カテゴリー: ブルックナー:交響曲第5番名盤試聴記

ブルックナー 交響曲第5番

ブルックナーの交響曲第5番は、「対位法の壮麗な大聖堂」とも称される、荘厳で複雑な構造を持つ作品です。彼の交響曲の中でも特に独特な形式美と精神性があり、聞く人に深い印象を与えます。この曲は、彼の作曲技法や精神性が集大成されたものとも言えます。

1. 第1楽章:Adagio – Allegro

静かに始まる序奏で、ブルックナーらしい宗教的な神秘性が漂います。ゆっくりとしたテンポで、厳かな空気が広がり、やがて力強い主部が展開されます。ここでは、対位法的な要素が現れ、さまざまなテーマが絡み合いながらドラマチックに進行していきます。内省的でありながらも、希望と力強さを感じさせる楽章です。

2. 第2楽章:Adagio

ブルックナーの交響曲の中でも特に美しいとされるアダージョ楽章です。静かで穏やかなメロディが心に深く響き、ブルックナーの宗教的な敬虔さが表れています。各楽器が対話するようにメロディを紡ぎ、感情が徐々に高まっていくのが印象的です。重厚で、壮麗な響きが全体を包み、崇高な雰囲気を醸し出します。

3. 第3楽章:Scherzo – Molto vivace (Schnell)

このスケルツォ楽章は、活力に満ちたリズムと印象的なテーマが展開されます。田園風の趣があり、どこか牧歌的な雰囲気も感じさせますが、その一方で力強さも持っています。特にリズムの変化や複雑な構造が特徴で、まるで舞曲のように進んでいきます。ブルックナー特有のユーモアや、豊かなリズム感が楽しめる楽章です。

4. 第4楽章:Finale – Adagio – Allegro moderato

最終楽章はこの交響曲の真髄で、対位法が複雑に駆使され、様々なテーマが壮大に織り成されます。まさにブルックナーの作曲技法の頂点を示す内容で、楽章の終盤に向かって緊張感とエネルギーが増し、壮麗なクライマックスへと到達します。楽曲全体のテーマが回帰し、荘厳な響きで力強く閉じられます。このフィナーレは、ブルックナーが音楽を通して祈りを捧げるような崇高な雰囲気を醸し出しています。

全体の印象

交響曲第5番は、ブルックナーが構築した「音楽の大聖堂」とも言える作品です。厳かな宗教性と、彼独特の対位法的な手法が際立ち、重厚で荘厳な音楽が聴き手を圧倒します。

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第5番名盤試聴記

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、はっきりとしたコントラバスのピツィカート。序奏も極めて現実的な響きです。金管のコラールの最後をデクレッシェンドしました。一体感があってとても良いアンサンブルの第一主題。トゥッティでは金管の見事な響きを聞くことができます。強弱の変化に富んだ第二主題。木管楽器がロウソクの炎が次々と燃えるように浮かびあがります。第三主題もオケに一体感がありとても緻密なアンサンブルです。遠くから響くようなホルンも美しい。トゥッティの響きは本当にすばらしい美しさです。コーダで演奏される第一主題でティンパニがクレッシェンドしました。見事な響きで輝かしく第一楽章を終えました。

二楽章、深みのある弦のピツィカート。とてもゆっくりと演奏されるオーボエの主要主題。ブルックナーの「非常にゆっくりと」との指定に沿うのもなのか。沈み込んで行くクラリネット。広々と広がる草原をイメージさせるような副主題。頂点でも広大な雰囲気でした。このテンポの遅さには惹かれるものがあります。ミュンヘンpoもこの遅いテンポにも全く乱れることなく演奏を続けています。頂点でトランペットのクレッシェンドやホルンの咆哮など濃厚な色彩が美しい。

三楽章、第一主題の大きなクレッシェンド。ゆったりとした第二主題。途中から激しいアッチェレランド。シルキーで滑らかな弦が美しい。テンポはかなり大きく動いています。ライヴでもノーミスで緻密なアンサンブルを聴かせてくれるミュンヘンpoの技術も凄いです。テンポが遅いのでいろんな音が聞こえてきます。

