カテゴリー: マーラー:交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記

マーラー 交響曲第7番「夜の歌」

マーラーの交響曲第7番「夜の歌」は、彼の交響曲の中でも特に独特で、夢幻的で謎めいた雰囲気が特徴の作品です。この交響曲は「夜」をテーマにしているとされ、全体を通して夜の静寂、幻想的な風景、そして内面的な探求が描かれています。しかし、マーラー自身は「夜の歌」というタイトルを公に使っておらず、後年の評論家や聴衆によって付けられた呼び名となっています。

1. 楽章構成と内容

交響曲第7番は全5楽章からなり、中心の3楽章が夜の情景を描いているとされます。各楽章の雰囲気が異なり、夜に関する様々な側面が表現されています。

  • 第1楽章 (Langsam – Allegro risoluto, ma non troppo): 「夕暮れ」や「夜への入り口」を感じさせるような楽章で、暗く重い序奏で始まります。テノール・ホルン(珍しい楽器)が幽玄な旋律を奏で、異世界への導入のような雰囲気を醸し出します。やがて、重厚でありながらも緊張感を持った音楽が展開され、夜の神秘的な世界へ引き込まれていきます。
  • 第2楽章 (Nachtmusik I): 「夜の音楽」と題されており、夜の森を彷徨うような情景を描き出しています。ホルンや木管楽器が響き、夜の静寂の中で遠くから聞こえるような音をイメージさせます。マーラーはこの楽章で狩猟のホルンの響きを取り入れており、時に動物の足音のような効果も感じられ、夜の不気味で神秘的な雰囲気を演出しています。
  • 第3楽章 (Scherzo – Schattenhaft): 「影のように」という指示がつけられているこのスケルツォは、幽霊的で幻想的な音楽です。不規則なリズムと不気味な旋律が特徴で、夜に潜む影や幻影を表現しているように聞こえます。まるで夜の闇に潜む怪しい存在が踊っているかのような、不可解な音楽です。
  • 第4楽章 (Nachtmusik II): 第2楽章と対になる「夜の音楽」で、穏やかで優美なセレナーデのような楽章です。ギターとマンドリンが使われ、ロマンティックな雰囲気が漂います。夜の静けさの中に恋人たちがいるような、柔らかで甘美なメロディが流れ、前の楽章の不気味さとは対照的に落ち着いた美しさを感じさせます。
  • 第5楽章 (Rondo-Finale): 終楽章は夜明けを迎えるかのような明るく華やかな音楽で、ファンファーレが響き、晴れやかな雰囲気が広がります。バロック音楽の影響が見られ、ブラスや弦楽器が盛大に鳴り響きます。夜の幻想的な世界から解放され、明るい日差しを感じさせるフィナーレとなっています。しかし、この楽章はどこか皮肉的でもあり、マーラーのユーモアも垣間見られます。

2. 夜の異世界と不安感

  • 第7番は、全体を通して夜の神秘や不安定な雰囲気が支配しているため、他の交響曲とは違った「夢幻的」な性格を持っています。マーラーが得意とする感情の激しい起伏やドラマチックな展開とは異なり、より内省的で幻想的な色合いが強調されています。
  • 特に第2楽章と第3楽章は、夜の森や暗闇を彷徨うかのような異世界的な雰囲気を持っており、聴く者に夜の中を漂うような感覚を与えます。

3. 楽器編成の独自性

  • この交響曲では、通常のオーケストラに加え、テノール・ホルン、ギター、マンドリンなど、珍しい楽器が使用されています。これにより、通常のオーケストラ作品では得られない独特の音色や質感が生まれ、夜の幻想的な雰囲気が際立ちます。
  • 第4楽章のギターとマンドリンの使用は特に有名で、ロマンティックで儚い情緒を醸し出しています。

4. 解釈の多様性

  • マーラーの交響曲第7番は、その謎めいた性格と一貫しないテーマのため、様々な解釈がされています。夜の不気味さや神秘性を強調する解釈もあれば、マーラーのユーモアや皮肉が込められていると見る解釈もあります。
  • 特に終楽章の明るい雰囲気が突如として現れるため、多くの聴衆や評論家が「本当に夜が明けたのか」あるいは「これは皮肉的な結末なのか」など、解釈を巡る議論が絶えません。

5. まとめ

マーラーの交響曲第7番「夜の歌」は、夜の神秘的な雰囲気と不安感、そして幻想的な美しさを描いた作品です。夢の中でさまようかのように異なる情景が浮かび上がり、暗闇と光、影と希望の間を行き来する音楽が展開されます。多様な楽器と独特の楽章構成によって、聴く者に夜の幻想的な世界を体験させる、まさに「夜の歌」にふさわしい作品です。

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たいこ叩きのマーラー 交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、引きずるように重い開始でした。柔らかいテノールホルン。色彩の描き分けも非常に濃厚です。一音一音に表情付けされているような緊張感の高い演奏です。テンポも動き、スケールの大きな音楽になっています。存在感の大きいテューバが音楽に深みを与えています。。ホルンの激しい咆哮!冒頭からテンシュテット節全開です。ティンパニの締まった一撃が演奏をグッっと引き締めます。穏やかな部分と激しい部分の対比もすばらしい。オケの響きも充実しています。音楽が前へ進もうとする力があります。テュッティではオケが強大なパワーを発散しています。オケが一体になった名演の予感がします。

二楽章、アゴーギクを効かせたホルン。美しいホルンの主要主題。容赦の無いティンパニの一撃。作品へ深く共感していることを感じさせるチェロの第二主題。この楽章でもテンポは動きます。音の洪水のように音が溢れかえる強奏部分。とにかくすごくスケールの大きい演奏です。この楽章でもホルンの激しい咆哮。強烈にテンシュテットの個性が表出されています。この指揮に付いて行くロンドン・poも凄いです。迷いも無く思いっきりの良い表現はすばらしい。

三楽章、遅いテンポから開始して少しテンポを上げました。ミュートを付けて絶叫するトランペットが強烈です。この楽章でもテンポは自在で濃厚な表現です。原色で輪郭のくっきりした強い個性を表出した凄い演奏だと思います。強烈なティンパニの一撃で終えました。

四楽章、この楽章もテンポが動きます。重いハープの低音。感情が込められて豊かに歌う弦。作品に深く共感して一体になっている演奏です。引きずるようなコントラバスの中にクラリネットのトリルが消えて行きました。

五楽章、硬質なティンパニの強打。絡み合う金管。テンポの変わり目で大きくリタルダンドとクレッシェンドします。次から次から押し寄せてくる音に圧倒されます。オーディエンスノイズも全く聞こえません。最後の祝典的な雰囲気も申し分ない。終演後に拍手があるからライブと分かりますが、演奏中は全くライブと感じさせない完成度のすばらしい演奏でした。

ベルナルド・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

ハイティンク★★★★★
1982年12月の録音です。

一楽章、ゆったりとしたテンポで明るい音色のテノールホルンの主題。透明感があり一音一音確実に進む演奏。木管の行進曲調の主題も非常に遅い。非常に堂々とした足取りです。どのパートもすごく良く鳴り存在を主張し心地よい響きを作り出します。コンセルトヘボウの伝統的な音色を残していた時代の貴重な記録だと思います。潤いと深みのある響きはとても美しくハイティンク時代の貴重な遺産だと思います。普段から極端な表情付けをしないハイティンクですが、均整の取れたすばらしい演奏です。

二楽章、表情豊かなホルンの序奏。アクセントなどに対する反応がとても機敏で表情が引き締まっています。楽器一つ一つに力があり、明確な色彩で描き分けられた演奏はとても魅力的です。ハイティンクの指揮に俊敏に反応するオケ。とにかく美しい!楽器のバランスが良いのでマーラーのオーケストレーションも的確に表します。最後は「夜曲」を十分に感じさせる雰囲気で曲を閉じました。

三楽章、不気味な低音の後に潤いのある弦とトランペットの短い音!強調することは無いが自然に不気味な雰囲気が再現される。弦の表現も締まっていて緊張感があります。ティンパニも絶妙な音色です。とても濃密な色彩感で、登場する楽器一つ一つが重量感のある音で作品を彩ります。

四楽章、美しいホルンの主題。極端な表現はしませんが、どの楽器も生き生きとしていて聴き応えがあります。コンセルトヘボウはハイティンクとの時代が一番良かったと思います。ずっとこの関係を生涯続けていたらどんな名演が生まれたかと思うと、少し残念な気持ちにもなります。

五楽章、ゆったりとしたテンポのティンパニ。輝かしいブラスセクション。テンポの変化も大胆で作品への共感が窺い知れる演奏です。ハイティンクはこの複雑な作品をありのままにしかも極上の美しさで訴えてきます。宝石箱をひっくり返したようにきらめく音の洪水!最後のティンパニの凄いクレッシェンド。怒涛の終演でした。ハイティンクとコンセルトヘボウが残した貴重な名演だと思います。すばらしい演奏でした。

ミヒャエル・ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、冒頭から聞いた事のない弦の刻み音が聞こえます。少し細目の音を響かせるテノールホルン。弦の刻みが不気味な雰囲気を醸し出します。どのパートもすごく上手い!余計な感情移入はせずに、テンポも動くことはなく極めて冷静に音楽が進んで行きます。感情的に突出してくるパートもなく非常にバランスを大切にして演奏されていますが、力感も十分にありなかなか聞き応えがあります。しかし、音楽は常に冷静でギーレンは作品を遠くから見ているような感じがします。こちらも決して熱くはなりません。

二楽章、豊かな表情のホルン。艶やかな木管。静寂を破るティンパニ!研ぎ澄まされた日本刀が青白い光を放っているような鋭く透明感に満ちた演奏。遠くで響くカウベル。寂しげな夜を演出する木管。感情にまかせてテンポを動かしたり、アゴーギクを効かせたりするわけではないのに、これだけ夜を感じさせる演奏になるのにも驚かされます。また、楽譜を見通せるような透明感もすばらしいです。

三楽章、これだけ高い透明感の演奏ができるのは、すごく高いアンサンブル精度のおかげだろう。透明度が高いので色彩感もとても豊かです。ただ、色彩が豊かと言っても油絵のような色彩ではなく水彩画のような色彩感です。とにかく音楽が涼しげです。

四楽章、艶やかなヴァイオリン独奏。お休みを告げるようなホルン。マンドリンとギターの存在は大きくないが確実に耳に入ってきます。現実にはそうでないかも知れませんが、楽譜に書いてある音が全て聞こえてくるような感じの演奏でとても情報量が多い。

五楽章、暴れることもなく統制の取れた美しい金管の主要主題でした。透明度の高い演奏はずっと続けられていて、この空間はすばらしいです。どのパートも磨き抜かれた極上のサウンドです。感情が盛り上がって咆哮することはなく、全てギーレンのコントロール下で実に統制のとれた演奏です。クールでカッコイイ演奏でした。愛聴盤になりそうです。
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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、すごく遅いテンポで始まりました。弦の刻みが聞こえます。少し細い響きのテノールホルン。テュッティは盛大に賑やかです。テンポを速めて第一主題に入りました。音の輪郭がはっきりしていて、とても色彩が豊かです。アンサンブルは抜群で、咆哮しても乱れません。トロンボーンの独奏は控え目でした。強弱の変化に非常に敏感で俊敏な演奏に感じます。テュッティではいろんな音が聞こえてきて情報量が豊かです。

