ドヴォルザーク 交響曲第8番
ドヴォルザークの交響曲第8番は、明るく牧歌的な雰囲気と、故郷ボヘミア(現在のチェコ)への愛情が込められた親しみやすい作品です。彼の代表作である「新世界より」と並び、非常に人気が高く、豊かなメロディーと民族的な要素が特徴です。以下、各楽章について解説します。
1. 第1楽章:Allegro con brio
チェロによる穏やかなテーマで始まり、自然の美しさや田園風景を想起させます。その後、ホルンが壮大なメロディを奏で、明るく力強い雰囲気が広がります。軽快で陽気なメロディと共に、田舎ののどかな風景が音楽の中に描かれており、生命力あふれる印象を受けます。
2. 第2楽章:Adagio
この楽章は静かで叙情的な雰囲気が漂います。時折、鳥のさえずりを思わせるメロディが現れ、自然の中での穏やかなひとときや、夕暮れ時の静寂を感じさせます。温かみのある旋律がゆったりと流れ、聴き手に深い安らぎと美しさを届けます。
3. 第3楽章:Allegretto grazioso
ワルツ風の軽やかなリズムで始まり、優雅で遊び心のあるメロディが特徴です。どこか懐かしさを感じるこのメロディは、チェコの伝統的な音楽に由来し、聴き手に微笑みを誘います。途中で速いテンポの部分に変わり、明るくはつらつとした雰囲気を加えることで、多様な表情を生み出しています。
4. 第4楽章:Allegro ma non troppo
最終楽章はファンファーレのようなトランペットの導入で始まり、壮大なフィナーレに向かう流れが印象的です。明るく活気に満ちたメロディが繰り返され、リズミカルで喜びに満ちた展開が続きます。チェコの民族舞曲風のリズムが豊かに組み込まれており、全体を通してエネルギッシュで楽しさあふれるクライマックスを迎えます。
全体の印象
交響曲第8番はドヴォルザークの作品の中でも特に「自然」と「民族色」が豊かに表れています。複雑な構成よりもメロディの美しさが際立ち、聴き手に親しみやすさを感じさせる曲です。彼の故郷に対する愛情と、自然の中で生まれる喜びや穏やかさが凝縮されており、心温まる魅力がいっぱいの作品です。
たいこ叩きのドヴォルザーク 交響曲第8番名盤試聴記
朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団
★★★★★
一楽章、冒頭からアゴーギクを利かせて歌い込まれた演奏です。表情が豊かで伸びやかな演奏です。
オケが渾身の力を振り絞って演奏しているような力強く情感に満ちた演奏です。
二楽章、木管も美しい!テュッティも生き生きとしていて聴いていて気持ちが良いです。
三楽章、
四楽章、明るい音色のトランペットのファンファーレでした。オケの積極的な表現がとても好印象です。
すばらしい演奏でした。
ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団
★★★★★
一楽章、とても整った弦のアンサンブルです。ゆったりと心のこもったフルートのソロでした。テュッティでも混濁することなく見通しの良い演奏はセルの特徴です。
表情もとても豊かです。どの楽器も引き締まった響きで、スリムな印象です。
セルのコントロールが細部まで行き届いている感じで制御が利いています。表情もセルの意図が克明に表現されているようです。
すばらしい演奏です。
二楽章、とても表情豊かな木管です。弦と木管の絡みもとても美しいです。セルが鍛え上げたクリーブランド管弦楽団のアンサンブルの精度は見事!
三楽章、歌があって、演奏に酔うことができます。
四楽章、張りのあるトランペットのファンファーレでした。常にシャープで見通しの良い演奏の中に豊かな歌があって気持ちが洗われるような感覚になります。
見事でした。すばらしい!