四楽章、ゆっくりと演奏されるクラリネット・ソロ。二楽章の第一主題も非常にゆっくり演奏されます。第一主題もゆっくり目です。透明感のある第二主題も遅めのテンポで演奏されます。凄く力強いティパニの打撃から始まった第三主題。金管のコラールは二つ目の音を弱く演奏しています。トゥッティでのブラスセクションは良く鳴ります。コーダでも圧倒的な輝かしい響きです。

ゆったりとしたテンポで密度の高い音楽を最後の圧倒的なコーダへと運ぶ音楽はすばらしいものでした。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、深みのあるコントラバスのピツィカート。柔らかい序奏。すごくバランスが良く美しい金管のコラール。美しい上に色彩感もとても豊かです。第一主題の表情も豊かです。すばらしい厚み、トゥッティではトロンボーンも聞こえてきますが、とてもきめ細かい響きでとても美しい!オケの格の違いを見せ付けられます。明るく伸びやかな第三主題も濃厚で美しい。展開部の手前の弦のトレモロに強弱の変化がありました。楽器の呼応が有機的に結びついており、生命感に溢れた演奏です。展開部、再現部ではテンポの動きもあります。特に再現部ではこれまで演奏してきた主題を印象付けるようにゆったりとテンポを落として演奏します。コーダの入りは少しテンポを速めましたが、第一主題が完全な形で現れる部分ではテンポを落としました。そして終結に向けてテンポを速めて終りました。

二楽章、歌うオーボエ、バックの弦のピツィカートも積極的に強弱の変化を付けています。深々とした弦の副主題。うねるように頂点に登りつめます。再現される副主題が心を開放してくれるように優しく奏でられます。オケに一体感があってとても美しい。トロンボーンのコラールも控え目ながら美しい響きでした。

三楽章、第二主題に入ってもそんなにテンポは落とさずに演奏しています。展開部の第二主題はテンポを落としてゆったりと演奏しました。ティンパニが効果的に強弱の変化を強調します。テンポの変化も絶妙で音楽に酔いしれることが出来ます。

四楽章、幻想的な雰囲気の序奏。控え目で美しいクラリネット。分厚い響きの第一主題。軽快に踊るような第二主題。速めのテンポで演奏される第三主題。続く金管の強奏も柔らかく美しい。最初の頂点は控え目で柔らかい響きで頂点の最後はテンポを落としました。突然音量を落としたりする部分もあり驚かされます。トゥッティの重厚なクライマックスはすばらしい響きです。圧倒的ですが、すごく美しい響きに驚かされます。

一貫して美しい響きで、トゥッティでも重厚で圧倒的なクライマックスがすばらしい演奏でした。

朝比奈 隆/東京交響楽

朝比奈★★★★★
一楽章、弱く深みのあるコントラバスのピツィカート。すごく神秘的な弦の弱奏。バランスの良い金管のコラール。微動だにせずインテンポでがっちりと音楽を作って行きます。歌う第一主題。自然の妖精が戯れるような静寂感のある第二主題。深い響きが印象的な第三主題ですが、ホールの関係か少しくすんだような響きで色彩感には乏しい演奏になっています。トゥッティでも金管の響きは美しい。

二楽章、自然な抑揚のオーボエの主要主題。深い響きの副主題。力みがなく自然に頂点へと盛り上がる演奏。どっしりと構えたテンポと必要以上に強奏させない金管がとても安定した感覚を与えます。木質系の暖かみのある響きで、トゥッティでも柔らかい響きです。

三楽章、速めのテンポで始まりました。テンポを落としてゆったりと第二主題。高揚に伴ってテンポが速くなります。色彩感には乏しいですが、自然体で堂々とした安定感のある演奏です。金管はかなり強奏していますが、音は荒れることがなく、バランスの良い美しい響きです。テンポの変化も自然で違和感がなく安心して音楽に身をゆだねていることができます。十分に自然を感じさせる音楽です。

四楽章、ここでも幻想的な序奏が再現されます。ゆったりとした第一主題はコントラバスの音にあまり力がありませんでした。祈りのような美しい金管のコラール。どっしりとして動かないテンポが曲に重量感を与えています。金管の強奏も突き抜けて来ることはなく、バランスの良い演奏です。コーダの最後もとても美しい響きでした。

どっしりと構えてスケールの大きな演奏はとてもすばらしいものでした。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★★
一楽章、森の中に霧が立ち込めるような柔らかく伸びやかな序奏。金管も伸びやかでダイナミックレンジが広いです。豊かに膨らむ第一主題。伸びやかな金管のトゥッティはとても美しいです。静かに戯れるような第三主題。サラッとしたキレの良い音でブルックナーにしては重量感が足りないかも知れませんがとても良い音で鳴っています。テンポは速めですが、快速と言う感じです。

