カテゴリー: ブラームス:交響曲第3番名盤試聴記

ブラームス 交響曲第3番

ブラームスの交響曲第3番は、1883年に作曲された作品で、彼の交響曲の中でも特に抒情的で成熟した美しさが特徴です。この交響曲は、若いころからの友人であった作曲家ハンス・リヒターに捧げられ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演されました。ブラームスの交響曲第1番と第2番の要素を受け継ぎながらも、新たな境地に達したこの作品は、明と暗、静と動といった対比が繊細に織り交ぜられており、ブラームスの成熟した音楽性が感じられます。

構成と特徴

交響曲第3番は全4楽章で構成され、各楽章が調和しながらも、それぞれ独自の情感を持っています。全体にわたって「F-A-F」のモチーフが繰り返し現れます。これは、ブラームスの「Frei aber froh(自由だが、幸福)」というモットーに基づくもので、彼の人生観が象徴的に表現されています。

  1. 第1楽章 (アレグロ・コン・ブリオ)
    明るくも厳かなファンファーレで始まり、力強い第1主題が提示されます。このテーマが「F-A-F」のモチーフを基にしており、ブラームスの自由でありながらも満ち足りた精神が感じられます。続いて登場する第2主題は穏やかで抒情的な雰囲気を持ち、対照的な美しさが印象的です。激しい感情の揺れがありながらも全体的に安定感があり、彼の深い内面と葛藤が感じられる楽章です。
  2. 第2楽章 (アンダンテ)
    ゆったりとした抒情的な楽章で、オーボエとクラリネットが温かく穏やかなメロディを奏でます。ここでは、静かな喜びや穏やかな心の安らぎが感じられ、牧歌的な風景を思い起こさせます。ブラームスの内面的なやさしさが表現されており、全体に温かみのある美しい調べが広がります。
  3. 第3楽章 (ポコ・アレグレット)
    第3楽章は、ブラームスの交響曲の中でも特に有名な部分で、哀愁を帯びたメロディが特徴的です。チェロが切なげでしみじみとした旋律を奏で、それに管楽器が応答するように重なります。この哀愁のこもった旋律は、ブラームスの内面の孤独や人間的な儚さを感じさせ、静かで抑制された感情が深く響きます。どこか懐かしさや憂いを帯びており、多くの人の心に響く美しさがあります。
  4. 第4楽章 (アレグロ – ウン・ポーコ・ソステヌート)
    力強く始まり、緊張感が高まるフィナーレです。ここでは、感情が一気に解放されるような勢いが感じられ、ブラームスのダイナミックな一面が表現されています。しかし、最後は大きなクライマックスを迎えることなく、穏やかに静まるように終わります。この終結は、明示的な勝利や歓喜ではなく、熟考や受容、内面の平和に落ち着くような余韻を残し、ブラームスの成熟した人生観が反映されています。

音楽的意義と評価

交響曲第3番は、ブラームスの人生観や内面的な思索が色濃く反映され、他の交響曲と比べても深い抒情性が特徴です。「Frei aber froh」という自由に対する彼の姿勢や、深い孤独感、成熟した平和への欲求がこの作品には表れています。また、交響曲第3番の抑制された表現と、派手さを抑えた静かな結末が、当時の他の交響曲にはない独自性を持っており、ブラームスの音楽の深みを象徴する作品とされています。

この交響曲は、ドイツ音楽の伝統を受け継ぎつつも、ブラームス独自の哲学と繊細な感情表現によって作られた名作として、今日でも高く評価されています。その抒情的で内省的な響きは、多くの聴衆の心に深い感動を与え続けています。

たいこ叩きのブラームス 交響曲第3番名盤試聴記

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、堂々としたブラスの響きと安定感のある演奏。木管の美しいソロ。どっしりと構えたテンポがすごい安定感を生み出しています。強烈なホルンの咆哮!熱いものを感じさせてくれます。

