カテゴリー: マーラー:交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

マーラー:交響曲第1番「巨人」の名盤は、テンシュテット/シカゴ交響楽団の、シカゴsoの強烈な咆哮で、内面の葛藤や共感やいろんなものが音として発散されるが、臭いものや汚いものも一緒に吐き出すような壮絶さがある名盤です。ロト/バーデン=バーデン&フライブルクSWRsoは、ギーレン以来の透明感の高い響きを生かして、明晰な演奏が素晴しい名盤です。ティルソン・トーマス/サンフランシスコsoは、すばらしく美しくシャープな響きと、すごいダイナミックレンジでまさに巨人の名盤です。シモノフ/ロイヤル・フィルハーモニーoは、美しく、繊細で、しかも青春のエネルギーの爆発を見事に表現しました。期待せずに聞いたのですが、すばらしい名盤です。

マーラー 交響曲第1番「巨人」

マーラーの交響曲第1番「巨人」は、彼が書いた最初の交響曲であり、若きマーラーの感性や独特な世界観が詰まった作品です。「巨人」という副題が示すように、この曲には自然、人生、そして人間の内面的な葛藤といった壮大なテーマが感じられます。以下、各楽章について説明します。

1. 第1楽章:Langsam, schleppend – Immer sehr gemächlich

静かな導入で始まり、自然が目覚めるかのように、鳥のさえずりや野原の風景を連想させる音楽が流れます。最初は穏やかですが、徐々に力強さが増し、生命が湧き立つようなエネルギーを感じさせます。ここにはマーラーが愛した自然と生命の息吹が表現されており、聴く人を幻想的な世界へと引き込みます。

2. 第2楽章:Kräftig bewegt, doch nicht zu schnell

この楽章は、オーストリアの民俗舞踊「レントラー」を取り入れたものです。快活でリズミカルなメロディが特徴で、田舎の素朴な楽しさやお祭りの雰囲気が伝わります。途中でテンポが変わり、しっとりとしたメロディが現れるなど、軽やかさと美しさが共存しています。

3. 第3楽章:Feierlich und gemessen, ohne zu schleppen

この楽章は独特で、葬送行進曲の形式で展開されます。最初に、子供の歌「フレール・ジャック」の旋律が短調で静かに現れ、やや不気味な雰囲気を作り出します。これはマーラーのユーモアと皮肉が現れている部分でもあります。その後、ユダヤ風の音楽やカフェ音楽風のメロディが続き、人生の悲しみや喜びが交錯するような印象を与えます。

4. 第4楽章:Stürmisch bewegt – Energisch

最後の楽章はドラマチックで、激しい情熱に満ちています。冒頭からトランペットやティンパニの迫力ある音で幕が開き、混乱や葛藤、そして勝利へと向かう激しい展開が続きます。終盤に向かって大きな高揚があり、ついには輝かしいフィナーレで締めくくられます。

全体の印象

「巨人」は、若いマーラーのエネルギーや感性が強く表れた作品です。自然の美しさ、人間の感情、人生の苦しみと歓喜が詰まっており、彼の音楽に対する哲学が垣間見えます。また、伝統的な交響曲の枠を超えた大胆な構成が、マーラーの独創性を感じさせます。

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
1990年のライブ録音です。

一楽章、遅めのテンポで冒頭から重い雰囲気にあふれています。開始2分の間にもかなりテンポが動いています。テンポの動きに伴ったアゴーギクも十分。シカゴsoもショルティの演奏とは違った音楽的な面を聴かせてくれます。
テンシュテットって全身がアゴーギクで出来上がっている人ではないかと思わせるくらい自由にテンポが動き、その動きに合わせて表現が変化する。だから音楽の密度がものすごく濃い。
全体に遅いテンポで着実な足取りで油絵のような濃い音楽を刻んで行く。凄い!圧倒されます。

二楽章、音楽が生き生きしている。とにかく凄い。いつもながら引き込まれてしまいます。
オケの上手さがこのような形で音楽として演奏されると、オケの機能の高さの重要性も感じます。

三楽章、コントラバスのソロもとても表情豊かです。作品と指揮者、オケが一体になって音楽が出来上がって行く。これだけ自在に音楽を引き出せるテンシュテットの能力の高さにも驚かざるを得ない。オケの集中力の高さも、音楽監督のショルティが振る以上かもしれない。
それにしても、ライブでこれだけの集中力を発揮するシカゴsoもすばらしい。また、指揮者によってこれだけ表情を変えることができるのもオケの懐の深いところですね。

四楽章、ffでも全くアンサンブルが乱れない。この楽章もテンポは遅めです。他のCDでは聴かれなかったバストロンボーンのffが出てきたり。色彩のパレットをひっくり返したような色とりどり!
さらに遅いところは、たっぷりと歌い続けます。
テンシュテットの演奏は華麗さやきらびやかさなどとは無縁の演奏です。どちらかと言うと、内面へ内面へと向かう。内面へ問い詰めた結果が外部に放出されたのが、テンシュテットの音楽で、そこには作品に対する深い共感があるのでしょう。
表面が磨かれた、美しい音楽を聴きたい人には「他を当たってくれ!」と頑固親父が言っているようです。
内面の葛藤や共感やいろんなものが音として発散されるが、臭いものや汚いものも一緒に吐き出すような壮絶さがあります。テンシュテットにとっては音楽は、綺麗ごとではなかったのでしょう。終わりに近づくにしたがって、人生に疲れ果てたような、黄昏を感じさせます。

すさまじい絶叫で終演!このライブでシカゴsoはほとんどノーミスだったのではないだろうか。

フランソワ=グザヴィエ・ロト/バーデン=バーデン&フライブルクSWR交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで弱音で注意深く演奏されるオーボエとファゴットの動機。トランペットのファンファーレを暗示するようなクラリネットの旋律が霧の中にボヤーッと浮かび上がります。バンダのトランペットもかなりの距離感ですが、鮮明に聞こえます。遠近のコントラストや色彩感がとても鮮明です。オケの技術レベルは相当に高いようで、とても美しい演奏です。控え目ですが、とても美しいチェロの第一主題。展開部の雰囲気が沈む感じも上手く表現されています。抜けの良いE♭クラ。トランペットのファンファーレも非常に輝かしく美しい。トゥッティでも整然として全く乱れることのないオケもすばらしい。

二楽章、一楽章から一転して速めのテンポです。弾むように軽快なスケルツォ主部ですが突然入ってくるホルンやティパニが強烈です。中間部は意図的に歌うことは無いようですが、デュナーミクの変化などははっきり付けるので表現は豊かです。スケルツォ主部が戻ると再び生き生きとした活気に溢れる演奏が展開されます。

三楽章、遠くから豊かな残響を伴って響くティンパニ。そのティパニとほぼ同じ音量で開始されるコントラバス。その後いろくな楽器が重なってきますが、とても透明感の高い演奏です。中間部冒頭のヴァイオリンのメロディはヴェールに包まれているような美しさでした。鮮度の高い音色で音楽が生き生きしています。

四楽章、一撃の後にすぐ音を止めたシンバル。すごく透明感の高いブラスセクション。かなり強奏はされていますが、整然としています。抑制的な第二主題が次第に力を持って大きなうねりになります。展開部で突き抜けて来るトランペットも凄い!コーダでの伸びやかなブラスセクション。力強いクライマックスを築き上げました。

ギーレン以来の透明感の高い響きを生かして、明晰な演奏はすばらしいものでした。
凄かった。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★★★
一楽章、弦のフラジオレットに隠れるようなオーボエとファゴット。生き生きとした生命観の宿るクラリネット。ミュートをしたトランペット。穏やかな第一主題。青春の息吹に溢れています。温度感があって暖かい演奏です。トランペットのファンファーレからの金管の強奏は凄いものでした。若さの爆発でした。

二楽章、とても明るい活気に溢れる演奏です。表現も積極的で演奏がこちらに迫ってきます。中間部の弦は人数を減らして演奏しているような静けさがあります。スケルツォ主部が戻るさらに活気に溢れた演奏になり、青春の希望に溢れた様子が上手く表現されています。

三楽章、主題が重なってから登場するオーボエやその後の演奏も表情がとても豊かです。中間部はとても丁寧に一音一音確認するように演奏されます。オケの響きには温度感があって暖かいです。主部の回帰は最初のテンポよりも速めですがその後テンポを落としました。

四楽章、冒頭から第一主題にかけては、途中ガクッとテンポを落とす部分もあり、びっくりさせられました。第二主題は録音の古さから美しさは感じませんが、息の長い歌がとても良かったです。展開部でもテンポが凄く変化します。かなり金管を鳴らした展開部でした。その後もテンポは自由に動きます。トランペットのファンファーレの後でもテンポを大きく落として克明な表現です。

青春の希望に溢れる輝かしい演奏はすばらしいものでした。特に四楽章のテンポを落とした表現はすばらしかったです。

マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、極めて静かなフラジオレット。ゆっくりと丁寧に演奏される木管。やはりゆっくりと遠くから響くバンダのトランペット。少しテンポを上げて軽い表情の第一主題が序奏と表情を一転させます。提示部の反復の前でテンポを上げて反復の直前でテンポを落としました。鋭く突き刺さってくるトランペット。展開部へ入っても登場する楽器の輪郭が鮮明で密度も濃く、くっきりと浮かび上がります。ミュートを付けたトランペットのファンファーレは強烈でした。ミュートを外してオープンになったトランペットのファンファーレも突出していました。すごいダイナミックレンジです。

二楽章、主旋律以外の弦もガリガリと強く入って来ます。とても躍動感のある音楽です。中間部ではサクサクと進むかと思えば突然立ち止まってみたりもします。伸び伸びとオケのメンバーが楽しそうに音楽をしている様子が伝わってくるようなほほえましい演奏です。

三楽章、とても静かなティンパニとコントラバスの主題。続いて登場する楽器もバランス良く抑えた音量です。おどけた表情で歌うオーボエ。主部の中間部はテンポも動いてたっぷりと歌いました。ハープから始まる中間部のヴァイオリンは少し硬い感じで夢見心地とは行きませんでした。主部が戻って引きずるような重い雰囲気が中間部と対照的で見事な描き分けです。朗々と歌うトランペットも意表を突いた演出です。

四楽章、三楽章の静寂から一転して嵐のような第一主題。サンフランシスコsoのシャープな響きと圧倒的なパワー感が作品にピッタリでとても気持ちが良いです。第二主題も弱音ではありますが、解き放たれたように伸びやかで美しい演奏です。展開部へ入るところで大きくテンポを落としました。屈託無く伸びやかな金管は見事です。まるで全盛期のシカゴsoを聴いているような感覚になります。再現部でも登場する楽器はくっきりと浮かび上がりとても存在が明確です。トランペットのファンファーレの前はかなりテンポが速かったです。ファンファーレの直前にテンポを落としました。コーダでも金管の圧倒的なパワーが炸裂します。

最後は青春の爆発でした。すばらしく美しくシャープな響きと、すごいダイナミックレンジでまさに巨人でした。
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ダニエレ・ガッティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ガッティ★★★★★
一楽章、低音もバランスの良いフラジオレット。滑らかで潤うのあるクラリネット。大きくクレッシェンドするオーボエ。遠くから響くバンダのトランペット。くっきりと克明な音楽です。ゆったりとしたテンポで朗々と歌う第一主題。提示部の反復指定の前でのテンポの変化はありませんでした。反復は行われませんでした。展開部に入って音楽が次第に陰鬱に沈み込む雰囲気は良く表現されていました。ファンファーレの部分も非常にゆったりとしたテンポで堂々とした表現です。

二楽章、ゆったりとしたテンポで抉るような低弦の冒頭です。強いエネルギーをぶつけて来る主題。中間部では少しテンポを速めて、優雅に歌います。トランペットが入るところで一旦テンポを速め快活な演奏になりました。主部が戻って豪快に鳴るホルン。

三楽章、すごく歌い表情豊かなコントラバスのソロ。くっきりと浮かび上がるオーボエ。そっと大切な物を扱うように丁寧な中間部のヴァイオリン。主部が戻ると色彩感豊かな演奏になります。登場する楽器のカラーがとても鮮明でカラフルです。

四楽章、強烈なシンバルの一撃。ゆったりと恰幅の良い第一主題。弦の激しい動きが強調されています。テンポは遅めですが、ライヴらしい熱気もはらんでいます。内に秘めたような息の長い歌をしなやかに歌う第二主題は酔わせてくれます。展開部が始まってしばらくするとテンポをぐっと落としました。ここでも弦の激しい動きが強調されています。ガッティの声も聞こえます。ホルンの咆哮はウィーンpoならではの凄いものです。再現部は一楽章冒頭の緊張感とは一転して、雄大な雰囲気のものでした。朗々と歌う弦が一時の安らぎを与えてくれます。終始ゆったりとしたテンポで堂々と演奏されています。遅いテンポでスケールの大きなコーダでした。

ゆったりとしたテンポで堂々と、そしてしなやかな演奏はすばらしかったです。
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ユーリ・シモノフ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

シモノフ★★★★★
一楽章、非常に遠くから聞こえるフラジオレット。さらに遠いバンダが美しく響きます。穏やかな第一主題。録音レベルが低いのか、遠くから響く音楽が夢見心地です。かなりダイナミックレンジは広いようです。鋭いミュートしたトランペットのファンファーレ。二度目のファンファーレまではテンポを落として濃厚な表現でした。二度目のファンファーレからは一転して速いテンポになりました。賑やかに盛大に盛り上がって終わりました。

二楽章、遅めのテンポです。くっきりとした隈取りで清涼感のある響きですが、濃厚な色彩です。オケも積極的に色彩を演出しています。静かで穏やかな中間部。シルクのような滑らかさです。途中でテンポを落としてたっぷりと歌います。主部が戻って、ホルンも強力に吹きます。シンバルも豪快に炸裂します。すごく色彩感豊です。

三楽章、消え入るような弱音の中からコントラバスのソロが聞こえます。テンポも動いて歌っています。中間部は羽毛で肌を撫でられるような、柔らかで繊細な演奏です。透明感のあるクラリネット。

四楽章、ゆったりとしたテンポで力強いブラスセクション。テンポを落として表情豊かな表現もあります。ブルー系のトーンで温度感は低いですが、とても見通しの良い演奏で、アンサンブルもとても良いようです。第二主題はとても美しい。深い歌を歌います。展開部へ入る前もゆっくりでした。すごいエネルギーと色彩感の展開部。表現も締まっていてとても良い演奏です。再現部の静寂感もすばらしい。滑らかな弦が美しい。二度目のファンファーレはちょっと指が回り切らなかったような感じがしました。コーダはテンポを速めて力強い突進力です。

美しく、繊細で、しかも青春のエネルギーの爆発を見事に表現しました。期待せずに聞いたのですが、すばらしい演奏でした。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★★
一楽章、非常に音に力のある録音です。美しい木管。鋭く響くバンダのトランペット。ゆっくりと感情表現するホルン。控え目で奥ゆかしいチェロの第一主題。良く歌う音楽。鮮烈な色彩感。濃い色彩で刻み込むように力強い金管。第一主題が展開されると楽しい雰囲気になります。ファンファーレの前に弦と木管が交互に出るのが強調されていました。ミュートを付けたトランペットが突き抜けてきます。ファンファーレの後はすごくテンポを落として濃厚な表現です。すばらしいコントラスト。

二楽章、この楽章も良く歌い、色彩感も濃厚で強いコントラストです。マッシヴで強力なパワー感。中間部も動きがあって生命感に溢れています。主部が戻って、沸きあがる豊かな音楽です。

三楽章、粒立ちのはっきりしたティンパニ。乾いた音のコントラバス。棒吹きのようなオーボエ。歌うクラリネット。活発に動く部分と、静かに流れる部分の対比もはっきりしています。中間部も動きがあって生き生きとしています。主部が戻ってもとても良く歌う楽器が次々と登場します。積極的な表現がとても魅力的です。

四楽章、打楽器の強打で激しく歪みます。力強く演奏される第一主題の影で動く弦の表現もしっかりと聞き取れます。ピーンと張った若々しいエネルギーの発散を感じさせます。第二主題も良く歌います。展開部も強烈な色彩の金管。有り余るエネルギーが体当たりしてくるような凄い演奏です。力を出し切って疲れるようにテンポを落として再現部に入りました。感傷的になる部分もあります。本当に良く歌う演奏です。この楽章のファンファーレはゆっくりでした。二度目のファンファーレの後はテンポをガクッと落としましたが、その後テンポを速め、また凄く遅くなって、そのままコーダでした。

凄く濃厚な色彩と、濃厚な表現。テンポも自在で強烈な表現の演奏は現在では聴けないものです。すばらしい演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第1番「巨人」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第1番「巨人」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
1981年の録音

一楽章、かなり抑えたppで緊張感のある導入部です。クラリネットの音も表情豊かです。バンダはかなり遠い。Ebクラも生き生きとして気持ちが良い。
ショルティ盤よりもoffに録られているので、全体の響きが見通せますが、細部もしっかり収録されているて、とても良い録音だと思います。
アバドは強烈な主張をしてくるタイプの指揮者ではないので、作品の背景に重いものがあまりない作品には良いと思います。
この演奏では、弱音部が生き生きと美しく録られています。
とても流麗な演奏で、ひっかかるところがない。この流麗さがアバドの特徴でもあり、そのようにまとめあげるのが能力の高さなのかも知れません。
この演奏の場合、シカゴsoが積極的な表現をしているので、なかなかの好演に仕上がっています。これで、オケが下手くそで消極的だったら凡演になってしまうところでしょう。

二楽章、上手いです。

三楽章、オーボエの表情も豊かです。木管の上手さが際立っている演奏です。名人揃いで長年同じメンバーで演奏しているので、統一感もあります。
名人が集まっても、ルツェルンやサイトウ・キネンのような寄せ集めでは、これだけの統一感は生まれない。ただ、名人の寄せ集めが一期一会の超絶演奏をすることも稀にありますが・・・・・・。

四楽章、シカゴsoにしたら、かなり抑えた冒頭かもしれません。力強いことは間違いありませんが、余裕しゃくしゃく。
世界の一流オケには、それぞれの文化があって、「この作曲家のこの部分はこうやって演奏するんだ!」というのが受け継がれていて、指揮者が変わっても譲れない部分などもあったりします。
そのオケの文化と指揮者の個性がぶつかり合って、せめぎ合いの中から感動的な音楽が生まれてくるのだと思います。
しかし、寄せ集めのオケだと、その文化の統一ができないので、バラバラになったり、指揮者の細かい指示がなければ無表情な演奏に陥りがちです。
アバドは細部にわたって指示をするタイプの指揮者ではないと思うので、ルツェルンの演奏などは、すばらしい名人芸は聴けますが、音楽としての統一感が今ひとつのように私には思えてしまいます。
例えばシカゴsoとウィーンpoが合同演奏したとしたら、それは水と油のようなもので、まず、音量でシカゴに圧倒されてしまうでしょうし、そうなるとウィーンの良さはかき消されてしまいます。
大太鼓の中心付近を叩くシカゴの打楽器奏者と、大太鼓の中心からかなり離れたところを叩くウィーンの打楽器奏者と一緒にどんな奏法で演奏するのでしょうか?
もしも、両者が譲り合って音楽をしたとしたら、そこからは消極的な音楽しか生まれないと思います。ですから、ルツェルンの演奏を私はあまり良いとは思えないのです。
この演奏はシカゴsoのメンバーがかなり積極的に音楽をしています。終結部ではかなり熱を帯びてきてなかなかの熱演です。

カラヤンやバーンスタイン、ベームなどの時代は若い頃の熱演は録音が悪く、歳を重ねるにしたがって録音は良くなりますが、最晩年の演奏が凡演になってしまった例(ベームが特に)も多く見受けられますが、アバドの年代だと、デビュー当時から録音はかなりの水準になっていましたから、若い頃の熱気あふれる演奏も十分なクォリティで聴けるので、とても良いことだと思います。
フルトヴェングラーやトスカニーニの時代の1980年レベルの録音技術があったら凄い記録がたくさん残っていたでしょうね。

サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、アバドの演奏ほど抑えたppではありません。バンダは適度な距離にありバランスが良いです。しかし、淡い雰囲気などはなく、ショルティ独特のゴツゴツした男性的な演奏になっています。
金管は気持良いくらい見事に鳴ります。アバドの録音が木管中心の録り方だったのが、ショルティ盤では、金管がクローズアップされているようです。
ショルティの傾向ではありますが、オケの機能美は聴けますが、音楽としての全体像が掴みにくいのが残念なところです。
楽器個々の音はすごく立っていて、極めて鮮度の高い音が聞けて強烈です。

二楽章、叙情的なところは全くなく、とにかく攻め込まれます。なかなか音楽に浸ることは許されません。超絶オケを聞いてはいるのですが、聞き手に対して厳しい演奏です。
ショルティが音楽監督をしていた時にアバドとジュリーニを客演指揮者として迎い入れた理由が、自分と違うタイプの音楽だからとショルティ自身が言っていたと言われていますが、ショルティのゴツゴツした男性的で攻撃的な演奏と、アバドの流麗さ、ジュリーニの美しい歌。これで、このスーパーオケを維持したのもうなづけます。

三楽章、美しいメロディも迫ってくるので、なかなか酔いしれることもできない。ショルティのCDを聴く時には常に演奏と格闘しないといけないです。

四楽章、炸裂するオケ!突き刺してくるような、一歩間違えれば暴力にもなりかねないような、ギリギリのところで踏みとどまっている。
続く、弦のメロディーはたっぷり歌ってくれました。初めて音楽を聴かせてくれた感があります。
金管が全開フルパワーはさすがにシカゴという技術を聴かせてくれます。すばらしいテクニックであることは間違いない。この曲はこんなんだと言われれば、それはそれで説得力のある演奏でもあるし、超絶技法にはもちろん何の不満もない。音響としての爽快感もあるし、これだけの演奏ができる組み合わせは、この両者じゃないと出来ない領域にまで到達していると思う。
しかし、一方的に押し続ける音楽に付いて行けないと感じることがある。急、緩、急 のような緩が無いのだ。だから聞き手にも相当な緊張を要求する。終結部の壮絶なffを聴き終えた開放感と安堵感。
この高まった緊張が緩む時に悦に入ることができる人にはショルティはたまらない指揮者だと思います。

ショルティの演奏に賛否が分かれるのは仕方が無いです。でも、何も主張しない指揮者に比べればこれだけ強烈な個性を惜しげもなくさらけ出して、突きつけてくることができるショルティと言う指揮者のすばらしいところだと思います。この演奏を否定してはいけないと思う。

クラウス・テンシュテット/北ドイツ放送交響楽団

テンシュテット/ndr★★★★☆
一楽章、全体に埃っぽい音がします。やはり遅いテンポです。激しい演奏です。
シカゴsoとのライブが完璧だったのに比べると、ミスも散見されますが、やはりテンシュテットらしい爆演ぶりです。ロンドンpoとのスタジオ録音が弱音部やゆったりとしたテンポの穏やかな表現に重点を置いていたような感じがしましたが、このライブは爆発です。
地下のマグマが爆発のタイミングを待ち構えてうごめいているような、爆発へ向けて音楽が運ばれて行くような演奏です。
全開時の爆発ぶりは凄い!怒涛のようなffで一楽章が終わりました。

二楽章、開始から弦楽器の松脂が飛び散るような激しさです。ショルティをも凌駕するかのような猛烈な突進力で、息つく暇を与えてくれません。オケもよく付いて行くなあと感心します。後に喧嘩別れすることになるのですが・・・・・・。

三楽章、やはりミスは散見されますが、そんなのは全くおかまいなしでどんどん音楽は進んで行きます。この楽章は比較的速めのテンポをとっています。そして表情がすごく豊かです。テンポも大きく動きます。これだけ自在に音楽を表出する指揮者は現在となってはほとんどいません。つまらない理論などの教育が行き届いて、音楽ではないことにばかり意識が向いている指揮者が多すぎます。
また、テンシュテットのように音楽に没入するタイプの指揮者は練習も厳しいのでオケからも反発を買いやすく、実際にウィーンpoとの共演も一度だけでした。
民主主義の世の中なので君主のような指揮者では干されてしまうのでしょうけれど、音楽を聴く側とすれば、そのような流れは大きな損失でしょう。音楽業界にとっても損失だと思いますよ。
私など、実際に最近の没個性の指揮者たちのCDを買おうとは思わなくなってしまっています。

四楽章、冒頭、録音機材の方がオーバーレヴしたりして、音を拾い切れていません。それだけ予想外の爆演だったと言うことなのでしょうか。
全体を通して、埃っぽい録音なので美しい音を聴くことはできないのですが、テンシュテットの音楽は十分に伝わってきます。濃厚!
天国へ昇る前の緩やかな部分はとても穏やか、ショルティのような押し一辺倒ではないところが良いですね。
怒涛の爆発が始まりましたシカゴsoのような完璧さがない分、逆に渾然一体となった爆演になっているのかも知れません。シンバルは全部歪んでいます(^ ^;

終演後の拍手がカットしてあるのが残念です。ブラヴォーとブーイングが入り混じった騒然とした状況になったと伝えられています。是非残して欲しかったです。

エリアフ・インバル/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、クラリネットが豊かな残響を伴って立体的に響きます。ファンファーレは近い。暗闇と静寂感の中から音楽が浮き上がるような感じです。少し明かりが差したような第一主題。それでも静けさを保っています。展開部もピーンと張った緊張感と静寂感があります。インバルの鼻歌が聞こえます。クライマックスでもかなり余裕を持って吹かれる金管。終盤はテンポを上げて終りました。

二楽章、アタッカで二楽章に入りました。ゆっくり確実に歩くように確かめながら演奏される低弦の動機。強弱の変化など表現も非常に綿密です。一音一音の密度が高く、かなり高い集中力で演奏されています。中間部の弦がスラーで上昇する部分をクレッシェンドしています。木管も表情豊かに浮かび上がります。弦の主題にも非常に感情が込められてグッと迫ってきます。スケルツォ主部が戻って、また、表情豊かな音楽です。

三楽章、伸びやかなコントラバスの主題。チューバも美しく響きます。トランペットも豊かな表情です。インバルの感情が吐露されてテンポも大きく動きます。中間部のヴァイオリンは独特の表現です。ホルンも一体感があって美しい。主部が回帰して、速めのテンポで進みますが、ここでもテンポは大きく動きます。

四楽章、充実したブラスセクションの響き。インバル気合の掛け声も聞こえます。打楽器も含めてダイナミックな演奏です。ティンパニのクレッシェンンドも効果的に決まります。感情のこもった第二主題は非常に美しい。展開部の金管も余力を残して美しい音です。再現部の手前でトランペットが高らかに演奏します。静寂感に満ちた再現部はとても美しい。クライマックスのトランペットの音の伸びは凄い。オケが一体になった圧倒的なコーダもすばらしかった。

インバルの感情のこもったすばらしい名演でした。

マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、静かに始まるフラジオレットに凝縮されてピンポイントの木管。良い距離感のバンダのトランペット。深みのあるチェロの第一主題。ヴァイオリンもとても美しい。ダイナミックレンジもとても広いです。音楽の鮮度が高く、生命感を感じさせる演奏です。静寂感が高く演奏に引き込まれます。トゥッティでも分離が良く音が際立っています。ティンパニも強力でした。

二楽章、ここまで、特に強調するような表現はありませんが、色彩感が豊かで、中庸のとてもバランスの取れた非常に美しい演奏を続けています。中間部もサラッと柔らかい音色の美しい弦です。途中で登場する管楽器がキリッと立ってクッキリとした輪郭です。主部が戻って、ホルンが強く主張します。

三楽章、ティンパニの響きに埋もれるようなコントラバスのソロでした。表情豊かなオーボエ。中間部のヴァイオリンはヴェールを被ったようなフワッとした柔らかく美しい響きでした。主部が戻って、抜けの良いクラリネットや柔らかいトランペットなど本当に美しい演奏に惚れ惚れします。

四楽章、シンバルに続く、すさまじいトランペットのロングトーン。シンバルも炸裂します。それぞれの楽器が自分のカラーを明確に主張します。第二主題の奥ゆかしい歌がとても心地良い。展開部も整然としています。すばらしいエネルギー感の頂点です。再現部でも密度の濃い木管。コンセルトヘボウ独特の濃厚な色彩感。くっきりとしたミュートを付けたファンファーレ。オープンでもはっきりと聞こえるファンファーレ。コーダでも整然と美しい演奏でした。弦の刻みもはっきりと聞こえました。

強い個性はありませんでしたが、凄く美しい演奏には惹きつけられるものがありました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/フランクフルト放送交響楽団

ヤルヴィ★★★★☆
一楽章、静寂の中に注意深く丁寧な序奏。鋭く距離感があって美しいバンダ。第一主題にヴァイオリンや木管が絡んで戯れるような感じで楽しそうです。テンポも動いて積極的な表現です。鋭く立ったミュートを付けたトランペットのファンファーレ。最後はテンポを速めて、歓喜に溢れる演奏でした。

二楽章、冒頭の低弦はとても遅く演奏しました。木管に向かってテンポを速める演奏です。安らぎを感じさせる中間部。この楽章でもテンポがよく動きます。

三楽章、この楽章でもテンポの動きが絶妙で、とても繊細な音楽を聞かせてくれます。夢の中を漂うような中間部。とても美しい。緩急自在なテンポの動き。作品への共感が表れた指揮ぶりに感服します。とても良い演奏です。

四楽章、オケを爆発させるようなことはありませんが、表情は締まっていて、オケの集中力を感じます。第二主題でもテンポが動いて独特の表現でした。テンポの動きの中にとても豊かな音楽があります。再現部に入る前にティンパニの強烈な一撃がありました。再現部へ向けて徐々にテンポを落として行きました。コーダの最後もテンポを速めて終わりました。

オケを爆発させるようなことはありませんでしたが、テンポの動きや絶妙の表現など聞かせどころの多い演奏でした。
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ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス/マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団

ブルゴス★★★★☆
一楽章、音量は小さいが間接音が少ないバンダ。予想していたよりも美しく洗練された響き。弦と木管がズレました。ゆったりとしたテンポで地に足の着いた確かな歩みです。展開部に入っても遅めのテンポは続きます。管楽器の響きは少し乾いていますが、色彩感は豊かで、ファンファーレも突き抜けてきました。エネルギッシュな演奏でした。

二楽章、この楽章もゆっくりめのテンポで確実に踏みしめるような演奏です。表情も豊かで、感情も込められています。中間部でもちょっとした間があったりテンポも揺れてとても良い表現です。主部の戻る前のホルンがクレッシェンドしながらテンポを上げました。

三楽章、この楽章でもテンポが動いて積極的な表現です。中間部のヴァイオリンはメロディーの途中でスタッカートぎみに演奏しました。表現は生き生きとしたもので、とても活発に動きます。

四楽章、トゥッティのパワーは今一つの感じはありますが、第一主題の後ろで動く弦の表現もとても積極的でした。第二主題も抑揚を付けてテンポも揺らして歌います。展開部のテンポはゆったりとしたテンポで、金管の奥行き感があまり無いので、響きが浅く、エネルギー感にも乏しいのではないかと思います。再現部の第二主題も大きく歌います。ファンファーレが出る前はとても遅いです。その後もゆっくりと濃厚な表現です。コーダの最初の部分もものすごく遅い演奏でした。

かなり感情を吐露した熱演でした。ブルゴスの表現をオケが表現し切れないような感じもありましたが、オケの技量もかなりのもので、これからさらに技術も向上するでしょうし、期待のもてるオケです。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第1番「巨人」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第1番「巨人」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団1985年ライブ

icon★★★★
一楽章、冒頭の木管のバランスが絶妙です。バンダも良い距離感でした。弦楽器が入ってくる部分はすごく控え目です。
金管の咆哮はすさまじいです。弱音部はテンポを落としてたっぷりと歌います。テンシュテットの演奏の特徴だと思いますが、色彩感が豊かで、音楽の輪郭がくっきりと描かれています。

二楽章、すごく美しい音で録られていて、弦の響きなどもとても美しいです。

三楽章、途中で止まりそうになるくらいテンポを落としたり、表現は自在です。
弦楽器のデリケートな音色が魅力的です。アゴーギクも効かせて表情豊かな音楽です。
四楽章、予想していたような爆発ではなく、制御された冒頭でした。
伸びやかに歌う弦。とても気持ちが良い時間を作ってくれます。
金管は限界を超えたような爆発はしません。
後半かなりテンポが速くなりました。美しい「巨人」でした。

レナード・バーンスタイン/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★
1987年の録音

一楽章、ホールに広がるクラリネットの響きが綺麗です。バンダも十分に距離感があって良いです。
復活のときほど重さがないので、すんなりと聴く事ができる演奏で安心感があります。
テンポはかなり遅いですが、オケもバーンスタインといっしょになって楽しんでいるようで、チャーミングな表情が魅力的です。
音楽の盛り上がりとともに自然にテンポが速まって爆発します。嵐のような激しさと、牧歌的なゆったりした部分の振れ幅がものすごく大きい演奏で、作品えの共感がストレートに音楽になっているすばらしい演奏です。

二楽章、とても遅い。コンセルトヘボウの響きがとても美しい。すごく歌います、復活ではこれが粘っこ過ぎて、私には付いて行けませんでしたが、この曲なら大丈夫です。

三楽章、ここは速めのテンポです。切々と歌って僅かにテンポが動いているのか。表情はとても豊かです。一つ一つの旋律に感情が込められているような濃厚な演奏でとても説得力があります。

四楽章、かなりと言うか、相当遅いです。しばらくして少し速くなりました。テンポがすごく動きます、とにかく振幅がすごい。
ホールに広がるエコーは本当に美しい。テンポが遅い部分も十分に歌われていて、聴いていてとても気持ちが良い。音楽に浸ることができる良い演奏だと思います。
テンポの変化は異常と思えるくらいあるのですが、不思議なことに作為的な感じを受けないので、こちらも次第に音楽に引き込まれて行きます。

作品に没入して行くタイプとしては、テンシュテットと共通する部分もあるのかもしれませんが、バーンスタインの音楽は、テンシュテットの激しさとは違い、愛情や優しさに溢れているような感じがします。

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★
一楽章、冒頭から絶妙のアンサンブルを聞かせます。バンダはかなり遠いです。内声部を重視したバランスの演奏のようです。締まったホルンのアンサンブル。トランペットの咆哮!しかし、冷静さは失わずに進みます。テンポがガクッと落ちたり、またテンポが戻ったりして終わりました。

二楽章、 マーラーの細部に渡る指示にも的確に反応しています。クラリネットの際立った表現があったりしますが、中庸の域を逸脱することなく音楽は進んで行きます。

三楽章、オーボエが付点を極端にはずんで演奏しました。テンポの変化のつなぎも絶妙です。アゴーギクも効かせて豊かな表現です。テンポが動いてとても表情豊かな演奏です。

四楽章、抑え気味のブラスセクション、ライヴならではのテンポの動きがいたるところで見られます。ここ一発の爆発力はテンシュテット/シカゴsoには及ばないが曲を大きくとらえた息の長い歌があります。たびたびテンポが遅くなります。最後は青春のエネルギーの爆発でした。

ミヒャエル・ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団

ギーレン★★★★
一楽章、密度の高いクラリネット。重いファゴット。間接音を含んで適度な距離感のトランペットのバンダ。登場する楽器が濃厚で克明です。トランペットのファンファーレもクレッシェンドしてとても積極的な表現です。速めのテンポで軽快に演奏される第一主題。とても美しいヴァイオリン。提示部の反復の前でテンポを速めました。展開部に入ってもすばらしい静寂です。オケの集中力がとても高く、音が集まってきます。ホルンのアンサンブルもすばらしい。トランペットのファンファーレは爆発的なパワーではありませんでした。コータ゜でのトロンボーンやトランペットの強奏が突き抜けて来る部分は素晴らしいエネルギー感でした。硬質なティンパニもとても良い音色です。

二楽章、木管の主題もとてもアンサンブルが良く気持ち良い演奏です。動きがあって生き生きとした表現です。旋律以外のパートもしっかりと響かせていて、とても見通しの良い演奏です。中間部は速めのテンポで小気味良く進みます。主部が戻って、シャープな響きの演奏が続きます。

三楽章、速めのテンポです。伸びのあるコントラバスの主題。高音が美しいオーボエ。テンポも良く動いてとても音楽的です。ギーレンってもっと無機的な演奏をするのかと思っていましたが、とても有機的で濃厚な音楽です。中間部はとても現実的な響きですがとても美しい。主部が戻って、また速めのテンポでグイグイと前へ進もうとする音楽ですが、次第にテンポを落として静まって行きます。

四楽章、整然としている第一主題。テンポも動きます。このテンポの動きは事前に計算されたもので、テンポの動きに合わせて音楽が熱くなることはありません。美しいですが、あまり表情の無い第二主題。相変わらず整然とした展開部ですが、ホルンは奥まったところにいて、あまり前には出てきません。再び静寂な再現部。とても鍛えられているオケでライヴでも見事なアンサンブルです。最後も整ったアンサンブルでバランスの良い響きで終えました。

磨きぬかれた音色と素晴らしいアンサンブルで濃厚な色彩と見通しの良い音楽はなかなかでした。

フランツ・ウェルザー=メスト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

フランツ・ウェルザー=メスト★★★★
一楽章、会場のノイズも結構拾っている録音です。奥行き感と残響を伴ったバンダのトランペット。濃厚な色彩感。Ebクラがくっきりと浮かび上がります。すんなりと入った第一主題。提示部の反復の前はかなりテンポを上げました。反復の後の展開部の前はかなり激しい演奏になりました。柔らかいホルン。ハープの存在感もしっかりあります。場面が変わると音楽の表情や色彩感も大きく変わりとても変化に富んだ演奏です。トランペットのファンファーレは若干抑え気味でした。切迫感のあるコーダでした。

二楽章、穏やかで抑え気味の低弦。木管の主題も強くは出てきませんが、とても生命感を感じさせる音楽です。旋律の周りを彩る金管も強く存在を主張するので、とても色彩感が豊かです。中間部はテンポも動いてとても良く歌います。主部が戻って激しいホルン。

三楽章、良く歌うコントラバスのソロ。オーボエも良く歌いました。中間部ではとても繊細なヴァイオリンがとても美しい。主部が戻って、また色彩感豊かで、生気に満ちた演奏です。

四楽章、生き物のように動くオケ。全開ではありませんが、かなり激しい第一主題。ホルンの咆哮は凄いです。独特な強弱の変化を付けた第二主題ですが、これも美しい。展開部の前のホルンもとても美しい演奏でした。展開部でもトランペットは抑え気味ですが、ホルンは遠慮なしに咆哮しています。細心の注意を払って丁寧な再現部。第二主題の再現もとても美しいものでした。ファンファーレはそんなに強くは演奏されませんでした。コーダは相変わらずすさまじいホルンの咆哮に合わせてかなり力の入った演奏でした。

色彩感も豊かで、歌もありなかなかの演奏でした。正規の録音を期待したいです。
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ズービン・メータ/フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団

メータ★★★★
一楽章、残響を伴って美しいクラリネット。バンダはそんなに遠くないです。力みのない穏やかな第一主題。提示部の反復はしませんでした。とても鮮度が高く、生き生きとした表現の演奏です。トランペットのファンファーレも奥行き感があってとても良い雰囲気です。鋭い響きのトランペット。動きの活発なホルン。青春のエネルギーを感じさせる演奏でしたがトゥッティでリミッターがかかったように音の伸びが無くなったのがちょっと残念でした。

花の章、トランペットが鋭く、穏やかさはあまり感じません。美しいホルン。うつろに歌うオーボエ。トランペットに絡む楽器が非常に美しいです。

二楽章、ゆったりとしたテンポで、流れるような部分と、縦に動く部分の対比が明確です。色彩感がはっきりしていて濃厚で躍動感があります。中間部は速めのテンポでとても良く歌い積極的で爽やかな音楽です。

三楽章、オーボエがとても感情を込めて歌いました。とても良く歌う演奏です。中間部の豊かな色彩感と歌に引き込まれます。ファゴットも深い響きです。

四楽章、若干遅めのテンポです。途中でさらにテンポを落としたりしますが、やはりリミッターがかかったような録音で激しさが伝わって来ません。第二主題は包容力のある美しい演奏です。展開部に入ると金管が奥まってしまって、混沌として全体像が掴みにくくなります。トランペットに比べると貧弱なホルン。オケのアンサンブルは良く、一体感があります。再現部でも活発に動く木管。二度目のファンファーレの最後でテンポを落としました。コーダでも鋭いトランペットが突き抜けて来ます。

色彩感も豊かで、歌もあった良い演奏だったと思うのですが、リミッターがかかったような録音で、四楽章のコーダで爆発したのがどうか分からなかったのが残念でした。
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ディエゴ・マテウス/フェニーチェ劇場管弦楽団

マテウス★★★★
一楽章、潤いのあるクラリネット。遠くから柔らかく響くファンファーレ。ソフトで優しい第一主題。若干遠い感じはありますが、美しい演奏です。展開部に入っても一音一音確かめるような確実な歩みです。荒ぶることなく穏やかで美しい演奏が続きます。ミュートを付けたトランペットのファンファーレもとても静かでした。二度目のファンファーレの後も吠えることは無く、抑制された表現です。ベタベタと重いティンパニ。

二楽章、リズミックに歌うヴァイオリンの主題。踊るように動きのある演奏をしています。中間部でも弦の柔らかく優しい主題の演奏です。弱音部は非常に美しいですが、トゥッティの思い切りが少し悪いような感じで、強弱の振幅が狭い感じがします。

三楽章、歌うコントラバスの主題。オーボエは最初音を短く切って演奏しましたが、とても表情の豊かな演奏でした。シンバルが入るところで少しテンポを速めました。テンポは所々で少し動いています。中間部のヴァイオリンも柔らかく優しい演奏でした。このオケの弱音は非常に美しいです。主部が戻るとクラリネットの弾むようなリズムの演奏。弱音時の表情は細部までとても良く付けられています。

四楽章、美しい響きではありますが、エネルギー感には乏しい響きです。美しく歌う第二主題。羽毛のような柔らかな肌触りで本当に美しいです。美しい響きなので歌も心に染み入るような感じです。展開部でも金管は強く吹いているのは伝わって来るのですが、エネルギーとしては強くなりません。録音でリミッターがかかったような不自然な録音でもないのですが・・・・・。再現部ではまた弱音の非常に美しい音楽が演奏されます。全く荒れることなく美しいクライマックスです。最後はテンポを速めて興奮を煽るような演出でした。

とても美しくロマンティックな演奏でしたが、トゥッティのエネルギー感が無かったのが残念でした。弱音の美しさにトゥッティのエネルギーが伴えば文句なしの演奏だったのですが・・・・。

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、この録音でも遅めのテンポを取っています。静寂間があります。この静寂間が何ともいえない緊張感を醸し出しています。
ただ、シカゴsoとのライブほど大きくテンポが動かない。やはりスタジオ録音となると、よそ行きになってしまうのでしょうか。
テンシュテットの録音は、あまり美しい音を聞くことができないのですが、このCDは美しいです。
一音一音を大切に慈しむかのような、演奏です。ライブの鬼気迫るような演奏とはまた違った安堵感や優しさを聴かせてくれます。
ffでは伸びやかなブラスの響きがすばらしい。よくロンドンpoが下手くそだと書かれていますが、どうしてどうして、シカゴsoクラスには及ばないにしても、かなりの演奏をしてくれています。

二楽章、テンシュテットのライブは混濁やアンサンブルの乱れなど関係なしに指揮者の思いのたけをぶつけてくるような演奏をしますが、このCDでは透明感の高い、極めて整然とした演奏をしています。

三楽章、テンポを大きく動かしたり、アゴーギクを効かせたりはあまりしていないので、上品な感じで、やはりテンシュテットの演奏にしては、よそ行きっぽく聞こえます。弦楽器が美しい倍音を伴って心地よく響いています。

四楽章、冒頭の金管の咆哮も多少余裕を残しているような感じで、汚くなることはありません。
ただ、シンバルが近過ぎるのが気になります。
だんだん熱を帯びてきて、テンポも動きだしました。緩急のコントラストがはっきりしていて、このCDではゆったりした部分がとても良いです。
この楽章の途中で入る金管は決してパワー全開にはなりません。美しい響きを聴かせます。
終結部で全開になっても、大暴れすることはなく紳士的な範疇でした。
テンシュテットの演奏にしては細身な感じを受けましたが、シャープな良い演奏でした。

しかし、普段のテンシュテットの爆演を知っている人たちにとっては不満の残る演奏かもしれません。

ヘルベルト・ケーゲル/ライプツィヒ放送交響楽団

icon★★★
一楽章、弦のフラジオレットの低音部分がはっきりと聞こえます。生命感のあるクラリネット。モヤーっとした中から聞こえるバンダのトランペット。締まった響きのホルン。淡々と伸びやかで爽やかに演奏される第一主題。第二主題のあたりで一旦テンポを落としました。爆発することなく展開部へ入りました。ライヴ録音のせいかミュートしたトランペットのファンファーレが弱かった。その後のミュートを外したファンファーレも少し埋もれる感じでした。見通しよく爽やかな演奏でした。

二楽章、すごくゆっくりとした冒頭の低弦の動機。ところどころでちょっと間を空けます。ヴァイオリンの動機のころにはテンポが上がっていますが、再び低弦の動機になるとゆっくりになります。中間部の主題でも間を空ける部分がいくつもあります。テンポの動きに合わせてよく歌います。終結に向けてテンポを煽りました。

三楽章、静寂の中に響くティンパニとコントラバス。ゆっくり始まり次第にテンポを上げるオーボエの旋律。作品を克明に印象付けるかのようにテンポはとてもよく動きます。表現も積極的で聴き手に届いて来ます。中間部のヴァイオリンはヴェールをかけられたようなとても柔らかい響きで惹きつけられました。主部が回復するとまたオーボエがぐっとテンポを落として演奏しました。

四楽章、パカンと言うシンバル。とてもゆっくりと演奏します。いつの間にかテンポが速くなっています。第二主題のヴァイオリンも絶妙な間を含んだ美しい歌です。ヴァイオリンに絡むオーボエも間のある演奏です。展開部からもすごくテンポが変わります。第一主題の再現は速いテンポです。ファンファーレはどちらも他のパートに消されぎみでした。最後はアッチェレランドして終りました。

歌や間もありなかなかの演奏でしたが、四楽章の燃焼度があまり高くないのが残念でした。

ジョルジュ・プレートル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

プレートル★★★
一楽章、以外に開放的な冒頭。すごく近く大きい音のバンダのトランペット。穏やかな第一主題。提示部の反復の前でテンポを速めました。反復した後はテンポが良く動きました。展開部に入ると静寂感に支配されます。美しくとても流れの良い音楽です。金属的な音で浮かび上がるミュートしたトランペットのファンファーレ。ファンファーリの後一旦静まるところでテンポを落とし、再び盛り上がるのに合わせてテンポを速めました。オケも無理なく鳴らしています。

二楽章、あまり厚みを感じさない低弦。速めのテンポで引っかかるところもなくサラリと流れて行きます。中間部へ入る前に僅かにテンポを落としました。静かに歌う中間部。主部が戻るとホルンの激しい演奏です。

三楽章、あまり歌わないコントラバスのソロ。他の楽器が入って来ても静かです。あっさりとしていますが、なぜか切々と訴えてくるような不思議な演奏です。中間部も何かを強調することもなく流れて行きます。

四楽章、必要以上にオケに強奏はさせません。すっきりとスリムでシャープな響きです。テンポは良く動いています。第二主題もテンポが動いています。とても艶やかなヴァイオリンの演奏です。展開部冒頭では金管にかなり強く吹かせました。再現部はまた開放的な雰囲気でした。再現部冒頭の第一楽章の序奏部分から続く静寂で安らかな弦。ヴィオラの警告的な動機の後はゆっくりとしたテンポです。輝かしいコーダでもテンポが動きました。

良くコントロールされた流れるような演奏でしたが、聞かせどころがはっきりしないところが残念でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第1番「巨人」の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第1番「巨人」4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第1番「巨人」名盤試聴記

ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★
一楽章、シノーポリ独特のフワッとした感じ。バンダの配置は、復活同様絶妙な遠近感です。ゆったりとしたテンポで進みます。
ふくよかなバランスで暖かみのある演奏です。ふくよかなバランスの中にピリッとしたところがところどころにちりばめられていてポイントを押さえているようだ。面白い。

二楽章、今まで聞きなれていない音がいろいろ聞こえてくるのは、新しい発見があって面白いところなのだが、全体を支配しているふくよかな音色が影響するのか、表情にも厳しさが感じられない。

三楽章、チェロのソロはすごく弱くティンパニに隠れてしまいそう。表現は平板な感じがします。ショルティに代表されるような、ギンギンガリガリ言わせるような演奏とは対極にある穏やかな癒し系の「巨人」なのです。

四楽章、やはり音色からそう感じるのか、オケのフルパワーには聞こえない。全体にマットな響きで色彩感も乏しい感じがします。
とても平和な感じ
これまであまり聞こえなかった対旋律を強調したり、時にテンポを落としたり、この演奏独特の部分は持っているのだけれど、それをオブラートにくるんだような、ソフトな肌触りが聴く人によって評価を大きく左右するところでしょう。
穏やかで、スケールの小さいミニチュアを聴いたような感覚に襲われました。
新たなマーラー像を提起したことはシノーポリの作曲家としてのキャリアからも想像できることで、評価すべき点だと思いますが、演奏芸術としての詰めはもう少し必要だったのではないかと感じました。
マーラーの巨大な音響空間を感じさせない演奏は共感しにくい部分で、多分多くの人たちが不満に感じるのではないかと思います。

基本的な解釈は良いとしても、やはり巨大な音響空間の再現をスポイルして欲しくなかったというのが私のストレートな感想です。

ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★
一楽章、ゴロゴロと言うノイズの中から、フラジオレットが聞こえます。豊かに響くクラリネット。ミュートをしたトランペット。割と速めのテンポで淡白に進みます。鈍った音のトライアングル。後のコロンビア交響楽団との録音の7年の年数で録音技術が大きく進歩したんだとこの録音を聞くと感じます。薄い弦。ほとんど残響成分を含まない録音からは美しい音を聞き取ることはできません。トランペットのファンファーレの前あたりからテンポを動かしてこってりとした表現でした。

二楽章、急に音が近くなりました。とても動きがあって活気のある演奏です。中間部もかなり速いテンポで優美な雰囲気よりも活発な印象です。スケルツォ主部が戻り再び活気のある演奏で、若さと希望に溢れた演奏のようです。

三楽章、音程が不明瞭なティンパニ。木管や弦には丁寧な表情がつけられています。中間部もどういうわけか落ち着きの無い演奏です。

四楽章、径の小さいシンバルの一撃から始まりました。第一主題の途中で少しテンポを落として克明に印象付けるような演奏です。第一主題部はテンポがよく動きます。第二主題もテンポを揺らしてたっぷりと歌います。とても丁寧に語りかけてくるような感じがします。展開部も大胆にテンポが動きます。再現部では古い録音にもかかわらず美しさの片鱗を見せる弦。後のコロンビア交響楽団との録音のようなコーダで大きくテンポを動かすことは無く、スッキリと終りました。

テンポを動かして訴えかけてくる部分など、マーラーを熟知したワルターならではの演奏でしたが、録音の古さがいかんともしがたい。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、探るように慎重な冒頭。とても感情のこめられた濃厚なオーボエ。美しいウィンナ・ホルン。着実な足取りです。さらりと自然な第一主題。提示部の反復の前でテンポを上げました。展開部からの沈み込みが深く表現の振幅が広いです。トランペットのファンファーレは速いテンポでしたが、その後テンポが動いています。抑え気味で圧倒的なクライマックスという感じではありませんでした。

二楽章、ゆったりとしたテンポで確かめるような確実な足取りの演奏です。バーンスタインの演奏にしては、感情をこめて歌う部分は少ないです。中間部はさらにたっぷりとした濃厚な演奏で、テンポも動いて作品への共感が感じられます。

三楽章、あっさりとしたコントラバスのソロ。速めのテンポでどんどん進みます。オーボエとトランペットが絡む部分ではたっぷりと歌いました。中間部はヴェールを被っているような美しい音色で夢見心地でした。主部が戻って、また速めのテンポで力強い音楽です。

四楽章、硬いシンバルの音。ゆったりと堂々とした第一主題が提示された後、テンポを速めています。その後またテンポを落として再度速めました。激しいテンポの動きです。テンポも動いて感情の込められた第二主題。速いテンポの再現部。トランペットが音を短めに演奏します。弱まったところで、再びテンポが遅くなります。強くなるに従ってテンポを速めます。バーンスタインはこの頃すでにこの作品を完全に自分のものにしていたようです。ただ、この目まぐるしいテンポの変化には少し落ち着きが無いような印象を受けます。ファンファーレはあまりはっきりとは聞き取れませんでした。ここに至るまでもテンポは頻繁に変化していました。トゥッティでの響きも少し浅いように感じました。最後はテンポを上げて追い込みます。

あまりに頻繁に変化するテンポは落ち着きの無さを感じました。響きにも深みが無くちょっと期待外れの演奏でした。
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オトマール・スゥイトナー/シュターツカペレ・ドレスデン

スウィトナー★☆
一楽章、弦のフラジオレットががとても硬い音に聞こえます。続くクラリネットがとても柔らかい音を聞かせます。トランペットのファンファーレが間接音を伴ってとても柔らかく響きます。編成が小さいように感じさせる第一主題。テンポはほとんど動きません。とても小じんまりとまとまっていて、マーラーを聞いている感覚ではありません。金管も非常に軽く吹いているし、弦も弓をいっぱいに使って必死に演奏しているような雰囲気がありません。

二楽章、カチッとした演奏で、スケルツォの雰囲気ではありません。一般的にマーラーを演奏するオケに共通した近代的でスケールの巨大なオケの印象とは異なり、とても古風で小さい編成のオケが演奏している感じで、独特の雰囲気を持っています。

三楽章、カノン風に現れる主題がテューバも入ってくるようになると騒々しいくらいです。中間部のヴァイオリンも弓の真ん中あたりだけ使っているような小さくまとまる演奏です。主部が回帰して淡々と音楽が進みます。

四楽章、チャイナシンバルをステックで叩いたような音から始まりました。余力をかなり残した金管ですが、何か詰まったような音で開放感がありません。ヴァイオリンの第二主題も今まで聞いた演奏とはちょっと違います。何か窮屈そうな演奏です。展開部でも金管は咆哮することなく、抑えたままです。しかし、チャイナシンバルはナゼこの曲に登場するのだろう?再現部でも古風な響きが印象的です。トランペットのファンファーレも独特の響きです。近代的な分厚い響きはありません。ティンパニも古い時代の音です。華々しい勝利の響きではありません。まるで古楽器で演奏したマーラーのようでした。

ジュゼッペ・シノーポリ/ワールド・フィルハーモニック管弦楽団

シノーポリ★☆
一楽章、遠く淡い響きの序奏。バンダのトランペットはそんなに遠くは無くデッドです。第一主題の入りはゆっくりでした。展開部に入ってもあまり緊張感は感じません。音楽にほとんど表情が無く、のっぺりとしていて平板な感じです。トランペットのファンファーレが鳴っても高揚感もありません。響きにも厚みが無く何か物足りない演奏です。

二楽章、この楽章でもただ楽譜に書かれていることを音にしているだけのようで、無表情で平板です。中間部は少し歌われています。

三楽章、遠いコントラバスの主題。途中で加わるオーボエも平板です。中間部のヴァイオリンはフワッとした音色で夢の世界のようでなかなか良い雰囲気でした。

四楽章、大編成のオーケストラにもかかわらず、響きが薄く奥行き感もありません。演奏会場がデッド過ぎるのか?オケもあまり乗っていないようです。トゥッティで低音が伴っていないので、響きに厚みが全くありません。終盤にテンポが大きく動きました。

録音の問題もあったのだと思いますが、響きが凄く薄く、残響もほとんど感じない響きで、作品への共感なども全く表現されていないように感じました。
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ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、透明感の高い弦です。暖かいトランペット。今まで聞いたマーラーとは温度感が違う。
ビブラートの効いたホルン。「チェコの弦」と言われますが、独特の透明感があり魅力的です。
ハープの三連符がたどたどしい。弦の美しさに比べると管楽器にはバラツキがあるようです。トランペットのffが独特の粘着質の音がして、弦の透明感と合わないような感じを受けます。

二楽章、ホールの影響か、全体に木質系の感じがして、暖かみがあります。ノイマンの指揮はオケの音質を生かした穏やかな表現で、決して襲い掛かってくるような演奏ではありません。

三楽章、トランペットのmfぐらいのアンサンブルは柔らかくて暖かみがあって良いのですが・・・・・・。

四楽章、金管が音を短く切るのがとても気になります。シンバルも硬質な楽器を使っているようで、弦とは水と油のようなことになっているように私には聞こえます。
アンサンブルも良いのですが、金管があまり鳴らないのをムリに力んで吹いているようで、伸びのある音がしないので、うるさいです。
せっかく弦が美しい響きを持っているのに、金管と打楽器が良さを壊してしまっているようで、ちょっと残念な演奏です。
ウルサイ!
この粘着質の金管の響きは1970年代のN響でもこんな音を出していました。もちろん今はすばらしいオケに成長しましたが、まだ技術が世界水準に達していない時にはこのような音になってしまうのでしょう。

音楽がどうのこうのよりも、ffが汚くて残念ながら、あまり聴きたくない演奏でした。

ジェイムズ・レヴァイン/ロンドン交響楽団

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一楽章、太く豊かなクラリネット。突然昔のラジオが鳴り出したようなバンダのトランペット。とても気持ち良く鳴るホルン。レヴァインの音楽には静寂感が無いように思うのですが・・・・・。この演奏でも弱音の緊張感がないし、強奏では騒々しく埃っぽい印象がどうしてもあるのです。

二楽章、伸び伸びと豪快に鳴る弦。遠慮なく強いトライアングル。弱音はありませんが、オケは気持ちよく鳴ります。

三楽章、ここでもティンパニも弱音はなく、コントラバスも演奏しやすい音量で演奏しています。中間部のヴァイオリンはマスクされてヴェールをかけられたような独特の響きが美しかった。表情はあるのですが、少し乱暴な感じがあります。

四楽章、ティンパニがかなり強調されています。第二主題もとりたてて美しいことはなく、色彩感もあまりありません。展開部も雑然としていて落ち着きがありません。響きの純度が高くなく、余分な響きが常に付きまとっているような感じがします。最後はかなりテンポを上げて終わりました。

ちゃんと交通整理されていないような印象の演奏で、雑然としていました。

リボール・ペシェク/チェコ・ナショナル交響楽団

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一楽章、低音も良く聞こえるフラジオレット。あまり潤いの無いクラリネット。比較的近いバンダのトランペット。速いテンポで静かな第一主題です。提示部の反復の前ではほとんどテンポが変わりませんでした。展開部もとても静かです。すごく少ない人数で演奏しているような寂しさです。登場する楽器もくっきりと浮かび上がることはなく、合奏の中に埋もれているような感じです。トランペットのファンファーレもあまり音圧感がなく、とても貧弱なオケの演奏のように感じます。

二楽章、冒頭の低弦にも厚みがありません。メロディを演奏する楽器が前に出てこないので、色彩感もあまり鮮明ではありません。中間部も速めのテンポであっさりと演奏されます。

三楽章、主題の途中で登場するオーボエがあまり浮き出ません。主部の中間部のクラリネットは良く歌いました。中間部のヴァイオリンがあまり鳴っていないような感じがします。オケの響きも極上とは言い難く、色彩感にも乏しい演奏で、アゴーギクを効かせて演奏することも無く、こちらとしては、何を聞けば良いのか戸惑います。

四楽章、小さい径のシンバル。全開ではない第一主題。なぜか鳴らし切らない演奏が疑問です。もっと色んな音が混在しているはずなのにとてもスカスカで寂しい響きです。弱音で淡々と進められる第二主題。展開部に入ってもどこか醒めていて熱気を帯びることはありません。余分な肉を削ぎ落としたような痩せた音楽です。ミュートを付けたファンファーレも弱弱しい。コーダの前後で大きくテンポが動きました。

私には、魅力的な演奏には感じませんでした。
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