カテゴリー: 交響曲

チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」3

たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」名盤試聴記

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団


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★★★☆
一楽章、テンポは速めですが、情感たっぷりの演奏です。録音年代の関係もあって、ダイナミックレンジかなり狭いです。
音楽がストレートにぶつかってきます。それはそれで魅力的なのですが、カラヤンの語り口の上手さの方が、「悲愴」の演奏には合っているような気がします。

二楽章、緩急の差を大きくとった演奏で豊かな表現の演奏です。特にテンポを遅くした部分は惹きつけられます。

三楽章、四番の録音には、もう少し奥行き感があったのですが、この録音は平面的な感じで、音楽も浅く感じてしまいます。
思いっきり鳴るシンバルが気持ちいい。でもこのシンバルも安物だろうなあという音がしています。
ソ連指導部は、「安い楽器でも良い音を出せ!」と言って、予算をつけなかったのでしょう。

四楽章、悲しみの淵へ落ちて行く表現は作為的なところがなく、ストレートに伝わってきます。

朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、N響のサンティの録音に比べるとオケは遠いです。サンティの録音はかなり近い位置に音場が展開しましたのでこの録音が適度な距離感かもしれません。
一連のベートーヴェンの録音同様、テンポはかなり遅いですが、さすがにベートーヴェンと違って、テンポが動いてロマンティックな演奏です。
繊細な弦楽器が美しいです。木管の表現も豊かで、朝比奈も積極的な表現をしています。
力みのない、伸びやかなトランペットの音色が気持ちいい。テンポが遅い分、感情のうねりのような表現はすばらしいです。
テンポの揺れに合わせて音楽に身をゆだねるのも良いものです。

二楽章、中庸です。

三楽章、ゆっくりです。柔らかい演奏ですが、金管の伸ばす音を押すのはいただけません。ティンパニのロールに強烈なアクセントには驚きました。

四楽章、朝比奈の姿勢は基本的に自然体なので、チャイコフスキーのような情感たっぷりな作品の場合は、過剰な演出などはまず無いので、語り口勝負のような器用な演奏にはなりえません。

この、ほとんど直球勝負のような演奏にも魅力は感じますが、やはり朝比奈はブルックナーやベートーヴェンで本領発揮のような気がします。

上岡 敏之/ヴッパタール交響楽団

icon★★★☆
一楽章、とてもゆっくりとした出だし。とても長い間。独特の表情付け。何か起こりそうな予感を感じさせる冒頭でした。強弱の変化に富んだ第一主題以降。あまり奥行き感の無い金管。第二主題に入る前でかなりテンポを落としました。テンポがよく動きます。展開部の前のバスクラのメロディでもかなりテンポを落としたようです。オケの響きに分厚さはありません。トロンボーンの嘆きもテヌートで控え目でした。ロシアの濃厚で強烈な音楽ではなく、歌や間を伴った独特の音楽を作ろうとしているようです。

二楽章、速目のテンポでスタートしました。上岡は独特の間を持った指揮者のようです。

三楽章、柔らかい音が心地よい始動です。かなり抑制の効いた演奏で、導入部分は爆発しません。極めてソフトな演奏です。金管が突き抜けて来ることもなく、穏やかな音楽になっています。微妙な強弱の変化が独特で、印象的な表現です。大太鼓のトレモロにトロンボーンの旋律が乗る部分でも大太鼓が勝っているような感じで、管は控え目です。ただ、とても表現が豊かで、一つのメロディーの中にも強弱の変化があってとても面白く聴かせてくれました。

四楽章、アタッカで入りました。ファゴットが陰鬱に下降していった最後も独特の歌いまわしがありました。金管が入る部分では、少し弱めに入って山を作るような感じの演奏です。クライマックスでも決して咆哮などはしません。とても抑制の効いた演奏です。

とても念入りなリハーサルを繰り返して表現を徹底した演奏だったと思います。現在の指揮者の中ではとても個性的な部類だと思います。今後の活躍に期待したい指揮者の一人です。

ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

ハイティンク★★★
一楽章、陰鬱な旋律を演奏するファゴット、続く木管や弦も誇張した表現はなく、淡々としています。
テンポも劇的に動かすこともありません。作品そのものに語らせるような演奏です。余裕たっぷりの金管の響きがコンセルトヘボウに響くのが心地良いです。
ハイティンクの音楽は力まず、伸びやかでしなやかな音楽が魅力です。
過不足無く、余裕を残して演奏する金管セクションも非常に美しいです。
テンポが動かないので、劇的な演出にも乏しい部分はあります。このへんは好き嫌いの分かれるところかもしれませんが、純音楽としての完成度は高いのではないかと思います。
また、このような演奏スタイルだから、どんな作品を演奏しても一定レベルを保つことができるのも、ハイティンクのプロとしての良さですね。また、逆にファースト・チョイスにもなりにくいというところはハイティンクの弱みでもあるかと思います。

二楽章、とてもチャーミングな木管です。コンセルトヘボウはホールと一体になった音色の魅力は他のオーケストラにはないものがあります。
クソ真面目とも言えるほどのハイティンクの指揮が音楽の揺れをまり生み出さないので、少し音楽が硬いように感じます。
5拍子の曖昧な揺れをもっと表現して欲しいと感じます。

三楽章、堂々としたテンポでブラスセクションの鳴りも抜群で、気持ちいい。

四楽章、小技が利かないハイティンクが切々と音楽を語りかけてくるようなこの楽章。大げさな表現がないところにかえって好感が持てる演奏です。

ジェームズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団

icon★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで深く歌うファゴット。一転して速いテンポの第一主題。金管は豪快に入ります。甘美な第二主題。シルキーな弦。滑らかな木管ともに美しいです。展開部でも見事に鳴り響く金管、咆哮と言っても良いような鳴り方です。トロンボーンの嘆きはあまり壮絶さはありませんでした。

二楽章、優雅に歌います。中間部はさほど暗い雰囲気は無く、表題を強く意識した演奏では無いようです。ティンパニは速いリズムを正確に刻んで行きます。

三楽章、ゆっくりとしたテンポで始まりました。次第にテンポを速めて行きます。奥まったところから輝かしいトランペットが響きます。気持よく鳴り響く金管。オケの上手さは存分に発揮されます。堂々とした行進曲です。

四楽章、悲しみを強く意識した演奏には感じません。どこか暖かい感じがします。

聞き終えても深い悲しみが残るような演奏ではありませんでした。レヴァインらしあっけらかんとした演奏でした。ただ、オケの上手さは特筆ものです。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★
一楽章、冒頭から深く歌う序奏。弱々しく繊細な第一主題。鋭く轟くトランペットですが、美しいです。とても感情のこもった第二主題第一句。滑らかですが、寂しさを感じさせる第二句。展開部は意外と薄っぺらい響きです。トロンボーンの嘆きも泣き叫ぶような大きな表現では無く、比較的落ち着いた表現でした。

二楽章、この楽章もシンプルで薄い響きですが、歌はとても豊かです。中間部も切々と歌います。主部が戻るとまた伸びやかな歌です。ウィーンpoらしい濃密な色彩感がとても良いです。

三楽章、速いテンポでねっとりと艶やかなヴァイオリン。強弱の振幅はあまり大きくありません。大太鼓の入る部分でも金管は全開にはならず、速めのテンポであっさりとした演奏でした。最後は雪崩れ込むように終わりました。

四楽章、流れるように進んで行きます。あまり悲しみに打ちひしがれるような感じはありません。

豊かな表現で良く歌う演奏でしたが、トゥッティの響きが薄く、強弱の振幅もあまり大きくありませんでした。また、四楽章が悲しみに沈んでゆくような感じがあまり無かったのが少し残念でした。
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クラウディオ・アバド/シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ

アバド★★★
一楽章、波が押し寄せるように押したり引いたりする序奏。優しく流れの良い第一主題。生き生きとしたエネルギーを発散する若いオケ。第二主題の第一区も柔らかく優しい演奏です。展開部はあまり厚みの無い弦と強い金管で、金管が登場すると全体を支配してしまいます。アバドの演奏にしてはかなり金管が激しく吠えています。トロンボーンの嘆きもそれまでの勢いそのままに激しいです。元気に歌うコーダのトランペット。

二楽章、伸びやかで豊かな歌の主要主題。あまり暗く沈まない中間部。中間部ではメロディーが繰り返される二回目の音量を落として演奏しました。

三楽章、自然体で流れの良い演奏ですが、その分アクセントなどのアーティキュレーションに対する反応が弱いので、キュッと締まった感じはありません。金管はここでも気持ちよく鳴り響きます。

四楽章、
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ミハイル・プレトニョフ/ロシア・ナショナル管弦楽団

プレトニョフ★★★
一楽章、太く柔らかいファゴットによる息の長い序奏。速く動きのある第二主題第一句。鋭いトランペット。速いテンポで激しい展開部。トランペットが咆哮します。トロンボーンの嘆きもかなり強烈です。詰まった感じのコーダのトランペット。速めのテンポでさっさと進みます。

二楽章、速めのテンポでサラッと演奏される主要主題。細身ですが、整ったアンサンブルです。中間部も速めのテンポであっさりと進みます。

三楽章、金管も軽く、あまり強弱の振幅が大きい演奏ではありません。

四楽章、最初の音にタメがある第一主題。第二主題は息の長い演奏でした。テンポが大きく動くことは無く、どっしりとしています。お寺の鐘のようなドラ。

特徴のある表現も一部にはありましたが、総じて標準的な演奏と言う感じでした。
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ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス/RAI国立交響楽団 2003年トリノライヴ

ブルゴス★★☆
一楽章、感情の込められた序奏。速いテンポの第一主題。鋭いトランペット。味気なくさっぱりと演奏される第二主題第一句。テンポは速く進んで行きますが、表面はデコデコしていて滑らかではありません。展開部でも鋭く突き刺さるようなトランペット。トロンボーンの嘆きはとてもあっさりとした表現で長い音も短めに演奏しました。第二主題第一句の再現も速くあっさりとしています。コーダのトランペットや木管は美しく歌います。

二楽章、細身でサラッとした肌触りで美しく主要主題。中間部は速めのテンポで淡々とした演奏であまり沈んだ感じはありません。

三楽章、弦のアンサンブルや木管の旋律の受け渡しなどがあまり丁寧では無い感じで、少し乱れます。金管は濃厚な色彩です。大太鼓のロールがある部分の最後で大きくテンポを落としました。最後はアッチェレランドして終わりました。

四楽章、あっさりと淡白な演奏です。あまり表題を意識せずに楽譜に忠実な演奏をしているようです。コーダの前の強奏部分も粘った表現は無くとてもあっさりとしています。コーダもサラッと終わりました。

三楽章ではテンポの動きもありましたが、全体としてはとてもあっさりと淡白な演奏で、感情を吐露するような表現はありませんでした。あまりにも淡白で表題とはかけ離れた演奏のように感じました。
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レオポルド・ストコフスキー/ロンドン交響楽団

icon★★
一楽章、うねるような序奏。柔らかい第一主題。木管もくっきりとしています。非常に感情の込められた第二主題。展開部は強烈な一撃ではなく、なだらかに盛り上がったような感じでした。そしてしばらくすると大きなテンポの動きがありました。ストコフスキーらしい大きなテンポの動きが何度か表れます。トロンボーンの嘆きは絶叫するようなものではなく、かなり抑えられたものでした。コーダのトランペットはかなり大きく音量を変化させた演奏でした。

二楽章、歌があり豊かな音楽ですが、この楽章でも極端なテンポの動きがあります。それぞれの楽器が主張し強弱の変化も大きくてとても生き生きとした生命感に溢れる音楽です。ただ、この大きなテンポの動きにあざとさも感じます。ストコフスキーの内面から自然に出たものではなく、意図的に仕掛けたもののように感じます。

三楽章、色彩感が鮮明です。独特のスラーがあったり普通の演奏とは違います。テンポも途中で遅くなり盛り上がりへ向けてアッチェレランドしました。

四楽章、速めのテンポで突入しました。この楽章はテンポの動きもなく、純粋な音楽です。かなり大きめの音で軽いドラの響き。淡々とした演奏で、悲しみの淵へ落ちていく様な演奏ではありませんでした。

かなり作為的なテンポの動きなど、ストコ節全開の演奏でした。私にはこの作為的な演奏には共感できませんでした。

カルロ・マリア・ジュリーニ/ロサンゼルスフィルハーモニー管弦楽団 大阪ライヴ

ジュリーニ★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで感情を抑えたような序奏。会場がデッドなのが分かる第一主題。遠い金管。ひっかかるところが無く滑らかに流れて行きます。展開部も荒れ狂うような表現では無く、それまでの流れを維持したものです。トロンボーンの嘆きはゆっくりと明るい響きです。その後の第二主題第一句の再現は速めのテンポであっさりと演奏されます。コーダのトランペットは霞の中から聞こえてくるようなくすんだ響きでした。

二楽章、滑らかな中に自然な歌がある主要主題。録音が飛び飛びになります。かなりナローレンジで解像度も低いです。

三楽章、録音のせいか、静かに始まる弦に比べると飛び出す木管。金管が入っても大騒ぎすることは無く、落ち着いた演奏です。

四楽章、

録音が悪くしかも音や画像が飛んだりして安定した再生が出来ませんでした。演奏の細部もあまり分からず良かったのかどうかも分かりません。
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ネーメ・ヤルヴィ/イェーテボリ交響楽団

ヤルヴィ★☆
一楽章、あっさりとサラッとした序奏。繊細でリズミックな第一主題。第二主題第一句もあっさりとしています。第二句も速いテンポで粘りは全くありません。音が整理されていて、余分な響きが無くちょっと寂しい展開部。金管はかなり強く咆哮します。テンポは劇的に動いて激しい表現になって行きます。コーダはまた速いテンポになりとてもあっさりとした表現です。

二楽章、この楽章もあっさりとした表現で淡々と進んで行きます。中間部も大きく歌うことは無く速いテンポで進みます。

三楽章、アクセントがあまり強く無く、音楽がなだらかに流れて行きます。やはり音が整理されている感じでとてもスッキリとスリムな演奏です。大太鼓のロールが入る部分もとてもスッキリと軽い感じでした。テンポもとても落ち着いています。

四楽章、深く感情を込めるような表現は無く、とてもサッパリとしています。コーダも沈んでいくような表現は無くとてもあっさりとしています。

感情を込めることは無く、とてもあっさりとした表現の演奏でした。音も整理されていて、スッキリとした響きでしたが、その分寂しく厚みの無い響きになりました。
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クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団

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一楽章、比較的速いテンポの音楽の運びで、陰鬱な表情はあまりありません。
録音もデッドで、味わいがあまりありません。オケの響きも軽くて、作品の持っている重いものを表現していないように感じます。音楽が淡々と流れて行くだけです。

二楽章、上滑りしているような感じがして、何も伝わってきません。5拍子の揺れも感じられない。
こんなせっかちな音楽のどこに魅力を見出せば良いのでしょうか。私には、この演奏の良さが理解できない。

三楽章、音楽が前のめりにならない。前進しようとする生命感のようなものも感じられない。
アバドは、このスーパーオケを使って何をしたかったのだろう。
シカゴsoを鳴らし切るような豪快な演奏をするわけでもなく・・・・・・・・。

四楽章、三楽章と対比して、ぐっと重く沈みこむような音楽が聴きたいところなのですが、アバドの指揮では、ムリな要求のようです。

作品に没入したいと思う心を、アバドが邪魔をしているような感じがして、何とも・・・・・・・・。

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ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界から」

ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」は、彼がアメリカ滞在中に書き上げた作品で、チェコ出身の彼が「新しい世界」で感じた多様な感情が詰まった名曲です。アメリカの文化と故郷ボヘミアへの郷愁が織り交ぜられ、民族音楽的な要素と心に響くメロディが特徴です。以下、各楽章について解説します。

1. 第1楽章:Adagio – Allegro molto

緩やかで神秘的な序奏から始まり、その後、主部に移って力強く勇壮なテーマが現れます。アメリカへの新しい旅立ちや未知の冒険を象徴するようなエネルギッシュな展開が特徴で、冒険心と希望が感じられます。また、ネイティブ・アメリカンの音楽やアメリカ民謡から着想を得たとされるメロディが組み込まれ、異国情緒が漂います。

2. 第2楽章:Largo

この楽章は、交響曲全体の中でも特に有名で、美しいイングリッシュホルンのソロによる「遠き山に日は落ちて」に似た旋律が流れます。この旋律は、広大な大地や夕暮れ時の静けさを連想させ、ドヴォルザークの故郷への郷愁が滲み出ているようです。非常に静かで平和な雰囲気を醸し出しながら、同時に深い哀愁も感じられる楽章です。

3. 第3楽章:Scherzo. Molto vivace

活気に満ちたリズムが特徴的なこのスケルツォ楽章は、アメリカで見たダンスや民族音楽の要素が反映されていると言われています。速いテンポで軽快に進む中で、故郷ボヘミアの踊りを思わせるリズムも感じられます。異国情緒と懐かしさが交錯する、躍動感あふれる楽章です。

4. 第4楽章:Allegro con fuoco

フィナーレはまさに圧巻のクライマックスです。力強いメロディが堂々と響き渡り、交響曲全体を締めくくる情熱的な楽章です。第1楽章からのテーマが再び登場し、物語の結末を示すような統一感が感じられます。この楽章ではドヴォルザークがアメリカで得た体験や印象が集約され、最後は壮大な音楽の渦となって終わります。

全体の印象

交響曲第9番「新世界より」は、異国への冒険と故郷への郷愁が交錯する作品であり、アメリカとヨーロッパ双方の影響が見事に融合しています。美しくも力強いメロディの数々は聴き手の心を捉え、また、彼の故郷ボヘミアへの愛情や新天地への好奇心が、音楽全体に豊かに表れています。

4o

たいこ叩きのドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界から」名盤試聴記

ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、70年代のチェコpoは金管楽器のレベルがかなり落ちた時期がありましたが、この演奏では音離れの良い音がしています。
ノイマン/チェコpoにしてみれば手馴れたお国ものと言うことになるのですが、お国ものが必ずしも良いとは限らない場合もあります。
この演奏はどうでしょうか。
ドヴォルザークがアメリカから故郷を思って書いた作品に込められた、郷愁が自然と表現されていてボヘミアの香りを十分感じさせてくれます。
ノイマンの指揮もオーソドックスと言うか、楽譜の指定に忠実に演奏しているようです。

二楽章、木管や弦楽器は美しい音色です。特に弦の柔らかい響きは良いです。
旋律に大きく表情を付けることはしていませんが、郷愁漂う雰囲気はすばらしいです。

三楽章、素材になっている民謡の節回しなどが自然に音楽となるので、違和感なく聴けるのが良いです。

四楽章、この曲唯一のシンバルはサスペンドシンバルでした。田舎くさい音色のオーケストラで、洗練されているとはいえないのですが、「新世界から」には、このような田舎くさい響きが最適なのかもしれません。
この曲のスタンダードとして聴くにはとても良い演奏だと思います。

ノイマンが強烈な主張をしているわけではないので、いろんな演奏を聴いている人には不満があるかも知れませんが、外れには成り得ない演奏であるのは間違いないと思います。

小沢征爾/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、音が集まってくる演奏で、オケの集中力の高さを感じます。テンポの動きも自然でなかなかの好演です。
表情も穏やかで、ウィーンpoのまろやかな響きと相まって効果的な演奏です。

二楽章、イングリッシュホルンのソロも抑揚があって美しい演奏でした。まろやかな響きでアンサンブルもすごく良い!
朗々と歌うフレーズの長い歌もすばらしい。

三楽章、ティパニの強打も気持ち良い。ウィンナホルンのビービー言う音もとても合っています。
音の角が立ったこないので、とてもマイルドな「新世界」です。

四楽章、どのパートにも歌があって積極的な表現です。

これだけマイルドでしなやかな演奏ははじめて聴きました。小沢のCDはなかなか良い演奏に巡り合うことが無かったのですが、この演奏はすばらしい。

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、非常に哀愁に満ちた響きで開始しました。音楽の振幅も大きくスケールの大きな音楽です。
表現も積極的で、マタチッチの指揮にオケが共感しているのが伺われます。

二楽章、細部まで行き届いた演奏です。オケの集中力も高いです。この時代のN響とすれば出色の演奏だと思います。
ドヴォルザークがアメリカから故郷へ思いをはせた哀愁をいっぱいにたたえたすばらしい雰囲気を持っています。

三楽章、

四楽章、テンポが激しく動きます。起伏も激しく劇的な演奏です。これだけの演奏を統率しきったマタチッチの指揮にも感服しました。すばらしい!

