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ベルリオーズ 「幻想交響曲」

ベルリオーズの「幻想交響曲」は、1830年に作曲されたロマン派音楽の傑作で、プログラム音楽としても有名です。この作品は、ベルリオーズが実体験をもとに恋愛や狂気、幻想的なビジョンを音楽で描き出したもので、物語性が強く、革新的なオーケストレーションやドラマティックな表現が特徴です。

構成と特徴

「幻想交響曲」は全5楽章で構成され、それぞれが物語の一場面を描いています。

  1. 第1楽章「夢と情熱」 (ラルゴ – アレグロ・アジタート・エ・アッサイ・アニマート)
    主人公(ベルリオーズ自身を投影した人物)が一人の理想の女性(「彼の愛する人」)に出会い、彼女への激しい恋心にとらわれる場面です。この楽章には「イデー・フィクス(固定観念)」と呼ばれるメロディが登場し、この旋律が物語の中で何度も繰り返されることで、彼の愛が執着や幻想に変わっていく様子が表現されています。
  2. 第2楽章「舞踏会」 (ワルツ:アレグロ・ノン・トロッポ)
    主人公が彼女とともに華やかな舞踏会に参加しているシーンを描いています。軽やかで華やかなワルツのリズムが支配的で、夢のような雰囲気の中に再び「イデー・フィクス」が現れることで、彼の愛がどれほど深いかが暗示されます。
  3. 第3楽章「田園の情景」 (アダージョ)
    美しい田園風景の中で、主人公が安らぎを求め、愛する人のことを思いながら憩うシーンです。牧歌的なオーボエとイングリッシュホルンの対話が、自然の中での平和なひとときを象徴します。しかし、最後には不安がこみ上げ、彼女への愛が叶わないのではないかという疑念が暗示されます。
  4. 第4楽章「断頭台への行進」 (アレグロ・ノン・トロッポ)
    ここでは物語が一気に暗転します。主人公が恋愛の絶望から幻覚を見て、自分が殺人を犯し、死刑宣告を受けてしまう幻想を描いています。行進曲風の重厚なリズムが続き、やがてギロチンの刃が落ちる瞬間が音楽で表現され、壮絶なイメージが展開されます。
  5. 第5楽章「サバトの夜の夢」 (ラルゴ – アレグロ)
    最後の楽章は悪夢のようなシーンです。主人公が死後に「魔女の宴」に参加する恐ろしい幻想を描き、彼の「イデー・フィクス」が不気味な形で歪んで再現されます。ベルリオーズは「怒りの日」(死者のためのミサに使われる旋律)も取り入れ、異様で狂気じみた雰囲気を演出しています。音楽はどんどん狂乱の度合いを増し、最後にはカオスに飲み込まれるようにして幕を閉じます。

革新的な要素

「幻想交響曲」は、従来の交響曲の枠を超え、具体的なストーリーや感情を表現するために、多彩なオーケストレーションと革新的な手法が使われました。例えば、「イデー・フィクス」を繰り返し登場させることで主人公の執着を表現する手法は、ベルリオーズ独自のアイデアであり、その後の音楽に大きな影響を与えました。また、オーケストラの規模も拡大し、表現力が増したことで、劇的で生々しい情景が音楽で描き出されています。

「幻想交響曲」の意義

この交響曲は、ベルリオーズが自らの恋愛経験や心理的苦悩を反映させた、いわば彼の「自伝的作品」です。幻想と現実の境界が曖昧なこの作品は、ロマン派音楽において「個人の内面的な情熱」や「異常心理」を表現する先駆けとも言えます。そのため、現在もなお高い評価を受け、多くの演奏家や聴衆に愛されています。

ベルリオーズの「幻想交響曲」は、ドラマティックな音楽体験を提供する作品であり、ロマン派音楽の大胆さと情熱の象徴とされています。

4o

たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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表面を磨き上げることにかけては天才的な才能を発揮したカラヤン。幻想交響曲はカラヤンにはもってこいの曲だと思いますが、どんな演奏をするのでしょうか。

一楽章、かなりゆっくりしたテンポで、じっくり歌われる導入部です。アバド/シカゴsoの録音のような華やかな弦ではありません。繊細さは十分ありますが、少し陰影をともなったような響きです。
非常にゆっくりとした運びです。ゆっくりとしたテンポの中にも高度な合奏力がすばらしいです。そして、トゥッティの厚みはさすがにベルリンpoですね。他のオケでは聴くことができない分厚いサウンドです。

二楽章、安心して聴いていられます。「表面を徹底して磨く」と評価されがちなカラヤンですが、この作品のように思想的な背景や哲学のような作品ではなく、基本的に色恋がテーマですから、オケが上手く、見事に整った演奏は、これはこれで良いのではないかと思わせてくれます。
繊細で上品なフルネ。きらびやかなアバド。中庸のカラヤンといった感じでしょうか。ついでに下品なロジェストヴェンスキー!メタリックなショルティ!

三楽章、どの楽章も比較的ゆっくりしたテンポで美しい音楽を堪能させてくれます。ここでも中低音の厚みはすごいものがあります。どのソロも美しいです。また、この楽章では、ピークへ向かってテンポを上げたりいろいろ表情があります。
ティパニの雷さえも美しい!本当に良い音で鳴っています。

四楽章、ちょっと詰まって感じのホルン。ここでも厚みのある弦が良いです。ティパニの音色感がとても良い。またブラスセクションも派手ではないけれど荒れることなく整ったアンサンブルと気持ちの良い鳴りを聞かせてくれます。

五楽章、音色がそうだからか、陰鬱な感じが上手く表現されています。
AクラとEbクラの対比がはっきりしていて、ここも聴き所です。
鐘も倍音を伴った良い音です。この楽章も少し遅めのテンポで細部まで聞かせてくれます。
音色や音の厚みなどはドイツのものかも知れませんが、この演奏はそれでもかなりの魅力のある演奏だと思います。ドイツ古典派の作品をこのような演奏にすると、華美に過ぎるといわれるかもしれませんが、この幻想では、もっと派手な演奏があるだけに、逆にドッシリ構えた大編成のオケの響きを十分聞かせてくれます。
最後もテンポを煽ることもなく、どっしりとした堂々たる演奏のしめくくりでした。

ゆったりと堂々としたテンポと広大なレンジの美しい響き。トゥッティの分厚い響き。狂気を表現したかどうかは分かりませんが、これは、個人的にはとても良いと感じた幻想交響曲です。

サー・ゲオルク・ショルティ指揮 シカゴ交響楽団

icon★★★★★
発売当時、現実交響曲と評論された「幻想交響曲」。シカゴのパワーを駆使してどんな演奏を繰り広げるか!

一楽章、録音が古いせいか、定位する音像が大きい。アバドとの録音に比べると、オケとの距離がすごく近く、一音一音が克明に描かれています。ちょっとデッド過ぎて生音は聞けるのですが、ホールと一体になった響きは聞けません。デッドな録音になっている分、音が迫り来るような表現は聞くことができます。
金管楽器の短い音符でも遠慮なくバリッと入ってきます。そこには、夢幻のような情景はありません。

二楽章、アクセントなどの表情がとても厳しい、シカゴsoの機能美を追求したような演奏で、音響効果を聞くCDだと思います。
舞踏会の華やいだ雰囲気もありません。ひたすら、楽譜の指示に異常なくらい厳格に執着した、変換作業をしているようで、楽しむことは難しいです。

三楽章、弦のクレッシェンドなどは痛いくらいに突き刺さってきます。この演奏に正対するには、かなり体調の良い時じゃないと厳しいです。

四楽章、重い音のティンパニ、短い音でもビーンと鳴る金管。すごいパワーで金管が襲い掛かってくる!トランペットの旋律の付点も正確だし、楽々吹いている。楽器って、こんなに鳴るものなのか?と思いたくなるくらい、とにかく良く鳴るオケなのか、録音なのか。人工的にせよ、ここまで鳴りきると気持ちが良い。すごいオケだ!脱帽です。

五楽章、ここまで鳴らしきっても、アンサンブルが乱れないし、下品にならないところはさすがですね。
ショルティの演奏には好き嫌いがはっきりすると思うのですが、音響の構築物としての完成度と美しさは、ものすごいハイレベルにあることは間違いありません。コンサートでもこんな音がしているのか不思議な感じはありますが、CDとして割り切って聞く分には、十分楽しめます。
一糸乱れず、これだけ鳴らし切るのは、並のことではありません。

表題とはかけ離れた演奏かも知れませんが、オケの上手さとそれをコントロールするショルティの手綱さばきは認めないといけないでしょう。すごい演奏の幻想交響曲でした。

ジャン・フルネ指揮 東京都交響楽団

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世間では、フランス音楽だとか、ドイツ音楽だとか言う人もいますが、私にはあまり縁の無い言葉です。
幻想交響曲がフランスであろうと、ドイツであろうと、ロシアであろうと、私の知ったことではないのです。要は私の好みに合った演奏であれば、それで良し。
今となってはフランスの重鎮(2008年に他界)フルネの幻想。オケはフルネと密接なつながりのある東京都交響楽団。さて、フランス的なのか日本的なのか・・・・・・

一楽章、とても柔らかい響きで、しかも消え入るようなppから演奏が始まりました。とても表情が豊かな演奏です。作品を知り尽くしたフルネの自信なのか。
弦の響きがとても美しい。都響もフルネの棒にピタリとついている感じです。弱音にとても気を使った真面目な演奏でもあります。この点では日本人の真面目さがでているような気がします。
フランス人っていい加減ですもん。
弦楽器の胴が本当によく鳴っている伸びやかな音が印象的です。フレーズの中での強弱の振幅も大きいのですが、汚い音は一切出てきませんし、集中力も高く、演奏に引き込まれます。

二楽章、内面から湧き出るような表現が絶妙で、本当に美しく上品で格調高い。日本のオケがこれだけ格調高い音楽を演奏できるということもすごいことだと思う。
フルネと言う人は外見通りの上品な音楽を作る人なのだろう。同じフランス人でもミュンシュのヤンチャな演奏とは全く別物です。また、ミュンシュ/パリ管の個人技が表に出て暴れ馬のような過激な幻想とも対照的な、見事に統率のとれた洗練された幻想交響曲です。

三楽章、木管の響きもとても美しい!日本のオケってこんなに上手かったのか。これだけの演奏水準であれば、世界のどこへ出しても恥ずかしくないと思う。それぞれの楽器の音が集まってきて、凝縮されて一体になった美しい演奏が繰り広げられるのです。そして、フルネの指揮に敏感に反応するオケの表情の豊かさ。洗練の極みと言っても過言ではないほどの幻想です。これほど格調高い幻想は他に無いかもしれません。
幻想交響曲は色彩の豊かさと、後ろの二つの楽章の派手さにばかり意識が行きがちですが、前半でこれだけ聞かせてくれるのは、すばらしいことです。見事に野の風景を描き切ったと思います。

四楽章、マスの響きがブレンドされて本当に美しい。この楽章あたりからブリブリと下品に吹きまくる演奏がほとんどなのですが、この演奏はとても美しい。シンバルやティンパニなどの打楽器も音色を厳密に選んでいると思う。音の分厚さなどは残念ながらありませんが、この上品な幻想にはこのバランスで調度良い。

五楽章、表情付けがとても厳格で管楽器などもスピードのある息が入っているような密度の濃い演奏で、ぐんぐん引き込まれて行きます。メータ/ニューヨークの演奏が、ダラダラ~っと流れてしまったのとも対極をなすような集中力の高さでアンサンブルも絶妙。
ただ、この楽章の表題のようなドロドロしたところは一切ありません。しかし、これだけ徹頭徹尾一貫した演奏をされると、そんな表題なんかどうでもよくなります。
この演奏はこれで良いんだ!と十分説得してくれます。
最後は少しテンポが速くなって終わりました。

すばらしい!!!!!

クラウディオ・アバド指揮 シカゴ交響楽団

icon★★★★★
同じシカゴ交響楽団を指揮しても、ショルティとは全く違う演奏になるアバドですが、幻想ではどうなるのか。

一楽章、柔らかい出だし、静寂感があります。空間の広がりも感じられて、良い録音です。強弱の幅も広く、アバドにしては積極的な音楽作りのようです。豊かなホールトーンの中に身をおいて、まさに幻想的な感覚がします。
それでも、マスの一体感やパワーはさすがにシカゴsoらしくすばらしいです。テンポの動きも含めて音楽の振れ幅が広く、聴いていても楽しめます。

二楽章、オケの反応がすごく良いので、表情豊かに聞こえます。コルネットが入っている楽譜を使っているようですが、あまり強調することもなく、自然に聞こえてきます。全体としては適度な緊張感があってなかなかの好演です。オケの上手さは抜群です。

三楽章、薄いヴェールにつつまれているような録音で、幻想を上手く演出しています。アバドは大見得を切るような演奏をすることは、まずないので、表情があっても節度のある範囲で、幻想交響曲には上手くマッチしているように思います。美しい演奏です。ショルティが振るシカゴsoは男性的で時に凶暴なくらいの演奏をすることがありますが、アバドとの演奏はそういった危険性は一切見せません。ヨーロッパのオケを聞いているような安心感があります。
雷の雰囲気を出すために、二組のティンパニの距離を厳密に測ってセッティングしたと伝えられているが、これは効果的です。遠くで鳴る雷が空に広がっていく感じが上手く表現されています。

四楽章、テンポは速めです。意外と何の感慨もなく終わってしまった。

五楽章、ここも早めの開始です。悪魔的な毒々しいことは一切なし、アバドにそれを求めてもムリか?
すばらしいオケの名人芸を素直に楽しめば良いかも。少なくともオケの上手さを楽しむのなら、レヴァイン/ベルリンpoよりもこちらの方が断然上手いです。
鐘の音も良い。どのパートをとっても文句のつけようが無い、これ以上のスーパーオケはあるだろうか。
終結部で若干テンポを上げたが、若干と言う程度。いやぁ、このオケの中にあっても木管だって、しっかり存在を示すし、ソロもテュッティのアンサンブルの精度も全て含めて爽快な演奏でした。(決して豪快ではありません)毒々しい演奏を聴きたい方は裏切られます。

しかし、このスーパーオケの一糸乱れぬ演奏には惹かれるものがあります。聞いていて気持ち良い幻想交響曲でした。

シャルル・ミュンシュ指揮 パリ管弦楽団 1967年ライブ

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パリ管弦楽団の発足ライブです。

一楽章、微妙なニュアンスを表現するオケ、抑制を保ったアッチェレランド。すごいヴィブラートのホルンソロ。緩急自在で起伏も激しい演奏です。かなり速いテンポでグイグイ引っ張って行くと思ったら、すごくテンポを落としてじっくり歌うところもあります。神がかり的な演奏とでも言うべきか、ミュンシュがとりつかれたように指揮をしている様が目に浮かびます。すごい演奏です。

二楽章、即興的なテンポの動きのようです。勢いがあって凄みを感じる舞踏会です。すごいスピードで終りました。

三楽章、この楽章も速いテンポでグイグイとオケを引っ張ります。さらにアッチェレランドしながらクレッシェンドして、直後にグッとテンポを落としたりミュンシュの赴くままに演奏しています。「幻想」ってこんな演奏もあったのか!と驚かされます。これまでの概念からすれば、原型を留めていないと思わされるほどの激しい演奏です。

四楽章、一転して遅いテンポで開始しました。しかし、ティンパニのクレッシェンドにともなってアッチェレランドもあり、結局は速めのテンポでの演奏です。パストロンボーンのペダルトーンがはっきりと聞こえます。後半はさらにテンポを上げました。

五楽章、すごくグロテスクな描写です。音楽が生き物のように迫ってきます。オケも抜群に上手いです。フランスの威信をかけて結成されたというだけのことはあります。最後はゴールへ向かって競争するかのような猛烈な演奏でした。ミュンシュのやりたい放題!とにかくすごい幻想交響曲の演奏でした!

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1977年ライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポとかなりの弱音で夢見るような雰囲気の冒頭の演奏です。かなり注意深く進みます。74年のスタジオ録音と同じような演奏です。録音のせいかダイナミックの変化はそれほど大きくはありません。柔らかくふくよかなホルン。ライヴらしくテンポの変化があって、次第にテンポが速くなって激しくなっています。音階の上下する部分はかなり速く激しくなりました。クライマックスの最後の部分でもテンポを速めたり、その後もテンポが変化して情熱的な雰囲気を盛り上げています。

二楽章、強弱の変化も俊敏な反応で高性能なオケを十分に感じさせてくれます。舞踏会も優雅にテンポが動いています。スタジオ録音の美しさを磨き上げた演奏とは違い、ライヴの熱気を感じさせる勢いのある演奏です。舞踏会で恋人を見かけて落ち着かない感じがとても良く表現されています。かなり速いテンポで追い立てます。

三楽章、コーラングレとオーボエの遠近感もとても良いです。冷たい空気感が表現されています。レンジはそんなに広くは無い感じですが、整ったアンサンブルと美しさは伝わって来ます。弦が強く演奏する部分でも決して荒くはならず、とても整った美しい演奏です。生命感や躍動感を感じる演奏ではありません。人間が演奏していないのではないかと思えるくらい完璧な演奏です。ティンパニの雷鳴もとても雰囲気のある演奏で、野に響く雷鳴を感じさせてくれました。

四楽章、重いティンパニ。スタジオ録音よりは少し速めのテンポです。歯切れが良くマットな響きのトランペット。オケが一体になった見事なアンサンブルはすばらしい。

五楽章、スタジオ録音のような広大なダイナミックレンジではありませんが、とてもバランスの良い響きです。良い音の鐘。とても良く鳴る金管ですが、全体のバランスから飛び出すことはありません。トゥッティで演奏される怒りの日はテヌートで非常に美しいものです。魔女の饗宴と言うおどろおどろしい雰囲気はありませんが、カラヤンがオケを完全に掌握した美しい演奏でした。

スタジオ録音の完璧な演奏を聴いてしまっていると、それ以上の演奏を求めるのはムリだとは分かっていますが、やはり比較してしまいます。Dレンジ、Fレンジともライヴの制約があるので、スタジオ録音には劣ってしまいますが、カラヤンと言えどもライヴならではの熱気を伴った演奏には魅力を感じさせる幻想交響曲でした。
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リッカルド・ムーティー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2007年ライヴ

ムーティー★★★★★
一楽章、速めのテンポですが、テンポは動き歌います。生き物のようにうねる音楽が濃厚です。オケをドライヴした積極的な音楽です。ダイナミックの変化もしっかりと付けられています。畳み掛けるように次から次から押し寄せてくる音楽。歌謡性に溢れた演奏です。クライマックスはどっしりとしていました。色彩感も濃厚でとても良い演奏です。

二楽章、濃厚な表情が付けられた冒頭。速いテンポでせきたてるような舞踏会。とても良く歌う音楽が心地良いです。ウィーンpoの濃厚な色彩も生かされています。美しい響きです。

三楽章、コーラングレとオーボエの距離感はほとんどありません。この楽章も基本は速めのテンポですがテンポを落とすところでは刻み付けるように克明な演奏です。テンポも動きますが、作品の表題性はあまり意識せずに、スコアに書かれている音楽をストレートに美しく演奏するようなスタンスです。硬いマレットで、羊皮独特の響きのティンパニ。すごく歌うコーラングレ。

四楽章、ギュッとミュートしたホルン。非常に硬いマレットのティンパニ。濃厚な色彩の弦。明るく艶やかで美しいトランペット。反復をしました。躍動感があって生き生きとしています。速いテンポをさらに追いたてます。

五楽章、表情が付けられた冒頭の低弦。トロンボーンも思い切り入って来ます。トゥッティのスケール感がすごいです。ベルリオーズが要求しているような低い響きの鐘ではありませんでした。怒りの日のメロディーでトロンボーンがとても良く鳴ります。怒りの日のトゥッティも伸び伸びと鳴り響きました。

とても濃厚で、美しく、豊かな表情の音楽で、オケも伸び伸びと鳴らした爽快な幻想交響曲の演奏でした。
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シャルル・ミュンシュ指揮 パリ管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、速いテンポのフルートとオーボエ。僅かにザラつきますが美しいヴァイオリン。僅かに間を取ったり強弱の変化を付けて歌う部分などなかなか聞かせます。ビブラートをかけたホルン。熱気をはらんだテンポの動きです。まるで何かが乗り移ったかのような自在なテンポの動きと感情に任せた抑揚には凄みさえ感じます。

二楽章、スピード感のある冒頭。舞踏会もテンポが動いて、表情が大きく変化します。優雅だったり切迫したりします。

三楽章、遠近感のあるコーラングレとオーボエ。コーラングレとオーボエが次第に速くなります。即興的にテンポが動きますが、オケがしっかりと着いて行きます。発足ライヴのような原型をとどめていないような演奏ではありませんが、かなり感情の赴くままにテンポや表現が変化しているようです。急激に追い込んだり、脱力するかのようにテンポを落としたり本当に自在です。フランスらしいクラリネットの独特の響き。次第に黄昏て寂しくなって行きます。ティンパニは強烈にクレッシェンドしますが、あまり音には広がりが無く、雷が空に広がる感じはありません。

四楽章、最後の5打を強調したティンパニ。テヌートぎみに演奏したファゴット。乾いた響きのトロンボーン。付点が甘いトランペット。トロンボーンのペタルトーンが響きます。すごく起伏の激しい演奏です。

五楽章、ゆったりとした冒頭。遠慮なく入ってくるトロンボーン。やはりこの楽章でもテンポが大きく動きます。ゆっくりとしたテンポで踊るようなクラリネットのソロ。金管の思い切りが良くダイナミックな演奏です。高い音の鐘。気持ちよく鳴るトロンボーン。凶暴なくらいの演奏が魔女の饗宴を表現しています。最後も突っ走るように終わりました。

ミュンシュの感情の赴くままにテンポや表現が変化するダイナミックな演奏でした。五楽章は狂気のように燃え滾る演奏で、大迫力のすごい幻想交響曲でした。
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シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団

ミュンシュ★★★★★
一楽章、晩年の演奏とは違い落ち着いたテンポであまり動きもありません。されでも急加速があったりします。晩年ほどでは無いにしてもやはりテンポはよく動いています。即興的で息も切らせないすごい加速です。凄く速いテンポで煽ったかと思えば、フッと力が抜けたようにテンポを落とす演奏にはかなり魅力があります。猛烈な演奏です。落ち着いていたのは最初だけで、パリ管の発足ライヴほどの原型をととめないような演奏ではありませんが、この演奏もミュンシュの即興性がかなり強く出た演奏で、すごいです。

二楽章、速いテンポで緊張感を保った演奏が、フッと抜けてテンポを落とすところがたまらない。優雅な舞踏会と言うよりもゴツゴツとした男性的な演奏です。最後も猛烈な速さでした。

三楽章、この楽章も速めのテンポです。オーボエもステージ上にいるので、コーラングレとの遠近感はありません。またも興に任せたテンポの動き。劇的なテンポの動きで、ミュンシュの作品への感情移入がただことでは無いのが分かります。ミュンシュがボストンsoの音楽監督時代にすでにこの作品を自家薬篭中の作品にしていたことがよく分かります。モノラルなので、雷鳴の広がりは全く感じられません。

四楽章、ここでも加速するティンパニ。続く弦もそのままの速いテンポです。リズムを正確にきっちり演奏するトランペット。ものすごく速いテンポで引きずると言うより、前のめりの行進です。

五楽章、この楽章も基本は速めのテンポでまくしたてるような演奏です。冒頭からすでに狂気が伺われます。吠える金管。硬い音の鐘。通常の演奏では考えられないくらいの速いテンポですが、ミュンシュの演奏であれば許されるような一貫性があります。最後のフェルマーターはとても長い音でした。

すごく速いテンポで、狂気に満ちた演奏を聞かせました。パリ管のライヴほどまではグチャグチャにはなっていませんが、ミュンシュの強い作品への共感が感じられる演奏は凄かったです。
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ベルリオーズ 「幻想交響曲」2

たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記

グスターボ・ドゥダメル指揮 ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団&フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

ドゥダメル★★★★☆
一楽章、艶やかで美しいヴァイオリン。表現力豊かなオケです。ダイナミックの変化がすごいです。すごく情熱的な演奏です。歌もありテンポも動いてものすごい勢いの部分とテンポを落として比較的穏やかな部分との対比が見事です。クライマックスのエネルギー感もすごいものでした。オケの人数も多いのでトゥッティのパワーはすごいです。

二楽章、コルネットのオブリガートが演奏されます。ゆったりと優雅な舞踏会です。テンポはあまり動きません。一楽章の情熱的な演奏から一転して穏やかな音楽になっています。

三楽章、非常にゆっくりとしたコーラングレとオーボエ。オーボエはかなり遠いです。芸術家の寂しく不安な心情を表現するような寒さを感じさせる響き。情熱的だったり優雅だったり、寂しさだったりと次々と雰囲気を変えるドゥダメルの表現力には驚きます。ティンパニが一か所に固まって置いてあるので、雷が空に拡がって鳴り響く感じはあまり表現されませんでした。

四楽章、ベルリオーズの指定とは違って柔らかいティンパニ。豪快に、しかも鋭く切れ込む金管。輝かしく鳴り響くトランペット。反復がありました。超大編成のオケを利してすごいダイナミックレンジの演奏です。トロンボーンのペダルトーンもはっきりと響いて来ます。

五楽章、速めのテンポで、金管がビンビン鳴ります。高い鐘の音。マルカートぎみに演奏するチューバの怒りの日。大人数でぴったり合わせた表現にはすごい力があります。どんどん加速して行きます。加速して加速して走り抜けて終わりました。

幻想交響曲を超大編成で表現力豊かに演奏しました。最後は魔女の狂気の大饗宴でした。
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ジョルジュ・プレートル指揮 ボストン交響楽団

プレートル★★★★☆
一楽章、穏やかな弱音でゆったりとしたテンポの冒頭です。テンポを速めるところでは急激な変化で、すごい速さになります。大きく感情移入しているような感じは受けません。

二楽章、ゆったりと優雅な舞踏会です。整ったアンサンブルと美しい演奏です。最後はかなりテンポを煽りました。

三楽章、オーボエはそんなに遠くにいる感じはありませんが、間接音を含んで舞台裏にいるのは分かります。舞台裏に響き渡るオーボエ。歌う弦に切迫感を感じます。木管も表情豊かに歌います。弦の強弱の変化が非常に大きいですしテンポも大きく動きますが不自然さはありません。かなりダイナミックな演奏です。太い響きのクラリネットも伸びやかに歌います。カチッと整ったアンサンブルでとても手堅い演奏になっています。強打はしませんが、遠くから空に広がる雷を上手く表現しています。

四楽章、ティンパニと一緒にスネア・ドラムも叩いているようです。厚みのある弦の響き。吼えるように噴出す金管。テンポを上げて軽く吹くトランペット。全体をマスクしてしまいそうなシンバルの強烈な打撃。ギロチンが落ちるところも強烈でした。

五楽章、速いテンポで始まりました。積極的な表現の低弦。AクラとE♭くらの違いはあまり表現されませんでした。高い音ですが、美しい鐘。騒がしい怒りの日。速いテンポで動きのある演奏で、生き生きとしています。最後は凄くテンポを上げて終りました。

ゆっくりと始まった演奏でしたが、歌もあり、表現豊かな演奏でしたが、四楽章のティンパニにスネアを重ねるなど独特の解釈もありました。五楽章は速いテンポで一気に聞かせる豪快なものでした。オケも整ったアンサンブルで楽しく聴けた幻想交響曲でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ指揮 パリ管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、非常に繊細で美しい響きです。速めのテンポですが、表情は豊かに付けられています。色彩感も豊かで、濃厚な演奏です。終盤、音楽としては盛り上がりますが、熱気は感じられません。とても冷静に音楽をしている感じがします。

二楽章、速めのテンポで優雅な舞踏会の雰囲気はありませんが、舞踏会で彼女を発見した時の心のざわめきと少しの不安が表現されているようです。テンポを落とすところではしっかりとテンポを落としてたっぷりとした表現です。

三楽章、ゆっくりとした情景描写。オーボエは距離があります。伸びやかな弦の歌。タメやテンポの変化もあり、テンポを落として物悲しさを表現している部分もあります。ティンパニは少し抑えぎみで雷鳴の広がりはかんじませんでしたが、二度目のクレッシェンドの途中の打撃は強烈でした。

四楽章、追い込むような速いテンポのティンパニ。軽く柔らかいトランペット。反復がありました。途中でティンパニの強烈なクレッシェンドがあります。最後のティンパニのクレッシェンドが凄かったです。

五楽章、クラリネットのソロはすごく速いテンポで踊り狂っているような感じです。高い鐘の響き。怒りの日からは落ち着いたテンポです。最後はダイナミックに終わりました。

とても繊細で美しい演奏でしたが、ミュンシュ以来の伝統か、ミュンシュのようなあからさまな狂気ではありませんでしたが、常に奥に情念や狂気を秘めているような幻想交響曲の演奏でした。
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ウラディミール・フェドセーエフ指揮 ウィーン交響楽団

フェドセーエフ★★★★☆
一楽章、柔らかく繊細で美しい響きで、良く歌います。ホルンが長い音を強く吹きました。目が覚めるような鮮明な響きです。テンポの動きはあまりありませんが、色彩感はくっきりとしています。どっしりとしたテンポで響きにも厚みがあります。

二楽章、抑え目の表現の冒頭。ゆったりとしたテンポで、優雅な舞踏会です。後半のワルツはテンポを上げて厚みのある響きの演奏でした。その後はまたテンポを落としてどっしりとした演奏です。

三楽章、コーラングレとオーボエの距離はわずかです。テンポは速めで前へ進もうとするエネルギーのある演奏です。テンポは動きませんが振幅の大きな演奏です。雷が空に鳴り響く様子を上手く表現しています。

四楽章、ティンパニの強烈なクレッシェンド。この楽章も落ち着いたテンポで歯切れの良いトランペット。

五楽章、速いテンポのクラリネットのソロ。思い切りの良い金管。高い響きの鐘。後ろでクチュクチュと言う音が常に付きまといます。トロンボーンとホルンの怒りの日は美しい響きです。この楽章も落ち着いたテンポの堂々としたテンポの演奏でした。最後のフェルマーターはティンパニのロールも加えられていました。

作品の表題性を意識した演奏ではありませんでしたが、非常に美しい演奏は魅力的でした。ただ、クチュクチュと言う音が常に付きまとう録音は残念でした。
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ベルリオーズ 「幻想交響曲」3

たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
爆演指揮者と言えば、この人を置いて他にいないでしょう。待ってました!ロジェヴェン大先生。
最近の活躍が聞かれないのはとても残念です。

一楽章、ライブ録音のためノイズがあり、冒頭の静寂感はありません。また、ムラヴィンスキーが指揮するレニングラードpoのような張り詰めた緊張感もありませんが、決してアンサンブルが悪いわけではありません。
いろんなところに「仕掛け」があるようです。
金管、特にラッパが入ってくると、ロジェヴェン節炸裂!下品です(^ ^)思いっきり金管が、かぶってきますし、ブレスを取るのがはっきり分かってしまって、演奏している方が、あまり細部にこだわっていないのが伺われます。

二楽章、弦や木管が演奏している部分では、そんなに異常な演奏ではありません。
むしろ、ムラヴィンスキーに日ごろ鍛えられている精緻なアンサンブルを聞かせてくれます。

三楽章、ライブのせいもあるのかもしれませんが、冒頭部分の木管にもあまり弱音を求めていないようで、他のCDで聞くような切なさのような描写はありません。
さすがに旧ソビエト最高峰のオーケストラです。見事な弦のアンサンブルを聞かせてくれます。
途中、ティンパニのロールが入るところで、テンポがガクッと落ちました。またティンパニの入りも強烈です。
その後は、またもとのテンポに戻って、クラリネットのソロです。緊張感のあるppがないので、演奏が大味に感じられてしまうのが、ちょっと残念です。
遠くで鳴るはずの雷鳴も、落雷のようです(^ ^;

四楽章、ブリっと鳴る金管、思いっきり引っ叩くティンパニ。楽しい演奏の前触れ?
2倍に増強さらた金管が思いっきり吹きまくります。リズムもいい加減。シンバルもこの金管に負けません。 すごいパワーです。いやぁすごい!ここで拍手がしたくなります。

五楽章、これでもか!と吹きまくる金管に思わず笑ってしまいそうです。
ロジェヴェン大先生、ここまでやるとは・・・・・・・!
安っぽい「のど自慢の鐘」。「ブレスを取りました!」と宣言しながら吹いているブラスセクション。もう収拾がつかない、ロジェヴェン大先生も一緒に大乗りで指揮振ってるんだろうなあ!
すごい!ひどすぎる!

演奏が終わってからの聴衆の熱狂もすごいです。生でこの演奏を聴いたら熱狂するでしょう。
確かにすごい。しかし、CDにして何度も聴く演奏ではないと思います。
サプライズがいっぱいあって、間違いなく楽しめます。
でも、繰り返して聴く気にはなれませんね。すぐに飽きるでしょう。
忘れた頃に、また聴けば椅子から転げ落ちそうになるでしょう。 こんな聴き方をするのには良いCDです。
フルネの上品で繊細な「幻想」とは対極にある幻想交響曲の演奏です。

アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団

icon★★★★
フィルハーモニアとのスタジオ録音はちょっと理解できなかったのですが、このライブでは別人のような燃焼度のようです。

一楽章、ゆったりとしたテンポで微妙なニュアンスをつけた演奏です。なにより、4年前の録音のムラヴィンスキーのCDとは桁違いの音質の良さ!弦も美しい。
生き生きとした表情が魅力的です。ホルンのビブラートがフランスのオケらしい!
ゆったりした部分と畳み掛けるような部分とのコントラストがとても良い。良い意味でのライブの即興性のような感じがあって聞き応えがあります。
クリュイタンスの棒にオケが食らいついていくような、格闘シーンのような場面も!

二楽章、とても緊張感のある開始です。舞踏会の優雅さはあまりありません。かなり緊張感の高い演奏です。でも微妙な揺れが心地よく表情も豊かで、それでいて下品にならないところが良いです。

三楽章、やはり、この時代の録音では、高いSN比を求めるのはムリですね。どうしても冒頭部分は「遠くで」の表現はできませんね。途中で入るホルンのビブラートがとても違和感があります。
テンポが速まると音楽も高揚してきて、音のスピード感が上がるような不思議なエネルギーをぶつけてきます。これがクリュイタンスの凄さなのか。このスピード感は、フィルハーモニアとのスタジオ録音では、全く感じられなかったことなので、新しい発見でした。すばらしい!

四楽章、かなり明るい音色で始まりました。途中から入る2ndティンパニが強烈に入ってきてビックリさせられます。
伸びやかなトランペットと吹きまくるバストロンボーンのペダルトーン。細かい音は結構いい加減なところもありますが、三楽章でも感じたスピード感は、この楽章でも生きています。
最後のフェルマーターは短く切りました。

五楽章、この楽章もとても表情が豊かです。ブラスセクションのffも、フィルハーモニアのときは、腰抜けのように聞こえましたが、この演奏ではパワフルです。
前三楽章と後半の二楽章を対照的に描いています。後半はかなりグロテスクです。
怒りの日はテューバではなく、オフィクレイドか?すごく浅い音がします。それに続くトロンボーンも全く遠慮なし。
オフィクレイドを使う方が、魑魅魍魎のような怪しさを表現するには適しているかも知れません。少なくとも、この演奏にはピッタリでした。
全開のラッパたちは凄いです!火の出るような演奏とはこんなのを言うんでしょう。

クリュイタンスのライブがこんなに凄いとは思いませんでした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1987Live

カラヤン/ライブ★★★★
一楽章、スタジオ録音と寸分も違わないような完璧なアンサンブルを聴かせて音楽が進みます。さすがカラヤンとベルリンpoです。すばらしい機能美を見せ付けるような演奏です。1987年のライブですが、この演奏を聴く限りにおいては、カラヤンの衰えは感じません。

二楽章、ライブらしく音楽の振幅はあります。ただ、作品自体が深いメッセージ性があるわけではないので、美しく演奏することに重点が置かれているのでしょうか。マイクがオンぎみでホールトーンをあまり拾っていないようで、響きを伴った美しい演奏は残念ながら聴くことができません。

三楽章、ライブでも遠くから聞こえるようなオーボエはさすがです。オケのアンサンブルも乱れることは全く無く、すばらしい合奏力を聞かせます。響きの厚みもベルリンpoならではのすばらしい演奏です。
ただ、あまりにも淡々と音楽が流れて行くのが何か物足りなさを感じてしまいます。ティンパニの雷鳴は良い感じです。やはり上手いですね。

四楽章、基本的には1971年のスタジオ録音と同じ演奏をライブでしたと言えるでしょう。
それほど完璧に演奏できるのがベルリンpoでもあるのでしょう。

五楽章、ライブの即興性のようなものは微塵もありません。設計道りに見事に音にして見せます。テンポはどっしりと構えた安定したものです。
鐘はスタジオ録音の時の低音を伴った太い響きのものではありません。
下品で、茶目っ気たっぷりだったロジェストヴェンスキーのライブとは正反対。カラヤンはライブだからといって特別サービスなどは一切ありません。
金管がユニゾンで演奏する怒りの日はさすがに鳴り渡ります。テンポを煽ることもなく堂々と鳴らし切りました。

ベルリンpoの実力を見せ付けられた演奏でした。ライブ会場にいた人たちはどう感じたのでしょう。
ライブで完璧な音響を聴く快感はすばらしいものだったでしょう。ただ、ライブCDとなると価値は違ってくるので、このCDを聴くのだったら、スタジオ録音のほうが、もっと細部まで見通せるし残響成分も十分に含まれた美しい響きを聞くことができます。
私だったらスタジオ録音の幻想交響曲を迷わず選びます。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1987年ライヴ

カラヤン★★★★
一楽章、77年のライヴほど極端な弱音ではありませんしテンポも遅くはありません。かなり積極的でダイナミックな演奏です。ホルンが出るあたりからテンポはぐっと遅くなりましたが速い部分は思い切って速いテンポをとります。カラヤンが感情に任せてテンポを大きく動かしているような感じでとても情熱的な演奏です。

二楽章、弦だけでもかなりのダイナミックレンジがあります。かなり力が入っているようで、演奏は硬い響きになっていて優雅な舞踏会の雰囲気はありません。ちょっとうるさい感じがします。

三楽章、コーラングレとオーボエの遠近感はとても良いです。弦楽合奏の分厚い響き。この楽章でもテンポが動きます。密度の高い木管。雷の音が空に広がる様子を上手く表現しているティンパニ。雷が遠くで鳴る様子も上手く表現しています。

四楽章、カラヤンの演奏にしては速めのテンポです。バランス良く響くトランペット。最後の音は短めでした。

五楽章、この演奏では弱音をあまり極端に弱くはしていません。AクラとE♭クラの対比はあまり鮮明ではありませんでした。金管は思い切り入って来ますがちょっと乱暴な感じがあります。77年のライヴと同じ鐘の響きで良い音です。トゥッティの響きはすばらしいです。

カラヤンは60年代~70年代がピークで80年代に入りベルリンpoと対立したり、音楽にも以前の精密さが無くなっているように感じました。
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レオポルド・ストコフスキー指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、ライヴ録音らしく、少しoffぎみのボヤーッとした響きです。何か腰が重い感じを受けます。テンポの変化は無く、大きな川の流れのように緩やかに流れて行きます。クライマックスでテンポを落としました。ストコ節らしいものは聞かれませんでした。

二楽章、追い立てるような速いテンポです。弦の頂点に続いて出るハープの途中の弦を省いています。とても慌ただしい舞踏会です。

三楽章、コーラングレとオーボエの遠近感はとても良いです。この楽章はテンポの動きもあって大きく濃厚な表現です。低域があまり収録されていないようで、響きが薄いです。夕闇が迫る寂しさはあまり伝わって来ません。ピークが鋭いティンパニ、雷鳴の雰囲気もあまりありません。

四楽章、次第にテンポを速めるティンパニ。速めのテンポですが、極めて普通の演奏です。トランペット、トロンボーンともかなり強く吹いています。最後はかなり速いテンポになり、フェルマーターでも打楽器のロールがありました。

五楽章、独特の表現の低弦。金管は気持ちよく鳴り響きます。低い響きの鐘。トロンボーン、ホルンの怒りの日の後のチューバが凄く遅く演奏します。その後もガクッとテンポを落としてとてもグロテスクな演奏です。金管合奏の怒りの日はマルカートに演奏しました。最後のフェルマーターは、ティンパニとサスーペンドシンバルのロールもありました。

四楽章までは、特に際立った演奏ではありませんでしたが、五楽章のグロテスクさは極まった感じで、このグロテスクを表現するために楽譜を大きく変える演奏はさすがといわざるを得ない幻想交響曲です。
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シャルル・デュトワ指揮 モントリオール交響楽団

icon★★★★
一楽章、静寂感があり、間も十分にとった演奏です。シルキーな弦が美しいです。いつもながらに、涼しげな響きです。ホルンはあまりふくよかではありません。「夢と情熱」の表題からすると、情熱の熱っぽいところはあまり感じません。クライマックスでも荒ぶることは全く無く整然としています。

二楽章、冒頭のハープが出る前の盛り上がりも大きくはありませんでした。とても理性的です。舞踏会はとても良く歌い気持ち良く踊れるような演奏です。タメがあったりとても表情豊かでヴァイオリンの艶やかさなどはとても美しいです。

三楽章、オーボエは凄く細く締まった響きではありませんが、美しいです。強弱の変化や楽器の絡みなどは見事です。音楽は決して熱を帯びることはありません。頂点でもコントラバスがエッジを立てて演奏することもありません。感情の爆発とは無縁の演奏です。フランス的なクラリネット。ティンパニの雷鳴が空を覆う感じは良く表現されていますが、このティンパニも爆発はしません。

四楽章、ティンパニの頂点で炸裂するブラスの響きもシャープで美しいです。トランペットもリズミカルで明るい響きです。

五楽章、クラリネットのソロの後の金管は強く吹いているようなのですが、それがエネルギーとなって出てきません。鐘は低い倍音を伴って良い音がしています。あまり表情の無い怒りの日のチューバ。金管はシャープでとても美しいです。金管合奏の怒りの日もあまり力を感じることはありませんでした。

作品の表題はあまり気にせずにひたすら美しく洗練された演奏に徹した感じです。グロテスクなものを感じることは全くありませんでしたが、非常に美しい幻想交響曲の演奏でした。

ベルリオーズ 「幻想交響曲」4

たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記

レナード・バーンスタイン指揮 フランス国立管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、最初から感情のこもった歌です。タメがあったり大きく重い音があったり、とても表現力豊かです。いつの間にかテンポは速くなり畳み掛けるような勢いです。音階の上下はかなり速いです。感情の赴くままにテンポが変化しています。生命感と活気に溢れた演奏は、カラヤンのような造形美を追求して磨き上げた演奏とは対照的です。終盤はテンポを落として、情熱が燃え尽きたような感じの演奏です。

二楽章、生き生きとした表情の冒頭。基本的には速いテンポです。舞踏会の華やかさはあまりなく、ちょっと田舎臭い野暮ったさがあります。

三楽章、コーラングレとオーボエは共に舞台上にいるようです。この楽章も速いテンポでどんどん進みます。意外と粘らずにサラッと進んで行きます。ティンパニは両サイドに分かれて置かれていないようで、雷が空に拡がる感じは表現されていません。

四楽章、最初はフワッとした響きのトロンボーン。渋い輝きのトランペット。盛大に盛り上がるティンパニ。途中からすごくテンポが速くなりました。鋭く刻み付けるような弦。狂ったような固定観念。最後の音は凄く短かったです。

五楽章、すごく表情の豊かな低弦。この楽章も速いテンポでバーンスタインの感情のままです。Aクラのソロの最後はティンパニに消されて聞こえません。鮮明なコントラスト。打撃音の強さの割りに余韻が少ない鐘。怒りの日も速いテンポです。造形美よりも感情の表出を優先するバーンスタイン。ちょっと雑な感じもありますが、強い表現意欲が感じられます。猛烈な加速で終わりました。

豊かな歌やタメ。バーンスタインの感じるままに表現しテンポが動いて濃厚な演奏でしたが、その即興性が時に雑になることがあったのが残念な幻想交響曲でした。
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サー・コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

icon★★★☆
一楽章、消え入るような弱音。ミュンシュの破天荒な演奏の後に聞くととても端正な演奏に感じます。ゆったりと落ち着いたテンポ。大げさな表現もありません。音楽の起伏もそんなに大きくは無く流れの良い演奏です。造形を崩さずに一音一音非常に丁寧な演奏で、好感が持てます。クライマックスでも非常に冷静で、テンポの動きも僅かです。

二楽章、鮮度の高いハープ。ゆったりと優雅な舞踏会です。コルネットが入る版を使っています。歌も奥ゆかしくセンスの良さを感じます。とても上品な演奏で、舞踏会で流れるように踊る姿が想像できます。最後も荒ぶることなく終わりました。

三楽章、非常に遠いオーボエ。基本的には遅めのテンポで、細部まで行き届いた端正な演奏です。テンポが揺れることは無くとても手堅い演奏です。ティンパニも控えめです。

四楽章、この楽章も落ち着いたテンポです。一音一音に神経を集中しているような集中力と丁寧さです。トランペットも美しい。反復がありました。とても丁寧な分、トウッティでの爆発力のようなエネルギー感には不足があります。

五楽章、この楽章でもグロテスクな表現は無く、とても端正です。オケも暴走することなく、抑制の効いた美しい響きです。低い音も混じった柔らかい鐘の響きはとても良いです。チューバの怒りの日は最初の3つの音を強く吹きその後少し弱くなりました。精密機械のように緻密に動くオケ。この精緻さは見事です。最後は少しテンホ゜を速めましたが、分厚い響きは聞かれませんでした。

とても端正で美しい演奏で、冷静に一つ一つ音にして行く緻密な幻想交響曲の演奏でした。ただ、この曲の熱狂や狂気は表現されなかったように感じました。また、トゥッティでの分厚い響きも聞くことができなかったのは残念です。
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イーゴリ・マルケヴィチ指揮 ラムルー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、ゆっくりと確かめるような導入部。続く弦もすごく遅いです。フランスのオケらしくビブラートのかかったホルン。テンポはよく動いています。予想外に情感豊かな演奏で、ゆったりとしたテンポを基調に大きくテンポが動く演奏には好感が持てます。

二楽章、速めのテンポで不安な雰囲気です。舞踏会になってまた、ゆっくりとしたテンポになりますが、華やかな雰囲気ではありません。この楽章でもテンポが動きますが、マルケヴィチがしっかりとコントロールしているようです。

三楽章、コーラングレはかなり近く、離れたオーボエと対比されます。この楽章でもテンポは動いて歌います。ただ、フレーズの終わりの音の扱いが雑なところが散見されます。また、録音の問題か、またはオケの特質かあまり美しい響きや静寂感は感じません。ティンパニは雷鳴というよりも純粋にティンパニの音です。

四楽章、弱音部分でも極端に音量を落としたりはしません。バストロンボーンのペダルトーンはかなり強いです。残響成分が少ないのか、トランペットも輝かしい響きではありません。最後は凄く短い音で終わりました。

五楽章、クラリネットのソロからテンポは遅くなりました。高い音の鐘。トロンボーンとホルンの怒りの日ではブレスがはっきりと分かります。トゥッティでも色んな音が聞こえる演奏はさすがです。

情感に溢れた演奏でありながらもトゥッティでも細部まで聞こえる精緻な演奏はさすがですが、オケの限界かフレーズの終わりの音の扱いが雑だったり、金管のブレがはっきり分かる幻想交響曲の演奏は残念でした。

ジェームズ・レヴァイン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

レヴァイン★★★
ハッタリなら右に出るものはいないと私は思っているレヴァインなのですが、このCD買った記憶も無ければ聞いた記憶もない・・・・・・果たして演奏やいかに!

一楽章、ベルリン・フィルらしく分厚い低弦。アンサンブルはあまり良くないような感じがしますが・・・・・。さすがに弦だけでもかなりのダイナミックレンジ。それだけに潜在的な表現力はものすごいものを持っていることをうかがわせます。しかし、期待したほど美しい音色ではないのです。
表現も特に感じることもなく、集中力もあまり感じられない。
ちょっと散漫な演奏かな?

二楽章、アクセントの処理が強めで派手な傾向なのですが、音の密度が薄い。密度は薄いけど分厚いサウンドなのだが、微妙にアンサンブルが乱れる。

三楽章、美しい演奏なのだが、カラヤンのように極限まで磨き上げたというような演奏でもないし、レヴァインでベルリン・フィルを聴く価値はどこにあるのだろう?
正直なところ、ここまでは退屈な演奏です。後半に爆演が待ち構えているのか?
リズムの処理と言うか、何かキレが悪いんだなあ。
やはりアンサンブルは乱れます。ベルリン・フィルにしては珍しいくらいところどころで合わないことがあります。
ベルリン・フィルほどのオケが名演を生み出すには、やはり相応の指揮者じゃないとムリなのでしょうか。

四楽章、ティンパニのクレッシェンドがすごい。ファゴットの旋律が妙にテヌートで演奏されている。トランペットの旋律は明るい音色で、断頭台への行進とは無関係に明るい。
カラヤンが指揮するベルリン・フィルに比べると中音域が少し弱いような感じがします。その分、明るい響きにはなるのですが、全体の厚みは削がれてするように思います。
でも、吹っ切れたように明るい演奏には好感が持てます。レヴァインは全く表題音楽としては捉えていないのでしょう。
ここでも、最後のフェルマーターに入る前でアンサンブルが乱れました。

五楽章、さすがにオケは上手いですね。この楽章になると文句無く楽しめます。パワー全開!怒りの日のテューバのソロの一音一音を短めに演奏しています。それに続くホルン、トロンボーンは普通なのですが・・・・・。実に明るい「悪魔の祝日の夜の夢」です!
これぞ、レヴァイン。この明るさ、楽天的な演奏が合っています。

明るく、あっけらかんとした幻想交響曲を聞きたい方は是非どうぞ。音響としての快感を求めるのならこれで良いでしょう。

エフゲニー・ムラヴインスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

ムラヴィンスキー★★★
一楽章、1960年のライブ録音で音は悪い。導入部が比較的テンポが遅かったのですが、それに続く弦の旋律が非常に速い。全体に速いテンポで非常に引き締まった演奏です。
表情もムラヴィンスキーらしく厳しい。またアンサンブルも鍛えられているのがよく分かる演奏でもあります。ただ、録音が悪いので、何を聞いて良いのか、はっきり言って分かりません。
この曲は、オーケストラ・ショーピースのような一面もあって、豪快に派手にアンサンブルもバッチリ決まればかなりの面で合格点になると思うのですが、これだけ録音が悪いとどうしたものか・・・・・。

二楽章、ここでも速めのテンポで進みます。優雅さとも遠いような感じで、淡い恋心とは無縁のような、せき立てるような、どうも私には座りが悪い。

三楽章、冒頭部分はどうしたって遠くから聞こえる草笛には聞こえません。あまりにも近すぎる。全体のバランスからしても木管が近すぎるようで、ちょっと興ざめしてしまいます。
この速いテンポをさらに急き立てて、ティパニが入る、ちょうど中間地点へのもって行き方はさすがにムラヴィンスキーらしい緊張感が出ています。速い、とにかく速いです。

四楽章、かなりダイナミックな導入です。なんだこれは!トランペットの旋律がテヌートで演奏されている。現在では、聞けないような個性的な演奏ですね。

五楽章、録音は悪いですが、オケはやはり上手いですね。細部までしっかり演奏しています。
この楽章はとても激しい演奏です。強烈な鐘の音、金管の咆哮もすごいですが、ムラヴィンスキーがしっかり制御しています。

当日、会場にいた人にとっては、すごいコンサートだったんだろうと想像はできますが、この録音では残念ながら伝わりきらないです。
せめて1970年ごろの録音で残っていれば、評価はかなり違ったものになったのではないかと思います。

ベルリオーズ 「幻想交響曲」5

たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記

ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

メータ★★
メータのニューヨーク時代はロス・フィルの時代に比べるとあまり良い評価は聞かれません。
個人的には、ニューヨークでのメータも好きなのですが、颯爽としていたロス時代に比べると贅肉がついて俊敏さには欠けるきらいはあります。それが、若い頃のメータの評価から変化した点であり、過渡期だったのかもしれません。幻想交響曲もロサンゼルスpoとの録音の評価は高いですが、このCDについては、ほとんど触れられることすらありません。
果たして、どんな演奏なんでしょう?

一楽章、ガーディナーのCDの後に聞いたせいか、瑞々しい弦の響きに、普通の世界へ戻ってきた安堵感があります。ポコポコ言うホルンはこの時代のニューヨークpoの特徴ですね。割と平板に流れてしまう感じで、起伏に乏しい演奏です。また、演奏に緊張感が感じられなくなったのも、この時代のメータの傾向です。
特に悪い演奏だとは思わないのですが、覇気がないと言うか、作品に対する共感が乏しいと言うか、メータの個性が感じられないのが残念です。

二楽章、これもコルネットが入っています。

三楽章、ニューヨーク・フィルは余裕で演奏している感じで、彼らにとっては簡単に出来てしまうことしか要求しないから、演奏に緊張感も生まれないのではないかと思います。
何かを必死に表現しようとするところが無いので、BGMのように音楽が流れて行きます。
テンポもあまり動かないので、引き込まれるようなこともない。オケは上手いのに、もったいない演奏になってしまっています。個々の楽器の音の密度も心なしか薄いような感じさえ受けます。

四楽章、木の撥の指定通り、硬質な音でティンパニのソロが始まりました。テンポは速めですが、音が立って来ない。

五楽章、ゆっくりとした出だし、微妙なテンポの動きがあって、やっとメータらしくなってきたか。ブラス・セクションは舞台奥に定位して強奏でも飛びぬけてはこない。
安っぽい鐘の音です。ベルリオーズの指定はもっと低い音を要求していると思うのですが・・・・。
どうもマスの響きの一体感が無くて、音が集まってこない感じがしてなりません。

オケも上手いし、取り立てて文句があるわけでもないのですが、心に残る部分もあまり無かったのが残念な幻想交響曲の演奏でした。
メータには相性の良い曲だと思うのですが・・・・・・

セルジウ・チェリビダッケ指揮 トリノRAI交響楽団

icon★★
一楽章、静寂の中に僅かに聞き取れるくらいの弱音。ゆったりと遅いテンポで歌います。晩年の超スローな演奏ではありませんが、オケをしっかりとコントロールして抑制の効いた演奏です。クライマックスでも絶叫することは無く、懐の深い演奏です。最後はかなりゆっくりなテンポになって終わりました。

二楽章、厳しい表情の冒頭。優雅にテンポが動く舞踏会。かなり積極的な表現の演奏です。終盤の舞踏会はかなりテンポが速くなりました。

三楽章、オーボエはステージ裏にいるようですが、そんなに遠近感は感じません。続く弦は大切な物を扱うような丁寧な演奏です。かなりゆったりとしたテンポでおおらかな雰囲気の演奏です。コントラバスの響きがあまり捉えられていないので、響きの厚みはあまり感じません。遅いテンポのままほとんどテンポの動きが無いので、ちょっと間延びした感じになります。モノラルなので雷鳴の広がりなどはかんじられません。

四楽章、ゆっくりとしたテンポです。控えめな金管。ティンパニのクレッシェンドも控えめです。トランペットは勝ち誇るように吹き鳴らされます。処刑台に向かう重い足取りです。

五楽章、速いテンポ切れの良い金管。ブレスがはっきりわかるトロンボーンとホルンの怒りの日。最後は急加速して終わりました。

晩年の、一音一音に魂を込めるような演奏ではなく、最後はやっつけ仕事のような、投げやりな幻想交響曲の演奏だったように感じました。
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チョン・ミュンフン指揮 パリ・バスティーユ管弦楽団

icon★★
一楽章、パレットの中で色が混じったような冒頭のフルートとオーボエ。間を取ったりしながらゆっくりと歌います。コントラバスが団子状になっていま すが、美しい響きです。とても繊細なガラス細工のような前半でした。音階の上昇と下降はとても速いテンポでした。テンポの振幅は大きく遅くなるところはか なり遅くなります。クライマックスのエネルギー感はあまりありません。ベタベタとしたティンパニ。

二楽章、あまり強い表現の無い冒頭。舞踏会の華やかさはあまり感じないマットな響きです。コルネットが入る版を使用していますが、個人的にはこのコルネットはあまり必要無いように感じます。

三楽章、表現力のあるコーラングレ。セミグロスのような少し艶を消したような響きで、あまり色彩感がありません。テンポの動き はあって、テンポの動きに伴った濃厚な表現があります。この楽章でも強弱の振幅はあま大きく無く強奏部分のエネルギー感は乏しいです。空を覆う雷鳴を上手 く表現しているティンパニ。

四楽章、速めのテンポで力強く進みます。ベタベタしたティンパニの強烈なクレッシェンド。ティンパニに比べるとおとなしい金 管。テヌートとスタッカートを織り交ぜた独特のトランペットの表現。今まで聞いたことのない表現で、違和感があります。打楽器がオケにかぶってしまうほど の音量バランスです。

五楽章、マスクされたような響きで解放されません。暖かい響きの鐘。常に奥歯に物が挟まったような感じで、すっきりとした響きにはなりません。小細工もありますが、どうもすっきりしません。

独特の表現もあるのですが、あまりにも今までの演奏との違いを出そうとし過ぎて違和感のある表現になってしまっています。響きもマットで色彩感に乏しく。打楽器のバランスが強く、オケが開放的に鳴りません。かなり欲求不満になる幻想交響曲の演奏でした。

マルツィン=ナウェンチ・ニェショウォフスキ指揮/ポドラシェ歌劇場フィルハーモニー管弦楽団

ニェショウォフスキ
一楽章、思い入れが無いかのような速いテンポであっさりとした演奏です。暖かく温度感のある響きが特徴ですが、アンサンブルは少し雑なところもあります。テンポの変化もほとんど無く、ちょっと緩い感じの演奏です。アマオケの練習を聞いているような、間延びした締まりの無い演奏で、ちょっと退屈です。

二楽章、表現の幅が狭く、強弱の表現も緩いため演奏に締まりがありません。音楽が生きているようには感じられない演奏です。

三楽章、、柔らかく太い響きのコーラングレ。オーボエはステージ外にいるようですが、遠近感は感じません。この指揮者は本当にテンポが動きません。テンポが動かないと言うことではある意味厳格なのかもしれませんが・・・・。ティンパニは空間に広がる雷鳴をを上手く表現しました。

四楽章、大きくはっきりと演奏するホルン。ティパニは大きくクレッシェンドしました。テンポは落ち着いていて、前進する力は感じません。オケにも爆発するような大きなエネルギーは感じません。

五楽章、浅い響きの低弦。金管はパワーが無いのか、抑えているのが、とにかく抜けてきません。鐘はチューブラ・ベルです。チューバの怒りの日に続くトロンホーンとホルンはテヌートぎみの演奏でした。続く木管の弾むリズムが生き生きと対比されて良い表現でした。厳格にインテンポです。

あまりにも、テンポが動かない、緊張感も無い演奏で、退屈でした。
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ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク

icon
私は、個人的には古楽器による演奏の必然性をあまり理解できません。
それはこれまで演奏をじっくり聴いたことがないからかもしれません。
このガーディナーの演奏で考えは変わるでしょうか。

第一楽章、ちょっと変わった間の取り方で始まった、古楽器を使っているせいか、ダイナミックの幅が狭いようです。音も少し詰まった感じで、伸びやかさが感じられません。表情も淡白な感じがしますが、今まで聞きなれた「幻想」の表現とは違います。
ホルンの音程も不安定です。編成は小さく感じます。旧パリ音楽院で録音されたそうですが、響きもデッドで音楽を楽しめる演奏ではありません。
幻想交響曲を最良のコンディションで聴いているとは思えません。この当時の楽器で再現することによって、当時のベルリオーズがいかに斬新な挑戦をしたのかは垣間見ることができますが、私としては学術的な資料としての演奏ではなく、ベストコンディションの演奏を聴きたいと思うのですが、どうなんでしょう。

二楽章、コルネットが入っています。ベルリオーズと言えば、大規模な編成をイメージしますが、この演奏はかなり小さい編成に聞こえます。
表現とかに意識が行かないのです。演奏を楽しめない。当時は、こんなに潤いのない演奏を聴いて楽しめたのでしょうか。
テンポも速く音楽を聴いている感覚がないのです。

三楽章、とにかく楽しめない!モダン楽器とは違う音がして、新しい発見もあるのですが、だからどうなの?と言いたい。
最新のハイエンド・オーディオで音楽を再現できる時代にSPレコードを聞かせて「どうだ、このナローレンジが何とも言えない良さなんだよ!」といわれているような・・・・・。「昔は、こんな音がしてたんだ!」と言われてもねえ・・・・・・。
ベルリオーズなどは、当時最先端の楽器を取り入れた作品を書いていますが、それは必ずしもその当時の楽器の音に満足していたわけではないと思うのです。ベルリオーズの頭の中で鳴り響いている音は、当時の楽器の音ではなく、彼が理想とする音なのだ。
全曲を通して言えることなのですが、音の終わりが短いのも気になるところです。

四楽章、とにかく響きが薄い。弦楽器などは胴が鳴り切っていないような不満を感じます。安っぽいシンバルの音。もう二度とこのCDを聞くことはないでしょう。

五楽章、これがコンサートだったら、この楽章が始まる前に退席しているかも。
鐘の音は良い響きです。しかし、オフィクレイドの深みのない音は・・・・・。トュッティでの音の厚みのなさも、これだけ大規模な編成の曲の場合は致命的なような気がします。

もう、聞きたくない。苦痛だった・・・・・・

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 パリ管弦楽団

カラヤン
一楽章、すごく歪みっぽい録音。カラヤンの幻想らしく遅いテンポでたっぷりとした演奏です。カラヤンのアップばかりが映る画像。カラヤン得意の映像作品で、ライヴ映像ではないので、即興的にテンポが動いたりすることは一切ありません。ホルンもすごく歪んでいるので、美しいのかどうなのか分かりません。激しくなる部分はオケも十分に反応しているようです。音階が上下する部分は音のエッジが立っていなくて、流れているような感じでした。ベルリンpoとの74年のスタジオ録音とほとんど同じ演奏のような感じですが、歪がひどい分だけこちらの演奏は聞くのが辛いです。

二楽章、ハープの音が際立っています。淡々と演奏が続く舞踏会。

三楽章、あまり遠近感の無いコーラングレとオーボエ。弦の強奏部分ではかなり速いテンポです。追い込むようなテンポの動き。ベルリンpoとのスタジオ録音のような非常に弱い弱音は無く、あまり緊張感は感じません。日が暮れて次第に薄暗くなって行く様子はうまく表現しています。ティンパニは空に拡がらず、雷の音には感じません。

四楽章、パリoがかなり積極的な演奏を繰り広げます。ガツガツと力強い弦。鋭く吹き鳴らされるトランペット。

五楽章、かなり大きめの音で始まりました。トゥッティでは風呂の中で聞いているような轟音になります。高い音の鐘と低い音の鐘を一緒に鳴らしています。最後は僅かにテンポを煽ったような感じで終わりました。

とにかく歪がひどくて、何をやっているのかほとんど分かりませんでした。トゥッティでは混濁しているし、弱音ではビビリ音がひどくて、表現がどうのこうのと言うレベルのものではありませんでした。
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