オトマール・スイトナー/シュターツカペレ・ベルリン
★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで陰影に満ちた哀愁漂う冒頭の表現です。軽いタッチで強奏部分でも重くなりません。少し金管が遠い感じの録音です。きらびやかではありませんが、渋いいぶし銀のような美しい演奏です。
二楽章、静寂感の中からフルートが浮かび上がります。艶やかなヴァイオリンのソロ。若干遠目の金管のおかげで、テュッティもすばらしいバランスで見事な響きです。
三楽章、作品に極度にのめり込むこともなく、適度な距離感で端正な演奏がとても好感がもてます。
四楽章、ちょっと細目の響きのファンファーレ。とても穏やかなチェロの主題です。テュッティでも爆発することなく抑制の効いた見事な演奏です。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
とても柔らかく美しい序奏。あまりに整っているので、人工的に加工されているのではないかとさえ思えてくるほどです。カラヤンの演奏で良く言われる磨きぬかれた美しさと言う表現がピッタリな滑らかで響きも融合した分厚いものです。どのパートも見事に整っていて、非の打ち所の無い演奏です。
二楽章、とても豊かに鳴る弦。フルートもクラリネットもとてもバランスが良く美しいです。トランペットが爽快に鳴り響く様も非常に美しいですし滑らかです。
三楽章、なまめかしく艶やかで美しい主要主題。木管も響きを伴って非常に美しいです。響きも溶け合ってとてもバランスが良いです。このひたすら美しい演奏に身を任せて酔いしれていれば良いと言う気持ちになります。
四楽章、強く輝かしいトランペットのファンファーレ。チェロの主題もとろけるような柔らかさです。豪快に鳴り響く金管も輝かしく非常に美しいです。しみじみと歌う弦。圧巻のコーダ。最後に叩き付けるティンパニが見事に決まりました。
このひたすら美しい演奏を何と言って表現すれば良いのでしょう。溶け合ってバランスの良い演奏が最後まで続きました。そして圧巻のコーダも見事でした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
★★★★★
一楽章、ゆっくりと何とも言えない呼吸で、揺れながらしみじみと歌う序奏。美しいフルート。雄大であまり大きく盛り上がらないトゥッティ。第二主題もとても豊かな歌です。音楽が横に揺れている感じで、とても優雅です。ドタバタしません。色彩は濃厚ではありません。水彩画のような淡い色彩で、粘り気も無くサラッとした肌触りです。トランペットに序奏が現れる部分も奥まったところからの響きで音圧はあまり感じません。
二楽章、しなやかで美しい歌です。静かなたたずまいで、広大な空間に音楽が広がっていくようです。中間部も穏やかで落ち着いています。細く艶やかなヴァイオリンのソロ。コーダの中間部の回想もとても美しいです。
三楽章、さぐるようにゆっくりと入って豊かに歌う主要主題。テンポが動いて揺れ動くようにしなやかな表現です。中間部に入っても大騒ぎするように舞い上がることなく、とても落ち着いて上品です。テンポも遅くゆったりとしています。ジュリーニの体から自然に出てくるようなテンポの動き。とても伸びやかで豊かな歌です。
四楽章、ゆっくりと響き渡るトランペットのファンファーレ。とてもゆっくりとした足取りの主題。その後の加速はあまり大きくしません。他の演奏に比べるとかなり遅いです。マイルドで豊かな響きです。ファンファーレが戻るとトランペットや他の金管も強奏しますが、決して荒々しくはなりません。コーダはあまり大きなテンポの変化は無く堂々と重厚な演奏で終わりました。
ゆっくりとしたテンポで優雅に横に揺れる演奏で、決して荒々しくなることは無く、夢の様に淡い演奏でした。作品の持っている力強さなどはあまり表現されなかったとは思いますが、この美しさには抗しがたいものがありました。
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ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、とても濃厚に歌うこともありますが、音の処理がぶっきらぼうなところもあり第一印象は少し戸惑いました。かなり思い切ったテンポの動きがあります。鋭いトランペット。第二主題も弾むように歌います。展開部で序奏が現れる部分は豊かな歌で美しい表現でした。クライマックスの激しいホルンの咆哮。トランペットに現れる序奏はやはり鋭いです。続く木管はとてもゆっくりと演奏されました。
二楽章、深い息遣いの主要主題。フルートは凄く速く演奏して、クラリネットはゆっくりです。古楽の指揮者の演奏と言うと研究成果発表のように無機的でキワモノ演奏が多いですが、この演奏はとても感情の表出があって抵抗がありません。楽しげな中間部。少し詰まったようなトランペットの三連音。
三楽章、速めのテンポで動きのある主要主題。中間部は穏やかです。透明感があって美しい弦。コーダはトランペットが鳴り響き、とても力強いです。
四楽章、速いテンポで鋭いトランペットのファンファーレ。強奏部分では唸りを上げる金管。屈託無く鳴り響く金管がとても気持ち良いです。コーダの最初は大きな加速はありませんでしたが、その後急激に遅くなってさらに加速して終わりました。
音の処理などに独特の考えを反映させた部分もありましたが、豊かに歌い、振幅の大きな演奏で特に、屈託なく鳴り響く金管が爽快でした。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポでテンシュテットらしいねっとりと感情のこもった序奏です。フルートもゆっくりと感情がこめられています。第一主題もテンポも動いてかなりの感情移入です。再び序奏が戻るとまた濃厚な歌です。すさまじい咆哮を聞かせるホルン。猛烈なクレッシェンドをするティンパニ。ロンドンpoも指揮にしっかりと付いて行ってとても熱い演奏をしています。
二楽章、アゴーギクを効かせて豊かに歌う主要主題。ゆっくりと物凄く濃厚に歌います。盛り上がりも抑えることなく巨大です。粘りっ気があって濃厚なホルンの咆哮。深い悲しみに落ちて行くように最後でした。
三楽章、速いテンポですが、生き生きと舞うようにテンポが揺れ動きます。強弱の変化にはとても敏感に反応します。テンポはとても大きく感情のままに動きます。活発に動くコーダ。テンシュテットによって命が吹き込まれたようです。
四楽章、この楽章も速めのテンポですが、感情が込められてとても良く歌うチェロの主題。展開部の終わりでは、激しく、色んなパートが動き回ります。猛烈なコーダでした。
感情のこもった歌と、激しい金管の咆哮。テンシュテットによって命が吹き込まれたように生き生きとした表現の音楽。オケも共感して大きな振幅の音楽はとても聞き応えがありました。
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ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス/デトロイト交響楽団
★★★★★
一楽章、少しテンポが動いて瑞々しい序奏。ゆっくりと進む第一主題。一歩一歩確実に進みます。遅いテンポで作品を解剖するように細部も描いて行きます。トランペットの序奏は奥まったところから響いて来ます。序奏の最後にグッとテンポを落としました。テンポはとても良く動きます。
二楽章、サラッとしていてとても爽やかな響きです。ゆっくりとしたテンポで丁寧に描いて行きます。
三楽章、大きな起伏が無く整然とした演奏です。爽やかなブルー系の響きで清々しい感じです。コーダも力強い感じは無く、とても落ち着いています。
四楽章、トランペットのファンファーレも力の抜けた軽い演奏でした。チェロの主題も落ち着いていて大きな起伏はありません。ホルンのトリルの部分もあまり大きくテンポを速めることはありませんでした。トランペットのファンファーレが戻る部分はかなり高揚感がありました。コーダも大きなアッチェレランドは無く、あまり強い高揚感は無く整然としていました。
とても理性的な演奏で、感情の赴くままの演奏とは一線を画しているものでした。ブルー系の清々しい響きと細部まで見通せるアンサンブルも見事でした。
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ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、速いテンポですが、感情を込めて歌う序奏。充実した響きのトゥッティ。艶やかで滑らかな弦。色彩感もとても豊かです。トランペットに序奏が戻る部分は、渋みのある響きと分厚い響きでした。オケは伸びやかでとても美しい響きです。いろんなパートがしっかりと主張していて、存在感があります。
二楽章、途中で膨らんでスーッと引いて消えて行く主要主題。中間部はゆったりと穏やかな演奏です。トランペットの三連音はゆっくりでした。音と音の間に静寂感も感じます。
三楽章、艶やかでしっとりとした弦がゆっくりと奏でる主要主題。脱力して堕ちて行くような木管。中間部もゆっくりで、けだるい感じの演奏で、独特の雰囲気を醸し出しています。主部が戻る前でテンポを落としました。コーダはトランペットがスーット抜け出て気持ちのいい響きです。でも元気ではつらつとした演奏ではありません。
四楽章、ゆっくりと輝かしく歯切れの良いトランペットのファンファーレ。さすがにお国ものと言う感じで堂に入っているチェロの主題。ホルンのトリルが現れる部分もあまりテンホは速くならずどっしりと落ち着いています。金管が鳴る部分はしっかりと鳴らしていてとても色彩が濃厚です。トランペットのファンファーレが再度現れる部分は感動的な程見事な盛り上がりです。コーダもゆったりとしたテンポから長い時間をかけてアッチェレランドしました。トロンボーンなども気持ちよく鳴り響き爽快に終わりました。
チェコpoのお国もので、とても安定感のある充実した響きで、色彩感も濃厚でしたし、金管がここぞと言う所で気持ち良く鳴り響く演奏で、聞いていてとても満足感がありました。三楽章の独特の表現も、「こんな演奏もありなんだー」と感じました。
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ジョナサン・ノット/バンベルク交響楽団
★★★★★
一楽章、独特の歌いまわしの序奏。速いテンポで勢いのある第一主題。弱音とトゥッティの振幅がとても大きく、トゥッティはかなり強く吠えます。とても明朗快活な演奏です。積極的に強弱の変化があり意欲的な表現です。爆演系の演奏のような感じもします。かなり豪快に金管を鳴らしています。
二楽章、ゆったりと深く歌う主要主題。清涼感があって美しい弦。森の木々がざわめくような中間部。その中で戯れるような木管。妖精のようなヴァイオリンのソロ。
三楽章、ここでも独特の表現で歌う主要主題。爽やかなコーダ。
四楽章、音を短めに淡白なトランペットのファンファーレ。ホルンのトリルが現れる部分は切れ味の良い金管が気持ちの良い演奏です。コーダは猛烈な追い込みのまま終わりました。
振幅の大きな演奏で、吠える金管。美しい弦。独特の歌いまわしなど、個性的でしたが、聞き応えのある演奏でした。
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