クラウス・テンシュテット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、とても弱く、そっと演奏される序奏。ホルンの動機は大きく入りました。激しく歌う第一主題。激しく感情の表出が凄いです。第二主題も良く歌い起伏に富んでいます。繰り返しは無しです。強奏へ向けてテンポを煽るように駆り立てます。息つく暇も与えないようにどんどん音楽が押し寄せてきます。これまで、この曲のイメージとして持っていたアメリカから故郷のボヘミアを思う郷愁に満ちた音楽のイメージとは違う面を聴かせてくれました。

二楽章、冒頭もかなり大きくダイナミックの変化がありました。イングリッシュホルンのソロも歌います。主題が弦に引き継がれる前のトランペットも強烈でした。テンポも大きく動きます。中間部もよく歌われます。テンシュテットの内面から湧き上がる音楽を包み隠すことなくストレートに表現しているようです。トゥッティでは思いっきり良くブラスセクションが吹き鳴らされます。

三楽章、ダイナミックで登場する楽器が一つ一つ浮き立っているようなコントラストの鮮明な演奏です。一音一音に魂が込められたような音に力が感じられます。一つ目のトリオの手前はテンポを大きく動かしてダイナミックの変化も大きく付けて積極的な表現です。

四楽章、凄く強いアタックで開始されました。そしてテンポを煽り第一主題の前にティンパニが大きくクレッシェンドします。トランペットがかなり強く演奏しています。凄く激しい演奏です。mfの指定があるシンバルはほとんど聞こえませんでした。少し穏やかになった第二主題もヴァイオリンが入るあたりからかなり動きのある演奏になります。展開部に入っても起伏の大きな演奏は続きます。第一主題の再現も激しい。第二主題の再現も始めのうちだけ穏やかですが、すぐに激しい表現になります。テンシュテットは何かにとり付かれたような、そんな感じさえもする異様な演奏です。最後の盛り上がりもトランペットが強烈に演奏します。

テンシュテットの感情が強烈に表出された、もの凄い演奏でした。この曲の王道を行く演奏ではないかも知れませんが、テンシュテットの気迫に圧倒される演奏でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★★★
一楽章、静かで柔らかくとても滑らかな序奏。とても雰囲気のある第一主題。第二主題もとても滑らかです。カラヤンについてよく言われる「表面を磨き上げた」と言う表現がぴったりな実に美しい演奏です。テンポの変化はありますが、大きく歌うことは無く、ディテールを崩すようなことはありません。

二楽章、速めのテンポで柔らかいイングリッシュホルン。弦の弱音はとても美しいです。中間部は作品の持っている寂しさをとても良く表現しています。クライマックスでは屈託無く鳴り響く伸びやかな金管が気持ち良いです。

三楽章、濃厚で密度の濃い色彩。刻み付けるようなザクザクとした演奏です。一回目のトリオは少しテンポを落とした伸びやかに歌います。二つ目のトリオもゆったりとして奥ゆかしい表現です。

四楽章、艶やかな第一主題。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。この部分は他のパートがpやppなのに対してシンバルだけがmfなので楽譜通りならばもっと強くても良いのではないかと思います。起伏の大きな表現です。金管はかなり明快に鳴ります。

濃厚な色彩と質感で滑らかで美しい演奏でした。かなり洗練されていて田舎っぽい哀愁はあまり感じさせませんが、非常になめらかで美しい演奏は抗し難い魅力がありました。
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リッカルド・シャイー/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

シャイー★★★★★
一楽章、とても哀愁を感じさせる序奏。ホルンはゆっくりと演奏しました。木管も静寂感があって美しいです。途中にアクセントがある独特の表現の第二主題。金管は激しく咆哮しますが、とてもスマートな演奏です。

二楽章、間接音を含んで柔らかいイングリッシュホルンの主題。寂しさが溢れる中間部。とても雰囲気のある演奏で、哀愁がにじみ出てきます。クライマックスは速いテンポになりましたが、溢れ出すような金管がとても豊かでした。そこからテンポを次第に落として主題につながる変化もとても良かったです。

三楽章、とてもリズム感が良く弾む主要主題。2つ目のトリオはとても楽しげです。

四楽章、かなり余裕のある第一主題。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。第二主題の後は生き生きとした表現です。フレーズの切れ目が無く、次から次から被さってくるように音楽がつながって行きます。ゆっくりと粘りのあるコーダ。

哀愁を感じさせる表現とフレーズが途切れない息の長い音楽。三楽章ではシャイーのリズム感の良さも感じさせました。なかなか良い演奏だったと思います。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 1991年ライヴ

チェリビダッケ★★★★★
一楽章、ゆっくり静かな序奏ですが、テンポはかなり動いています。とても冷静で清涼感のある涼しい演奏です。ゆっくりな分、緻密で見通せるような透明感の高い演奏です。

二楽章、大きく強弱を繰り返す序奏。主題もゆっくりとした演奏ですが、あまり哀愁を感じさせるような感情を込めた演奏ではありません。中間部はさらに遅くなり、表現も大きくなりますが、感情にまかせての表現では無く、計算し尽くされたような感じの演奏です。見事なバランスでとても充実した響きはとても魅力的です。

三楽章、とても正確にきっちりと刻まれる主要主題。強打されるティンパニ。一つ目のトリオも感情を込めるような表現では無くとても整った演奏です。二つ目のトリオはゆっくりと優雅に舞うように演奏します。チェリビダッケの演奏はいつもそうですが、響きの透明感が高いせいか、響きの厚みはあまり無くスッキリとした響きです。

四楽章、見事なバランスで響き渡る第一主題。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。mfの指定にしては弱いものです。ライヴでも混濁しない精緻で美しい響きは厳しいリハーサルを繰り返した成果でさすがです。二楽章の序奏が回想される部分では少しテンポを落として重い演奏です。コーダは一音一音が止まっているような演奏からトロンボーンがはいってから活発な動きになって感動的に終わりました。

ゆっくりとしたテンポで精緻で見事なバランスで、とても透明感の高い演奏でした。感情を込めた濃厚な表現はありませんが、計算し尽くされたカチッとはまる演奏はとても素晴らしいものでした。
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マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ヤンソンス★★★★★
一楽章、序奏から深く歌います。轟き渡るティンパニ。表現力豊かな弦。リズムの切れも良く、強弱の変化にもとても敏感に反応します。ここまでの演奏を聞くとヤンソンスが並みの指揮者ではないことが分かります。ボヘミアの田舎っぽい感じはあまり無く、洗練された演奏です。

二楽章、速めのテンポですが、とても豊かに感情のこもった歌の主題。中間部の始めで大きくテンポが動きました。その後はあまり暗転せずにくっきりとした息の長い演奏が続きます。金管は咆哮せず、とても穏やかです。

三楽章、速いテンポで慌ただしいですが、力のある主要主題。少しテンポを落として表現力豊かに歌う一つ目のトリオ。とても躍動感があって生き生きとした二つ目のトリオ。

四楽章、とても力強い序奏。あまり力みの無い第一主題ですが、一つ一つの音にはとても力があります。シンバルはサスペンド・シンバルでした。とても大胆に表現する第二主題のチェロ。

表現力豊かで積極的な表現の演奏でした。ボヘミアの田舎っぽさは無く、洗練された演奏でしたが、一つ一つの音に力のある演奏はなかなか良かったです。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ホーレンシュタイン★★★★★
一楽章、ゆっくりと哀愁がにじみ出るような序奏。物凄いエネルギーで押し寄せてくる低弦とティンパニ。金管も激しく入ってきます。表現も大きく積極的です。どっしりとした足取りでがっちりとした演奏です。

二楽章、自然な表現で旋律の美しさを出す主要主題。あまり暗転しない中間部。音の力がとても強いです。

三楽章、速いテンポで勢いのある主要主題。やはりとても力のある音です。躊躇無く強弱の変化を表現します。優雅に踊るような二つ目のトリオ。

四楽章、ゆったりとした序奏に続いて、かなり余裕を残した第一主題。シンバルはサスペンド・シンバルでした。くっきりと浮かび上がる第二主題。トゥッティの咆哮はかなり強烈で、弱音の濃厚な表現と合わせて演奏を強く印象付けます。

凄いエネルギーで押し寄せてくる強いトゥッティの咆哮と濃厚な表現。この演奏の力強さはとても説得力がありました。
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クリストフ・エッシェンバッハ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2008年ライヴ

エッシェンバッハ★★★★★
一楽章、ゆったりと丁寧な序奏ですが、あまり哀愁は感じられません。大きく歌う木管。唸りを上げる低弦とティンパニ。かなり起伏の激しい演奏です。第一主題の前にティンパニで大きくテンポを落としました。テンポは大きく動きます。提示部の反復がありました。動きがあって生き生きとした表現の演奏です。

二楽章、ここでも起伏の大きな序奏です。テンポも強弱も変化する主要主題。ゆったりとしたテンポで強弱の変化も駆使して表現する中間部。テンポの動きは自然で作為的では無く、音楽に浸ることができます。

三楽章、厚みがあって勢いもある主要主題。優雅な一つ目のトリオ。二つ目のトリオもゆったりと優雅です。

四楽章、かなり強めな第一主題。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。ウィーンpoらしい締まったクラリネットの陰影に満ちた弱音を駆使した第二主題。この楽章でもテンポの動きが何度もあります。

自然なテンポの動きと生き生きとした表現。哀愁はあまり感じませんでしたが、ウィーンpoの美しい響きの演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・トヴォルザーク:交響曲第9番「新世界から」の名盤を試聴したレビュー

ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界から」2

たいこ叩きのドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界から」名盤試聴記

ルドルフ・ケンペ/チユーリッヒ・トーンハレ管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、即興的なテンポの動きがあるようで、音楽的な演奏です。歌も心がこもったもので、聴きながら一緒に音楽ができるような良さを感じます。
金管が突出してこないので、とてもマイルドな響きで聴きやすい録音です。
ケンペとオケの一体感がすごく感じられる良い演奏です。

二楽章、暖かみのある音楽で、心が穏やかになります。強弱の変化や音楽の揺れに身を任せているのが心地よい演奏です。
決して攻撃的な部分がないので、どっぷりとケンペの音楽に浸っていられる安心感があります。

三楽章、録り方もあるのだと思いますが、厚い中低域の中に旋律がある感じがとても心地よい響きを作り出しています。ただ、ティンパニの音域ぐらいのところが膨らみすぎていて、かぶってくることがあるのが、唯一の難点です。

四楽章、金管の細かいパッセージが吹ききれていないところもあります。
この曲で一発だけのシンバルはクラッシュシンバルで演奏されました。この部分は楽譜にはシンバルとしか書いてなくて、クラッシュなのかサスペンドなのかは、指揮者や奏者の考えに頼ることになります。しかも強弱の指定がmfになっていて、周囲の雰囲気からするとmpの間違いじゃないのか?と思うぐらいのところです。
この演奏のシンバルは曲の雰囲気を壊さずに、しかも存在感もあるすばらしい一発でした。

私の尊敬する打楽器の先生も「あそこはクラッシュに決まっているでしょう!」と言っておられましたが、私はクラッシュで叩く勇気はありませんでした(^ ^;
終盤の畳み掛けるようなテンポもすばらしい。直後のクラリネットのソロはゆったりとして、そのあとも少しテンポが動いて、すごく音楽的で人間的な暖かみのある演奏でした。

ロリン・マゼール/ニューヨーク・フィルハーモニック

マゼール★★★★☆
一楽章、マイルドに溶け合った美しい序奏。音の最後をあまりしぼめずとても大きく恰幅の良い演奏です。テンポの動きもあり、ちょっと引っかかるような動きもありました。テンポを動かす表現は少し作為的な感じもあります。

二楽章、音を繋げた序奏。速めのテンポですが、たっぷりと歌う主題。中間部は息の長いクラリネット。弦も独特の表現です。かなりテンポを速めて個性的な表現です。それにしてもブレンドされた滑らかな響きの美しさ何とも言えないほどです。

三楽章、速めのテンポですが哀愁を感じさせる主要主題。ティンパニが深い響きでしかもバチンと決まります。一つ目のトリオを少し慌ただしい感じで落ち着きがありませんでした。二つ目のトリオはレガートで演奏されて滑らかな演奏です。

四楽章、アタッカで入り慌ただしい冒頭です。少し雑な感じがした第一主題。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。強いアタックはせず、レガートぎみの演奏で、カラヤンを髣髴とさせるような表現です。コーダでも大暴れすることは無く、充実したアンサンブルで終わりました。

ニューヨークpoと言うとギラギラとした原色の響きを連想しますが、とてもマイルドで充実した響きでした。マゼールの個性的な表現がちょっと作為的な感じもありましたが、良い演奏だったと思います。
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パーヴォ・ヤルヴィ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ヤルヴィ★★★★☆
一楽章、とてもゆっくりと感情を込めて演奏される序奏。強烈なティンパニ。明晰でとても力強い演奏です。提示部の反復がありました。明るい響きで田舎臭さや哀愁はあまり感じさせません。明るく伸び伸びと鳴り響くトゥッティ。

二楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポの序奏です。暖かく息の長い主要主題。とても安らかでこころが開放されるようです。清涼感のある響きですが、色彩感も豊かです。大きく暗転はしませんが、薄暗く少し温度が下がる中間部。オーボエが入る前にはテンポが止まりそうになりましたがクライマックスは一気に聞かせそして次第にテンポを落として再び主要主題とつながって行きます。このテンポの動きはとても自然で音楽にどっぷりと浸ることができます。

三楽章、生々しく生き生きとした主要主題。ザクザクと刻み付けるように鮮烈な演奏です。一つ目のトリオもとても動きが活発で、色んな楽器が活動的に動きます。楽しげに舞うような二つ目のトリオ。硬いマレットでバチーンと決まるティンパニ。とても爽快です。

四楽章、抑え気味で軽い第一主題。そのあと僅かにテンポが遅くなりました。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。最初、この部分のシンバルはサスペンド・シンバルじゃないと雰囲気を壊すと思っていましたが、こうやっていろんな演奏を聞くとクラッシュ・シンバルがとても良いと思うようになって来ました。コーダの盛り上がりは物凄く速いテンポでした。

とても大きくテンポが動いて聞き手の感情に寄り添うような演奏でしたが最後のコーダの盛り上がりはちょっと速すぎる感じがしました。明晰な響きと力強い演奏もとても良かったです。
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イシュトヴァン・ケルテス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、ふくよかで暖かい響きです。表情が生き生きしていてはつらつとした演奏です。
音楽に躍動感があって良い演奏です。

二楽章、とても繊細な表現です。細部まで神経が行き届いた演奏です。

三楽章、

四楽章、丁寧な演奏と適度な緊張感を伴った演奏でした。

オトマール・スイトナー/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★★
一楽章、祈りにも似た静かで丁寧な冒頭。清涼感があって爽やかな響きが印象的です。強弱の変化も音楽の流れに合わせてとても自然です。このシリーズ全体に共通するところですが、金管の位置が少し遠く、音色的には強くなっているのですが、実際の音量としては少し届いて来ない感じがあります。最後少しテンポを上げて終りました。

二楽章、羽毛で肌を撫でられるような繊細な表情の弦。積極的な表現で郷愁を感じさせる演奏です。

三楽章、かなり速いテンポです。西欧風の主題の音符の扱いが独特です。テヌートを多様した表現です。

四楽章、この楽章もかなり速いテンポです。ホルンとトランペットの第一主題に続く弦がテヌートぎみに演奏しました。シンバルはクラッシュシンバルです。続くクラリネットのソロや合いの手に入る弦の表情もとても豊かです。最後はすごくテンポを上げました。金管を咆哮させることもなくあっさりと水彩画のような演奏でした。

イシュトヴァン・ケルテス/ロンドン交響楽団

ケルテス★★★☆
一楽章、速めのテンポですが、寂しげで哀愁を感じさせる序奏。やはり速めのテンポですがふくよかなホルンによる第一主題。提示部の反復があります。

二楽章、速めのテンポであっさりと進む主題。中間部もあまり暗転しません。とてもあっさりとした表現で、大きな表現はありませんが作品の持っている美しい旋律をさりげなく伝えてくれます。

三楽章、この楽章も速めのテンポですが、ほの暗い感じはとても良く表現されています。一つ目のトリオは舞踊風で良く歌います。二つ目のトリオは音を繋げるような演奏で流れが良いです。

四楽章、咆哮は無く落ち着いた第一主題。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。美しく歌う第二主題。二楽章の序奏が回想される部分でも金管はかなり余裕を残しています。コーダも余裕のある演奏でした。

作品に深くのめり込まず、作品の持っている美しさを自然に表現した演奏でした。はじめの三つの楽章のテンポが速めであまり落ち着きが無かった感じでした。
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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★
一楽章、予想外のテンポの動きや木管が裸になるような生々しさ。ボヘミアの哀愁などは全く感じさせません。

二楽章、何の思い入れも無いような演奏ですが、大きく捉えた設計があるのでしょうか?

三楽章、ゆったりとしたテンポで細部まで描き出そうとしているような演奏です。

他の演奏では、あまり聴けないパートの音も聞こえます。

四楽章、この楽章もゆったりしたテンポの演奏です。控え目な金管。木管や弦が強調されています。

力みの全くない演奏でした。

準・メルクル/NHK交響楽団

icon★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで細身の響きがします。ffでも控え目で爆発するようなことはありません。
寒色系の響きが印象的です。

二楽章、ボヘミアの雰囲気を伝えるような演奏ではなく、純粋に楽譜を音に替える仕事をしているような演奏です。
純粋に音楽をしているようで誠実さがひしひしと伝わってきます。

三楽章、純粋に音楽が進んで行きますが、あまりにも何も起こらないので、ちょっと不満にもなってきます。

四楽章、アゴーギクもほとんどなく、ねばっこい表現もないのであっさりとしていてBGM的に聴くには良い演奏だと思いますが聴き込むには、もっと音楽を深く理解しないとムリなようです。
ffでも濁ることなく美しい響きがすばらしい。

レオポルド・ストコフスキー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★
一楽章、とても雰囲気のある序奏。強く音を割ったホルン。足もとが定まらず流されているような強奏部。第二主題のオーボエとフルートは歌が合わないので、オーボエが強くなったり弱くなったりします。リピートはなし。コーダでは、トランペットとホルンにトリルが入りました。

二楽章、とてもゆったりと歌われるイングリッシュホルンの主題。望郷の歌を感情を込めて見事に演奏しました。テンポも動いて望郷の表現はすばらしいです。トロンボーンは軽く吹いている感じでかなり余裕のあるトゥッティです。ゆったりとたっぷりとした表現の演奏はすばらしいものがありました。

三楽章、二回目のトリオは速めのテンポであまり表情もなくそっけない感じです。

四楽章、ゆっくりと始まりさらに第一主題の前で大きくritしました。シンバルはサスペンドシンバルでした。抑えた音量の中で歌うクラリネットの第二主題。第二楽章の主題が回想される前でも大きくritしました。その後テンポを速め、第一主題の再現の前でまた大きくritしました。テンポは自由に動いています。ただ、テンポの動きほど表現は大きく付けておらず、心に刻まれるような音楽にはなっていないように感じます。最後は急速にテンポを上げて終りました。

二楽章は感動的でしたが、一楽章コーダのトランペットやホルンのトリルや四楽章のテンポの大きな動きなど、ストコ節が聞かれましたが、表現として深く掘り下げた演奏には感じませんでした。

ズデニェク・コシュラー/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1976年大阪ライヴ

コシュラー★★★
一楽章、序奏から哀愁が漂います。ビブラートを掛けたホルン。かなりデッドな録音でオケが近いです。作品自体が美しい旋律を多く持っていることもありあまり大きな表現はありませんがテンポを速める部分が何度かあります。コーダもかなり速いテンポになりました。

二楽章、速いテンポであっさりと演奏されるイングリッシュホルンの主題。中間部も速めのテンポであまり暗転しませんが哀愁は感じさせます。さすがにお国物ということもあってツボはしっかりと押さえています。

三楽章、力強い主要主題。一つ目のトリオは木管が強すぎるようなきつい響きになります。音楽の起伏はかなり大きいです。

四楽章、第一主題はテンポが速く少しアンサンブルが雑な感じがします。シンバルはサスペンド・シンバルでした。第二主題に現れるチェロは柔らかく豊かです。かなり金管が激しく演奏します。

基本的には少し速めのテンポですが、正統な演奏でした。ただ、デッドな録音であまり美しい響きを聞くことができなかったのは残念です。
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カルロス・パイタ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

パイタ★★★
一楽章、ゆっくりと非常に濃厚に歌う序奏。ホルンが長い余韻を残して演奏します。続く木管もとても良く歌います。リアルで強烈なティンパニ。一転して速めのテンポの第一主題。第二主題にはアクセントがあります。パイタのいつもの演奏のように金管が青筋たててしゃかりきに吹きまくるような演奏ではありません。テンポはかなり自由に動きます。

二楽章、とてもゆっくりと始まります。主題もゆっくり目で、感情が込められた歌です。アゴーギクもたっぷりと効かせて濃厚な歌です。弱音はとても静かです。中間部はあまり暗くなりませんが、ここでも大きな歌で訴えかけてきます。クライマックスもいつものパイタの演奏のような限界ギリギリの演奏では無く余裕のある美しい演奏です。感情のままに大きく動くテンポもこれはこれでなかなか良いです。

三楽章、かなり速いテンポです。一つ目のトリオも速いテンポで素っ気無い演奏で、落ち着きがありません。二つ目のトリオはまた豊かな歌になります。主部が戻ると少し滑っているような感じもします。

四楽章、パイタが改心したかのように余裕のある第一主題。その後は速いテンポです。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。かなり速いテンポでせわしない演奏です。再現部も速いテンポです。コーダは大きくテンポを落としてトゥッティに入ってその後大きく加速減速して終わりました。

一楽章、二楽章はゆっくりとしたテンポを基調にして、感情のままに大きくテンポが動くロマンティックな演奏でしたが、三楽章と四楽章は速いテンポで、素っ気無くせわしない演奏になってしまいました。
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小林 研一郎/日本フィルハーモニー管弦楽団

小林★★★
一楽章、濃厚に歌う序奏。低弦とティンパニの炸裂。歌に溢れた第一主題。熱血漢らしい濃厚で熱い演奏です。第二主題は少し速いテンポであっさりと演奏されます。繊細で細部までしっかりと捉えられた録音でとても美しいです。

二楽章、速めのテンポの主要主題ですが、哀愁は感じます。感情を盛り上げるようにテンポが動きます。大きく暗転しない中間部。切れ目なく切々と豊かに歌います。

三楽章、速いテンポの上さらに前のめりで畳み掛けるような主要主題。輝くような美しさの一つ目のトリオ。

四楽章、第一主題の後テヌートぎみに演奏する弦。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。情報量が多く豊かな演奏です。

ライヴでありながら細部の動きまで分かるような録音でした。演奏も濃厚で熱いものでしたが、あまり惹きつけられるようなところはありませんでした。
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カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1978年ザルツブルクライヴ

ベーム★★
一楽章、ゆっくりと味わいのある序奏です。重厚な低弦。ティンパニは軽いです。第一主題も第二主題もあまり哀愁を感じさせません。コーダはかなりテンポを速めて勢いのある演奏でした。

二楽章、細身であまり歌わないイングリッシュホルン。色彩感は濃厚ですが、いつものウィーンpoのような一体感がありません。中間部の木管は歌いますが、なぜか一体感はありません。

三楽章、一つ目のトリオで強弱の変化を大きく付けました。

四楽章、力強い第一主題ですが、少し荒い感じがします。シンバルはサスペンド・シンバルでした。第二主題も音のキメが荒くあまり美しくはありません。ドイツ物だと抜群の相性を示す組み合わせですが、ボヘミアの雰囲気とはどこか違う感じがして、しっくりきません。コーダはかなり激しい演奏でした。

哀愁を感じさせる演奏では無く、かなり荒れた響きで勢いのある演奏でした。あまりしっくりこない演奏でした。
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朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団


一楽章、ふくよかな響きですが、少しアンサンブルの乱れがあります。テンポは遅めであまり動きません。

金管のffは力強いのですが、テンポが動かないので音楽の高揚感と金管のffが合わない感じがします。

二楽章、暖かい響きです。アンサンブルは悪いです。あまりにもケレン味のない演奏で、ストレートすぎるように感じます。

三楽章、どうしても安全運転に聞こえてしまいます。スリルや緊張感が伝わってこない。

四楽章、すごくゆっくりした出だしからアッチェレランドして主題に入りました。エチュードをやっているような、感情的な高揚感がありません。音楽に推進力も感じられません。

マンフレート・ホーネック/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

ホーネック
一楽章、静かで動きの無い序奏。速めのテンポの第一主題。あまり強弱の振幅は大きくありません。速いテンポを基調にしていて、ちょっとせわしない感じがあります。哀愁に浸るような余裕を与えてくれません。

二楽章、あっさりとした主要主題。中間部も速いテンポであっさりとしています。チェコpoの伝統的な哀愁に満ちた演奏とは縁遠い感じで、感傷的になることは全くありません。

三楽章、勢いのある主要主題。テンポも速いです。淡泊な一つ目のトリオ。テヌートで演奏される二つ目のトリオ。軽快に舞うような雰囲気が失われているような感じがします。

四楽章、第一主題もテヌートで演奏されるので、この曲の普通のイメージとは違います。シンバルはクラッシュ・シンバルでした。テンポが速く収まりが悪い感じです。テンポが速いのにテヌートなのが原因のようです。なぜテヌートなのか理解できません。

速いテンポで哀愁や感傷に浸るような演奏ではありませんでした。表現はとてもあっさりとしていて、テヌートを多用するので、とても違和感がありました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・トヴォルザーク:交響曲第9番「新世界から」の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第5番

ブルックナーの交響曲第5番は、「対位法の壮麗な大聖堂」とも称される、荘厳で複雑な構造を持つ作品です。彼の交響曲の中でも特に独特な形式美と精神性があり、聞く人に深い印象を与えます。この曲は、彼の作曲技法や精神性が集大成されたものとも言えます。

1. 第1楽章:Adagio – Allegro

静かに始まる序奏で、ブルックナーらしい宗教的な神秘性が漂います。ゆっくりとしたテンポで、厳かな空気が広がり、やがて力強い主部が展開されます。ここでは、対位法的な要素が現れ、さまざまなテーマが絡み合いながらドラマチックに進行していきます。内省的でありながらも、希望と力強さを感じさせる楽章です。

2. 第2楽章:Adagio

ブルックナーの交響曲の中でも特に美しいとされるアダージョ楽章です。静かで穏やかなメロディが心に深く響き、ブルックナーの宗教的な敬虔さが表れています。各楽器が対話するようにメロディを紡ぎ、感情が徐々に高まっていくのが印象的です。重厚で、壮麗な響きが全体を包み、崇高な雰囲気を醸し出します。

3. 第3楽章:Scherzo – Molto vivace (Schnell)

このスケルツォ楽章は、活力に満ちたリズムと印象的なテーマが展開されます。田園風の趣があり、どこか牧歌的な雰囲気も感じさせますが、その一方で力強さも持っています。特にリズムの変化や複雑な構造が特徴で、まるで舞曲のように進んでいきます。ブルックナー特有のユーモアや、豊かなリズム感が楽しめる楽章です。

4. 第4楽章:Finale – Adagio – Allegro moderato

最終楽章はこの交響曲の真髄で、対位法が複雑に駆使され、様々なテーマが壮大に織り成されます。まさにブルックナーの作曲技法の頂点を示す内容で、楽章の終盤に向かって緊張感とエネルギーが増し、壮麗なクライマックスへと到達します。楽曲全体のテーマが回帰し、荘厳な響きで力強く閉じられます。このフィナーレは、ブルックナーが音楽を通して祈りを捧げるような崇高な雰囲気を醸し出しています。

全体の印象

交響曲第5番は、ブルックナーが構築した「音楽の大聖堂」とも言える作品です。厳かな宗教性と、彼独特の対位法的な手法が際立ち、重厚で荘厳な音楽が聴き手を圧倒します。

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第5番名盤試聴記

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、はっきりとしたコントラバスのピツィカート。序奏も極めて現実的な響きです。金管のコラールの最後をデクレッシェンドしました。一体感があってとても良いアンサンブルの第一主題。トゥッティでは金管の見事な響きを聞くことができます。強弱の変化に富んだ第二主題。木管楽器がロウソクの炎が次々と燃えるように浮かびあがります。第三主題もオケに一体感がありとても緻密なアンサンブルです。遠くから響くようなホルンも美しい。トゥッティの響きは本当にすばらしい美しさです。コーダで演奏される第一主題でティンパニがクレッシェンドしました。見事な響きで輝かしく第一楽章を終えました。

二楽章、深みのある弦のピツィカート。とてもゆっくりと演奏されるオーボエの主要主題。ブルックナーの「非常にゆっくりと」との指定に沿うのもなのか。沈み込んで行くクラリネット。広々と広がる草原をイメージさせるような副主題。頂点でも広大な雰囲気でした。このテンポの遅さには惹かれるものがあります。ミュンヘンpoもこの遅いテンポにも全く乱れることなく演奏を続けています。頂点でトランペットのクレッシェンドやホルンの咆哮など濃厚な色彩が美しい。

三楽章、第一主題の大きなクレッシェンド。ゆったりとした第二主題。途中から激しいアッチェレランド。シルキーで滑らかな弦が美しい。テンポはかなり大きく動いています。ライヴでもノーミスで緻密なアンサンブルを聴かせてくれるミュンヘンpoの技術も凄いです。テンポが遅いのでいろんな音が聞こえてきます。

四楽章、ゆっくりと演奏されるクラリネット・ソロ。二楽章の第一主題も非常にゆっくり演奏されます。第一主題もゆっくり目です。透明感のある第二主題も遅めのテンポで演奏されます。凄く力強いティパニの打撃から始まった第三主題。金管のコラールは二つ目の音を弱く演奏しています。トゥッティでのブラスセクションは良く鳴ります。コーダでも圧倒的な輝かしい響きです。

ゆったりとしたテンポで密度の高い音楽を最後の圧倒的なコーダへと運ぶ音楽はすばらしいものでした。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、深みのあるコントラバスのピツィカート。柔らかい序奏。すごくバランスが良く美しい金管のコラール。美しい上に色彩感もとても豊かです。第一主題の表情も豊かです。すばらしい厚み、トゥッティではトロンボーンも聞こえてきますが、とてもきめ細かい響きでとても美しい!オケの格の違いを見せ付けられます。明るく伸びやかな第三主題も濃厚で美しい。展開部の手前の弦のトレモロに強弱の変化がありました。楽器の呼応が有機的に結びついており、生命感に溢れた演奏です。展開部、再現部ではテンポの動きもあります。特に再現部ではこれまで演奏してきた主題を印象付けるようにゆったりとテンポを落として演奏します。コーダの入りは少しテンポを速めましたが、第一主題が完全な形で現れる部分ではテンポを落としました。そして終結に向けてテンポを速めて終りました。

二楽章、歌うオーボエ、バックの弦のピツィカートも積極的に強弱の変化を付けています。深々とした弦の副主題。うねるように頂点に登りつめます。再現される副主題が心を開放してくれるように優しく奏でられます。オケに一体感があってとても美しい。トロンボーンのコラールも控え目ながら美しい響きでした。

三楽章、第二主題に入ってもそんなにテンポは落とさずに演奏しています。展開部の第二主題はテンポを落としてゆったりと演奏しました。ティンパニが効果的に強弱の変化を強調します。テンポの変化も絶妙で音楽に酔いしれることが出来ます。

四楽章、幻想的な雰囲気の序奏。控え目で美しいクラリネット。分厚い響きの第一主題。軽快に踊るような第二主題。速めのテンポで演奏される第三主題。続く金管の強奏も柔らかく美しい。最初の頂点は控え目で柔らかい響きで頂点の最後はテンポを落としました。突然音量を落としたりする部分もあり驚かされます。トゥッティの重厚なクライマックスはすばらしい響きです。圧倒的ですが、すごく美しい響きに驚かされます。

一貫して美しい響きで、トゥッティでも重厚で圧倒的なクライマックスがすばらしい演奏でした。

朝比奈 隆/東京交響楽

朝比奈★★★★★
一楽章、弱く深みのあるコントラバスのピツィカート。すごく神秘的な弦の弱奏。バランスの良い金管のコラール。微動だにせずインテンポでがっちりと音楽を作って行きます。歌う第一主題。自然の妖精が戯れるような静寂感のある第二主題。深い響きが印象的な第三主題ですが、ホールの関係か少しくすんだような響きで色彩感には乏しい演奏になっています。トゥッティでも金管の響きは美しい。

二楽章、自然な抑揚のオーボエの主要主題。深い響きの副主題。力みがなく自然に頂点へと盛り上がる演奏。どっしりと構えたテンポと必要以上に強奏させない金管がとても安定した感覚を与えます。木質系の暖かみのある響きで、トゥッティでも柔らかい響きです。

三楽章、速めのテンポで始まりました。テンポを落としてゆったりと第二主題。高揚に伴ってテンポが速くなります。色彩感には乏しいですが、自然体で堂々とした安定感のある演奏です。金管はかなり強奏していますが、音は荒れることがなく、バランスの良い美しい響きです。テンポの変化も自然で違和感がなく安心して音楽に身をゆだねていることができます。十分に自然を感じさせる音楽です。

四楽章、ここでも幻想的な序奏が再現されます。ゆったりとした第一主題はコントラバスの音にあまり力がありませんでした。祈りのような美しい金管のコラール。どっしりとして動かないテンポが曲に重量感を与えています。金管の強奏も突き抜けて来ることはなく、バランスの良い演奏です。コーダの最後もとても美しい響きでした。

どっしりと構えてスケールの大きな演奏はとてもすばらしいものでした。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★★
一楽章、森の中に霧が立ち込めるような柔らかく伸びやかな序奏。金管も伸びやかでダイナミックレンジが広いです。豊かに膨らむ第一主題。伸びやかな金管のトゥッティはとても美しいです。静かに戯れるような第三主題。サラッとしたキレの良い音でブルックナーにしては重量感が足りないかも知れませんがとても良い音で鳴っています。テンポは速めですが、快速と言う感じです。

二楽章、伸びやかで泉が湧き上るように豊かな副主題。複雑な響きもとても整理されていてスッキリと響きます。

三楽章、とても活動的で強いエネルギーの第一主題。優雅な第二主題。金管は強いですが、音放れが良くとてもキレのある響きです。コーダはかなり激しいです。

四楽章、ザクザクと爪あとを残すように刻まれる第一主題。軽いですが、美しい第二主題。ティンパニが深い響きですが、金管の明るくスッキリとした響きが爽快な第三主題。コラールもとても良く鳴っていて気持ちの良い響きです。展開部のフーガも重なり合う旋律がくっきりと浮かび上がり見事です。実演で聞ける伸びやかな響きがかなり再現されていてとても美しいです。コーダでは多層的に絡み合う楽器がそれぞれ伸びやかに圧倒的なクライマックスを築きます。

伸びやかで美しく柔らかい響き。低域の分厚い響きはありませんが、輝きのある圧倒的でスッキリと音離れの良い演奏は見事でした。
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ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

アーノンクール★★★★★
一楽章、かなり現実的で実在感のある序奏。大きなエネルギーで力強い金管のコラール。大きな表現で歌う第一主題。第二主題も積極的に表現しています。第三主題も波打つように増減します。展開部に入って美しいホルンのハーモニーや柔らかくなったり鋭くなったりと変化するフルート。遠慮なく襲い掛かってくる金管。ダイナミックの変化の幅はとても大きいく充実した美しい響きです。

二楽章、弦のピツィカートもオーボエの主要主題も大きく音量を変化させて歌います。厚みがあって豊かに湧き上がるような副主題。それぞれの楽器がくっきりと浮かび上がり、とても美しいです。弱音部の美しさと金管の激しさの対比も見事です。

三楽章、速めのテンポで豊かな表現の第一主題。第二主題は大きく構えてダイナミックです。三拍子ですが、とても力強い足取りの演奏です。中間部は豊かでチャーミングな表情です。美しく豪快に鳴り響く金管もとても魅力的です。

四楽章、第一楽章同様に実在感のある序奏です。on、offのはっきりとした第一主題。アクセントと抜くところの変化があり、明快な表現です。活発な動きで軽快な第二主題。どっしりとしていますが、かなり強い第三主題。金管のコラールはまろやかで充実した響きで美しいです。ウィーンpoらしい一体感があり、しかも濃厚な美しい色彩を失わない演奏は見事です。広大なスケールのコーダです。

ウィーンpoの美しい響きと豊かな表現の歌のある演奏でした。四楽章の広大なスケールのコーダも見事でした。
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ジュゼッペ・シノーポリ/シュターツカペレ・ドレスデン

シノーポリ★★★★★
一楽章、とても柔らかいですが、実在感のある序奏。トゥッティも金管のコラールもとても柔らかいです。第一主題もとても柔らかいです。トゥッティは雄大で金管はかなり余力を残した美しい響きです。伝統あるオケにある程度任せたような自然体の演奏で、誇張された表現はありません。金管は全開ではありませんが、熱気を感じさせる演奏です。

二楽章、感情が込められて非常に美しく振幅も大きな主要主題。しみじみとした深みのある副主題。この副主題も非常に美しいです。途切れることなく湧き上ってくるような豊かな音楽です。六連符の上に乗る主要主題はすごく遅いテンポで濃厚に演奏されます。コラールはうねる海の中で揺られるような壮大なものです。

三楽章、ダイナミックで濃厚な第一主題。効果的なテンポの動き。一転して穏やかな第二主題。前のめりで積極的な表現の演奏です。

四楽章、柔らかく溶け合って美しい序奏。第一主題もガツガツと引っかかることなくなだらかで美しいです。軽快ですが、洗練されて美しい第二主題。豊かにあふれ出すような第三主題。強烈な炎を吹き出すような熱気ではありませんが、ジワジワと熱さが伝わってくるような演奏です。軽々と伸びやかに鳴り響くトゥッティ。壮大で圧倒的なコーダ。

自然体の演奏でしたが、二楽章の六連符に乗る主要主題の非常に遅いテンポなど独自の表現もありました。シュターツカペレ・ドレスデンの非常に美しい響きを見事に生かした演奏には心から満足しました。
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ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

ケンペ★★★★★
一楽章、とても鮮明でキリッとした序奏。枯れた響きの金管。大きな表現で躍動する第一主題。ブルックナーらしく自然を感じさせる第二主題。金管が咆哮するような荒々しさはありませんが、自在なテンポの動きもあり、ゆったりとした部分やアッチェレランドの緊張感など、多彩な表現です。

二楽章、余韻を伴って少し遠くから響くようなオーボエの主要主題。とうとうと流れるような副主題。トランペットやトロンボーンは神々しいです。

三楽章、第一主題も第二主題も躍動感があって強いエネルギーで迫って来ます。金管は決して咆哮しませんが、音楽に強い推進力があって、ケンペの演奏にしては、攻撃的で鋭い刃物で切られるような迫力です。

四楽章、コントラバスが強めで重量感のある第一主題。第三主題でも決して絶叫はしません。とても抑制の効いた演奏です。美しい金管のコラール。モノトーンの濃淡だけで描かれているような色彩感ですが、統一感のある美しい演奏です。熱っぽく壮大なコーダ。

自在なテンポの動きと、決して絶叫しない余裕のある美しい響きで壮大なクライマックスを築き上げる演奏でした。モノトーンの統一感ある響きも素晴らしいものでした。
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リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

シャイー★★★★★
一楽章、フワフワと漂うような序奏。豊かな残響と深みのある濃厚な色彩。緻密でしかもスケールの大きな第一主題。憂鬱な第二主題。明るく日が差すような第三主題。透明感が高く清涼感のある美しい演奏です。コーダでも全開にはならず余裕のある美しい響きです。

二楽章、キッチリと整ったアンサンブルを聞かせる主要主題。分厚く深みのある副主題。瑞々しさをたたえた美しい演奏です。とても情報量が多くいろんな音が聞こえて来ます。六連符に乗って演奏される主要主題はとてもゆっくりと演奏されます。その後登場するトランペットは熱気をはらんだ演奏です。

三楽章、豊かな響きで美しい第一主題。第二主題も潤いがあって美しいです。かなり金管が強烈に演奏していますが、残響を伴っているのであまり激しく聞こえません。

四楽章、ここでも漂うような柔らかい序奏。第一主題も伸びやかで柔らかいです。第三主題は余裕のある広々とした響きです。。作為的な表現は無く、作品と正面から向き合っているような演奏です。金管のコラールも美しいですと、その後に続く弦もとても厳粛です。バランス良く美しく鳴り響くオケ。コンセルトヘボウの美しさを最大限に引き出した演奏で、見事です。

小細工無しにコンセルトヘボウの美しさを最大限に引き出したバランスの良い演奏は見事でした。
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フランツ・ウェルザー=メスト/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★★★
一楽章、幽玄な雰囲気の序奏。巨大なスケールのトゥッティ。豊かな残響を伴って大きく歌う第一主題。第二主題のピィツィカートも柔らかく美しいです。ヴァイオリンのほの暗く沈んだ表現もとても良いです。第三主題は少しテンポを速めて積極的に表現します。その後の盛り上がりもスピード感があります。展開部に入っても色んな音が有機的に結びついて生命感に溢れています。オケも整然と鳴り響きます。とてもロンドンpoだとは思えないような渾身の演奏です。第一主題の再現はかなりテンポが速いです。コーダも豪快に鳴り響く金管とティンパニの激しいクレッシェンドと聞き所もたくさんあります。

二楽章、オーボエの主要主題の最後にピィツィカートが大きくクレッシェンドしました。大河の流れのように豊かな副主題。金管も瑞々しく伸びやかで非常に美しいです。二度目の副主題は一度目よりも柔らかく伸びやかに歌います。オケも献身的で積極的な演奏を展開しています。

三楽章、緊張感のあるテンポの動きの第一主題。大胆で豪快な金管の咆哮。透明感があって美しい中間部。敏感なオケの反応。この楽章でも最後にティンパニが強烈なクレッシェンドをしました。

四楽章、控えめで薄い第一主題。第二主題はテンポが速く颯爽と進みます。コラールも速めのテンポで力強いです。清涼感があって快速で壮大なフーガ。速いテンポの中で豪快に鳴り響く金管のすさまじい演奏です。

基本的に速めのテンポで颯爽と進む演奏で、オケも豪快に鳴り響く力強く積極的な表現の演奏はとても魅力的でした。
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クルト・マズア/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

マズア★★★★★
一楽章、比較的大きな音量で実在感のある弦の序奏。金管は奥まっています。柔らかく丁寧に演奏される第一主題。盛り上がる部分ではテンポを落としました。第二主題は微妙な表情が付けられています。ゆったりとしていて豊かな表情の第三主題。分厚いピラミッド状の柔らかいトゥッティ。ゆったりとスケールの大きな演奏にオケの渋い響きがマッチした良い演奏です。

二楽章、淡々と演奏される主要主題。深みのある副主題。やはりオケの渋い充実した響きはとても魅力的です。二度目の副主題も非常に美しいです。トランペットの主要主題も遠くから伸びやかで穏やかです。

三楽章、弦の刻みの中を浮遊するような木管の第一主題。一転してのどかな第二主題。さらにテンポを落として音量を上げながらテンポを速めて高揚します。ゆっくりから少しずつテンポを速める部分は絶妙でとても良いです。

四楽章、この楽章でも第一楽章と同じで大きめの音量で実在感のある弦。クラリネットは突出せず弦から少し浮き出す程度です。落ち着いたテンポで穏やかな第一主題。チャーミングに動く第二主題。ゲヴァントハウスの柔らかく懐の深い響きに魅了されます。奥深いところから熱っぽく響いてくる金管もとても魅力的です。第二主題の再現はゆったりととても伸びやかで美しいです。オケの美しい響きと、ゆっくりと丁寧な歩みはとても心地良いものです。余裕があって雄大なコーダ。

あまり期待していなかったのですが、オケの非常に美しい響きと、ゆったりとしたテンポを基調にして、絶妙なテンポの動きのある演奏はとても充実していました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/BBC交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★★
一楽章、実在感のある冒頭。トゥッティは金管が奥まっていて広い空間を感じさせるスケールの大きな響きです。速いテンホですが豊かな起伏のある表現の第一主題。第二主題の弦のピィツィカートも強弱の変化が大きく積極的な表現です。硬いマレットのティンパニもとても良い響きで演奏を後押ししています。

二楽章、速めのテンポで濃厚な表現の主要主題。深々とした響きの副主題。ホーレンシュタイン独特のゴリゴリとした硬質な響きですが、雄大なトゥッティです。金管が鳴り響く夜空にヴァイオリンがキラキラと輝く星のように美しいです。

三楽章、舞うように活発な第一主題とは対照的にどっしりと落ち着いた第二主題。弱音も集中力が高く強い緊張感を感じさせます。軽快でチャーミングな中間部。最後は遠慮なくドカーンと入るティンパニと硬質で強くく鳴り響く金管が見事です。

四楽章、浮遊感のある弦に溶け込むようなクラリネット。重量感があって重い足取りの第一主題。軽快で優しい第二主題。ライブですが、オケの状態がとても良かったのではないかと思います。非常に充実した演奏です。コーダもとてもスケールの大きな演奏です。

作品と正面から向き合った堂々とした演奏でした。硬いマレットのティンパニがとても良い音でした。オケの状態もとても良かったようで、充実した演奏は見事でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第5番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第5番名盤試聴記

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、重いコントラバスのピツィカート。かなり現実味のある序奏です。若干のアンサンブルの乱れはありますが、輝かしい金管。かなり凄い集中力が音にこもっているような凄味を感じさせる演奏です。第二主題の弦のヒツィカートにも集中力を感じさせます。第三主題はゆったりとしたテンポで伸びやかです。金管のコラールは不安定な感じでした。再現部の第二主題はテンポを落としました。コーダはテンポを速めています。コーダのティパニのロールは突然奏者が目を覚ましたかのように強烈でした。

二楽章、遠くから響くようなオーボエの主要主題。バックの弦のピツィカートも一音一音刻み込むように強い力を持っています。柔らかく美しい弦の副主題。この時代の日本のオケの技術水準は現在のレベルには比較にならないほど劣っていたと思うのですが、この演奏からはそのような未熟さは感じさせません。すばらしい集中力で聴き手を引き込みます。テンポも動いてとても積極的に音楽を奏でています。物悲しい主要主題の雰囲気もよく表しています。

三楽章、ゆったりとしたテンポで開始しました。音楽の高揚に伴ってせきたてるようにテンポが速くなります。演奏に熱が入って来たのか、金管が最初に比べるとかなり強く吹くようになってきました。第二主題になってもそんなに極端にテンポを落としていません。朝比奈の晩年のインテンポとは違うテンポの動きが音楽を生き生きとさせています。また、高い緊張感を維持してすごい集中力です。展開部の第二主題はテンポを落として演奏しています。

四楽章、ゆったりとしたテンポの第一主題。軽快で美しい第二主題。テンポは微妙に動いています。この楽章の半分を過ぎたあたりから金管がかなり強く吹くようになります。再現部のクライマックスは朝比奈らしい巨大なスケール感が見事です。コーダは少しテンポを落として壮大なスケールで曲を閉じました。

すばらしい集中力と一音一音刻み込むような力のこもった演奏はすばらしいものでした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン交響楽団

カラヤン★★★★☆
一楽章、録音は古いですが、幻想的な序奏。情熱的な金管。厚みがあってたっぷりと歌う第一主題。第三主題もとても豊かな表現です。テンポの動きもあり濃厚な演奏です。

二楽章、熱気があって歌う主要主題。厚みがあって大きな川の流れのような副主題。カラヤンらしいレガート奏法で表面が滑らかで美しい演奏です。

三楽章、速いテンポで疾走感のある第一主題。一転してゆったりと舞うような第二主題。ライヴでの疾走感はカラヤンならではのものです。ただ、アンサンブルはあまり良くありません。

