カテゴリー: マーラー:交響曲第6番「悲劇的」名盤試聴記

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」

マーラーの交響曲第6番「悲劇的」は、彼の交響曲の中でも特に重く、暗い情感が色濃く反映された作品です。この交響曲は、希望の欠如と運命の力に対する深い苦悩が描かれており、彼の他の交響曲に比べて非常にシリアスで厳粛な雰囲気を持っています。以下、この曲の特徴を紹介します。

1. 「悲劇的」というタイトル

  • 「悲劇的」という愛称はマーラー自身が一度使用したものの、のちに公式なタイトルとしては使わなくなりました。しかし、その曲の内容があまりに悲劇的であることから、今でも「悲劇的」という名前で親しまれています。
  • この交響曲にはマーラーが抱く人生や運命に対する悲観的な見解が投影されており、避けられない運命の力に翻弄される人間の苦悩が表現されています。

2. 楽章構成

交響曲第6番は全4楽章で構成されており、それぞれが重厚で感情的な内容を持っています。

  • 第1楽章 (Allegro energico, ma non troppo): 力強く、暗い雰囲気で始まる楽章で、「運命の動機」とも呼ばれる主題が印象的です。行進曲のリズムが支配的で、厳格で冷徹な雰囲気を感じさせます。中間部には「愛の主題」と呼ばれるメロディも現れ、妻アルマへの愛情が表現されていると言われていますが、全体的には緊張感が途切れることなく続きます。
  • 第2楽章 (Scherzo – Wuchtig): この楽章はスケルツォで、不安定で不気味な響きが印象的です。激しく、鋭いリズムと独特のリズム変化が、落ち着かない気持ちや不安感を強調します。この楽章には、マーラーの「運命の力」に対する恐怖が象徴されていると考えられています。
  • 第3楽章 (Andante moderato): 唯一の緩やかな楽章で、悲しみと美しさが交錯する音楽が流れます。この楽章は、マーラーの柔和な面が表れており、静かな感情の表現が聴く者の心を深く打ちます。人間の愛や希望が垣間見える瞬間ですが、同時に一抹の哀しさが感じられます。
  • 第4楽章 (Finale – Allegro moderato): この長大な楽章は、劇的な展開と巨大なクライマックスで終わる壮絶な音楽です。さまざまなテーマが複雑に絡み合い、やがて「運命のハンマー」と呼ばれる強烈な打撃音が響き渡ります。マーラーはこのハンマーの音を「運命が打ち下ろす一撃」と説明しており、人間が避けられない悲劇に直面する様子が描かれています。ハンマーの音は当初3回の予定でしたが、最終的に2回に減らされています。

3. ハンマーの一撃

  • 「運命のハンマー」と呼ばれる巨大な打撃音は、この交響曲の象徴的な要素です。第4楽章で2回(または3回)のハンマーの一撃が運命の力を象徴し、不可避な悲劇を暗示します。
  • マーラー自身がこのハンマーについて「英雄を倒す運命の力」と表現しており、打撃音の衝撃が聴く者に強烈な印象を残します。

4. 希望の欠如と運命への抗えない抵抗

  • 他の多くのマーラーの交響曲が希望や救済の兆しを示すのに対し、第6番では救済が一切示されず、全体が悲劇的な雰囲気に包まれています。
  • 第4楽章の終わりで主要なテーマが崩壊し、曲が暗く消え入るように終わるため、聴衆に運命の不可避性と無力感を感じさせます。

5. 人生の悲劇的な予感

  • マーラーが交響曲第6番を完成させた後、彼の生活にはいくつかの困難が立て続けに起こりました。娘の死や職の問題、自身の健康問題などが続き、この曲が「未来の予言」のように思えると語ることもあったとされています。

6. まとめ

マーラーの交響曲第6番「悲劇的」は、彼の交響曲の中でも特に陰鬱で重厚な作品です。愛と希望がわずかに垣間見える瞬間もありますが、最終的には運命に屈服せざるを得ない悲劇的な物語が展開され、聴衆に深い印象を与えます。マーラーが抱いた「避けられない運命」への恐怖と、人生における苦しみが音楽を通して強烈に表現された交響曲です。

4o

たいこ叩きのマーラー 交響曲第6番「悲劇的」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット/ロンドン★★★★★
一楽章、ライブらしい聴衆のわずかなノイズの中から演奏が始まりました。重いコントラバス。表情がすごく豊かです。歌う弦や木管が印象的です。ホルンの咆哮も凄いです。
音楽が激しいうねりとなって迫って来ます。テンポも動きます。凄く重量級の悲劇的の演奏だと思います。テンポを落とすところはすごく遅く、たっぷりと歌われます。トゥッティではオケの限界を超えているのではないかと思うほど強烈な演奏が展開されます。

二楽章、強烈なトゥッティと豊かに歌う弱音部の対比がおもしろい。弱音部がとてもチャーミングです。

三楽章、中庸なテンポで開始されました。のどかで牧歌的な雰囲気よりも、陰鬱な部分が強調されているような演奏です。クラリネットもホルンも悲しげで、これから起こる悲劇を暗示するかのような演奏です。

四楽章、地の底から湧き上がるような金管の咆哮!やはり弱音部ではテンポを落として十分歌い頂点へ向けてアッチェレランドします。
ハンマー一打目、頂点で強烈な一撃の後、テンポがガクッと遅くなり、次第に回復しました。テンポが自在に変化します。
ハンマー二打目、ここでも強烈なゴツンと言うような打撃の後にガクッとテンポが落ちてしばらくそのテンポを維持します。
冒頭のテーマの再現からテンポが戻りました。しかしまたテンポは遅くなり少しずつ速くなっているようです。
三打目のハンマーが記譜されていた部分は崩れ落ちるような表現でした。
心に染み入るコラールでした。

拍手が起こってしばらくしてからブラボーの嵐でした。
これだけ指揮者自身をさらけ出した演奏にはなかなかめぐり合うことができません。
この指揮についていったロンドンpoにも惜しみない拍手を送りたいと思います。すばらしい演奏でした。

サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団

ショルティ★★★★★
一楽章、分厚い低弦の響き。色彩がとても豊かです。音楽にスピード感があり前へ前へ行こうとします。
どのパートも余すところ無く音にしているような精密さを感じます。リズムは弾むし音に締まりがあって、すごく筋肉質な演奏です。グロッケンと木管の付点のリズムが揃わなかったり、多少の傷はありますが、この強烈な演奏においてはたいした問題ではありません。
ブラスセクションの強烈なパワー感!すごいとしか言いようが無い。ショルティ/シカゴのパワーを余すところ無く演奏にした感じがします。

二楽章、小節の頭を強く入るティンパニの音がパンと釜の音があまりしなくて、響きも止めているような音です。この楽章でも金管、打楽器が大活躍です。木管や弦の旋律のバックにいるホルンなども強調されて存在感十分です。
テンポも速く、すごい勢いで駆け抜けていく感じがします。トロンボーンの細かいパッセージも完璧です。

三楽章、一転して穏やかな音楽になりました。前二楽章が非常に激しかったので、のどかさが十分表現されています。
作品に感情移入するような演奏ではありませんが、前の楽章との対比で穏やかさが演出されています。

四楽章、テューバは浅い響きでした。この楽章もスピード感があって音楽が前へ前へと行きます。色彩のパレットをいっぱいに広げたようなカラフルな演奏です。
一打目のハンマーの前後で音楽の変化はありません。そのまま突き進んで行きます。むしろさらにリズムに乗って推進力を強めたようにさえ感じますが、トロンボーンのリズムが崩れて三連符のようになります。
二打目のハンマーの後も変化はありません。パワー全開です!圧倒されます。
三打目のハンマー。「英雄は三つの打撃を受ける。彼はその最後の一撃によって木のように倒れる」とマーラーが言っているのとは関係ないような演奏でした。

ショルティは作品の表題性や内面性とは無縁の演奏なのかも知れません。思いっ切りの良い男性的な演奏でした。

テオドール・クルレンツィス/ムジカエテルナ

★★★★★
一楽章、短く弾む低弦。金管は少し奥まっていますが、しっかりと鳴っています。第二主題の前の木管が次第にテンポを落としてとてもロマンティックです。繰り返しはとてもゆっくりから加速しました。明るく伸びやかな響きで色彩感も豊かです。展開部も明るく清々しい響きです。弱音部分も透明感があってとても美しいです。再現部はかなり激しくなります。金管は軽々と鳴り響きますが、奥で鳴っていて、前に突っ込んでは来ません。

二楽章、割と抑え目に入りました。トリオは柔らかく穏やかです。常に余裕を持って美しく伸びやかな響きの演奏です。大規模な作品ですが、混沌とすることは全く無く、すっきりと聞かせてくれます。

三楽章、柔らかく広がる弦の主要主題。寂しげなオーボエ。中間部のホルンは控えめです。精緻で、トゲトゲしいところも無く、自然でずか、かなりレベルの高い演奏です。怒涛のように哀しみが溢れ出すような表現でもありませんが、自然に受け入れることが出来る演奏です。

四楽章、艶やかな主題に続いて、ファーッと広がる金管。カウベルに乗って演奏されるトロンボーンが奥まったところで広がります。続くホルンの響きがホール全体に伝わります。1回目のハンマーの直後は金管の陰に隠れがちな弦の刻みがはっきりと聞こえました。ホルントロンボーンがリズムを刻む部分はかなり速かったです。常に広々とした広大な空間をイメージさせる演奏です。とても冷静で感情を込めたり熱気が伝わるような演奏ではありませんが、高い技術でサラリとやってのける見事さがあります。メッセージ性は高くありませかんが、今までには無いパターンの演奏でした。

ジョン・バルビローリ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

バルビローリ★★★★★
一楽章、ものすごく遅い出だしです。遅いテンポでマーラーのスコアを克明に描き分けて行きます。響きは締まっていて筋肉質な感じです。オケも生き生きとした表現でなかなかの好演だと思います。カウベルも神秘的な雰囲気を醸し出しています。バルビローリの唸り声が良く聞こえます。一音一音を大切に抉り出そうとするような気迫に満ちた演奏です。終始遅いテンポの一楽章でしたが、とても彫りの深い見事な演奏でした。

二楽章、この楽章も遅いテンポで深い彫琢を刻みこんで行きます。テンポは遅いのですが、音楽は全く弛緩することなく緊張感を保っているところもすばらしい。ブラスセクションもとても良く鳴ります。録音は古いのですが、一音一音が立っていて生き生きしています。

三楽章、これまでの緊張から解き放たれたような穏やかな冒頭でした。美しい牧歌的な雰囲気と時折覗く不安の交錯が上手く表現されています。後半の悲しみが堰を切ったように溢れ出す部分では、次々に音の波が押し寄せてくるような表現が印象的でした。

四楽章、一つ一つの音を確認しながら丁寧に演奏しているようです。この楽章も遅めのテンポです。展開部のカウベルも響きを伴って神秘的に響きます。マーラーの複雑なスコアに書かれている音が洪水のように鳴り響きあふれ出します。ドスンと言う鈍い音のハンマー。2度目のハンマーの直後は悲痛な叫びのようでした。もの凄く情報量の多い演奏でした。すばらしかったです。

ワレリー・ゲルギエフ/ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、鮮明な録音です。第一主題はレガートぎみで、力の入るところが無く、ひっかかるところがありません。第二主題も第一主題と同じような表現です。展開部はゆっくりとしたテンポで入って次第にテンポを速めました。カウベルが入る部分ではとても良く歌われて感情のこもった演奏です。オケは気持ちよく鳴り響きます。オケのエネルギーがこちらにも伝わってきます。

二楽章、アンダンテが二楽章です。僅かに速めのテンポですが感情を込めてたっぷりと演奏される主要主題。美しいホルン。中間部では一転して華やかになります。その後、落ちついた穏やかな音楽が続きます。クライマックスでホルンを煽り、興奮を演出しました。

三楽章、音楽に新鮮な潤いがあります。複雑なオーケストレートョンでも混濁することなく、細部まで、すっきりと見通せる演奏です。アクセントのある音が重く力があり、深く音楽を刻み込んで行くようです。まばゆいばかりの色彩感です。

四楽章、歌うチューバのコラール。すでに疲れ果てて脱力しているような音楽から、力が湧きだしてトゥッティへと向かいます。第一主題は速めのテンポで生き生きと力強く演奏されます。ドスンと鈍いハンマー。オケは屈託なく見事に鳴り響きます。さすがロンドンsoです。硬質なティンパニもこの曲にぴったりです。二度目のハンマーからの壮絶な響き。溢れかえる音の洪水ですが、全てが有機的に結びついているようなとても充実した演奏です。

ロンドンsoの華やかな響きを見事に生かし、しかも有機的で充実した演奏でした。
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ベルナルド・ハイティンク/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりと確実な歩みです。ふわっと柔らかい第一主題。滑らかで美しい木管。感情を内に秘めたような第二主題。展開部に入ってもゆったりとしたテンポは維持されています。さらにテンポを落とす部分でも柔らかい響きが印象的です。ショルティ時代のシカゴsoとは全く違うオケのような柔らかさです。トゥッティのエネルギー感は凄いです。

二楽章、硬質で重いティンパニ。非常に音に力のある主要主題。楽器一つ一つがくっきりと鮮明です。細かい表現も厳密で音楽に締まりがあります。これはハイティンクの美点であり、中庸といわれる演奏ながら、細部の表現には凄いこだわりがあります。ただ、テンポがゆったりとしている分「悲劇的」の表題のような切迫感はあまり感じられません。

三楽章、穏やかですが、深く歌う主要主題。悲しげで非常に丁寧に演奏される副主題。中間部でも繊細な表情付けが絶妙です。とても美しく、酔いしれることが出来ます。ホルンもショルティ時代のマッチョな響きではなく、ふくよかで柔らかく美しい響きです。クライマックスでも表現が徹底されていて、非常に引き締まった緊張感のある演奏で、すばらしいです。

四楽章、深い響きのチューバのコラール。深く刻まれる第一主題。巨大なトゥッティのスケール感もすばらしい。バツンと強烈なハンマー。打った後の反動で女性の奏者がよろけるほどの強烈さでした。音楽が上滑りすることなく、オケが一体となって、深い響きを作り出しています。二度目のハンマーの後の金管のパワー溢れる響きもすばらしい。

悲劇的を強調するような演奏ではなかったですが、純音楽的な美しい演奏はすばらしいものでした。ハイティンクの卓越したオーケストラ・コントロール能力を示す演奏だったと思います。
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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、すごく豊かな残響の中で刻まれる低弦。力強く前に進もうとします。色彩感も濃厚で重量感のある演奏です。羊皮のティンパニ独特のバネのある響き。速いテンポの第二主題。ピーンと張った金管の響きが演奏の質感を高めています。同じような演奏時間のセーゲルスタムのサラッとして、穏やかな演奏とは対照的に、濃厚で重い演奏です。水中にいるような神秘的なカウベルの響き。重く鮮烈に刻み付けられる音楽。襲い掛かるように急き立てるコーダ。

二楽章、ゆったりとしたテンポで重い演奏です。テンポが大きく動きます。対照的に軽い中間部冒頭。テンポはよく動きます。オケの振幅も大きくソロの吸い込まれるような弱音とトゥッティの爆発に至るダイナミックレンジの広さはさすがです。

三楽章、この世のものとは思えないような美しい主要主題。非常に感情のこもった演奏で、歌やテンポの揺れなど多彩です。生への憧憬を表現するような非常に美しい弦。哀しみが溢れ出すような壮絶なクライマックス。バーンスタインの感情を思いっきりぶつけてくるような凄い演奏です。

四楽章、強烈なティンパニとモットー和音。色彩感も濃厚です。非常に深い表現とテンポの動き。すごくゆっくりと始まったコラールが次第に速くなってモットーへ。壮絶なトゥッティ。多彩なパレットを一気に見せられるような色彩感。アレグロ・モデラートからアレグロ・エネルジコへはそんなに大きなテンポの変化はありませんでした。凄い金管の咆哮ですが、汚い響きになることは無く、常に美しいところはさすがウィーンpoです。バチンと言う強烈なハンマー。それに続く金管の咆哮も壮絶です。三回目のハンマーもありです。地にもぐって行くようなうごめく金管の表現も凄い。

バーンスタインの感情が叩きつけられた壮絶な演奏でした。特に四楽章は壮絶そのもの。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第6番「悲劇的」名盤試聴記

キリル・コンドラシン/南西ドイツ放送交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、少し離れた距離で、涼やかな響きの演奏です。第二主題は少しねばりましたが、全体にあっさりとした表現です。ロシアの指揮者と言うと、爆演をイメージしがちですが、極めて冷静で精緻な演奏です。ライヴとは思えない完成度です。表題よりも、純音楽的なアプローチの演奏のようです。

二楽章、すごく速いテンポの演奏です。中間部は一旦テンポを落としますが、楽譜に書かれていることに忠実なようで、必要以上にアゴーギクを効かせたりはしません。颯爽としていてスタイリッシュでクールな演奏でなかなか魅力的で、個人的にはこういう演奏も好きです。

三楽章、この楽章も速めのテンポで進みますが、各楽器が織り成す繊細な絵模様がとても美しく、切なさも感じさせる演奏です。突出してくる楽器もなく、見事なバランスで制御の行き届いたすばらしい演奏です。速いテンポのおかげで、女々しくなることがなく、とても潔い演奏に感じます。

四楽章、ギーレンの演奏でも温度感の低い、しかも非常に透明感の高い演奏をしていたオケでしたが、この演奏でも同様に決して熱くはならずに精緻な演奏をしています。速めのテンポで爽快に飛ばしていく演奏には胸がすきます。作品の表題性にはあまり捉われず、純音楽的なアプローチで、こちら側も深みに沈みこむことはありません。もの凄い高速テンポで畳み掛ける後半部分。

速いテンポで爽快にスッキリとこの作品を聴かせてくれました。

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団

ヤンソンス★★★★☆
一楽章、ガツガツと深く刻まれる低弦。オケが近く、明確に提示される第一主題。音楽の変化の激しさが強調されたようなめまぐるしい変化です。木管の経過句はよく歌いました。展開部に入っても、荒れ狂い叩きつけるような激しさです。静寂な部分でも常に動きのある演奏で、とても活発です。力感にも溢れとても力強い音楽になっています。人生の激しい葛藤を描いているような演奏でした。

二楽章、この楽章も速めのテンポでせきたてるような凄く激しい開始です。良く歌い積極的な表現の演奏です。基本的には速いテンポですが、テンポを落とすところではグッと落として緩急を付けています。

三楽章、柔らかく豊かに歌われる主要主題。時に木管が音を短く切ることがあるので、流れが止まるような感じがします。クライマックスではテンポを速めて、かなり激しい演奏でした。この演奏は感情の叫びを強く表現しているようです。悲劇的と言うよりも怒りさえも感じる演奏です。

四楽章、ティンパニとともに出るホルンが激しい。チューバのコラールのところで入るハープや弦の弾く音も強いです。金属的で明るい音のカウベル。第一主題のアレグロ・エネルジコは速いです。コツンと言うような硬質なハンマー。緩急の差がすごくあって、鮮明に描き分けられています。再現部に入っても激しい金管。最後のティンパニも速いテンポでした。この楽章は健康的に感じました。

とても良くオケをドライブした演奏で激しい部分は凄味がありましたが、四楽章が健康的で悲劇的とはかなり雰囲気が違っていたのが残念でした。
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レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団

セーゲルスタム★★★★☆
一楽章、豊かな響きを伴った低弦の刻み。スネアも良く響いてクレッシェンドします。トロンボーンも良い音で鳴っています。ミュートをしたトランペットが強く響きます。クラッシュ・シンバルも強烈です。モットーが終って、木管だけになるとすばらしい静寂感の中で歌います。第二主題はテンポを動かして歌いました。展開部からはダイナミックレンジの広い音楽が続きます。カウベルが響き、ホルンが提示部のコラール風の旋律を奏する部分では思い切ってテンポを落として感情を込めた演奏になります。その後もかなり遅いテンポで推移します。劇的な再現部。確かめるようにゆっくりと演奏されます。テンポは遅いのですが、粘着質ではなく、サラッとしています。コーダは一転して速いテンポで追いたてます。劇的で感情の起伏の大きな演奏でした。

二楽章、一楽章に比べると軽い演奏。トランペットがクレッシェンドしました。中間部でテンポを落とし繊細な表現です。再現される中間部もとてもゆっくりしています。物悲しい哀愁に満ち溢れた演奏でした。

三楽章、美しく感情がジワジワと染み出すような慈愛に満ちた主要主題。悲しげでうつろな副主題。中間部ではホルンが積極的に歌います。弱音部分は非常に美しいです。再び副主題が現れる時にはテンポはさらに遅くなりたっぷりとした表現です。クライマックスでは絶叫することはなく、抑えた表現でした。

四楽章、はっきりと演奏される主題。盛大にモットー。思いの外浅い響きのチューバのコラール。ティンパニはバリバリと言っています。アレグロ・エネルジコへの移行はあまり大きなテンポの変化は無く、いつの間にかと言った感じでした。各楽器のつながりが有機的で、音楽が生き物のように動きを伴って提示されます。ドンと言う音のハンマー。トゥッティでは激しく金管が吹きますが、色彩感は淡白でサラッとした響きです。最後のティンパニは速めであっさりと終わりました。

全体に遅いテンポでしたが、引きずるような重さは無く、サラッとした響きと、感情のこもった表現の演奏でした。
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へルムート・ヘンヒェン/ネーデルラント・ フィルハーモニー管弦楽団

ヘンヒェン★★★★☆
一楽章、ソフトな低弦の刻み。第一主題も柔らかい響きです。サラッとした滑らかな肌触りです。モットーのティンパニも柔らかい打撃です。ホルンも咆哮することは無く、トランペット以外はとても柔らかいです。奥行き感のあるトロンボーン。柔らかいモノトーンのような色彩の中にトランペットだけが、ピーンと響いてきます。遅めのテンポで柔らかく丁寧で奥ゆかしく歌う音楽には、表題とは違う落ち着きがあります。

二楽章、三拍とも同じ強さで叩くティンパニ。すごく速いテンポの冒頭でした。トリオでは普通のテンポに落ちました。柔らかく、遠くから響いてくるようなロマンティックな雰囲気があります。ティンパニは常に三拍とも同じ強さです。浅い眠りを引き裂くようなトランペット。テンポを落とすところでは思い切って落として豊かに歌います。一楽章同様、トランペット以外はとても柔らかい響きで、悲劇的な悲しみに打ちひしがれるような痛切な響きではありません。

三楽章、すごく静かに演奏される主要主題。静寂の中に浮かび上がる木管。静けさを維持したまま音楽は進みます。中間部へ来て、少し音量も上がり動きもあるようになりました。クライマックスではかなり音量が大きくなって、弱音からの振幅はすごく大きいですが、悲しみがあふれ出すような雰囲気ではなく、とても落ち着いて、冷静な演奏でした。最後は波が押したり引いたりしながら終わりました。

四楽章、やはり柔らかくフワーッと盛り上がる響き。奥から響く鐘。柔らかい響きの第一主題ですが、トランペットだけが浮くように別物として響きます。オケ響きの中になじんだホルンの跳躍。激しい部分でも荒れることは無くとても丁寧な演奏です。一度目のハンマーはバツンとかなりの衝撃でした、ハンマーからオケが目を覚ましたように豪快に鳴りましたがしばらくするとまた落ち着いた柔らかい響きになります。二度目のハンマーの打撃もすごい音量です。再現部に入るとまた小さい音量の序奏の主題です。また、何も無かったかのように穏やかに音楽が進みますが次第に演奏は高揚してきます。最後は速いテンポでティンパニが演奏して終わりました。

静寂感と柔らかい響きで演奏されて、四楽章のハンマーの打撃でそこまでためたエネルギーを開放するような音の洪水にはエクスタシーさえ感じるような効果的な演奏でしたが、「悲劇的」の表題とは遠い穏やかな演奏でした。
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マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ヤンソンス★★★★☆
一楽章、豊かな残響の中に響く低弦のガツガツとした響き。弦楽器に比べると控えめな金管。モットーの後はゆっくりとしたテンポでたっぷりと歌います。第二主題でテンポを速めます。提示部の反復がありました。さすがコンセルトヘボウと思わせる見事なアンサンブルです。展開部の後半にはとても豊かな歌がありました。再現部は激しさを増しています。コーダでも必要以上にオケの音量を要求していません。

二楽章、アンダンテ・モデラートが二楽章です。ゆったりと丁寧に始まりました。すごく心のこもった歌です。間を取ったり、波が押し寄せて引いて行くように、音楽が押したり引いたりしてとても自然な揺れです。一つ一つの楽器がくっきりと立っています。中間部はホルンが奥まっているので、鮮明な色彩感ではありませんでした。クライマックスではテンポを煽りながら哀しみが溢れ出す様を描き出しました。艶やかなフルートが美しく残りました。

三楽章、豪快に鳴るティンパニと低弦。艶やかで柔らかいヴァイオリンの主要主題。トランペットが突き抜けて来ます。音の鮮度が高く生き生きとしています。中間部で、小さく定位するオーボエ。響きに透明感があって、とても美しい演奏です。アーティキュレーションの表現もしっかりしていて、明快です。

四楽章、華やかな主題。奥行き感のあるコラール。第一主題は快速です。深みがあり透明感の高い非常に美しい演奏です。ハンマーの前後も流れの良い美しい演奏で、色彩感も豊かです。二度目のハンマーの後は指示通り「ペザンテ」になりました。再現部の序奏の主題も華やかで美しい響きです。表題を意識した演奏ではありませんが、個々に描き分けられる楽器が非常に美しいく深みがあります。

深く感情的にのめり込むような演奏ではありませんでしたが、深みのある色彩感豊かな音色で、オケを限界近くまで鳴らさずに非常に美しい演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1977年ザルツブルクライヴ