二楽章、潤いのあるクラリネットのソロです。美しい歌が続きます。すばらしい安定感です。どっぷりと音楽に浸ることができます。泉からこんこんと絶えることなく溢れ出るように音楽が次々に湧いてきます。

三楽章、奇をてらうようなことは一切ありません。正面から音楽を捉えている演奏です。

四楽章、充実した美しい響きと堂々としたテンポで自信に溢れたすばらしい演奏でした。

オトマール・スイトナー/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★★★
一楽章、柔らかい金管のモットーに続いて切り込み鋭いヴァイオリンの第一主題。控え目で美しいクラリネットの第二主題。所々で浮かび上がる木管の第二主題がとても美しい。

二楽章、伝統を受け継いだ古き良きドイツの響きがとても美しい。潤いのある瑞々しい響きとスイトナーの端正な表現がマッチして素晴らしい演奏です。

三楽章、控え目ながら十分な表現で、品良く保たれた演奏で格調高い仕上がりです。

四楽章、激しい部分でも暴走することはなく、抑制の効いた演奏です。渋い表現で統一された見事な演奏でした。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー交響楽団

icon★★★★★
一楽章、ホールの響きを伴ってシルキーでとても美しいヴァイオリンの第一主題。ゆったりとしたテンポで控え目なクラリネットの第二主題。木管の絡みが子供が戯れるようでとても楽しげです。ホルンの響きに奥行き感が感じられないのが残念です。コーダでも見事に揃った弦が美しい音色を響かせます。

二楽章、安らいだ雰囲気のクラリネット。中間部は少し暗転するが、絶妙なアンサンブルと静寂感です。

三楽章、控え目なチェロの旋律が哀愁を誘います。ここまで全体に静かな演奏になっています。抑制された禁欲的な演奏とでも言えば良いのでしょうか。感情をストレートにぶつけるようなことはせずに、精神世界の音楽をしているような感じがします。

四楽章、一転して動きのある第一主題。激しくなる部分もテンポが若干遅いことも手伝ってどっしりと落ち着いた演奏になっています。動きのある部分ではオケの敏感な反応がすばらしい。

落ち着いた静かな演奏がすばらしかったです。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1983年ザルツブルクライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、豊かに鳴り響く金管。ティンパニに隠れるような第一主題は活発な動きです。テンポは速めです。弱音は消え入るように弱く演奏しています。第二主題も弱いですが、実に優雅で滑らかです。分厚い響きですが、スピード感もあります。

二楽章、のどかな田舎の情景を思い出させるような冒頭のクラリネット。柔らかく厚みのある弦が素晴らしい。大きく歌うことはありませんが、どっしりと構えた安定感は抜群です。

三楽章、内に秘めた感情が滲み出るようなチェロの主要主題。主要主題が木管に移ると表情は豊かになります。

四楽章、速めのテンポでサラッと演奏される第一主題。第二主題も大きい表現はありません。展開部の第一主題はビート感の強いものでした。金管で演奏されるコラール風の動機はかなり激しい表現でした。コーダの儚さもとても良かったです。

やはりカラヤンのライヴはスタジオ録音とは別物ですね。消え入るような弱音から激しいトゥッティまで幅広い演奏や滲み出るような表現もなかなかでした。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/読売日本交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★★★
一楽章、鋭角的で鋭く美しい第一主題。くっきりと浮かび上がる木管。クラリネットの第二主題はヨーロッパのオケのような滑らかさはありません。主題の途中で一旦音量を落としました。あまり激しく強奏する部分はありませんが瑞々しい表現が美しいです。テンポを落としながら次第に弱くなって終わる部分もなかなか良い表現でした。

二楽章、やはりここでも滑らかさは少し乏しいクラリネット。清涼感のある美しい弦。コントラバスもしっかりと存在を主張していて深みのある響きです。

三楽章、すごく感情のこもった弦の旋律。清涼感のある美しい響きはとても心地良いものですが、果たしてブラームスがこの響きで良いのかは疑問もあります。

四楽章、木管で演奏される第一主題が消え入るようでとても美しいです。トロンボーンの同音反復の後はとても激しい表現です。一気にここまで貯めてきたエネルギーを放出するような激しさです。第二主題はあまり歌いませんが響きが鮮烈なためとても心に突き刺さって来ます。生き生きとした活発な動きを見せています。展開部ではトロンボーンがビーンと激しく鳴ります。とにかく振幅の大きな演奏です。静かに美しく第一楽章第一主題を演奏して終わりました。

