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マーラー 交響曲第1番「巨人」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
1981年の録音

一楽章、かなり抑えたppで緊張感のある導入部です。クラリネットの音も表情豊かです。バンダはかなり遠い。Ebクラも生き生きとして気持ちが良い。
ショルティ盤よりもoffに録られているので、全体の響きが見通せますが、細部もしっかり収録されているて、とても良い録音だと思います。
アバドは強烈な主張をしてくるタイプの指揮者ではないので、作品の背景に重いものがあまりない作品には良いと思います。
この演奏では、弱音部が生き生きと美しく録られています。
とても流麗な演奏で、ひっかかるところがない。この流麗さがアバドの特徴でもあり、そのようにまとめあげるのが能力の高さなのかも知れません。
この演奏の場合、シカゴsoが積極的な表現をしているので、なかなかの好演に仕上がっています。これで、オケが下手くそで消極的だったら凡演になってしまうところでしょう。

二楽章、上手いです。

三楽章、オーボエの表情も豊かです。木管の上手さが際立っている演奏です。名人揃いで長年同じメンバーで演奏しているので、統一感もあります。
名人が集まっても、ルツェルンやサイトウ・キネンのような寄せ集めでは、これだけの統一感は生まれない。ただ、名人の寄せ集めが一期一会の超絶演奏をすることも稀にありますが・・・・・・。

四楽章、シカゴsoにしたら、かなり抑えた冒頭かもしれません。力強いことは間違いありませんが、余裕しゃくしゃく。
世界の一流オケには、それぞれの文化があって、「この作曲家のこの部分はこうやって演奏するんだ!」というのが受け継がれていて、指揮者が変わっても譲れない部分などもあったりします。
そのオケの文化と指揮者の個性がぶつかり合って、せめぎ合いの中から感動的な音楽が生まれてくるのだと思います。
しかし、寄せ集めのオケだと、その文化の統一ができないので、バラバラになったり、指揮者の細かい指示がなければ無表情な演奏に陥りがちです。
アバドは細部にわたって指示をするタイプの指揮者ではないと思うので、ルツェルンの演奏などは、すばらしい名人芸は聴けますが、音楽としての統一感が今ひとつのように私には思えてしまいます。
例えばシカゴsoとウィーンpoが合同演奏したとしたら、それは水と油のようなもので、まず、音量でシカゴに圧倒されてしまうでしょうし、そうなるとウィーンの良さはかき消されてしまいます。
大太鼓の中心付近を叩くシカゴの打楽器奏者と、大太鼓の中心からかなり離れたところを叩くウィーンの打楽器奏者と一緒にどんな奏法で演奏するのでしょうか?
もしも、両者が譲り合って音楽をしたとしたら、そこからは消極的な音楽しか生まれないと思います。ですから、ルツェルンの演奏を私はあまり良いとは思えないのです。
この演奏はシカゴsoのメンバーがかなり積極的に音楽をしています。終結部ではかなり熱を帯びてきてなかなかの熱演です。

カラヤンやバーンスタイン、ベームなどの時代は若い頃の熱演は録音が悪く、歳を重ねるにしたがって録音は良くなりますが、最晩年の演奏が凡演になってしまった例(ベームが特に)も多く見受けられますが、アバドの年代だと、デビュー当時から録音はかなりの水準になっていましたから、若い頃の熱気あふれる演奏も十分なクォリティで聴けるので、とても良いことだと思います。
フルトヴェングラーやトスカニーニの時代の1980年レベルの録音技術があったら凄い記録がたくさん残っていたでしょうね。

サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、アバドの演奏ほど抑えたppではありません。バンダは適度な距離にありバランスが良いです。しかし、淡い雰囲気などはなく、ショルティ独特のゴツゴツした男性的な演奏になっています。
金管は気持良いくらい見事に鳴ります。アバドの録音が木管中心の録り方だったのが、ショルティ盤では、金管がクローズアップされているようです。
ショルティの傾向ではありますが、オケの機能美は聴けますが、音楽としての全体像が掴みにくいのが残念なところです。
楽器個々の音はすごく立っていて、極めて鮮度の高い音が聞けて強烈です。

二楽章、叙情的なところは全くなく、とにかく攻め込まれます。なかなか音楽に浸ることは許されません。超絶オケを聞いてはいるのですが、聞き手に対して厳しい演奏です。
ショルティが音楽監督をしていた時にアバドとジュリーニを客演指揮者として迎い入れた理由が、自分と違うタイプの音楽だからとショルティ自身が言っていたと言われていますが、ショルティのゴツゴツした男性的で攻撃的な演奏と、アバドの流麗さ、ジュリーニの美しい歌。これで、このスーパーオケを維持したのもうなづけます。

三楽章、美しいメロディも迫ってくるので、なかなか酔いしれることもできない。ショルティのCDを聴く時には常に演奏と格闘しないといけないです。

四楽章、炸裂するオケ!突き刺してくるような、一歩間違えれば暴力にもなりかねないような、ギリギリのところで踏みとどまっている。
続く、弦のメロディーはたっぷり歌ってくれました。初めて音楽を聴かせてくれた感があります。
金管が全開フルパワーはさすがにシカゴという技術を聴かせてくれます。すばらしいテクニックであることは間違いない。この曲はこんなんだと言われれば、それはそれで説得力のある演奏でもあるし、超絶技法にはもちろん何の不満もない。音響としての爽快感もあるし、これだけの演奏ができる組み合わせは、この両者じゃないと出来ない領域にまで到達していると思う。
しかし、一方的に押し続ける音楽に付いて行けないと感じることがある。急、緩、急 のような緩が無いのだ。だから聞き手にも相当な緊張を要求する。終結部の壮絶なffを聴き終えた開放感と安堵感。
この高まった緊張が緩む時に悦に入ることができる人にはショルティはたまらない指揮者だと思います。

ショルティの演奏に賛否が分かれるのは仕方が無いです。でも、何も主張しない指揮者に比べればこれだけ強烈な個性を惜しげもなくさらけ出して、突きつけてくることができるショルティと言う指揮者のすばらしいところだと思います。この演奏を否定してはいけないと思う。

クラウス・テンシュテット/北ドイツ放送交響楽団

テンシュテット/ndr★★★★☆
一楽章、全体に埃っぽい音がします。やはり遅いテンポです。激しい演奏です。
シカゴsoとのライブが完璧だったのに比べると、ミスも散見されますが、やはりテンシュテットらしい爆演ぶりです。ロンドンpoとのスタジオ録音が弱音部やゆったりとしたテンポの穏やかな表現に重点を置いていたような感じがしましたが、このライブは爆発です。
地下のマグマが爆発のタイミングを待ち構えてうごめいているような、爆発へ向けて音楽が運ばれて行くような演奏です。
全開時の爆発ぶりは凄い!怒涛のようなffで一楽章が終わりました。

二楽章、開始から弦楽器の松脂が飛び散るような激しさです。ショルティをも凌駕するかのような猛烈な突進力で、息つく暇を与えてくれません。オケもよく付いて行くなあと感心します。後に喧嘩別れすることになるのですが・・・・・・。

三楽章、やはりミスは散見されますが、そんなのは全くおかまいなしでどんどん音楽は進んで行きます。この楽章は比較的速めのテンポをとっています。そして表情がすごく豊かです。テンポも大きく動きます。これだけ自在に音楽を表出する指揮者は現在となってはほとんどいません。つまらない理論などの教育が行き届いて、音楽ではないことにばかり意識が向いている指揮者が多すぎます。
また、テンシュテットのように音楽に没入するタイプの指揮者は練習も厳しいのでオケからも反発を買いやすく、実際にウィーンpoとの共演も一度だけでした。
民主主義の世の中なので君主のような指揮者では干されてしまうのでしょうけれど、音楽を聴く側とすれば、そのような流れは大きな損失でしょう。音楽業界にとっても損失だと思いますよ。
私など、実際に最近の没個性の指揮者たちのCDを買おうとは思わなくなってしまっています。

四楽章、冒頭、録音機材の方がオーバーレヴしたりして、音を拾い切れていません。それだけ予想外の爆演だったと言うことなのでしょうか。
全体を通して、埃っぽい録音なので美しい音を聴くことはできないのですが、テンシュテットの音楽は十分に伝わってきます。濃厚!
天国へ昇る前の緩やかな部分はとても穏やか、ショルティのような押し一辺倒ではないところが良いですね。
怒涛の爆発が始まりましたシカゴsoのような完璧さがない分、逆に渾然一体となった爆演になっているのかも知れません。シンバルは全部歪んでいます(^ ^;

終演後の拍手がカットしてあるのが残念です。ブラヴォーとブーイングが入り混じった騒然とした状況になったと伝えられています。是非残して欲しかったです。

エリアフ・インバル/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、クラリネットが豊かな残響を伴って立体的に響きます。ファンファーレは近い。暗闇と静寂感の中から音楽が浮き上がるような感じです。少し明かりが差したような第一主題。それでも静けさを保っています。展開部もピーンと張った緊張感と静寂感があります。インバルの鼻歌が聞こえます。クライマックスでもかなり余裕を持って吹かれる金管。終盤はテンポを上げて終りました。

二楽章、アタッカで二楽章に入りました。ゆっくり確実に歩くように確かめながら演奏される低弦の動機。強弱の変化など表現も非常に綿密です。一音一音の密度が高く、かなり高い集中力で演奏されています。中間部の弦がスラーで上昇する部分をクレッシェンドしています。木管も表情豊かに浮かび上がります。弦の主題にも非常に感情が込められてグッと迫ってきます。スケルツォ主部が戻って、また、表情豊かな音楽です。

三楽章、伸びやかなコントラバスの主題。チューバも美しく響きます。トランペットも豊かな表情です。インバルの感情が吐露されてテンポも大きく動きます。中間部のヴァイオリンは独特の表現です。ホルンも一体感があって美しい。主部が回帰して、速めのテンポで進みますが、ここでもテンポは大きく動きます。

四楽章、充実したブラスセクションの響き。インバル気合の掛け声も聞こえます。打楽器も含めてダイナミックな演奏です。ティンパニのクレッシェンンドも効果的に決まります。感情のこもった第二主題は非常に美しい。展開部の金管も余力を残して美しい音です。再現部の手前でトランペットが高らかに演奏します。静寂感に満ちた再現部はとても美しい。クライマックスのトランペットの音の伸びは凄い。オケが一体になった圧倒的なコーダもすばらしかった。

インバルの感情のこもったすばらしい名演でした。

マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、静かに始まるフラジオレットに凝縮されてピンポイントの木管。良い距離感のバンダのトランペット。深みのあるチェロの第一主題。ヴァイオリンもとても美しい。ダイナミックレンジもとても広いです。音楽の鮮度が高く、生命感を感じさせる演奏です。静寂感が高く演奏に引き込まれます。トゥッティでも分離が良く音が際立っています。ティンパニも強力でした。

二楽章、ここまで、特に強調するような表現はありませんが、色彩感が豊かで、中庸のとてもバランスの取れた非常に美しい演奏を続けています。中間部もサラッと柔らかい音色の美しい弦です。途中で登場する管楽器がキリッと立ってクッキリとした輪郭です。主部が戻って、ホルンが強く主張します。

三楽章、ティンパニの響きに埋もれるようなコントラバスのソロでした。表情豊かなオーボエ。中間部のヴァイオリンはヴェールを被ったようなフワッとした柔らかく美しい響きでした。主部が戻って、抜けの良いクラリネットや柔らかいトランペットなど本当に美しい演奏に惚れ惚れします。

四楽章、シンバルに続く、すさまじいトランペットのロングトーン。シンバルも炸裂します。それぞれの楽器が自分のカラーを明確に主張します。第二主題の奥ゆかしい歌がとても心地良い。展開部も整然としています。すばらしいエネルギー感の頂点です。再現部でも密度の濃い木管。コンセルトヘボウ独特の濃厚な色彩感。くっきりとしたミュートを付けたファンファーレ。オープンでもはっきりと聞こえるファンファーレ。コーダでも整然と美しい演奏でした。弦の刻みもはっきりと聞こえました。

強い個性はありませんでしたが、凄く美しい演奏には惹きつけられるものがありました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/フランクフルト放送交響楽団

ヤルヴィ★★★★☆
一楽章、静寂の中に注意深く丁寧な序奏。鋭く距離感があって美しいバンダ。第一主題にヴァイオリンや木管が絡んで戯れるような感じで楽しそうです。テンポも動いて積極的な表現です。鋭く立ったミュートを付けたトランペットのファンファーレ。最後はテンポを速めて、歓喜に溢れる演奏でした。

二楽章、冒頭の低弦はとても遅く演奏しました。木管に向かってテンポを速める演奏です。安らぎを感じさせる中間部。この楽章でもテンポがよく動きます。

三楽章、この楽章でもテンポの動きが絶妙で、とても繊細な音楽を聞かせてくれます。夢の中を漂うような中間部。とても美しい。緩急自在なテンポの動き。作品への共感が表れた指揮ぶりに感服します。とても良い演奏です。

四楽章、オケを爆発させるようなことはありませんが、表情は締まっていて、オケの集中力を感じます。第二主題でもテンポが動いて独特の表現でした。テンポの動きの中にとても豊かな音楽があります。再現部に入る前にティンパニの強烈な一撃がありました。再現部へ向けて徐々にテンポを落として行きました。コーダの最後もテンポを速めて終わりました。

オケを爆発させるようなことはありませんでしたが、テンポの動きや絶妙の表現など聞かせどころの多い演奏でした。
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ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス/マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団

ブルゴス★★★★☆
一楽章、音量は小さいが間接音が少ないバンダ。予想していたよりも美しく洗練された響き。弦と木管がズレました。ゆったりとしたテンポで地に足の着いた確かな歩みです。展開部に入っても遅めのテンポは続きます。管楽器の響きは少し乾いていますが、色彩感は豊かで、ファンファーレも突き抜けてきました。エネルギッシュな演奏でした。

二楽章、この楽章もゆっくりめのテンポで確実に踏みしめるような演奏です。表情も豊かで、感情も込められています。中間部でもちょっとした間があったりテンポも揺れてとても良い表現です。主部の戻る前のホルンがクレッシェンドしながらテンポを上げました。

三楽章、この楽章でもテンポが動いて積極的な表現です。中間部のヴァイオリンはメロディーの途中でスタッカートぎみに演奏しました。表現は生き生きとしたもので、とても活発に動きます。

四楽章、トゥッティのパワーは今一つの感じはありますが、第一主題の後ろで動く弦の表現もとても積極的でした。第二主題も抑揚を付けてテンポも揺らして歌います。展開部のテンポはゆったりとしたテンポで、金管の奥行き感があまり無いので、響きが浅く、エネルギー感にも乏しいのではないかと思います。再現部の第二主題も大きく歌います。ファンファーレが出る前はとても遅いです。その後もゆっくりと濃厚な表現です。コーダの最初の部分もものすごく遅い演奏でした。

かなり感情を吐露した熱演でした。ブルゴスの表現をオケが表現し切れないような感じもありましたが、オケの技量もかなりのもので、これからさらに技術も向上するでしょうし、期待のもてるオケです。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第1番「巨人」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第1番「巨人」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団1985年ライブ

icon★★★★
一楽章、冒頭の木管のバランスが絶妙です。バンダも良い距離感でした。弦楽器が入ってくる部分はすごく控え目です。
金管の咆哮はすさまじいです。弱音部はテンポを落としてたっぷりと歌います。テンシュテットの演奏の特徴だと思いますが、色彩感が豊かで、音楽の輪郭がくっきりと描かれています。

二楽章、すごく美しい音で録られていて、弦の響きなどもとても美しいです。

三楽章、途中で止まりそうになるくらいテンポを落としたり、表現は自在です。
弦楽器のデリケートな音色が魅力的です。アゴーギクも効かせて表情豊かな音楽です。
四楽章、予想していたような爆発ではなく、制御された冒頭でした。
伸びやかに歌う弦。とても気持ちが良い時間を作ってくれます。
金管は限界を超えたような爆発はしません。
後半かなりテンポが速くなりました。美しい「巨人」でした。

レナード・バーンスタイン/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★
1987年の録音

一楽章、ホールに広がるクラリネットの響きが綺麗です。バンダも十分に距離感があって良いです。
復活のときほど重さがないので、すんなりと聴く事ができる演奏で安心感があります。
テンポはかなり遅いですが、オケもバーンスタインといっしょになって楽しんでいるようで、チャーミングな表情が魅力的です。
音楽の盛り上がりとともに自然にテンポが速まって爆発します。嵐のような激しさと、牧歌的なゆったりした部分の振れ幅がものすごく大きい演奏で、作品えの共感がストレートに音楽になっているすばらしい演奏です。

二楽章、とても遅い。コンセルトヘボウの響きがとても美しい。すごく歌います、復活ではこれが粘っこ過ぎて、私には付いて行けませんでしたが、この曲なら大丈夫です。

三楽章、ここは速めのテンポです。切々と歌って僅かにテンポが動いているのか。表情はとても豊かです。一つ一つの旋律に感情が込められているような濃厚な演奏でとても説得力があります。

四楽章、かなりと言うか、相当遅いです。しばらくして少し速くなりました。テンポがすごく動きます、とにかく振幅がすごい。
ホールに広がるエコーは本当に美しい。テンポが遅い部分も十分に歌われていて、聴いていてとても気持ちが良い。音楽に浸ることができる良い演奏だと思います。
テンポの変化は異常と思えるくらいあるのですが、不思議なことに作為的な感じを受けないので、こちらも次第に音楽に引き込まれて行きます。

作品に没入して行くタイプとしては、テンシュテットと共通する部分もあるのかもしれませんが、バーンスタインの音楽は、テンシュテットの激しさとは違い、愛情や優しさに溢れているような感じがします。

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★
一楽章、冒頭から絶妙のアンサンブルを聞かせます。バンダはかなり遠いです。内声部を重視したバランスの演奏のようです。締まったホルンのアンサンブル。トランペットの咆哮!しかし、冷静さは失わずに進みます。テンポがガクッと落ちたり、またテンポが戻ったりして終わりました。

二楽章、 マーラーの細部に渡る指示にも的確に反応しています。クラリネットの際立った表現があったりしますが、中庸の域を逸脱することなく音楽は進んで行きます。

三楽章、オーボエが付点を極端にはずんで演奏しました。テンポの変化のつなぎも絶妙です。アゴーギクも効かせて豊かな表現です。テンポが動いてとても表情豊かな演奏です。

四楽章、抑え気味のブラスセクション、ライヴならではのテンポの動きがいたるところで見られます。ここ一発の爆発力はテンシュテット/シカゴsoには及ばないが曲を大きくとらえた息の長い歌があります。たびたびテンポが遅くなります。最後は青春のエネルギーの爆発でした。

ミヒャエル・ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団

ギーレン★★★★
一楽章、密度の高いクラリネット。重いファゴット。間接音を含んで適度な距離感のトランペットのバンダ。登場する楽器が濃厚で克明です。トランペットのファンファーレもクレッシェンドしてとても積極的な表現です。速めのテンポで軽快に演奏される第一主題。とても美しいヴァイオリン。提示部の反復の前でテンポを速めました。展開部に入ってもすばらしい静寂です。オケの集中力がとても高く、音が集まってきます。ホルンのアンサンブルもすばらしい。トランペットのファンファーレは爆発的なパワーではありませんでした。コータ゜でのトロンボーンやトランペットの強奏が突き抜けて来る部分は素晴らしいエネルギー感でした。硬質なティンパニもとても良い音色です。

二楽章、木管の主題もとてもアンサンブルが良く気持ち良い演奏です。動きがあって生き生きとした表現です。旋律以外のパートもしっかりと響かせていて、とても見通しの良い演奏です。中間部は速めのテンポで小気味良く進みます。主部が戻って、シャープな響きの演奏が続きます。

三楽章、速めのテンポです。伸びのあるコントラバスの主題。高音が美しいオーボエ。テンポも良く動いてとても音楽的です。ギーレンってもっと無機的な演奏をするのかと思っていましたが、とても有機的で濃厚な音楽です。中間部はとても現実的な響きですがとても美しい。主部が戻って、また速めのテンポでグイグイと前へ進もうとする音楽ですが、次第にテンポを落として静まって行きます。

四楽章、整然としている第一主題。テンポも動きます。このテンポの動きは事前に計算されたもので、テンポの動きに合わせて音楽が熱くなることはありません。美しいですが、あまり表情の無い第二主題。相変わらず整然とした展開部ですが、ホルンは奥まったところにいて、あまり前には出てきません。再び静寂な再現部。とても鍛えられているオケでライヴでも見事なアンサンブルです。最後も整ったアンサンブルでバランスの良い響きで終えました。