カラヤン★★★★☆
一楽章、推進力のある第一主題。凄い緊張感が伝わってきます。第二主題もせきたてるように進みます。提示部の繰り返しはありません。伸び伸びと美しく響く金管。きちんと描き分けられた色彩感豊かな演奏です。スタジオ録音には無い激しさです。

二楽章、登場する楽器がキリッと立っていて、濃厚な色彩感です。オケはさすがに上手く、とても安定感があります。大きく歌ったり深く感情移入するような演奏ではありませんが、非常に整った美しい演奏です。

三楽章、静かで穏やかな主要主題。深い表現やアゴーギクなどはありませんが、整然とした美しい演奏に不満はありません。大きな起伏も無く進みますが、作品からにじみ出るような哀しみが伝わってきます。クライマックスもそんなに大きな盛り上がりはありませんでした。

四楽章、豪華な響きです。内面に深く踏み込むことはありませんが、ライヴならではの金管の乱舞が良いです。アレグロ・エネルジコへ向けての加速はあまり強烈ではありません。造形的な美しさを保っています。一回目のハンマーは期待したほど大きな盛り上がりではありませんでした。金管はかなり強く吹きますが、それでもしっかりと制御されています。二度目のハンマーり後、トランペットがかなり強く演奏しますが、それでも美しいです。次第に熱気を帯びてきて、咆哮寸前の強奏ですが、それでも美しい響きです。ライヴでこの複雑な曲をここまで美しく演奏できるとは驚きです。

ライヴでありながら完成度の高い、美しい演奏でした。切れ味鋭いスッキリとした演奏で、内面へは踏み込まず、ひたすら美しさを追求した演奏だったようです。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第6番「悲劇的」名盤試聴記

ディミトリ・ミトロプーロス/ケルンWDR交響楽団

ミトロプーロス★★★★
一楽章、かなり遅いテンポのでフワッと弾むような低弦の刻み。一時音量を落とす場面がありました。下品に音を切るトランペット。柔らかいティンパニですごく遅く演奏されたモットー。熱っぽい第二主題。テンポがかなり頻繁に動きます。遅くなる部分はかなり思い切った遅さです。テンポの動きは大きいですが、不自然さは感じません。ただ、即興的に動いているのではなく計算された動きのようです。

二楽章、ソフトな冒頭。強弱のコントラストがはっきりとしています。何かに追われているかのように、せきたてるような中間部。重々しくと指定されている楽章ですが、テンポも速く、とてもリズムが弾んで軽い印象です。

三楽章、乾いた響きのヴァイオリンの主要主題。乾いた響きと音を切ることがあるので、あまり趣き深い演奏とは言えません。クライマックスでもトランペットが浮いて下品な感じでした。

四楽章、速いテンポのティンパニ。コラールはゆっくりでした。二度目のモットーもゆっくりとしたテンポで演奏されました。テンポは頻繁に動いています。提示部へ入る前は壮絶な強奏でした。第一主題もそんなに速くはありませんが力に溢れています。テンポがたびたび遅くなります。ホルンの跳躍の前もすごくテンポを落としました。ハンマーはあまりはっきりとは聞き取れませんでした。非常に強い音がする演奏です。二度目のハンマーははっきりと聞き取れました。1959年のライヴとしてはかなりの完成度です。オケはかなりの集中力で演奏しています。トランペットは突き抜けてきます。三度目のハンマーもありました。展開部までは意表を突いたテンポの動きがありましたが、再現部からは、猛獣が悲劇の淵へと突進して行くようなものすごい勢いの演奏でした。

大きなテンポの変化に強い音と指揮者の強い意志が表出された演奏で、なかなか聴き応えがありました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団

ホーレンシュタイン★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポでふわっとした響きの低弦の刻みです。第一主題は特に特徴ある歌い回しはありませんが、トロンボーンはしっかりと吹きます。地面にしっかりと爪を立てて進むような確実な歩みです。第二主題はロマンティックです。提示部の反復をしました。モットーのトランペットは非常に弱いです。ライヴなのでキズはたくさんあります。とても遅いテンポで時には叩き付けるような強さがあります。壮大な演奏でした。

二楽章、この楽章も遅めのテンポで確実に進みます。中間部は少しテンポが速くなっているようですがテンポは遅くなったりします。ティンパニに乗ってホルンが登場する部分でもホルンは非常に弱く演奏しました。遅いテンポがさらに引きずるように遅くなったりします。すごく遅いテンポですが、弛緩しているようには聞こえません。

三楽章、この楽章もゆっくり目のテンポで作品を大切に慈しむように丁寧に歌います。物悲しい雰囲気がよく出ています。ホルンの音程が危なっかしいです。中間部ではホルンがとても大きな表情を付けて演奏するのが印象的でしかも効果的です。しばらく穏やかな雰囲気で淡々と進みます。クライマックスではあまり劇的な表現はありませんでした。

四楽章、あまり大音量にはならないモットー。この楽章も遅いテンポです。コラールが演奏された後一旦テンポを速めましたが、その後はすごく遅いテンポです。提示部に入るところの打楽器の衝撃はすごかったです。第一主題も遅いテンポで、主題よりも周りの楽器の方が強く主張しています。ホルンの跳躍は静かな演奏でした。すごく遅いテンポですが、粘着質では無いので聞くのに負担はありません。ペシャンと言う音のハンマー。ハンマーへ向けては大きな盛り上がりはありませんでした。これだけ遅いテンポでよくオケの緊張の糸を維持し続けていると感心します。テンポは非常に遅いですが、色彩感は淡泊で、どれかの楽器が突出して強烈なカラーを描くことはありません。再現部の直前でさらにテンポを一旦落としました。その後は大きな振幅もなく終わりました。

非常に遅いテンポで貫かれた演奏で、雄大なスケールを感じさせました。これだけ遅いテンポでも音楽は弛緩せずに最後まで維持されたのはすごいことだと思います。ただ、オーケストラの技量が最高水準のものでは無く、オケの技量が高ければもっと起伏に富んだ音楽になって感動も深いものになったのではないかと惜しまれます。
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クラウス・ペーター・フロール/マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団

フロール★★★★
一楽章、速めのテンポでサクサク進む低弦。柔らかく安心感のある響きの第一主題。ノヴォシビルスクpoの強烈な演奏の後だからとても自然で安定した演奏に聞こえます。よく歌う木管。美しく、テンポも動く第二主題。提示部の終わり付近では大きくテンポを落としました。提示部の反復ありです。とてもよく歌いますし、躍動感もありなかなか良い演奏です。オケのパワーもあります。カウベルは独特の響きですが、チェレスタやカウベルが登場する部分でもテンポを落としてとても濃厚な良い雰囲気を聞かせてくれました。トゥッティの響きが浅いのが少し残念なところです。

二楽章、強烈なティンパニの打撃。弱く柔らかく演奏される中間部。表現は積極的です。ガクッとテンポを落としたり、テンポを戻してグイグイ前へ進んだり多彩な表現です。あまり感情的にのめりこんでいるいるようには感じませんがテンポはよく動きます。

三楽章、最初の二つの音の後に間を置いた主要主題。速めのテンポであっさりと演奏されて、作品に酔うことはできません。中間部以降は少しテンポを落としたりもしますが、作品にどっぷりとのめり込むような表現はしません。クライマックスでは悲しみがあふれ出すような音の洪水でした。

四楽章、柔らかく美しいヴァイオリンの主題。強烈なティンパニとモットー。モットー和音の後はテンポを落としてたっぷりとした表現です。提示部へ向けて息を吹き返すように加速します。とても活発で力が湧きあがるような生き生きとした第一主題。展開部の前のホルンの咆哮もすごいものでした。ベチンと言うハンマーの打撃音でしたが、画面では大太鼓をタオルでミュートして二本の撥で叩いただけのようでした。テンポは頻繁に動きます。鳴らすところでは思いっきり金管が吹きますので、豪快な演奏になっています。再現部でもテンポを落として一音一音印象付けるように濃厚に演奏しました。三度目のハンマーの後、テンポを落として力なく崩れ落ちる様を表現しました。

テンポを大きく動かして、オケを豪快に鳴らした演奏でした。なかなか力のあるオケでしたし、パワー感もなかなかでした。作品の内面に深く入り込むような演奏ではありませんでしたが、力強く豪快な演奏は効いていて気持ち良いものでした。
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エリアフ・インバル/ローマ交響楽団

インバル★★★★
一楽章、柔らかく丸みのある音です。テンポを動かすことなく、オケを明快に鳴らして颯爽と進む音楽です。第二主題も速めのテンポであっさりと進みますが、金管は良く鳴らされています。提示部の反復がありました。展開部では奥まったところから響く繊細な木管と対照的に強く鳴らされる金管が印象的です。再現部もグイグイと進みます。作品に深く感情移入することは無く、楽譜に書かれていることを忠実に、しかもダイナミックに表現しています。コーダはかなりテンポを速めて演奏しています。

二楽章、かなり遅いテンポで引きずるようです。オケは伸び伸びと鳴らされています。主部とは対照的に音量を落とした中間部はテンポも動いて歌っています。とても繊細な弦が美しいです。三拍子ですが、ワルツのように強弱弱とはならずに三拍とも強でズシンズシンと強い歩みです。

三楽章、主要主題の途中で少し走るような(16分音符を3連符のように演奏しています)独特の歌い回しです。中間部ではホルンや柔らかい表現です。感情的な振幅はあまり無く、クライマックスでも溢れ出すような悲しみの表現はありませんでした。

四楽章、奥ゆかしく細身のヴァイオリンの主題。提示部へ向けてはそんなにテンポを上げることはありませんでした。金管は随所で気持ち良く鳴らされます。筋肉質で締ったホルンの跳躍。展開部でも細身で奥ゆかしいヴァイオリン。あっさりとハンマーが打たれました。やはり感情に流されるような演奏ではありません。金管は良く鳴らされていますが、決して無機的にはならず、とても有機的で躍動感がありますが少々雑な感じも無きにしも非ず。二回目のハンマーも直前でテンポを落としたり間を取ったりはしませんでした。

感情に溺れることなく、スコアに忠実に、オケを爽快に鳴らした演奏でした。ちょっと雑な印象も無いわけではありませんが、繊細な弱音と豪快になる金管の対比はなかなか聞きものでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第6番「悲劇的」名盤試聴記

ナヌート/リュブリアナ放送交響楽団

ナヌート★★★☆
一楽章、編成が小さいように感じる薄い響きです。シンバルが思いっ切り良く鳴り響きます。スネアのロールも異常にでかい!音楽のうねりなどはなかなか上手く表現されています。

低音域があまり録られていないようで、響きの厚みがありません。金管もきっちり吹いているのですが、今ひとつパワーに欠けるような感じがします。

二楽章、演奏の集中力は高いようで、聴いているこちら側も引き込まれます。

三楽章、安定した演奏で聴かせどころもしっかり聴かせてくれました。

四楽章、静寂感もあるし、オケがしっかりと指揮者を向いて演奏しています。ハンマーの一撃へ向かう高揚はなかなかでした。

音楽が進むにつれて演奏の温度感が高くなってきました。ドラがものすごく大きい!

結構、面白く聴かせてくれました。

クラウス・テンシュテット/ニューヨーク・フィルハーモニック

テンシュテット/ニューヨーク★★★☆
一楽章、長い残響のホールでの収録です。オケが遠くなったり近くなったりします。色彩が克明で表情が引き締まっています。

きちんと録られていれはトランペットが突き抜けてきて凄い演奏だろうと想像するのですが、リミッターがかかったようにffではオケが後退してしまうので、分かりません。

何かに追われているかのように音楽が前へ進みます。とても激しい音楽の起伏があります。凄い演奏です。ただ録音の悪さでかなり損をしています。

二楽章、テンポの動きも絶妙です。原色で描かれたような鮮やかさが印象的です。

三楽章、感傷的な冒頭部分でした。とても悲しげな演奏です。

四楽章、すごく存在感のあるチューバでした。リミッターの働きが強すぎてトゥッティで音が抑えられてしまって、実際の音楽の起伏を直接感じることができません。かなり劇的な演奏が行われているのは想像できるのですが・・・・・。

ロンドンpoとのライブのようにハンマーの直後のテンポが落ちることはありませんでした。
美しいコラールでした。

ジェームズ・レヴァイン/ロンドン交響楽団

icon★★★☆
一楽章、深みのあるコントラバスの響き。温度感があって、ピーンと張り詰めるような緊張感はありません。バランスの良い演奏です。金管は必要なところでは遠慮なく吹きますが、ショルティの演奏のようにクローズアップされていません。展開部からは少しテンポを落とし、音も短めに演奏しました。チェレスタがとても柔らかく良い音です。カウベルが登場して、とても安堵感のある音楽です。ティンパニの釜が良く鳴った豊かな響きです。再現部ではそのティンパニが強調されていました。ゆっくりしたコーダの開始。文句無く金管も強奏しましたが、色彩感は今一つだったよう感じます。