消え入るような美しい弱音から、一気にエネルギーを放出するトゥッティまで、表現の幅のとても広い演奏でした。滑らかさに乏しいクラリネットや鮮烈な響きがブラームスに合っているのかどうかはあっても、この入魂の演奏の素晴らしさを損なうものではありません。
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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

バーンスタイン★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで柔らかい音色でテンポも動き積極的な表現です。第二主題もゆっくりとしたテンポで一音一音確かめるような演奏です。ブレンドされて一体感のある響きがブラームスにぴったりです。テンポの動きやかなり大胆なタメがあって強い感情移入を感じさせる演奏です。最後は大きく膨らんだ後、ゆっくり第一主題を演奏して終わりました。

二楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポの演奏です。内に秘めたような中間部のクラリネットとファゴットの旋律。

三楽章、深く感情を込めて歌われるチェロの旋律。テンポの動きもあり、次々と受け継がれる楽器も豊かに歌います。中間部は楽しそうにあっさりと進みます。主部が戻ってホルンの旋律もとても感情が込められています。

四楽章、第一主題もとても豊かな表現です。生き生きとした第二主題。トゥッティはあまり激しい響きでは無く、とてもバランスの良い響きでまろやかです。コーダはゆったりと濃厚な表現でした。

強い感情移入で深い表現の演奏でした。それでもトゥッティで感情移入が過ぎて爆発することは無く、バランスの良いマイルドな響きを維持しました。濃厚な表現の中にもマイルドなバランスを保った良い演奏でした。
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クルト・ザンデルリング/シュターツカペレ・ドレスデン

ザンデルリング★★★★★
一楽章、ゆっくりめのテンポで、柔らかく伸びやかで微妙な抑揚が心地良い第一主題。とても品の良いクラリネットの第二主題。透明感が高く、すがすがしく美しい響きです。伸びやかで窮屈さが全くありません。提示部の反復の前はテンポをかなり落として強く印象付けるような濃い表現でした。

二楽章、この楽章もゆっくりめのテンポでとても素朴なクラリネットの主要主題。爽やかで美しい響きがとても魅力的です。ザンデルリングの指揮も押し付けがましい表現は無く、自然体で奥ゆかしい表現で、音楽にどっぷりと浸ることができます。

三楽章、深く思いの込められた主要主題。とても哀愁を感じさせる演奏ですが、それが作為的な表現で演出されるのではなく、自然体の伸びやかな表現から生まれてくるのがとても良いです。ホルンの主要主題の再現は何とも言えない陰影をともなった非常に美しい演奏でした。

四楽章、自然体の第一主題ですが、とても奥行感のある伸びやかな演奏です。トゥッティでも透明感があってとても美しいです。ゆったりと堂々と構えたトゥッティ。儚いコーダも自然に表現されました。

自然体で伸びやかな表現と奥行き感のある美しい響きでした。誇張された表現は一切ありませんが、素朴な雰囲気や哀愁や儚さを見事に表現しました。特に三楽章の哀愁の表現は絶品でした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ジュリーニ★★★★★
一楽章、少しアンサンブルが乱れる第一主題。テンポを動かして濃く描きます。押すところと引くところがある第二主題はとても奥ゆかしい表現でした。とても優雅で舞うような演奏です。コーダに入ってかなり強奏しますが、それでもどこかおおらかでガツガツしません。

二楽章、ゆっくりとしたテンポですが、引っかかるところの無い流れるような主要主題です。とても遅いテンポで演奏されますが、強い表現ではないので、とても心地よく流れて行きます。