磨きぬかれた音色と素晴らしいアンサンブルで濃厚な色彩と見通しの良い音楽はなかなかでした。

フランツ・ウェルザー=メスト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

フランツ・ウェルザー=メスト★★★★
一楽章、会場のノイズも結構拾っている録音です。奥行き感と残響を伴ったバンダのトランペット。濃厚な色彩感。Ebクラがくっきりと浮かび上がります。すんなりと入った第一主題。提示部の反復の前はかなりテンポを上げました。反復の後の展開部の前はかなり激しい演奏になりました。柔らかいホルン。ハープの存在感もしっかりあります。場面が変わると音楽の表情や色彩感も大きく変わりとても変化に富んだ演奏です。トランペットのファンファーレは若干抑え気味でした。切迫感のあるコーダでした。

二楽章、穏やかで抑え気味の低弦。木管の主題も強くは出てきませんが、とても生命感を感じさせる音楽です。旋律の周りを彩る金管も強く存在を主張するので、とても色彩感が豊かです。中間部はテンポも動いてとても良く歌います。主部が戻って激しいホルン。

三楽章、良く歌うコントラバスのソロ。オーボエも良く歌いました。中間部ではとても繊細なヴァイオリンがとても美しい。主部が戻って、また色彩感豊かで、生気に満ちた演奏です。

四楽章、生き物のように動くオケ。全開ではありませんが、かなり激しい第一主題。ホルンの咆哮は凄いです。独特な強弱の変化を付けた第二主題ですが、これも美しい。展開部の前のホルンもとても美しい演奏でした。展開部でもトランペットは抑え気味ですが、ホルンは遠慮なしに咆哮しています。細心の注意を払って丁寧な再現部。第二主題の再現もとても美しいものでした。ファンファーレはそんなに強くは演奏されませんでした。コーダは相変わらずすさまじいホルンの咆哮に合わせてかなり力の入った演奏でした。

色彩感も豊かで、歌もありなかなかの演奏でした。正規の録音を期待したいです。
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ズービン・メータ/フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団

メータ★★★★
一楽章、残響を伴って美しいクラリネット。バンダはそんなに遠くないです。力みのない穏やかな第一主題。提示部の反復はしませんでした。とても鮮度が高く、生き生きとした表現の演奏です。トランペットのファンファーレも奥行き感があってとても良い雰囲気です。鋭い響きのトランペット。動きの活発なホルン。青春のエネルギーを感じさせる演奏でしたがトゥッティでリミッターがかかったように音の伸びが無くなったのがちょっと残念でした。

花の章、トランペットが鋭く、穏やかさはあまり感じません。美しいホルン。うつろに歌うオーボエ。トランペットに絡む楽器が非常に美しいです。

二楽章、ゆったりとしたテンポで、流れるような部分と、縦に動く部分の対比が明確です。色彩感がはっきりしていて濃厚で躍動感があります。中間部は速めのテンポでとても良く歌い積極的で爽やかな音楽です。

三楽章、オーボエがとても感情を込めて歌いました。とても良く歌う演奏です。中間部の豊かな色彩感と歌に引き込まれます。ファゴットも深い響きです。

四楽章、若干遅めのテンポです。途中でさらにテンポを落としたりしますが、やはりリミッターがかかったような録音で激しさが伝わって来ません。第二主題は包容力のある美しい演奏です。展開部に入ると金管が奥まってしまって、混沌として全体像が掴みにくくなります。トランペットに比べると貧弱なホルン。オケのアンサンブルは良く、一体感があります。再現部でも活発に動く木管。二度目のファンファーレの最後でテンポを落としました。コーダでも鋭いトランペットが突き抜けて来ます。

色彩感も豊かで、歌もあった良い演奏だったと思うのですが、リミッターがかかったような録音で、四楽章のコーダで爆発したのがどうか分からなかったのが残念でした。
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ディエゴ・マテウス/フェニーチェ劇場管弦楽団

マテウス★★★★
一楽章、潤いのあるクラリネット。遠くから柔らかく響くファンファーレ。ソフトで優しい第一主題。若干遠い感じはありますが、美しい演奏です。展開部に入っても一音一音確かめるような確実な歩みです。荒ぶることなく穏やかで美しい演奏が続きます。ミュートを付けたトランペットのファンファーレもとても静かでした。二度目のファンファーレの後も吠えることは無く、抑制された表現です。ベタベタと重いティンパニ。

二楽章、リズミックに歌うヴァイオリンの主題。踊るように動きのある演奏をしています。中間部でも弦の柔らかく優しい主題の演奏です。弱音部は非常に美しいですが、トゥッティの思い切りが少し悪いような感じで、強弱の振幅が狭い感じがします。

三楽章、歌うコントラバスの主題。オーボエは最初音を短く切って演奏しましたが、とても表情の豊かな演奏でした。シンバルが入るところで少しテンポを速めました。テンポは所々で少し動いています。中間部のヴァイオリンも柔らかく優しい演奏でした。このオケの弱音は非常に美しいです。主部が戻るとクラリネットの弾むようなリズムの演奏。弱音時の表情は細部までとても良く付けられています。

四楽章、美しい響きではありますが、エネルギー感には乏しい響きです。美しく歌う第二主題。羽毛のような柔らかな肌触りで本当に美しいです。美しい響きなので歌も心に染み入るような感じです。展開部でも金管は強く吹いているのは伝わって来るのですが、エネルギーとしては強くなりません。録音でリミッターがかかったような不自然な録音でもないのですが・・・・・。再現部ではまた弱音の非常に美しい音楽が演奏されます。全く荒れることなく美しいクライマックスです。最後はテンポを速めて興奮を煽るような演出でした。

とても美しくロマンティックな演奏でしたが、トゥッティのエネルギー感が無かったのが残念でした。弱音の美しさにトゥッティのエネルギーが伴えば文句なしの演奏だったのですが・・・・。

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、この録音でも遅めのテンポを取っています。静寂間があります。この静寂間が何ともいえない緊張感を醸し出しています。
ただ、シカゴsoとのライブほど大きくテンポが動かない。やはりスタジオ録音となると、よそ行きになってしまうのでしょうか。
テンシュテットの録音は、あまり美しい音を聞くことができないのですが、このCDは美しいです。
一音一音を大切に慈しむかのような、演奏です。ライブの鬼気迫るような演奏とはまた違った安堵感や優しさを聴かせてくれます。
ffでは伸びやかなブラスの響きがすばらしい。よくロンドンpoが下手くそだと書かれていますが、どうしてどうして、シカゴsoクラスには及ばないにしても、かなりの演奏をしてくれています。

二楽章、テンシュテットのライブは混濁やアンサンブルの乱れなど関係なしに指揮者の思いのたけをぶつけてくるような演奏をしますが、このCDでは透明感の高い、極めて整然とした演奏をしています。

三楽章、テンポを大きく動かしたり、アゴーギクを効かせたりはあまりしていないので、上品な感じで、やはりテンシュテットの演奏にしては、よそ行きっぽく聞こえます。弦楽器が美しい倍音を伴って心地よく響いています。

四楽章、冒頭の金管の咆哮も多少余裕を残しているような感じで、汚くなることはありません。
ただ、シンバルが近過ぎるのが気になります。
だんだん熱を帯びてきて、テンポも動きだしました。緩急のコントラストがはっきりしていて、このCDではゆったりした部分がとても良いです。
この楽章の途中で入る金管は決してパワー全開にはなりません。美しい響きを聴かせます。
終結部で全開になっても、大暴れすることはなく紳士的な範疇でした。
テンシュテットの演奏にしては細身な感じを受けましたが、シャープな良い演奏でした。

しかし、普段のテンシュテットの爆演を知っている人たちにとっては不満の残る演奏かもしれません。

ヘルベルト・ケーゲル/ライプツィヒ放送交響楽団

icon★★★
一楽章、弦のフラジオレットの低音部分がはっきりと聞こえます。生命感のあるクラリネット。モヤーっとした中から聞こえるバンダのトランペット。締まった響きのホルン。淡々と伸びやかで爽やかに演奏される第一主題。第二主題のあたりで一旦テンポを落としました。爆発することなく展開部へ入りました。ライヴ録音のせいかミュートしたトランペットのファンファーレが弱かった。その後のミュートを外したファンファーレも少し埋もれる感じでした。見通しよく爽やかな演奏でした。

二楽章、すごくゆっくりとした冒頭の低弦の動機。ところどころでちょっと間を空けます。ヴァイオリンの動機のころにはテンポが上がっていますが、再び低弦の動機になるとゆっくりになります。中間部の主題でも間を空ける部分がいくつもあります。テンポの動きに合わせてよく歌います。終結に向けてテンポを煽りました。

三楽章、静寂の中に響くティンパニとコントラバス。ゆっくり始まり次第にテンポを上げるオーボエの旋律。作品を克明に印象付けるかのようにテンポはとてもよく動きます。表現も積極的で聴き手に届いて来ます。中間部のヴァイオリンはヴェールをかけられたようなとても柔らかい響きで惹きつけられました。主部が回復するとまたオーボエがぐっとテンポを落として演奏しました。

四楽章、パカンと言うシンバル。とてもゆっくりと演奏します。いつの間にかテンポが速くなっています。第二主題のヴァイオリンも絶妙な間を含んだ美しい歌です。ヴァイオリンに絡むオーボエも間のある演奏です。展開部からもすごくテンポが変わります。第一主題の再現は速いテンポです。ファンファーレはどちらも他のパートに消されぎみでした。最後はアッチェレランドして終りました。

歌や間もありなかなかの演奏でしたが、四楽章の燃焼度があまり高くないのが残念でした。

ジョルジュ・プレートル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

プレートル★★★
一楽章、以外に開放的な冒頭。すごく近く大きい音のバンダのトランペット。穏やかな第一主題。提示部の反復の前でテンポを速めました。反復した後はテンポが良く動きました。展開部に入ると静寂感に支配されます。美しくとても流れの良い音楽です。金属的な音で浮かび上がるミュートしたトランペットのファンファーレ。ファンファーリの後一旦静まるところでテンポを落とし、再び盛り上がるのに合わせてテンポを速めました。オケも無理なく鳴らしています。

二楽章、あまり厚みを感じさない低弦。速めのテンポで引っかかるところもなくサラリと流れて行きます。中間部へ入る前に僅かにテンポを落としました。静かに歌う中間部。主部が戻るとホルンの激しい演奏です。

三楽章、あまり歌わないコントラバスのソロ。他の楽器が入って来ても静かです。あっさりとしていますが、なぜか切々と訴えてくるような不思議な演奏です。中間部も何かを強調することもなく流れて行きます。

四楽章、必要以上にオケに強奏はさせません。すっきりとスリムでシャープな響きです。テンポは良く動いています。第二主題もテンポが動いています。とても艶やかなヴァイオリンの演奏です。展開部冒頭では金管にかなり強く吹かせました。再現部はまた開放的な雰囲気でした。再現部冒頭の第一楽章の序奏部分から続く静寂で安らかな弦。ヴィオラの警告的な動機の後はゆっくりとしたテンポです。輝かしいコーダでもテンポが動きました。

良くコントロールされた流れるような演奏でしたが、聞かせどころがはっきりしないところが残念でした。
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マーラー 交響曲第1番「巨人」4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★
一楽章、シノーポリ独特のフワッとした感じ。バンダの配置は、復活同様絶妙な遠近感です。ゆったりとしたテンポで進みます。
ふくよかなバランスで暖かみのある演奏です。ふくよかなバランスの中にピリッとしたところがところどころにちりばめられていてポイントを押さえているようだ。面白い。

二楽章、今まで聞きなれていない音がいろいろ聞こえてくるのは、新しい発見があって面白いところなのだが、全体を支配しているふくよかな音色が影響するのか、表情にも厳しさが感じられない。

三楽章、チェロのソロはすごく弱くティンパニに隠れてしまいそう。表現は平板な感じがします。ショルティに代表されるような、ギンギンガリガリ言わせるような演奏とは対極にある穏やかな癒し系の「巨人」なのです。

四楽章、やはり音色からそう感じるのか、オケのフルパワーには聞こえない。全体にマットな響きで色彩感も乏しい感じがします。
とても平和な感じ
これまであまり聞こえなかった対旋律を強調したり、時にテンポを落としたり、この演奏独特の部分は持っているのだけれど、それをオブラートにくるんだような、ソフトな肌触りが聴く人によって評価を大きく左右するところでしょう。
穏やかで、スケールの小さいミニチュアを聴いたような感覚に襲われました。
新たなマーラー像を提起したことはシノーポリの作曲家としてのキャリアからも想像できることで、評価すべき点だと思いますが、演奏芸術としての詰めはもう少し必要だったのではないかと感じました。
マーラーの巨大な音響空間を感じさせない演奏は共感しにくい部分で、多分多くの人たちが不満に感じるのではないかと思います。

基本的な解釈は良いとしても、やはり巨大な音響空間の再現をスポイルして欲しくなかったというのが私のストレートな感想です。

ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★
一楽章、ゴロゴロと言うノイズの中から、フラジオレットが聞こえます。豊かに響くクラリネット。ミュートをしたトランペット。割と速めのテンポで淡白に進みます。鈍った音のトライアングル。後のコロンビア交響楽団との録音の7年の年数で録音技術が大きく進歩したんだとこの録音を聞くと感じます。薄い弦。ほとんど残響成分を含まない録音からは美しい音を聞き取ることはできません。トランペットのファンファーレの前あたりからテンポを動かしてこってりとした表現でした。

二楽章、急に音が近くなりました。とても動きがあって活気のある演奏です。中間部もかなり速いテンポで優美な雰囲気よりも活発な印象です。スケルツォ主部が戻り再び活気のある演奏で、若さと希望に溢れた演奏のようです。

三楽章、音程が不明瞭なティンパニ。木管や弦には丁寧な表情がつけられています。中間部もどういうわけか落ち着きの無い演奏です。

四楽章、径の小さいシンバルの一撃から始まりました。第一主題の途中で少しテンポを落として克明に印象付けるような演奏です。第一主題部はテンポがよく動きます。第二主題もテンポを揺らしてたっぷりと歌います。とても丁寧に語りかけてくるような感じがします。展開部も大胆にテンポが動きます。再現部では古い録音にもかかわらず美しさの片鱗を見せる弦。後のコロンビア交響楽団との録音のようなコーダで大きくテンポを動かすことは無く、スッキリと終りました。

テンポを動かして訴えかけてくる部分など、マーラーを熟知したワルターならではの演奏でしたが、録音の古さがいかんともしがたい。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、探るように慎重な冒頭。とても感情のこめられた濃厚なオーボエ。美しいウィンナ・ホルン。着実な足取りです。さらりと自然な第一主題。提示部の反復の前でテンポを上げました。展開部からの沈み込みが深く表現の振幅が広いです。トランペットのファンファーレは速いテンポでしたが、その後テンポが動いています。抑え気味で圧倒的なクライマックスという感じではありませんでした。

二楽章、ゆったりとしたテンポで確かめるような確実な足取りの演奏です。バーンスタインの演奏にしては、感情をこめて歌う部分は少ないです。中間部はさらにたっぷりとした濃厚な演奏で、テンポも動いて作品への共感が感じられます。

三楽章、あっさりとしたコントラバスのソロ。速めのテンポでどんどん進みます。オーボエとトランペットが絡む部分ではたっぷりと歌いました。中間部はヴェールを被っているような美しい音色で夢見心地でした。主部が戻って、また速めのテンポで力強い音楽です。

四楽章、硬いシンバルの音。ゆったりと堂々とした第一主題が提示された後、テンポを速めています。その後またテンポを落として再度速めました。激しいテンポの動きです。テンポも動いて感情の込められた第二主題。速いテンポの再現部。トランペットが音を短めに演奏します。弱まったところで、再びテンポが遅くなります。強くなるに従ってテンポを速めます。バーンスタインはこの頃すでにこの作品を完全に自分のものにしていたようです。ただ、この目まぐるしいテンポの変化には少し落ち着きが無いような印象を受けます。ファンファーレはあまりはっきりとは聞き取れませんでした。ここに至るまでもテンポは頻繁に変化していました。トゥッティでの響きも少し浅いように感じました。最後はテンポを上げて追い込みます。

あまりに頻繁に変化するテンポは落ち着きの無さを感じました。響きにも深みが無くちょっと期待外れの演奏でした。
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オトマール・スゥイトナー/シュターツカペレ・ドレスデン

スウィトナー★☆
一楽章、弦のフラジオレットががとても硬い音に聞こえます。続くクラリネットがとても柔らかい音を聞かせます。トランペットのファンファーレが間接音を伴ってとても柔らかく響きます。編成が小さいように感じさせる第一主題。テンポはほとんど動きません。とても小じんまりとまとまっていて、マーラーを聞いている感覚ではありません。金管も非常に軽く吹いているし、弦も弓をいっぱいに使って必死に演奏しているような雰囲気がありません。

二楽章、カチッとした演奏で、スケルツォの雰囲気ではありません。一般的にマーラーを演奏するオケに共通した近代的でスケールの巨大なオケの印象とは異なり、とても古風で小さい編成のオケが演奏している感じで、独特の雰囲気を持っています。

三楽章、カノン風に現れる主題がテューバも入ってくるようになると騒々しいくらいです。中間部のヴァイオリンも弓の真ん中あたりだけ使っているような小さくまとまる演奏です。主部が回帰して淡々と音楽が進みます。

四楽章、チャイナシンバルをステックで叩いたような音から始まりました。余力をかなり残した金管ですが、何か詰まったような音で開放感がありません。ヴァイオリンの第二主題も今まで聞いた演奏とはちょっと違います。何か窮屈そうな演奏です。展開部でも金管は咆哮することなく、抑えたままです。しかし、チャイナシンバルはナゼこの曲に登場するのだろう?再現部でも古風な響きが印象的です。トランペットのファンファーレも独特の響きです。近代的な分厚い響きはありません。ティンパニも古い時代の音です。華々しい勝利の響きではありません。まるで古楽器で演奏したマーラーのようでした。

ジュゼッペ・シノーポリ/ワールド・フィルハーモニック管弦楽団

シノーポリ★☆
一楽章、遠く淡い響きの序奏。バンダのトランペットはそんなに遠くは無くデッドです。第一主題の入りはゆっくりでした。展開部に入ってもあまり緊張感は感じません。音楽にほとんど表情が無く、のっぺりとしていて平板な感じです。トランペットのファンファーレが鳴っても高揚感もありません。響きにも厚みが無く何か物足りない演奏です。

二楽章、この楽章でもただ楽譜に書かれていることを音にしているだけのようで、無表情で平板です。中間部は少し歌われています。

三楽章、遠いコントラバスの主題。途中で加わるオーボエも平板です。中間部のヴァイオリンはフワッとした音色で夢の世界のようでなかなか良い雰囲気でした。

四楽章、大編成のオーケストラにもかかわらず、響きが薄く奥行き感もありません。演奏会場がデッド過ぎるのか?オケもあまり乗っていないようです。トゥッティで低音が伴っていないので、響きに厚みが全くありません。終盤にテンポが大きく動きました。

録音の問題もあったのだと思いますが、響きが凄く薄く、残響もほとんど感じない響きで、作品への共感なども全く表現されていないように感じました。
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ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

icon
一楽章、透明感の高い弦です。暖かいトランペット。今まで聞いたマーラーとは温度感が違う。
ビブラートの効いたホルン。「チェコの弦」と言われますが、独特の透明感があり魅力的です。
ハープの三連符がたどたどしい。弦の美しさに比べると管楽器にはバラツキがあるようです。トランペットのffが独特の粘着質の音がして、弦の透明感と合わないような感じを受けます。

二楽章、ホールの影響か、全体に木質系の感じがして、暖かみがあります。ノイマンの指揮はオケの音質を生かした穏やかな表現で、決して襲い掛かってくるような演奏ではありません。

三楽章、トランペットのmfぐらいのアンサンブルは柔らかくて暖かみがあって良いのですが・・・・・・。

四楽章、金管が音を短く切るのがとても気になります。シンバルも硬質な楽器を使っているようで、弦とは水と油のようなことになっているように私には聞こえます。
アンサンブルも良いのですが、金管があまり鳴らないのをムリに力んで吹いているようで、伸びのある音がしないので、うるさいです。
せっかく弦が美しい響きを持っているのに、金管と打楽器が良さを壊してしまっているようで、ちょっと残念な演奏です。
ウルサイ!
この粘着質の金管の響きは1970年代のN響でもこんな音を出していました。もちろん今はすばらしいオケに成長しましたが、まだ技術が世界水準に達していない時にはこのような音になってしまうのでしょう。

音楽がどうのこうのよりも、ffが汚くて残念ながら、あまり聴きたくない演奏でした。

ジェイムズ・レヴァイン/ロンドン交響楽団

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一楽章、太く豊かなクラリネット。突然昔のラジオが鳴り出したようなバンダのトランペット。とても気持ち良く鳴るホルン。レヴァインの音楽には静寂感が無いように思うのですが・・・・・。この演奏でも弱音の緊張感がないし、強奏では騒々しく埃っぽい印象がどうしてもあるのです。

