カテゴリー: ブルックナー

ブルックナー 交響曲第7番

ブルックナーの交響曲第7番は、1881年に完成された作品で、彼の交響曲の中でも特に人気があり、演奏頻度が高い作品の一つです。この交響曲は、ブルックナーがウィーン楽友協会での演奏会のために作曲したもので、彼の特有の宗教的な深さと、豊かなオーケストレーションが融合した、感動的で壮大な作品です。

構成と特徴

交響曲第7番は、全4楽章からなり、ブルックナーの他の交響曲と同様に、彼独自の音楽語法が色濃く表れています。

  1. 第1楽章 (アレグロ・モデラート)
    劇的で力強い序奏から始まり、印象的な主題が提示されます。この楽章は、緊張感と情熱が交錯し、ブルックナー特有の高揚感が感じられます。弦楽器が力強く旋律を奏で、金管楽器がそれを力強く支えます。全体的に音楽の進行が緩やかで、次第に展開されていく様子がドラマチックです。また、特に終盤には、感情が高まり、壮大なクライマックスが訪れます。
  2. 第2楽章 (アンダンテ)
    この楽章は、静かで美しい旋律が印象的で、内面的な深さが感じられます。特に、オーボエやフルートが奏でる旋律が優雅で、ブルックナーの宗教的な感性が表れています。聴く者を穏やかな感情に導くような、心の安らぎが感じられる楽章です。全体として、感情の波が大きくはないものの、静かに深い印象を与えます。
  3. 第3楽章 (スケルツォ)
    スケルツォは、活気に満ちたリズミカルな楽章で、ブルックナーの特有のリズム感が表現されています。全体的に軽快な雰囲気があり、弦楽器のピッツィカートや木管楽器の軽やかなメロディが印象的です。この楽章では、ブルックナーのユーモアや遊び心も感じられ、楽しい対話が展開されます。
  4. 第4楽章 (アレグロ・モデラート)
    最後の楽章は、強いエネルギーに満ちており、壮大なクライマックスに向かって進行します。金管楽器が力強く旋律を奏で、全体が一体となって高揚感を生み出します。この楽章では、特にブルックナーの宗教的なテーマが強調され、勝利や歓喜を象徴するような迫力があります。また、終盤には、第2楽章のモティーフが再現されることで、全体の統一感が生まれています。

音楽的意義と評価

交響曲第7番は、ブルックナーの作品の中でも特に感情の起伏が豊かで、内面的な深さと外面的な壮大さが融合した名作とされています。この交響曲では、彼の宗教的な感性や、人間の情熱、生命の力が表現されており、聴衆に強い感動を与えます。

また、交響曲第7番は、ブルックナーの音楽語法の成熟を示す作品でもあり、彼の作曲スタイルが確立された時期の作品とされています。オーケストレーションの巧妙さや、ドラマティックな展開、そして内面的な抒情性が融合したこの作品は、ブルックナーの交響曲の中でも特に広く愛されています。

この交響曲は、特にワーグナーの死に対する哀悼の意を込めた作品としても知られており、作品の中に彼の影響が色濃く残っています。全体を通して、壮大で感情的な体験が得られるこの作品は、今日でも多くの演奏会で取り上げられ、聴衆を魅了し続けています。

4o mini

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第7番名盤試聴記

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、奥行き感とホールの広さを感じさせる伸びやかな冒頭です。自然な息づかいを感じさせます。第二主題のオーボエとクラリネットのピンポイント感と弦楽合奏の広がりの対比も素晴らしいものでした。とても静寂感があります。このブルックナーの曲集の中でもこの録音は遠近感や広がりが良いです。再現部の前の全合奏はゆったりとしたテンポですごい咆哮でした。コーダは神聖な世界にたどり着いたような爽快感がありました。

二楽章、ふわっと始まり次第に力強くなる主要主題。すばらしく美しい音楽が滾々と湧き出してくるようです。非常にデリケートな表現をオケに要求しているようで、もの凄い集中力ですが出てくる音楽はとてもしなやかです。宇宙が鳴り響くような巨大なスケールのトゥッティ。音の洪水のように炸裂するクライマックス。音楽の深みを感じさせるワーグナーチューバ。音楽は常に柔らかく優しい。天に昇って行くような最後でした。

三楽章、ゆったりと波にでも乗っているかのようにしなやかに揺れる音楽です。優しくのどかでどこまでも続く草原を思わせる中間部です。チェリビダッケの音楽は、自然や生命、果ては宇宙までも感じさせるものです。

四楽章、生命感があって躍動的で生き生きしています。第三主題では大きくテンポを落としました。見事なバランスでコーダを演奏しました。

自然や生命に対する賛美が随所に表現されたすばらしい演奏でした。

オイゲン・ヨッフム/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、豊かに鳴るチェロの第一主題はとてもゆっくりと感情を込めるようにダイナミックの変化も大きく演奏されます。第二主題ではテンポを上げ、オーボエとクラリネットが濃密な音色で絡み合います。滑らかな弦がとても美しい。第三主題でもとても美しいヴァイオリンが印象的です。コンセルトヘボウらしくとても濃厚な色彩で音楽を描いて行きます。トゥッティの強さよりも全体の静寂感が印象に残る演奏で、とても静かな感じがします。展開部のチェロの旋律もとてもゆっくりとしたテンポでした。コーダも全開ではなく少し控え目で美しい演奏でした。

二楽章、すごく感情のこもった主要主題が柔らかくとても美しい。ヨッフムの最晩年の枯れた境地が体から自然に出てきているような、とても優しい音楽に心が打たれます。Bも力みの全く無い自然体の柔らかい音楽ですが、しっかりと感情は込められています。この部分は長調で書かれていますが、物悲しい雰囲気がとてもすばらしいです。二回目のAは一回目よりも切迫して迫ってきます。弱い波が押しては返ししながらジワジワと迫ってくるような、聴き手を強制しない自然な演奏です。Bの二回目はさらに音楽の振幅が大きくなってまた静まって行きます。三回目のAは大きなクライマックスを迎えますが、ここでもオケが全開になることはありません。とても美しい響きです。ワーグナーチューバが途中から強く演奏してかなり踏み込んだ表現をしました。最後もとても美しく黄昏た雰囲気でした。

三楽章、濃厚な色彩の演奏が続きます。トゥッティでも荒れることなく美しい。テンポも動きます。中間部は適度な揺れがあり美しく歌われます。テンポも自然な動きに身をゆだねることができます。

四楽章、ヴァイオリンのトレモロがとても潤いのある第一主題でした。テンポはよく動きます。爽やかで涼感のある第二主題。私はこんなに美しいブルックナーの7番を聴いたことがないです。第三主題でもオケを咆哮させることはなく、とても美しい音色の演奏が続いています。再現部の第三主題でもテンポが次第に遅くなります。第二主題もよく歌われて美しい。テンポも大きく動きます。コーダの手前で大きくテンポを落としてコーダへ入りました。最後でも絶叫することはなくとても美しく終りました。

ヨッフム最晩年の枯れ切った音楽が自然に体から溢れ出て、それをコンセルトヘボウの高い技術と音楽性によって作り出された超名演だったと思います。こんなすばらしい演奏とめぐり合えることができるからクラシック音楽はやめられない。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、厚みがあって暖かいチェロの第一主題。繊細で艶やか、とても感情がこもっていて引き込まれます。第二主題では突然音量を落とす部分もありました。木管楽器は透明感のある清らかな響きです。第三主題の冒頭は抑制的でした。展開部のチェロの旋律の後ろでティパニが絶妙の音色と音量でクレッシェンド、デクレッシェンドしました。コーダのトゥッティも美しい響きでした。

二楽章、Aは伸びやかで柔らかい弦の響きで落ち着いた荘厳な演奏です。オケのアンサンブルも抜群の精度ですばらしい。Bも繊細な表現で大切なものをそっと丁寧に扱うような心のこもった演奏です。Aの二回目は一回目よりもさらに分厚い響きで始まり、金管が加わり抑制はされていますが、濃厚な表現になります。Bの二回目も一回目よりも厚い響きでこの世のものとは思えないような柔らかさです。Aの三回目は次第に力強くクレッシェンドして頂点を築きますが、金管は突き抜けることはなく、バランスは保たれています。ワーグナーチューバが豊かな表現で厳粛な音楽を奏でます。曇り空の雲の裂け目から太陽の光が差し込むような神の降臨を感じさせるワーグナーチューバのすばらしい表現です。

三楽章、いろんな楽器が入り混じって怒涛のトゥッティ。すごい情報量と力強い響きです。中間部は哀愁を感じさせるような少し寂しげな雰囲気が漂います。最後は広大なスケールのトゥッティに圧倒されます。

四楽章、軽やかな第一主題。伸びやかな第二主題。再現部も弱音から強奏まで美しい演奏が続きます。テンポを落としたコーダでも金管が突き抜けてくることはなく、非常にバランスの良いままに終りました。

細部までコントロールが行き届き、大自然や神の降臨をイメージさせるすばらしい演奏でした。

朝比奈 隆/東京都交響楽団

icon★★★★★
一楽章、弱い弦のトレモロに乗って歌うチェロの第一主題。第一主題が高音楽器に引き継がれるとサーッと視界が開けるような感覚になりました。シルキーで美しい弦。第三主題の前はそんなにritはしませんでした。良く通るフルート。オケの技術はとても高いです。再び第一主題が演奏される少し前でかなりテンポを落としました。金管も充実した響きです。コーダの前の第一主題もすごくゆっくりと演奏しました。コーダも非常に遅いテンポです。すばらしい金管の強奏でした。

二楽章、柔らかい弦の響きがとても心地よい。(B1)に入る前の重いテューバに支えられた金管のアンサンブルがとても美しかった。1970年代の日本のオケでは考えられないような美しく柔らかく伸びやかに鳴る金管はとてもすばらしい。6連音符に乗った主題が次第に盛り上がるところは、次から次から音が湧き出すように豊かでした。ワーグナーテューバが登場して雰囲気が一変します。遠い彼方に飛んで行くような最後でした。

三楽章、割と強めに入るトランペット。かなり切迫した雰囲気の演奏です。速目のテンポで演奏されています。屈託の無い金管の響きが心地よい。ライヴとは思えないすばらしい響きです。朝比奈とオケが一体になって音楽を作り上げています。

四楽章、速目のテンポで演奏される第一主題。少しテンポを落とした第二主題。第三主題はすごくテンポを落としました。この部分ではトロンボーンが凄い鳴りをしています。オケの響きはすばらしく美しい。展開部の第三主題もすごくテンポが遅い。テンポは大きく動いていますが、必要以上にこねくり回すこともなく、自然な流れの演奏で、朝比奈の演奏と言うより作品そのものを聴かせているような演奏です。コーダに入り一旦テンポを落として徐々にテンポを上げてクライマックスへ向かいます。

自然な流れで、ライヴとは思えない完璧な演奏はすばらしかった。

ロヴロ・フォン・マタチッチ/スロベニア・フィルハーモニー管弦楽団

マタチッチ ブルックナー交響曲第7番★★★★★
一楽章、豊かなホールの響きで音が膨らみます。思いっきり感情をぶつけてくる第一主題です。ゆったりと歌われる第二主題は第一主題とがらっと表情を変えました。ホルンもとても良い雰囲気を醸し出します。第三主題も豊かな表情です。とてもよく歌っています。強奏部分は豪快に鳴らしますし、コントラバスがしっかりと支えていて骨格がしっかりしています。美しい歌と音の洪水にどっぷりと浸っていられます。壮絶なコーダでした。

二楽章、一楽章から一転して穏やかな主要主題(A)です。この楽章でも切々と歌いながら訴えてきます。強奏部分では一音一音確かめるように確実に演奏します。(B)は比較的速目のテンポですが、テンポを動かして歌います。(A)の二回目もテンポを動かして強く訴えてきます。これだけ作品と同化して感情をぶつけてくる演奏の凄さを感じます。強奏部分は本当に豪快です。これがマタチッチの真骨頂か。壮大なクライマックスでした。ビブラートを効かせたワーグナーテューバ。音楽の起伏が非常に激しい演奏です。天に昇って行くように静かに終りました。

三楽章、遠くから聞こえるようなトランペット。ホールに響く残響が尾を引くように音楽を盛り立てます。途中テンポを落としてはとてもゆっくりと演奏しました。ティンパニのクレッシェンドがとても効果的です。一転して安堵感のある中間部。天国で奏でられる音楽のような安堵感です。この楽章でもとても良く歌います。(A)に戻ってからも途中でテンポを落としました。

四楽章、弾むようなリズムで始まり、次第に重くなりました。とても良く歌います。テンポもすごく動きます。マタチッチが作品に込める思いの深さを感じさせるすばらしい演奏でした。

ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2010年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、残響を含んで伸びやかで雄大な第一主題。一音一音慈しむように丁寧な演奏です。潤いのある木管が美しい第二主題。舞い踊るような第三主題。抜けの良いクラリネット、くっきりと浮き上がるフルート。再現部の前のトゥッティは涼しい響きでした。雄大なコーダでした。

二楽章、今にも雨が降りそうな真っ黒な曇天をイメージさせる冒頭の主要主題。Bの直前のワーグナーチューバはこの世のものとは思えないような暗闇の表現でした。Bから一転して明るく穏やかで安らいだ演奏です。また曇天に引き戻すAの再現。非常に神経の行き届いた弱音の表現です。トランペットが登場するといぶし銀のような渋い輝きです。クライマックスは強力なティンパニや弦に覆いつくされるような金管でした。荘厳で祈るような歌のあるワーグナーチューバ。天に昇って行くような美しいホルンで終わりました。

三楽章、締まりがあって密度の濃い主要主題。シャープで美しい響きです。開放されたような穏やかな中間部ですが、音が一音一音立っていて音楽が生きています。

四楽章、躍動的で生き生きとした第一主題。速めのテンポで進み柔らかく穏やかで安らぎを感じる第二主題。力みが無く透明感の高い第三主題。ハイティンクが常任指揮者をしていた時代のコンセルトヘボウの響きに近い深く濃厚な響きになっています。湧き上がるような壮大なコーダ。

大きな表現や主張はありませんが、濃厚で密度の濃い響き、二楽章での祈るようなワーグナーチューバや昇天するようなホルンなど神を感じさせる演奏は見事でした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1986年ライヴ

ジュリーニ★★★★★
一楽章、冒頭から深い息遣いの歌の第一主題です。とても強い作品への共感が感じられます。第二主題もとても良く歌います。第三主題へ向けてテンポを速め直前でritしました。展開部で演奏されるチェロの旋律も感情のこもった豊かな歌です。同年のスタジオ録音ではもう少し感情は抑えられていたように感じますが、この演奏はかなりはっきりとした感情の吐露があります。

二楽章、強弱の変化を付けて大きく歌う主要主題。一つ一つの音にとても神経が行き届いている演奏です。Bも非常に美しく歌います。Aの二回目はかなり厚い雲に覆われた曇天をイメージさせる演奏です。ワーグナーチューバも荘厳でありながら豊かに歌います。弦や木管がどんどんと重い空気になって行きますが、ホルンによって神が導かれます。

三楽章、ゆったりと伸びやかなスケルツォ主題。金管はかなり強く演奏していますが、美しい範囲です。中間部にはいるとまた豊かに歌います。大きな川の流れのようにゆっくりと流れて行きます。

四楽章、滑らかに滑るような第一主題。何とも感情のこもった第二主題。抑制の効いたコーダでした。

豊かな歌に溢れた美しい演奏でした。作品に対する強い共感が表れたものて、聞いていて引き込まれるような感じがしました。
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サー・レジナルド・グッドオール/BBC交響楽団

グッドオール★★★★★
一楽章、静かなたたずまいの第一主題でとても静寂感があります。ゆったりとスケールの大きな演奏です。第二主題も静かで静止しているようです。澄み切った空気感です。大河の流れのようにゆっくりと自然に流れて行きます。第三主題の前はホルンがかなり激しく咆哮しました。再現部も静寂感と緊張感があります。再現部の第三主題もどっしりとしていてあまり軽々しく動きません。壮大なコーダは見事としか言いようが無いです。

二楽章、こ楽章の主要主題も穏やかでその場に静止しているような感じです。一楽章同様ゆったりと流れる大河のようなたたずまいは非常にスケールの大きなものです。Bは少しテンポが速めですが、ここでも微動だにしない音楽ですが、優雅で美しいです。6連音符に乗って演奏される主要主題は次第にテンポが速くなりクライマックスを迎えます。ティンパニが大きくクレッシェンドします。葬送音楽らしいワーグナーチューバ。美しいホルンでした。

三楽章、遅めのテンポで、ガリガリと刻み付けるような弦。スレルツォ主題からかなり強い金管。がっちりと大地に楔を打ち込んだ上に音楽が成り立っているような強固な構成力。中間部はさらに遅く静かで穏やかです。主部が戻ると再びスケールの大きな主要主題が演奏されます。

四楽章、あまり軽やかさは無く、どっしりとした第一主題。速めのテンポの第二主題はすがすがしい感じです。ホルンが激しい第三主題。コーダに入ってもあまりテンポを落としませんでしたが、最後はゆっくりになってトランペットが響き渡って終わりました。

静寂感に溢れた静かなたたずまいと、地に楔を打ち込んだ上に音楽を構築するような強固なトゥッティとの対比が見事で、壮大でスケールの大きなトゥッティも素晴らしい演奏でした。
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マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団

ヤンソンス★★★★★
一楽章、ゆったりと深い歌の第一主題。ホールの空間を感じさせる録音でとても美しいです。盛り上がるに従ってテンポを速めました。シルクのように滑らかな第二主題。第三主題の前のトゥッティも充実した美しい響きでした。落ち着いた第三主題。大きな表現は無く正攻法の演奏ですが、響きがとても充実していて非常に美しいです。ゆっくりとしたコーダの高揚感も素晴らしく、見事なバランスの金管も素晴らしいものでした。

二楽章、大きい表現ではありませんが、とても深い主要主題。Bへ入る前のワーグナーチューバは不穏な空気で、分厚い雲に覆われて暗い空のようでした。Bは柔らかく美しい弦が豊かに歌います。音楽は隙間や淀みなく流れ続けます。録音の新しさにもよるものもあるのでしょうが、充実した美しい響きは本当に素晴らしいです。クライマックスは自然な高揚で、力づくではありません。ワーグナーチューバは悲しみに暮れるような表現です。魂が天に昇って行くようなホルンでした。

三楽章、一体になった分厚い弦。伸びやかな金管のスケルツォ主題。トゥッティのエネルギー感は凄いです。静かで穏やかな中間部。

四楽章、ゴリゴリと存在感を示すコントラバス。生き生きと動くクラリネット。祈るように歌う第二主題。第三主題の途中から突然テンポが速くなります。展開部の前のホルンはとても美しい演奏でした。コーダの直前も充実した美しいトゥッティでした。輝かしいコーダでした。

強い主張のある演奏ではありませんでしたが、隙間や淀みもなく流れ続ける音楽、オケが一体になった充実したトゥッティ。どこをとっても見事な演奏でした。特に二楽章の最後の魂が天に昇って行くようなホルンはこれまで聞いた中でも最高の表現でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第7番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第7番名盤試聴記

ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2007年ライヴ

アーノンクール★★★★☆
一楽章、押したり引いたりしながら涼しげな第一主題。ガット弦を使用しているのでしょうか?ホルンやトランペットが激しく咆哮します。速いテンポで色んな楽器が入れ替わる第二主題。金管はどこでもかなり強く入って来て、少しうるさいくらいです。テンポは速く前へ進む力が強いです。コーダの金管の咆哮も壮絶で気持ち良いくらいに鳴り響きます。

二楽章、ワーグナーチューバの主要主題の後の弦が音の頭を演奏した後すぐに弱く演奏します。悲痛な叫びのような弦。Bはとても速いテンポでしなやかに揺れ動くような演奏です。この楽章でも金管はかなり激しく吹いています。クライマックスで打楽器は入りませんでした。とても動きのあるワーグナーチューバ。空を浮遊するようなホルンで終わりました。