三楽章、非常にゆっくりと感情を込めて歌う主要主題。小節の頭を強く演奏することも無く、自然な歌でゆったりと流れます。ホルンに主要主題の再現があった後の弦の主要主題が揺れ動くようにとても優雅でした。

四楽章、アクセントを強く演奏する第一主題。第二主題もしっかりとした表現があります。強奏部分でも常に余裕を残していて、がむしゃらな演奏にならないので、ゆとりのある演奏で力みなどは全く感じさせません。

とても優雅な演奏で引っかかるところの無い流れの良い演奏でした。自然な歌や、揺れ動くような表現もとても美しく見事でした。強奏部分でも余裕を残した力みを感じさせないことも優雅な印象を強く感じさせてのだと思います。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

ヴァント★★★★★
一楽章、モットーから一気に開放される、鋭いヴァイオリンの響きの第一主題。サラッとして控えめな第二主題。細部まで行き届いた演奏で、とても繊細です。トゥッティと弱音の振幅はそれほど大きくはありません。

二楽章、穏やかですが、強弱の変化を付けて歌うクラリネットの主要主題。中間部のコラール風の旋律は陰影を感じさせるものです。

三楽章、速いテンポでサクサクと進みますがとても良く歌う主要主題。速いテンポですが、たっぷりとした歌で充実感があります。

四楽章、強弱の振幅はあまり大きくありませんが、緻密に組み上げられた精度の高い音楽です。コーダの黄昏の雰囲気もとても良いです。第一楽章の第一主題の回想も夢見るような儚さでした。

強弱の振幅はあまり大きくありませんでしたが、細部まで行き届いた緻密な演奏でした。歌もたっぷりとあり充実した表現の良い演奏だったと思います。
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ダニエル・ハーディング/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ハーディング★★★★★
一楽章、音を切るモットー。第一主題も個性的です。ティンパニのクレッシェンドがあったり、主題の中での強弱の変化もありました。ヴェールに包まれているようなクラリネットの第二主題から鮮度の高いオーボエと工夫を凝らした表現が続きます。展開部ではかなりテンポを速めて快活な表現でした。再現部に入っても第一主題の表現は独特です。

二楽章、生き生きとした動きのある主要主題。夢見るような淡い表現で、生音をビンビンと響かせるような演奏はしません。

三楽章、この主要主題も独特の表現で、アゴーギクを効かせていると言えば良いのか、テンポの動きがあると言えば良いのか分からないような独特の表現です。中間部は淡い表現です。ホルンの主要主題の再現はとても美しいです。

四楽章、速いテンポで躍動感のある第一主題。第二主題も速いテンポで軽く演奏されますが、展開部の前はかなり激しくなります。再現部へ向けての盛り上がりは室内オケとは思えない見事なものでした。コーダのコラール風の動機は雨上がりの空のようなすがすがしさでした。最後の第一楽章の第一主題の回想は和音の中にかすかに聞こえる程度で、聞こうとしないと聞き取れないほどのかすかなものでした。

ハーディングの意欲溢れる演奏で、これまでのブラームス像とは一線を画すような感じがしました。とても個性的な表現で、こんな演奏もあるのかと関心させられました。
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コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団

デイヴィス★★★★★
一楽章、とても感情が込められて深い表現の第一主題。提示部反復のモットーが盛大に鳴ります。かなり熱い演奏です。表現も豊かでオケの反応もとても良いです。

二楽章、ゆっくりとしたテンポでたっぷりと感情を込めて歌う主要主題。中間部もとても良く歌います。湧き立つような美しい響きです。

三楽章、深みがあって豊かな歌を聞かせる主要主題。潤いのある響きがとても美しいです。中間部では小節の頭で少し押すような表現でした。主部がもどった部分のホルンはとても柔らかく美しい演奏でした。

