カテゴリー: ブルックナー:交響曲第9番名盤試聴記

ブルックナー:交響曲第9番の名盤は、ヨッフム/ミュンヘン・フィルハーモニーoの極上の美しさでありながら、暴力的で、壮絶な狂気のような咆哮を聞かせるクライマックス、そして穏やかに天に召されて行くような最後まで素晴しい名盤です。ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニーoは、非常にゆっくりとしたテンポでたっぷりと歌われる音楽にはこの世のものとは思えないような美しさの名盤です。バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニーoは、男性的で筋肉質な演奏で、トゥッティの巨大さは正に神や宇宙を連想させる名盤です。ヴァント/ベルリン・フィルハーモニーoは、遅いテンポでたっぷりとした演奏で、男性的で筋骨隆々な演奏を聴いている感じがする名盤です。

ブルックナー 交響曲第9番

ブルックナーの交響曲第9番は、彼の最後の交響曲であり、未完のまま残された作品です。ブルックナーはこの曲を「愛する神への捧げもの」として構想しており、深い宗教的な感情と壮大なスケールを兼ね備えています。以下に、交響曲第9番の特徴を紹介します。

1. 未完の交響曲

  • ブルックナーはこの交響曲を4楽章構成で書く予定でしたが、最後の第4楽章を完成させることができませんでした。彼は第4楽章のスケッチを残していますが、亡くなるまでに完成には至らず、現在も第3楽章までが演奏されることが多いです。
  • 一部の音楽学者や作曲家によって第4楽章の補作が試みられており、補完された「全4楽章版」もいくつか存在しますが、最も一般的には第3楽章までが「ブルックナーの交響曲第9番」として知られています。

2. 楽章構成と内容

この交響曲は以下の3つの楽章で構成されており、それぞれが独特な性格と深みを持っています。

  • 第1楽章 (Feierlich, misterioso): 「荘厳に、神秘的に」と指示されたこの楽章は、ブルックナー独特の「呼吸するような」緩やかな進行が印象的です。広がりのある音楽が何度も盛り上がり、雄大なコラールのような部分が現れ、聴き手を神秘的な世界に引き込みます。ブルックナーの晩年の内面的な葛藤や宗教的な敬虔さが表れています。
  • 第2楽章 (Scherzo: Bewegt, lebhaft – Trio: Schnell): 荒々しく、時には不気味な印象さえ与えるスケルツォです。リズムの激しさと不協和音が印象的で、生命力に溢れつつも、不安や不安定さを感じさせる部分があります。中間部のトリオは速く、軽やかな要素も含まれており、第1楽章とは異なる動的なエネルギーを感じさせます。
  • 第3楽章 (Adagio: Langsam, feierlich): このアダージョ楽章は、ブルックナーの最高傑作の一つとされる、極めて深い宗教的感情が込められた音楽です。彼の最後の祈りとも言われるこの楽章は、壮大でありながらも切ない響きを持ち、特に弦楽器の美しさが際立ちます。楽章全体が静寂とともに消えゆくように終わり、未完のまま作品が閉じる形となっています。

3. 宗教的なテーマ

ブルックナーは敬虔なカトリック信者であり、この交響曲には神や死、そして来世への祈りが込められていると考えられています。「愛する神への捧げもの」として構想されていたことからも、彼にとってこの作品がいかに個人的かつ崇高な意義を持っていたかがうかがえます。特に第3楽章の深い静寂と崇高な響きは、彼の信仰心と魂の救済への願いを表しているとされています。

4. 音楽的な特徴

  • ブルックナーの交響曲第9番は、彼の他の作品と同様に重厚で荘厳な響きを持ちます。分厚いオーケストレーションと長いフレーズが特徴的で、特に金管楽器が重要な役割を果たします。
  • 音楽の構成が厳密でありながらも、各楽章に深い感情と精神性が宿っており、特に後半の静謐さと劇的なコントラストが印象的です。

5. まとめ

ブルックナーの交響曲第9番は、未完でありながらも、深遠な宗教的テーマと壮大な音響美が凝縮された作品です。ブルックナーの人生や信仰、そして死への覚悟が感じられ、彼の交響曲の中でも特に崇高な雰囲気を持つ作品として、多くの聴衆に愛され続けています。