三楽章、速めのテンポで弦も金管も鋭い響きです。この楽章でも金管が吠えてかなり激しいです。主部とは対照的におだやかな中間部はとても良く歌います。

四楽章、この楽章でも速いテンポの第一主題。颯爽と進む第二主題。第三主題はチェリビダッケとは逆にとてもテンポが速くなります。金管も良く鳴らしているのでとても快活な音楽になっています。コーダの前も強烈でした。コーダはトランペットがテヌートぎみに演奏しました。

今まで聞いたことのないような金管の強烈なブルックナーでした。弦も金管も鋭い響きで、今までのブルックナー像とは大きく違う演奏でしたが、この演奏はこれで楽しめました。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

ヴァント★★★★☆
一楽章、速めのテンポで感情移入を極力抑えるような演奏です。第二主題も粘ることなくサラッと過ぎて行きます。とても誠実で清潔感に溢れた演奏です。かなりクレッシェンドする再現部終盤のティンパニ。整然としていますが、コーダは全開かと思えるほど金管が強く吹きました。

二楽章、無駄な表現が無く、切々と頑なに訴えてくるような感じの演奏です。Bに入る前のワーグナーチューバは不穏な空気が漂います。Bに入ってもテンポの揺れも無く厳格に進んで行きます。精緻な演奏には清涼感さえも感じます。クライマックスへ上り詰める堅固な足取り。そしてクライマックスで炸裂する金管ですが、これもとても統制が取れています。空から神が舞い降りるような美しいコーダのホルンでした。

三楽章、誇張の無い自然体の演奏ですが、吹き荒れる嵐のようなスケルツォ主題です。一転してとても穏やかな中間部です。主部の緊張から一気に開放されます。この表現の変化は素晴らしいです。

四楽章、この楽章でも自然で大きな表現の無い第一主題ですが、美しい響きです。第二主題は速いテンポですが、音量の変化など表現がありました。とても克明で楽器の出入りなどもとても明確で鮮明です。シャープで見通しの良い演奏です。コーダは豪快に金管が鳴って終わりました。

自然体で誇張した表現などは全く無く、作品そのものを聞かせる演奏でした。とても緻密でシャープな演奏で、楽器の動きも手に取るように分かる演奏でしたが、後年のベルリンpoとの録音のような分厚さやスケール感には僅かに及ばなかったように感じました。
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ロヴロ・フォン・マタチッチ/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

マタチッチ★★★★☆
一楽章、すごくゆっくりと感情のこもった第一主題。テンポの微妙な揺れもあります。強烈な盛り上がりでした。かなり激しく咆哮します。第二主題もゆっくりとしています。一つ一つ爪痕を残すような強い音です。コーダも壮大で強烈です。

二楽章、一転して柔らかくしなやかな主要主題。激しい部分はやはりかなりの激しさです。Bに入る前のワーグナーチューバはかなり厚い雲に覆われて暗い空になりました。Bはとても柔らかい表現です。主要主題が戻ってからも金管は強烈です。二度目のBは揺れるような表現で僅かに強弱の変化があります。クライマックスでもトランペットが高らかに主題を演奏しますが録音のせいで荒れた響きになります。ビブラートをかけたワーグナーチューバが歌います。

三楽章、ガツガツと一歩一歩踏みしめるような力強いスケルツォ主題。木管などの細かい動きもとても良く分かります。トゥッティは巨大なスケールです。小節の頭に重点があってとてもリズミックです。中間部はとてもゆっくりとしていてのどかです。主部が戻ると再び巨大で少し暴力的な演奏が現れます。

四楽章、リズミカルで歯切れの良い第一主題の終わりでテンポを遅めます。祈るように美しい第二主題。展開部の第一主題に呼応するトロンボーンがとても美しいです。再現部の第三主題は物凄く激しいです。コーダで遠慮なく絶叫するトランペット。

豪快にオケを鳴らした積極的な表現の演奏でした。普段聞こえない音もたくさん聞こえて新しい発見もたくさんありました。ただ、トゥッティで音が荒れる録音がとても残念でした。
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オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン

スウィトナー★★★★☆
一楽章、ふくよかで柔らかい響きの第一主題。自然な歌です。第二主題もうっとりとするような美しい響きです。速いテンポですが、落ち着きのある第三主題。トゥッティでも音が荒れることは無くふくよかな響きを保っています。コーダでエネルギーを解放したような壮大な演奏になりました。

二楽章、静かでしなやかな主要主題。Bはテンポが速めですが、ここでもしなやかな演奏です。何の誇張もありませんので、気が付くとどんどん音楽が通り過ぎます。クライマックスの頂点に入る前のタメなどここぞと言う所で心憎い表現があります。このクライマックスもここまで貯めてきたエネルギーを解放するような壮大なものでした。ワーグナーチューバはかなり速く進みます。ホルンに神は現れませんでした。

三楽章、ゆったりと優しい主要主題。トゥッティは巨大です。心が安らぐ中間部。

四楽章、繊細な第一主題。速めのテンポであっさりと進む第二主題。透明感があって静寂感もとても良いです。第三主題も落ち着いています。再現部の第三主題の最後は大きくテンポを落としました。やはりあっさりと進む第二主題。再現部の第一主題の弦の部分はテンポが速く金管が出る部分ではテンポが遅くなります。コーダに入って一旦大きく落としたテンポを次第に速めてクライマックスへ向かいますが、クライマックスは一楽章のコーダのようなエネルギーを開放するような演奏では無く、金管が控えめな演奏で終わりました。

ふくよかで柔らかく美しい演奏で、透明感がある弱音と、何度か殻を突き破るようなトゥッテイとの対比も見事でしたが、二楽章の最後のホルンに神を感じることができなかったのがとても残念でした。
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サー・コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団

デイヴィス★★★★☆
一楽章、とても静かでゆっくりと祈るような第一主題。間を取ったりテンポの動きもあります。清涼感があって美しい弦。第二主題もゆっくりでとても爽やかです。落ち着いて穏やかな第三主題。金管も透明感があって音放れの良いスッキリとした響きでとても心地良いものです。金管全開ですが、すがすがしい響きのコーダです。

二楽章、通常のアダージョではなくスケルツォになっています。この楽章もゆったりとしたテンポです。もったりすることもなく、かといって鋭くなりすぎることもなく、非常に美しい響きの演奏です。中間部もゆっくり目ですが、少し緊張感があって、解放されたような安堵感がありません。

三楽章、ここはアダージョです。ゆっくりと、ゆっくりとそして静かに流れる大河のような主要主題。白波は立たずに穏やかな表面です。Bの直前のワーグナーチューバは黒い暗雲が立ち込めるような雰囲気です。いつくしむように暖かいB。主部が戻るとやはりとてもゆっくりと感情の込められた主要主題です。柔らかく美しい弦。輝かしい金管。ブレンドされた響きはとても美しいです。シンバルが炸裂してトランペットもかなり強く演奏しますが、デイヴィスらしいジェントルなクライマックスでした。速めのテンポのワーグナーチューバ。ゆっくりと天に昇って行くホルンですが、あまり強い印象ではありません。

四楽章、弾みますが、重厚な第一主題。速いテンポで強弱の変化を付け積極的な第二主題。第三主題も激しく荒々しい表現にはならず、ここでもジェントルです。コーダは大きくテンポを落としてから加速します。トゥッティでテンポを落として壮大に終わりました。

ゆったりと落ちつてとても美しい響きの演奏でした。トゥッティでも金管が荒々しく暴走することは無く、常にジェントルな演奏でとても心地良いものでした。
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エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★☆
一楽章、柔らかく伸びやかな第一主題。流れるような第二主題。奥行き感があって美しいトランペット。速めのテンポの第三主題。ここまで重量感は無くく軽快な演奏が続きます。展開部のチェロの旋律もとても整っていて、ここまでの印象は凄くシャープで都会的な演奏に感じます。コーダは全開で壮大な演奏でした。

二楽章、ゆったりと伸びやかで静寂感もあります。大きな表現は無く、作品に忠実な演奏です。Bは速めでやはりシャープでブルックナーらしい自然を感じさせる演奏ではありません。演奏事態は見事なアンサンブルと美しい響きなのですが、とにかく涼やかで清涼感に溢れていてブルックナーとは思えません。クライマックスでシンバルは入りませんでした。ワーグナーチューバはふくよかでとても美しいです。最後のホルンは薄くなりながら空へ神が昇って行くようでした。

三楽章、突き抜けるように鋭いトランペットのスケルツォ主題ね金管は屈託無く伸び伸びと鳴り響きます。とても整ったアンサンブルで見通しが良いです。中間部は柔らかい弦が独特の節回しで歌います。

四楽章、リズミカルな第一主題。息の入ったクラリネット。第二主題は速いテンポであっさりと演奏されます。第三主題のフレーズの終わりでテンポを少し落とします。とても充実した美しい響きです。とても良く鳴るオケです。コーダはあまりテンポが遅くなりません。最後も充実した響きで終わりました。

とても美しい充実した響きで、見事なアンサンブルで見通しの良い演奏を聞かせてくれました。感情の入り込む余地は無く、作品そのものを厳格に鳴らそうとしているようでした。ただ、その響きが鋭くブルックナーらしい響きでは無かったように感じました。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、ゆったりと伸びやかな第一主題。高音楽器に移った第一主題ではヴァイオリンの響きがとても美しい。控え目な音量から少しクレッシェンドした第二主題。とても伸びやかで広々とした空間をイメージさせるホルン。第三主題の前は大きくritしました。羽毛のようなヴァイオリンの弱音。かなり強く演奏されたコーダ。

二楽章、この楽章もすごく伸びやかで切々と歌います。(B)は安らぎに満ちた安堵感のある演奏です。音楽を大きく捉えた歌がとても心地よい演奏です。再び戻った(A)の終わりごろにはマイルドなトランペットが聞けました。6連音符に乗せられた(A)の部分では少しずつ少しずつ盛り上がり壮大なクライマックスを演出しました。荘厳な雰囲気のワーグナーテューバです。繊細なヴァイオリン。暗闇にどんどん向かって行くような音楽がホルンに救われて天に昇り終わります。

三楽章、古風な響きの冒頭のトランペット。強奏部分はかなり激しい演奏です。トロンボーンは咆哮と言っても良いような激しさです。中間部はたっぷりと歌います。戻った(A)ではトロンボーンがビーンと言う響きで耳に残る凄い存在感の演奏です。

四楽章、若干遅めのテンポで演奏される第一主題。丁寧に演奏される第二主題。力強い第三主題、金管はかなり強力です。第二主題の再現も強弱の変化がありとても良く歌っています。比較的速めのコーダ、輝かしい終結でした。

とても統制のとれた美しい演奏でした。

クラウディオ・アバド/ルツェルン・祝祭管弦楽団

アバド★★★★
一楽章、静寂の中に細かな動きのある第一主題が提示されます。あまり表情の無い第二主題。次第にテンポを上げて躍動感のある演奏になります。弦は暖かく厚みのある響きですが、金管が入ると鋭いトランペットが目立ってとても鋭角的な響きになりますがその分パリッとしたスッキリとした切れ味になっています。輝かしいコーダでした。

二楽章、アバドの演奏なので、大きな表現はありませんが、整ったアンサンブルで切々と訴えるような演奏です。Bは速めのテンポで歌います。クライマックスはアバドにしてはかなり激しい盛り上がりでした。ワーグナーチューバには神々しさはありませんでした。最後のホルンも朗々と歌います。

三楽章、ガリガリと刻み付けるような主要主題ですが、あまり重量感はありません。ゆったりと穏やかで安らかな中間部。

四楽章、躍動感のある第一主題。静寂感のある第二主題。重量感のある第三主題。重厚で輝かしいコーダはさすがでした。

目立った表現はありませんでしたが、整ったアンサンブルで切々と訴えるような表現や重厚で輝かしいコーダは見事でした。
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セルジウ・チェリビダッケ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1992年ライヴ

チェリビダッケ★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで深く感情を込めてたっぷりと歌う第一主題。非常に表現意欲の旺盛な第二主題。第三主題も豊かな表現です。厚みのある豊かな響きです。コーダではかなり思い切って金管に吹かせています。

二楽章、冒頭から良く歌います。Bに入っても音楽は軽くなりません。この遅いテンポでも整ったアンサンブルと厚みのある響きを聞かせます。波が押し寄せてくるようなクライマックス。ワーグナーチューバの後に入るホルンはかなり強く入りました。相当遅いテンポの演奏でしたが、あまり感動はしませんでした。

三楽章、小節の頭を強く演奏する弦。この楽章もかなり遅いテンポです。金管が良く間が持つなと感心します。後に録音するミュンヘンpoとのライヴよりも完成度は低いような感じがします。ミュンヘンpoの時に感じた自然な息遣いやしなやかさが感じられません。中間部もチェリビダッケの微妙な表現は再現されません。かなり剛直な感じの演奏です。

四楽章、とても躍動的な第一主題。この楽章はあまり遅くありません。第二主題に入るとテンポはぐっと落ちて祈るような演奏ですがやはりこの遅さを持て余しているような感じを受けます。第三主題はさらに遅くなります。展開部に入るとまた速めのテンポの第一主題になります。コーダはほとんどテンポを落としません。

遅いテンポの演奏ではありましたが、チェリビダッケの精神性を表現するまでには至らなかったように感じました。38年ぶりのベルリンpoと手兵のミュンヘンpoでは同じように指揮しても短期間では伝わり切らない部分も多かったのではないかと思います。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

スクロヴァチェフスキ★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで深く歌う第一主題。ホールトーンを含んだ美しい響きです。第二主題の前のトゥッティも伸びやかで美しい響きでした。非常に抑えた音量の第二主題。コーダもゆったりと伸びやかです。トランペットがかなり強く盛り上げます。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで感情のこもった主要主題。テンポも動きます。羽毛のような柔らかさの弱音。混沌とするBの直前のワーグナーチューバ。艶やかで豊かに歌うB。全般にトランペットは強いです。6連音符に支えられた主題は厚みのある低域の上に乗り柔らかい響きです。そしてクライマックスへ向けてトランペットが吼えますが、荒々しさはありません。葬送音楽らしいワーグナーチューバが豊かに歌います。天に上って遠ざかっていくホルン。

三楽章、とても弱い音から始まって、ここでもトゥッティでは強いトランペット。響きは溶け合いませんがかなり強いトゥッティです。下で支える音が強く柔らかい響きの中間部。

四楽章、あまり弾みませんが豊かな残響を伴って美しい第一主題。速めのテンポであっさりと進む第二主題。トランペットが入らないので、比較的大人しい第三主題。コーダもトランペットが強く最後まで音を残しました。

消え入るような弱音から、トゥッティのトランペットの炸裂まで、とても強弱の振幅の大きな演奏でした。大きな表現はありませんでしたが、残響を伴った美しい響きでした。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

ショルティ★★★★
一楽章、サラッとした肌触りの弦が美しい第一主題。第二主題はとても弱い音で始まりました。テンポが遅くなります。金管はショルティ/シカゴsoにしては抑え気味です。第三主題も力が抜けた柔らかくしなやすなものです。この演奏は弱音がとても美しくいつものシカゴsoのはち切れんばかりの金管の強奏はいまのところありません。展開部のチェロの旋律も良く歌います。どっしりと地に足が付いた演奏です。一体になって動くアンサンブルの精度はさすがです。コーダはとてもゆっくりと始まり少し加速して大きな盛り上がりで終わりました。

二楽章、静かに歌う主要主題。弱音の緩やかな美しさに重点を置いている演奏のような感じがします。この楽章もとてもゆっくりとしたテンポで落ち着いた演奏です。Bはテンポの揺れも伴って豊かに歌います。自然に主部へ戻って行きます。厚みがあって豊かな弦。二度目の主部の最後の金管はシカゴsoらしい見事な咆哮でした。クライマックスも巨大なものでしたが、トランペットが軽々と鳴り過ぎているようで、浅い感じがしました。たっぷりと歌うワーグナーチューバ。最後のホルンに神は現れませんでした。

三楽章、ゆったりとしたテンポでビーンと鳴る金管。中間部はさらに遅く安らかな演奏ですが感情のこもった歌です。屈託無く鳴り響く金管はとても気持ち良いものです。

四楽章、落ち着いていてあまり弾まない第一主題。深く語りかけてくるような第二主題。活発な動きのある第三主題。展開部は軽く弾む演奏でした。再現部に入って第三主題は重量感のある演奏になります。軽々と鳴り響く金管はやはりこの演奏の魅力になります。ゆっくりとしたテンポからどんどん加速して充実した響きでコーダを終えました。

軽々と鳴り響く金管がとても気持ちよく、弱音にもとても神経を使った演奏でダイナミックの幅も大きい演奏でした。また、アンサンブルの精度も見事なものでしたが、何故か統一感が無かったような感じがしました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第7番3

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第7番名盤試聴記

オイゲン・ヨッフム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1974年ライヴ

ヨッフム★★★☆
一楽章、静かで暗闇の中に響くような第一主題。力みの無い穏やかな第二主題。活発な動きを表現する第三主題。展開部のチェロの旋律は暖かみがありました。トゥッティは厚みのある響きですが、とても穏やかで包み込むような響きです。弱音部分はとても静寂感があって、暗闇の中にぽつんと明かりが灯るような感じです。コーダはトランペットのバランスが弱く録音されているようで、激しく演奏していてもそれが届いて来ないのだと思いました。

二楽章、重厚で暖かい主要主題。Bは流れるようにサラサラと過ぎ行く音楽です。柔らかく包み込むような響きがとても心地良いです。力みが無く自然な音楽の流れに身をゆだねているような演奏で、作為的な部分は一切感じません。クライマックスでのトランペットはとても遠いです。最後のワーグナーチューバからホルンに受け継がれる部分は柔らかくとても美しいものでした。

三楽章、トランペットが突き抜けて来ないので、荒々しさは感じません。ちょっと重い感じがあります。

四楽章、軽やかな動きの第一主題ですが、テンポの動きで重くなる部分もあります。伸びやかに内面から歌うような第二主題。重厚な第三主題。湧き上がるようなコーダ。ここでもトランペットは遠く大きな盛り上がりは感じません。

柔らかく包み込むような暖かい響きで自然な流れの演奏でした。ただ、トランペットが遠く、激しさなどは全く伝わって来ないのが残念でした。
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オットー・クレンペラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

クレンペラー★★★
一楽章、乾いた響きの第一主題ですが、かなり積極的に歌っています。リズミカルに歌う第二主題。第三主題の前は盛り上がりに合わせてテンポを落とし、そのまま第三主題に入りました。第三主題も活発な動きがあります。展開部のチェロの旋律も表現意欲のある演奏でした。コーダは速いテンポで始まってトゥッティからテンポを遅くしてかなり強く演奏しました。

二楽章、主要主題も大きな強弱の変化を付けて表現します。クレンペラーのことを即物主義と言う人もいますが、この演奏を聞くとかなり感情移入があって即物主義とは違うような感じがします。Bも微妙なテンポの動きがあって歌います。クライマックスもかなり激しいですが美しい演奏ではありません。最後のホルンはあまりにも現実的過ぎます。

三楽章、物々しい主要主題。同じリズムを繰り返す部分で一旦音量を落としてクレッシェンドしました。コントラバスやティンパニがかぶってきます。一転してゆったりと安らぎを感じさらる中間部。主部が戻るとかなりいかつい表情の演奏で、威圧的です。

四楽章、第一主題の最後でテンポを落とします。ゆっくりと優しい第二主題。第三主題はまた物々しい表現です。第一主題の再現ではテンポが大きく動きます。スケールの大きなコーダでした。

即物主義と言われるクレンペラーですが、テンポの動きや積極的な歌もあって即物主義のイメージとは違う演奏でした。ただ、二楽章最後のホルンがあまりにも現実的だったのと、響きに美しさが無かったのが残念でした。
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ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、非常に弱い弦のトレモロ、速目のテンポでも積極的な表情が付けられた第一主題。トランペットに比べて弱めなホルン。大聖堂の豊かな響きが音楽の合間に響きます。アンサンブルが時折乱れます。響きも薄く、ブルックナーの音楽らしくはありません。アマチュアかと思わせるフルート。トランペットが登場すると弦楽器の響きの薄さが際立ちます。全体にフワッとした響きからトランペットだけが異常に突き抜けてきます。

二楽章、大聖堂の響きを伴って柔らかな響きです。すごく編成が小さいように感じる音の薄さ、弦の弱弱しさ。パーテルノストロは強い主張をすることなく、楽譜をひたすら音に変えていっているようで、アクの強い演奏ではないので、初めてこの曲を聴く人には良いかも知れませんが、オケの技術的な面がどうしてもひっかかります。クライマックスでもトランペットがとても強かった。

三楽章、この楽章でもトランペットが異常なバランスで突き抜けてきます。トロンボーンやホルンはほとんど聞こえません。残響はすごい響きで引き込まれそうになります。中間部はのどかな雰囲気でした。あまりのトランペットの強さに辟易としてきます。

四楽章、速目のテンポです。トランペット以外は溶け合った柔らかい響きなのですが、トランペットだけが浮いています。ホルンなどは豊かな表情があって美しいです。他のパートは表情付けもあるようなのですが、一本調子のトランペットに支配された演奏になってしまったのは残念でした。

リッカルド・ムーティ/ミラノスカラ座フィルハーモニー管弦楽団

ムーティ★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポでたっぷりとした歌で主題の中でもテンポが動きます。とても感動的な歌です。第二主題に入っても弦の豊かな歌です。第三主題の前はあまり大きな盛り上がりではありませんでした。とても良く歌う演奏です。ゆっくりと堂々としたコーダでした。

二楽章、この楽章も遅めのテンポで音量を落とした弦が美しいです。Bも柔らかく美しい弦が控えめに歌います。主要主題の再現の後半あたりからテンポが少し速くなりました。Bの再現ではテンポが動きます。溢れ出すようなクライマックス。ワーグナーチューバの「葬送音楽」は速めのテンポですが、良く歌いますが神を感じさせる演奏ではありません。低く空を飛ぶようなホルン。

三楽章、トゥッティのパンチ力はなかなかです。トランペットとトロンボーンが旋律を演奏した後同じリズムを繰り返す部分で音量を落とします。伸びやかでのどかな中間部。

四楽章、あまり弾まず躍動感に乏しい第一主題。速いテンポで淡々と演奏される第二主題。途中から遅くなる第三主題。金管はあまり強くなく、柔らかい響きです。かなり頻繁にテンポが動きます。コーダもあまり大きな盛り上がりではありませんでした。

良く歌い、テンポの頻繁な動きなど、ムーティの積極的な表現の演奏でしたが、その表現が空回りしているような感じであまり心に届く演奏には感じませんでした。
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サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

バルビローリ★★
一楽章、少し混濁する第一主題。テンポの速い第二主題はぐいぐいと進みます。第三主題も速めで、録音もあまり良くないので、美しい響きもありません。展開部のチェロの旋律はゆったりと深い歌を聞かせます。展開部の第一主題は叫ぶような演奏でした。コーダの前の第一主題はとても遅いです。速いテンポと遅いテンポの差がとても大きい演奏です。録音のせいか怒涛のようなコーダでした。

二楽章、ゆっくりとしていますが、音程の悪いワーグナーチューバ。テンポの動きもあって強く感情を吐露します。Bは速いテンポでサラサラと流れます。主要主題が戻るとまた、遅いテンポになりますが、少し間延びした感じがします。クライマックスは絶叫するような演奏で激情型の演奏のようです。最後のホルンに神は現れませんでした。

三楽章、音が短めなトランペット。スケルツォ主題のトゥッティは混濁するのもあってかなり激しく聞こえます。ゆっくりとした中間部。

四楽章、軽快な第一主題。かなり速いテンポになる第二主題。第三主題も混濁するので激しく聞こえますが、テンポは遅めです。第一主題の再現も激しいです。コーダは一旦テンポを落としますがその後猛烈に加速して終わります。

遅めのテンポ感情を込める部分と、速いテンポで一気に進む部分がはっきりと区別された演奏でしたが、表現にあまり深みが無く、トゥッティでの混濁やライヴならではの傷も多くあったのがとても残念でした。
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エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1967年ライヴ

ムラヴィンスキー
一楽章、深い呼吸で歌う第一主題。鋭く交錯する金管。レニングラードpo独特の鋭い木管による第二主題。弦もとても鋭い響きです。第三主題の前もトランペットがかなり鋭く強いです。第三主題はゆっくりとしたテンポで、ほのぼのと進みます。展開部のチェロの旋律も松脂がたくさん弓に付いているような音です。再現部の前もトランペットが強烈でした。トランペットがギンギンと鳴り響いて少しうるさいです。再現部の最後に登場するティンパニはほとんど聞こえませんでした。コーダもトランペットばかりが目立ちます。

二楽章、集中力の高い弱音。ゆったりとしたテンポのBですが、響きが鋭く穏やかさはあまり感じません。二度目のAでもトランペットは非常に強烈です。速いテンポのワーグナーチューバ。最後のホルンに神を感じることができませんでした。

三楽章、かなり力強い演奏です。トランペットが弾む音をスタッカートぎみに演奏しました。この主要主題もトランペットが強烈です。中間部はゆったりとのどかですが、途中でトランペットが遠慮なく入って来ます。デッドな録音もあってとても強烈な音でブルックナーの雰囲気ではありません。

四楽章、速いテンポですが、軽快に弾む感じでは無く、強くシコを踏むようなドタドタした感じです。第二主題も硬質な響きです。第三主題はトランペットもトロンボーンも炸裂です。響きガブレンドされないので、雑な感じもします。

デッドな録音で、強い弦と金管の突き刺さるような強烈な演奏でした。この強烈さは野蛮にさえ感じるもので、ブルックナーの音楽とは思えませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番

ブルックナーの交響曲第8番は、彼の作品の中でも最も壮大で神秘的な交響曲の一つで、深い精神性や荘厳な雰囲気に満ちた作品です。「オルガンのよう」と評される重厚なオーケストレーションが特徴で、宇宙的ともいえるスケールで聴く者を圧倒します。以下、各楽章について簡単に説明します。

1. 第1楽章:Allegro moderato

暗く厳粛な雰囲気で幕を開け、徐々に高まっていく壮大なテーマが提示されます。冒頭から低弦が鳴り響き、徐々に強さを増していくこの楽章には、運命的な重さと荘厳さが感じられます。ブルックナー特有の繰り返しが用いられており、宗教的でありながらも時折悲劇的な要素も垣間見えます。音楽が流れるにつれて、天上と地上が交錯するような、広がりのある空気感が漂います。

2. 第2楽章:Scherzo. Allegro moderato – Trio. Langsam

このスケルツォは、ブルックナーの交響曲の中でも特に強い印象を残す楽章です。運命的で不気味なリズムが印象的で、力強くも不安げな旋律が繰り返されます。自然の風景や森の中を連想させるような神秘的な雰囲気が漂い、ブルックナーの独自のリズムが聴き手を揺さぶります。トリオ部分では対照的に、穏やかで優雅なメロディが現れ、一時の安らぎをもたらします。

3. 第3楽章:Adagio. Feierlich langsam; doch nicht schleppend

このアダージョは、ブルックナーが自ら「心からの祈り」と評したように、深い祈りと崇高さが込められた楽章です。ゆっくりとしたテンポで、美しくも重厚な旋律が展開し、時間が止まったかのような静謐な雰囲気が漂います。心の奥深くに響くような感動的な旋律が次第に盛り上がり、最後には壮大なクライマックスに達します。この楽章は特にブルックナーの宗教的な信念や精神的な側面が色濃く反映されており、聴き手に深い敬意と感動をもたらします。

4. 第4楽章:Finale. Feierlich, nicht schnell

フィナーレはまさに堂々たる締めくくりです。重厚なオーケストラが雄大なメロディを奏で、壮大なスケールで展開します。ブルックナーの音楽の特徴である、「止まらずにどこまでも続いていく」ような雰囲気が感じられ、圧倒的な迫力と希望に満ちた結末へと導かれます。彼が持つスケールの大きさや宇宙的な視点が表現され、最後の瞬間まで荘厳な雰囲気が続きます。

全体の印象

交響曲第8番はブルックナーの交響曲の中でも最高傑作と称され、非常に精神的で壮麗な作品です。その壮大なスケールと深い宗教的な情緒は、聴き手を神聖な世界へと誘います。ブルックナーが持つ「音楽を通じて祈りを捧げる」という信念が、楽曲全体を通じて感じられる、非常に奥深い交響曲です。

4o

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、歌心にあふれる第一主題。陰影を伴ったクラリネット。編成も大きくスケールの大きな演奏です。一転して明るく流れるように美しく歌われる第二主題。第三主題も積極的な表現です。下降音型のすさまじい咆哮。提示部も壮大な咆哮。オケに一体感があり咆哮する部分では、たまったマグマを一気に放出するようなすごいエネルギーがあります。弱音部の美しいホルン。強烈な「死の予告」。消え入るようなコーダでした。

二楽章、ゆったりとしたテンポです。ここでも表情豊かな演奏です。ホルンのすごい咆哮!ジュリーニってこんなにオケを咆哮させる指揮者だったっけ?と改めて思います。美しい木管。音一つ一つが立っていて、とてもくっきりとした表情です。古風な響きのティンパニ。色彩が濃厚でしかも輪郭がくっきりしています。芯のしっかりしたフルート。随所で表現される歌がすばらしいです。トリオでも何度かホルンの咆哮があり、起伏に富んだすさまじい演奏です。

三楽章、すごく丁寧に作品を慈しむように演奏されます。すごく感情移入されていて、この楽章も豊かな歌に満ちています。この世のものとは思えない美しいハープ。透明感のある第二主題。陰影を伴ったクラリネット。すごい静寂感があり集中力の高い演奏です。作品への感情移入に圧倒されます。美しい音楽に身をゆだねることができる数少ない演奏の一つです。12/8拍子での第一主題の咆哮も壮絶でした。最高潮のアルペッジョのすさまじい咆哮。それに続く低弦のうなりも作品への共感からのものだと思います。そして穏やかに音楽は静まって、遠い彼方に行ってしまうように終ります。

四楽章、一転して、厳しい表情の咆哮です。続く第二主題はまた作品への共感を強く感じさせます。第三主題にもちょっとした表情付けがあります。「死の行進」もすさまじい咆哮ですがとても豊かな響きです。分厚い弦楽合奏。再現部の前にも何度か激しい咆哮。再現部で再び激しい咆哮ですが暴走することはなく、きちんと整った見事な演奏です。荘厳なコーダのワーグナーテューバ。輝かしい終結でした。

作品への共感が見事に表されたすばらしい演奏でした。

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、とても静かに探るような冒頭の第一主題です。奥行き感があり深い低音に支えられた強奏。あっさりとした第二主題。豊かに歌うフルート。美しいトロンボーン。第三主題は強弱の変化がありとても豊かです。弦楽器も艶やかで美しい。弱奏では空間を感じさせる良い録音です。とても激しい壮絶と言ってもいい「死の予告」。

二楽章、速目のテンポで生き生きとした音楽です。フルートがとても良く鳴り美しい。音が立っていてオケの集中力の高さを伺わせます。強奏部分でも少し余力を残しています。強奏の後に残る残響も美しい。合間に入るハープの存在感も大きいです。テンポに推進力があり、音楽が生きています。

三楽章、夢見るような始まりから次第に現実の世界へ引き戻されます。上昇型のアルペッジョは音を短めに演奏して躍動的な表現でした。美しいハープがとても前に出てきます。天上界をイメージさせるワーグナーテューバ。ホルンの咆哮!豊かな自然をイメージさせる木管。12/8拍子になってから、波が次から次へと押し寄せるように音楽がせまって来ます。クライマックスの上昇型アルペッジョはゆったりと大きい演奏でした。夕暮れを思わせるような、どこか寂しげなコーダ。

四楽章、速目のテンポで始まりました。十分に鳴っていますが、音量は少し控え目です。第二主題の弦はシルキーで美しい。第三主題も速目で生命感を感じる推進力があります。「死の行進」も十分に鳴っていますが、全開ではありません。再現部の第一主題は途中でテンポを落としました。分厚い低音にガッチりと支えられたしっかりとした構造の演奏です。とても静かなコーダの入り。巨大なものが待ち構えている予感をさせてくれます。いろんな主題が織り交ぜられて壮大に曲を閉じました。

シルキーな弦の美しさやいろんな情景をイメージさせてくれる演奏はすばらしいものでした。

セルジュ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

チェリビダッケ ブルックナー交響曲第8番★★★★★
一楽章、非常に遅いテンポです。うごめくような第一主題。重い低音を基調にした重厚な響きが印象的です。滑らかで伸びやかな第二主題。とても豊かな響きです。テンポが遅いからかもしれませんが、とてもどっしりとしていて安定感があります。伸び伸びととても良く鳴るオケです。fffでもきっちりとコントロールされていて決して暴走はしません。「死の予告」の屈託の無い伸びやかなすばらしい響き。最後は大きくritして終りました。

二楽章、この楽章はそんなに遅くはありません。ここでも咆哮することはなく、きちんとバランスを保ってコントロールされています。トリオはゆっくりとしたテンポになりました。チェリビダッケが幼い子供に読み聞かせをしているように丁寧に細部にまで神経を行き渡らせているのが良く分かります。チェリビダッケの徹底した訓練によって作り出されたのであろうか、すばらしい響きです。

三楽章、作品に没入して行く冒頭です。天上的な雰囲気に満ちています。豊かで美しいワーグナーテューバ、まさに神の世界を表現しています。すばらしく合った響き。壮大なテュッティ。テンポは遅い。終結部も美しい和音に乗ってメロディが奏でられのがとても魅力的でした。

四楽章、堂々とした冒頭に輝かしいトランペットの響き。ハーモニーがとても美しく響きます。第三主題も一体になった分厚い響きです。非常にゆったりとした「死の行進」。テュッティは非常に重厚な響きですばらしいです。再現部も力強い響きですが、咆哮すると言うようなイメージではなく、しっかりとコントロールされています。第一楽章、第一主題の再現はものすごく遅いテンポでした。神秘的なコーダの導入。コーダの終結も非常に遅いテンポで雄大に演奏されました。

とても遅いテンポにもかかわらず音楽がギューっと凝縮されたような演奏で、美しい響きですごく完成度の高い演奏でした。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、積極的な表現の第一主題。ディミヌエンドしたときの空間がとても良い雰囲気です。地から湧き上がるような低音に支えられた強奏。一転して明るい第二主題。木管も積極的に歌います。N響の編成も大きいように感じさせる豊かな響きです。下降音型のトランペットも良く鳴っています。N響もこの頃になるととても充実した響きです。展開部終盤のfffはかなり激しい響きでした。分厚い響きの「死の予告」。消え入るようなpppで終りました。

二楽章、冒頭のヴァイオリンの繊細な表現。ダイナミックの幅がものすごく広く消え入るような弱音から、咆哮まで表現の幅がとても広い演奏です。トリオのゆったりとした安定感のある響き。どっぷりと音楽に浸っていられるような演奏です。再びスケルツォ主部が戻り、充実したブラスセクションの響き。弱音の弦にも動きがありとても豊かな表情ですばらしい演奏です。

三楽章、波が緩やかにせまって、また引いていくようなヴァイオリンの主題。深い響きです。美しい木管のソロ。薄日が差し込むようなワーグナーテューバ。天が鳴り響いているようなすばらしい響きです。クライマックスはゆっくりと克明に演奏しました。音楽が時折「神の世界」を垣間見せてくれます。夕日が沈むような黄昏で終りました。

四楽章、強烈なティンパニ。他のパートもかなり力強く演奏しています。音楽が生きているかのように何かを訴えてきます。ここでも充実した響きを聞かせた「死の行進」。とてもよく歌うホルン。再現部の第一主題は最初よりも強く演奏されたようでしたが、非常に美しいものでした。コーダの繊細なヴァイオリン。終結の圧倒的なパワー感。日本人によるブルックナー演奏がこんなにもすばらしいとは、本当に驚きました。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、重く豊かな表情の第一主題。何かに攻め立てられるような切迫感。トゥッティでは分厚い巨大な響きが聴かれました。第二主題は柔らかくしなやかな歌です。第三主題は木目の細かい下降音型、そしてスケールの大きなトゥッティ。強烈ですが、鳴りきった美しさのあるfff。オケの上手さなのか、録音の良さなのか、とても整然としていてバランスの良い響きです。錯乱状態のような壮絶なクライマックス。静寂の中に消えていくコーダ。

二楽章、元気の良いホルンから深みのある弦の主要主題が奏でられます。ホルンの下降音型の直前に大きくクレッシェンドしました。強弱の変化が大きくティンパニも大きくクレッシェンドして、ヴァント渾身の演奏です。トリオ冒頭部分ではパイプオルガンのような分厚い響きが印象的です。ハープを含めて登場してくる楽器がとても鮮明に浮かび上がります。スケルツォ主部が戻ると再び動きのある音楽が展開されます。

三楽章、深みと厚みのある弦。ヴァイオリンの旋律と伴奏の強弱の出入りに敏感に反応しますが、強い感情移入はありません。木管楽器群はとても生き生きとした音色で登場します。充実した分厚い響き。第一主題の二回目の再現のあたりになるとかなりオケの響きも壮絶な叫び声のように激しくなってきます。輝かしく見事なクライマックスでした。分厚い弦の響きの中を縫うように演奏されるハープが美しくとても存在感があり、印象に残ります。夕日が沈むように終わりました。

四楽章、スピート感と勢いがある金管の第一主題。魂の響きのように昇華された凄味があります。一転して幻想的な雰囲気を醸し出す第二主題。歌う第三主題。速めのテンポで一気に演奏される「死の行進」も凄い迫力で迫ってきます。展開部で現れる第一主題も回数を重ねるごとに壮絶な響きになって行きます。再現部の第二主題もさすがきベルリンpoと思わせる厚い響きです。静寂の中から美しく上昇音型を演奏するヴァイオリン。圧倒的なパワーで力強く締めくくりました。

ベルリンpoの分厚い、圧倒的なパワーと弱音の美しさ。それにヴァントの気迫が加味されたすばらしい名演でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★★★
一楽章、暗闇の中にろうそくの炎の見えるような静かで伸びやかな第一主題。地の底から湧き上がるようなトゥッティ。明るく開放的な第二主題。トランペットが強く全体の響きを支配しているような感じです。壮絶なクライマックス(死の予告)。コーダのクラリネットは静寂の中に美しく響きます。

二楽章、力が抜けて自然な主要主題。トランペットに比べるとホルンは奥まっています。やはりトランペットが突出しています。中間部はゆったりとのどかで落ち着いた演奏です。大きな仕掛けや強い主張はありませんが、自然体で作品に身を任せたような演奏です。

三楽章、以外に鮮明な第一主題A1。自然な第二主題B1。それぞれの楽器がきりっと立っていてとても美しい演奏です。誇張が無く自然に音楽が進むので、複雑に絡む楽器の動きもサラッと何事も無く演奏されて行きます。シンバルが入ったクライマックスもとても充実した響きで見事です。

四楽章、力強く華やかな第一主題。多層的で豊かな表現の第二主題はとても厚みがあります。ひたむきに語りかけるような第三主題。「死の行進」は荒々しくは無く美しいです。第一主題の再現も荒々しくならず、とても美しいです。第二主題の再現は深く豊かな表現です。コーダは金管がことさら強奏するわけではありませんが、力強く輝かしい見事な響きで終わりました。

カラヤンの全盛期のような表面を磨き上げた演奏では無く、自然体で力みの無い演奏でした。しかし、ウィーンpoが元来持っている美しさや音楽性が見事に生かされてとても美しく見事な演奏になっていました。
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ドナルド・ラニクルズ/BBCスコティッシュ交響楽団

ラニクルズ★★★★★
一楽章、良く歌い深みのある第一主題。トゥッティもゴリゴリとした厚みがあり地獄から湧き上がるような響きです。穏やかで伸び伸びとした第二主題。金管の下降音形は鋭い響きです。金管の壮絶な響きはかなり凄いです。強烈な「死の予告」凄い咆哮です。

二楽章、速いテンポで躍動感があります。音が立っていて楽器の動きがとても克明に表現されています。くっきりとした輪郭で曖昧さがありません。

三楽章、浮遊するような第一主題のA1。前の二つの楽章で聞かせた壮絶な響きとは一転したしっかりと地に足の着いた美しい響き。夢見るようなB1のチェロ。豊かに歌うB2のワーグナーチューバ。切々と語りながら押しては引いてゆく音楽。充実した響きのクライマックス。潮が引いて行くように黄昏て行く音楽。

四楽章、金管が襲い掛かって来るような第一主題。でもバランス良く美しいです。多層的にいろんな楽器が交錯する第二主題。しみじみと語りかけるように歌う第三主題。堂々と重厚な「死の行進」。泉からこんこんと湧き上るように豊かに奏でられる音楽。トゥッティでも決して荒々しくならずに美しい響きとバランスの演奏は見事です。神の世界の扉が開かれるようなコーダ。感動的な最後でした。

トゥッティでは壮絶な響きを聞かせる部分もありましたが、それでもバランスは常に良く美しい響きを保っていました。最後は神の世界を見事に表現した素晴らしい演奏でした。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団 1990年東京ライヴ

ヴァント★★★★★
一楽章、静かでどっしりとした第一主題。トゥッティは低音楽器が分厚くトロンボーンがしっかりと主張する良い響きです。明るく軽い第二主題。第三主題でも金管は強いですが、壮絶な響きにはならず。美しく整った響きです。展開部のトゥッティでもトロンボーンが見事な響きです。第二主題の再現でも余分な力が抜けた自然体の表現ですが、音楽には生命感があります。「死の予告」も混濁も無く美しい響きでスッキリとしています。

二楽章、とても明晰な演奏です。トゥッティでのクレッシェンドも全体のバランスも保ったままで見事なものでした。トリオに入ってもあまりテンポは遅くならずに進みます。大きな波が押し寄せるような音楽の動きです。オケがとても良く鳴っていて気持ちの良い響きの演奏です。

三楽章、注意深い弦の導入。フワフワと浮いているようなヴァイオリンの第一主題A1ですが、音量が上がるに従ってしっかりと地に足が付いて来ます。清涼感があって爽やかです。スピード感があって伸びやかなチェロのB2。柔らかいワーグナーチューバのB2。うねるように絡み合う楽器の動きが見事です。強弱の振幅もものすごく広く、浮遊するような弱音から咆哮する金管まで強烈な振幅です。堰を切ったように溢れ出す金管の凄さ!。シンバルが入るクライマックスも見事なアンサンブルで、キチッとしていました。コーダは良く歌って豊かな表現です。多くの演奏でこの部分で力を失って行く感じを受けましたが、この演奏はとても力のある演奏です。

四楽章、物凄い金管の咆哮とティンパニの強打。でも荒れた響きにはなりません。深く歌う第二主題。動きに力があって、生き生きとした演奏です。「死の行進」はそれまでのゆったりとしたテンポから一転して速いテンポになりました。凝縮された密度の濃い音楽です。神が登場して感動的なコーダ。眩いばかりの輝かしいトゥッティ。

素晴らしいバランスとアンサンブルの精度で、多彩な表現で密度の濃い演奏でした。神が登場する感動的なコーダの導入部分から眩いトゥッティの輝かしい終結に象徴されるような見事な演奏でした。
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ケント・ナガノ/ベルリン・ドイツ交響楽団

ナガノ★★★★★
一楽章、ゆっくりと分厚く克明な第一主題。分厚い低域がとても印象に残ります。揺れるように波打つ第二主題。新鮮で鋭利な感覚の演奏です。ゆっくとしたテンポで濃厚に音楽を描いて行きます。とても巨大な空間を感じさせる伸びやかで豊かな響きの演奏です。次々と泉から音が溢れ出すような「死の予告」。

二楽章、表情が豊かで活発に動く主要主題。細部にいたるまで細密な表現があります。透き通るような透明感の高い美しく伸びやかな響き。ライヴ録音でありながらこれだけ美しい響きは素晴らしいです。トリオもとても豊かな表現で美しく歌います。濃厚な色彩なのですが、とても伸びやかで空間がどこまでも続いているような感じで見事な演奏です。

三楽章、非常にゆっくりとしたテンポで中に浮いているような第一主題A1。ゆっくりと昇って行くA2、とても美しいです。感情が込められて深みのあるB1。穏やかな空をイメージさせるワーグナーチューバのB2。ゆっくりと丁寧に進む音楽にどっぷりと身をゆだねることができてとても心地良い演奏です。トゥッティも荒れること無くとても美しい響きです。暖かくなる第一主題の2回目の再現。シンバルが入る部分はスケールの大きな見事な響きでした。日が暮れていくような寂しさを感じさせるコーダ。

四楽章、空間に大きく柔らかく広がる第一主題。深く感情を吐露するような第二主題。柔らかいですが、深く刻み込むような第三主題。巨大な響きでどこまでも広がっていくような「死の行進」。余裕を残した柔らかい響きなのですが、心に迫って来るような迫力があります。木管も艶やかで伸びやかな表現です。とてもゆっくりと始まるコーダ。ご来光が訪れるような感じです。太陽が燦然と輝き始めて曲が終わりました。

柔らかい伸びやかな響きで、空間にどこまでも広がっていくような巨大なスケールの演奏でした。心に迫って来るような深い表現や密度の濃い表現など、どこをとっても素晴らしい演奏でした。
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サー・レジナルド・グッドオール/BBC交響楽団

グッドオール★★★★★
一楽章、遠くから近づいてくるような第一主題。とてもゆっくりです。雄大なトゥッティ。頻繁にタメがあって音楽の息遣いが感じられます。第二主題もゆっくりで、トロンボーンも余裕を残した演奏です。第三主題もゆっくりで優雅です。とても安らかで穏やかな音楽が続きます。「死の予告」も狂気のような演奏にはなりません。うるさくは無く雄大です。コーダもゆっくりと静かに消えて行きます。

二楽章、ゆっくりと確実な足取りの主要主題。ホルンも咆哮とは無縁の演奏です。この楽章でもタメがあります。トリオもゆっくりとしたテンポで自由に解き放たれたように歌います。テンポも大きく動きます。

三楽章、弱く繊細な第一主題A1。感動的に歌うA2。B1も豊かに歌います。少し響きは浅いですが、広大な空間をイメージさせるワーグナーチューバ。全く力みの無い自然体でありながら、自然で豊かな歌と雄大なスケールがとても心に残ります。全く絶叫しない金管。自然な抑揚で演奏されています。シンバルが入る部分でもトランペットは奥に控えていて絶対に突出して来ません。力みが無くとても自然で美しいコーダ。

四楽章、この楽章もゆっくりで地面から湧き上がるような第一主題。決して絶叫はしませんが、とても雄大です。ゆったりと深く歌う第二主題。第三主題もなだらかで広々とした空間を感じさせます。余裕たっぷりの「死の行進」。タメがあったりもします。何とも言えない余裕たっぷりの穏やかで広大なスケールの演奏で、どっぷりと音楽に浸ることができます。コーダも最初はとても柔らかく最後は少し力の入った演奏でした。

ゆったりと余裕たっぷりでスケールの非常に大きな演奏でした。テンポの動きもあり、歌うところは伸びやかに歌い、トゥッティでは全く絶叫することなく堂々と演奏し切った見事な演奏だったと思います。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、キビキビしたテンポで、コンパクトにまとまった演奏です。N響きもこの頃になると響きに安定感がありますし、美しい演奏です。マタチッチがグイグイと引っ張ります。美しく鳴り響く「死の予告」。弱音部の消え入るような美しさ。

二楽章、この楽章も速いテンポです。オケは咆哮することなく、美しい音を保っています。ハープの存在も際立っていて魅力的です。木管も美しく浮かび上がり、色彩豊かに描かれて行きます。終結部の響きはとても充実したものですばらしかった。

三楽章、現れては消えてゆく第一主題。充実したハーモニー。日本のオケの演奏だとは思えないくらい充実した響きです。天に昇って行くような感覚がすばらしい。優しい第二主題。静かですが切々と語られる音楽に引き込まれます。木管もホールの響きを伴ってとても美しい。テュッティでもブルックナーの音がしています。最高潮の部分も天に昇るような雰囲気をもっていてとてもすばらしい表現です。この世のものとは思えないようなコーダ。

四楽章、柔らかい第一主題。トランペットも少し奥まった感じの響き方です。幻想的な雰囲気の第二主題。とても余裕をもって美しい響きの「死の行進」。再現部の第一主題も冒頭と同様にかなり余力を残した柔らかい響きでした。コーダに入った独特の雰囲気。途中テンポを速めました。とても良い演奏でしたが、全開のパワーも聴きたかったような気もしますが、この当時のN響にこれ以上を求めるのは無理だったのか。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★☆
一楽章、瑞々しく美しい第一主題。巨大なトゥッティ。伸びやかで美しい第二主題。せわしなく追い立てるような第三主題。展開部のブルックナー・ゼクエンツの後のトゥッティはかなり激しいですが、録音も良く美しいです。テンポは基本的には速めで、グイグイと引っ張って行きます。「死の予告」は改訂されたハースやノヴァーク版とはかなり違います。コーダで突然強奏が始まりそのまま終わります。

二楽章、かなり荒っぽい作品ですが、これはこれで魅力があります。とても賑やかな主部です。トリオの後の改訂とはかなり様子が違い、改訂を予感させるような部分はほとんどありません。主部が戻るとかなり激しく壮絶な演奏です。

三楽章、ゆっくりとしたテンポでフワッとした柔らかい音で瞑想するような第一主題A1。微妙にテンポが動くA2。ハープが柔らかく美しいです。B1は速いテンポであっさりと演奏されます。明るい響きのワーグナーチューバ。全体の響きは伸びやかでとても美しいです。シンバルが入る部分も美しく伸びやかで輝かしい響きでした。明確に描き分けられるコーダ。

四楽章、余力を十分の残して美しい第一主題。バランスが取れてとても美しい第二主題。第三主題は抑制的であまり大きく歌いません。「死の行進」は突然テンポが速くなりますが、それでも丁寧で美しい響きです。作品に対して感情的な踏み込みはあまりせずに、とても均衡の取れた美しい演奏を続けています。重厚で輝かしいコーダは見事でした。

感情的な表現を極力抑えて、作品をバランス良く鳴らした演奏でした。とても美しい演奏で、第一稿の粗野な部分はあまり感じませんでした。基本的には速いテンポでしたが、トゥッティの輝かしい響きは素晴らしいものでした。
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ヘルベルト・ケーゲル/中部ドイツ放送交響楽団

ケーゲル★★★★☆
一楽章、とても大きく歌う第一主題。トゥッティも豪快に鳴り響きます。濃厚な表現の第二主題。強烈な金管の咆哮です。ビブラートをかけるトランペットの存在感がとても大きいです。全く遠慮の無い耳をつんざくばかりの金管の咆哮です。これほど激しい「死の予告」は聞いたことがありません。

二楽章、速めのテンポで力強く進みます。ホルンはそれほど咆哮しませんが、トランペットとトロンボーンはとにかく強烈です。弱音部分はスピート感と緊張感があります。トリオに入っても穏やかさよりも緊張感の方が勝っている感じで、緩む感じやのどかさは全くありません。とても鋭く、聞く者を切り捨てて行くような凄みがあります。とても起伏の大きな抉るような表現。

三楽章、フワッとしてはいますが、漂うような雰囲気では無い第一主題A1。この楽章も少し速めのテンポです。暖かい響きすら清涼感のある響きに変化するA2。ビブラートをかけたワーグナーチューバ。彫りの深い演奏で、刻み付けるように克明に描かれて行きます。A1の二度目の再現部分の強奏もやはり強烈です。シンバルが入る部分も全開の物凄い響きです。コーダはこの世に別れを告げるような一抹の寂しさを表現するような演奏です。

四楽章、ここまでの流れからすれば予想通りの金管の咆哮とティンパニの強打。積極的な表現の第二主題。弦の強奏部分は嵐のようです。「死の行進」も強烈で壮絶な演奏です。これだけ強烈に咆哮を続けて良く金管が持つもんだと感心します。弱音部分はフワーッとした柔らかさはあまり無く、強い音です。トゥッティはブルックナーらしい分厚い響きでは無く、低域が薄くトランペットやトロンボーンが突出しています。コーダも強烈な響きでこの演奏で一貫しています。

強烈なトゥッティで一貫した演奏で、色彩感もほぼ一色で塗りつぶされたような感じでした。弱音部分でも柔らかさは無く、強い音でした。神秘的な部分もあまりありませんでしたが、終始強烈な響きの演奏の凄みはありました。
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ウラディミール・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

ブェドセーエフ★★★★☆
一楽章、豊かな残響を伴っていますが、響きの木目は少し粗いです。ゆったりと伸びやかで安らかな第二主題。ロシアのオケらしい爆演にはなりません。トランペットがマルカートぎみに演奏するのが特徴的です。コーダの最後の強奏部分は取って付けたような感じで違和感があります。

二楽章、とても軽く演奏される主部。インバルの演奏に比べると改訂版との違いをはっきりと打ち出している感じの演奏です。ゆったりとのどかなトリオです。初稿の整理されていないオーケストレーションをそのまま演奏している感じでとても不思議な感じがする演奏です。

三楽章、芯のしっかりした第一主題A1。高揚感の豊かな表現のA2。速めのテンポで静かに演奏されるB1。深みはありませんが豊かに歌うワーグナーチューバ。A1の再現はうつろで寂しげです。シンバルが入る前のトゥッティは暴力的な感じでした。この部分は改訂版とは大きく違います。

四楽章、響きが薄い第一主題。金管はあまり咆哮しません。第三主題もあまり大きな表現はしません。「死の行進」も余裕たっぷりの美しい演奏でした。再現部の前のクライマックスもかなり余裕を残した演奏でした。楽譜がそうなっているのか、改訂版の演奏ではテヌートぎみに演奏される部分もマルカートぎみに演奏される部分が多いです。

第一稿の洗練されていない部分をそのまま露出させるような演奏で、改訂版との違いを歴然とさせた演奏でした。この面ではインバルとは対照的です。ロシアのオケにありがちな咆哮も無く、強烈な主張の多いロシアの他の指揮者とも違う作品に語らせる表現でした。
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クラウス・テンシュテット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1981年ライヴ

テンシュテット★★★★☆
一楽章、積極的な表現の第一主題。落ち着いて美しい第二主題。テンポが動いて激しい第三主題。主題によって表現を変えています。ロンドンpoとの録音のような腰高で軽薄な響きではありません。マーラーのように激しく咆哮することは無く、少し余裕を残した響きです。「死の予告」も予想外に軽い演奏でした。

二楽章、少し速めのテンポですが、表現は積極的です。畳み掛けるように迫って来ます。トリオも積極的に歌う演奏です。テンポも動いて情緒的な音楽です。主部が戻るとやはり活動的な演奏になります。シャープで軽快な響きです。

三楽章、しっかりと地に足の着いた第一主題A1。一音一音心を込めるように丁寧なA2。B1も感情を込めて歌います。あまり伸びやかさが無いワーグナーチューバ。2回目のA1の再現はとても豊かに歌います。シンバルが入る部分は分厚い響きですが、全開では無くかなり余裕のある響きです。

四楽章、ついに全開近い咆哮になる第一主題。感情が込められた大きな表現の第二主題。第三主題も大きくクレッシェンドします。「死の行進」も激しい咆哮です。再現部の前のクライマックスも軽々と鳴り響く金管の充実した圧倒的な響きが見事です。第一主題の再現も強烈です。その後も速いテンポで畳み掛けます。暗闇の中に僅かな光が差し込むようなコーダのワーグナーチューバ。最後は渾然一体となって終わりました。

速めのテンポで、テンシュテットらしく感情を込めて深い歌のある演奏でした。また、四楽章の金管の咆哮もベルリンpoの金管の軽々と鳴り響く充実した響きも見事でした。
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ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/ロシア国立シンフォニー・カペラ

ロジェストヴェンスキー★★★★☆
一楽章、とても積極的で大きな表現の第一主題。左右に振られるような第二主題。ロジェストヴェンスキーらしい爆演ではありません。「死の予告」はリミッターがかかったように音が引っ込みます。

二楽章、音が短い弦の主要主題。フルートのミスはありますが、かなり力強く前へ進む演奏です。トリオはゆったりと強弱の変化の大きい、たっぷりとした歌のある演奏です。

三楽章、脱力した第一主題A1。テンポも動いて感情が込められた歌です。波打つような表現のA2。ビブラートが掛かったワーグナーチューバ。B1の再現も豊かな歌でロマンティックです。遠慮なく強奏される金管。A1の2回目の再現も感情でドロドロになるような表現です。この楽章は感情の振幅が非常に大きく、ロジェストヴェンスキーの内面から湧き上がるものを隠そうともせずに、そのまま表現しているような演奏です。シンバルが入る部分もとても情熱的で熱い演奏です。コーダはかなり活発な動きで、静かではありません。

四楽章、 勇壮に鳴り響く第一主題。かなりのエネルギーです。感情の込められた第二主題。「死の行進」もかなり強烈です。第一主題の再現部分にシンバルが入りました。第三主題の再現はゆっくり目です。コーダのワーグナーチューバは少し雑な演奏に感じました。ねっとりと朗々と歌うトランペット。

ロジェストヴェンスキーの感情をぶつけた演奏で、とても良く歌う弱音と強烈に襲い掛かってくる金管のとても振幅の大きな演奏でした。ライヴと言うこともあって金管のミスはかなりありましたが、込められた感情はなかなかのものでした。
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ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、分厚い低音が豊かに歌う第一主題。テンポを速めた第二主題。提示部手前の全合奏はそんなに強くは演奏されませんでした。金管の下降音型もかなり余力をのこしたものでした。「死の予告」はかなり激しい表現でした。黄昏を告げるような終わり方でした。

二楽章、良く歌う冒頭。鮮明な木管の絡み。金管の下降音型が始まる前の弦の強弱の変化など独特のものがあります。泉から絶え間なく水が湧き出すように豊かな音楽が続きます。金管は余力を残した強奏です。

三楽章、深みのある低音に乗って、揺れるような抑揚があるヴァイオリンの主題。夢見るようなクラリネットの下降音型。第一主題の再現の前、弦楽器が強いアタックで演奏しました。天上のメロディのようなワーグナーテューバ。金管が奥に鎮座して、おおらかな響きで全体を包みます。テンポを一段落として、非常にスケールの大きなクライマックスでトランペットが突き抜けてきました。

四楽章、ゆったりとしたテンポで柔らかく演奏される第一主題。ティンパニと弦が主体の「死の行進」。意図的にすごく金管を抑える部分もあります。テンポも時々動きます。再現部の第一主題も弦がとても良く聞こえます。タメも独特のものがあります。コーダの独特の雰囲気。ここでも金管はとても柔らかい。ティンパニのリズムの後、急に目覚めたように金管が強奏しました。

美しい演奏でしたが、訴えてくるものが今ひとつ伝わってきませんでした。

パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★★
一楽章、静かに漂うような第一主題。トゥッティは力みも無く軽い感じです。夢見るように揺れ動く第二主題はとても美しいです。第三主題もしなやかで柔らかいです。都会的で洗練された演奏です。展開部の最後あたりのトゥッティも壮絶な響きにはならず、すっきりと整理されて爽やかな響きです。透明感があって美しい響きです。「死の予告」もすっきりとあっさりとした表現です。トゥッティの壮絶さようり弱音の空間に漂う音楽に重点を置いているようで、都会的でスマートな演奏です。

二楽章、かなり速いテンポです。”鈍重な田舎者”と言う感じではなく、精悍な都会人のようです。トリオは少しゆっくりになりますが、やはりすっきりとした響きでとても洗練されています。主部が戻るととても活動的で動きが活発です。

三楽章、とても自然で潮が満ちて引いて行くような第一主題(A1)。広々と広大なA2。透明感が高く美しいB1。落ち着いて安らかなB2。クライマックスも落ち着いた柔らかい響きでした。コーダも非常に柔らかく美しいです。

四楽章、速いテンポで、トランペットが轟く第一主題。大きな表現で歌う第三主題。「死の行進」はかなり余裕を持った演奏で、壮絶な演奏にはなりません。とても澄んだ響きで精緻な演奏です。コーダの終結部も力の抜けた美しい響きでスッキリとした輪郭の演奏でした。

とても美しい演奏で、洗練された都会的でスマートな演奏でした。ですが、神が現れることはありませんでした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1984年ライヴ

ジュリーニ★★★★
一楽章、積極的に歌う第一主題。チューバがゴリゴリとした響きで支えるトゥッティ。伸びやかな第二主題。ホルンや他の金管が強い響きです。第三主題の最後のトゥッティも激しい響きでした。ウィーンpoらしい凝縮されたような濃厚な色彩感はありますが、ライヴの制約か美しさはあまりありません。泣き叫ぶように激しい「死の予告」。

二楽章、ゆったりとした主要主題。ホルンやトランペットがかなり強く演奏されます。主部は壮大な演奏でした。トリオは一転して穏やかでのんびりとした演奏です。主部がもどって、ホルンの強奏はとても良く鳴り切っていて気持ちが良いです。

三楽章、感情が込められて抑揚する第一主題A1。ゆっくりと一音一音に感情を込めるような丁寧な演奏。Bに入って少しテンポが速くなっているようです。神の降臨をイメージさせるB2のワーグナーチューバ。力を蓄えてクレッシェンドする部分のエネルギーは凄いです。天上界を表現しているような美しく穏やかなコーダ。

四楽章、湧き上るようなエネルギーだ高らかに歌い上げる第一主題。とても色彩感が濃厚な第二主題。壮絶な響きの「死の行進」ですが、オケには余裕があります。コーダは熱気に溢れたものでした。

感情を込めて歌う部分やウィーンpoのエネルギー感に溢れる演奏はなかなか凄みがありましたが、、録音の制限によるものか、極上の美しさは感じることができませんでした。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2007年ライヴ

ハイティンク★★★★
一楽章、静かな暗闇から響いて来るような第一主題。とても重苦しい雰囲気です。トゥッティでも力を温存するように控えめです。一転して明るく開放的になる第二主題。第三主題は少し速めのテンポで切迫した表現です。とてもゆったりとした懐の深い演奏です。「死の予告」はティンパニが激しいですが、全体としては余裕のある演奏です。

二楽章、ざわざわとした主要主題。でもまろやかで柔らかい響きです。トランペットがテヌートぎみに演奏します。いつものハイティンクらしい細かな表現がとても厳しく付けられています。一音一音にとても敏感に反応するオケ。ふくよかで柔らかいトリオ。感情を表に出さずに整然とした演奏です。深みのある響きがとても魅力的です。

三楽章、強調するような表現は無く自然に流れて行きます。神が現れるワーグナーチューバのB2。筋肉質で剛直な演奏です。鮮度が高く濃厚な色彩です。速めのテンポでサクサクと進んで行きます。シンバルが入る部分でも絶叫はしません。コーダはあっさりとしています。

四楽章、トランペットやティンパニは激しいですが、他のパートは落ち着いた響きの第一主題。どっしりと落ち着いた第二主題。涼やかで美しい響きです。第三主題も小細工するような動きなどは全く無く非常に落ち着いた演奏です。「死の行進」も第一主題と同様で荒げるような響きにはなりません。展開部のクライマックスも柔らかく充実した響きです。ただ、あまりにも禁欲的で開放されないもどかしさがあります。暗闇へと沈んで行くようなコーダの冒頭。最後もどのパートも突出すること無くバランス良く柔らかい響きでした。

とても美しくバランスの良い演奏でした。強調した表現は無く、ひたすら美しい響きを追い求めているような感じでしたが、トゥッティでも限界ギリギリの演奏にはならず、かなり余裕を残した美しい演奏は禁欲的で開放されないもどかしさもありました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★
一楽章、ゴツゴツとして筋肉質な第一主題。トゥッティのエネルギーは凄いです。ティンパニの強打も物凄いです。第二主題も硬質です。第三主題はゆっくりと始まり次第にテンポを速めてトゥッティになりました。余分な響きを伴わず骨格がむき出しになっているように強烈で濃厚な「死の予告」。

二楽章、ゆっくり目のテンポでガツガツと深く刻み付けながら進みます。金管を遠慮なく鳴らしてとても豪快です。中間部は無骨な表現です。テンポの動きもあって表現は積極的です。

三楽章、倍音をあまり含んでいないようで、漂うような雰囲気はあまり感じさせない第一主題A1。音に凄く力があって、切々と訴えかけてくる部分の思い入れがとても伝わって来ます。シンバルが入る部分の少し前のティンパニで歪みます。この楽章は金管は抑えた演奏でした。コーダは穏やかさよりも活発な動きが強調されているようです。

四楽章、とても強い音の第一主題。第二主題は大きな表現で歌います。「死の行進」は少し歪みぎみなせいもあって、とても激しく聞こえます。第一主題の再現はゆったりとしたテンポで雄大に演奏されました。静かな部分でも音は強いです。コーダはゆっくりと壮大に壮絶に響きます。特にトランペットが強烈でした。

かなりゴツゴツとした男性的な演奏でした。倍音成分が少ない録音のようで、基音が強く弱音でも強い音の印象です。かなり積極的にテンポを動かしたり表現の幅も広い演奏で、トゥッティのドカーンと来るエネルギー感もなかなかでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第8番3

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、豊かに歌われる第一主題。豊かな響きにオケに厚みを感じます。とても良く歌います。大聖堂に響く残響がとても心地よい演奏です。ティンパニも深い響きです。ライヴとは思えない完成度の高さに驚きます。強奏の後のパウゼで大聖堂に響いた残響が減衰していくのがとても心地よく。ブルックナーの作曲意図が良く分かります。

二楽章、速目でくっきりとした表情です。この楽章でも強奏の後のパウゼで減衰していく残響がすごく印象的で効果的です。パーテルノストロはこの全集のコンサート会場を大聖堂にしたことはとてもよく理解できます。全体的にトランペットは強めですが、ホルンは若干控え目で、咆哮することはありません。強弱の変化に対しても敏感でとても表情豊かな演奏です。ランペットが長く伸ばす音で度々クレッシェンドします。最後は大きくritして終わりました。

三楽章、胴の鳴りが豊かに聞こえる弦楽器。作品への共感を伺わせるとても感情の込められた歌が高揚していきます。豊かな残響のおかげか、テュッティでも押し付けがましくなく、さらりと聞き流せます。

四楽章、冒頭、弦のテンポに少し遅れるブラスセクション。トゥッティでも残響に包まれて、音楽を押し付けてはきません。オケの疲れも出てきたのか、少しミスが出てきました。金管の強奏部分でも音をテヌートぎみに保つこともなく、比較的淡白な表現です。トランペット以外の金管が弱く少しバランスが悪いようです。

豊かな残響で、押し付けがましくない演奏にはそれなりの魅力がありましたが、金管のバランスの悪さはちょっと気になりました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★☆
一楽章、うねるような第一主題。重厚な響きです。一転して明るい第二主題。歌う木管。下降音型は余力を残したものでした。力むこともなく、誇張することもなく、自然体の演奏です。ことさら強調することもない「死の予告」。「あきらめ」を上手く表現したコーダでした。

二楽章、冒頭の弦が音を短めに演奏しました。強奏部分はトランペット以外はかなり抑えぎみです。際立って美しい音色で演奏されているというわけではありません。

三楽章、割と大きめの音量で開始しました。かなり現実的な第一主題です。poco a poco accelあたりから音楽に熱気を帯びてきました。12/8拍子の第一主題を強奏する部分では、ティンパニに豊かな支えの上に豊かな旋律が乗りました。クライマックスの上昇型のアルペッジョも余力を残した豊かで広々とした感じの演奏でした。音量を極端に抑えることのないコーダでした。

四楽章、余力を残した第一主題。泉から湧き出すように豊かな第二主題。速目のテンポで演奏される第三主題。ここでも余力を残した「死の行進」。再現部の第一主題は冒頭の演奏より力強い演奏でした。次第にテンポを上げ音楽が切迫してきます。また、テンポを落としてゆったりとした演奏になりますが激しさが増してきます。 コーダに入ってもそんなに雰囲気は変わりません。最後はトランペットが弱かったですが、全開の演奏でした。

スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★☆
一楽章、とても弱い音からはじまりますが、豊かに歌う第一主題。重厚なトゥッティ。明るく柔らかく透明感のある第二主題。金管は激しいですが、どっしりと落ち着いている第三主題。「死の予告」はトランペットよりもトロンボーンの存在感が大きい演奏でした。重厚な分厚い響きはなかなか良いです。

二楽章、緊張感のある冒頭のヴァイオリンでしたが、主要主題はおおらかで伸び伸びとしていました。ホルンの下降音形は軽く演奏されます。ゆったりと穏やかですが、繊細な表現のトリオ。主部が戻ると、トゥッティでも軽く演奏される部分と思い切った強奏とがあります。

三楽章、しっかりとした存在感の第一主題A1。広々とした雰囲気のA2。あまり伸びやかさが無いワーグナーチューバ。トゥッティはあまり激しい演奏では無く、美しい響きです。シンバルが入る部分も余力を残した美しい響きでした。コーダはこの世に別れを告げるように黄昏て行きます。

四楽章、トロンボーンの強奏に比べると控えめなトランペットの第一主題。重い第三主題。「死の行進」はティンパニの強烈な打ち込みで速いテンポで進みます。第一主題の再現の途中で大きくテンポを落としましたが巨大なスケール感はありません。間延びしたようなところもあったコーダでした。

テンポの動きやいろんな表現のある演奏でしたが、スケールはあまり大きくありませんでした。
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サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★☆
一楽章、大きな息遣いで歌う第一主題。明るくさっぱりとした表現で新鮮な第二主題。録音は古いですが、引き締まった良い音で鳴っています。トゥッティはたくさんの音は聞こえて来ませんが、硬質な響きで力強い音がしています。激しくトランペットが鳴り響く「死の予告」。コーダもとても良く歌います。

二楽章、表現の大きい主要主題。テンポは速いです。この楽章でもトランペットが強いです。生き生きと動く木管。弦もエッジを効かせて主張します。テンポは落ちますがとても活発に動くトリオ。主部が戻ると活発で推進力のある演奏になります。

三楽章、ザラザラとしたヴァイオリンの第一主題A1。力強くクレッシェンドするA2。豊かに歌うB1。A1の再現のpoco a poco accel. はかなり速いテンポまで追い込んで行きます。トゥッティでも音が整理されていて、壮絶な不協和音にはなりません。基本的には速めのテンポの演奏です。シンバルが入る前もかなりテンポが速くなりました。

四楽章、 突然トランペットが突き抜けて鳴り響く第一主題。「死の行進」へ向けてテンポを速めて力強い演奏でした。これまでの楽章でも弦のアタックが強く短めに演奏する部分がありましたが、この楽章でもフルートが強いアタックで演奏する部分がありました。第三主題の再現は物思いにふけるようにゆっくりと演奏され次第に速くなります。コーダは日の出前の暗闇から徐々に明るくなってご来光が現れて、それが燦然と輝くようなイメージでしたが、金管の響きがあまり輝かしく無く、枯れた響きだったので、光の完全な勝利とは言えない感じでした。

大きな表現や独特の音符の処理などもありましたが、録音によるものなのか、音が整理されていて多層的な響きや壮絶な不協和音はあまり聞けませんでした。
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カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、奥行き感の浅い録音で、金管がすごく近いです。速いテンポですが、とても良く歌います。第三主題の前の経過はとても丁寧にritしました。すごく近い位置にいるトランペットが不自然です。激しいfff。再現部の第二主題などはテンポが速くせわしない感じもあります。余力を残した「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。近くにいるトランペットが軽く、奥まったホルンが激しく演奏する不自然さ。強奏で終った時にホールに残る残響が美しい。ホルンの下降音型の前に弦のクレッシェンドをしますが、クナッパーツブッシュの演奏ほど極端ではありません。

三楽章、とても現実的な第一主題。上昇型のアルペッジョもすごくテンポが速い。木管もワーグナーテューバも現実的な響きで「神」を聞くことはできません。poco a poco accelの部分では多くの楽器が入り交ざりとても豊かな響きを作り出しました。クライマックスは壮大でした。

四楽章、全開の第一主題。この楽章ではトランペットが飛びぬけることがなくバランス良くなりました。第二主題もコントラバスがゴリゴリととても積極的な表現です。第三主題も速い。「死の行進」直後のホルンがとても積極的に歌いました。テュッティはなかなか充実した響きです。あまりにも音楽の展開が速く、聴き手側が消化不良になりそうです。再現部の第一主題はテンポが何度も動きました。その後もテンポはよく動きます。あっけなく終りました。

私には、演奏に深みが感じられず残念でした。

ダニエル・バレンボイム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

バレンボイム★★★
一楽章、重厚な響きで探りながら始まる第一主題。柔らかく伸びやかな第二主題。トゥッティでも咆哮することは無くバランスの良い余裕のある響きです。「死の予告」はやはり咆哮はしませんが、壮絶な雰囲気はあります。

二楽章、かなり速いテンポで慌ただしい演奏です。トリオはゆったりとしたテンポになり豊かに歌います。主部が戻るとまた、、速いテンポで落ち着きの無い演奏になります。

三楽章、とてもゆっくりで小さい音で漂うような第一主題A1。注意深い歌い回しのA2。ゆったりと歌うB1。シンバルが入る部分はあっさりとしていてあまり厚みもありませんでした。演奏は淡々と進んで行きます。

四楽章、充実した美しい響きの第一主題。見事に鳴り響くベルリンpoはやっぱり上手いです。「死の行進」は少しテンポを速めて力強い演奏でした。特に強い表現はありませんが、美しく進んで行きます。コーダの最後は凄くテンポが速くなってお祭り騒ぎのような感じになりました。

充実した見事な響きで安定感のある演奏でしたが、何故か四楽章のコーダの最後が凄く速いテンポになってお祭り騒ぎのようになってしまったのが、どうしてなのか良く分かりませんでした。
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フランツ・ウェルザー=メスト/グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★
一楽章、最初の二つの音を短く演奏する独特の表現の第一主題。ダイナミックなトゥッティ。速めのテンポで積極的に歌う第二主題。第三主題はゆっくりと一音一音刻み付けるような表現です。悲鳴を上げるような「死の予告」。

二楽章、トリオはゆっくりとしたテンポで丁寧に描いて行きます。

三楽章、柔らかいですが、漂うような感じは無い第一主題A1。あまり伸びの無いワーグナーチューバ。B1、B2の再現の前の盛り上がりで弦がスタッカートぎみに演奏しました。A1の二回目の再現は暖かくなります。トゥッティはあまり強くありません。豪快に鳴るシンバル。金管も輝かしく鳴り響きます。続く弦は音を短く演奏します。

四楽章、壮絶でトランペットが強く咆哮する第一主題。第二主題でも弦が音を短く演奏する部分がありました。ゆったりと力の抜けた第三主題。軽く演奏される「死の行進」。木管も音が短い表現があります。テンポの動きもあって、踏み込んだ表現もあります。テンポが大きく動いてリズムの扱いも独特です。コーダの最後も軽く演奏されました。

頻繁なテンポの動きや独特のスタッカートやリズムの処理など強い個性を感じさせる演奏でしたが、この作品の表現としてはあまり納得できる表現ではありませんでした。
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カルロス・パイタ/フィルハーモニック交響楽団

パイタ★★★
一楽章、速いテンポでサラッと歌う第一主題。笑うように吠えるトゥッティ。第二主題も第三主題もテンポが速く、トゥッティ強烈で全く落ち着きがありません。とにかく吹きまくる金管には開いた口がふさがりません。「死の予告」などはおもちゃ箱をひっくり返したような大洪水です。

二楽章、この楽章もすごく速いテンポで進みます。速いテンポで下品に吠える金管。トリオはゆっくりとしたテンポで予想外に味わいがあります。それでも金管は必要以上に咆哮します。最後はテンポを速めますが、これがまた全く落ち着きの無いバタバタしたものでした。

三楽章、はっきりとした弦の刻み。硬い音で強めな第一主題A1。涼やかで美しいA2。ここまでの二つの楽章の下品さからはちょっと意外な神聖な演奏です。それでもホルンは強烈に咆哮します。ここまで吹かなくてもと思うくらい必死な金管。二回目のA1の再現の後のトゥッティはもう絶叫です。急にテンポが速くなったり自由自在(やりたい放題)な演奏です。シンバルが入る部分は真夏の太陽がギラギラと照りつけるような熱く強烈なものでした。コーダはとても良く歌うのですが、テンポが速めであまり味わいがありません。

四楽章、慣れてきたのか、第一主題はあまり強烈には感じませんでした。第二主題はとても頻繁に楽器が入れ替わって色彩感は豊かですが、ちょっと忙しい感じがあります。第三主題は速いテンポがさらに速くなります。「死の行進」は凄い速さで乱暴に演奏する金管。テンポが結構動きます。それにしてもここまで金管を強奏させる必要があるのでしょうか?。金管の奏者たちの血管が切れるのではないかと思わせる程の強烈この上ないコーダでした。

パイタのやりたい放題の強烈な爆演でした。ここまでやってしまうと神の世界の崇高さとは全く無縁の演奏している人たちの必死さが映像として浮かんできて、とても人間臭い演奏になってしまいます。
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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

クーベリック★★☆
一楽章、少し遠くから響いてきて、あまり大きな表現の無い第一主題。トゥッティは咆哮するような壮絶な響きでは無く、余裕のある節度のある響きです。慌ただしく動く第三主題。展開部のトゥッティはかなり激しいようですが、音場感が少し遠いので、壮絶さは伝わって来ません。「死の予告」はトランペットが強く抜けて来ます。

二楽章、ほどほどに動きのある主要主題ですが、やはり遠くから響く感じであまりはっきりとした動きは分かりません。トリオはあまりのどかな雰囲気では無く、ここでも活発な動きです。

三楽章、弱音で演奏されますが、はっきりとした存在感の第一主題A1。速めのテンポでサクサクと進みます。内に秘めたようなB1。硬い響きのワーグナーチューバ。デッドな録音の問題もあるのだと思いますがトゥッティの金管のバランスがあまり良くない時もあります。シンバルが入る前に間があって、シンバルが炸裂します。トランペットが強く突き抜けました。

四楽章、ここでもトランペットが強い第一主題。淡々とした表現の第二主題。第三主題の表現も控え目です。「死の行進」も全開にはならず、余裕を残した響きです。速めのテンポであまり深い味わいはありません。第三主題の再現からテンポが速くなりました。コーダの最後は全開になりましたが、少し投げやりな感じの演奏になってしまいました。

オーソドックスな演奏で、特に大きな表現などは無く淡々と進む演奏でした。あまり表現に深みが無く、最後も投げやりで雑な演奏になってしまいました。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、すごく積極的に歌われる第一主題。トゥッティでの響きの厚みはありません。速めのテンポで弱く優しく演奏される第二主題。第三主題も速いテンポで演奏されます。トゥッティの響きは浅く、奥行き感がありません。激しい「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。ホルンも間接音を含まず奥行き感がなく前面に出てきてしまいます。トリオはテンポも動き歌います。ハープはあまり強調されていません。スケルツォ主部が戻り再び速いテンポになります。ホルンのマイク位置が近いのか、かなり強調されています。テンシュテットらしい濃厚な表現はあまり感じません。

三楽章、第一主題は完全にピッチが合っていないような透明感の不足した響きでした。くっきり浮かび上がるワーグナー・チューバ。テンシュテットのマーラー演奏などに見られるような作品への深い没入はあまり感じられません。淡々と演奏が進んで行きます。第一主題の二回目の再現も深みがありません。クライマックスへ向けてテンポを速めてクライマックスで元のテンポに戻しました。クライマックスは打楽器も効果的で壮大なもので素晴らしかったです。コーダはたっぷりと濃厚な表現でした。

四楽章、第一主題の色彩感が乏しく、モノトーンのような感じがします。第三主題はテンポも動いて、切迫感を感じさせるものでした。ホルンが激しく咆哮する「死の行進」。テンポはよく動いています。コーダの冒頭は霧の中から聞こえてくるような幻想的な雰囲気がとても良かったです。コーダでテンポが動きます。

テンシュテットらしい作品への没入が感じられない演奏で、残念でした。

ピエール・ブーレーズ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ブーレーズ★★
一楽章、表情豊かに大きく歌う第一主題。響きが少し緩んだ感じがする第二主題。トゥッティはあまり大きなエネルギーを感じません。豊かな残響でとても巨大な「死の予告」。

二楽章、速いテンポで軽く演奏される主要主題。響きが豊かなのですが、その分音の密度が薄れていて、色彩感も薄い感じがします。中間部も密度の薄い音で淡々と流れて行きます。響きが豊かなのに深みや奥行き感がありません。

三楽章、適度に歌う第一主題A1。A2も感情が込められた歌なのか、ブーレーズの昔のイメージとは違う表現です。チェロのB1は淡々としていますが、やはり音の密度が薄いです。ウィーンpoらしい凝縮された濃厚な色彩感は表現されません。トゥッティは音が拡散して力が集中しません。シンバルと共に登場するトランペットは高らかに伸びやかで強烈な演奏でした。

四楽章、フワッとしていますが、厚みのある響きで躍動感のある第一主題。第二主題も第三主題も動きが強調されているようで、とても活発です。「死の行進」はモワーッとした響きの中からトランペットが響いて来ます。再現部の前の巨大なクライマックスですが、木目の粗い響きがとても気になります。巨大な響きのコーダでしたが、膨張した響きでこの演奏を象徴するような締まりの無い最後でした。

教会での録音のようですが、残響が多く響きが緩んで木目の粗い芯の無い響きになってしまいました。密度が薄く濃厚な色彩感のウィーンpoの特徴を殺してしまっているような感じがしました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第5番

ブルックナーの交響曲第5番は、「対位法の壮麗な大聖堂」とも称される、荘厳で複雑な構造を持つ作品です。彼の交響曲の中でも特に独特な形式美と精神性があり、聞く人に深い印象を与えます。この曲は、彼の作曲技法や精神性が集大成されたものとも言えます。

1. 第1楽章:Adagio – Allegro

静かに始まる序奏で、ブルックナーらしい宗教的な神秘性が漂います。ゆっくりとしたテンポで、厳かな空気が広がり、やがて力強い主部が展開されます。ここでは、対位法的な要素が現れ、さまざまなテーマが絡み合いながらドラマチックに進行していきます。内省的でありながらも、希望と力強さを感じさせる楽章です。

2. 第2楽章:Adagio

ブルックナーの交響曲の中でも特に美しいとされるアダージョ楽章です。静かで穏やかなメロディが心に深く響き、ブルックナーの宗教的な敬虔さが表れています。各楽器が対話するようにメロディを紡ぎ、感情が徐々に高まっていくのが印象的です。重厚で、壮麗な響きが全体を包み、崇高な雰囲気を醸し出します。

3. 第3楽章:Scherzo – Molto vivace (Schnell)

このスケルツォ楽章は、活力に満ちたリズムと印象的なテーマが展開されます。田園風の趣があり、どこか牧歌的な雰囲気も感じさせますが、その一方で力強さも持っています。特にリズムの変化や複雑な構造が特徴で、まるで舞曲のように進んでいきます。ブルックナー特有のユーモアや、豊かなリズム感が楽しめる楽章です。

4. 第4楽章:Finale – Adagio – Allegro moderato

最終楽章はこの交響曲の真髄で、対位法が複雑に駆使され、様々なテーマが壮大に織り成されます。まさにブルックナーの作曲技法の頂点を示す内容で、楽章の終盤に向かって緊張感とエネルギーが増し、壮麗なクライマックスへと到達します。楽曲全体のテーマが回帰し、荘厳な響きで力強く閉じられます。このフィナーレは、ブルックナーが音楽を通して祈りを捧げるような崇高な雰囲気を醸し出しています。

全体の印象

交響曲第5番は、ブルックナーが構築した「音楽の大聖堂」とも言える作品です。厳かな宗教性と、彼独特の対位法的な手法が際立ち、重厚で荘厳な音楽が聴き手を圧倒します。

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第5番名盤試聴記

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、はっきりとしたコントラバスのピツィカート。序奏も極めて現実的な響きです。金管のコラールの最後をデクレッシェンドしました。一体感があってとても良いアンサンブルの第一主題。トゥッティでは金管の見事な響きを聞くことができます。強弱の変化に富んだ第二主題。木管楽器がロウソクの炎が次々と燃えるように浮かびあがります。第三主題もオケに一体感がありとても緻密なアンサンブルです。遠くから響くようなホルンも美しい。トゥッティの響きは本当にすばらしい美しさです。コーダで演奏される第一主題でティンパニがクレッシェンドしました。見事な響きで輝かしく第一楽章を終えました。

二楽章、深みのある弦のピツィカート。とてもゆっくりと演奏されるオーボエの主要主題。ブルックナーの「非常にゆっくりと」との指定に沿うのもなのか。沈み込んで行くクラリネット。広々と広がる草原をイメージさせるような副主題。頂点でも広大な雰囲気でした。このテンポの遅さには惹かれるものがあります。ミュンヘンpoもこの遅いテンポにも全く乱れることなく演奏を続けています。頂点でトランペットのクレッシェンドやホルンの咆哮など濃厚な色彩が美しい。

三楽章、第一主題の大きなクレッシェンド。ゆったりとした第二主題。途中から激しいアッチェレランド。シルキーで滑らかな弦が美しい。テンポはかなり大きく動いています。ライヴでもノーミスで緻密なアンサンブルを聴かせてくれるミュンヘンpoの技術も凄いです。テンポが遅いのでいろんな音が聞こえてきます。

四楽章、ゆっくりと演奏されるクラリネット・ソロ。二楽章の第一主題も非常にゆっくり演奏されます。第一主題もゆっくり目です。透明感のある第二主題も遅めのテンポで演奏されます。凄く力強いティパニの打撃から始まった第三主題。金管のコラールは二つ目の音を弱く演奏しています。トゥッティでのブラスセクションは良く鳴ります。コーダでも圧倒的な輝かしい響きです。

ゆったりとしたテンポで密度の高い音楽を最後の圧倒的なコーダへと運ぶ音楽はすばらしいものでした。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、深みのあるコントラバスのピツィカート。柔らかい序奏。すごくバランスが良く美しい金管のコラール。美しい上に色彩感もとても豊かです。第一主題の表情も豊かです。すばらしい厚み、トゥッティではトロンボーンも聞こえてきますが、とてもきめ細かい響きでとても美しい!オケの格の違いを見せ付けられます。明るく伸びやかな第三主題も濃厚で美しい。展開部の手前の弦のトレモロに強弱の変化がありました。楽器の呼応が有機的に結びついており、生命感に溢れた演奏です。展開部、再現部ではテンポの動きもあります。特に再現部ではこれまで演奏してきた主題を印象付けるようにゆったりとテンポを落として演奏します。コーダの入りは少しテンポを速めましたが、第一主題が完全な形で現れる部分ではテンポを落としました。そして終結に向けてテンポを速めて終りました。

二楽章、歌うオーボエ、バックの弦のピツィカートも積極的に強弱の変化を付けています。深々とした弦の副主題。うねるように頂点に登りつめます。再現される副主題が心を開放してくれるように優しく奏でられます。オケに一体感があってとても美しい。トロンボーンのコラールも控え目ながら美しい響きでした。

三楽章、第二主題に入ってもそんなにテンポは落とさずに演奏しています。展開部の第二主題はテンポを落としてゆったりと演奏しました。ティンパニが効果的に強弱の変化を強調します。テンポの変化も絶妙で音楽に酔いしれることが出来ます。

四楽章、幻想的な雰囲気の序奏。控え目で美しいクラリネット。分厚い響きの第一主題。軽快に踊るような第二主題。速めのテンポで演奏される第三主題。続く金管の強奏も柔らかく美しい。最初の頂点は控え目で柔らかい響きで頂点の最後はテンポを落としました。突然音量を落としたりする部分もあり驚かされます。トゥッティの重厚なクライマックスはすばらしい響きです。圧倒的ですが、すごく美しい響きに驚かされます。

一貫して美しい響きで、トゥッティでも重厚で圧倒的なクライマックスがすばらしい演奏でした。

朝比奈 隆/東京交響楽

朝比奈★★★★★
一楽章、弱く深みのあるコントラバスのピツィカート。すごく神秘的な弦の弱奏。バランスの良い金管のコラール。微動だにせずインテンポでがっちりと音楽を作って行きます。歌う第一主題。自然の妖精が戯れるような静寂感のある第二主題。深い響きが印象的な第三主題ですが、ホールの関係か少しくすんだような響きで色彩感には乏しい演奏になっています。トゥッティでも金管の響きは美しい。

二楽章、自然な抑揚のオーボエの主要主題。深い響きの副主題。力みがなく自然に頂点へと盛り上がる演奏。どっしりと構えたテンポと必要以上に強奏させない金管がとても安定した感覚を与えます。木質系の暖かみのある響きで、トゥッティでも柔らかい響きです。

三楽章、速めのテンポで始まりました。テンポを落としてゆったりと第二主題。高揚に伴ってテンポが速くなります。色彩感には乏しいですが、自然体で堂々とした安定感のある演奏です。金管はかなり強奏していますが、音は荒れることがなく、バランスの良い美しい響きです。テンポの変化も自然で違和感がなく安心して音楽に身をゆだねていることができます。十分に自然を感じさせる音楽です。

四楽章、ここでも幻想的な序奏が再現されます。ゆったりとした第一主題はコントラバスの音にあまり力がありませんでした。祈りのような美しい金管のコラール。どっしりとして動かないテンポが曲に重量感を与えています。金管の強奏も突き抜けて来ることはなく、バランスの良い演奏です。コーダの最後もとても美しい響きでした。

どっしりと構えてスケールの大きな演奏はとてもすばらしいものでした。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

インバル★★★★★
一楽章、森の中に霧が立ち込めるような柔らかく伸びやかな序奏。金管も伸びやかでダイナミックレンジが広いです。豊かに膨らむ第一主題。伸びやかな金管のトゥッティはとても美しいです。静かに戯れるような第三主題。サラッとしたキレの良い音でブルックナーにしては重量感が足りないかも知れませんがとても良い音で鳴っています。テンポは速めですが、快速と言う感じです。

二楽章、伸びやかで泉が湧き上るように豊かな副主題。複雑な響きもとても整理されていてスッキリと響きます。

三楽章、とても活動的で強いエネルギーの第一主題。優雅な第二主題。金管は強いですが、音放れが良くとてもキレのある響きです。コーダはかなり激しいです。

四楽章、ザクザクと爪あとを残すように刻まれる第一主題。軽いですが、美しい第二主題。ティンパニが深い響きですが、金管の明るくスッキリとした響きが爽快な第三主題。コラールもとても良く鳴っていて気持ちの良い響きです。展開部のフーガも重なり合う旋律がくっきりと浮かび上がり見事です。実演で聞ける伸びやかな響きがかなり再現されていてとても美しいです。コーダでは多層的に絡み合う楽器がそれぞれ伸びやかに圧倒的なクライマックスを築きます。

伸びやかで美しく柔らかい響き。低域の分厚い響きはありませんが、輝きのある圧倒的でスッキリと音離れの良い演奏は見事でした。
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ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

アーノンクール★★★★★
一楽章、かなり現実的で実在感のある序奏。大きなエネルギーで力強い金管のコラール。大きな表現で歌う第一主題。第二主題も積極的に表現しています。第三主題も波打つように増減します。展開部に入って美しいホルンのハーモニーや柔らかくなったり鋭くなったりと変化するフルート。遠慮なく襲い掛かってくる金管。ダイナミックの変化の幅はとても大きいく充実した美しい響きです。

二楽章、弦のピツィカートもオーボエの主要主題も大きく音量を変化させて歌います。厚みがあって豊かに湧き上がるような副主題。それぞれの楽器がくっきりと浮かび上がり、とても美しいです。弱音部の美しさと金管の激しさの対比も見事です。

三楽章、速めのテンポで豊かな表現の第一主題。第二主題は大きく構えてダイナミックです。三拍子ですが、とても力強い足取りの演奏です。中間部は豊かでチャーミングな表情です。美しく豪快に鳴り響く金管もとても魅力的です。

四楽章、第一楽章同様に実在感のある序奏です。on、offのはっきりとした第一主題。アクセントと抜くところの変化があり、明快な表現です。活発な動きで軽快な第二主題。どっしりとしていますが、かなり強い第三主題。金管のコラールはまろやかで充実した響きで美しいです。ウィーンpoらしい一体感があり、しかも濃厚な美しい色彩を失わない演奏は見事です。広大なスケールのコーダです。

ウィーンpoの美しい響きと豊かな表現の歌のある演奏でした。四楽章の広大なスケールのコーダも見事でした。
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ジュゼッペ・シノーポリ/シュターツカペレ・ドレスデン

シノーポリ★★★★★
一楽章、とても柔らかいですが、実在感のある序奏。トゥッティも金管のコラールもとても柔らかいです。第一主題もとても柔らかいです。トゥッティは雄大で金管はかなり余力を残した美しい響きです。伝統あるオケにある程度任せたような自然体の演奏で、誇張された表現はありません。金管は全開ではありませんが、熱気を感じさせる演奏です。

二楽章、感情が込められて非常に美しく振幅も大きな主要主題。しみじみとした深みのある副主題。この副主題も非常に美しいです。途切れることなく湧き上ってくるような豊かな音楽です。六連符の上に乗る主要主題はすごく遅いテンポで濃厚に演奏されます。コラールはうねる海の中で揺られるような壮大なものです。

三楽章、ダイナミックで濃厚な第一主題。効果的なテンポの動き。一転して穏やかな第二主題。前のめりで積極的な表現の演奏です。

四楽章、柔らかく溶け合って美しい序奏。第一主題もガツガツと引っかかることなくなだらかで美しいです。軽快ですが、洗練されて美しい第二主題。豊かにあふれ出すような第三主題。強烈な炎を吹き出すような熱気ではありませんが、ジワジワと熱さが伝わってくるような演奏です。軽々と伸びやかに鳴り響くトゥッティ。壮大で圧倒的なコーダ。

自然体の演奏でしたが、二楽章の六連符に乗る主要主題の非常に遅いテンポなど独自の表現もありました。シュターツカペレ・ドレスデンの非常に美しい響きを見事に生かした演奏には心から満足しました。
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ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

ケンペ★★★★★
一楽章、とても鮮明でキリッとした序奏。枯れた響きの金管。大きな表現で躍動する第一主題。ブルックナーらしく自然を感じさせる第二主題。金管が咆哮するような荒々しさはありませんが、自在なテンポの動きもあり、ゆったりとした部分やアッチェレランドの緊張感など、多彩な表現です。

二楽章、余韻を伴って少し遠くから響くようなオーボエの主要主題。とうとうと流れるような副主題。トランペットやトロンボーンは神々しいです。

三楽章、第一主題も第二主題も躍動感があって強いエネルギーで迫って来ます。金管は決して咆哮しませんが、音楽に強い推進力があって、ケンペの演奏にしては、攻撃的で鋭い刃物で切られるような迫力です。

四楽章、コントラバスが強めで重量感のある第一主題。第三主題でも決して絶叫はしません。とても抑制の効いた演奏です。美しい金管のコラール。モノトーンの濃淡だけで描かれているような色彩感ですが、統一感のある美しい演奏です。熱っぽく壮大なコーダ。

自在なテンポの動きと、決して絶叫しない余裕のある美しい響きで壮大なクライマックスを築き上げる演奏でした。モノトーンの統一感ある響きも素晴らしいものでした。
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リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

シャイー★★★★★
一楽章、フワフワと漂うような序奏。豊かな残響と深みのある濃厚な色彩。緻密でしかもスケールの大きな第一主題。憂鬱な第二主題。明るく日が差すような第三主題。透明感が高く清涼感のある美しい演奏です。コーダでも全開にはならず余裕のある美しい響きです。

二楽章、キッチリと整ったアンサンブルを聞かせる主要主題。分厚く深みのある副主題。瑞々しさをたたえた美しい演奏です。とても情報量が多くいろんな音が聞こえて来ます。六連符に乗って演奏される主要主題はとてもゆっくりと演奏されます。その後登場するトランペットは熱気をはらんだ演奏です。

三楽章、豊かな響きで美しい第一主題。第二主題も潤いがあって美しいです。かなり金管が強烈に演奏していますが、残響を伴っているのであまり激しく聞こえません。

四楽章、ここでも漂うような柔らかい序奏。第一主題も伸びやかで柔らかいです。第三主題は余裕のある広々とした響きです。。作為的な表現は無く、作品と正面から向き合っているような演奏です。金管のコラールも美しいですと、その後に続く弦もとても厳粛です。バランス良く美しく鳴り響くオケ。コンセルトヘボウの美しさを最大限に引き出した演奏で、見事です。

小細工無しにコンセルトヘボウの美しさを最大限に引き出したバランスの良い演奏は見事でした。
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フランツ・ウェルザー=メスト/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★★★
一楽章、幽玄な雰囲気の序奏。巨大なスケールのトゥッティ。豊かな残響を伴って大きく歌う第一主題。第二主題のピィツィカートも柔らかく美しいです。ヴァイオリンのほの暗く沈んだ表現もとても良いです。第三主題は少しテンポを速めて積極的に表現します。その後の盛り上がりもスピード感があります。展開部に入っても色んな音が有機的に結びついて生命感に溢れています。オケも整然と鳴り響きます。とてもロンドンpoだとは思えないような渾身の演奏です。第一主題の再現はかなりテンポが速いです。コーダも豪快に鳴り響く金管とティンパニの激しいクレッシェンドと聞き所もたくさんあります。

二楽章、オーボエの主要主題の最後にピィツィカートが大きくクレッシェンドしました。大河の流れのように豊かな副主題。金管も瑞々しく伸びやかで非常に美しいです。二度目の副主題は一度目よりも柔らかく伸びやかに歌います。オケも献身的で積極的な演奏を展開しています。

三楽章、緊張感のあるテンポの動きの第一主題。大胆で豪快な金管の咆哮。透明感があって美しい中間部。敏感なオケの反応。この楽章でも最後にティンパニが強烈なクレッシェンドをしました。

四楽章、控えめで薄い第一主題。第二主題はテンポが速く颯爽と進みます。コラールも速めのテンポで力強いです。清涼感があって快速で壮大なフーガ。速いテンポの中で豪快に鳴り響く金管のすさまじい演奏です。

基本的に速めのテンポで颯爽と進む演奏で、オケも豪快に鳴り響く力強く積極的な表現の演奏はとても魅力的でした。
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クルト・マズア/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

マズア★★★★★
一楽章、比較的大きな音量で実在感のある弦の序奏。金管は奥まっています。柔らかく丁寧に演奏される第一主題。盛り上がる部分ではテンポを落としました。第二主題は微妙な表情が付けられています。ゆったりとしていて豊かな表情の第三主題。分厚いピラミッド状の柔らかいトゥッティ。ゆったりとスケールの大きな演奏にオケの渋い響きがマッチした良い演奏です。

二楽章、淡々と演奏される主要主題。深みのある副主題。やはりオケの渋い充実した響きはとても魅力的です。二度目の副主題も非常に美しいです。トランペットの主要主題も遠くから伸びやかで穏やかです。

三楽章、弦の刻みの中を浮遊するような木管の第一主題。一転してのどかな第二主題。さらにテンポを落として音量を上げながらテンポを速めて高揚します。ゆっくりから少しずつテンポを速める部分は絶妙でとても良いです。

四楽章、この楽章でも第一楽章と同じで大きめの音量で実在感のある弦。クラリネットは突出せず弦から少し浮き出す程度です。落ち着いたテンポで穏やかな第一主題。チャーミングに動く第二主題。ゲヴァントハウスの柔らかく懐の深い響きに魅了されます。奥深いところから熱っぽく響いてくる金管もとても魅力的です。第二主題の再現はゆったりととても伸びやかで美しいです。オケの美しい響きと、ゆっくりと丁寧な歩みはとても心地良いものです。余裕があって雄大なコーダ。

あまり期待していなかったのですが、オケの非常に美しい響きと、ゆったりとしたテンポを基調にして、絶妙なテンポの動きのある演奏はとても充実していました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/BBC交響楽団

ホーレンシュタイン★★★★★
一楽章、実在感のある冒頭。トゥッティは金管が奥まっていて広い空間を感じさせるスケールの大きな響きです。速いテンホですが豊かな起伏のある表現の第一主題。第二主題の弦のピィツィカートも強弱の変化が大きく積極的な表現です。硬いマレットのティンパニもとても良い響きで演奏を後押ししています。

二楽章、速めのテンポで濃厚な表現の主要主題。深々とした響きの副主題。ホーレンシュタイン独特のゴリゴリとした硬質な響きですが、雄大なトゥッティです。金管が鳴り響く夜空にヴァイオリンがキラキラと輝く星のように美しいです。

三楽章、舞うように活発な第一主題とは対照的にどっしりと落ち着いた第二主題。弱音も集中力が高く強い緊張感を感じさせます。軽快でチャーミングな中間部。最後は遠慮なくドカーンと入るティンパニと硬質で強くく鳴り響く金管が見事です。

四楽章、浮遊感のある弦に溶け込むようなクラリネット。重量感があって重い足取りの第一主題。軽快で優しい第二主題。ライブですが、オケの状態がとても良かったのではないかと思います。非常に充実した演奏です。コーダもとてもスケールの大きな演奏です。

作品と正面から向き合った堂々とした演奏でした。硬いマレットのティンパニがとても良い音でした。オケの状態もとても良かったようで、充実した演奏は見事でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第5番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第5番名盤試聴記

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、重いコントラバスのピツィカート。かなり現実味のある序奏です。若干のアンサンブルの乱れはありますが、輝かしい金管。かなり凄い集中力が音にこもっているような凄味を感じさせる演奏です。第二主題の弦のヒツィカートにも集中力を感じさせます。第三主題はゆったりとしたテンポで伸びやかです。金管のコラールは不安定な感じでした。再現部の第二主題はテンポを落としました。コーダはテンポを速めています。コーダのティパニのロールは突然奏者が目を覚ましたかのように強烈でした。

二楽章、遠くから響くようなオーボエの主要主題。バックの弦のピツィカートも一音一音刻み込むように強い力を持っています。柔らかく美しい弦の副主題。この時代の日本のオケの技術水準は現在のレベルには比較にならないほど劣っていたと思うのですが、この演奏からはそのような未熟さは感じさせません。すばらしい集中力で聴き手を引き込みます。テンポも動いてとても積極的に音楽を奏でています。物悲しい主要主題の雰囲気もよく表しています。

三楽章、ゆったりとしたテンポで開始しました。音楽の高揚に伴ってせきたてるようにテンポが速くなります。演奏に熱が入って来たのか、金管が最初に比べるとかなり強く吹くようになってきました。第二主題になってもそんなに極端にテンポを落としていません。朝比奈の晩年のインテンポとは違うテンポの動きが音楽を生き生きとさせています。また、高い緊張感を維持してすごい集中力です。展開部の第二主題はテンポを落として演奏しています。

四楽章、ゆったりとしたテンポの第一主題。軽快で美しい第二主題。テンポは微妙に動いています。この楽章の半分を過ぎたあたりから金管がかなり強く吹くようになります。再現部のクライマックスは朝比奈らしい巨大なスケール感が見事です。コーダは少しテンポを落として壮大なスケールで曲を閉じました。

すばらしい集中力と一音一音刻み込むような力のこもった演奏はすばらしいものでした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン交響楽団

カラヤン★★★★☆
一楽章、録音は古いですが、幻想的な序奏。情熱的な金管。厚みがあってたっぷりと歌う第一主題。第三主題もとても豊かな表現です。テンポの動きもあり濃厚な演奏です。

二楽章、熱気があって歌う主要主題。厚みがあって大きな川の流れのような副主題。カラヤンらしいレガート奏法で表面が滑らかで美しい演奏です。

三楽章、速いテンポで疾走感のある第一主題。一転してゆったりと舞うような第二主題。ライヴでの疾走感はカラヤンならではのものです。ただ、アンサンブルはあまり良くありません。

四楽章、ゆっくりですが、荒げることの無い第一主題。クライマックスでも全開にはなりません。コラールはゆっくりと心に染み渡るような響きです。テンポの動きで感情が高まります。かなり熱気のあるコーダで大きな盛り上がりです。

感情のこもった濃厚な表現の演奏で、テンポの動きもありましたが、アンサンブルの乱れが何度もあり残念でした。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★★☆
一楽章、弱音でフワーっとした柔らかい序奏。清々しく爽やかな金管。静寂感の中に響く第一主題。少し温度感が低く少し距離が離れて聞いている感じです。少し日が差し込んだような第三主題。風の中で自然を感じるような展開部。とても爽やかに鳴り響くコーダ。あまりに爽やかで厚みを感じさせない響きは、あまりブルックナーを感じさせません。

二楽章、速めのテンポでさくさく進む主要主題。この楽章でも爽やかな弦。深みがあって流れるような副主題。包み込むように柔らかい響き。とても端正で細部まできっちりと鳴っている演奏です。生き生きとした木管が豊かな生命感を感じさせます。トランペットやトロンボーンは余裕たっぷりの柔らかく美しい演奏です。

三楽章、活発に動く第一主題。吠える金管が整然としていますが、激しいです。中間部もくっきりとした克明な動きの表現です。とても明晰でいろんな楽器の動きが克明に聞こえて来ます。

四楽章、全く力みが無く穏やかに演奏される第一主題。第二主題も軽く美しいです。金管のコラールは豊かな残響を伴ってバランスも良く美しい響きです。とても美しいのですが、ブルックナーにしては鮮烈な響きです。美しく伸びやかに鳴り響くトランペット。コーダの前はテンポが速くなりました。コーダは分厚い低域の響きはありませんが、伸びやかに鳴り響きます。

豊かな残響と美しい響きで明晰な演奏でした。ただ、ブルックナーらしい分厚い低域に支えられたものではなく、僅かに鋭い響きになっていました。
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ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、弱音で始まった低弦のピツィカート。比較的現実的な冒頭。長い残響を伴って巨大な金管のコラール。大聖堂に響き渡る長い響きが美しい。第一主題も伸びやかです。続く第二主題も美しい響きを伴って伸びやかです。木管にも潤いがあって美しいです。トゥッティでも響きが大聖堂に拡散して行くようで、こちら側に強いエネルギーになって伝わっては来ません。この豊かな残響を聞いているとブルックナー・パウゼの意味も理解できます。ブルックナー自信もこのような環境の中で、オルガンを演奏し、作曲のイメージを膨らませていたのかも知れません。この響きに浸かっているのも気持ちが良いです。パーテルノストロは強い個性を主張することもなく、楽譜に書かれていることを忠実に音にしているようです。

二楽章、速めのテンポでオーボエが自然で美しい主要主題を奏でます。弦楽合奏の副主題も深みのある響きで音楽に浸ることが出来ます。副主題の再現は控え目でサラッとしています。コントラバスが深く厚みのある響きで全体を支えています。やはり、トゥッティで音が拡散してしまって、エネルギーがこちらに伝わって来ないのが、この曲の男性的なイメージとは若干違うような感じがします。

三楽章、冒頭からトゥッティに至るまで少しアッチェレランドしました。トゥッティの後に残るもの凄い残響。第二主題は極端なテンホの変化ではなく、僅かにテンポを落とした程度です。長い残響にマスクされて細部は聞き取れませんが、この響きは気持ちが良い。くせになりそうな響きです。このままずっと浸っていたい気持ちにさせてくれます。編成はそんなに大きくないようですが、トゥッティでは残響を伴って巨大な響きになります。演奏には恣意的な部分は全く無く、ブルックナーが書いた楽譜を信じ切って演奏しているかのようです。

四楽章、深い霧の中から聞こえるような第一楽章の序奏の再現。豊かな残響を伴って美しいクラリネットとオーボエ。可憐な表情の第二主題。伸びやかな金管のコラール。遠くから聞こえてくるようなホルンのソロ。コーダからは分厚く巨大な響きに遠くの山からこだまするようなホルンの強奏が聞こえます。

この曲らしい男性的な演奏ではありませんでしたが、豊かな残響が作り出す独特の雰囲気がとても魅力的な演奏でした。パーテルノストロも曲をストレートに表現した演奏に好感が持てます。

朝比奈 隆/シカゴ交響楽団

朝比奈★★★★
一楽章、デッドなホールでも力強くバランス良く鳴り響く金管。いつものように自然体な第一主題。見事な一体感のある響きの演奏ですが、あまりにもデッドなホールで奥行き感が感じられず、ブルックナーらしい深みのある響きにはなりません。金管のきめ細かい響きでシカゴsoらしい鋭い響きです。

二楽章、あくまでも自然体で大きく歌うことの無い主要主題。広々とした副主題。緻密なアンサンブルや輝かしい金管はさすがにシカゴsoだと思わせます。

三楽章、あくまで自然体な第一主題。穏やかですが、切れ込むように鋭い第二主題。

四楽章、とても自然で作品そのものに語らせるような表現ですが、ブルックナーの演奏には残響が短過ぎます。第三主題も堂々としたものですが、厚みのある響きでは無く少し腰高な感じになります。コラールも見事な響きです。コーダもクールな響きでした。

いつもの朝比奈の自然体の演奏でしたが、ホールの音響特性の問題か、デッドで深みの無い響きで、クール感じる演奏でした。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、重い低弦のピィツィカート。多層的に広がる弦。遠くから響く金管。トランペットがマルカートぎみに演奏します。第一主題の前の高揚する部分はゆっくりとしたテンポで頂点に入る前にはタメもありました。いつものように淡々とした第一主題。緩やかで雄大な第二主題。どっしりとしていて頑として動かない強固な演奏です。予想外に軽いコーダ。

二楽章、感情が込められ豊かに歌う主要主題。瑞々しく深みのある副主題。変化に動じることなく一貫した表現で貫かれています。金管はここでも軽いです。

三楽章、活発で生き生きとした第一主題。テンポを落としてゆったりと演奏される第二主題。クレンペラーにしては積極的な表現です。少しアンサンブルが乱れてもテンポを動かして粘っこい表現をします。最初は落ち着いて軽く演奏していた金管がかなり力を発揮するようになって来ました。

四楽章、一音一音刻み付け目ように物凄く遅い第一主題。第二主題もゆっくりです。サラサラと流れるように美しい弦。かなり強く演奏される第三主題ですが、何故か密度が薄く軽い感じがします。コラール主題に基づくフーガもとても落ち着いています。決して音楽が前へ進もうとはしません。コーダでもかなり強く演奏する金管ですが、燃え上がるような熱気はありません。

テンポが大きく動く部分もありましたが、基本的にはとても落ち着いた表現で、熱気のある演奏ではありませんでした。
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朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈★★★
一楽章、低弦のピツィカートに幻想的に乗っかる、ヴィオラとヴァイオリン。金管のコラールは若干のミストーンもありました。巨大なトゥッティがスケールの大きさを物語ります。クラリネットの音には艶やかさがありません。残響成分をあまり含んでいない録音なのか、生音がビンビン響いてきます。トゥッティの金管のエネルギー感はすごいです。わずかに雑な感じを受けました。

二楽章、非常にゆっくりと演奏されるオーボエの主題が伴奏の弦のピツィカートに合わせようとして不自然な演奏になっています。わずかにザラッとした弦の副主題。低域が豊かなのでトゥッティの充実した豪快な響きは見事です。

三楽章、テンポの変化が大きく、トゥッティでの金管が力強く鳴り響きます。テンポを落とした部分は非常にゆったりと田舎の田園風景を思わせるのんびりした感じです。一方でティンパニや金管の豪快な鳴りは凄いです。

四楽章、幻想的な冒頭。艶のないクラリネットが主題の動機を演奏します。チェロとコントラバスの第一主題はちょっと混沌とした雰囲気でした。力強い第三主題ですが、アンサンブルがきちんと揃っていないようで、少し雑に聞こえます。重量感のあるフーガ。再現部でも豪快に吹き鳴らされる金管ですが、少し汚い。第三主題の再現ではかなりテンポを上げました。コーダ手前のクライマックスからはテンポを落として壮絶な咆哮です。

豪快で男性的な演奏でしたが、アンサンブルの乱れなど、雑な印象でした。

ヘルベルト・ケーゲル/ライプツィヒ放送交響楽団

ケーゲル★★★

一楽章、倍音成分が少なめで強い音の序奏。強烈な金管の咆哮。切迫するようにテンポが動きます。大きく歌う第一主題。ふくよかな第二主題。第三主題は速いテンポで、激しく動きます。トランペットがかなり強い音で演奏されています。

二楽章、感情を込めて豊かに歌う主要主題。ビリビリと強い音で響く金管。

三楽章、第一、第二主題とも速いテンポで駆け抜けるようです。ブルックナーらしい暴力的なスケルツォです。元気でアタックも強い金管。動きが克明で濃厚です。

四楽章、克明で実在感のある序奏。ゆったりとフワッとした第一主題。金管は相変わらず強くちょっとジャリジャリとした響きです。第二主題は少しザラついた感じです。第三主題もとても力強いです。コラールは少し雑な感じがします。かなり汚く強烈なトゥッティ。コーダの前のクライマックスはテンポも速くなり金管の遠慮無い強奏が下品に感じます。

とても人間臭い演奏でした。強烈で硬質な金管が時に下品なくらいの咆哮をしました。力強い演奏の魅力はありましたが、神を感じさせるような演奏ではありませんでした。
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アレクサンダー・ラハバリ/ブリュッセル・フィルハーモニック

ラハバリ
一楽章、速めのテンポで強めのビィツィカートに弱い弦のアルコが乗ります。金管は控えめで柔らかいです。とてもソフトでフワッとしていて、ゴリゴリと力で押してくるような演奏ではありません。とても丁寧な演奏ですが、マーラーの4番でも感じたような置きに行くような全力投球の演奏ではない感じがします。どこかよそよそしく鳴る金管。荒々しく咆哮するようなことは全くありません。

二楽章、柔らかく美しい主要主題。弦も全く力みの無い美しい演奏です。ゆっくりと非常に強く感情が込められた副主題。全く荒ぶれることの無い金管。響きが整理されていて、とてもスッキリとしています。ブルックナー独特の多層的な響きがほとんど聞こえません。最後もすごく遅いテンポです。

三楽章、全く荒立てない第一主題。とても柔らかく全開には程遠い金管。中間部ではテヌートぎみに演奏する木管。ラハバリは全開の激しい演奏を極力避けて柔らかくマイルドな演奏に徹しているようです。

四楽章、特別に浮き立つことの無いクラリネット。第一主題はとてもソフトです。サラサラと心地良い響きの第二主題。第三主題はかなり余力を残して控えめですが、その分弦の動きなどは良く分かります。金管のコラールはテヌートぎみで柔らかく演奏されます。コーダもとても軽く普通に演奏されるような熱気のある全開の演奏ではありません。

全く全開になることは無く、とても軽い演奏でした。美しさはありましたが、ブルックナーらしいオケが一体になってぶつかってくるような感じは全くありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第9番

ブルックナーの交響曲第9番は、彼の最後の交響曲であり、未完のまま残された作品です。ブルックナーはこの曲を「愛する神への捧げもの」として構想しており、深い宗教的な感情と壮大なスケールを兼ね備えています。以下に、交響曲第9番の特徴を紹介します。

1. 未完の交響曲

  • ブルックナーはこの交響曲を4楽章構成で書く予定でしたが、最後の第4楽章を完成させることができませんでした。彼は第4楽章のスケッチを残していますが、亡くなるまでに完成には至らず、現在も第3楽章までが演奏されることが多いです。
  • 一部の音楽学者や作曲家によって第4楽章の補作が試みられており、補完された「全4楽章版」もいくつか存在しますが、最も一般的には第3楽章までが「ブルックナーの交響曲第9番」として知られています。

2. 楽章構成と内容

この交響曲は以下の3つの楽章で構成されており、それぞれが独特な性格と深みを持っています。

  • 第1楽章 (Feierlich, misterioso): 「荘厳に、神秘的に」と指示されたこの楽章は、ブルックナー独特の「呼吸するような」緩やかな進行が印象的です。広がりのある音楽が何度も盛り上がり、雄大なコラールのような部分が現れ、聴き手を神秘的な世界に引き込みます。ブルックナーの晩年の内面的な葛藤や宗教的な敬虔さが表れています。
  • 第2楽章 (Scherzo: Bewegt, lebhaft – Trio: Schnell): 荒々しく、時には不気味な印象さえ与えるスケルツォです。リズムの激しさと不協和音が印象的で、生命力に溢れつつも、不安や不安定さを感じさせる部分があります。中間部のトリオは速く、軽やかな要素も含まれており、第1楽章とは異なる動的なエネルギーを感じさせます。
  • 第3楽章 (Adagio: Langsam, feierlich): このアダージョ楽章は、ブルックナーの最高傑作の一つとされる、極めて深い宗教的感情が込められた音楽です。彼の最後の祈りとも言われるこの楽章は、壮大でありながらも切ない響きを持ち、特に弦楽器の美しさが際立ちます。楽章全体が静寂とともに消えゆくように終わり、未完のまま作品が閉じる形となっています。

3. 宗教的なテーマ

ブルックナーは敬虔なカトリック信者であり、この交響曲には神や死、そして来世への祈りが込められていると考えられています。「愛する神への捧げもの」として構想されていたことからも、彼にとってこの作品がいかに個人的かつ崇高な意義を持っていたかがうかがえます。特に第3楽章の深い静寂と崇高な響きは、彼の信仰心と魂の救済への願いを表しているとされています。

4. 音楽的な特徴

  • ブルックナーの交響曲第9番は、彼の他の作品と同様に重厚で荘厳な響きを持ちます。分厚いオーケストレーションと長いフレーズが特徴的で、特に金管楽器が重要な役割を果たします。
  • 音楽の構成が厳密でありながらも、各楽章に深い感情と精神性が宿っており、特に後半の静謐さと劇的なコントラストが印象的です。

5. まとめ

ブルックナーの交響曲第9番は、未完でありながらも、深遠な宗教的テーマと壮大な音響美が凝縮された作品です。ブルックナーの人生や信仰、そして死への覚悟が感じられ、彼の交響曲の中でも特に崇高な雰囲気を持つ作品として、多くの聴衆に愛され続けています。

4o

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第9番名盤試聴記

オイゲン・ヨッフム/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで霧の中から次第にはっきりと姿を現す第一主題。ホルンに続いて登場する木管がスタッカートぎみに演奏します。頂点に入る前に少し間を置きました。見事に鳴り響く頂点。美しく歌われる第二主題。ライブ録音ですが、とても美しい音で録られています。物寂しいオーボエからホルンへとつながる第三主題。強力な金管!展開部の頂点でもすさまじい金管の咆哮でした。チェリビダッケが主席指揮者をしていた頃のミュンヘン・フィルなので、とても美しい音色で音楽を奏でます。強奏でもとても美しいです。

二楽章、鮮明な木管と弦のピチカート。暴力的なトゥッティではトロンボーンが音をテヌートぎみに演奏しました。すごく鮮度の高い音で襲い掛かってくるような強奏です。生き生きとして生命感を感じるトリオの演奏。瑞々しい美しい音です。すごい咆哮に圧倒されます。ものすごい音の洪水に引き込まれます。

三楽章、神の世界へ上り詰めるような上昇音階。最初の頂点ではトランペットが長い音をクレッシェンドして壮絶な頂点です。登場してくる全てのパートが極上の音で出てきます。ライブとは思えない美しさです。ヨッフムは音楽を刻み込むように克明に描いて行きます。壮絶、狂気のような咆哮のクライマックスでした。穏やかに天に召されて行くような最後でした。

ヨッフム渾身の演奏でした。すばらしい克明な表現でした。

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりと、非常にゆったりとしたテンポで深みのある音色がとても作品に合ってるようです。
歌が素晴らしい!抑揚や微妙な間がとても良いです。遅いテンポでたっぷりと歌われる音楽にはこの世のものとは思えないような美しさがあります。
響きに奥行き感があって、音楽が軽薄にならないので良いです。
トゥッティではカラヤンの演奏のような豊麗さはありませんが、オケが一体になった強固な響きがあり共感の強さが伺えます。特に低音域の厚みは素晴らしく、オケ全体をしっかり支えていて響きに抜群の安定感を与えています。
カラヤン/ベルリンpoの演奏では響きが左右いっぱいに広がる豊かさが魅力でしたが、ジュリーニの演奏では、音が中心に集まって強いエネルギーを持って迫ってきます。
弱音部でも、豊かさよりも簡素な素朴さが表現されています。

二楽章、音楽が間延びしないような適度なテンポ設定です。個々の楽器が適度に分離していて、それぞれの楽器の動きが分かりやすい録音です。
もう少し豊かな響きがあったらさらに良かったような気がします。

三楽章、木管やホルンの旋律が際立って美しい!すごくゆったりとしたテンポで噛みしめるような音楽の運びがとても良いです。
ffでのトランペットとホルンの受け渡しも絶妙で素晴らしい演奏です。ジュリーニの音楽にオケが共感している様が分かる集中力の高い演奏です。

音楽が激しいうなりとなって押し寄せてくる部分は素晴らしい!
美しい終わりでした。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、暗く重い冒頭部分です。同じウィーンpoの演奏でもジュリーニの演奏よりも骨太でがっちりしています。
対旋律を強調する傾向の演奏です。一音一音に作品に対する共感が強く伝わってきます。
しなやかで美しい演奏とは違い、男性的で筋肉質な演奏です。

二楽章、この楽章も重く暗いトーンで開始しました。ゆっくりとしたテンポ。バチーンと決まるティパニ!すごい演奏です。

三楽章、感情がこもった歌です。切々と語りかけるような歌に満ちています。突然のffも激しい。音楽の高揚感と静寂感の対比もすばらしい。

次第に巨大な音楽になってきた。トゥッティの巨大さは正に神や宇宙を連想させるものでした。

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、遅いテンポでたっぷりとした演奏です。ホルンの主題に続く弦の旋律がスタッカートで演奏されました。分厚い低音の支えられた安定感のある音楽が展開されます。聴いたことのないホルンが聞こえたりもします。ヴァントの演奏は4番の時にも感じたのですが、音楽の情報量が非常に多いと思います。普段聞こえない音が随所に聞こえてきます。また、この情報量の多さが巨大なブルックナー像を形成することに繋がっています。P方向を抑えずにffを伸び伸びと響かせる演奏で、ppでも音楽が瑞々しく生き生きとしていますし、ffの伸び伸びと響き渡る金管にも感動します。

二楽章、ピチカートの音の一つ一つが立っています。流れがとても良い演奏です。一つ一つのフレーズに濃厚な表現付けをすることはありませんが、全体をしっかりと捉えて音楽を構築しているような感じがします。この楽章でも今まで聴いたことのない音が聞こえます。

三楽章、トゥッティでベルリンpoのすばらしい音の洪水に見舞われます。とても線の太い演奏です。男性的で筋骨隆々な演奏を聴いている感じがします。最後は神の元へといざなわれていく。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★★★
一楽章、非常にゆったりとしたテンポで神秘的な冒頭。巨大なスケールの頂点を築きました。柔らかく包み込むような第二主題。第三主題も一音一音確かめるような確実な足取り。凄いオケの鳴りっぷりと言い、遅いテンポの巨大なスケール感がすばらしい演奏でした。

二楽章、一楽章とは打って変わって軽快なテンポです。朝比奈の演奏なので、極端な表現はありませんが、自信に満ちた堂々とした演奏です。オケも日本のオケだとは思えないほど豪快に鳴り響きます。

三楽章、すごく感情の込められた冒頭。すばらしい頂点のスケール感。基本的にインテンポでがっちりとした堅固な安定感があります。オケのアンサンブルも見事で、木管の一体感などもすばらしい。クライマックスへ向けて登りつめる切迫感も見事です。コーダの天に昇るような穏やかさ。

この日の朝比奈とN響は異次元の世界にいたのではないかと思うようなすばらしい演奏でした。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、チェリビダッケ入場の拍手から始まりました。原始霧の中からボヤーッと浮かび上がる第一主題。ゆっくりとしたテンポで整然とした圧倒的な頂点を築きます。弦のピチカートも凄い精度でくっきりとしています。第二主題も非常にゆっくりと安らぎを感じさせます。押しては返す波のように次から次へと歌が押し寄せてきます。こんなに密度の高い演奏は初めてです。第三主題も非常に遅いですが濃密で弛緩した感じは一切ありません。展開部も遅いですが、見事に統率されたオケの響きの充実がすばらしい。再現部では、童話を子供に読み聞かせるような一音一音に魂が込められたような演奏です。最後も見事でした。

二楽章、通常のテンポからすると、もの凄く遅い演奏です。この遅いテンポと見事なアンサンブルでスコアの奥底まで見えるような感じさえします。聞き進むうちに、この遅いテンポにも違和感を感じなくなり、一般的なテンポの演奏を聴くとせわしなく感じるかもしれないなと思ったりします。

三楽章、ゆったりと壮大な頂点です。ワーグナーチューバがはっきりとコラールを歌います。大河の流れのよう豊かな第二主題。トゥッティでも余力を残した透明感の高い美しい響きです。チェリビダッケに鍛えられたミュンヘンpoはとても精緻で美しく、指揮者の意図を見事に音楽にして行きます。テンポは非常に遅いもののアゴーギクを効かせたりデフォルメも感じさせず、作品自体に語らせるような演奏です。壮絶ですが、美しいクライマックス。正に天に昇るようなコーダでした。

非常に遅いテンポの演奏でしたが、十分に納得させられる一音一音の密度の高い名演でした。

ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団 2009年

ハイティンク★★★★★
一楽章、非常にゆったりとしたテンポで神の言葉を伝えるような第一主題。続く弦は少し音を短めに演奏します。十分余裕を持ったトゥッティ。とても優しい第二主題。2010年のバイエルン放送交響楽団とのライヴよりも感情が込められているようで振幅も大きいですしたっぷりと歌います。展開部の頂点もかなり余裕を残していますので、演奏は常に美しいです。再現部では第二主題が祈るように演奏されます。充実した分厚い響きがブルックナーらしく響きます。コーダは壮麗な響きで終わりました。

二楽章、暴力的と言うよりも軽く美しくトランペットやトロンボーンが鳴り響くトゥッティ。トリオは速いテンポですが、良く歌います。ハイティンクのいつもの演奏の通り、非常に引き締まった表情で、決して弛緩しません。

三楽章、トゥッティでも絶叫することは無く、雄大です。神が降臨するようなワーグナーチューバのコラール。穏やかですが、伸びやかな第二主題。広大な展開部。不協和音の音がぶつかる感じがとても良く伝わって来ます。地獄を見るような強烈なクライマックス。コーダに入って、天上界へいざなわれて行くような音楽です。ワーグナーチューバも静かに消えて行くような最後でした。

非常に美しく、雄大なスケールの演奏でした。絶叫しないところがかえってスケールを大きく感じさせるような感じで素晴らしい演奏だったと思います。
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ダニエル・バレンボイム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

バレンボイム★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで、濃い霧のなかから響いてくるような第一主題。主題を演奏するホルンのダイナミックの変化がすごく大きいです。強力に鳴り響く金管が素晴らしい。弦もとても美しい響きです。第三主題はとてもゆっくりと演奏しています。展開部は少しテンポが速いですが、音楽は前へ進もうとはしません。展開部の頂点でも見事に鳴り響く金管。再現部でも弦や木管が美しい。ベルリンpoが伸び伸びと自分達の音楽や響きを作り出しているような感じがします。とても大きな音楽です。コーダも明るく輝かしい金管の見事な響きでした。

二楽章、静寂感のある現のピッィカートと暴力的なトゥッティの対比もなかなかです。トゥッティは僅かにテヌートぎみに演奏しています。躍動的に歌う金管。トリオの繊細で静かな音楽、また、テンポも動いています。

三楽章、美しい弦がうねるようです。雄大で余裕のある頂点。豊かな響きのワーグナーチューバ。繊細な第二主題。繊細さと雄大さが両立する演奏はなかなか良いです。展開部に入って、強奏部分はさらに力強くなりました。壮絶なクライマックス。音楽の振幅が非常に大きくて、ベルリンpoの能力をフルに引き出したような演奏です。コーダは優しく繊細に天に招かれるような演奏です。最後のホルンも感動的でした。

音楽の振幅が非常に大きく、繊細さと雄大さが混在した演奏は大変魅力的でした。素晴らしい演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1978年ライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、遠く深いところから響く第一主題。圧倒的な頂点です。強弱の振幅もすごく大きいです。ゆったりと美しく歌う第二主題。川の流れのように途切れることなく次々と現れる音楽がとても豊かです。滑らかで美しい第三主題。展開部でトランペットが突き抜ける力強いトゥッティ。頂点はかなりテンポを速めました。再現部もカラヤンらしく洗練された美しい演奏です。不協和なクライマックスも豊麗でした。コーダも豊かな響きでした。

二楽章、吐息のような木管。くっきりと刻まれる弦のピツィカート。分厚い響きでかなり激しいトゥッティ。軽々と鳴り響く金管が気持ち良いです。強弱の振幅もかなり広いです。颯爽とリズミカルに流れていくトリオ。スタジオ録音のように表面をきっちりと整えた演奏とは違い、勢いに任せてかなり豪快に演奏しています。

三楽章、速いテンポですが、金管が遠慮なく入ってきて深みと生命感に溢れた演奏です。壮大な頂点でスケールが大きいです。マットな響きのワーグナーチューバの祈るような演奏。第二主題も広大な雰囲気です。木目の細かい弦が美しい。展開部に入っても思い切りの良い金管。弦楽器の絡みも生き生きとしています。ffの後の静寂感。非常に美しい弦の響き。凄い緊張感と切迫感。地の底から叫ぶようなクライマックス。コーダの終結部では、速めのテンポであっさりと曲を閉じました。

ウィーンpoの能力を最大限に引き出して、ライヴならではの豪快な演奏でした。カラヤンのライヴはスタジオ録音のような表面ばかりを整えた演奏とは違い、かなり感情の吐露があって素晴らしいです。
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サー・レジナルド・グッドオール/BBC交響楽団

グッドオール★★★★★

一楽章、合唱のように聞こえる弦のトレモロ。薄くモヤのかかっているようなホルンの主題。8番同様ゆったりとしたテンポです。ほの暗い雰囲気で、絶叫までには至らないホルン。続く弦は微妙なテンポの動きがあって夢見心地です。ノイジーな録音ですが、一音一音丁寧な演奏です。金管は奥まっていますが、塊となったエネルギー感が凄いですがそれでも余力を残している感じがします。一音一音刻み付けるような弦のピチィカート。優しくうっとりするような第二主題。テンポの動きは絶妙です。切々と訴えかけて来る演奏で涙が出そうです。とても静かな第三主題。ホルンも遠い。ブルックナーらしい常に霧に覆われているような雰囲気があります。不穏な空気になる展開部。再現部のクライマックスもトランペットが奥から強烈な響きが聞こえますが全体としては余力のある演奏です。クライマックスでは壮絶な響きです。コーダのタメも素晴らしい。決して全開までオケを追い詰めませんが、壮絶な響きも凄いです。

二楽章、打って変わって速めのテンポですが一音一音克明で魂がこもっているような演奏です。暴力的になりがちな金管は制御されて落ち着いています。アンサンブルの精度も高く精緻な演奏です。軽く、快活にを忠実に演奏しています。

三楽章、録音が悪いのでトランペットが輝かしく響きません。鳥肌が立つような非常にスケールの大きな広大な頂点です。微妙なテンポの動きで演奏される第二主題部。不協和音の強奏の合間に演奏される優しい木管も見事。展開部でも微妙なテンポの動きと、堂々とした表現もさすがです。クライマックスへ登り詰めるガラガラと不協和音を伴いながらの演奏もなかなかでした。クライマックスの地獄から響くような低音域の塊のような響き。それでもかなり余裕を残している。最後は穏やかに光芒に乗って雲の上へ登って行くような演奏でした。

録音が悪いのはとても残念ですが、堂々としたスケールの大きい演奏はさすがでした。これだけの演奏をしていた指揮者がほとんど脚光を浴びず不遇な時代が長かったのは不幸なことです。もっと多くの録音を残して欲しかったと思います。

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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

ブルックナー 交響曲第9番2

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第9番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/シカゴ交響楽団

ジュリーニ/シカゴ交響楽団★★★★☆

一楽章、暗闇感はあまり無い第一主題。筋肉質なホルン。続く弦は滑らかに歌います。ダイナミックレンジはかなり広い。軽々と鳴り響く金管。しっかりと刻まれる弦のピィチィカート。テンポの動きを伴って歌う第二主題。そのままの流れで第三主題へ。クライマックスでも余裕があります。再現部も滑らかに歌います。壮麗なクライマックス。コーダに入るとかなり力強い響きです。

二楽章、丁寧な足取り。金管が入っても統率の取れた美しい響きです。とても緻密に動いています。淡々とした中間部。

三楽章、静かに始まる第一主題。遠くから朝日が昇るようなトランペット。雄大な頂点を築きます。荘厳な響きのワーグナーチューバ。ゆったりと流れの良い第二主題。とても美しいホルン。トゥッティの響きは素晴らしいです。消え入るような弱音との対比も素晴らしいです。伸びやかな歌。クライマックスで少しトロンボーンが突き抜ける感じでした。もう少し塊のエネルギー感があれば良かった。静かに天に召されるコーダは素晴らしい演奏でした。

かなりの完成度の演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、神々しい雰囲気がとても良い始動です。
鋭角的で伸びのあるブラスセクションも気持ちの良い響きです。響きも豊かで深みも感じる演奏で、想像していたより良いです。
ベルリンpoの分厚いサウンドがうねりのように押し寄せてくるところなども素晴らしいです。
カラヤンのブルックーなのど、豪華絢爛になるのはいたしかたありませんが、この豪華な響きには魅了されてしまいます。
ブルックナーの素朴さはありませんが、これは一つの美の極致としての良さは持っていると思います。

二楽章、この楽章でも、くったくなく伸び伸びと鳴り響く金管には惚れ惚れとしてます。
もちろん他の楽器も文句無く良い音で響いています。
この演奏は響きの美しさを追及した運送だと思いますし、その狙い通りの聞き方をすれば、文句なしの演奏です。
神に奉げる音楽としの内面性や清潔感のようなものを持ち合わせているのかは分かりませんが、あくまでも構築物と捉えるならば最高の演奏です。

三楽章、トゥッティの響きの充実はすばらしいです。
カラヤンとベルリンpoの絶頂期の演奏ですし、この演奏の良さは認めないといけないですね。マイヤー問題が勃発してからの演奏はカラヤンの意志が通りにくくなりましたからね。

教会のような豊かな響きも魅力的です。
素晴らしく美しい演奏でした。

ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、すごく豊かな響きで神秘的な演奏です。大聖堂に残る残響がいったんふくらんでから減衰するような独特の雰囲気があります。残響の長さにあわせるかのようにテンポを少し遅めにして演奏している部分もあるようです。細かなミスも聞かれますがたいした問題ではありません。演奏は特に強調するようなこともなく中庸を保っています。楽譜と大聖堂の音響に語らせようとしているような演奏です。逆に言うと長い残響で細かな表現は響きに紛れてしまって細部まで聞き取れないのです。

二楽章、全休符の時に、減衰してゆく響きがとても心地よいです。

三楽章、金管のコラールは深みのある美しいものでした。コーダは黄昏を見事に表現しました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★
一楽章、霧の中からボヤーッと浮かび上がるホルンの第一主題が次第にその巨大な姿を現す。強奏部分はN響との演奏ほどのスケール感はありません。第二主題は愛情に満ちて視界が開けるような雰囲気がありました。ゆっくりとしたテンポで作品を噛み締めるような演奏です。第三主題もゆっくりでした。トゥッティの分厚い低域が不足しているようで、響きに厚みが無いのが残念です。強奏部分でも、このゆったりとしたテンポに合わせるように、余裕たっふりの演奏です。

二楽章、深みのある木管の響きから始まりました。暴力的な主題も奥ゆかしい。トリオは美しい。大フィルも上手くなったものです。

三楽章、控え目な冒頭。ffも軽く演奏しているような感じです。展開部からは速めのテンポです。残響成分が少なくマットな響きも特徴です。最後のクライマックスも余裕を持った演奏でした。穏やかに幸福感に満ちて終わりました。

朝比奈の演奏らしく、作品のありのままを提示した演奏でしたが、公式ラストレコーディングと言うこともあって、体力の衰えからか、ピーンと張り詰めるような緊張感がなかったのが残念でした。

ベルナルト・ハイティンク/バイエルン放送交響楽団 2010年

ハイティンク★★★★
一楽章、暗闇の中から豊かな響きで神秘的な第一主題。充実したトゥッティ。美しく歌う第二主題。一つ一つの楽器がとてもバランス良く鳴っていて、有機的に絡み合います。たっぷりと濃厚に歌う第三主題。オケがとても豊かに鳴っていて、柔らかく弾力に富んだ響きです。展開部の頂点も見事な響きです。再現部に入っても、整然としてきっちりとしたアンサンブルを聞かせます。内声部の充実した分厚い響きがすばらしい演奏です。

二楽章、静寂感の中にピィッイカートが浮かび上がります。トゥッティは強烈ではありません。とても整然として充実した響きです。トリオのテンポは速いです。主部が戻ると、くっきりと立った音で緊張感の高い演奏になります。

三楽章、ティンパニが底辺をしっかりと支えたスケールの大きな頂点です。淡々と演奏されるワーグナーチューバ。第二主題部に入ると際立った木管が美しい。ハイティンクはいつものように、特にテンポを動かしたり、表現を強調したりはしませんが、集中力の高い演奏で惹きつけられます。展開部のクライマックスでも絶叫することは無く、十分にコントロールされた演奏です。コーダは天に昇るような表現でした。

自然体で、絶叫することなく作品の美しさを表現した演奏でした。個人的には、強烈なトゥッティを含めた振幅の大きな演奏を聴きたかったです。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団 2001年

ヴァント★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポで、地面から湧き上がるような第一主題が次第にもりあがって、ビーンと言う響きになります。頂点でも余力を残していますが、テンポはかなり粘ります。愛情に溢れる第二主題。ここでもテンポが動いて感情のこもった演奏です。オケを積極的にドライブして濃厚な表現です。第三主題でテンポが遅くなりました。展開部に入ると頂点では壮絶な響きになってきます。テンポは頻繁に動いて非常に感情を込めた演奏をしています。コーダに入っても強力にオケをドライブして壮絶な響きでした。

二楽章、きりっと立った弦のピィッイカート。暴力的なトゥッティで僅かにテンポを落としました。気持ちよく鳴り響くブラスセクション。踊りだすようなトリオの躍動感。壮絶なトゥッティです。

三楽章、頂点での強烈なホルンです。他の響きに埋没してあまりくっきりと浮かび上がらないワーグナーチューバ。豊かで深い第二主題。展開部でもトランペットに呼応するホルンが強烈です。地獄からでも湧き上がってくるかのようなクライマックス。かなり現実的で実在感のあるコーダです。

二楽章までは素晴らしい演奏だったのですが、三楽章があまり心に迫って来ませんでした。
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ヴォルフガング・サヴァリッシュ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、地底から湧き上がるようなホルンの第一主題が次第に明確に姿を現します。続く弦はスタッカートぎみに演奏しました。そしてアッチェレランドしてトゥッティへ。かなり速めのテンポでグイグイ進んで行きます。第二主題から少しテンポを落としましたが、それでも速めのテンポ設定です。寂しげな第三主題。展開部の頂点ではトランペットが突き抜けて来ます。トゥッティはかなりのエネルギー感です。再現部もグイグイと進めて行きます。美しい弦、輝かしいトランペットが印象的です。

二楽章、この楽章も速めのテンポです。暴力的なトゥッティは文字通り凶暴でした。サヴァリッシュはもっと上品な指揮者だと思っていたのですが、かなり強力にオケをドライヴして力強い音楽を作っています。トリオも速めのテンポで、ちょっとせっかちな感じがします。テンポが速めなのは良いのだが、タメとか間が無くて音楽が滑ってしまうような感じがあります。暴力的なトゥッティはそれが良いほうに効いて、息つく暇も与えずに畳み掛けるように音楽が押し寄せて来るのはすばらしいです。

三楽章、一転してゆったりとしたテンポです。頂点ではトランペットに続くホルンが雄大な雰囲気を演出しました。生命感の宿るワーグナー・チューバ。オケの音色の美しさはさすがにウィーンpoです。強大なクライマックスは全開ではなく、少し余力を残していたようです。最後は穏やかに天に昇って行きました。

強い推進力のある力強い演奏でしたが、間やタメを感じられなかったのが残念でした。

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