マーラー 交響曲第4番
マーラーの交響曲第4番は、彼の交響曲の中でも比較的軽快で明るい雰囲気を持つ作品で、特に終楽章で歌われる「天上の生活」という楽曲が特徴です。この交響曲は、複雑で重厚な他の交響曲とは異なり、親しみやすく、牧歌的な美しさが魅力です。以下、各楽章について説明します。
1. 第1楽章:Bedächtig, nicht eilen (ゆっくりと、急がずに)
この楽章は、まるで優雅な舞曲のように軽快で、清々しい響きが特徴です。冒頭の鈴の音が、聴衆を童話の世界に招くように響きます。牧歌的なメロディが流れ、どこか自然の中を散歩しているような雰囲気が漂います。しかし、マーラー特有の皮肉やユーモアが散りばめられており、単純な明るさだけではない深みも感じられます。
2. 第2楽章:In gemächlicher Bewegung, ohne Hast (穏やかな動きで、急がずに)
この楽章は、少し異質な雰囲気を持つスケルツォ楽章で、ヴァイオリンが不気味な音色を出し、少し幻想的でミステリアスな空気を作り出します。この音色は「死神が奏でる音楽」とも言われ、天国への入り口を象徴しているとも解釈されます。どこか不安を煽るような響きがありながらも、コミカルで人間味あふれるマーラーらしいユーモアが込められています。
3. 第3楽章:Ruhevoll, poco adagio (穏やかに、少し遅く)
このアダージョ楽章は、マーラーの最も美しい楽章のひとつとされています。穏やかで敬虔なメロディが流れ、深い精神性と崇高さが感じられます。心に染み入るような静けさがあり、楽章が進むにつれて美しく荘厳なクライマックスへと向かっていきます。死や天上への憧れを表現するかのように、非常に心に響く内容です。
4. 第4楽章:Sehr behaglich (とても快適に)
最終楽章はソプラノ独唱による「天上の生活」で、天国での無邪気で幸せな日常が歌われます。詩の内容は、天国で美味しい料理を楽しみ、子供たちが遊び、聖人たちが楽しく過ごす様子を描写しており、牧歌的で素朴な幸福感があふれています。音楽はシンプルで、天国での無垢な楽しみや純粋な喜びが表現されています。交響曲全体を通しての緊張がここで解放され、天上の平和が感じられる楽章です。
全体の印象
交響曲第4番は、他のマーラーの作品に比べて小編成で、シンプルかつ透明感のある響きが特徴です。死後の天国での生活を、軽やかで牧歌的に描写する一方、マーラー特有の皮肉やユーモアも垣間見られます。複雑な感情表現や壮大さではなく、穏やかで優しい雰囲気の中に深い精神性を感じさせるこの作品は、マーラーの交響曲の中でも独特な位置づけにあると言えるでしょう。
たいこ叩きのマーラー 交響曲第4番名盤試聴記
クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで始まりました。ウィーンpoの柔らかい音がとても心地良いです。次第にテンポが速くなって、第二主題になりました。アバドもウィーンpoの音色を生かして優しい音楽を作っているようです。テンポの動きはわずかにあるだけです。艶やかなヴァイオリンソロ。5番の1楽章のトランペットの動機の直前はかなり強い音でした。その後に続く音楽は生き生きとした表情で朗々と歌います。とにかく美しい。
二楽章、ウィーンpoらしい甘美な音色がとても魅力的です。アーティキュレーションに対する反応もとても良くて演奏を引き締めています。弾むリズムでタメがあって特徴的です。
三楽章、とてもゆったりとした夢見心地のような美しい演奏です。柔らかいウィーンpoの響きを存分に味わうことができます。大げさではありませんが、しっかりと歌い表現しています。一時的に暗雲が立ち込めるような雰囲気もなかなか良いです。弦楽器の滑らかな美しさは筆舌に尽くしがたいほどです。この美しさを聴くと、この曲が何と美しい曲なのかと再認識させられます。最後の盛り上がりも抑制の効いた上品な表現でした。
四楽章、ウィーンpoらしい艶やかなクラリネット。フレーズの中で強弱の変化もはっきりしていて気持ちが良い。シュターデの独唱はとても明瞭に捉えられていて、微妙なニュアンスも聞き取れるような感じです。とても美しい演奏でした。
アバドはこの頃が一番良かったのではないかと思います。勢いもあったし、主張もありました。
ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団
★★★★★
一楽章、速目のテンポで始まりました。がっちりとした構成を感じさせます。ゆったりとした第二主題。一音一音をとても大切にしているように感じます。天国で鳴っている音楽と思わせるようなとても安堵感のある演奏です。展開部の前から大きくテンポが動きました。ティンパニがクレッシェンド、デクレッシェンドしました。油絵のように克明に描かれて行きます。各楽器の音が立っていて輪郭がはっきりしています。この楽章では二箇所はっきりと間を空けました。とても強固な構造物をみているような安定感が独特です。
二楽章、すごく表情のはっきりした強弱の変化が明確な演奏です。ウィーンpoのような甘美な音色ではありませんが、近代的な美しさを持った演奏です。ヴァイオリンのソロでも強弱の変化をすごく強調します。マーラーの音楽がとても鮮明に再現されています。
三楽章、柔らかく包み込むような美しい弦。転調したオーボエのソロには歌がありました。突然強烈なホルンが誇らしげに存在をアピールします、そのあともかなり激しい表現ですが、これまでの静かな音楽とは見事なコントラストを見せます。ティンパニもかなり激しく入って来ます。かなり激しいのですが、ショルティのようにストレートに外へ向かう激しさとは違い、内面へ向かう激しさです。終盤の盛り上がりも凄く激しいものでした。続く静寂が動と静の対比のようにすばらしい表現です。
四楽章、豊かな表情で歌う冒頭。続く独唱も演奏にマッチした声です。まさに天国の楽しさを歌っています。激しく鈴が打ち鳴らされたり、のどかな天国を思わせる静寂の対比もテンポの動きと合わせてとても良い感じです。だんだん遅くなって終りました。
激しさと静寂を見事に対比させたすばらしい演奏でした。
ブルーノ・ワルター/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、冒頭からテンポが動いて積極的な表現です。作品のディテールを壊すことのない範囲での演奏で、とても節度があります。展開部のフルートは見事に揃っています。オケの集中力も高く、見事に整った演奏をしています。ワルターのテンポ設定も堂に入ったもので堂々としています。
二楽章、少し速めのテンポです。これは一楽章でも見られたことですが、ところどころにちょっとした間があったりするのが独特ですが自然な感じです。優しく穏やかな音楽は、ウィーンpo独特のものなのか、とても安らかな気持ちになってきます。
三楽章、ゆったりとしたテンポで夢見心地です。弦楽合奏が終って続くオーボエはとても良く歌いました。その後の暗転もとても見事です。1955年当時でもウィーンpoの技術はすばらしく録音は古いですが、音色もとても美しいと感じます。ホルンの咆哮も気持ちよく鳴りきります。ワルターの音楽は作為的な部分は全く無く、自然に進んで行きます。終盤に盛り上がる部分のエネルギー感もテンポの動きもすばらしかった。
四楽章、表情豊かなクラリネット。独唱を迎える部分のテンポの動きもとても良かった。柔らかい声の独唱。この柔らかい歌声が音楽に浸らせてくれます。天国ののどかさを伝えてくれる音楽です。
この時代にこれだけの完成度の音楽を演奏していたことに驚きます。すばらしい演奏でした。
マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団
★★★★★
一楽章、とてもクリアで明晰な序奏。一旦テンポを落としてゆっくりと思い入れたっぷりに始まる第一主題が次第に加速して軽快な表現になります。テンポの動きも大きく、何があるのか楽しみにさせてくれます。ティルソン・トーマスのマーラーに共通しているすごく美しく透明感の高い響きが印象的です。細部まで見通せるような明晰で美しい響き。全体的にゆったりとした歩みで広大な雰囲気です。
二楽章、この楽章もゆったり目のテンポでたっぷりと積極的に歌います。シルキーなヴァイオリン。しっかりとしたリズムのクラリネット。音が戯れているような雰囲気がとても良いです。
三楽章、深い所から湧き上がるような主題。ゆったりと踏みしめるように確実な歩み。深い呼吸が感じられる美しい演奏です。オーボエも遅いテンポで深く歌います。ガラス細工のように繊細で緻密でしかも透明感が高い。トゥッティでは筋肉質で分厚い響きを聴かせます。川の流れのような滑らかな音楽も表現します。ティルソン・トーマスとサンフランシスコsoの持てる表現を最大限に発揮した演奏はすばらしいです。終盤の盛り上がりもとてもゆっくりと豪快で堂々としています。
四楽章、美しく表情の豊かなクラリネット。独唱が入る前にテンポを落としました。軽い歌声で天使の歌声にぴったりの独唱です。テンポが落ちて弦楽合奏も非常に美しい。全く力みの無い独唱がとても心地よく響きます。正に天国です。
終始ゆったりとしたテンポで繊細な弱音でたっぷりと歌い。トゥッティでは分厚い響き。そして、美しい天使の歌声。すばらしい演奏でした。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2002年
★★★★★
一楽章、古めかしい鈴の音色で始まり、ゆったりと美しい第一主題。強弱の変化も非常に大きい演奏です。すごく引き締まった表現で、細部の表現まで徹底されています。深い歌を聞かせる第二主題。ハイティンクの指揮に俊敏に反応するオケの高いアンサンブル能力に感嘆します。静寂感の中にピーンと張った緊張感が素晴らしいです。次から次へと溢れ出す歌に酔いしれることができます。最後のアッチェレランドも堂々とした重量感に溢れるものでした。
二楽章、冒頭のホルンの表情もしっかりとしていました。ヴァイオリンの独奏も表情豊かです。ハイティンクの演奏は大きくテンポを動かしたりすることはありませんが、その分細かな表現などは徹底してオケに高いアンサンブル精度を求めるものです。この演奏でも細部に渡る表現は徹底されていて、大編成のオケが身軽に細部の表現をして行きます。
三楽章、夢見るように美しく歌う主題。トゥッティでは泉から水が湧き出すような豊かさです。シルクのように滑らかで美しい響きと自然な歌に身をゆだねているととても心地よい気分です。終盤の盛り上がりもゆったりと、ティンパニも巨人の歩みのようにゆっくりと刻みました。波が引いてゆくように静まってこの楽章を閉じました。
四楽章、控え目で美しいクラリネット。独唱の前はとても活発な動きがありました。独唱の前にテンポを落としました。天使の歌声らしく清潔感のある独唱です。独唱の合い間に入るオケの演奏は極端に荒ぶることは無く、独唱とのつながりや流れを重視しているようです。後半はのどかな天国の様子を表すようにゆったりと穏やかな音楽は心に染み入るようです。
細部まで表現を徹底した非常に美しい演奏は見事でした。
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マリス・ヤンソンス/バイエルン・放送交響楽団
★★★★★
一楽章、良い意味で脱力している第一主題。抜くところと力の入るところがしっかりと区別されていて、とても躍動感のある演奏です。テンポも動いて濃厚な音楽を刻みつけます。穏やかな部分と激しい部分の対比も見事でコントラストのはっきりした演奏です。音も立っていて登場する楽器が皆くっきりとしています。弦の響きも深いところに刻まれるように内へと向かっています。シーンと静まり返る静寂感。最後の加速も適度な範囲で落ち着いて堂々としていました。
二楽章、狂ったようなヴァイオリン独奏。パチーンと硬い音で決まるティンパニが爽快です。メリハリがはっきりしています。
三楽章、ぐっと感情が込められたかと思うとスーッと抜いて脱力して行く感じがとても心地よい演奏です。感情を込めて歌うオーボエ。暗転する部分では複数の楽器が絡み合ってそれぞれに歌いました。思いっきり良く吹き鳴らされるホルン。穏やかな部分と激しい部分のコントラストがはっきりしていて、ダイナミックです。終盤の盛り上がりはスケールの大きな壮大な表現でした。ティンパニはとても良く鳴っていました。冷たく美しい終結でした。
四楽章、美しい木管。独唱の前に僅かにテンポを落としました。天使の歌声にふさわしい爽やかで躍動感のある独唱です。独唱の合い間に入るオケは荒れ狂うような激しさではなく、抑えぎみで節度のあるものです。独唱も表現の幅が広く引き込まれます。
美しく、それでいてダイナミックな演奏でした。独唱も曲にマッチしたとても良い演奏でした。
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ヘルムート・ヘンヒェン/ネーデルラント・ フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、速いテンポの序奏。よく歌う第一主題。音楽は前へ行こうとする推進力があります。第二主題も心地よく歌います。よく歌いますが、粘着質ではなくサラッとした風合いの演奏です。響きは少し温度感が低く、透明感の高い音楽です。涼しげで美しい演奏です。
二楽章、弱音がとても美しく、精緻で見通しの良い演奏です。テンポはほとんど動かずにどんどん進んで行きます。
三楽章、弱音主体で、丁寧で美しい演奏が続きます。オーボエが美しく歌います。弦がとても柔らかく美しいです。オケを絶叫させることも無く、紳士的で折り目正しい演奏が続きます。終盤の盛り上がりも抑制の効いたもので、ティンパニは強打しますし、金管もそこそこ吹きますが、決して暴走するようなことは無く、常に冷静に音楽は運ばれています。
四楽章、少し太い声のソプラノ独唱。オケの表情はとても豊かです。ヴァイオリンがシルクのような滑らかな美しさです。
とてもよく歌い、美しい演奏でした。歌っていても感情的に没入することは無く、冷静に音楽を運びました。これだけ冷静で美しい演奏も良いなと思いました。
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リボル・ペシェク/チェコ・ナショナル交響楽団
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一楽章、速いテンポの序奏。僅かにテンポを落とした程度で速いテンポの第一主題。良く歌い締まった表情に変化もあります。第二主題もたっぷりと歌います。これまで、ペシェクの演奏で感じたどこか緩くてピントがボケたような演奏から一変して、とても締まったスッキリとした演奏で、とても豊かな表現です。速めのテンポで快活で生命感に溢れた演奏を聞かせます。再現部の前あたりからゆっくり目のテンポを取っています。
二楽章、細部まで表情が付けられていて、それが徹底していて、とても心地よい音楽になっています。ホルンの響きが、ふくよかなのですが、音に伸びが無く極上の響きでは無いような感じがします。前に聴いたヘンヒェンの演奏がとても静的な演奏だったのと対照的にペシェクの演奏は動的です。
三楽章、とても深く歌う弦の主題。コントラバスがしっかりと支える分厚い響き。この楽章も速めのテンポですが、演奏はとても情熱的です。音に力があって、音楽が前へ進もうとします。激しい部分と安らかな部分の対比も見事です。硬質なティンパの強打は質感がとても良かったです。ハープも弦の弾ける瞬間をとても良く捉えています。
四楽章、とても表現力のある木管。天使の歌声らしい可愛らしい歌声のソプラノ独唱は躍動感があって生き生きとしています。
速めのテンポでグイグイ進みますが、豊かな表情と、コントラト。躍動感と生命感に溢れた演奏はすばらしかったです。
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