二楽章、伸び伸びと豪快に鳴る弦。遠慮なく強いトライアングル。弱音はありませんが、オケは気持ちよく鳴ります。

三楽章、ここでもティンパニも弱音はなく、コントラバスも演奏しやすい音量で演奏しています。中間部のヴァイオリンはマスクされてヴェールをかけられたような独特の響きが美しかった。表情はあるのですが、少し乱暴な感じがあります。

四楽章、ティンパニがかなり強調されています。第二主題もとりたてて美しいことはなく、色彩感もあまりありません。展開部も雑然としていて落ち着きがありません。響きの純度が高くなく、余分な響きが常に付きまとっているような感じがします。最後はかなりテンポを上げて終わりました。

ちゃんと交通整理されていないような印象の演奏で、雑然としていました。

リボール・ペシェク/チェコ・ナショナル交響楽団

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一楽章、低音も良く聞こえるフラジオレット。あまり潤いの無いクラリネット。比較的近いバンダのトランペット。速いテンポで静かな第一主題です。提示部の反復の前ではほとんどテンポが変わりませんでした。展開部もとても静かです。すごく少ない人数で演奏しているような寂しさです。登場する楽器もくっきりと浮かび上がることはなく、合奏の中に埋もれているような感じです。トランペットのファンファーレもあまり音圧感がなく、とても貧弱なオケの演奏のように感じます。

二楽章、冒頭の低弦にも厚みがありません。メロディを演奏する楽器が前に出てこないので、色彩感もあまり鮮明ではありません。中間部も速めのテンポであっさりと演奏されます。

三楽章、主題の途中で登場するオーボエがあまり浮き出ません。主部の中間部のクラリネットは良く歌いました。中間部のヴァイオリンがあまり鳴っていないような感じがします。オケの響きも極上とは言い難く、色彩感にも乏しい演奏で、アゴーギクを効かせて演奏することも無く、こちらとしては、何を聞けば良いのか戸惑います。

四楽章、小さい径のシンバル。全開ではない第一主題。なぜか鳴らし切らない演奏が疑問です。もっと色んな音が混在しているはずなのにとてもスカスカで寂しい響きです。弱音で淡々と進められる第二主題。展開部に入ってもどこか醒めていて熱気を帯びることはありません。余分な肉を削ぎ落としたような痩せた音楽です。ミュートを付けたファンファーレも弱弱しい。コーダの前後で大きくテンポが動きました。

私には、魅力的な演奏には感じませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第1番「巨人」の名盤を試聴したレビュー

ドヴォルザーク 交響曲第8番

ドヴォルザークの交響曲第8番は、明るく牧歌的な雰囲気と、故郷ボヘミア(現在のチェコ)への愛情が込められた親しみやすい作品です。彼の代表作である「新世界より」と並び、非常に人気が高く、豊かなメロディーと民族的な要素が特徴です。以下、各楽章について解説します。

1. 第1楽章:Allegro con brio

チェロによる穏やかなテーマで始まり、自然の美しさや田園風景を想起させます。その後、ホルンが壮大なメロディを奏で、明るく力強い雰囲気が広がります。軽快で陽気なメロディと共に、田舎ののどかな風景が音楽の中に描かれており、生命力あふれる印象を受けます。

2. 第2楽章:Adagio

この楽章は静かで叙情的な雰囲気が漂います。時折、鳥のさえずりを思わせるメロディが現れ、自然の中での穏やかなひとときや、夕暮れ時の静寂を感じさせます。温かみのある旋律がゆったりと流れ、聴き手に深い安らぎと美しさを届けます。

3. 第3楽章:Allegretto grazioso

ワルツ風の軽やかなリズムで始まり、優雅で遊び心のあるメロディが特徴です。どこか懐かしさを感じるこのメロディは、チェコの伝統的な音楽に由来し、聴き手に微笑みを誘います。途中で速いテンポの部分に変わり、明るくはつらつとした雰囲気を加えることで、多様な表情を生み出しています。

4. 第4楽章:Allegro ma non troppo

最終楽章はファンファーレのようなトランペットの導入で始まり、壮大なフィナーレに向かう流れが印象的です。明るく活気に満ちたメロディが繰り返され、リズミカルで喜びに満ちた展開が続きます。チェコの民族舞曲風のリズムが豊かに組み込まれており、全体を通してエネルギッシュで楽しさあふれるクライマックスを迎えます。

全体の印象

交響曲第8番はドヴォルザークの作品の中でも特に「自然」と「民族色」が豊かに表れています。複雑な構成よりもメロディの美しさが際立ち、聴き手に親しみやすさを感じさせる曲です。彼の故郷に対する愛情と、自然の中で生まれる喜びや穏やかさが凝縮されており、心温まる魅力がいっぱいの作品です。

たいこ叩きのドヴォルザーク 交響曲第8番名盤試聴記

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★★
一楽章、冒頭からアゴーギクを利かせて歌い込まれた演奏です。表情が豊かで伸びやかな演奏です。
オケが渾身の力を振り絞って演奏しているような力強く情感に満ちた演奏です。

二楽章、木管も美しい!テュッティも生き生きとしていて聴いていて気持ちが良いです。

三楽章、

四楽章、明るい音色のトランペットのファンファーレでした。オケの積極的な表現がとても好印象です。

すばらしい演奏でした。

ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、とても整った弦のアンサンブルです。ゆったりと心のこもったフルートのソロでした。テュッティでも混濁することなく見通しの良い演奏はセルの特徴です。
表情もとても豊かです。どの楽器も引き締まった響きで、スリムな印象です。
セルのコントロールが細部まで行き届いている感じで制御が利いています。表情もセルの意図が克明に表現されているようです。
すばらしい演奏です。

二楽章、とても表情豊かな木管です。弦と木管の絡みもとても美しいです。セルが鍛え上げたクリーブランド管弦楽団のアンサンブルの精度は見事!

三楽章、歌があって、演奏に酔うことができます。

四楽章、張りのあるトランペットのファンファーレでした。常にシャープで見通しの良い演奏の中に豊かな歌があって気持ちが洗われるような感覚になります。

見事でした。すばらしい!

オトマール・スイトナー/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで陰影に満ちた哀愁漂う冒頭の表現です。軽いタッチで強奏部分でも重くなりません。少し金管が遠い感じの録音です。きらびやかではありませんが、渋いいぶし銀のような美しい演奏です。

二楽章、静寂感の中からフルートが浮かび上がります。艶やかなヴァイオリンのソロ。若干遠目の金管のおかげで、テュッティもすばらしいバランスで見事な響きです。

三楽章、作品に極度にのめり込むこともなく、適度な距離感で端正な演奏がとても好感がもてます。

四楽章、ちょっと細目の響きのファンファーレ。とても穏やかなチェロの主題です。テュッティでも爆発することなく抑制の効いた見事な演奏です。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★★★
とても柔らかく美しい序奏。あまりに整っているので、人工的に加工されているのではないかとさえ思えてくるほどです。カラヤンの演奏で良く言われる磨きぬかれた美しさと言う表現がピッタリな滑らかで響きも融合した分厚いものです。どのパートも見事に整っていて、非の打ち所の無い演奏です。

二楽章、とても豊かに鳴る弦。フルートもクラリネットもとてもバランスが良く美しいです。トランペットが爽快に鳴り響く様も非常に美しいですし滑らかです。

三楽章、なまめかしく艶やかで美しい主要主題。木管も響きを伴って非常に美しいです。響きも溶け合ってとてもバランスが良いです。このひたすら美しい演奏に身を任せて酔いしれていれば良いと言う気持ちになります。

四楽章、強く輝かしいトランペットのファンファーレ。チェロの主題もとろけるような柔らかさです。豪快に鳴り響く金管も輝かしく非常に美しいです。しみじみと歌う弦。圧巻のコーダ。最後に叩き付けるティンパニが見事に決まりました。

このひたすら美しい演奏を何と言って表現すれば良いのでしょう。溶け合ってバランスの良い演奏が最後まで続きました。そして圧巻のコーダも見事でした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ジュリーニ★★★★★
一楽章、ゆっくりと何とも言えない呼吸で、揺れながらしみじみと歌う序奏。美しいフルート。雄大であまり大きく盛り上がらないトゥッティ。第二主題もとても豊かな歌です。音楽が横に揺れている感じで、とても優雅です。ドタバタしません。色彩は濃厚ではありません。水彩画のような淡い色彩で、粘り気も無くサラッとした肌触りです。トランペットに序奏が現れる部分も奥まったところからの響きで音圧はあまり感じません。

二楽章、しなやかで美しい歌です。静かなたたずまいで、広大な空間に音楽が広がっていくようです。中間部も穏やかで落ち着いています。細く艶やかなヴァイオリンのソロ。コーダの中間部の回想もとても美しいです。

三楽章、さぐるようにゆっくりと入って豊かに歌う主要主題。テンポが動いて揺れ動くようにしなやかな表現です。中間部に入っても大騒ぎするように舞い上がることなく、とても落ち着いて上品です。テンポも遅くゆったりとしています。ジュリーニの体から自然に出てくるようなテンポの動き。とても伸びやかで豊かな歌です。

四楽章、ゆっくりと響き渡るトランペットのファンファーレ。とてもゆっくりとした足取りの主題。その後の加速はあまり大きくしません。他の演奏に比べるとかなり遅いです。マイルドで豊かな響きです。ファンファーレが戻るとトランペットや他の金管も強奏しますが、決して荒々しくはなりません。コーダはあまり大きなテンポの変化は無く堂々と重厚な演奏で終わりました。

ゆっくりとしたテンポで優雅に横に揺れる演奏で、決して荒々しくなることは無く、夢の様に淡い演奏でした。作品の持っている力強さなどはあまり表現されなかったとは思いますが、この美しさには抗しがたいものがありました。
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ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

アーノンクール★★★★★
一楽章、とても濃厚に歌うこともありますが、音の処理がぶっきらぼうなところもあり第一印象は少し戸惑いました。かなり思い切ったテンポの動きがあります。鋭いトランペット。第二主題も弾むように歌います。展開部で序奏が現れる部分は豊かな歌で美しい表現でした。クライマックスの激しいホルンの咆哮。トランペットに現れる序奏はやはり鋭いです。続く木管はとてもゆっくりと演奏されました。

二楽章、深い息遣いの主要主題。フルートは凄く速く演奏して、クラリネットはゆっくりです。古楽の指揮者の演奏と言うと研究成果発表のように無機的でキワモノ演奏が多いですが、この演奏はとても感情の表出があって抵抗がありません。楽しげな中間部。少し詰まったようなトランペットの三連音。

三楽章、速めのテンポで動きのある主要主題。中間部は穏やかです。透明感があって美しい弦。コーダはトランペットが鳴り響き、とても力強いです。

四楽章、速いテンポで鋭いトランペットのファンファーレ。強奏部分では唸りを上げる金管。屈託無く鳴り響く金管がとても気持ち良いです。コーダの最初は大きな加速はありませんでしたが、その後急激に遅くなってさらに加速して終わりました。

音の処理などに独特の考えを反映させた部分もありましたが、豊かに歌い、振幅の大きな演奏で特に、屈託なく鳴り響く金管が爽快でした。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット★★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポでテンシュテットらしいねっとりと感情のこもった序奏です。フルートもゆっくりと感情がこめられています。第一主題もテンポも動いてかなりの感情移入です。再び序奏が戻るとまた濃厚な歌です。すさまじい咆哮を聞かせるホルン。猛烈なクレッシェンドをするティンパニ。ロンドンpoも指揮にしっかりと付いて行ってとても熱い演奏をしています。

二楽章、アゴーギクを効かせて豊かに歌う主要主題。ゆっくりと物凄く濃厚に歌います。盛り上がりも抑えることなく巨大です。粘りっ気があって濃厚なホルンの咆哮。深い悲しみに落ちて行くように最後でした。

三楽章、速いテンポですが、生き生きと舞うようにテンポが揺れ動きます。強弱の変化にはとても敏感に反応します。テンポはとても大きく感情のままに動きます。活発に動くコーダ。テンシュテットによって命が吹き込まれたようです。

四楽章、この楽章も速めのテンポですが、感情が込められてとても良く歌うチェロの主題。展開部の終わりでは、激しく、色んなパートが動き回ります。猛烈なコーダでした。

感情のこもった歌と、激しい金管の咆哮。テンシュテットによって命が吹き込まれたように生き生きとした表現の音楽。オケも共感して大きな振幅の音楽はとても聞き応えがありました。
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ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス/デトロイト交響楽団

ブルゴス★★★★★
一楽章、少しテンポが動いて瑞々しい序奏。ゆっくりと進む第一主題。一歩一歩確実に進みます。遅いテンポで作品を解剖するように細部も描いて行きます。トランペットの序奏は奥まったところから響いて来ます。序奏の最後にグッとテンポを落としました。テンポはとても良く動きます。

二楽章、サラッとしていてとても爽やかな響きです。ゆっくりとしたテンポで丁寧に描いて行きます。

三楽章、大きな起伏が無く整然とした演奏です。爽やかなブルー系の響きで清々しい感じです。コーダも力強い感じは無く、とても落ち着いています。

四楽章、トランペットのファンファーレも力の抜けた軽い演奏でした。チェロの主題も落ち着いていて大きな起伏はありません。ホルンのトリルの部分もあまり大きくテンポを速めることはありませんでした。トランペットのファンファーレが戻る部分はかなり高揚感がありました。コーダも大きなアッチェレランドは無く、あまり強い高揚感は無く整然としていました。

とても理性的な演奏で、感情の赴くままの演奏とは一線を画しているものでした。ブルー系の清々しい響きと細部まで見通せるアンサンブルも見事でした。
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ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

ノイマン★★★★★
一楽章、速いテンポですが、感情を込めて歌う序奏。充実した響きのトゥッティ。艶やかで滑らかな弦。色彩感もとても豊かです。トランペットに序奏が戻る部分は、渋みのある響きと分厚い響きでした。オケは伸びやかでとても美しい響きです。いろんなパートがしっかりと主張していて、存在感があります。

二楽章、途中で膨らんでスーッと引いて消えて行く主要主題。中間部はゆったりと穏やかな演奏です。トランペットの三連音はゆっくりでした。音と音の間に静寂感も感じます。

三楽章、艶やかでしっとりとした弦がゆっくりと奏でる主要主題。脱力して堕ちて行くような木管。中間部もゆっくりで、けだるい感じの演奏で、独特の雰囲気を醸し出しています。主部が戻る前でテンポを落としました。コーダはトランペットがスーット抜け出て気持ちのいい響きです。でも元気ではつらつとした演奏ではありません。

四楽章、ゆっくりと輝かしく歯切れの良いトランペットのファンファーレ。さすがにお国ものと言う感じで堂に入っているチェロの主題。ホルンのトリルが現れる部分もあまりテンホは速くならずどっしりと落ち着いています。金管が鳴る部分はしっかりと鳴らしていてとても色彩が濃厚です。トランペットのファンファーレが再度現れる部分は感動的な程見事な盛り上がりです。コーダもゆったりとしたテンポから長い時間をかけてアッチェレランドしました。トロンボーンなども気持ちよく鳴り響き爽快に終わりました。

チェコpoのお国もので、とても安定感のある充実した響きで、色彩感も濃厚でしたし、金管がここぞと言う所で気持ち良く鳴り響く演奏で、聞いていてとても満足感がありました。三楽章の独特の表現も、「こんな演奏もありなんだー」と感じました。
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ジョナサン・ノット/バンベルク交響楽団

ノット★★★★★
一楽章、独特の歌いまわしの序奏。速いテンポで勢いのある第一主題。弱音とトゥッティの振幅がとても大きく、トゥッティはかなり強く吠えます。とても明朗快活な演奏です。積極的に強弱の変化があり意欲的な表現です。爆演系の演奏のような感じもします。かなり豪快に金管を鳴らしています。

二楽章、ゆったりと深く歌う主要主題。清涼感があって美しい弦。森の木々がざわめくような中間部。その中で戯れるような木管。妖精のようなヴァイオリンのソロ。

三楽章、ここでも独特の表現で歌う主要主題。爽やかなコーダ。

四楽章、音を短めに淡白なトランペットのファンファーレ。ホルンのトリルが現れる部分は切れ味の良い金管が気持ちの良い演奏です。コーダは猛烈な追い込みのまま終わりました。

振幅の大きな演奏で、吠える金管。美しい弦。独特の歌いまわしなど、個性的でしたが、聞き応えのある演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ドヴォルザーク:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ドヴォルザーク 交響曲第8番2

たいこ叩きのドヴォルザーク 交響曲第8番名盤試聴記

オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★★☆
一楽章、しっとりとした弦の響きです。表情は控え目な印象ですがテンポは動きます。このテンポの動きで高揚感を生み出しています。

二楽章、豊かな響きが心地良い演奏です。表情は控え目ですが、とても品の良い演奏です。木管の短い音がホールの残響を伴って心地よく響きます。音楽にどっぷりと浸かることができる良い演奏です。

三楽章、音楽の自然な流れに身を任せるような演奏がとても良いです。誇張したような表現など一切ありません。

四楽章、ドイツ的な少し陰影を感じさせるトランペットのファンファーレでした。確実な足取りで音楽が進みます。自然体の音楽作りがスウィトナーの音楽に対する確固たる自信を裏付けるようなそんな演奏です。

ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、ゆったりしたテンポで歌い込まれます。筋肉質で贅肉を切り落とした演奏はセルの特徴です。色彩の変化も見事に描き分けされます。
音色が明るいので、哀愁の表現は今ひとつか?

