ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」
ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は、最も有名で象徴的な交響曲の一つであり、1804年から1808年にかけて作曲されました。この作品は、運命に立ち向かう人間の強い意志を表現していると言われ、その劇的な構成と強烈なリズムで聴く人に強い印象を与えます。「タタタタ―ン」という冒頭の4つの音は、音楽史上最も有名なモチーフの一つで、「運命が扉を叩く音」とも称されます。
曲の特徴
- 運命的なテーマと力強い表現
第5番は、特に冒頭の動機(4つの音)が「運命」を象徴するとして有名です。この短いモチーフが全曲を通して展開され、緊張感や劇的な力が生み出されています。この音型が繰り返され、曲全体に一貫した統一感をもたらし、ベートーヴェンの独特な意志の強さが感じられます。 - 闘争から勝利へのドラマ
第5番は、暗闇から光へと向かうようなドラマティックな展開が魅力です。特に第1楽章では不安と葛藤の表現が強く、第4楽章に至るまで段階的に盛り上がっていき、最後には凱旋するかのような堂々としたフィナーレに達します。これは「絶望から希望へ」「苦悩から勝利へ」というテーマで語られることが多く、人間の勇気や決意を象徴する楽曲とされています。 - 統一感のある構成
各楽章に共通のリズムパターンやモチーフが登場し、交響曲全体に統一感を与えています。ベートーヴェンは、同じテーマを反復しながら変化させていくことで、統一感と発展性を両立させました。この手法は、後の作曲家にも多大な影響を与えました。
各楽章の概要
- 第1楽章:Allegro con brio
「運命の動機」として知られる4つの音で開始される劇的な楽章です。力強く疾走するリズムと、緊張感あふれる展開が特徴で、まさに運命に立ち向かう意志が感じられます。 - 第2楽章:Andante con moto
緩やかで変奏形式を用いた穏やかな楽章ですが、厳かで力強いテーマが含まれています。第1楽章の緊張感から一転し、深い抒情性と内省的な雰囲気が広がります。 - 第3楽章:Allegro
スケルツォの形式で、暗闇から少しずつ希望が見えてくるような楽章です。低弦による重厚なテーマが印象的で、中間部のトリオ部分では、ホルンが重要な役割を果たします。この楽章から第4楽章への流れは途切れることなく、勝利への期待が高まります。 - 第4楽章:Allegro
勝利と解放感を象徴するような、明るく力強いフィナーレです。全楽器が力を合わせて、壮大で華麗なエンディングを迎えます。第1楽章の緊張感とは対照的に、晴れやかな歓喜が広がり、圧倒的な高揚感で曲を締めくくります。
総評
交響曲第5番「運命」は、ベートーヴェンの人生観や闘争心が色濃く反映された作品であり、彼の作品の中でも最も象徴的な一つです。運命に立ち向かい、希望へと進むという普遍的なテーマが込められており、時代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。その力強さ、統一感、ドラマチックな展開は、ベートーヴェンの天才的な作曲技法と、音楽に対する深い探究心を示しています。
たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第5番「運命」名盤試聴記
セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、一音一音克明に刻むような第一主題。非常に力感のある演奏で、力強い。続いて穏やかな第二主題が出されるが、ここも非常に力強い。ホルンはかなり強奏します。暗の部分を激しく表現しました。
二楽章、一楽章とは打って変わって穏やかな冒頭です。音楽の振幅は大きく、トランペットも輝かしい。とても微妙な表情付けが各所に施されていて、それが徹底されています。トゥッティの思いっきりの良さはなかなか豪快です。
三楽章、この楽章でも音楽の振幅が幅広くダイナミックです。混沌とした静寂からのクレッシェンドも凄い。
四楽章、ゆっくりと勝利のファンファーレが鳴らされます。音楽に動きがあって、生き生きしています。強奏部分はかなり激しいですが、キチッと整っています。突き抜けてくるトランペットが気持ちよく鳴り渡ります。最後の追い込みも良く、見事に勝利を歌い上げました。
朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、堂々としたテンポです。いつもながらですが、この自信に満ちた安定感には感服させられます。
テンポを煽らずに音楽を高揚させていくところも、朝比奈の堂に入ったところで、さすがです。
カラヤンの演奏よりも編成が小さいので、音に透明感があるし、朝比奈のほうが遥かにスケールが大きい。
二楽章、トランペットが突き抜けてきます。新日本poとの演奏では豊かなホールトーンにブレンドされて、とがった部分はかなりマイルドになっていましたが、この演奏ではもっと起伏の激しい音楽になっています。
激しくffをぶつけてくる部分と、おだやかで、癒されるような部分の対比が見事です。
三楽章、全く仕掛けのない自然体です。
四楽章、オケは決して世界最高水準だとは言えないけれど、それをカバーして余りあるほど、演奏に対する集中力が高く、朝比奈をサポートするような献身的な演奏で感動します。
オイゲン・ヨッフム/ロンドン交響楽団
★★★★★
一楽章、少し陰影のある演奏の中に、すごく明るいホルンの動機が現れます。これがとても印象的だし効果的です。
足取りも、堅実に一歩一歩進むような老獪さがあります。テンポ設定も速すぎず私にはちょうど良い感じがします。
二楽章、力むことなく、どっしり構えた良い演奏です。木管や弦の奏でる旋律は柔らかく。しっかりした骨格の上に柔軟な旋律が乗っかっている安定感はすばらしい。
三楽章、こんとんとした中から躍動感や生命力湧き上がる。
四楽章、テンポ感もとても良かった。とても力強く旋律を歌い上げた、生命の躍動を見事に訴えかける名演奏でした。
この全集は録音のバラツキによって曲によって、かなりイメージが違うものになっているのが少し残念でしたが、この「運命」はすばらしい演奏でした。
デヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
★★★★★
一楽章、予想もしないところでクレッシェンド。まあ、とにかくこの全集は楽しませてくれます。しかも、完成度が高い。ジンマン独自の時代考証などと言うどうにでも解釈を正当化できる注釈付きの怪しい楽譜を使っての演奏ですが、聞く側にしてみれば、演奏のバリエーションが増えて選択肢が増えることは良いことはあっても、悪いことはないので、このようなハチャメチャな演奏がCDになることは大歓迎!
オーボエのソロ(カデンッア?)は、また聴いたことのない旋律でした。
二楽章、この全集で聴いた曲はどれもそうなのですが、音をスタッカートぎみに演奏することと、アクセントを強調するのが全曲を通しての特徴です。
このような奏法で演奏されるので、音楽はとても軽快です。このように演奏されると当時の大衆にもベートーヴェンの音楽が受け入れられたのが分かるような気がします。
ベートーヴェンが記したテンポ指定ももしかしたら正しかったのではないかと思いたくなるような演奏です。
三楽章、常に演奏は軽快で、重くなることはありません。テンポが速いので、弦楽のコンチェルトでも聴いているような楽しさです。
この全集は値段も安かったし買って大正解だなあと思っています。もちろんこの全集は、これまで評価されてきた名演奏の全集をもっている人にしかお勧めすることはできませんが、いくつか全集を持っていらっしゃる方には絶対にお勧めです。
四楽章、小編成の機動性を生かした機敏な反応の演奏も気持ちが良い。
ガリガリと音のエッジが立っていて、全体にリズムが弾む感じで、従来の名演で聴く重厚な演奏とは完全に隔絶しています。
聴き進むにつれて、この演奏が本来のベートーヴェンの姿だったのではないかとさえ思えてきます。これまでの名演の数々もすばらしいもので、決して色あせることはないのですが、初演当時はこんな演奏を本当にしていたのではないかと思えてきます。良い演奏でした。
レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1980年ライヴ
★★★★★
一楽章、重々しく、少し大げさに聞こえる第一主題。ゆったりとしたテンポで強弱の反応の良い演奏です。第二主題はとても穏やかな表情で安らぎを感じます。確かめるようにゆっくりと進みます。バーンスタインはこのころすでにかなり遅いテンポをとって粘っこい表現をしていたのですね。
二楽章、弾んで良く歌う第一主題。テンポも動きます。奥まったところからいぶし銀のような響きのトランペットによる第二主題。とても良く歌いますが、上品です。
三楽章、注意深く濃厚な表現です。トリオも生き生きとしています。
四楽章、とても力強い第一主題。強弱の変化がしっかりと付けられていて、生命力を感じさせる演奏です。深みのある響き。濃厚に塗り込められる音楽。ダイナミックの幅も非常に広く最大限の表現をしようとしています。見事な頂点を築いて曲を閉じました。
遅いテンポと濃厚な表現。生き生きとした生命感。すばらしい表現でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、拍手が鳴りやむ前に始まりました。分厚い響きでどっしりと奥行き感のある響きです。速めのテンポですがたっぷりと歌う第二主題。音が次から次から湧き出してくるようでとても豊かな演奏です。
二楽章、第一主題の木管が登場するあたりからテンポを落としてたっぷりと歌います。明るく伸び伸びとしたトランペットの第二主題。グサグサと心に染み入るような深い演奏です。
三楽章、ウィーンpoもティーレマンに共感して積極的に音楽を作り出しているようです。トリオに入ってグッとテンポを落としたり間を空けたりしました。
四楽章、凄く遅く始まった第一主題ですが、次第に加速してかなり速いテンポになりました。第一主題が戻ると冒頭と同じように遅いテンポから加速します。弱音部分はかなり抑えていて、ダイナミックの幅は広いです。コーダは凄い加速でした。ウィーンpoの凄い集中力を見せつけられました。畳み掛けるように終わるかと思ったら最後はゆっくりと一音一音に魂を込めるように終わりました。
ティーレマンの自由奔放な音楽にウィーンpoも共感して素晴らしい演奏を展開しました。個性の強い演奏には好みが分かれるかも知れませんが、これだけしっかりと主張されると納得します。
このリンクをクリックすると動画再生できます。
パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、マットな響きの第一主題。速めのテンポで強弱の変化もーにも俊敏に反応しています。気持ちよく鳴り響くホルン。独特の歌い回しの第二主題。展開部は幾分テンポを落としています。ブリブリと響くナチュラルトランペット。強弱の反応が良いので、とても締った演奏に聞こえます。
二楽章、テンポは速く、この第一主題も独特の歌い回しです。第二主題も二つ目の八分音符を長めに演奏しています。全体に音が短めで、はつらつとした表現です。
三楽章、すごく弱い音で演奏された冒頭。張りのあるホルンの主題。とても緻密に音楽が作られているようです。トリオでも独特の表現があります。活発に動く音楽。
四楽章、力強い第一主題。余分な音が無くスリムに引き締まった演奏です。次第に熱気に包まれて激しさを増して行きます。オケが一体になったエネルギー感は凄いです。ピッコロのオブリガートの部分の表現も音量を落として独特でした。コーダのトランペットも力強いものでした。
いたるところの表現に工夫を凝らした強い主張の演奏でした。ヤルヴィの演奏独特の締りのある俊敏な演奏でなかなか良かったです。
このリンクをクリックすると動画再生できます。
ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団
★★★★★
一楽章、大上段に構えた大げさな第一主題。とても良く鳴るホルン。伸びやかに歌う第二主題。トゥッティでのエネルギーの発散は大きく。とても起伏の激しい音楽ですし、内面へ刻み込むような演奏でもあります。
二楽章、深みがあって柔らかく美しい第一主題。木管がとても良く歌います。ティンパニも金管も積極的に音楽を奏でています。
三楽章、冒頭も主題も大きな表現がありました。トリオで唸りを上げる低弦。
四楽章、開放されたような第一主題ではありませんでしたが、オケに一体感があり生き生きとした表現の演奏です。コーダの加速も凄い気迫が感じられました。
凄いエネルギーがぶつかってくるような演奏でした。オケが一体になって音楽を作り上げようとする強い意志の力を感じさせる素晴らしい演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。
クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、冒頭から激しい演奏です。第二主題もテンポを落とさずに入りました。ホルンの激しい咆哮。ティンパニの強打。テンポを落とすところはゆっくりとたっぷりと歌います。テンポの速い部分では前へ前へと進もうとします。
二楽章、生き物のうに動きのある第一主題。スケール大きく高らかに歌う第二主題。変奏でも豊かな響きです。テンポも良く動きます。
三楽章、咆哮するホルンの主題。トリオでも感情を込めて演奏する弦。
四楽章、非常にゆっくりと演奏される第一主題が次第に加速します。感情とともにテンポが動き、次々に湧き出すような音楽がとても豊かです。感動的な第一主題の再現。
非常に激しく感情をぶつけてくる演奏でした。テンポの動きや音楽の起伏も激しく感動的な演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1977年東京ライヴ
★★★★★
一楽章、伸びやかな第一主題。続く部分は音が次々に湧き出すようです。しっかりと踏みしめるように進みます。抑えられたホルン。ゆったりとした第二主題。
二楽章、奥ゆかしく歌う第一主題。少し奥まったところから響くトランペットの第二主題。注意深く演奏される弱音。とても良く歌う第一変奏。テンポの僅かな動きもあります。
三楽章、深みがあり心のこもった冒頭部分。アンサンブルの乱れは若干ありますが、気迫がそれに勝っているようです。遅く確かめるようなトリオの低弦。広大な空間を感じさせるスケールの大きなコーダ。
四楽章、高らかに演奏される第一主題。生き生きとした生命感と推進力。金管も全開になり熱気が込み上げて来ます。素晴らしい盛り上がりです。
スケールが大きく気迫のこもった演奏でした。四楽章のコーダは圧巻でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
アルトゥーロ・トスカニーニ/NBC交響楽団 1952年
★★★★★
一楽章、録音年代からしてレンジは狭いですが、雰囲気は伝わって来ます。速いテンポでキビキビ進みます。第二主題もほとんど歌わず確実に前進します。展開部の前は凄い推進力でした。高い集中力で一点へ向かって突き進むような演奏です。再現部からも畳み掛けるような激しい演奏が続きます。
二楽章、この楽章でもあまり歌わない第一主題。速いテンポであっさりと進む第二主題。第一変奏は少し歌いますが深く感情を込めるような演奏ではありません。コーダも疾走感があります。
三楽章、ホルンの主題のバックでザクザクと刻む弦。トリオの低弦もガリガリと激しく刻みます。
四楽章、力強く鳴り渡る第一主題。ホルンも激しい。オケが一体になった凄い集中力です。コーダの凄い加速から壮絶なトゥッティで終えるすさまじい演奏でした。
録音は古く、感情移入するような演奏ではありませんでしたが、高い集中力で、一点へ向けて突き進むようなすさまじい演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ヘルベルト・ブロムシュテット/シュターツカペレ・ドレスデン
★★★★★
一楽章、たっぷりと伸ばされたフェルマーター。余分な力が抜けて自然で美しい演奏です。すがすがしい第二主題。押しつけがましいところは一切なく、作品のあるがままの演奏です。
二楽章、静かに美しくゆったりと演奏される第一主題がとても安堵感があります。切れ味鋭くしかも美しいトランペットの第二主題。第一変奏も自然な歌で深みがあります。展開部の第二主題はさらにゆったりと伸びやかに歌います。テンポもとても自然に動いています。弱音の弦がとても優しく美しいです。
三楽章、この楽章も自然に湧き出すような美しい音楽です。テンポは確実な足取りです。トリオもがなり立てることは無く、それでも過不足ない演奏です。動きがくっきりとしています。一つ一つの音の動きが生き生きとしています。
四楽章、オケが一体となった柔らかい響きの第一主題。シターツカペレ・ドレスデンの伝統に根差した美しい響きが随所に聞かれます。この全くけがれのない響きは現代の宝ですね。コーダも見事でした。
力みの無い自然体の演奏にシターツカペレ・ドレスデンの美しい響きが花を添えた素晴らしい演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年ライヴ
★★★★★
一楽章、フェルマーターと次の音の間に大きな間がある第一主題。叩き付けるような力強さです。ホルンも明快に鳴らされます。あまり歌わない第二主題。深く重く刻み込まれる弦。オーボエのソロへ向けて大きくテンポを落としました。ソロが終わり再現部へ向けては再びテンポを速めています。テンポは頻繁に変わっています。非常に重く突き刺さって来るような表現でした。
二楽章、第一主題の深い歌。高らかに吹き鳴らされるトランペットの第二主題。コントラストも明快です。自然なテンポの動きと息遣い。
三楽章、テンポも大きく動いて、たっぷりと歌う冒頭。克明に刻み付けるようなホルンの主題。トリオの低弦はサラッとしていて軽いですが、ヴァイオリンはかなり強いです。コーダの最後はかなり伸ばされました。
四楽章、高らかに歌うトランペットの第一主題。ホルンがはいる手前でも少しテンポが遅くなりました。また、煽るようにテンポが速くなったり、トロンボーンが出る前でも遅くなりました。テンポは頻繁に動いています。突き抜けるように激しく吹き鳴らされるトランペット。テンポの動きと共に強弱の変化も独特でとても効果的です。凄い勢いのコーダでしたが、最後はテンポを落として終わりました。
凄く重く濃厚な演奏でした。テンポの大きな動きや強弱の変化。そして刻み込むような強い音。コントラストもはっきりとした良い演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ルネ・レイボヴィッツ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、凄く速く勢いのある第一主題。凄い推進力です。速いテンポに合わせるようにすっきりと歌う第二主題。めまぐるしく音楽が変化して行きます。弱音からクレッシェンドすると音楽がぐっと迫って来ます。オケも水を得た魚のように生き生きと動いています。
二楽章、静寂の中に響く第一主題は速いテンポでさらりと演奏されます。伸びやかに鳴り響くトランペットの第二主題。とても音がすっきりとすがすがしい響きですが力も十分にあります。変奏の動きが克明で表現意欲を感じます。
三楽章、激しく鳴るホルンの主題。この楽章のテンポも速いですが、違和感はありません。トリオの弦はガリガリと激しく演奏している訳ではありませんが、十分に存在感とスピード感を印象付ける演奏です。
四楽章、突き抜けるように高らかに演奏される第一主題。この楽章も速いテンポでスピード感があります。オケにとってもこの当時このテンポには新鮮味があったのか、とても集中力があって良い演奏をしています。金管も思い切りが良くとても良く鳴ります。コーダのアッチェレランドの緊張感と、それが終わったところのフッと空気が変わるような変化も見事でした。最後は力強く勝利を歌い上げて終わりました。
ベートーベンのメトロノームの指定に合わせた最初の演奏と言う事で有名ですが、奇異な演奏では無く、とても誠実に正面から挑んだ演奏でした。緊張感やスピード感ね何よりも力強い生命感がとても心を打つ演奏だったと思います。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。