カテゴリー: マーラー:交響曲第9番名盤試聴記

マーラー 交響曲第9番

マーラーの交響曲第9番は、彼が生涯最後に完成させた交響曲で、人生の終末や死への瞑想をテーマとした非常に深い作品です。この曲は4つの楽章で構成されており、マーラーが直面していた死への恐れや、人生の無常、別れへの思いが音楽の中で表現されています。マーラーの作品の中でも特に内省的で、個人的な感情が色濃く反映されています。

各楽章の特徴

  1. 第1楽章:冒頭は不安や緊張感が漂う静かな始まりからスタートし、徐々に感情が高まり、激しいクライマックスを迎えます。この楽章は、人生への執着や死への恐れを表現しているとされています。特に、心臓の鼓動のような動機が繰り返され、不安感が強調されています。
  2. 第2楽章:民俗的なリズムが特徴で、田園風景を思わせるような牧歌的な雰囲気が漂っていますが、突然の不協和音や鋭いアクセントが挿入され、ただ穏やかなだけではなく、どこか風刺的な要素も含まれています。これには「死を予感するユーモア」という解釈もあります。
  3. 第3楽章:急速なリズムで進行し、神経質で不安定な感覚が強いスケルツォです。マーラーの他の作品にも見られるスケルツォ的な要素があり、狂気や混乱、絶望が垣間見えるような激しい楽章です。
  4. 第4楽章:最後の楽章は、ゆっくりとしたテンポで、非常に感動的で美しいアダージョです。この楽章では、穏やかで静かな響きが徐々に消えゆくように終わります。このフィナーレは「別れの音楽」とも解釈され、静かに消え去る終わり方が、死や永遠の眠りを象徴しているとされています。

演奏解釈と名盤

マーラーの交響曲第9番は演奏者によって解釈が大きく異なる作品であり、指揮者による解釈の違いが明確に出る曲でもあります。有名な録音には、レナード・バーンスタイン、ヘルベルト・フォン・カラヤン、クラウディオ・アバドなどの指揮者によるものがあり、それぞれがマーラーの終末的なメッセージを独自の解釈で表現しています。バーンスタインの演奏は特に感情表現が豊かで、マーラーの悲哀や別離への痛みが強調されており、カラヤンの演奏は音の美しさや洗練が際立っています。

マーラー第9番の意義

この曲は、マーラーが亡くなる前年に完成したもので、彼が生と死をどのように受け止めていたかを感じ取れる非常に個人的な作品です。第9番の終わり方には静かな諦念が漂い、人生の儚さや終焉への受容を表現しています。そのため、聴く人にとっても特別な感動を与えると同時に、深い哲学的な問いかけを投げかける楽曲となっています。

4o

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、残響に乏しい音場に孤立感があります。ちょっと不安定なホルン。すこし速めの第一主題。僅かに控え目な第二主題。金管の見事なアンサンブル。シンコペーションがとても強調されていて、裏で動く金管もとても克明です。荒れ狂うようなことは無く、整然とした演奏です。ベルリンpoも余裕を持って美しい演奏を続けています。消え入るような最弱音に引き込まれます。色彩感もとても豊かです。強烈なエネルギーの銅鑼の一撃に続いてこれまた強烈なトロンボーンのシンコペーション。色んな楽器が交錯して行くところをとても立体的に表現します。すばらしい表現力です。弱音部で演奏されるソロ楽器がそれぞれしっかりと立っていて、強い存在感を主張します。柔らかく美しい楽器が連なったコーダでした。

二楽章、くっきりと立ったクラリネット、穏やかなホルン。活発な弦。ホルンがトリルをたまにクレッシェンドします。しっとりとした弦の響きがとても美しい。Bへ入っても急激なテンポの変化がなくすんなりと入りました。金管楽器は若干抑え目で、弦を主体に音楽が作られて行きます。穏やかなC、木管楽器が生き生きと演奏します。二度目のBは一度目よりも速いテンポでスピード感があります。造形が整っていてとても美しい構造の演奏です。Aの再現はとてもゆったりとしたテンポで始まりました。フルートのフラッターがとても良く聞こえます。Bが再現するあたりからホルンの低い音が強烈に響きます。次第にテンポを上げてかなり早くなったところでAが再現します。どの楽器も極上の響きで登場するあたりはさすがにベルリンpoと思わせる演奏です。最後は少しテンポを落として終りました。

三楽章、明快な金管。活発な動きで生き生きとした音楽です。彫りの深い音楽で、とても克明に描かれています。金管はかなり強奏しますが、理性の及ぶ範囲にとどまっています。Bも豊かな色彩です。美しい造形を保ちながら深い彫琢の音楽が繰り広げられます。最後はベルリンpoの上手さを見せ付けるように豪華絢爛な響きで終りました。

四楽章、緊張から穏やかで安堵感のある音楽に移行する弦の第一のエピソード。すごく弱く演奏されたファゴット。控え目なホルン。ヴァイオリン独奏などの弱音部に凄いエネルギーが込められています。弦楽合奏も凄いアンサンブルの精度で、他にも重なり合う管楽器も有機的で、カラヤンの見事な統率が伺えます。弱音に込められるエネルギーと言うか魂とでも言えば良いのか、凄い雰囲気です。第二のエピソードでも弱音で木管の発するメッセージの強さと美しさの引力に引き込まれそうになります。クライマックスでの伸びやかなトランペットもすばらしい。次第に惜別の悲しさを訴えて来ます。この世のものとは思えないような美しいコーダ。別れ際にそっと抱きしめられるような別れです。

これほど有機的な演奏に出会うことはめったに無いと思います。すばらしい演奏でした。

レナード・バーンスタイン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

マ>icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで暗闇に浮かび上がる楽器が神秘的です。とても感情のこもってたっぷりとした表情で穏やかな第一主題です。ホルンの二度下降動機から暗転します。金管もかなり強奏します。凄い金管の咆哮。音楽の振幅がものすごく激しいです。くっきりとしたくま取りで積極的に表現します。同じベルリンpoでもカラヤンの演奏とはかなり違った作品への没入です。作品と一体になったバーンスタインが強いエネルギーを発散しています。一音一音に意味を持たせたような生命感に溢れる演奏です。コーダの前のホルンも美しい。コーダのヴァイオリン独奏も柔らかく美しい。

二楽章、快速なテンポで抜けの良いクラリネット。とても積極的で表情豊かで生き生きした演奏です。途中から入ってくる楽器が思いっ切り良く入って来ます。Bからもにぎやかで活気に満ちています。Cは少しテンポを落として穏やかな表現ですが時折顔を出すAの要素はとても活気に溢れています。とにかく生き物のように音楽が動き回ります。再び入るCへはゆっくりと入りました。音一つ一つに強いエネルギーがあって、この時の演奏の集中度の高さを感じさせます。

三楽章、トランペット、弦、ホルンの入りに独特の間があります。トランペットとホルンの間に入る弦がもの凄い勢いとエネルギーでした。とても積極的な表現で、入ってくる楽器が思い切って強く入りますのでとても色彩感も濃厚です。柔らかい部分と激しい部分の描き分けがとてもはっきりしています。最後は強烈に荒れ狂って終りました。