二楽章、とてもチャーミングな表現で魅了されます。

三楽章、鮮明に録音されているのですが、残響が少なく、弦の響きに豊かさがありません。表情は豊かです。

四楽章、勇壮に轟くトランペットのファンファーレ!表情が生き生きしていて豊かなのがこの演奏の特徴です。

最後のアッチェレランドは見事でした。

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団 1975年大阪ライヴ

クーベリック★★★★☆
一楽章、ゆっくりと感情のこもった序奏。活動的で生き生きとした第一主題。ただ、残響が少ないのか、響きが浅く奥行き感や厚みがあまり感じられません。思い切ったタメがあったりします。第二主題も生き生きとしています。アンサンブルの精度の高く、オケが一つになったような見事なアンサンブルです。とても表現の豊かな演奏でした。

二楽章、とても静かで静寂感がかります。豊かに歌います。柔らかく優しい中間部の冒頭から次第に力強くなります。

三楽章、デッドな録音なので、弦が少しキツイ響きでザラザラしています。ワルツの揺れは心地良く感じます。中間部はとても活発で華やかです。

四楽章、強く芯のあるトランペットのファンファーレ。感情のこもったチェロの主題。録音がデッドな分、トゥッティの力強さはなかなかのものです。コーダは感情の高まりをストレートに表現した激しい表現でした。

クーベリックの感情をストレートに表現した素晴らしい演奏でした。オケもとても精度の高いアンサンブルで応えていました。録音がデッドで弦の響きがキツイ感じだったのが唯一残念な部分でした。
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クリストフ・フォン・ドホナーニ/クリーブランド管弦楽団

ドホナーニ★★★★☆
一楽章、とても整ったアンサンブルで引いたりふくらんだりして豊かに歌います。ティンパニがコーンと強く響きます。引き締まって俊敏な反応のオケ。第二主題も生き生きとしていて豊かな表情です。アメリカのオケらしく明快な反応の演奏です。

二楽章、豊かに感情のこもった表現の主要主題。凍りつくようなヴァイオリンでしたが、ティンパニが入ってから暖かくなりました。中間部は戯れるような楽しげな表現です。ヴァイオリンのソロが美しいです。スケールの大きなトゥッティにトランペットが強く突き抜けます。

三楽章、哀愁をたたえた主要主題。機能的で精緻な演奏で透明感があります。

四楽章、硬質で強いトランペットのファンファーレ。あまり歌わずカチッとしたチェロの主題。コーダで明快に鳴り響く金管が爽快です。

引き締まった響きと豊かな歌。機能的で精緻なオケの見事なアンサンブルも聞応えがありました。
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マリス・ヤンソンス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ヤンソンス★★★★☆
一楽章、ゆっくりとしたテンポで深い息遣いで歌う序奏。躍動感のある第一主題。テンポの動きもあって、深みのある演奏です。第二主題も豊かな表現です。引きずるように重いコントラバス。歌に溢れた豊かな演奏です。劇的なコーダでした。

二楽章、この楽章でも深い歌でテンポも大きく動きます。フルートは速いテンポでクラリネットはゆっくりと演奏されます。中間部はのどかな雰囲気です。ヴァイオリンのソロもテンポが動きました。

三楽章、ゆっくりと始まり少しテンポを上げた主要主題。とても感情のこもった表現です。中間部もゆっくりと最初は抑えた表現でした。コーダは力強いものでした。

四楽章、速いテンポで少しせっかちなトランペットのファンファーレ。静かですが、感情を込めて歌うチェロの主題はゆっくりとした足取りです。その後の盛り上がりでは一気にテンポを速めて華やかな演奏になります。展開部から再現部にかけての強奏はオケが一体になって攻め込むような気迫に満ちた迫力でした。コーダも力感に溢れて追い込みも興奮を高めるものでした。

とてもよく歌い、表現の振幅も大きく、特に強奏部分の一体感のある迫力はなかなかのものでした。
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小林 研一郎/ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団

小林 研一郎★★★★☆
一楽章、きりっと立ったフルート。力強く躍動感のある第一主題。華やかで豪華に鳴り響くトゥッティ。第二主題とその後ろで動く弦の表情もとても豊かです。小林の唸り声が聞こえます。トランペットに現れる序奏も伸びやかで力強いです。とてもオケを豪快に鳴らしていろんな音が豊かに響く演奏です。

二楽章、ゆっくりとたっぷり歌う主要主題。中間部は春の訪れのような暖かく楽しげな雰囲気です。艶やかで美しいヴァイオリンのソロ。小林の唸り声はかなり頻繁に聞こえます。トゥッティはオケを存分に鳴らします。色彩感も濃厚でとても豊かに歌います。

三楽章、最初ゆっくりと始まる艶やかで粘りのある主要主題。ゆっくりとしたテンポで一音一音確かめるような歩みです。中間部は揺れ動くように舞う演奏です。

四楽章、伸びやかで滑らかなトランペットのファンファーレ。力があって活気を感じるチェロの主題。遅めのテンポで濃厚に描かれて行きます。金管が屈託無く伸びやかに鳴り響きます。コーダは圧倒的と言うほどではありませんでしたが、過不足無く鳴り響きました。

基本的に遅めのテンポで丁寧に描いた演奏でした。金管がとても良く鳴り、豪快な面の魅力の演奏でした。
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カルロス・パイタ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

パイタ★★★★
一楽章、速めのテンポで淡々とした序奏。力強い第一主題。ホルンが激しく咆哮します。金管はやはり強烈です。気持ちよく鳴り響きます。ティンパニも強烈です。

二楽章、主部は静寂感があって美しいです。ここでも金管がかなり思い切って鳴らされます。大きな表現は無いものの中間部も美しいです。

三楽章、自然な表現の主部です。キワモノと言われるような奇抜な表現はあまり無く、とても自然です。コーダは活発で元気な演奏です。

四楽章、明るいトランペットのファンファーレ。大きくは歌いませんが自然なチェロの主題。金管は強いですが、パイタの演奏で良くある、絶叫にのような限界に近い咆哮ではありません。目が覚めるようなトロンボーンの強奏。コーダはさすがに強烈な金管でした。

パイタの演奏らしく金管が強い演奏でしたが、いつもの限界近い咆哮は無く、意外と自然な演奏でした。
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ズデニェク・コシュラー/スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

コシュラー★★★★
一楽章、一つに聞こえる序奏。速めのテンポで演奏される第一主題。爽やかで美しいオケの響き。あまり大きく歌ったりはしません。金管は激しく咆哮します。トランペットに現れる序奏は速めのテンポでやはりあっさりとした表現です。

二楽章、お国物ですが、あまり深みのある表現はありません。作品への共感よりも、距離を置いて作品に書かれていることを忠実に再現しているようです。中間部もあまり活発にはならず穏やかです。主部が戻った部分は落ち着いた良い演奏です。

三楽章、速めのテンポで深みのある歌です。心地良く揺れます。中間部は活発さはありませんが、柔らかい表現です。コーダは大きい響きでした。

四楽章、自然な響きのトランペットのファンファーレ。チェロの主題はかなり速いテンポでどんどん進んで行きます。ホルンのトリルが現れる部分は少しだけ速くなって、ホルンが強調されています。トロンボーンも気持ちよく鳴り響きます。金管は積極的に表現します。コーダは金管が見事に鳴り響いて輝かしいものでした。

金管が豪快に鳴り響く演奏でその部分は爽快でした。ただ、表現は抑え目であまり大きな歌や表現はありませんでした。
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アレキサンダー・ラハバリ/ブリュッセル・フィルハーモニック

ラハバリ★★★
一楽章、伸びやかに美しく歌う序奏。活気があって力感に溢れる第一主題。音の鮮度も高くとても瑞々しい演奏です。マーラーでも感じたのですが、音楽が小さくまとまってしまうようなところはこの演奏でも感じられます。トランペットに現れる序奏はかなり強く演奏されます。

二楽章、木管の弱音がとても透明感があって美しいです。ヴァイオリンのソロも美しいですが、その後ろの木管が豊かに残響を伴ってとても美しい演奏でした。

三楽章、ねっとりと尾を引くような演奏では無く、キビキビと動く明朗な主要主題。感情のこもった大きな表現はありませんが、美しい演奏です。

四楽章、チェロの主題も三楽章の主要主題と同様に明朗な演奏です。ホルンのトリルはあまりはっきり聞こえません。トランペットのファンファーレが戻る部分は速いテンポもあってとても勢いがあって大きな波が押し寄せてくるような迫力がありました。コーダはあまり急加速はありませんでした。トランペットは芯のしっかりとした響きですが、トロンボーンやホルンは響きの中に埋もれてしまってはっきりと響きませんでした。

感情を込めた表現はありませんでしたが、キビキビとした明朗な演奏でした。ただ、大きなスケール感が無く、小さくまとまってしまうような感じがしました。
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カレル・アンチェル/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1960年ライヴ

アンチェル★★★
一楽章、速めのテンポで太い線で描かれる序奏。速いテンポではつらつとした第一主題。大きく歌うわけではありませんが、とても力強い音楽です。積極的な演奏で金管も吠えます。

二楽章、テンポが動いたり大きく歌うわけではありませんが、とても生き生きと動きのある演奏です。ティンパニのクレッシェンドも激しいです。短い音は特に短く演奏して音を際立たせています。

三楽章、一転してゆっくりと歌う主要主題。中間部は力強い感じの演奏です。一つ一つの音にとても力があります。

四楽章、たどたどしい感じのトランペットのファンファーレ。刻み付けるように強いチェロの主題。ホルンのトリルが現れる部分はあまり強く無く、軽い演奏でした。とてもデッドでオンマイクの録音なので、とても音が強く響いているのだと思います。コーダはかなりの追い込みと迫力でした。

積極的な歌はありませんでしたが、とても音に力があって力強い演奏でした。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ハレ管弦楽団

ホーレンシュタイン★★
一楽章、暗くテンポが感情のままに動く序奏。録音が古く倍音成分が少ないようで、響きが少し寂しいです。テンポは大胆に動きます。

二楽章、録音が古く鮮明な音は聞けません。AMラジオを聴いているような感じです。中間部は優雅な表現です。

三楽章、アウフタクトをゆっくりと演奏してその後は速めのテンポです。

四楽章、ゆっくりと朗々と歌うトランペットのファンファーレ。淡々としたチェロの主題。ホルンのトリルの部分でもあまり大きな盛り上がりはありません。またこの部分のテンポがあまり速くならず少し間が持たない感じがあります。コーダはテンポの大きな動きもあり圧倒的でした。

テンポの大きな動きのある演奏でしたが、表現の振幅はあまり大きく無く、淡々とした表現でした。録音が古くAMラジオを聴いているようなナローレンジの録音では細部や微妙な表現を聞くことはできませんでした。
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ビクトル・パブロ・ペレス/テネリフェ交響楽団

ペレス
一楽章、感情を込めて濃厚に歌う序奏。巨大な響きにはなりませんが、カチッと決まるアンサンブル。トランペットに序奏が戻る部分は強めのトランペットでしたが、他のトゥッティではあまり金管は強く無く、振幅はあまり大きくありません。独特の表現もたまにありました。

二楽章、編成が小さいのか、透明感があって、アンサンブルも割と整っていますが、厚みのある響きや強弱の変化はあまり大きくありません。ヴァイオリンのソロは細くひ弱な感じでした。

三楽章、細く寂しい主要主題。とても響きが薄いです。響きが薄い分、スッキリとしているとは言えますが・・・・・。コーダもコントラバスがあまり聞こえず薄い響きです。

四楽章、トランペットはあまり伸びやかでは無く、奥まっています。あまり大きな感情の起伏は感じないチェロの主題。テンポの動きもほとんど無く淡々と演奏されます。あまりにもテンポが動かないので、待ちきれなくなります。ホルンのトリルが現れる部分も大きな盛り上がりにはなりません。小さい編成のバランスを考えてか、トロンボーンもあまり強くは吹きません。コーダも興奮を高めるような圧倒的な迫力や追い込みはありませんでした。

編成が小さいのか、かなり薄い響きで、テンポもほとんど動かず、踏み込んだ表現もあまりありませんでした。振幅があまり大きくないので四楽章のコーダも高揚感無く終わりました。
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Tomas Netopil/パルマ国立歌劇場管弦楽団

Netopil
一楽章、普通に演奏されているのですが、何か表面だけが鳴っているような感じで上滑りしているような感じがします。トランペットに序奏が戻る部分でもトランペットは強く鳴っているのですが、他のパートが付いてこない感じで、一体感がありません。コントラバスもしっかりと鳴っているのですが、何故か全体の力が感じられないのは不思議です。

二楽章、柔らかい響きなのですが、力の無い弦。柔らかく穏やかと言えば、そうとも言えるのですが、寂しい感じがします。

三楽章、艶やかな主要主題。中間部は穏やかであまり活発な動きはありません。かなり響きが安定してきて深い響きになってきました。

四楽章、ねっとりとしたチェロの主題。ホルンのトリルが現れる部分はほとんど盛り上がりを感じられない程音圧が高まりませんでした。トランペットのファンファーレが戻る部分は強く響きました。コーダはトランペットやトロンボーンが突き抜けて来ますが、少し雑な演奏になってしまいました。

前半の表面だけ鳴っているような上滑りしているような響きで弱々しい演奏から、後半は少し力強くなりましたが、その分雑にもなってしまった演奏でちょっとがっかりでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ドヴォルザーク:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番

ブルックナーの交響曲第8番は、彼の作品の中でも最も壮大で神秘的な交響曲の一つで、深い精神性や荘厳な雰囲気に満ちた作品です。「オルガンのよう」と評される重厚なオーケストレーションが特徴で、宇宙的ともいえるスケールで聴く者を圧倒します。以下、各楽章について簡単に説明します。

1. 第1楽章:Allegro moderato

暗く厳粛な雰囲気で幕を開け、徐々に高まっていく壮大なテーマが提示されます。冒頭から低弦が鳴り響き、徐々に強さを増していくこの楽章には、運命的な重さと荘厳さが感じられます。ブルックナー特有の繰り返しが用いられており、宗教的でありながらも時折悲劇的な要素も垣間見えます。音楽が流れるにつれて、天上と地上が交錯するような、広がりのある空気感が漂います。

2. 第2楽章:Scherzo. Allegro moderato – Trio. Langsam

このスケルツォは、ブルックナーの交響曲の中でも特に強い印象を残す楽章です。運命的で不気味なリズムが印象的で、力強くも不安げな旋律が繰り返されます。自然の風景や森の中を連想させるような神秘的な雰囲気が漂い、ブルックナーの独自のリズムが聴き手を揺さぶります。トリオ部分では対照的に、穏やかで優雅なメロディが現れ、一時の安らぎをもたらします。

3. 第3楽章:Adagio. Feierlich langsam; doch nicht schleppend

このアダージョは、ブルックナーが自ら「心からの祈り」と評したように、深い祈りと崇高さが込められた楽章です。ゆっくりとしたテンポで、美しくも重厚な旋律が展開し、時間が止まったかのような静謐な雰囲気が漂います。心の奥深くに響くような感動的な旋律が次第に盛り上がり、最後には壮大なクライマックスに達します。この楽章は特にブルックナーの宗教的な信念や精神的な側面が色濃く反映されており、聴き手に深い敬意と感動をもたらします。

4. 第4楽章:Finale. Feierlich, nicht schnell

フィナーレはまさに堂々たる締めくくりです。重厚なオーケストラが雄大なメロディを奏で、壮大なスケールで展開します。ブルックナーの音楽の特徴である、「止まらずにどこまでも続いていく」ような雰囲気が感じられ、圧倒的な迫力と希望に満ちた結末へと導かれます。彼が持つスケールの大きさや宇宙的な視点が表現され、最後の瞬間まで荘厳な雰囲気が続きます。

全体の印象

交響曲第8番はブルックナーの交響曲の中でも最高傑作と称され、非常に精神的で壮麗な作品です。その壮大なスケールと深い宗教的な情緒は、聴き手を神聖な世界へと誘います。ブルックナーが持つ「音楽を通じて祈りを捧げる」という信念が、楽曲全体を通じて感じられる、非常に奥深い交響曲です。

4o

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、歌心にあふれる第一主題。陰影を伴ったクラリネット。編成も大きくスケールの大きな演奏です。一転して明るく流れるように美しく歌われる第二主題。第三主題も積極的な表現です。下降音型のすさまじい咆哮。提示部も壮大な咆哮。オケに一体感があり咆哮する部分では、たまったマグマを一気に放出するようなすごいエネルギーがあります。弱音部の美しいホルン。強烈な「死の予告」。消え入るようなコーダでした。

二楽章、ゆったりとしたテンポです。ここでも表情豊かな演奏です。ホルンのすごい咆哮!ジュリーニってこんなにオケを咆哮させる指揮者だったっけ?と改めて思います。美しい木管。音一つ一つが立っていて、とてもくっきりとした表情です。古風な響きのティンパニ。色彩が濃厚でしかも輪郭がくっきりしています。芯のしっかりしたフルート。随所で表現される歌がすばらしいです。トリオでも何度かホルンの咆哮があり、起伏に富んだすさまじい演奏です。

三楽章、すごく丁寧に作品を慈しむように演奏されます。すごく感情移入されていて、この楽章も豊かな歌に満ちています。この世のものとは思えない美しいハープ。透明感のある第二主題。陰影を伴ったクラリネット。すごい静寂感があり集中力の高い演奏です。作品への感情移入に圧倒されます。美しい音楽に身をゆだねることができる数少ない演奏の一つです。12/8拍子での第一主題の咆哮も壮絶でした。最高潮のアルペッジョのすさまじい咆哮。それに続く低弦のうなりも作品への共感からのものだと思います。そして穏やかに音楽は静まって、遠い彼方に行ってしまうように終ります。

四楽章、一転して、厳しい表情の咆哮です。続く第二主題はまた作品への共感を強く感じさせます。第三主題にもちょっとした表情付けがあります。「死の行進」もすさまじい咆哮ですがとても豊かな響きです。分厚い弦楽合奏。再現部の前にも何度か激しい咆哮。再現部で再び激しい咆哮ですが暴走することはなく、きちんと整った見事な演奏です。荘厳なコーダのワーグナーテューバ。輝かしい終結でした。

作品への共感が見事に表されたすばらしい演奏でした。

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、とても静かに探るような冒頭の第一主題です。奥行き感があり深い低音に支えられた強奏。あっさりとした第二主題。豊かに歌うフルート。美しいトロンボーン。第三主題は強弱の変化がありとても豊かです。弦楽器も艶やかで美しい。弱奏では空間を感じさせる良い録音です。とても激しい壮絶と言ってもいい「死の予告」。

二楽章、速目のテンポで生き生きとした音楽です。フルートがとても良く鳴り美しい。音が立っていてオケの集中力の高さを伺わせます。強奏部分でも少し余力を残しています。強奏の後に残る残響も美しい。合間に入るハープの存在感も大きいです。テンポに推進力があり、音楽が生きています。

三楽章、夢見るような始まりから次第に現実の世界へ引き戻されます。上昇型のアルペッジョは音を短めに演奏して躍動的な表現でした。美しいハープがとても前に出てきます。天上界をイメージさせるワーグナーテューバ。ホルンの咆哮!豊かな自然をイメージさせる木管。12/8拍子になってから、波が次から次へと押し寄せるように音楽がせまって来ます。クライマックスの上昇型アルペッジョはゆったりと大きい演奏でした。夕暮れを思わせるような、どこか寂しげなコーダ。

四楽章、速目のテンポで始まりました。十分に鳴っていますが、音量は少し控え目です。第二主題の弦はシルキーで美しい。第三主題も速目で生命感を感じる推進力があります。「死の行進」も十分に鳴っていますが、全開ではありません。再現部の第一主題は途中でテンポを落としました。分厚い低音にガッチりと支えられたしっかりとした構造の演奏です。とても静かなコーダの入り。巨大なものが待ち構えている予感をさせてくれます。いろんな主題が織り交ぜられて壮大に曲を閉じました。

シルキーな弦の美しさやいろんな情景をイメージさせてくれる演奏はすばらしいものでした。

セルジュ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

チェリビダッケ ブルックナー交響曲第8番★★★★★
一楽章、非常に遅いテンポです。うごめくような第一主題。重い低音を基調にした重厚な響きが印象的です。滑らかで伸びやかな第二主題。とても豊かな響きです。テンポが遅いからかもしれませんが、とてもどっしりとしていて安定感があります。伸び伸びととても良く鳴るオケです。fffでもきっちりとコントロールされていて決して暴走はしません。「死の予告」の屈託の無い伸びやかなすばらしい響き。最後は大きくritして終りました。

二楽章、この楽章はそんなに遅くはありません。ここでも咆哮することはなく、きちんとバランスを保ってコントロールされています。トリオはゆっくりとしたテンポになりました。チェリビダッケが幼い子供に読み聞かせをしているように丁寧に細部にまで神経を行き渡らせているのが良く分かります。チェリビダッケの徹底した訓練によって作り出されたのであろうか、すばらしい響きです。

三楽章、作品に没入して行く冒頭です。天上的な雰囲気に満ちています。豊かで美しいワーグナーテューバ、まさに神の世界を表現しています。すばらしく合った響き。壮大なテュッティ。テンポは遅い。終結部も美しい和音に乗ってメロディが奏でられのがとても魅力的でした。

四楽章、堂々とした冒頭に輝かしいトランペットの響き。ハーモニーがとても美しく響きます。第三主題も一体になった分厚い響きです。非常にゆったりとした「死の行進」。テュッティは非常に重厚な響きですばらしいです。再現部も力強い響きですが、咆哮すると言うようなイメージではなく、しっかりとコントロールされています。第一楽章、第一主題の再現はものすごく遅いテンポでした。神秘的なコーダの導入。コーダの終結も非常に遅いテンポで雄大に演奏されました。

とても遅いテンポにもかかわらず音楽がギューっと凝縮されたような演奏で、美しい響きですごく完成度の高い演奏でした。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、積極的な表現の第一主題。ディミヌエンドしたときの空間がとても良い雰囲気です。地から湧き上がるような低音に支えられた強奏。一転して明るい第二主題。木管も積極的に歌います。N響の編成も大きいように感じさせる豊かな響きです。下降音型のトランペットも良く鳴っています。N響もこの頃になるととても充実した響きです。展開部終盤のfffはかなり激しい響きでした。分厚い響きの「死の予告」。消え入るようなpppで終りました。

二楽章、冒頭のヴァイオリンの繊細な表現。ダイナミックの幅がものすごく広く消え入るような弱音から、咆哮まで表現の幅がとても広い演奏です。トリオのゆったりとした安定感のある響き。どっぷりと音楽に浸っていられるような演奏です。再びスケルツォ主部が戻り、充実したブラスセクションの響き。弱音の弦にも動きがありとても豊かな表情ですばらしい演奏です。

三楽章、波が緩やかにせまって、また引いていくようなヴァイオリンの主題。深い響きです。美しい木管のソロ。薄日が差し込むようなワーグナーテューバ。天が鳴り響いているようなすばらしい響きです。クライマックスはゆっくりと克明に演奏しました。音楽が時折「神の世界」を垣間見せてくれます。夕日が沈むような黄昏で終りました。

四楽章、強烈なティンパニ。他のパートもかなり力強く演奏しています。音楽が生きているかのように何かを訴えてきます。ここでも充実した響きを聞かせた「死の行進」。とてもよく歌うホルン。再現部の第一主題は最初よりも強く演奏されたようでしたが、非常に美しいものでした。コーダの繊細なヴァイオリン。終結の圧倒的なパワー感。日本人によるブルックナー演奏がこんなにもすばらしいとは、本当に驚きました。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、重く豊かな表情の第一主題。何かに攻め立てられるような切迫感。トゥッティでは分厚い巨大な響きが聴かれました。第二主題は柔らかくしなやかな歌です。第三主題は木目の細かい下降音型、そしてスケールの大きなトゥッティ。強烈ですが、鳴りきった美しさのあるfff。オケの上手さなのか、録音の良さなのか、とても整然としていてバランスの良い響きです。錯乱状態のような壮絶なクライマックス。静寂の中に消えていくコーダ。