二楽章、冒頭のホルンはとても表現力豊かです。続く木管は夜の不気味さを上手く表現しています。第二主題のチェロが豊かに歌います。中間部のオーボエの哀愁に満ちた旋律の後半に加わるフルートも強弱の変化を強調しました。響き渡るトランペット。これまで聴いたことのない音が聞こえたりするのは、楽譜に忠実に演奏しようとしていることの表われだと思います。舞台裏とステージ上で鳴らし分けられるカウベルの違いもとてもはっきりしています。コーダの木管の表現はとてもリアルでした。

三楽章、この楽章でも強弱の変化にとても敏感です。ティンパニの存在感が際立ちます。この楽章にこんなに多くティンパニ登場していたとは思いませんでした。あちこちで金管の噴火が・・・・・。こんなに色彩感豊かな楽章だったことにも初めて気づかされました。

四楽章、けだるい感じのヴァイオリンソロ。ファゴットに対してすごく弱く演奏されたクラリネット。マンドリンがピンポイントで定位します。この楽章は緩急の変化もありました。

五楽章、ティンパニのマットな響き。続き金管のファンファーレは豪華絢爛でした。そしてホルンの咆哮が続きます。途中のリタルダンドも適度でした。トランペットのハイトーンもきっちり決まります。今まで聞いたことのないいろんな音が聞こえてきます。気持ちよく鳴るシンバル。限界が無いかのように鳴りまくるブラスセクションには感服させられます。

オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで朗々と歌うテノールホルン。非常に遅いテンポで克明に一音一音刻み込んで行きます。遅いテンポが生み出す異様な緊張感。レントゲンを見ているように細部まで克明に表現されています。しかし、時折登場する金管はかなり豪快に鳴ります。よくこれだけ遅いテンポの演奏に耐えているオケに感心します。すばらしく巨大なスケールの演奏です。

二楽章、この楽章も遅いテンポです。このテンポでも演奏は弛緩することなく緊張感を保っています。アゴーギクを効かせるようなことはなく、演奏自体は淡々と進められています。暗く不安な夜の雰囲気も見事に表現しています。

三楽章、不気味な雰囲気に溢れた冒頭でした。テンポが遅い上に、色彩感も濃厚で強烈な印象を与えます。

四楽章、マンドリンが良く聞こえます。この楽章も遅めのテンポで細部まで見通せるような演奏です。中間部のホルンの穏やかな旋律にクラリネットがギョッとするような音で割って入ります。ギター、マンドリン、ハープなどがとても明瞭に聞こえます。終わり近くでマンドリンとオケのアンサンブルが乱れました。

五楽章、もの凄く遅いテンポで始まりました。全く別の曲を聴いているかのようです。金管が鳴っている後ろで動いている楽器も手に取るように分かります。このテンポでも引き締まった表情で、緊張感の高い演奏です。録音もこの当時にはすでにアナログ録音は完成の域に達していたのか、かなのり鮮度の音を聴かせてくれます。クレッシェンドに伴って少しテンポが速くなって、そのままの勢いで行くのかと思ったら、またきっちりとテンポを落とすあたりは徹底しています。終盤はオケの鳴りもすさまじいものがあります。

マーラーの交響曲第七番「夜の歌」の演奏史上では異端の部類に入る演奏だと思いますが、クレンペラーの確固たる自信と信念に裏打ちされた徹底した演奏には凄い説得力がありました。この演奏を聴けただけでもこのCDを買った価値があったと思います。すばらしい演奏でした。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで、丁寧な弦の刻み。伸びやかなテノールホルン。とても良く鳴るブラスセクション。透明感が高く明晰な演奏です。深く感情移入することは無く、作品から距離を置いているような感じです。立ち上がりが良く、鮮度の高い録音もすばらしい。トゥッティのエネルギー感もかなりあり、抑揚は十分にあります。また、ほの暗い夜の雰囲気も持っています。

二楽章、表情は控え目なホルン。静寂の中にドカンと入るティンパニ。弦や木管の軽いタッチ。比較的速めのテンポで柔らかく、あっさりと進みます。あまり「夜曲」を意識していないような演奏です。

三楽章、抑えた音量で、暗闇に浮かぶ夜の雰囲気満点の冒頭です。バチーンと響くバルトークピッィカート、複数の奏者の乱れ打ちです。この楽章でも、楽器はくっきりと浮かび上がりますが、表現は淡々としています。最後のティンパニの一撃も強烈でした。

四楽章、この楽章も速めのテンポであっさりとしています。マンドリンは強調されることはありませんが、しっかりと聞こえます。テンポの変化も恣意的なところが無く自然です。

五楽章、ゆったりとしたテンポで丁寧なティンパニのソロ。見事に響く主要主題はテヌート気味に演奏されました。中間楽章では抑え気味だったオケが全開で、しかも美しく鳴り響きます。副主題が出てからテンポを速めました。再び主要主題が現れる頃にはテンポは戻っています。表現は粘ることは無く、あっさりとしていますが、細部の動きにもこだわった、スコアを見通せるような明晰な演奏は一貫しています。コーダはスケールの大きな大音響でした。

全体の印象としては、すっきりとしたスタイリッシュな演奏でしたが、細部の表現まで光を当てた明晰な演奏はすばらしいものでした。優秀録音とあいまって、最初に聞くには良い演奏だったと思います。
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ベルナルト・ハイティンク/バイエルン放送交響楽団

