カテゴリー: ブルックナー交響曲第1番名盤試聴記

ブルックナー交響曲第1番

ブルックナーの交響曲第1番は、彼が本格的に作曲家としての活動を始めた時期に完成した、エネルギーに満ちた作品です。この交響曲は1866年に初演され、その後も改訂が重ねられたため、複数の版(リンツ稿やウィーン稿など)が存在します。ブルックナーにとって、この交響曲第1番は、独自の交響曲スタイルを模索する重要なステップであり、後の大規模な交響曲への道を開くものでした。

交響曲第1番の特徴と楽章構成

この交響曲は4つの楽章から構成され、ブルックナー特有の荘厳さや力強さ、緊張感が感じられる一方で、彼が当時の伝統的な交響曲の形式に影響を受けながらも、自身の個性を出そうとしている意欲が見て取れます。

  1. 第1楽章:モデラート
    第1楽章は、ブルックナー特有の荘厳で堂々とした序奏で始まります。この楽章では、ブルックナーの特徴的なオスティナート(繰り返しのリズム)が使われ、旋律の発展や転調が続きます。緊張感が高まりつつ、時折柔らかな音色が現れることで、構成の中に変化が生まれています。
  2. 第2楽章:アンダンテ
    第2楽章は、静かで抒情的な性格を持ち、ブルックナーの深い信仰心や精神的な側面が表れているともいわれます。緩やかで美しい旋律が展開され、安らぎと憂いを感じさせます。ブルックナーが得意とする、繊細で純粋な表現が感じられる楽章です。
  3. 第3楽章:スケルツォ(急速)
    第3楽章は、力強くダイナミックなスケルツォで、ブルックナーのエネルギッシュな一面が際立ちます。ここでは舞曲的なリズムが特徴的で、強いアクセントと急速なテンポが印象的です。トリオ部分では、リズムが一転して穏やかになり、明るい対照が生まれます。
  4. 第4楽章:フィナーレ(ベーヴェグト)
    最終楽章は、壮大で力強いフィナーレです。ここでは緊張感と劇的な展開が続き、ブルックナー特有の荘厳さが感じられます。主題が発展していく中で、さまざまな感情が絡み合い、最後には堂々とした終結に至ります。

全体の印象と位置づけ

ブルックナーの交響曲第1番は、彼が後に発展させていく独自の交響曲スタイルの萌芽が見られる作品です。後の交響曲に比べて規模や構成はやや控えめですが、ブルックナー特有の音楽的な要素、たとえば重厚な響きや宗教的な荘厳さ、豊かなハーモニーが随所に感じられます。

当時の音楽界で独自の位置を築こうとするブルックナーの試みが、この交響曲第1番には込められており、後に続く彼の「交響曲の道」を開く重要な役割を果たした作品です。そのため、後の大規模な交響曲群とともに、この第1番もまた彼の成長を知るうえで欠かせない作品となっています。

4o

マルクス・ポシュナー/リンツ・ブルックナー管弦楽団

★★★★★

一楽章、鮮明で、左右一杯に広がるオーケストラ。生き生きと歌う木管。第二主題も豊かに歌います。第三主題は少しリミッターがかかったように控えめでした。展開部ではテンポを落として濃密な表現の部分もありました。あまり書か慣れない音が聞こえたり中々個性的な演奏です。コーダも非常にゆっくりとしたフルートとチェロの後に加速して終わりました。

二楽章、重量感のある主要主題。静寂感があって、その中に伸びやかに響く楽器がとても良いです。第二主題も柔らかく美しい。

三楽章、スピード感のある主部。とても鮮明な中間部。テンポの動きもあってとても良い演奏です。

四楽章、速めのテンポの第一主題。第三主題の前はまさに「火のように」でした。穏やかな部分と激しい部分の振幅がとても大きいです。混然一体となったコーダ。
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パーヴォ・ヤルヴィ/hr交響楽団

★★★★★

一楽章、遠くから柔らかく響く第一主題。清々しい第二主題。N響との演奏よりも落ち着いています。速めのテンポで快活な第三主題。木管が豊かな表現をしています。トゥッティはとても充実した響きで素晴らしいです。

二楽章、筋骨隆々な主要主題。潤いがあって色彩感も濃厚です。ピンポイントで美しいフルート。表情豊かな副主題。中間部もとても丁寧です。

三楽章、非常に速いテンポですが整然としていて荒々しさはありません。精緻で美しい演奏です。速いテンポでもしっかりと表情が付けられています。少し浅いトリオのホルン。とてもスピード感のある演奏でした。

四楽章、深みのある第一主題。優しく語り掛ける第三主題。テンポが大きく遅くなったり表現の幅が大きいです。金管は気持ちよく鳴り響きます。最後はティンパニの猛烈なクレッシェンドがありました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

★★★★★

一楽章、深みのある第一主題。洗練されたトゥッティ。滑らかで美しい第二主題。混沌とした第三主題。豊麗に鳴り響く金管はとても美しく整然としています。ゆったりとして堂々としたコーダ。

二楽章、とても弱くホルンに隠れるような第一主題。洗練された美しい響きはとても魅力的です。副主題もとても美しいです。コーダの力感溢れる響きも素晴らしい。

三楽章、速めのテンポですが、全く荒さが無く完璧に演奏される主部。豊かに歌うトリオ。主部が戻っても素晴らしい金管。

四楽章、堂々とした第一主題。流れるような第二主題。豊麗な金管の響きはこの作品にはとても良い。少し遅めのテンポで素晴らしい響きの金管の描き出すコーダは見事としか言いようがありません。
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パーヴォ・ヤルヴィ/NHK交響楽団

★★★★★

一楽章、快速で飛ばす第一主題。一転して涼やかでゆったりとした第二主題。速めのテンポで颯爽と進む第三主題。展開部でも良く鳴り色彩感も濃厚です。再現部でも速いテンポの第一主題で勢いがあります。ティンパニや金管が重なって激しい響きのクライマックス。

二楽章、輪郭のクッキリとした主要主題。サラサラとしていて美しい副主題。高い精度の演奏は素晴らしいです。

三楽章、この楽章もかなり速いテンポです。テンポは速いですが、演奏は全く荒れないのはさすがです。トリオは揺れるリズムです。

四楽章、この楽章も速いテンポで勢いがあります。涼やかで美しい第二主題。トゥッティの充実した響きも素晴らしい。力強く若々しさのある演奏でした。
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ミヒャエル・ギーレン/SWR交響楽団

★★★★★

一楽章、非常にゆっくりと厳格にはっきりと演奏される第一主題。伸びやかで広々とした音場感。第二主題も美しい。スケール大きな第三主題。ゆっくりとしたテンポで美しく歌う演奏です。

二楽章、深みのある主要主題。すっきりと切り分けられたように表現が変わります。とても柔らかい副主題。

三楽章、とても明晰な主題。少し縮こまったような中間部のホルン。

四楽章、活動的な第一主題。とても良く鳴るオケで気持ちの良い演奏です。コーダもゆっくりとしたテンポで壮大な演奏でした。

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朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団(ハース版)

★★★★★

一楽章、速めのテンポでサクサク進む第一主題。爽やかに響くヴァイオリン。しっとりとした第二主題。トランペットも力強くメリハリのある演奏です。柔らかく伸びやかな第三主題。潤いのあるクラリネット。

二楽章、柔らかい主要主題。強い主張は無く自然体で作品に語らせるような演奏です。抑えた表現の副主題。控えめで奥ゆかしい中間部。ファゴットも柔らかくて美しい。

三楽章、どっしりと落ち着いた主部。激しさや荒々しさはありません。牧歌的なトリオのホルン。どの楽器も美しく捉えられている良い録音です。

四楽章、どっしりと重量感のある第一主題。サラッと撫でるような第二主題。第三主題も下の響きがとても柔らかい。ティンパニは釜の鳴った良い音がします。作品そのものを聴くには良い演奏です。
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小泉 和宏/九州交響楽団

★★★★☆

一楽章、柔らかくそっと響く第一主題。堅実な足取り出す。涼やかで美しい第二主題。とても良く鳴る第三主題。再現部もメリハリの効いた鳴りっぷりの良い演奏です。伸びやかで色彩感も豊かなクライマックス。

二楽章、柔らかい主要主題。副主題も繊細で伸びやかです。小泉の堂々とした音楽の運びとオーケストラの充実した響きが素晴らしい。

三楽章、あまり荒々しさは感じない丁寧な主部です。

四楽章、この第一主題もあまり荒々しさは無く、とても美しい演奏です。純粋に作品に忠実な演奏だったと思います。
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オイゲン・ヨッフム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

★★★★☆

一楽章、輪郭のくっきりとした第一主題。自然体で美しい第二主題。テンポも微妙に動きます。活力のある若々しい演奏です。エネルギーが噴出する第三主題。展開部でもかなり金管が咆哮します。かなり追い込んで終わりました。

二楽章、ゴリゴリとした主要主題。静寂感の中に響くフルート。サラッとして涼やかな副主題。録音年代からすれば仕方のないことですが、ヴァイオリンなどが若干ザラついています。コーダではほとんど金管が聞こえませんでした。

三楽章、とても良く表現されていますが、荒々しさは感じない主部。スタッカートを多用したトリオのホルン。

四楽章、とても流れが良くあまり強い主張がありません。金管はとても力強いです。内側から祈るような第三主題。見事な金管の鳴りはさすがベルリンpoです。コーダではテンポも大きく動きます。
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クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

★★★★☆

一楽章、良く弾む第一主題。ウィーンpoらしく密度が濃く色彩かも豊かです。第二主題は良く歌われて美しいです。覇気があってとても力強い演奏です。アバドの覇気と作品の若々しさがマッチしていてとても良い演奏です。

二楽章、落ち着いた表現ですが、感情も乗っている主要主題。副主題も豊かな歌です。

三楽章、スピード感があって力強い主題。動きがあって生き生きとしたトリオ。

四楽章、速めのテンポで活発な第一主題。穏やかですが、生命観を感じる第二主題。金管の豊麗な響きも素晴らしい。羊皮独得の響きのティンパニはこの作品には合っていないような気がします。
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ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

★★★★☆

一楽章、力が抜けて自然体な第一主題。リズムは良く弾みます。自然ですがさりげなく歌う第二主題。良く鳴って力強い第三主題。この頃のコンセルトヘボウらしくとても色彩感が濃厚です。弱音の静寂感も良いですし、コーダの豊麗な響きも良いです。

二楽章、あくまでも自然体で緻密な演奏が続いて行きます。美しく歌う副主題。ファゴットもとても哀愁のある響きで美しいです。

三楽章、細身で丁寧なので、あまり粗野な感じはありません。トリオは緻密で濃厚です。主部が戻るとハイティンクの丁寧さが仇になる感じがします。

四楽章、速めのテンポの第一主題。暴走することなく抑制された演奏です。繊細な第二主題。展開部でも豊麗な響きが素晴らしい。ハイティンクは作為的な部分が無いので安心して聞くことが出来ます。

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スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響曲楽団

★★★★

一楽章、奥まったところから柔らかい第一主題。スピーカーの中央にオケが集まっているような感じであまり広い音場感ではありません。ゆったりとした第二主題。作品に身を任せるようなテンポの動き。控えめな第三主題。展開部のトロンボーンも力が抜けています。再現部の第二主題は涼やかで美しい。コーダはテンポの動きも大きい演奏でした。

二楽章、弱音に集中力があって聞かせる演奏です。副主題はサラッとしていて美しい。弱音の繊細な動きは他の演奏とは一線を画すものです。

三楽章、嵐の様な荒々しさは無く、むしろ主題は抑えられていて大人しい印象です。トリオは細部まで拘った良い演奏です。

四楽章、独特な表現の第一主題。大きく構えた演奏では無く、少し小さくまとまっているような感じを受けます。凝縮されたような集中力を感じさせる第二主題。金管を大きく鳴らすことがあまり無く、抑制された演奏です。最後は大きくテンポを落としましたが、最後まで抑制的でした。

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オイゲン・ヨッフム/シュターツカペレ・ドレスデン

★★★★

一楽章、柔らかい弦の刻みに続いてやはり柔らかい第一主題。艶やかで鮮明なヴァイオリン。素朴な響きの第二主題。第三主題も伸びやかで柔らかい。純朴な響きがとても魅力的です。ベルリンpoとの旧版のような激しい咆哮は無く、どっしりと構えた落ち着いた演奏です。最後は速くなりましたが、ベルリンpoとの演奏よりも落ち着いています。

二楽章、まろやかな主要主題。探るように注意深い演奏です。木管が小さく定位して静寂感の中に美しく響きます。柔らかい肌触りの布のような副主題。シュターツカペレ・ドレスデンの響きは洗練された響きでは無く、暖かくて柔らかく古めかしいので、ブルックナーにはとても合っています。コーダでほとんど金管が聞こえないのはベルリンpoとの演奏と同じです。

三楽章、ゆっくりとしたテンポでとても丁寧な主部。

四楽章、控えめな第一主題。第三主題まで抑制的でした。トランペットが全体的に抑えられていて、開放されません。かなり抑えられた演奏に欲求不満になりそうです。最後の最後は強く演奏されました。

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ロベルト・パーテルノストロ/ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

★★★

一楽章、豊かな残響を伴って柔らかい第一主題。感情を込めて歌われる第二主題。第三主題はトロンボーンが奥まっていて力強さは感じません。残響は豊かなのですが、オーケストラの響きそものもはあまり艶やかでは無く、あまり魅力的な響きではありません。

二楽章、豊かな残響に少しカサついた主要主題。繊細に表現される副主題。中間部もカサカサした響きであまり美しくありません。コーダの金管はかなりゆっくりと演奏されました。

三楽章、あまり荒々しさを感じない主部。表現の幅が狭く一本調子な感じがします。せっかく豊かな残響の大聖堂で演奏しているのだから、濃厚で水の滴り落ちるような艶やかな演奏をして欲しかったと思います。トリオも特徴のある表現も無く、淡々と流れて行きます。

四楽章、あまり激しさを感じない第一主題。やはり第三主題もシルキーでは無くカサカサとしていますし、テンポは動きますが、表現らしい表現も無く、何も訴えて来ません。ティンパニが時折激しいクレッシェンドをするのは全体を通じてとても印象的です。力を振り絞ったコーダはとても良かったです。

サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団

★★

一楽章、ゆっくり目で粘りのある第一主題。涼やかな第二主題。速めのテンポで颯爽と演奏される第三主題。ショルティとシカゴ響の演奏なので金管が吹きまくるのかと思っていましたが、節度のある演奏でブルックナーらしさはあります。再現部の第二主題も清涼感があります。ショルティ/シカゴの演奏にしてはかなり抑制的でした。

二楽章、とても精度の高い主要主題。柔らかく美しい副主題。中間部は少し硬い感じ。

三楽章、速めのテンポでセカセカしていて落ち着かない主題。トリオはゆったりとしていのすが、ホルンが委縮したような演奏で、今一つです。

四楽章、いつもりショルティ/シカゴの演奏とは違い、吹っ切れたような豪快さが無く、中途半端な演奏です。いつものショルティの演奏をすれば良いのにと思いますが、何を迷ったのか。少し硬さのある第二主題。ショルティなら豪快に鳴らし切ってくれると期待しましたが、大きく期待が裏切られた演奏でした。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/

ソビウト国立文化省交響楽団

★☆

一楽章、遠くて細い第一主題。クラリネットが大きく聞こえます。トランペットもオンマイクで残響を伴わずマットに響きます。フルートもとても強く、とても変なバランスです。第二主題もザラザラとしています。第一主題の時とは一転して豊かな響きで鋭いトランペット。第三主題はロジェストヴェンスキーらしい咆哮です。ドンシャリ的な録音と、これでもかとねちっこく、激しい金管の咆哮が特徴的な演奏です。

二楽章、ビリビリと奥から響いて来る金管。副主題もザラザラと木目の粗い響きです。稿によるものなのか、木管のスタッカートが気になります。金管がねっとりと下品に演奏するのはロジェストヴェンスキーらしいのですが、ブルックナーの演奏には下品過ぎると思います。

三楽章、音も短く強烈な金管。ちょっと辟易として来ます。トリオのホルンも独特な表現です。

四楽章、盛大な第一主題。続く木管も近い。「火のように」と言う指定からすればその通りなのですが、強烈です。対照的に優しい第二主題。展開部の第二主題はゆったりとしたテンポで感情が込められています。コーダで金管が入るとテンポが遅くなってかなりハイカロリーな演奏です。
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フォルクマール・アンドレーエ/ウィーン交響楽団

一楽章、マットで近い第一主題。盛り上がりに伴ってテンポが速くなのります。潤いが無くカサカサとした印象の第二主題。第三主題のトロンボーンも近く、残響をほとんど伴っていないような感じです。1953年の録音ですが、あまり良い録音ではありません。テンポはかなり動く情熱的な演奏です。

二楽章、主要主題も少しザラつく感じです。聞き進めれば録音の古さにも慣れて来ますが、やはり硬い感じは付きまとい、音楽に浸ることは出来ません。

三楽章、テンポも速く、粗野で嵐のような感じはとても良く表現されていますが、この楽章ではオケが奥に引っ込んだ感じかします。トリオでもヴァイオリンが活発に動きます。

四楽章、三楽章から一転してオケが近くになりりました。カサカサに乾燥しているような第二主題。金管の音が短い。テンポはかなり激しく動きます。
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