二楽章、表情も締まっていてなかなか良い演奏です。中間部は不安定な感じを上手く表現しています。どのパートも過不足無く演奏されてはいるのですが、もう一歩踏み込んだ表現が欲しいような感じがします。テンポも大きく変化しているし、思いがけない楽器が強く出たりしてハッとさせられることもあるのですが・・・・・。

三楽章、とても静かに始まる冒頭の主要主題。楽器間のバランスにとても気を使った演奏でブレンドされた響きがとても美しいです。近く鋭い音のカウベル。哀しみの表現も淡々としています。とても美しい演奏なのですが、心に響いてこないのが残念なところです。レヴァインは演奏に感情を乗せていないのでしょう。

四楽章、大太鼓がドンと響いた冒頭。無表情な序奏。ティパニと同時にフワァーっと広がったトランペット。非常にゆっくりと演奏されるコラール。トランペットは奥まっているように感じます。テューバの存在感がとても大きいです。感情移入しない演奏にもかかわらず、精緻なところもないので、中途半端な印象は拭えません。ティンパニはとても良い響きです。二度目のハンマーの直後に聞いたことのない弦の動きがありました。再現部から弦がガリガリガリガリとアクセントを付けて入って来ます。激しく演奏される部分もどこか遠くで鳴っているようなリミッターがかかったような不思議な感覚です。三度目の序奏主題の前のドラでかなり歪みました。弦がガツンと出てきたりするのですが、金管の強奏は突進して来ません。

美しい演奏ではあったのですが・・・・・。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、低弦がガリガリと弾くことはなく、比較的穏やかな冒頭。第一主題も意外と穏やかです。響きが浅く、オケが一体になって動く迫力がありません。ティパニと一緒に現れるモットーのトランペットもフワーッとした音の出し方でした。ホルンは凄い咆哮ですが、他の金管は控え目です。第二主題もあっさりとしていて、晩年の深い感情移入とは違います。展開部に入っても、響きが浅く音に重みもなく軽い演奏です。再現部は速めのテンポで演奏されます。ただ、音楽の情報量が少ない感じで、複雑なオーケストレーションの余分なものを全て削ぎ落としたような響きです。

二楽章、比較的ゆっくりとした演奏です。オケが次第に目覚めて来たようで、次第に深い表現をするようになってきました。

三楽章、抑えた音量で細身の音色の主要主題。晩年の深い感情の吐露とは違い、基本的にはあっさりとした表現ですが、時折濃厚な表現を見せる部分もあります。次第にオケにも一体感が出てきて、深いうねりも表現されて行きます。クライマックスでの響きが薄いのが残念です。

四楽章、非常にゆったりと演奏される序奏のコラール。生命感があり力強い第一主題。オケも熱気を帯びてきて、積極的な表現をするようになって来ました。バーンスタインの指揮も次第に粘っこく濃厚な表現をするようになって来ます。展開部に入ると、透明感も高まり、見通しの良い演奏になります。バチンと言うハンマーの響き。行進曲が強い推進力を持ったり、停滞したりと常に変化します。再現部からはテンポも大きく動き、さらに音量も一段階アップして、表現の幅を大きく広げます。三度目のハンマーもありました。コーダに入るとどんどん沈み込んで行きます。

尻上がりに良くなりましたが、一楽章の浅い演奏がとても残念でした。
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ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、深く重い響きのコントラバス。第一主題の途中でトロンボーンがクレッシェンドしました。ライヴでありながら、凄く冷静で整った演奏です。木管の経過句は歌いました。第二主題は非常に速いテンポです。提示部の反復はしませんでした。展開部に入って一旦テンポが落ちました。セルでもこんな情緒的な音楽をしていたのかと思います。極めて細く繊細なヴァイオリン・ソロ。録音でダイナミックレンジが制限されているので、激しさはあまり伝わってきません。実際に演奏も穏やかなものなのかも知れません。金管が咆哮することは無く、金管を抑えて音楽が作られているような感じさえします。

二楽章、ティンパニの一拍目があまり強調されず、三拍とも同じよな音です。とてもバランスに神経を使った演奏で、明晰で見通しの良いすがすがしい演奏です。中間部は速めのテンポでサラッと演奏されます。ティンパニは常に三拍ともほとんど同じ強さで叩いています。金管はかなり強く吹いているようですが、録音の関係か奥まっていて、前に出てこないので、とても統制のとれた演奏のように感じます。コーダは速いテンポでした。透明感の高い演奏でした。

三楽章、わずかに速めのテンポで抑揚に伴ってテンポを落としたり、とても心のこもった演奏です。美しく、透明感の高いそれでいて温度感の低い演奏です。マーラーらしいどろどろしたところが無く、すがすがしい演奏です。キリッと引き締まった音色で奥まで見通せるような音楽になっています。クライマックスでも音圧はあまり感じません。

四楽章、美しいヴァイオリンの主題。速いテンポのモットー。暖かみのあるチューバのコラール。深い響きのコントラバス。セル好みの締まったホルンが美しく跳躍します。アレグロ・エネルジコに入っても金管を咆哮させることも無く、抑制の効いた表現で、冷静です。金管が少し遠くにいる感じで、かなり強く吹いていても熱気を感じさせません。ハンマーの後は拍子抜けするような抑えた演奏でした。二回目のハンマーの後もトロンボーンの開いた音は聴けませんでした。再現部に入って、思い入れの無い素っ気無い表現。マーラーの色彩のパレットが十分に生かされていないような感じがします。

表題性にとらわれない、爽やかな演奏でしたが、ハンマーの後の表現に物足りなさを感じました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

カラヤン

★★★☆
一楽章、弦を弾くようなチェロとコントラバスの刻み。あまり前のめりにはならず落ち着いたテンポで確実に進みます。割と暖かいモットー。ベルリンpoはかなり余裕を残して演奏しているようで、作品なりの激しさはありますが、咆哮するような激しさではありません。展開部に入っても落ち着いた美しい演奏です。カウベルはほとんど聞こえません。安らかなヴァイオリンのソロ。コーダでもかなり余力を残した余裕の演奏でした。

二楽章、確実な歩みで、少し重い感じです。トリオは夢見心地のような淡い雰囲気です。テンポは遅く足取りは重いのですが、演奏はかなり軽く振幅も大きくありません。

三楽章、美しい主要主題。副主題も少し離れたところから響くような美しい演奏です。とても美しいですが、淡々と進みます。哀しみが堰を切ったような雰囲気もあまり強く表現されず、感情の起伏はあまり表現されません。