ハイティンク★★★★★
一楽章、非常にゆっくりとしたテンポで、柔らかく伸びやかなテノールホルンです。一音一音確かめるような堅実な足取り。クレンペラーの演奏を思わせるような遅さです。キリッとした美しい響きです。ひっかかるところが無く、流れるような演奏ですが色彩感は濃厚克明で大胆です。どのオケと共演しても美しい響きを作り出すハイティンクの能力には脱帽です。ライヴとは思えない完成度の高さです。コーダはスケールが大きく壮大でした。

二楽章、表情豊かに歌う序奏のホルン。ホルンの主要主題も豊かな表情です。第二主題の入りの音を伸ばしてから入りました。とても穏やかな第二主題でした。全体に音に勢いがあって、活気に溢れています。感情のこもった中間部のオーボエ。この演奏でも細部の表現まで、徹底されています。二度目の第二主題も最初の音を伸ばしました。夜の雰囲気は少し薄いようです。

三楽章、低音の不気味な雰囲気に続いて滑らかな弦のメロディ。元々遅めのテンポですが、中間部でさらにテンポを落としました。細かな動きが克明です。こんなに美しい「夜の歌」は初めてかもしれません。最後はテンポを落として終りました。

四楽章、ニュートラルな響きのヴァイオリン独奏。柔らかいホルンの響き。穏やかな弦楽合奏。この楽章も夜の雰囲気はあまり感じませんが、表題にはとらわれず、純音楽としての美しさを追求したような演奏です。

五楽章、この楽章もどっしりとしたテンポの演奏です。ことさら華やかに演奏することは無く、前の楽章からのつながりも自然です。トゥッティでもオケを炸裂させることは無く、抑え気味です。刻み込むような濃厚な表現。コーダの打楽器の長いクレッシェンド。

表題にとらわれず、純音楽的な非常に美しい演奏は、すばらしいものでした。CD化を望みたいです。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第7番「夜の歌」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記

サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、克明な弦の刻み。鮮明で明るいテノールホルン。1971年の録音とは思えないような鮮度の高い音です。ブラスセクションの充実した響き。音楽が力強く、前へ進もうとします。時にテンポを煽ったりします。極端な弱音はありませんが、その分弱音時でも楽器の動きが手に取るように分かります。無機的とよく言われるショルティの演奏ですが、夜の雰囲気はしっかりとあります。古典派の作品を演奏すると、素っ気無い演奏になる場合もありますが、マーラーのようにスコアにぎっしりと書き込んである作品の場合は良い演奏になります。終盤、大太鼓の一撃で歪む場面もありました。

二楽章、ホルンや木管の表情が豊かです。明るいホルンの主要主題。楽譜のアーティキュレーションに忠実でやや極端に演奏しているようで音楽が生き生きとしています。チェロの第二主題もよく歌います。オケの響きには締まりがあり、色彩感も濃厚です。オケの動きが活発で元気なので「夜曲」のイメージとは違うような「昼」のような雰囲気です。

三楽章、怪しげな雰囲気がとても良く表現されています。オケもアーティキュレーションの指定に敏感に反応するので、ショルティは高性能のF1マシンでもドライブしているかのように感じます。音が一つ一つ立っていて音楽が生き物のように迫ってきます。ティンパニの強打もバチーンと決まります。この表現の豊かさはすばらしい。バルトーク・ピチカートも一人で演奏しているかのようにピタリと揃っていました。

四楽章、個々の楽器を克明に捕らえたマルチ録音の集大成のように、オンマイクで間接音をほとんど伴わずに楽器の動きが手に取るように分かります。この楽章も「夜曲」のイメージとは違います。あまりにも個々の楽器が表面に出てきてしまって、白日に晒されているような感じの音楽になってしまっています。演奏自体は表現力もあるし、もちろんオケも抜群に上手いだけに、ちょっと残念ですが、逆に五楽章などでは良い方に働くでしょう。

五楽章、豪快に鳴る金管。思いっきり強打されるティンパニ。テンポ設定もとても動きを感じさせる生命観に溢れたものです。速目のテンポを基調に一気に聞かせます。豪快に鳴るブラスセクションの合間に優しい弦の響きが心地良いです。とにかく反応の良いオケが生き物のように音楽を奏でています。ショルティ/シカゴsoの実力をまざまざと見せ付けられます。

二楽章と四楽章の「夜曲」が賑やか過ぎた他は完璧な演奏でした。

クルト・マズア/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、速めのテンポで極めて弱くビブラートを掛けたテノールホルン。マーラーが「自然が咆哮する」と述べているのとはかなり印象が違います。渋く充実したトゥッティの響き。奥深いところから響いてくるような第一主題。遠くから優しく響く第二主題。展開部のトロンボーン独奏もビブラートがかかっています。この曲の演奏としては異色の感じで、柔らかく渋い響きはとても魅力的です。

二楽章、独特の美しさを持ったホルンの主要主題。豊かな残響のホールに広がる美しい木管。この楽章も速めのテンポです。生き生きと歌う第二主題。中間部のオーボエも独特の美しさと歌があります。美しい響きなのですが、暖色系の響きのせいか、この楽章はあまり「夜曲」を感じさせる演奏ではありません。

三楽章、シルクのようなヴァイオリンの美しい響き。非常に抑えた音量の演奏です。この楽章は暗闇にうごめくような夜の雰囲気があります。室内楽のようにコンパクトにまとまった演奏です。

四楽章、この楽章もとても静かな演奏です。この弱音がとても美しいです。深く感情移入して大きくテンポが動いたり、アゴーギクを効かせて歌うようなこともありません。静かに淡々と流れて行きます。