四楽章、冒頭の緊張感から穏やかで心安らぐ主要主題へと引き継がれます。非常に感情のこもった、思い入れたっぷりのメロディーが波のように押し寄せる演奏です。抑揚があって大きく歌います。すごい感情移入で、こちらも引きずり込まれます。太く艶やかなヴァイオリン独奏。一つ一つの音に強いエネルギーがあって、とても感動的です。音楽が次々と湧き上がってきてとても豊かです。第二のエピソードの前では、バーンスタインの唸り声も聞こえます。強烈に叫ぶトランペット。一つ一つの音に感情が込められていて、とても重い。コーダに入っても一つ一つの音には力があり、浮遊感はありません。別れの悲しさはあまり感じませんでした。

レナード・バーンスタイン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

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一楽章、ゆっくりと丁寧な冒頭。柔らかく豊かな第一主題。第二主題の分厚い響き。濃厚な色彩で描かれて行きます。非常に重い展開部冒頭。別れの切なさを切々と歌います。輝かしいブラスセクション。別れの空虚さを何度も垣間見せます。オケは気持ち良いくらいに鳴り響きます。トロンボーンのシンコペーションも凶暴です。ミュートを付けたトランペットの音がキリッと立っていて演奏の集中度の高さを感じさせます。コーダ手前のハープに導かれるホルンやクラリネットもとても美しい。寂しげなコーダ。

二楽章、くっきりと美しいクラリネット。控え目なホルン。艶やかで美しい弦。登場してくる楽器が有機的に結びついて生き物のように生き生きとした演奏です。オケがコンセルトヘボウだからと言うこともあると思いますが、とにかく色彩が豊かで、濃厚で油絵を見ているような感覚です。目の覚めるようなシンバル。ビンビン鳴り響くトロンボーン。どの楽器をとってもすばらしい!最後のAが出現するところの急激なテンポの変化(遅くなる)には驚きました。

三楽章、最初のトランペットとホルンの間に「間」がありました。少し速目のテンポで進みます。強弱の振幅が非常に大きく、とてもドラマティックな演奏です。最後は雪崩れを打って押し寄せるように終わりました。

四楽章、感情のこもった深い歌です。泉からこんこんと水が湧き出すように絶え間なく豊かに歌い続けます。不気味な雰囲気のファゴットのモノローグ、艶やかなヴァイオリン独奏。生前の幻影を見るかのように寂しげな第2エピソード。バランスのとれたクライマックス。夢見心地のようなコーダ。死に絶える人を暖かく包み込むような、悲しみの中にも暖かみのある演奏です。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★★★
一楽章、暗闇の中から光が見えるような序奏。序奏の緊張を解きほぐすように柔らかく安らいだ心地の第一主題。第二主題が現れると暗雲が立ち込めるように暗転します。ティンパニの激しいクレッシェンド。とても微妙な表情付けがされています。金管も遠慮なく強奏します。オケも力強くしかも、この当時の録音を考えるととても美しい。この曲の初演者の自信なのか、作品への共感と堂々としたスケールの大きな演奏には感動させられます。うつろでさまようような表現も見事です。銅鑼の強打の響きとバランスの取れたトロンボーンのシンコペーション。音楽が立体的で生命感があってすばらしい。コーダ手前のホルンとフルートの絡みの部分のオケの響きにも独特の深みがあって、なかなか聞きものです。すばらしい第一楽章でした。

二楽章、ゆったりとしたテンポで、優雅に舞うように始まりました。響きに透明感があって、とても美しい演奏です。Bはかなり速いテンポですごく活発です。アーティキュレーションの表現にも敏感でとても生き生きしています。Cは一転して穏やかで対比が見事です。再び現れるBでもバッチリ決まる打楽器が気持ち良い。再びのCでは寂しげな雰囲気。Aの再現では暗い影が現れ荒れ模様に。最後のAに入る時にホルンが大きくリタルダンドしました。表現も色彩感もとても豊かで、コロンビア交響楽団が寄せ集めのオケだとは思えないすばらしい演奏です。

三楽章、深みのあるコントラバス。張りのある金管。どの楽器も強い音で交錯します。Bになり少し穏やかになりますが、依然として活発な楽器の動きがあります。二度目のBでも勢いのあるブラスセクション。普段は温厚で暖かい音楽を作るワルターの人が変わったような激しい演奏です。Cで穏やかな安らぎのある音楽になりました。終盤のAの緊張とCの穏やかさの対比がすばらしい。最後はかなり強烈なトゥッティでしたが、しっかりとワルターが手綱を締めていて、暴走はありません。

四楽章、大きく歌うヴァイオリンの主要主題。次から次からと旋律が湧き上がってくるような自然な音楽です。ファゴットは少し音を短めに演奏しました。第一のエピソードが高まる部分は非常に感情がこもっていて感動的です。独奏ヴァイオリンも美しい。第二のエピソードは憂鬱で孤独な感じを表しています。クライマックスの激しい金管の演奏も強烈ですが、伸びやかなものでした。暖かい別れでした。

最近の演奏からすると一時代前の演奏かも知れませんが、この作品の初演者としての自信と共感に溢れるすばらしい演奏でした。

レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団

セーゲルスタム★★★★★
一楽章、非常にゆっくりとした冒頭。アウフタクトから強拍に繋がる表現が見事な第一主題。うごめくような第二主題。色彩感も豊かで、ダイナミックの変化の幅も大きい演奏です。展開部の手前の、分厚い響きのトゥッティ。オケのエネルギー感も相当なものです。ちょっと内側を叩いたようなベタッとしたティンパニの響き。展開部に入って暗い音楽が続き、ハープが出て第一主題の変形が現れると薄日が差すように明るい雰囲気になります。録音も良く、音が立っていて、金管も迫力があります。トロンボーンのシンコペーションはチャーバとのバランスの良い響きでした。葬送行進曲のミュートをしたトランペットのシャキッとした音。冒頭とは違い少し華やいだ再現部。穏やかで美しいコータ゜。

二楽章、ゆったりとしたテンポです。柔らかいホルンが美しい。Bは速いテンポです。Cの何とも言えないのどかで穏やかな雰囲気。音楽にどっぷりと浸ることができます。楽器一つ一つがしっかりと立っていて、しかもとても透明感が高い演奏で、聞いていて嬉しくなります。

三楽章、情報がスッキリと整理されていて、とても見通しの良い演奏です。アゴーギクを効かせたり、テンポを頻繁に動かしたりしているわけではありませんが、とても密度の高い演奏で、濃厚です。テンポを落とした部分では、一音一音心を込めるような丁寧な演奏で、力で押すような演奏ではなく、心を動かされます。最後は少しテンポを上げてにぎやかに終わりました。

四楽章、ゆっくりと感情を込めた序奏。大切なものを扱うように丁寧な主要主題はすごく感情がこもっています。控え目なファゴットのモノローグ。第一のエピソードの弱音部分はとても繊細で美しい表現です。ホルンの主要主題の後の弦の充実した響きもとても美しい。切々と語りかけるような演奏が続きます。第二のエピソードの導入部は僅かに速めのテンポです。トランペットが強いクライマックス。クライマックスを過ぎて、コーダに至るまでの間は、夕暮れを思い出させるような、切なさを感じさせる演奏でした。コーダは大切な人との別れを涙にくれながらもしみじみと味わうような温かいものでした。