四楽章、ゆっくりですが、荒げることの無い第一主題。クライマックスでも全開にはなりません。コラールはゆっくりと心に染み渡るような響きです。テンポの動きで感情が高まります。かなり熱気のあるコーダで大きな盛り上がりです。

感情のこもった濃厚な表現の演奏で、テンポの動きもありましたが、アンサンブルの乱れが何度もあり残念でした。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★★☆
一楽章、弱音でフワーっとした柔らかい序奏。清々しく爽やかな金管。静寂感の中に響く第一主題。少し温度感が低く少し距離が離れて聞いている感じです。少し日が差し込んだような第三主題。風の中で自然を感じるような展開部。とても爽やかに鳴り響くコーダ。あまりに爽やかで厚みを感じさせない響きは、あまりブルックナーを感じさせません。

二楽章、速めのテンポでさくさく進む主要主題。この楽章でも爽やかな弦。深みがあって流れるような副主題。包み込むように柔らかい響き。とても端正で細部まできっちりと鳴っている演奏です。生き生きとした木管が豊かな生命感を感じさせます。トランペットやトロンボーンは余裕たっぷりの柔らかく美しい演奏です。

三楽章、活発に動く第一主題。吠える金管が整然としていますが、激しいです。中間部もくっきりとした克明な動きの表現です。とても明晰でいろんな楽器の動きが克明に聞こえて来ます。

四楽章、全く力みが無く穏やかに演奏される第一主題。第二主題も軽く美しいです。金管のコラールは豊かな残響を伴ってバランスも良く美しい響きです。とても美しいのですが、ブルックナーにしては鮮烈な響きです。美しく伸びやかに鳴り響くトランペット。コーダの前はテンポが速くなりました。コーダは分厚い低域の響きはありませんが、伸びやかに鳴り響きます。

豊かな残響と美しい響きで明晰な演奏でした。ただ、ブルックナーらしい分厚い低域に支えられたものではなく、僅かに鋭い響きになっていました。
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ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、弱音で始まった低弦のピツィカート。比較的現実的な冒頭。長い残響を伴って巨大な金管のコラール。大聖堂に響き渡る長い響きが美しい。第一主題も伸びやかです。続く第二主題も美しい響きを伴って伸びやかです。木管にも潤いがあって美しいです。トゥッティでも響きが大聖堂に拡散して行くようで、こちら側に強いエネルギーになって伝わっては来ません。この豊かな残響を聞いているとブルックナー・パウゼの意味も理解できます。ブルックナー自信もこのような環境の中で、オルガンを演奏し、作曲のイメージを膨らませていたのかも知れません。この響きに浸かっているのも気持ちが良いです。パーテルノストロは強い個性を主張することもなく、楽譜に書かれていることを忠実に音にしているようです。

二楽章、速めのテンポでオーボエが自然で美しい主要主題を奏でます。弦楽合奏の副主題も深みのある響きで音楽に浸ることが出来ます。副主題の再現は控え目でサラッとしています。コントラバスが深く厚みのある響きで全体を支えています。やはり、トゥッティで音が拡散してしまって、エネルギーがこちらに伝わって来ないのが、この曲の男性的なイメージとは若干違うような感じがします。

三楽章、冒頭からトゥッティに至るまで少しアッチェレランドしました。トゥッティの後に残るもの凄い残響。第二主題は極端なテンホの変化ではなく、僅かにテンポを落とした程度です。長い残響にマスクされて細部は聞き取れませんが、この響きは気持ちが良い。くせになりそうな響きです。このままずっと浸っていたい気持ちにさせてくれます。編成はそんなに大きくないようですが、トゥッティでは残響を伴って巨大な響きになります。演奏には恣意的な部分は全く無く、ブルックナーが書いた楽譜を信じ切って演奏しているかのようです。

四楽章、深い霧の中から聞こえるような第一楽章の序奏の再現。豊かな残響を伴って美しいクラリネットとオーボエ。可憐な表情の第二主題。伸びやかな金管のコラール。遠くから聞こえてくるようなホルンのソロ。コーダからは分厚く巨大な響きに遠くの山からこだまするようなホルンの強奏が聞こえます。

この曲らしい男性的な演奏ではありませんでしたが、豊かな残響が作り出す独特の雰囲気がとても魅力的な演奏でした。パーテルノストロも曲をストレートに表現した演奏に好感が持てます。

朝比奈 隆/シカゴ交響楽団

朝比奈★★★★
一楽章、デッドなホールでも力強くバランス良く鳴り響く金管。いつものように自然体な第一主題。見事な一体感のある響きの演奏ですが、あまりにもデッドなホールで奥行き感が感じられず、ブルックナーらしい深みのある響きにはなりません。金管のきめ細かい響きでシカゴsoらしい鋭い響きです。

二楽章、あくまでも自然体で大きく歌うことの無い主要主題。広々とした副主題。緻密なアンサンブルや輝かしい金管はさすがにシカゴsoだと思わせます。

三楽章、あくまで自然体な第一主題。穏やかですが、切れ込むように鋭い第二主題。

四楽章、とても自然で作品そのものに語らせるような表現ですが、ブルックナーの演奏には残響が短過ぎます。第三主題も堂々としたものですが、厚みのある響きでは無く少し腰高な感じになります。コラールも見事な響きです。コーダもクールな響きでした。

いつもの朝比奈の自然体の演奏でしたが、ホールの音響特性の問題か、デッドで深みの無い響きで、クール感じる演奏でした。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、重い低弦のピィツィカート。多層的に広がる弦。遠くから響く金管。トランペットがマルカートぎみに演奏します。第一主題の前の高揚する部分はゆっくりとしたテンポで頂点に入る前にはタメもありました。いつものように淡々とした第一主題。緩やかで雄大な第二主題。どっしりとしていて頑として動かない強固な演奏です。予想外に軽いコーダ。

二楽章、感情が込められ豊かに歌う主要主題。瑞々しく深みのある副主題。変化に動じることなく一貫した表現で貫かれています。金管はここでも軽いです。

三楽章、活発で生き生きとした第一主題。テンポを落としてゆったりと演奏される第二主題。クレンペラーにしては積極的な表現です。少しアンサンブルが乱れてもテンポを動かして粘っこい表現をします。最初は落ち着いて軽く演奏していた金管がかなり力を発揮するようになって来ました。

四楽章、一音一音刻み付け目ように物凄く遅い第一主題。第二主題もゆっくりです。サラサラと流れるように美しい弦。かなり強く演奏される第三主題ですが、何故か密度が薄く軽い感じがします。コラール主題に基づくフーガもとても落ち着いています。決して音楽が前へ進もうとはしません。コーダでもかなり強く演奏する金管ですが、燃え上がるような熱気はありません。

テンポが大きく動く部分もありましたが、基本的にはとても落ち着いた表現で、熱気のある演奏ではありませんでした。
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朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈★★★
一楽章、低弦のピツィカートに幻想的に乗っかる、ヴィオラとヴァイオリン。金管のコラールは若干のミストーンもありました。巨大なトゥッティがスケールの大きさを物語ります。クラリネットの音には艶やかさがありません。残響成分をあまり含んでいない録音なのか、生音がビンビン響いてきます。トゥッティの金管のエネルギー感はすごいです。わずかに雑な感じを受けました。

二楽章、非常にゆっくりと演奏されるオーボエの主題が伴奏の弦のピツィカートに合わせようとして不自然な演奏になっています。わずかにザラッとした弦の副主題。低域が豊かなのでトゥッティの充実した豪快な響きは見事です。

三楽章、テンポの変化が大きく、トゥッティでの金管が力強く鳴り響きます。テンポを落とした部分は非常にゆったりと田舎の田園風景を思わせるのんびりした感じです。一方でティンパニや金管の豪快な鳴りは凄いです。

四楽章、幻想的な冒頭。艶のないクラリネットが主題の動機を演奏します。チェロとコントラバスの第一主題はちょっと混沌とした雰囲気でした。力強い第三主題ですが、アンサンブルがきちんと揃っていないようで、少し雑に聞こえます。重量感のあるフーガ。再現部でも豪快に吹き鳴らされる金管ですが、少し汚い。第三主題の再現ではかなりテンポを上げました。コーダ手前のクライマックスからはテンポを落として壮絶な咆哮です。

豪快で男性的な演奏でしたが、アンサンブルの乱れなど、雑な印象でした。

ヘルベルト・ケーゲル/ライプツィヒ放送交響楽団

ケーゲル★★★

一楽章、倍音成分が少なめで強い音の序奏。強烈な金管の咆哮。切迫するようにテンポが動きます。大きく歌う第一主題。ふくよかな第二主題。第三主題は速いテンポで、激しく動きます。トランペットがかなり強い音で演奏されています。

二楽章、感情を込めて豊かに歌う主要主題。ビリビリと強い音で響く金管。

三楽章、第一、第二主題とも速いテンポで駆け抜けるようです。ブルックナーらしい暴力的なスケルツォです。元気でアタックも強い金管。動きが克明で濃厚です。

四楽章、克明で実在感のある序奏。ゆったりとフワッとした第一主題。金管は相変わらず強くちょっとジャリジャリとした響きです。第二主題は少しザラついた感じです。第三主題もとても力強いです。コラールは少し雑な感じがします。かなり汚く強烈なトゥッティ。コーダの前のクライマックスはテンポも速くなり金管の遠慮無い強奏が下品に感じます。

とても人間臭い演奏でした。強烈で硬質な金管が時に下品なくらいの咆哮をしました。力強い演奏の魅力はありましたが、神を感じさせるような演奏ではありませんでした。
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アレクサンダー・ラハバリ/ブリュッセル・フィルハーモニック

ラハバリ
一楽章、速めのテンポで強めのビィツィカートに弱い弦のアルコが乗ります。金管は控えめで柔らかいです。とてもソフトでフワッとしていて、ゴリゴリと力で押してくるような演奏ではありません。とても丁寧な演奏ですが、マーラーの4番でも感じたような置きに行くような全力投球の演奏ではない感じがします。どこかよそよそしく鳴る金管。荒々しく咆哮するようなことは全くありません。

二楽章、柔らかく美しい主要主題。弦も全く力みの無い美しい演奏です。ゆっくりと非常に強く感情が込められた副主題。全く荒ぶれることの無い金管。響きが整理されていて、とてもスッキリとしています。ブルックナー独特の多層的な響きがほとんど聞こえません。最後もすごく遅いテンポです。

三楽章、全く荒立てない第一主題。とても柔らかく全開には程遠い金管。中間部ではテヌートぎみに演奏する木管。ラハバリは全開の激しい演奏を極力避けて柔らかくマイルドな演奏に徹しているようです。

四楽章、特別に浮き立つことの無いクラリネット。第一主題はとてもソフトです。サラサラと心地良い響きの第二主題。第三主題はかなり余力を残して控えめですが、その分弦の動きなどは良く分かります。金管のコラールはテヌートぎみで柔らかく演奏されます。コーダもとても軽く普通に演奏されるような熱気のある全開の演奏ではありません。

全く全開になることは無く、とても軽い演奏でした。美しさはありましたが、ブルックナーらしいオケが一体になってぶつかってくるような感じは全くありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第2番「復活」

マーラーの交響曲第2番「復活」は、生と死、そして復活というテーマを描いた壮大な交響曲で、彼の作品の中でも特に人気が高く、感動的な作品です。この曲は「復活交響曲」とも呼ばれ、彼の独自の世界観と宗教的な哲学が強く表れています。以下、各楽章について説明します。

1. 第1楽章:Allegro maestoso

この楽章は死をテーマにしており、葬送行進曲として始まります。暗く重厚な雰囲気が漂い、不安や緊張感が徐々に高まります。マーラーはこの楽章で苦悩や絶望、そして魂の葛藤を表現し、厳しい現実に立ち向かう人間の姿が描かれています。楽章の最後は急に静まるように終わり、死の静寂を暗示します。

2. 第2楽章:Andante moderato

第1楽章と対照的に、この楽章は穏やかで、懐かしさを感じさせるワルツ風のメロディが特徴です。マーラー自身が「故人の思い出の中の幸せな時を振り返る場面」と表現したように、過去の幸せな記憶や美しい瞬間が描かれています。優雅で柔らかな響きが心に安らぎを与える、夢見るような楽章です。

3. 第3楽章:In ruhig fließender Bewegung(穏やかに流れる動きで)

この楽章は、現世の無意味さや人生の空虚さを描いていると言われています。音楽は急速に移り変わり、皮肉やユーモア、あるいは混沌とした感情が複雑に交錯します。マーラーはここで人間の存在の不安定さや、神への問いかけを暗示しており、どこか滑稽さや不安を感じさせるような音楽が展開されます。

4. 第4楽章:Urlicht(原光)- 非常に穏やかに

第4楽章は、アルト独唱で歌われる「原光(ウアリヒト)」という詩によって、魂が救済を求める瞬間が描かれます。この詩は、神の存在を求める心の純粋な祈りや光への希求を歌い上げており、非常に静かで深い感動を与える楽章です。この部分は特に神聖で、人間の内面の光を象徴しています。

5. 第5楽章:Im Tempo des Scherzo

最終楽章は、復活への道が壮大なスケールで描かれます。爆発的なクライマックスや激しい展開を経て、再び静寂が訪れたのち、合唱とソリストが「復活」の詩を歌い始めます。この合唱が入る瞬間は特に圧巻で、信仰による救済や永遠の命への希望が力強く響き渡ります。壮大で崇高な結末に向かい、音楽が次第に高揚していき、最後は感動的なクライマックスで締めくくられます。

全体の印象

交響曲第2番「復活」は、マーラーの宗教的・哲学的な思想が凝縮された作品であり、死と再生、希望と絶望といったテーマがドラマチックに展開されます。特に最後の合唱部分は非常に感動的で、聴く者に「復活」や「再生」の希望を与えます。壮大なスケールと深い精神性を持ち、マーラーの交響曲の中でも特に高く評価され、演奏会でも人気のある作品です。

4o

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1989年ライヴ

icon★★★★★
1989年のライブ録音。この時期以降のテンシュテットのライブは異様な緊張感を伴った演奏が多いですが、この演奏はどうでしょうか。

一楽章、粒の揃った弦のトレモロ、確実な足取りの開始です。音色はバーンスタインのような粘着質ではなく、細かい粒子の砂のようなサラッとした感触です。遅いテンポで淡々と進む音楽。第二主題の前にリタルダンドしました。しかしすごくダイナミックです。第二主題は作品を慈しむかのように丁寧に演奏されました。さらにテンポを落として歌う場面も、そしてテンポを速めて激しい表現も。
展開部も遅いテンポで一音一音確かめるように進みます。それにしても遅いところはものすごく遅い!テンポの変化も自然です。この演奏ではロンドンpoがシャープな響きで応えています。テンポの動きが自在でテンシュテットとロンドンpoが作品と一体になっているのが良く分かります。再現部は少しテンポが速くなったのか、それとも遅いテンポに慣れてしまったのか?再現部に現れる第二主題はすごく遅いテンポで作品への共感を強く感じさせる演奏です。これだけ遅いテンポでも弛緩することなく激しくうねる演奏に引き込まれるほどの演奏です。終結に向けてさらにテンポを落として心を込めて行きます。最後の最後でもテンポが大きく動きました。

二楽章、一楽章とは打って変わって暖かい響きで始まりました。この楽章も遅いテンポでたっぷりと歌います。ここでもアゴーギクを効かせてテンポが動きます。歌に満ちた演奏です。弦楽器のセクションがデリケートな表現をします。本当によくテンポが動きますがオケも十分に理解して付いていってます。テンシュテットの内面からにじみ出る作品への共感が伝わるすばらしい歌でした。

三楽章、弦も木管も強弱の変化などすごく表情が豊かです。金管は余力を残しているような感じです。またテンポをぐっとおとして豊かに歌います。作品の隅から隅まで知り尽くしているからできるテンポの揺れです、この揺れにテンシュテットの思いがたくさん込められているように感じます。この頃になるとオケとも阿吽の呼吸でテンポの動きに対応しているようです。金管は終始余力を残しているようでした。ティンパニも強打はしますが、これもまだ余力を残しているように感じました。

四楽章、控え目な歌いだし。美しい金管のコラール。ネスの独唱も心のこもったものです。独唱の最後の音に少し余韻を残して欲しかった音が短かかったのが残念。

五楽章、冒頭から大爆発!すごく遠いバンダのホルン。豊かなホルンや木管の表情。第二主題がトロンボーン、トランペットに引き継がれた直後にホルンの激しい咆哮!ステージ上の木管に消されそうなバンダのホルンです。その後に続くすごいブラスセクションの咆哮と打楽器の活躍!強烈な打楽器郡のロールのクレッシェンド!聴き進むにしたがって手に汗をかいてきました。これほどまでに作品と同化した熱い演奏があっただろうか?しなやかな再現部。鋭い響きのバンダのトランペット。
合唱が入る前の部分はとても神聖な感じでした。ゆったりとしたテンポで静かに歌いはじめる合唱。会場内も一体になって聞き入っているような静寂感です。合唱から浮かび上がる独唱。掛け合いで入るオケもすばらしい響きでとても荘厳な感じの演奏です。遅いテンポのまま歌われる二重唱とオケとの掛け合いも見事でした。この遅いテンポでオケも合唱もよく持ちこたえるなあと感心します。北ドイツ放送交響楽団とのライブのような「爆演」とはちがう。伸び伸びと開放されたすばらしいスケール感!自由で開放されたことを表現したかったのだろうか。ここまでどちらかと言うと抑え気味だったオケをクライマックスで一気に解放!神の領域へ飛び立つのだ。この遅いテンポでの演奏は作品の内面を抉り出すには必然だったのだろう。最後の音もすさまじいものでした。全く弛緩することなく最後まで演奏しきったテンシュテットと奏者たちに惜しみない拍手を送りたい。久しぶりにもの凄い演奏に出会った。

レナード・バーンスタイン ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★★★
この演奏は、あまりにも重い。
個人的には、マーラーの枠を超えてしまっていると思うんですが・・・・・。

一楽章、十分にホールの響きをともなって重量級の出だし。テンポは遅いが遅い設定のまま進むので、わりと安心感がある。テンシュテットのような急激な変化はなく、どっしりと構えたままで、緊張感を伴う感じはあまりない。
オケもffでも節度ある演奏。と思っていたら、テンポが速いところは結構早い。しかし、遅いところが異様な遅さだ。
弱音部をゆったりとしたテンポで、ねばっこく歌う。バーンスタイン節とでも言おうか、ここまでされると「さすが!」と言いたくなる。弱音部の丁寧な歌がとても印象に残る演奏です。

二楽章、この楽章もテンポが遅い。バーンスタインが小学校の低学年に音楽の授業をしているようなほほえましい情景が浮かぶ。バーンスタインの作品に対する愛情のようなものが表出される演奏で、とてもなごやかな雰囲気を作り出している。フレーズの中での動きは少なく、テンポが遅くてもしつこい感じはなく、このテンポに違和感は感じない。

三楽章、この楽章も通常のテンポよりは遅いのだろうけど、このテンポに慣れてきたようで、普通に聞いている。
晩年のバーンスタインの演奏は、総じて異常なくらい遅いテンポの演奏でしたが、テンポを遅くして何か濃厚なものを表現したかったのだろうか?または、細部を抉り出したかったのだろうか?それとも、バーンスタインの感性のままにまかせて演奏したらこうなったのだろうか。
濃厚な表現だったら、テンシュテットの方が強烈だし、細部を抉り出すのであれば、録音の効果もあるがショルティのシカゴsoとの演奏を聴いた方が良いと思う。
この演奏はバーンスタインの心の中で鳴り響いている音楽をそのまま現実のオーケストラで再現したものなのだろうと思う。一般的な演奏からすると異様なテンポ設定で進むがバーンスタインにとっては、ごく自然なままを表出しただけなんだろう。

四楽章、極めて自然に流れる音楽。細部にわたる指示などはあまりせずに、奏者の自発性に任せているような開放感が独特。

五楽章、四楽章の静寂から一転、ニューヨーク・フィルの炸裂。ここでも、テンポ設定はバーンスタインがしているが、細部はオケに任せているような、友好的な演奏だ。バーンスタインの心の中では、オケや合唱独唱のメンバーはもちろん、マーラーも友達だったのではないか。
テンポは遅めではあるが、演奏自体は淡々と進んでいく、しかし、最後にこの遅いテンポをさらに遅くして迎える終盤は圧巻です。これは凄い!こんな結末が待っていようとは・・・・・・。このために前の90分があったのか。
この演奏はどう評価すれば良いのだろうか、私には何がなんだか分かりませんでした。この異常とも言える最後のために、すべてが設計されていたのだとすれば、バーンスタイン恐るべし!!!!。
ベームが晩年、同じように異常に遅いテンポでしかも散漫な凡演を多数残したのに対して、同じように異常に遅いテンポで多数の録音を残しているバーンスタインの演奏が高く評価されるのは、作品を大きく捕らえたがっちりとした設計があるからだろうか。

この演奏も最後は「やられたぁ!」と言う感じです。
初めて「復活」を買う人はこのCDは絶対に買わないように。

ラファエル・クーベリック バイエルン放送交響楽団

icon★★★★★
私のクーベリックに対するイメージは「中庸」です。
特に突出する個性は感じないけれども、堅実で王道を行く実力派と言うイメージです。ただ、たくさんの演奏を聴いたわけではないし、スタジオ録音しか聞いていないので、それが正しいかは分かりません。
今回の、復活のライブはとても楽しみな一枚です。

一楽章、わりとおもむろな出だしで、、特に強調することもなくすんなりの導入。ホールの残響も適度に取り込んだ録音です。
ライブとは言え、手兵のバイエルン放送soとの演奏なので、アンサンブルも整っている。ちょっとした、タメにもオケは機敏に反応する。機能性の高い、シャープなオケのように感じる。他のオケのライブCDと比べると、細身な感じです。
最初はクールな演奏からスタートしましたが、音楽が進むにつれて熱を帯びてきました。表情も豊かになってきたし、管楽器にも火が入ったようです。クーベリックの指揮もテンポを自在に動かして生き生きとした音楽を作り出します。
それでも、アンサンブルは乱れません。速い部分はかなりテンポを上げますがオケは安定しています。伸びやかで美しい演奏です。音楽は熱気を帯びてきていますが、安定したバランスで、暴走や突出もなく、クーベリックがしっかり手綱を締めながら音楽を運んで行きます。

二楽章、テンポの揺れは自然です。恣意的な表現はなく、純音楽と言うような清廉さです。クーベリックの指揮もとても丁寧にニュアンスをオーケストラに伝えているような感じがします。金管が入ってきてもうるさくない、綺麗な音です。しっかりコントロールが行き届いた範囲で、節度を保ちながら音楽を進めて行きます。とても安心感があって好感が持てる演奏です。

三楽章、遅めの開始とデッドなティンパニ。抑えたクラリネット、冒頭部分ってこんなに静かだったっけ?と思うくらい滑らかに進められて行きます。ものすごく統率されているようですが、オケのメンバーもクーベリックの音楽に同調しています。ffでも美しい。粗雑なところが一切ありません。これは、数ある「復活」の中で異彩を放つ名演でしょう。見事な演奏。

四楽章、独唱も艶やかで美しい。ヘラクレスザールの特性もあるのかな?わりとあっさりとした運びです。

五楽章、ゆっくりとしたテンポで金管群が伸びやかで見事な美しいffを響かせる。バンダはかなり遠い。バンダの後、木管やホルンのあたりからテンポは速くなる。
コラールの扱いは独特のバランス。その後のクレッシェンド、次の小節の一拍前に入るティンパニが次の小節の頭にクラッシュシンバルと同時に入ってしまう。ここは各オーケストラの打楽器奏者にとって鬼門ですね(^ ^)
とにかく伸びやかに良く鳴るオケだ。そして、音楽も次第に熱気を帯びてくるが、アンサンブルはほとんど乱れない。
バンダはあまり聞こえないくらい遠い。その後のffでテンポが落ちる、これは効果的!
バンダが遠いので、ステージ上のオケとの対比ができない。バンダだけになる部分はなかなか良い効果なのだが・・・・。
その後の合唱も消え入るようなppで始まる。途中からの独唱も頑張らなくても十分なバランスだ。次第に盛り上がって行く音楽だが、宗教的な雰囲気にふさわしい、大聖堂へ向かう隊列のように、厳かに、しかし近づくにしたがって燃え上がる感情がどんどん込み上げてくるような、充実した響き。終結部ではテンポはかなり動く。一度も暴走することなく、見事にまとめ上げた、クーベリック渾身の名演奏です。

暴走することはないけれども、十分な頂点を作り上げているし、熱気のある演奏で、クーベリック独特の世界を垣間見たような気がしました。

ズービン・メータ ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ものすごく気合の入った冒頭。音のスピート感からして違う。克明な表現、それに呼応するウィーンpoの殺気立ったような俊敏さ。開始三分ぐらい聞いたところで、もうすでに凄いことが起きそうな予感をさせる、空気。
メーターの若いエネルギーが突進してくるような、すごい集中力!
テンポは速めに進むが、内容が凝縮されている感じで、速いことは気にならない。また、ブーレーズで聞いたウィーンpoとは全く別物のようなシャープさがある。
中間部は、一旦ぐっとテンポを落としてまた加速!とにかく激しい。終わり方も予想外の凄さ。

二楽章、洗練された表現と言うより、幼い子供達が戯れるような、少し幼稚で微笑ましいような表現。ここでも他の演奏では聞いたことがない独特の世界を作っている。テンポも速めでちょっと落ちつかないような印象も。

三楽章、表情が豊か。メータは細部の表現にもしっかりリハしたようだ。ここでもテンポはわりと速めで一気に進んで行く。細部の表現まで行き届いているのだが、それよりも一筆書きで、それも太い筆で一気に書くような豪快さを持っている演奏だ!
オケもメータの気迫に必死に食らいついているかのよう。メータはロスpo時代は、こんな凄い演奏をしていたんだよなぁ。どうして今は、鳴かず飛ばずになってしまったのか?

四楽章、安定感があって、神経質な要素は微塵もない。あまりにも線が太くて、天国的な雰囲気は少し希薄か?

五楽章、低弦の鳴りっぷりが良いので、線も太く、安定感にもつながっているんだろう。金管のコラールでもテューバが強めでさらにクレッシェンドするあたりはワーグナーを聞いているかのようだ。
ウィーンpoはffでも限界まで絶叫することはない。メータの若いパワーとウィーンpoの奥ゆかしさが相乗効果を生んでいるのかも知れない。
もしも、ロスpoで演奏していたら、狂気の「復活」になっている危険性と裏腹だったと思う。まあ、それはそれで聞いてみたかった気がしなくもないが・・・・・・。
合唱は比較的小規模か、少し人数が少なく聞こえる。それにしても、常に低音の支えはしっかりしている。本当に、若いメータをウィーンpoがしっかりサポートしていると思う。信頼関係が築かれていたんだろう。
後半、テンポも動いて大きなクライマックスを迎える。感動的な頂点!すばらしい構成力。

本当に、一気にこの大曲を演奏してしまった。すばらしい名演です。理屈抜きに感動がある演奏で、初めて「復活」を聞く人にもお勧めです。

ジュゼッペ・シノーポリ フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
フワフワ感のある演奏です。ゴリゴリ力で押してくる演奏ではありません。
しかし、作品に語らせるような名演だと思います。
バランス感覚もすばらしい。

一楽章、冒頭から控えめな出だし。しかし、細部の動きやバランスまで徹底されている感じで、集中力も高くシノーポリの統率ぶりがうかがえる。比較的打楽器を抑えた録音になっているせいか、刺激的な部分はあまりなく、抑制の効いたバランスの良い演奏で嫌味がない。その分、狂気のような部分はスポイルされているかもしれない。色彩感も若干乏しいか。

二楽章、小気味良いマーチのような出だし。わりと速めのテンポで、ねばることもなく進む。それにしてもオケは上手い!速めのテンポながら旋律は十分歌わせていて、聞いていて心地よい。フィルハーモニアのメンバーもシノーポリとの演奏を楽しんでいるかのようだ。信頼されていたのだろう。

三楽章、ここでも冒頭のティンパニから抑え目だ。しかし、一つ一つのフレーズをとても大切に演奏しているのが伝わってくるし、歌がある。精神分析医などの側面が強調されがちなシノーポリではあるが、そのような単語から想像する演奏とはまるで違う、人間味のある暖かい音楽。
シノーポリの作品への深い共感とオケの楽員との良好なコミュニケーションがあったからこそなしえた演奏なのではないかと思う。

四楽章、作品を慈しむかのような心のこもった演奏

五楽章、冒頭の炸裂から開始するが、ここでもオケは余裕を残している。バンダも良い距離感があってステージ上のオケとの対比も見事。弱音がホールに広がっていく感じもなかなか心地よい。
7分過ぎたあたりから、オケもフルパワーに近付いてくるし、ここまで控えめだった打楽器も炸裂しはじめる。それでも丁寧な演奏には変わりは無い、決して暴走はしないところがこの演奏の特徴でもある。シノーポリもオケを煽ることもなく、どっしりとしたテンポで音楽を進めていく。
バンダのトランペットの音がステージ裏に響き渡る。音響的効果もすばらしい。
合唱が入ってからも、外へ放出ではなく、内面へ言い聞かせるように歌い始める。独唱陣も伸びやかな歌声を響かせる。弱音部の楽器の絡みのどのパートも絶妙に受け継がれていく。フィルハーモニアってこんなに上手かった?
そして、最後に輝かしいクライマックス!最後の伸ばしでトランペットがクレッシェンドするのには驚かされた。

このシノーポリの演奏には、即興性などはない、緻密に設計されたものを、正確に音に変えて行く作業なのかもしれない。マーラーの内面にあるドロドロしたものを表現できているかと言われれば、その面では弱いかもしれないが、音楽としての完成度はきわめて高い名演奏だと思う。
シノーポリのマーラーはそんなに高い評価はされていないのかも知れませんが、この演奏はすばらしいと思います。奇抜なアイデアなどもなく、正面から音楽に取り組んだ名演奏は貴重なものだと思う。最初に買うんだったらこれはお勧めです。

クラウス・テンシュテット ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
テンシュテットの手兵ロンドンpoとの録音。
良好な信頼関係が生み出す、爆演!
オケも限界を超える!
「マエストロのためだったら俺たちは120%の力を出すんだよ」と言っていたというロンドン・フィルのメンバーたち。すごい信頼関係ができていたんだろう。

一楽章、激しい弦のトレモロそして低弦の旋律、冒頭からフルパワーが伺える。かなり遅いテンポで音楽は進む。全身全霊をかけて一音一音に命を吹き込むようにブラスも全開。とにかくテンポが遅く起伏がものすごく激しい。遅いかと思うと急激にテンポを上げたり、またものすごく遅くなったり、テンシュテットは作品と一体になっているようだ。マーラーの霊が乗り移っているかのようにも感じるくらい緩急自在で強烈な演奏。
すごい世界だ!だんだん引き込まれていく。テンシュテットは本番前には極度にナーバスになっていたと言われているが、これだけ自分の音楽をさらけ出すには、それはナーバスにもなるだろう。
これほどの作品への共感と没入は聴いたことがない。聴いているこちらも打ちのめされるような、凄いとしか言葉が出てこない。

一楽章が終わってから、最低でも五分の休憩をはさむ指定をしたマーラーだが、この演奏なら分かる。休憩しないと、きつい。恐ろしい演奏を聴き始めてしまったと言うのが偽らざる感情です。これが生演奏だったら、怖くて逃げ出すかも知れない。それほど何かにとり憑かれたような演奏だ。

二楽章、少しゆっくりめに開始、一楽章とはガラリと表情が変わる。穏やかだ。前の楽章で徹底的に打ちのめされたのを癒してくれるように、ゆりかごのようにテンポも揺れながら音楽が進んでいく。しかし、それもつかの間、また現実に引き戻される。とにかく振幅の巾が広い。

三楽章、一つのフレーズにも強弱の変化やテンポの揺れがあって息つく暇を与えてくれない。先に何が起こるか分からない。とにかく、普通に想像する以上のことが展開されて行く。ロンドン・フィルのメンバーもテンシュテットの棒によく付いて行っている。楽員たちがテンシュテットを尊敬しているんだろうなぁ。奏者にも相当の負担を強いる演奏だと思う。ただ、シノーポリとフィルハーモニアの演奏の時に感じた美しさはこの演奏にはない。テンシュテットの要求を音にするだけで精一杯なんだろう。
それでも、十分。まだ三楽章なのにオケのメンバーをねぎらってあげたい気分にさせるほど格闘しているのが伝わってくる。本当に稀な演奏だ。

四楽章、信じられないくらい遅い出だし。鳥肌が立った。とにかくテンポが動く、そして十分に感情を込めた独唱。そして天国へといざなってくれる。この楽章はあの有名なバーンスタインの演奏よりも遅い。

五楽章、冒頭から全開!!金管も打楽器も炸裂する。バンダは程よい距離、割と正攻法で進む、しかしオケは本当に120%なのかも知れない。強奏部分では、四楽章とは対照的に前へ前へと進む強い推進力。バンダとフルートの掛け合いはホールの響きも含んだ豊かな感じ。
消え入るようなppで入ってくる合唱。その合唱からろうそくの炎が立ち上るような独唱。合唱もすごい緊張感が伴っている。合唱にオケや独唱がからんでくると、また振幅が・・・・・。思わず天を仰ぎ見たくなる。ffで合唱とオケが一緒になる部分から、アインザッツが合わないところが出てくる。合唱は別録りか?バランスも合唱が強くて旋律が消えるところもある。
しかし、最後の力を振り絞ってブラスの炸裂!CDを聴いてこれほど感動することは、私にとっては珍しい体験です。それぼと強烈な何かを伝えてくる名演です。

最初に聞くCDとしてはお勧めしません。いくつか復活のCDを聴いて「復活」のイメージをある程度持っている人には絶対に聞いてほしい演奏です。ただ、聴き終わると、どっと疲れる。それほど力を持った演奏なのです。スタジオ録音でこれだけ、やりたいことを貫徹する指揮者も珍しいでしょう。
昔は、個性的な巨匠たちが群雄割拠していたんだろうけれど、最近は、音楽大学などでの教育が行き届いてしまって、このような破天荒な演奏をする人がいなくなったのは、業界にとっては大きな損失でしょう。多分、テンシュテットやバーンスタインが巨匠と呼ぶにふさわしい指揮者の最後の世代でしょう。テンシュテットが若くして病に倒れたのは慙愧に耐えない。もっと本当の音楽を残して欲しかった。

クラウス・テンシュテット 北ドイツ放送交響楽団

★★★★★
テンシュテットの本領発揮のライブ録音。1980年の録音です。
強烈な演奏です。重い。
表現の振幅もものすごく、オーケストラのアンサンブルも度々乱れます。
テンシュテットは安全運転とは無縁の指揮者ですね。オケが崩壊しそうになっても、自分がやりたい音楽を追い求めていく、名盤中の名盤だと思います。

一楽章、ライブとは思えないほど明晰な録音。もしかしたら3000Hz~4000Hzあたりにピークがあるのかもしれません。ものすごく遅く重い冒頭部分です。彫りも深く、強烈!テンシュテットは、この演奏でも、もの凄く振幅の激しい演奏をしています。遅い演奏の途中でritしたり、開始五分でもう完全にテンシュテットの世界に引きずり込まれます。
この遅さで、どうしてこれほどの緊張感なんだろう?魔力とでも言うべきか。ロンドンpo盤も凄い演奏でしたが、こちらはライブと言うこともあって、さらに上を行く壮絶な演奏です。
テンポは聞き手の想像を超えて自在に動く、緩急の変化もすごい巾があり、こんな演奏がライブで実現していたことが信じられない。
アンサンブルも乱れますがおかまい無しに前進します。テンポが早くなった部分は、もう騒乱状態のような異常な演奏です。遅いところはまた、これでもかと思いのたけをぶつけてくる、まるで狂気とでも言うべき演奏。

二楽章、この楽章も遅めのテンポで開始。陰鬱な影がしのびよるような不気味さ、何かに追われているかのようにテンポを煽ったり、また極端に遅くなったり、予想外の事態の連続です。
時には乱れるものの、この異常な指揮についていくオケの上手さも特筆ものです。聞き手にも、相当な覚悟を迫ってくる演奏です。軽い気持ちででは耐えられなくなりそうです。

三楽章、スチールの18リットル缶でも叩いたような異様なティンパニの音から始まる。そして、ここでもテンポが動く動く、弦のアーティキュレーションの表現も明確。とにかくテンシュテットの主張が強く、オケは引きずり回されるような、格闘の試合のような真剣勝負です。

四楽章、ここでもテンポは遅いがロンドンpoのときほどではない。楽章終盤でがくっとテンポが落ちて、天国へ!

五楽章、全開始動!テンポ設定はロンドンpoのときとはかなり違う。無音になるところや、フレーズの終わりでテンポが落ちたり、7分過ぎたあたりで、ティンパニから一拍遅れてクラッシュシンバルのはずが、ティンパニと同時にド派手に入ってしまう、それにつられてトライアングルも全然違うところで叩きはじめる(^ ^;・・・・・こういうのはライブにはつきものですね。
その後も一小節前に入るシンバルやその他のパートもアンサンプルが乱れる。それでもテンシュテットはオケを引きずり回す。オケも立て直して、この壮絶怒涛の演奏は続けられる。
弦のアンサンブルも乱れが・・・・これだけの演奏の緊張感を維持し続けるのは並大抵のことではないだろう。テンシュテット自身も大変だろうが、オケのメンバーはすごく疲労していると思う。
テンシュテットは楽員に作品への没入を強く要求したと伝えられている。そして、そのことが楽員の不評を買い、このオケとは喧嘩別れになってしまうのだが、妥協を許さないテンシュテットと言う孤高の巨匠の置き土産だ。
合唱も内声部とのバランスも良く、それが一体となってフレーズに山を作ったり表情豊かだ。
これほどまでに、テンポを動かすところがあるのか!と思い知らされる。作品に没入して一体とならなければ、こんな演奏は絶対できないであろう。テンシュテットにとっては一曲一曲、1ステージ1ステーシ゜が真剣勝負だったんだ。
全開からさらにクレッシェンドがあり壮絶なクライマックス。まさにクライマックスだ!

恐ろしい演奏を聴いてしまった。拍手がカットされているのが残念です。
聴衆の反応はどうだったんだろうか。筆舌に尽くしがたいと言う言葉があるが、まさに私のボキャブラリーでは表現し尽せません。
ここまで、音楽に身を奉げた演奏家を私は知りません。

サー・ゲオルグ・ショルティ ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

★★★★★
ショルティがベルリン・フィルと残した珍しいライブ録音
シカゴ交響楽団とのスタジオ録音とはかなりイメージが違います。
このライブはシカゴ交響楽団とのスタジオ録音の一年前の演奏です。
まず、シカゴの録音で気になった、異常にマイク位置が近い録音とは異なり、適度に距離があるので、ホールの響きも十分に拾っています。

一楽章、最初のテンポ設定や金管を積極的に鳴らす、ショルティの演奏スタイルはこのベルリン・フィルとの演奏でも同様です。録音の関係でシカゴの演奏より自然に聞くことができますが、かなり気合の入った激しい演奏です。
しかし、そこはライブ、叙情的な部分では、じっくり味わいながら少しテンポが落ちるところが、ショルティも人間だったんだなぁと安心させられます。やはり、緩急の差はシカゴの録音以上にあります。
硬質なティンパニの強打や嵐のようなffなど、シカゴの演奏よりスリリングで聴き応え十分です。まだ、一楽章の途中ですが、ものすごく良い買い物をした気分になっています。テンポの遅い部分も、グッとテンポを落とした演奏で、じっくりと音楽を味わうことができます。すごい名演の予感がしてきました。

二楽章、やり過ぎにもならず、適度な表情付け、比較的あっさりと進む。と思わせておいて、弦の急激なクレッシェンド。また、何もなかったかのような、ゆったりとした音楽。ベルリン・フィルもこの頃が一番コンディションが良い時代だったのでは、ショルティの指揮に応えるベルリン・フィルも本当に上手い!

三楽章、基本解釈はシカゴと同じです。ライブで残響を伴うものの、テヌートやスタッカートの対比やその他のアーティキュレーションの違いも伝わってくるので、アバドのライブのような平板な感じがなくて、こちらも耳をそばだてて聴く状態にさせてくれる。これが本当の巨匠の格なのか。細かいアンサンブルの乱れはあるけれど、そんなことは全く問題にならない。
また、トゥッティの湧き上がるようなエネルギー感もシカゴの録音とはかなり感覚が違います。底から湧き上がるようなff。シカゴの場合は槍で突き刺されたようなffのイメージです。

四楽章、わりと、あっさりと進む、最後は天国的

五楽章、基本的にはシカゴとの録音と同じ解釈で進むが、オケの伝統の違いのような部分も見受けられて興味深い(トロンボーンのビブラートなど)。しかし、ライブならではの部分も。クレッシェンドしながらショルティがねばりにねばる!そして、シンバルとトライアングルは別世界へ?
ソプラノ独唱は明らかにこちらの方が良い。誰かと思ったら、ルチア・ポップだった。上手いわけだ。
最後は、さすがのベルリン・フィルもちょっとバテぎみか?それでも、すばらしい演奏だった。

「復活」の名演、名盤はたくさんあるが、これも十分な名演だった。
一夜限りのノーカットライブでこれだけの完成度の演奏ができる指揮者とオケ・独唱・合唱に惜しみない拍手を送りたい。

マーラー 交響曲第2番「復活」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

マイケル・ティルソン・トーマス サンフランシスコ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、 ホールトーンを伴って深みのあるコントラバスの第一主題。ゆっくりと確実に歩みを進めるような冒頭部分です。明快で鋭いブラスセクション。響きに透明感があります。第二主題もゆったりとたっぷり歌います。展開部もゆったりと、とてもよく歌われて心地よい演奏です。ブラスセクションがとても良く鳴り表現も幅広いです。静寂な部分と最強奏の幅がものすごく広大ですごい演奏に感じます。すばらしく充実した第一楽章でした。

二楽章、中庸なテンポでの開始。フレーズ最後で少しritしたり、表情もとても豊かです。優しさに溢れる響きで、サンフランシスコsoがこれほど音色に幅を持ったオケだとは思いませんでした。うれしい驚きです。ブラスが入ってくると一転して響きが鋭くなります。場面場面の描き分けもとても良いです。アゴーギクも効かせてたっぷりの歌です。

三楽章、速めのテンポの開始です。この楽章も表情豊かです。表情は豊かですが、感情移入してドロドロになる感じはなく、むしろとても爽やかな演奏になっています。テンポもとても大きく動いています。MTTの指揮も変幻自在。

四楽章、静かに歌い始める独唱。美しい金管のコラール。オーボエのソロも歌に溢れています。独唱もこの演奏にマッチした豊かな歌です。

五楽章、大太鼓の炸裂!ブラスの咆哮と打楽器が波のように押し寄せて来ます。程よい距離感のホルンのバンダ。続くオーボエはスタッカートぎみ。美しい「復活」の動機。テンポの動きも自然で理解できるものです。展開部の前はかなりテンポが遅くなりました。展開部からも豊かに鳴り響くブラスセクション。心地よく響き渡るバンダのトランペット。静かに歌い始める合唱。合唱の中から控え目にそして次第にはっきりとした存在感を示す独唱。比較的速めのテンポで歌われた二重唱。その後大きくritして終結部へ。絶叫するような頂点ではありませんでしたが、とても爽やかで見事な演奏でした。

サイモン・ラトル ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、大らかな雰囲気の弦のトレモロに続いて底から抉り出すような第一主題。コントラバスに豊かな響きが乗っかって気持ちの良い響きです。弦の厚みなどはさすがにベルリンpoと思わせるものです。強弱の変化とテンポの動きがあってとても豊かな表情の第二主題。大切なものをそっと運ぶように丁寧にしかも弱く丁寧に演奏された、展開部の第二主題。展開部からは遅めのテンポで進みます。分厚い弦楽器に隠されるように金管は突き抜けてきません。再現部の前はゆっくりと叩きつけるような演奏でした。再び現れる第二主題はとても美しいものでした。最後のドラが強く打ち鳴らされた後の弦は4回強くアクセントで入りました。最後はすごくテンポを落として一音一音刻むように終りました。

二楽章、優しい響きがとても心地よい演奏です。いろんなところでちょっとした間を取ったりしてとても作品への共感が感じられます。突然アッチェレランドしてまたもとのテンポに戻ったりすごく自由に音楽をしています。二回目の主部はチェロの対旋律がとても良く歌って良い雰囲気です。ラトルの感情にしたがってテンポが速くなったり遅くなったりとても伸びやかで解き放たれたように自由です。こんなに自由奔放な演奏に出会ったのは初めてです。

三楽章、硬質なティンパニの強烈な打撃がホールに響きます。強弱の変化などいろんな工夫があります。この演奏を聴いていると新しい発見がたくさんあります。クラリネットは特に幅広い表現をしています。ラトルのベルリンpoのデビューCDになったマーラーの5番では何とも変てこな演奏をしていたように記憶しているのですが、オケとの信頼関係も生まれて、ラトルが自由に音楽をできるようになったんだなあとつくづく思います。この楽章でもテンポは動いています。

四楽章、祈りのようなコジェナーの独唱。続く金管のコラールはすごく遠くから響くような感じが神秘的ですばらしいです。途中でテンポを落としてたっぷりと感情を込めて歌う部分もありとても濃い演奏です。そして、天国へ。

