カテゴリー: マーラー:交響曲第5番名盤試聴記

マーラー:交響曲第5番の名盤は、インバル/フランクフルト放送soの、楽譜に忠実で、緻密で非常に伸びやかな演奏はとても爽快な名盤です。テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニーoの1988年ライブは、テンシュテットらしい、すさまじい感情の吐露を聴かせてくれる名盤です。シップウェイ/ロイヤル・フィルハーモニーoは、楽譜に書かれていることを丁寧に表現しようとしている演奏で、どんなにブラスセクションが咆哮しても優しさを失うことはありません。とても稀な名盤です。

マーラー 交響曲第5番

マーラーの交響曲第5番は、彼の交響曲の中でも特に人気が高く、ドラマティックで多彩な音楽世界を展開する作品です。この交響曲は、マーラーが結婚し、新しい人生の始まりを迎える中で作曲されており、彼の内面的な葛藤と歓喜、そして愛が反映されています。以下、この曲の主な特徴を紹介します。

1. 楽章構成

交響曲第5番は5つの楽章で構成されていますが、演奏は3つの大きな部分に分かれています。マーラーがそれぞれの楽章で異なる感情と情景を描き出しているため、各楽章ごとにまったく異なる雰囲気が感じられます。

  • 第1楽章 (Trauermarsch – 葬送行進曲): トランペットの独奏で始まる葬送行進曲です。マーラーの音楽には葬送行進曲のモチーフが多く登場しますが、この楽章も重苦しい雰囲気と悲しみを湛えています。低音の弦楽器が主題を奏で、悲しげな旋律が繰り返されます。
  • 第2楽章 (Stürmisch bewegt, mit größter Vehemenz – 嵐のように激しく): 第1楽章の葬送行進曲に続き、激しい感情が爆発するような音楽です。オーケストラが激しく対立するようなリズムと和声が印象的で、まさに「嵐」のようなエネルギーが渦巻きます。この楽章は交響曲の第1部の終わりとなります。
  • 第3楽章 (Scherzo): 第2部にあたるスケルツォで、前の楽章とは対照的に、明るくエネルギッシュで祝祭的な雰囲気が広がります。ホルンが特に目立つ役割を果たし、時には舞踏的、時には牧歌的なリズムがリスナーを魅了します。このスケルツォは長大で、交響曲の中核をなす重要な楽章です。
  • 第4楽章 (Adagietto): このアダージェットは、マーラーが愛する妻アルマへの愛を表現したと言われる、美しい弦楽とハープだけの緩やかな楽章です。静かで穏やかな旋律が流れ、マーラーの感情が深く込められた部分であり、非常にロマンチックで情緒的な瞬間です。映画『ベニスに死す』で使われたことで有名になりました。
  • 第5楽章 (Rondo-Finale): 第3部のフィナーレにあたるこの楽章は、喜びと希望に満ちた明るい音楽です。ロンド形式で繰り返されるテーマが快活に響き、楽器同士が掛け合いながら音楽が発展していきます。全体を通して生命力が感じられ、最後には壮大なクライマックスを迎えて終わります。

2. 転換期の作品

  • マーラーの交響曲第5番は、彼の作曲スタイルが転換期を迎えた作品とされています。それまで声楽とオーケストラを組み合わせていたマーラーが、初めて純粋なオーケストラ作品として作曲したのがこの交響曲です。
  • 壮大な構成と複雑な管弦楽法が用いられており、マーラーのオーケストレーションの技術が遺憾なく発揮されています。

3. 感情と内面の葛藤

  • マーラーの交響曲第5番は、悲しみ、苦しみ、愛、喜びなど、様々な感情が交錯する作品です。特に第1楽章から第2楽章の暗い雰囲気と、第4楽章の美しいアダージェット、そして第5楽章の喜びと活力の対比が際立っています。
  • これにより、マーラーの人生観や、個人的な感情、さらには人間の感情の複雑さが音楽で描き出されています。

4. 映画『ベニスに死す』とアダージェット

  • この交響曲第5番は、映画『ベニスに死す』で使用された第4楽章「アダージェット」が特に有名です。この美しい楽章は、マーラーの妻アルマへの愛を表したものとされ、繊細で静かな響きがリスナーの心を捉えます。
  • 映画の影響もあり、このアダージェットはマーラーの最も知られた楽章の一つとなっています。

5. まとめ

マーラーの交響曲第5番は、深い感情と豊かな音楽表現が込められた名作です。葬送行進曲から始まり、様々な感情を経て歓喜のフィナーレに至るこの作品は、人生の喜びと苦悩を音楽で表現したマーラーの芸術の真髄とも言えます。

4o

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

icon★★★★★
ワンポイントマイクでの録音。空間再現はすばらしいものがあり、トゥッティではホールの天井の高さまで分かる明晰な録音です。また、各楽器が伸びやかに記録されている点でも特筆もの。
CDでこれだけすばらしい音が聞けるだけでもすごいことだと思います。

一楽章、一発録りの緊張感か、冒頭のトランペットの音が震えている。トゥッティの空気感がすばらしい。定位感も自然だし、個々の楽器の音も艶やかで伸びやか。まだ、少し寒い朝一のコンサートホールのような空気感だ。
葬送行進曲と言うには明るい音色です。とくにブラスセクションの張った音は、このCD独特の音がします。
伸びのあるブラスセクションの中でも、トランペットは特に強烈に届いてきます。他の録音だったらうるさく聞こえるほどのバランスであると思われますが、このCDでは位相が整ったとても良い音が伸びてきます。
弱音部も細心の配慮がされているようですが、萎縮することなく伸び伸びとした音楽が展開されます。この録音には酔えます。

二楽章、激しくと指定されていますが、十分に激しく演奏されているのですが、激しさが決して下品な響きになりません。音域のバランスが逆三角形になっていて、低音の厚みが乏しいので、怒涛の激しさも表現されないのかもしれません。
切れ味抜群な演奏には聞こえるのですが、個々の楽器が主張してくる感じで、全体の響きをコントラバスが支え切れていないようで、小物だけが騒いでいるような激しさになってしまうのが、ちょっと残念です。
でも、このバランスと切れ味は病み付きになりそうなくらい魅力があります。
インバルの指揮は特にねばったりすることはなく、音楽の流れに逆らわずに自然に指揮しているようです。

三楽章、スケルツォ、力強くと言う副題。やはり、コントラバスのバランスは弱いです。
トランペットの突出があまりにも強調されすぎて、他のパートの演奏にあまり聞き耳をたてなくなってしまうと言うか、トランペット以外のパートもすごく上手いのですが、それをかき消すほどトランペットの存在が大きい演奏になっています。

四楽章、ブラスの伸びやかで艶やかな響きに比べると、弦の繊細感があまり収録されていないので、この楽章に美しさを求めるのはムリなようです。
でも、インバルの控えめな表現がかえって上品さを醸し出していて、なかなか良い雰囲気があります。

五楽章、木管も含めて、管楽器は総じてとても良い音で収録されていて、聞いていて気持ちが良いです。アーティキュレーションの表現も過度にならず、イヤみなく表現されているので、安心感があります。
とても色彩感が豊かで、マーラーの背景にあるものが表現されているかは疑問ですが、これほどスカッと聞かせてくれる演奏も少ないと思うので、貴重なCDです。
ブラスの強奏の中から突き抜けてくるトランペットの息のスピードが感じられるような凄い演奏です。

切れ味抜群、スタイリッシュでかっこいいマーラーです。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団1988年ライブ

icon★★★★★
一楽章、陰鬱感のあるトランペットです。ドラの響きがずっと残っています。感情移入された弦の主要主題。トゥッティでも激しいですが余力を残した美しい響きです。

二楽章、激しい序奏です。うねる第一主題とは打って変わって静寂な第二主題。展開部直前のティンパニの猛烈なクレッシェンドです。第二主題の途中のミュートしたホルンがすさまじい響きを演出します。再現部の金管もすごい!いろいろ動く楽器にそれぞれ表情が付けられていて、吸い込まれそうになります。
打楽器とブラスセクションのアンサンブルも良い。いろんな楽器が絡み合って、大きなうねりのような音楽になって行きます。テンポを落として終りました。

三楽章、ティンパニが強烈!ホルンの咆哮もなかなか聞き物です。ホルンは常にビンビンで気持ち良いです。表現の幅がとても広く作品への共感を強く感じます。ホルツクラッパーも強烈でした。力まずに軽がると鳴るトゥッティの一体感はすばらしいです。

四楽章、とてもナイーブな表現で、音楽の揺り篭に乗せられているような感じで、優しさに溢れています。消え入るように美しい演奏です。

五楽章、エネルギー感が凄い。すさまじいホルンの咆哮!ライヴでありながらこれだけ完成度の高い演奏をすることに大変驚きます。輝かしいコラール。全身全霊とはこのような演奏のことを言うのでしょう。すばらしい!

