ブラームス 交響曲第1番
たいこ叩きのブラームス 交響曲第1番名盤試聴記
カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、冒頭から分厚い響きで圧倒されます。美しい木管のソロ。終始分厚い響きの中で音楽が展開されて行きます。作品に対する共感と自信に溢れた演奏ですばらしいです。
二楽章、甘美なオーボエのソロ。自然な音楽の抑揚。ベームの演奏なので、極端にテンポが動いたり表現の強調などはありませんが、自然体の音楽が堂々としていて、「ブラームスはこうあるべき」と言う自信と信念が表出された見事な演奏です。バイオリンのソロもとても美しかった。
三楽章、ウィーンpoらしい音が開かないクラリネットのソロも非常に美しい!
四楽章、弦のピチカートにも緊張感があって良いです。フルートのソロも美しい!ホルンのメロディもウィーンpoらしい質感がたまりません。テンポの変化も自然です。終結部のトゥッテイも輝かしい響きで圧巻で、すばらしい演奏でした。
オトマール・スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ
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一楽章、音楽の勢いを感じさせる冒頭です。テンポは自然な流れの中で動きます。適度な緊張感を伴って起伏の激しい演奏です。
二楽章、コントラバスの厚い響きが印象的です。オーボエのソロも美しい!バイオリンのソロも艶やかで非常に美しいです。
三楽章、速めのテンポで緊張感はずーっと維持されています。テンポはよく動きますが不自然さはありません。
四楽章、激しいティンパニのクレッシェンド。弦のピチカートにも緊張感があります。スウィトナーと言うと端正な演奏のイメージでしたが、こんなに激しい演奏をしていたとは驚きです。金管も激しい演奏でスウィトナーの指揮に応えています。まさにブラヴォーな演奏でした。
ピエール・モントゥー/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
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一楽章、地面から湧き上がってくるような不思議な生命観を持った音楽です。若々しく生き生きとしています。モントゥーの作品に対する共感がすごく伝わってきます。テンポも途中でガクんと遅くなったり変化に富んでいます。生気に溢れていて激しい演奏です。
二楽章、モントゥーの作品への深い共感をオケにストレートにぶつけて、オケもそれに必死に応えているような演奏です。ヴァイオリンのソロも美しかった。ヴァイオリンに絡むホルンも美しい響きでした。
三楽章、コンセルトヘボウらしく瑞々しい響きのクラリネットでした。
四楽章、微妙な表情付けがいたるところになされています。モントゥーの作品へのこだわりがすごく感じられます。火の出るような演奏とは、このような演奏のことを言うのでしょう。まさに魂が乗り移ったような感情の起伏に富んだすばらしい演奏でした。
朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団
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一楽章、堂々たるテンポ設定で晩年の朝比奈の芸風が如実に現れています。スケールの大きな演奏です。しかも音楽が弛緩することは全くありません。木管のソロも瑞々しく美しいです。音楽が次々と泉のようにこんこんと湧き出てくるような豊かな演奏で集中力が途切れません。
二楽章、見事なアンサンブルでせつなさを表現しています。美しいヴァイオリンのソロでした。
三楽章、遅いテンポにもしっかりオケが付いていきます。
四楽章、ティパニのトレモロは控え目なクレッシェンドでした。ティンパニ続くホルン、フルートも伸びやかで美しい演奏でした。硬質なティンパニが見事に決まります。コーダでテンポの変化は以外な驚きでした。すばらしい演奏でした。ベートーヴェンの全集でも感じましたが朝比奈と大フィルがこんなにすばらしい演奏を残していたとは本当に驚きです。後世に残る名演だと思います。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団1998年ロンドンライブ
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一楽章、強烈なティンパニの打撃音から凄い緊張感が伝わってきます。感情の起伏も激しい演奏になっています。非常に厳しい表情の音楽です。カラヤンも速めのテンポでオケをグイグイと引っ張ります。強奏部分では、それぞれのパートが自己主張をして戦闘状態のように空中分解しているようにも感じますが、決め所ではきっちりと整ったアンサンブルを聴かせます。さすがにベルリンpoです。
二楽章、コントラバスを土台にしっかりしたバランスの弦合奏です。オーボエも美しいソロを聞かせます。どのパートも存在感を誇示するかのように主張します。
三楽章、楽しそうに歌うクラリネット。録音の特性なのかも知れませんが、どのパートも強い音がします。
四楽章、カラヤンの音楽にしてはとても激しい演奏です。フルートのソロも強い存在感がありました。表現も積極的で攻撃的な演奏に感じます。これだけ厳しい表情のブラームスは初めてです。カラヤンも何かに取り付かれたかのように指揮に没頭している様子が目に浮かぶようです。すばらしい緊張感を維持し続けた演奏でした。
レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、前進しようとする力強さのある冒頭です。ダイナミックで力感溢れる演奏です。音符一つ一つに意味を持たせたような生気に満ちた演奏です。表情豊かで強弱の変化など俊敏な反応です。金管も十分に前に出てきます。緊張の糸がピーンと張り詰めたような独特の雰囲気があります。
二楽章、作品を慈しむような丁寧で慎重な冒頭でした。とても表情豊かなオーボエソロでした。バーンスタインは作品と一体になっているかのような自在な表現です。天国的な終り方でした。
三楽章、積極的な表現の演奏です。バーンスタインはスコアに書かれているものから最大限のものを引き出そうとしているようです。最後はテンポも動きます。
四楽章、劇的な表現です。強弱の幅もすごく広くとっています。少し篭りぎみのホルンでした。中庸のテンポの第一主題、ここからテンポをかなり煽る。金管も加わってかなり激しい演奏です。即興的にテンポが動いているようです。最後は歓喜に溢れる輝かしい見事な演奏でした。
カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、ゆったりとしたテンポで堂々とした冒頭。広大な感じです。続く部分は繊細で優しい感じ、歌に溢れています。ゆったりと確実な足取りです。とても優雅で美しい演奏で、その分前に進むような力強さはありません。ウィーンpoのメンバーも伸び伸びと演奏しているような感じがします。
二楽章、冒頭から歌に引き込まれます。繊細なガラス細工のような透明感とキラキラと光がちりばめられたソロ。音楽にどっぷりと浸かっていられるような安心感。ホルンとヴァイオリンソロの絡みも見事です。こんなに穏やかなブラ1も珍しいでしょう。
三楽章、優雅なクラリネットソロ!刺激的な部分もなく安心して音楽に身をゆだねることが出来ます。
四楽章、ティンパニのクレッシェンドも控え目でした。この楽章も遅めのテンポで確実な足取りです。朗々としたホルン。続くコラールも神聖な雰囲気がありました。ゆっくり目な第一主題が安定感を感じさせてくれます。歓喜に沸き立つような派手な終り方ではありませんでしたが、渋くこの演奏の最後にはピッタリな演奏で締めくくりました。ブラ1の演奏としては異質な存在かも知れませんが、これはこれで素晴らしい演奏だったと思います。
スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/hr交響楽団
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一楽章、躍動感があって、大蛇がうねるような冒頭。とても透明感が高く美しい演奏です。オケもメリハリがあってクッキリとした響きです。波がうねるように複雑に浮き沈みするオケ。まるで生きているような感覚があります。
二楽章、木管のソロではとても微妙な表現ですが、弦全体の演奏などでは力があって、グッと押したり、スッと引いたりする絶妙な表現です。ヴァイオリンのソロもとても美しいものでした。
三楽章、滑らかに柔らかく歌うクラリネット。ブラームス独特のずんぐりとした響きではなく鮮明でどちらかと言うと鋭い響きで鋭利な刃物のようです。
四楽章、オケ全体が動く時の動きはとても俊敏です。アルペンホルン風の旋律は少し遠くから響くようでとても気持ちの良い響きでした。コラールもとても美しいものでした。速いテンポで颯爽と進む第一主題。この辺のテンポ設定もシャープな演奏を印象付けるものです。これだけシャープで明晰な演奏はこの作品としては出色のものだと思います。コーダも爆発すること無く抑制の効いたバランスの良い演奏です。コラールも弦が鮮明に聞こえます。
感情に流されること無く、終始明晰な演奏でした。ブラームスの作品がこれだけ鮮明に鳴り響くとは思いませんでした。とても新鮮な驚きです。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1988年東京ライヴ
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一楽章、ゆったりとしたテンポで柔らかく控え目な序奏。あまり悲痛な表現は無く、とちらかと言うと穏やかです。ロンドンライヴの物凄いスピード感とは全く違う演奏のような感じがします。美しい木管のソロ。柔らかい弦。ブレンドされた美しい響きです。カラヤンとベルリンpoの絶頂期は過ぎていますが、それでも微妙な表現にも反応するオケはさすがです。濃厚で強い表現はありませんが、機能的に動くオケやトゥッティの深みや厚みなどは素晴らしいです。
二楽章、消え入るような弱音で繊細なソロや弦です。小さく定位するヴァイオリンのソロも優しいです。甘く優しい音楽です。
三楽章、甘くとろけるようなクラリネット。優しく包容力のある演奏はこれでなかなか良いものです。とても繊細な表現の演奏です。
四楽章、刺激的な音は一切出さずマイルドです。アルペンホルン風の旋律の前の凄いティンパニのロール。あまり深くはあのませかしマットなホルンはゆったりと伸びやかです。第一主題もゆったりと柔らかく伸びやかで美しく歌います。この第一主題は次第にテンポを速めて行き次第に激しくなります。アルペンホルンの旋律が回帰する前の部分で大きくテンポを落とし濃厚な表現をしました。コーダの前の波が押し寄せるような表現。重量感があって堂々としたコーダ。輝かしいコラール。最後は少しテンポを落として非常に大きなスケール感で終わりました。
柔らかくマイルドな響きで、ゆったりと堂々とした表現でした。繊細な最弱音から厚みのあるトゥッティまで幅広い表現で、圧倒的な空間を表現しました。
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カール・ベーム/バイエルン放送交響楽団 1969年ライヴ
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一楽章、最初の一打目と二打目の間隔が少し開いた冒頭。震えるような悲痛な表現の序奏です。きびきびとしたテンポで豊かな表現の主部です。リズムにも躍動感があってとても生き生きとした演奏です。バネのような強い弾力です。ベームの絶頂期にはこのような腰の強い音楽だったんですね。オケも全力で体当たりしてくるような凄味があります。
二楽章、一楽章の弾む音楽から横に揺れる音楽になりました。戯れるような木管。枯れたヴァイオリンのソロ。
三楽章、すごく積極的に歌うクラリネット。続く弦も豊かに歌います。この楽章でもリズムが弾んで俊敏な反応です。トリオも積極的な表現で迫って来ます。トリオの終わりでテンポを落としました。
四楽章、激しいティンパニのクレッシェンド。確実なテンポで演奏されるピィツイカート。アルペンホルン風の旋律の前は。追い立てるようなテンポと激しいティンパニ。アルペンホルンは広い空間に響き渡るようで壮大です。フルートもピーンと張った響きが美しいです。速いテンポの第一主題。追い込むような激しいテンポとダイナミックの変化です。晩年の落ち着いた演奏とは全く違う燃えるベームです。凄い迫力で迫って来ます。コーダへ向けてテンポを速めてそのままコーダへ突入しました。凄い高揚感です。
ラジオ放送用のライヴだったのかと思いますが、さすが絶頂期のベームのライヴですね。悲痛な表現の序奏から、凄い熱気とダイナミックの変化と追い立てるようなテンポの変化。コーダへ向けてのアッチェレランドとコーダの凄い高揚感。どこをとっても素晴らしい演奏でした。
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カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年東京ライヴ
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一楽章、悲痛な叫びではありませんが、深みのある響きの序奏です。ゆったりとしたテンポをさらに遅めたりテンポが動きます。味わい深いオーボエ。温かみのあるチェロ。主部もゆったりとしたテンポで69年のライヴとはかなり違う演奏です。テンポを落とす部分では凝縮された濃厚で重い表現です。
二楽章、音量を抑えてデリケートな表現です。探りながらすすむようなテンポの動きに合わせるように大きく豊かに歌うオーボエ。ライヴならではの大きなテンポの動きで、ベームも作品に身をゆだねているような自然な動きです。ねっとりと艶やかなヴァイオリンのソロも豊かに歌います。
三楽章、速めのテンポでとても動きと豊かな表情のある演奏です。追い立てるようにテンポを速めたり遅くなったりとてもよく変化します。トリオも活発な表現で生き生きとしています。
四楽章、大きなクレッシェンドのティンパニ。ピィツイカートも凄く動きがありました。その後の弦の表現も積極的で、オケもできる限りの表現をしているような感じです。速めのテンポでグイグイと進む第一主題は次第にテンポを速めます。アルペンホルンが回帰する前のクライマックスはテンポも動き、容赦なく音を割るホルンなど物凄く激しい盛り上がりでした。この激しさと一瞬見せる穏やかさの対比も見事です。コーダも凄く力強い歓喜に沸きかえるような盛り上がりでした。
最初は深みがあり味わい深い演奏でしたが、次第にベームの気合いがオケに乗り移ったようなすさまじい迫力の演奏になりました。テンポの動きと豊かな表現。最後は力を振り絞るような歓喜に沸きかえるようなコーダ。見事でした。
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