五楽章、この楽章も非常に抑えた主要主題の演奏で、夜から白昼に放り出されたような違和感はありません。軽いティンパニ。楽しげな木管。あまりにも抑えた演奏なので、ミュートしたトランペットがチビッたような感じがしました。テンポは基本的に速いです。金管を強奏させないので、とても柔らかい音楽になっていて、通常演奏される祝典的な雰囲気とはかなり違っていて、そのために夜の歌としての連続性が保たれています。

最後まで、静かな演奏で、通常なら、五楽章がお祭り騒ぎになるところを、夜の歌としての一貫性が保たれていたのは、すごいことです。ただ、最後まで音量を制御したことで、巨大な編成の響きを引き出さずに終わってしまったのもまた事実で、この演奏をどう評価して良いのか迷うところです。でも、この曲の違う一面を聞かせてくれたことは評価したいと思います。
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クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団

icon★★★★
一楽章、すごく静かに始まりました。明るいテノールホルンが浮き上がります。続く木管やトランペットもくっきりと浮かび上がります。美しい弦は控え目で管楽器が強調されています。木管楽器の行進曲調の主題はゆっくりと演奏されました。ピーンと張り詰めた緊張感が漂います。オケを咆哮させることなく、非常に均整の取れた演奏をしています。バランスを重視するあまり重量感には欠けるかも知れません。低域が薄いのも重量感に欠ける演奏にしている一因かもしれません。

二楽章、遠めのホルン。じっくりと間を空けて演奏されます。涼しげな木管が夜の雰囲気を醸し出します。良く歌うチェロの第二主題、繋がる木管も滑らかです。弱音はすごく弱いです。抑制の効いたオーボエの中間部の旋律。前へ出てくる楽器と奥まったところで小さく鳴る楽器の対比がしっかりしています。終了直前の木管の見事なアンサンブル。

三楽章、とてもゆっくりとしたテンポで始まり、次第にテンポを上げました。たどり着いたところはかなり速いテンポです。全体的に抑制が効いていて静かな演奏です。弦楽器の表情も豊かです。金管もそれなりに強奏しますが、騒々しくはありませんし刺激的でもありません。

四楽章、とても静かな演奏です。音像が小さく遠くに定位する感じで、コンサートホールの中央より少し後ろで聞いているような感じです。とてもバランスに配慮されているようで、どれかの楽器が飛び抜けて来ることはありません。でも、色彩感はあります。

五楽章、控え目なティンパニ。強奏はしますが、全開ではない金管。木管のアンサンブルはとてもチャーミングで魅力的です。ショルティの指揮で聴くシカゴsoは金管のパワーが強調されますが、この演奏では、弦楽器の繊細な響きも含めた弱音の美しさが随所で聴かれます。金管は絶対に吼えることはなく、かなり抑制されています。その分、弦や木管の弱音に耳が行くようになります。

7番の演奏としてはかなり異色の演奏だと思います。こんな演奏もあるのかと感服させられました。

パーヴォ・ヤルヴィ/フランクフルト放送交響楽団

パーヴォ・ヤルヴィ★★★★
一楽章、柔らかく美しいテノールホルンですが、痛恨のミストーン。とても美しく透明感の高い響きです。颯爽とした第一主題。展開部で現れる第二主題も非常に美しい。豊かなホールトーンを含み、水彩画のような淡い色彩感ですが、美しく精緻な演奏です。ことさらテンポを動かすことは無く、淡々と進みますが、オケは良くドライブされていて、気持ちよく鳴ります。最後の音が終っても長いホールトーンが響きます。

二楽章、アゴーギクを効かせるホルン。次々と登場する木管がくっきりと浮かび上がります。演奏があまりにも鮮明で「夜曲」とは思えません。第二主題も生気に満ちています。速めのテンポであっさりとした中間部。生気に満ちてとても元気な「夜曲」です。

三楽章、鋭角的でピーンと張った響きが緊張感を醸し出します。中間部のテンポは速めです。旋律の周りにちりばめられた楽器が強く主張します。マーラーのスコアの細部まで見通せるような演奏です。月明かりの明るい満月の夜のようです。

四楽章、速いテンポで、この楽章でも夜のけだるさや静けさはありません。とても活発な演奏です。もしかしたら、五楽章とのつながりの違和感を無くすためにこのような活発な演奏をしているのかも知れません。オケのきりっとした明快な音色も「夜曲」からは遠いものにしているようです。

五楽章、歪んでいるのか、バリバリのティンパニ。がっちりとした主要主題。堅固な構成力です。活発な木管も含めてとても動きがあって、生き生きとしています。これは速めのテンポを取っていることも影響しているかも知れません。カラッとした快晴をイメージさせるようなすがすがしい演奏です。

「夜の歌」と言う表題からイメージする陰鬱な部分は全く無く、あっけらかんとした演奏でした。
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レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★★
一楽章、暗く重い雰囲気で引きずるような冒頭。テノールホルンもほの暗い響きです。これから壮絶な演奏が始まることを予感させます。木管の行進曲調の主題もとても遅いです。濃厚で重いトゥッティ。テンポを速めて第一主題へ。第二主題も重くロマンティックな雰囲気はありません。トロンボーンの独奏は最初弱い音で入り次第に大きくなりました。物凄く強大なエネルギー感に圧倒されるコーダです。

二楽章、アゴーギクを効かせる序奏のホルン。続けて出る木管が夜の雰囲気を醸し出します。穏やかな第一主題。第二主題の最初の音を僅かに伸ばしました。この楽章も音楽は重く、刻み付けるような力があります。中間部も非常に遅く、たっぷりと歌うオーボエ。華やかな色彩感はほとんど感じることは出来ません。バーンスタインの強い主張が全体を貫いていてどんどん深みに引きずり込まれます。

三楽章、暗闇の中で遠くから響いてくるような冒頭部分です。この楽章も重い響きが支配しています。ティンパニの強烈な一撃。叩きつけるような濃厚な表現からデリケートたったりうつろだったりする表現まで、とても幅広い。鋭く深く突き刺さるバルトーク・ピッィカート。

四楽章、思い入れたっぷりのヴァイオリンのソロ。テンポを大きく動かして歌います。とても繊細な表現で「夜」を演出しています。ギターとマンドリンが寂しげな夜の雰囲気を上手く表現しています。穏やかな中間部も低弦が唸りを上げると深い闇に引き込まれて行くようです。主部が戻ると、また非常に感情のこもった表現になります。クラリネットのソロの手前でかなりテンポを上げました。

五楽章、盛大に白昼に投げ出されたような、目がくらむような急展開。ニューヨーク・フィルのパワー全開です。バーンスタインはこの楽章を八番の交響曲に繋がるものと考えていたのでしょうか。鋭角的な金管が、この楽章をこれまでの楽章と切り離したような演奏にぴったりです。これまで聴いたことのないような壮大なコーダ。

凄い演奏ではありましたが、五楽章があまりにも割り切れすぎていて、私には少し違和感がありました。
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マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

トーマス★★★★
一楽章、ユーフォニアムのような楽器を使っているテノールホルン。透明感の高い木管。ダイナミックで濃厚な色彩感。鋭く深く抉るようなホルン。テンポは速めでとても動きがあり活発な演奏です。マイケル・ティルソン・トーマスのサインに二度反応しなかったトランペット。ダイナミックでとても良く鳴るオケですが、雑にはならず透明感の高い響きです。コーダの前はかなりテンポを煽って速いテンポになりましたがコーダでは元のテンポに戻りました。

二楽章、表情豊かなホルン。透明感の高い木管が非常に魅力的です。淡々としたホルンの主要主題。思い切りの良いティンパニ。最初の音を伸ばしたチェロの第二主題は美しく歌います。サラッとした淡い感じですが、美しい色彩感です。中間部のオーボエはすごく感情を込めて歌います。消え入るような弱音から弦楽合奏の豊かな響きまで、幅広いダイナミックレンジです。主部が戻った第二主題はとても良く歌います。流れるようでありながら良く歌う不思議な演奏です。

三楽章、サンフランシスコsoはいつからこんなに美しい響きになったのでしょう。反応が良くしかも美しい響きはすばらしいです。アメリカのオケでもトップクラスなのではないでしょうか。とても俊敏な反応の演奏です。瑞々しく艶のあるヴァイオリン独奏。気持ちよく鳴り響く金管。バルトーク・ピチカートでアンサンブルが乱れました。最後はテンポを落として黄昏て行きました。

四楽章、柔らかく美しい主題。俊敏な反応をするオケ。マンドリンが良く通る音で演奏しています。中間部に入る前の部分ではテンポを速めましたがすぐに遅くなりました。中間部では良く歌うホルン。大河の流れのように豊かな弦楽合奏。あまり夜の雰囲気は感じられませんでした。

五楽章、威勢のいいティンパニ。艶やかで輝かしい金管の主要主題。全開ではありませんが、軽々と鳴るブラスセクション。豊かな表情の木管。五楽章になって突然白昼に放り出されたような感覚ではありませんでした。この演奏自体が夜をあまり意識していないからかも知れません。テンポは速くなったり遅くなったり変化します。オケの集中力があまり無いのか、ミスが目立ちます。テンポの速い部分はかなり速くなります。最後はすさまじいホルンの咆哮でした。

表題にとらわれず、あまり夜を感じさせない演奏で、五楽章が浮くことはありませんでした。とても美しく透明感の高い響きはすばらしいものでしたが、ちょっと集中力が無かったのか、ミスが目立ったのは残念でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第7番「夜の歌」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、粘着質で重い演奏です。速目のテンポで音楽は進みますが、音楽にはいろんなものが詰まっているようで非常に重いです。濃厚な表現。微妙に動くテンポ。オケは決して上手くはありませんが、テンシュテットの指揮に必死に食らいついて行こうとしているのが十分に伝わって来ます。ただ、力みがあるのか響きには透明感がありません。

二楽章、「夜曲」の雰囲気を醸し出す木管。テンシュテットの演奏にしてはこの楽章は淡白な印象です。このセッションではオケの調子もベストコンディションではなかったのか、弦の響きも木目が粗い。

三楽章、非常に小さな音で開始してクレッシェンドしました。この楽章は表情豊かです。機敏な反応をする弦。不気味な雰囲気のテューバ。この作品の不気味な部分を十分に表現しています。

四楽章、アゴーギクを効かせる独奏ヴァイオリン。テンポも動きます。ただ、「夜曲」の雰囲気は今ひとつです。

五楽章、勢いのあるかなり激しい冒頭です。テンポの動きも大きくテンポの変わり目を大きくリタルダンドとクレッシェンドして強調します。激しい咆哮!テンシュテットが作品にのめり込んで行きます。最後にトランペットのミストーン。ティンパニのもの凄いクレッシェンド。聴き応えのある楽章でした。オケのコンディションが万全ではなかったのか、楽章による出来不出来があるのが残念でした。

クラウス・テンシュテット/クリーブランド管弦楽団

テンシュテット/1978★★★☆
一楽章、スクラッチノイズの中から演奏が聞こえます。録音の影響でメタリックな響きになっています。冒頭から激しい表現です。トライアングルもギンギン響きます。ゆったりと穏やかな部分と、速目のテンポで激しい咆哮の起伏の激しい演奏をしています。畳み掛けるアッチェレランドや軍隊の行進のようなテンポで演奏される部分もあり、変化に富んでいます。一気呵成に一楽章を終えました。

二楽章、存在感のあるテューバ。「夜曲」にしてはとても元気が良い。旋律を担当する楽器がしっかりと主張してくるので、描き分けがくっきりとしていて、色彩感が豊かです。

三楽章、強弱の表現が非常に厳格で厳しい雰囲気です。スケルツォと言うより作品と格闘しているような雰囲気です。表情豊かで生き生きした演奏です。

四楽章、録音の影響か音がギンギンしているので、テンポが速めなのと相まってとても攻撃的な演奏に聞こえてしまいます。元気いっぱいです。とても「夜曲」には聞こえません。作品への共感を示すようにとても豊かな表現です。

五楽章、すごく激しい冒頭の主要主題でした。副主題ではテンポを落としました。テンポも動きます、また表情もとても豊かです。トランペットが常にミュートを付けているような音で録音されて実際の演奏の雰囲気は伝わってきません。テンシュテットは速目のテンポでグイグイと引っ張って行きます。怒涛のような盛り上がりで演奏を終えました。すごい熱演だったと思いますが、録音の悪さから十分には伝わって来ないところが残念でした。

ダニエル・バレンボイム/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★☆
一楽章、凄く遅い冒頭。細い響きのテノールホルン。弦の刻みがはっきり聞こえます。少し遠くから響いてくるテノールホルンの雰囲気がなかなか良いです。第一主題の頃にはかなりテンポが速くなって、序奏の異様な遅さからは開放されています。消え入るような弱音が夜の雰囲気を醸し出します。控え目に静かに演奏される第二主題。弱音の物悲しさは出色です。トロンボーンのソロはスラーがかかったような演奏でした。チューバやバストロンボーンが今まで聞こえなかった部分で主張します。弱音の雰囲気の良さに比べるとトゥッティのエネルギー感が乏しいのが残念ですが潤いのある美しい響きはとても魅力的です。

二楽章、瞬発力のあるホルンと非常に抑えた木管の対比が面白い。主要主題も抑えた穏やかな演奏です。第二主題の最初の音を少し長く伸ばしました。そして、ここでも抑えた表現で、しかもゆったりとしたテンポで、とても美しい演奏です。この演奏では弱音の美しさは特筆できます。空間に夜の闇が広がるような雰囲気もとても良く表しています。中間部もゆっくりと丹念に描いて行きます。消え入るような弱音が幽玄の世界へ導いてくれます。二度目の第二主題も非常に抑えた表現で、対旋律の方が大きいくらいです。

三楽章、冒頭の弱音部分も非常に抑えた表現で、夜の雰囲気がとても良く出ています。この演奏では、繊細な弱音がとても良いですが、逆に強奏部分の起伏がそれ程大きくは無く、マーラーの巨大なオーケストレーションを表現し切っていないように思います。この楽章の強奏部分もテンポを速めてあっさりと演奏しています。

四楽章、枯れた響きのヴァイオリン。柔らかいホルンの主題。シュターツカペレ・ベルリンの伝統的な着色の無いナチュラルな響きがとても美しい。基本的には速めのテンポであっさりとした演奏です。

五楽章、速めのテンポで爽やかなトゥッティ。やはり力感はあまり無く、控え目なトゥッティです。四楽章まで流れをあまり変えずに五楽章に入りました。ドロドロした部分はほとんど感じさせない爽やかな演奏です。トゥッティでも熱くなることはありません。作品を俯瞰しているような距離感を感じます。

繊細で夜の雰囲気たっぷりの美しい弱音と控え目なトゥッティでとても爽やかな演奏でしたが、作品の本質とは違うような感じがしました。
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ジェームズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団

icon★★★
一楽章、緩い弦の刻み。ダブルタンギングをしているようなテノールホルン。遠めのトランペット。何かを暗示するような不穏な雰囲気はありません。色彩感は淡い感じです。テュッティは巨大な響きがします。思いっきり良く鳴る第一主題。楽器を良く鳴らし爽快感がありますが、ピーンと張り詰めたような緊張感はありません。ティンパニは遠慮なくバンバン来ます。金管の充実した響きが見事です。トロンボーン独奏はちょっと下品な感じがしました。オケを思いっきり良く鳴らした演奏でした。

二楽章、かなり強めに演奏されるホルン。その後登場する木管も伸び伸びとした演奏です。ホルンの主要主題の前に大太鼓の地響きのような低音が響きました。ここでもティンパニが遠慮なく強打します。伸びやかな第二主題。

三楽章、怪しげな雰囲気を醸し出す冒頭。テューバが強烈です。レヴァインの演奏の場合、そこそこに温度間感があるのですが、それは音楽の高揚に合わせて熱気を帯びるものではなく、ましてや、冷たく精緻な雰囲気も持っていないので、ともすれば弛緩しているようにも感じられてしまうところがあり損をしていると思います。この楽章でも思いっきり良く強打されるティンパニが爽快です。

四楽章、太い響きのヴァイオリン独奏。細く締まったホルンの主題。柔らかい弦楽合奏。とても穏やかな夜を演出していますが色彩感は墨絵のように淡白です。モノトーンの中にギターが鮮明に浮かび上がります。引っかかることもなく、自然に音楽が流れ去って行きます。あまりにも普通(マーラーの場合、普通に演奏されること自体凄いことなのかも知れませんが)に時間が過ぎて行きます。

五楽章、盛大に強打されるティンパニ。続くホルンのトリルが強調されていました。暴走することなく程ほどに抑えられたと言うかとても軽く演奏する金管。ホールの特性なのか、シンバルさえも色彩感がない。後半にかけて金管も強奏しますが、音楽が熱気を帯びることはありません。最後は打楽器の激しいクレッシェンドで壮大に曲を閉じました。