五楽章、重いドラの一撃。分厚い弦をかろうじて突き破って金管が聞こえてきます。バンダのホルンは間接音を伴って良い距離感です。第二主題の後ろの弦のピチカートも強弱の変化がしっかりとありました。ファゴット、クラリネット、フルートとステージ上の楽器とステージ裏のホルンの対比がとても効果的な距離感でした。金管のコラールは美しくしかもずーっと音が繋がっていました。展開部から次第に音楽が熱気を帯びてきます。凄く長い打楽器のクレッシェンド。鳥肌が立つような壮絶な演奏です。再現部に入る前にまたテンポを上げました。バンダのホルンとステージ上のフルートが登場する前はすごくテンポを落としてたっぷりと豊かな表現でした。バンダのティンパニも硬質な音でとても気持ちが良い音です。柔らかくフワッと浮かび上がるような合唱がとても美しい。合唱のきれいな和音の中に浮かび上がる独唱。輝かしく「復活」を歌い上げます。さすがに超一流のメンバーで作り上げる音楽はすばらしいです。ラトルが作品に込めた思いもたくさんあったのだと思います。とても凝った表現もありましたが、オケや合唱が一体になって壮大なクライマックスを築き上げました。本当にすばらしかった。

エリアフ・インバル/東京都交響楽団

icon★★★★★
一楽章、すごい緊張感という雰囲気でもなく、かと言って緩い感じでもなくほどほどの温度感で始まった第一主題。ホールの響きを伴って伸びやかで美しい木管。頂点で思いっきり炸裂するシンバル。すごく感情を込めて歌う第二主題。インバルの思い入れの表れたテンポの大きな動きです。展開部の第二主題は非常に遅いテンポで、すごく感情のこもったものです。陰影もすばらしい。フルートに第二主題が現れるころには速いテンポになっていました。テンポの変化も自然で全く違和感がありません。再び第一主題が出た後もすごくテンポを落としました。第二主題の再現もすばらしく美しい。オケの響きには強靭な厚みは感じませんが、とても良く鳴り美しい響きを聴かせてくれます。すばらしい第一楽章でした。

二楽章、柔らかく優しい主題。テンポも絶妙に動いて、ライヴらしい感情表出です。包み込まれるような優しい響きが一楽章とは違った表情を作っています。ピチカートに乗って控え目なピッコロ。すごく歌うわけではありませんが、奥ゆかしく程よい歌とテンポの動きに好感が持てます。

三楽章、ティンパニの良い質感。表情豊かなヴァイオリンの主題に続いてクラリネットも豊かな表情です。インバルの指揮もライヴと言うこともありフランクフルト放送soの録音のような抑制の効いた演奏とは違い、感情移入もあり、テンポも動きとても積極的な表現で、引き付けられます。

四楽章、ゆっくりとしたテンポで心のこもった独唱です。金管のコラールも神聖な雰囲気です。少し細身で清らかで澄んだ声で歌います。さいごはテンホをさらに落としてたっぷりと演奏しました。

五楽章、一転、音で溢れかえるような迫力の怒涛の第一主題。適度な距離のバンダのホルン。速めのテンポでどんどん進みます。ちょっと落ち着きが無いような感じもあります。展開部も速いテンポで力強く進みます。再現部の前は少しテンポを落としました。トランペットのバンダはかなり近いような感じです。かなり抑えた合唱の入りです。基本的には速いテンポですが、所々でテンポを落として情感たっぷりの演奏です。鳴り響く金管とその後ろに広がる合唱が力強いクライマックス。

ライヴ独特の感情の揺れとインバルの見事な統率力でこの大曲をまとめ上げた、すばらしい名演だったと思います。

チョン・ミョンフン/ ソウル・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、凄いエネルギーで厚みのある第一主題。ゆったりとした足取りで克明に描いて行きます。整ったアンサンブル。ブラスセクションも充実した響きでかなり優秀なオケのようです。第二主題に向けてテンポを落としたっぷりと歌われます。第二主題の途中で一旦テンポを落としました。伸びやかで美しい演奏です。展開部の第二主題はすごく抑えた音量で非常に美しく演奏されました。とてもゆったりとしたテンポで濃厚な表現です。ホルンも美しい。響きにも透明感があり、スケールの大きな音楽を展開しています。再び現れる第一主題の銅鑼が強烈です。続くコントラバスの部分はすごくテンポを落としています。ホルンにコラール風の旋律が現れるあたりから少しずつテンポを速めます。トライアングルが透明感の高い美しい音色です。色彩感も濃厚で感情表現も十分でなかなか良い演奏です。再現部の前も叩きつけるようにテンポを落とし直前ではさらにテンポを落としました。再現部の第二主題も非常に美しい。遅いテンポですが、流れる音楽に身をゆだねてどっぷりと音楽に浸ることができます。

二楽章、豊かな響きを伴って柔らかく伸びやかな弦の響き。アゴーギクを効かせた感情のこももった歌が聴かれます。間を空けたりテンポが揺れたりして情感たっぷりです。中間部の終盤でもテンポをritしています。主部の再現では大きくテンポが動くことはないですが、それでもたっぷりとした歌です。中間部の再現では後半にテンポを落としてたっぷりと濃厚に表現します。最後の主部の再現の前にテンポを上げてまたテンポを落として、最後の主部の再現になりました。作品への共感を感じさせる美しく歌に溢れた楽章でした。

三楽章、釜の鳴りを十分に響かせるティンパニ。表情豊かなヴァイオリン、クラリネット。チョン・ミョンフンが作品と同化しているかと思わせる深い共感ぶりです。中間部でマルカートぎみに演奏するトランペット。とても克明に表情が付けられています。ティンパニがとても良い音を響かせています。

四楽章、これも感情のこもった独唱です。あえて抑揚を付けずに演奏しているような金管のコラール。ゆっくりと切々と語りかけるような感情表現たっぷりな独唱です。透明感のあるクラリネット。少しoffに録られているヴァイオリン。そして天国へいざなってくれました。

五楽章、深い響きの大太鼓と銅鑼。圧倒的なパワー感ではありませんが、そこそこの力感を感じさせる金管。怒涛の打楽器のクレッシェンド。間接音を含んで程よい距離感のホルンのバンダ。第二主題を過ぎてバンダのホルンの前で演奏される木管は音を長めに演奏されるのがとても美しく感じました。溶け合って美しく歌われる金管のコラール。展開部の金管も美しい。そして打楽器の活躍がめざましい。再現部に入る前に大きくテンポを落としました。少しこもったようなバンダのトランペット。バンダのティンパニも遠くで響く雷のように強打されます。このオケの打楽器陣は強力です。比較的大きな音量で始まった合唱。大きな大河の流れから少しだけ顔をのぞかせる独唱。独唱も大きなオーケストレーションの一部として、すごくバランスに気を使った演奏です。合唱と一緒ではないソロでは朗々と歌います。男声合唱が音量を上げると、ホールの響きを伴ってとても美しい響きです。圧倒的な合唱のエネルギー感がすばらしい。打楽器のクレッシェンドでねばったり、演奏が進むにつれて演奏が白熱して圧倒的なエネルギーが発せられたのだと思います。

チョン・ミョンフンの感情移入がオケや合唱にすばらしい共感を生み出し最後は圧倒的なクライマックスでした。オケもアジアでトップクラスのオケでしょう。アジアのオケらしく金管のパワーは欧米のオケには及ばないとしても、その他の部分では一流オケとも遜色ない演奏でした。韓国でもこんなにすばらしいマーラーが演奏されていることに驚きます。

レイフ・セーゲルスタム デンマーク国立交響楽団

セーゲルスタム★★★★★
一楽章、第一主題の三回目のフレーズを弱く開始してクレッシェンドしました。ホールの響きを伴って美しい木管。金管の響きも美しく、オケの響きに透明感があります。ゆったりとした第二主題も大きくテンポが動いて、凄く感情が込められています。第一主題が再度現れる部分でも二回目のフレーズの最初の音に間を置いたり、独特の表現です。展開部の第二主題はさらにテンポを落として音楽に酔うようなテンポの動きです。美しい音色に惹きつけられます。弱音にも細心の注意が払われています。フルートの第二主題は一転して速くなりました。第一主題は金管炸裂。続く低弦、コールアングレ、フルートなどの部分はすごくテンポを落として陶酔しているような演奏です。トランペットの強奏部分ではテンポが速くなりました。とにかく激しくテンポが動きます。再現部の第一主題も二回目のフレーズの最初の音を長めに演奏しました。第二主題が繊細で美しい。コーダもゆったりとしたテンポで濃厚です。セーゲルスタムの感情が刻み込まれた演奏で感じるままにテンポが大きく動く演奏でした。

二楽章、最初の音を演奏してから間を置いて次の音へと移って行きました。デンマーク国立交響楽団って始めて聴くオケですが、とても美しい演奏です。とてもゆっくりとしたテンポで感情を込めて行きます。大切な物を大事に扱うような丁寧な演奏です。中間部も遅いテンポでとても情感豊かです。二回目の主部はさらにテンポを落として陶酔しているかのようにたっぷりと歌います。セーゲルスタムの風貌からは想像もつかない透明感の高い、涼しげな音色ですが、濃厚な感情が込められています。最後の主部の再現でも弦のピツィカートもとてもゆっくりした演奏です。とても安堵感のある安らいだ演奏でした。

三楽章、強烈なティンパニの一撃でした。この楽章は一転して一般的なテンポで流れます。とても緻密に表情がつけられていて、細部まで豊かな表情です。中間部の金管の主題も美しい響きでした。テンポを落としゆったりと歌うトランペット。主部が戻ってまたテンポが速くなりました。豊かな表情に生命観を感じさせる演奏です。この楽章でもテンポがよく動きました。

四楽章、柔らかく歌い始めるアルト独唱。意外と淡々とした金管のコラール。セーゲルスタムの解釈に合わせて感情の込められた独唱です。アゴーギクを効かせるヴァイオリン独奏。最後は天国へ。この楽章でもテンポが動きます。

五楽章、重い銅鑼の響き、金管の第一主題の絶叫の途中でテンポを煽りました。ホルンの動機が現れるまでの間もゆったりと濃厚な表現でした。凄く遠いバンダのホルンの動機。テンポが頻繁に動きます。第二主題部の木管は良く歌いました。トロンボーン、トランペットと引き継がれホルンが現れる部分ではテンポを大きく落としました。遠いバンダのホルンの前で木管がスタッカートぎみに演奏します。深みのある金管のコラール。展開部の壮大な響きがすばらしい。打楽器のクレッシェンドの前はテンポを速めました。打楽器の後もテンポは速いままです。テンポはよく動きまてが、オケはちゃんと付いて行っています。テンポを速めて演奏する部分では生き生きとした生命感や躍動感があります。再現部で長く尾を引くバンダのホルンとトランペット。意外と抑えることなく始まった透明感の高い清涼感のある合唱。合唱の中から次第に浮かび上がるアルト独唱。伸びやかな男声合唱。オケのパワー感が溢れるような強力なクライマックスではありませんが、十分輝かしく壮大なクライマックスでした。最後のオケだけになる部分の金管のエネルギー感はすばらしかったです。最後の伸ばす音は銅鑼もロールしていたような音がしました。

セーゲルスタムの感情のままにテンポが動く演奏は古いスタイルかも知れませんし、好き嫌いが分かれるでしょう。私には特にテンポを落としてたっぷりと表現される音楽がロマンティックでとても心に残った演奏でした。

マルクス・シュテンツ/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、コントラバスの弓から松脂が飛び散るような凄味のある第一主題。ホルンも強くビーッと鳴ります。リズムの切れも良く、スコアに書かれている音符を全てさらけ出そうとするような演奏です。第二主題への移行はテンポも動かさずにすんなりと移りました。振幅の大きな音楽です。展開部はセッション録音らしく鮮明な独特の美しさです。解像度高く鮮明で美しいフルートとヴァイオリンのソロ。テンポを速めるところでは畳み掛けるように劇的でぐんぐん前へ進もうとする強い推進力があります。再現部の前はゆっくりと叩きつけるように、そして最後はさらにテンポを落としました。再現部の第二主題はあっさりと始まりましたが次第にテンポが遅くなり、こってりとした表現です。コーダはゆっくりとこの曲が葬送行進曲だったことを印象付けます。さらにテンポを落として終わりました。

二楽章、すごく歌い細かな表情が付けられた主題。押したり引いたりの揺れが心地よい演奏です。テンポも動いて豊かな表現です。中間部の三連符も繊細です。テンポの動きと強弱の変化が幅広くとても積極的な表現です。基本のテンポは速めでぐいぐいと前へ進みますが、時折テンポを落として小休止のような落ち着きを与えてくれます。弦の入りにアクセントを付けて色彩感を強調するような演奏です。

三楽章、ヴァイオリンの主題にもアクセントが付けられて、続く木管にも表情が付けられています。シュテンツはかなり細部まで表現にこだわったようです。無表情に演奏されるパートは皆無と言って良いほど無くとても生き生きとした音楽になっています。終盤で金管が炸裂します。すっきりとした明るい響きでとても心地良い響きでした。最後にテンポをグッと落としてまた加速して落ち着いたところで終わりました。

四楽章、ドラの響きが残る中から独唱が始まりました。あっさりとしたコラール。人間が歌っている自然な歌声の独唱です。感情が込められた独唱。

五楽章、重い響きのドラ。明るい金管全開の炸裂。遠くから明るい響きのホルンです。第二主題の後ろの弦のピツィカートも強弱の変化があります。ホルンのバンダは遠いですが、かなり強く吹いているようです。チューバが底辺をしっかり支える重厚な金管のコラール。展開部でも金管の充実した響きが聴かれます。初めて聴いたオケですが、かなり上手いです。打楽器のクレッシェンドにもの凄く長い時間を使いました。こんなに長いクレッシェンドは初めてです。再現部に入って、トランペットのバンダは聞き取りにくいほど遠くにいます。トゥッティの金管のマッシブなパワーも凄い力があります。ホルンのバンダとバランスの取れたトランペットのファンファーレ。比較的大きめの音量で歌い始める合唱。合唱から抜き出てくる独唱。弦が歌い次第に高揚して行きます。男声合唱が強く歌う部分でもバックで金管がしっかり鳴っています。広がりのある男声合唱。二重唱の後テンポが速くなってきました。その後大きくテンポを落としてクライマックスへ。圧倒的なパワーのクライマックスでした。

豊かな表情付けと、最後の圧倒的なクライマックスへと音楽を運ぶシュテンツの設計も見事でした。素晴らしい演奏でした。

グスターボ・ドゥダメル/ ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団

ドゥダメル★★★★★
一楽章、大勢で演奏している感じが伝わってくる響きです。ゆったりとした第一主題。注意深く表現しています。大編成の充実した響きです。第二主題もゆったりとしたテンポで作品を慈しむような表現です。若いメンバーで構成されたオケですが、その若さが溢れ出るような活気に満ちた演奏には惹かれるものがあります。展開部の第二主題はさらにテンポを落としてたっぷりと歌います。テンポは遅いですが、気持ちのこもった密度の濃い演奏です。第一主題が現れる前からテンポを上げました。南米のオーケストラらしく原色の色彩感濃厚な演奏です。第一主題の後の低弦はすごく遅いテンポです。ライヴらしく即興的に大きくテンポが動きます。コーダの葬送行進曲を予感させるように切ない第二主題。夕暮れから日没へと向かうような寂しさを感じさせます。コーダもゆっくりとしたテンポで引きずるような葬送行進曲です。深みのあるドラの響き。最後は速いテンポで一気に終わりました。

二楽章、間をあけて、ゆっくりと語りかけるようなほのぼのとした雰囲気です。同じメロディーでも強弱の変化を付けたりして、多彩な表現です。ドゥダメルは表現の引き出しをたくさん持っているようです。とてもゆったりとしたテンポで歌います。中間部はテンポも速めてかなり激しい表現で、主部とは対照的な演奏です。二回目主部が戻ると夢見心地のような音楽に身をゆだねるような気持ちにさせる見事な音楽です。二回目の中間部もテンポを上げて主部とは対照的な音楽で描き分けています。三回目のピチカートの主部も柔らかい響きでとても心地よい演奏です。最後はハープが美しく立体的にクローズアップされました。

三楽章、遠くで響くティンパニ。二楽章から一転して速めのテンポで生き生きとした表現の演奏です。煽り立てるように前へ前へと進む音楽。勢いを感じさせるクラリネット。ドラの崩れ落ちるような深い響きはこの演奏のスケール感を大きく感じさせるのにとても効果的です。とても積極的な表現をする管楽器。小さいミスはあるけれど、ユース・オーケストラとは思えない完成度です。また、ミスを恐れずに積極的に表現しようとするオケのメンバーの若さが溢れる演奏にとても好感が持てます。

四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポで感情のこもった独唱です。チューバの響きが弱く薄い響きの金管のコラール。豊かな表現で語りかける独唱も見事です。最後はさらにテンポを落として濃厚な表現で天国へといざなわれました。

五楽章、遠くから響く金管の第一主題。打楽器の怒涛のクレッシェンド。この楽章もゆっくりとしたテンポで丁寧に進めて行きます。柔らかく長い尾を引いて響くバンダのホルン。第二主題も表現力のある演奏で、ゆったりとしたテンポでも間延びしません。展開部でもユース・オケとは思えない充実した響き。クラッシュシンバルが豪快に、しかもとても良い音で鳴り響きます。若いオケのメンバーが高い集中力で力の限りの演奏をしている姿には感動さえ覚えます。少しくすんだ響きのバンダのトランペット。再現部へ向けてテンポを上げました。静まったところでまたテンポを落としました。柔らかい響きが溶け合うバンダのトランペット。ステージ上のフルートとバンダの演奏がすごく立体的に聞こえます。抑えた合唱で始まりました。合唱の合い間の弦楽合奏川の流れのようにとうとうと豊かな演奏でした。二回目のソプラノ独唱は一回目よりも音量を上げ、バックの合唱も次第に音量を上げてきています。圧倒的な合唱にオケがマスクされたような感じです。クライマックスでは録音の関係でオケをミキシングで絞ったような感じがしましたが、生で聴いたら凄い演奏だったろうと思います。
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サイモン・ラトル/ バーミンガム市交響楽団

ラトル★★★★★
一楽章、勢いをつけたトレモロ。深みのある第一主題。オケが一体になったバランスの良い響き。第二主題に入る前に少しテンポを落としました。感情が込められた美しい第二主題。テンポや強弱も変化します。展開部の第二主題はテンポを落としてゆったりと深く歌われます。響きもヴェールに包まれたような美しい響きです。テンポも動き、激しいホルンの咆哮もあります。再び第2主題がフルートやヴァイオリン・ソロに現れる部分ではテンポが速くなっています。感情を込めて、畳み掛けるようにテンポが速くなったり、再現部の前は凄く遅く演奏しました。再現部に入っても少し間を空けたり、表現が豊かです。感情を叩きつけるように激しい金管のトリル。再現部の終わり頃はすごくテンポを落としてたっぷりと歌います。コーダの終わり近くの弦が何度も同じ音形を演奏する部分の頭に強いアクセントを付けて演奏しました。最後は凄くテンポを落としました。

二楽章、速めのテンポですが、たっぷりと歌われる主題。弦がリズムを刻む部分も迫り来るような力があります。テンポもアッチェレランドしたりritしたり大きく動きます。強弱の変化も激しいダイナミックな演奏です。ピチカートで演奏される主題も表情が豊かに付けられています。

三楽章、強烈なティンパニの一撃。とても克明な表情が付けられた演奏です。集中力の高い演奏であることが伝わって来ます。登場する楽器が鮮明な隈取りで入って来ます。とても色彩感のはっきりした演奏です。最後のドラはかなり強めに叩きました。

四楽章、控え目に入った独唱。美しい金管のコラール。慈しむように歌う独唱です。天国へといざなわれます。

五楽章、怒涛の全開第一主題。弦が強いアクセントで入って来ます。間接音を含んで適度な距離感のバンダのホルン。一音一音魂が込められたような第二主題。対照的にテヌートぎみに演奏されるトロンボーンとトランペット。美しく表情が付けられた金管のコラール。展開部でも全開のホルン。長い打楽器のクレッシェンド。再現部へ向けては速めのテンポで進みますが途中テンポを落とす部分もありました。トランペットと打楽器のバンダは比較的近い距離にいる感じです。静かに歌い始める合唱。伸びやかな独唱。クライマックスでは合唱がオケに負けているようなバランスになります。ゆったりと壮大にクライマックスを作り上げます。バンダも総動員のラストは壮観です。

テンポを大きく動かしたり、アゴーギクを効かせたりすることはありませんが、要所要所で感情移入した表現を聞かせ、最後は壮大なクライマックスを築いたすばらしい演奏でした。
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ズービン・メータ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2000年ライヴ

メータ★★★★★
1975年のウィーンpoとの高い集中力と若いエネルギーを思いっきりぶつけた快演と、後にイスラエルpoと残した超凡演の落差に驚かされましたが、このライヴではどんな演奏を聴かせてくれるのでしょうか。

一楽章、凄いスピード感のある第一主題。音楽にも強い推進力があります。第二主題も速めのテンポですが、思い入れはたっぷりです。キビキビとしたテンポで進みますが、時折大きくテンポを動かすこともあります。ウィーンpoの音色もとても美しく収録されています。展開部で第一主題が現れた後はかなりゆっくり演奏しています。盛り上がりに合わせてテンポを速めますが、再び遅くなったりかなりテンポが動きます。1975年の一筆書きのような豪快な演奏とは違う、年輪を重ねて音楽の濃淡を表現するようになったのか。基本的には速いテンポの演奏ですが、内容はかなり濃厚な演奏です。

二楽章、一音一音刻み付けるような表現もあれば、流れるようにサラサラと音楽が通り過ぎて行ったり、とても表現の幅が広いです。中間部の弦の刻みも克明です。クラリネットが落ちそうになります。音楽の起伏に富んだすばらしい演奏です。メータはニューヨークへ行ってから鳴かず飛ばずになりましたが、この演奏では、昔の輝いていた時代を思い出させるような活気のある名演です。

三楽章、表情豊かな主題。木管の後ろで動く弦の生き生きしていること。美しいトライアングル。この楽章の冒頭でも感じましたが、かなりデッドな録音で、中間部の金管も生音が突き刺さってきます。主部が戻って、再び生き生きとした表現になります。

四楽章、控え目に歌い始める独唱。この演奏の一部であることが非常に良く分かる一体感のある独唱です。

五楽章、怒涛のように押し寄せる第一主題。ホルンの動機に向けて自然に静まって行くのもとても良い感じでした。間接音を含んで適度な距離感のバンダのホルン。第二主題は速いテンポでグイグイ進みます。トロンボーン、トランペットと引き継がれた後はテンポを落としました。速いテンポですが、とても心地よい金管のコラール。勇壮で豪快に音楽は進んで行きます。色彩感も原色の濃厚な印象です。音楽の輪郭もくっきりしていて、メータの若い頃の特徴が再現されているようで、嬉しい演奏です。音量を極端に抑えているわけではないのですが、静寂感のある合唱。独唱も伸びやかな歌声でくっきりと浮かび上がります。トライアングルは全曲を通してとても美しい音で鳴っています。合唱が入ってからも速めのテンポでとてもリズミカルです。終盤でも金管が豪快に鳴り響き見事です。クライマックスへ向けての打楽器の強烈なクレッシェンド。