クラウス・テンシュテット/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団1990年ライブ

テンシュテット/コンセルトヘボウ★★★★★
一楽章、盛大なヒスノイズに混ざって、くすんだトランペットのファンファーレが聞こえます。とてもアンサンブルの良い弦の旋律です。すごく悲哀を込めた弦です。冒頭からすでにテンシュテットの世界に引きずり込まれています。コンセルトヘボウもテンシュテットに共感しているようで、反応がとても良いです。大きく劇的にテンポが動きます。そしてオケがすごく上手いです。また、作品への没入度合いもすごいものがあります。

二楽章、オケがとにかく上手いです。途中ですごくテンポを落としてたっぷりと歌います。所々でブラスセクションの咆哮や弦とブラスセクションが波のうねりのように押し寄せてきたり、作品と一体になっています。

三楽章、フレーズの終わりでテンポを落としたり、アゴーギクを効かせる場面も。緩急の変化も大きくコーダでティンパニの強打がバッチリ決まりました。

四楽章、消え入るような弱音から開始しました。強弱の振幅が大きく表情がとても豊かです。まるで音の洪水の中を泳いでいるような感覚になります。こちらも作品と一体になっていられるような安堵感がとても心地よい演奏です。そして次第に音の洪水が過ぎ去ってゆきます。

五楽章、艶やかな木管がチャーミングな表情をみせてくれます。良く鳴るブラスセクションも気持ち良い。名演奏だったと思います。ヒスノイズが盛大だったのが悔やまれます。

フランク・シップウェイ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、豊かなホールトーンに美しいトランペットのファンファーレです。トゥッティもバランス良くスケールの大きな演奏が期待できそうです。実に優しく繊細な主要主題。とても丁寧に演奏されています。頂点で炸裂するシンバルが気持ちよく決まります。第二の中間部の弦のメロディもとても丁寧に心を込めた演奏で、作品に対する思いが伝わってきます。

二楽章、思いっきり良く鳴るブラスセクション!「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」と指示しているマーラーの意図通りの演奏。弱音部は吸い込まれそうになるくらい聞き入ることができます。打楽器郡もオケと一体感があって上手いです。Rpoってこんなに上手いオケだったとは知りませんでした。ティンパニのクレッシェンドが音楽を力強く盛り上げます。

三楽章、ここまで聴いた感じでは、シップウェイの強い個性を反映した演奏ではなく、楽譜に書かれていることを丁寧に表現しようとしているように感じます。この楽章でも優しい弦の響きと思い切りの良いブラスセクションが上手く噛み合って良い演奏です。ブラスの咆哮でも、聴き手を突き放すようなことはなく、常に優しさを湛えた演奏です。

四楽章、深い霧の中から弦のメロディが現れて来るような、神秘的な冒頭部分の演奏でした。弱音の揺り篭に揺られているような心地よさが続きます。中間部でもヴァイオリンが絶叫することもなく幻想的な雰囲気が保たれます。最後はまた霧の中に消えて行きました。このように美しく夢見心地にさせてくれるアダージェットの演奏には初めて出会いました。すばらしい!

五楽章、音を短めに演奏するホルンとファゴット。暖かい弦とその上に乗っかるブラスの咆哮。この楽章でも優しさを失うことはありません。マーラーの演奏と言うと、気難しく、神経質で難解なイメージがありますが、この演奏は、優しく包み込んでくれるような暖かみがあります。どんなにブラスセクションが咆哮しても優しさを失うことはありません。とても稀な名演だったと思います。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、くすんだ響きのトランペットのファンファーレ。感情が込められてテンポも動く主要主題。荒れ狂う程ではない第一トリオ。感情を込めて歌う木管の主要主題。第二トリオのテンポは速めです。

二楽章、序奏でかなり強奏される金管。淡々と演奏される第二主題。1987年の録音に比べると深く作品に没入して行くようなことはありません。ウィーンpoらしい濃厚な色彩感がすばらしい。美しく輝かしい金管のコラール。

三楽章、ウィンナ・ホルンらしくビリビリと鳴る冒頭。清涼感のあるヴァイオリン。テンポも揺れてゆったりと歌う第二主題。第三主題部のヒチカートのところで登場する管楽器はどれもとても良く歌いました。展開部へ向けて少しテンポを速めましたが、それでもゆったりとしたテンポを保っています。再現部の入りは華やかでした。僅かにテンポを上げたコーダは爽快でした。

四楽章、内へ内へと濃密な感情が込められて迫ってくる主部の演奏です。中間部も切々と語りかけてくるようなすごい感情移入です。

五楽章、奥まったところから響くようなホルン。テンポも微妙に動く冒頭部分です。活発で生き生きとした低弦の第二主題。展開部最後のクライマックスへ向けてテンポを少し上げましたが以外にあっさりとしていました。コーダへ向けてかなりテンポを上げクライマックスで元のテンポで全開です。
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クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1980年

アバド★★★★★
一楽章、伸びやかなトランペット・ソロですが、途中音が詰まります。ホルンも伸び伸びと鳴り響きます。静かに悲嘆にくれるような主要主題。トロンボーンもビンビンと強く鳴ります。アバドの演奏にしては、振幅の大きな骨太な感じです。第一トリオも激しい演奏です。トゥティでもすさまじい響きでアバドの気迫が伝わって来ます。木管の主要主題も良く歌います。第二トリオは凄い静寂で始まりました。大きな音楽の振幅と濃厚な色彩感の素晴らしい演奏です。

二楽章、荒れ狂うような冒頭ではありませんでした。ヴァイオリンの第一主題の周りで登場する金管が思いっきり入って来ます。これまでの演奏からすると、あっさりした第二主題でしたが、次第に生命観が宿り生き生きとした表現に変わります。展開部の序奏動機もそんなに荒々しくはありません。チェロの途切れがちな音型の部分も凄い集中力と静寂感です。再現部に入っても見事なアンサンブルと集中力で音楽に引き込まれます。金管のコラールでも伸びやかなトランペットが素晴らしいです。

三楽章、ふくよかなホルンに続いて、チャーミングな木管の第一主題。穏やかな第二主題。音に勢いがあって、この演奏に対する集中力の高さが感じられます。さらにゆったりとしたテンポになる第三主題。弱音が凄く弱く強奏もかなり強く演奏されるので、音楽の振幅が凄く広いです。展開部は割りと軽めでした。再現部へはすんなりと入りました。この楽章はアバドの演奏らしく流れの良い演奏です。コーダでは猛烈にテンポを上げました。

四楽章、ハープは聞こえますが、弦はとても弱くて最初は聞き取れないくらいでした。そっと優しく語り掛けるような「愛の歌」です。アバドが作品を慈しんでいるのが分かるような美しく丁寧な演奏です。主部は室内楽のような演奏でしたが、中間部冒頭では厚みを増して豊かな響きです。とても繊細な表現です。最後はスーっと引いて行きました。

五楽章、長く尾を引くホルン。美しい木管の掛け合い。リラックスした雰囲気の第一主題。緊張感が高まる第二主題は音に力があって、生き生きとした表情です。四楽章の中間主題が現れるところでは少しテンポを落としました。金管も献身的にアバドの指揮に応えています。再現部の前のクライマックスも良く鳴る金管が見事な響きを聴かせてくれました。ホルンが奥まったところでビーンと強烈な響きです。トロンボーンはホルンの響きをそのまま低くしたような音色で前に出てきます。エネルギーに満ちた輝かしく見事なクライマックス。最後も見事な追い込みでした。