何の変哲も無い演奏を聴き続けるのは大変でした。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、オケから浮き上がるテノールホルン。速いテンポの第一主題。この時期の一連のマーラー録音に共通する、一体感の無さがとても気になります。第二主題もどこか落ち着きが無い。響きがバラバラで薄い。テンポも全体的に速くどっしりと音楽を聞かせるような演奏ではありません。

二楽章、かなり強く表情豊かなホルン。続く木管も豊かな表情です。ホルンの主要主題も美しい。とても活発な夜の歌です。第二主題も良く歌います。とても感情のこもった音楽でぐっと引き込まれます。中間部のオーボエもとても感情のこもった演奏です。一楽章とは打って変わって、一体感と集中力のある演奏です。バーンスタインの指揮もテンポを動かして豊かな表情を作って行きます。鋭角的な響きもすばらしい。

三楽章、厳しく締まった表情が付けられています。中間部のオーボエはもっと歌っても良かったような気がします。バルトーク・ピッィカートはあまり強烈ではありませんでした。

四楽章、締まった響きのオーボエ、テンポも動いて表現しますが、夜の雰囲気はあまりありません。

五楽章、羊皮独特のバネのあるティンパニ。金管を咆哮させることもなく、音楽の振幅はさほど大きくはなく、スマートで晩年の深い作品との同化とは違う演奏です。
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レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団

セーゲルスタム★★★
一楽章、凄く遅いテンポで始まりました。明るく張った音質のテノールホルン。透明感のある美しい響きです。テノールホルンの主題部ではとてもゆっくりですが、途中急激にテンポを速めたりします。第一主題では、一般的なテンポを取っています。展開部の第二主題が現れる前はかなりテンポを遅く演奏して、広大な草原の夕暮れような雰囲気でした。第二主題に入ってもテンポはゆっくりですが、表現はねばっこい感じは無く、重い表現ではありません。コーダではバランスの良い分厚い響きです。

二楽章、柔らかくフワッとした響きのホルン。遠くから響くような木管が夜の雰囲気を自然に醸し出します。ホルンの主要主題も非常に美しい。第二主題の最初の音を少し伸ばしました。感情が込められて哀愁漂う、中間部のオーボエ。二度目の第二主題は舞い踊るように生き生きとした演奏です。コーダ直前の木管の鳥のさえずりのような部分も夜の雰囲気十分です。

三楽章、不気味な夜の雰囲気です。中間部のオーボエが出て以降テンポがゆっくりになりました。テンポによるものなのか、音のアタックによるものなのか分かりませんが、何故か鈍重な感じがあります。どっしりと構えていると言えばそうなのですが、旋律の周りにちりばめられた楽器があまり聞こえてこないのもちょっと残念です。

四楽章、ホルンの柔らかい主題。続く弦の部分はテンポを落としてぐっと抑えて美しく幻想的な演奏でした。ただ、音が立っていないような感じで、鈍っているようなイメージが付きまといます。マーラーの鋭角的な部分はあまり表現されず、なだらかな音楽になっています。「夜曲」だからこれで良いのかな?最後はすごくテンポをゆっくりして濃厚な表現でした。

五楽章、メリハリのあるティンパニ。お祭り騒ぎにはならず、前の楽章からのつながりを意識した演奏です。曲全体を通してテンポはよく動きます。めまぐるしいくらいに良く動くテンポ。

「復活」の演奏が、すばらしかったので、期待したのですが、鈍ったような大味な演奏だったような感じがしました。
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ジン・ヒョン・ペク/馬山市立交響楽団

ペク
一楽章、あまり伸びの無いテノールホルン。たどたどしい木管。テンポの揺れには対応できないのか、全くテンポは揺れません。寂しい響きです。第一主題の前でテンポが一旦遅くなりました。音が合っていないようで、響きがとても貧相です。オケも演奏するのが精一杯と言う感じです。再現部に入る前に間を空けました。鈍重な演奏で、音が定まらなくて空中浮遊しているような、変な感じです。響きが薄い上に混濁していて、かなり聞き辛い音です。

二楽章、危なっかしいホルン。潤いが無くささくれ立った音がします。主要主題はアマオケの演奏を聴いているような硬い音です。チェロの第二主題も胴が鳴っていないような響きで、弦だけの音が聞こえる感じがします。中間部では少し夜の雰囲気がありました。主部が戻るところは最初のテンポよりもかなり速くなっています。何かを表現している感じは無く、演奏するだけで精一杯です。

三楽章、響きが融合せずに浮遊する感じが何とも変です。速めのテンポでほとんど表情を付けずに進みます。あまりにも音が合っていないので、聞いていて苦しくなります。バルトーク・ピチカートも弱弱しい音でした。

四楽章、テヌート気味に演奏されるホルンの主題。色んな楽器が有機的に結びつかない演奏で、バラバラです。夜曲を感じさせることはありません。

五楽章、かなり頑張って吹いているようですが、音が合っていないので、響きが融合しません。普通背後に豊かな響きがあって、その中から金管が突き抜けてくることはありますが、この演奏の場合、背後の響きがほとんど無く、浮いたように金管が響いて来るので、とても寂しく暗い響きになります。細かいところで音程を外す演奏で、技術的にもかなり厳しい感じです。また、弦の細かいパッセージもちゃんと弾けてはいないところが随所にあって、演奏するのが精一杯と言うのが如実に伝わって来ます。

オケの技術的な問題で、まだこの曲を演奏するレベルでは無いと思いました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」の名盤を試聴したレビュー