非常に濃厚で深い音楽を聞かせてくれました。すばらしい演奏だったと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2004年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、深い息遣いの第一主題。騒ぎ立てずに落ち着いた第二主題。盛り上がりのエネルギーはすごいです。展開部は暗闇の中を手探りで進むような感じから次第に明るくなっ行く感じです。オケはとても良く鳴ります。自然な流れで演奏されているような感じですが、実際にはかなり細部にわたって緻密な表現がなされています。普段のハイティンクの演奏ではめったに聴かれないような、オケの限界ギリギリの咆哮で、すごいです。再現部も波がうねるように色んな楽器が絡み合って、深い表現をします。緊張から解放されたようなコーダ。穏やかな部分と激しい部分の起伏の大きな演奏でした。

二楽章、とても軽く始まりました。弦が入るところは心持ちテンポを落としました。この楽章でも起伏の激しい演奏です。底から突き上げるようなコントラバス。ほとんどテンポを変えずにBへ入りました。次第にテンポを上げて、とても生き生きとした表情です。Cも動きがあって、穏やかと言うよりも生命感があります。色彩感も濃厚です。二度目のBもとても明瞭な表現で、オケが生き物のように活発に動きます。深いところから湧き上がるような音色がとても魅力的です。ホルンが遠慮なく吹きまくります。穏やかななって終わりました。

三楽章、比較的ゆっくりの序奏からAに入ると一転して速いテンポになります。滑らかに演奏されるB。Cは少し細身のトランペットです。オケがハイティンクの音楽を献身的に表現しようとしているように感じます。最後はとても賑やかで、色彩のパレットを広げたような眩い演奏です。急激な追い込みは無く、わずかにテンポを速めて終わりました。

四楽章、内面から湧き上がるような序奏。大きく捉えて歌われた主要主題。うら寂しい第一のエピソードの最初のヴァイオリン独奏。川の流れのように豊かな弦楽合奏。感情のこもった高まりです。第二のエピソードは入ってくる木管が細心の注意を払って入って来ます。夕暮れの寂しさのような感じがしました。音の洪水のようなものすごいクライマックスです。消える寸前のロウソクが強い光を放つように、金管が音を放ちます。そして、死へ向かって次第に衰えて行きます。雪が降る寒い夕暮れの別れです。心が抉られるような深い音楽です。

とても起伏の激しい演奏でした。生命感に溢れた生き物のような音楽から、次第に力が衰えて悲しい別れに至るまでを見事に表現しました。とても感動的なすばらしい演奏でした。
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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

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一楽章、暗闇の中で探るような冒頭部分。ゆっくりと美しい第一主題。バランスの良い金管。ライヴならではの熱気も感じられます。穏やかな部分ではもっとゆったりとたっぷりと演奏して欲しい部分もありますが、速めであっさりと進みます。第三主題のクライマックスも爆発することは無く控え目でした。金管には熱気とともに感情のこもった強い響きがあります。コーダの手前のホルンは筋肉質でライヴとは思えない良いバランスです。コーダのヴァイオリン独奏は枯れた響きで黄昏感があります。

二楽章、抜けの良いクラリネット。締まりあって活発な表現です。Bへ入ってもあまりテンポは変わりません。積極的な表現で訴えかけて来ます。色彩の変化も見事に表現しています。最後のBではテンポをかなり速めます。

三楽章、ミュートを付けた金管が激しい。ライブでありながらキチッと整ったアンサンブルを聞かせるオケはさすがです。別れの寂しさを予感させるトランペット。最後のホルンやトランペットの強奏はなかなかでした。

四楽章、暖かみがあり感動的な主要主題。ホルンの主要主題も感情がこめられて深みがあります。寂しげなヴァイオリン独奏。寂しさはありますが、感情が込められて暖かい響きです。第二のエピソードも物悲しいですが、響きには力があって、熱気を感じます。クライマックスで強力なトランペットやホルンが情感豊かに演奏します。寒々としたコーダ。こんなに同じ曲で温度感を変えるとはすごいことです。ゆっくりと歩いて去っていくような別れでした。

ライヴならではの熱気のこもった演奏で感情をこめた深みのある表現もとても良かったですが、四楽章コーダの寒々とした表現は同じ曲の中でこれだけ温度感を変えることができるなんてとても驚きでした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/シカゴ交響楽団

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一楽章、とてもゆったりとしたテンポで始まりました。ショルティと同じオケとは思えないような柔らかい音です。とても優しい表情の演奏です。金管も余力を残した上にバランスを重視した美しいハーモニーです。どことなく寂しげな表情が「別れ」の切なさを感じさせます。ミュートをつけたトロンボーンの見事なアンサンブル。どのパートも絶妙なアンサンブルを聞かせます。そして、この演奏が持っている独特の寂しさ切なさは特筆に価します。鐘も柔らかい響きです。これだけ悲しい陰を引きずりながら聴き手の心を揺さぶる演奏はすばらしいです。コーダからもとても切ない。

二楽章、ゆったりとしたテンポでふくよかな響きです。テンポの変化は僅かで流れが良いです。ショルティ/シカゴsoのようなしゃかりきになって演奏しているような雰囲気はなく、とても柔らかい音色で心なごむ演奏です。細かなことは考えずにジュリーニの音楽に身を任せて流れていく音楽にどっぷりと浸っていたいように気持ちにさせる演奏です。音楽を聴く喜びを心から感じさせてくれる演奏だと思います。木管楽器もとても美しく生き生きとした表情です。

三楽章、豊かにホールに音が広がります。この楽章もゆったりとしたテンポで確実な足取りです。トロンボーンは低音が一体になっているところはとても重量感ある音です。後半、少し動きが少ない部分ではとても雄大なクライマックスでした。最後も力みのない終結でした。

四楽章、祈るような冒頭。惜別の思いが込み上げてくるような主要主題です。天国から聞こえてくるよあなホルンの主要主題。一つ目の山に向かって語りかけるように感動的な演奏をする弦楽。艶やかな独奏ヴァイオリンと潤いのある木管がとても美しい。抑え気味のクライマックスでした。とても幻想的な雰囲気のコーダ。

一楽章のすばらしい出来に続く楽章がいまひとつだったのはとても残念です。
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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

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一楽章、断片的に登場する楽器が浮き上がります。穏やかな雰囲気の第一主題。不安を掻き立てるかのような第二主題。金管の緊張感と弦の開放感が上手く演出されています。展開部の抑えぎみのトロンボーン。印象的なハープの響き。ミュートをしたトロンボーンのすばらしいアンサンブル。クライマックスでも各パートが溶け合った力強い響き。鐘が演奏される前のミュートを付けたトランペットがホールの残響を伴って浮かび上がりました。鐘は柔らかい響きです。コーダの前のホルンとフルートの掛け合いも美しく、オケの実力の高さを伺わせます。コーダの独奏ヴァイオリンと木管、ホルンも淡い色彩でとても美しい演奏でした。

二楽章、軽快なテンポで始まりましたが、弦の入りで一旦テンポを落としてまたテンポを戻しました。テンポが上がってトロンボーンの強奏は分厚い響きで見事でした。ホルンの速いパッセージを活気溢れる演奏で盛り上げます。強いグロッケンがカチーンと来ました。フルートのフラッターが良く聞こえます。テンポは微妙に動きます。

三楽章、直接音と直接音の間をホール内に飛んでゆく音が豊かに響きます。いろんな音が乱れ飛ぶように激しい演奏です。がっちりとした骨格の上に音楽が作られているような安定感と精度の高さを感じます。激しい演奏ではありますが、オケは常に余力を残して美しい音の範囲で演奏しています。気持ちよく鳴り渡るホルン。フルートのフラッターがとても良く聞こえます。最後はそんなにテンポを上げることはありませんでした。

四楽章、必要以上の感情移入を避け、作品の本質に迫ろうとするような演奏です。大河の流れのようにとうとうと流れる弦楽合奏。自然な音楽の流れに身を任せているととても心地よい気分です。木管の寂しげなメロディはこの世との別れを惜しんでいるかのようです。クライマックスでの金管のパワーも凄い!コーダは静寂の中に弦楽合奏が浮かび上がります。死に行く者の体をそっとさするように大切に大切に、そして消え入るように演奏されています。マーラーの指示通りに死に絶えるように消えて行きました。

見事な構成力でダイナミックな最強音から消え入るような最弱音まで幅広い音楽を聴かせてくれました。すばらしい演奏でしたが、もっと感情の吐露があっても良かったのではないかと思いました。

クラウディオ・アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団

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一楽章、深く刻むハープ、ビーンと長く尾を引くホルン。柔らかい響きの第一主題。どれもとても美しい。深みのあるティンパニ。音楽のコントラストがはっきりしていて、濃淡や明暗の変化がとても分かり易い演奏です。テンポはどちらかと言うと速めのテンポでどんどん進んで行きます。トロンボーンのシンコペーションは強烈でした。全体の響きは透明感があり美しいです。太く豪快な線はありませんが、繊細でエレガントな美しさがこの演奏の特徴のようです。

二楽章、ファゴットの後の弦を一旦大きくテンポを落としてから入りました。深々とした厚い響きがすばらしいです。テンポは何度か変化します。Bはかなりれ速めのテンポです。品良くくどくならない程度に歌っています。Cでゆったりとテンポを落として豊かな響きです。オケはとても良く鳴り聞いていて気持ち良い響きです。再現するBはかなり速いです。

三楽章、コントラバスの豊かな響きが全体の響きに厚みを持たせ大きく広がります。深い感情移入をするようなタイプの演奏ではありませんし、スケールの大きな演奏でもありませんが、非常に美しくスタイリッシュな演奏です。

四楽章、暖かく包み込まれるような主要主題。第1のエピソードの部分では、弦が重なりあって盛り上がりますが、深く感情移入することはありません。第2のエピソードでも寂しさを強調するような表現はありません。作品を強調することは無く、作品をありのままに表現しているようです。オケの能力をフルに発揮した輝かしいクライマックスです。コーダへ向かって黄昏て行く雰囲気はなかなか良く、次第に力を失って行くような感じが出ています。コーダは消え入るような弱音で、寒さの中での別れのような雰囲気でした。

作品に没入して感情表現するような演奏ではありませんでしたが、作品そのものに語らせるような演奏で、それを実現するために世界中から名手を集めたオケで、すばらしく美しい演奏でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団

エッシェンバッハ★★★★★
一楽章、ゆっくりと非常に注意深く開始される序奏。大きな息遣いの第一主題。波が寄せては返すような自然な揺れがとても心地よい演奏です。凝縮された濃密な音楽です。トゥッティで少し歪みます。展開部でチューバの響きがとても効果的に使われています。オケの響きも濃厚で色彩感豊かです。トロンボーンのシンコペーションは非常に強烈でした。続くティンパニもかなりの強打でした。音楽に常に動きがあって、生命観に満ちています。とても充実した音楽です。とても良く響くフルート。どのパートも伸び伸びと良く鳴ります。夕日を思わせるホルン。すばらしい精緻な演奏でした。

二楽章、ファゴットよりも弦の方が聞こえる冒頭。フランス的なクラリネット。少し野暮ったく演奏されるB。トロンボーンの旋律の部分で急にテンポを速めました。Cに入っても何かせかされているような感じで、あまり穏やかな雰囲気にはなりません。音の密度は非常に高い演奏です。マーラーの指定の「きわめて粗野に」の通り色んな楽器が次々に飛び出してくるような演奏でした。

三楽章、軽く吹かれるトランペットとは対照的に強奏されるホルン。複雑に絡むオーケストラを見事に統率しています。とても厳しい雰囲気が漂う演奏です。集中力は非常に高いです。最後はあんまり急な追い込みはありませんでした。

四楽章、緊張感の高い主要主題。内へ内へと凝縮されて行く音楽。聞いていて緊張を強いられるように感じます。重く響く金管や、深く切れ込んでくる現など、この演奏では、別れが辛く厳しいもののように描かれているような感じです。達観したようなおおらかさは全く無く、深刻な悲しさがあります。コーダの前ではうつろになって来ます。最後は悟りの境地か、穏やかな別れになりました。

この演奏をどう評価して良いのか分かりません。非常に密度の高い音楽でしたし、オケの集中力も素晴らしい演奏でした。しかし、四楽章のあまりにも悲痛で厳しい表現を心地よいものとは感じることができませんでした。演奏の水準は文句なく第一級のものだと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2011ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、とても穏やかな第一主題。第二主題も力みの無い穏やかな演奏です。少しoffぎみの録音で、いつものコンセルトヘボウの濃厚な色彩感はありませんが、水彩画のような淡い色彩はあります。ダイナミックレンジが圧縮されたような強弱の音量差の少ない録音。展開部に入って美しいホルン。ミュートを付けたトランペットの激しい演奏。影で動くパートの表情が大きくうねります。トロンボーンのシンコペーションの前に出るトランペットが強烈でした。葬送行進曲でもミュートしたトランペットが高らかに鳴り響きます。柔らかい響きの再現部冒頭。柔らかいホルン。深みのあるオケの響きはさすがです。味わい深いコーダ。

二楽章、ハイティンクに関してよく言われる中庸がこの楽章でも当てはまります。テンポ、表現、どこを取っても中庸です。大げさな表現は無く、普通に過ぎて行きます。Bも大きなテンポの変化は無く、自然に入って行きました。抑えぎみで柔らかいトロンボーン。ゆったりと穏やかなC。しかし、この中庸が、一定のクォリティを保証してくれるのが、ハイティンクのハイティンクたるゆえんで、オケの精度や深い響きなどはハイティンクじゃないと出来ない演奏です。二度目のBへの入りはゆっくり変わりました。

三楽章、絶対に踏み外さない安定感。オケも咆哮することは無く、とても抑制の効いた演奏で穏やかで静かな演奏です。最後は時間をかけて少しずつテンポを速め、最後まで同じように速めて(急加速せず)終わりました。

四楽章、すごく感情の込められた序奏は間を取ってたっぷりと演奏されます。続いてとても暖かみのある主要主題。内側から込み上げてくるような演奏です。ブルックナーを聴くような神聖なホルンの主要主題。第一のエピソードの最初のヴァイオリン独奏はうつろな寂しさがありました。第二のエピソードの導入部ではあまり寂しさを感じさせるものではありません。淡々と演奏されました。巨大なクライマックスも絶叫もありませんでした。コーダは暖かい響きで、内側からジワーッと別れの悲しみを感じさせる演奏でした。

安定感抜群の演奏で、大げさな表現などは皆無で、純粋に楽譜に書かれていることを音にしていますが、内面から滲み出すような別れの悲しみの表現は見事でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、闇の中に現れる緊張感から、第一主題で開放されます。細い糸を紡いで行くように複雑に音楽が絡み合って行きます。展開部の重い響きが印象的です。クライマックスでも咆哮するようなことはなく、極めて冷静に音楽が進んで行きます。銅鑼とともに現れるトロンボーンのシンコペーションも余力を残して、制御されています。マーラーが楽譜に記した細かい書き込みはほとんど無視したと言われるクレンペラーの演奏ですが、その分演奏の流れはとても良く、自然に身を任せることができます。コーダはとても柔らかく美しいものでした。

二楽章、この楽章はオケによって色んな色彩感を聞くことができるので楽しい。ふくよかなホルン。ちょっとだけ金属的な弦。トライアングルが異様に近いところで演奏しているような録音です。テンポの変化は自然です。金物打楽器のレベルを高めに録っているのか、突然のシンバルに全体をマスクされます。次第に迫ってくる暗い影が自然に表現されています。

三楽章、落ち着いたテンポで、とりたてて騒ぎ立てることもなく、また深く感情移入することもなく、自然に淡々と音楽が進みます。大太鼓の弱音のトレモロが入った後も堂々とした落ち着いたテンポでスケールの大きさを感じさせます。最後も大きくテンポを煽ることはなく、着実な足取りでした。

四楽章、緊張感のあるヴァイオリンから弦楽合奏に移り凄く安堵感を与えてくれます。しかしすぐに哀しみを含んだ音楽になって行きます。テンポが動いたり大きく歌うこともなく自然な流れです。ハープの上に乗って演奏される木管がとても悲しそうです。クライマックスのトロンボーンは強烈でした。この曲で初めてフルパワーだったのではないか?コーダからの表現も客観的で自らの別れの悲しさと言うよりは、自分とは別の人の別れを見ているような演奏でした。

自然な流れで、感情を抉り出すような演奏ではありませんが、安定感のある演奏でした。

リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

シャイー★★★★
一楽章、サーッと言うヒスノイズのような音の中から演奏が聞こえます。非常にゆっくりとしたテンポで演奏されます。まさにため息のような第1主題。柔らかく美しい響きです。テンポは遅いのですが、音の密度はあまり高くなく、ふわっとしています。クライマックスで音が混濁して、色彩感があまり分かりませんでした。テンポは遅いですが、感情移入することは無く演奏自体は淡々と進んでいます。

二楽章、この楽章もゆっくり目のテンポです。コンセルトヘボウ独特の濃厚な色彩はあまり感じませんが、まろやかな響きです。Bに入って、最初はそんなには速くない感じがしましたが、実際にはかなり速くなっています。Cに入ってから次第にテンポを落とし、のどかな雰囲気です。ここのBも、入りはゆっくりですぐに速くなりました。テンポはよく動いて表情も多彩です。

三楽章、軽いトランペットの序奏に続く力強いA。豪快にホールに響くティンパニ。深い響きのコントラバス。オケはいつものように美しく鳴っているのだろうけれど、off気味の録音で色彩感に乏しいのが残念なところです。柔らかい表情のB。ノイズのせいなのか、弱音での緊張感があまりありませんし、音 の密度もやはり高いとは言えない感じで、漠然と演奏されているように感じてしまいます。あまりテンポを上げずに終わりました。

四楽章、厚みがあり暖かい主要主題。意図的に歌うことは無く、自然に任せているようです。第一のエピソードでは別れを迎えるう つろな雰囲気をうまく表現しています。ホルンに現れる主要主題も寂しさを感じさせるものでした。第二のエピソードも別れを強く印象付けるものです。コーダ もすばらしい演奏でした。

三楽章までは、散漫で何をしたいのか正直分からないような演奏でしたが、四楽章では、意図的な解釈を加えないことで、作品からにじみ出るような別れの寂しさを見事に表現しました。
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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、ふわっと柔らかい第一主題。この録音も低域が薄く厚みに乏しい響きです。また、奥行き感もあまりありません。微妙なテンポの動きによって濃厚な表情が付けられて行きます。揺り篭に揺られるような音楽。衝撃音だけのシンバル。一時の穏やかな安らぎ。展開部の前の頂点は、そんなに大きな頂点ではありませんでした。トロンボーンのシンコペーションもあまり強烈ではありませんでした。晩年のライヴ録音では、濃厚なコントラストで強烈な主張を展開しましたが、この頃の音楽はそれほど強い主張は無く、色彩も淡い感じです。コーダは独奏ヴァイオリンと木管の絡みがかなりはっきりと演奏されます。

二楽章、頭の音を強く演奏するファゴット。響きが薄く、残響成分も少ないので、豊かさもありません。Bはかなり速く感じます。表現は積極的ですが、ちょっと雑な演奏のような感じで、バーンスタインのニューヨーク時代をイメージさせます。Cはゆったりとして落ち着いた雰囲気です。再び現れるBがやはり落ち着きが無い。再度のCはゆったりと歌います。Aは前のCから引き継いでゆったりとしたテンポで、始まり次第にテンポを速めますが、ここでは雑な感じはありません。むしろマーラーのオーケストレーションを見事に再現しています。途中で大きくテンポを落として、一瞬止まるような部分もありました。なかなか豊かで大胆な表現です。

三楽章、トランペットと弦。ホルンと弦のそれぞれの間を少し空けて重々しく始まりました。その後急加速して、生命観に溢れる生き生きとした表現です。この躍動感はバーンスタインの若い頃の特質を思い起こさせます。各楽器の動きがとても克明ですが、響きの薄さと奥行き感の無さがとても残念です。

四楽章、暖かみがあって深い主要主題は非常に感情が込められてうねりのような音楽になっています。登場する楽器が大変明快に現れます。弦が重層的に重なって押し寄せてくる部分は勢いもありなかなか良い演奏でした。そこから静まるところの引きも良い表現でした。第2のエピソードのうつろな寂しさもとても良く表現されています。クライマックスは少し薄い感じがしました。コーダはあまり別れを感じさせる演奏ではありませんでした。

バーンスタインの音楽が完熟する前の過渡期の演奏だったのではないかと感じました。濃厚な表現や躍動があるかと思えば、とてもあっさりとした部分もあり、まだ定まっていないような感じがありました。
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ワレリー・ゲルギエフ/ロンドン交響楽団

icon★★★☆
一楽章、静かで控えめな第一主題。第二主題も騒然とすることは無く、穏やかです。残響感に乏しく、狭い空間で演奏しているような感じを受けます。展開部に入る前の頂点も狭い印象を拭うことはできず、スケールの小さい演奏に感じました。展開部冒頭は速めのテンポです。展開部は全体的に速めのテンポですが、マーラーの複雑なオーケストレーションはあまり表現されず、主旋律に重きが置かれ、他のパートは削ぎ落とされているような感じの響きです。トロンボーンのシンコペーションも全開ではありません。葬送行進曲も速いテンポで重さはありません。再現部に入って、ハープに導かれて出るホルンの響きも浅く、この演奏を象徴しているような感じがします。

二楽章、四つの音の初めの音に軽くアクセントを入れた冒頭。美しい音で抜けて来るクラリネット。弦の最初は少し遅くなりました。とても生き生きとした音楽です。Bも活発な動きです。音の強弱が明瞭で躍動感があります。Cはテンポが動いて歌います。途中で顔を出すAはテンポを上げて活発に動きました。再び現れるBも活発に動きます。シンバルが豪快に鳴ります。最後のBはとても速かったです。

三楽章、分厚い弦の響き。この楽章でも積極的な音楽が続きます。トランペットのソロは柔らかいと言うよりも細い感じです。オケは絶対に全開にはならず、常に制御されています。最後は色彩のパレットをいっぱいに広げて、狂ったように終りました。

四楽章、ゆったりとたっぷり演奏される序奏。感情の込められた主要主題。ホルンの主要主題が間接音をあまり含まないので、とても浅く聞こえます。第一のエピソードは速いテンポで淡々と進みます。第二のエピソードはすごく速いテンポです。ゲルギエフは感情の入り込む余地を無くそうとしているかのようです。ここでのクライマックスが初めて全開になった感じですごいエネルギー感でした。コーダもテンポは速いですが、寂しい冷たい空気を感じさせます。

二楽章と三楽章の躍動感を強調することで、四楽章の静を演出したようです。とても個性的なテンポ設定で、この曲の違った面を聴かせてくれたようにも感じました。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★
一楽章、とても明快な音でしっかりとした演奏です。さらりとした第一主題。テュッティの何とも言えない暗闇に突入するような雰囲気は独特のものです。展開部でもホルンがキリッと浮かび上がります。第三主題の頂点は全開です。弱音と強音が明快に区別されていて、onとoffのように単純な音楽のような錯覚に陥りそうです。主役がすごく強調されていて、その裏で動いているパートがあまり聞こえないので、複雑な構造が分からず薄い音楽に感じてしまいます。「最大の暴力で」と指示されたトロンボーンはその通り強烈でした。鐘はチューブラベルです。コーダの前のホルンはとても美しく、他のパートもすごく幻想的な雰囲気でした。

二楽章、ゆっくりとしたテンポです。弦は弓を跳ねさせているように強いアタックでした。ゆったりとしたテンポからテンポを上げるところの変化が大きくて全く別の曲を聴いているような感覚に襲われます。穏やかな部分はとても安堵感のある良い演奏です。また、テンポを上げるところが違和感があるんですよね。終わりに向けても弦は弓を跳ねるような演奏でした。

三楽章、少し抑えぎみのトランペットから開始しました。しばらくするといつものように全開になります。金管も抑えるところは抑えているのですが、強奏部分では弦もしゃかりきになって演奏しているように聞こえて、onとoffがはっきりしているような演奏です。ホルンなども間接音よりも直接音が強調されて音楽に奥行きを与えません。これは録音の問題もあるのかも知れませんが、全ての音が前へ出てくるので、全てさらけ出したような、あられもない姿になっているように感じます。

四楽章、とても安らかで安堵感のある主要主題。僅かに硬質なホルン。分厚い弦楽合奏。弦楽によってマーラーの人生への惜別の思いが切々と語られて行きます。孤独と寂しさを訴える木管。クライマックスで金管が登場すると全開。まさにopenになってしまって、そこまで貯めてきた感情を全て放出してしまい、ちょっと興ざめします。コーダからも直接音が強く、フワッとした羽毛のような柔らかさがありません。「死に絶えるように」と書かれている最後の表現としては、音の力があり過ぎだと思います。

これはシカゴのオーケストラホールの音響特性にもよるのだと思いますが、間接音が少な過ぎで、とても強い音が全体を支配しています。この曲の持っているメッセージとは相容れないオケの特性だと思います。

ジェームズ・レヴァイン/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★
一楽章、暖かいハープの調べ。第一主題も暖かい。テュッティは何かが崩れるような巨大な響きです。すごい情報量で音の洪水が押し寄せてきます。レヴァインの演奏に共通するティンパニの強打。弱音部でも暖かく、ピーンと張り詰めたような緊張感はありません。そして、色彩感がモノトーンのように淡白なのもレヴァインのマーラーの特徴です。濃厚な表情は付けられていないので、音楽自体は淡々と進む感じです。金管もかなり強奏されますが、一音一音に重さは感じません。とても心地よい響きで音楽が進んで行くのですが、この作品がこれで良いのか、ちょっと疑問に感じます。コーダは柔らかい独奏ヴァイオリンと木管が美しかった。

二楽章、抜けが良く生き生きとしたクラリネット。弦楽器はゆっくりと演奏をはじめました。Bはかなりテンポを上げました。付点のリズムが正確に演奏できないくらい速いテンポです。金管は遠慮なく強奏します。とても気持ちの良い演奏です。狂乱も見事に再現されています。演奏自体はとても上手いのですが、感情的に何も迫ってくるものが無いのが、これで良いのか、疑問です。レヴァインはこの作品を音響として捉えているようで、その意味では見事ですばらしい音響空間を再現しています。

三楽章、軽く演奏された冒頭のトランペット。相変わらずティンパニは思いきり良く入って来ます。金管は強奏されるのですが、色彩感はありません。マーラーの複雑なオーケストレーションを表現しているとは言えないようです。ただ、アンサンブルの精度などは非常に高く、精緻な演奏ではあります。

四楽章、かなり思いっきり演奏された冒頭でした。すごく感情が込められたように感じます。分厚い弦が歌います。寂しげな独奏ヴァイオリンが別れの悲しさを歌います。第一のエピソードの高まったところでレヴァインの声も録音されています。これまでの楽章とは一転して良く歌います。一つ一つの音に感情が込められています。コーダは特に感情が篭った演奏ではありませんでした。

総じて、あっけらかんとした演奏でした。

ウイン・モリス/ロンドン交響楽団

モリス★★★
一楽章、予想したほど遅くは無く、普通のテンポで始まりました。第一主題も目立った表情付けはされていません。響きが浅く、テンポの動きもほとんど無く、機械が一定に刻んでいるような感覚です。展開部に入る前の頂点でもテンポは動かず、ゆっくりのままで、とても無機的に感じました。金管を激しく吹き鳴らせますが、内面を抉るような音楽にはなっていません。トロンボーンのシンコペーションの部分でも、あまりにもきっちりとテンポを刻むので、聞いていて堅苦しく感じました。

二楽章、暖かい響きです。この楽章もスタートから全くテンポが動きません。Bは速めのテンポです。ここで初めて動きのある音楽が聞けました。Cはテンポも動いて自然です。二度目のCはすごく遅かったです。

三楽章、あまりにもカッチリと2拍子を刻むので、音楽が縦に振れているようで、横へ揺れるような曖昧な動きが無いので、とても硬いです。音楽が前に進もうとする力が無いので、とても遅く感じます。最後はものすごく遅いテンポから時間をかけて僅かにテンポを速めて終わりました。

四楽章、この楽章もゆっくりですが、感情のこもった主要主題です。ファゴットのモノローグは消え入るような弱い音量でした。ヴァイオリンの弱音が羽毛のようなフワッとした柔らかい肌触りでとても美しい。この楽章は、これまでと打って変わって、とても感動的な演奏です。三楽章までは、遅さが音楽を停滞させていたような感じがありましたが、この楽章では、そのテンポの遅さが音楽をとても深いものにしています。聞き手を引き込むような集中力。三楽章までの演奏が嘘のようです。切々と別れを告げるコーダも感動的でした。

四楽章だけなら満点の演奏でしたが、そこに至るまでがあまりにも不自然な動きだったのが残念です。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団 1966年

ホーレンシュタイン★★★
一楽章、独特の音の切り方をする第一主題。かなりストレートに感情をぶつけてくる演奏で、頂点では絶叫します。録音は古く常にノイズが付きまといますが、音には力があり、濃厚な演奏です。強烈なトロンボーンのシンコペーションの後のティンパニもかなり強打します。葬送行進曲の鐘がくっきりと浮かび上がります。とても激しく起伏に富んだ演奏です。コーダは一転して柔らかいヴァイオリン独奏です。

二楽章、明るいクラリネットと少しこもったホルン。ゆっくりとしたテンポですが、テンポは揺れ動きます。大きくテンポを落とす部分もあります。ぐっと早まるB。メリハリがあって躍動感があります。Cは音が痩せぎみなので、穏やかさはあまり感じません。二度目のBへの切り替わりはゆっくりから入りました。テンポはよく動きます。最後のAでは下品なくらいに大きくホルンが吹きましたし、とても遅いテンポです。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで始まりました。途中でテンポを落として強く濃厚な表現です。ここまで管楽器の小さいミスはたくさんあります。録音は古いですが、色彩感は濃厚です。とても情熱的で熱気を感じさせます。

四楽章、音楽を大きくくくって歌った第一主題。第二のエピソードでは登場する木管が唐突で淋しさは感じませんでした。テンポは速めでグイグイと進む力強さがあります。クライマックスで突き抜けるトランペット。コーダは暖かく、あまり別れの寂しさは感じませんでした。

個性的な演奏で、聞かせどころもたくさんありました。最新の録音で聞いてみたい演奏でした。
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ラファエル・クーベリック/ニューヨーク・フィルハーモニック 1978年

クーベリック★★★
一楽章、あまり抑揚の無い第一主題ですが、かえって脱力感が伝わってきます。第二主題もあまり表情は付けられていません。トゥッティはかなりのエネルギー感でした。展開部に入って、ミュートした金管が強烈に演奏します。金管やティンパニが強烈です。全体に金管が強めに演奏されるので、濃厚な色彩感です。決して美しい演奏ではありませんが、力があって生き生きとした演奏です。

二楽章、サラッと流れの良い演奏で引っかかるところがありませんが、音楽には活気があって生命感に溢れています。Bに入っても大きくテンポを速めることはありませんでした。この楽章でも金管が強い感じです。Cがあまり美しくないのが、この頃のニューヨークpoらしいところです。美しくはありませんが、躍動感や生命感など人間臭い演奏で、嫌いな演奏てせはありません。クライマックスではテンポを速めて、シンバルも炸裂しました。その後は大きくテンポを落として黄昏るように終わるかと思っていましたが、オケは元気なままです。

三楽章、金管に比べると弱い弦。一音一音刻み込むような強い音です。管楽器は生き生きとしていて色彩感も濃厚です。中間部の穏やかな部分でも、生き生きとした表情は変わらず、血の気が多い感じがします。これはこの頃のニューヨークpoの特徴か?積極的な音楽なのですが、ちょっと雑な感じもします。

四楽章、浅く深みの感じられない主要主題。注意深く進む第一のエピソードですが、美しさはあまりありません。弦が主体になると音楽が淡泊になって、サラサラと流れて行きます。第二のエピソードでは木管が踏み込んだ表現をしますが強く訴えてくるような表現ではありません。コーダに柔らかさや深みが感じられません。

管楽器主体の部分では生命感に溢れた生き生きとした演奏でしたが、少し雑な印象がありました。弦主体になると表現が浅く深みの無い音楽になってしまい、四楽章のコーダでも心動かされることはありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団 1969年

セル★★☆
一楽章、非常にあっさりと演奏される第一主題。ほとんど抑揚もなくさらりと流れる第二主題。ためなともなくひっかかるところが無くすんなりと音楽がすすんで行きます。セル好みの締まったホルンの響き。テンポも速めで感情移入などは全く無いように感じます。縦の線がきっちりしていて、とてもシンプルに聞こえます。力で押すようなこともありません。オケは余裕を持って演奏しています。情に流されるような演奏ではなく、理詰めで音楽が構築されていて、こちらも感情が動くことはありません。

二楽章、ホルンのトリルが強調される以外は、特に目立った表現は無く、流れて行きます。Bに入ってもテンポは僅かに速くなりました。トロンボーンも大きく叫ぶことはありません。最後のBはとても速いテンポでした。最後のAはゆっくりですが、やはり感情を込めるような演奏ではありません。

三楽章、

四楽章、全く抑揚なく演奏される序奏。同様に全く思い入れが無いかのように演奏される主要主題。第一のエピソードも速めのテンポで淡々と進みます。タメやねばったり、うなったりすることは無く、この曲をとてもシンプルにストレートに伝えているようです。第二のエピソードも感情移入されていないので、こちらの感情が動くこともありません。消え入るような弱音で演奏されるコーダ。すごい透明感で美しいです。

非常に透明感が高く美しいコーダにはグッと来ました。しかし、そこまでの音楽の運びがあまりにもシンプルで、私には肩すかしのような感じが残ってしまいました。
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ケント・ナガノ/ハレ管弦楽団 1996年5月 東京

ナガノ★★
一楽章、非常に録音レベルが低く最初はかなり聞き取りにくい状態でした。あまり思い入れの無いような第一主題。作品に込められたメッセージは全く関係ないかのように淡々と進められます。第二主題から高まったトゥッティも巨大な響きではありませんでした。展開部の前はかなりテンポを煽ったのは迫力がありました。音色は暖色系で、あまり密度の高い響きではありません。少し緩い雰囲気さえありますので、陰鬱な部分の落ち込みがあまり無く、浅い感じが常にあります。トロンボーンのシンコペーションもトロンボーンよりもチューバの響きが強く、強烈な印象はありません。コーダの前のフルートも静寂感や緊張感は伝わって来ません。

二楽章、暖かいホルン。温度感があり厳しさは感じません。Bは速めのテンポであっさりと演奏されます。Cは暖色系の音色が幸いして、穏やかで温かい演奏です。最後のBはかなり速いです。

三楽章、この楽章は遅めのテンポで非常に落ち着いた演奏です。感情移入などは全く無く、ずっと淡々と進んでいます。オケも咆哮することも無く、とても制御されています。最後のテンポの追い込みもあんまり激しくありませんでした。

四楽章、ほとんど歌わない主要主題。ファゴットのモノローグはとても弱く消え入るようでした。あまりにも素っ気ないこの演奏が私には、ただ演奏しているだけにしか聞こえません。感情的に沈んだり、高まったりすることが無いのです。第二のエピソードもテンポが速く、淋しさも感じられません。