メータの燃え上がるような内面を見事に音楽として表出した名演でした。
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ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1995年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、強調することなく始まった弦のトレモロ。とても反応の良いオケで緊張感が伝わって来ます。第二主題へはほとんどテンポを変えずに入りました。ハイティンクの指揮ははったりをかますようなことは全くありませんが、細部にはすごくこだわった演奏をしているようです。オケの色彩感もとても濃厚で美しい演奏です。ここぞと言うところで僅かにテンポを落としたりもします。オケはとても良く鳴り、世界最高峰のオケの実力を遺憾なく発揮しています。黄昏れるような再現部の第二主題。コーダのハープの深い響き。テンポを変えずに終わりました。

二楽章、最初の音と次の音に間を空けました。オケの一体感のある見事なアンサンブルはさすがに素晴らしいです。美しい弦。ピーンと通るフルート。過去を回想するのどかな雰囲気がとても良く表現されています。細部に渡る表現の徹底ぶりはすごいです。

三楽章、軽い響きのティンパニ。弦や木管の表情がとても豊かです。オケがハイティンクの棒にしっかりと反応しています。どのパートも登場すればくっきりと浮かび上がりとても色彩感が豊かです。精密機械のように寸分の狂いも無く動くオケは見事としか表現のしようがないほどです。

四楽章、ゆったりと歌う独唱。感情の込められた金管のコラール。感情を込めて自由に揺れる独唱。

五楽章、軽~くそれでも鳴り渡る第一主題。第二主題も締まりがあって緊張感のある演奏です。静寂感と間もなかなか良いです。見事なハーモニーを聞かせる金管のコラール。展開部でも金管が気持ちよく軽々と鳴り響きます。とりたてて極端な表現などはありませんが、きちんと交通整理された見事な統率です。遠いバンダのファンファーレ。再現部へ入ってからもトランペットのバンダはすごく遠いです。合唱に入る前もかなり時間を置きました。合唱は極端に音量を落とした歌声ではありません。独唱も合唱のハーモニーの中を泳ぐような優雅な歌でした。合唱も一体感のあるとても優秀な歌唱です。合唱とオケに若干のアンサンブルの乱れがありました。盛り上がりに合わせてテンポを速めましたが、頂点の直前にritして頂点では元のテンポです。クライマックスでも合唱の表現は豊かで見事な統率です。オケも合唱もとても良いバランスでクライマックスを築きました。

極端な表現や主張はありませんが、細部まで見事な統率力で締めくくりました。感情でドロドロになることはありませんが、すごく美しく「復活」を聴かせてくれました。すばらしい演奏でした。
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エリアフ・インバル/東京都交響楽団 2012年横浜ライヴ

インバル★★★★★
一楽章、フワッと始まったトレモロ、軽いタッチの第一主題ですが、慎重な足取りです。くっきりと浮かび上がる締まった木管。感情を込めてアゴーギクも効かせる第二主題。テンポの振幅も大きく、慎重に進む部分と颯爽と進む部分の対比があります。とても濃厚です。展開部の第二主題は非常にゆっくりとしたてテンポで感情を込めた表現です。軽々と鳴り響く金管。色んな楽器がバランス良く演奏されるので、とても情報量が多いです。ライヴとは思えない透明感の高さと精緻さです。第二主題を一音一音押すようにゆっくり演奏するのが特徴的です。

二楽章、丁寧に歌われる美しい主題。テンポの動きも絶妙です。中間部の弦の刻みもとても丁寧です。乱暴や雑なところが全く無くとても高い集中力の演奏です。日本のオケらしく隅々まで神経が行き届いた良い演奏です。

三楽章、ゆったりと滑らかに上下する主題。中間部のトランペットの主題はテンポを速めて活動的ですが、すぐにテンポを落としてゆったりと濃厚な表現になります。繊細な弦、瑞々しく美しい木管もとても良いです。

四楽章、とても澄んだ空気感です。ゆっくりととても感情のこもった歌です。独唱が静かに語りかけて来ます。

五楽章、炸裂する打楽器、金管は余裕のある美しい響きですっきりと整理された主題。間接音を含んで程よい距離感のバンダのホルン。速めのテンポで淡々と演奏される第二主題。大きく歌う金管のコラール。展開部でも絶叫はしません。感情移入はありますが、きっちりと制御されていてとても緻密な演奏になっているのが印象的でインバルらしいです。再現部冒頭も冷静です。かなり音量を抑えて静かに始まる合唱。美しく壮大なクライマックスです。ここでもオケは冷静です。

感情を込めた歌もありましたが、常に冷静で緻密な演奏で、日本人らして繊細な美しさは出色のものです。パワーで圧倒するような力はありませんでしたが、素晴らしいバランスの演奏でした。
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ベルナルト・ハイティンク/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1993年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、重量感のある第一主題。見事に統率の取れたアンサンブル。展開部の第二主題は夢見るような美しいものでした。激しいホルンの咆哮。精度の高いアンサンブルと反応の良い演奏に感服します。大きな主張はありませんが、作品の魅力を存分に引き出しているような演奏です。最後はゆっくり、そしてホルンが大きく吠えて終わりました。

二楽章、柔らかく自然な歌の舞曲です。消え入るような弱音が特徴です。二回目の主題でチェロの対旋律がある主題は羽毛で肌を撫でるような柔らかく美しい演奏でした。このような美しい弱音から金管の咆哮まで、とても振幅の大きな演奏です。

三楽章、音量を抑えながら強弱に敏感に反応する弦の主題。ハイティンクのこだわった微妙な音の扱いがあります。整然と整ったアンサンブルは見事です。

四楽章、美しくバランスの良い金管のコラール。ネスの独唱はいつも最後の音が短い。

五楽章、かなりのパワーを爆発させる第一主題。自然な歌の第二主題。展開部でも爽快に鳴り響く金管。かなりのパワーを発散していますが、力ずくではないのがハイティンクらしいところです。それにしてもベルリンpoの安定感は抜群です。バンダのホルンは残響が少なくあまり遠くにいる感じがありません。トランペットのバンダは残響を含んでいて柔らかく美しいです。静かに歌い始める合唱。独唱の部分はゆっくりです。二重唱のあたりからテンポが速くなりました。ゆったりとしたテンポで、輝かしく壮大なクライマックス。感動的で見事な演奏でした。

いつものハイティンク同様、誇張も力みも無く、自然体の演奏でしたが、金管はかなりの咆哮を聞かせました。ベルリンpoの抜群の安定感と、ハイティンクの堅実な音楽の運びで、何度でも聞ける演奏だったと思います。
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マーラー 交響曲第2番「復活」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

チョン・ミョンフン/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

チョン・ミョンフン★★★★★
一楽章、みごもごしたような柔らかい低域を含んだ第一主題。パワフルなトランペット。たどたどしい感じに演奏される第二主題。提示部の終わりはゆっくりでした。展開部の第二主題は非常にゆっくりと夢見るように始まりました。たっぷりと歌うイングリッシュホルン。遅いテンポで美しく進みます。一旦速くなったテンポも第一主題が現れた後のコントラバスからも非常に遅いテンポです。その後の荒れ狂うようなオケ。色彩も濃厚で美しいです。コーダもゆっくりとしたテンポで進みます。

二楽章、ひきずるように脱力した主題。中間部はしっかりとリズムを刻み主部とは対比されています。濃厚で切れ込むような色彩とテンポの動きはこの楽章でもあります。

三楽章、かなり強打するティンパニ。速めのテンポで流れるような主題。すごい運動性のある演奏です。引き締まった表現で強弱がしっかりと付けられています。快速に飛ばします。フルートとヴァイオリンのアンサンブルに乱れが出ます。

四楽章、ゆっくりと丁寧に演奏されるコラール。テンポの動きもあります。柔らかいヴァイオリンのソロ。

五楽章、一気に炸裂して怒涛のように押し寄せてくる第一主題。残響の少ないバンダのホルン。フルートとイングリッシュホルンの動機でもテンポが遅くなりました。展開部もゆっくりとスケールの大きな演奏です。トランペットのハイトーンも強烈です。行進曲調になる部分でもトランペットが気持ち良く付き抜けます。再現部冒頭もかなりのエネルギーです。トランペットのバンダは残響が少なく寂しい響きです。バンダのティンパニが遅れました。静かに歌い始める合唱。コントラルトとソプラノの声の太さの違いもはっきりしています。力強い合唱と一体になったオケのパワフルな響き。圧倒するようなエネルギーは凄かったです。

大胆なテンポの動きと、濃厚な色彩と突き抜けてくるトランペットなど、とても聞き応えのある演奏でした。ソウルpoとの演奏よりも強い主張のある演奏でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団

エッシェンバッハ★★★★★
一楽章、あまり重量感の無い第一主題。第二主題はアゴーギクを効かせて豊かに歌います。展開部の第二主題は一音一音分けるようにさらにゆっくりと演奏しました。盛り上がるにつれてテンポが速まり、ホルンの激しい咆哮がありました。フルートやヴァイオリンに現れる第二主題もたっぷりと歌います。テンポの動きや強弱の振幅も広くかなり濃厚な表現の演奏です。再現部の最初は颯爽と進みます。第二主題はとても美しいです。第二主題の後はゆっくりと濃密な表現になります。

二楽章、落ち着いたテンポで確実な表現の主題です。ここでもテンポの動きはいろいろあります。間があったりして楽しげな歌です。少し強引なテンポの動きもあります。

三楽章、豊かな表情の弦とクラリネット。中間部のトランペットで僅かに加速します。表現が積極的で豊かです。

四楽章、非常にゆっくりとしたテンポでで暖かい声で静かに歌い始める独唱。コラールの方が音量が大きいですが、ここもゆっくりです。独唱は藤村実穂子できないか。遅いデンポですが、味わいのあるとても良い演奏です。

五楽章、かなりのエネルギーを炸裂させる第一主題。程よい距離ざすが残響は少なめなバンダのホルン。突然のホルンの強奏やテンポの動きもあります。伸び伸びと咆哮する展開部のホルン。長い打楽器のクレッシェンド。オケを明快に鳴らして起伏の大きな演奏です。再現部も襲い掛かるような金管の咆哮です。ゆったりとしたテンポで静まって行きます。遠くからシャープに響くバンダのトランペット。静かですが抑揚のある合唱。ソプラノ独唱にも表現があります。テンポはかなり変化します。藤村が歌う部分はかなり遅くなっています。二重唱も遅いテンポです。ゆっくりとしたテンポのまま壮大なクライマックスです。

フィラデルフィアoとの録音とはかなり違った演奏で、エッシェンバッハの感情と作品への共感が強く出された演奏だったと思います。テンポの動きや随所で歌われる歌も良かったですし、ゆったりとしたテンポの壮大なクライマックスも見事でした。
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ヴァレリー・ゲルギエフ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

ゲルギエフ★★★★★
一楽章、かなり気合のこもった第一主題。相当な意気込みを感じさせる演奏の開始です。ねっとりとした濃厚な色彩。微妙な表現が付けられた第二主題。表現がとても引き締まっていてオケが機敏に反応しています。割と現実的な展開部の第二主題。打楽器がリアルで強烈に入って来ます。再現部の第一主題も凄みがあります。最後も凄い表現でした。

二楽章、一転して穏やかで揺れる主題。この楽章でも強弱のメリハリがはっきりとしていてとても締まった表現です。中間部でも切れ込むような弦の刻み。明快なトランペット。生き物のように動くオケと、作品を大きく捉えた表現。

三楽章、硬質ですが、伸びやかなティンパニ。主題はとても明快に強弱が付けられています。色彩感がとても濃厚で、しかも繊細です。ゲルギエフによってしっかりと制御された見事な表現です。

四楽章、バランス良く美しい金管のコラール。リアルな声の独唱。オーボエもテンポが動いて歌います。ヴァイオリンのソロも動いています。

五楽章、激しく炸裂する第一主題。少な目の残響で響くバンダのホルン。力強く歌う第二主題。エッジが立っていて非常に濃厚です。コントラバスもしっかりとした存在感があります。ソフトなファゴットやフルートの後でバンダのホルンがビーンと響きます。展開部も起伏が激しいです。あまり音量を抑えずしっかりと歌い始める合唱。あまり抜けて来ない最初のソプラノ。二度目は大きく抜けて来ました。後で支える合唱も大きく見事でした。合唱の声量が上がった部分もダイナミックです。クライマックスの圧倒的な合唱と、それに負けないオケも素晴らしいです。

濃厚な色彩感と引き締まった表現。強打するティンパニ。圧倒的な声量の合唱。文句無い見事な演奏でした。ロンドンsoとの録音よりもこちらの方が良かったように感じました。
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マーラー 交響曲第2番「復活」4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

クラウディオ・アバド シカゴ交響楽団

マーラー 復活 アバド★★★★☆
私の青春のころの録音で、当時何度も何度も聞いた記憶があります。メータの演奏よりは細身な印象でしたが、細部まで、行き届いた演奏だったような記憶ですが、今聞きなおすとどんな印象でしょうか。

一楽章、ホールの響きを豊かに伴った冒頭です。同じシカゴsoでもショルティの演奏のようにオケが近くないので、全体を見渡すことができます。
この演奏でもアバドは特に何かを主張することもなくオケに任せているような印象です。オケもショルティの時よりも、かなり余裕をもって演奏しているようです。それでも2003年のルツェルンの演奏よりも、若い勢いのようなものが演奏にも現れていて、好感が持てます。
弱音部は美しいですが、テンポはあっさりねばることもなく、微妙なニュアンス付けがなされています。ルツェルンの演奏よりも格段に表情は豊かです。オケも統一感があって、こちらの演奏の方が私は好きです。
強奏部分でも、強い推進力があって、やはり、若いころのアバドはなかなか良い演奏をしていたんだなぁと改めて感じます。聴き進むにつれて、大きい波の中に引き込まれて行くような不思議な力を持った演奏です。メータ、ウィーンpoのような豪快さはありませんが、とても繊細で丁寧な演奏です。

二楽章、何の違和感もない中庸なテンポでの開始です。オケはとても美しい。テンポが大きく動くこともなく、安心して聴いていられる安堵感があります。そして、この演奏にはルツェルンとの演奏にはなかった歌がある。心和む良い演奏です。

三楽章、ちょっとつんのめったようなティンパニ、でも違和感は感じません。この高性能オケを余裕を持たせながら美しい響きの中で音楽が進んで行くのはとても心地よいです。マーラーの音楽が持つメッセージ性などはあまり表現していないかもしれませんが、純粋な音楽としての完成度はかなり高い演奏だと思います。

四楽章、とても、ゆっくりと心のこもった独唱、この独唱の振幅の大きな歌唱は感動的です。アバドの控えめな表現とは対照的です。すばらしい独唱でした。

五楽章、冒頭の金管が最初の三つの音をテヌートぎみに演奏したのはナゼだろう?
遠くで響くホルンのバンダも心地良い。さすがにオケは抜群に上手いです。金管群はショルティの演奏のようなフルパワーではないので、とても美しいです。とにかく、このスーパーオケの底力を思い知らされる。ffでも余裕たっぷりの美しさは、この演奏の特徴です。
アバドの指揮なので、没個性と言えば確かにそうなのだが、大きくデフォルメされた部分もないので、作品そのものを聴くには良いでしょう。余計なことは考えずに、美しい音楽が流れて行くのにどっぷりつかるのも良いかもしれません。
オケも独唱も合唱も文句のつけようがありません。

マーラーの復活を聞くと言うよりも、音響の構築物としての美しさを聴くCDだと思いました。

レナード・バーンスタイン ロンドン交響楽団

icon★★★★☆
この時代のバーンスタインの演奏はかなり良いと思っています。ニューヨーク時代の荒れた演奏から、潤いのある音楽へと変化していった時代だと思います。
同じくロンドンsoと録音したストラヴィンスキーの春の祭典も私にとっては同曲のベストの一つです。

一楽章、すごくゆっくりな出だしです。一音一音刻むようにとても堅実な足取りです。後にニューヨークpoとの録音を予感させるような、この時期から音楽への共感や没入の度合いがどんどん深くなっていったのでしょうか。
この時期の演奏がこれなら、後の常軌を逸したとも思われる演奏は進化系として納得できます。
起伏の激しさや表情の豊かさはニューヨークpoよりもこちらの演奏の方が上かも知れません。
ロンドンsoもよくついていっています。シカゴsoほどのスーパーオケの完璧さは求められませんが、いろんな指揮者の要求に応えることができる世界でも数少ないオケの一つだと思います。
この遅いテンポでも緊張感が途切れないのは、さすがです。音が散漫になることはありません。

二楽章、こちらもゆっくりな演奏ですが、テンポの揺れが絶妙です。細かな表情もあり、後の演奏よりも、こちらの方が細部まで行き届いた演奏だと思います。音楽に浸ることができる良い演奏でした。

三楽章、冒頭のティンパニの残響が長い。まったく音を止めていないのかな。テンポは一般的な範囲です。表情は豊かです。格別に音が美しいということもないのですが、ニューヨークpoとの録音の時に若干感じた鈍重さはありません。

四楽章、美しいコラールです。独唱にも細部にわたってバーンスタインが指示したのでしょう。強弱の変化などもあって、テンポも大きく動いて、なかなかの聞かせどころです。
ただ、近くにいるパートと遠くにいるパートがあって、多少不自然な録音になっているのが気になります。

五楽章、かなり短めの音の処理で始まりました。バンダは豊かな響きを伴って伸びやかです。
テンポは遅めではありますが、ニューヨークpoとの録音ほど極端な遅さではないので、普通に聴くことができます。若干アンサンブルが乱れることもありますが、それよりも積極的な表現が前面に出てきて、バーンスタインの解釈をロンドンsoも果敢に音楽にしようとしているようすが伺えて、うれしくなります。そして、次第に音楽もヒートアップしてきます。
この演奏は国内では、あまり評価されていなかったような気がするのですが、これはかなりの好演です。
バンダのシンバルがやたらとでかいのが、ちょっと・・・・・(^ ^;
クラッシュ・シンバルは全体に遅れ気味で、その上落ちているところもあって、ちょっと・・・・・・です。かなり大きいシンバルを使っているようで、すごいエネルギー感はありますが。
合唱の中から浮かび上がる独唱が、霧が次第に晴れて女神が出現するように、クレッシェンドをともなって、次第にはっきりと現れてくるのが見事です。
ホールの豊かな響きも手伝って、すごく神秘的な雰囲気を醸し出していてすばらしい。この合唱の弱音部分はこれまで、聞いた中でもベストかもしれません。
終結部はニューヨークpoの録音と同じく超スローテンポになります。ホールの響きが豊かなので、こちらの演奏のほうがスケール感があります。
最後は鳥肌が立つような、壮絶な盛り上がりで、個人的にはニューヨークpoとの録音よりもこちらの方が好きです。こちらの方が、あくまでもマーラーの作品の範疇にある演奏だと思います。

ニューヨークpoとの録音を高く評価される方には、こちらの演奏も是非聞いてみてください。
また、ニューヨークpoとの録音には、ちょっとついて行けないという方も、この録音は是非聞いてみてください。
若い頃のニューヨーク時代の荒削りな部分は影を潜め、音楽への共感が深くしかも、表情も豊かで、オケもロンドンsoなので、安定感もあります。多少の乱れはありますが、全体の出来の良さからすれば、ほとんど問題にならないでしょう。
また一つすばらしい名演奏に出会いました!