二楽章、元気の良いホルンから深みのある弦の主要主題が奏でられます。ホルンの下降音型の直前に大きくクレッシェンドしました。強弱の変化が大きくティンパニも大きくクレッシェンドして、ヴァント渾身の演奏です。トリオ冒頭部分ではパイプオルガンのような分厚い響きが印象的です。ハープを含めて登場してくる楽器がとても鮮明に浮かび上がります。スケルツォ主部が戻ると再び動きのある音楽が展開されます。

三楽章、深みと厚みのある弦。ヴァイオリンの旋律と伴奏の強弱の出入りに敏感に反応しますが、強い感情移入はありません。木管楽器群はとても生き生きとした音色で登場します。充実した分厚い響き。第一主題の二回目の再現のあたりになるとかなりオケの響きも壮絶な叫び声のように激しくなってきます。輝かしく見事なクライマックスでした。分厚い弦の響きの中を縫うように演奏されるハープが美しくとても存在感があり、印象に残ります。夕日が沈むように終わりました。

四楽章、スピート感と勢いがある金管の第一主題。魂の響きのように昇華された凄味があります。一転して幻想的な雰囲気を醸し出す第二主題。歌う第三主題。速めのテンポで一気に演奏される「死の行進」も凄い迫力で迫ってきます。展開部で現れる第一主題も回数を重ねるごとに壮絶な響きになって行きます。再現部の第二主題もさすがきベルリンpoと思わせる厚い響きです。静寂の中から美しく上昇音型を演奏するヴァイオリン。圧倒的なパワーで力強く締めくくりました。

ベルリンpoの分厚い、圧倒的なパワーと弱音の美しさ。それにヴァントの気迫が加味されたすばらしい名演でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★★★
一楽章、暗闇の中にろうそくの炎の見えるような静かで伸びやかな第一主題。地の底から湧き上がるようなトゥッティ。明るく開放的な第二主題。トランペットが強く全体の響きを支配しているような感じです。壮絶なクライマックス(死の予告)。コーダのクラリネットは静寂の中に美しく響きます。

二楽章、力が抜けて自然な主要主題。トランペットに比べるとホルンは奥まっています。やはりトランペットが突出しています。中間部はゆったりとのどかで落ち着いた演奏です。大きな仕掛けや強い主張はありませんが、自然体で作品に身を任せたような演奏です。

三楽章、以外に鮮明な第一主題A1。自然な第二主題B1。それぞれの楽器がきりっと立っていてとても美しい演奏です。誇張が無く自然に音楽が進むので、複雑に絡む楽器の動きもサラッと何事も無く演奏されて行きます。シンバルが入ったクライマックスもとても充実した響きで見事です。

四楽章、力強く華やかな第一主題。多層的で豊かな表現の第二主題はとても厚みがあります。ひたむきに語りかけるような第三主題。「死の行進」は荒々しくは無く美しいです。第一主題の再現も荒々しくならず、とても美しいです。第二主題の再現は深く豊かな表現です。コーダは金管がことさら強奏するわけではありませんが、力強く輝かしい見事な響きで終わりました。

カラヤンの全盛期のような表面を磨き上げた演奏では無く、自然体で力みの無い演奏でした。しかし、ウィーンpoが元来持っている美しさや音楽性が見事に生かされてとても美しく見事な演奏になっていました。
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ドナルド・ラニクルズ/BBCスコティッシュ交響楽団

ラニクルズ★★★★★
一楽章、良く歌い深みのある第一主題。トゥッティもゴリゴリとした厚みがあり地獄から湧き上がるような響きです。穏やかで伸び伸びとした第二主題。金管の下降音形は鋭い響きです。金管の壮絶な響きはかなり凄いです。強烈な「死の予告」凄い咆哮です。

二楽章、速いテンポで躍動感があります。音が立っていて楽器の動きがとても克明に表現されています。くっきりとした輪郭で曖昧さがありません。

三楽章、浮遊するような第一主題のA1。前の二つの楽章で聞かせた壮絶な響きとは一転したしっかりと地に足の着いた美しい響き。夢見るようなB1のチェロ。豊かに歌うB2のワーグナーチューバ。切々と語りながら押しては引いてゆく音楽。充実した響きのクライマックス。潮が引いて行くように黄昏て行く音楽。

四楽章、金管が襲い掛かって来るような第一主題。でもバランス良く美しいです。多層的にいろんな楽器が交錯する第二主題。しみじみと語りかけるように歌う第三主題。堂々と重厚な「死の行進」。泉からこんこんと湧き上るように豊かに奏でられる音楽。トゥッティでも決して荒々しくならずに美しい響きとバランスの演奏は見事です。神の世界の扉が開かれるようなコーダ。感動的な最後でした。

トゥッティでは壮絶な響きを聞かせる部分もありましたが、それでもバランスは常に良く美しい響きを保っていました。最後は神の世界を見事に表現した素晴らしい演奏でした。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団 1990年東京ライヴ

ヴァント★★★★★
一楽章、静かでどっしりとした第一主題。トゥッティは低音楽器が分厚くトロンボーンがしっかりと主張する良い響きです。明るく軽い第二主題。第三主題でも金管は強いですが、壮絶な響きにはならず。美しく整った響きです。展開部のトゥッティでもトロンボーンが見事な響きです。第二主題の再現でも余分な力が抜けた自然体の表現ですが、音楽には生命感があります。「死の予告」も混濁も無く美しい響きでスッキリとしています。

二楽章、とても明晰な演奏です。トゥッティでのクレッシェンドも全体のバランスも保ったままで見事なものでした。トリオに入ってもあまりテンポは遅くならずに進みます。大きな波が押し寄せるような音楽の動きです。オケがとても良く鳴っていて気持ちの良い響きの演奏です。

三楽章、注意深い弦の導入。フワフワと浮いているようなヴァイオリンの第一主題A1ですが、音量が上がるに従ってしっかりと地に足が付いて来ます。清涼感があって爽やかです。スピード感があって伸びやかなチェロのB2。柔らかいワーグナーチューバのB2。うねるように絡み合う楽器の動きが見事です。強弱の振幅もものすごく広く、浮遊するような弱音から咆哮する金管まで強烈な振幅です。堰を切ったように溢れ出す金管の凄さ!。シンバルが入るクライマックスも見事なアンサンブルで、キチッとしていました。コーダは良く歌って豊かな表現です。多くの演奏でこの部分で力を失って行く感じを受けましたが、この演奏はとても力のある演奏です。

四楽章、物凄い金管の咆哮とティンパニの強打。でも荒れた響きにはなりません。深く歌う第二主題。動きに力があって、生き生きとした演奏です。「死の行進」はそれまでのゆったりとしたテンポから一転して速いテンポになりました。凝縮された密度の濃い音楽です。神が登場して感動的なコーダ。眩いばかりの輝かしいトゥッティ。

素晴らしいバランスとアンサンブルの精度で、多彩な表現で密度の濃い演奏でした。神が登場する感動的なコーダの導入部分から眩いトゥッティの輝かしい終結に象徴されるような見事な演奏でした。
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ケント・ナガノ/ベルリン・ドイツ交響楽団

ナガノ★★★★★
一楽章、ゆっくりと分厚く克明な第一主題。分厚い低域がとても印象に残ります。揺れるように波打つ第二主題。新鮮で鋭利な感覚の演奏です。ゆっくとしたテンポで濃厚に音楽を描いて行きます。とても巨大な空間を感じさせる伸びやかで豊かな響きの演奏です。次々と泉から音が溢れ出すような「死の予告」。

二楽章、表情が豊かで活発に動く主要主題。細部にいたるまで細密な表現があります。透き通るような透明感の高い美しく伸びやかな響き。ライヴ録音でありながらこれだけ美しい響きは素晴らしいです。トリオもとても豊かな表現で美しく歌います。濃厚な色彩なのですが、とても伸びやかで空間がどこまでも続いているような感じで見事な演奏です。

三楽章、非常にゆっくりとしたテンポで中に浮いているような第一主題A1。ゆっくりと昇って行くA2、とても美しいです。感情が込められて深みのあるB1。穏やかな空をイメージさせるワーグナーチューバのB2。ゆっくりと丁寧に進む音楽にどっぷりと身をゆだねることができてとても心地良い演奏です。トゥッティも荒れること無くとても美しい響きです。暖かくなる第一主題の2回目の再現。シンバルが入る部分はスケールの大きな見事な響きでした。日が暮れていくような寂しさを感じさせるコーダ。

四楽章、空間に大きく柔らかく広がる第一主題。深く感情を吐露するような第二主題。柔らかいですが、深く刻み込むような第三主題。巨大な響きでどこまでも広がっていくような「死の行進」。余裕を残した柔らかい響きなのですが、心に迫って来るような迫力があります。木管も艶やかで伸びやかな表現です。とてもゆっくりと始まるコーダ。ご来光が訪れるような感じです。太陽が燦然と輝き始めて曲が終わりました。

柔らかい伸びやかな響きで、空間にどこまでも広がっていくような巨大なスケールの演奏でした。心に迫って来るような深い表現や密度の濃い表現など、どこをとっても素晴らしい演奏でした。
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サー・レジナルド・グッドオール/BBC交響楽団

グッドオール★★★★★
一楽章、遠くから近づいてくるような第一主題。とてもゆっくりです。雄大なトゥッティ。頻繁にタメがあって音楽の息遣いが感じられます。第二主題もゆっくりで、トロンボーンも余裕を残した演奏です。第三主題もゆっくりで優雅です。とても安らかで穏やかな音楽が続きます。「死の予告」も狂気のような演奏にはなりません。うるさくは無く雄大です。コーダもゆっくりと静かに消えて行きます。

二楽章、ゆっくりと確実な足取りの主要主題。ホルンも咆哮とは無縁の演奏です。この楽章でもタメがあります。トリオもゆっくりとしたテンポで自由に解き放たれたように歌います。テンポも大きく動きます。

三楽章、弱く繊細な第一主題A1。感動的に歌うA2。B1も豊かに歌います。少し響きは浅いですが、広大な空間をイメージさせるワーグナーチューバ。全く力みの無い自然体でありながら、自然で豊かな歌と雄大なスケールがとても心に残ります。全く絶叫しない金管。自然な抑揚で演奏されています。シンバルが入る部分でもトランペットは奥に控えていて絶対に突出して来ません。力みが無くとても自然で美しいコーダ。

四楽章、この楽章もゆっくりで地面から湧き上がるような第一主題。決して絶叫はしませんが、とても雄大です。ゆったりと深く歌う第二主題。第三主題もなだらかで広々とした空間を感じさせます。余裕たっぷりの「死の行進」。タメがあったりもします。何とも言えない余裕たっぷりの穏やかで広大なスケールの演奏で、どっぷりと音楽に浸ることができます。コーダも最初はとても柔らかく最後は少し力の入った演奏でした。

ゆったりと余裕たっぷりでスケールの非常に大きな演奏でした。テンポの動きもあり、歌うところは伸びやかに歌い、トゥッティでは全く絶叫することなく堂々と演奏し切った見事な演奏だったと思います。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、キビキビしたテンポで、コンパクトにまとまった演奏です。N響きもこの頃になると響きに安定感がありますし、美しい演奏です。マタチッチがグイグイと引っ張ります。美しく鳴り響く「死の予告」。弱音部の消え入るような美しさ。

二楽章、この楽章も速いテンポです。オケは咆哮することなく、美しい音を保っています。ハープの存在も際立っていて魅力的です。木管も美しく浮かび上がり、色彩豊かに描かれて行きます。終結部の響きはとても充実したものですばらしかった。

三楽章、現れては消えてゆく第一主題。充実したハーモニー。日本のオケの演奏だとは思えないくらい充実した響きです。天に昇って行くような感覚がすばらしい。優しい第二主題。静かですが切々と語られる音楽に引き込まれます。木管もホールの響きを伴ってとても美しい。テュッティでもブルックナーの音がしています。最高潮の部分も天に昇るような雰囲気をもっていてとてもすばらしい表現です。この世のものとは思えないようなコーダ。

四楽章、柔らかい第一主題。トランペットも少し奥まった感じの響き方です。幻想的な雰囲気の第二主題。とても余裕をもって美しい響きの「死の行進」。再現部の第一主題も冒頭と同様にかなり余力を残した柔らかい響きでした。コーダに入った独特の雰囲気。途中テンポを速めました。とても良い演奏でしたが、全開のパワーも聴きたかったような気もしますが、この当時のN響にこれ以上を求めるのは無理だったのか。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★☆
一楽章、瑞々しく美しい第一主題。巨大なトゥッティ。伸びやかで美しい第二主題。せわしなく追い立てるような第三主題。展開部のブルックナー・ゼクエンツの後のトゥッティはかなり激しいですが、録音も良く美しいです。テンポは基本的には速めで、グイグイと引っ張って行きます。「死の予告」は改訂されたハースやノヴァーク版とはかなり違います。コーダで突然強奏が始まりそのまま終わります。

二楽章、かなり荒っぽい作品ですが、これはこれで魅力があります。とても賑やかな主部です。トリオの後の改訂とはかなり様子が違い、改訂を予感させるような部分はほとんどありません。主部が戻るとかなり激しく壮絶な演奏です。

三楽章、ゆっくりとしたテンポでフワッとした柔らかい音で瞑想するような第一主題A1。微妙にテンポが動くA2。ハープが柔らかく美しいです。B1は速いテンポであっさりと演奏されます。明るい響きのワーグナーチューバ。全体の響きは伸びやかでとても美しいです。シンバルが入る部分も美しく伸びやかで輝かしい響きでした。明確に描き分けられるコーダ。

四楽章、余力を十分の残して美しい第一主題。バランスが取れてとても美しい第二主題。第三主題は抑制的であまり大きく歌いません。「死の行進」は突然テンポが速くなりますが、それでも丁寧で美しい響きです。作品に対して感情的な踏み込みはあまりせずに、とても均衡の取れた美しい演奏を続けています。重厚で輝かしいコーダは見事でした。

感情的な表現を極力抑えて、作品をバランス良く鳴らした演奏でした。とても美しい演奏で、第一稿の粗野な部分はあまり感じませんでした。基本的には速いテンポでしたが、トゥッティの輝かしい響きは素晴らしいものでした。
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ヘルベルト・ケーゲル/中部ドイツ放送交響楽団

ケーゲル★★★★☆
一楽章、とても大きく歌う第一主題。トゥッティも豪快に鳴り響きます。濃厚な表現の第二主題。強烈な金管の咆哮です。ビブラートをかけるトランペットの存在感がとても大きいです。全く遠慮の無い耳をつんざくばかりの金管の咆哮です。これほど激しい「死の予告」は聞いたことがありません。

二楽章、速めのテンポで力強く進みます。ホルンはそれほど咆哮しませんが、トランペットとトロンボーンはとにかく強烈です。弱音部分はスピート感と緊張感があります。トリオに入っても穏やかさよりも緊張感の方が勝っている感じで、緩む感じやのどかさは全くありません。とても鋭く、聞く者を切り捨てて行くような凄みがあります。とても起伏の大きな抉るような表現。

三楽章、フワッとしてはいますが、漂うような雰囲気では無い第一主題A1。この楽章も少し速めのテンポです。暖かい響きすら清涼感のある響きに変化するA2。ビブラートをかけたワーグナーチューバ。彫りの深い演奏で、刻み付けるように克明に描かれて行きます。A1の二度目の再現部分の強奏もやはり強烈です。シンバルが入る部分も全開の物凄い響きです。コーダはこの世に別れを告げるような一抹の寂しさを表現するような演奏です。

四楽章、ここまでの流れからすれば予想通りの金管の咆哮とティンパニの強打。積極的な表現の第二主題。弦の強奏部分は嵐のようです。「死の行進」も強烈で壮絶な演奏です。これだけ強烈に咆哮を続けて良く金管が持つもんだと感心します。弱音部分はフワーッとした柔らかさはあまり無く、強い音です。トゥッティはブルックナーらしい分厚い響きでは無く、低域が薄くトランペットやトロンボーンが突出しています。コーダも強烈な響きでこの演奏で一貫しています。

強烈なトゥッティで一貫した演奏で、色彩感もほぼ一色で塗りつぶされたような感じでした。弱音部分でも柔らかさは無く、強い音でした。神秘的な部分もあまりありませんでしたが、終始強烈な響きの演奏の凄みはありました。
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ウラディミール・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

ブェドセーエフ★★★★☆
一楽章、豊かな残響を伴っていますが、響きの木目は少し粗いです。ゆったりと伸びやかで安らかな第二主題。ロシアのオケらしい爆演にはなりません。トランペットがマルカートぎみに演奏するのが特徴的です。コーダの最後の強奏部分は取って付けたような感じで違和感があります。

二楽章、とても軽く演奏される主部。インバルの演奏に比べると改訂版との違いをはっきりと打ち出している感じの演奏です。ゆったりとのどかなトリオです。初稿の整理されていないオーケストレーションをそのまま演奏している感じでとても不思議な感じがする演奏です。

三楽章、芯のしっかりした第一主題A1。高揚感の豊かな表現のA2。速めのテンポで静かに演奏されるB1。深みはありませんが豊かに歌うワーグナーチューバ。A1の再現はうつろで寂しげです。シンバルが入る前のトゥッティは暴力的な感じでした。この部分は改訂版とは大きく違います。

四楽章、響きが薄い第一主題。金管はあまり咆哮しません。第三主題もあまり大きな表現はしません。「死の行進」も余裕たっぷりの美しい演奏でした。再現部の前のクライマックスもかなり余裕を残した演奏でした。楽譜がそうなっているのか、改訂版の演奏ではテヌートぎみに演奏される部分もマルカートぎみに演奏される部分が多いです。

第一稿の洗練されていない部分をそのまま露出させるような演奏で、改訂版との違いを歴然とさせた演奏でした。この面ではインバルとは対照的です。ロシアのオケにありがちな咆哮も無く、強烈な主張の多いロシアの他の指揮者とも違う作品に語らせる表現でした。
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クラウス・テンシュテット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1981年ライヴ

テンシュテット★★★★☆
一楽章、積極的な表現の第一主題。落ち着いて美しい第二主題。テンポが動いて激しい第三主題。主題によって表現を変えています。ロンドンpoとの録音のような腰高で軽薄な響きではありません。マーラーのように激しく咆哮することは無く、少し余裕を残した響きです。「死の予告」も予想外に軽い演奏でした。

二楽章、少し速めのテンポですが、表現は積極的です。畳み掛けるように迫って来ます。トリオも積極的に歌う演奏です。テンポも動いて情緒的な音楽です。主部が戻るとやはり活動的な演奏になります。シャープで軽快な響きです。

三楽章、しっかりと地に足の着いた第一主題A1。一音一音心を込めるように丁寧なA2。B1も感情を込めて歌います。あまり伸びやかさが無いワーグナーチューバ。2回目のA1の再現はとても豊かに歌います。シンバルが入る部分は分厚い響きですが、全開では無くかなり余裕のある響きです。

四楽章、ついに全開近い咆哮になる第一主題。感情が込められた大きな表現の第二主題。第三主題も大きくクレッシェンドします。「死の行進」も激しい咆哮です。再現部の前のクライマックスも軽々と鳴り響く金管の充実した圧倒的な響きが見事です。第一主題の再現も強烈です。その後も速いテンポで畳み掛けます。暗闇の中に僅かな光が差し込むようなコーダのワーグナーチューバ。最後は渾然一体となって終わりました。

速めのテンポで、テンシュテットらしく感情を込めて深い歌のある演奏でした。また、四楽章の金管の咆哮もベルリンpoの金管の軽々と鳴り響く充実した響きも見事でした。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ロシア国立シンフォニー・カペラ

ロジェストヴェンスキー★★★★☆
一楽章、とても積極的で大きな表現の第一主題。左右に振られるような第二主題。ロジェストヴェンスキーらしい爆演ではありません。「死の予告」はリミッターがかかったように音が引っ込みます。

二楽章、音が短い弦の主要主題。フルートのミスはありますが、かなり力強く前へ進む演奏です。トリオはゆったりと強弱の変化の大きい、たっぷりとした歌のある演奏です。

三楽章、脱力した第一主題A1。テンポも動いて感情が込められた歌です。波打つような表現のA2。ビブラートが掛かったワーグナーチューバ。B1の再現も豊かな歌でロマンティックです。遠慮なく強奏される金管。A1の2回目の再現も感情でドロドロになるような表現です。この楽章は感情の振幅が非常に大きく、ロジェストヴェンスキーの内面から湧き上がるものを隠そうともせずに、そのまま表現しているような演奏です。シンバルが入る部分もとても情熱的で熱い演奏です。コーダはかなり活発な動きで、静かではありません。

四楽章、 勇壮に鳴り響く第一主題。かなりのエネルギーです。感情の込められた第二主題。「死の行進」もかなり強烈です。第一主題の再現部分にシンバルが入りました。第三主題の再現はゆっくり目です。コーダのワーグナーチューバは少し雑な演奏に感じました。ねっとりと朗々と歌うトランペット。

ロジェストヴェンスキーの感情をぶつけた演奏で、とても良く歌う弱音と強烈に襲い掛かってくる金管のとても振幅の大きな演奏でした。ライヴと言うこともあって金管のミスはかなりありましたが、込められた感情はなかなかのものでした。
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ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、分厚い低音が豊かに歌う第一主題。テンポを速めた第二主題。提示部手前の全合奏はそんなに強くは演奏されませんでした。金管の下降音型もかなり余力をのこしたものでした。「死の予告」はかなり激しい表現でした。黄昏を告げるような終わり方でした。

二楽章、良く歌う冒頭。鮮明な木管の絡み。金管の下降音型が始まる前の弦の強弱の変化など独特のものがあります。泉から絶え間なく水が湧き出すように豊かな音楽が続きます。金管は余力を残した強奏です。

三楽章、深みのある低音に乗って、揺れるような抑揚があるヴァイオリンの主題。夢見るようなクラリネットの下降音型。第一主題の再現の前、弦楽器が強いアタックで演奏しました。天上のメロディのようなワーグナーテューバ。金管が奥に鎮座して、おおらかな響きで全体を包みます。テンポを一段落として、非常にスケールの大きなクライマックスでトランペットが突き抜けてきました。

四楽章、ゆったりとしたテンポで柔らかく演奏される第一主題。ティンパニと弦が主体の「死の行進」。意図的にすごく金管を抑える部分もあります。テンポも時々動きます。再現部の第一主題も弦がとても良く聞こえます。タメも独特のものがあります。コーダの独特の雰囲気。ここでも金管はとても柔らかい。ティンパニのリズムの後、急に目覚めたように金管が強奏しました。

美しい演奏でしたが、訴えてくるものが今ひとつ伝わってきませんでした。

パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★★
一楽章、静かに漂うような第一主題。トゥッティは力みも無く軽い感じです。夢見るように揺れ動く第二主題はとても美しいです。第三主題もしなやかで柔らかいです。都会的で洗練された演奏です。展開部の最後あたりのトゥッティも壮絶な響きにはならず、すっきりと整理されて爽やかな響きです。透明感があって美しい響きです。「死の予告」もすっきりとあっさりとした表現です。トゥッティの壮絶さようり弱音の空間に漂う音楽に重点を置いているようで、都会的でスマートな演奏です。

二楽章、かなり速いテンポです。”鈍重な田舎者”と言う感じではなく、精悍な都会人のようです。トリオは少しゆっくりになりますが、やはりすっきりとした響きでとても洗練されています。主部が戻るととても活動的で動きが活発です。

三楽章、とても自然で潮が満ちて引いて行くような第一主題(A1)。広々と広大なA2。透明感が高く美しいB1。落ち着いて安らかなB2。クライマックスも落ち着いた柔らかい響きでした。コーダも非常に柔らかく美しいです。

四楽章、速いテンポで、トランペットが轟く第一主題。大きな表現で歌う第三主題。「死の行進」はかなり余裕を持った演奏で、壮絶な演奏にはなりません。とても澄んだ響きで精緻な演奏です。コーダの終結部も力の抜けた美しい響きでスッキリとした輪郭の演奏でした。

とても美しい演奏で、洗練された都会的でスマートな演奏でした。ですが、神が現れることはありませんでした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1984年ライヴ

ジュリーニ★★★★
一楽章、積極的に歌う第一主題。チューバがゴリゴリとした響きで支えるトゥッティ。伸びやかな第二主題。ホルンや他の金管が強い響きです。第三主題の最後のトゥッティも激しい響きでした。ウィーンpoらしい凝縮されたような濃厚な色彩感はありますが、ライヴの制約か美しさはあまりありません。泣き叫ぶように激しい「死の予告」。

二楽章、ゆったりとした主要主題。ホルンやトランペットがかなり強く演奏されます。主部は壮大な演奏でした。トリオは一転して穏やかでのんびりとした演奏です。主部がもどって、ホルンの強奏はとても良く鳴り切っていて気持ちが良いです。

三楽章、感情が込められて抑揚する第一主題A1。ゆっくりと一音一音に感情を込めるような丁寧な演奏。Bに入って少しテンポが速くなっているようです。神の降臨をイメージさせるB2のワーグナーチューバ。力を蓄えてクレッシェンドする部分のエネルギーは凄いです。天上界を表現しているような美しく穏やかなコーダ。

四楽章、湧き上るようなエネルギーだ高らかに歌い上げる第一主題。とても色彩感が濃厚な第二主題。壮絶な響きの「死の行進」ですが、オケには余裕があります。コーダは熱気に溢れたものでした。

感情を込めて歌う部分やウィーンpoのエネルギー感に溢れる演奏はなかなか凄みがありましたが、、録音の制限によるものか、極上の美しさは感じることができませんでした。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2007年ライヴ

ハイティンク★★★★
一楽章、静かな暗闇から響いて来るような第一主題。とても重苦しい雰囲気です。トゥッティでも力を温存するように控えめです。一転して明るく開放的になる第二主題。第三主題は少し速めのテンポで切迫した表現です。とてもゆったりとした懐の深い演奏です。「死の予告」はティンパニが激しいですが、全体としては余裕のある演奏です。

二楽章、ざわざわとした主要主題。でもまろやかで柔らかい響きです。トランペットがテヌートぎみに演奏します。いつものハイティンクらしい細かな表現がとても厳しく付けられています。一音一音にとても敏感に反応するオケ。ふくよかで柔らかいトリオ。感情を表に出さずに整然とした演奏です。深みのある響きがとても魅力的です。

三楽章、強調するような表現は無く自然に流れて行きます。神が現れるワーグナーチューバのB2。筋肉質で剛直な演奏です。鮮度が高く濃厚な色彩です。速めのテンポでサクサクと進んで行きます。シンバルが入る部分でも絶叫はしません。コーダはあっさりとしています。

四楽章、トランペットやティンパニは激しいですが、他のパートは落ち着いた響きの第一主題。どっしりと落ち着いた第二主題。涼やかで美しい響きです。第三主題も小細工するような動きなどは全く無く非常に落ち着いた演奏です。「死の行進」も第一主題と同様で荒げるような響きにはなりません。展開部のクライマックスも柔らかく充実した響きです。ただ、あまりにも禁欲的で開放されないもどかしさがあります。暗闇へと沈んで行くようなコーダの冒頭。最後もどのパートも突出すること無くバランス良く柔らかい響きでした。

とても美しくバランスの良い演奏でした。強調した表現は無く、ひたすら美しい響きを追い求めているような感じでしたが、トゥッティでも限界ギリギリの演奏にはならず、かなり余裕を残した美しい演奏は禁欲的で開放されないもどかしさもありました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★
一楽章、ゴツゴツとして筋肉質な第一主題。トゥッティのエネルギーは凄いです。ティンパニの強打も物凄いです。第二主題も硬質です。第三主題はゆっくりと始まり次第にテンポを速めてトゥッティになりました。余分な響きを伴わず骨格がむき出しになっているように強烈で濃厚な「死の予告」。

二楽章、ゆっくり目のテンポでガツガツと深く刻み付けながら進みます。金管を遠慮なく鳴らしてとても豪快です。中間部は無骨な表現です。テンポの動きもあって表現は積極的です。

三楽章、倍音をあまり含んでいないようで、漂うような雰囲気はあまり感じさせない第一主題A1。音に凄く力があって、切々と訴えかけてくる部分の思い入れがとても伝わって来ます。シンバルが入る部分の少し前のティンパニで歪みます。この楽章は金管は抑えた演奏でした。コーダは穏やかさよりも活発な動きが強調されているようです。

四楽章、とても強い音の第一主題。第二主題は大きな表現で歌います。「死の行進」は少し歪みぎみなせいもあって、とても激しく聞こえます。第一主題の再現はゆったりとしたテンポで雄大に演奏されました。静かな部分でも音は強いです。コーダはゆっくりと壮大に壮絶に響きます。特にトランペットが強烈でした。

かなりゴツゴツとした男性的な演奏でした。倍音成分が少ない録音のようで、基音が強く弱音でも強い音の印象です。かなり積極的にテンポを動かしたり表現の幅も広い演奏で、トゥッティのドカーンと来るエネルギー感もなかなかでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番3

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、豊かに歌われる第一主題。豊かな響きにオケに厚みを感じます。とても良く歌います。大聖堂に響く残響がとても心地よい演奏です。ティンパニも深い響きです。ライヴとは思えない完成度の高さに驚きます。強奏の後のパウゼで大聖堂に響いた残響が減衰していくのがとても心地よく。ブルックナーの作曲意図が良く分かります。

二楽章、速目でくっきりとした表情です。この楽章でも強奏の後のパウゼで減衰していく残響がすごく印象的で効果的です。パーテルノストロはこの全集のコンサート会場を大聖堂にしたことはとてもよく理解できます。全体的にトランペットは強めですが、ホルンは若干控え目で、咆哮することはありません。強弱の変化に対しても敏感でとても表情豊かな演奏です。ランペットが長く伸ばす音で度々クレッシェンドします。最後は大きくritして終わりました。

三楽章、胴の鳴りが豊かに聞こえる弦楽器。作品への共感を伺わせるとても感情の込められた歌が高揚していきます。豊かな残響のおかげか、テュッティでも押し付けがましくなく、さらりと聞き流せます。

四楽章、冒頭、弦のテンポに少し遅れるブラスセクション。トゥッティでも残響に包まれて、音楽を押し付けてはきません。オケの疲れも出てきたのか、少しミスが出てきました。金管の強奏部分でも音をテヌートぎみに保つこともなく、比較的淡白な表現です。トランペット以外の金管が弱く少しバランスが悪いようです。

豊かな残響で、押し付けがましくない演奏にはそれなりの魅力がありましたが、金管のバランスの悪さはちょっと気になりました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★☆
一楽章、うねるような第一主題。重厚な響きです。一転して明るい第二主題。歌う木管。下降音型は余力を残したものでした。力むこともなく、誇張することもなく、自然体の演奏です。ことさら強調することもない「死の予告」。「あきらめ」を上手く表現したコーダでした。

二楽章、冒頭の弦が音を短めに演奏しました。強奏部分はトランペット以外はかなり抑えぎみです。際立って美しい音色で演奏されているというわけではありません。

三楽章、割と大きめの音量で開始しました。かなり現実的な第一主題です。poco a poco accelあたりから音楽に熱気を帯びてきました。12/8拍子の第一主題を強奏する部分では、ティンパニに豊かな支えの上に豊かな旋律が乗りました。クライマックスの上昇型のアルペッジョも余力を残した豊かで広々とした感じの演奏でした。音量を極端に抑えることのないコーダでした。

四楽章、余力を残した第一主題。泉から湧き出すように豊かな第二主題。速目のテンポで演奏される第三主題。ここでも余力を残した「死の行進」。再現部の第一主題は冒頭の演奏より力強い演奏でした。次第にテンポを上げ音楽が切迫してきます。また、テンポを落としてゆったりとした演奏になりますが激しさが増してきます。 コーダに入ってもそんなに雰囲気は変わりません。最後はトランペットが弱かったですが、全開の演奏でした。

スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★☆
一楽章、とても弱い音からはじまりますが、豊かに歌う第一主題。重厚なトゥッティ。明るく柔らかく透明感のある第二主題。金管は激しいですが、どっしりと落ち着いている第三主題。「死の予告」はトランペットよりもトロンボーンの存在感が大きい演奏でした。重厚な分厚い響きはなかなか良いです。

二楽章、緊張感のある冒頭のヴァイオリンでしたが、主要主題はおおらかで伸び伸びとしていました。ホルンの下降音形は軽く演奏されます。ゆったりと穏やかですが、繊細な表現のトリオ。主部が戻ると、トゥッティでも軽く演奏される部分と思い切った強奏とがあります。

三楽章、しっかりとした存在感の第一主題A1。広々とした雰囲気のA2。あまり伸びやかさが無いワーグナーチューバ。トゥッティはあまり激しい演奏では無く、美しい響きです。シンバルが入る部分も余力を残した美しい響きでした。コーダはこの世に別れを告げるように黄昏て行きます。

四楽章、トロンボーンの強奏に比べると控えめなトランペットの第一主題。重い第三主題。「死の行進」はティンパニの強烈な打ち込みで速いテンポで進みます。第一主題の再現の途中で大きくテンポを落としましたが巨大なスケール感はありません。間延びしたようなところもあったコーダでした。

テンポの動きやいろんな表現のある演奏でしたが、スケールはあまり大きくありませんでした。
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サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★☆
一楽章、大きな息遣いで歌う第一主題。明るくさっぱりとした表現で新鮮な第二主題。録音は古いですが、引き締まった良い音で鳴っています。トゥッティはたくさんの音は聞こえて来ませんが、硬質な響きで力強い音がしています。激しくトランペットが鳴り響く「死の予告」。コーダもとても良く歌います。

二楽章、表現の大きい主要主題。テンポは速いです。この楽章でもトランペットが強いです。生き生きと動く木管。弦もエッジを効かせて主張します。テンポは落ちますがとても活発に動くトリオ。主部が戻ると活発で推進力のある演奏になります。

三楽章、ザラザラとしたヴァイオリンの第一主題A1。力強くクレッシェンドするA2。豊かに歌うB1。A1の再現のpoco a poco accel. はかなり速いテンポまで追い込んで行きます。トゥッティでも音が整理されていて、壮絶な不協和音にはなりません。基本的には速めのテンポの演奏です。シンバルが入る前もかなりテンポが速くなりました。

四楽章、 突然トランペットが突き抜けて鳴り響く第一主題。「死の行進」へ向けてテンポを速めて力強い演奏でした。これまでの楽章でも弦のアタックが強く短めに演奏する部分がありましたが、この楽章でもフルートが強いアタックで演奏する部分がありました。第三主題の再現は物思いにふけるようにゆっくりと演奏され次第に速くなります。コーダは日の出前の暗闇から徐々に明るくなってご来光が現れて、それが燦然と輝くようなイメージでしたが、金管の響きがあまり輝かしく無く、枯れた響きだったので、光の完全な勝利とは言えない感じでした。

大きな表現や独特の音符の処理などもありましたが、録音によるものなのか、音が整理されていて多層的な響きや壮絶な不協和音はあまり聞けませんでした。
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カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、奥行き感の浅い録音で、金管がすごく近いです。速いテンポですが、とても良く歌います。第三主題の前の経過はとても丁寧にritしました。すごく近い位置にいるトランペットが不自然です。激しいfff。再現部の第二主題などはテンポが速くせわしない感じもあります。余力を残した「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。近くにいるトランペットが軽く、奥まったホルンが激しく演奏する不自然さ。強奏で終った時にホールに残る残響が美しい。ホルンの下降音型の前に弦のクレッシェンドをしますが、クナッパーツブッシュの演奏ほど極端ではありません。

三楽章、とても現実的な第一主題。上昇型のアルペッジョもすごくテンポが速い。木管もワーグナーテューバも現実的な響きで「神」を聞くことはできません。poco a poco accelの部分では多くの楽器が入り交ざりとても豊かな響きを作り出しました。クライマックスは壮大でした。

四楽章、全開の第一主題。この楽章ではトランペットが飛びぬけることがなくバランス良くなりました。第二主題もコントラバスがゴリゴリととても積極的な表現です。第三主題も速い。「死の行進」直後のホルンがとても積極的に歌いました。テュッティはなかなか充実した響きです。あまりにも音楽の展開が速く、聴き手側が消化不良になりそうです。再現部の第一主題はテンポが何度も動きました。その後もテンポはよく動きます。あっけなく終りました。

私には、演奏に深みが感じられず残念でした。

ダニエル・バレンボイム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

バレンボイム★★★
一楽章、重厚な響きで探りながら始まる第一主題。柔らかく伸びやかな第二主題。トゥッティでも咆哮することは無くバランスの良い余裕のある響きです。「死の予告」はやはり咆哮はしませんが、壮絶な雰囲気はあります。

二楽章、かなり速いテンポで慌ただしい演奏です。トリオはゆったりとしたテンポになり豊かに歌います。主部が戻るとまた、、速いテンポで落ち着きの無い演奏になります。

三楽章、とてもゆっくりで小さい音で漂うような第一主題A1。注意深い歌い回しのA2。ゆったりと歌うB1。シンバルが入る部分はあっさりとしていてあまり厚みもありませんでした。演奏は淡々と進んで行きます。

四楽章、充実した美しい響きの第一主題。見事に鳴り響くベルリンpoはやっぱり上手いです。「死の行進」は少しテンポを速めて力強い演奏でした。特に強い表現はありませんが、美しく進んで行きます。コーダの最後は凄くテンポが速くなってお祭り騒ぎのような感じになりました。

充実した見事な響きで安定感のある演奏でしたが、何故か四楽章のコーダの最後が凄く速いテンポになってお祭り騒ぎのようになってしまったのが、どうしてなのか良く分かりませんでした。
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フランツ・ウェルザー=メスト/グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★
一楽章、最初の二つの音を短く演奏する独特の表現の第一主題。ダイナミックなトゥッティ。速めのテンポで積極的に歌う第二主題。第三主題はゆっくりと一音一音刻み付けるような表現です。悲鳴を上げるような「死の予告」。

二楽章、トリオはゆっくりとしたテンポで丁寧に描いて行きます。

三楽章、柔らかいですが、漂うような感じは無い第一主題A1。あまり伸びの無いワーグナーチューバ。B1、B2の再現の前の盛り上がりで弦がスタッカートぎみに演奏しました。A1の二回目の再現は暖かくなります。トゥッティはあまり強くありません。豪快に鳴るシンバル。金管も輝かしく鳴り響きます。続く弦は音を短く演奏します。

四楽章、壮絶でトランペットが強く咆哮する第一主題。第二主題でも弦が音を短く演奏する部分がありました。ゆったりと力の抜けた第三主題。軽く演奏される「死の行進」。木管も音が短い表現があります。テンポの動きもあって、踏み込んだ表現もあります。テンポが大きく動いてリズムの扱いも独特です。コーダの最後も軽く演奏されました。

頻繁なテンポの動きや独特のスタッカートやリズムの処理など強い個性を感じさせる演奏でしたが、この作品の表現としてはあまり納得できる表現ではありませんでした。
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カルロス・パイタ/フィルハーモニック交響楽団

パイタ★★★
一楽章、速いテンポでサラッと歌う第一主題。笑うように吠えるトゥッティ。第二主題も第三主題もテンポが速く、トゥッティ強烈で全く落ち着きがありません。とにかく吹きまくる金管には開いた口がふさがりません。「死の予告」などはおもちゃ箱をひっくり返したような大洪水です。

二楽章、この楽章もすごく速いテンポで進みます。速いテンポで下品に吠える金管。トリオはゆっくりとしたテンポで予想外に味わいがあります。それでも金管は必要以上に咆哮します。最後はテンポを速めますが、これがまた全く落ち着きの無いバタバタしたものでした。

三楽章、はっきりとした弦の刻み。硬い音で強めな第一主題A1。涼やかで美しいA2。ここまでの二つの楽章の下品さからはちょっと意外な神聖な演奏です。それでもホルンは強烈に咆哮します。ここまで吹かなくてもと思うくらい必死な金管。二回目のA1の再現の後のトゥッティはもう絶叫です。急にテンポが速くなったり自由自在(やりたい放題)な演奏です。シンバルが入る部分は真夏の太陽がギラギラと照りつけるような熱く強烈なものでした。コーダはとても良く歌うのですが、テンポが速めであまり味わいがありません。

四楽章、慣れてきたのか、第一主題はあまり強烈には感じませんでした。第二主題はとても頻繁に楽器が入れ替わって色彩感は豊かですが、ちょっと忙しい感じがあります。第三主題は速いテンポがさらに速くなります。「死の行進」は凄い速さで乱暴に演奏する金管。テンポが結構動きます。それにしてもここまで金管を強奏させる必要があるのでしょうか?。金管の奏者たちの血管が切れるのではないかと思わせる程の強烈この上ないコーダでした。

パイタのやりたい放題の強烈な爆演でした。ここまでやってしまうと神の世界の崇高さとは全く無縁の演奏している人たちの必死さが映像として浮かんできて、とても人間臭い演奏になってしまいます。
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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

クーベリック★★☆
一楽章、少し遠くから響いてきて、あまり大きな表現の無い第一主題。トゥッティは咆哮するような壮絶な響きでは無く、余裕のある節度のある響きです。慌ただしく動く第三主題。展開部のトゥッティはかなり激しいようですが、音場感が少し遠いので、壮絶さは伝わって来ません。「死の予告」はトランペットが強く抜けて来ます。

二楽章、ほどほどに動きのある主要主題ですが、やはり遠くから響く感じであまりはっきりとした動きは分かりません。トリオはあまりのどかな雰囲気では無く、ここでも活発な動きです。

三楽章、弱音で演奏されますが、はっきりとした存在感の第一主題A1。速めのテンポでサクサクと進みます。内に秘めたようなB1。硬い響きのワーグナーチューバ。デッドな録音の問題もあるのだと思いますがトゥッティの金管のバランスがあまり良くない時もあります。シンバルが入る前に間があって、シンバルが炸裂します。トランペットが強く突き抜けました。

四楽章、ここでもトランペットが強い第一主題。淡々とした表現の第二主題。第三主題の表現も控え目です。「死の行進」も全開にはならず、余裕を残した響きです。速めのテンポであまり深い味わいはありません。第三主題の再現からテンポが速くなりました。コーダの最後は全開になりましたが、少し投げやりな感じの演奏になってしまいました。

オーソドックスな演奏で、特に大きな表現などは無く淡々と進む演奏でした。あまり表現に深みが無く、最後も投げやりで雑な演奏になってしまいました。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、すごく積極的に歌われる第一主題。トゥッティでの響きの厚みはありません。速めのテンポで弱く優しく演奏される第二主題。第三主題も速いテンポで演奏されます。トゥッティの響きは浅く、奥行き感がありません。激しい「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。ホルンも間接音を含まず奥行き感がなく前面に出てきてしまいます。トリオはテンポも動き歌います。ハープはあまり強調されていません。スケルツォ主部が戻り再び速いテンポになります。ホルンのマイク位置が近いのか、かなり強調されています。テンシュテットらしい濃厚な表現はあまり感じません。

三楽章、第一主題は完全にピッチが合っていないような透明感の不足した響きでした。くっきり浮かび上がるワーグナー・チューバ。テンシュテットのマーラー演奏などに見られるような作品への深い没入はあまり感じられません。淡々と演奏が進んで行きます。第一主題の二回目の再現も深みがありません。クライマックスへ向けてテンポを速めてクライマックスで元のテンポに戻しました。クライマックスは打楽器も効果的で壮大なもので素晴らしかったです。コーダはたっぷりと濃厚な表現でした。

四楽章、第一主題の色彩感が乏しく、モノトーンのような感じがします。第三主題はテンポも動いて、切迫感を感じさせるものでした。ホルンが激しく咆哮する「死の行進」。テンポはよく動いています。コーダの冒頭は霧の中から聞こえてくるような幻想的な雰囲気がとても良かったです。コーダでテンポが動きます。

テンシュテットらしい作品への没入が感じられない演奏で、残念でした。

ピエール・ブーレーズ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ブーレーズ★★
一楽章、表情豊かに大きく歌う第一主題。響きが少し緩んだ感じがする第二主題。トゥッティはあまり大きなエネルギーを感じません。豊かな残響でとても巨大な「死の予告」。

二楽章、速いテンポで軽く演奏される主要主題。響きが豊かなのですが、その分音の密度が薄れていて、色彩感も薄い感じがします。中間部も密度の薄い音で淡々と流れて行きます。響きが豊かなのに深みや奥行き感がありません。

三楽章、適度に歌う第一主題A1。A2も感情が込められた歌なのか、ブーレーズの昔のイメージとは違う表現です。チェロのB1は淡々としていますが、やはり音の密度が薄いです。ウィーンpoらしい凝縮された濃厚な色彩感は表現されません。トゥッティは音が拡散して力が集中しません。シンバルと共に登場するトランペットは高らかに伸びやかで強烈な演奏でした。

四楽章、フワッとしていますが、厚みのある響きで躍動感のある第一主題。第二主題も第三主題も動きが強調されているようで、とても活発です。「死の行進」はモワーッとした響きの中からトランペットが響いて来ます。再現部の前の巨大なクライマックスですが、木目の粗い響きがとても気になります。巨大な響きのコーダでしたが、膨張した響きでこの演奏を象徴するような締まりの無い最後でした。

教会での録音のようですが、残響が多く響きが緩んで木目の粗い芯の無い響きになってしまいました。密度が薄く濃厚な色彩感のウィーンpoの特徴を殺してしまっているような感じがしました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」

チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴(ひそう)」は、彼が完成させた最後の交響曲で、死や運命をテーマにした極めて個人的な作品です。この交響曲は、ロシア語で「パテティック」(パトスに満ちた、感情的な)と題され、彼の繊細な感情が込められた深い表現が特徴です。以下、各楽章について説明します。

1. 第1楽章:Adagio – Allegro non troppo

緩やかで暗い序奏から始まり、クラリネットが奏でる憂いを帯びた旋律が心に染み渡ります。続いて現れる激しいテーマが、苦悩や悲しみ、運命への抵抗を描写するかのように展開します。チャイコフスキー特有の、情熱的で劇的な旋律が重なり合い、最後に静かに消え去るように締めくくられます。これは、彼の内面的な葛藤が表れているとされ、交響曲全体のトーンを定義する楽章です。

2. 第2楽章:Allegro con grazia

この楽章は、5拍子のワルツという独特のリズムで、流れるような優雅さを持っています。一見明るく穏やかな雰囲気ですが、どこか不安定さが感じられ、完全な安らぎを与えないような印象です。美しい旋律が繰り返されるものの、何か儚いものを感じさせるこの楽章は、彼の複雑な心情を反映しているかのようです。

3. 第3楽章:Allegro molto vivace

この楽章は行進曲のようなリズムで、エネルギーに満ち、勢いよく進行します。勝利や希望を感じさせるような部分もありますが、その裏には緊張感が隠されています。勢いよく高揚していき、壮大なクライマックスに達することで、聴衆にはこの楽章で終わるかのような錯覚を与えます。しかし、次の楽章でそれが覆され、チャイコフスキーの真意が明らかになるのです。

4. 第4楽章:Adagio lamentoso – Andante

最後の楽章は非常にゆっくりとしたテンポで、悲しみに満ちた旋律が静かに流れます。まるで絶望や諦め、孤独のような感情がひしひしと伝わってくるようです。感情が高まりつつも、次第に静寂へと向かい、最後は沈黙の中に消え入るように終わります。これは通常の交響曲のような明るい終わり方ではなく、むしろ音楽の中で「消えていく」感覚を与えます。

全体の印象

「悲愴」は、チャイコフスキーの自己表現として極めて深い作品であり、苦悩や絶望、孤独といった感情が描かれています。この曲の初演直後にチャイコフスキーが亡くなったため、交響曲第6番には「遺書」とも言われるような意味が含まれると考えられ、聴く人にとっても特別な意味を持つ作品です。その深い感情表現と劇的な構成は、聴き手の心に強く訴えかけ、深い余韻を残します。

4o

たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、冒頭から表現が濃厚です。カラヤンのねちっこさが「悲愴」にはピッタリなようです。
また、色使いが鮮やかでとてもカラフルな音楽です。アバドの演奏で感じた上滑りもなく、オケが全体で一つの音楽を演奏しています。また、オケが艶やかでとても美しい。
起伏も大きく、表現力豊かです。
ブラスセクションの鳴りも抜群!豪華絢爛です。この豪華なサウンドが華美と取られる場合もあるのでしょう。
しかし、この「悲愴」の演奏に関しては、全く文句がありません。むせび泣くようなトロンボーン。絶妙な音色で盛り上げるティンパニ。すばらしい名人芸のオンパレードです。

二楽章、5拍子の揺れが心地よい演奏です。オケ全体が同じ揺れを感じながら演奏しているのが、よく分かります。饒舌な語り口。人工的な演出だと言われれば、そうかも知れません。
でも、それを狙ってできるカラヤンとベルリンpoはさすがに凄いと言わざるを得ません。

三楽章、かなり快速に進みます。やはり音楽に前へ行こうとする力があります。ティンパニの音色感にも感服します。ベルリンpo全開のパワーも凄い。文句なし!

四楽章、三楽章から一転して泣きが入ります。内面から沸き起こってくる悲しみが表出されていて、一緒に沈んで行けます。そしてさらに深い悲しみへと・・・・・・。
すばらしい演奏でした。アンチカラヤンの人にとっては、この華美な部分が耐えられないのかもしれませんが、この表現力はさすがとしか言いようがありません。
個人的には、この後録音したウィーンpoとの録音よりも、こちらの演奏が好きです。
また、オケの機能としては同等のレベルのシカゴsoを指揮して凡演の限りを尽くしたアバドはいったい何たったんだろう。

イゴール・マルケヴィチ/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、太いファゴットの音、遅いテンポで注意深く音楽が進んで行きます。
凄い緊張感のある演奏です。NHKホールの残響が少ないせいもあると思いますが、輪郭のくっきりしたシャープな演奏になっています。
一つ一つの楽器も生き生きとしています。また、この遅いテンポでも緊張感を切らさずに演奏が続いています。
この頃になるとN響の金管もすごく上手くなっています。すばらしい響きと激しさを表現しています。
凄い!金管の咆哮!
すばらしい一楽章でした。マルケヴィチ恐るべし!

二楽章、一転してサラリとした演奏です。最後もものすごく遅いテンポになりました。

三楽章、この楽章も遅めのテンポの部類だと思います。N響大熱演です。

四楽章、弦楽器の繊細な音色が美しいです。起伏の非常に激しい演奏です。
こんなに凄い「悲愴」が日本で演奏されていたとは・・・・・・!

ネロ・サンティ/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、柔らかいファゴットです。同じN響でもマルケヴッチの時とはかなり違う音がしています。
ふくよかでしなやかな音楽です。金管の強奏でも非常に美しい音がしています。
自然な歌があって、響きがふくよかですごく癒し系の演奏のような感じがします。音、一つ一つの扱いがとても丁寧です。ものすごく分厚い低音の上に音楽が乗っているので、安定感抜群です。
金管の咆哮があっても、必ず下で支えている楽器の方がバランス的に上回っているので、常に暖かみのあるサウンドで音楽が作られています。これが徹底されているところがすばらしい!
これだけ骨格のしっかりした音楽作りをするイタリア人指揮者は稀なのではないかと思います。とにかく音楽が豊かです。

二楽章、この楽章も非常に豊かな響きがしています。音楽を聴くという至福の時を感じさせてくれる演奏です。
こんなに豊かな音楽を持っている人が、どうして世界のトップオケを指揮する機会に恵まれないんだろうと不思議に思うくらい、すばらしい演奏です。

三楽章、リズムの切れもとても良いです。チャイコフスキーからイメージする寒色系の響きではありませんが、これはこれで良いと納得できる演奏です。
N響ってこんなにも上手くなっているんですね。音の洪水のような次から次から音楽が噴出してくるようです。

四楽章、強烈なティンパニの一撃がありました。うわぁ~!とにかく凄いとしか言いようが無い。銅鑼の音も良かったなあ。すばらしい演奏でした。
次は是非このサンティにN響の音楽監督になってもらいたいものです。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈★★★★★
一楽章、豊かなファゴットの音から始まりました。残響が豊かに収録されています。スタジオ録音ではないかと錯覚するくらい綺麗な音がしています。
ふくよかな響きです。音楽はゆっくり進みます。演奏の集中力も高く音楽の起伏も大きい演奏です。
いろんな楽器が交錯する絶叫部分も凄くパワフル。なかなかの熱演です。これだけ燃え上がる朝比奈の演奏ははじめて耳にするかもしれません。
ベートーヴェンで見せる姿とは違う強いエネルギーの爆発があります。
弦楽器も大きなうねりとなって押し寄せてくるような感覚になります。

二楽章、艶やかで艶めかしい音楽です。情感を込めた音楽が迫り来るような実に生き生きとした演奏でしょう。

三楽章、ゆっくりしています。とのパートも表現が積極的で、生き物のように生き生きした音楽になっています。録り方もあるのだと思いますが、どの楽器も張りのある明るい音がしています。
終盤に来て少しテンポが速くなりました。とても若々しく熱気の溢れる演奏です。

四楽章、深遠の淵へ落ちて行くようなファゴットもとても情感溢れる演奏でした。このCDは20年ぐらい前に聞いて、そのときは全く感動しなかったのに、久しぶりに聴いてみて、全く違う気持ちになりました。感動です。すばらしいです。
やはり、同じ演奏を同じ人間が聴いても、歳月を重ねると全く違う感想を持つものなんですね。
あの時には、内面から溢れ出る音楽を感じ取ることができなかったんでしょう。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

>icon★★★★★
一楽章、黒い曇天の中にファゴットの序奏が沈み込むように響きます。透明感の高い弦と鮮明な色彩の木管。繊細な第一主題がゆっくりとしたテンポで示されます。弱く羽毛に触れるような肌触りの繊細な弦の旋律の第二主題。とてもゆったりと朗々と歌います。第二主題部の中間部もゆったりとしたテンポで、木管をくっきりと浮かび上がらせて歌う演奏です。間もたっぷりと取ります。第二主題部の主部がもどり再び繊細な弦が大きく歌います。凄い遅さで普通の指揮者がこのテンポで演奏したら耐えられないかも知れませんが、チェリビダッケの演奏は透明感があり、押し寄せる波や大きな歌もあるので聴き続けることができます。展開部も全開と言うほどの強奏ではありませんが、スケールの大きな広大な空間を連想させる演奏です。再現部に入ってから強弱のデフォルメがありテンポも速めました。トロンボーンの嘆きは他の金管やティンパニも含めてまるで戦闘機の空中戦のような強烈さでした。天に昇るようなロ長調の第二主題。クラリネットは凄い弱音からクレッシェンドして第二主題を歌います。弦のピツィカートに乗って歌うトランペットが柔らかく響きます。

二楽章、一般的な演奏より若干遅いかなと言う程度のテンポです。この楽章でも豊かに歌います。中間部もテンポを維持して進みます。主部よりも沈み込む音楽ですが、淡々と進んで行きます。主部が戻り薄明かりが差すような音楽です。チェリビダッケは間を空けて流れを止めるるようなことはせずに一気にこの楽章を進めて行きます。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで弦の優しい響きが印象的です。前半は大騒ぎすることなく穏やかに進みます。ティンパニのロールも穏やかで、荒れ狂うような強打はしません。次第に強くなる金管ですが、しっかりとコントロールが効いていて、安定しています。シンバルも奥まったところから美しく響いてきました。クライマックスも美しい響きでした。

四楽章、暗闇の中から響いてくるような主題が大きなうねりになって、また静まって行きます。ゆっくりと深みに落ちて行くようなファゴット。凄く感情が込められた、まさに悲愴です。このゆっくりとしたテンポに込められた音楽の深みを何と説明すれば良いのでしょう。クライマックスから音量を落としながらテンポも落としました。また、次第に暗闇の中に消えて行きました。

非常にスケールが大きく、透明感も高く、深淵な演奏でした。

ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団

ゲルギエフ★★★★★
一楽章、暗く重く沈みこむ序奏。しっかりと鳴って力強い第一主題。リズムの刻みも明快です。また、原色の濃厚な色彩もとても強いです。残響を伴って遠くから響くトランペット。ゆっくりとたっぷりとうねるように歌う第二主題の第一句。展開部の前もものすごく遅いです。展開部は激しいですが、低域が薄く厚みのある響きではありません。表現は思い切った強弱の変化などもありなかなかキレの良い演奏です。生き生きと豊かな表情で動くオケは見事です。トロンボーンの嘆きもすごくゆっくりと、そして強烈に演奏されます。コーダもゆっくりと心を込めた歌でとても美しいです。

二楽章、とても大きな表現で揺れ動きます。一楽章からは一転して速いテンポです。少し暗く沈むトリオですが、やはりテンポは速めで悲しみを振り切るように進みます。

三楽章、この楽章も速いテンポでメリハリのある表現で活発に動きます。とても有機的に動く弦と木管。オケのパワーが炸裂するような咆哮はありませんが、冷静に整ったアンサンブルです。

四楽章、たっぷりとしたタメがあってグッと迫って来る第一主題。ファゴットが太い音で悲しみに沈んで行きます。テンポの動きもとても大きいです。激しい部分はかなり激しく演奏しています。ドラが鳴ってからトロンボーンが大きく歌います。波が寄せては引きながら静かに終わります。

とても濃厚な色彩と歌で、思い切った強弱の変化のある表現でキレもありました。悲しみに沈んでゆく四楽章も素晴らしかったです。
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レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

バーンスタイン★★★★★
一楽章、ゆっくりとねっとりとした序奏。凄く遅い第一主題。しばらくすると少しテンポが速くなりますが、それでも普通の演奏に比べると遅いです。トランペットが濃厚な色彩で入って来ます。広々とした第二主題第一句。これもとても遅いです。バーンスタインの感情に従ってテンポが動いています。再現部はその前の弱音から大きなダイナミックレンジで爆発します。トロンボーンの嘆きは突き抜けるように浮き上がって強烈に叫びます。美しいコーダのトランペット。続く木管も尾を引くように音がたなびいて行きます。

二楽章、この楽章は特に遅いことはありません。とても良く歌う主要主題。ライヴ録音ですが、とても美しい響きです。中間部は大きく暗転せずに正確に進んで行きます。

三楽章、どっしりと落ち着いたテンポです。とても静かに進みます。金管が入っても余裕のある美しい響きです。ティンパニのロールや金管の強い色彩が空気を変えます。大太鼓のロールが入った後は堂々とした行進です。

四楽章、確かに遅いですが、そんなに遅いとは感じさせない第一主題。一音一音をとてもしっかりと聞かせてくれます。悲しみを誘うファゴット。第二主題もゆっくりと感情を込めて演奏します。テンポも大きく動きます。この遅いテンポはバーンスタインにとっては必然だったのでしょう。この世との惜別の表現にはこのテンポでなければ表現できなかったのだと思います。聞いていてこちらも目頭が熱くなります。ドラが入る前は壮絶な演奏になります。ドラはこの演奏にはこの音しか無いというような絶妙な響きでした。力が尽きるように次第に弱くなって終わりました。

ゆっくりと濃厚な表現で色彩もとても豊かでした。バーンスタインの感情を包み隠さず吐露した演奏でした。でも金管が咆哮することは無く、ライヴでありながら非常に美しい響きの素晴らしい演奏でした。遅いテンポの四楽章はこの世との別れを惜しむバーンスタインが一音一音に必然性を込めたような表現でした。
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小澤 征爾/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2008年ベルリンフィルハーモニーホールライヴ

小澤★★★★★
一楽章、アゴーギクを効かせて歌う序奏。ゆっくりと噛みしめるような第一主題。分厚い響きでは無く、サラッとしたあっさりした響きです。とても繊細で微妙な表現を聞かせています。第二主題の第二句は伸びやかに歌います。ゆったりとした展開部。突き抜けて吠えるトランペット。トロンボーンの嘆きも叫ぶように強く演奏されます。澄んで美しいコーダ。

二楽章、チャーミングに揺れ動く主要主題。オケが一体になって高い集中力で訴えかけてくる中間部。濃厚ではなくサラサラとした透明感のある美しさです。

三楽章、とても繊細な弦。ゆったりとしていてデリケートな表現です。金管が吠えることは無く、常に美しい演奏です。

四楽章、深く感情のこもった第一主題。シルキーでとても繊細で美しい第二主題。悲しみに沈みこんで行くようなコーダではありませんでしたが、ライヴでこれだけ美しい演奏を聞かせてくれるは珍しいのではないかと思います。

繊細で、シルキーで非常に美しい演奏でした。この演奏を聞くと海外での小澤の評価が高いのが分かるような気がしました。小澤の美学を貫き通した素晴らしい演奏でした。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/バイエルン放送交響楽団

ショルティ★★★★★
一楽章、柔らかい音で歌うファゴット。速めのテンポでくっきりと力強い第一主題。メリハリがはっきりしていて切れ味鋭く、色彩感も豊かな演奏です。独特なうねりがあるような第二主題第一句。第二句あたりからテンポが速くなります。展開部の直前は楽譜通りバスクラリネットでは無くファゴットです。激しく動く展開部。金管も強く入ります。オケのアンサンブルは見事です。シカゴsoとの演奏のように金管が強いです。トロンボーンの嘆きもテンポは速いですが、かなり強く吹かれます。第二主題の再現も起伏の激しい表現です。

二楽章、俊敏で賑やかな主要主題。ショルティのボクシングのような指揮にオケが良く反応しています。中間部は一見淡々としているようですが、沈んだ表現もキッチリとしています。

三楽章、大きな躍動感のある演奏です。それぞれの楽器キリッと立っていて精度の高い演奏です。表現も厳しく動きます。とても明快に鳴り響く演奏がとても心地良く感じます。バイエルン放送soがシカコsoのような筋肉質の響きになっています。

四楽章、動きのある第一主題と静かに止まったような第二主題の対比が見事です。コーダの前も金管がかなり強く演奏します。

悲しみに暮れるような表現はありませんでしたが、オケを見事にドライブした筋肉質の演奏は、生き生きとした躍動感に満ちたもので、とても聞き応えがありました。
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マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ヤンソンス★★★★★
一楽章、繊細で優しい第一主題。鋭く鳴り響くトランペット。途中でグッと音量を落とす第二主題第一句。豊かに歌う第二句。厚みがあって深い響きの展開部。どっしりしていて激しさはありませんが、トランペットが入ると強烈に激しさが高まります。トロンボーンの嘆きに向けて次第に激しくなって来ます。トロンボーンの嘆きはゆっくりとしたテンポであまり激しく咆哮しません。とても良く歌うコーダ。

二楽章、溶け合ったマイルドな響きで美しい主要主題。悲しみを吐露するように迫って来る中間部。それでも響きは包まれているようにマイルドです。NHKホールでのライヴのようですが、音響条件の悪さをカバーして美しい響きの演奏です。

三楽章、どっしりと落ち着いたテンポです。ホルンが強く豊かな表現をします。弱音では繊細な動きをする弦。大太鼓のロールが入る前で突然音量を落としてクレッシェンドしました。見事に鳴るシンバル。最後のシンバルの前でも音量を落としてクレッシェンドしました。

四楽章、シルキーでとても繊細な第一主題。すごく静かで柔らかくここでも非常に繊細な第二主題。コーダも非常に美しい。ヤンソンスの表現は大きな表現はありませんが、内面から湧き上るような表現でとてもしぜんでした。

非常に美しく充実した演奏でした。ライヴでこれほど繊細な響きを聞かせてくれるオケは滅多に無いでしょう。しかも音響効果としては不利なNHKホールでこれだけ美しい演奏をしたことは驚きです。
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エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団

スヴェトラーノフ★★★★★
一楽章、太いファゴット。大きく歌う弦。濃厚な色彩感です。ゆったりとしたテンポの中にも動きのある第一主題。尾を引くようにねっとりとした第二主題第一句。轟音を鳴り響かせる展開部の弦。トランペットも激しく咆哮します。凄く速いテンポで煽り立てます。トロンボーンの嘆きも遠慮なく咆哮します。このあたりはさすがスヴェトラーノフと言ったところか。コーダのトランペットもねっとりとしています。

二楽章、濃厚に歌う主要主題。速めのテンポでぐいぐいと進んで行きます。中間部も速めのテンポですが、ここでも濃厚な表現は変わりません。

三楽章、気持ちよく鳴り響く金管ですが、しっかりと統制は取れています。

四楽章、ゆっくりと感情を込めた第一主題。柔らかく微妙な表現の第二主題。オケが一体になって湧き上るような凄みのある響き。うねるようなコーダ。悲しみにのた打ち回るような感じの表現です。

ねっとりとした濃厚な表現と濃厚な色彩の演奏でした。低域の解像度が低いからそう聞こえるのかも知れませんが、オケが一体になって、のた打ち回るような悲しみの表現のコーダはなかなか見事でした。
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アンドリス・ネルソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ネルソンス★★★★★
一楽章、感情を込めて豊かに歌う序奏。柔らかく美しい第一主題。ロシアの寒さを感じさせる響きです。トランペットは柔らかく輝かしい響きですが、かなり余裕を残した演奏です。ゆったりとした第二主題第一句。明るく日が差すような第二句。柔らかく厚みのある展開部。トロンボーンの嘆きは音量を抑えていますが、悲しみは十分に伝わってきます。厚みのある柔らかい響きはとても美しいです。ゆっくりと豊かに歌うコーダのトランペットとフルート。

二楽章、速めのテンポで活動的な主要主題。テンポも動いてとても明るい演奏です。切々と歌う中間部。ティーレマンの演奏と同じようにティンパニが大きくクレッシェンドします。柔らかく豊かな響きはとても心地良いものです。

三楽章、柔らかくありながら繊細な演奏です。音が荒れることは全くありません。大太鼓のロールが入る部分も分厚くどっしりとした堂々とした王者の風格のような演奏です。

四楽章、悲愴感が十分に伝わる第一主題。第二主題も悲しみでうつろになって行く感情を上手く表現しています。重い響きのドラ。波が押し寄せては引いていくようなコーダ。

柔らかく美しい響きで、分厚くどっしりとしたトゥッティの安定感のある演奏でした。悲しみの表現も十分で感情の込められた演奏は素晴らしかったです。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★★
一楽章、ゆっくりと感情を込めて歌う序奏。硬質で濃厚な色彩です。重いコントラバス。明快な第二主題第二句。引きずるような粘りの展開部。一音一音がとても重いです。強烈に咆哮するトランペット。テンポの動きも迫って来るような迫力です。トロンボーンの嘆きもかなり強烈ですし、その前にトランペットのクレッシェンドも凄いものでした。

二楽章、ゴツゴツとした肌触りの主要主題。変化を克明に表現しています。速いテンポであっさりとした表現の中間部。主部が戻るととても生き生きとした表現です。

三楽章、一つ一つの音にとても力があります。とても積極的で、それぞれの楽器が強く主張します。物凄いエネルギーです。

四楽章、深く感情を込めた感じはありませんが、悲しみがにじみ出てくるような感じです。第二主題も明快に鳴ります。叩きつけるような激しい演奏。ゴーンと響くドラ。崩れ落ちるようなコーダ。

とても音に力があって、濃厚な色彩と硬質な響きで振幅の非常に大きな演奏でした。深く感情を込めるような表現ではありませんでしたが、作品から自然ににじみ出る悲しみが上手く表現されていました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」2

たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」名盤試聴記

ロヴロ・フォン・マタチッチ/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、多少ヒスノイズがありますが、気になるほどではありません。ビブラートのかかったファゴット。太い音のフルート。木管楽器の積極的な表現がなかなか良いです。
クラリネットの細かい音のタンギングがベタッとしていてちょっと聞き苦しい感じがありました。
マタチッチの音楽は筋肉質で男性的で豪快です。音楽にスピード感があって爽快です。カラヤンのようなちょっと過剰かなと思わせるような演出もありません。
男らしく正面突破の潔さが魅力です。

二楽章、速めのテンポで軽快です。軽快なテンポで豊かに歌われる音楽はとても魅力的です。

三楽章、はずむようなリズムで元気の良い演奏です。音楽がストレートで常に直球勝負のような潔さがマタチッチの魅力だと思います。
この楽章も音楽をこねくり回すようなことは一切無く、気持ちいいくらいの直球勝負です。

四楽章、内面の高まりをストレートに伝えてくる音楽で、共感もしやすい演奏だと思います。
カラヤンの演奏が、いろんな小技をちりばめて聴き手を落とす仕掛けを随所にしている音楽だとすると、マタチッチの音楽は仕掛けなど一切無く最後まで聴いた時に何を感じるかに賭けているような演奏だと思います。
とても誠実な音楽に感動します。

ユーリ・テミルカーノフ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

テミルカーノフ★★★★☆
一楽章、細身のファゴットの序奏。特に誇張した表現は無くサラッと自然に流れて行きます。自然でサラッとしていて美しい第二主題第一句。ロシア臭さなどは微塵もありません。ゆっくりと流れる第二句。展開部は伸びやかにオケが鳴ります。トランペットの咆哮は凄いです。トロンボーンの嘆きへ向けての金管も凄い強奏です。トロンボーンの嘆きも強いですしティンパニのクレッシェンドも強烈でした。コーダは広がりのある爽やかな表現です。弱音の爽やかでサラットした表現と強奏の濃厚で強烈な表現の対比が特徴的です。

二楽章、暖かく伸びやかな主要主題。あっさりとした中間部。サラッとした肌触りの音色はとても美しいです。

三楽章、冒頭部分はとても弱い音で始まります。強弱の振幅はとても大きいです。ホルンが美しく咆哮します。シャープな金管の咆哮。ティンパニの強打。スッキリとしたキレの良い響きはとても心地良いものです。大太鼓のロールの最後にシンバルが入った後で少しテンポを落としてまた加速しました。気持ちよく金管が鳴り響きました。

四楽章、ゆっくりと感情が込められた第一主題。柔らかく切々と歌う第二主題。スッキリとして整然とした演奏はこの楽章でも続いています。コーダは暗く沈みこむような表現でした。

スッキリと整然とした演奏で、ロシア音楽の雰囲気はほとんどありませんでした。繊細な弱音から金管の咆哮まで強弱の振幅がとても大きい演奏でしたが、弱音部分がとてもあっさりしていて表題はあまり意識させない演奏だったと思います。
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イオン・マリン/ガリシア交響楽団

マリン★★★★☆
一楽章、とてもリアルな響きの序奏。ゆっくりと優しい第一主題。とても丁寧に進みます。シャープに突き抜けるトランペット。第二主題第一句も丁寧です。第二句は伸びやかさはありませんが、美しいです。展開部でも強烈に突き抜けるトランペット。それでも響きは美しいです。展開部にはいってからの弱音部分は物凄く遅くなりました。トロンボーンの嘆きはトランペットのように突き抜けてくるかと思いましたが、かなり抑えて柔らかい演奏でした。コーダの前の第二主題第一句はとてもゆっくりでした。コーダのトランペットは柔らかく豊かに歌います。

二楽章、豊かで伸びやかな主要主題。あまり深く沈みこむことの無い中間部ですが、感情のこもった歌です。オーケストラ自らアップロードした音源なのでとても録音が良いです。

三楽章、ゆったりとしたテンポですが、少しもたつく冒頭。落ち着いた堂々とした行進です。最後はテンポを速めて終わりました。

四楽章、悲しみを内に込めるような第一主題。テンポも動いて激しい表現もありますが、基本的には遅いテンポで確実な演奏です。透明感の高いドラ。

遅めのテンポで丁寧な演奏でしたが、あまり深く作品にのめり込むことは無く、美しい響きでスッキリとした演奏でした。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ロンドン交響楽団

icon★★★★
一楽章、色彩が濃厚です。でも沈み込むような表現も見事です。
音楽の盛り上げ方は天才的です。
ロンドンsoとの組み合わせなので、弦や木管はとても繊細な表現をしています。金管が思い切り吹きまくる状況はあるにしても、弱音部の繊細な表現はとても魅力的だし、それと対比する金管の爆発が上手くバランスがとれています。
ロジェヴェンの演奏をいくつか聴くと、金管の爆発を期待するようになってきて、その場面が訪れると「来た~!」というとても快感にさせられます。
これって、合法ドラッグか?
もの凄い感情を吐露する演奏で、最後まで付き合えるか不安になるほど、感情の振幅が激しい演奏です。

二楽章、全く感情の乗らない演奏です。
このような楽章には興味がないのだろうか?

三楽章、わりとゆったりしたテンポで前半は大人しい演奏でしたが、やはり爆発するところは抜け目無く気持ちよくです。

四楽章、なんか、とてもあっさりやられてしまって・・・・・・・。

あれだけの爆発の後には、悲痛なほどの沈み込みを期待したが、この演奏には楽章によってムラがあったように感じました。

リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、柔らかく歌う序奏のファゴット。第一主題も歌います。第二主題も豊かに歌います。とても滑らかに流れる弦。美しく歌うことに主眼を置いていてあまり悲愴感はありません。展開部の前はとてもゆっくりと演奏されます。展開部に入っても厚みのある響きで、金管が突出してくることはありません。トロンボーンの嘆きはゆっくりと演奏されますか、泣き叫ぶような激しさは無くおとなしい表現でした。続く第二主題は速いテンポで入って次第に遅く粘っこくなりますが、やはり悲愴感と言うよりも暖かみがあります。コーダのトランペットも暖かく速いテンポであっさりとしています。

二楽章、この楽章も温度感のある演奏でサラッと演奏されます。中間部はテンポを落として波が押し寄せるように歌います。この部分はロシアの寒さを感じさせる良い表現です。最後はグッとテンポを落として感情を込めた歌です。

三楽章、バランスを重視した柔らかい響きの演奏が続きます。勇壮な行進曲も力づくではなく、自然な表現と響きです。ピッコロがとても強調されていました。

四楽章、暖かい響きであまり悲愴の表題は意識していないような演奏です。印象的な歌もありますが、やはり響きの暖かさが悲しみを表現するには邪魔になっているようです。悲しみを表現するような部分を強調することはあえて避けているようにさえ感じますが、内側に隠れている旋律を聞かせてくれたりもして、ハッとさせられることもいくつかありました。

スコアから新たな旋律を引き出したもした演奏でしたが、響きが暖かく、表現も悲愴を意識したものではなかったと思います。演奏としての完成度は高いのですが、作品にのめり込みたい人には合わない演奏だったと思います。

チョン・ミョンフン/ソウル・フィルハーモニー管弦楽団

チョン★★★★
一楽章、暖かく太い響きのファゴット。弦が強いアクセントのある表現をします。粘り気があって密度が濃く色彩感も豊かな演奏です。深みのある第二主題第一句。伸びやかな第二句。厚みがあって色んな音が聞こえる展開部。トロンボーンの嘆きの前で少し音楽が伸びます。大げさに泣き叫ぶことは無いトロンボーン。オケが一体になって良く歌う演奏です。コーダのトランペットも美しく歌います。

二楽章、大きな表現で豊かに歌う主要主題。間があったりもします。テンポは速めです。俊敏な動きの弦。中間部は息の長い歌で暗く沈んで行きます。

三楽章、速いテンポで鮮度の高い生き生きとした表現です。凄い躍動感で積極的な演奏です。金管が咆哮することはありませんが、積極的な表現には惹きつけられます。

四楽章、厚みがあって濃厚な第一主題。暖かい第二主題。朗々と歌う弦。コーダは悲しみに暮れるような演奏ではありませんでした。

濃厚な歌と色彩で、ねっとりとした表現でした。強弱の振幅はあまり大きく無く、四楽章のコーダはあまり悲しみを表現しませんでした。
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ウラディミール・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

フェドセーエフ★★★★
一楽章、静かであまり起伏の大きくない序奏。とても繊細な表現の第一主題。トランペットも軽く入ります。清涼感のある第二主題第一句。展開部の前のクラリネットが入る前はかなり遅くなりました。展開部の金管やティンパニが入る部分はさすがにロシアのオケらしい咆哮でした。トロンボーンの嘆きは初め弱く、ビブラートをかけながら最後は強くなりました。その間ティンパニがクレッシェンド、デクレッシェンドをします。第二主題の第一句を弦が演奏する裏でホルンがすごく強く演奏します。作品の表題をかなり意識した表現の演奏です。コーダは一転して速いテンポであっさりと演奏しました。

二楽章、自然体で大きな表現の無い主要主題。中間部も淡々と進みますが、少し暗い影を感じさせます。中間部は強弱の変化も大きく歌います。

三楽章、速いテンポで推進力があります。躍動感があってとても弾みます。軽い行進曲で金管も控えめで整然としています。

四楽章、ここでもあまり大きな表現をしない第一主題。柔らかく感情が込められた第二主題。感情を吐露するような金管とティンパニ。ドラはとても軽い響きでした。明るいトロンボーン。引きずるようなコーダ。

自然体な部分と感情を込めた大きい表現がありメリハリのはっきりとした演奏でした。ロシアのオケにしては金管の咆哮もほとんど無く、整然とした演奏でしたが、ちょっと作為的な表現もありました。
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イーゴリ・マルケヴィチ/ロンドン交響楽団

マルケヴィチ★★★★
一楽章、静かに切々と歌う序奏。速いテンポで軽快な第一主題。とても積極的な表現です。トランペットはかなり強く存在感があります。豊かな第二主題第一句。テンポも動くし振幅も激しい演奏です。凄い勢いの展開部。切迫感があってとても激しい演奏です。トロンボーンの嘆きは伸ばす音はすぐに弱くなりますが、動く部分は大きく膨らみます。続く第二主題第一句はとても速いテンポから次第に遅くなります。コーダは一転してとてもゆっくりとしたテンポで演奏されますが、感情が込められた感じはありません。

二楽章、とても豊かに歌う主要主題。テンポも速めで生命感があります。主要主題から一転して落ち着いた表現になる中間部。最後はゆっくり濃厚な表現でした。

三楽章、明快に鳴る金管。芯が強くキリッとした弦と木管。精緻でとても見通しが良い演奏です。大太鼓のロールがある部分の最後でテンポを落としました。

四楽章、激しい振幅のある演奏です。コーダの手前は畳み掛けるように突き進みます。軽い響きのドラ。物悲しいコーダ。

個々の楽器がカチッとした硬質な響きで激しさはかなり表現されていました。積極的な表現も随所にありましたが、硬い響きの分、広がりが無く小さくまとまった感じになってしまいました。
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クリスティアン・ティーレマン/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ティーレマン★★★★
一楽章、大きく歌う序奏。なまめかしく濃厚な色彩です。第一主題も迫って来るような大きな表現です。溢れ出すような音の洪水です。柔らかいですが、ここでもとても豊かな表現の第二主題第一句。考えられる表現はし尽すような演奏です。重量級で厚みのある展開部。凄い情報量の演奏ですが、金管は咆哮しません。とても制御されています。トロンボーンの嘆きはとても落ち着いて冷静です。コーダのトランペットも大きく歌います。とても表情豊かな演奏でした。

二楽章、とても生き生きとした表現の主要主題。時に激しいとさえ思える程の歌です。暗く沈む中間部。表現の振幅はとても大きいです。ティンパニも大きくクレッシェンドします。

三楽章、克明で濃厚な色彩で溢れ出すような音の洪水はとても凄いです。テヌートぎみに演奏する部分が多いです。金管は決して咆哮せず、軽く演奏しています。終わり近くで凄く音量を落としました。

四楽章、とても感情のこもった第一主題。かなり音量が増減します。音量を抑えて始まる第二主題。とても良い音で鳴るドラ。

ティーレマンがストレートに感情を表現した演奏だったように感じました。あまりにも歌が大きい表現になりすぎて聞いていてちょっと引いてしまうような部分もありました。
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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、静寂な湖面のように動かない第一主題。マットなトランペット。清涼感のある第二主題第一句。ガッチリとしていて、微動だにしません。ゆっくりな展開部。かなり重い演奏です。激しいトロンボーンの嘆き。続く第二主題第一句は速いテンポであっさりと演奏されます。粘りのある表現のコーダのトランペット。

二楽章、表情豊かな主要主題。あまり沈み込まない中間部。ストレートに歌います。

三楽章、この楽章を分解して見せているような遅いテンポです。楽器を受け渡しするチャイコフスキーのオーケストレーションがとても良く分かります。響きは厚くはありませんが、細部まで見通せる演奏です。金管が吠えることも無く落ち着いた感じで進みます。

四楽章、この楽章もあっさりとした第一主題でした。第二主題も特に何かを表現しようとはしていないように素っ気無い演奏です。余計な表現をしていない分、音楽がとても自然に流れて行きます。粘るような表現は全くしません。明るい響きのドラ。

あっさりと感情を込めた粘りなどはまったく無い演奏でした。作品そのものを表現したものでしたが、自然な流れはとても良いものでした。
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アレキサンダー・ラハバリ/ブリュッセル・フィルハーモニック

ラハバリ★★★★
一楽章、冒頭から深い悲しみを湛える序奏。速めのテンポで切迫感のある第一主題。メタリックで輝かしいトランペット。ゆったりと穏やかな第二主題第一句。とても良く表現の変化が付けられています。展開部は速めのテンポで緊張感があります。速いテンポで追い立てます。なかなかスリリングな演奏です。トロンボーンの嘆きの後のティンパニの強打もとても印象に残りました。感情のこもった歌を聞かせるコーダ。

二楽章、一楽章に比べるとサラッとした主要主題。ゆったりとしたテンポで豊かに歌いますがあまり沈まない中間部。主部が戻ると豊かな歌になります。

三楽章、速いテンポにオケも面食らったように落ち着かない演奏です。テンポになじんでくると、とても活発に動いて激しい表現の演奏になります。物凄いテンポで猛烈な演奏です。

四楽章、三楽章の勢いそのままに激しく演奏される第一主題。第二主題も大きな声で訴えるような演奏です。コーダも激しく悲しみを訴えています。

かなり激しく感情を吐露する演奏でした。静かに悲しみをこらえるような感じでは無く、大声で泣き叫ぶようでした。かなり異色な演奏だったと思います。
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