4o

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第9番名盤試聴記

オイゲン・ヨッフム/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで霧の中から次第にはっきりと姿を現す第一主題。ホルンに続いて登場する木管がスタッカートぎみに演奏します。頂点に入る前に少し間を置きました。見事に鳴り響く頂点。美しく歌われる第二主題。ライブ録音ですが、とても美しい音で録られています。物寂しいオーボエからホルンへとつながる第三主題。強力な金管!展開部の頂点でもすさまじい金管の咆哮でした。チェリビダッケが主席指揮者をしていた頃のミュンヘン・フィルなので、とても美しい音色で音楽を奏でます。強奏でもとても美しいです。

二楽章、鮮明な木管と弦のピチカート。暴力的なトゥッティではトロンボーンが音をテヌートぎみに演奏しました。すごく鮮度の高い音で襲い掛かってくるような強奏です。生き生きとして生命感を感じるトリオの演奏。瑞々しい美しい音です。すごい咆哮に圧倒されます。ものすごい音の洪水に引き込まれます。

三楽章、神の世界へ上り詰めるような上昇音階。最初の頂点ではトランペットが長い音をクレッシェンドして壮絶な頂点です。登場してくる全てのパートが極上の音で出てきます。ライブとは思えない美しさです。ヨッフムは音楽を刻み込むように克明に描いて行きます。壮絶、狂気のような咆哮のクライマックスでした。穏やかに天に召されて行くような最後でした。

ヨッフム渾身の演奏でした。すばらしい克明な表現でした。

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりと、非常にゆったりとしたテンポで深みのある音色がとても作品に合ってるようです。
歌が素晴らしい!抑揚や微妙な間がとても良いです。遅いテンポでたっぷりと歌われる音楽にはこの世のものとは思えないような美しさがあります。
響きに奥行き感があって、音楽が軽薄にならないので良いです。
トゥッティではカラヤンの演奏のような豊麗さはありませんが、オケが一体になった強固な響きがあり共感の強さが伺えます。特に低音域の厚みは素晴らしく、オケ全体をしっかり支えていて響きに抜群の安定感を与えています。
カラヤン/ベルリンpoの演奏では響きが左右いっぱいに広がる豊かさが魅力でしたが、ジュリーニの演奏では、音が中心に集まって強いエネルギーを持って迫ってきます。
弱音部でも、豊かさよりも簡素な素朴さが表現されています。

二楽章、音楽が間延びしないような適度なテンポ設定です。個々の楽器が適度に分離していて、それぞれの楽器の動きが分かりやすい録音です。
もう少し豊かな響きがあったらさらに良かったような気がします。

三楽章、木管やホルンの旋律が際立って美しい!すごくゆったりとしたテンポで噛みしめるような音楽の運びがとても良いです。
ffでのトランペットとホルンの受け渡しも絶妙で素晴らしい演奏です。ジュリーニの音楽にオケが共感している様が分かる集中力の高い演奏です。

音楽が激しいうなりとなって押し寄せてくる部分は素晴らしい!
美しい終わりでした。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、暗く重い冒頭部分です。同じウィーンpoの演奏でもジュリーニの演奏よりも骨太でがっちりしています。
対旋律を強調する傾向の演奏です。一音一音に作品に対する共感が強く伝わってきます。
しなやかで美しい演奏とは違い、男性的で筋肉質な演奏です。

二楽章、この楽章も重く暗いトーンで開始しました。ゆっくりとしたテンポ。バチーンと決まるティパニ!すごい演奏です。

三楽章、感情がこもった歌です。切々と語りかけるような歌に満ちています。突然のffも激しい。音楽の高揚感と静寂感の対比もすばらしい。

次第に巨大な音楽になってきた。トゥッティの巨大さは正に神や宇宙を連想させるものでした。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、遅いテンポでたっぷりとした演奏です。ホルンの主題に続く弦の旋律がスタッカートで演奏されました。分厚い低音の支えられた安定感のある音楽が展開されます。聴いたことのないホルンが聞こえたりもします。ヴァントの演奏は4番の時にも感じたのですが、音楽の情報量が非常に多いと思います。普段聞こえない音が随所に聞こえてきます。また、この情報量の多さが巨大なブルックナー像を形成することに繋がっています。P方向を抑えずにffを伸び伸びと響かせる演奏で、ppでも音楽が瑞々しく生き生きとしていますし、ffの伸び伸びと響き渡る金管にも感動します。

二楽章、ピチカートの音の一つ一つが立っています。流れがとても良い演奏です。一つ一つのフレーズに濃厚な表現付けをすることはありませんが、全体をしっかりと捉えて音楽を構築しているような感じがします。この楽章でも今まで聴いたことのない音が聞こえます。

三楽章、トゥッティでベルリンpoのすばらしい音の洪水に見舞われます。とても線の太い演奏です。男性的で筋骨隆々な演奏を聴いている感じがします。最後は神の元へといざなわれていく。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、非常にゆったりとしたテンポで神秘的な冒頭。巨大なスケールの頂点を築きました。柔らかく包み込むような第二主題。第三主題も一音一音確かめるような確実な足取り。凄いオケの鳴りっぷりと言い、遅いテンポの巨大なスケール感がすばらしい演奏でした。

二楽章、一楽章とは打って変わって軽快なテンポです。朝比奈の演奏なので、極端な表現はありませんが、自信に満ちた堂々とした演奏です。オケも日本のオケだとは思えないほど豪快に鳴り響きます。

三楽章、すごく感情の込められた冒頭。すばらしい頂点のスケール感。基本的にインテンポでがっちりとした堅固な安定感があります。オケのアンサンブルも見事で、木管の一体感などもすばらしい。クライマックスへ向けて登りつめる切迫感も見事です。コーダの天に昇るような穏やかさ。

この日の朝比奈とN響は異次元の世界にいたのではないかと思うようなすばらしい演奏でした。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、チェリビダッケ入場の拍手から始まりました。原始霧の中からボヤーッと浮かび上がる第一主題。ゆっくりとしたテンポで整然とした圧倒的な頂点を築きます。弦のピチカートも凄い精度でくっきりとしています。第二主題も非常にゆっくりと安らぎを感じさせます。押しては返す波のように次から次へと歌が押し寄せてきます。こんなに密度の高い演奏は初めてです。第三主題も非常に遅いですが濃密で弛緩した感じは一切ありません。展開部も遅いですが、見事に統率されたオケの響きの充実がすばらしい。再現部では、童話を子供に読み聞かせるような一音一音に魂が込められたような演奏です。最後も見事でした。

二楽章、通常のテンポからすると、もの凄く遅い演奏です。この遅いテンポと見事なアンサンブルでスコアの奥底まで見えるような感じさえします。聞き進むうちに、この遅いテンポにも違和感を感じなくなり、一般的なテンポの演奏を聴くとせわしなく感じるかもしれないなと思ったりします。

三楽章、ゆったりと壮大な頂点です。ワーグナーチューバがはっきりとコラールを歌います。大河の流れのよう豊かな第二主題。トゥッティでも余力を残した透明感の高い美しい響きです。チェリビダッケに鍛えられたミュンヘンpoはとても精緻で美しく、指揮者の意図を見事に音楽にして行きます。テンポは非常に遅いもののアゴーギクを効かせたりデフォルメも感じさせず、作品自体に語らせるような演奏です。壮絶ですが、美しいクライマックス。正に天に昇るようなコーダでした。

非常に遅いテンポの演奏でしたが、十分に納得させられる一音一音の密度の高い名演でした。

ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団 2009年

ハイティンク★★★★★
一楽章、非常にゆったりとしたテンポで神の言葉を伝えるような第一主題。続く弦は少し音を短めに演奏します。十分余裕を持ったトゥッティ。とても優しい第二主題。2010年のバイエルン放送交響楽団とのライヴよりも感情が込められているようで振幅も大きいですしたっぷりと歌います。展開部の頂点もかなり余裕を残していますので、演奏は常に美しいです。再現部では第二主題が祈るように演奏されます。充実した分厚い響きがブルックナーらしく響きます。コーダは壮麗な響きで終わりました。

二楽章、暴力的と言うよりも軽く美しくトランペットやトロンボーンが鳴り響くトゥッティ。トリオは速いテンポですが、良く歌います。ハイティンクのいつもの演奏の通り、非常に引き締まった表情で、決して弛緩しません。

三楽章、トゥッティでも絶叫することは無く、雄大です。神が降臨するようなワーグナーチューバのコラール。穏やかですが、伸びやかな第二主題。広大な展開部。不協和音の音がぶつかる感じがとても良く伝わって来ます。地獄を見るような強烈なクライマックス。コーダに入って、天上界へいざなわれて行くような音楽です。ワーグナーチューバも静かに消えて行くような最後でした。

非常に美しく、雄大なスケールの演奏でした。絶叫しないところがかえってスケールを大きく感じさせるような感じで素晴らしい演奏だったと思います。
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ダニエル・バレンボイム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

バレンボイム★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで、濃い霧のなかから響いてくるような第一主題。主題を演奏するホルンのダイナミックの変化がすごく大きいです。強力に鳴り響く金管が素晴らしい。弦もとても美しい響きです。第三主題はとてもゆっくりと演奏しています。展開部は少しテンポが速いですが、音楽は前へ進もうとはしません。展開部の頂点でも見事に鳴り響く金管。再現部でも弦や木管が美しい。ベルリンpoが伸び伸びと自分達の音楽や響きを作り出しているような感じがします。とても大きな音楽です。コーダも明るく輝かしい金管の見事な響きでした。

二楽章、静寂感のある現のピッィカートと暴力的なトゥッティの対比もなかなかです。トゥッティは僅かにテヌートぎみに演奏しています。躍動的に歌う金管。トリオの繊細で静かな音楽、また、テンポも動いています。

三楽章、美しい弦がうねるようです。雄大で余裕のある頂点。豊かな響きのワーグナーチューバ。繊細な第二主題。繊細さと雄大さが両立する演奏はなかなか良いです。展開部に入って、強奏部分はさらに力強くなりました。壮絶なクライマックス。音楽の振幅が非常に大きくて、ベルリンpoの能力をフルに引き出したような演奏です。コーダは優しく繊細に天に招かれるような演奏です。最後のホルンも感動的でした。

音楽の振幅が非常に大きく、繊細さと雄大さが混在した演奏は大変魅力的でした。素晴らしい演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1978年ライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、遠く深いところから響く第一主題。圧倒的な頂点です。強弱の振幅もすごく大きいです。ゆったりと美しく歌う第二主題。川の流れのように途切れることなく次々と現れる音楽がとても豊かです。滑らかで美しい第三主題。展開部でトランペットが突き抜ける力強いトゥッティ。頂点はかなりテンポを速めました。再現部もカラヤンらしく洗練された美しい演奏です。不協和なクライマックスも豊麗でした。コーダも豊かな響きでした。

二楽章、吐息のような木管。くっきりと刻まれる弦のピツィカート。分厚い響きでかなり激しいトゥッティ。軽々と鳴り響く金管が気持ち良いです。強弱の振幅もかなり広いです。颯爽とリズミカルに流れていくトリオ。スタジオ録音のように表面をきっちりと整えた演奏とは違い、勢いに任せてかなり豪快に演奏しています。

三楽章、速いテンポですが、金管が遠慮なく入ってきて深みと生命感に溢れた演奏です。壮大な頂点でスケールが大きいです。マットな響きのワーグナーチューバの祈るような演奏。第二主題も広大な雰囲気です。木目の細かい弦が美しい。展開部に入っても思い切りの良い金管。弦楽器の絡みも生き生きとしています。ffの後の静寂感。非常に美しい弦の響き。凄い緊張感と切迫感。地の底から叫ぶようなクライマックス。コーダの終結部では、速めのテンポであっさりと曲を閉じました。

ウィーンpoの能力を最大限に引き出して、ライヴならではの豪快な演奏でした。カラヤンのライヴはスタジオ録音のような表面ばかりを整えた演奏とは違い、かなり感情の吐露があって素晴らしいです。
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サー・レジナルド・グッドオール/BBC交響楽団

グッドオール★★★★★

一楽章、合唱のように聞こえる弦のトレモロ。薄くモヤのかかっているようなホルンの主題。8番同様ゆったりとしたテンポです。ほの暗い雰囲気で、絶叫までには至らないホルン。続く弦は微妙なテンポの動きがあって夢見心地です。ノイジーな録音ですが、一音一音丁寧な演奏です。金管は奥まっていますが、塊となったエネルギー感が凄いですがそれでも余力を残している感じがします。一音一音刻み付けるような弦のピチィカート。優しくうっとりするような第二主題。テンポの動きは絶妙です。切々と訴えかけて来る演奏で涙が出そうです。とても静かな第三主題。ホルンも遠い。ブルックナーらしい常に霧に覆われているような雰囲気があります。不穏な空気になる展開部。再現部のクライマックスもトランペットが奥から強烈な響きが聞こえますが全体としては余力のある演奏です。クライマックスでは壮絶な響きです。コーダのタメも素晴らしい。決して全開までオケを追い詰めませんが、壮絶な響きも凄いです。

二楽章、打って変わって速めのテンポですが一音一音克明で魂がこもっているような演奏です。暴力的になりがちな金管は制御されて落ち着いています。アンサンブルの精度も高く精緻な演奏です。軽く、快活にを忠実に演奏しています。

三楽章、録音が悪いのでトランペットが輝かしく響きません。鳥肌が立つような非常にスケールの大きな広大な頂点です。微妙なテンポの動きで演奏される第二主題部。不協和音の強奏の合間に演奏される優しい木管も見事。展開部でも微妙なテンポの動きと、堂々とした表現もさすがです。クライマックスへ登り詰めるガラガラと不協和音を伴いながらの演奏もなかなかでした。クライマックスの地獄から響くような低音域の塊のような響き。それでもかなり余裕を残している。最後は穏やかに光芒に乗って雲の上へ登って行くような演奏でした。

録音が悪いのはとても残念ですが、堂々としたスケールの大きい演奏はさすがでした。これだけの演奏をしていた指揮者がほとんど脚光を浴びず不遇な時代が長かったのは不幸なことです。もっと多くの録音を残して欲しかったと思います。

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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第9番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第9番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/シカゴ交響楽団

ジュリーニ/シカゴ交響楽団★★★★☆

一楽章、暗闇感はあまり無い第一主題。筋肉質なホルン。続く弦は滑らかに歌います。ダイナミックレンジはかなり広い。軽々と鳴り響く金管。しっかりと刻まれる弦のピィチィカート。テンポの動きを伴って歌う第二主題。そのままの流れで第三主題へ。クライマックスでも余裕があります。再現部も滑らかに歌います。壮麗なクライマックス。コーダに入るとかなり力強い響きです。

二楽章、丁寧な足取り。金管が入っても統率の取れた美しい響きです。とても緻密に動いています。淡々とした中間部。

三楽章、静かに始まる第一主題。遠くから朝日が昇るようなトランペット。雄大な頂点を築きます。荘厳な響きのワーグナーチューバ。ゆったりと流れの良い第二主題。とても美しいホルン。トゥッティの響きは素晴らしいです。消え入るような弱音との対比も素晴らしいです。伸びやかな歌。クライマックスで少しトロンボーンが突き抜ける感じでした。もう少し塊のエネルギー感があれば良かった。静かに天に召されるコーダは素晴らしい演奏でした。

かなりの完成度の演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、神々しい雰囲気がとても良い始動です。
鋭角的で伸びのあるブラスセクションも気持ちの良い響きです。響きも豊かで深みも感じる演奏で、想像していたより良いです。
ベルリンpoの分厚いサウンドがうねりのように押し寄せてくるところなども素晴らしいです。
カラヤンのブルックーなのど、豪華絢爛になるのはいたしかたありませんが、この豪華な響きには魅了されてしまいます。
ブルックナーの素朴さはありませんが、これは一つの美の極致としての良さは持っていると思います。

二楽章、この楽章でも、くったくなく伸び伸びと鳴り響く金管には惚れ惚れとしてます。
もちろん他の楽器も文句無く良い音で響いています。
この演奏は響きの美しさを追及した運送だと思いますし、その狙い通りの聞き方をすれば、文句なしの演奏です。
神に奉げる音楽としの内面性や清潔感のようなものを持ち合わせているのかは分かりませんが、あくまでも構築物と捉えるならば最高の演奏です。

三楽章、トゥッティの響きの充実はすばらしいです。
カラヤンとベルリンpoの絶頂期の演奏ですし、この演奏の良さは認めないといけないですね。マイヤー問題が勃発してからの演奏はカラヤンの意志が通りにくくなりましたからね。

教会のような豊かな響きも魅力的です。
素晴らしく美しい演奏でした。

ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、すごく豊かな響きで神秘的な演奏です。大聖堂に残る残響がいったんふくらんでから減衰するような独特の雰囲気があります。残響の長さにあわせるかのようにテンポを少し遅めにして演奏している部分もあるようです。細かなミスも聞かれますがたいした問題ではありません。演奏は特に強調するようなこともなく中庸を保っています。楽譜と大聖堂の音響に語らせようとしているような演奏です。逆に言うと長い残響で細かな表現は響きに紛れてしまって細部まで聞き取れないのです。

二楽章、全休符の時に、減衰してゆく響きがとても心地よいです。

三楽章、金管のコラールは深みのある美しいものでした。コーダは黄昏を見事に表現しました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★
一楽章、霧の中からボヤーッと浮かび上がるホルンの第一主題が次第にその巨大な姿を現す。強奏部分はN響との演奏ほどのスケール感はありません。第二主題は愛情に満ちて視界が開けるような雰囲気がありました。ゆっくりとしたテンポで作品を噛み締めるような演奏です。第三主題もゆっくりでした。トゥッティの分厚い低域が不足しているようで、響きに厚みが無いのが残念です。強奏部分でも、このゆったりとしたテンポに合わせるように、余裕たっふりの演奏です。

二楽章、深みのある木管の響きから始まりました。暴力的な主題も奥ゆかしい。トリオは美しい。大フィルも上手くなったものです。

三楽章、控え目な冒頭。ffも軽く演奏しているような感じです。展開部からは速めのテンポです。残響成分が少なくマットな響きも特徴です。最後のクライマックスも余裕を持った演奏でした。穏やかに幸福感に満ちて終わりました。

朝比奈の演奏らしく、作品のありのままを提示した演奏でしたが、公式ラストレコーディングと言うこともあって、体力の衰えからか、ピーンと張り詰めるような緊張感がなかったのが残念でした。

ベルナルト・ハイティンク/バイエルン放送交響楽団 2010年

ハイティンク★★★★
一楽章、暗闇の中から豊かな響きで神秘的な第一主題。充実したトゥッティ。美しく歌う第二主題。一つ一つの楽器がとてもバランス良く鳴っていて、有機的に絡み合います。たっぷりと濃厚に歌う第三主題。オケがとても豊かに鳴っていて、柔らかく弾力に富んだ響きです。展開部の頂点も見事な響きです。再現部に入っても、整然としてきっちりとしたアンサンブルを聞かせます。内声部の充実した分厚い響きがすばらしい演奏です。

二楽章、静寂感の中にピィッイカートが浮かび上がります。トゥッティは強烈ではありません。とても整然として充実した響きです。トリオのテンポは速いです。主部が戻ると、くっきりと立った音で緊張感の高い演奏になります。

三楽章、ティンパニが底辺をしっかりと支えたスケールの大きな頂点です。淡々と演奏されるワーグナーチューバ。第二主題部に入ると際立った木管が美しい。ハイティンクはいつものように、特にテンポを動かしたり、表現を強調したりはしませんが、集中力の高い演奏で惹きつけられます。展開部のクライマックスでも絶叫することは無く、十分にコントロールされた演奏です。コーダは天に昇るような表現でした。

自然体で、絶叫することなく作品の美しさを表現した演奏でした。個人的には、強烈なトゥッティを含めた振幅の大きな演奏を聴きたかったです。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団 2001年

ヴァント★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで、地面から湧き上がるような第一主題が次第にもりあがって、ビーンと言う響きになります。頂点でも余力を残していますが、テンポはかなり粘ります。愛情に溢れる第二主題。ここでもテンポが動いて感情のこもった演奏です。オケを積極的にドライブして濃厚な表現です。第三主題でテンポが遅くなりました。展開部に入ると頂点では壮絶な響きになってきます。テンポは頻繁に動いて非常に感情を込めた演奏をしています。コーダに入っても強力にオケをドライブして壮絶な響きでした。

二楽章、きりっと立った弦のピィッイカート。暴力的なトゥッティで僅かにテンポを落としました。気持ちよく鳴り響くブラスセクション。踊りだすようなトリオの躍動感。壮絶なトゥッティです。

三楽章、頂点での強烈なホルンです。他の響きに埋没してあまりくっきりと浮かび上がらないワーグナーチューバ。豊かで深い第二主題。展開部でもトランペットに呼応するホルンが強烈です。地獄からでも湧き上がってくるかのようなクライマックス。かなり現実的で実在感のあるコーダです。

二楽章までは素晴らしい演奏だったのですが、三楽章があまり心に迫って来ませんでした。
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ヴォルフガング・サヴァリッシュ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、地底から湧き上がるようなホルンの第一主題が次第に明確に姿を現します。続く弦はスタッカートぎみに演奏しました。そしてアッチェレランドしてトゥッティへ。かなり速めのテンポでグイグイ進んで行きます。第二主題から少しテンポを落としましたが、それでも速めのテンポ設定です。寂しげな第三主題。展開部の頂点ではトランペットが突き抜けて来ます。トゥッティはかなりのエネルギー感です。再現部もグイグイと進めて行きます。美しい弦、輝かしいトランペットが印象的です。

二楽章、この楽章も速めのテンポです。暴力的なトゥッティは文字通り凶暴でした。サヴァリッシュはもっと上品な指揮者だと思っていたのですが、かなり強力にオケをドライヴして力強い音楽を作っています。トリオも速めのテンポで、ちょっとせっかちな感じがします。テンポが速めなのは良いのだが、タメとか間が無くて音楽が滑ってしまうような感じがあります。暴力的なトゥッティはそれが良いほうに効いて、息つく暇も与えずに畳み掛けるように音楽が押し寄せて来るのはすばらしいです。

三楽章、一転してゆったりとしたテンポです。頂点ではトランペットに続くホルンが雄大な雰囲気を演出しました。生命感の宿るワーグナー・チューバ。オケの音色の美しさはさすがにウィーンpoです。強大なクライマックスは全開ではなく、少し余力を残していたようです。最後は穏やかに天に昇って行きました。

強い推進力のある力強い演奏でしたが、間やタメを感じられなかったのが残念でした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第9番3

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第9番名盤試聴記

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

ムラヴィンスキー★★★
1980年1月29、30日のライヴです。

一楽章、ムラヴィンスキーの演奏らしく凝縮した響きです。内側へぎゅっと凝縮していく響きで作品の陰影を強く表現する演奏です。トランペットなどは空気を突き破って向かって来るようにさえ感じます。神に捧げると言うよりは、人間の凄みさえ感じる演奏です。

二楽章、歯切れの良いブラスセクション。ドイツの演奏様式とは隔絶された世界でムラヴィンスキーの音楽は作られているようで、ドイツ、オーストリアのオーケストラで聞く演奏とは明らかに違います。強い存在感で迫ってきます。

三楽章、この楽章も一つ一つの音が強い存在感で鳴り響いています。低音域が薄いので、金管楽器が強く聞こえるのかもしれません。それにしても演奏が現実的過ぎて、神に捧げる音楽には程遠い。

カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、もやの中から響くような神秘的な第一主題。川の流れのように朗々と歌われる第二主題。とてもゆったりと歌われるオーボエの第三主題。録音の古さのせいか、特に美しいという印象はありません。

二楽章、弦のピツィカートにも強弱の変化があり表情豊かです。トゥッティも一本調子にならず、表情があります。

三楽章、冒頭の9度上昇の後の2音ほどを短めに演奏しました。テンポは速いです。最初の頂点でトランペットの音型が詰まった感じです。何度か登場しますが、トランペットの詰まった感じがとても不自然です。激しい音楽の展開は上手く表現しています。もっと静かに消え入るように終って欲しかった。

あまりにも現実的過ぎる表現に少し抵抗がありました。

ロヴロ・フォン・マタチッチ/ウィーン交響楽団 1983年ライヴ

マタチッチ★★★
一楽章、冒頭からいきなり巨大なスケール感の演奏です。荒削りですが、広大な頂点です。とても人間味のある、体臭をも感じさせるような第二主題。展開部に入っての頂点では金管が奥まっていてくすんだ響きになっています。再現部は録音のせいか、とても柔らかい。コーダは速いテンポですが、やはり巨大なスケールです。

二楽章、一音一音丁寧な冒頭部分。歯切れの良く豪快にオケを鳴らすトゥッティ。トリオのテンポは速いです。

三楽章、分厚い響きに隠れるような頂点の金管。強く訴えかけて来るワーグナーチューバのコラールが感動的です。第二主題はとてもゆっくりとしていてとても柔らかく美しいです。全開にはならなかったクライマックス。天国を感じさせるコーダの終盤。

巨大なスケールを感じさせる部分や非常に美しい部分があったりもしましたが、荒削りで雑な感じも受けました。
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アレクサンドル・スラドコフスキー/タタルスタン国立交響楽団

スラドコフスキー★★★

一楽章、暗い雰囲気の第一主題。続く弦と少し音が短めで独特の表現です。そしてテンポも速まります。快活と言えばそうなのですが、かなり速いテンポです。第二主題は浅い響きです。ホルンには奥行き感がありますが、オーボエはとても浅く聞こえる第三主題。とても軽いクライマックス。展開部でもトランペットが浅く、近くに響きます。テンポも速めで味わいがあまりありません。とても元気よく前進します。休止後はゆっくり目でした。再現部からはまた速めに進みます。クライマックスでは全開にはならずかなり余裕を残しています。最後はゆったりとしたテンポで良かったです。

二楽章、この楽章はテンポが速いのでとても活き活きとしています。力強く前に進みます。金管が入っても暴力的にはならず、比較的穏やかな演奏です。トリオはさらに速くなります。録音の問題なのか奥行き感の無い浅い響きがブルックナーにはふさわしくないように感じます。ティンパニが勇み足でアンサンブルが乱れる部分がありました。

三楽章、トランペットは日が昇るような輝かしさはありませんでした。頂点でもスケールの大きな表現にはなりません。第二主題は豊かな表現です。展開部に入って少し深みが出て来ました。ここまで少し飛び抜けていたトランペットも融合した響きになって来ました。音も深く刻まれるようになって来てオケ本来の力を発揮しています。グロテスクなクライマックスもなかなかの表現でした。一転して穏やかになるコーダ。祈りと共に天へ召される感じではありませんでした。
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クラアディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

アバド★★

一楽章、暗闇から神秘的な響きです。広々とした空間に鳴り響くホルン。続く弦は短めの音で演奏します。少しテンポを煽ります。あまり特徴の無い第二主題。ゆっくり演奏される第三主題。クライマックスでもあまり音は前に出て来ません。展開部の中でも少し音が短めの表現があります。テンポを加速する部分がとても多いです。

二楽章、速めのテンポでとても動きがる快活な演奏です。

三楽章、控えめなトランペット。リミッターが掛かったように強弱の変化が乏しい録音で、広がりはありますが、音が全く迫って来ません。豊かな第二主題。オケは軽々と良く鳴るのですが、ブルックナー独特のどっしりとした安定感や奥深さが感じられません。展開部のクライマックスも壮絶さは無く、普通に音にしただけのような演奏でした。コーダも天に昇るような神がかった雰囲気も無くただ演奏したというような表現でした。

アバドはベルリンpoとの時代は若い頃の勢いが全く無くなり納得できるような演奏はほとんど無かった時代だと思います。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★
一楽章、温度感の低いホールの響きが清潔感を感じさせます。
いつもながらシカゴsoは抜群の鳴りで心地よい響きを聞かせてくれます。ただ、ショルティが指揮する音楽はいつもそのように感じるのですが、明晰であからさまに過ぎるような感じがします。
開けっぴろげで、あられもない恰好をさらけ出すような演奏は、ブルックナーの音楽とは水と油のような感じを受けてしまうのですが・・・・・。
響きに深みがないので、素朴で神格化したイメージとは遠く、ストリップでも見ているような品の無さを感じてしまうのは、私の感じ方の問題でしょうか。
ショルティとシカゴsoの録音はスピーカーよりも音が前へ出てきて、奥まったところに空間が広がらないのが、曲によっては凄く魅力的に聞こえる場合も多くあるのですが、ブルックナーの場合はもう少し奥まったところにある深みが表現されると良いと思うのですが・・・・・。

二楽章、あまりにも表面的に鳴り響く音楽になかなか入って行けません。

三楽章、神に奉げる音楽にはとても聞こえないです。
あまりにも現実的過ぎます。

私は、ショルティ/シカゴsoのサウンドは嫌いではありません。曲によっては凄く陶酔感を持たせてくれる場合もあります。
しかし、ブルックナーの演奏に関しては、とても聞いてはいられません。うるさい音です。

ヘルベルト・ブロムシュテット/グスタフ・マーラー・ューゲント管弦楽団

ブロムシュテット
一楽章、浅い響きでせっかちな第一主題。第二主題も速めのテンポであっさりとしています。第三主題に入ってようやくゆっくりとしたテンポになりました。若いオケですが、トゥッティの響きは充実していますし、弦も美しいですが、ブロムシュテットの指揮がとにかく速いです。再現部の前は少しゆっくりとなりましたが、あまり味わいの無い演奏でした。

二楽章、あまり強弱の振幅が大きくありません。速いテンポのトリオが素っ気ない感じです。

三楽章、この楽章も速いテンポで、ほとんど思い入れの無いような演奏に聞こえます。クライマックスでも壮絶さは無く、とても落ち着いた表現で、感情の振幅は感じられません。

終始速いテンポで素っ気ない演奏でした。この速いテンポでブロムシュテットは何を表現したかったのか分かりませんでした。
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