ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」
たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」名盤試聴記
クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、1985年のライブよりも激しい演奏を予感させる冒頭です。表現もこちらの演奏の方が積極的で大胆です。
金管の咆哮もあり。他の楽器の表情も豊か。ティンパニのロールのクレッシェンドも、他の楽器とともにうねるようにすごい起伏をともなって迫ってきます。こんなに大暴れの第九の一楽章は初めてです。
テンポも動きますが、演奏全体を支配しているスピード感が凄い演奏です。正直、1985年のライブはテンシュテットの普段の演奏からすると大人しいと思っていたんですよ。
この演奏は火を噴くようなテンシュテットの面目躍如の豪快な演奏です。
二楽章、弦も激しい!音楽を叩きつけてくるような猛烈な演奏です。音楽の盛り上がりに伴ってテンポを煽ってくるので、とにかく強烈な第九です。ちょっとこの曲に対するイメージを変えさせられました。
それほど激しい!とくにクレッシェンドを躊躇無くするので、惹きつけられます。
三楽章、わりと速めのテンポで進んで行きます。かなり速いです。この楽章にはあまり重点を置いていないのだろうか?金管はファンファーレのように見事です。
この楽章は指揮者の解釈によってすごく変わります。また指揮者の特徴も出やすい楽章なのかもしれません。
四楽章、うわぁ!もの凄く激しい。テンシュテットは癌から一時復帰して何かあったのだろうか。
この凄さは尋常ではありません。でもLpoも必死に喰らい付いています。とても美しい部分も聴かせてくれます。歓喜の歌のメロディをトランペットが高らかに歌い上げます。
ティンパニも1985年のライブよりもかなり硬いマレットで叩きつけます。独唱が入る前も猛烈でした。
独唱も堂々としていてすばらしい!合唱も含めて、すばらしい集中力で一体になって音楽が押し寄せてきます。
高らかに歌い上げる「歓喜の歌!」感動して涙が出そうになります。いや、CDを聴いて涙を流したのは初めてです。
これだけ心を揺さぶられる演奏は初めてです。
猛烈なクライマックスでした。聴衆の狂乱ぶりも納得の演奏です。
この曲のすばらしさも初めて分かったような気がします。
クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、1991年のライブでは角が立ったような出だしでしたが、ゆったり風格さえ感じられるような演奏です。やはりテンポは動きます。
この録音も綺麗な音で録れています。ティンパニが積極的なクレッシェンドをします。
この頃になるとロンドンpoもテンシュテットと音楽が出来ることを心から喜んでいたのでしょう。
オケが献身的とさえ思える積極的な演奏をしています。木管の旋律の裏にいる金管もしっかり聞こえます。1991年のライブほど攻撃的な感じはありませんが、それでもすごくオケを鳴らしています。
ティンパニのクレッシェンドと金管の咆哮も凄い!テンシュテットの面目躍如という演奏です。
これだけ激しい演奏をしていながら、アンサンブルが乱れないロンドンpoも凄いと思います。
ホルンの咆哮が凄いです。こんなにホルンのパートに音が書かれているのかと感嘆してしまいました。やはりすごく攻撃的で強烈な演奏です。激しい本当に激しい!
二楽章、1991年のライブでは、つんのめった感じがあったティンパニが良い感じで決まります。起伏が激しいのはいつものことですが、それでもそのときそのときのコンディションでいろんな演奏が生まれてくることにクラシック音楽の良さがありますね。
この録音は押しの一手だった1991年盤よりも、穏やかな部分は音楽に浸らせてくれます。
三楽章、非常に遅いテンポではじまりました。この一年で何があったのでしょう。癌の放射線治療を受けながらの演奏活動だったので、内面ではいろんな感情が渦巻いていたことでしょう。
それが、こんなにゆったりと味わい深い音楽をさせることになったのでしょうか。ホルンのソロが独特の表現でした。この楽章でも金管の咆哮、何よりもティンパニの強打が強烈です。
それでも1991年のライブとは何かが違う。咆哮や強打があっても、また穏やかな表情を見せてくれます。
四楽章、ティンパニはこの演奏は特別です。トランペットが高らかに歓喜の歌を歌い上げます。
力強い独唱。合唱も入っての歓喜の歌の前に大きくテンポを落としてから歌に入りました。合いの手に入るトランペットも高らかです。
とにかくティンパニが音楽を積極的に引っ張ります。狂気と言う点では1991年盤の方が上かもしれませんが、激しさと穏やかさの両面を持っているのはこのCDです。
どちらも甲乙付けがたい名盤です。
私は元々テンシュテット・ファンですが、聞き込むほどにその気持ちが増してきました。
本当にすばらしい。もう少し長生きして欲しかった。
朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
1988年12月~1989年5月サントリーホールでのライブ録音
一楽章、ゆったりと、堂々とした足取りで、自信に満ち溢れている演奏。
しっかり地に足が着いた堅実な演奏で、落ち着いて聴くことができる風格さえも感じます。
ティパニは楽譜が書かれている音符の数を正確に叩いているようで、ロールをしている感じではありません。
非常に丁寧に演奏されていて好感が持てる演奏ですし、何よりも優しさが溢れている。
二楽章、ここも他の指揮者で聴く演奏より遅めです。ライブ収録なので、繊細な音は聴けませんが、分厚い響きでもないので、すっきり見通しの良い演奏です。
ティンパニは控えめで、音楽全体も控えめな印象でむやみやたらとffを爆発させるような演奏にはなっていません。とても紳士的で品を感じます。華美にならないところがとても良いです。
田舎の頑固親父が誠実に音楽をしているようで、とても嬉しくなります。
三楽章、この楽章もゆったりとした足取りで、冒頭から豊かさを感じます。とても自然な音楽の流れに身をゆだねるようで、心地よい演奏です。朝比奈の音楽に対する愛情が満ち溢れています。これだけ音楽に真摯な態度で接し続けた音楽家も数少ないでしょう。そういう意味では、朝比奈は日本のクラシック音楽界の宝でしたね。
そして、朝比奈と一緒に音楽を作り上げていく新日本フィルの演奏も世界のどこへ出しても恥ずかしくない演奏水準です。本当にすばらしい音楽を聴かせてくれて同じ日本人としても嬉しいです。
ずっと、この美しい音楽の揺り篭に揺られていたい気分になります。
四楽章、決して分厚く豪快に激しく鳴らすような演奏ではありません。ここでも、比較的遅めのテンポを取ります。肥大化してグラマラスな演奏は、もしかしたらベートーベン本来の姿では無いのかもしれません。
そう思わせるくらい一本筋が通っている演奏です。
ティンパニがポンポンと言う音で、時に演奏から浮いて聞こえることがあるのですが、打楽器は特に生で聞こえる音と、録音では違うので、生で聴いた人には、全く違和感は無かったのでしょう。
独唱は適度な距離感がありライブ感があります。
本当に堂々とした足取りで、何も誇張することなく、ベートーベンが書いたスコアを信じきって、楽譜に語らせている演奏です。
プレスティシモからも猛烈なテンポにはなりません、最後にわずかにアッチェレランドでした。
独唱、合唱も含めて、日本人だけの演奏でこれだけの録音を残せたことは、本当にすばらしいことです。また、朝比奈の音楽に対する献身的とも言えるような姿勢には、ただただ脱帽です。
パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、テンポも速く、音の動きを強調するような表現で、とても明快な動きです。硬質なティンパニが思い切りよく入って来ます。リズムは短く跳ねます。柔らかく歌う部分と攻撃的に弾む部分の対比が見事です。表現は明確でとても力強い演奏です。ティンパニのクレッシェンドも強烈です。表現の振幅がとても大きく激しい部分はとことん激しいですが、柔らかい部分はとても穏やかです。クレッシェンドがとても効果的です。
二楽章、気持ちよく決まるティンパニ。ガツガツと力強く刻まれるリズム。アクセントがはっきりと付いていてビート感があります。思いっきり叩き付けるティンパニ。締った強靭な響きで、一体感のある見事な演奏です。
三楽章、速いテンポですが、深く湧き出るような音楽です。ホルンのソロに間があったり豊かな表現です。ホルンが朗々と吹きます。テンポも動いて良く歌います。
四楽章、トランペットやティンパニが激しい冒頭。レチタティーヴォは軽く演奏します。集中力が高くアンサンブルもとても良いです。歓喜の主題が大きくなるにしたがってテンポも速くなります。非常に感情のこもったバリトン独唱。フェルマーターは壮大な響きでした。ティンパニはデクレッシェンドしませんでした。行進曲はとても速いテンポです。全てのメンバーが一体になって音楽をぶつけてくるような迫力に圧倒されます。歓喜の合唱も合唱、オケ共に大きな盛り上がりです。合唱も優秀です。大胆なテンポの動きもあり、オケ、独唱、合唱が全力で音楽を作り上げている感じが素晴らしいです。Prestissimoも猛烈なテンポをさらに加速して終わりました。
魂が一体になった渾身の演奏でした。とても力強く時にしなやかで表現力豊かな演奏はとても素晴らしいものでした。
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ラファエル・クーベリック/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
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一楽章、うねるような冒頭から激しい第一主題。深く刻み付けるような弦。テンポも動いて感情の起伏の大きな演奏です。シルキーで美しい弦。くっきりと浮かび上がる木管。ここぞと言うところで吼えるホルン。ティンパニは音符の数を正確に叩いているようであまり激しいクレッシェンドもしませんでした。
二楽章、意外とサラッとした冒頭。ティンパニも必要以上の強打はしません。積極的な歌はありませんが、音符一つ一つにとても力があり音が立っています。中間部は歌います。
三楽章、非常に感情を込めた冒頭。作品を慈しむように大切に演奏します。波が押し寄せるようにひたひたと訴えてきます。内側に向かって凝縮するような音楽。とても密度が濃い演奏です。とても美しいホルン。シルキーな弦もとても美しい。華やかなトランペット。色彩感もとても濃厚です。コーダはゆっくりとしたテンポです。
四楽章、トランペットが明るく響く冒頭。ホルンも影で吼えています。レチタティーヴォはあまり厚い響きではありません。生き生きとした木管。歓喜の主題はチェロとコントラバスがバランス良く演奏します。トランペットが入ると華やいだ雰囲気になります。力強く壮大な合唱。フェルマーターでティンパニはデクレッシェンドしませんでした。歓喜の合唱も力強いです。合いの手に入るトランペットも華やかで美しいです。Prestissimoも力強く勢いがありますがテンポは落ち着いています。
濃厚な色彩と表現。音に力があって、生き生きとした音楽でした。力強く壮大な合唱も見事でライヴのクーベリッマクの凄さを見せ付けられた感じがしました。素晴らしい演奏でした。
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ルネ・レイボヴィツ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、速いテンポでシャープな演奏です。レイボヴィツの演奏は余分なものを削ぎ落としたようなシャープさが持ち味だと思います。アクセントなどもカチッと決まりとてもスッキリとした気持ちの良い演奏です。速いテンポで澱むこともありません。サラサラと滑らかな弦が美しいです。ティンパニのクレッシェンドではホルンも長い音を吹いていますが、その音も含めて厚みのある響きでした。コーダでは弦の動きよりも木管の方が強調されています。
二楽章、詰まったような音のティンパニ。ホルンが吼えます。コブラのテンポ・ジュストのノロノロ運転の後に聞いたので胸がすくような気分です。この速いテンポで音楽が生き生きとしているように感じます。疾走するようなスピード感。強弱の変化にも敏感でとてもダイナミックです。
三楽章、速いテンポで清々しい演奏です。感情が込められた演奏ではありませんが、適度な歌や表現があります。引き締まった表情の楽器が重なり合ってとても多彩です。
四楽章、トランペットが華やかな冒頭。かなり速いテンポでガリガリと独特の表現のレチタティーヴォ。歓喜の主題ではいろんな楽器が重なり合う部分でのそれぞれの楽器の動きがとてもはっきりと聞き取れます。少しこもった感じのバリトン独唱。合唱はかなり人数が多い感じです。フェルマーターでティンパニはデクレッシェンドしました。颯爽と進む行進曲。左右いっぱいに広がる歓喜の合唱はとても壮大です。Prestissimoはすごい勢いがあって、かなりの疾走感です。
速いテンポで明晰な演奏でした。速いテンポでありながらキチッと整ったアンサンブル。適度な表現。聴き終わった後の爽快感と充実感はとても良かったです。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団
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一楽章、長く尾を引く第一主題の断片。活発な動きの第一主題。次から次から音楽が湧き出すような豊かさです。テンパニのクレッシェンドは荒れ狂うような激しさはありません。速めのテンポもあって、隙間なくぎっしりと音が詰まっているような密度の濃さです。深い感情移入はありませんが、作品から濃厚なスープを引き出すような演奏です。
二楽章、力感にあふれる冒頭。力が湧き上がるようなクレッシェンド。とにかく音の密度が高い。これだけ密度の高い演奏を聴くのは初めてかもしれません。音に力があって、とても力強い演奏です。
三楽章、次々と花が開花して行くような冒頭。さりげなく美しい歌です。この楽章も速めのテンポですが、湧き上がるような豊かな音楽です。美しいホルンのソロ。
四楽章、トランペットが激しい冒頭。レチタティーヴォはあまり厚みがありません。歓喜の主題のテンポも速めです。少し遠いバスの独唱。合唱も少し遠いです。この楽章でも全く途切れることなく次々と湧き上がる音楽がすばらしいです。フェルマーターではティンパニはデクレッシェンドしました。行進曲のトライアングルの音が硬いです。テノール独唱は遠くはありません。壮大な歓喜の合唱。合いの手のトランペットがすごく力強いです。内面から放出される歓喜の表現も素晴らしいです。Prestissimoもオケの圧倒的なエネルギーで終わりました。
非常に密度の濃い充実した演奏でした。大きな表現はありませんでしたが、内面からにじみ出るような音楽が次から次へと湧き上がってくる様は素晴らしいものがありました。
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