サー・ゲオルグ・ショルティ シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
ショルティ二度目の録音。
マルチ録音の典型的なオンマイクでの収録。ショルティのデッカへの録音は全て同じ傾向の録音です。
弦楽器からは松脂が飛び散り、金管楽器のベルに頭を突っ込んで聞いているような、極めて近い位置で演奏を聞いているような録音です。録音の方向としては、インバルのワンポイントを基本にした録音とは正反対。インバルの録音では、ホールの天井の高さまで分かるような全体を捉えた録音で楽器の響きもホールに響く時間軸も捉えた伸びやかな音質に対して、このショルティ盤は楽器一つ一つを聴くような録音です。
録音の影響も大きいのだと思いますが、かなり男性的で筋肉質な演奏。ゴツゴツとした力演です。

一楽章、冒頭からもの凄いスピード感ではじまる。一音一音の粒立ちがはっきりしているし、ブラスセクションも強いアタックで入ってくるので、ダイナミックレンジが広い演奏に感じる。
また、色彩感が豊かなのもこの演奏の特徴でしょう。ただ、かなりのオンマイクで録られているので、楽器の生音を聞いている感じが非常に強く、ホールに広がっていく響きは全く捉えられていない。実際のコンサートでは、絶対に聞けない音です。
スピード感と言うか、何かに追いかけられているような独特の緊張感を聞き手に与える演奏です。
スコアを顕微鏡で見ているような、楽器の動きが手に取るように分かる。音楽を聴いているというのとは、ちょっと違う、オーディオのためと割り切った録音なのか・・・・・・。
シカゴ交響楽団は抜群に上手いし、ショルティの指揮もアゴーギクを効かせて微妙な動きがあったり、世間で言われるほど無機質なものではない。

二楽章、比較的遅めのテンポで、弦の表情も豊かだが、極端なオンマイクのせいで、豊かな響きに包まれるような優しさは望めないのが残念なところです。本来なら、美しい響きに包まれて音楽に身をゆだねたいところですが、この演奏ではこの楽章でも、緊張を要求されます。

三楽章、少し速めのテンポでスタート、細かなアーティキュレーションの表現も難なくこなし、音楽が進んでいく。早いパッセージも余裕でこなす、オケの実力には脱帽!ホールトーンも含めたもう少しオフマイクで録られていれば、もっと音楽的な評価がされていたのかもしれないが、あまりにも細部の音まで聞こえてしまうので、機械が演奏するかのような無機質感を与えてしまうでしょう。とにかく、細部にわたり表情づけがなされています。

四楽章、とにかくマイクが近すぎて、コントラルトの独唱もホールの響きが伴わないので、興醒めしてしまいます。この演奏には緩むところがない。

五楽章、冒頭の低弦から松脂が飛び散るようなド迫力、しかし、バンダは程よい距離感を保っているし、弱音部の表情は豊かだ。ffでも次々と泉のように途切れることなく湧き上がってくるブラスセクション。世界中から名人を集めたルツェルンよりもこちらの方が上手かもしれない。
それくらい名人芸を難なくやってしまう、この集団は凄い!
このオケのパワーを利用してショルティの指揮もクレッシェンドして、次のフレーズへ入るときに少し間を取ったりして、音楽の高揚感をさらに高めていく。
ショルティって、もっと荒っぽい指揮者かと思っていたが、こうやって細部も聞き込んでみると、すごく音楽的で歌心のある指揮者なんだと見直してしまった。
合唱が入って、合間の弦の旋律も川の流れのようにとうとうと流れて行く、そして抑制のきいた合唱、独唱との和音もバッチリ決まる。
パイプオルガンが入ってくる最強音部も力強い。本当に良く鳴るオーケストラだ。
すばらしい演奏なのだが、オンマイクが災いして、音楽に酔うことができないのが残念。
すばらしい彫刻をほどこした柱時計をわざわざ開けて内部にギッシリ詰まった歯車を見て、「凄い!」と感動しているような何か違和感を感じてしまうのは、すごく残念です。
この録音は音響空間を捉えたステレオ録音ではなく、大量のマイクをそれぞれの楽器の前に立てて、他の楽器との干渉を避けるために衝立をたてて一つ一つの楽器をモノラルで録音したものをミキサーのパンポットで定位を決めて行く作業でスピーカーの間に楽器を配置したものです。
奥まった位置にある楽器には少し多めにエコー成分をミックスすることで奥に定位させることもできる。モノラル録音の集合体をステレオに聞こえるように操作して作り出したものなのです。だから、楽器の音は生々しく聞こえますが、空間を感じ取ることができないのです。
ショルティとデッカの録音は基本的にこの音作りで、一世を風靡したわけで、この異常とも思えるオンマイクのマルチ・モノ録音があったからこそ、ショルティは二十世紀を代表する巨匠としての地位を確立したわけでもある。
だから、この録音を否定するわけにも行かないのだが、もう少しオフで録っていてくれれば、音楽を聴くことができたと思うし、ショルティに対する評価も変わっていたのではないかと思う。再生するときにホールのエコー成分を付加する装置も売られているので、少しホールトーンを載せてやると、多少なりとも音楽を聴くことができると思います。

それでも、この演奏はスーパー・オケと巨匠が残した名盤であることには間違いない。オーケストラの機能美を聴きたい人には迷いなくお勧めします。
ホールの響きを含めた、大きい意味での音楽を聴きたい人には、このCDでは音楽に酔いしれることは困難ではないかと思います。

ミヒャエル・ギーレン バーデンバーデン・フライブルクSWR交響楽団

icon★★★★☆
ギーレンの演奏は、昔FM放送で何度か聴いたことはあるのですが、たまたま車の中とか、正対して聴くのは今回が初めてです。
一部では、冷徹の大指揮者などといわれているそうですが、どのような演奏をするのでしょうか。

一楽章、何も思い入れがないかのような導入。オケはアンサンブルもきっちり決まるし金管の音色も明るく、上手いです。
導入部は素っ気なかったのですが、独特の表現があります。他の指揮者に比べて対旋律やハーモニーの下をはっきり演奏させているので、普段聞こえてこない音も聞き取れます。
オケはかなり鍛えられているようで、マスの一体感はすばらしいです。
コントロールも行き届いていて決して暴走することはありませんし、録音の良さも手伝って、弦も繊細な響きが心地よい演奏です。
感情の表出がある演奏ではありませんが、世間で言われるような冷たい演奏だとは思いません。

二楽章、かなり速めのテンポ設定です。一つ一つのフレーズに表現をつけるような、ねちっこいタイプの指揮者ではなさそうです。かなり淡白なのかもしれませんが、とても美しい演奏です。
音の扱いがかなりテヌートっぽい部分が多い感じがします。この指揮者の特徴なのでしょうか。

三楽章、ソフトな音色のティンパニとクリアな弦と木管。確かに響き自体の温度感は低く感じるかもしれません。打楽器なども場面場面での音色も選りすぐりの最良の音色で登場してきます。
ギーレンとの長いコンビで相当鍛えられている印象をうけます。テュッティの一体感やバランスの良さは、なかなか聴けないレベルで、これだけ高水準の演奏を聞かせてくれる組み合わせも稀だと思います。
誇張することはありませんが、自然な音楽としての抑揚はもちろんありますし、無機的な演奏ではありません。
受け狙いや、大見得を切るようなところが一切ないので、印象に残りにくいので、損をしているでしょうね。

四楽章、独唱も実にクリアに録られていまて、とても美しいです。全く誇張することなく、聞き手を引き込むことができる演奏というのは、本当にすばらしいものです。

五楽章、混濁することなく、伸びやかなffです。
同じように、何もしないアバド=ルツェルンの演奏が非常に楽天的に聞こえたのに対して、こちらはかなりシリアスな印象です。
それにしても、ドイツのオーケストラって、地方都市のオケでも水準が高いのに驚かされます。うるさい音は一切出さない。
表現は決して濃くないのですが、響きの温度感が低く張り詰めた緊張感のような空気を生み出しているので、ズシリと重いものが残る演奏です。
合唱はオケとは違って発声もはっきりしているし、響きも明るい。
合唱が入ってからは割りと速めのテンポで進んでいます。合唱が抜けるまで、速いままでした。
最後のオケだけの部分は少しテンポが遅くなりましたが、バーンスタインの演奏のような壮大なクライマックスを期待すると裏切られます。

見事な演奏ではありましたが、どう評価して良いのか私には分かりません。
ん~。何だったんだろう?

ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、強いアクセントもなくおもむろな出だしでした。低弦の第一主題も強調されることもなく、とてもマイルドな響きです。同じシカゴ交響楽団でもショルティの演奏とは全く音色が違います。ゆったりとした音楽の流れが心地よく感じます。ハイティンクらしく作為的な部分を感じさせない演奏です。 第二主題への移行も自然で、いつの間にか変わったという感覚です。個々の楽器が突出して登場することが無いので色彩的には淡い感じの演奏です。展開部で現れる第一主題の後のティンパニも強打されることはありません。ドロドロすることなくサッパリとした表現に終始したとても美しい演奏でした。

二楽章、速めのテンポです。テンポが大きく動くこともなく、この楽章もあっさりとした表現です。あっさりとした表現ではありますが、とても丁寧に描かれています。

三楽章、ソフトなティンパニから始まりました。控え目な表現で、ハイティンクの主張よりも作品に語らせる演奏なのでしょうか。誇張もなくマイルドで自然な音楽の流れに身をゆだねて流れる音楽にどっぷりと浸っていられる演奏は貴重な存在だと思います。 ブラスセクションが飛び抜けてこちらに突き刺さってくるようなことも一切ありません。とてもバランスに気を使って演奏しています。

四楽章、独唱が静かに歌い始めました。余力を残した豊かな歌唱です。次第にテンポを落として天国へ!

五楽章、ここでも金管と弦がバランス良く鳴っています。良い距離を保ったホルンのバンダです。穏やかな復活の動機。展開部でも絶叫することは全くない。とても美しい。シカゴのブラスセクションとしては、相当に余裕をもって演奏しているのではないだろうか。ライヴでこれだけ抑制の効いた演奏をするのも大変なことだと思います。この演奏を制御し続けるハイティンクの力量も相当のものだと感心します。トランペットのバンダも良い距離にいます。静かに、ゆったりとしたテンポで歌い始める合唱。途中に入る独唱もゆったりとしたテンポで飛び抜けてはきません。力みのないクライマックス。広々とした広大な世界(天上界)を再現しています。シカゴ交響楽団をフルパワーで演奏させることなく、力まず誇張することもなく、自然体を貫いて、常に美しい演奏を実現しました。またここで実現した美しい造形は見事なものでした。ハイティンクの演奏の場合、繰り返して聴いて良さが分かる場合が多いので、再度聴いてみたいと思います。

小林研一郎/日本フィルハーモニー交響楽団

★★★★☆
一楽章、豪快にアクセントを付けて入った弦のトレモロが次第に弱くなってから低弦の第一主題が始まりました。克明に刻まれる低弦、その上に様々な楽器が乗っかり色彩豊かな演奏です。激しいコバケンの唸り声。それに合わせるように激しい演奏をする日フィルです。 第二主題以降も生き生きとした音楽が奏でられて行きます。小気味良いテンポで音楽を運んでいます。音楽はものすごく濃厚に表現されています。テンポもすごく動いて音楽の表現をさらに印象付けています。オケの技量も欧米のものと遜色ありません。

二楽章、オケの集中力も高く音が立っています。フレーズの終わりでテンポを落としたり、少し間を空けたり自在な表現です。豊かな歌があり、また音楽の振幅も幅広くコバケンの作品への共感が伺い知れます。

三楽章、思いっきり叩き付けるティンパニから始まりました。速めのテンポでアーティキュレーションにも反応の良い表情豊かな演奏です。トランペットのffの部分ではさらにテンポが速くなりました。息つく暇も与えずに思いのたけをぶつけてきました。

四楽章、この楽章も速めのテンポでどんどん音楽が押し寄せてきます。太く豊かな声の独唱。

五楽章、荒れ狂うような冒頭。あまり残響を伴わないバンダのため距離感を感じません。展開部は速いテンポで演奏されます。とても彫りの深い音楽を刻み付けて行きます。コバケンの妥協を許さない音楽への姿勢がこのような深い音楽を生み出したのだと思います。強奏部分では荒れ狂うような演奏で、弱奏部分では魂を込めたような演奏がとても心に残ります。所々で長いパウゼがありこれが緊張感を生み出します。トランペットのバンダも残響をあまり含まないので距離感を感じないのがちょっと残念です。極めて抑えた音量で開始した合唱。二重唱はオケともからんでとても良かった。合唱が指揮を見ずに、練習通り歌ったのか?オケと合唱のアンサンブルがズレる場面もありました。頂点の手前で大きくritして見事な頂点を築き上げました。オケに対して合唱の声質に芯が無いようで存在感が薄いようで少し残念でした。それにしても大熱演!コバケン渾身のすばらしい演奏でした。

パーヴォ・ヤルヴィ フランクフルト放送交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、強烈な存在感の低弦の第一主題。オケと一体感のあるブラスセクション。弱めに丁寧に演奏された第二主題。集中力の高い演奏をしているようで、静寂感があります。オケはとても上手いです。緩急の変化も激しい。テンポを落として演奏する部分では、作品を慈しむように丁寧な演奏をしています。終結部ではずっと遅いテンポでしたが、弛緩することなく緊張感を維持したすばらしいものでした。

二楽章、細心の注意を払って演奏されたような微妙な表情の冒頭でした。テンポは速めです。予想外のところで強弱の変化が・・・・・。羽毛のような繊細な表情の弦。オケに溶け込んで美しいピッコロ。すばらしく美しい二楽章でした。

三楽章、マットな響きのティンパニ。ヴァイオリンの主題はすごく繊細な表情です。旋律が強調されて前面に出てきます。テンポを早める部分では生き生きした演奏をしています。

四楽章、冒頭の独唱に寄り添う弦はものすごく弱い音でした。明るい声質の独唱です。最後はゆってりとしたテンポになって天国へ!

五楽章、余裕を持った金管のffでした。バンダのホルンが入る前に次々に弦が入ってくるところはアクセントを付けて入ってきました。バンダのホルンは適度な距離感です。トロンボーンのコラールはすごく明るい音色でした。金管はどのパートも音離れが良く明るい音色です。

ずっとここまでオケはフルパワーは出していないのではないかと思います。トランペットのバンダは遠くにいます。バンダのトランペットのファンファーレの音の広がりは見事でした。

合唱は最初、長い音を長く保って演奏しました。 二重唱からかなりテンポが早くなりました。合唱とともにオケもフルパワーです。合唱が終わる直前で大きくritしました。すばらしいクライマックスでした。 弱音部分の微妙な表現に神経の行き届いた演奏でした。また、予想外のところで大胆なテンポの変化もあり個性的な名演奏だったと思います。

マーラー 交響曲第2番「復活」5

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

ロリン・マゼール ニューヨーク・フィルハーモニック

★★★★☆
インターネットでダウンロードした音源です。マゼールに対しては正直あまり良い印象はありません。作為的過ぎる感じを持っているのですが、今回の演奏はどうでしょう。

一楽章、軽い感じの第一主題。木管の旋律の裏でホルンが激しく唸ります。第二主題もあっさりとした表現です。展開部に現れる第二主題はゆったりと演奏されます。クラリネットのソロやホルンは美しい音でゾクッとさせられます。金管が気持ちよく鳴り響きます。フルートソロもヴァイオリンのソロも極上の音を聴かせてくれます。再現部の直前はものすごくテンポを落として克明に刻みました。
フレーズの終わりでritをかけたりして表情豊かに演奏されて行きます。弦のメロディーもかなりテンポをおとしてたっぷりと表現しました。ハープがリズムを刻んでホルンが旋律を演奏する部分は早めのテンポで演奏されています。テンポを落としてしっかりと旋律を聞かせる部分もありました。

二楽章、速めのテンポで演奏されます。透明感のある弦と存在感のある管楽器が美しい演奏を繰り広げます。金管は強く入ってきますので、振幅の広い演奏になっています。音色的に鋭いので、包み込まれるような癒し感はあまり感じられない演奏です。

三楽章、ホールに響き渡るティンパニの一撃!続く木管の表情もとても豊かです。アーティキュレーションにも忠実に演奏しているのか、強弱の変化のとても多い演奏です。それにしてもライヴだとは思えないくらい完成度の高い演奏です。一時期低迷したニューヨーク・フィルですが、かなり力を取り戻してきているのを実感させられます。

四楽章、明るい響きのコラール。太い声の独唱。訴えかけるように幅広い表現の独唱です。

五楽章、冒頭の炸裂も明るい響きで重さがありません。とても鋭く軽い響きです。適度な距離感のバンダ。見事な祈りのコラール。すばらしい!展開部の直前は非常にテンポが遅くなりました。マゼールの面目躍如というところか。その後は普通のテンポに戻ります。打楽器のクレッシェンドももの凄く時間をかけて行いました。
トランペットなどのバンダも適度な距離感です。合唱が入る前はとても神秘的でした。合唱から浮かび上がる独唱。メゾ・ソプラノは表現力抜群でした。独唱が始まると他のパートがスーッと音量を落とすあたりの配慮もすばらしい。波が押し寄せるように次から次へと合唱のパートが変わって歌い続けます。輝かしい頂点です。大太鼓とティンパニのクレッシェンドはとても効果的でした。透明感のある弦楽器と木管のソノリティ、そして鋭く明るく安定感抜群のブラスセクション。マゼールが時に大見得を切る場面もありますが、作品から距離を置いて冷めた表現の部分とマゼール自身が音楽にどっぷりとのめり込み音の洪水の中を泳ぎ回るような部分が混ざった演奏でした。マゼールが表現し切ったすばらしい演奏だったと思います。

ダウンロードした音源でしたが録音も良くお勧めです。

ワレリー・ゲルギエフ ロンドン交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、ゆったりとした弦のトレモロに続く深々とした第一主題。ゆっくりとした足取りで刻まれて行きます。ゲシュトップしたホルンが厳しさを演出します。強烈なティンパニのクレッシェンド。劇的な表現が続きます。すごく積極的な表現で音楽の振幅もすごく広い演奏で圧倒されます。展開部はすごくゆっくりとしたテンポで第二主題が演奏されます。激しさと穏やかさの対比がすごいです。オケの集中力も高く、音が集まってきます。テンポも動きますが不自然さはありません。次第に演奏に引き込まれて行きます。

二楽章、一楽章から一転して穏やかな開始です。激しい表現からふくよかな表現までロンドンsoの実力を思い知らされます。ライブでありながらアンサンブルの乱れも無く、集中力の高い演奏が続いています。

三楽章、速いテンポです。表情豊かな演奏です。シンバルが少し遠いような感じがします。テンポは速いですが、生き生きとした表現でとても良い演奏です。

四楽章、弱めに丁寧に歌い始める独唱。とても感情のこもった歌です。この歌とは対照的に無表情の金管のコラール。

五楽章、全開!容赦なく叩きつけるティンパニ。少し遠いバンダ。ゲルギエフは速目のテンポでグイグイ引っ張って行きます。展開部ではホルン全開ですさまじい響きです。テュッティ全開のパワー感はすごいです。速目のテンポですが、すごく凝縮された濃厚な音楽を聴いている充実感があります。表情豊かな独唱。どのパートも表情豊かです。音楽の抑揚に合わせてテンポも動きます。輝かしいクライマックス!充実した演奏でした。
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ジェイムズ・レヴァイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、少し遠目の音場感です。長めのトレモロに続いて第一主題はコントラバスの響きがあまり捉えられていないので、軽い感じがします。第二主題の前は一旦テンポを速めて徐々に遅くなって、第二主題になりました。ブラスセクションの強奏も美しい。小さく定位する美しいヴァイオリン・ソロ。テンポを極端に動かすこともなく、淡々と音楽が流れて行きますが一つ一つの音には細心の注意が払われているようです。作品と誠実に向き合ったような演奏で好感が持てます。

二楽章、速めのテンポであっさりとした開始です。羽毛のように繊細で美しいヴァイオリン。表現は控え目でとても奥ゆかしいです。レヴァインの演奏と言うと、暑苦しいイメージがあったのですが、表現もあっさりとしていて、この演奏はとても涼やかで爽やかです。

三楽章、控え目でマットな響きのティンパニ。続くヴァイオリンや木管も控え目でとても美しい。ひっかかる部分がなく、とても滑らかに音楽が流れて行きます。

四楽章、静かな歌い出し。続く金管のコラールも静かに歌われます。独唱も爽やかで美しい。中間部は少しテンポを上げました。

五楽章、軽い銅鑼の響き。金管も奥まったところから響いてきます。適度な距離で間接音もたっぷりのホルン。続くオーボエはテヌートぎみに演奏しました。第二主題も清楚な感じです。金管のコラールも静かに祈るような美しいものでした。展開部の金管の強奏も、強くは演奏されているのです(ホルンなどはビンビン鳴っています)が、静か?な感じです。展開部の後半あたりから音量感も上がってきました。バンダのトランペットも間接音を伴ってとても美しい響きです。すごく静かに歌い始める合唱。合唱から浮かび上がるソプラノもメゾ・ソプラノも控え目で柔らかい声質でとても美しい。引き込まれるような美しい弱音です。最後は圧倒的な音量感で感動的に曲を閉じました。

弱音の美しさと静かな運び、最後の圧倒的な盛り上がり。レヴァインの見事な統率の名演でした。

小澤征爾/新日本フィルハーモニー交響楽団

小澤★★★★☆
一楽章、勢いのある弦のトレモロ。ゆっくりと確かめるような第一主題。ゆっくれとしたテンポですが、表現は厳しいです。ほとんどテンポを落とさずに第二主題に入りました。展開部に入っても、必要以上に自己主張することは避け、作品のありのままの美しさを表出しようとしているような演奏です。フルートが第二主題を出す前ではかなりテンポを速めて激しい表現でした。再現部の前もかなりテンポを上げて激しい表現をしました。再現部の第二主題は夢見るようなとても美しい演奏でした。強く演奏する音にはかなりのエネルギーを注入するように演奏しています。最後はとても遅いテンポになって終わりました。

二楽章、とても繊細に歌う弦の主題。微妙なテンポの動きや表現など絶妙です。中間部の弦の三連符の刻みなどもとても神経が行き届いた繊細な演奏です。主部が戻ってもヴァイオリンも対旋律で寄り添うチェロもとても繊細です。繊細さのあまり、一楽章で感じられたエネルギー感は影をひそめていますが、表現は尽くしているような感じの演奏です。

三楽章、軽いティンパニ。自然な抑揚の表現です。中間部の金管は余裕をもって吹いています。ひっかかるところもなく自然な流れの演奏です。

四楽章、ゆったりとビブラートを効かせて歌う明るく明瞭な声のアルト独唱。振幅の大きな、感情のこもった独唱です。

五楽章、ここまで抑えてきたエネルギーを放出するようなオケの爆発。残響を伴っていますが、比較的音量の大きなバンダのホルン。大きく歌う第二主題。トロンボーンのトップが強めの金管のコラール。展開部へ入る前に十分テンポを落としました。ボストンsoとのスタジオ録音で感じた不自然なテンポ設定も無く、とてもしっくり来る演奏です。打楽器のクレッシェンドの後は、一旦急速なテンポで風雲急を告げるような演出でした。再現部までの行進曲も速めのテンポでグイグイと前へ進みます。緊張から解き放たれるようなゆったりとした再現部。豊かで広がりのある合唱。必要以上に音量を落とさずに、しっかり声が出る音量で歌われています。表現力のあるソプラノ独唱。二重唱の後はかなりテンポが速くなりました。最後は輝かしい金管と、絶叫する合唱によって壮大なクライマックスを築きました。

前半の繊細な表現と、後半はライブの熱気をはらんだ、とても良い演奏でした。最後のテンポが速くなったクライマックスもライブならではのもので、引き込まれました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★★☆
一楽章、重いアクセントで入った弦のトレモロ。粒立ちのはっきりした第一主題がホールの残響を伴って響きます。ゆっくりとしたテンポで進んでいます。シャープな響きの金管。かなりテンポが動いて濃厚な表現です。展開部へ入る前はかなりテンポを落として、そのままゆっくりとしたテンポで展開部の第二主題に入りました。濃厚な色彩で豊かに鳴るオケと良く歌う音楽と頻繁なテンポの動きで多彩な表現を繰り広げます。精緻で見通しの良い音楽ですが、作品に対する愛情も感じます。ゆっくりと演奏する部分ではとても良く歌い、テンポを上げて激しい部分では遠慮なくオケをドライブしています。コーダはすごく遅いテンポでしたがさいごは テンポを速めて崩れ落ちるように終りました。

二楽章、テンポが動いて良く歌います。生き物のように敏感に反応するオケ。とても美しい演奏です。

三楽章、ホールに響き渡るティンパニの強打。強弱が付けられたヴァイオリンの主題。深く感情移入している演奏ではありませんが、とても美しく歌う生き生きとした演奏には惹かれます。鋭く突き抜けるトランペット。緩急の変化が大きく、とても表現力豊かな演奏です。

四楽章、柔らかい歌声の独唱。充実した金管のコラール。ホールに響いて伸びやかな独唱。

五楽章、金管が突き抜けて、テンポも動く怒涛の第一主題。豊かな残響を伴ったバンダのホルン。トロンボーンの第二主題も美しい。美しく歌う金管のコラール。ゆったりと大きな響きの展開部。テンポを速めたりしながら勇壮に進む行進曲。再現部の分厚い響きもすばらしい。次第に静まって行く部分はゆっくりとしたテンポで濃厚に表現しました。バンダのトランペットはかなり強いです。人数は少ないようですが、厚みのある合唱。オケでけの部分ではまたテンポが動いて濃厚に歌いました。若干オケに負けている合唱。テンポも強弱の変化も多彩で聞かせどころが多くあります。

歌に溢れて、テンポの変化も多く、この作品の美しさを存分に伝えた演奏でしたが、バンダのトランペットや合唱のバランスなど少し難点があったところが残念でした。
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