マーラー 交響曲第1番「巨人」2
たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記
クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団
一楽章、かなり抑えたppで緊張感のある導入部です。クラリネットの音も表情豊かです。バンダはかなり遠い。Ebクラも生き生きとして気持ちが良い。
ショルティ盤よりもoffに録られているので、全体の響きが見通せますが、細部もしっかり収録されているて、とても良い録音だと思います。
アバドは強烈な主張をしてくるタイプの指揮者ではないので、作品の背景に重いものがあまりない作品には良いと思います。
この演奏では、弱音部が生き生きと美しく録られています。
とても流麗な演奏で、ひっかかるところがない。この流麗さがアバドの特徴でもあり、そのようにまとめあげるのが能力の高さなのかも知れません。
この演奏の場合、シカゴsoが積極的な表現をしているので、なかなかの好演に仕上がっています。これで、オケが下手くそで消極的だったら凡演になってしまうところでしょう。
二楽章、上手いです。
三楽章、オーボエの表情も豊かです。木管の上手さが際立っている演奏です。名人揃いで長年同じメンバーで演奏しているので、統一感もあります。
名人が集まっても、ルツェルンやサイトウ・キネンのような寄せ集めでは、これだけの統一感は生まれない。ただ、名人の寄せ集めが一期一会の超絶演奏をすることも稀にありますが・・・・・・。
四楽章、シカゴsoにしたら、かなり抑えた冒頭かもしれません。力強いことは間違いありませんが、余裕しゃくしゃく。
世界の一流オケには、それぞれの文化があって、「この作曲家のこの部分はこうやって演奏するんだ!」というのが受け継がれていて、指揮者が変わっても譲れない部分などもあったりします。
そのオケの文化と指揮者の個性がぶつかり合って、せめぎ合いの中から感動的な音楽が生まれてくるのだと思います。
しかし、寄せ集めのオケだと、その文化の統一ができないので、バラバラになったり、指揮者の細かい指示がなければ無表情な演奏に陥りがちです。
アバドは細部にわたって指示をするタイプの指揮者ではないと思うので、ルツェルンの演奏などは、すばらしい名人芸は聴けますが、音楽としての統一感が今ひとつのように私には思えてしまいます。
例えばシカゴsoとウィーンpoが合同演奏したとしたら、それは水と油のようなもので、まず、音量でシカゴに圧倒されてしまうでしょうし、そうなるとウィーンの良さはかき消されてしまいます。
大太鼓の中心付近を叩くシカゴの打楽器奏者と、大太鼓の中心からかなり離れたところを叩くウィーンの打楽器奏者と一緒にどんな奏法で演奏するのでしょうか?
もしも、両者が譲り合って音楽をしたとしたら、そこからは消極的な音楽しか生まれないと思います。ですから、ルツェルンの演奏を私はあまり良いとは思えないのです。
この演奏はシカゴsoのメンバーがかなり積極的に音楽をしています。終結部ではかなり熱を帯びてきてなかなかの熱演です。
カラヤンやバーンスタイン、ベームなどの時代は若い頃の熱演は録音が悪く、歳を重ねるにしたがって録音は良くなりますが、最晩年の演奏が凡演になってしまった例(ベームが特に)も多く見受けられますが、アバドの年代だと、デビュー当時から録音はかなりの水準になっていましたから、若い頃の熱気あふれる演奏も十分なクォリティで聴けるので、とても良いことだと思います。
フルトヴェングラーやトスカニーニの時代の1980年レベルの録音技術があったら凄い記録がたくさん残っていたでしょうね。
サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団
★★★★☆
一楽章、アバドの演奏ほど抑えたppではありません。バンダは適度な距離にありバランスが良いです。しかし、淡い雰囲気などはなく、ショルティ独特のゴツゴツした男性的な演奏になっています。
金管は気持良いくらい見事に鳴ります。アバドの録音が木管中心の録り方だったのが、ショルティ盤では、金管がクローズアップされているようです。
ショルティの傾向ではありますが、オケの機能美は聴けますが、音楽としての全体像が掴みにくいのが残念なところです。
楽器個々の音はすごく立っていて、極めて鮮度の高い音が聞けて強烈です。
二楽章、叙情的なところは全くなく、とにかく攻め込まれます。なかなか音楽に浸ることは許されません。超絶オケを聞いてはいるのですが、聞き手に対して厳しい演奏です。
ショルティが音楽監督をしていた時にアバドとジュリーニを客演指揮者として迎い入れた理由が、自分と違うタイプの音楽だからとショルティ自身が言っていたと言われていますが、ショルティのゴツゴツした男性的で攻撃的な演奏と、アバドの流麗さ、ジュリーニの美しい歌。これで、このスーパーオケを維持したのもうなづけます。
三楽章、美しいメロディも迫ってくるので、なかなか酔いしれることもできない。ショルティのCDを聴く時には常に演奏と格闘しないといけないです。
四楽章、炸裂するオケ!突き刺してくるような、一歩間違えれば暴力にもなりかねないような、ギリギリのところで踏みとどまっている。
続く、弦のメロディーはたっぷり歌ってくれました。初めて音楽を聴かせてくれた感があります。
金管が全開フルパワーはさすがにシカゴという技術を聴かせてくれます。すばらしいテクニックであることは間違いない。この曲はこんなんだと言われれば、それはそれで説得力のある演奏でもあるし、超絶技法にはもちろん何の不満もない。音響としての爽快感もあるし、これだけの演奏ができる組み合わせは、この両者じゃないと出来ない領域にまで到達していると思う。
しかし、一方的に押し続ける音楽に付いて行けないと感じることがある。急、緩、急 のような緩が無いのだ。だから聞き手にも相当な緊張を要求する。終結部の壮絶なffを聴き終えた開放感と安堵感。
この高まった緊張が緩む時に悦に入ることができる人にはショルティはたまらない指揮者だと思います。
ショルティの演奏に賛否が分かれるのは仕方が無いです。でも、何も主張しない指揮者に比べればこれだけ強烈な個性を惜しげもなくさらけ出して、突きつけてくることができるショルティと言う指揮者のすばらしいところだと思います。この演奏を否定してはいけないと思う。
クラウス・テンシュテット/北ドイツ放送交響楽団
★★★★☆
一楽章、全体に埃っぽい音がします。やはり遅いテンポです。激しい演奏です。
シカゴsoとのライブが完璧だったのに比べると、ミスも散見されますが、やはりテンシュテットらしい爆演ぶりです。ロンドンpoとのスタジオ録音が弱音部やゆったりとしたテンポの穏やかな表現に重点を置いていたような感じがしましたが、このライブは爆発です。
地下のマグマが爆発のタイミングを待ち構えてうごめいているような、爆発へ向けて音楽が運ばれて行くような演奏です。
全開時の爆発ぶりは凄い!怒涛のようなffで一楽章が終わりました。
二楽章、開始から弦楽器の松脂が飛び散るような激しさです。ショルティをも凌駕するかのような猛烈な突進力で、息つく暇を与えてくれません。オケもよく付いて行くなあと感心します。後に喧嘩別れすることになるのですが・・・・・・。
三楽章、やはりミスは散見されますが、そんなのは全くおかまいなしでどんどん音楽は進んで行きます。この楽章は比較的速めのテンポをとっています。そして表情がすごく豊かです。テンポも大きく動きます。これだけ自在に音楽を表出する指揮者は現在となってはほとんどいません。つまらない理論などの教育が行き届いて、音楽ではないことにばかり意識が向いている指揮者が多すぎます。
また、テンシュテットのように音楽に没入するタイプの指揮者は練習も厳しいのでオケからも反発を買いやすく、実際にウィーンpoとの共演も一度だけでした。
民主主義の世の中なので君主のような指揮者では干されてしまうのでしょうけれど、音楽を聴く側とすれば、そのような流れは大きな損失でしょう。音楽業界にとっても損失だと思いますよ。
私など、実際に最近の没個性の指揮者たちのCDを買おうとは思わなくなってしまっています。
四楽章、冒頭、録音機材の方がオーバーレヴしたりして、音を拾い切れていません。それだけ予想外の爆演だったと言うことなのでしょうか。
全体を通して、埃っぽい録音なので美しい音を聴くことはできないのですが、テンシュテットの音楽は十分に伝わってきます。濃厚!
天国へ昇る前の緩やかな部分はとても穏やか、ショルティのような押し一辺倒ではないところが良いですね。
怒涛の爆発が始まりましたシカゴsoのような完璧さがない分、逆に渾然一体となった爆演になっているのかも知れません。シンバルは全部歪んでいます(^ ^;
終演後の拍手がカットしてあるのが残念です。ブラヴォーとブーイングが入り混じった騒然とした状況になったと伝えられています。是非残して欲しかったです。
エリアフ・インバル/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★☆
一楽章、クラリネットが豊かな残響を伴って立体的に響きます。ファンファーレは近い。暗闇と静寂感の中から音楽が浮き上がるような感じです。少し明かりが差したような第一主題。それでも静けさを保っています。展開部もピーンと張った緊張感と静寂感があります。インバルの鼻歌が聞こえます。クライマックスでもかなり余裕を持って吹かれる金管。終盤はテンポを上げて終りました。
二楽章、アタッカで二楽章に入りました。ゆっくり確実に歩くように確かめながら演奏される低弦の動機。強弱の変化など表現も非常に綿密です。一音一音の密度が高く、かなり高い集中力で演奏されています。中間部の弦がスラーで上昇する部分をクレッシェンドしています。木管も表情豊かに浮かび上がります。弦の主題にも非常に感情が込められてグッと迫ってきます。スケルツォ主部が戻って、また、表情豊かな音楽です。
三楽章、伸びやかなコントラバスの主題。チューバも美しく響きます。トランペットも豊かな表情です。インバルの感情が吐露されてテンポも大きく動きます。中間部のヴァイオリンは独特の表現です。ホルンも一体感があって美しい。主部が回帰して、速めのテンポで進みますが、ここでもテンポは大きく動きます。
四楽章、充実したブラスセクションの響き。インバル気合の掛け声も聞こえます。打楽器も含めてダイナミックな演奏です。ティンパニのクレッシェンンドも効果的に決まります。感情のこもった第二主題は非常に美しい。展開部の金管も余力を残して美しい音です。再現部の手前でトランペットが高らかに演奏します。静寂感に満ちた再現部はとても美しい。クライマックスのトランペットの音の伸びは凄い。オケが一体になった圧倒的なコーダもすばらしかった。
インバルの感情のこもったすばらしい名演でした。
マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
★★★★☆
一楽章、静かに始まるフラジオレットに凝縮されてピンポイントの木管。良い距離感のバンダのトランペット。深みのあるチェロの第一主題。ヴァイオリンもとても美しい。ダイナミックレンジもとても広いです。音楽の鮮度が高く、生命感を感じさせる演奏です。静寂感が高く演奏に引き込まれます。トゥッティでも分離が良く音が際立っています。ティンパニも強力でした。
二楽章、ここまで、特に強調するような表現はありませんが、色彩感が豊かで、中庸のとてもバランスの取れた非常に美しい演奏を続けています。中間部もサラッと柔らかい音色の美しい弦です。途中で登場する管楽器がキリッと立ってクッキリとした輪郭です。主部が戻って、ホルンが強く主張します。
三楽章、ティンパニの響きに埋もれるようなコントラバスのソロでした。表情豊かなオーボエ。中間部のヴァイオリンはヴェールを被ったようなフワッとした柔らかく美しい響きでした。主部が戻って、抜けの良いクラリネットや柔らかいトランペットなど本当に美しい演奏に惚れ惚れします。
四楽章、シンバルに続く、すさまじいトランペットのロングトーン。シンバルも炸裂します。それぞれの楽器が自分のカラーを明確に主張します。第二主題の奥ゆかしい歌がとても心地良い。展開部も整然としています。すばらしいエネルギー感の頂点です。再現部でも密度の濃い木管。コンセルトヘボウ独特の濃厚な色彩感。くっきりとしたミュートを付けたファンファーレ。オープンでもはっきりと聞こえるファンファーレ。コーダでも整然と美しい演奏でした。弦の刻みもはっきりと聞こえました。
強い個性はありませんでしたが、凄く美しい演奏には惹きつけられるものがありました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/フランクフルト放送交響楽団
★★★★☆
一楽章、静寂の中に注意深く丁寧な序奏。鋭く距離感があって美しいバンダ。第一主題にヴァイオリンや木管が絡んで戯れるような感じで楽しそうです。テンポも動いて積極的な表現です。鋭く立ったミュートを付けたトランペットのファンファーレ。最後はテンポを速めて、歓喜に溢れる演奏でした。
二楽章、冒頭の低弦はとても遅く演奏しました。木管に向かってテンポを速める演奏です。安らぎを感じさせる中間部。この楽章でもテンポがよく動きます。
三楽章、この楽章でもテンポの動きが絶妙で、とても繊細な音楽を聞かせてくれます。夢の中を漂うような中間部。とても美しい。緩急自在なテンポの動き。作品への共感が表れた指揮ぶりに感服します。とても良い演奏です。
四楽章、オケを爆発させるようなことはありませんが、表情は締まっていて、オケの集中力を感じます。第二主題でもテンポが動いて独特の表現でした。テンポの動きの中にとても豊かな音楽があります。再現部に入る前にティンパニの強烈な一撃がありました。再現部へ向けて徐々にテンポを落として行きました。コーダの最後もテンポを速めて終わりました。
オケを爆発させるようなことはありませんでしたが、テンポの動きや絶妙の表現など聞かせどころの多い演奏でした。
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ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス/マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★☆
一楽章、音量は小さいが間接音が少ないバンダ。予想していたよりも美しく洗練された響き。弦と木管がズレました。ゆったりとしたテンポで地に足の着いた確かな歩みです。展開部に入っても遅めのテンポは続きます。管楽器の響きは少し乾いていますが、色彩感は豊かで、ファンファーレも突き抜けてきました。エネルギッシュな演奏でした。
二楽章、この楽章もゆっくりめのテンポで確実に踏みしめるような演奏です。表情も豊かで、感情も込められています。中間部でもちょっとした間があったりテンポも揺れてとても良い表現です。主部の戻る前のホルンがクレッシェンドしながらテンポを上げました。
三楽章、この楽章でもテンポが動いて積極的な表現です。中間部のヴァイオリンはメロディーの途中でスタッカートぎみに演奏しました。表現は生き生きとしたもので、とても活発に動きます。
四楽章、トゥッティのパワーは今一つの感じはありますが、第一主題の後ろで動く弦の表現もとても積極的でした。第二主題も抑揚を付けてテンポも揺らして歌います。展開部のテンポはゆったりとしたテンポで、金管の奥行き感があまり無いので、響きが浅く、エネルギー感にも乏しいのではないかと思います。再現部の第二主題も大きく歌います。ファンファーレが出る前はとても遅いです。その後もゆっくりと濃厚な表現です。コーダの最初の部分もものすごく遅い演奏でした。
かなり感情を吐露した熱演でした。ブルゴスの表現をオケが表現し切れないような感じもありましたが、オケの技量もかなりのもので、これからさらに技術も向上するでしょうし、期待のもてるオケです。
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