四楽章、主題からかなり余裕の演奏です。ザイフェルト時代とはかなり違って引き締まったホルン。ゆっくりとした序奏です。主題に入ってもカラヤンとベルリンpoそしてマーラーの作品にしては響きが薄い感じがします。ちょっと重い第二主題。展開部もカラヤンらしいいグラマラスな響きはありません。うねるような複雑さを聞きたいところですが、とても整理されていてスッキリしています。再現部の最初の方ではかなり強いエネルギーの放出がありました。再現部からは、ここまで抑え気味だった金管がかなりの強奏をしますが、やはりコーダは整った美しい演奏でした。

かなりスッキリと整理整頓された演奏で、美しい演奏ではありましたが、物足りなさは感じてしまいました。

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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

シノーポリ★★★
一楽章、ビンビンと跳ねるような冒頭。管弦のバランスは良いです。響きに厚みがあります。

ゆっくり、粘っこく音楽を表現して行きます。全体の響きがモワッとしていて、フワフワした演奏に感じます。

ゆっくりとしたテンポなので音楽が前へ進む力やスピード感がありません。すごくゆっくり演奏される弱音部。

二楽章、何となく漫然と演奏されているような印象で、演奏に主張を感じられません。

オケはかなりの熱演なのですが、なぜか伝わってこないもどかしさがあります。

三楽章、ゆっくりとしたテンポの上に無表情の音楽が流れて行きます。後半へ向けて音楽が熱っぽくなってきました。音の洪水が押し寄せてくるような部分はなかなか聴かせてくれました。

四楽章、短めに演奏される弦に金管の咆哮が重なります。ソフトな音色のティンパニが全体の雰囲気のフワフワ感をさらに強めます。

ハンマーの打撃は頂点にはなく、音楽の流れの中に自然な感じの一撃でした。

この演奏は作品の持つ複雑怪奇なものをそのまま音にしたような演奏で、シノーポリは意図的に交通整理をしなかったのかも知れない。私は、この演奏を聴いて、この作品が何なのか、ますます分からなくなりました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈★★★
一楽章、編成が小さいような感じをさせる薄い響きです。ホルンが鳴りきらないので欲求不満になりそうです。
音楽には推進力が十分あります。巨大な編成を意識させないすっきりとした音楽はナゼなのだろう?

二楽章、シロフォンの音がすごく立って来るのですが、金管が今ひとつ鳴りきらない感じがつきまといます。

三楽章、速めのテンポです。

四楽章、かなりの集中力で注意深く音楽が進みます。頂点へ向けての間の取り方など、独特のものがあります。
この楽章になってから大フィルは見違えるように変貌しました。見事な一体感で音楽を聴かせてくれます。
ハンマーはこれまで聴いたことがないくらい強烈です!
後半のオケのフルパワーはかなりの熱演です。
たっぷりとゆっくり演奏されたコラール。

四楽章はなかなか聴き応えがありました。

エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団

スヴェトラーノフ★★★
一楽章、一歩一歩踏みしめるように確実に進む行進。トランペットとトロンボーンが遠慮なく吹きまくります。ティパニは釜が鳴って良い音です。音のエッジが立っていて輪郭の明確な演奏です。コントラバスの刻みも何かを抉り出すかのような重さと凄みがあります。

二楽章、凄く速いです。アクセントも強めに演奏します。途中でテンポが落ちて、一般的なテンポになりました。テューバとコントラバスの表現はすごくグロテスクです。

三楽章、スヴェトラーノフの演奏だったら、もっと濃厚な表現をするかと思っていたのですが、意外と平板でそっけない演奏で期待はずれでした。

四楽章、すごくテンポを落としたコラール。モットーを示すあたりからかなりテンポが速くなりました。録音のせいかホルンが遠くてメロディの受け渡しのバランスが悪いです。チェレスタはすごく近いです。汚いくらいに吹きまくるトランペットとトロンボーン。思いっきり叩きつける打楽器。金管は容赦なく吹きまくりますが、表現自体は意外と淡白だったように思います。

ギンタラス・リンキャヴィチウス/ノヴォシビルスク・フィルハーモニー管弦楽団

リンキャヴィチウス★★★
一楽章、少し歪みっぽい録音です。粘着質で重い弦。速いテンポで濃厚な第二主題。提示部の反復をしました。後ろ乗りするスネア。オケはトビリシ交響楽団よりは上手いようです。デッドで妙にリアルな音です。テンポはよく動いています。展開部からは激しい表現になっています。ゆっくりするところでは、思いっきり歌います。ヴァイオリン独奏も艶やかと言うよりも糸を引くような粘っこい響きです。指揮者のリンキャヴィチウスの指揮を見ていると激情型の指揮のようです。オケも明確に鳴らしてメリハリのある演奏です。かなり濃厚な演奏でした。

二楽章、ガツガツと刻む低弦。濃厚な表情付で歌われる第一主題。とても激しく騒乱状態のように乱舞する音。中間部はゆっくりとしたテンポですが、響きがデッドなので、とても現実的です。ティンパニのリズムに乗ってホルンが吹く部分は急にテンポを落としました。デッドな録音のためにシロフォンなどもカチーンと響いて来ます。リンキャヴィチウスの指揮に合わせて弦などは松脂を飛ばしながら必死に演奏しているように感じます。音楽に力があり、前へ進もうとします。間をあけたりテンポが動いたり色々やります。ぐんぐん押してくる音楽です。

三楽章、ストレートで現実的で、情緒などはほとんど感じさせません。中間部ではホルンが激しい演奏です。カウベルなどもかなりうるさいです。ホールの残響がほとんど無く、デッドなので、強弱の変化などはとても良く聞き取れます。クライマックスの手前でかなりテンポを落としました。クライマックスはテンポを速めて劇的な表現です。

四楽章、粘着質のヴァイオリンの主題。トゥッティでは歪んであまり良く聞き取れませんでした。第一主題はかなり騒々しい演奏です。展開部でも元気な弦。カチンと言うハンマー、小さいハンマーを片手で打ちました。カスタネットを大きくしたような音でした。トランペットやトロンボーンが遠慮なく強奏します。 再現部の前で一旦音楽が停止したかのように大きくテンポを落としてから再現部に入りました。色彩感は原色の濃厚なもので、とても強烈な演奏です。すごい体力のトランペット。残響を伴わずに生音で絡み合う音楽は壮絶です。三度目のハンマーもありました。

強烈なオケの響きと濃厚な表現。テンポも大きく動く演奏で、爆演の部類に入るのだろうと思います。キワモノ的な迷演でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」の名盤を試聴したレビュー

テオドール・クルレンツィス/ムジカエテルナ

★★★☆