二楽章、伸びやかで泉が湧き上るように豊かな副主題。複雑な響きもとても整理されていてスッキリと響きます。

三楽章、とても活動的で強いエネルギーの第一主題。優雅な第二主題。金管は強いですが、音放れが良くとてもキレのある響きです。コーダはかなり激しいです。

四楽章、ザクザクと爪あとを残すように刻まれる第一主題。軽いですが、美しい第二主題。ティンパニが深い響きですが、金管の明るくスッキリとした響きが爽快な第三主題。コラールもとても良く鳴っていて気持ちの良い響きです。展開部のフーガも重なり合う旋律がくっきりと浮かび上がり見事です。実演で聞ける伸びやかな響きがかなり再現されていてとても美しいです。コーダでは多層的に絡み合う楽器がそれぞれ伸びやかに圧倒的なクライマックスを築きます。

伸びやかで美しく柔らかい響き。低域の分厚い響きはありませんが、輝きのある圧倒的でスッキリと音離れの良い演奏は見事でした。
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ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

アーノンクール★★★★★
一楽章、かなり現実的で実在感のある序奏。大きなエネルギーで力強い金管のコラール。大きな表現で歌う第一主題。第二主題も積極的に表現しています。第三主題も波打つように増減します。展開部に入って美しいホルンのハーモニーや柔らかくなったり鋭くなったりと変化するフルート。遠慮なく襲い掛かってくる金管。ダイナミックの変化の幅はとても大きいく充実した美しい響きです。

二楽章、弦のピツィカートもオーボエの主要主題も大きく音量を変化させて歌います。厚みがあって豊かに湧き上がるような副主題。それぞれの楽器がくっきりと浮かび上がり、とても美しいです。弱音部の美しさと金管の激しさの対比も見事です。

三楽章、速めのテンポで豊かな表現の第一主題。第二主題は大きく構えてダイナミックです。三拍子ですが、とても力強い足取りの演奏です。中間部は豊かでチャーミングな表情です。美しく豪快に鳴り響く金管もとても魅力的です。

四楽章、第一楽章同様に実在感のある序奏です。on、offのはっきりとした第一主題。アクセントと抜くところの変化があり、明快な表現です。活発な動きで軽快な第二主題。どっしりとしていますが、かなり強い第三主題。金管のコラールはまろやかで充実した響きで美しいです。ウィーンpoらしい一体感があり、しかも濃厚な美しい色彩を失わない演奏は見事です。広大なスケールのコーダです。

ウィーンpoの美しい響きと豊かな表現の歌のある演奏でした。四楽章の広大なスケールのコーダも見事でした。
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ジュゼッペ・シノーポリ/シュターツカペレ・ドレスデン

シノーポリ★★★★★
一楽章、とても柔らかいですが、実在感のある序奏。トゥッティも金管のコラールもとても柔らかいです。第一主題もとても柔らかいです。トゥッティは雄大で金管はかなり余力を残した美しい響きです。伝統あるオケにある程度任せたような自然体の演奏で、誇張された表現はありません。金管は全開ではありませんが、熱気を感じさせる演奏です。

二楽章、感情が込められて非常に美しく振幅も大きな主要主題。しみじみとした深みのある副主題。この副主題も非常に美しいです。途切れることなく湧き上ってくるような豊かな音楽です。六連符の上に乗る主要主題はすごく遅いテンポで濃厚に演奏されます。コラールはうねる海の中で揺られるような壮大なものです。

三楽章、ダイナミックで濃厚な第一主題。効果的なテンポの動き。一転して穏やかな第二主題。前のめりで積極的な表現の演奏です。

四楽章、柔らかく溶け合って美しい序奏。第一主題もガツガツと引っかかることなくなだらかで美しいです。軽快ですが、洗練されて美しい第二主題。豊かにあふれ出すような第三主題。強烈な炎を吹き出すような熱気ではありませんが、ジワジワと熱さが伝わってくるような演奏です。軽々と伸びやかに鳴り響くトゥッティ。壮大で圧倒的なコーダ。

自然体の演奏でしたが、二楽章の六連符に乗る主要主題の非常に遅いテンポなど独自の表現もありました。シュターツカペレ・ドレスデンの非常に美しい響きを見事に生かした演奏には心から満足しました。
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ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

ケンペ★★★★★
一楽章、とても鮮明でキリッとした序奏。枯れた響きの金管。大きな表現で躍動する第一主題。ブルックナーらしく自然を感じさせる第二主題。金管が咆哮するような荒々しさはありませんが、自在なテンポの動きもあり、ゆったりとした部分やアッチェレランドの緊張感など、多彩な表現です。

二楽章、余韻を伴って少し遠くから響くようなオーボエの主要主題。とうとうと流れるような副主題。トランペットやトロンボーンは神々しいです。

三楽章、第一主題も第二主題も躍動感があって強いエネルギーで迫って来ます。金管は決して咆哮しませんが、音楽に強い推進力があって、ケンペの演奏にしては、攻撃的で鋭い刃物で切られるような迫力です。

四楽章、コントラバスが強めで重量感のある第一主題。第三主題でも決して絶叫はしません。とても抑制の効いた演奏です。美しい金管のコラール。モノトーンの濃淡だけで描かれているような色彩感ですが、統一感のある美しい演奏です。熱っぽく壮大なコーダ。

自在なテンポの動きと、決して絶叫しない余裕のある美しい響きで壮大なクライマックスを築き上げる演奏でした。モノトーンの統一感ある響きも素晴らしいものでした。
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リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

シャイー★★★★★
一楽章、フワフワと漂うような序奏。豊かな残響と深みのある濃厚な色彩。緻密でしかもスケールの大きな第一主題。憂鬱な第二主題。明るく日が差すような第三主題。透明感が高く清涼感のある美しい演奏です。コーダでも全開にはならず余裕のある美しい響きです。

二楽章、キッチリと整ったアンサンブルを聞かせる主要主題。分厚く深みのある副主題。瑞々しさをたたえた美しい演奏です。とても情報量が多くいろんな音が聞こえて来ます。六連符に乗って演奏される主要主題はとてもゆっくりと演奏されます。その後登場するトランペットは熱気をはらんだ演奏です。

三楽章、豊かな響きで美しい第一主題。第二主題も潤いがあって美しいです。かなり金管が強烈に演奏していますが、残響を伴っているのであまり激しく聞こえません。

四楽章、ここでも漂うような柔らかい序奏。第一主題も伸びやかで柔らかいです。第三主題は余裕のある広々とした響きです。。作為的な表現は無く、作品と正面から向き合っているような演奏です。金管のコラールも美しいですと、その後に続く弦もとても厳粛です。バランス良く美しく鳴り響くオケ。コンセルトヘボウの美しさを最大限に引き出した演奏で、見事です。

小細工無しにコンセルトヘボウの美しさを最大限に引き出したバランスの良い演奏は見事でした。
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フランツ・ウェルザー=メスト/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★★★
一楽章、幽玄な雰囲気の序奏。巨大なスケールのトゥッティ。豊かな残響を伴って大きく歌う第一主題。第二主題のピィツィカートも柔らかく美しいです。ヴァイオリンのほの暗く沈んだ表現もとても良いです。第三主題は少しテンポを速めて積極的に表現します。その後の盛り上がりもスピード感があります。展開部に入っても色んな音が有機的に結びついて生命感に溢れています。オケも整然と鳴り響きます。とてもロンドンpoだとは思えないような渾身の演奏です。第一主題の再現はかなりテンポが速いです。コーダも豪快に鳴り響く金管とティンパニの激しいクレッシェンドと聞き所もたくさんあります。

二楽章、オーボエの主要主題の最後にピィツィカートが大きくクレッシェンドしました。大河の流れのように豊かな副主題。金管も瑞々しく伸びやかで非常に美しいです。二度目の副主題は一度目よりも柔らかく伸びやかに歌います。オケも献身的で積極的な演奏を展開しています。

三楽章、緊張感のあるテンポの動きの第一主題。大胆で豪快な金管の咆哮。透明感があって美しい中間部。敏感なオケの反応。この楽章でも最後にティンパニが強烈なクレッシェンドをしました。

四楽章、控えめで薄い第一主題。第二主題はテンポが速く颯爽と進みます。コラールも速めのテンポで力強いです。清涼感があって快速で壮大なフーガ。速いテンポの中で豪快に鳴り響く金管のすさまじい演奏です。

基本的に速めのテンポで颯爽と進む演奏で、オケも豪快に鳴り響く力強く積極的な表現の演奏はとても魅力的でした。
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クルト・マズア/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

マズア★★★★★
一楽章、比較的大きな音量で実在感のある弦の序奏。金管は奥まっています。柔らかく丁寧に演奏される第一主題。盛り上がる部分ではテンポを落としました。第二主題は微妙な表情が付けられています。ゆったりとしていて豊かな表情の第三主題。分厚いピラミッド状の柔らかいトゥッティ。ゆったりとスケールの大きな演奏にオケの渋い響きがマッチした良い演奏です。

二楽章、淡々と演奏される主要主題。深みのある副主題。やはりオケの渋い充実した響きはとても魅力的です。二度目の副主題も非常に美しいです。トランペットの主要主題も遠くから伸びやかで穏やかです。

三楽章、弦の刻みの中を浮遊するような木管の第一主題。一転してのどかな第二主題。さらにテンポを落として音量を上げながらテンポを速めて高揚します。ゆっくりから少しずつテンポを速める部分は絶妙でとても良いです。

四楽章、この楽章でも第一楽章と同じで大きめの音量で実在感のある弦。クラリネットは突出せず弦から少し浮き出す程度です。落ち着いたテンポで穏やかな第一主題。チャーミングに動く第二主題。ゲヴァントハウスの柔らかく懐の深い響きに魅了されます。奥深いところから熱っぽく響いてくる金管もとても魅力的です。第二主題の再現はゆったりととても伸びやかで美しいです。オケの美しい響きと、ゆっくりと丁寧な歩みはとても心地良いものです。余裕があって雄大なコーダ。

あまり期待していなかったのですが、オケの非常に美しい響きと、ゆったりとしたテンポを基調にして、絶妙なテンポの動きのある演奏はとても充実していました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/BBC交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★★
一楽章、実在感のある冒頭。トゥッティは金管が奥まっていて広い空間を感じさせるスケールの大きな響きです。速いテンホですが豊かな起伏のある表現の第一主題。第二主題の弦のピィツィカートも強弱の変化が大きく積極的な表現です。硬いマレットのティンパニもとても良い響きで演奏を後押ししています。

二楽章、速めのテンポで濃厚な表現の主要主題。深々とした響きの副主題。ホーレンシュタイン独特のゴリゴリとした硬質な響きですが、雄大なトゥッティです。金管が鳴り響く夜空にヴァイオリンがキラキラと輝く星のように美しいです。

三楽章、舞うように活発な第一主題とは対照的にどっしりと落ち着いた第二主題。弱音も集中力が高く強い緊張感を感じさせます。軽快でチャーミングな中間部。最後は遠慮なくドカーンと入るティンパニと硬質で強くく鳴り響く金管が見事です。

四楽章、浮遊感のある弦に溶け込むようなクラリネット。重量感があって重い足取りの第一主題。軽快で優しい第二主題。ライブですが、オケの状態がとても良かったのではないかと思います。非常に充実した演奏です。コーダもとてもスケールの大きな演奏です。

作品と正面から向き合った堂々とした演奏でした。硬いマレットのティンパニがとても良い音でした。オケの状態もとても良かったようで、充実した演奏は見事でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第5番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第5番名盤試聴記

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、重いコントラバスのピツィカート。かなり現実味のある序奏です。若干のアンサンブルの乱れはありますが、輝かしい金管。かなり凄い集中力が音にこもっているような凄味を感じさせる演奏です。第二主題の弦のヒツィカートにも集中力を感じさせます。第三主題はゆったりとしたテンポで伸びやかです。金管のコラールは不安定な感じでした。再現部の第二主題はテンポを落としました。コーダはテンポを速めています。コーダのティパニのロールは突然奏者が目を覚ましたかのように強烈でした。

二楽章、遠くから響くようなオーボエの主要主題。バックの弦のピツィカートも一音一音刻み込むように強い力を持っています。柔らかく美しい弦の副主題。この時代の日本のオケの技術水準は現在のレベルには比較にならないほど劣っていたと思うのですが、この演奏からはそのような未熟さは感じさせません。すばらしい集中力で聴き手を引き込みます。テンポも動いてとても積極的に音楽を奏でています。物悲しい主要主題の雰囲気もよく表しています。

三楽章、ゆったりとしたテンポで開始しました。音楽の高揚に伴ってせきたてるようにテンポが速くなります。演奏に熱が入って来たのか、金管が最初に比べるとかなり強く吹くようになってきました。第二主題になってもそんなに極端にテンポを落としていません。朝比奈の晩年のインテンポとは違うテンポの動きが音楽を生き生きとさせています。また、高い緊張感を維持してすごい集中力です。展開部の第二主題はテンポを落として演奏しています。

四楽章、ゆったりとしたテンポの第一主題。軽快で美しい第二主題。テンポは微妙に動いています。この楽章の半分を過ぎたあたりから金管がかなり強く吹くようになります。再現部のクライマックスは朝比奈らしい巨大なスケール感が見事です。コーダは少しテンポを落として壮大なスケールで曲を閉じました。

すばらしい集中力と一音一音刻み込むような力のこもった演奏はすばらしいものでした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン交響楽団

カラヤン★★★★☆
一楽章、録音は古いですが、幻想的な序奏。情熱的な金管。厚みがあってたっぷりと歌う第一主題。第三主題もとても豊かな表現です。テンポの動きもあり濃厚な演奏です。

二楽章、熱気があって歌う主要主題。厚みがあって大きな川の流れのような副主題。カラヤンらしいレガート奏法で表面が滑らかで美しい演奏です。

三楽章、速いテンポで疾走感のある第一主題。一転してゆったりと舞うような第二主題。ライヴでの疾走感はカラヤンならではのものです。ただ、アンサンブルはあまり良くありません。

四楽章、ゆっくりですが、荒げることの無い第一主題。クライマックスでも全開にはなりません。コラールはゆっくりと心に染み渡るような響きです。テンポの動きで感情が高まります。かなり熱気のあるコーダで大きな盛り上がりです。

感情のこもった濃厚な表現の演奏で、テンポの動きもありましたが、アンサンブルの乱れが何度もあり残念でした。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★★☆
一楽章、弱音でフワーっとした柔らかい序奏。清々しく爽やかな金管。静寂感の中に響く第一主題。少し温度感が低く少し距離が離れて聞いている感じです。少し日が差し込んだような第三主題。風の中で自然を感じるような展開部。とても爽やかに鳴り響くコーダ。あまりに爽やかで厚みを感じさせない響きは、あまりブルックナーを感じさせません。

二楽章、速めのテンポでさくさく進む主要主題。この楽章でも爽やかな弦。深みがあって流れるような副主題。包み込むように柔らかい響き。とても端正で細部まできっちりと鳴っている演奏です。生き生きとした木管が豊かな生命感を感じさせます。トランペットやトロンボーンは余裕たっぷりの柔らかく美しい演奏です。

三楽章、活発に動く第一主題。吠える金管が整然としていますが、激しいです。中間部もくっきりとした克明な動きの表現です。とても明晰でいろんな楽器の動きが克明に聞こえて来ます。

四楽章、全く力みが無く穏やかに演奏される第一主題。第二主題も軽く美しいです。金管のコラールは豊かな残響を伴ってバランスも良く美しい響きです。とても美しいのですが、ブルックナーにしては鮮烈な響きです。美しく伸びやかに鳴り響くトランペット。コーダの前はテンポが速くなりました。コーダは分厚い低域の響きはありませんが、伸びやかに鳴り響きます。

豊かな残響と美しい響きで明晰な演奏でした。ただ、ブルックナーらしい分厚い低域に支えられたものではなく、僅かに鋭い響きになっていました。
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ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、弱音で始まった低弦のピツィカート。比較的現実的な冒頭。長い残響を伴って巨大な金管のコラール。大聖堂に響き渡る長い響きが美しい。第一主題も伸びやかです。続く第二主題も美しい響きを伴って伸びやかです。木管にも潤いがあって美しいです。トゥッティでも響きが大聖堂に拡散して行くようで、こちら側に強いエネルギーになって伝わっては来ません。この豊かな残響を聞いているとブルックナー・パウゼの意味も理解できます。ブルックナー自信もこのような環境の中で、オルガンを演奏し、作曲のイメージを膨らませていたのかも知れません。この響きに浸かっているのも気持ちが良いです。パーテルノストロは強い個性を主張することもなく、楽譜に書かれていることを忠実に音にしているようです。

二楽章、速めのテンポでオーボエが自然で美しい主要主題を奏でます。弦楽合奏の副主題も深みのある響きで音楽に浸ることが出来ます。副主題の再現は控え目でサラッとしています。コントラバスが深く厚みのある響きで全体を支えています。やはり、トゥッティで音が拡散してしまって、エネルギーがこちらに伝わって来ないのが、この曲の男性的なイメージとは若干違うような感じがします。

三楽章、冒頭からトゥッティに至るまで少しアッチェレランドしました。トゥッティの後に残るもの凄い残響。第二主題は極端なテンホの変化ではなく、僅かにテンポを落とした程度です。長い残響にマスクされて細部は聞き取れませんが、この響きは気持ちが良い。くせになりそうな響きです。このままずっと浸っていたい気持ちにさせてくれます。編成はそんなに大きくないようですが、トゥッティでは残響を伴って巨大な響きになります。演奏には恣意的な部分は全く無く、ブルックナーが書いた楽譜を信じ切って演奏しているかのようです。

四楽章、深い霧の中から聞こえるような第一楽章の序奏の再現。豊かな残響を伴って美しいクラリネットとオーボエ。可憐な表情の第二主題。伸びやかな金管のコラール。遠くから聞こえてくるようなホルンのソロ。コーダからは分厚く巨大な響きに遠くの山からこだまするようなホルンの強奏が聞こえます。

この曲らしい男性的な演奏ではありませんでしたが、豊かな残響が作り出す独特の雰囲気がとても魅力的な演奏でした。パーテルノストロも曲をストレートに表現した演奏に好感が持てます。

朝比奈 隆/シカゴ交響楽団

朝比奈★★★★
一楽章、デッドなホールでも力強くバランス良く鳴り響く金管。いつものように自然体な第一主題。見事な一体感のある響きの演奏ですが、あまりにもデッドなホールで奥行き感が感じられず、ブルックナーらしい深みのある響きにはなりません。金管のきめ細かい響きでシカゴsoらしい鋭い響きです。

二楽章、あくまでも自然体で大きく歌うことの無い主要主題。広々とした副主題。緻密なアンサンブルや輝かしい金管はさすがにシカゴsoだと思わせます。

三楽章、あくまで自然体な第一主題。穏やかですが、切れ込むように鋭い第二主題。

四楽章、とても自然で作品そのものに語らせるような表現ですが、ブルックナーの演奏には残響が短過ぎます。第三主題も堂々としたものですが、厚みのある響きでは無く少し腰高な感じになります。コラールも見事な響きです。コーダもクールな響きでした。

いつもの朝比奈の自然体の演奏でしたが、ホールの音響特性の問題か、デッドで深みの無い響きで、クール感じる演奏でした。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、重い低弦のピィツィカート。多層的に広がる弦。遠くから響く金管。トランペットがマルカートぎみに演奏します。第一主題の前の高揚する部分はゆっくりとしたテンポで頂点に入る前にはタメもありました。いつものように淡々とした第一主題。緩やかで雄大な第二主題。どっしりとしていて頑として動かない強固な演奏です。予想外に軽いコーダ。

二楽章、感情が込められ豊かに歌う主要主題。瑞々しく深みのある副主題。変化に動じることなく一貫した表現で貫かれています。金管はここでも軽いです。

三楽章、活発で生き生きとした第一主題。テンポを落としてゆったりと演奏される第二主題。クレンペラーにしては積極的な表現です。少しアンサンブルが乱れてもテンポを動かして粘っこい表現をします。最初は落ち着いて軽く演奏していた金管がかなり力を発揮するようになって来ました。

四楽章、一音一音刻み付け目ように物凄く遅い第一主題。第二主題もゆっくりです。サラサラと流れるように美しい弦。かなり強く演奏される第三主題ですが、何故か密度が薄く軽い感じがします。コラール主題に基づくフーガもとても落ち着いています。決して音楽が前へ進もうとはしません。コーダでもかなり強く演奏する金管ですが、燃え上がるような熱気はありません。

テンポが大きく動く部分もありましたが、基本的にはとても落ち着いた表現で、熱気のある演奏ではありませんでした。
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朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈★★★
一楽章、低弦のピツィカートに幻想的に乗っかる、ヴィオラとヴァイオリン。金管のコラールは若干のミストーンもありました。巨大なトゥッティがスケールの大きさを物語ります。クラリネットの音には艶やかさがありません。残響成分をあまり含んでいない録音なのか、生音がビンビン響いてきます。トゥッティの金管のエネルギー感はすごいです。わずかに雑な感じを受けました。

二楽章、非常にゆっくりと演奏されるオーボエの主題が伴奏の弦のピツィカートに合わせようとして不自然な演奏になっています。わずかにザラッとした弦の副主題。低域が豊かなのでトゥッティの充実した豪快な響きは見事です。

三楽章、テンポの変化が大きく、トゥッティでの金管が力強く鳴り響きます。テンポを落とした部分は非常にゆったりと田舎の田園風景を思わせるのんびりした感じです。一方でティンパニや金管の豪快な鳴りは凄いです。

四楽章、幻想的な冒頭。艶のないクラリネットが主題の動機を演奏します。チェロとコントラバスの第一主題はちょっと混沌とした雰囲気でした。力強い第三主題ですが、アンサンブルがきちんと揃っていないようで、少し雑に聞こえます。重量感のあるフーガ。再現部でも豪快に吹き鳴らされる金管ですが、少し汚い。第三主題の再現ではかなりテンポを上げました。コーダ手前のクライマックスからはテンポを落として壮絶な咆哮です。

豪快で男性的な演奏でしたが、アンサンブルの乱れなど、雑な印象でした。

ヘルベルト・ケーゲル/ライプツィヒ放送交響楽団

ケーゲル★★★

一楽章、倍音成分が少なめで強い音の序奏。強烈な金管の咆哮。切迫するようにテンポが動きます。大きく歌う第一主題。ふくよかな第二主題。第三主題は速いテンポで、激しく動きます。トランペットがかなり強い音で演奏されています。

二楽章、感情を込めて豊かに歌う主要主題。ビリビリと強い音で響く金管。

三楽章、第一、第二主題とも速いテンポで駆け抜けるようです。ブルックナーらしい暴力的なスケルツォです。元気でアタックも強い金管。動きが克明で濃厚です。

四楽章、克明で実在感のある序奏。ゆったりとフワッとした第一主題。金管は相変わらず強くちょっとジャリジャリとした響きです。第二主題は少しザラついた感じです。第三主題もとても力強いです。コラールは少し雑な感じがします。かなり汚く強烈なトゥッティ。コーダの前のクライマックスはテンポも速くなり金管の遠慮無い強奏が下品に感じます。

とても人間臭い演奏でした。強烈で硬質な金管が時に下品なくらいの咆哮をしました。力強い演奏の魅力はありましたが、神を感じさせるような演奏ではありませんでした。
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アレクサンダー・ラハバリ/ブリュッセル・フィルハーモニック

ラハバリ
一楽章、速めのテンポで強めのビィツィカートに弱い弦のアルコが乗ります。金管は控えめで柔らかいです。とてもソフトでフワッとしていて、ゴリゴリと力で押してくるような演奏ではありません。とても丁寧な演奏ですが、マーラーの4番でも感じたような置きに行くような全力投球の演奏ではない感じがします。どこかよそよそしく鳴る金管。荒々しく咆哮するようなことは全くありません。

二楽章、柔らかく美しい主要主題。弦も全く力みの無い美しい演奏です。ゆっくりと非常に強く感情が込められた副主題。全く荒ぶれることの無い金管。響きが整理されていて、とてもスッキリとしています。ブルックナー独特の多層的な響きがほとんど聞こえません。最後もすごく遅いテンポです。

三楽章、全く荒立てない第一主題。とても柔らかく全開には程遠い金管。中間部ではテヌートぎみに演奏する木管。ラハバリは全開の激しい演奏を極力避けて柔らかくマイルドな演奏に徹しているようです。

四楽章、特別に浮き立つことの無いクラリネット。第一主題はとてもソフトです。サラサラと心地良い響きの第二主題。第三主題はかなり余力を残して控えめですが、その分弦の動きなどは良く分かります。金管のコラールはテヌートぎみで柔らかく演奏されます。コーダもとても軽く普通に演奏されるような熱気のある全開の演奏ではありません。

全く全開になることは無く、とても軽い演奏でした。美しさはありましたが、ブルックナーらしいオケが一体になってぶつかってくるような感じは全くありませんでした。
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