カテゴリー: ベートーヴェン:交響曲第7番名盤試聴記

ベートーヴェン:交響曲第7番名盤は、カラヤン/ベルリンpoの1978年ライヴ。分厚い響きと猛烈なスピード感。カラヤンのライヴの凄さをまざまざと見せ付けられるような名盤です。チェリビダッケ/ミュンヘンpoのゆったりとしたテンポで重量感のある名盤。クライバー/ウィーンpoのガラス細工のような繊細で緻密な名盤。フルトヴェングラー/ベルリンpoの1953年のライヴ。フルトヴェングラーらしいめまぐるしいテンポの動きが圧巻の名盤などがあります。

ベートーヴェン 交響曲第7番

ベートーヴェンの交響曲第7番は、1811年から1812年にかけて作曲され、1813年に初演されました。ベートーヴェン自身が「最高の作品」と評したことでも知られ、この交響曲はエネルギッシュで躍動感に満ち、特に「リズムの交響曲」としての特徴が強調されます。全楽章を通して高揚感とリズムの多彩な展開があり、明るく生命力にあふれた音楽が聴き手に強い印象を残します。

曲の特徴

  1. リズムの多様性とダイナミズム
    第7番はリズムが主役となる交響曲です。軽快な2拍子や3拍子のリズムが支配的で、各楽章で独特なリズムパターンが展開されます。特に第2楽章は、統一されたリズムが続く美しさで有名で、このリズムの反復が幻想的で瞑想的な効果を生み出しています。
  2. 喜びと高揚感に満ちたエネルギー
    この交響曲は全体的に明るく、生命力あふれる表現が目立ちます。祝祭的な雰囲気を感じさせる場面も多く、聴き手を躍動感の中に引き込む魅力があります。このエネルギーと喜びは、クラシック音楽の中でも屈指の高揚感をもたらします。
  3. 絶妙なオーケストレーション
    ベートーヴェンは第7番で、各楽器の特徴を生かした絶妙なオーケストレーションを展開しています。特に金管や木管の効果的な使用により、曲に彩りと立体感が与えられ、リズムに加えて音色の豊かさも堪能できます。

各楽章の概要

  • 第1楽章:Poco sostenuto – Vivace
    荘厳でゆったりとした序奏で始まり、突如として生き生きとしたリズムが現れる軽快な楽章です。跳ねるようなリズムが特徴的で、スピード感とエネルギーに満ちた展開が魅力的です。
  • 第2楽章:Allegretto
    静かで重厚なリズムが特徴の楽章で、静かに進行する反復のリズムが印象的です。この楽章は特に人気があり、切なくも荘厳な雰囲気を持っています。シンプルなテーマが展開されながら、深い感情を表現しており、神秘的で幻想的な美しさが感じられます。
  • 第3楽章:Presto
    スケルツォにあたるこの楽章は、明るく快活なリズムが特徴です。エネルギッシュでユーモラスな要素も含まれており、聴き手に活力を与えるような躍動感があります。中間部のトリオではやや落ち着いた雰囲気になりますが、再び活気に満ちた主部に戻ります。
  • 第4楽章:Allegro con brio
    フィナーレは圧倒的なスピード感と力強さで、まるで舞踏のように勢いよく展開します。勢いを持って進行するリズムが続き、最後まで力強く駆け抜けるようなエンディングが特徴です。このフィナーレはまさに「リズムの交響曲」と呼ばれるにふさわしい、圧巻の高揚感を持っています。

総評

交響曲第7番は、ベートーヴェンのリズムとエネルギーの表現が凝縮された作品であり、喜びや高揚感をリズムを通じて伝える斬新な構成が特徴です。特に第2楽章の幻想的な美しさや、第4楽章の爆発的なエネルギーは、多くの人に愛される理由の一つです。クラシック音楽における「リズムの交響曲」として、ベートーヴェンの革新性と独創性が光る名作として評価されています。

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第7番名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★★★
1978年のライブ録音。

一楽章、まず分厚い響きに圧倒されます。すごいスピード感とクレッシェンド。カラヤンのスタジオ録音からは想像がつかないほど激しい演奏です。
激しい演奏でも、音が荒れないところは、さすがにベルリンpo。鍛えられています。
弓から松脂が飛び散るような、弾くというより叩きつけているような激しさです。カラヤンのライブがこんなに熱っぽいものだとは知りませんでした。

一楽章だけでも、かなり聴き応えがあって、すごく満足です。

二楽章、速めのテンポで畳み掛けるように思いのたけをぶつけてくるように感情の振幅の激しい演奏です。弦楽器の弓をいっぱいいっぱいに使って、すごく豊かな表現をしている感じがします。すばらしいライブです。

三楽章、カラヤンの音楽が、こんなに生き生きしていたとは驚きです。この当時はカラヤンの音楽が一番充実していた時期なのでしょう。
カラヤンがこれだけのライブをしていたのなら、もっとライブをCDにするべきだったと思います。
カラヤンらしく響きが分厚くグラマラスなベートーベンですが、これだけやられると納得の演奏です。

四楽章、凄い!怒涛のフィナーレ。カラヤンがベルリンpoを煽る。超高級スポーツカー(フェラーリ)にでも乗っているかのような豪華さが猛スピードで駆け抜けていくような爽快さ。

スタジオ録音で聴くような厚化粧のカラヤンとは別人です。彫りも深いし文句の付け所が無い名盤を発見した思いです。
こんなに燃えたカラヤンの演奏は初めてです。こんなに凄いとは!!!!!

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈/大阪フィル★★★★★
一楽章、深々とした響きに魅了されます。朝比奈の演奏を聴いていると、この遅めのテンポ設定が正しいと思えてきます。味わい深い演奏です。
新日本poとの演奏では残響が多く、この曲のリズムがあまり明瞭ではなかったのですが、この録音は比較的デッドなので、細部まで見通せるので、いろんな楽器の動きが分かりやすいです。
それにしても、綺麗な音で鳴っています。ヨーロッパのオケだと言われても誰も疑わないでしょう。
自然な表現で、特に誇張することもないのですが、その自然体がオケに徹底されていて、全員が同じ方向へ向かって演奏しています。すばらしく統率がとれています。

二楽章、スピード感はないけれど、一音一音確かめるように一歩一歩着実に進んで行く音楽にこちらも同期化できます。
まるで、老人と一緒に自然の中を散歩しながら自然の動植物の説明を聞いているような、ほのぼのとした、優しさがあります。
そして、この老人といつかは永遠の別れが来るんだなぁと言う惜別の思いがこみ上げて来る。

三楽章、広々としたスケールの大きな音楽。楽譜に忠実にがモットーの朝比奈の演奏ですが、単に楽譜に書いてあることを音楽にしたら、これだけ楽章によって多彩な表情の変化も描き出せるのでしょうか。
これは、楽譜に書いてあることに対する朝比奈の深い理解があるからこそ実現した音楽だろうと思います。

四楽章、ここでも、ゆっくり目のテンポをとっていますが、このような速いテンポの楽章であっても、音楽が凶暴化しないところも朝比奈の趣味の良さです。
重戦車が樹木をなぎ倒して進軍するような演奏も可能な楽章ですが、そのようなことは微塵も感じさせません。
これまで、何種類かの演奏を聴いてきましたが、これだけ格調高いベートーヴェンは朝比奈の演奏が最たるものでないかと思います。

テンポが遅いだけに若干弛緩したかなと思われる部分もあったような気もしましたが、そんなことは些細なことで、全体を通してすばらしい演奏でした。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

フルトヴェングラー★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで開始しました。開始1分ぐらいから急激にテンポを速め木管の主題からまたテンポを落としました。クレッシェンドに伴ってテンポを速めるのはフルトヴェングラーのいつものことですが、これが不自然でないところがフルヴェンのフルヴェンたるところですね。このテンポの動きを伴った音楽に次第に引き込まれて行きます。ここまで自由にテンポが動くと原型がどんなんだったか確かめてみたくなります。

二楽章、かなり遅いテンポで始まりました。ずっと遅いテンポのままで、悲嘆に暮れるような演奏です。

三楽章、ティンパニがかぶってきて全体を消してしまうことがあります。テンポはよく動きます。感情がストレートに表現されていて、起伏の激しい音楽です。

四楽章、遅いテンポで始まりました。主題の部分からは通常のテンポになりました。その後さらに加速したとおもったらまたテンポダウン。目まぐるしいテンポの変化です。終結部に向かってどんどんテンポを追い立てて行きます。凄い!圧巻でした!

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆったりと尾の長いトゥッティの響きに比べると後にに続くオーボエやクラリネット、ホルンがとても小さい音量のような感じです。伸びやかで巨大な響きのトゥッティ。ギュッと締まった美しいオーボエ。ゆったりと舞うようなフルートの第一主題。かなり遅いテンポで重量級の演奏です。

二楽章、静かにそして暗闇に沈みこむように演奏される弦の第一主題。リハーサル時間を長くとっていたチェリビダッケらしいとても緻密な変奏。とても静寂感のある弱音。

三楽章、テンポは遅いですが、重くはありません。オーボエの旋律などもとても軽いです。弱音と激しい部分の対比がすごく克明で、激しい部分はかなり強烈です。

四楽章、重戦車が走るような遅いテンポとすごいエネルギーの冒頭です。トゥッティは全開のもの凄いエネルギー感です。最後まで巨大なスケール感のどっしりとした演奏でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1983年ライヴ

カラヤン★★★★★
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。
一楽章、余韻を長く残すようなトゥッティの4分音符。この演奏も1978年のライヴほどでは無いにしてもスピード感があります。次から次から波が押し寄せるような上昇音階。楽しげに踊るような第一主題。ダイナミックレンジが広くトゥッティは巨大な響きです。この時期はちょうどザビーネ・マイヤーの問題が勃発してカラヤンとベルリンpoがぎくしゃくしている頃ですが、この演奏からはそのような雰囲気は全く感じられません。速いテンポは荒さにはならず激しさとなって表現されます。

二楽章、この楽章も速いテンポですが、一転して物悲しさを感じさせる演奏です。引きずるような第一主題。主題が繰り返されると豊かに歌ったり、消え入るような弱音になったりして変化に富んでいます。トリオではソロが美しく絡みます。フルスイングするような弦がとてもダイナミックです。深く染み入るような弦。ライヴでも集中力が高く丁寧な演奏です。

三楽章、ダイナミックな冒頭でした。締まりがあって美しいオーボエ。トリオに入っても穏やかにはならず、動きのある演奏です。弱音は消え入るようで、トゥッティとの振幅の差がとても大きいです。

四楽章、この楽章は物凄い勢いで始まり、さらにテンポを加速します。猛スピードで突進するような凄い演奏ですがクライバーのように頻繁にテンポが変わらないので、安心して聞ける部分はあります。

ベーレンライター版を先取りしたような速いテンポ。それに付いて行くベルリンpoの集中力の凄さ。カラヤンのベト7ライヴはどれも凄い!
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小澤征爾/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1982年ライヴ

小澤征爾★★★★★
一楽章、少し戸惑いながらの冒頭の4分音符で若干アンサンブルが揃わない感じがありました。カラヤンのライヴのようなスピード感はありません。際立った表現はありませんが、悠然としたたたずまいの演奏で俗世界のベートーベンの演奏評などには動ぜず自信にあふれた演奏です。コーダではテンポを速めました。

二楽章、第一主題は切々と歌いますが、憂いに満ちた響きが深く訴えかけて来ます。

三楽章、かなり積極的な表現になって来ました。オケの音も鮮度が高くなったような、熱気でしょうか?オケの色彩感も濃厚で見事です。音楽の起伏も大きくなって来ました。

四楽章、この楽章は重く大きい編成のオケをグイグイ引っ張って速いテンポの演奏をしていますが粘った表現もあります。音楽が次第に加速するようなエネルギーがあります。終盤に向けてもの凄いエネルギーの噴火です。コーダの盛り上がりも凄いものがありました。

悠然としたたたずまいの第一楽章から次第に熱気をはらんだ第四楽章の猛烈な爆発は物凄いものがありました。正にライヴの小澤の面目躍如と言った演奏でした。
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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1950年ライヴ

icon★★★★★
一楽章、一音一音探るようにゆっくりと進みます。序奏部分でもかなりテンポが動きます。提示部に入ってもあまりテンポは速くありません。ところどころで感情の込められた歌があります。

二楽章、冒頭から憂いを秘めた響きです。引きずるように重く沈み込むような演奏。テンポの動きに悲痛な表現が加味されて凄く深刻な表現に感じます。

三楽章、二楽章の重い雰囲気から一転して明るく元気な表現です。音色もパッと花やいだ雰囲気になります。トリオは重厚な表現で変化があります。この楽章でもテンポは大きく動いています。

四楽章、ゆったりと泳ぐようなテンポで始まりましたが、次第に加速して凄く激しい演奏になったかと思うと、またテンポを落としてゆったりとした演奏になったりしてめまぐるしいテンポの変化です。最後まで手綱を緩めることなく怒涛のコーダでした。

最近の演奏に比べると、テンポも遅く重い演奏でしたが、自在なテンポの変化や叩き付けるような表現。そして圧巻のコーダのすばらしい演奏でした。
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カルロス・クライバー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

>icon★★★★★
一楽章、「運命」で感じた猛烈なスピード感は影を潜めて、しっとりとした表情です。
繊細な音の扱い。ウィーンpoがとても透明感の高い締まった音を出しています。
テンポも音楽に合わせて自由に動きますが、作為的な感じはありません。ウィーンpoがクライバーの指揮に献身的な演奏をしているのが伝わってきます。相思相愛だったんでしょう。

二楽章、比較的速めのテンポで推進力を重視しているような演奏です。推進力がある分、深みを感じることができません。

三楽章、推進力があるので、スポーツカーのような俊敏さはありますが、スケールの大きな演奏にはなりえません。しかし、推進力や躍動感は凄いものを持っています。

四楽章、とても精緻な音楽で、ちょっと触れば壊れてしまいそうなガラスアートのような透明感と繊細さを併せ持った貴重な記録だと思います。

この曲のスタンダードとして位置づけるような演奏ではありませんが、クライバーの芸術性の高貴さが表出された名演奏だと思います。

クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ティーレマン★★★★★
一楽章、コンパクトな響きですが、ティーレマンらしくテンポを頻繁に動かして旺盛な表現です。大胆にテンポは動きますが不自然さはありません。テンポを落とす部分ではたっぷりと歌います。

二楽章、艶やかな弦が美しく歌います。ゆったりとしたテンポで深みのある演奏です。

三楽章、動きのある演奏です。一楽章の冒頭のコンパクトな響きから次第に大きな響きになって来ました。強弱の反応もとても良いです。

四楽章、この楽章では三楽章で聞かれた巨大な響きではなく、軽快に進む音楽ですがテンポの変化は大きくかなり大胆です。コーダの追い込みは見事でした。

大胆に動くテンポと濃厚な表現。ウィーンpoの艶やかな美しい響きと相まってとても良い演奏でした。
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パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ヤルヴィ★★★★★
一楽章、大切な物を扱うように丁寧な弱音部。第一主題は速いテンポで鋭角的ですが、軽快な表現です。編成は小さいですが、とても力強い演奏です。

二楽章、アタッカで入りました。主題の音をあまり続けずに僅かに短めに演奏しています。全体に短めの音で演奏されるので、楽器がくっきりと際立ちます。

三楽章、この楽章にもアタッカで入りました。音が空間に飛び散って行くようにエネルギーを放出します。とても力強く明快です。鋭いナチュラルトランペットが突き抜けて来ます。引き締まった筋肉質の演奏で動きが克明で音楽が生き物のように活発です。

四楽章、同じリズムを繰り返す部分で音量を落としてクレッシェンドしたり一つのフレーズでも音量の変化があったりといろんなこだわりがあります。いろんなリズムが絡み合っているのも良く分かります。コーダへ向かって行くエネルギーは凄いものがありました。ティンパニの存在感もとても大きく、クレッシェンドがとても効果的に決まっていました。

いろんな楽器の動きが手に取るように分かる演奏でした。作品の面白さを存分に伝えてくれて演奏です。
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シュミット・イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

イッセルシュテット★★★★★
一楽章、甲高い4分音符。ゆったりとしていますが歯切れのいい序奏。艶やかで美しい響きです。あまりアクセントなどを強くは演奏しないので、なだらかで穏やかな演奏に感じます。第一主題の前で僅かにテンポを落としましたが自然な範囲です。力みの無い自然体の演奏は安心して聞くことができます。華やかで色彩感豊かな演奏です。

二楽章、非常にゆっくりと刻み込まれるような第一主題。奥行き感があって、ホールに響く残響がとても美しいです。豊かな歌と熱気のこもった演奏。

三楽章、この楽章もゆったりとしていますが、繊細さもあります。トリオはさらにゆったりとしていてしっとりとしています。

四楽章、艶やかなヴァイオリンが美しい。トゥッティでも荒れることなく、なまめかしい程の美しさです。コーダは熱っぽく圧巻のアッチェレランドでした。

イッセルシュテットのベートーベンは優等生的で主張の無い演奏が多かったのですが、この演奏はゆったりとしたテンポに艶やかで美しい響きやコーダの圧巻のアッチェレランドなど聞かせどころいっぱいの演奏でした。
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ファンホ・メナ/BBCフィルハーモニック

ファンホ・メナ★★★★★
一楽章、短めの4分音符。暖かく柔らかい弦。引き締まった表現。生き生きと躍動感のある第一主題。聞いた事のない名前の指揮者ですが、オケが一体になった躍動感はすばらしいものがありました。

二楽章、暗く沈み込むような主題。心がこもって、切々と歌い上げています。

三楽章、テンポは速めで、締った表情で躍動感があります。ティンパニが硬質ですが、釜が良く鳴って良い響きです。トリオはとても良く歌います。

四楽章、かなりの快速です。華やかに盛り上がる部分と静かに落ち着く部分の対比も見事です。生き生きとして凄い躍動感です。ティンパニの強打を伴った快演でした。

名前を聞いた事の無い指揮者でしたが、とても表現の幅が広く、常に全体のバランスよりも強めに入るティンパニの心地よさ。コーダへ向かう怒涛の勢い。作品の魅力を余すことなく表現した快演でした。
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コチシュ・ゾルターン/ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団 2000年ライヴ

ゾルターン★★★★★
一楽章、豊かに歌う木管。速いテンポの弦の刻み。第一主題も速いテンポですが、躍動感や生命感があって、生き生きとしています。緊張感があって、表情も引き締まっています。全力でぶつかってくるような凄みがあります。

二楽章、この楽章も速いテンポです。二小節に一度頭の音を強く演奏しています。この楽章も良く歌います。

三楽章、この楽章も速いテンポで生き生きとした演奏が続きます。凄いエネルギーの発散です。トリオは独特の歌い回しです。凄い勢いのある演奏ですが、若干雑になる感じもあります。ですが、これだけのエネルギーを発する演奏は珍しく貴重な演奏だと思います。

四楽章、一気呵成に突き進む猛烈な演奏です。オケも全力投球です。波打つようにうねる音楽。

もの凄い勢いの演奏でした。生き生きとした躍動感と刻み込まれるような音楽。これだけ強いエネルギーを発散する演奏も珍しいと思いました。
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ベルナルト・ハイティンク/シュターツカペレ・ドレスデン

ハイティンク★★★★★
一楽章、最初の4分音符が短めで低音が遅れて聞こえます。木管はたっぷりと歌います。続く弦の刻みはスピード感があります。美しく爽やかなヴァイオリン。優しい表情の第一主題、そしてサポートする弦も優しいです。トゥッティは堂々としたたたずまいでした。自信に満ちた落ち着いた歩み。深みと奥行きのある豊かな響き。

二楽章、静かで重い第一主題。目立った表現はしていませんが、悲しみがジワジワと込み上げてきます。力みも全く無く、オケを無理にドライブすることもありませんが、とても深い演奏です。

三楽章、解放された柔らかい響き。本当に力が抜けた自然体の演奏から凄い生命感を感じるのがとても不思議です。ビックリするような仕掛けなども無く、正に正攻法です。

四楽章、速めのテンポですが、オケの響きは伸び伸びとしていて余裕があります。ホルンが咆哮することもありません。常に余裕のある美しい音色で、最後は僅かにテンポを速めました。

全く力みの無い、美しく柔らかい響きで、大きな表現はありませんでしたが、自然と心に届く音楽はとても魅力的でした。
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カルロス・クライバー/バイエルン国立管弦楽団 1986年5月19日 昭和女子大人見記念講堂

クライバー★★★★★
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、とまどうように弦のフライイングのある冒頭の4分音符。凄い勢いで加速して行きます。上昇音階の部分は常に加速している感じでクライバーの気合が感じられます。オケの特徴か木管の音が太く、可憐な感じはあまりありません。弦の表現はとても積極的です。ダイナミックで濃厚な表現です。テンポはかなり動いて嵐のような凄い勢いです。コーダも凄いスピード感です。この燃焼度の高さが最後まで持続するのか心配になります。

二楽章、枯れた響きで、暗く渋い第一主題の演奏です。速めのテンポですが、切々と訴える表現で美しく歌います。沈み込むような悲しみの表現はありません。トリオの最後のクレッシェンドは思い切り良く鮮烈です。

三楽章、ここでも積極的な表現の弦に疾走感があります。トリオも速めのテンポですが、表情はとても豊かです。トランペットがテヌートぎみに演奏します。凄い勢いですが、とても新鮮な音楽です。

四楽章、雪崩れ込むような冒頭。そしてここでもテンポを追い込みます。83年のコンセルトヘボウのライヴのようなガラス細工のような繊細さはありませんが、温度感が高く熱気に溢れています。まるで台風のさなかのような猛烈な嵐のようなスピード感です。コーダへ向けてさらにテンポを速めます。怒涛の終演です。演奏終了と共に上がるブラヴォーの声にも納得です。この会場にいた人は狂喜だったろうと思います。

積極的で新鮮な音楽。聞いていて血液が沸騰しそうになるようなアッチェレランド。物凄い熱気と怒涛のコーダでした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第7番2

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カール・ベーム/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、他の二曲よりも録音年代が古いので、僅かですが、ヒスノイズがあります。
これも一発目のドーンから凄い勢いがあります。カラヤンのライブほど分厚い音ではありませんが、逆にこちらはもの凄く端正な整った音がしています。
硬く締まったティンパニの音もとても良いです。
締まったアンサンブルで骨格も引き締まっているので、透明感も高いし音楽を聴きながらスコアも見せてくれているような演奏です。
音楽が前へ前へと進もうとします。このエネルギー感はどうやって生まれるんだろう?
テンポも大きく動きます。木管の優しい旋律ではぐっとテンポを落としたり。決して劇的な演奏を狙っているわけではないと思います。ベームの感性をストレートに表現しているように感じます。

二楽章、遅めのテンポです。力強いのだけれども、ぐいぐいと沈み込んで行く音楽。

三楽章、テンポの振幅も大きく、速いところとゆっくりのところとの対比がしっかりされています。
ティンパニの強打がとても気持ちが良い!

四楽章、この楽章は堅実な歩みです。少し速くなってはまた遅くなりを繰り返しながら最後はアッチェレランドで終わりますが、ベームはしっかり手綱を締めています。

レナード・バーンスタイン/ボストン交響楽団 1990年8月19日ライヴ

バーンスタイン★★★★☆
一楽章、短い4分音符の合間にゆったりと歌う木管。ラストコンサートと言う先入観からでしょうか。とても神聖な演奏に感じます。作品の持っている軽快さや明るさは無く、深く穏やかな音楽です。第一主題もゆったりと伸びやかです。やはり衰えからかアンサンブルの乱れもありますが、独特の緊張感がすばらしいです。かなり重い演奏でリズムが弾む感じは無く、引きずられるような感覚の演奏です。

二楽章、長く響くオーボエに続いて重く暗い沈み込むような弦。第一主題もむせび泣くような沈痛な演奏です。非常に重い演奏はこの作品の演奏の中ではかなり異質な存在だと思います。テンポも遅くなることが度々あり、どんどん重くなります。最後の音が長く尾を引きます。

三楽章、ガラッと空気が変わる程まではありませんが、軽快な雰囲気は十分にあります。トリオは作品を慈しむようにゆったりと流れます。トリオの巨大なスケールのトゥッティに圧倒されます。コーダはすごくゆっくりとしたテンポになりました。

四楽章、遅く重い演奏で、リズムは弾むことなく、地を這うような演奏で躍動感はありません。荒れ狂うような圧倒的なコーダでもありませんでしたが、重量感のある演奏は聞き応えがありました。

バーンスタインのラストコンサートと言われる演奏。体力の衰えからかアンサンブルの乱れも僅かにありましたが、最晩年のバーンスタインのカラーで染めつくされた演奏だったと思います。本来の明るい曲調とは違って、重く沈み込むような演奏には、この世の別れに込められた万感の思いが表現されていたのかも知れません。
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リッカルド・シャイー/ライブツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

シャイー★★★★☆
一楽章、軽く短い4分音符。木管のソロが終わって弦の刻みが続く部分でテンポを速めました。再びオーボエのソロでテンポを落とします。第一主題に向けてもテンポを速めました。締りがあって躍動感のある第一主題。渋い響きですが、響きには深みがあってなかなか良いですし、音楽は常に躍動しています。

二楽章、深く沈む第一主題。次第に感情を叩き付けるように激しくなってきます。トリオでは穏やかな表現になって、主部との対比が見られます。

三楽章、この楽章でも明快な動きがあります。中間部は速いテンポであっさりと流れますが他の部分とのバランスからすると速すぎるような感じがします。

四楽章、金管も突出することなく良いバランスでブレンドされた響きです。二楽章で聞かせた感情を叩き付けるような激しさからこの楽章も期待したのですが、意外と抑制されたバランス重視の表現でした。

渋みと深みのある良い響きの演奏でした。このオケが伝統的に持っているバランス感覚なのか、どこかのパートが突出してくることもありませんでした。表現もとても良く練られている感じは受けましたが、もう少し突き抜けた表現もあったら良かったと思いました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1970年6月11日 ムジークフェライン

カラヤン★★★★☆
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、長く尾を引くような4分音符。ビブラートを掛けて美しいオーボエ。次から次から波が押し寄せるような弦とともにテンポが速まります。フルートの第一主題の合間に入る弦の強弱の反応がとても良いです。78年、83年のライヴに比べると演奏は落ち着いています。

二楽章、レガート奏法で、ほとんど音がつながっているような第一主題。サラッと淡々と流れているようですが、内に秘めた感情がにじみ出てくるような演奏です。中間部ではたっぷりとした歌です。

三楽章、最初の音を僅かに長く間をとって演奏しました。後年のライヴで聞かせるものすごい勢いの片鱗を感じさせるテンポ感です。トリオで登場するトランペットもレガート奏法で。ほとんど音がつながっています。強い勢いはありませんが、十分に推進力はあります。

四楽章、最初の八分音符を少し長めに演奏しました。かなり速いテンポですが、これが曲が進むにつれてさらに加速します。強弱の変化とテンポの変化が同時に来ます。この楽章の猛烈な加速はやはり後年のライヴに通じるものがあります。カラヤンが作品に強い共感を持って魂が乗り移ったようなテンポの動きは素晴らしいです。

最初は後年のライヴに比べると大人しい演奏だと思って聞いていましたが、四楽章に入ると作品を完全に自分のものにしたカラヤンの魂が乗り移ったようなテンポやダイナミックの変化があって最後は素晴らしい演奏でした。ただ、レガート奏法が行き過ぎたような部分もありました。

オトマール・スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ

icon★★★★
一楽章、最初の一音を出すタイミングをオケのメンバー同士が探りあいながら、スウィトナーの棒と駆け引きして、ズォーンという感じの出だし。決してバーンと出ないところが、伝統を感じさせます。
アインザッツが合っていないのかもしれないけれども、逆にこの一音に込められた緊張感がこれから始まる音楽の期待感を盛り上げてくれます。
フルートのソロもオケの音色になじんでいて、伝統あるオケとしての音色の統一感があるし、ブレンドされた響きが何ともいえない味わいを醸し出してくれます。
大げさな表現もありませんし、大きくテンポを動かすような大人気ない演奏はしません。紳士のベートーベンです。
最初にベートーベンを聴く人にはこの全集は絶対お勧めです。正統派でしかも完成度が非常に高いし、オケも美しい。このすばらしい全集を聴いて、他の指揮者の演奏を聴くと、また別の指揮者のすばらしさを聴く事ができると思います。
比較試聴するための原点に据えるには、最適な全集だと思います。

二楽章、確かな足取りで刻まれていく音楽。渋い音色で統一された響きのなかで、美しい音楽がとても心地よい。

三楽章、室内楽を聴いているような透明感の高い響き。ムダに飾ることはなく、田舎の頑固親父が誠実な音楽を運んでいきます。カラヤンのスタジオ録音のような厚化粧のようなことも一切ないので、清楚な演奏です。

四楽章、スウィトナーがN響に客演していた頃は、変な風体のおっさんが何かやっているとしか思っていませんでした。
それは、当時のN響ではスウィトナーが要求する音楽を楽員たちが消化し切れなかったのでしょう。だから、その当時はテレビやFMで聴いてもさしたる感動もなかった。
でも、この演奏を聴くと本当に王道を行く名指揮者の虚飾のない凝縮された名演奏を聴く事ができます。
すばらしい、大偉業を成し遂げたと思います。

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団


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★★★★
一楽章、マタチッチがかなり強力にN響をドライブして行きます。ゴリゴリと戦車が進むような重量感と推進力が凄いです。
1984年の録音ですが、この頃になるとN響も技術水準はかなり高くなっています。
第九の録音は1970年代だったと思いますが、あの当時はマタチッチの音楽をN響が昇華し切れなかったように感じましたが、この演奏はマタチッチの思い描く音楽をかなり再現できていると思います。

二楽章、この楽章も速めのテンポです。演奏自体の表現力は十分にありますが、もう少し遅めのテンポの方が陰影を描き出せるような感じがします。それでも、マタチッチの激しい悲しみの表現も惹かれるものがあります。

三楽章、この楽章は一転して遅めのテンポでスケールの大きな音楽表現です。N響もマタチッチの棒に付いて行ける力を持っているように思えます。

四楽章、ここは一楽章同様凄い推進力です。ただ、カラヤンのライブのオケの圧倒的な厚みにはさすがに一歩譲ります。

デヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団


icon
★★★★
一楽章、アタックが強い冒頭。強弱の差がすごく激しい演奏です。
一つ一つの表情に勢いを感じさせる演奏なのが、音楽を生き生きさせているのだと思います。
小編成のメリットを生かした機敏な反応がたまらない良さです。
コントラストがはっきりしていて、ホルンを思いっきり吹かせたいするところなどCD化以降の評価を気にせずに、ジンマンがやりたいことをやった演奏で、最近の没個性の演奏の中にあっては異彩を放っている演奏だと思います。

二楽章、一楽章から間を空けずに演奏されました。葬送行進曲とすれば軽い演奏です。

三楽章、また、軽快な音楽に戻りました。当時はこんな演奏が本当にされていたのではないかと思ってしまうほど説得力があります。

四楽章、細部まで表現は徹底しています。

アンドレ・クリュイタンス/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

クリュイタンス★★★★
一楽章、美しく堂々とした冒頭です。注意深い弦の刻み。少しテンポを落として心のこもったオーボエの主題。オケが暴走するような爆演には決してなりません。制御の利いた美しい演奏です。

二楽章、お互いの音を聴きあって細心の注意を払って演奏されているような弱音部。緊張感を伴った静寂間があります。

三楽章、際立った表現や誇張された部分はありませんが、中庸の安心感があります。

四楽章、少しつんのめった感じの冒頭でした。速めのテンポで進みます。力強い推進力。少しテンポを上げて演奏を終えました。

ヘルベルト・ブロムシュテット/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 1978年東京ライヴ

ブロムシュテット★★★★
一楽章、冒頭の4分音符はティンパニがフライイングぎみでした。続く木管は太く非常にゆったりとしていて優雅です。シュターツカペレ・ドレスデンの柔らかい音色がとても心地良い響きです。第一主題も優雅に舞うようです。テンポは微動だにしません。ティンパニが乗り遅れる場面もありました。

二楽章、ゆっくりと語りかけるような演奏です。少し進むと僅かにテンポが落ちてさらに訴えかけるような表現になりました。この楽章はテンポが動いて深い表現です。

三楽章、この楽章も速くはありませんが、躍動感があります。トゥッティでも決して固くはならない柔らかく美しい響きです。

四楽章、前進する力は僅かです。アバドの流れるような演奏に比べるとはっきりとした脈動があります。最後は少しテンポを速めましたが、金管が吠えることもなく全体的に整った美しい演奏でした。
柔らかく美しい響きが魅力的な演奏でした。二楽章の深みのある表現もとても良かったと思いますが四楽章の爆発するようなエネルギーが無かったのが残念です。
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ピエール・ブーレーズ/ニューヨーク・フィルハーモニック 1975年ベルリンライヴ

ブーレーズ★★★★
一楽章、予想外に柔らかい響きで、アンサンブルも整っています。小じんまりとしていて清涼感のある響きです。第一主題の手前でリタルダンドしました。それ以降も時々ritがあるのですが、ちょっと不自然でくどい感じがあります。前へ進む感じよりも後ろへ引っ張られるような感じの演奏です。

二楽章、深く歌う第一主題。この頃のブーレーズの音楽と言うと切れ味鋭く人間味に乏しい印象でしたが、どうして、とても暖かく人間味に溢れた演奏です。トリオでは澄み渡った雪景色のような美しさです。

三楽章、ゆったりめのテンポでまろやかで優しい響きです。ドタバタせずに穏やかで優雅な演奏はこれまで聞いたことの無いタイプで、これはこれでなかなか良いものです。バーンスタイン時代には暴れ馬のようなオケだったのが、これだけ上品で整った演奏をするまでになったのはブーレーズの大きな功績です。

四楽章、この楽章でも力感はあまり無く、自然体で力の抜けた演奏です。音楽の振幅も大きくは無く、この曲としてはゆったりと進む感じです。泰然自若でどっしりとして動じることの無い演奏です。最後は少し高揚して終わりました。

一楽章ではちょっと不自然なテンポの動きがありましたが、二楽章以降は力みの無い自然体の演奏で、ゆったりと優雅に流れる音楽がとても心地良いものでした。
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マキシミアンノ・コブラ/ブラジル交響楽団

コブラ★★★★
一楽章、深みのある響きでとてもゆっくりとした演奏です。「指揮棒の一往復を1拍とする」と言う、テンポ・ジュスト理論の演奏で演奏時間は通常の倍かかることになりますが、実際にはそこまで遅くはありません。最初は聞くに堪えないほどの遅さかと思いましたが、始まってみると、かなり遅いですが、鑑賞には十分に堪えます。オケの響きはサラッとした爽やかなもので、この遅い演奏を聴くにはちょうど良い音質です。テンポは遅いですが、特に濃厚な表現などはありません。淡々と自然体の音楽です。

二楽章、遅く重く暗い表情の第一主題。切々と感情を込めて歌われるところはなかなか聞かせますがテンポのタメや動きはほとんど無く、ただ楽譜を音に変えているだけのような印象もあります。

三楽章、奥行き感があって美しい響きです。テンポは遅いですが、演奏そのものにはスピード感があり置きに行ったような演奏ではありません。トリオのトゥッティの広がりもあり大きな響きを作っています。ティンパニがドローンとした響きでこのテンポには合っているのかも知れませんが、もう少し硬質でも良いような気がします。

四楽章、この楽章も遅いですが、演奏にはスピード感があって、音楽が停滞するような感じはありません。弛緩した感じもなく、このテンポでも緊張感は維持しています。
遅いテンポでしたが、美しい響きで良くコントロールされていました。この遅さてもスピード感を感じさせる演奏もなかなか良かったと思います。ただ、テンポ・ジュスト以外の主張が無かったのは少し残念でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第7番3

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第7番名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1966年東京文化会館ライヴ

カラヤン★★★☆
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、最初の音のアンサンブルが乱れます。後年のライヴのような強烈な加速はありません。速いテンポで舞うような第一主題。この演奏でも分厚いトゥッティのエネルギー感は凄いです。前へ強烈に進もうとするような推進力もあまり感じません。

二楽章、この楽章も速いテンポで悲しみを強く印象付けるような演奏では無く、暖かみを感じさせる演奏です。豊かな歌のある演奏です。

三楽章、重量感のあるスケルツォですがスピード感もあります、ただ後年のライヴのような猛烈に前進するようなスピード感ではありません。

四楽章、この楽章は凄いテンポで進みます。ただ前へ進もうとする推進力はあまりありません。コーダは物凄い加速でさすがですが、やはり後年の周囲の物を蹴散らして進むような力強さは感じられませんでした。

カラヤンらしい速いテンポで勢いのある演奏でしたが、後年のライヴのような猛烈な勢いで突き進むような力強さは感じられませんでした。

朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、8番の時の、自然体の雰囲気とは少し違うような感じがします。時折激しさも垣間見せます。
ホルンは細身の音ではありますが、ピーンと張りのある音で見事なアンサンブルです。自然に熱を帯びてくる感じで、オケを引きずり回すような、乱暴なことは全くありません。
大枠を伝えたら、あとはオケの自発性に任せているらしく、朝比奈と新日フィルもアンサンブルしているような一体感が良いです。

二楽章、もっとのめり込んでも良かったような気も若干しました。

三楽章、やはり、テンポは遅めですが、違和感はありません。雄大な自然を連想させてくれるような演奏です。ただ、ゆったりしたテンポ設定と躍動感のある音楽のと融和するところが見つけにくいようで、8番ほどしっくりきていないような印象はあります。

四楽章、一般的なテンポの範囲のような気がします。終番から畳み掛けるようにテンポが速くなりティンパニのすごいクレッシェンドがあり、音楽がどんどん前へ前へと進んで行きます。これも見事なピークを作って熱狂的に終わりました。

クラウス・テンシュテット/ボストン交響楽団

テンシュテット★★★
一楽章、ボストンsoとの共演、私のイメージからすると、アメリカのオケとしてはとても端正で木質系の響きを持っていて、テンシュテットとの相性には疑問を持つのですが、果たしてどのような演奏になるのでしょうか。
テンシュテットの演奏としては、大人しいです。一楽章から激しかったことから言えばカラヤンのライブの方が、激しい演奏でした。
テンシュテットの指揮に対して120%やってしまうロンドンpoと80%程度でとどめておくボストンsoの奥ゆかしさの違いのようにも感じます。
響きもベルリンpoのようなグラマラスな響きではなく、細身で薄い響きです。室内楽のように編成が小さいように感じられます。

二楽章、思い入れがすごく込められている演奏です。いつもの外へ爆発する方向よりも、内面へ向かって、切々と訴えかけいくるような感じがします。

三楽章、やはり、ボストンsoの奥ゆかしさと、テンシュテットの全てをさらけ出すようなスタイルは合わないような気がします。

四楽章、猛烈に畳み掛けるような終わり方でも無かった。テンシュテットの指揮だからと過剰に期待しなければ、まとまりの良い演奏だったと思います。
ベートーベンの7番に関しては、爆演だったら、カラヤンを聴いた方が良いです。

ジョン・エリオット・ガーディナー/オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク

icon★★★
一楽章、細い音です。古楽器の特徴なのか、幻想交響曲の録音に比べると残響成分も適度に含まれているので、聴きやすい演奏です。音の細さから受ける印象なのか、演奏自体が細身で、ヘド7のイメージからするとひ弱な感じになっています。
古楽器で幻想を演奏するような無茶なところはあまりないので、幻想のときに感じた、学術的な価値しか感じられないような演奏ではなく、音楽になっています。
薄い響きなので、モダン楽器の演奏よりも透明感があります。十分に盛り上がって熱い終結部でした。

二楽章、それぞれの楽器の響きが細いので、寂しい楽曲がさらに寂しさを増しています。演奏スタイルも時代考証をして、表現も工夫しているのだと思うのですが、この楽章は平板な感じは否めません。

三楽章、躍動感があって楽しい表情です。やはり響きの細さはずっと付きまといます。当時の楽器や演奏スタイルなど研究して、当時の演奏を再現してみる試みは評価できます。
しかし、それは数ある演奏の中においては、一度聴けばそれで良いことで、この演奏をベストCDとして挙げる人がどれだけいるのか、私は疑問です。

四楽章、間が長い冒頭でした。音に豊かさや伸びやかさがないので、詰まった印象になってしまいます。
音楽的には、思っていたより熱い演奏で好感がもでました。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、ライブでは、もの凄いスピード感のある、すばらしい演奏を聴かせてくれたのですが、スタジオ録音になると、よそ行きの演奏になってしまうのか、剛速球のピッチャーがフォアボールを恐れて玉を置きに行っているような演奏で、ポイントは外していないのですが、度肝を抜くような剛速球を投げ込んできません。
カラヤンは歴史上で最も多くの録音を残した人なので、録音に対する考え方は、私たち凡人以上にいろんな側面から考え抜いた末に、この演奏を残したわけですから、カラヤンにとっては必然性があったのでしょう。
それは、後世に残るものとして、造形的に完璧であることを望んだのでしょうか。
でも、演奏を聞く側としては、カラヤンとベルリンpoがOB覚悟のドライバーのフルショットを見てみたいと思うのが、本音だと思うし、それが仮にOBになったとしても、そのことに果敢にチャレンジしたことを褒め称える人の方が多いと思うのですが・・・・・。

二楽章、この楽章もテンポが速くて味わいがありません。
三楽章、
四楽章、この楽章はスピード感もあってなかなか良いです。ただ、ライブのような猛進するような迫力はありません。

カルロス・クライバー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

>icon★★★
一楽章、「運命」で感じた猛烈なスピード感は影を潜めて、しっとりとした表情です。
繊細な音の扱い。ウィーンpoがとても透明感の高い締まった音を出しています。
テンポも音楽に合わせて自由に動きますが、作為的な感じはありません。ウィーンpoがクライバーの指揮に献身的な演奏をしているのが伝わってきます。相思相愛だったんでしょう。

二楽章、比較的速めのテンポで推進力を重視しているような演奏です。推進力がある分、深みを感じることができません。

三楽章、推進力があるので、スポーツカーのような俊敏さはありますが、スケールの大きな演奏にはなりえません。しかし、推進力や躍動感は凄いものを持っています。

四楽章、とても精緻な音楽で、ちょっと触れば壊れてしまいそうなガラスアートのような透明感と繊細さを併せ持った貴重な記録だと思います。
この曲のスタンダードとして位置づけるような演奏ではありませんが、クライバーの芸術性の高貴さが表出された名演奏だと思います。

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、録音が古いせいか、埃っぽい音です。
アクセントの処理などアティキュレーションに関しては徹底されているのが伺えます。ティンパニ打撃音はほとんど歪んでいます。
ムラヴィンスキーの演奏は弛緩するなどということは有り得ず、殺気立ったような厳しい演奏です。これは他のベートーヴェンの交響曲でも共通するところです。
ただ、この録音はちょっと酷いです。私は、録音が悪いと、そのことが気になってなかなか音楽が聴けないタイプなので、この演奏に浸れません。

二楽章、レニングラードの大ホールの録音機材が相当悪かったのか、アメリカでは1960年代なら、かなり良い音のステレオ録音のはずですが、1964年でこの音は酷すぎます。しかもモノラル。

三楽章、ムラヴィンスキーの芸術性の高さからすると、録音に恵まれなかったのは大変残念なことです。

四楽章、オケの熱演が感じられないわけでしないのですが、録音の歪みが酷くて、演奏が滑稽に聞こえてしまう部分もあり、私のような聴き方をする人間には、この演奏の良さを伝えることは不可能です。
ただ、ドイツ、オーストリアから遠く離れた偏狭の地で、ある種独特の音楽文化を築いてきたロシアの偉人たちには敬意を表したいと思います。

ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★
一楽章、パートの受け渡しがとてもスムーズな良い感じのスタートです。上昇音階が次第にテンポを速めます。繰り返される上昇音階は高弦だけが走って、間の悪い部分もありました。第一主題のフルートソロに呼応するコントラバスのアクセントが強めで存在感がありました。次第に熱気を帯びてきて、激しい音楽になってきました。再び現れるオーボエをはじめとする木管のソロで一瞬の静けさを取り戻し、また、畳み掛けるように激しい演奏になっていきます。ホルンの強奏で音が歪むのが残念です。

二楽章、淡々と演奏が始まりました。深く沈みこむような表現ではなく、無用な感情移入は避けているように感じます。歪みっぽい録音はいかんともしがたい・・・・・。

三楽章、

四楽章、遅めのテンポで開始しました。熱狂的な高揚感よりも冷静さの方が強く感じられるように思います。ちょっと重いです。

クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1987年東京ライヴ

アバド★★★
一楽章、くっきりと締った木管が浮かび上がる序奏。楽しげに動く第一主題。猛烈に前へ進むようなスピード感はありませんが、美しい演奏です。テンポの変化も全くと言って良いほどありません。

二楽章、ウィーンpoの伸びやかで美しい弦がとても印象的です。弱音の繊細さもとても美しいです。

三楽章、この楽章も美しいのですが、前へ進む力強さはありません。表現にも尖ったところは無く滑らかで繊細な女性的な演奏のように感じます。

四楽章、ほとんど加速することなく楽譜通りの演奏です。流れるような滑らかな演奏はアバドらしいです。コーダでも全くテンポは変わらず落ち付いていました。

繊細で流麗な美しい演奏でしたが、テンポの動きも無く、優等生的で燃焼度が高い演奏には感じませんでした。
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リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

ムーティ★★★
一楽章、軽い響きの4分音符。アクセントなどもあまり強く無く、サラッと流れます。第一主題も軽快です。テンポは色んなところで動きますがスタジオ録音ではありがとな、お行儀が良い演奏で、まとまりは良いのですが、暴走するような危うさは全くありません。

二楽章、軽く静かでしかも華やかな主題。アメリカのオケらしい華やかさです。あまり深みはありませんが、良く歌っています。メナの演奏の強烈なティンパニを聴いてしまうと、この演奏のティンパニはいかにも弱い。弱音では室内楽のような繊細さです。

三楽章、力が抜けて、ほどほどのエネルギー感であまり力漲る躍動感はありません。トゥッティでもトランペットが飛びぬけて来たりはしません。とても常識的な演奏です。トリオでは良く歌います。

四楽章、一転して速めのテンポでぐいぐい進みますがカラヤンのライヴのような強い推進力はありません。コーダへ向かってはかなり激しくなりました。最後の追い込みはなかなかでした。

弱音部の繊細な美しさや四楽章コーダへ向けての激しさはありましたが、全体としてはお行儀の良い優等生的な演奏でした。
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ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団

バレンボイム★★★
一楽章、軽い4分音符に続く木管の豊かな歌。集中度の高い弱音部分。踊るように飛び跳ねる第一主題。重くずっしりと刻むリズム。さらりと流れる部分と、叩き付けるようにリズムを刻む部分との対比がなかなか良いです。

二楽章、アタッカで入りました。あまり表情を付けずに淡々と演奏される第一主題。テンポも粘ることはありません。トリオでは歌いましたが、主部はほとんど表情を付けずに演奏しています。

三楽章、ここもアタッカで入りました。一転して活発に動いていますが引き締まった演奏では無く、どこか緩い感じがします。

四楽章、かなりの快速で飛ばしています。演奏の温度感が高く、ピーンと張りつめたような緊張感は感じません。コーダへ向けてオケを爆発させました。

最後はそれなりの盛り上がりはありましたが、全体的には緩く、緊張感の乏しい演奏でした。
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カール・ベーム/ロンドン交響楽団 1977年ライヴ

ベーム★★★
一楽章、遠い音場感です。遅いテンポで一貫しています。音楽は淡々と流れて行きます。ほとんどテンポを変えずに、しんし、僅かに間を取ってから第一主題に入りました。テンポの動きは少しありますが、音楽の起伏はあまり大きくありません。

二楽章、控えめで厳かな第一主題。続く変奏でも物悲しさが伝わって来ます。少し離れた録音なので、響きのまとまりが良く小粒ながら美しい演奏です。

三楽章、滑らかで美しい流れるような演奏です。大きな表現はありませんが、キリッと引き締まった清涼感のある響きで見通しの良い演奏です。

四楽章、ベームのライヴにしてはクールで燃焼度があまり高くないような感じがします。コーダはそれなりに盛り上がりましたが、ベームの絶頂期の白熱したライヴとは違って衰えを感じてしまいました。

清涼感のある涼しげな響きで、サラリと演奏された感じがあります。最後はエネルギーの放出もありましたが、燃え上がるような演奏ではありませんでした。
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ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン/オランダ放送室内フィルハーモニー管弦楽団

ズヴェーデン★★★
一楽章、まとまりの良いまろやかな響きです。あまり表情の無い第一主題。強奏部分ではホルンが吠えます。

二楽章、抑えた音量で静かに美しく演奏される第一主題。非常にまとまりが良く美しい弦です。

三楽章、一転して活発で生気に溢れる演奏です。トリオはいろんな楽器が絡み合って良く歌います。主部に戻ると弦の弱音部分がとても精緻で神経を使っているようです。

四楽章、速いテンポですが、あまりスピード感はありません。

柔らかくまろやかで美しい響きでしたが、表現はいたって普通の演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー

ベートーヴェン 交響曲第7番4

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第7番名盤試聴記

バリー・ワーズワース/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、9番の指揮者よりもこの演奏の方が音の密度が高いです。響きがかなり高域寄りで厚みがありません。この高域がささくれ立ったような響きで、しっとりしません。
9番のような変わったことをすることはないので、安心感はあります。木管は美しいです。
リズムが少し甘いようなところが残念です。

二楽章、もう少し丁寧に音符を扱って欲しいです。

三楽章、ダイナミックです。かなり振幅があって良いです。ただ、餅つきのようなティンパニはいただけません。私にはこのオケのパウカーの音色に対する感覚が理解できません。

四楽章、ちょっと演奏が粗いのを除けばそんなに悪い演奏ではないのですが、ティンパニが曲の雰囲気を壊しているように思えてなりません。

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★
一楽章、これまで聴いてきた丁寧で自然体の音楽よりも、荒々しく生命感のある演奏です。
ダイナミックで新日本poとの演奏とは別人かと思えるほど違います。

二楽章、どうもこの演奏は技術と内面が乖離しているように感じてしまうのですが・・・・・・。
朝比奈がやりたかった音楽を通したのだろうか?私にはN響主導の演奏に聞こえてしまうのだが・・・・・・。

三楽章、強烈な金管の咆哮もあって、いつも聞きなれた朝比奈のイメージとはかなり違います。

四楽章、

宇野功芳/新星日本交響楽団

宇野★★
一楽章、遅めのテンポで始まりました。宇野の指揮なので、いろんな仕掛けがあるかと思っていましたが、第一主題の前までは普通の演奏です。第一主題も遅いテンポを維持しています。ちょっと間を持て余しているような感じがあります。突然のテンポダウン。そしてまた元のテンポになりました。また意味の分からないテンポダウンがあちこちであります。こんなに遅いベートーヴェンの7番は初めてです。

二楽章、この楽章も遅めのテンポを取っています。オケの集中力もあまり感じられない。表面だけが鳴っているようで、内面深く沈みこんでいくようなことはありません。

三楽章、この楽章は一般的な範囲のテンポ設定です。途中アッチェレランドもあり、大きくテンポを落として粘っこい表現もあります。このテンポを落とした部分で音楽が間延びしてしまって、演奏の一貫性を欠いてしまっているように思うのですが・・・・・。

四楽章、冒頭は間を空けてゆっくりの演奏でした。その後はすごく速いテンポの演奏です。テンポの変化が激しくてやはり演奏の一貫性を欠いていると思います。テンポの変化に伴って演奏の凄味が加われば良いのですが、オケの集中力の高さが伴っていないので、何となくテンポだけが動いていて、感情も一緒になっていない印象なのがとても残念です。いろんな仕掛けは面白かったです。

ルネ・レイボヴィツ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

レイボヴィツ★★
一楽章、僅かに金属的な響きがします。序奏は整然としています。速いテンポの第一主題。この当時このテンポでの演奏はかなり窮屈だったような雰囲気があります。せわしない感じで落ち着きません。コーダもドタバタした感じでした。

二楽章、この楽章はそんなに速くありません。遠くから次第に明確になる第一主題。淡々としていて、感情が込められているようには感じません。色彩感も淡泊で墨絵のようなモノトーンです。

三楽章、モヤーッとした響きで新鮮な雰囲気がありません。いつものような躍動感が感じられません。ズルズルと引きずる感じで弾みません。

四楽章、この楽章もどういうわけか、あまり躍動感が無く、色彩感にも乏しく、のっぺりとした表情で締りがありません。

いつものレイボヴィツの演奏のような引き締まった躍動感が無く、リズムも甘いような感じがありました。色彩感も乏しい演奏で、ちょっと残念でした。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★
一楽章、冒頭の4分音符でアンサンブルが乱れます。続く木管には緊張感が無く無表情です。独特の表情の第一主題。どっしりと構えた堂々とした進行です。思い切ってテンポを落とす部分もありました。大爆発することもなく自然体で終わりました。

二楽章、この楽章でも何かを強調することは無く、自然体で力みの無い演奏です。テンポは遅くずっとそこにとどまっているかのようなたたずまいです。クレンペラー自身が作品に共感していないのではないかとさえ思えてくる、感情移入の無さです。

三楽章、この楽章はテンポは遅いですが、重くはありません。最後はすごく遅くなりました。

四楽章、トランペットのタンタカタカが強く出ます。この楽章は遅く重いです。

何だか良く分からない演奏でした。全くと言って良いほど感情移入は無く、終始貫かれる自然体。作品に手を加えずそのまま演奏すれば、本質は伝わると言うことなのかもしれませんが、私には正直退屈でした。
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小沢征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ

小沢征爾
一楽章、冒頭からダイナミックです。美しく流麗な演奏です。
端正な表現で、大げさな部分はありませんが、その分主張もあまり分からないような感じがします。

二楽章、美しい音で音楽は流れて行くのですが・・・・・・。きっと、細部の微妙な表現にも細心の注意を払って音楽を作っているのだと思うのですが、それがかえって大きな推進力やエネルギーの噴出を抑えてしまっているようで、何をしようとしているのか分からない。

三楽章、小沢の1970年代前半のライブはもの凄い勢いがあったと思うのですが、もうすでに枯れてきているのでしょうか。
本来であれば、現代の巨匠として、強烈な個性を主張して欲しい年代の指揮者たち(小沢、アバド、メータなど)が没個性で、巨匠不在の時代を招いてしまった。
この人たちは内面に燃え上がるような音楽は鳴り響いていないのだろうか。

四楽章、この演奏に生気が感じられません。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon
一楽章、録音のせいか、コントラバスがモゴモゴ言っていてどのような動きをしているのか良く分かりません。
私は、ワルターとあまり相性が良くないのかもしれません。優しい音楽がとても良いと感じることもあるのですが、私はもう少し辛口の演奏を求めているようです。
金管は基本的に伸ばす音は強いまま保たずに、吹き終わりへ向けて音量を落として行きますので、とてもマイルドな演奏に聴こえます。

二楽章、ワルターのpには魅力を感じますがfにはあまり魅力を感じません。ただし、「英雄」のライブでは凄いスピード感のある演奏をしていましたので、この録音では本領発揮とはいかなかったのだと思います。

三楽章、トランペットがかなり抑えられているので、抑揚に乏しい音楽に感じられてしまいます。

四楽章、滑らかに音楽が流れて行って、引っかかるところがありません。

エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団

アンセルメ
一楽章、遠慮なく伸びやかな木管。音が凝縮されず密度が薄いように感じます。木目が荒くささくれ立ったようなヴァイオリン。表現は積極的なのですが、録音の問題なのか、密度が薄く荒れた音にあまり魅力を感じません。

二楽章、盛大に吹かれる木管。ゆっくりと一音一音感情を込めるような第一主題。やはり、デッドで痛いようなヴァイオリンの響きはかなりキツイです。テンポも動かして大きな感情移入の表現もありますが、やはり響きの強さが災いします。

三楽章、音楽が拡散して行き、集まってくる感じがありません。バランスがいびつで木管がかなり強調されているようです。

四楽章、第一主題に向かうテンポの動きは不自然でした。コーダではかなりテンポを速めましたが、大きな盛り上がりにはなりませんでした。

録音された当時の技術ではバランスの取れた録音にするのは難しかったのかも知れません。かなりキツイ響きで密度も薄いものでした。深く感情を込めた部分もありましたが、総じて散漫な印象でした。
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ルイ・フレモー/シドニー交響楽団 1981年ライヴ

フレモー
一楽章、低音が膨らんでボヤーッとした響きです。目立った表現も無く進みます。トゥッティではかなりエネルギーが放出されているような感じはしますが、この録音からはあまり分かりません。

二楽章、あまり感情を込めることもなく淡々と音楽が進みます。

三楽章、ティンパニがボンボンと響きます。あまり躍動感も無く、ベターッとした感じでなんとなく過ぎていきますす。録音のレンジが狭くヴァイオリンなどの艶やかさもありません。

四楽章、冒頭から僅かにテンポを速めているようです。1940年代の録音を聞いているような鮮度の低さで、細部の表現などはほとんど分かりません。

録音が悪く、ただ演奏しただけにしか聞こえませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ベートーヴェン:交響曲第7番の名盤を試聴したレビュー