四楽章、うごめくような第一主題。トロンボーンの大きなクレッシェンド。第二主題が終わって展開部に至るまでの間はがっちりとした低域に支えられた厚みのある響きでした。再現部の激しさもかなりのものです。ブラームスなので金管が咆哮するようなことはありませんが、ブラームスの演奏にしてはかなり激しい部類です。音楽に隙が無くぎっしりと詰まった濃厚な音楽です。コーダのコラールでも盛り上がりがありました。

熱く激しく濃厚な演奏でした。深みのある表現や積極的な歌、隙がなく緻密な音楽も見事でした。こんなに熱いブラームスは初めてですが、こんな熱い演奏もなかなか良いものです。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット★★★★★
一楽章、内声部を含んで豊かに盛り上がるモットから第一主題に突入します。冒頭からかなり感情がむき出しのような感じがします。第二主題は優雅になりますが、クラリネットは極上の美しさとは行きません。かなり激しい感情の起伏を表現しています。大きく盛り上がって力の入る部分と、スーッと力が抜ける部分の対比が面白い。

二楽章、ゆっくり目のテンポで優しい主要主題。2度をゆらゆらと反復する木管が明るく美しいです。

三楽章、テンポは速めですが、とても深く感情を込めて歌う主要主題。ホルンで再現される主要主題も明るく美しいです。

四楽章、不穏な雰囲気の第一主題。かなりのスピード感があります。アクセントの反応もとても敏感です。咆哮する金管。とても激しい表現です。コーダの第一楽章第一主題はほとんど聞こえませんでした。

感情のこもったとても激しい演奏でした。響きも明るく、この激しい演奏にはとても合っていてこの演奏も良かったです。こうやっていろんな演奏を聞くとブラームスの音楽の受容度の広さを思い知らされます。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブラース:交響曲第3番の名盤を試聴したレビュー

ブラームス 交響曲第3番2

たいこ叩きのブラームス 交響曲第3番名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、一体感のある生き物のように動く音楽。美しいクラリネットの第二主題。精緻なアンサンブルが見事です。集中力の高いすばらしい演奏です。

二楽章、美しい木管のソロが続き、この楽章でも一体感のあるすばらしいアンサンブルを聴くことができます。

三楽章、速目のテンポで作品に深くのめり込むような陰影は感じません。ここでもこの当時のベルリンpoのアンサンブル能力の高さを如実に感じさせてくれます。

四楽章、トゥッティの怒涛の響きに圧倒されます。最後も美しく曲を閉じました。

ピエール・モントゥー/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

モントゥー★★★★☆

一楽章、録音年代の古さから木目の粗い音です。ライヴならではの感情移入による起伏の激しい表現はなかなか魅力的です。モントゥーの作品への共感がすごく伝わってくる演奏です。指揮台の上で「もっと!もっと!」とオケに要求しているのが目に映るような演奏です。

二楽章、とても豊かで生き生きとした表現です。

三楽章、

四楽章、トゥッティでのエネルギー感はすばらしい。モントゥーの作品への深い共感によって生まれた演奏だと思います。

ロリン・マゼール/バイエルン放送交響楽団 1991年ライヴ

マゼール★★★★☆
一楽章、マットであまり艶の無い渋い第一主題。消え入るような第二主題。伸び伸びとした穏やかな演奏が続きます。コーダも荒れ狂うような表現では無く節度ある演奏でした。

二楽章、とても穏やかな主要主題。中間部も静かで穏やかです。これだけ静かな演奏も珍しいのではないかと思います。最後は涼やかな響きで終わりました。

三楽章、アゴーギクを効かせて大きく歌います。柔らかいですが、しっかりと地に足のついた中間部の木管。マットですが柔らかいホルン。

四楽章、動きのある第一主題。第二主題も豊かな表情です。展開部もとても表情が豊かです。オケの響きはブレンドされて一体感があり、トゥッティの激しさもありますが、とても整ったバランスです。ライヴとは思えない静寂感です。

四楽章では激しい表現もありましたが、しっかりとコントロールされたバランスの良いトゥッティでした。その他はとても穏やかな演奏でした。ブレンドされた一体感のある響きもライヴとは思えない美しさでした。
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ベルナルト・ハイティンク/ヨーロッパ室内管弦楽団 2011年ライヴ

ハイティンク★★★★☆
一楽章、マットな第一主題。控え目で奥ゆかしい表現の第二主題。ハイティンクらしく穏やかで大きな表現の無い演奏ですが緻密で見通しの良い演奏です。金管が咆哮したりすることは全くありません。

二楽章、ニュートラルな響きであっさりとした表現のクラリネット。反応の良い引き締まった表現が続きます。はっきりとした色彩とオケが一体になっての動きは見事です。

三楽章、チェロの旋律は最初のテンポから進むにつれて少し速くなりました。大きくはありませんが、過不足無い表現です。主部が戻ったホルンは柔らかく美しい演奏でした。

四楽章、弱音でうごめくような第一主題。相の手で入る弦の締まった表現。その後も引き締まった表現が続きます。トゥッティでも決して荒々しくはならず整然と落ち着いた表現です。コーダはテンポを落として静かで澄んだ演奏になりました。

大きな表現や金管の咆哮も無く、穏やかな演奏でしたが、引き締まった表現やはっきりとした色彩、コーダの澄んだ響きの演奏などなかなか聞かせどころの多い演奏でした。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

ショルティ★★★★☆
一楽章、いつもながらに明快で目の覚めるような第一主題。動きが手に取るように分かります。現実的で夢見るような雰囲気は無いクラリネットの第二主題。とても鮮やかで、全ての音が前面に出てくるような明晰さが特徴です。表現意欲が旺盛でエネルギーが放出されます。分厚く充実した響きも見事で怒涛のようなトゥッティです。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで潤いのあるクラリネットの主要主題。中間部のコラール風の旋律も独特の陰りを感じさせます。とても積極的な演奏です。

三楽章、とても大きな表現で歌う主要主題。しかもテンポが速めで次から次へと畳み掛けてくるような表現です。中間部も活発にどんどん前に進むエネルギーがあります。ホルンで再現される主要主題は哀愁を感じさせるものでした。

四楽章、トゥッティのがっちりとした構築感のある響きはさすがです。とても力強い演奏です。金管が明快に鳴り響きます。凄いエネルギーで前へ進もうとする推進力があります。

とても力強い演奏で、曖昧さの無い明快な表現でした。がっちりとした骨格の構築感のある分厚い響きと前へ進もうとする推進力のあるエネルギーの放出も凄いものでした。ザンデルリングとは対極にある表現のように感じました。
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ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン/オランダ・フィルハーモニー管弦楽団

ズヴェーデン★★★★☆
一楽章、僅かにoffぎみで距離のあるオケ。豊かな表現の第一主題。優雅に歌う第二主題。次第にテンポが速まり豪快な演奏になります。コントラファゴットがしっかりと存在を主張します。かなり勢いのある演奏で、スピート感があります。

二楽章、クラリネットにはもう少し潤いや艶やかさがあっても良いように思います。一楽章の豪快さとは打って変わってとても繊細な表現を聞かせます。

三楽章、豊かに歌うチェロ。とても積極的な表現の演奏です。中間部は速めのテンポで憂鬱な雰囲気があります。積極的な表現の分、僅かに雑な感じもあります。

四楽章、薄暗い雰囲気の第一主題。思い切りの良い豪快な演奏はここでも健在です。弓をいっぱいに使うような豪快さと弱音の繊細さを併せ持ったなかなか良い演奏です。

思い切り良く豪快な演奏と、弱音の繊細さ併せ持った演奏でしたが、時に僅かに雑になる部分がありました。
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ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、速めのテンポの冒頭です。続くクラリネットのソロは夢見心地のような魅力的な表現です。激しく演奏される部分でもワルターらしいチャーミングで暖かみのある演奏です。

二楽章、弱音部の緊張感を録音が伝えきらないところが残念です。フレーズ終わりの間の取り方などもとても良い感じです。

三楽章、この楽章も速めのテンポで進みます。

四楽章、トゥッティでも力むことなく自然に音楽が流れて行きますが音楽に秘められた熱気は十分に感じられる演奏です。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈★★★★
一楽章、まろやかな響きのブラスセクションでした。安定感のある演奏です。節度ある表現で好感が持てます。管楽器のソロは極上とは言えませんが美しい響きです。ホールの響きを伴って深みのあるテュッティです。中庸の良い演奏だと思います。

二楽章、少し滑らかさに欠けるクラリネットのソロでした。ここでも朝比奈は極端な主張をすることなく自然体で音楽を進めます。自信に溢れた堂々とした演奏です。

三楽章、第一主題のクレッシェンド、デクレッシェンドは大きく表現しました。

四楽章、決して力むことなく見事に頂点を作ります。弱音部の繊細な表現などは長年のコンビで息のあったところを聴かせてくれます。

クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

アバド★★★★
一楽章、速めのテンポで動きのある第一主題。奥ゆかしい響きのクラリネットの第二主題。その後に続く部分も優雅です。カチッとした弦のアンサンブル。とても活動的で生き生きとしています。コーダではテンポを少し速めて絡み合う楽器が激しくぶつかり合うような表現でした。

二楽章、ここでもクラリネットとファゴットの主要主題は控えめでとても奥ゆかしい表現です。曇天の中に僅かに光が差し込むような表現です。

三楽章、豊かに歌うチェロの主要主題。フルートが少し寂しげに歌います。ブラームスの音楽にしては少し温度感が低い感じがします。

四楽章、筋肉質で動きのある第一主題。振幅の大きい演奏で消え入るような弱音からトゥッティの激しい演奏の幅か広いです。

奥ゆかしい弱音から、爆発するようなエネルギーまで表現の振幅の大きな演奏でした。ただ、ブラムスにしては温度感の低い演奏に感じました。
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オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、冒頭から人を寄せ付けないような孤高の演奏です。第二主題もいつものようにほとんど歌いません。色んな声部がくっきりと克明です。最後に現れる第一主題もそっけないものでした。

二楽章、自然に滲み出る穏やかでのどかな主要主題。最晩年の無表情な音楽とは違い、自然で控え目な音楽があります。

三楽章、今にも雨が降りそうな曇天をイメージさせる主要主題。フワフワと浮遊感のあるような動きがあります。柔らかく穏やかな中間部。

四楽章、大きく歌うわけではありませんが、何とも言えない表情があります。第二主題の前はそんなに激しくはありません。最晩年の「無」の境地のような演奏とは違い活発な動きもあります。

大きな表現はありませんでしたが、内側でうごめくような表現のある演奏でした。全体的には穏やかで「静」の演奏で、最晩年の「無」の境地へ向かう片鱗を垣間見せるような演奏でもありました。
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ヘルベルト・ブロムシュテット/北ドイツ放送交響楽団

ブロムシュテット★★★★
一楽章、ゆったりと強弱の変化のあるモットーから一転してドカンと入って速めのテンポで歌う第一主題。こぶしが効いているような独特の歌い回しの第二主題。振幅は大きく強い音で克明に刻み付けるような表現です。第一主題が常に速いのはAllegro con brioを忠実に表現するためなのか?

二楽章、いつもながらの自然体の演奏です。陰影を感じさせる中間部の旋律。大きな表現は無く淡々と進んで行きます。

三楽章、伸ばす音でグーッと引っ張って戻すような主要主題の表現。とても現実的な中間部の木管。一転して弦は夢見るようで美しいです。ホルンに主要主題が再現されても最初の表現と同じで少し不自然な感じがします。

四楽章、弱音ですが、力のある第一主題。第二主題の前は深みのある美しいしかも激しい演奏でした。第二主題の後も力強い演奏です。コーダのコラールも美しいです。第一楽章の第一主題はほとんど聞き取れないくらいでした。

とても美しく充実した演奏でした。響きにも深みがあり激しい部分ではかなり思い切って金管に吹かせているようであま普段のブラームスでは聞けないような響きの演奏でした。ただ、いくつか不自然な表現があったのかとても引っかかりました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブラース:交響曲第3番の名盤を試聴したレビュー

ブラームス 交響曲第3番3

たいこ叩きのブラームス 交響曲第3番名盤試聴記

ジョルジュ・プレートル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

プレートル★★★☆
一楽章、第一主題の途中で音量を落としたりテンポも落ちたりする独特の表現です。優雅に舞うような第二主題。あまり密度が高く無く、軽い感じがします。コーダの最初はいろんな楽器が絡み合いますが、ちょっと散漫な感じがしました。

二楽章、速めのテンポでグイグイと進む演奏です。2度をゆらゆらと反復する動機は華やかです。中間部は祈るような雰囲気です。間接音を含んだフワーッとした柔らかい響きですが、その分凝縮したような表現の強さはありません。フワーッとした響きがコーダのクラリネットでは夢見るような淡い表現でした。

三楽章、思いが詰まったようなチェロの旋律。続くヴァイオリンもとても感情のこもった表現でした。中間部は少し活発に動きます。

四楽章、柔らかい表現の第一主題。トロンボーンが大きくクレッシェンドしました。その後、第二主題まではそんなに激しくはありません。再現部に入ると金管が抜けて来ます。コーダの夢見るような儚い表現に惹かれます。

オケを強烈にドライヴするような表現は無く、夢見るような淡い表現が何度か聞かれました。全体にフワーッとした柔らかい響きで、ブラームスらしい厚みのある響きはあまりありませんでした。
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エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1972年ライヴ

ムラヴィンスキー★★★
一楽章、ゆっくり演奏されるモットーに続いてちょっと暴力的で激しい第一主題。太い響きのクラリネットの第二主題。ビブラートを掛けたホルンがロシアのオケだと印象付けます。。金管も咆哮しますし、ロシアのオケの演奏らしい表現です。

二楽章、少し乾いた響きのクラリネット。あまり表情は無く、客観的な演奏ですが、響きがブレンドされずブラームス的なトローッとしたサウンドではありません。

三楽章、豊かに歌い、哀愁とともに寒さも感じさせる冒頭の旋律。中間部も僅かに冷たさを感じさせる響きです。主部が戻ったホルンはビブラートを掛けています。

四楽章、うごめくような第一主題。第二主題の前はかなり激しい演奏でした。第二主題は勢いを付けて滑るような表現でした。展開部の前はチャイコフスキーのような爆発でした。再現部の強奏も各々の楽器の音がブレンドされずマイルドな響きにはなりません。ただ、エネルギーの爆発はかなりのものがあります。

トゥッティのエネルギーの爆発はかなり強い演奏でしたが、弱音の繊細さはあまり感じられず、また響きがブレンドされず硬い響きになってしまっていました。ブラームスの音楽には響きが硬すぎると感じました。
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ハンス・クナッパーツブッシュ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

クナッパーツブッシュ★★
一楽章、歪みっぽい音です。遅めのテンポで一歩一歩確かめるような足取りの演奏です。ノイズのせいもあるのか、トゥッティでは嵐のような激しさを感じます。とても感情の起伏の激しい音楽でした。

二楽章、最初に示されるクラリネットの主題は古い時代の音を感じさせます。アゴーギクを効かせてたっぷりとした感情表現です。

三楽章、

四楽章、

イシュトヴァン・ケルテス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ケルテス
一楽章、ワウ・フラッターで音程が揺れています。細く薄い第一主題。控えめな第二主題の途中でクラリネットが音量を落とします。スクラッチノイズもありますので、LPレコードが音源だと思いますが、ワウ・フラッターはかなり酷いです。最後は振幅の大きな演奏のように感じました。

二楽章、感情を込めて歌う主要主題。

三楽章、小節の頭を強く演奏する主要主題。

四楽章、昔、ラジオから聞いた音楽のような音です。

録音が悪くてどんな演奏をしているのか分かりませんでした。
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