弱音の繊細さと豪快に鳴り響くクライマックスの振幅の非常に大きな演奏で、とても聴き応えがありました。聴いていてスカッとするすばらしい演奏でした。
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パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★★★
一楽章、暖かみのあるトランペットのファンファーレが次第に大きくなって鋭くなり、会場に響き渡ります。すごく豊かな残響です。豊かに歌う主要主題。非常に鮮度が高く美しい演奏です。水彩画のようなサラッとした淡い色彩ですが、とても豊かな色彩感です。第一トリオでもトランペットが響き渡ります。すごく瑞々しく美しい演奏です。第二トリオはたっぷりと歌います。

二楽章、序奏は激しいですが、十分制御が効いていて美しいです。深く感情を込めたような演奏ではありませんが、第二主題も過不足無く歌います。展開部のホルンも激しいです。トライアングルも鮮度の高い音で非常に美しいです。第二主題はとても遅く演奏されます。ホルンが出るあたりから普通のテンポになりました。再現部も金管が気持ちよく鳴り響きます。輝かしいコラール。とても見事です。

三楽章、元気の良い冒頭のホルン。続く楽器も生き生きとしています。美しく歌う第二主題。表現の幅が広く、楽器の入りが明確でとても深い彫琢の演奏です。激しい部分と穏やかな部分の対比も見事です。ピッィカートの主題部はゆっくりとしたテンポで演奏されます。展開部では一旦大きくテンポを落として次第に速めて演奏しました。パチーンと言う音のホルツクラッパー。とても活動的で生命感に溢れる演奏はすばらしいです。コーダもダイナミックに鳴り響きました。

四楽章、極端な弱音ではなく、はっきりとした音量で開始しました。よく歌います。瑞々しく美しい弦の響きです。中間部の充実した厚い響き。テンポも動いて濃厚な表現です。主部が戻って、淡く夢見るような演奏ではありませんが、十分にロマンティックです。

五楽章、空間に飛び散る音がとても美しいです。活発な第一主題。表情豊かな第二主題。どんどん前へ進む部分と、横に揺れる音楽の対比がとてもはっきりしていて、面白い描き分けです。前に進む部分では、すごく力強い演奏です。渋く輝くクライマックス。かなりテンポを上げて終りました。

豊かな歌と、美しい響き。生き生きとした表現やテンポの大きな動きなど、聴き所いっぱいのすばらしい演奏でした。
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チョン・ミョンフン/ロンドン交響楽団

チョン・ミョンフン★★★★★
一楽章、良く鳴るオケです。非常に感情のこもった主要主題。二度目のファンファーレの途中からテンポを速めました。第一トリオはかなり激しい演奏でした。オケを見事にドライヴして振幅の激しい音楽を聞かせますが、演奏はスマートでスタイリッシュです。第二トリオの前のティンパニから消え入るような弱音でした。表面は磨かれてとても美しい演奏です。

二楽章、整然と整った美しい演奏です。力感も十分に表現されていますが、荒々しくは無く、とても美しいです。透明感の高い第二主題。展開部も激しいですが、決して荒くはありません。第二主題は大きくテンポを落としてたっぷりと演奏します。余計な音をすっきりと整理してとても見通しの良い演奏になっています。美しい響きのコラールでした。

三楽章、戯れるように絡み合う音楽。豊かに鳴る金管。一転して穏やかな第二主題。弱音はすごく抑えた音量で強弱の振幅は幅広いですが、決して重くはなりません。とても軽快な音楽です。展開部も振幅の大きな音楽。見事なアンサンブルで切れの良い演奏です。美しく鳴り響く金管。すっきり切れ味鋭い演奏でした。

四楽章、すごく弱く柔らかい弦の響きで開始しました。伸びやかで柔らかく歌のある演奏です。中間部冒頭は力強く厚みのある演奏でしたが、すぐに弱音主体の演奏に戻りました。歌ってはいますが、テンポの動きはほとんどありません。主部が戻って、また弱音の美しさが際立った演奏を聞かせます。

五楽章、速めのテンポで軽快な序奏。歌う第一主題。ガリガリと弾くことは無く、穏やかな第二主題。マーラーの演奏にありがちな、色んな楽器の乱舞で、混沌として、騒々しい演奏とは無縁のとても整然としてスッキリとした演奏です。一度目のクライマックスは速めのテンポであっさりと過ぎて行きました。コーダの前のクライマックスでは、かなりオケをドライヴしました。最後は熱狂するように盛り上がって終わりました。

弱音に音楽の主体を置いて美しい演奏を聞かせましたが、最後のコーダの手前からはかなり強力にオケをドライヴして大きな盛り上がりも作りました。非常に振幅の大きな音楽で、しかも整然と整理されたスッキリとした響きもとても印象的な演奏でした。
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大植英次/バルセロナ交響楽団

大植★★★★★
一楽章、美しく鮮度の高いトランペットのファンファーレ。あまり音量を落とさずに入った主要主題。主要主題の中で強い部分では思い切った入り方をしますが、あまり大きく歌うことはありません。木管の主要主題はよく歌いました。一つ一つの旋律はあまり大きく歌いませんが、大きな流れとしては、情熱的な演奏です。第二トリオも大きく音量を落とさずに、美しい響きを保てる範囲で無理なく演奏しています。

二楽章、ガツガツとした弦、伸び伸びと鳴るホルン。オケが一体となって激しい演奏をしています。音楽に躍動感があって、とても生き生きとしています。展開部の第二主題はテンポを少し落として演奏しました。色彩感もとても濃厚で温度感が高く熱い演奏です。

三楽章、豊かに鳴り響くホルン。生き生きとした第一主題。とても濃厚な色彩。瑞々しい木管。伸び伸びと鳴り響く金管。展開部はゆっくりとしたテンポで入って次第にテンポを上げました。再現部でも豊かに鳴り響くホルン。音に力があって、キリッと立っています。メジャー・レーベルでは聞いたことの無いオケの名前ですが、伸び伸びと鳴るすばらしいオケです。

四楽章、ここでも音量を抑えずに、無理なく響かせています。大きく捉えて歌う演奏で、音に力があってとても熱い演奏が続きます。内面から湧き出してくるような音楽はとても豊かです。

五楽章、色彩感豊かな序奏。ゆっくりとガリガリ確実に刻む第二主題。次第に熱気を帯びて盛り上がるクライマックスは圧巻です。すばらしいエネルギー感です。

熱気に溢れるすばらしい演奏でした。濃厚な色彩感と伸び伸びと鳴る圧倒的なエネルギー感。そして湧き上がるような音楽。どこをとってもすばらしい演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第5番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、つんのめった感じで三連符を吹く指定になっているトランペットが本当につんのめっている。
表現は淡白な感じがします。それとマスの響きが寄ってこないのもちょっと気になります。トランペットの付点をテヌートぎみで甘く演奏している。意図的にはずまないようにしている部分があります。後で出てくる付点はしっかりはずんでいました。
木管群が美しいアンサンブル。

二楽章、「巨人」を聴いた時に感じた、小さくまとまった感じはなく、十分熱い演奏をしています。
シノーポリのマーラー独特の対旋律をクローズアップしているので、他の演奏では聞こえない楽器がいろいろ聞こえてきて面白いです。また、シノーポリの唸り声も随所に収録されています。
オケは十分に鳴っていて気持ちが良いのですが、音楽自体はねばることなくサラリと流れて行く感じで、演奏に釘付けにされるようなことがありません。音楽を押し付けてくるようなずうずうしさはないので、下品さは全く無いのですが、反面あっさりと美しい音が流れすぎて、マーラーを聞いているとは思えないような不思議な演奏です。これは、ある意味ではシノーポリが切り開いた新しいマーラーの境地なのかもしれません。

三楽章、とても速い出だしです。シノーポリのマーラーは他の曲でも同じ傾向なのですが、非常にタッチが柔らかくて、ギンギンバリバリしたところがありません。むしろフワッとした感触すらあって、従来のマーラー感からは全く違う面を聴かせてくれます。このようなマーラー像を切り開いたことは高く評価されるべきでしょう。
ただ、これだけ従来のマーラーとは違う演奏をすることは大きな賭けでもあるわけで、好き嫌いは分かれるでしょう。
この楽章でも、聴きなれない音が頻繁に顔を出します。
終結部もかなりテンポが速かった!

四楽章、この楽章はシノーポリの演奏スタイルにピッタリです。淡雪のような、すぐに溶けてなくなるようなロマンチックな演奏になっています。中音域が厚い弦楽合奏でうるさくなることがないので、つかの間の癒しの時間を与えてくれます。

五楽章、四楽章から続けて演奏されるので、まだ夢の中のような始動です。とても上手いつなげ方だと思いました。途中に金管がバーンと入ってきて、次第に眠りから覚めて行く様な、少しずつ少しずつ現実へと戻されていくように、シノーポリによって誘われて行きます。なかなか見事な演出です。
ここでも、聴きなれない楽器が登場してきます。私は音楽を聴くときにスコア片手にというような聴き方はしません。スコアを見ることによって作品に対する理解はもっと深まるかもしれません。しかし、聞き手は聞き手であって、受動的な立場なので、感じるままを感じることにしています。スコアを見て理解を深めて、通常はスコアなしで聴くのなら分かります。しかし、私は常にスコア片手だと、音楽に没頭できなくなってしまうのです。
例えば、歴史的建造物を見に行くとしましょう。その時に設計図面を片手に見に行く人がどれだけいるでしょうか?
夢見心地のまま終わったような、とても不思議なマーラーでした。こんなマーラーの5番は初めての経験です。4楽章~5楽章への流れは予想外で、シノーポリマジックとでも言うべきか。良い体験ができました。5楽章は当然激しい演奏を想像していましたが、本当に最後の最後で起こされた感覚で、それまでは、ず~っと夢の中にいたような感じでした。

これまでのマーラー解釈とは一線を画すものですが、これはこれでかなり説得力がありました。
この演奏を受け入れられない人も多いのではないかと思います。でも数あるマーラーの5番の名演奏の中にこの演奏を提起する(主張する)シノーポリに惜しみない拍手を送りたいと思います。

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、陰鬱な響きのトランペットのファンファーレ。低音域があまり分厚くないので、全体の響きが薄く感じます。一つ一つの旋律に克明な表現を付けて演奏されています。とても表情豊かでクーベリックが作品に込めたものが伝わってきます。テュッティでも激しい部分は凄い激しさで、輪郭のはっきりくっきりの演奏です。

二楽章、テンポは少し遅めですが、いくつものうねりとなって音楽が湧き出してきます。第二主題が大きく歌われました。展開部でも遅めのテンポを維持しています。チェロの途切れ途切れの音型にすごい静寂感がありました。金管のコラールも輝かしいものでした。クーベリックがオケを見事に統率して一体感のある音楽を作り出しています。聴き手をグイグイと引き込む演奏です。

三楽章、一転して速めのテンポです。表情豊かで楽しそうな雰囲気に溢れています。ソロを吹く管楽器も非常に上手いです。表情豊かで楽しそうなのですが、音色は引き締まって、緊張感もしっかりと維持しています。ライヴとは思えない程の演奏精度ですばらしいです。

四楽章、遠くから自然に聞こえてくるような開始でした。優しい演奏なのですが、残響をあまり伴わないので、ちょっとキツく聞こえます。この楽章でも微妙な表情付けが魅力的です。強奏部分でもムリにがなり立てることもなく美しい演奏でした。

五楽章、美しいホルン。チャーミングな表情の木管楽器。生き生きとした弦楽器群。集中力の高い演奏が続きます。最後の爆発を残して抑え目に演奏しているのでしょうか。全曲を通じて、輪郭のはっきりした彫りの深い演奏です。最後の咆哮も少し余力を残して美しい演奏でした。とても人間味があり表情豊かな演奏でした。作品には十分共感して感情移入もされていますが、ドロドロになる手前で踏みとどまって、作品のディテールなども聞かせてくれるバランスの良い演奏だったと思います。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、ふくよかな響きのトランペットのファンファーレです。ホールに残響が響き渡ります。すごく遅いテンポで演奏される主要主題。一音一音に魂を込めるように丁寧な演奏です。一音一音に表情を付けるような異様な演奏。 さらにテンポを落として濃厚な表現です。もう完全にバーンスタインの世界です。即興なのか緩急自在に表現します。トランペットの突き抜けた時の輝かしい響きが印象的です。すごいアゴーギク。マーラーが乗り移ったかのように音楽に感情を思いっきりぶつけてきます。壮絶怒涛のテュッティ!もの凄く濃厚な一楽章でした。

二楽章、全開の冒頭です。ウィーンpoらしい木管の繊細な表現。この楽章ももの凄く遅いテンポ。体が引きちぎられそうな感覚になる激しいクレッシェンド!こんな曲だったか?と思うほど遅いテンポ。激しいテンポの変化と金管の咆哮と深々とした弦の響き。この演奏をしながらバーンスタインは正気だったのだろうか?一種の錯乱状態になりながら指揮をしていたのではないかと思うほど正常な演奏とはかけ離れています。聴いているこちらも違う世界へ連れて行かれたような錯覚さえ覚えます。

三楽章、この楽章も遅めのテンポです。一音一音に何か意味合いを持たせているかのように重い。スケルツォとは思えないほど重い。もうこの演奏はマーラーを逸脱してバーンスタインの音楽だと思う。それにしてもここまで自分自身をさらけ出して音楽にすることは凄いことだ!自在な音楽。

四楽章、遅いテンポの中でテンポが揺れて濃厚な表現です。美しい音楽なのですが、バーンスタインの内臓をぶちまけて見せられているようなグロさも感じてしまいます。それほど強烈な主張のある演奏なのです。マーラーの病的な部分も強烈に認識させられます。

五楽章、冒頭からアゴーギクいっぱいです。あまりの重さに疲れてきました。これだけ強烈な主張のある演奏は合う人にとってはたまらない演奏でしょう。しかし、合わない人にとっては苦痛かもしれません。

ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★★☆
一楽章、安定した輝きのある響きのファンファーレ。思いっきりの良いブラスセクションの咆哮。速めのテンポで進む葬送行進曲。一見、淡々と進むようですが、強い意志が働いているようで、前へ前へと進む音楽は、ウィーンpoとの復活を思い起こさせるものです。メータの絶頂期が蘇ったような豪快な演奏です。音の洪水のように激しく次々と音楽が押し寄せてきます。

二楽章、ここでも激しい咆哮が聞かれます。とても良く鳴るブラスセクションを前面に押し出した演奏になっています。テンポを揺らしたりアゴーギクを効かせたりすることもなく、一直線に突進してくるような表現で、圧倒されます。マーラーのオーケストレーションが克明に表出されて行きます。メータが表現すると言うより、作品に語らせるような演奏になっています。速いテンポで激しさを表現しました。

三楽章、弦だけの部分ではもう少し艶やかな響きと表情が欲しい気もしますが、ブラスセクションが登場するとどっしりとした堂々とした安定感に変化します。テンポの速い部分は豪快で生き生きとしています。本当に気持ちよく鳴るブラスセクションです。

四楽章、この楽章も速めのテンポであまり濃厚な表現はないようです。淡白でした。もう少し踏み込んだ表現があっても良かったのではないかと思います。

五楽章、ホルンに続く木管も美しい演奏でした。津波のように音の洪水となって次から次へと音楽が押し寄せてくるのは圧巻です。メータが鳴りの良いニューヨーク・フィルを利して速めのテンポで一気に描ききった豪快な快演だったと思います。

クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、暗闇の中から浮かびあがるようなトランペットのファンファーレが次第にクレッシェンドして、テュッティで轟きます。すごく抑えられた主要主題が次第に明確になってきます。とても激しい第一トリオ。全体を通じてトランペットが輝かしくとても力強いです。線は細いのですが、とても強い音楽が続きます。

二楽章、とても濃厚な色彩で強い音楽です。第一主題の周りで演奏される金管がとても激しい。少し落ち着くチェロの第二主題。金管が遠慮なく炸裂します。展開部のティンパニの弱いロールの上で演奏されるチェロは無表情です。金管の上手さは見事と言う他ないくらい凄いです。コラールも非常に輝かしい。

三楽章、勢いの良いホルン。くっきりとした木管の第一主題。合間に入る金管も生き生きとした表情です。ゆったりと落ち着いたヴァイオリンの第二主題。どの楽器も屈託なく良く鳴ります。展開部は次々と楽器は受け継がれて行きますが、流れるように滑らかです。金管はかなり強奏しますが、ひっかかることなくスムーズに流れて行きます。

四楽章、遠くから次第に近づいてくるように次第にはっきりする冒頭でした。かなり抑えられた演奏です。アバドの演奏の場合、感情をぶつけてくるようなことはないので、この楽章も感情が込められて、マーラーと一緒に没入するようなことはありません。こちらも演奏にあわせて感情が高ぶるようなことはありません。非常に美しい音が通り過ぎて行くだけです。遠くへ去って行きました。

五楽章、どの楽器も非常に美しい。第二主題もアクセントは付けられていますが、引っかかるような強いアクセントにはなりません。ブラスセクションの強奏はありますが、絶叫するような咆哮はありません。極めて整った演奏です。感情移入することなく、マーラーのスコアを整然とした音楽として再現するのがアバドの意図したところなのか。

すばらしく美しい演奏でしたが、聴いていてこちらが熱くなるような演奏ではありませんでした。造形としてはすばらしいものでした。

ダニエル・バレンボイム/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、ハーセスの艶のあるファンファーレ。強弱の振幅の大きな主要主題。主要主題の入りはゆっくりと入ります。激しい第一トリオですが、シカゴsoもショルティ時代の吹きまくるような金管ではなく、ほどほどに節度のある演奏です。非常に感情の込められた木管の主要主題。第二トリオから頂点へ向けて少しテンポを速めているか?

二楽章、荒れ狂うような序奏ではありません。大きく歌う第二主題。金管の上手さはさすがです。ダイナミックな演奏で、色彩感もとても濃厚です。金管のコラールも輝かしく美しい。登場してくる楽器が生き生きとしていて、とても有機的です。

三楽章、気持ちよく鳴るホルン。生き生きとした木管の第一主題。登場する楽器がくっきりと浮かび上がり次々に強い自己主張をして存在感をアピールします。一転して穏やかな第二主題。展開部に入って豪快に鳴る金管。繊細ですが、僅かに金属的な響きのヴァイオリンがシカゴsoらしいです。バレンボイムは細かな指示はせずにオケの自発性に任せているようです。

四楽章、遠くから聞こえてくるような幻想的な雰囲気で始まりましたが、ガリガリと鳴る弦によって次第に現実に連れ戻されます。この楽章では金属的な響きのヴァイオリンがちょっとキツくて愛を奏でるような雰囲気ではありません。押し寄せる波が次第に引いて行くように終わりました。

五楽章、かなり強く吹くホルン。続く木管もくっきりとしています。テンポも微妙に動いています。低弦の第二主題も金属的な響きです。再現部の前のクライマックスはテンポを速めてあっさりと演奏しました。最後の金管の鳴りはさすがにシカゴsoだと思わせるものでした。

特に、強調された表現などはありませんでしたが、ハーセスのトランペットやクレヴェンジャーのホルンなど見事に鳴るオケの演奏はすばらしく、聴いていてとても気持ち良いものでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第5番3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団1984年大阪ライブ

icon★★★★
一楽章、気候のせいか、ロンドンでのライブに比べるとオケの鳴りが今ひとつです。
響きが少し重い感じがします。暗く沈んで行く感じはとても良く表現されています。
強弱などの表現が豊かです。

二楽章、積極的な表現と、暗く沈む部分の対比が見事です。表情はとても豊かです。

三楽章、やはり、スカッとした鳴りではないのが残念です。

四楽章、穏やかで優しい演奏です。慈しむような音楽です。

五楽章、じっくりとした冒頭部分です。オケも乗ってきたようで、積極的な表現になってきました。

テンポも動いて元気なクライマックスでした。でも、テンシュテットの演奏としては整然としていたような感じがします。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、タンギングが分かるほど近いとトランペット。悲鳴にも似たファンファーレ。静かにゆったりと奏でられる主要主題。切々と悲しみを表現しています。トランペットだけが近いセッティングのようです。開始5分30秒ぐらいのところのトランペットのファンファーレの部分はすごくテンポを速めました。テンポやバランスなど、他の指揮者とは違う独特のものがあります。第二の中間部の弦のメロディも最初は静かに丁寧に演奏されました。弱音とテュッテイの強弱の変化に大きな幅がありダイナミックです。ただ、強奏部分でも激しく荒々しい表現にはならず、節度ある範囲の演奏になっています。

二楽章、「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」とマーラーが書いている楽章ですが、荒々しい表現ではありません。どんなに強く演奏しても美しさを維持していて、カラヤンの感情移入の余地は残されていないような演奏です。このあたりが「美しいだけ」と言われたりする所以でしょうか。オケも100%の力で咆哮することはありません。余力を残して美しい音色が維持できる範囲で演奏しているように感じます。整然と整った模範演奏を聴いているような感覚です。

三楽章、元気の良いホルン。快活な表現の冒頭でした。ホルンのソロの上手さに惹きつけられます。この演奏はカラヤンの感情移入を排して楽譜を客観的に音にすることに専念した演奏なのだと思います。とても冷静に演奏が進んで行きます。

四楽章、ゆったりとしたテンポで美しい弦の調べが聴けます。強弱の振幅も広く、愛情を感じる演奏です。このような音楽を演奏させるとカラヤンは上手いですね。永遠に続くのではないかと思わせました。

五楽章、一転して表情豊かな木管のソロでした。金管のffが地面に杭を打ちつけるようなガツンと来るような音ではなく、空へ向かって吹いているような軽さがあります。オケのアンサンブルも見事です。音響の構築物としては完璧だと思うのですが、マーラーの音楽の場合、多少音が汚くても、思いっきり感情をぶつけてくるような演奏の方が個人的には好きです。見事な頂点でした。すばらしい演奏ではあったのですが・・・・・。

ジェームズ・レヴァイン/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、ビービー鳴るトランペット。強いティンパニの打撃。弦楽器の主要主題には最初ゆっくりと入りました。暖かい響きの弦楽合奏。第一トリオはビービー鳴るトランペットを筆頭に豊麗なサウンドが津波のように押し寄せて来て、とても豊かな雰囲気の演奏です。ティンパニは常に強調されています。葬送行進曲というイメージの重さや厳粛さはありません、むしろオケの技量を最大限に発揮した輝かしい演奏です。トロンボーンやテューバもとても良く鳴ります。第二トリオも陰鬱な雰囲気よりも華やかさがあります。

二楽章、激しさはありますが、見事に整った冒頭です。ヴァイオリンの第一主題に帯同する金管も激しい。とても落ち着いてチェロの第二主題。展開部でもティンパニが強調されています。展開部から行進曲調に至るまでのフィラデルフィアoならではのとろけるような美しい音色はすばらしい。再現部でも強調されているティンパニがとても効果的で胸がすくような打撃です。輝かしく美しい金管のコラール。

三楽章、とても勢い良く鳴りの良いホルン。続く木管の第一主題の響きも魅力的です。ちょっとメタリックな響きのヴァイオリンがとても活発です。一転してマットな響きになる第二主題。展開部の手前は黄昏て行くような独特の雰囲気でした。再現部はフィラデルフィア・サウンド全開の豪華絢爛な響きが凄かった。コーダも華やかでした。

四楽章、消え入るような音量から開始して、抑え気味で淡々とした演奏が次第に振幅が大きくなってきましたが、湧き上がる感情を作品にぶつけるような演奏ではなく、客観的で冷静な演奏です。この楽章のほとんどは抑えた音量の演奏です。少し表情が乏しかったような気がしました。

五楽章、ちょっと乱暴なホルンの第一主題の最初の音でした。あまり表情の無い第二主題。クライマックスは壮大なものでした。ただ、テンポも含めて少し間延びしているような感じがありました。

ディミトリ・ミトロプーロス/ニューヨーク・フィルハーモニック 1960年

ミトロプーロス★★★★
一楽章、かなり遠くにいるトランペット。録音はモノラルです。寂しげに演奏される弦の主要主題。オケはしっかりと豪快に鳴っています。二度目のファイファーレの後は、タメなのか?リズムが詰まっている部分がありました。引きずるように重い葬送行進曲です。第一トリオはすごい勢いで突っ走ります。縦に揺れる木管の主要主題。

二楽章、ゆっくりとした序奏。ヴァイオリンの第一主題にいろんな楽器が絡みつく。一転して落ち着いた第二主題。展開部の序奏の動機は対旋律のチューバが強調されていて、今まで聞いたことの無い音が聞けました。明るい行進曲調になる前の部分は、ねっとりと粘着質の濃厚な表現でした。再現部でも主題に絡む対旋律がかなり強めで、混沌としていて荒々しい雰囲気です。

三楽章、モコモコとこもったホルン。これまでの喧騒から解放されるような第二主題。ウッドブロックのようなホルツクラッパー。集中力が高く、エネルギー感も強い演奏はなかなか魅力的です。

四楽章、間を取って歌います。ゆったりとしたテンポで切々と歌います。内へ内へと感情を込めるような演奏で、外へは発散しません。響きは温度感が低く、どこか冷たい感じです。中間部でも響きは厚くはなりませんが冷たく美しい響きです。

五楽章、第一主題に入る前に少し間をあけました。遅めのテンポでがっちりと地に足を付けて進みます。途中でテンポを落とすところもあります。テンポは動きますが、濃厚な表現ではなく、鉄のような強い意志が働いているような強固な重たい演奏です。再現部の前のクライマックスはかなり余力を残して抑制された演奏でした。再現部はゆっくりとしています。コーダの前のクライマックスはトランペットがかなり強く吹きますが、感情を叩きつけるような演奏ではなく、冷徹な感じの演奏でした。コーダはかなりゆっくりから僅かにテンポを速めました。

重く強い演奏で、地面にしっかりと爪痕を残しながら前に進むような力のある演奏でした。終始冷たい響きの演奏には好き嫌いが分かれるでしょう。
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ヴァーツラフ・ノイマン/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

ノイマン★★★★
一楽章、奥まったところからちょっと詰まった感じのトランペットが次第に鮮明に聞こえてきます。ホルンは軽く鳴り響きます。速めのテンポでリズミックな主要主題。二度目のファンファーレは鋭い響きでした。主要主題はやはり速めでさっさと進みます。第一トリオは伸びやかなトランペットに引っ張られるように他のパートも激しい演奏です。基本的には速めのテンポでサクサク進む音楽です。

二楽章、ゆっくり目で端正な序奏。第二主題では僅かにテンポが動いて歌っています。展開部の序奏も大暴れすることは無く、制御された演奏です。暗闇に沈み込むような第二主題。再現部は速めで強奏部でもあっさりと進みます。金管のコラールの後はテンポをグッと落としています。

三楽章、控えめな第一主題。控えめですが、美しい歌の第二主題。ウッドブロックのようなホルツクラッパー。この演奏は決して爆発はしませんが、その分弱音の美しさや静寂感がとても良い演奏で、肌を撫でるような弦の弱音の美しさはすばらしいです。コーダもゆっくりとしたテンポで落ち着いた演奏でした。

四楽章、控えめながら切々と歌います。感情が込み上げてくるように、少しずつ少しずつ音楽が湧き上がります。再び主部が戻ると安堵感のある安らぎに満ちた音楽が演奏されます。

五楽章、歌う第一主題。テンポも動いて良く歌います。金管の短い音がかなり短く、完全に息を吹き込んでいないような感じがするのが若干不満です。クライマックスではかなりトランペットが強く吹きましたが、それでも全開とまでは行かなく。抑制されたものでした。

抑制の効いた演奏は歌もあり美しかったのですが、音楽の振幅があまり大きく無かったのが、少し残念です。
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オスモ・ヴァンスカ/香港フィルハーモニー管弦楽団

ヴァンスカ★★★★
一楽章、倍音を含んで美しく鳴るトランペット。淡々と演奏される主要主題。第一トリオでもトランペットは伸びやかです。ひっかかるところが無く流れの良い演奏です。第二トリオは抑揚が付けられて歌っています。トゥッティのパワー感は今ひとつです。

二楽章、一音一音大切に刻むような序奏。第一主題の周りにちりばめられた楽器の存在感が大きいです。ほとんど歌わず淡々と進む第二主題。展開部では強奏されますが、美しい響きです。静かな第二主題。ゆっくりと静かに進みます。美しく有機的な演奏なのですが、頂点でのエネルギー感があまり感じられないのが、難点です。

三楽章、香港poはなかなか上手いオケです。濃厚な色彩感はありませんが、サラッとした爽やかな肌触りの響きはとても心地良いものです。ヴァンスカの指揮は余計な感情移入などは避けて、作品のありのままの美しさを表現しようとしているようです。展開部はゆったりとしています。ホルツクラッパーの部分でもテンポはあまり早くなりませんでした。やはりコーダでも爆発的なパワーは感じませんでした。

四楽章、大きく歌うことはありませんが、過不足なく美しい演奏です。呼吸を感じる中間部。

五楽章、かなり強めに入ったホルン。たっぷりと歌う序奏。オケの限界なのか、金管が絶叫するほどの激しい強奏は無く、振幅の狭い音楽になっています。とても美しい演奏なだけにとても残念です。コーダの前のクライマックスでは少しパワーを感じることができました。

とても美しい演奏で、余計な感情移入も排除して、作品の美しさを伝えようとした演奏だったと思います。全体を通して美しい演奏で、ヴァンスカの目的は達せられたと思いますが、トゥッティでのパワー感の無さはとても残念なところで、音楽の振幅が狭い演奏になってしまったのは本当に惜しいところです。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第5番4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/北ドイツ放送交響楽団

テンシュテット/NDR★★★☆
一楽章、客席で録音したものか?音が少し篭っています。
色分けがはっきりしていて明確な演奏です。
強弱のメリハリもはっきりしていて押しの強い演奏です。一連のテンシュテットの演奏の中でも最も激しい演奏だと思います。

二楽章、ゆったりとした部分では濃厚な表現を聴かせます。オケをせきたてるようにテンポを煽るところなども独特です。

三楽章、比較的強めに演奏された冒頭のホルン。集中度の高い熱い演奏が続きます。

四楽章、倍音成分があまり収録されていないので、豊かさを感じることはできません。

五楽章、ゆったりとしたテンポで始まりました。録音の問題もあるのか、金管の咆哮もあまり感じられず・・・・・。ただ木管の豊かな表情が良いです。

録音が良ければすばらしい演奏だっただろうと思います。

サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★☆
一楽章、ハーセスの明るく鋭いファンファーレ。とうとうと流れるような主要主題。エッジの立った弦。思いっきりの良いブラスセクション。強奏部分でもいろんな音が聞こえます。金管の咆哮が非常に激しい!ショルティの指揮は作品に没入するような表現主義ではないと思いますが、金管の咆哮が激しいので、聴いているこちらが熱くなるような演奏です。

二楽章、速いテンポで激しい演奏です。落ち着いた表現の第二主題。シカゴsoのヴィルトオジティを前面に押し出してオーケストラの機能美を追及した演奏のようです。当時、世界最高と言われたシカゴsoの面目躍如の演奏になっています。

三楽章、クレヴェンジャーのホルンが冒頭かなり大きめに入りました。ショルティの指揮はテンポの揺れもなく速いテンポで曲を一気に聞かせます。音楽が前へ前へと進もうとする推進力があります。 打楽器のインパクトに録音が一瞬歪ます。

四楽章、微妙な表情付けとバランスの良い弦の演奏です。録音年代の問題か弦の音の木目が若干粗いのが気になります。

五楽章、この楽章も速めのテンポの演奏です。それぞれの楽器の音が立っていて生き生きした表情が印象的です。金管のffは遠慮なく思い切って入ってくるのがとても気持ち良い。このような演奏スタイルはマーラーの作品を聴く一つの醍醐味を味わわせてくれます。クライマックスで少しテンポを落としました輝かしい頂点です。テンポを速めて一気呵成に終りました。この曲を一気に聞かせた豪快な演奏でした。
ただ、表面的な演奏に終始し、内面の深いところから湧きあがった音楽ではなかった気がします。

ルドルフ・バルシャイ/ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー

icon★★★☆
一楽章、輝かしく明るい響きのトランペット。速めのテンポで付点の音符に力点を置いた主要主題。第一トリオでも強いトランペットが他のパートをかき消すくらいに強烈です。主要主題が木管に出るところではそんなに付点に力点を置いた感じではありませんでした。第二トリオは陰影に満ちた表現です。トランペットの強さに比べるとトロンボーンやホルンは明らかに弱いです。

二楽章、少し遅めのテンポで一楽章では感じなかったホールの残響を含んだ豊かな響きです。強弱の変化がある独特の第二主題です。展開部もテンポが少し遅いのもあって、すごく激しいと言うほどではありません。金管のコラールは輝かしく堂々としたものでした。静まる直前のドラも強烈でした。主役の楽器はきっちりと前に出てきますがなぜか色彩感はあまり感じません。

三楽章、可愛く愛らしい表現の第一主題。テンポの動きもあり、押すところと引くところがある独特の第二主題。弦だけになるとホールの響きが美しいです。展開部のティンパニはそんなに強打はしていませんが、とても印象に残る広がりのある響きです。再現部に入って、凄く音楽が生き生きとしてきました。コーダはやはりトランペットが強く、それに比べるとホルンは弱かったです。

四楽章、浅い響きのハープ。独特な歌いまわしで振幅の大きな歌です。モノトーンのような渋い色彩感。

五楽章、豊かな響きを伴ったホルンと木管の掛け合い。ゆったりとしたテンポの第二主題。再現部の前のクライマックスもトランペットが凄いエネルギー感で迫って来ます。コーダに入ってもゆったりとしたテンポで、壮大なクライマックス。最後だけ少しテンポを上げました。

バルシャイが作品の深いところから何かを引き出そうとする意図は良く伝わってきました。
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ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★
一楽章、ヒスノイズの中から、近い位置のトランペット・ソロがトゥッティでは奥に引っ込みました。金管の音は全体に短めです。弦の主要主題は速めのテンポであっさりしています。再びファンファーレが現れる部分では激しく濃厚な表現でした。第二トリオもテンポは速めで陰鬱な雰囲気をことさら強調することは無く、淡々と進みます。

二楽章、ワルターの演奏としては非常に激しい荒れ狂うような表現です。少し穏やかにはなりますが、動きのある第二主題。一転して静かな展開部の第二主題。輝かしい金管のコラールも一部音を短く演奏しています。最近の演奏では聴いたことのない表現です。

三楽章、速めのテンポで元気の良いホルン。チャーミングな木管の第一主題。複雑に楽器が絡み合うところは上手く表現されています。少し穏やかになった第二主題。第三主題部の前の金管はそんなに大きくは鳴らしませんでした。後半のホルンなどはかなり抑えて演奏しました。展開部などでもティンパニも控え目で、マーラーが指定している「力強く」とは違うような感じがします。コーダはかなり盛大に盛り上がりました。

四楽章、スクラッチノイズのようなチリチリとしたノイズも聞こえます。間接音をほとんど伴わないナローレンジの録音からは美しさを想像するしかなく、聞こえてくる音だけだと、すごく現実的で夢見心地とは程遠い演奏になります。ヴァイオリンの高音が痛いような感じがします。

五楽章、すごく抑えた音量で短く演奏するホルン。ファゴットも音が短い。この楽章では、金管もかなり激しく演奏しています。速めのテンポですが、ワルターの内面から溢れ出す感情をストレートにぶつけてくるような激しさがあります。この楽章は大熱演でした。

ワルターの思いのこもった演奏だったと思うのですが、録音の古さがいかんともしがたいところです。

ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★
一楽章、シャープな響きのトランペットのファンファーレ。朗々と鳴り響くホルン。冒頭の騒々しさから一転してとても静寂な主要主題。第一トリオでもシャープなトランペットの響きが印象的です。コンセルトヘボウ独特の美しく濃厚な色彩がとても良いです。第二トリオ冒頭の静寂感もすばらしい。

二楽章、ゆっくり目のテンポで一音一音描き分けるような冒頭でした。第二主題も静寂の中に響きます。潤いのある木管が美しい。展開部もゆっくり目のテンポで丁寧な演奏です。続くチェロの途切れがちの音型もすごい静寂感があります。再現部も荒れ狂うような強奏ではなく、抑制の効いた演奏です。極端な表現やテンポの動きはありませんが、コンセルトヘボウの深みのある美しい響きがとても心地良い演奏です。金管のコラールも鋭い響きでした。

三楽章、登場する楽器がくっきりと色彩感豊かに浮かび上がります。コンセルトヘボウは1970年代の響きが一番美しいと思います。テンポも動かさず自然体の演奏ですが、静寂感とオケの響きの美しさが際立った演奏です。展開部に入っても演奏を荒げることはありません。ホルツクラッパーも控え目でした。コーダも落ち着いたテンポで穏やかでした。

四楽章、かなりはっきりと入った冒頭です。音の動きもはっきりしていて、夢見るような幻想的な雰囲気ではありません。中間部に入っても音の変わり目がはっきりしているので、現実的な雰囲気です。内面から湧き上がるような共感は感じられませんでした。

五楽章、豊かな残響を伴ったファゴットが美しい。ゆっくりとした足取りで一音一音丁寧に演奏して行きます。軽々と鳴り響くホルン。トロンボーンが短い音で強く入って来ても、飛びぬけることは無く、全体の響きに包まれてフワッとした音です。クライマックスで他のパートとは明らかに音量の大きなトランペットが爽快ですが、テンポが一貫して遅く、スピード感が無いのがちょっと残念です。

美しい演奏でしたが、無難な安全運転と言う感じがしました。聴いていてドキドキするようなスリルなどは全くありませんでした。
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ダニエレ・ガッティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ガッティ★★★
一楽章、三連符を急がずに正確に演奏するトランペット。控え目なトウッティ。感情の込められた主要主題。マイクポジションのせいか、同じオケでもアバドの演奏の時の吹きまくるような金管ではありません。ゆったりとテンポも動きながら変奏される主要主題。第一トリオに入る前には少し間を空けました。主要主題はたっぷりとしていますが、トウッティはあっさりと淡白で涼しげな演奏です。第二トリオもあっさりとした表現です。

二楽章、非常に遅い序奏。ヴァイオリンの第一主題も遅く、マーラーの「最大の激烈さを持って」の指定とはいささか違う演奏になっています。第二主題はこの遅さがとても良い効果を出しています。とても微妙な表現もなかなか良いです。展開部の序奏でも金管はあまり前には出てきません。弱音部の静寂感はすごくあります。チェロの途切れがちの音型も微妙な歌があってなかなか聞かせます。再現部に入っても金管の強奏は意識して避けているような感じがします。金管のコラールもトランペットがヴェールをかぶったような控え目な響きです。最後もゆったりとしたテンポで刻み込むように弱音部を強く印象付ける演奏でした。

三楽章、奥まったところで響くホルン。アゴーギクを効かせたり、テンポを大きく動かして表現するようなことはありませんが、僅かにテンポを動かして微妙な表現をします。第二主題でも途中で少しだけ間を開けて歌いました。ガッティの演奏は弱音部がとても美しいのが特徴です。展開部へ入ってもオケは全開にはなりません。全体的に遅めのテンポでがなりたてることはなく、優雅な演奏です。コーダに入って急激にテンポを速めました。

四楽章、この楽章は少し速めのテンポです。弦は清涼感のある美しい響きですが夢見るような優しさではありません。とても現実的な音楽です。ここまでの楽章で弱音がとても良かったので、この楽章には期待したのですが、ちょっと裏切られたような感じがします。

五楽章、序奏でもテンポが動いています。再現部の前で急激にテンポを上げましたが、クライマックスはやはり抑えた感じで、金管が突き抜けてはきません。コーダも美しいクライマックスでした。最後はゆっくりとしたテンポから時間をかけてテンポを速めて行きました。

弱音部分は総じて美しい演奏でしたが、トゥッティの爆発が無く欲求不満になるような演奏でした。
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クラウディオ・アバド/ルツェルン・祝祭管弦楽団 2004年

icon★★★
一楽章、力強いファンファーレからこれまた力強いトゥッティ。注意深く、弱音で開始される主要主題。二度目のファンファーレは輝かしく艶のある響きでした。第一トリオはかなり余裕を持って演奏しています。そっと撫でるように柔らかく一体感のある第二トリオ。最後のファンファーレの前のトゥッティは巨大な響きでした。いつものアバドの演奏と同じく、極端な表現は無く、流れの良い演奏で、楽譜に書かれていることをストレートに表現しています。

二楽章、大きく暴れることの無い、落ち着いた序奏。第二主題もほとんど歌いません。展開部は序奏よりもフワッとした響きで柔らかい演奏でした。第二主題はとても静寂感があり、集中力の高さを感じさせます。とても美しい演奏なのですが、流れが良すぎて音楽の起伏があまり大きくなく、模範演奏を聴いているような退屈な感じがあります。

三楽章、無表情に演奏される第一主題。弱音でとても美しく演奏される第二主題。世界中から名人を集めただけのことはあり、響きはとても美しいですが、内面に深く迫って来るような演奏ではありません。ホルンも伸び伸びと鳴り響きます。

四楽章、弱音の美しさはこの演奏で特筆すべき点です。淡々と非常に美しい演奏が続きますが、どうしても演奏に浸ることができません。

五楽章、この楽章の冒頭は僅かにテンポが動いて歌いました。この楽章は今までの演奏とは違い楽しそうに歌っています。テンポも動いてとても有機的な音楽です。普段はあまり聞かれない、対旋律を強調したりして、この作品の違う一面を聴かせてくれます。表情も引き締まって、これまでの楽章の演奏とはかなり違います。トゥッティでの輝かしい響きもすばらしいです。

フィナーレはすばらしい演奏でした。しかし、そこまで至る楽章の燃焼度が低く無表情で、ただ美しく流れてしまったのが残念でした。
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ジョルジュ・プレートル/RAI国立交響楽団

プレートル★★☆
一楽章、詰まった三連符のファンファーレ。ゆったりとしたテンポで歌う主要主題。第一トリオはその前の静寂を破るようにダイナミックで激しい演奏です。主要主題には独特の節回しがあります。第二トリオの後怒涛の頂点でした。

二楽章、意外と柔らかい序奏。第一主題の周りを彩る楽器が激しい演奏をしました。静かな第二主題ですが、ここでも周りの楽器がとても主張します。展開部の序奏の動機はホルンも激しく、冒頭の柔らかさとは違いました。第二主題はゆっくりと静かに演奏されます。コラールは金管があまり前に出てこなくて、あまり輝かしい響きではありませんでした。

三楽章、楽しそうな第一主題。穏やかに歌う第二主題。多くの方が絶賛されているプレートルのマーラーですが、私には中途半端な演奏に聞こえてしまいます。深く感情移入するわけでもなく、また明晰な演奏でもなく、色彩感が豊かなわけでもなく、振幅の激しい演奏でもないので、何が良さなのか分かりません。

四楽章、消え入るような弱音から始まりました。夢見るような遥か彼方の世界へいざなってくれるような演奏です。テンポも動いて愛を深く表現しています。中間部はかなり現実世界へ引き戻された感じの演奏になります。次第に遠ざかって終りました。

五楽章、速いテンポの第一主題。第二主題もそのままのテンポで速めです。奥行き感が無く浅い音場感です。途中、テンポを落とす部分もありました。クライマックスでもオケを爆発させることは無く、抑制の効いた演奏です。コーダの前のクライマックスはテンポを落として大きな表現ですがやはりオケの絶叫は無く、かなり余裕のある演奏でした。

私には、プレートルの主張があまり分かりませんでした。何となく漫然と流れているような感じがしてしまいました。
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ヴァレリー・ゲルギエフ/ワールド・オーケストラ・フォア・ピース

icon★★
一楽章、輝かしいトランペットのファンファーレ。感情を内に込めたような抑えた表現の主要主題。脱力しているような穏やかな演奏です。トゥッティでもエネルギーを爆発させるような表現はありません。第二トリオも非常に静かです。穏やかで、静かな演奏でした。

二楽章、序奏も荒れ狂うような表現ではありません。第一主題はマットな響きでした。第二主題も非常に穏やかです。展開部は少しエネルギー感がありました。チェロの途切れがちの音型もとても静かでした。再現部でも第一主題に割って入るような金管を極力抑えているようで、マーラーの多彩なオーケストレーションを殺しているようにも感じます。違った見方をすれば、これまでの演奏様式とは全く違ったアプローチをしているとも言える演奏なのかも知れません。

三楽章、篭ったようなホルンの音で始まりました。木管の第一主題も感情を込めて歌うということはありません。展開部に入ってからも金管が絶叫するような場面は皆無です。テンポが動いたりアゴーギクを効かせるということもありません。コーダでやっと全開に近い音が聴けました。

四楽章、速いテンポであっさりと始まりました。音楽の深みに入り込んでは行かず、表面をなぞっているような感じがします。

五楽章、この楽章でもテンポもほとんど動かず、オケのエネルギーを抑えた演奏が続いています。

とてもあっさりした演奏でした。私には、ゲルギエフが意図したものは理解できませんでした。
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リボール・ペシェク/チェコ・ナショナル交響楽団

icon★★
一楽章、柔らかい表現のファンファーレ。主要主題の前はスタッカートぎみの演奏でした。二度目のファンファーレの後の主要主題は速めのテンポです。第一トリオはそんなに激しくはなく、大人しい冷静な演奏です。第二トリオは静寂な演奏でしたが、心に迫ってくるものは感じませんでした。

二楽章、音が短く詰まり気味に聞こえる金管の序奏。音がとても浅いところから出ているように感じる第一主題。非常に静かな第二主題。第二主題は美しく歌いました。展開部の第二主題も静寂感があり美しい演奏でした。再現部でも首が締ったような苦しい音のトランペットが気になります。

三楽章、ちょっと乱暴な感じを受ける冒頭のホルン。スタッカートが強調されている木管の第一主題。第二主題は美しいです。弦楽器を主体にした弱音部はとても美しいのですが、トゥッティでは固くなっているようなノイズを含んだような響きの浅い硬直した演奏になってしまいます。スタッカートが多用されています。ウッドブロックのようなホルツクラッパー。再現部のテンポは速いです。

四楽章、弦の息遣いがとても心地よい美しい演奏です。ゆっくりと揺られるような心地よさ。さすがにチェコの弦と言われるだけのことはあります。

五楽章、ここのホルンも非常に音を短く演奏します。テンポの速い第一主題には、抑揚が付けられています。ホルンの音が短く変にアクセントを付けたりするので、幼稚な演奏に聞こえます。クライマックスのトランペットの浅い響きにはがっかりさせられます。

基本的には客観的に作品のありのままを再現した演奏だったと思いますが、弱音の弦の美しさに対して、金管の強奏部分が全く魅力の無い響きだったのがとても残念です。また、ホルンが短く音を切って演奏した部分も不自然でした。
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ヘルマン・シェルヘン/フランス国立管弦楽団

シェルヘン
一楽章、さらっとしたテンポであっさりと進むファンファーレ。第一トリオもすごく速いテンポで駆け抜けます。ホルンも早いパッセージはかなり怪しい。こんなに速いテンポの演奏は初めてです。第二トリオもすごく速いです。緩急の差はかなりあって、テンポを落とすところでは、しっかりとテンポを落として演奏しています。

二楽章、この楽章も異常に速いです。一転して第二主題はゆっくりとしたテンポで歌います。展開部に入ると突然、最初のテンポになりますが、かなりテンポ設定に無理があるように感じます。ここの第二主題も遅いテンポでたっぷりと歌います。再現部の第二主題は速いテンポのまま進みます。金管のコラールも速いテンポで、ちょっと滑稽な感じさえします。テンポの動きは非常に大きく、シェルヘンの感情のままに演奏されているようです。

三楽章、この楽章もかなり速いです。第二主題は非常に遅いです。この演奏は設計などは無く、シェルヘンの感情の赴くままに演奏されているような感じです。大胆なカットがあって、ホルツクラッパーの登場も無く、アッと言う間に終わりました。

四楽章、一転して非常に感情のこもった丁寧な演奏です。テンポも遅く、作品を慈しむような感じを受けます。透明感があって涼やかな演奏です。中間部はややテンポを速めたようですがそれでも揺れ動くような濃厚な表現です。

五楽章、ゆったりとした序奏ですが、第一主題に入るとまた速いテンポです。テンポは速いですが、豊かな表現です。この楽章も大胆なカットがあります。コラールの前は少しせわしない印象でした。

四楽章は非常に美しい演奏でよかったのですが、ほかの楽章はすごく速いテンポの演奏に違和感を感じました。また、大胆なカットもちょっと・・・・と言う感じです。
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