ナガノはこの演奏で何を表現したかったのか、私には分かりませんでした。
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ミヒャエル・ギーレン/北ドイツ放送交響楽団 2010年ライヴ

ギーレン★★
一楽章、ミュートしたホルンが少し長めに尾を引く冒頭。穏やかな第一主題。流れるような第二主題。頂点でも絶叫することは無く、良くコントロールされています。暗闇の中に落とされたような展開部。ずっと暗闇が広がっているような感じです。ハープの動きが強調されています。トロンボーンのシンコペーションはとても長く吹き伸ばされた印象で、ゆっくりしたテンポになっています。色彩感は豊かです。柔らかく美しいコーダ。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで暖かいファゴットと弦。冷たく突き抜けるクラリネットが対照的。舞踊風な音楽と言うよりも、しっかりと足を踏みしめるような確実さがあります。Bは流れを損なわない程度に速くなりました。トロンボーンにメロディーが出る頃にはかなり速くなっています。Cはあまり穏やかさを感じません。二度目のCはすごくゆっくりとした演奏です。最後のAもすごくゆっくりですすが、終わりに向けて脱力いるようにさらにテンポを落とします。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで始まりました。Bもゆっくりなので、おどけたような雰囲気はありません。二度目のAは引きずるような感じがします。二度目のBは幾分明るい表現になりました。細いトランペット。どうも音楽がチグハグしているような感じがして、しっくり来ません。ハープが出る部分も非常に遅いです。最後もテンポは僅かに上げますが、とても落ち着いています。

四楽章、感情を込めずに無機的に演奏される主要主題。浅い響きのホルン。感情が込められることはほとんど無く、無表情に音楽は進みます。ただ、弦の厚みのある柔らかい響きは魅力的です。第二のエピソードも寂しさはほとんど感じません。なかなか壮大なクライマックス。冷たい冬の別れです。

ほとんど感情移入を断ち切ったマーラーの9番の演奏は、解釈の一つとして認めますが、やはり聞いていて共感できませんでした。
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ディミトリ・ミトロプーロス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1960年

ミトロプーロス★★
一楽章、チリチリと言うスクラッチノイズの中から音楽が聞こえます。倍音成分がほとんど無く、硬い響きです。浮遊感のある第一主題。かなりキツイ響きのトゥッティ。頂点ではかなり激しく動きも大きい演奏です。かなり情熱的な演奏のように感じます。再現部に入っても金管がかなり激しく演奏しています。色んな楽器が活発に動いています。一転して穏やかになるコーダ。

二楽章、この当時の演奏としては、非常に整っていると思います。なかなかスタイリッシュです。もっと良い録音で聞きたかったですね。最後のAはゆっくりとしたテンポになりますが、楽器の動きは克明で抉り出すような表現です。

三楽章、トランペットとホルンの間に演奏される弦が壮絶な響きでした。遅めのテンポで進むが、途中で一旦テンポを落としたりします。危なっかしいトランペットのソロ。最後までほとんどテンポを上げませんでした。

四楽章、ゆっくりと演奏される主要主題ですが、あまり感情移入はしていないようです。第一のエピソードの二回のヴァイオリン独奏の間の弦楽合奏も動きがあって素晴らしかった。第二のエピソードは速いテンポで始まりました。ここでも感情移入はほとんど無いように感じます。クライマックスのエネルギー感はすごいです。

とても客観的な演奏だったように感じましたが、頂点では遠慮なくドカーンと来るところの対比が面白い演奏でした。ただ、やはり録音の古さがいかんともしがたい。
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アンドレ・プレヴィン/ケルン放送交響楽団 2001年

プレヴィン★★
一楽章、力が抜けて穏やかで美しい第一主題。第一主題の途中でひっくり返るホルン。テンポが動いたり、オケが咆哮することも、大きく歌ったりすることは無く、作品を客観的に見ているような演奏です。ティンパニは硬質で非常に軽い響きです。トロンボーンのシンコペーションの前もシルキーで滑らかです。トロンボーンのシンコペーションは何かを発散するようなパワーがありました。葬送行進曲のトランペットのファンファーレも整然としていて、美しい演奏です。

二楽章、Bへの変化も大きなテンポの変化は無く、滑らかに音楽が進んでいます。トロンボーンも抑えた演奏で、マーラーが「きわめて粗野に」と指定したのとはかなり離れた演奏のようです。Cの中にAが現れる前はテンポを落としてAを導きました。

三楽章、深く刻み込まれるような演奏ではなく、とても軽い演奏で、その分流れがスムーズで美しいものとなっています。Bも大げさな表現は無く、軽い演奏です。Aが戻っても決して重くはなりません。再びBが再現した部分では、Ebクラリネットが楽しそうです。Cは滑らかなトランペット。最後は僅かにテンポを速めた程度でした。音楽的な興奮よりも、造形的な美しさを優先していねのでしょうか。

四楽章、ほとんど抑揚の無い主要主題。第一のエピソードのヴァイオリン独奏も何かを表現しようとはしていないようで、淡々と音符を音にしている感じです。こんな演奏なので、聞いていても心が動かされるようなことは無く、作品と共感しようとしても拒絶されるようで、できません。丁寧には演奏されているのですが、内面に訴えて来るものが無いです。クライマックスでも美しくすがすがしいトランペット。コーダも浮遊感のある美しい演奏でしたが、別れの悲しさなど内面に届くことはありませんでした。

プレヴィンはつくづくマーラー指揮者じゃないという事を感じさせられました。
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ヤンスク・カヒッゼ/トビリシ交響楽団

カヒッゼ
一楽章、かなりはっきりとしたチェロとホルン。ゆっくりとした第一主題ですが、どこか安っぽい音がしています。トランペットの高音が突き抜けて来るかと思えば、所々で金管が弱い部分もあり、一般的なこの曲の印象と違います。こんな曲だったっけ?と思うような部分がいくつもあり、不思議な感覚です。演奏するだけで精一杯と言う感じで、表現がどうとか、楽譜に書かれていることを正確に音にするとか言う次元ではありません。トロンボーンのシンコペーションも厚みの無い響きでした。ホルンにビブラートを掛けるのも旧ソビエトの名残でしょうか。コーダも潤いの無い音で味わいもありませんでした。

二楽章、透明感の無いクラレネット。潤いが無くささくれ立ったような弦。Bへの切り替わり時にオケのメンバーが迷ったような怪しい変化でした。トロ ンボーンの旋律がほとんど聞こえません。トランペットのミュートを付けた細かいパッセージも怪しい。管楽器は吹きやすいように吹いているような感じがしま す。音程も怪しいところが随所にあります。

三楽章、トランペットに比べると弱いホルン。かなり頼りない演奏で、聞いていてハラハラします。この曲はこのオケには技術的にかなり無理があるようです。バランスもおかしいところがたくさんあります。

四楽章、テンポを動かして感情移入しようとするカヒッゼですが、音楽は浅く深まることはありません。粗暴な金管が容赦なく吹かれます。トランペットだけが大きく突き抜けるクライマックス。特に何の感慨も無く終わりました。

演奏するので精一杯と言う感じのコンサートで、何かを表現したとか訴えたとかと言う次元ではありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー