カテゴリー: ブルックナー:交響曲第8番名盤試聴記

ブルックナー 交響曲第8番

ブルックナーの交響曲第8番は、彼の作品の中でも最も壮大で神秘的な交響曲の一つで、深い精神性や荘厳な雰囲気に満ちた作品です。「オルガンのよう」と評される重厚なオーケストレーションが特徴で、宇宙的ともいえるスケールで聴く者を圧倒します。以下、各楽章について簡単に説明します。

1. 第1楽章:Allegro moderato

暗く厳粛な雰囲気で幕を開け、徐々に高まっていく壮大なテーマが提示されます。冒頭から低弦が鳴り響き、徐々に強さを増していくこの楽章には、運命的な重さと荘厳さが感じられます。ブルックナー特有の繰り返しが用いられており、宗教的でありながらも時折悲劇的な要素も垣間見えます。音楽が流れるにつれて、天上と地上が交錯するような、広がりのある空気感が漂います。

2. 第2楽章:Scherzo. Allegro moderato – Trio. Langsam

このスケルツォは、ブルックナーの交響曲の中でも特に強い印象を残す楽章です。運命的で不気味なリズムが印象的で、力強くも不安げな旋律が繰り返されます。自然の風景や森の中を連想させるような神秘的な雰囲気が漂い、ブルックナーの独自のリズムが聴き手を揺さぶります。トリオ部分では対照的に、穏やかで優雅なメロディが現れ、一時の安らぎをもたらします。

3. 第3楽章:Adagio. Feierlich langsam; doch nicht schleppend

このアダージョは、ブルックナーが自ら「心からの祈り」と評したように、深い祈りと崇高さが込められた楽章です。ゆっくりとしたテンポで、美しくも重厚な旋律が展開し、時間が止まったかのような静謐な雰囲気が漂います。心の奥深くに響くような感動的な旋律が次第に盛り上がり、最後には壮大なクライマックスに達します。この楽章は特にブルックナーの宗教的な信念や精神的な側面が色濃く反映されており、聴き手に深い敬意と感動をもたらします。

4. 第4楽章:Finale. Feierlich, nicht schnell

フィナーレはまさに堂々たる締めくくりです。重厚なオーケストラが雄大なメロディを奏で、壮大なスケールで展開します。ブルックナーの音楽の特徴である、「止まらずにどこまでも続いていく」ような雰囲気が感じられ、圧倒的な迫力と希望に満ちた結末へと導かれます。彼が持つスケールの大きさや宇宙的な視点が表現され、最後の瞬間まで荘厳な雰囲気が続きます。

全体の印象

交響曲第8番はブルックナーの交響曲の中でも最高傑作と称され、非常に精神的で壮麗な作品です。その壮大なスケールと深い宗教的な情緒は、聴き手を神聖な世界へと誘います。ブルックナーが持つ「音楽を通じて祈りを捧げる」という信念が、楽曲全体を通じて感じられる、非常に奥深い交響曲です。

4o

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、歌心にあふれる第一主題。陰影を伴ったクラリネット。編成も大きくスケールの大きな演奏です。一転して明るく流れるように美しく歌われる第二主題。第三主題も積極的な表現です。下降音型のすさまじい咆哮。提示部も壮大な咆哮。オケに一体感があり咆哮する部分では、たまったマグマを一気に放出するようなすごいエネルギーがあります。弱音部の美しいホルン。強烈な「死の予告」。消え入るようなコーダでした。

二楽章、ゆったりとしたテンポです。ここでも表情豊かな演奏です。ホルンのすごい咆哮!ジュリーニってこんなにオケを咆哮させる指揮者だったっけ?と改めて思います。美しい木管。音一つ一つが立っていて、とてもくっきりとした表情です。古風な響きのティンパニ。色彩が濃厚でしかも輪郭がくっきりしています。芯のしっかりしたフルート。随所で表現される歌がすばらしいです。トリオでも何度かホルンの咆哮があり、起伏に富んだすさまじい演奏です。

三楽章、すごく丁寧に作品を慈しむように演奏されます。すごく感情移入されていて、この楽章も豊かな歌に満ちています。この世のものとは思えない美しいハープ。透明感のある第二主題。陰影を伴ったクラリネット。すごい静寂感があり集中力の高い演奏です。作品への感情移入に圧倒されます。美しい音楽に身をゆだねることができる数少ない演奏の一つです。12/8拍子での第一主題の咆哮も壮絶でした。最高潮のアルペッジョのすさまじい咆哮。それに続く低弦のうなりも作品への共感からのものだと思います。そして穏やかに音楽は静まって、遠い彼方に行ってしまうように終ります。

四楽章、一転して、厳しい表情の咆哮です。続く第二主題はまた作品への共感を強く感じさせます。第三主題にもちょっとした表情付けがあります。「死の行進」もすさまじい咆哮ですがとても豊かな響きです。分厚い弦楽合奏。再現部の前にも何度か激しい咆哮。再現部で再び激しい咆哮ですが暴走することはなく、きちんと整った見事な演奏です。荘厳なコーダのワーグナーテューバ。輝かしい終結でした。

作品への共感が見事に表されたすばらしい演奏でした。

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、とても静かに探るような冒頭の第一主題です。奥行き感があり深い低音に支えられた強奏。あっさりとした第二主題。豊かに歌うフルート。美しいトロンボーン。第三主題は強弱の変化がありとても豊かです。弦楽器も艶やかで美しい。弱奏では空間を感じさせる良い録音です。とても激しい壮絶と言ってもいい「死の予告」。

二楽章、速目のテンポで生き生きとした音楽です。フルートがとても良く鳴り美しい。音が立っていてオケの集中力の高さを伺わせます。強奏部分でも少し余力を残しています。強奏の後に残る残響も美しい。合間に入るハープの存在感も大きいです。テンポに推進力があり、音楽が生きています。

三楽章、夢見るような始まりから次第に現実の世界へ引き戻されます。上昇型のアルペッジョは音を短めに演奏して躍動的な表現でした。美しいハープがとても前に出てきます。天上界をイメージさせるワーグナーテューバ。ホルンの咆哮!豊かな自然をイメージさせる木管。12/8拍子になってから、波が次から次へと押し寄せるように音楽がせまって来ます。クライマックスの上昇型アルペッジョはゆったりと大きい演奏でした。夕暮れを思わせるような、どこか寂しげなコーダ。

四楽章、速目のテンポで始まりました。十分に鳴っていますが、音量は少し控え目です。第二主題の弦はシルキーで美しい。第三主題も速目で生命感を感じる推進力があります。「死の行進」も十分に鳴っていますが、全開ではありません。再現部の第一主題は途中でテンポを落としました。分厚い低音にガッチりと支えられたしっかりとした構造の演奏です。とても静かなコーダの入り。巨大なものが待ち構えている予感をさせてくれます。いろんな主題が織り交ぜられて壮大に曲を閉じました。

シルキーな弦の美しさやいろんな情景をイメージさせてくれる演奏はすばらしいものでした。

セルジュ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

チェリビダッケ ブルックナー交響曲第8番★★★★★
一楽章、非常に遅いテンポです。うごめくような第一主題。重い低音を基調にした重厚な響きが印象的です。滑らかで伸びやかな第二主題。とても豊かな響きです。テンポが遅いからかもしれませんが、とてもどっしりとしていて安定感があります。伸び伸びととても良く鳴るオケです。fffでもきっちりとコントロールされていて決して暴走はしません。「死の予告」の屈託の無い伸びやかなすばらしい響き。最後は大きくritして終りました。

二楽章、この楽章はそんなに遅くはありません。ここでも咆哮することはなく、きちんとバランスを保ってコントロールされています。トリオはゆっくりとしたテンポになりました。チェリビダッケが幼い子供に読み聞かせをしているように丁寧に細部にまで神経を行き渡らせているのが良く分かります。チェリビダッケの徹底した訓練によって作り出されたのであろうか、すばらしい響きです。

三楽章、作品に没入して行く冒頭です。天上的な雰囲気に満ちています。豊かで美しいワーグナーテューバ、まさに神の世界を表現しています。すばらしく合った響き。壮大なテュッティ。テンポは遅い。終結部も美しい和音に乗ってメロディが奏でられのがとても魅力的でした。

四楽章、堂々とした冒頭に輝かしいトランペットの響き。ハーモニーがとても美しく響きます。第三主題も一体になった分厚い響きです。非常にゆったりとした「死の行進」。テュッティは非常に重厚な響きですばらしいです。再現部も力強い響きですが、咆哮すると言うようなイメージではなく、しっかりとコントロールされています。第一楽章、第一主題の再現はものすごく遅いテンポでした。神秘的なコーダの導入。コーダの終結も非常に遅いテンポで雄大に演奏されました。

とても遅いテンポにもかかわらず音楽がギューっと凝縮されたような演奏で、美しい響きですごく完成度の高い演奏でした。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、積極的な表現の第一主題。ディミヌエンドしたときの空間がとても良い雰囲気です。地から湧き上がるような低音に支えられた強奏。一転して明るい第二主題。木管も積極的に歌います。N響の編成も大きいように感じさせる豊かな響きです。下降音型のトランペットも良く鳴っています。N響もこの頃になるととても充実した響きです。展開部終盤のfffはかなり激しい響きでした。分厚い響きの「死の予告」。消え入るようなpppで終りました。

二楽章、冒頭のヴァイオリンの繊細な表現。ダイナミックの幅がものすごく広く消え入るような弱音から、咆哮まで表現の幅がとても広い演奏です。トリオのゆったりとした安定感のある響き。どっぷりと音楽に浸っていられるような演奏です。再びスケルツォ主部が戻り、充実したブラスセクションの響き。弱音の弦にも動きがありとても豊かな表情ですばらしい演奏です。

三楽章、波が緩やかにせまって、また引いていくようなヴァイオリンの主題。深い響きです。美しい木管のソロ。薄日が差し込むようなワーグナーテューバ。天が鳴り響いているようなすばらしい響きです。クライマックスはゆっくりと克明に演奏しました。音楽が時折「神の世界」を垣間見せてくれます。夕日が沈むような黄昏で終りました。

四楽章、強烈なティンパニ。他のパートもかなり力強く演奏しています。音楽が生きているかのように何かを訴えてきます。ここでも充実した響きを聞かせた「死の行進」。とてもよく歌うホルン。再現部の第一主題は最初よりも強く演奏されたようでしたが、非常に美しいものでした。コーダの繊細なヴァイオリン。終結の圧倒的なパワー感。日本人によるブルックナー演奏がこんなにもすばらしいとは、本当に驚きました。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、重く豊かな表情の第一主題。何かに攻め立てられるような切迫感。トゥッティでは分厚い巨大な響きが聴かれました。第二主題は柔らかくしなやかな歌です。第三主題は木目の細かい下降音型、そしてスケールの大きなトゥッティ。強烈ですが、鳴りきった美しさのあるfff。オケの上手さなのか、録音の良さなのか、とても整然としていてバランスの良い響きです。錯乱状態のような壮絶なクライマックス。静寂の中に消えていくコーダ。

二楽章、元気の良いホルンから深みのある弦の主要主題が奏でられます。ホルンの下降音型の直前に大きくクレッシェンドしました。強弱の変化が大きくティンパニも大きくクレッシェンドして、ヴァント渾身の演奏です。トリオ冒頭部分ではパイプオルガンのような分厚い響きが印象的です。ハープを含めて登場してくる楽器がとても鮮明に浮かび上がります。スケルツォ主部が戻ると再び動きのある音楽が展開されます。

三楽章、深みと厚みのある弦。ヴァイオリンの旋律と伴奏の強弱の出入りに敏感に反応しますが、強い感情移入はありません。木管楽器群はとても生き生きとした音色で登場します。充実した分厚い響き。第一主題の二回目の再現のあたりになるとかなりオケの響きも壮絶な叫び声のように激しくなってきます。輝かしく見事なクライマックスでした。分厚い弦の響きの中を縫うように演奏されるハープが美しくとても存在感があり、印象に残ります。夕日が沈むように終わりました。

四楽章、スピート感と勢いがある金管の第一主題。魂の響きのように昇華された凄味があります。一転して幻想的な雰囲気を醸し出す第二主題。歌う第三主題。速めのテンポで一気に演奏される「死の行進」も凄い迫力で迫ってきます。展開部で現れる第一主題も回数を重ねるごとに壮絶な響きになって行きます。再現部の第二主題もさすがきベルリンpoと思わせる厚い響きです。静寂の中から美しく上昇音型を演奏するヴァイオリン。圧倒的なパワーで力強く締めくくりました。

ベルリンpoの分厚い、圧倒的なパワーと弱音の美しさ。それにヴァントの気迫が加味されたすばらしい名演でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★★★
一楽章、暗闇の中にろうそくの炎の見えるような静かで伸びやかな第一主題。地の底から湧き上がるようなトゥッティ。明るく開放的な第二主題。トランペットが強く全体の響きを支配しているような感じです。壮絶なクライマックス(死の予告)。コーダのクラリネットは静寂の中に美しく響きます。

二楽章、力が抜けて自然な主要主題。トランペットに比べるとホルンは奥まっています。やはりトランペットが突出しています。中間部はゆったりとのどかで落ち着いた演奏です。大きな仕掛けや強い主張はありませんが、自然体で作品に身を任せたような演奏です。

三楽章、以外に鮮明な第一主題A1。自然な第二主題B1。それぞれの楽器がきりっと立っていてとても美しい演奏です。誇張が無く自然に音楽が進むので、複雑に絡む楽器の動きもサラッと何事も無く演奏されて行きます。シンバルが入ったクライマックスもとても充実した響きで見事です。

四楽章、力強く華やかな第一主題。多層的で豊かな表現の第二主題はとても厚みがあります。ひたむきに語りかけるような第三主題。「死の行進」は荒々しくは無く美しいです。第一主題の再現も荒々しくならず、とても美しいです。第二主題の再現は深く豊かな表現です。コーダは金管がことさら強奏するわけではありませんが、力強く輝かしい見事な響きで終わりました。

カラヤンの全盛期のような表面を磨き上げた演奏では無く、自然体で力みの無い演奏でした。しかし、ウィーンpoが元来持っている美しさや音楽性が見事に生かされてとても美しく見事な演奏になっていました。
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ドナルド・ラニクルズ/BBCスコティッシュ交響楽団

ラニクルズ★★★★★
一楽章、良く歌い深みのある第一主題。トゥッティもゴリゴリとした厚みがあり地獄から湧き上がるような響きです。穏やかで伸び伸びとした第二主題。金管の下降音形は鋭い響きです。金管の壮絶な響きはかなり凄いです。強烈な「死の予告」凄い咆哮です。

二楽章、速いテンポで躍動感があります。音が立っていて楽器の動きがとても克明に表現されています。くっきりとした輪郭で曖昧さがありません。

三楽章、浮遊するような第一主題のA1。前の二つの楽章で聞かせた壮絶な響きとは一転したしっかりと地に足の着いた美しい響き。夢見るようなB1のチェロ。豊かに歌うB2のワーグナーチューバ。切々と語りながら押しては引いてゆく音楽。充実した響きのクライマックス。潮が引いて行くように黄昏て行く音楽。

四楽章、金管が襲い掛かって来るような第一主題。でもバランス良く美しいです。多層的にいろんな楽器が交錯する第二主題。しみじみと語りかけるように歌う第三主題。堂々と重厚な「死の行進」。泉からこんこんと湧き上るように豊かに奏でられる音楽。トゥッティでも決して荒々しくならずに美しい響きとバランスの演奏は見事です。神の世界の扉が開かれるようなコーダ。感動的な最後でした。

トゥッティでは壮絶な響きを聞かせる部分もありましたが、それでもバランスは常に良く美しい響きを保っていました。最後は神の世界を見事に表現した素晴らしい演奏でした。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団 1990年東京ライヴ

ヴァント★★★★★
一楽章、静かでどっしりとした第一主題。トゥッティは低音楽器が分厚くトロンボーンがしっかりと主張する良い響きです。明るく軽い第二主題。第三主題でも金管は強いですが、壮絶な響きにはならず。美しく整った響きです。展開部のトゥッティでもトロンボーンが見事な響きです。第二主題の再現でも余分な力が抜けた自然体の表現ですが、音楽には生命感があります。「死の予告」も混濁も無く美しい響きでスッキリとしています。

二楽章、とても明晰な演奏です。トゥッティでのクレッシェンドも全体のバランスも保ったままで見事なものでした。トリオに入ってもあまりテンポは遅くならずに進みます。大きな波が押し寄せるような音楽の動きです。オケがとても良く鳴っていて気持ちの良い響きの演奏です。

三楽章、注意深い弦の導入。フワフワと浮いているようなヴァイオリンの第一主題A1ですが、音量が上がるに従ってしっかりと地に足が付いて来ます。清涼感があって爽やかです。スピード感があって伸びやかなチェロのB2。柔らかいワーグナーチューバのB2。うねるように絡み合う楽器の動きが見事です。強弱の振幅もものすごく広く、浮遊するような弱音から咆哮する金管まで強烈な振幅です。堰を切ったように溢れ出す金管の凄さ!。シンバルが入るクライマックスも見事なアンサンブルで、キチッとしていました。コーダは良く歌って豊かな表現です。多くの演奏でこの部分で力を失って行く感じを受けましたが、この演奏はとても力のある演奏です。

四楽章、物凄い金管の咆哮とティンパニの強打。でも荒れた響きにはなりません。深く歌う第二主題。動きに力があって、生き生きとした演奏です。「死の行進」はそれまでのゆったりとしたテンポから一転して速いテンポになりました。凝縮された密度の濃い音楽です。神が登場して感動的なコーダ。眩いばかりの輝かしいトゥッティ。

素晴らしいバランスとアンサンブルの精度で、多彩な表現で密度の濃い演奏でした。神が登場する感動的なコーダの導入部分から眩いトゥッティの輝かしい終結に象徴されるような見事な演奏でした。
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ケント・ナガノ/ベルリン・ドイツ交響楽団

ナガノ★★★★★
一楽章、ゆっくりと分厚く克明な第一主題。分厚い低域がとても印象に残ります。揺れるように波打つ第二主題。新鮮で鋭利な感覚の演奏です。ゆっくとしたテンポで濃厚に音楽を描いて行きます。とても巨大な空間を感じさせる伸びやかで豊かな響きの演奏です。次々と泉から音が溢れ出すような「死の予告」。

二楽章、表情が豊かで活発に動く主要主題。細部にいたるまで細密な表現があります。透き通るような透明感の高い美しく伸びやかな響き。ライヴ録音でありながらこれだけ美しい響きは素晴らしいです。トリオもとても豊かな表現で美しく歌います。濃厚な色彩なのですが、とても伸びやかで空間がどこまでも続いているような感じで見事な演奏です。

三楽章、非常にゆっくりとしたテンポで中に浮いているような第一主題A1。ゆっくりと昇って行くA2、とても美しいです。感情が込められて深みのあるB1。穏やかな空をイメージさせるワーグナーチューバのB2。ゆっくりと丁寧に進む音楽にどっぷりと身をゆだねることができてとても心地良い演奏です。トゥッティも荒れること無くとても美しい響きです。暖かくなる第一主題の2回目の再現。シンバルが入る部分はスケールの大きな見事な響きでした。日が暮れていくような寂しさを感じさせるコーダ。

四楽章、空間に大きく柔らかく広がる第一主題。深く感情を吐露するような第二主題。柔らかいですが、深く刻み込むような第三主題。巨大な響きでどこまでも広がっていくような「死の行進」。余裕を残した柔らかい響きなのですが、心に迫って来るような迫力があります。木管も艶やかで伸びやかな表現です。とてもゆっくりと始まるコーダ。ご来光が訪れるような感じです。太陽が燦然と輝き始めて曲が終わりました。

柔らかい伸びやかな響きで、空間にどこまでも広がっていくような巨大なスケールの演奏でした。心に迫って来るような深い表現や密度の濃い表現など、どこをとっても素晴らしい演奏でした。
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サー・レジナルド・グッドオール/BBC交響楽団

グッドオール★★★★★
一楽章、遠くから近づいてくるような第一主題。とてもゆっくりです。雄大なトゥッティ。頻繁にタメがあって音楽の息遣いが感じられます。第二主題もゆっくりで、トロンボーンも余裕を残した演奏です。第三主題もゆっくりで優雅です。とても安らかで穏やかな音楽が続きます。「死の予告」も狂気のような演奏にはなりません。うるさくは無く雄大です。コーダもゆっくりと静かに消えて行きます。

二楽章、ゆっくりと確実な足取りの主要主題。ホルンも咆哮とは無縁の演奏です。この楽章でもタメがあります。トリオもゆっくりとしたテンポで自由に解き放たれたように歌います。テンポも大きく動きます。

三楽章、弱く繊細な第一主題A1。感動的に歌うA2。B1も豊かに歌います。少し響きは浅いですが、広大な空間をイメージさせるワーグナーチューバ。全く力みの無い自然体でありながら、自然で豊かな歌と雄大なスケールがとても心に残ります。全く絶叫しない金管。自然な抑揚で演奏されています。シンバルが入る部分でもトランペットは奥に控えていて絶対に突出して来ません。力みが無くとても自然で美しいコーダ。

四楽章、この楽章もゆっくりで地面から湧き上がるような第一主題。決して絶叫はしませんが、とても雄大です。ゆったりと深く歌う第二主題。第三主題もなだらかで広々とした空間を感じさせます。余裕たっぷりの「死の行進」。タメがあったりもします。何とも言えない余裕たっぷりの穏やかで広大なスケールの演奏で、どっぷりと音楽に浸ることができます。コーダも最初はとても柔らかく最後は少し力の入った演奏でした。

ゆったりと余裕たっぷりでスケールの非常に大きな演奏でした。テンポの動きもあり、歌うところは伸びやかに歌い、トゥッティでは全く絶叫することなく堂々と演奏し切った見事な演奏だったと思います。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、キビキビしたテンポで、コンパクトにまとまった演奏です。N響きもこの頃になると響きに安定感がありますし、美しい演奏です。マタチッチがグイグイと引っ張ります。美しく鳴り響く「死の予告」。弱音部の消え入るような美しさ。

二楽章、この楽章も速いテンポです。オケは咆哮することなく、美しい音を保っています。ハープの存在も際立っていて魅力的です。木管も美しく浮かび上がり、色彩豊かに描かれて行きます。終結部の響きはとても充実したものですばらしかった。

三楽章、現れては消えてゆく第一主題。充実したハーモニー。日本のオケの演奏だとは思えないくらい充実した響きです。天に昇って行くような感覚がすばらしい。優しい第二主題。静かですが切々と語られる音楽に引き込まれます。木管もホールの響きを伴ってとても美しい。テュッティでもブルックナーの音がしています。最高潮の部分も天に昇るような雰囲気をもっていてとてもすばらしい表現です。この世のものとは思えないようなコーダ。

四楽章、柔らかい第一主題。トランペットも少し奥まった感じの響き方です。幻想的な雰囲気の第二主題。とても余裕をもって美しい響きの「死の行進」。再現部の第一主題も冒頭と同様にかなり余力を残した柔らかい響きでした。コーダに入った独特の雰囲気。途中テンポを速めました。とても良い演奏でしたが、全開のパワーも聴きたかったような気もしますが、この当時のN響にこれ以上を求めるのは無理だったのか。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★☆
一楽章、瑞々しく美しい第一主題。巨大なトゥッティ。伸びやかで美しい第二主題。せわしなく追い立てるような第三主題。展開部のブルックナー・ゼクエンツの後のトゥッティはかなり激しいですが、録音も良く美しいです。テンポは基本的には速めで、グイグイと引っ張って行きます。「死の予告」は改訂されたハースやノヴァーク版とはかなり違います。コーダで突然強奏が始まりそのまま終わります。

二楽章、かなり荒っぽい作品ですが、これはこれで魅力があります。とても賑やかな主部です。トリオの後の改訂とはかなり様子が違い、改訂を予感させるような部分はほとんどありません。主部が戻るとかなり激しく壮絶な演奏です。

三楽章、ゆっくりとしたテンポでフワッとした柔らかい音で瞑想するような第一主題A1。微妙にテンポが動くA2。ハープが柔らかく美しいです。B1は速いテンポであっさりと演奏されます。明るい響きのワーグナーチューバ。全体の響きは伸びやかでとても美しいです。シンバルが入る部分も美しく伸びやかで輝かしい響きでした。明確に描き分けられるコーダ。

四楽章、余力を十分の残して美しい第一主題。バランスが取れてとても美しい第二主題。第三主題は抑制的であまり大きく歌いません。「死の行進」は突然テンポが速くなりますが、それでも丁寧で美しい響きです。作品に対して感情的な踏み込みはあまりせずに、とても均衡の取れた美しい演奏を続けています。重厚で輝かしいコーダは見事でした。

感情的な表現を極力抑えて、作品をバランス良く鳴らした演奏でした。とても美しい演奏で、第一稿の粗野な部分はあまり感じませんでした。基本的には速いテンポでしたが、トゥッティの輝かしい響きは素晴らしいものでした。
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ヘルベルト・ケーゲル/中部ドイツ放送交響楽団

ケーゲル★★★★☆
一楽章、とても大きく歌う第一主題。トゥッティも豪快に鳴り響きます。濃厚な表現の第二主題。強烈な金管の咆哮です。ビブラートをかけるトランペットの存在感がとても大きいです。全く遠慮の無い耳をつんざくばかりの金管の咆哮です。これほど激しい「死の予告」は聞いたことがありません。

二楽章、速めのテンポで力強く進みます。ホルンはそれほど咆哮しませんが、トランペットとトロンボーンはとにかく強烈です。弱音部分はスピート感と緊張感があります。トリオに入っても穏やかさよりも緊張感の方が勝っている感じで、緩む感じやのどかさは全くありません。とても鋭く、聞く者を切り捨てて行くような凄みがあります。とても起伏の大きな抉るような表現。

三楽章、フワッとしてはいますが、漂うような雰囲気では無い第一主題A1。この楽章も少し速めのテンポです。暖かい響きすら清涼感のある響きに変化するA2。ビブラートをかけたワーグナーチューバ。彫りの深い演奏で、刻み付けるように克明に描かれて行きます。A1の二度目の再現部分の強奏もやはり強烈です。シンバルが入る部分も全開の物凄い響きです。コーダはこの世に別れを告げるような一抹の寂しさを表現するような演奏です。

四楽章、ここまでの流れからすれば予想通りの金管の咆哮とティンパニの強打。積極的な表現の第二主題。弦の強奏部分は嵐のようです。「死の行進」も強烈で壮絶な演奏です。これだけ強烈に咆哮を続けて良く金管が持つもんだと感心します。弱音部分はフワーッとした柔らかさはあまり無く、強い音です。トゥッティはブルックナーらしい分厚い響きでは無く、低域が薄くトランペットやトロンボーンが突出しています。コーダも強烈な響きでこの演奏で一貫しています。

強烈なトゥッティで一貫した演奏で、色彩感もほぼ一色で塗りつぶされたような感じでした。弱音部分でも柔らかさは無く、強い音でした。神秘的な部分もあまりありませんでしたが、終始強烈な響きの演奏の凄みはありました。
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ウラディミール・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

ブェドセーエフ★★★★☆
一楽章、豊かな残響を伴っていますが、響きの木目は少し粗いです。ゆったりと伸びやかで安らかな第二主題。ロシアのオケらしい爆演にはなりません。トランペットがマルカートぎみに演奏するのが特徴的です。コーダの最後の強奏部分は取って付けたような感じで違和感があります。

二楽章、とても軽く演奏される主部。インバルの演奏に比べると改訂版との違いをはっきりと打ち出している感じの演奏です。ゆったりとのどかなトリオです。初稿の整理されていないオーケストレーションをそのまま演奏している感じでとても不思議な感じがする演奏です。

三楽章、芯のしっかりした第一主題A1。高揚感の豊かな表現のA2。速めのテンポで静かに演奏されるB1。深みはありませんが豊かに歌うワーグナーチューバ。A1の再現はうつろで寂しげです。シンバルが入る前のトゥッティは暴力的な感じでした。この部分は改訂版とは大きく違います。

四楽章、響きが薄い第一主題。金管はあまり咆哮しません。第三主題もあまり大きな表現はしません。「死の行進」も余裕たっぷりの美しい演奏でした。再現部の前のクライマックスもかなり余裕を残した演奏でした。楽譜がそうなっているのか、改訂版の演奏ではテヌートぎみに演奏される部分もマルカートぎみに演奏される部分が多いです。

第一稿の洗練されていない部分をそのまま露出させるような演奏で、改訂版との違いを歴然とさせた演奏でした。この面ではインバルとは対照的です。ロシアのオケにありがちな咆哮も無く、強烈な主張の多いロシアの他の指揮者とも違う作品に語らせる表現でした。
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クラウス・テンシュテット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1981年ライヴ

テンシュテット★★★★☆
一楽章、積極的な表現の第一主題。落ち着いて美しい第二主題。テンポが動いて激しい第三主題。主題によって表現を変えています。ロンドンpoとの録音のような腰高で軽薄な響きではありません。マーラーのように激しく咆哮することは無く、少し余裕を残した響きです。「死の予告」も予想外に軽い演奏でした。

二楽章、少し速めのテンポですが、表現は積極的です。畳み掛けるように迫って来ます。トリオも積極的に歌う演奏です。テンポも動いて情緒的な音楽です。主部が戻るとやはり活動的な演奏になります。シャープで軽快な響きです。

三楽章、しっかりと地に足の着いた第一主題A1。一音一音心を込めるように丁寧なA2。B1も感情を込めて歌います。あまり伸びやかさが無いワーグナーチューバ。2回目のA1の再現はとても豊かに歌います。シンバルが入る部分は分厚い響きですが、全開では無くかなり余裕のある響きです。

四楽章、ついに全開近い咆哮になる第一主題。感情が込められた大きな表現の第二主題。第三主題も大きくクレッシェンドします。「死の行進」も激しい咆哮です。再現部の前のクライマックスも軽々と鳴り響く金管の充実した圧倒的な響きが見事です。第一主題の再現も強烈です。その後も速いテンポで畳み掛けます。暗闇の中に僅かな光が差し込むようなコーダのワーグナーチューバ。最後は渾然一体となって終わりました。

速めのテンポで、テンシュテットらしく感情を込めて深い歌のある演奏でした。また、四楽章の金管の咆哮もベルリンpoの金管の軽々と鳴り響く充実した響きも見事でした。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ロシア国立シンフォニー・カペラ

ロジェストヴェンスキー★★★★☆
一楽章、とても積極的で大きな表現の第一主題。左右に振られるような第二主題。ロジェストヴェンスキーらしい爆演ではありません。「死の予告」はリミッターがかかったように音が引っ込みます。

二楽章、音が短い弦の主要主題。フルートのミスはありますが、かなり力強く前へ進む演奏です。トリオはゆったりと強弱の変化の大きい、たっぷりとした歌のある演奏です。

三楽章、脱力した第一主題A1。テンポも動いて感情が込められた歌です。波打つような表現のA2。ビブラートが掛かったワーグナーチューバ。B1の再現も豊かな歌でロマンティックです。遠慮なく強奏される金管。A1の2回目の再現も感情でドロドロになるような表現です。この楽章は感情の振幅が非常に大きく、ロジェストヴェンスキーの内面から湧き上がるものを隠そうともせずに、そのまま表現しているような演奏です。シンバルが入る部分もとても情熱的で熱い演奏です。コーダはかなり活発な動きで、静かではありません。

四楽章、 勇壮に鳴り響く第一主題。かなりのエネルギーです。感情の込められた第二主題。「死の行進」もかなり強烈です。第一主題の再現部分にシンバルが入りました。第三主題の再現はゆっくり目です。コーダのワーグナーチューバは少し雑な演奏に感じました。ねっとりと朗々と歌うトランペット。

ロジェストヴェンスキーの感情をぶつけた演奏で、とても良く歌う弱音と強烈に襲い掛かってくる金管のとても振幅の大きな演奏でした。ライヴと言うこともあって金管のミスはかなりありましたが、込められた感情はなかなかのものでした。
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ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、分厚い低音が豊かに歌う第一主題。テンポを速めた第二主題。提示部手前の全合奏はそんなに強くは演奏されませんでした。金管の下降音型もかなり余力をのこしたものでした。「死の予告」はかなり激しい表現でした。黄昏を告げるような終わり方でした。

二楽章、良く歌う冒頭。鮮明な木管の絡み。金管の下降音型が始まる前の弦の強弱の変化など独特のものがあります。泉から絶え間なく水が湧き出すように豊かな音楽が続きます。金管は余力を残した強奏です。

三楽章、深みのある低音に乗って、揺れるような抑揚があるヴァイオリンの主題。夢見るようなクラリネットの下降音型。第一主題の再現の前、弦楽器が強いアタックで演奏しました。天上のメロディのようなワーグナーテューバ。金管が奥に鎮座して、おおらかな響きで全体を包みます。テンポを一段落として、非常にスケールの大きなクライマックスでトランペットが突き抜けてきました。

四楽章、ゆったりとしたテンポで柔らかく演奏される第一主題。ティンパニと弦が主体の「死の行進」。意図的にすごく金管を抑える部分もあります。テンポも時々動きます。再現部の第一主題も弦がとても良く聞こえます。タメも独特のものがあります。コーダの独特の雰囲気。ここでも金管はとても柔らかい。ティンパニのリズムの後、急に目覚めたように金管が強奏しました。

美しい演奏でしたが、訴えてくるものが今ひとつ伝わってきませんでした。

パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★★
一楽章、静かに漂うような第一主題。トゥッティは力みも無く軽い感じです。夢見るように揺れ動く第二主題はとても美しいです。第三主題もしなやかで柔らかいです。都会的で洗練された演奏です。展開部の最後あたりのトゥッティも壮絶な響きにはならず、すっきりと整理されて爽やかな響きです。透明感があって美しい響きです。「死の予告」もすっきりとあっさりとした表現です。トゥッティの壮絶さようり弱音の空間に漂う音楽に重点を置いているようで、都会的でスマートな演奏です。

二楽章、かなり速いテンポです。”鈍重な田舎者”と言う感じではなく、精悍な都会人のようです。トリオは少しゆっくりになりますが、やはりすっきりとした響きでとても洗練されています。主部が戻るととても活動的で動きが活発です。

三楽章、とても自然で潮が満ちて引いて行くような第一主題(A1)。広々と広大なA2。透明感が高く美しいB1。落ち着いて安らかなB2。クライマックスも落ち着いた柔らかい響きでした。コーダも非常に柔らかく美しいです。

四楽章、速いテンポで、トランペットが轟く第一主題。大きな表現で歌う第三主題。「死の行進」はかなり余裕を持った演奏で、壮絶な演奏にはなりません。とても澄んだ響きで精緻な演奏です。コーダの終結部も力の抜けた美しい響きでスッキリとした輪郭の演奏でした。

とても美しい演奏で、洗練された都会的でスマートな演奏でした。ですが、神が現れることはありませんでした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1984年ライヴ

ジュリーニ★★★★
一楽章、積極的に歌う第一主題。チューバがゴリゴリとした響きで支えるトゥッティ。伸びやかな第二主題。ホルンや他の金管が強い響きです。第三主題の最後のトゥッティも激しい響きでした。ウィーンpoらしい凝縮されたような濃厚な色彩感はありますが、ライヴの制約か美しさはあまりありません。泣き叫ぶように激しい「死の予告」。

二楽章、ゆったりとした主要主題。ホルンやトランペットがかなり強く演奏されます。主部は壮大な演奏でした。トリオは一転して穏やかでのんびりとした演奏です。主部がもどって、ホルンの強奏はとても良く鳴り切っていて気持ちが良いです。

三楽章、感情が込められて抑揚する第一主題A1。ゆっくりと一音一音に感情を込めるような丁寧な演奏。Bに入って少しテンポが速くなっているようです。神の降臨をイメージさせるB2のワーグナーチューバ。力を蓄えてクレッシェンドする部分のエネルギーは凄いです。天上界を表現しているような美しく穏やかなコーダ。

四楽章、湧き上るようなエネルギーだ高らかに歌い上げる第一主題。とても色彩感が濃厚な第二主題。壮絶な響きの「死の行進」ですが、オケには余裕があります。コーダは熱気に溢れたものでした。

感情を込めて歌う部分やウィーンpoのエネルギー感に溢れる演奏はなかなか凄みがありましたが、、録音の制限によるものか、極上の美しさは感じることができませんでした。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2007年ライヴ

ハイティンク★★★★
一楽章、静かな暗闇から響いて来るような第一主題。とても重苦しい雰囲気です。トゥッティでも力を温存するように控えめです。一転して明るく開放的になる第二主題。第三主題は少し速めのテンポで切迫した表現です。とてもゆったりとした懐の深い演奏です。「死の予告」はティンパニが激しいですが、全体としては余裕のある演奏です。

二楽章、ざわざわとした主要主題。でもまろやかで柔らかい響きです。トランペットがテヌートぎみに演奏します。いつものハイティンクらしい細かな表現がとても厳しく付けられています。一音一音にとても敏感に反応するオケ。ふくよかで柔らかいトリオ。感情を表に出さずに整然とした演奏です。深みのある響きがとても魅力的です。

三楽章、強調するような表現は無く自然に流れて行きます。神が現れるワーグナーチューバのB2。筋肉質で剛直な演奏です。鮮度が高く濃厚な色彩です。速めのテンポでサクサクと進んで行きます。シンバルが入る部分でも絶叫はしません。コーダはあっさりとしています。

四楽章、トランペットやティンパニは激しいですが、他のパートは落ち着いた響きの第一主題。どっしりと落ち着いた第二主題。涼やかで美しい響きです。第三主題も小細工するような動きなどは全く無く非常に落ち着いた演奏です。「死の行進」も第一主題と同様で荒げるような響きにはなりません。展開部のクライマックスも柔らかく充実した響きです。ただ、あまりにも禁欲的で開放されないもどかしさがあります。暗闇へと沈んで行くようなコーダの冒頭。最後もどのパートも突出すること無くバランス良く柔らかい響きでした。

とても美しくバランスの良い演奏でした。強調した表現は無く、ひたすら美しい響きを追い求めているような感じでしたが、トゥッティでも限界ギリギリの演奏にはならず、かなり余裕を残した美しい演奏は禁欲的で開放されないもどかしさもありました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★
一楽章、ゴツゴツとして筋肉質な第一主題。トゥッティのエネルギーは凄いです。ティンパニの強打も物凄いです。第二主題も硬質です。第三主題はゆっくりと始まり次第にテンポを速めてトゥッティになりました。余分な響きを伴わず骨格がむき出しになっているように強烈で濃厚な「死の予告」。

二楽章、ゆっくり目のテンポでガツガツと深く刻み付けながら進みます。金管を遠慮なく鳴らしてとても豪快です。中間部は無骨な表現です。テンポの動きもあって表現は積極的です。

三楽章、倍音をあまり含んでいないようで、漂うような雰囲気はあまり感じさせない第一主題A1。音に凄く力があって、切々と訴えかけてくる部分の思い入れがとても伝わって来ます。シンバルが入る部分の少し前のティンパニで歪みます。この楽章は金管は抑えた演奏でした。コーダは穏やかさよりも活発な動きが強調されているようです。

四楽章、とても強い音の第一主題。第二主題は大きな表現で歌います。「死の行進」は少し歪みぎみなせいもあって、とても激しく聞こえます。第一主題の再現はゆったりとしたテンポで雄大に演奏されました。静かな部分でも音は強いです。コーダはゆっくりと壮大に壮絶に響きます。特にトランペットが強烈でした。

かなりゴツゴツとした男性的な演奏でした。倍音成分が少ない録音のようで、基音が強く弱音でも強い音の印象です。かなり積極的にテンポを動かしたり表現の幅も広い演奏で、トゥッティのドカーンと来るエネルギー感もなかなかでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番3

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、豊かに歌われる第一主題。豊かな響きにオケに厚みを感じます。とても良く歌います。大聖堂に響く残響がとても心地よい演奏です。ティンパニも深い響きです。ライヴとは思えない完成度の高さに驚きます。強奏の後のパウゼで大聖堂に響いた残響が減衰していくのがとても心地よく。ブルックナーの作曲意図が良く分かります。

二楽章、速目でくっきりとした表情です。この楽章でも強奏の後のパウゼで減衰していく残響がすごく印象的で効果的です。パーテルノストロはこの全集のコンサート会場を大聖堂にしたことはとてもよく理解できます。全体的にトランペットは強めですが、ホルンは若干控え目で、咆哮することはありません。強弱の変化に対しても敏感でとても表情豊かな演奏です。ランペットが長く伸ばす音で度々クレッシェンドします。最後は大きくritして終わりました。

三楽章、胴の鳴りが豊かに聞こえる弦楽器。作品への共感を伺わせるとても感情の込められた歌が高揚していきます。豊かな残響のおかげか、テュッティでも押し付けがましくなく、さらりと聞き流せます。

四楽章、冒頭、弦のテンポに少し遅れるブラスセクション。トゥッティでも残響に包まれて、音楽を押し付けてはきません。オケの疲れも出てきたのか、少しミスが出てきました。金管の強奏部分でも音をテヌートぎみに保つこともなく、比較的淡白な表現です。トランペット以外の金管が弱く少しバランスが悪いようです。

豊かな残響で、押し付けがましくない演奏にはそれなりの魅力がありましたが、金管のバランスの悪さはちょっと気になりました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★☆
一楽章、うねるような第一主題。重厚な響きです。一転して明るい第二主題。歌う木管。下降音型は余力を残したものでした。力むこともなく、誇張することもなく、自然体の演奏です。ことさら強調することもない「死の予告」。「あきらめ」を上手く表現したコーダでした。

二楽章、冒頭の弦が音を短めに演奏しました。強奏部分はトランペット以外はかなり抑えぎみです。際立って美しい音色で演奏されているというわけではありません。

三楽章、割と大きめの音量で開始しました。かなり現実的な第一主題です。poco a poco accelあたりから音楽に熱気を帯びてきました。12/8拍子の第一主題を強奏する部分では、ティンパニに豊かな支えの上に豊かな旋律が乗りました。クライマックスの上昇型のアルペッジョも余力を残した豊かで広々とした感じの演奏でした。音量を極端に抑えることのないコーダでした。

四楽章、余力を残した第一主題。泉から湧き出すように豊かな第二主題。速目のテンポで演奏される第三主題。ここでも余力を残した「死の行進」。再現部の第一主題は冒頭の演奏より力強い演奏でした。次第にテンポを上げ音楽が切迫してきます。また、テンポを落としてゆったりとした演奏になりますが激しさが増してきます。 コーダに入ってもそんなに雰囲気は変わりません。最後はトランペットが弱かったですが、全開の演奏でした。

スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★☆
一楽章、とても弱い音からはじまりますが、豊かに歌う第一主題。重厚なトゥッティ。明るく柔らかく透明感のある第二主題。金管は激しいですが、どっしりと落ち着いている第三主題。「死の予告」はトランペットよりもトロンボーンの存在感が大きい演奏でした。重厚な分厚い響きはなかなか良いです。

二楽章、緊張感のある冒頭のヴァイオリンでしたが、主要主題はおおらかで伸び伸びとしていました。ホルンの下降音形は軽く演奏されます。ゆったりと穏やかですが、繊細な表現のトリオ。主部が戻ると、トゥッティでも軽く演奏される部分と思い切った強奏とがあります。

三楽章、しっかりとした存在感の第一主題A1。広々とした雰囲気のA2。あまり伸びやかさが無いワーグナーチューバ。トゥッティはあまり激しい演奏では無く、美しい響きです。シンバルが入る部分も余力を残した美しい響きでした。コーダはこの世に別れを告げるように黄昏て行きます。

四楽章、トロンボーンの強奏に比べると控えめなトランペットの第一主題。重い第三主題。「死の行進」はティンパニの強烈な打ち込みで速いテンポで進みます。第一主題の再現の途中で大きくテンポを落としましたが巨大なスケール感はありません。間延びしたようなところもあったコーダでした。

テンポの動きやいろんな表現のある演奏でしたが、スケールはあまり大きくありませんでした。
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サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★☆
一楽章、大きな息遣いで歌う第一主題。明るくさっぱりとした表現で新鮮な第二主題。録音は古いですが、引き締まった良い音で鳴っています。トゥッティはたくさんの音は聞こえて来ませんが、硬質な響きで力強い音がしています。激しくトランペットが鳴り響く「死の予告」。コーダもとても良く歌います。

二楽章、表現の大きい主要主題。テンポは速いです。この楽章でもトランペットが強いです。生き生きと動く木管。弦もエッジを効かせて主張します。テンポは落ちますがとても活発に動くトリオ。主部が戻ると活発で推進力のある演奏になります。

三楽章、ザラザラとしたヴァイオリンの第一主題A1。力強くクレッシェンドするA2。豊かに歌うB1。A1の再現のpoco a poco accel. はかなり速いテンポまで追い込んで行きます。トゥッティでも音が整理されていて、壮絶な不協和音にはなりません。基本的には速めのテンポの演奏です。シンバルが入る前もかなりテンポが速くなりました。

四楽章、 突然トランペットが突き抜けて鳴り響く第一主題。「死の行進」へ向けてテンポを速めて力強い演奏でした。これまでの楽章でも弦のアタックが強く短めに演奏する部分がありましたが、この楽章でもフルートが強いアタックで演奏する部分がありました。第三主題の再現は物思いにふけるようにゆっくりと演奏され次第に速くなります。コーダは日の出前の暗闇から徐々に明るくなってご来光が現れて、それが燦然と輝くようなイメージでしたが、金管の響きがあまり輝かしく無く、枯れた響きだったので、光の完全な勝利とは言えない感じでした。

大きな表現や独特の音符の処理などもありましたが、録音によるものなのか、音が整理されていて多層的な響きや壮絶な不協和音はあまり聞けませんでした。
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カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、奥行き感の浅い録音で、金管がすごく近いです。速いテンポですが、とても良く歌います。第三主題の前の経過はとても丁寧にritしました。すごく近い位置にいるトランペットが不自然です。激しいfff。再現部の第二主題などはテンポが速くせわしない感じもあります。余力を残した「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。近くにいるトランペットが軽く、奥まったホルンが激しく演奏する不自然さ。強奏で終った時にホールに残る残響が美しい。ホルンの下降音型の前に弦のクレッシェンドをしますが、クナッパーツブッシュの演奏ほど極端ではありません。

三楽章、とても現実的な第一主題。上昇型のアルペッジョもすごくテンポが速い。木管もワーグナーテューバも現実的な響きで「神」を聞くことはできません。poco a poco accelの部分では多くの楽器が入り交ざりとても豊かな響きを作り出しました。クライマックスは壮大でした。

四楽章、全開の第一主題。この楽章ではトランペットが飛びぬけることがなくバランス良くなりました。第二主題もコントラバスがゴリゴリととても積極的な表現です。第三主題も速い。「死の行進」直後のホルンがとても積極的に歌いました。テュッティはなかなか充実した響きです。あまりにも音楽の展開が速く、聴き手側が消化不良になりそうです。再現部の第一主題はテンポが何度も動きました。その後もテンポはよく動きます。あっけなく終りました。

私には、演奏に深みが感じられず残念でした。

ダニエル・バレンボイム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

バレンボイム★★★
一楽章、重厚な響きで探りながら始まる第一主題。柔らかく伸びやかな第二主題。トゥッティでも咆哮することは無くバランスの良い余裕のある響きです。「死の予告」はやはり咆哮はしませんが、壮絶な雰囲気はあります。

二楽章、かなり速いテンポで慌ただしい演奏です。トリオはゆったりとしたテンポになり豊かに歌います。主部が戻るとまた、、速いテンポで落ち着きの無い演奏になります。

三楽章、とてもゆっくりで小さい音で漂うような第一主題A1。注意深い歌い回しのA2。ゆったりと歌うB1。シンバルが入る部分はあっさりとしていてあまり厚みもありませんでした。演奏は淡々と進んで行きます。

四楽章、充実した美しい響きの第一主題。見事に鳴り響くベルリンpoはやっぱり上手いです。「死の行進」は少しテンポを速めて力強い演奏でした。特に強い表現はありませんが、美しく進んで行きます。コーダの最後は凄くテンポが速くなってお祭り騒ぎのような感じになりました。

充実した見事な響きで安定感のある演奏でしたが、何故か四楽章のコーダの最後が凄く速いテンポになってお祭り騒ぎのようになってしまったのが、どうしてなのか良く分かりませんでした。
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フランツ・ウェルザー=メスト/グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★
一楽章、最初の二つの音を短く演奏する独特の表現の第一主題。ダイナミックなトゥッティ。速めのテンポで積極的に歌う第二主題。第三主題はゆっくりと一音一音刻み付けるような表現です。悲鳴を上げるような「死の予告」。

二楽章、トリオはゆっくりとしたテンポで丁寧に描いて行きます。

三楽章、柔らかいですが、漂うような感じは無い第一主題A1。あまり伸びの無いワーグナーチューバ。B1、B2の再現の前の盛り上がりで弦がスタッカートぎみに演奏しました。A1の二回目の再現は暖かくなります。トゥッティはあまり強くありません。豪快に鳴るシンバル。金管も輝かしく鳴り響きます。続く弦は音を短く演奏します。

四楽章、壮絶でトランペットが強く咆哮する第一主題。第二主題でも弦が音を短く演奏する部分がありました。ゆったりと力の抜けた第三主題。軽く演奏される「死の行進」。木管も音が短い表現があります。テンポの動きもあって、踏み込んだ表現もあります。テンポが大きく動いてリズムの扱いも独特です。コーダの最後も軽く演奏されました。

頻繁なテンポの動きや独特のスタッカートやリズムの処理など強い個性を感じさせる演奏でしたが、この作品の表現としてはあまり納得できる表現ではありませんでした。
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カルロス・パイタ/フィルハーモニック交響楽団

パイタ★★★
一楽章、速いテンポでサラッと歌う第一主題。笑うように吠えるトゥッティ。第二主題も第三主題もテンポが速く、トゥッティ強烈で全く落ち着きがありません。とにかく吹きまくる金管には開いた口がふさがりません。「死の予告」などはおもちゃ箱をひっくり返したような大洪水です。

二楽章、この楽章もすごく速いテンポで進みます。速いテンポで下品に吠える金管。トリオはゆっくりとしたテンポで予想外に味わいがあります。それでも金管は必要以上に咆哮します。最後はテンポを速めますが、これがまた全く落ち着きの無いバタバタしたものでした。

三楽章、はっきりとした弦の刻み。硬い音で強めな第一主題A1。涼やかで美しいA2。ここまでの二つの楽章の下品さからはちょっと意外な神聖な演奏です。それでもホルンは強烈に咆哮します。ここまで吹かなくてもと思うくらい必死な金管。二回目のA1の再現の後のトゥッティはもう絶叫です。急にテンポが速くなったり自由自在(やりたい放題)な演奏です。シンバルが入る部分は真夏の太陽がギラギラと照りつけるような熱く強烈なものでした。コーダはとても良く歌うのですが、テンポが速めであまり味わいがありません。

四楽章、慣れてきたのか、第一主題はあまり強烈には感じませんでした。第二主題はとても頻繁に楽器が入れ替わって色彩感は豊かですが、ちょっと忙しい感じがあります。第三主題は速いテンポがさらに速くなります。「死の行進」は凄い速さで乱暴に演奏する金管。テンポが結構動きます。それにしてもここまで金管を強奏させる必要があるのでしょうか?。金管の奏者たちの血管が切れるのではないかと思わせる程の強烈この上ないコーダでした。

パイタのやりたい放題の強烈な爆演でした。ここまでやってしまうと神の世界の崇高さとは全く無縁の演奏している人たちの必死さが映像として浮かんできて、とても人間臭い演奏になってしまいます。
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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

クーベリック★★☆
一楽章、少し遠くから響いてきて、あまり大きな表現の無い第一主題。トゥッティは咆哮するような壮絶な響きでは無く、余裕のある節度のある響きです。慌ただしく動く第三主題。展開部のトゥッティはかなり激しいようですが、音場感が少し遠いので、壮絶さは伝わって来ません。「死の予告」はトランペットが強く抜けて来ます。

二楽章、ほどほどに動きのある主要主題ですが、やはり遠くから響く感じであまりはっきりとした動きは分かりません。トリオはあまりのどかな雰囲気では無く、ここでも活発な動きです。

三楽章、弱音で演奏されますが、はっきりとした存在感の第一主題A1。速めのテンポでサクサクと進みます。内に秘めたようなB1。硬い響きのワーグナーチューバ。デッドな録音の問題もあるのだと思いますがトゥッティの金管のバランスがあまり良くない時もあります。シンバルが入る前に間があって、シンバルが炸裂します。トランペットが強く突き抜けました。

四楽章、ここでもトランペットが強い第一主題。淡々とした表現の第二主題。第三主題の表現も控え目です。「死の行進」も全開にはならず、余裕を残した響きです。速めのテンポであまり深い味わいはありません。第三主題の再現からテンポが速くなりました。コーダの最後は全開になりましたが、少し投げやりな感じの演奏になってしまいました。

オーソドックスな演奏で、特に大きな表現などは無く淡々と進む演奏でした。あまり表現に深みが無く、最後も投げやりで雑な演奏になってしまいました。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、すごく積極的に歌われる第一主題。トゥッティでの響きの厚みはありません。速めのテンポで弱く優しく演奏される第二主題。第三主題も速いテンポで演奏されます。トゥッティの響きは浅く、奥行き感がありません。激しい「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。ホルンも間接音を含まず奥行き感がなく前面に出てきてしまいます。トリオはテンポも動き歌います。ハープはあまり強調されていません。スケルツォ主部が戻り再び速いテンポになります。ホルンのマイク位置が近いのか、かなり強調されています。テンシュテットらしい濃厚な表現はあまり感じません。

三楽章、第一主題は完全にピッチが合っていないような透明感の不足した響きでした。くっきり浮かび上がるワーグナー・チューバ。テンシュテットのマーラー演奏などに見られるような作品への深い没入はあまり感じられません。淡々と演奏が進んで行きます。第一主題の二回目の再現も深みがありません。クライマックスへ向けてテンポを速めてクライマックスで元のテンポに戻しました。クライマックスは打楽器も効果的で壮大なもので素晴らしかったです。コーダはたっぷりと濃厚な表現でした。

四楽章、第一主題の色彩感が乏しく、モノトーンのような感じがします。第三主題はテンポも動いて、切迫感を感じさせるものでした。ホルンが激しく咆哮する「死の行進」。テンポはよく動いています。コーダの冒頭は霧の中から聞こえてくるような幻想的な雰囲気がとても良かったです。コーダでテンポが動きます。

テンシュテットらしい作品への没入が感じられない演奏で、残念でした。

ピエール・ブーレーズ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ブーレーズ★★
一楽章、表情豊かに大きく歌う第一主題。響きが少し緩んだ感じがする第二主題。トゥッティはあまり大きなエネルギーを感じません。豊かな残響でとても巨大な「死の予告」。

二楽章、速いテンポで軽く演奏される主要主題。響きが豊かなのですが、その分音の密度が薄れていて、色彩感も薄い感じがします。中間部も密度の薄い音で淡々と流れて行きます。響きが豊かなのに深みや奥行き感がありません。

三楽章、適度に歌う第一主題A1。A2も感情が込められた歌なのか、ブーレーズの昔のイメージとは違う表現です。チェロのB1は淡々としていますが、やはり音の密度が薄いです。ウィーンpoらしい凝縮された濃厚な色彩感は表現されません。トゥッティは音が拡散して力が集中しません。シンバルと共に登場するトランペットは高らかに伸びやかで強烈な演奏でした。

四楽章、フワッとしていますが、厚みのある響きで躍動感のある第一主題。第二主題も第三主題も動きが強調されているようで、とても活発です。「死の行進」はモワーッとした響きの中からトランペットが響いて来ます。再現部の前の巨大なクライマックスですが、木目の粗い響きがとても気になります。巨大な響きのコーダでしたが、膨張した響きでこの演奏を象徴するような締まりの無い最後でした。

教会での録音のようですが、残響が多く響きが緩んで木目の粗い芯の無い響きになってしまいました。密度が薄く濃厚な色彩感のウィーンpoの特徴を殺してしまっているような感じがしました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー