二楽章、他の楽器に比べて静かなフルートの動機。あまり音を短く演奏しな木管が自然で美しいです。弦も音を長めに演奏するのが上品でとても良いです。ピィツィカートに乗って演奏される弦の変奏も北欧の寒さをイメージさせます。

三楽章、活発な動きですが、しっかりとコントロールされていて暴走は全くしません。次第にテンポを上げて盛り上がります。ティンパニのクレッシェンドも効果的でした。

とても上品で格調高い演奏でした。冷静でしっかりと設計された盛り上がりも見事でした。

エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

ムラヴィンスキー★★★★★
一楽章、躍動感があって純粋な響きで熱気も感じさせる第一主題。いつものムラヴィンスキーの冷徹なまでの緊張感は無く、とても生き生きとした木管や弦の動きがとても良いです。

二楽章、太い響きで豊かに歌うフルート。統制のとれた見事なアンサンブルはさすがレニングラードpoです。

三楽章、感情に没入して行くことはありませんが、統制の取れた歌です。金管の咆哮もさすがにソ連のオケですが粗暴な演奏には全くならないところがムラヴィンスキーです。

極度の緊張感はありませんでしたが、統制の取れた見事なアンサンブルと豊かな歌。圧倒的な金管の咆哮も素晴らしい演奏でした。
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エサ=ペッカ・サロネン指揮 スウェーデン放送交響楽団

サロネン★★★★★
一楽章、控えめでリズミカルな第一主題が盛り上がり木管に引き継がれます。若干の寒さを感じさせる第二主題。弱音の静寂感はとても良いです。精緻でありながら振幅も大きな表現でグッと迫って来るものがあります。

二楽章、ゆったりとしたテンポで歌うフルートの動機。少し寂しく穏やかに揺られる主題もとても美しく作品に身をゆだねることができます。

三楽章、前半の激しい部分の強弱の表現も明快で、頂点でしっかりと爆発しました。フィナーレも激しいホルンの咆哮。深みがあって力強い演奏です。

精緻でありながらダイナミックな表現もありなかなか良い演奏でした。
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オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団

ヴァンスカ★★★★★
一楽章、豊かな残響をともなってふくよかな第一主題。金管もブレンドされてとても美しいです。第二主題は暗く寒い雰囲気です。ここぞと言うところでのエネルギーの放出にも不足は無く、濃厚な色彩と表現は出色です。

二楽章、ゆったりとしたテンポで暗闇に浮かび上がるようなフルート。柔らかく美しい響きです。大きな表現ではありませんが、感情が込められた美しい歌もとても魅力的です。とても丁寧でブレンドされたバランスが見事です。ゆったりとしたテンポの歌は素晴らしい美しさです。

三楽章、この楽章でも克明で、表現の振幅の大きな演奏です。フィナーレ部に入っても深みのある表現でぐいぐいと詰めてきます。最後の充実した響きも見事でした。

北欧の寒さや暗さを持った演奏で、内面からにじみ出るような表現もブレンドされた美しい響きも見事でした。
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オッコ・カム指揮 ヘルシンキ放送交響楽団

カム★★★★★
一楽章、重量感のあるコントラバス。爽やかで清涼感のある響きです。一転して暗く沈みこむ第二主題。トゥッティでも伸びやかで柔らかい響きで大自然の雄大さを表現するにはピッタリです。

二楽章、ゆっくりしとたテンポで全く作為的な表現が無く自然な表現の演奏です。オケのナチュラルな響きもとても魅力的です。カムもオケに伸び伸びと演奏させているようで、硬さや力みなども全くありません。

三楽章、少し緊張感が高まりますが、それでも伸びやかなAllegro。フィナーレも力みは無く伸びやかですが、壮大なスケール感でとても良いバランスで締めました。

自然で伸びやかで美しい響きで、表現にも作為的な部分は無く爽やかで清涼感のある演奏は素晴らしいものでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シベリウス:交響曲第3番の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第3番2

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第3番名盤試聴記

サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★★☆
一楽章、とてもゆっくりとした第一主題。よく歌う第二主題。寒さや暗い雰囲気はとても良く表現しています。咆哮するホルン。一音一音に深い感情がこもった演奏で、かなりの手ごたえがあります。

二楽章、アタッカで入りました。ここでも感情のこもったフルートの動機が演奏されます。69年のライヴにしては録音状態は良いです。

三楽章、前半のアレグロは物凄く振幅の激しく攻撃的な演奏です。コラールは速めのテンポでかなり躍動感があって、前のめりです。ここも大きな振幅があります。フィナーレはトロンボーンがかなり強く出てきます。大きな盛り上がりでした。

フィナーレはライヴ独特のバランスの悪さは感じましたが、感情の込められた振幅の大きな演奏はなかなか良かったです。
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Kalle Kuusava 指揮 ノルウェー放送交響楽団

Kuusava★★★★
一楽章、速いテンポで大きな表現の第一主題。とても活発に動く演奏です。第二主題は冷たく寒い雰囲気を良く表現しています。会場が小さいのでオケの編成も小さく弦は3プルトしかありません。その分とても機動的にくっきりとした輪郭の演奏になっています。編成が小さいので、金管をかなり抑えてバランスを取っています。

二楽章、良く歌う木管。ほの暗い陰影をとても良く表現しています。

三楽章、フィナーレのコラールからコーダへ向けてテンポを上げて切迫感のある表現もなかなか良いです。ホルンは思い切り咆哮しますが、トランペットやトロンボーンは控えめです。

豊かな表現と思い切りの良いテンポの動きなど、個性を十分に表出した演奏でなかなか良かったです。ただ、会場の問題で編成が小さかったのがとても残念です。もう一度大きな会場での演奏を聞きたいです。
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パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

icon★★★★
一楽章、豊かな残響を伴って生き生きとした第一主題。第二主題も動きのある活発な演奏です。とても精緻なアンサンブル。奥ゆかしい歌と、バランスの良い美しい響き。

二楽章、神秘的で深みのある木管の動機。

三楽章、楽器の動きが克明に描かれる序奏。切々と語りかける後半部。終結部でもオケを無理に強奏させることなく、非常にバランス良く響かせていました。

とても精緻で、美しい響きで奥ゆかしい表現の演奏でしたが、二楽章までほとんど金管の存在を感じないくらいのバランスだったのが不思議な感じでした。

ネーメ・ヤルヴィ指揮 イェーテボリ交響楽団

ヤルヴィ★★★★
一楽章、生き生きと動く第一主題。暗く寒さを感じさせる第二主題。金管は全開とまでは行かず、僅かに余力を残していて、少し小さくまとまっている感じがあります。

二楽章、ほの暗いフルートの動機。作品の雰囲気をとても良く伝える演奏です。作品をいたわるような穏やかな表現。強い個性を表出しないので、作品のありのままの良さがとても良く伝わって来ます。

三楽章、弱音に重点を置いているようで、前半のスケルツォの部分でも活発な動きや激しさはありません。コラールは速めのテンポであっさりとした表現です。最後も咆哮することは無く小さくまとまった演奏のまま終わりました。

強い個性の表出が無かったので、作品の良さはとても良く伝わって来ましたが、小さくまとまってしまってたいのがちょっと残念でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シベリウス:交響曲第3番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第7番「夜の歌」

マーラーの交響曲第7番「夜の歌」は、彼の交響曲の中でも特に独特で、夢幻的で謎めいた雰囲気が特徴の作品です。この交響曲は「夜」をテーマにしているとされ、全体を通して夜の静寂、幻想的な風景、そして内面的な探求が描かれています。しかし、マーラー自身は「夜の歌」というタイトルを公に使っておらず、後年の評論家や聴衆によって付けられた呼び名となっています。

1. 楽章構成と内容

交響曲第7番は全5楽章からなり、中心の3楽章が夜の情景を描いているとされます。各楽章の雰囲気が異なり、夜に関する様々な側面が表現されています。

  • 第1楽章 (Langsam – Allegro risoluto, ma non troppo): 「夕暮れ」や「夜への入り口」を感じさせるような楽章で、暗く重い序奏で始まります。テノール・ホルン(珍しい楽器)が幽玄な旋律を奏で、異世界への導入のような雰囲気を醸し出します。やがて、重厚でありながらも緊張感を持った音楽が展開され、夜の神秘的な世界へ引き込まれていきます。
  • 第2楽章 (Nachtmusik I): 「夜の音楽」と題されており、夜の森を彷徨うような情景を描き出しています。ホルンや木管楽器が響き、夜の静寂の中で遠くから聞こえるような音をイメージさせます。マーラーはこの楽章で狩猟のホルンの響きを取り入れており、時に動物の足音のような効果も感じられ、夜の不気味で神秘的な雰囲気を演出しています。
  • 第3楽章 (Scherzo – Schattenhaft): 「影のように」という指示がつけられているこのスケルツォは、幽霊的で幻想的な音楽です。不規則なリズムと不気味な旋律が特徴で、夜に潜む影や幻影を表現しているように聞こえます。まるで夜の闇に潜む怪しい存在が踊っているかのような、不可解な音楽です。
  • 第4楽章 (Nachtmusik II): 第2楽章と対になる「夜の音楽」で、穏やかで優美なセレナーデのような楽章です。ギターとマンドリンが使われ、ロマンティックな雰囲気が漂います。夜の静けさの中に恋人たちがいるような、柔らかで甘美なメロディが流れ、前の楽章の不気味さとは対照的に落ち着いた美しさを感じさせます。
  • 第5楽章 (Rondo-Finale): 終楽章は夜明けを迎えるかのような明るく華やかな音楽で、ファンファーレが響き、晴れやかな雰囲気が広がります。バロック音楽の影響が見られ、ブラスや弦楽器が盛大に鳴り響きます。夜の幻想的な世界から解放され、明るい日差しを感じさせるフィナーレとなっています。しかし、この楽章はどこか皮肉的でもあり、マーラーのユーモアも垣間見られます。

2. 夜の異世界と不安感

  • 第7番は、全体を通して夜の神秘や不安定な雰囲気が支配しているため、他の交響曲とは違った「夢幻的」な性格を持っています。マーラーが得意とする感情の激しい起伏やドラマチックな展開とは異なり、より内省的で幻想的な色合いが強調されています。
  • 特に第2楽章と第3楽章は、夜の森や暗闇を彷徨うかのような異世界的な雰囲気を持っており、聴く者に夜の中を漂うような感覚を与えます。

3. 楽器編成の独自性

  • この交響曲では、通常のオーケストラに加え、テノール・ホルン、ギター、マンドリンなど、珍しい楽器が使用されています。これにより、通常のオーケストラ作品では得られない独特の音色や質感が生まれ、夜の幻想的な雰囲気が際立ちます。
  • 第4楽章のギターとマンドリンの使用は特に有名で、ロマンティックで儚い情緒を醸し出しています。

4. 解釈の多様性

  • マーラーの交響曲第7番は、その謎めいた性格と一貫しないテーマのため、様々な解釈がされています。夜の不気味さや神秘性を強調する解釈もあれば、マーラーのユーモアや皮肉が込められていると見る解釈もあります。
  • 特に終楽章の明るい雰囲気が突如として現れるため、多くの聴衆や評論家が「本当に夜が明けたのか」あるいは「これは皮肉的な結末なのか」など、解釈を巡る議論が絶えません。

5. まとめ

マーラーの交響曲第7番「夜の歌」は、夜の神秘的な雰囲気と不安感、そして幻想的な美しさを描いた作品です。夢の中でさまようかのように異なる情景が浮かび上がり、暗闇と光、影と希望の間を行き来する音楽が展開されます。多様な楽器と独特の楽章構成によって、聴く者に夜の幻想的な世界を体験させる、まさに「夜の歌」にふさわしい作品です。

4o

たいこ叩きのマーラー 交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、引きずるように重い開始でした。柔らかいテノールホルン。色彩の描き分けも非常に濃厚です。一音一音に表情付けされているような緊張感の高い演奏です。テンポも動き、スケールの大きな音楽になっています。存在感の大きいテューバが音楽に深みを与えています。。ホルンの激しい咆哮!冒頭からテンシュテット節全開です。ティンパニの締まった一撃が演奏をグッっと引き締めます。穏やかな部分と激しい部分の対比もすばらしい。オケの響きも充実しています。音楽が前へ進もうとする力があります。テュッティではオケが強大なパワーを発散しています。オケが一体になった名演の予感がします。

二楽章、アゴーギクを効かせたホルン。美しいホルンの主要主題。容赦の無いティンパニの一撃。作品へ深く共感していることを感じさせるチェロの第二主題。この楽章でもテンポは動きます。音の洪水のように音が溢れかえる強奏部分。とにかくすごくスケールの大きい演奏です。この楽章でもホルンの激しい咆哮。強烈にテンシュテットの個性が表出されています。この指揮に付いて行くロンドン・poも凄いです。迷いも無く思いっきりの良い表現はすばらしい。

三楽章、遅いテンポから開始して少しテンポを上げました。ミュートを付けて絶叫するトランペットが強烈です。この楽章でもテンポは自在で濃厚な表現です。原色で輪郭のくっきりした強い個性を表出した凄い演奏だと思います。強烈なティンパニの一撃で終えました。

四楽章、この楽章もテンポが動きます。重いハープの低音。感情が込められて豊かに歌う弦。作品に深く共感して一体になっている演奏です。引きずるようなコントラバスの中にクラリネットのトリルが消えて行きました。

五楽章、硬質なティンパニの強打。絡み合う金管。テンポの変わり目で大きくリタルダンドとクレッシェンドします。次から次から押し寄せてくる音に圧倒されます。オーディエンスノイズも全く聞こえません。最後の祝典的な雰囲気も申し分ない。終演後に拍手があるからライブと分かりますが、演奏中は全くライブと感じさせない完成度のすばらしい演奏でした。

ベルナルド・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

ハイティンク★★★★★
1982年12月の録音です。

一楽章、ゆったりとしたテンポで明るい音色のテノールホルンの主題。透明感があり一音一音確実に進む演奏。木管の行進曲調の主題も非常に遅い。非常に堂々とした足取りです。どのパートもすごく良く鳴り存在を主張し心地よい響きを作り出します。コンセルトヘボウの伝統的な音色を残していた時代の貴重な記録だと思います。潤いと深みのある響きはとても美しくハイティンク時代の貴重な遺産だと思います。普段から極端な表情付けをしないハイティンクですが、均整の取れたすばらしい演奏です。

二楽章、表情豊かなホルンの序奏。アクセントなどに対する反応がとても機敏で表情が引き締まっています。楽器一つ一つに力があり、明確な色彩で描き分けられた演奏はとても魅力的です。ハイティンクの指揮に俊敏に反応するオケ。とにかく美しい!楽器のバランスが良いのでマーラーのオーケストレーションも的確に表します。最後は「夜曲」を十分に感じさせる雰囲気で曲を閉じました。

三楽章、不気味な低音の後に潤いのある弦とトランペットの短い音!強調することは無いが自然に不気味な雰囲気が再現される。弦の表現も締まっていて緊張感があります。ティンパニも絶妙な音色です。とても濃密な色彩感で、登場する楽器一つ一つが重量感のある音で作品を彩ります。

四楽章、美しいホルンの主題。極端な表現はしませんが、どの楽器も生き生きとしていて聴き応えがあります。コンセルトヘボウはハイティンクとの時代が一番良かったと思います。ずっとこの関係を生涯続けていたらどんな名演が生まれたかと思うと、少し残念な気持ちにもなります。

五楽章、ゆったりとしたテンポのティンパニ。輝かしいブラスセクション。テンポの変化も大胆で作品への共感が窺い知れる演奏です。ハイティンクはこの複雑な作品をありのままにしかも極上の美しさで訴えてきます。宝石箱をひっくり返したようにきらめく音の洪水!最後のティンパニの凄いクレッシェンド。怒涛の終演でした。ハイティンクとコンセルトヘボウが残した貴重な名演だと思います。すばらしい演奏でした。

ミヒャエル・ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、冒頭から聞いた事のない弦の刻み音が聞こえます。少し細目の音を響かせるテノールホルン。弦の刻みが不気味な雰囲気を醸し出します。どのパートもすごく上手い!余計な感情移入はせずに、テンポも動くことはなく極めて冷静に音楽が進んで行きます。感情的に突出してくるパートもなく非常にバランスを大切にして演奏されていますが、力感も十分にありなかなか聞き応えがあります。しかし、音楽は常に冷静でギーレンは作品を遠くから見ているような感じがします。こちらも決して熱くはなりません。

二楽章、豊かな表情のホルン。艶やかな木管。静寂を破るティンパニ!研ぎ澄まされた日本刀が青白い光を放っているような鋭く透明感に満ちた演奏。遠くで響くカウベル。寂しげな夜を演出する木管。感情にまかせてテンポを動かしたり、アゴーギクを効かせたりするわけではないのに、これだけ夜を感じさせる演奏になるのにも驚かされます。また、楽譜を見通せるような透明感もすばらしいです。

三楽章、これだけ高い透明感の演奏ができるのは、すごく高いアンサンブル精度のおかげだろう。透明度が高いので色彩感もとても豊かです。ただ、色彩が豊かと言っても油絵のような色彩ではなく水彩画のような色彩感です。とにかく音楽が涼しげです。

四楽章、艶やかなヴァイオリン独奏。お休みを告げるようなホルン。マンドリンとギターの存在は大きくないが確実に耳に入ってきます。現実にはそうでないかも知れませんが、楽譜に書いてある音が全て聞こえてくるような感じの演奏でとても情報量が多い。

五楽章、暴れることもなく統制の取れた美しい金管の主要主題でした。透明度の高い演奏はずっと続けられていて、この空間はすばらしいです。どのパートも磨き抜かれた極上のサウンドです。感情が盛り上がって咆哮することはなく、全てギーレンのコントロール下で実に統制のとれた演奏です。クールでカッコイイ演奏でした。愛聴盤になりそうです。
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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、すごく遅いテンポで始まりました。弦の刻みが聞こえます。少し細い響きのテノールホルン。テュッティは盛大に賑やかです。テンポを速めて第一主題に入りました。音の輪郭がはっきりしていて、とても色彩が豊かです。アンサンブルは抜群で、咆哮しても乱れません。トロンボーンの独奏は控え目でした。強弱の変化に非常に敏感で俊敏な演奏に感じます。テュッティではいろんな音が聞こえてきて情報量が豊かです。

二楽章、冒頭のホルンはとても表現力豊かです。続く木管は夜の不気味さを上手く表現しています。第二主題のチェロが豊かに歌います。中間部のオーボエの哀愁に満ちた旋律の後半に加わるフルートも強弱の変化を強調しました。響き渡るトランペット。これまで聴いたことのない音が聞こえたりするのは、楽譜に忠実に演奏しようとしていることの表われだと思います。舞台裏とステージ上で鳴らし分けられるカウベルの違いもとてもはっきりしています。コーダの木管の表現はとてもリアルでした。

三楽章、この楽章でも強弱の変化にとても敏感です。ティンパニの存在感が際立ちます。この楽章にこんなに多くティンパニ登場していたとは思いませんでした。あちこちで金管の噴火が・・・・・。こんなに色彩感豊かな楽章だったことにも初めて気づかされました。

四楽章、けだるい感じのヴァイオリンソロ。ファゴットに対してすごく弱く演奏されたクラリネット。マンドリンがピンポイントで定位します。この楽章は緩急の変化もありました。

五楽章、ティンパニのマットな響き。続き金管のファンファーレは豪華絢爛でした。そしてホルンの咆哮が続きます。途中のリタルダンドも適度でした。トランペットのハイトーンもきっちり決まります。今まで聞いたことのないいろんな音が聞こえてきます。気持ちよく鳴るシンバル。限界が無いかのように鳴りまくるブラスセクションには感服させられます。

オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで朗々と歌うテノールホルン。非常に遅いテンポで克明に一音一音刻み込んで行きます。遅いテンポが生み出す異様な緊張感。レントゲンを見ているように細部まで克明に表現されています。しかし、時折登場する金管はかなり豪快に鳴ります。よくこれだけ遅いテンポの演奏に耐えているオケに感心します。すばらしく巨大なスケールの演奏です。

二楽章、この楽章も遅いテンポです。このテンポでも演奏は弛緩することなく緊張感を保っています。アゴーギクを効かせるようなことはなく、演奏自体は淡々と進められています。暗く不安な夜の雰囲気も見事に表現しています。

三楽章、不気味な雰囲気に溢れた冒頭でした。テンポが遅い上に、色彩感も濃厚で強烈な印象を与えます。

四楽章、マンドリンが良く聞こえます。この楽章も遅めのテンポで細部まで見通せるような演奏です。中間部のホルンの穏やかな旋律にクラリネットがギョッとするような音で割って入ります。ギター、マンドリン、ハープなどがとても明瞭に聞こえます。終わり近くでマンドリンとオケのアンサンブルが乱れました。

五楽章、もの凄く遅いテンポで始まりました。全く別の曲を聴いているかのようです。金管が鳴っている後ろで動いている楽器も手に取るように分かります。このテンポでも引き締まった表情で、緊張感の高い演奏です。録音もこの当時にはすでにアナログ録音は完成の域に達していたのか、かなのり鮮度の音を聴かせてくれます。クレッシェンドに伴って少しテンポが速くなって、そのままの勢いで行くのかと思ったら、またきっちりとテンポを落とすあたりは徹底しています。終盤はオケの鳴りもすさまじいものがあります。

マーラーの交響曲第七番「夜の歌」の演奏史上では異端の部類に入る演奏だと思いますが、クレンペラーの確固たる自信と信念に裏打ちされた徹底した演奏には凄い説得力がありました。この演奏を聴けただけでもこのCDを買った価値があったと思います。すばらしい演奏でした。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで、丁寧な弦の刻み。伸びやかなテノールホルン。とても良く鳴るブラスセクション。透明感が高く明晰な演奏です。深く感情移入することは無く、作品から距離を置いているような感じです。立ち上がりが良く、鮮度の高い録音もすばらしい。トゥッティのエネルギー感もかなりあり、抑揚は十分にあります。また、ほの暗い夜の雰囲気も持っています。

二楽章、表情は控え目なホルン。静寂の中にドカンと入るティンパニ。弦や木管の軽いタッチ。比較的速めのテンポで柔らかく、あっさりと進みます。あまり「夜曲」を意識していないような演奏です。

三楽章、抑えた音量で、暗闇に浮かぶ夜の雰囲気満点の冒頭です。バチーンと響くバルトークピッィカート、複数の奏者の乱れ打ちです。この楽章でも、楽器はくっきりと浮かび上がりますが、表現は淡々としています。最後のティンパニの一撃も強烈でした。

四楽章、この楽章も速めのテンポであっさりとしています。マンドリンは強調されることはありませんが、しっかりと聞こえます。テンポの変化も恣意的なところが無く自然です。

五楽章、ゆったりとしたテンポで丁寧なティンパニのソロ。見事に響く主要主題はテヌート気味に演奏されました。中間楽章では抑え気味だったオケが全開で、しかも美しく鳴り響きます。副主題が出てからテンポを速めました。再び主要主題が現れる頃にはテンポは戻っています。表現は粘ることは無く、あっさりとしていますが、細部の動きにもこだわった、スコアを見通せるような明晰な演奏は一貫しています。コーダはスケールの大きな大音響でした。

全体の印象としては、すっきりとしたスタイリッシュな演奏でしたが、細部の表現まで光を当てた明晰な演奏はすばらしいものでした。優秀録音とあいまって、最初に聞くには良い演奏だったと思います。
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ベルナルト・ハイティンク/バイエルン放送交響楽団

ハイティンク★★★★★
一楽章、非常にゆっくりとしたテンポで、柔らかく伸びやかなテノールホルンです。一音一音確かめるような堅実な足取り。クレンペラーの演奏を思わせるような遅さです。キリッとした美しい響きです。ひっかかるところが無く、流れるような演奏ですが色彩感は濃厚克明で大胆です。どのオケと共演しても美しい響きを作り出すハイティンクの能力には脱帽です。ライヴとは思えない完成度の高さです。コーダはスケールが大きく壮大でした。

二楽章、表情豊かに歌う序奏のホルン。ホルンの主要主題も豊かな表情です。第二主題の入りの音を伸ばしてから入りました。とても穏やかな第二主題でした。全体に音に勢いがあって、活気に溢れています。感情のこもった中間部のオーボエ。この演奏でも細部の表現まで、徹底されています。二度目の第二主題も最初の音を伸ばしました。夜の雰囲気は少し薄いようです。

三楽章、低音の不気味な雰囲気に続いて滑らかな弦のメロディ。元々遅めのテンポですが、中間部でさらにテンポを落としました。細かな動きが克明です。こんなに美しい「夜の歌」は初めてかもしれません。最後はテンポを落として終りました。

四楽章、ニュートラルな響きのヴァイオリン独奏。柔らかいホルンの響き。穏やかな弦楽合奏。この楽章も夜の雰囲気はあまり感じませんが、表題にはとらわれず、純音楽としての美しさを追求したような演奏です。

五楽章、この楽章もどっしりとしたテンポの演奏です。ことさら華やかに演奏することは無く、前の楽章からのつながりも自然です。トゥッティでもオケを炸裂させることは無く、抑え気味です。刻み込むような濃厚な表現。コーダの打楽器の長いクレッシェンド。

表題にとらわれず、純音楽的な非常に美しい演奏は、すばらしいものでした。CD化を望みたいです。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第7番「夜の歌」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記

サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、克明な弦の刻み。鮮明で明るいテノールホルン。1971年の録音とは思えないような鮮度の高い音です。ブラスセクションの充実した響き。音楽が力強く、前へ進もうとします。時にテンポを煽ったりします。極端な弱音はありませんが、その分弱音時でも楽器の動きが手に取るように分かります。無機的とよく言われるショルティの演奏ですが、夜の雰囲気はしっかりとあります。古典派の作品を演奏すると、素っ気無い演奏になる場合もありますが、マーラーのようにスコアにぎっしりと書き込んである作品の場合は良い演奏になります。終盤、大太鼓の一撃で歪む場面もありました。

二楽章、ホルンや木管の表情が豊かです。明るいホルンの主要主題。楽譜のアーティキュレーションに忠実でやや極端に演奏しているようで音楽が生き生きとしています。チェロの第二主題もよく歌います。オケの響きには締まりがあり、色彩感も濃厚です。オケの動きが活発で元気なので「夜曲」のイメージとは違うような「昼」のような雰囲気です。

三楽章、怪しげな雰囲気がとても良く表現されています。オケもアーティキュレーションの指定に敏感に反応するので、ショルティは高性能のF1マシンでもドライブしているかのように感じます。音が一つ一つ立っていて音楽が生き物のように迫ってきます。ティンパニの強打もバチーンと決まります。この表現の豊かさはすばらしい。バルトーク・ピチカートも一人で演奏しているかのようにピタリと揃っていました。

四楽章、個々の楽器を克明に捕らえたマルチ録音の集大成のように、オンマイクで間接音をほとんど伴わずに楽器の動きが手に取るように分かります。この楽章も「夜曲」のイメージとは違います。あまりにも個々の楽器が表面に出てきてしまって、白日に晒されているような感じの音楽になってしまっています。演奏自体は表現力もあるし、もちろんオケも抜群に上手いだけに、ちょっと残念ですが、逆に五楽章などでは良い方に働くでしょう。

五楽章、豪快に鳴る金管。思いっきり強打されるティンパニ。テンポ設定もとても動きを感じさせる生命観に溢れたものです。速目のテンポを基調に一気に聞かせます。豪快に鳴るブラスセクションの合間に優しい弦の響きが心地良いです。とにかく反応の良いオケが生き物のように音楽を奏でています。ショルティ/シカゴsoの実力をまざまざと見せ付けられます。

二楽章と四楽章の「夜曲」が賑やか過ぎた他は完璧な演奏でした。

クルト・マズア/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、速めのテンポで極めて弱くビブラートを掛けたテノールホルン。マーラーが「自然が咆哮する」と述べているのとはかなり印象が違います。渋く充実したトゥッティの響き。奥深いところから響いてくるような第一主題。遠くから優しく響く第二主題。展開部のトロンボーン独奏もビブラートがかかっています。この曲の演奏としては異色の感じで、柔らかく渋い響きはとても魅力的です。

二楽章、独特の美しさを持ったホルンの主要主題。豊かな残響のホールに広がる美しい木管。この楽章も速めのテンポです。生き生きと歌う第二主題。中間部のオーボエも独特の美しさと歌があります。美しい響きなのですが、暖色系の響きのせいか、この楽章はあまり「夜曲」を感じさせる演奏ではありません。

三楽章、シルクのようなヴァイオリンの美しい響き。非常に抑えた音量の演奏です。この楽章は暗闇にうごめくような夜の雰囲気があります。室内楽のようにコンパクトにまとまった演奏です。

四楽章、この楽章もとても静かな演奏です。この弱音がとても美しいです。深く感情移入して大きくテンポが動いたり、アゴーギクを効かせて歌うようなこともありません。静かに淡々と流れて行きます。

五楽章、この楽章も非常に抑えた主要主題の演奏で、夜から白昼に放り出されたような違和感はありません。軽いティンパニ。楽しげな木管。あまりにも抑えた演奏なので、ミュートしたトランペットがチビッたような感じがしました。テンポは基本的に速いです。金管を強奏させないので、とても柔らかい音楽になっていて、通常演奏される祝典的な雰囲気とはかなり違っていて、そのために夜の歌としての連続性が保たれています。

最後まで、静かな演奏で、通常なら、五楽章がお祭り騒ぎになるところを、夜の歌としての一貫性が保たれていたのは、すごいことです。ただ、最後まで音量を制御したことで、巨大な編成の響きを引き出さずに終わってしまったのもまた事実で、この演奏をどう評価して良いのか迷うところです。でも、この曲の違う一面を聞かせてくれたことは評価したいと思います。
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クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団

icon★★★★
一楽章、すごく静かに始まりました。明るいテノールホルンが浮き上がります。続く木管やトランペットもくっきりと浮かび上がります。美しい弦は控え目で管楽器が強調されています。木管楽器の行進曲調の主題はゆっくりと演奏されました。ピーンと張り詰めた緊張感が漂います。オケを咆哮させることなく、非常に均整の取れた演奏をしています。バランスを重視するあまり重量感には欠けるかも知れません。低域が薄いのも重量感に欠ける演奏にしている一因かもしれません。

二楽章、遠めのホルン。じっくりと間を空けて演奏されます。涼しげな木管が夜の雰囲気を醸し出します。良く歌うチェロの第二主題、繋がる木管も滑らかです。弱音はすごく弱いです。抑制の効いたオーボエの中間部の旋律。前へ出てくる楽器と奥まったところで小さく鳴る楽器の対比がしっかりしています。終了直前の木管の見事なアンサンブル。

三楽章、とてもゆっくりとしたテンポで始まり、次第にテンポを上げました。たどり着いたところはかなり速いテンポです。全体的に抑制が効いていて静かな演奏です。弦楽器の表情も豊かです。金管もそれなりに強奏しますが、騒々しくはありませんし刺激的でもありません。

四楽章、とても静かな演奏です。音像が小さく遠くに定位する感じで、コンサートホールの中央より少し後ろで聞いているような感じです。とてもバランスに配慮されているようで、どれかの楽器が飛び抜けて来ることはありません。でも、色彩感はあります。

五楽章、控え目なティンパニ。強奏はしますが、全開ではない金管。木管のアンサンブルはとてもチャーミングで魅力的です。ショルティの指揮で聴くシカゴsoは金管のパワーが強調されますが、この演奏では、弦楽器の繊細な響きも含めた弱音の美しさが随所で聴かれます。金管は絶対に吼えることはなく、かなり抑制されています。その分、弦や木管の弱音に耳が行くようになります。

7番の演奏としてはかなり異色の演奏だと思います。こんな演奏もあるのかと感服させられました。

パーヴォ・ヤルヴィ/フランクフルト放送交響楽団

パーヴォ・ヤルヴィ★★★★
一楽章、柔らかく美しいテノールホルンですが、痛恨のミストーン。とても美しく透明感の高い響きです。颯爽とした第一主題。展開部で現れる第二主題も非常に美しい。豊かなホールトーンを含み、水彩画のような淡い色彩感ですが、美しく精緻な演奏です。ことさらテンポを動かすことは無く、淡々と進みますが、オケは良くドライブされていて、気持ちよく鳴ります。最後の音が終っても長いホールトーンが響きます。

二楽章、アゴーギクを効かせるホルン。次々と登場する木管がくっきりと浮かび上がります。演奏があまりにも鮮明で「夜曲」とは思えません。第二主題も生気に満ちています。速めのテンポであっさりとした中間部。生気に満ちてとても元気な「夜曲」です。

三楽章、鋭角的でピーンと張った響きが緊張感を醸し出します。中間部のテンポは速めです。旋律の周りにちりばめられた楽器が強く主張します。マーラーのスコアの細部まで見通せるような演奏です。月明かりの明るい満月の夜のようです。

四楽章、速いテンポで、この楽章でも夜のけだるさや静けさはありません。とても活発な演奏です。もしかしたら、五楽章とのつながりの違和感を無くすためにこのような活発な演奏をしているのかも知れません。オケのきりっとした明快な音色も「夜曲」からは遠いものにしているようです。

五楽章、歪んでいるのか、バリバリのティンパニ。がっちりとした主要主題。堅固な構成力です。活発な木管も含めてとても動きがあって、生き生きとしています。これは速めのテンポを取っていることも影響しているかも知れません。カラッとした快晴をイメージさせるようなすがすがしい演奏です。

「夜の歌」と言う表題からイメージする陰鬱な部分は全く無く、あっけらかんとした演奏でした。
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レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★★
一楽章、暗く重い雰囲気で引きずるような冒頭。テノールホルンもほの暗い響きです。これから壮絶な演奏が始まることを予感させます。木管の行進曲調の主題もとても遅いです。濃厚で重いトゥッティ。テンポを速めて第一主題へ。第二主題も重くロマンティックな雰囲気はありません。トロンボーンの独奏は最初弱い音で入り次第に大きくなりました。物凄く強大なエネルギー感に圧倒されるコーダです。

二楽章、アゴーギクを効かせる序奏のホルン。続けて出る木管が夜の雰囲気を醸し出します。穏やかな第一主題。第二主題の最初の音を僅かに伸ばしました。この楽章も音楽は重く、刻み付けるような力があります。中間部も非常に遅く、たっぷりと歌うオーボエ。華やかな色彩感はほとんど感じることは出来ません。バーンスタインの強い主張が全体を貫いていてどんどん深みに引きずり込まれます。

三楽章、暗闇の中で遠くから響いてくるような冒頭部分です。この楽章も重い響きが支配しています。ティンパニの強烈な一撃。叩きつけるような濃厚な表現からデリケートたったりうつろだったりする表現まで、とても幅広い。鋭く深く突き刺さるバルトーク・ピッィカート。

四楽章、思い入れたっぷりのヴァイオリンのソロ。テンポを大きく動かして歌います。とても繊細な表現で「夜」を演出しています。ギターとマンドリンが寂しげな夜の雰囲気を上手く表現しています。穏やかな中間部も低弦が唸りを上げると深い闇に引き込まれて行くようです。主部が戻ると、また非常に感情のこもった表現になります。クラリネットのソロの手前でかなりテンポを上げました。

五楽章、盛大に白昼に投げ出されたような、目がくらむような急展開。ニューヨーク・フィルのパワー全開です。バーンスタインはこの楽章を八番の交響曲に繋がるものと考えていたのでしょうか。鋭角的な金管が、この楽章をこれまでの楽章と切り離したような演奏にぴったりです。これまで聴いたことのないような壮大なコーダ。

凄い演奏ではありましたが、五楽章があまりにも割り切れすぎていて、私には少し違和感がありました。
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マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

トーマス★★★★
一楽章、ユーフォニアムのような楽器を使っているテノールホルン。透明感の高い木管。ダイナミックで濃厚な色彩感。鋭く深く抉るようなホルン。テンポは速めでとても動きがあり活発な演奏です。マイケル・ティルソン・トーマスのサインに二度反応しなかったトランペット。ダイナミックでとても良く鳴るオケですが、雑にはならず透明感の高い響きです。コーダの前はかなりテンポを煽って速いテンポになりましたがコーダでは元のテンポに戻りました。

二楽章、表情豊かなホルン。透明感の高い木管が非常に魅力的です。淡々としたホルンの主要主題。思い切りの良いティンパニ。最初の音を伸ばしたチェロの第二主題は美しく歌います。サラッとした淡い感じですが、美しい色彩感です。中間部のオーボエはすごく感情を込めて歌います。消え入るような弱音から弦楽合奏の豊かな響きまで、幅広いダイナミックレンジです。主部が戻った第二主題はとても良く歌います。流れるようでありながら良く歌う不思議な演奏です。

三楽章、サンフランシスコsoはいつからこんなに美しい響きになったのでしょう。反応が良くしかも美しい響きはすばらしいです。アメリカのオケでもトップクラスなのではないでしょうか。とても俊敏な反応の演奏です。瑞々しく艶のあるヴァイオリン独奏。気持ちよく鳴り響く金管。バルトーク・ピチカートでアンサンブルが乱れました。最後はテンポを落として黄昏て行きました。

四楽章、柔らかく美しい主題。俊敏な反応をするオケ。マンドリンが良く通る音で演奏しています。中間部に入る前の部分ではテンポを速めましたがすぐに遅くなりました。中間部では良く歌うホルン。大河の流れのように豊かな弦楽合奏。あまり夜の雰囲気は感じられませんでした。

五楽章、威勢のいいティンパニ。艶やかで輝かしい金管の主要主題。全開ではありませんが、軽々と鳴るブラスセクション。豊かな表情の木管。五楽章になって突然白昼に放り出されたような感覚ではありませんでした。この演奏自体が夜をあまり意識していないからかも知れません。テンポは速くなったり遅くなったり変化します。オケの集中力があまり無いのか、ミスが目立ちます。テンポの速い部分はかなり速くなります。最後はすさまじいホルンの咆哮でした。

表題にとらわれず、あまり夜を感じさせない演奏で、五楽章が浮くことはありませんでした。とても美しく透明感の高い響きはすばらしいものでしたが、ちょっと集中力が無かったのか、ミスが目立ったのは残念でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第7番「夜の歌」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、粘着質で重い演奏です。速目のテンポで音楽は進みますが、音楽にはいろんなものが詰まっているようで非常に重いです。濃厚な表現。微妙に動くテンポ。オケは決して上手くはありませんが、テンシュテットの指揮に必死に食らいついて行こうとしているのが十分に伝わって来ます。ただ、力みがあるのか響きには透明感がありません。

二楽章、「夜曲」の雰囲気を醸し出す木管。テンシュテットの演奏にしてはこの楽章は淡白な印象です。このセッションではオケの調子もベストコンディションではなかったのか、弦の響きも木目が粗い。

三楽章、非常に小さな音で開始してクレッシェンドしました。この楽章は表情豊かです。機敏な反応をする弦。不気味な雰囲気のテューバ。この作品の不気味な部分を十分に表現しています。

四楽章、アゴーギクを効かせる独奏ヴァイオリン。テンポも動きます。ただ、「夜曲」の雰囲気は今ひとつです。

五楽章、勢いのあるかなり激しい冒頭です。テンポの動きも大きくテンポの変わり目を大きくリタルダンドとクレッシェンドして強調します。激しい咆哮!テンシュテットが作品にのめり込んで行きます。最後にトランペットのミストーン。ティンパニのもの凄いクレッシェンド。聴き応えのある楽章でした。オケのコンディションが万全ではなかったのか、楽章による出来不出来があるのが残念でした。

クラウス・テンシュテット/クリーブランド管弦楽団

テンシュテット/1978★★★☆
一楽章、スクラッチノイズの中から演奏が聞こえます。録音の影響でメタリックな響きになっています。冒頭から激しい表現です。トライアングルもギンギン響きます。ゆったりと穏やかな部分と、速目のテンポで激しい咆哮の起伏の激しい演奏をしています。畳み掛けるアッチェレランドや軍隊の行進のようなテンポで演奏される部分もあり、変化に富んでいます。一気呵成に一楽章を終えました。

二楽章、存在感のあるテューバ。「夜曲」にしてはとても元気が良い。旋律を担当する楽器がしっかりと主張してくるので、描き分けがくっきりとしていて、色彩感が豊かです。

三楽章、強弱の表現が非常に厳格で厳しい雰囲気です。スケルツォと言うより作品と格闘しているような雰囲気です。表情豊かで生き生きした演奏です。

四楽章、録音の影響か音がギンギンしているので、テンポが速めなのと相まってとても攻撃的な演奏に聞こえてしまいます。元気いっぱいです。とても「夜曲」には聞こえません。作品への共感を示すようにとても豊かな表現です。

五楽章、すごく激しい冒頭の主要主題でした。副主題ではテンポを落としました。テンポも動きます、また表情もとても豊かです。トランペットが常にミュートを付けているような音で録音されて実際の演奏の雰囲気は伝わってきません。テンシュテットは速目のテンポでグイグイと引っ張って行きます。怒涛のような盛り上がりで演奏を終えました。すごい熱演だったと思いますが、録音の悪さから十分には伝わって来ないところが残念でした。

ダニエル・バレンボイム/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★☆
一楽章、凄く遅い冒頭。細い響きのテノールホルン。弦の刻みがはっきり聞こえます。少し遠くから響いてくるテノールホルンの雰囲気がなかなか良いです。第一主題の頃にはかなりテンポが速くなって、序奏の異様な遅さからは開放されています。消え入るような弱音が夜の雰囲気を醸し出します。控え目に静かに演奏される第二主題。弱音の物悲しさは出色です。トロンボーンのソロはスラーがかかったような演奏でした。チューバやバストロンボーンが今まで聞こえなかった部分で主張します。弱音の雰囲気の良さに比べるとトゥッティのエネルギー感が乏しいのが残念ですが潤いのある美しい響きはとても魅力的です。

二楽章、瞬発力のあるホルンと非常に抑えた木管の対比が面白い。主要主題も抑えた穏やかな演奏です。第二主題の最初の音を少し長く伸ばしました。そして、ここでも抑えた表現で、しかもゆったりとしたテンポで、とても美しい演奏です。この演奏では弱音の美しさは特筆できます。空間に夜の闇が広がるような雰囲気もとても良く表しています。中間部もゆっくりと丹念に描いて行きます。消え入るような弱音が幽玄の世界へ導いてくれます。二度目の第二主題も非常に抑えた表現で、対旋律の方が大きいくらいです。

三楽章、冒頭の弱音部分も非常に抑えた表現で、夜の雰囲気がとても良く出ています。この演奏では、繊細な弱音がとても良いですが、逆に強奏部分の起伏がそれ程大きくは無く、マーラーの巨大なオーケストレーションを表現し切っていないように思います。この楽章の強奏部分もテンポを速めてあっさりと演奏しています。

四楽章、枯れた響きのヴァイオリン。柔らかいホルンの主題。シュターツカペレ・ベルリンの伝統的な着色の無いナチュラルな響きがとても美しい。基本的には速めのテンポであっさりとした演奏です。

五楽章、速めのテンポで爽やかなトゥッティ。やはり力感はあまり無く、控え目なトゥッティです。四楽章まで流れをあまり変えずに五楽章に入りました。ドロドロした部分はほとんど感じさせない爽やかな演奏です。トゥッティでも熱くなることはありません。作品を俯瞰しているような距離感を感じます。

繊細で夜の雰囲気たっぷりの美しい弱音と控え目なトゥッティでとても爽やかな演奏でしたが、作品の本質とは違うような感じがしました。
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ジェームズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団

icon★★★
一楽章、緩い弦の刻み。ダブルタンギングをしているようなテノールホルン。遠めのトランペット。何かを暗示するような不穏な雰囲気はありません。色彩感は淡い感じです。テュッティは巨大な響きがします。思いっきり良く鳴る第一主題。楽器を良く鳴らし爽快感がありますが、ピーンと張り詰めたような緊張感はありません。ティンパニは遠慮なくバンバン来ます。金管の充実した響きが見事です。トロンボーン独奏はちょっと下品な感じがしました。オケを思いっきり良く鳴らした演奏でした。

二楽章、かなり強めに演奏されるホルン。その後登場する木管も伸び伸びとした演奏です。ホルンの主要主題の前に大太鼓の地響きのような低音が響きました。ここでもティンパニが遠慮なく強打します。伸びやかな第二主題。

三楽章、怪しげな雰囲気を醸し出す冒頭。テューバが強烈です。レヴァインの演奏の場合、そこそこに温度間感があるのですが、それは音楽の高揚に合わせて熱気を帯びるものではなく、ましてや、冷たく精緻な雰囲気も持っていないので、ともすれば弛緩しているようにも感じられてしまうところがあり損をしていると思います。この楽章でも思いっきり良く強打されるティンパニが爽快です。

四楽章、太い響きのヴァイオリン独奏。細く締まったホルンの主題。柔らかい弦楽合奏。とても穏やかな夜を演出していますが色彩感は墨絵のように淡白です。モノトーンの中にギターが鮮明に浮かび上がります。引っかかることもなく、自然に音楽が流れ去って行きます。あまりにも普通(マーラーの場合、普通に演奏されること自体凄いことなのかも知れませんが)に時間が過ぎて行きます。

五楽章、盛大に強打されるティンパニ。続くホルンのトリルが強調されていました。暴走することなく程ほどに抑えられたと言うかとても軽く演奏する金管。ホールの特性なのか、シンバルさえも色彩感がない。後半にかけて金管も強奏しますが、音楽が熱気を帯びることはありません。最後は打楽器の激しいクレッシェンドで壮大に曲を閉じました。

何の変哲も無い演奏を聴き続けるのは大変でした。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、オケから浮き上がるテノールホルン。速いテンポの第一主題。この時期の一連のマーラー録音に共通する、一体感の無さがとても気になります。第二主題もどこか落ち着きが無い。響きがバラバラで薄い。テンポも全体的に速くどっしりと音楽を聞かせるような演奏ではありません。

二楽章、かなり強く表情豊かなホルン。続く木管も豊かな表情です。ホルンの主要主題も美しい。とても活発な夜の歌です。第二主題も良く歌います。とても感情のこもった音楽でぐっと引き込まれます。中間部のオーボエもとても感情のこもった演奏です。一楽章とは打って変わって、一体感と集中力のある演奏です。バーンスタインの指揮もテンポを動かして豊かな表情を作って行きます。鋭角的な響きもすばらしい。

三楽章、厳しく締まった表情が付けられています。中間部のオーボエはもっと歌っても良かったような気がします。バルトーク・ピッィカートはあまり強烈ではありませんでした。

四楽章、締まった響きのオーボエ、テンポも動いて表現しますが、夜の雰囲気はあまりありません。

五楽章、羊皮独特のバネのあるティンパニ。金管を咆哮させることもなく、音楽の振幅はさほど大きくはなく、スマートで晩年の深い作品との同化とは違う演奏です。
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レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団

セーゲルスタム★★★
一楽章、凄く遅いテンポで始まりました。明るく張った音質のテノールホルン。透明感のある美しい響きです。テノールホルンの主題部ではとてもゆっくりですが、途中急激にテンポを速めたりします。第一主題では、一般的なテンポを取っています。展開部の第二主題が現れる前はかなりテンポを遅く演奏して、広大な草原の夕暮れような雰囲気でした。第二主題に入ってもテンポはゆっくりですが、表現はねばっこい感じは無く、重い表現ではありません。コーダではバランスの良い分厚い響きです。

二楽章、柔らかくフワッとした響きのホルン。遠くから響くような木管が夜の雰囲気を自然に醸し出します。ホルンの主要主題も非常に美しい。第二主題の最初の音を少し伸ばしました。感情が込められて哀愁漂う、中間部のオーボエ。二度目の第二主題は舞い踊るように生き生きとした演奏です。コーダ直前の木管の鳥のさえずりのような部分も夜の雰囲気十分です。

三楽章、不気味な夜の雰囲気です。中間部のオーボエが出て以降テンポがゆっくりになりました。テンポによるものなのか、音のアタックによるものなのか分かりませんが、何故か鈍重な感じがあります。どっしりと構えていると言えばそうなのですが、旋律の周りにちりばめられた楽器があまり聞こえてこないのもちょっと残念です。

四楽章、ホルンの柔らかい主題。続く弦の部分はテンポを落としてぐっと抑えて美しく幻想的な演奏でした。ただ、音が立っていないような感じで、鈍っているようなイメージが付きまといます。マーラーの鋭角的な部分はあまり表現されず、なだらかな音楽になっています。「夜曲」だからこれで良いのかな?最後はすごくテンポをゆっくりして濃厚な表現でした。

五楽章、メリハリのあるティンパニ。お祭り騒ぎにはならず、前の楽章からのつながりを意識した演奏です。曲全体を通してテンポはよく動きます。めまぐるしいくらいに良く動くテンポ。

「復活」の演奏が、すばらしかったので、期待したのですが、鈍ったような大味な演奏だったような感じがしました。
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ジン・ヒョン・ペク/馬山市立交響楽団

ペク
一楽章、あまり伸びの無いテノールホルン。たどたどしい木管。テンポの揺れには対応できないのか、全くテンポは揺れません。寂しい響きです。第一主題の前でテンポが一旦遅くなりました。音が合っていないようで、響きがとても貧相です。オケも演奏するのが精一杯と言う感じです。再現部に入る前に間を空けました。鈍重な演奏で、音が定まらなくて空中浮遊しているような、変な感じです。響きが薄い上に混濁していて、かなり聞き辛い音です。

二楽章、危なっかしいホルン。潤いが無くささくれ立った音がします。主要主題はアマオケの演奏を聴いているような硬い音です。チェロの第二主題も胴が鳴っていないような響きで、弦だけの音が聞こえる感じがします。中間部では少し夜の雰囲気がありました。主部が戻るところは最初のテンポよりもかなり速くなっています。何かを表現している感じは無く、演奏するだけで精一杯です。

三楽章、響きが融合せずに浮遊する感じが何とも変です。速めのテンポでほとんど表情を付けずに進みます。あまりにも音が合っていないので、聞いていて苦しくなります。バルトーク・ピチカートも弱弱しい音でした。

四楽章、テヌート気味に演奏されるホルンの主題。色んな楽器が有機的に結びつかない演奏で、バラバラです。夜曲を感じさせることはありません。

五楽章、かなり頑張って吹いているようですが、音が合っていないので、響きが融合しません。普通背後に豊かな響きがあって、その中から金管が突き抜けてくることはありますが、この演奏の場合、背後の響きがほとんど無く、浮いたように金管が響いて来るので、とても寂しく暗い響きになります。細かいところで音程を外す演奏で、技術的にもかなり厳しい感じです。また、弦の細かいパッセージもちゃんと弾けてはいないところが随所にあって、演奏するのが精一杯と言うのが如実に伝わって来ます。

オケの技術的な問題で、まだこの曲を演奏するレベルでは無いと思いました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」

マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」は、彼の交響曲の中でも最も壮大で、スケールの大きい作品です。特に、千人以上の演奏者が必要とされるほどの大編成であるため「千人の交響曲」とも呼ばれます。マーラー自身もこの作品を「交響曲の世界」と称し、すべての音楽要素を結集した究極の作品として位置づけました。

1. 構成と特徴

交響曲第8番は、マーラーの他の交響曲と異なり、2つの部分(楽章)から成り立っています。それぞれが独立したテーマを持ちますが、全体を通じて「神聖なる愛」と「人間の救済」が一貫したテーマとして表現されています。

第1部:賛歌「来たれ、創造主なる聖霊」(Veni Creator Spiritus)

  • 第1部は、中世のラテン語賛歌「来たれ、創造主なる聖霊」に基づき、キリスト教の神聖なる霊に呼びかける祈りのような音楽です。
  • 圧倒的な合唱とオーケストラが一体となって、壮麗な響きを生み出します。この部分は力強く荘厳で、聴く者に深い感動を与えるスケールの大きい音楽です。
  • いくつかの旋律や動機が繰り返され、次第にクライマックスに向かっていく様子は、まるで「神の降臨」を音楽で表現しているかのようです。

第2部:ゲーテ『ファウスト』第2部からの場面

  • 第2部は、ゲーテの『ファウスト』の最終場面に基づき、ファウストの魂が神の愛に救われる過程を描いています。この部分では、登場人物がオーケストラや合唱に加わり、オペラ的な要素も取り入れられています。
  • 第2部は瞑想的で幻想的な雰囲気が漂い、第1部とは対照的に内面的な探求が進められます。さまざまな声部が入り混じりながら、ファウストが神に導かれる様子がドラマティックに展開されます。
  • 最後は「永遠の女性的なもの」によって魂が救われ、壮大なクライマックスで幕を閉じます。このフィナーレは圧巻で、合唱が天に向かって昇るような響きを奏でることで、霊的な高揚感を聴衆に与えます。

2. 「千人の交響曲」とは?

  • 「千人の交響曲」という名前は、1910年の初演時にマーラーの指揮で実際に千人を超える演奏者が参加したことに由来します。一般的に、オーケストラ、独唱者8人、二重合唱、児童合唱が求められ、その規模の大きさが「千人の交響曲」として名を残すことになりました。
  • しかし、必ずしも千人が必要なわけではなく、あくまで「壮大さ」を象徴する名称として広く使われています。

3. 音楽的特徴

  • 第8番は、マーラーの他の交響曲に比べて、明るく肯定的な響きを持っています。これまでのマーラーが描いた「苦悩」や「孤独」といったテーマが影をひそめ、代わりに「救済」や「愛」という普遍的なテーマが前面に押し出されています。
  • 旋律は複雑でありながらも、親しみやすく、マーラーの特色である劇的なクライマックスが随所に登場します。
  • また、全体を通して一貫した調性(変ホ長調)で統一され、音楽の進行が非常に緻密でスムーズに進むのもこの作品の特徴です。

4. 歌詞とテーマ

  • 歌詞には、ラテン語の聖歌とドイツ語のゲーテの詩が使われ、宗教的テーマと文学的テーマが融合しています。第1部は神聖な霊の降臨を、第2部は人間の救済と神の愛を描いています。
  • 特に第2部では、ファウストの物語を通して、人間の過ちや救済が表現され、聴衆に深い哲学的・宗教的な問いかけを行っています。マーラーはこの作品を通して、人間が愛と神の導きによって「永遠の救済」に到達できるという信念を表現しています。

5. まとめ

マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」は、彼の作品の中でも最もスケールが大きく、宗教的な崇高さと哲学的な深さを備えた作品です。合唱とオーケストラが一体となり、圧倒的な力強さと美しさで神聖な世界を描き出し、聴く者に壮大な感動を与えます。この交響曲は、マーラーの生涯における「救済と愛の賛歌」とも言える作品であり、マーラーが到達した「音楽による宇宙観」を示す傑作です。

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たいこ叩きのマーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」強力な合唱。金管はセッション録音と同じようにスタッカート気味に演奏しました。最後はテンポを落としました。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」テンポが良く動いて、音楽の起伏も激しく濃厚です。オケも強力にドライブします。
「われらが肉体の脆き弱さに」情報量の多い音楽。緊張感が伝わってくる静寂感。独唱のバランスやアンサンブルも良いです。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」すごいエネルギーの合唱。オケもすごい咆哮です。熱気に溢れた集中力の高い演奏です。鳥肌が立つようなすごい演奏です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」すごく強烈で壮大です。テンシュテットの癌の手術移行の演奏会はまさに真剣勝負だったのでしょう。オケもこれが最後かもしれないと言う緊張感からか、すばらしい力演を演じています。合唱もものすごいエネルギーの放出です。
「父なる主に栄光あれ」テンポを落としてソプラノ独唱でした。壮絶なクライマックス!すばらしい演奏でした。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」強いアクセントで入った弦のトレモロ。弦のヒッィカート一つ一つにも力があり、木管の音も立っています。音楽の振幅が大きく、激しい部分は壮絶です。広がりのある合唱。
「永遠の愉悦の炎」明瞭で声が立つバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」金管はそんなに強くは入りませんでした。バリトンに比べると少し沈みぎみのバス。
「霊の世界の気高い人間がひとり」オケはビンビン鳴ります。抑えた女声合唱は美しい響きです。ダイナミックな表現のオケは見事に鳴ります。
「地上の残り滓を運ぶのは」枯れた響きのヴァイオリン独奏。強い声のアルト独唱。合唱と拮抗するテノール独唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」芯のしっかりとした実在感のあるテノール独唱は表現の幅も広いです。奥行き感のある合唱。テンポも動いて穏やかにゆったりとしたテンポになります。すごく感情のこもった女声合唱。すごく濃厚です。ソプラノ独唱もテンシュテットの指揮に合わせて表現の幅が広いです。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」デッドで実在感のあるソプラノとアルト独唱。地面が割れて湧き出すような金管。表現が統一されていて一体感のある重唱。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」明るいソプラノ独唱。途中でテンポを落として、濃厚に克明に表現します。遠くから柔らかく響く聖母。
「悔い改むる優しき方がたよ」感情の込められたテノール独唱。テンポを落として強い彫琢を刻みます。ティンパニの強烈なクレッシェンドがあったり、凄い表現です。
「移ろい行くものは なべて」ゆっくりとすごく抑えた消え入るような合唱です。合唱が全開になるクライマックス。ホルンも全開です。最後は壮絶な響きでした。

テンシュテットがまだ元気だった頃のすばらしい演奏の記録です。すごい表現力と振幅の大きな音楽は見事でした。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」はち切れんばかりに軽々と鳴り響きます。もの凄いエネルギーの放出!
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」ソプラノ独唱もオンマイクで鮮明に録られています。バックで静かに歌う合唱も実在感があります。重唱も克明です。ビンビン鳴りまくるトロンボーン。鐘の音もリアルです。
「われらが肉体の脆き弱さに」艶やかなヴァイオリン独奏。これだけ大きな編成にもかかわらず、非常に鮮明に録音されていて、いろんなパートの動きが手に取るように分かります。とても引き締まった筋肉質の演奏です。余分な響きを伴わないシャープな響き。ただ、録音された時代の技術的な限界か、最弱音のレベルを高めに設定していて、実際のダイナミックレンジはそれほど広くはありません。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」この時代にこれだけ鮮明な録音が実現していたことに驚きます。寸分の狂いもない完璧なオケと朗々と歌う独唱陣。この鳴り渡るオケに負けない豊かな声量の合唱。どれをとってもとにかく素晴らしい。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」輝かしい第一主題の再現。独唱はオケに比べて大きめの音量でミキシングされています。とにかく気持ちよく鳴り響くオケです。
「父なる主に栄光あれ」児童合唱に続いて、声量豊かなソプラノ独唱。暗闇に光り輝く神が現れて一面を眩く照らすような神々しい雰囲気がありました。「大宇宙が響き始める様子」を見事に再現し一気呵成に第一部を聴かせてくれました。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り」鋭い弦のトレモロ、空気を震わすコントラバスのピチカート。くっきりと浮かび上がる木管。筋肉質のホルン。美しいシンバルの弱音。音楽の輪郭をくっきりと描き出し、曖昧さの一切無い明快な音楽です。竹を割ったようなすっきりと割り切れた音楽が、この作品のように「生」を肯定的に表現した音楽にはぴったりです。
「永遠の愉悦の炎」表情の幅が広いバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」輝かしいトランペット。バスの独唱の後ろでも遠慮なく演奏されるオケ。独唱のバランスを録音で上げているので問題ないですが、実演では完全に独唱をかき消していると思います。
「霊の世界の気高い人間がひとり」トランペットが児童合唱に遠慮なくクレッシェンドします。児童合唱は天使と言うよりはもっと現実的な歌声です。児童合唱をかすめ通るブラスセクションの上手さには舌を巻きます。とにかくすばらしい。
「地上の残り滓を運ぶのは」艶やかなヴァイオリン独奏。豊かなアルトと児童合唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」伸びやかなテノール独唱。テノールとホルンのアンサンブルもぴったり。すばらしいテノールの歌唱力。とにかく良く鳴るトランペット。ハープに乗る弦もとても現実的です。波が押し寄せるような合唱に続いてオケに溶け込むソプラノ独唱。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」くっきりと浮かび上がるソプラノ独唱。突然立ち上がる金管。ヴァイオリンと独唱の美しい絡み。独唱の間でもオケの動きははっきりと聞き取れます。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」やはりすごく現実的な児童合唱。厚く深みのあるコントラバス。
「悔い改むる優しき方がたよ」地面から湧き上がるような合唱とオケのテュッティ。強力なテノール独唱。次から次からパートが変わって押し寄せる合唱。そしてブラスの強烈な絶叫。
「移ろい行くものはなべて」一体感のある合唱。空気を突き破って届くブラスの咆哮。宇宙が鳴り響くような見事なブラスの響き。壮大なクライマックス!

現実的すぎる部分も若干ありましたが、オケのパワーを如何なく発揮したすばらしい演奏でした。

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」豊かな残響の中伸びやかな合唱が響きます。スタッカートぎみのトランペット。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」距離感のある独唱。ステージ上にいる独唱を客席の少し後ろで聞くような良い音場感です。とても美しい合唱の弱音部。表現も豊かです。ティンパニの打撃に間があります。沈み込むようなホルンの咆哮。
「われらず肉体の脆き弱さに」マットなヴァイオリン独奏。どのパートも豊かな表情です。テンポも動きます。テンシュテットの作品への共感が伺われます。とても柔らかい表情の独唱。同じようにソフトにサポートするオケ。とても良い演奏です。
「そが光にてわれらが感ずる心を高めたまえ」テュッティで合唱が豊かに広がり、ブラスが突き抜けてきます。重量感のあるパイプオルガンが存在を主張します。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」包み込むような豊かな合唱がとても心地よい雰囲気です。
「父なる主に栄光あれ」テンポが動いてとても強い感情が込められているようです。最後はritして終えました。パイプオルガンのペダルの音に乗る輝かしいブラスセクション。「大宇宙が響き始める」音楽でした。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」繊細な弦のトレモロ。憂鬱な雰囲気を醸し出す木管。静寂の中から次第に音楽が盛り上がり、また波が引いて行くように静まります。表現力豊かなホルンの強奏。小さくピンポイントで定位するチャーミングな表情のフルート。聴き手を引き付ける合唱の弱音。とても神秘的な雰囲気がピーンと張り詰めていて見事です。
「永遠の愉悦の炎」とても自然なバランスのバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」バスの独唱とバックのオケの絶妙のアンサンブル。とても美しいオケの響き。
「霊の世界の気高い人間がひとり」児童合唱もとても整然として整っていて非常に上手いです。
「地上の残りの滓を運ぶのは」ここでも天空から降りそそぐような児童合唱がとても良いです。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」豊かな声量で訴えかけてくるテノール独唱はすごい表現力です。天国を感じさせるハープとオケの演奏。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」アルト独唱も表現の幅が広い。この演奏では木管楽器がとても魅力的な音を聴かせてくれます。
「傾けさせたまえ、世の類いない聖母さま」児童合唱がとても優秀です。場面によってガラッと声質を変えます。ソプラノも遠近感があるような歌唱が見事です。
「悔い改むる優しき方がたよ」地面から湧き上がるような合唱。空を舞うような児童合唱。とても色彩豊かなオケ。
「移ろい行くものはなべて」神秘的な女声合唱が独唱と相まって複雑なハーモニーを奏でます。パイプオルガンに乗っかる合唱が生への賛歌を歌い上げます。最後は大きくクレッシェンドして壮大なクライマックスでした。

見事にこの作品を描き切りました。すばらしい演奏でした。

エド・デ・ワールト/オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団

ワールト★★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」豊かな響きを伴って壮大に響きます。凄く大きい編成のような感じがします。金管の響きも輝かしい。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」太い声のソプラノが感情を込めて歌います。独唱に合わせて抑揚のある合唱。金管の輝かしい響きはすばらしい。ゴツい響きの鐘。
「われらが肉体の脆き弱さに」一つ一つの音の動きがとても鮮明です。盛り上がる部分もしっかりとした音量で盛り上げました。細かく動く部分は残響が多いのもあってか、あまり緊張感はありません。金管はとにかく良く吹きます。太い声のバス。奥から突き抜けて来る金管。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」豊かに広がる合唱。バランス良く響き渡る金管。独唱も柔らかく溶け込んでいます。とにかく壮大です。ホールいっぱいに響き渡るスケール感は見事です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」充実した分厚い響き。まさに大宇宙が響き始める様子です。
「父なる主に栄光あれ」感情の込められた独唱。合唱が入ると一気に空間が広がります。すばらしい演奏でした。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」緩やかな導入。ゆったりとしたテンポで伸びやかに歌う木管。さらにテンポを落として濃厚に刻み付けて行きます。オケを大きく鳴らして振幅の大きな表現。ピーンと通るフルート。
「永遠の愉悦の炎」柔らかいバリトン独唱。起伏の大きな歌唱です。終盤にオケも大きく盛り上がります。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」盛り上がりを引き継いだトランペット。バスの独唱も柔らかい。合い間のオケも十分な存在感です。
「霊の世界の気高い人間がひとり」潤いがあって豊かな響き。天使の歌声のような女声合唱。見事に気持ちよく鳴るオケ。
「地上の残り滓を運ぶのは」美しいヴァイオリン独奏の後ろで揺れ動く女声合唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」柔らかく語り掛けるようなテノール独唱。透き通るようなオケの響きが美しい。女声独唱も伸びやかで柔らかく美しい。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」ゆったりと非常に伸びやかで瑞々しいソプラノ独唱です。オケの響きもとても美しい。轟き渡るトランペット。立体感のある音場空間。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」残響を伴って美しいソプラノ独唱。マンドリンもキラキラとした響きで美しい。高音域も伸びやかで豊かな声量のソプラノ独唱でした。さらに遠くから豊かな残響をともなった聖母。
「悔い改むる優しき方がたよ」柔らかく太いテノール独唱。スケール大きく盛り上がるオケ。美しい弦。壮大な合唱。音の洪水のように次々と湧き上がる音楽。ビンビン鳴るトロンボーン。
「移ろい行くものは なべて」ゆっくりとしたテンポで厳かな雰囲気の合唱。突出するソプラノ独唱。揺れのある音楽。力強い合唱。鳴り渡る金管。この曲を結ぶにふさわしい壮大な終結でした。

残響豊かなホールで、とてもスケールの大きな演奏は、まさに大宇宙が響き始める様子でした。すばらしい演奏だったと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1988年

ハイティンク★★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」すごく編成が大きいような壮大で深い響きです。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」とても良く響く独唱陣。オケも気持ちよく鳴り響きます。
「われらが肉体の脆き弱さに」遠くから響くような合唱。細く美しいヴァイオリン独奏。全体の響きに溶け込む独唱。奥行き感のある鐘。表現が締まっていて、とても俊敏に反応するオケ。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」緊張感のある心地よい響きです。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」すごいエネルギー感。輝かしいブラスの響きもすばらしい。深い合唱の弱音。
「父なる主に栄光あれ」すごく声が伸びるソプラノ独唱。合唱に奥行き感があって立体的な空間演出です。最後は圧倒的なすばらしい響きでした。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」すごく抑えた弦のトレモロ。続く部分も抑えた音量で、和音も見事に響きます。テンポも動いて、ゆったりと濃厚な表現もします。一つ一つの音に力があって、とても深い音楽です。弱音は消え入るように注意深く演奏されます。
「永遠の愉悦の炎」豊かな歌声のバリトン。揺れがあってとても音楽的です。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」しっかり金管が出てきて色彩がくっきりしています。朗々と感情を込めて歌うバスの後ろで動くオケも攻撃的に出入りしていて、すごくメリハリの効いた音楽です。
「霊の世界の気高い人間がひとり」ホールの響きを伴って豊かな女性合唱。オケが色彩豊かに響きます。気持ちよく鳴り響くブラスセクション。
「地上の残り滓を運ぶのは」細身で静かなヴァイオリン独奏。柔らかいアルト独唱。美しい女性合唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」伸びやかなテノール独唱。オケも色とりどりの色彩で独唱を支えます。登場する楽器がきりっと立っています。細身で艶やかなヴァイオリン独奏。優しく穏やかなソプラノ独唱。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」響きを伴って伸びやかなソプラノ独唱。オケの色彩も深く濃厚です。金管も奥深くから響くような感じです。表現力豊かな重唱。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」奥行き感を感じさせ豊かな児童合唱。振幅の大きいソプラノ独唱。天からかすかに聞こえるような聖母の歌声。
「悔い改むる優しき方がたよ」湧き上がるようなオケと合唱の響き。表現の幅が広いテノール独唱。クライマックスへ向けて次第に熱気が込み上げてきます。オケが軽々とすごいパワーを見せつけます。
「移ろい行くものは なべて」神秘的で深い合唱。ゆっくりとこの曲の最後を味わうような弱音部。鳥肌が立つような凄いエネルギーで壮大なクライマックスです。

すばらしい統率力でこの大曲をまとめ上げたハイティンクの手腕は凄いものです。オケも独唱、合唱も上質で極上のものですばらしい演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」名盤試聴記

クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団

エッシェンバッハ★★★★☆
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」ゴツンと重い響きのパイプオルガン。合唱の響きに比べると控え目に感じる金管。速めのテンポできびきびと進みます。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」深い感情移入は無い独唱。広がりのある合唱の弱音。奥まっている金管。鐘が入る部分の弦の揺れはなかなか良かったです。
「われらが肉体の脆き弱さに」カデンツァのように少し遊びのあるヴァイオリン独奏。盛り上がった後の、細かい動きはかなり音量を落として緊張感のあるものでした。ほとんど歌わないフルート。柔らかい声質のバス。遠くで響く金管。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」テンポを速めて、歓喜の表現です。次第に感情が高ぶってきたのか壮大なスケールです。渾然一体となった物凄い音響。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」圧倒的な合唱のエネルギー感。くっきりと浮かび上がる独唱。
「父なる主に栄光あれ」やはり合唱のパワーに比べると、オケは少し押されているような感じがしますが競い合うように歌い上げる圧倒的な熱演です。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り」鋭いアクセントで入った弦のトレモロ。緊張感のある冷たい空気感。寂しげな雰囲気を上手く表しています。和音の響きも深く充実した響きです。深みのある余韻を伴って響く合唱。
「永遠の愉悦の炎」芯のしっかりした声質のバリトン。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」軽く演奏するトランペット。情感豊かな独唱。オケの動きも克明に表現しています。
「霊の世界の気高い人間がひとり」ゆったりとして、奥行き感を感じる合唱。オケだけになる部分でテンポを速めました。テンポはよく動いていますが、オケも合唱もよく付いて行っています。
「地上の残り滓を運ぶのは」ここでもカデンツァのように比較的自由に弾くヴァイオリン独奏。穏やかな女声合唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」感情が込められて硬質で実在感のあるテノール独唱。訴えかけてくるようなヴァイオリン。落ち着いた足取りの指揮です。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」若々しいソプラノ独唱。独唱の強弱にあわせるオケ。ゆっくりとしたテンポで進みます。控え目な金管。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」僅かに遅いテンポでマンドリンに入りました。現世的な児童合唱。
「悔い改むる優しき方がたよ」ゆったりとしたテンポで、たっぷりと歌うテノール独唱。バックのオケや合唱も克明です。起伏の大きな合唱。
「移ろい行くものは なべて」非常に厳かな雰囲気の合唱。控え目なソプラノ独唱。クレッシェンドして一旦止めて、女性合唱だけ残して、再び演奏を始めました。最後はゆっくりと、バンダも含めて壮大なクライマックスでした。

ライヴでありながら、静寂感と壮大なクライマックスのスケール感は見事でした。
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レナードバーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」柔らかいパイプオルガン。遠い合唱。輝かしい金管ですが、あまり響きに厚みが感じられません。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」あまり大きな感情移入をしていないような独唱。弱音の合唱は美しい。次第にテンポを速めます。奥まったところで響く感じの金管。鐘は強調されています。
「われらが肉体の脆き弱さに」合唱もヴァイオリン独奏も控え目で抑えた表現です。一旦盛り上がって、急激に静かになった後は、躍動感のある、めまぐるしい動きです。感情のこもったフルート。また、落ち着いたどっしりとした響きになります。やはり奥まった金管。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」歓喜に溢れた表現です。追い立てるようにテンポを上げたり、テンポの変化が頻繁で、劇的な感情表現です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」あまり絶叫しない合唱。輝かしい金管。ホルンの咆哮もすさまじい。途中でテンポを落としてこってりとした表現もありました。
「父なる主に栄光あれ」テンポを速めて切迫した表現もありました。オケと合唱が渾然一体となった演奏はなかなか充実しています。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」フワッとした弦のトレモロの入りでした。深みのある音楽。テンポが動いて強い感情移入です。強い意志と振幅の大きな表現。すごく抑えた集中力の高い合唱。ピーンと張った緊張感がすばらしい。
「永遠の愉悦の炎」感情を込めて朗々と歌うバリトン。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」声質が統一感のあるバスが引き継ぎます。バスの後ろで動くオケの緊張感も維持しています。
「霊の世界の気高い人間がひとり」一つ一つの音に力があって、集中力の高さが感じられます。輝かしくビンビン響く金管。
「地上の残り滓を運ぶのは」憂鬱な雰囲気のヴァイオリン独奏。次第に盛り上がる女声合唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」透明感が高く優しいテノール独唱。後ろで支えるオケも繊細な表現です。優しく染み入るような繊細な弦の合奏。ゆっくりと波が押し寄せるように次から次から歌う合唱。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」張りのあるソプラノ独唱。僅かに沈むアルト独唱。ピンと立ち上がる輝かしい金管。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」ゆっくりとしたテンポでマンドリンが演奏します。楽しげなソプラノ独唱。微妙なテンポの変化で感情移入を伝えようとするバーンスタイン。すごく感情のこもったソプラノの絶叫。
「悔い改むる優しき方がたよ」力の感じられるテノール独唱。合唱もオケも力がこもって熱気に溢れてきます。
「移ろい行くものは なべて」荘厳な合唱。最後の合唱の部分で大きくテンポを落としてたっぷりとした表現です。轟き渡るトランペット。

演奏が進むにつれて熱気が溢れてきました。ただ、響きに厚みがなく壮大なスケール感が無かったのが残念です。
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リッカルド・シャイー/ライブツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

icon★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」重いパイプオルガン。ゆったりとしたテンポで壮大なスケール感です。マイルドな響きで、落ち着きがあります。金管の響きもとてもマイルドです。途中でテンポが動きました。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」淡々と歌われる独唱、合唱の弱音は非常に抑えられたものでした。オケも細心の注意を払って演奏する弱音部。金管も全体の響きに溶け込んでいるような感じです。
「われらが肉体の脆き弱さに」控え目でクローズアップされないヴァイオリン独奏。盛り上がりも急激ではなく、なだらかです。その後の細かな動きもどっしりとしています。大きく歌うフルート。大河の流れのようにゆったりと音楽が流れて行きます。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」ここでもゆったりとしたテンポでブレンドされたマイルドな響きです。巨大な物がゆっくり動くような重量感です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」柔らかい響きのトゥッティ。ゆったりと確実な歩みです。
「父なる主に栄光あれ」良くブレンドされて突出するパートはありません。とてもマイルドで豊かな響きです。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」シンバルが先に鳴ってから弦のトレモロが始まりました。穏やかな雰囲気です。安らぎさえも感じるような穏やかさです。音量が一段上がって、悲壮感を感じるような響きです。弱音の合唱もあまり緊張感はありませんがくつろげる響きです。
「永遠の愉悦の炎」オフマイクぎみで柔らかいバリトン。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」軽い金管。必要以上の感情移入はしていない、バスの独唱。後ろで動くオケはあまり克明に捉えられていません。
「霊の世界の気高い人間がひとり」間接音を含んで、この世のものとは思えないような柔らかい響きの合唱。金管も非常に柔らかい。
「地上の残り滓を運ぶのは」細身のヴァイオリン独奏。アルト独唱も豊かな響きにブレンドされて柔らかい。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」テノール独唱の後ろで、柔らかく控え目で神経の行き届いたオケ。オケの強奏も柔らかい。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」オケに溶け込むようなソプラノ独唱。フワーッと広がりのある金管の強奏。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」ソフトな響き。サラッとした児童合唱が美しい。ソプラノ独唱のクライマックスでテンポを落としました。聖母が遠くから響いてきます。
「悔い改むる優しき方がたよ」太く柔らかテノール独唱はあまり感情移入していないように感じます。ソフトな金管。
「移ろい行くものは なべて」静かに荘厳に歌い始める合唱。バンダも含めてマイルドな金管。圧倒的なエネルギー感はありませんでした。

ソフトな響きで圧倒的なエネルギー感はありませんでした。ライヴ収録では難しいのか。

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マルクス・シュテンツ/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団

icon★★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」分厚い響きのパイプオルガン。深みのある響きの合唱。速いテンポでグイグイと引っ張って行きます。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」クローズアップされ、感情の込められた独唱。広がりのある合唱の弱音。独唱の絡みがとても有機的です。独唱に比べると金管は奥まっています。鐘は拍を間違えているようです。
「われらが肉体の脆き弱さに」くっきりと浮かび上がるヴァイオリン独奏。合唱にも厚みがあります。突然動き出す音楽。バスの独唱が入る前の揺れは良かったです。飛びぬけては来ない金管。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」速いテンポで進みます。金管はあまり強調されません。独唱陣だけになる部分で一旦テンポを落としました。次の「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」へ向けて、すごくテンポを落としてねばっこくたっぷりとした表現です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」凄く速いテンポであっさりとした冒頭です。合唱の弱音は余韻が残るようで美しかったです。次々と浮き上がる独唱。
「父なる主に栄光あれ」速めのテンポで祝祭的な雰囲気満点です。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」大きめに入ってデクレッシェンドした弦のトレモロ。割と大きめの音量で緊張感の無い演奏です。ピッィカートが終ってアルコの部分から少しテンポが一旦速くなりましたがすぐにテンポは落ち着きました。美しい合唱。
「永遠の愉悦の炎」伸びやかで明瞭なバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」軽く音を短めに演奏したトランペット。バリトンに比べると若干硬いバス。独唱と対等のバランスで演奏するオケ。
「霊の世界の気高い人間がひとり」速めのテンポです。どのパートも明瞭に響かせています。合唱の表現もはっきりくっきりしています。
「地上の残り滓を運ぶのは」あまり強弱の変化が無かった女声合唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」芯のしっかりしたかなり大きな存在感のテノール独唱。後ろのオケもかなりしっかりと音を出します。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」豊かな表現のソプラノ独唱。あまり大きな起伏は作りませんでした。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」すごく感情をこめたソプラノ独唱。爽やかな児童合唱。ソプラノの高音にあまり伸びが無かったように感じました。
「悔い改むる優しき方がたよ」テノール独唱と合唱のコントラストがすばらしい。感情は抑えぎみでした。マンドリンのトレモロも聞こえます。軽いトランペット。力強いトロンボーン。
「移ろい行くものは なべて」ハーモニーが美しい合唱。天から響くようなクライマックスの合唱。柔らかいトゥッティの響きで終わりました。

速めのテンポできびきび進む音楽で、祝典的な盛り上がり満点の演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」名盤試聴記

ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」力強い合唱。オケも強力です。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」少しゆったりとしたテンポで歌われます。合唱の弱音も引き込まれるように魅力的です。
「われらが肉体の脆き弱さに」ホルンの咆哮。柔らかい鐘の響き。艶やかで表情豊かなヴァイオリン独奏。ミュートを付けたトランペットの鋭い音。オケの響きに溶け込むような柔らかい独唱。
「そが光にてわれわれが感ずる心を高めたまえ」合唱の圧倒的な響きにオケが押されぎみで、ブラスセクションの輝かしい響きが聞かれません。ちょっとモノトーンに近いような色彩感です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」圧倒的な合唱。独唱も溶け合っていて、強く主張してはきません。
「父なる主に栄光あれ」合唱を中心に音楽が作られているようで、マーラーが言う「大宇宙が響き始める様子」とは違うような感じがしました。

第二部、 「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」奥行き感のある弦のピチカートにホールトーンが乗った木管が次々と現れますが、ここも色彩感に乏しい。編成の大きい曲の録音なので、全体を捉えることに重きを置いていて、一つ一つが楽器の色彩感は犠牲になっているようです。合唱は響きを伴ってとても奥行き感があります。
「永遠の愉悦の炎」柔らかいバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」バスの独唱も柔らかい響きです。独唱の後ろで動くオケはモノトーンのような感じです。
「霊の世界の気高い人間がひとり」後半、少し輝かしいブラスの響きが聞かれました。
「地上の残り滓を運ぶのは」ヴァイオリン独奏はとても艶やかです。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」高音がちょっとキツそうなテノール独唱。流れるようなハープと弦の演奏。抑制の効いた演奏で、爆発は決してしません。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」少年合唱の音程の怪しいところがありました。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」ソプラノ独唱も突き抜けてはきません。
「悔い改むる優しき方がたよ」テノール独唱に呼応する合唱が広大な空間を再現します。ここでも非常に抑制されたブラスセクション。
「移ろい行くものはなべて」とても整って美しい合唱の弱音。合唱からわずかに浮かび上がるソプラノ独唱。次第に盛り上がりますが、金管が突き抜けてくることはありません。深いドラの響きです。全体の響きの中から僅かに浮かび上がる金管の旋律で終えました。

大きい編成の割りに突き抜けてくるパートがなく色彩感に乏しい演奏で、大宇宙が響くと言うような輝かしさはありませんでした。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈 マーラー「千人の交響曲」★★★
第一部、「来たれ、創造の主なる聖霊よ」すごく遅いテンポで雄大な冒頭です。テンポの遅さが少し鈍重な感じもあります。
「いとたかき恵みもてみたしたまえ」地声が強い独唱。少し間延びしたような音楽です。金管はビンビンとは鳴りません。ボーっと言う音です。
「われらが肉の弱きを」大阪フィルもこの時代の音色は今ひとつで、味わいがありません。仏教で使う大きい磬子のような鐘の音。どうしても歌声として鳴り切っていない独唱が気になります。
「光もて五感を高め」マーラーが「大宇宙が響き始める様子」と言った音楽にしては、響きが硬く伸びやかさがなく、色彩感にも乏しくマットな響きです。
「来たれ、創造の主なる聖霊よ」タンギングと音の出が合わないようなトロンボーン。硬い独唱。児童合唱がとても良い雰囲気を出しました。
「主なる父と、また」児童合唱はなかなか良いです。遅いテンポで雄大な音楽を作ろうとしているようですが、オケが鳴り切らないので豊麗な音楽にはならないところが残念です。

第二部、「森はこなたに揺らぎ」今ひとつ鳴りの悪い木管。しかし、音楽の流れは自然で、安心して音楽に身をゆだねていられます。オケの音色になれてしまえば、スケールの大きな音楽を作ろうとしているのが伝わってきます。作為的なところもなく作品に堂々とぶつかって行っている感じがします。響きに乏しい合唱もやはり気になります。
「永遠なる法悦の炎」声量不足か、オケから浮かび上がらない独唱。音程の怪しい木管。
「岩の断崖が、私の足もとで」当時の関西音楽界の総力を結集しての演奏なのだろうとは思いますが、やはり力量不足は否めないです。
「霊界の気高い人間が」児童合唱が時に透明感の高い歌声を聞かせることもありますが、やはり音程や響きの浅さがあります。
「地上の残り屑を運ぶことは」朝比奈の指揮は非常に落ち着いたテンポで堂々と進みます。
「世界を支配したまう最高の女王よ」艶やかな弦。細い声の独唱。テューバの存在感がとても大きいです。
「パリサイびとの嘲りにも関わらず」金管の強奏部分も絶叫することなく自然な流れです。
「世にも類もない御方よ」児童合唱がいかにも児童らしく可愛いのが良いです。
「なべて悔いを知る優しき者よ」力みのない自然な盛り上がり。
「すべて無常のものは」次から次から波が押し寄せるように音が押し寄せて来ます。ミキシングで不自然な部分もありましたが、堂々と終えました。この1972年に実際に1000人を擁して、「千人の交響曲」を演奏した偉業に対して敬意を表したいと思います。

技術的な問題はたくさんありますが、この時代にこの大曲を関西の音楽界挙げて取り組んだ記録として貴重なものだと思います。

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団

ヤンソンス★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」倍音を含んだ豊かな響きのパイプオルガン。高らかに歌われる合唱。僅かにマットな響きのブラスセクション。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」ゆったりと伸びやかに歌われる独唱。静寂感のある合唱の弱音。金管の強奏部分でもあまり音は迫って来ません。
「われらが肉体の脆き弱さに」キリッと浮かび上がるヴァイオリン独奏。後ろで合唱がゆっくりと流れます。細かな動きの部分もあまり雰囲気は変わらずに進みます。あまり表情の無いフルート。大きめに録られている独唱。全体の響きに埋もれる金管。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」残響成分をあまり含んでいないので、トゥッティのスケール感はあまり大きくありません。また、マットな響きのブラスセクションが色彩感を乏しく感じさせますが反面独唱は艶やかです。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」速いテンポで突入しました。くっきりとしている独唱陣。途中テンポを落とした部分もありましたが、基本的には速いテンポで進みました。
「父なる主に栄光あれ」マットな金管と残響成分の少なさから編成が小さく感じます。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」ふわっと始まった弦のトレモロ。しばらくの緊張の後、穏やかな演奏です。極めて少ない人数で歌っているような合唱。
「永遠の愉悦の炎」深い感情を込めるバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」鋭く突き抜けるトランペット。バリトンに続いて感情のこもったバスの独唱。合い間に入るオケの動きも鮮やかです。
「霊の世界の気高い人間がひとり」小さく定位するフルート。伸びやかさの無い合唱。
「地上の残り滓を運ぶのは」太いヴァイオリン独奏。平板な女声合唱でした。
「ああ、世界の統べたもう最高の女王よ」あまり伸びやかさが無いテノール独唱。グッと抑えられた合唱。穏やかなオケの弱音。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」優しい声質と表現のソプラノ独唱。奥まって響く金管。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」聖母は予想外の場所からの歌唱です。
「悔い改むる優しき方がたよ」細身のテノール独唱。大きな感情表現はせずに抑えた表現でした。抑えぎみで軽い金管。静寂感のある木管。
「移ろい行くものは なべて」内に込めるように静かに歌い始める合唱。最後は、圧倒的なエネルギー感はありませんでした。

残響成分を含まない録音で、編成が小さいように感じる演奏で、大宇宙が響き始める様子とは程遠いような感じでした。
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レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団

セーゲルスタム★★★
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」セーゲルスタムにしては珍しく速めのテンポで、コンパクトな響きです。オケも控え目な感じがします。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」テンポを落としてゆったりと歌います。とても静寂感があります。独唱も絶叫することなく美しいです。金管も絶叫しません。テンポは良く動きます。
「われらが肉体の脆き弱さに」透明感のある合唱。艶やかなヴァイオリン独奏。とても感情の込められた独唱。テンポは良く動き、遅い部分ではテンポを落としたっぷりと表現します。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」豊かなホールの響きも伴って壮大な合唱。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」速めのテンポで大きな頂点ではありませんでした。その後の弱音部ではテンポを落として歌います。清涼感があって爽やかな合唱。オケとパイプオルガンになる部分の前からかなりテンポを落として濃厚な表現でした。
「父なる主に栄光あれ」強大なエネルギーの放出はありませんが、美しい演奏でした。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」フワッとしたアクセントで入った弦のトレモロ。テンポを落として深く歌うオケ。音が強い力を持って、心に刻まれることは無く、サラッと流れて行きます。人数が少ないように感じる小さくまとまった合唱。
「永遠の愉悦の炎」離れたところから歌うバリトン。オケに埋もれてしまいそうです。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」そんなに強くは吹かなかった金管。バスも遠くから聞こえます。離れていて、独唱の表情が分かりづらいです。
「霊の世界の気高い人間がひとり」豊かでエネルギー感があって美しい女声合唱。金管はあまり強く吹かないので、色彩感は今ひとつです。
「地上の残り滓を運ぶのは」艶やかなヴァイオリン独奏。柔らく声量もあり表現力豊かなアルト独唱。合唱の中でも存在を保つテノール独唱。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」少し遠目で、生々しさは全く無い、テノール独唱。若干フワッとした響きで、締まった緊張感はあまり感じません。ゆったりと穏やかに音楽は流れて行きます。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」清潔感のある美しいソプラノ独唱。テンポはゆったりとしています。金管は抑え気味で、大きな振幅はありません。重唱は線が細くあまり強い印象は残りませんでした。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」ここも遅めのテンポです。浅い響きの児童合唱。スタジオ録音の折り目正しい、よそ行きのような表現が、切実な主張を弱めているようです。聖母は少し遠い場所から響いてきます。
「悔い改むる優しき方がたよ」美しいテノール独唱。合唱も含めて、少しこじんまりとまとまっている感じでスケール感を感じません。柔らかい金管。音像が小さく、ミニチュアのように小さいステージを遠くから眺めているような感じの響きです。
「移ろい行くものは なべて」とても抑えられた合唱。美しいですが、開放されたようなエネルギーの爆発はありません。

スタジオ録音と言うこともあり、即興的な盛り上がりなどはなく、几帳面で折り目正しい演奏で、抑制された表現が一貫していて、宇宙が鳴り響く有様を表現するような壮大な表現はありませんでした。
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クリスティアン・ティーレマン/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 2010年

ティーレマン★★
第一部「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」ゆったりとしたテンポです。合唱に比べると金管がしっかりと響いてきます。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」合唱の弱音は抑えられていますが、豊かです。抑揚がはっきりしていて、弱音部と強奏部の対比が見事です。
「われらが肉体の脆き弱さに」控え目ですが、存在感のあるヴァイオリン独奏。盛り上がった後の、細かい動きの部分では、そんなに音量は落とさずに骨太の表現です。弦の揺れの後、バスから始まる独唱は次々と波が押し寄せるように色彩が入れ替わり見事でした。金管がしっかりと響きます。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」ゆったりとしたテンポで豊かな響きです。テンポは遅いですが、スケール感はあまり感じません。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」速めのテンポで入りました。合唱の人数が少ないのか、大きな空間を感じさせる響きはありません。
「父なる主に栄光あれ」非常にコンパクトにまとまっている感じがして、非日常体験ができるような演奏ではありません。最後はゆったりとしたテンポで壮大に終わりました。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」グッと押すような弦のトレモロ。シャープな木管。探るように進む減のピッィカート。途中でオケをかなり鳴らして躍動的な表現です。かなり抑えられて神秘的な合唱。
「永遠の愉悦の炎」柔らかいですが、あまり感情移入しないバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」軽いトランペット。バスもあまり感情移入はしていないようです。バックのオケはしっかり鳴っています。
「霊の世界の気高い人間がひとり」躍動感のある演奏です。やはり合唱の規模はあまり大きくないような感じの演奏です。
「地上の残り滓を運ぶのは」細い響きのヴァイオリン独奏の後ろで抑揚のある女声合唱。独唱の後の女声合唱の部分はゆっくり始まって次第にテンポを速めました。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」あっさりとしたテノール独唱。オケは豊かに響きます。浅い響きの合唱。女声独唱も浅い響きであまり訴えかけて来ません。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」少し遠くて柔らかいソプラノ独唱。少しくすんだ響きの金管。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」感情を抑えたようなソプラノ独唱ですが、安らぎ感があります。最後は思いっきり吐露しました。奥行き感の無い児童合唱。間接音を豊かに含んだ聖母。
「悔い改むる優しき方がたよ」優しい声のテノール独唱。しっかりと響く金管。
「移ろい行くものは なべて」緩い雰囲気の合唱。あまり突出しないソプラノ独唱。テンポを上げてクレッシェンド。あまり壮大に響かないクライマックス。

非常にスケールの小さな演奏は、全く曲に合っていませんでした。
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ウィン・モリス/ロンドン交響楽団

モリス
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」ゴロゴロと言うような響きのパイプオルガン。ゆったりとしたテンポで空間への音の広がりを感じさせます。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」独唱とは呼応しない合唱。ここでもゆったりとしたテンポで、合唱、金管とも強奏部分をかなり強く演奏しています。
「われらが肉体の脆き弱さに」自由に揺れるヴァイオリン独奏。後ろの合唱も抑揚があります。盛り上がりの後の細かな動きの部分もテンポは遅く確実な歩みです。あまり表情の無いフルート。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」ここでもゆったりとしたテンポですが、力んでいるのか響きが若干硬いようです。次々に現れる楽器の色彩感は濃厚です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」ここでもゆったりと、そして豪快に金管を鳴らします。弱音部があまり無く、常に押して来る感じで、聴いていて疲れて来ます。
「父なる主に栄光あれ」オケと合唱の力比べのような競い合いのような雰囲気でした。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」ここでも非常に遅いテンポです。間を持たせるのが大変そうな木管。音楽の振幅は大きいですが、あまりの遅さにこちらの集中力が持たなくなります。モリスには思い入れがあるのかも知れませんが、ねちっこい表現にも辟易としてきます。演奏している方も良く付き合っているなぁと思います。
「永遠の愉悦の炎」くっきりと浮かび上がるバリトン独唱。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」しっかりと響くトランペット。はっきりオケとは分離するバス。
「霊の世界の気高い人間がひとり」とても激しい演奏です。合唱もオケもかなり強く演奏しています。フルートの部分からテンポはゆっくりになりました。
「地上の残り滓を運ぶのは」サラッとした肌触りで美しいヴァイオリン独奏。女声合唱は大きくクレッシェンドしました。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」ナチュラルなテノール独唱。豊かに広がる合唱。ハープが強調されています。全ての音が前に出てくるので、聴いていて疲れてきます。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」ここでもゆったりとしたテンポで太い声のソプラノ独唱です。表現の幅が広いアルト独唱。空間に大きく広がるトゥッティ。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」ここでもゆったりとしたテンポです。近くで歌われる児童合唱。シャープに定位するソプラノ独唱。近くて明瞭な聖母。ちょっと近すぎのような感じがします。
「悔い改むる優しき方がたよ」壮大なスケールの合唱の広がり。割と淡々としたテノール独唱。硬質なトロンボーン。
「移ろい行くものは なべて」遠くから柔らかく響く合唱はとても美しい。ただ、音楽の歩みはあまりに遅く、こちらが演奏に集中できなくなります。オケの金管とバンダが左右に分かれています。

あまりに遅いテンポ設定で、聞きとおすにはかなりの覚悟が必要です。
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ハム・シンイク/KBS交響楽団

シンイク
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」柔らかい冒頭。トロンボーンなどはビンビンと響かず、ボーッと言う響きに近いです。合唱が弱い感じがします。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」爽やかな合唱の響きです。指揮者はとても若いです。独唱の声量も足りない感じがします。テンポもあまり動かず、音楽の起伏もあまり無く平板なイメージです。
「われらが肉体の脆き弱さに」穏やかな演奏で、表現に厳しさが無く、ちょっと鈍い感じがします。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」合唱のエネルギー感が明らかに不足しいます。金管のパワーも不足している感じがします。弱音と強奏の差があまり無く、ぐっと迫ってくるような音楽ではありません。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」圧倒的なパワーが不足しています。表現が緩く、ダラダラッと音楽が何となく流れて行っているようで残念です。
「父なる主に栄光あれ」児童合唱もオケに消されるような感じで弱いです。最後もパワーを感じることは無く、大きな盛り上がりはありませんでした。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り)」響きに深みは無いものの、和音などはきっちりと響いています。録音のせいなのか、全ての音が前に出てきてしまって、奥行き感が非常に乏しい。作品に感情移入することはあまり無く、さらっと流れて行きます。
「永遠の愉悦の炎」まだ人間の声に近いバリトン独唱。最後は大きく歌いますが、声量が不足しているように感じます。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」金管が飛び抜けてこないので、色彩感に乏しく感じます。この部分ではバスの独唱もオケも厳しい表現でした。金管が思い切って吹かないので、色彩感の乏しい、緩い演奏になっているようです。
「霊の世界の気高い人間がひとり」ゆっくりとしたテンポで練習しているような雰囲気です。抑揚を付けて表現する女声合唱。オケのパワーが不足しているのか、金管の積極性が足りないのか、とても色彩が淡白です。
「地上の残り滓を運ぶのは」合唱に比べると大きいヴァイオリン独奏やフルート。女声合唱が生の声に近いです。テノールがオケに負けて埋もれてしまいます。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」やはり人間の声に近いテノール独唱。ヴァイオリンの太く、繊細さを感じさせません。ヴァイオリン独奏は艶やかでした。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」独唱もオケも表現が緩く締まった緊張感や俊敏な反応はありません。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」児童合唱にも深みや奥行き感がありません。聖母はoffぎみのマイクポジションで遠くから響く感じは上手く表現されています。
「悔い改むる優しき方がたよ」どうしても人間の声で、楽器になりきっていないテノール独唱が気になります。金管がボワーッと言うような響きで入ってきて、色彩感を淡白にしています。
「移ろい行くものは なべて」雰囲気をガラッと変える合唱。深みがあってとても良い響きです。クライマックスのパワーは確実に不足しています。宇宙が鳴り響く有様には程遠い、現実的な響きで、圧倒的な雰囲気はありませんでした。

オケも合唱もまだ、力不足の感は否めない演奏でした。表現も緩く、表現の振幅も狭く、この曲を演奏したことに意義を感じさせるコンサートだったのではないかと思います。
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レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

バーンスタイン
第一部、「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」古い録音らしく、ラジオから聞こえるような音です。色彩感も乏しい録音です。
「いと高きにある恵みにて満たしたまえ」すごく遠い独唱。遠すぎて、表情なども伝わってきません。速めのテンポでどんどん進みます。歪みっぽくて、色彩感などもほとんど感じません。
「われらが肉体の脆き弱さに」僅かに聞き取ることができるヴァイオリン独奏。テンポは速めです。残響成分をほとんど含んでいないような録音で、音が痩せて聞こえます。1950年代の録音でしょうか。
「そが光にて、われらが感ずる心を高めたまえ」テンポを速めて歓喜が湧き上がるような表現です。
「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」力感は感じられますが、いかんせん歪みっぽくて十分に伝わって来ません。
「父なる主に栄光あれ」響きが浅く、これだけの大編成の曲を聴くには録音の古さは致命的です。

第二部、「ポコ・アダージョ(森の梢揺らぎて靡き寄り」ノイズの中から聞こえる弦のトレモロ。遠い木管。響きが痩せていて、細かな表情が伝わって来ません。合唱も遠く木管にや弦に消されてほとんど聞こえてきません。
「永遠の愉悦の炎」遥か彼方から聞こえるバリトン独唱。あまりにも遠くて細かなニュアンスは分かりません。
「わが足もとで、岩の断崖が重たく」はっきりと登場するトランペット。オケの陰になってほとんど聞こえないバスの独唱。キンキンするヴァイオリン。
「霊の世界の気高い人間がひとり」遠いオケと合唱。歪みが酷くて聞き取り辛い。
「地上の残り滓を運ぶのは」艶の無いヴァイオリン独奏。独唱が遠くて、オケに隠れてあまり聞こえません。
「ああ、世界を統べたもう最高の女王よ」相変わらず遠くて細かな表情が聞き取れない独唱。オケの強奏が混濁します。
「パリサイ人の嘲りにもかかわらず」やはり非常に遠いソプラノ独唱。ほとんどニュアンスは分かりません。
「傾けさせたまえ、世に類いない聖母さま」非常にゆっくりとしたテンポです。児童合唱とオケが一緒になるとうるさい感じです。かなり遠くから聞こえる聖母。
「悔い改むる優しき方がたよ」幕の後ろで歌っているかのように聞き取りにくいテノール独唱。キツい音のヴァイオリン。速めのテンポで元気の良いトロンボーン。
「移ろい行くものは なべて」あまりに遠くてあまり動きが分からない合唱。強奏部分が歪んで聞き辛い。最後は速めのテンポですっきりと終わりました。

これだけ編成の大きな曲では、録音の古さは致命的でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第4番

シベリウスの交響曲第4番は、彼の交響曲の中でも特に暗く、内省的で独特な雰囲気を持つ作品です。1911年に初演されましたが、当時の聴衆には難解だと感じられ、賛否が分かれました。この交響曲は、シベリウスの病気や心の葛藤、人生の不安感が色濃く反映されたもので、「苦悩の交響曲」とも呼ばれています。

1. 構成と特徴

交響曲第4番は、全4楽章からなり、各楽章が短めですが、非常に緊張感があり、どこか重苦しい響きが続きます。

第1楽章:Tempo molto moderato, quasi adagio

  • 静かで重厚な響きから始まり、低音の響きが不安感を漂わせます。冒頭からチェロが不穏な旋律を奏で、暗い陰影を感じさせます。調性は曖昧で、安定しない和声が続き、独特の緊張感が生まれます。
  • 和声や旋律の流れが予測できず、どこか彷徨っているような印象を与えます。この楽章全体が、どこか恐れや不安といった感情を象徴しているように聞こえます。

第2楽章:Allegro molto vivace

  • 第2楽章は、短いながらも動きのある楽章で、リズミカルなパターンが続きます。軽やかでありながらも、不協和音が混ざり合うため、明るいというよりも「皮肉めいた明るさ」を感じます。
  • 不安定なメロディや突発的なリズムが、まるで内心の葛藤や不安を表現しているかのようで、聴く者に奇妙な緊張感を与えます。

第3楽章:Il tempo largo

  • ゆっくりとした悲しげな楽章で、シベリウス特有の静かな美しさが際立ちます。低音が支配的で、シンプルな旋律が暗い響きの中で進みます。
  • この楽章では、無力感や絶望、孤独といった感情が表現されているとされ、どこか悲哀を帯びた音楽が心に染み渡ります。
  • シベリウスが直面していた病気や自身の人生への不安が、この楽章には色濃く反映されているとも言われます。

第4楽章:Allegro

  • 最終楽章は、どこか不安を抱えたまま、激しさを伴いながら進んでいきます。力強い弦楽器の旋律と、ホルンやトロンボーンが重厚な響きを加え、圧倒的なエネルギーを感じさせますが、決して晴れやかな結末ではありません。
  • 終盤に向かっても、救いのような響きは現れず、むしろ突然途切れるように静かに終わります。これは、シベリウスが人生に対して感じていた不安や無常観が反映された終わり方とも解釈されています。

2. 音楽的特徴

  • 無調的な響き:第4番は従来の調性感が希薄で、半音階的な不協和音が多用されています。これによって、安定しない音楽の流れが生まれ、不安や緊張が強調されています。
  • オーケストレーション:シベリウスはこの交響曲で、少ない音や静けさを活かし、非常に抑制されたオーケストレーションを用いています。シンプルな構成ながらも深い響きを追求し、音の余韻や間が独特の効果を生み出しています。

3. 病気と内省

この交響曲が書かれた頃、シベリウスは自分の喉に腫瘍が見つかり、健康に対して大きな不安を抱えていました。彼は手術を受けたものの、人生に対する恐怖感や死の影が付きまとい、内向的で深い思索にふけるようになったとされています。この第4番は、そのような内面的な苦悩が音楽に色濃く反映され、シベリウスの最も個人的な交響曲の一つとされています。

4. 聴衆の反応とその後の評価

初演当時、この交響曲第4番は当時の聴衆にとって難解すぎると感じられ、あまり受け入れられませんでした。前作の交響曲第2番や第3番の明るさや力強さに比べ、第4番は暗く重い響きが中心であったため、マーケティング的にも難しい作品でした。しかし、時間が経つにつれて、第4番はシベリウスの革新性や深い洞察力が反映された傑作として再評価され、現代の聴衆にはシベリウスの孤独な美学を感じさせる作品として受け入れられています。

5. まとめ

シベリウスの交響曲第4番は、彼の内面的な葛藤や人生の不安が強く表れた作品であり、暗く神秘的な響きが特徴です。不安定で重厚な音楽が続くため、聴く者にとってもどこか心が揺さぶられるような体験をもたらします。シベリウスの他の交響曲に見られるような劇的な盛り上がりや明るさはありませんが、その分、孤独や無常観といった深いテーマがじっくりと表現されています。

4o

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第4番名盤試聴記

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団

ベルグルンド★★★★★
一楽章、冒頭から重苦しい低弦。音量を落として、内に秘めたような表現のチェロの主題。色彩のコントラストがとても鮮明です。粘りがあって自然の厳しさも伝わってきます。
二楽章、伸びやかで美しい演奏です。大きな表現ではありませんが、生命観のある生き生きとした音楽です。
三楽章、暗闇に浮かび上がるようなフルート。寂しさを強く感じさせる美しい金管。繊細さと深みのある演奏でとても美しいです。
四楽章、生き生きと動き回る弦。強いグロッケンシュピール。強弱の振幅がとても大きくダイナミックですが陰影もあります。かなり激しい金管。後のヨーロッパ室内oとの演奏よりも金管は強烈です。

ヨーロッパ室内oとの録音に比べるとかなりダイナミックで積極的な表現でした。オケもとても美しく伸びやかで魅力的な演奏でした。
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コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、遠くから響いてきて、暗闇にどんどん沈んで行くような第一主題。何かを暗示するかのような金管の第二主題。羽毛のような心地良い肌触りの弦。密度が濃く、しかし消え入るような弱音。暗く重い雲に覆われているような雰囲気です。ホルンが一筋の光明を見出すような感じです。
二楽章、一楽章の暗さから僅かに雲が薄くなったような雰囲気ですが、不穏な空気はそのままです。曇天の中でもしっかりとした色彩を放つ木管。
三楽章、近代の作品であることを象徴するような断片的で浮遊感のある音楽。暗闇の中で色とりどりの明かりが交錯するような雰囲気です。一つ一つの音に力があって、しっかりと立っています。暗闇の中に僅かな明かりが差し込むような表現もあります。充実した響きのトロンボーン。
四楽章、グロッケンシュピールとチューブラベルを使い分けています。このあたりの使い分けはとても効果的な使い方でした。精緻でしかも濃厚な色彩。真摯に作品と向き合って、作品の姿を描き出す姿勢には心が動かされました。

暗闇の中で不穏な空気や色とりどりの光の交錯など、作品の持っているものを純粋な姿勢で描き出した演奏でした。

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、深く厚みのある冒頭。しっかり地に足のついた第一主題も深みがあって奥行き感があります。金管も柔らかく美しいバランスです。不安感も良く表現しています。
二楽章、表現の幅が広いオーボエの主題。決して突出するようなバランスにはなりませんが、とても良く表現しています。室内オケとは思えない厚みのある響き。
三楽章、暗闇の中で不安なフルート。静寂の中に響く楽器の数々。よく歌い切々と訴えて来ます。作品への深い共感があるのだ思います。そうでなければこれだけ有機的に結びついた演奏は出来ないでしょう。
四楽章、表情豊かで滑らかに動く木管。チューブラベルは重ねずグロッケンシュピールのみです。室内オケとは思えないような凄いパワー感。無表情に演奏することが無いと言えるほど、細部まで表現しています。

作品への深い共感から生み出される細部にわたる表現。室内オケとは思えない深みと厚みとエネルギー。すばらしい演奏でした。

コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、焦点が定まらず浮遊感がありうつろなチェロの第一主題。ザワザワとした不安感が覆い尽くすとても不安定な状態をとても良く表現しています。
二楽章、自然体で美しい演奏で特に何かを強調することはありません。
三楽章、ゆったりとしたテンポで、神秘的なクラリネット。混沌とした中に断片的に浮かぶ旋律。大きな抑揚のあるチェロの主題。静寂感の中に次々と浮かぶ木管が美しい。濃厚な色彩ではありませんが、確かな色を発するオケ。重厚なトゥッティ。
四楽章、グロッケンシュピールとチューブラベルを併用しています。複雑に動き不安感は表現していますが、演奏自体はとても安定していて落ち着いた演奏です。

落ち着いた安定した演奏で、不安感を良く表現しました。少しくすんだ響きも作品にピッタリでした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

カラヤン/フィルハーモニア★★★★★
一楽章、表面が滑らかで、寒い空気感のある演奏です。カラヤンらしくキチッと整理されてとても聞きやすい演奏になっています。凝縮された密度の高さも感じます。
二楽章、モノラルですが、スタジオ録音なので、音質はそんなに悪くはありません。
三楽章、フルートのソロはベルリンpoとの65年の録音のように前へ出てきてピーンと張り詰めたような響きでは無く、少し奥まっています。全体がブレンドされた自然さはこちらの方があります。切々と訴えてくる弦もなかなかです。
四楽章、後のベルリンpoとの録音よりも響きが薄いので、シベリウスにはこちらの方が合っているような気がします。金管とグロッケンが強調されていますが、演奏全体の凄みはかなりのものです。

少し寒い空気感や少し薄い響きなど、シベリウスには合っていました。四楽章の凄みのある演奏もとても良かったと思います。
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オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団

ヴァンスカ★★★★★
一楽章、ゴロゴロと岩が地底から湧き上るような冒頭。柔らかく暗闇で瞑想するようなチェロの主題。とても静かです。突出しては来ない第二主題。展開部に入っても素晴らしい静寂感です。金管は軽く美しく演奏しています。
二楽章、奥ゆかしく柔らかいオーボエの主題。中間部の弦も静寂感があります。
三楽章、弱音の集中力の高い美しさは素晴らしいです。主題も緻密なアンサンブルで美しく神秘的です。雑みが無く純粋で、無駄なものを削ぎ落としたような演奏です。金管は控えめで決して突き抜けて来ません。
四楽章、大きな表現では無く奥ゆかしい第一主題。グロッケンシュピールを使っています。温度感は冷たくも暑くもない常温です。ここでは初めてトランペットが突き抜けて来ました。トランペットが突き抜けてもオケは完全にコントロールされていて整然としています。

弱音に重点を置いた静寂感のある美しい演奏でした。深い感情表現などはありませんでしたが、完全にコントロールされたオケの純粋な響きも魅力的でした。
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エサ=ペッカ・サロネン指揮 スウェーデン放送交響楽団

サロネン★★★★★
一楽章、ガリガリと硬質なコントラバス。ふくよかですが暗闇に響くようなチェロの主題。ダイナミックで激しい金管の第二主題。しっかりと地に足の着いた濃厚な演奏です。ティンパニも強烈です。
二楽章、舞うように歌うオーボエの主題。終結部に現れる主題はどれも生き生きとしています。強弱の変化が明快でタイナミックです。力感に溢れる演奏です。
三楽章、暗闇に浮かぶようなフルートとクラリネット。大きく歌うホルン。ずっと暗闇をさまようような演奏でした。
四楽章、速めのテンポで活発に動く第一主題。グロッケンシュピールを使っています。シャキッとしたアンサンブルの弦。明快で生き生きと動くオケ。強弱の振幅はかなり大きいです。

暗い部分と生き生きとした表現とのコントラストや強弱の大きな振幅など、表現の幅の大きな演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シベリウス:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

シベリウス 交響曲第4番2

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第4番名盤試聴記

レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、かなり思い切りの良い音量で始まって次第に収束して行きます。暖かみのある響きでうつろな主題。陰鬱な雰囲気がもたれかかって来ます。くすんだ淡い色彩で響く金管の第二主題。静寂感のある展開部。
二楽章、活発な動きのある主題。表現が柔らかくふくよかで、暖かみがあります。
三楽章、地に足の付いた序奏。作品をそのままさらけ出さずにかなりこなれている感じで、マイルドで聴きやすい音楽になっています。ここは作曲者と同じフィンランド人による演奏のおかげか。共感に満ちて一体感のある演奏です。緻密に組み合わされた音楽がこんこんと湧き出るように流れて行きます。
四楽章、色彩感は渋くくすんでいます。金管も絶叫することは無く、コントラストも強くはありません。

渋くくすんだ響きで暗く沈んだ音楽を演奏しました。セーゲルスタムがかなりこの作品を聴きやすくしてくれているようでした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1965)

カラヤン(1965)★★★★☆
一楽章、静寂の中に響く沈鬱なチェロの主題。第二主題はこの頃のベルリンpoらしくゴージャスな響きですが、76年の録音のような暖かさは無く、シベリウスらしい寒さは感じます。
二楽章、分厚い響きで、反応の良いオケ。静寂感はとても良いです。
三楽章、伸びやかで澄んだフルートのソロなどはさすがです。ただ、ピーンと張り詰めたような緊張感は無く、響きの厚さの分僅かに緩い感じがあります。
四楽章、グロッケンシュピールが使われています。動きの激しさなども上手く表現されています。

76年の録音のような暖かい響きでは無く、寒さを感じさせる演奏でした。静寂感と激しさもとても良く表現されていましたが、僅かに緩い感じがあって、ピーンと張った緊張感はありませんでした。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 モスクワ放送交響楽団

icon★★★★
一楽章、録音レベルが高いのか、冒頭から全開のような演奏です。チェロの主題が前面に出てきます。混沌としたうつろな雰囲気は無く、むしろ有機的です。とても活発で温度が高い熱気をはらんだ演奏です。
二楽章、強い音で歌うオーボエの主題。続く弦も強いです。不安感よりも力強さを感じる演奏で、作品の本来持っている性格とはかなり違う面を聞かせているようです。
三楽章、暗闇の中で響くような音楽。そして粘るように濃厚な演奏です。よく歌う弦。非常に熱い演奏で、シベリウスの冷たい空気感とはかなり違う演奏です。
四楽章、華やかな主題。チューブラベルを併用せずにグロッケンシュピールのみで演奏しています。金管はやはり強奏します。

この温度感はロジェストヴェンスキーが持っているものではないかと思います。濃厚で熱い演奏で、シベリウスの違う面を聞かせてくれたとも言えるとは思いますが・・・・・

サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★★
一楽章、重苦しい冒頭。うつろなチェロの主題。シベリウスらしく内側に凝縮して行くような音楽。強烈なティンパニの一撃。暗闇の中を探りながら歩くような不安げなコーダでした。
二楽章、豊かに歌うオーボエの主題。凝縮された純音楽といった雰囲気があります。
三楽章、浮遊感のあるフルート。ピーンと張り詰めた寒さを感じさせます。オケは超一流の演奏とまでは行きませんが、献身的な演奏をしていると思います。
四楽章、グロッケン・シュピールが使われています。思い切りの良いホルン。クロッケンはかなり強調されています。咆哮する金管。強弱の振幅はかなり大きいです。

オケの密度はあまり高くは無く、超一流のオケとは言えない演奏でしたが、ピーンと張り詰めた寒さや思い切りの良い咆哮など、聞かせどころはありました。
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クルト・ザンデルリング指揮 ベルリン交響楽団

ザンデルリング★★★
一楽章、物々しい冒頭の低弦。視点が定まらないようなうつろなチェロの主題。録音にもよるのか、普段のザンデルリングのイメージとは違いかなり前のめりで積極的な演奏に聞えます。緊張感のある純度の高い演奏ですが、激しさもあるので、シベリウス独特の冷たい空気感はありません。
二楽章、ここでも積極的で生き生きとした表現です。情熱的で激しく熱気を感じる演奏になっています。
三楽章、太く暖かいフルート。クラリネットも大きい音像です。明快で混沌とするような感じは全くありません。
四楽章、この楽章も激しく積極的に動くオケ。かなり現実的で自然を連想させることもありません。

ザンデルリングにしては珍しく積極的で激しい演奏でしたが、その分シベリウスらしい冷たさや自然を感じさせることはありませんでした。
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ウラディーミル・アシュケナージ指揮フィルハーモニア管弦楽団

アシュケナージ★★★
一楽章、少し軽いですが、暗い冒頭。暖かいチェロの主題。あまりピーンと張ったような寒さのような緊張感はありません。第二主題も暖かいです。展開部は暗いですが、やはり暖かいです。純音楽的な削ぎ落とされたような無駄の無さはあまり感じられません。かなりふくよかで情報が多い感じに聞こえます。
二楽章、少し楽しげなオーボエの主題。中間部は不穏な空気になります。
三楽章、暗闇に浮かび上がるような木管ですが、やはり暖かいです。柔らかく美しい金管。主題は少し温度が低いですが、木管が入るとまた、暖かくなります。
四楽章、楽しげな第一主題。グロッケンシュピールが使われています。金管はかなり豪快に演奏されていますが、大きな強弱の変化には感じません。

決して悪い演奏ではありませんが、終始暖かい響きで、シベリウスらしさは感じられませんでした。
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ロリン・マゼール指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

マゼール★★
一楽章、松脂が飛び散るような激しいコントラバス。独特な胴の鳴りのチェロの主題。凄く情報量が多い演奏です。第二主題も激しい表現です。積極的に訴えかけて来ます。
二楽章、濃厚に歌うオーボエの主題。凄く弾む中間部の弦。シベリウスらしい冷たさは全く感じられません。
三楽章、冒頭のフルートやクラリネットも暗闇に浮かぶような暗い雰囲気はありません。明快で混沌とした複雑な雰囲気もありません。
四楽章、この楽章も明快な表現です。グロッケンシュピールを使っています。竹を割ったような明快さで、激しく咆哮する金管。

とても力強く明快な表現の演奏で、シベリウスの複雑な音楽をとても簡潔にしてしまった感じで、味わいの無い演奏だったように感じます。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン
一楽章、物々しい冒頭。非常に陰鬱な第一主題。次第に澄んだ空気に変わって行きます。第二主題はこのコンビらしい厚みのある響きです。展開部でも分厚いコントラバス。強烈なティンパニ。温度感は高く、北欧の冷たい空気はほとんど感じません。
二楽章、オーボエは僅かな表現だけでしたが、続く弦はとても大きく豊かに歌いました。音が肥大化していて、シベリウスの清貧のような引き締まった雰囲気がありません。この演奏はシベリウスの音楽では無く、カラヤンの音楽になっているように感じます。
三楽章、美しいフルートなのですが、ピーンと張りつめたような緊張感がありません。浮遊感があって、瞑想するような雰囲気は良く表現されています。
四楽章、暖かく豪華に鳴り響く音楽がどうしてもシベリウスの音楽とは違う感じがします。

分厚い響きで暖かく豪華な演奏はシベリウスとは程遠い感じで、あまり納得できませんでした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シベリウス:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー