カテゴリー: ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」の名盤は、フルトヴェングラー/ウィーンpoの1952年版、深い没入度で猛烈なテンポの動きを伴った永遠の名盤です。テンシュテット/ウィーンpoの唯一の共演の録音は起伏の激しい雄大な名盤です。ホルスト・シュタイン/ベルリン・ドイツsoはモノトーンの渋い演奏で、男性的な名盤です。ベーム/ウィーンpoの1973年のライヴは二楽章の沈み込む演奏や、四楽章の燃焼度の高い演奏が素晴しい名盤です。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」

ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は、彼の交響曲の中でも特に革新的で、クラシック音楽の歴史において重要な作品です。1803年に完成し、1805年にウィーンで初演されました。この曲は当初、ナポレオン・ボナパルトに捧げる予定でしたが、ナポレオンが皇帝となったことを知ったベートーヴェンはその野心に失望し、献呈を取り下げたという逸話が残っています。「英雄」というタイトルは、自由と理想に生きる個人の精神を讃える意味で付けられました。

曲の特徴

  1. 規模の大きな構成と革新性
    「英雄」は、それまでの交響曲の概念を大きく変え、長大で複雑な構成を取り入れています。特に第1楽章と第4楽章のボリュームと、緻密なモチーフ展開が革新的であり、クラシック音楽の進化に大きな影響を与えました。この交響曲を機に、ベートーヴェンは作曲家としてより自由で大規模な表現を追求するようになりました。
  2. 強烈な感情表現と英雄的なテーマ
    「英雄」というタイトルにふさわしく、曲全体に力強く、ドラマチックな表現が散りばめられています。特に第1楽章と第4楽章では、勇敢さや挑戦といった英雄的なテーマが前面に出ています。また、第2楽章の葬送行進曲は、悲しみと威厳に満ちており、理想や犠牲に生きる英雄の人生の陰影が描かれています。
  3. リズムとモチーフの巧みな展開
    ベートーヴェンは第3番で特にリズムの展開に重点を置き、モチーフを反復しながら曲を構成する手法を取り入れています。第1楽章の強いリズムパターンや、葬送行進曲での重厚なリズムなど、各楽章で印象的なリズムが聴き手を引き込み、統一感を生み出しています。

各楽章の概要

  • 第1楽章:Allegro con brio
    勇壮で力強い主題が特徴の楽章で、英雄的なモチーフが繰り返され、壮大な展開が繰り広げられます。この楽章だけで20分を超える長さがあり、当時としては非常に長大でした。
  • 第2楽章:Marcia funebre: Adagio assai
    「葬送行進曲」と題されたこの楽章は、深い悲しみと荘厳さを兼ね備えています。英雄の死を悼むような重厚で感動的な旋律が展開され、最も感情的で陰影に富んだ部分です。
  • 第3楽章:Scherzo: Allegro vivace
    リズミカルで活気に満ちたスケルツォで、軽快でありながらも力強いエネルギーが感じられます。トリオ部分ではホルンが目立ち、英雄的な雰囲気が一層強まります。
  • 第4楽章:Finale: Allegro molto
    変奏曲形式で構成され、全体を総括する壮大なフィナーレ。各モチーフが変奏されながら展開され、劇的かつ力強いエンディングに向かって突き進みます。この楽章にはユーモラスな要素もあり、ベートーヴェンの個性が感じられます。

総評

ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は、交響曲の形式や内容を一新し、音楽史に大きな転機をもたらした作品です。その長大さやドラマティックな展開、深い感情表現が、多くの作曲家に影響を与え、ロマン派音楽の道を切り開くきっかけとなりました。ベートーヴェンの強い精神性と理想が込められた傑作として、今もなお多くの人々に愛されています。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット★★★★★
テンシュテットは唯一回ザルツブルク音楽祭で、マーラーの交響曲第10番からアダージョと、ベートーヴェンの「英雄」を指揮した。このあくの強い両者はリハーサルで完全に対立し、以降の共演も予定されていたレコード録音も全て中止となった。
という、テンシュテットとウィーン・フィルとの唯一の共演の記録です。どのような演奏になっているのでしょうか。

一楽章、ウィーン・フィルの伝統と正面衝突したんでしょう。冒頭から起伏の激しい演奏です。普通の演奏では聞こえないホルンのビーンと言う音が随所に聞こえるのが、特徴的です。
完全に対立した結果としても、見事なアンサンブルを聞かせるウィーンpo。たまに突出してくるトランペットはテンシュテットへの抵抗か?やけくそのように聞こえるのはかんぐりすぎでしょうか。

二楽章、リハーサルで対立したまま本番を迎えて、これだけの演奏ができるものなのか、よく歌われていて美しい。テンポを遅めて濃厚な表現。トランペットの白玉が突き抜けてきます。
強弱の振幅も広いので、特に金管の奏者にしてみれば、厄介な指揮者だったのでしょう。まさに咆哮!
この凶暴な指揮者が円熟していたとしたら、どんな音楽をうみだしたのだろう。せめてあと7~8年長く指揮活動を続けていてくれたらと悔やまれてなりません。

三楽章、テュッティの厚みはさすがにウィーンpoです。テンシュテットのこの全集はオーケストラがいろいろですが、やはりベートーベンを演奏するとウィーンpoは堂に入るという感じがします。
ボストンsoでは、どうもしっくりこなかった。

四楽章、雄大です。それは広々とした原野ではなく、厳冬の単独峰のような孤高の雄大さです。
ウィーンpoにしてみれば、一度言い出したら聞かないやんちゃ坊主のようなものと対決したのかもしれません。しかし、一度言い出したら聞かない子供はいても、そういう大人でいることは大変な精神力なはずです。

天下のウィーンpoを相手に対立したまま本番をこなし、二度と共演しなかったと言うのが凄いことです。
テンシュテット自身が自分をいかに承認していたかの現れでもあるわけで、幼児期から愛情を受けて育ったのでしょう。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
この演奏は、私の中学時代に自分のお小遣いで初めて買った、クラシックのLPレコードでした。
当時は、フルトヴェングラーが何者かも知らず。単にウィーンpoの演奏だったからです。擬似ステレオの意味も分からずに聴いていました。

一楽章、モノラルなので脳天をティンパニのマレットでスコーンと二発叩かれたような快感(^ ^;
音楽の高揚にともなってテンポが凄く加速するのはさすがに興奮させられます。
スタジオ録音なのに、このテンションの高さは何だ!
人生最初に買ったLPがこれだったことは、不幸なことにフルトヴェングラーのテンポの動きの特徴が分からないまま聴いていたということで、今回、多分20年ぶりぐらいに聴きなおしてはじめて凄さを理解できました。
モノラルであることを除けば、音質は最近の録音と比べても大きく落ちてはいません。多少のザラつきはありますが、そんなことよりも音楽の凄さに圧倒されます。
やはりテンポの動きは尋常ではありません。アッチェレランドが強烈に音楽のテンションを高めます。もの凄い音楽を聴いています。これはただ事ではない!

二楽章、悲しみの深淵に落ちていくような表現もすばらしい。第九はあまりの録音の悪さに途中で萎えてしまいましたが、この録音ならば全く問題なく聴けます。
音楽への没入度合いも並外れています。いろんな「英雄」を聞いてそれぞれの良さがあり、その中にもすばらしい名演にも巡り合いました。しかし、この演奏は別格です。次元が違います。

三楽章、重量級

四楽章、この楽章のテンポ設定も凄い。

また、すばらしい演奏を聴く事ができました。

ホルスト・シュタイン/ベルリン・ドイツ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、音楽がぎゅーっと詰まっている感じがして、一音一音に重みがあります。アクセントもバーンと来る感じではなく、ズーンとくる感じでドイツ音楽らしいです。
音楽の重心が低くて風格を感じさせる演奏です。
オケの響きもマットで渋い響きで、この演奏に非常によく合っています。艶っぽいクラリネットのソロが魅力的でした。
オケの響きが渋い分、ffでは轟音のような凄みがあります。これはすごい「英雄」に出会ったという歓びの気持ちでいっぱいです。
彫りの深い男性的なしかも大人の「英雄」の最右翼の演奏だと思います。

二楽章、冒頭は引きずるような重さです。ホルスト・シュタインはこの楽章に自分自身を重ねているのだろうか。かみ締めるようにじっくりと、味わい深い音楽が時間が止まったかのようにゆっくりゆっくり流れて行きます。
自分自身の生涯を思い返しながらの演奏のように感じられてなりません。葬送行進曲でありながら、慈しむような優しさが溢れています。
これだけテンポが遅くても音楽が弛緩しません。むしろこのテンポが緊張感を高めているのかもしれません。
非常に味わい深い演奏でした。

三楽章、質実剛健、カラヤンのような豪華絢爛な演奏とは対照的です。カラヤンの演奏に比較すると、モノトーンのような色彩感覚の乏しい演奏かもしれませんが、その分脇目も振らずに音楽そのものに没入している演奏です。

四楽章、芯は太くごついですが、旋律の歌わせ方などは、しなやかな表現が随所に聞かれます。
テンポは微妙に揺れていますがとても自然です。ホルンの咆哮もありません。派手な演出を期待したらことごとく裏切られます。聴衆にこびるようなことは全くしません。

実に潔い演奏で、気持ちが良い。
静かに、拍手がはじまって、フェードアウトするときにブラボーが聞こえてきました。
まさにそんな演奏でした。演奏が終わってもすぐに拍手するよりも、余韻を楽しみたい演奏でした。
また、すばらしい「英雄」に出会いました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈/大阪フィル★★★★★
一楽章、新日本poとのライブより数年後の録音です。
適度にホールトーンを含んだ美しい音で録られています。新日本poとの録音よりも残響成分が少ないようで、楽器それぞれの音がよく聞こえます。
新日本poとの演奏で感じた自然体の雄大さよりも艶やかで艶めかしい演奏のように感じます。歳は重ねていますが、生気に満ち溢れています。
それでいて、巨匠の風格も兼ね備えた堂々と正攻法の「英雄」の演奏になっています。
友人が朝比奈の大ファンなので、一連の朝比奈のCDは友人から借りて聞いているのですが、朝比奈がこんなにすばらしいベートーヴェンを演奏していたとは想像もしていませんでしたので、大変嬉しい驚きでした。
木管楽器の生き生きとして瑞々しい表情なども、とても魅力的です。
激しく凶暴な演奏ではないけれど、どっしり構えた王者の風格さえ感じられる、すばらしい演奏です。
十分な熱気もあり音楽が高揚します。金管の咆哮もなかなかのものです。音楽の彫りの深さは、旧盤よりも、こちらの方が上です。

二楽章、非常に重々しい葬送行進曲です。歌にも溢れています。重々しい出だしから頂点への高揚感もすばらしい。これだけ作品への思いを込めた演奏にめぐり合えるのもなかなかないのではないだろうか。
すばらしい。とにかくすばらしい。まだ演奏途中ですが、このCDは絶対お勧めです。
大阪poがこんなに上手いというのも初めて知りました。

三楽章、音楽が生き物のように有機的に絡み合って進行していく。これだけ深い「英雄」の演奏ははじめて経験するかもしれない。
私は、数多いベートーヴェンのCDの一部しかまだ聞いていませんが、今のところ。思いのたけをぶつけてくるテンシュテットと堂々として雄大な朝比奈が双璧のように思います。

四楽章、遅めのテンポで堂々と演奏されるフィナーレは圧巻。最高でした。

聴衆の感動の嵐も納得の大熱演!

カール・ベーム/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、オケが一体になって音楽を作っている感覚がとても良いです。オケのメンバーがベームを向いて演奏しています。音楽が生き生きしています。
ベームのスタジオ録音からは聴く事ができない空気感や一体感や緊張感がすばらしい。
すごく歌う木管。それを支える骨格がガチッと決まっていて安定感も抜群です。
ベームの演奏なので、ライブと言えども大きくテンポが動くことはありませんが、音楽の高揚に合わせてテンポが速くなったりもします。また、音自体にもスピート感もあり、この点でもスタジオ録音では聴けない演奏を聴くことが出来ます。
ウィーンpoとのライブ以上に熱い演奏だと思います。ベームがこれほどまで熱い演奏をしているとは知りませんでした。

二楽章、一つ一つの表現にもベームの徹底ぶりは凄いものがあります。音楽の振幅も大きいです。ただ、悲嘆にくれるような悲しみの深淵へ落ちていくような演奏ではないような気がします。

三楽章、ホルンがとても美しい。ベームと言うとウィーンpoの印象が強いですが、このバイエルン放送soとの演奏はすばらしいです。

四楽章、豊かな残響を伴って、美しい音楽が進んで行きます。それにしても、骨格のがっちりした演奏です。ベームの構成力の凄さも初めて聴いたかもしれません。

それほど、スタジオ録音しか聴く機会がなかったので、このCDはとても貴重です。
骨格はしっかりしていますが、その上に乗っかっているメロディなどはとてもしなやかで美しいです。
堂々としたすばらしい演奏でした。また、名演奏が一つ加わりました!

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1973年ザルツブルクライヴ

ベーム★★★★★
一楽章、一体感のある良い演奏です。冒頭の二つの音は、出るタイミングを探りながら出した音で、微妙なズレが面白かった。オケの音色の統一感もすばらしい。華やかな音ではありませんが、渋い音で統一されています。ウィーンpoは他のオケとは楽器そのものが違うので、独特の響きがとても良いです。ウィンナ・ホルンもベートーベンにはピッタリです。演奏は疾走感はあまり無く、しっかりと地に足が着いています。再現部の前あたりから、音楽が熱気を帯びてきて金管の激しい響きが聞かれます。フレーズの歌いまわしも控えめながらも、しっかり統一されていて、ベームの統率力が感じられます。やはり、ベームのスタジオ録音では聴く事ができない熱気があります。ベームの演奏ですから、爆演には絶対になりませんが、内に秘めたマグマのような熱さがジワーッと迫ってきます。

二楽章、一楽章とは対照的に遅いテンポでグッと沈み込むような深い音楽です。微妙に動くテンポもライブならではです。これだけ悲嘆にくれるような悲しみを表現した演奏もはじめてかもしれません。非常に心のこもった美しい木管。リタルダンドがとても効果的で金管などはとても濃厚です。クライマックスでのホルンのエネルギーも凄いです。やはり、このようなテンポの動きなどはライブならではの良さです。ベームの本当の音楽が聴けるのはすごく嬉しいです。

三楽章、集中力の高い弦のアンサンブル。爆発するトゥッティ。トリオのホルンも美しい。全体の響きにも透明感があります。

四楽章、強いエネルギーが発散される冒頭。テンポの動きも阿吽の呼吸があるように聞こえます。一つ一つの表現も徹底されているようで、演奏が厳しく美しい。激しい金管の咆哮!スタジオ録音では絶対に聞けない燃えるベームです。がっちりとした堅牢な骨格の上にメロディが乗る安定感も、この時代の指揮者の中ではベームが突出していたのではないかと思います。雄大なコーダ、すばらしい燃焼度でした。聴いているこちらも熱くなってくる「英雄」でした。

最近、あまり名前を聞かなくなってしまったベームですが、このような燃焼度の高いライブ録音を正規音源として発売して欲しいです。スタジオ録音ではベームの良さは分かりません。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団2000年

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大阪ライブ

一楽章、いつものゆったりしたテンポです。華美にはなりませんが、艶やかな弦が美しい。
ゆったりしたテンポでも音楽は弛緩することなく前進しています。ただ、音楽の力強さは1996~7年の全集の盤の方が上回っているように思います。
響きはすっきりしていて清涼感があります。ねちっこい歌いまわしもありませんので、テンポは遅いですが、しつこさはなく聴きやすい演奏です。

二楽章、この楽章もテンポは遅めですが、ねばることもなく、比較的あっさりとしています。悲しみを演出するようなこともなく、作品自体に語らせるような自然な演奏です。
自然体で自然に盛り上がって、こちらも次第に熱くなる演奏かできるのは凄い。
朝比奈のキャラクターが濃くないので、作品に身を任せることができるので、このような演奏はとても好きです。
やるのなら、テンシュテットのようにオケを引きずり回すくらいに主張して欲しいし、自然体ならばそれで徹底して欲しいです。
中途半端な演奏が一番理解しにくいし、共感もできなくなるように思っています。

三楽章、オケも二楽章の後半あたりから目が覚めたように生き生きとしてきました。

四楽章、弦楽器や木管の旋律がとても表情豊かで生き生きとしています。雄大です。

この広々とした雄大さは朝比奈ならではのすばらしさだと思います。

東京ライブ

一楽章、ホールの響きが豊かです。音のスピード感は大阪の演奏よりもこちらの方があるような感じです。
音楽の振幅もこちらの方が大きいです。トランペットの咆哮などは大阪のライブでは聴かれなかった面です。
テンポも朝比奈の即興でしょうか、微妙に動くところも大阪のライブではあまり無かったと思います。
また、音楽が前へ前へと行こうとするところも目立ちます。前へ行こうとし過ぎて、ちょっと詰まった感じになる部分も若干ありますが、前進するエネルギーを評価しましょう。

二楽章、ここでもテンポの動きがあります。このテンポの動きも自然に出てきたもののようで、不自然さは全くありません。
情感に満ちた演奏です。トランペットの強奏はすごいです。大阪の演奏とこんなにも違うとは思いませんでした。大阪poのメンバーもおのぼりさんか?
ホルンもすばらしい音で鳴っています。すごい燃焼度です。
テンポは遅いけれど、次々に波が押し寄せるような息付く暇を与えないエネルギーです。

三楽章、大阪のライブでは何となく通り過ぎた箇所にも思い入れたっぷりで、自然に演奏に集中しています。
ホールの響きも豊かなので、ホルンのトリオもなかなか良いです。
やはり推進力が大阪ライブとは格段に違います。

四楽章、新日本poとのライブは全くの自然体で力みのない演奏でしたが、この演奏は激しささえも感じる凄さがあります。

こうやって、二つのライブを続けて聴いてみると、気合の入り方が全然違います。このライブは凄い!

デヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

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一楽章、すごく豊かで暖かい響きです。テンポは予想通り速いです。ベーレンライター版によるものなのか、ジンマンの解釈によるものか、聴きなれた音の扱いとはかなり違います。
アクセントやアクセントの後の音を小さく演奏するなど、とても変わっています。ティンパニはバロックティンパニを使っているのか、硬い撥で叩いているようで、この音が小気味よい感じで演奏を締めています。
反復ありで15:37はやはり速いですね。これまでの「英雄」に対するイメージを覆されるような演奏で、面白いです。
突然ティンパニに強打が連続したり・・・・・。何度も聴く気になるかは分かりませんが、初回はとても楽しいです。次に何が起こるかワクワクしてきます。
こんな演奏をしているジンマンは不謹慎か?

二楽章、オーボエの旋律に今まで聞いたことの無い音が付加されているようで、ちょっと滑稽な旋律になっています。
スタッカートやアクセントが多い演奏で、葬送行進曲のテーヌートのイメージには遠いです。
マーラーの「復活」でもこのオケは上手いと思いましたが、この演奏もすごいです。
昨今では、世界中のオケの水準が上がっているので、超一流と言われるオケとその次に来るようなオケとの差が確実に詰まっていると思います。
以前、アフリカかどこかの部族がすごく賑やかな葬式をしている場面が放送されたのを見たことがありますが、それとダブるような感じさえする演奏です。ティンパニの強打もそれをさらに印象付けるような感じさえします。

三楽章、この楽章ももちろん速いですが、スピード感も伴っていて結構良いです。
面白い!
世に流通している演奏を規範とすれば、この演奏はとんでもない異端児だろうと思いますが、これだけ好き放題の演奏をされると、楽しいです。私は、この演奏は存在するに値すると思います。何も主張をしない演奏よりも、時として滑稽な部分があっても、全く違ったヘートーヴェン像を作ろうとする姿には賛辞を贈りたいと思います。

四楽章、室内楽のように弦のパートを減らして演奏する部分があって、ここもこれまでに聴いたどの演奏にもない部分で、興味深いものでした。とても楽しめます。

これまでの重厚なベートーヴェンとは全く違います。最初に聴く方にはお勧めできませんが、名演奏と言われるCDをいくつか聴いた後に、是非聴いて見てください。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」2

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、ゆったりとして、とてもシルキーで滑らかな演奏です。清潔感があってすがすがしい響きです。機敏に反応するオケもチェリビダッケに相当鍛えられたのだろう。この演奏では音の扱いがとても丁寧で優しいので、ゴツゴツした「英雄」ではありません。格調高く上品な「英雄」です。微妙な表現も細部まで徹底されています。終盤にトランペットの第一主題の後ろのティンパニのトレモロをクレッシェンドしました。

二楽章、冒頭は悲しみにくれるような葬送行進曲です。続く部分は自然な歌で、作為的なところはありません。ライヴとは思えない美しい音と見事なバランス。ffではかなり強く演奏しているのですが、決して荒々しくは響きません。とてもマイルドで美しい響きです。

三楽章、極めて小さい音からクレッシェンドして入りました。室内楽のような精密でしかも生命観のある演奏。トゥッティの一体感もすばらしい。トリオのホルンは非常に明るい音色で大空に広がって行くようなスケールの大きさで魅了されます。鏡面仕上げのように磨き上げられた美しく滑らかな演奏はすばらしいの一言です。

四楽章、繊細な響きの弦の冒頭。ライヴとは思えない静寂感。精密部品で組みあがっているような精度の高い音楽です。途中からかなりテンポを落として一音一音丁寧に描くように演奏して行きます。ホルンが主題を演奏するクライマックスは凄く強弱に変化を付けて最後はマックスのパワーで壮大な演奏でした。最後は巨人の歩みのように堂々と終えました。

磨きぬかれた美しい音色と、幅広いダイナミックレンジ。すばらしいスケール感の英雄でした。

カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、スピード感のある2和音。独特の華やいだ雰囲気があります。ジュリーニは動物を操るように音楽を自在に操って行きます。反復があります。歌に合わせてテンポも動きます。強弱の変化も激しく、とても積極的に音楽を作っています。同じようにテンポの遅い演奏でもチェリビダッケの静に対して、ジュリーニは動です。ミラノ・スカラ座フィルとの演奏の時に感じた響きの薄さもさすがにウィーンpoでは感じません。逆に凄い音の厚みです。強いインパクトで深い彫琢を刻み込んで行きます。ジュリーニの気迫がウィーンpoにも乗り移ったような凄い迫力で迫ってきます。

二楽章、悲しみにくれるような冒頭です。弱音の悲しみを内に秘めて必死にこらえているような表現から、トゥッティではこらえきれずに溢れ出すような壮絶な感じです。繊細な弱音と奥ゆかしい歌を見事に表現するウィーンpo。ティンパニもトゥッティの壮絶感をすばらしい音で演出します。

三楽章、一転して生命感に溢れた生き生きした音楽です。トリオのホルンはウィンナ・ホルンらしい柔らかい響きです。ジューリーニの指揮に敏感に反応するオケ。ジュリーニが作品に生命を吹き込んだような生き生きした演奏でした。

四楽章、この楽章も動的で生き生きしています。美しい木管。分厚い弦の響き。とても色彩感の濃厚な演奏です。テンポは遅いですが、一音一音に凄い力があって、音楽を克明に刻み込んで行くような凄味があります。クライマックスのホルンも強い音での咆哮でした。最後もティンパニの強烈な三連符で盛り上げました。

重量級の演奏でしたが、生命の宿った生き生きとしたすばらしい名演でした。

フィリップ・ヘレヴェッヘ/オランダ放送室内管弦楽団

ヘレヴェッヘ★★★★★
一楽章、速めのテンポで音を短めに演奏する部分があります。小さい編成を生かした機敏で軽快感のある演奏です。提示部の反復がありました。響きに透明感があり、よく歌い、躍動感もあります。ジンマン程の超高速演奏ではありませんが、とても軽快で重苦しくない気持ちの良い演奏です。バロックティンパニの硬質な響きが気持ち良いです。

二楽章、この楽章も速いテンポですがとても良く歌い表情豊かです。テンポが速めなので、葬送行進曲の感じはあまりありませんが、鮮度が高く清々しい響きが印象的です。金管も軽く重量級の演奏とは一線を画しています。

三楽章、この楽章は速くも遅くもないテンポです。トリオのホルンも良く歌いました。指揮にとても良く反応するオケ。

四楽章、この楽章も速めのテンポです。良く歌う演奏は聞いていてとても心地良いものです。金管も全く吠えるようなことは無く、整然としています。最後ティンパニの三連符が強烈でした。

小さい編成を生かした軽快で美しく、しかも良く歌う演奏は、これまで聞いてきた英雄の演奏とはまた違った一面を聞かせてくれました。重量級の演奏も良いけど、こういう演奏もまた良いものです。
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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.12.8

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一楽章、同じ年のウィーンpoとのスタジオ録音に比べると少し音は悪いですがフルトヴェングラー独特の弱音から強音に向かっての加速はさすがです。刻み付けるような低速部分と凄い勢いを付けて加速する部分の対比が見事です。重いところは物凄く重い演奏で、かなりの重量感です。たっぷりと歌うクラリネット。最近のベーレンライター版の演奏とは全く違う重戦車のような重々しさです。再現部では、フワッと湧き上がるような柔らかい響きでした。ホルンも美しい演奏です。テンポはライヴのためかかなり即興的に突然動きます。

二楽章、すごく遅いテンポで始まりました。悲しみを込めるような悲痛な演奏です。深淵に落ちていくようなどこまでも深い音楽です。Bに入っても遅いテンポはそのままです。こけおどしのような表現は全く無く、堂々と作品に対峙しています。普通の指揮者がこのテンポで演奏したら、音楽が弛緩してしまいそうですが、この演奏は緊張感がピーンと張りつめています。ただでさえ遅いデンポなのに、遅いところではさらに遅くなります。間を空けたりテンポが動いたり自在な変化があります。テンポを落とすところではたっぷりとした豊かな表現です。

三楽章、どっしりと構えたテンポです。この楽章でもテンポの動きが絶妙です。トリオのホルンも表情豊かです。感情に任せたテンポの揺れは自然でとても心地良いものです。力みも無く自然体で伸びやかな音楽です。

四楽章、ゆったりとしたテンポで間があります。テンポを落とすところはすごく遅いです。歌も自然です。この当時のライヴ録音としてはかなり音質は良いと思います。十分に美しいと思える響きです。かなり吠えるトランペットが当日の熱気を物語ります。堂々としたコーダでした。

ウィーンpoとのスタジオ録音よりも感情の起伏の大きな演奏でした。ライヴの録音の制約を考慮してもこの音質であれば十分です。二楽章のテンポを落とした表現や四楽章の力強い金管など、テンポの動きや表現の幅広さなど、どこを取っても最高の演奏でした。
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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1944年

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一楽章、ゆったりとした主和音。第一主題もゆったりとしたテンポで確かめるようです。基本的にはゆったりとしたテンポでスケールの大きな演奏ですが、所々でアッチェレランドがあって緊迫します。木管が良く歌います。再現部のホルンの第一主題の後に猛烈なアッチェレランドがありました。序盤のゆったりしたテンポから畳み掛けるような激しい演奏。激しくテンポが動きます。この演奏の感情の起伏は物凄いものがあります。フルトヴェングラーの数ある「英雄」の中でもこの1944年盤がウラニアのエロイカと言われて、録音は古いけれども貴重な盤として存在してきたのは、この表現の幅広さがあったからなのですね。

二楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで感情を吐露します。Bに入る前に大きくテンポを落としました。Cに入るとかなり劇的なテンポの動きで興奮を煽ります。凄い感情移入でオケもそれに応えて一体になった見事な演奏を展開します。

三楽章、表情豊かで美しいトリオのホルン。トリオの終わり付近での大きなリタルダンドも凄く効果的ですが、これも自然に出てきた表現なのでしょう。すばらしいです。

四楽章、怒涛のようになだれ込む序奏。弦のビッィカートが出るところから凄くテンポを落として演奏します。自在なテンポの動きに惹きつけられます。徐々にテンポを上げる迫力のコーダ。

感情の起伏の激しさをそのまま演奏にしたような凄い演奏でした。録音は古いけれど、一聴の価値はあります。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

グスターボ・ドゥダメル/ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団

ドゥダメル★★★★★
一楽章、予想していたよりゆったりとしたテンポで伸び伸びと生き生きとした演奏です。若いエネルギーがこちらへ向かってきます。テンポの動きもあり緊張感を増したり、フッと緩んだりします。非常に積極的に歌い、躍動する音楽です。凄いエネルギー感です。若さが持つパワーは本当に凄いなぁと思います。こんなに生き生きとした音楽は久しぶりに聴くような気がします。これでもかと言うくらい積極的に歌い表現しています。巨大な編成を生かしたダイナミックな表現です。

二楽章、この楽章でもたっぷりと歌い、哀しみを表現しています。Bへ入っても豊かに歌う木管。潤いのある瑞々しい響きが美しい。Cに入って伸び伸びと鳴り響くホルン。奥深いところから湧き上がるような音楽。ドゥダメルも自然なテンポの動きで、豊かな音楽を奏でています。

三楽章、速めのテンポでとても躍動感のある演奏です。猛スピードで駆け抜けて行くようなスピード感です。トリオのホルンも元気いっぱいで躍動感が凄いです。

四楽章、この楽章も猛スピードの序奏でした。変奏に入っても速いテンポです。若いメンバーが自分達の音楽を精一杯表現している様子がとても心地良いです。若さが音の力にもなっているかのような力強さです。南米のベネズエラにこれほど才能溢れる若者達が大勢いることにも感激します。すばらしいオケです。クライマックスも壮大なスケールで見事でした。湧き上がるようなコーダも素晴らしかった。

若いオケの躍動感に溢れた生き生きとした音楽は素晴らしかったです。歌に溢れて、しかもスケールの大きなクライマックスも見事でした。
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ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2005

ハイティンク★★★★★
一楽章、速いテンポですっきりとした透明感のある響きの演奏です。いつもながらですが、引き締まった表現で細部まで行き届いています。提示部の反復がありました。水も漏らさないような緻密なアンサンブルで、絶え間なく湧き上がるような豊かな音楽です。テンポが大きく動くことはありませんが、美しい歌です。また、音楽に推進力もあります。旋律の歌に合わせて伴奏しているパートも同じように絶妙の抑揚を付けて演奏するあたりは、さすがハイティンクの隠れた技です。

二楽章、この楽章も速めのテンポです。深い悲しみがジワーッと沁み出してきます。会場の静寂感もすばらしいです。ピーンと張りつめた緊張感もなかなかです。泣き叫ぶようなティンパニ。がっちりとした構成感はありませんが、しなやかで美しい音楽です。

三楽章、遠くから自然に聞こえて来るような冒頭部分でした。控えめですが、バランスの良いトリオのホルン。

四楽章、この楽章も速いテンポですがあまり速さを感じさせない落ち着きがあり、ドタバタしません。とても上品で高貴な音楽です。金管が吠えることもありませんし、大きな表現もありませんが、心にジワーッと迫ってくる感動。何もしていないようで、細部まで細心の注意を払った演奏の美しさ。全く力みの無いトゥッティ。

全く誇張の無い、淡々とした演奏のように見えて、実は細部まで行き届いた引き締まった演奏。緻密なアンサンブルで、絶え間なく湧き上がるような豊かな音楽。とても上品ですばらしい演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ベルリンフィル創立100周年記念公演(初日1982年4月)ライヴ

カラヤン★★★★★
一楽章、流れるような第一主題。レガート奏法がとても滑らかで美しいです。緩急の対比もしっかりと付いていて、急のスピード感も凄いです。良く歌い表情もすごく豊かです。表面がツルツルしているような感じの肌触りで、とても美しいです。このツルツル感はカラヤン独特のもので。他の指揮者の演奏では感じなかった特長です。再現部のホルンもマットでしたが、非常に美しく響きました。高性能のスポーツカーのような精密で繊細でしかも超高速でブッ飛ばすことが出来る高機能オケの見事な演奏です。

二楽章、この楽章もレガート奏法で独特の主要主題。非常に美しい弦。カラヤンが元気だった最後ごろのコンサートです。ガリガリと情熱的に刻まれる低弦。Bでもオーボエ、フルート、ファゴットと受け継がれるメロディが非常に美しい。Cに入ると繊細で木目細かな弦が肌を撫でるような心地良さ。ホルンやトランペット、ティンパニもかなり強奏しています。かなり熱気も感じる演奏です。悲しみの淵へ落ちて行くような表現ではありませんが、美しさと言う点では、最上の演奏だと思います。流れるような滑らかさは一貫しています。最後はテンポを落として終わりました。

三楽章、どの楽器も非常に美しいです。シルクのような滑らかさ。トリオのホルンは少し遠くから響くような感じでした。

四楽章、滑らかですが、熱気を感じる序奏。この楽章は速めのテンポでどんどん進みます。ライヴ録音でこれだけ美しい音が収録されていることにも驚きます。音楽が前へ前へと進む推進力があります。トゥッティの深い響きもすばらしい。最後までガッチリと固まった強固な造形美。本当に美しい演奏でした。

もしかしたら、作品の内面性などは表現していないかもしれませんが、これだけ美しい演奏には文句無く惹かれます。精密で繊細、しかも高性能なオケ。レガート奏法の滑らかで流れるような演奏も今となっては貴重な記録です。すばらしい演奏でした。
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クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ティーレマン★★★★★
一楽章、ウィーンpoらしい充実した響きの主和音。最近のピリオド演奏のような速いテンポではなく、伝統的なテンポです。ウィーンpoが自分達の伝統に沿った演奏を自信に満ち溢れた姿勢で演奏しています。提示部の反復がありました。テンポも要所要所で動きがあります。かなり積極的にテンポを動かして濃厚な表現をしています。クレッシェンドに従ってテンポを速めるあたりはフルトヴェングラーを意識しているのでしょうか。勿論ティーレマン独特のテンポの動きもありますが。コーダのトランペットは旋律通りに吹きました。ハッとさせるようなとても良いテンポの動きがあって、音楽がとても濃いです。

二楽章、最近では珍しい遅めのテンポでたっぷりとしています。テンポの動きはすごく自由な感じで、ガクッとテンポを落としたりして、重い葬送行進曲になっています。最近の楽譜至上主義の演奏とは対極をなすような演奏で、昔懐かしい演奏が蘇って来るようです。現代にこのような若手指揮者がいることに非常な喜びと期待を感じます。感じるままに大きく動くテンポ。この動きにウィーンpoも喜んで付いていっているようにも感じます。

三楽章、弾むような生気に溢れた演奏です。スピード感と躍動感があります。明るく明快なトリオのホルン。

四楽章、弱音で緊張感の高い第一変奏。伸び伸びと歌う木管。ダイナミックの幅も大きくかなりの熱演です。かなり間を取ったり、テンポの変化に伴った豊かな表現もあって、なかなか良い演奏です。咆哮するウィンナ・ホルン。堂々としたコーダ。

最近のピリオド奏法の演奏とは一線を画す重量急の演奏でした。ティーレマンは一時代前の演奏を引き継ぐ貴重な指揮者でしょう。テンポを動かしたり、間を取ったりした豊かな表現も良かったです。ウィーンpoもティーレマンに共感して演奏しているようでした。
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ロジャー・ノリントン/シュトゥットガルト放送交響楽団

ノリントン★★★★★
一楽章、主和音の後に豊かなホールの響きが残りました。第一主題が出たところではそんなに速くは感じませんでしたが、すぐに速いテンポになりました。ヴァイオリンがガット弦のような鋭い響きをしています。編成はかなり大きいです。提示部の反復がありました。鋭いトランペット。テンポや強弱の変化など独特の解釈です。凄く動きがあって躍動感に満ちた推進力のある演奏です。良く歌います。ゴツゴツとした男性的な「英雄」です。もの凄いスピード感と集中力です。勿論コーダのトランペットは楽譜通りです。

二楽章、速いテンポです。色彩感はとても鮮明です。トランペットが突き抜けてきます。テンポも動いていて、速いテンポ一辺倒のピリオド演奏とは違います。楽譜至上主義ではなく、ノリントンの主観的な解釈もかなり含まれた演奏です。出すところでは、その楽器をかなり強く演奏させるので、コントラストが明快で濃厚な色彩です。最後はゆったりとテンポを落として終りました。

三楽章、微妙に変化する強弱。生命感を感じる生き生きとした音楽。激しく咆哮するトリオのホルン。

四楽章、B♭B♭B♭とffで八分音符ず三つ並ぶところを最初の音を強くデクレッシェンドするように演奏するのが特徴的です。強弱の変化が明快で、生き生きとした表現はこの楽章でも健在です。とても積極的で激しいとも取れるような表現です。情熱的なホルンの咆哮。突き抜けて来るトランペットが気持ち良いです。

ピリオド奏法の演奏でしたが、ただそれだけにとどまらず、テンポの動きや豊かな表現。ダイナミックの変化も幅広く、躍動感や生命感のある演奏は素晴らしかったです。
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ルネ・レイボヴィツ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

レイボヴィッツ★★★★★
一楽章、速いテンポで清涼感のある響きの演奏です。凄いスピード感です。アンサンブルがきっちりとしていて、とても見通しの良い演奏です。美しい響きで繊細な感じがします。

二楽章、静かに演奏される主要主題。一楽章ほどの速さは無く、ブライトコプフ版の伝統的な演奏に比べて僅かに速い程度です。哀しみを強調するような演奏ではなく、楽譜に忠実に自然体で作品の美しさを表現しているようです。深く豊かな表現もありました。

三楽章、この楽章は速いです。躍動感があって生き生きとしています。オケの反応も良く瞬発力があって良く弾みます。トリオのホルンも豊かな表現で伸び伸びと歌います。

四楽章、三楽章の勢いそのままに四楽章に突入しました。清涼感のある響きがとても美しいです。静寂感もあり、オケの集中力の高さが感じられます。躍動感や生命感がある演奏でとても良いです。クライマックスで朗々と吹き鳴らされるホルン。トランペットは音が短めでした。コーダではさらに加速しているような勢いでした。

速いテンポの演奏でしたが、清涼感のある繊細で美しい演奏でした。生き生きとした躍動感も素晴らしい演奏でした。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1966年東京文化会館ライヴ

カラヤン★★★★★
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、冒頭から分厚くグラマラスな響きです。テンポも速めですが、スピード感があって颯爽と進みます。蒸気機関車がもくもくと煙や水蒸気を吐きながらぐんぐんと進んで行くような力強さがあります。当時としては物凄く速いテンポの演奏だったのではないかと思います。息つく暇も与えないように畳み掛けるような演奏で、カラヤンについてよく言われる「表面を徹底的に磨き上げた」と言うような演奏とは違うように感じます。一発に賭ける集中力や意気込みを感じます。

二楽章、アゴーギクを効かせて動く主要主題。感情の振幅がとても大きいです。ガリガリと音楽を深く掘り進むような貪欲な演奏です。激しく強奏する金管。「表面を徹底的に磨き上げた」と言うのはスタジオ録音の演奏のことであってこのライヴでは、音楽の本質を追い求めるようなひたむきさを感じます。テンポを落として大きく歌う部分もあります。

三楽章、適度な温度感のある響きで始まります。トゥッティの分厚い響き。この当時から巨大な編成で演奏していたのだろうか。浅い響きのトリオのホルン。フルスイングするようなスピード感はカラヤンのライヴならではですが、響きの厚みが過ぎて飽和していているような感じがします。

四楽章、この楽章も速いテンポで勢いがあります。ライヴでベートーヴェンを演奏するカラヤンはスタジオ録音とは全く別人のようです。スタジオ録音ではこのようなスピード感は絶対に聞くことができません。前へ突き進むエネルギーは尋常ではありません。クライマックスのホルンも壮絶でした。

スタジオ録音とは全く別人のようなスピード感の演奏でした。この演奏を聴いてしまうと、スタジオ録音は置きに行っているような感じさえします。火のようなフルスイングの演奏を録音でも残していればカラヤンの評価も違ったものになっていたのではないかと思います。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」3

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、この「英雄」でも自然体を貫いています。ゆったりとしたテンポでありながら、推進力を失うことはありません。
足取りが着実で踏みしめるような安定感と推進力が両立しています。
この全集はどの曲も出来が良く音楽としての完成度もきわめて高い。すばらしいライブです。

二楽章、まろやかで美しい響きで、誇張した表現はなく、楽譜をベートーヴェンを信じ切って演奏していることが伝わってきます。
端正で繊細な大人の「英雄」です。また、日本のオーケストラは弦が上手いことは以前から定評がありましたが、この時期になると管楽器も音が軽く力みなく出るようになっていて、伸びやかで美しい。
世界に誇れるベートーヴェンになっていると思います。

三楽章、クレッシェンドも強引なことは絶対しません。感情の盛り上がりにしたがって自然です。ホルンも伸びやかで美しい。

四楽章、淡々と音楽が進んでいるようにも聞こえますが、静かに語りかけるようにジワジワと音楽が伝わってくる、何か悟りの境地を開いた巨匠の演奏のように感じます。

この全集はどの曲にも共通した朝比奈のベートーヴェン観が見事に結実しています。すばらしかった!

オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★★☆
一楽章、この「英雄」も美しい音で録音されているし、王道を行く安定感や安心感があります。
ホールに残る残響も美しい。
スウィトナーはこの全集一貫して、迷うことなく、ストレートど真ん中勝負できています。しつこく粘ったり、仕掛けが待ち受けていたということは全くありません。
低域が厚くないので、豪快な印象はありません。むしろ繊細で美しく品の良い女性的なベートーベンに仕上がっています。弦のボーイングも丁寧な感じで、一つ一つの旋律や主題を描いて行きます。それは、宝物を大切に扱うかのようで、とても穏やかな表情です。

二楽章、内面から湧き出るような表現で、大げさなハッタリなどは全くありません。クレッシェンドを伴って音楽が高揚してきても、節度ある高揚感で、音楽が暴走しません。
この演奏から熱狂を求めると期待を裏切られるでしょう。その分、端正でスタイリッシュな演奏です。その方向としての完成度は極めて高い全集だと思います。
初めて、ベートーベンの全集を買う方にもお勧めです。

三楽章、アンサンブルの精度もすごく高い。テンポの動きもありますし、それに伴った熱っぽさも次第に高まってきました。

四楽章、表現も奥ゆかしいですが、三楽章から四楽章へと音楽は確実に熱気を帯びてきています。
潮が満ちたり引いたりするかのように、音楽が高揚したかと思うと、また引いていったりしながら音楽が進んで行きます。

自然の摂理に逆らわないような音楽の自然さには感服します。

ジャン・フルネ/東京都交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、ゆったりとした冒頭の二つの音でした。そのあとも遅めのデンポです。
フルネらしく上品で格調高い「英雄」です。都響から気品に満ちた響きを引き出しています。強弱の振幅は十分ありますが、強引な演奏ではありません、中音域のふくよかな響きと透明感の高い響きが印象的です。
この響きの透明度の高さはフルネの演奏の特徴として特に優れている部分だと思います。
この透明度が演奏の純粋さや清潔感を生み出していると思います。最後の部分で一旦pに落としてクレッシェンドがありました。

二楽章、この楽章も遅いです。しかもすごく表現が濃い。深い悲しみへ落ちて行くようで、すばらしい表現です。この美しくしなやかで透明感に満ちた音色で、深い表現はすばらしい!
また、都響のレベルの高さも特筆すべき演奏だと思います。

三楽章、ゴリゴリするようなことは全くありません。力強さも持っていますが、透明感の高い美しい演奏が、心に残ります。

四楽章、表題的な面はあまり意識されずに、純粋に音楽としての美しさを追及した演奏のように思います。骨格ががっちりした演奏ではないけれど、とても繊細で美しい演奏でした。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団記

icon★★★★☆
一楽章、テンポは中庸。ニューヨーク時代のバーンスタインはかなり荒削りだけど生命感のある演奏が多かったと記憶していますが、1978年の録音でも、多少面影を残しているように感じます。
また、ウィーンpoは誰が振っても、彼らの様式を大きく外れる演奏をすることはほとんどないとも思っています。
この時代のバーンスタインは、どこのオケを振っても音の密度が若干薄くなるように思うのですが、この演奏も、ウィーンpoにしては密度の薄いと思います。
その代わりに表現は生き生きとしていて、ウィーンpoにしては、普段の保守的な範囲を超えた演奏をしていると思います。
そういった面では、とても興味深い演奏だと思います。
バーンスタインが感情をストレートにぶつけた演奏でだと思います。

二楽章、悲しみの表現と言うよりも、音色に温度感があって、暖かい音楽です。音の密度が薄いので、胸が締め付けられるような悲しみの表現ではありません。
テンポが大胆に動いたりもします。劇的な表現です。音楽の振幅も激しい演奏です。

三楽章、とても生命感を感じる演奏です。バーンスタインらしい音楽です。

四楽章、心地よいテンポで音楽が進んで行きます。すごく自由な音楽です。自発的で伸び伸びしている音楽こそバーンスタインの特徴でしょう。
ベートーベンの音楽は内向きにぎゅっと凝縮された演奏が多い中にあって、これだけ開放的な雰囲気を持った「英雄」も魅力があります。

好き嫌いは分かれるかも知れませんが、明確な主張のある演奏には拍手を送りたいと思います。

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団 Royal Albert Hall, 2009

ヤンソンス★★★★☆
一楽章、速い二つの主和音。その後の第一主題も速めのテンポです。音楽が締まっていて緊張感が伝わって来ます。豊かな響きですが、強弱の変化にも機敏に対応するオケの演奏が気持ち良いです。提示部の反復がありました。展開部に入ってもダイナミックな表現は変わりません。再現部の美しいホルン。艶やかなヴァイオリン。とても色彩感が豊かで、分厚い響きです。

二楽章、この楽章も少し速めのテンポですが、冒頭から暗い雰囲気です。深い悲しみにむせぶような演奏です。良く通るフルート。Cで朗々と歌うホルン。感情の起伏も激しい演奏です。

三楽章、湧き上がるような生き生きとした音楽。とても鮮明な色彩感。はつらつと歌うトリオのホルン。ダイナミックに躍動するこの楽章は出色です。

四楽章、美しく歌う弦。チャーミングな木管。壮大なトゥッティ。激しく動く部分とゆったりと穏やかな部分の対比が見事です。朗々と歌うホルン。とてもスケールが大きい音楽です。

色彩感豊かで湧き上がるような生命感。そして美しく歌う音楽。あとは推進力があれば完璧でした。
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フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ

ブリュッヘン★★★★☆
一楽章、鋭いトランペットが響く主和音。テンポはそんなに速くはありません。提示部の反復がありました。ヴァイオリンも鋭い響きです。とても清涼感のある爽やかな響きがします。盛り上がりにつれて僅かにテンポを速めています。モダン楽器には無い鋭い響きで厚みもありませんが、透明感の高い演奏です。歌う部分ではかなり濃厚な表現をします。当然トランペットは楽譜通りに演奏します。

二楽章、かなり速いテンポで、葬送行進曲のイメージではありません。Bに入るとさらに明るく爽快になります。トランペットの強奏はやはり鋭く、かなりダイナミックの幅も広いようです。

三楽章、この楽章も速いテンポですがあまり躍動感はありません。トリオのホルンはベルに手を入れたり出したりしていて演奏が難しそうでした。

四楽章、響きが薄い序奏。変奏に入ってからテンポは劇的に動いています。分厚い響きやまろやかな響きは無く、ストレートで透明感があって、爽やかな響きです。コーダでもトランペットが突き抜けてきました。

鋭く、透明感が高い、爽やかな演奏で、トランペットが鋭く突き抜けてきたりして、ダイナミックな面もありましたが、表現はあまり粘ることはなく、サラッとした表現でした。当時はこんな音で演奏されていたのかと思わされる演奏でした。
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エマニュエル・クリヴィヌ/ラ・シャンブル・フィルハーモニク

クリヴィヌ★★★★☆
一楽章、ガット弦独特の鋭い響き。速いテンポです。凄く勢いのある演奏です。提示部の反復がありました。強弱の変化にも敏感に反応するオケ。颯爽としていて、前へ進もうとする音楽に強いエネルギーを感じます。

二楽章、この楽章も速いテンポです。暖かい響きのファゴット。速いテンポなので、深い悲しみを表現するような演奏ではありません。一楽章でもそうでしたが、予想しないところでテンポが動きます。アンサンブルがたまに乱れます。

三楽章、舞うようなオーボエとフルート。新鮮な響きの弦。湧き上がるような生命感。後ろの方でビービー鳴るホルンが印象的です。トリオのホルンはストップ奏法で音色が変わるのが良く分かります。聞かせどころを良く分かっているような感じです。

四楽章、勢いのある序奏。ガット弦のヴァイオリンがストレートに迫って来ます。スピード感と湧き上がるエネルギーは凄いです。コーダに入ってもビリビリと鳴るホルン。とてもリズミカルなコーダでした。

凄い勢いのある演奏で、ホルンのストップ奏法を効果的に使って聞かせどころを心得た演奏でした。これまで聞いた事の無い響きを随所に聴かせてくれました。ただ、アンサンブルの乱れは残念でした。
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カール・ベーム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1973年ベルリン芸術週間ライヴ

ベーム★★★★☆
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、探るような最初の和音。静かに提示される第一主題。オフぎみのマイクポジションで涼しげな響きです。第二主題もあまり表情はありませんが音楽には強い推進力があります。豊かな残響を伴っていて熱気はさほど伝わって来ません。それでもがっちりとした安定感抜群の演奏は健在です。オケが一体になって歌う部分の合奏力は見事です。コーダのスピード感もなかなかでした。

二楽章、ウィーンpoとのライヴより僅かに速いテンポです。オーボエの主要主題は流れるようでした。ウィーンpoとのライヴのような悲しみに暮れるような表現では無く、淡々としています。ライヴらしいテンポの動きもあり、金管も激しく強奏しますがブルー系の響きなので、あまり熱気は伝わって来ません。

三楽章、オフマイクぎみで残響成分も多く含むのでとても演奏が滑らかに聞こえます。少し距離を感じるトリオのホルン。客席で聞こえる響きはこちらの演奏の方が近いと思いますが、1ヶ月前のウィーンpoとのライヴの方がオケの生音が聞こえて迫力があります。

四楽章、ウィーンpoとのライヴよりも速めのテンポで進みます。弱音の集中力の高さが印象的です。オケが遠く木管なども小さく定位します。トゥッティでも比較的冷静な演奏です。コーダは颯爽と進みます。

とても涼しげな響きで、強い推進力で颯爽としたスピード感の演奏でした。オフマイクぎみで細部の表情はあまり分かりませんでしたが、ブレンドされた響きと見事な合奏力はさすがでした。

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」4

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、レニングラードpo独特の鋭く突き刺さるような音が、ムラヴィンスキーの厳しい表現と合わさって強い緊張感を生み出しています。
ライブでも一糸乱れぬ完璧なアンサンブル。暴走するようなスピード感ではないのですが、キリッと引き締まったベートーヴェンです。
主題が楽器によって表現が違うのが不思議です。
これだけ引き締まった表情の「英雄」ははじめてです。細部の表現まで徹底されています。見事。

二楽章、オーボエが普段聞いている感覚よりも、かなり太い音でした。チャイコフスキーやショスタコーヴッチではあまり感じなかった欧米のオーケストラとの音色の違いがものすごく分かります。
鋭利な刃物のような鋭さです。聞きなれている「エロイカ」とはかなり違う。聞きなれない音が随所で聞かれます。チャイコフスキーのように木管が一つのユニットになって演奏するような感じがあったり、トランペットが朗々とメロディーを吹くなど、このあたりもベートーヴェンよりもチャイコフスキーをイメージさせます。

三楽章、フレーズの終わりがもう少し丁寧ならと思うのは、この演奏には言ってはいけないかな?

四楽章、ティンパニが全体に大きめなのですが、この楽章の冒頭部分は・・・・・。ちょっとやりすぎです。やはり、チャイコフスキーの演奏様式で「英雄」を演奏したら、こうなるんですね。

正統派のベートーヴェンではないけれど、これはこれで強い主張があって聞き応えがありました。

ブルーノ・ワルター/シンフォニー・オブ・ジ・エア(旧NBC交響楽団)

icon★★★★
一楽章、引き締まった演奏です。ライブならではのテンポの動きもあります。
ワルターのイメージはとにかく中庸で、あまり印象に残らない演奏が多いのですが、このライブは最初から違う雰囲気を持っています。
音楽が、前へ前へと行こうとする推進力もあって力強い。
テンポの動きはありますが、そこはさすがにワルターです。不自然だったり強引な動きではなく自然に受け入れることができる動きで、音楽の流れを止めません。
表現の振幅も大きいですし、なかなか良い演奏です。

二楽章、トスカニーニの追悼コンサートのライブなのですが、トスカニーニの死去に伴って解散させられたNBC交響楽団が、シンフォニー・オブ・ジ・エアーとして演奏しています。
そう思って聴くからかも知れませんが、オケのトスカニーニへの思いが込められているような、悲嘆にくれる音楽です。テンポの動きにこちらも引き込まれます。

三楽章、音楽が生き生きしています。スタジオ録音のワルターとは別人のような生き生きとした演奏で、これがワルター本来の姿なのだと思わされます。録音は良くないので、全体像を計り知ることはできませんが、ここで聴ける音楽はすばらしいです。
描写音楽の場合は、スタジオ録音で、出来る限り美しい音で録音されている方が良いですが、メッセージ性の高い音楽の場合、スタジオ録音では、指揮者もよそ行きの演奏をしている場合も多く、その指揮者の本質を伝えていないことが多いと思います。
その意味では、このライブを聴くことによって、ワルターの別の一面を聴くことができたことは幸せです。

四楽章、ここでも、不自然にならない程度でテンポが動いています。

表情も豊かです。音楽が進むにつれてどんどん高揚しています。かなり充実感のある演奏でした。

オイゲン・ヨッフム/ロンドン交響楽団

icon★★★★
一楽章、余韻も作っているような、余韻にまで意識をめぐらせた音の出し方です。
テンポは速めの部類かもしれませんが、テンポが動くこともあるし、表現は豊かだし聞き応え十分な演奏です。
スピード感はありますが、決して乱暴なことはありません。ベートーベンの男性的ながっちりした骨組みをもっていながら、表現の柔軟さも併せ持つ名演だと思います。
トゥッティでドンと一つの音符があるとズシン~と響く。テンポは速いけど、重戦車のような、でも木管なんかは繊細な・・・・・・。不思議が両立している。ホルンも激しい!

二楽章、悲しみに沈みこむような表現は少し弱いようで、少し浅い音楽のように感じます。金管の音が開いてしまうので、この楽章も元気いっぱいに聞こえてしまうところが、ちょっと残念です。

三楽章、この楽章も軽快なテンポです。かなり激しい演奏でした。

四楽章、アタッカで入りました。ブレンドされた厚みのある響きは魅力的です。弱音部と強奏部の振幅がかなり広い演奏です。

ヨッフムのイメージはもっと重厚な音楽をイメージしていましたが、結構爆演型だったかも。
面白くは聞けました。

ヨゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団

icon★★★★
一楽章、明るい響きが印象的です。
控えめなトランペット。1960年の録音ですが、あまり古さは感じません。薄いヴェールに包まれているような上品な響きで、しなやかな女性的なベートーヴェンのように感じます。
強いアクのある演奏ではないので、はじめてベートーヴェンの全集を買う人にはお勧めです。何て言ったって1,000円ですからね!
この値段でこの演奏だったら文句ありません。CP抜群です。
ふくよかで柔らかい音色で音楽が流れて行くので、安心して聴くことができます。

二楽章、比較的速めのテンポです。強い感情の吐露はありませんが、奥ゆかしい音楽は心地よいものがあります。
柔らかい表現ながら、悲嘆に暮れるような雰囲気も表現されています。なかなかの好演ではないでしょうか。音楽が散漫になることもなく、オケの集中力も維持しています。

三楽章、豊かなホルンの響きも良いです。とても暖かみがあって優しい音楽です。

四楽章、音楽の流れが良くて引っ掛かるところがありません。刺激的な表現に驚愕したり感動したりするような演奏ではありませんが、暖かみが感動となってジワーっとこみ上げて来るような演奏です。

ふわっとした暖かみは独特で、良い雰囲気があり、この演奏を親しみやすいものにしていると思います。良い演奏でした。

ヘルマン・シェルヘン/ウィーン国立歌劇場管弦楽団

シェルヘン★★★★
一楽章、乾いた細身の音です。かなり速いテンポの演奏です。畳み掛けるようなテンポで緊張感があります。
このテンポでもアンサンブルが乱れることもなく難なく演奏するオケもすばらしい。
カチッとした音質のティンパニが演奏を引き締めています。終盤にかけてさらに畳み掛ける演奏でした。

二楽章、この楽章も比較的速めのテンポです。重く沈んでゆくような演奏ではありません。
音楽が前に前に行こうとします。力強い「葬送行進曲」です。

三楽章、ここでも速いテンポです。

四楽章、かなり速い。エネルギーに溢れた演奏です。

強い推進力があります。緩部ではほどほどのテンポになります。終始緊張感の高い演奏でした。

ロリン・マゼール/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

マゼール★★★★
一楽章、軽快な第一主題です。トゥッティで演奏される第一主題はスラーがかかったような演奏でした。前進する力の強い音楽で冒頭の軽快さとは打って変わって豪快な演奏になっています。弓をいっぱいに使ってザクザクと刻む弦ですが、ベルリンpoの美しさはあまり出て来ません。

二楽章、柔らかいヴァイオリンの主要主題は強烈なアゴーギクでした。Bに入る前に大見得を切るように大きくテンポを落とし大きく演奏しました。悲痛な感じはあまり無く、ぬるい感じがします。Bに入っても転調して雰囲気がガラッと変わることはありませんでした。Cに入ってホルンが出る前に一旦大きくテンポを落としました。その後もテンポは大きく動きます。大げさなトランペットのクレッシェンド。この楽章では作為的な部分がかなり見受けられます。

三楽章、とても濃厚な表情付けがされています。弱音と強奏の対比が大きくダイナミックです。トリオのホルンははじけるように活発で明るいです。躍動感があって生き生きとしています。

四楽章、たっぷりと間を取ったり、テンポが揺れ動いたりする積極的な表現です。オケがマゼールとの演奏を楽しんでいるようです。旺盛な表現意欲が感じられる演奏で、とても積極的です。壮大な盛り上がりで、ここでもテンポが動きました。楽器が絡みつくように動く演奏はとても細部まで表現されている表れだと思います。

二楽章では作為的な大げさな表現がありましたが、四楽章に向かって次第に有機的に音楽を奏でるようになります。すごく積極的に表現される音楽はなかなか説得力がありました。
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ホセ・セレブリエール/シドニー交響楽団

セレブリエール★★★★
一楽章、少し遠いオケ。歌もあり、テンポも動く演奏です。提示部の反復がありました。弦は瑞々しく美しいです。正統的な演奏で特別な演出や奇策はありません。音楽は力強く、推進力があります。金管に強く吹かせるダイナミックな演奏です。心のこもった歌はなかなか良いです。

二楽章、淡々としていて、悲しみが込み上げるような演奏ではありません。音を短く切ることがあり、ちょっと不自然です。ホルンが雄大に演奏します。

三楽章、力強く前進する演奏。トリオの明るく躍動感のあるホルン。

四楽章、速いテンポです。思い切り良く強奏します。ザクザクと歯切れのいい演奏です。金管もかなり強奏するので、聞き方によっては乱暴に感じるかもしれません。一般的なベートーベンの演奏に比べると相当金管は強いです。最後もトランペットがクレッシェンドしたり、かなり金管が目立つ演奏でした。

躍動感があり、推進力もあって力強い演奏でした。金管がかなり強く吹くので、従来の作品のイメージとは違いますが、この力強さはこれで魅力がありました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ヤルヴィ★★★★
一楽章、かなり速いテンポです。快速でスピード感のある演奏を聞かせたかと思うと、テンポを落としてまた凄い勢いで加速したり、動きもありますが、基本は速いです。提示部の反復をしました。速いテンポのためか、テヌートぎみに演奏されることはあまりなく、マルカートぎみで弾むような表現です。トランペットはバルブの無いものを使っています。再現部のホルンの第一主題は奥まったところで響きます。ここぞというところのティンパニが強烈に決まります。また、楽譜に無いクレッシェンドもしています。

二楽章、主要主題の中でテンポが動いているようです。この楽章も速いテンポです。グッと感情がのめり込むようなことは無く、作品を淡々と描いているようです。硬い音のティンパニがちょっと浮いているようにも感じます。

三楽章、生き生きと躍動感のある音楽です。編成は小さいですが、出るところは思い切ってグッと迫って来ます、特にティンパニの押しが強いです。

四楽章、ゆっくりと入って加速しました。間があってテンポが変化します。弦楽四重奏になる部分も静寂の中に躍動のある美しい演奏でした。ベーレンライター版を使用しているようで、音が短く切られる部分が多いです。

テンポを動かしたり、ティンパニのクレッシェンドがあったり、いろいろ工夫した演奏でしたが、強い個性を感じさせる演奏ではありませんでした。速めのテンポで颯爽とした演奏は新時代のベートーベン像を象徴しているような演奏でした。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、明るい音の主和音。非常にゆっくりとした足取りの演奏ですが録音が歪みっぽいです。テンポの動きは僅かで、頑なにテンポを固定したまま進みます。歌ったり、表面を飾ったりすることは一切無い無骨な演奏です。ダイナミックの変化はかなり幅広いようです。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで、かなり抑えた弱音で始まる主要主題。主題がオーボエに移ってさらにテンポが遅くなったようです。トゥッティは凄いエネルギーのようなのですが、いかんせん録音が歪んでいて、あまり伝わって来ません。特に悲しみを表現しようとか、感情移入するとか言う事は無く、淡々とひたすら楽譜に書かれていることを音にしているような演奏です。よく聞くと細部まで緻密に演奏されています。

三楽章、この楽章も遅いテンポですが、一音一音丁寧に演奏されています。抑えた音量のトリオのホルン。かなりの重量感で、スケルツォと言う感じではありません。

四楽章、テンポが変化して音量も変化した序奏。変奏に入ってからはまた遅いテンポです。この楽章はテンポがよく動きます。消え入るような木管からトゥッティまでの幅がすごく広いです。とても禁欲的で色気など微塵も感じさせない本当に無骨な演奏ですが、巨大な演奏を聴いたような不思議な充実感があります。

楽譜に書かれているものを淡々と音に変えていくような演奏は、禁欲的で色気など微塵も感じさせない無骨な演奏でしたが、緻密でしかも巨大な演奏を聴いたような不思議な充実感がありました。録音が悪かったのは少し残念でした。
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イーゴリ・マルケヴィチ/シンフォニー・オブ・ジ・エア

マルケヴィチ★★★★
一楽章、主和音の後に長い残響が響きました。ギラギラとした響きです。凄いスピード感が圧巻です。強烈な推進力。ザクザクと刻む弦。豊かに歌う木管。そして炸裂する金管。どこを取っても凄みのある演奏でとにかく強烈です。息つく暇も与えずに一気に聞かせました。

二楽章、壮絶な悲しみの表現です。ここでも豊かに歌う木管が美しいです。とうとうと流れる大河のように途切れることなく豊かに音楽が流れて行きます。Cに入ると少しテンポを上げて劇的な表現です。とにかく壮絶です。この演奏を最新の録音で聞いたらどんな感じなんでしょう。荒々しさは幾分和らぐような感じもしますが・・・・・。朗々と歌う木管。弦もすごく感情がこもっています。凄いエネルギー感です。

三楽章、速いテンポでかなりの推進力。豊かな残響を伴って豊かなトリオのホルン。

四楽章、明快な序奏。この楽章も速めです。ガリガリと刻む弦の推進力がこの楽章でも凄いです。畳み掛けるような凄い勢いの音楽。最初から一時も緩むことなく、ハイテンションを続けています。最後が切れました。残念。

凄いエネルギー感と強烈な推進力。全く緩むことの無いハイテンション。荒々しい推進力は録音によるものなのか、実際の演奏がそうだったのかは分かりませんが、凄い演奏だったことだけは間違いありません。最後で音が切れてしまった分減点。
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アルトゥーロ・トスカニーニ/NBC交響楽団

トスカニーニ★★★★
一楽章、古めかしい録音です。当時としてはかなり速いテンポだったのではないでしょうか。今聞いても速めで疾走感があります。がっちりとした構成感の演奏です。虚飾を排して、作品に没頭するような凄みのあるもので、録音の古さを感じさせない演奏ですがテンポは意外と動いています。ひたすら突き進むスピード感。コーダのトランペットの第一主題はライナーの表現に近い(ライナーほど極端ではありませんでしたが)スラーとスタッカートでした。

二楽章、一楽章から見ると遅いテンポです。音を短めに演奏する部分がありました。トランペットが音の頭を強く吹くので、ちょっと乱暴な演奏に聞こえます。

三楽章、一気に突っ走るような勢いのある演奏です。重みのあるトリオのホルンです。速いパッセージも難なくこなす木管。

四楽章、この楽章でも勢いのある序奏。凄い疾走感があるかと思うと突然重く引きずるような弦の演奏があったり、ダイナミックの変化も大きく、速いテンポで一気に聞かせているようでいて、意外と変化に富んでいます。クライマックスでもテンポの変化がありました。コーダも豪快でした。

速いテンポで一気に進むようで、実際にはテンポも動いていて意外な演奏でした。ただ、基本は畳み掛けるような豪快な演奏で、時に乱暴に聞こえる部分もあったのが、少し残念です。
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ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」5

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

朝比奈 隆/NHK交響楽団

icon★★★☆
1967年の録音

一楽章、晩年の演奏スタイルとは少し違って、かなりロマンティックな演奏で、感情の揺れにあわせてテンポも動きます。とくに木管の美しいメロディはたっぷり歌わせています。
また、テンポも晩年の演奏に比べて速めで、推進力もあり力強い演奏です。アゴーギクも効かせた表現力のある気迫のこもった指揮です。

二楽章、かなり劇的な表現です。晩年の自然体へ至るプロセスを順を追って聴いてみたい気持ちになります。
ライナーノートによると、この録音が朝比奈の一番古い「英雄」だそうです。

三楽章、ダイナミックな表現も晩年とは違います。当時の感情をストレートに表現したものであれば興味深いものです。晩年の自然体もすばらしいものがありますが、この当時すでに「英雄」の演奏スタイルを確立していたと思われます。
この演奏もなかなか魅力的です。

四楽章、スピード感のある演奏です。ロマン溢れる表現ですが、作為的なところは全く感じさせない表現で、その意味ではこの時期すでに自然体の源流が生まれていたと言う事か。

正直なところ朝比奈の60年代の録音にはあまり興味がなかったのですが、聴いてみてさらに朝比奈のことを知りたいと思うようになりました。

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、巷で言われているほど悪くはないと思います。ライブほどの凄みはありませんが、整った演奏ですし、音を置きに行くような演奏でもありません。勢いもあります。
ただ、ライブで聴くようなどっしりと骨格のしっかりした演奏よりも少し腰高で時に音が宙をさまようような感覚があるところがマイナス点かもしれません。

二楽章、悲しみの淵へ落ちて行くような演奏はライブじゃないとなかなか実現しないのかもしれませんね。この楽章も悪くはありません。
もう少し、悲しみの表現があれば良かった。

三楽章、

四楽章、コントラバスもゴリゴリと力強い。演奏としてはかなり良いと思いますが、やはりベームのライブを聴いてしまった後では、物足りなさを感じてしまいます。

サー・ゲオルグ・ショルティ/ハンブルク・北ドイツ放送交響楽団

ショルティ★★★☆
一楽章、シカゴsoとのスタジオ録音のようなキンキンした音ではなく、マイルドで聴きやすい録音です。
ショルティ最晩年の演奏と言えども、そこはショルティ。音楽の推進力はさすがです。骨格のがっちりした音楽作りも変わらないところです。
前へ行こうとする推進力の中に熱いものを感じさせる演奏です。
ただ、ベートーベンの内面を表出するようなタイプの指揮者ではないので、どちらかと言うと造形の美しさを聞くべき演奏なのではないかと思います。
音楽の流れは、ひっかかるようなところや強調するところもなくとてもスムーズです。

二楽章、ショルティらしく感傷的になるようなことは一切なく、淡々と音楽が進みます。
テンポ設定も速めで、葬送行進曲のイメージとはかけ離れていると思います。ひたすら、音の美しさを追求しているのでしょうか。

三楽章、一楽章は中庸なテンポでしたが、二楽章、三楽章は速いです。
推進力があって、若々しい気迫溢れる音楽になっています。最晩年の演奏がこれだけ力強いと言うのも、ショルティならではですね。
この指揮者は一生枯れることなく演奏活動を終えたのでしょう。晩年には散漫な演奏をした巨匠もいましたが、ショルティは集中力の高い演奏を続けていたことは驚きです。

四楽章、この楽章もテンポは速めの設定です。

「英雄」という作品に込められた内的なものは表現していないかもしれませんが、これだけ瑞々しく生命感に溢れた演奏も良いものです。

フリッツ・ライナー/シカゴ交響楽団

ライナー★★★☆
一楽章、すごく間を空けた二つの主和音。良く鳴るトランペット。スピート感と緊張感のある演奏です。あまり濃厚な表現やテンポの揺れなどはありませんが、とても引き締まった強いエネルギーを放つ演奏です。録音は古くモノラルですが、美しい響きの演奏です。シカゴsoの筋肉質の響きはショルティの時代に出来上がったものでは無いことがこの演奏で分かります。コーダのトランペットの第一主題にスラーとスタッカートを織り交ぜた演奏をしました。これはちょっと違和感がありました。

二楽章、暗く沈む音楽です。レイ・スティルのオーボエか、鋭い響きです。金管が独特のフレージングをします。トランペットがかなり強く吹きます。

三楽章、テンポは速いですが、スピード感と湧き上がるような生命感の生き生きとした音楽です。そこまでの積極的な音楽からすると、控え目なトリオのホルン。

四楽章、激しく怒涛のような序奏。この楽章でもスピード感は健在です。トランペットが強く演奏します。シカゴsoらしくホルンも強力です。ホルンが朗々と歌う部分で突然音量を落としたりしました。コーダの金管もシカゴsoらしい強奏でした。

スピート感と緊張感のある演奏で、最後まで続く推進力はなかなかでしたが、独特のフレージングや突然の音量変化などはちょっと抵抗がありました。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、いつもながらに振幅の大きい音楽です。しかし、テンシュテットがマーラーを指揮するときのような、常軌を逸したかのような表現はありません。

二楽章、沈み込んでいく表現は、さすがです。テンポも大きく動いています。音楽が進むにつれて表現の幅が広がってきているようです。

三楽章、表現の思い切りが良いので、ちょっと下品になりそうな部分も納得してしまいます。

四楽章、テンポを落としたところでは、じっくり歌います。でも、同じ年に録音した第九のライブに比べるとかなり大人しいように感じます。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、速い!テンポが速いと、スピード感があるというのは違います。
この演奏はテンポが速い。快速に飛ばします。ただ、音楽が前へ行こうとはしません。
オーケストラのアンサンブルはバッチリ決まります。響きは厚く、このテンポには厚すぎるような感じさえします。
フェラーリにでも乗ってアウトバーンをブッ飛ばしながら聞くのにちょうど良いような演奏で、ベートーヴェンが作品に込めた、人間の自由とか解放などとは無縁です。
ただ、ひたすらかっこよく颯爽としていることにだけ重点を置いた演奏のようです。
トランペットはファンファーレのように気持ちよく鳴り響きます。これはこれの楽しみ方があるのでしょう。

二楽章、美しいです。重さや暗さはもちろんありません。美しい音の構築物として聴くべき演奏ですね。ベートーヴェンの精神性を考えると演奏とのギャップに不満が出てきますが、心地よい音響として楽しむことに割り切れば、このゴージャスな演奏はなかなか良いです。
それにしても、オケは良く鳴ります。気持ちいいくらいです。

三楽章、かなり編成が大きいのか、強弱の変化はすこく幅があります。とても明るいホルンの響きが印象的でした。
豪華絢爛でした。

四楽章、全楽章を通して、速いテンポ設定でした。このテンポで演奏されると、別の観点で感動します。
すごい。確かにベートーヴェンの内面を抉り出すような演奏ではないけど、一つの基準として捉えるには良いかも知れません。
これだけ、音響的に磨いた演奏を聴いておけば、内側へ没入して行くタイプの演奏の凄みも十分感じることができると思います。最初にベートーヴェンを気持ちよく聴くには良いでしょう。

クラシック・ファンがこのような演奏からスタートすることも否定してはいけないのではないかと思いました。
最初は抵抗があったけど、気持ちの持ちようで、気持ちよく聞けました。

ギュンター・ヘルビッヒ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、ホールに響く音がすごく綺麗でした。テンポは速めでスピード感があってなかなか良い演奏です。
強烈な主張はしてきませんが、不足なく表現はしています。

二楽章、表現は控えめながら、ジワジワと迫り来るものがあります。響きも透明感があって、混濁することはありません。美しいです。突き抜けてくるところも、しっかりあります。
ぐっと沈み込むような演奏ではありませんが、表現の振幅は広くなかなか聴き応えがあります。

三楽章、オケは十分鳴らしていますが、比較的端正な演奏で、危なっかしさなどもありません。
響きが明るいので、ドイツ的な重さは感じられません。

四楽章、響きが明るくて開放的なので、南国風ベートーベンといった趣きで、内面的なものを表出するというよりも、楽天的な演奏です。

ホルンの咆哮はすごい!控えめなトランペットに対して、遠慮なく吹きまくるホルンに拍手!!!!

カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、ゆったりしたテンポです。朝比奈と同じぐらいのテンポ設定でしょうか。
ゆったりしたテンポではありますが、響きはすっきりしていて、野暮ったい演奏にはなりません。
むしろ響きが薄いかもしれません。スピード感もありませんが、丁寧に一音一音を奏でるような演奏です。ジュリーニの歌にあわせてテンポも微妙に変化しています。
「英雄」の演奏にしては、女性的かもしれません。豪快な演奏とは遠い、非常にナイーブで繊細な「英雄」です。
とても穏やかな「英雄」です。木管楽器のメロディは蝶が舞うような優雅さがあります。一音一音大切に大切に演奏していて、暴発するようなこともありません。
二楽章、少ない人数で演奏しているのでしょうか。とても寂しげな感じが表現されています。この楽章はジュリーニの面目躍如と言ったところでしょうか。
すごく静かな二楽章です。これは生で聴けたら良かっただろうなあと思います。
ずっとレガートな感じで、ガツンとくることは絶対にありません。音楽の洪水の中に浮かんでいるような、そしてゆったりと癒されているような心地よさです。
ジュリーニにしか表現できない特別な世界のように思います。この演奏に抵抗を感じる人もいるでしょう。今までの概念とは全く違います。

三楽章、この楽章もゆったりしたテンポで演奏されます。

四楽章、遅いテンポで音楽にどっぷりと浸ることができるのですが、ベートーベンの音楽ってpがあってfになって、またpになっての繰り返しのような音楽だと思うのですが、ジュリーニの演奏は全体がレガートになっているような感じでpからfに変わるところの境目に壁がそそり立つような変化がなく、緩やかにfへ移行するようなところがあるので、しなやかなのですが、女性的な演奏に聞こえるんです。

この遅さは、オケも聴衆も忍耐です(^ ^)
この演奏には賛否両論があると思います。
「英雄」フリークには絶対に聞いておいて欲しい演奏ですが、あまり数を聴かない人にはお勧めできません。

ファビオ・ルイージ/デンマーク放送交響楽団

ルイージ★★★
一楽章、最初の主和音二つは速かったですが、その後の第一主題は一般的なテンポです。ffでも当たりはソフトでガツガツとした演奏ではなく、優雅な雰囲気です。提示部の反復がありました。激しい部分を激しく感じさせないように演奏しているように感じます。トランペットはベートーベンの楽譜の記載に従って演奏しています。

二楽章、フワッとしていますが、主要主題の悲しみの表現はあります。テンポも動くところがありました。ただ、基本はほとんどインテンポです。ルイージの指揮を見ているとかなり起伏のある演奏をしているようなのですが、音圧としてあまり届いて来ません。Cの後半でテンポを落としてたっぷりと歌いました。

三楽章、湧き上がるような生き生きとした動きのある音楽です。ティンパニが強烈でした。

四楽章、フワッとした柔らかい響きが特徴的で、音楽の起伏はありますが、イメージとしては穏やかな演奏と言う感じです。

オケのメンバーも楽しそうに演奏していました。ガリガリ、ゴツゴツした演奏ではなく、とても柔らかくソフトなベートーベンでした。
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ハンス・シュミット・イッセルシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

イッセルシュテット★★★
一楽章、明るく軽い響きの主和音。流れるような第一主題。前へ進む力の強い演奏です。とても良く歌うオケ。重さは無く、かなり軽快で優雅です。晴れ渡る空のようにスカッとした軽やかな気分にさせてくれる演奏です。色彩感は鮮明です。

二楽章、この楽章でもとても良く歌う主要主題。明るい響きで、悲嘆にくれるような演奏ではありませんが、歌に満ち溢れています。Bに入っても明快で、良く歌う演奏が続きます。Cに入っても悲壮感はあまり無く、暗く落ち込んで行く感じはありません。カラッとした雰囲気です。

三楽章、この楽章も弾むように軽快です。ふくよかなトリオのホルン。

四楽章、序奏の最後でゆったりしました。明るく美しい弦の響き。歌う木管。低域があまり収録されていないから軽快に聞こえるのでしょうか。トゥッティでも分厚い響きはありません。クライマックスでかなり強く吹くホルンですがスケール感はありません。コーダで吠えるホルンが凄いです。

とても良く歌う演奏は魅力的でしたが、反面演奏が軽く軽快な英雄でした。この作品はもっと重量感のあるものだと思うのですが・・・・。
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ヘルベルト・ブロムシュテット/パリ管弦楽団

ブロムシュテット★★★
一楽章、流れるような第一主題。スピード感のある演奏で、歌も十分です。提示部の反復がありました。作品の持っている荒々しさや激しさも良く表現しています。とても良く歌い、快速で進む音楽。トゥッティの厚みも申し分ないです。バットをフルスイングするような豪快なトゥッティ。かなりの燃焼度の演奏です。コーダのトランペットは楽譜通りです。

二楽章、速めのテンポですが、ほの暗い雰囲気です。一楽章のスピード感は影をひそめ、たたずむような演奏です。Bに入って透明感の高い木管が美しいです。トランペットの強奏やティンパニの強打もあり、かなり起伏の激しい音楽です。

三楽章、舞い踊るような躍動感です。見事な木管のアンサンブル。凄く表現の幅が広いトリオのホルン。それぞれの楽章にはっきりとしたカラーを持たせているようで、楽章ごとの描き分けがはっきりしています。

四楽章、とても軽やかな演奏です。良く歌い表現の幅も広いです。この楽章をとても軽く演奏しました。

楽章ごとの描き分けが見事でしたが、四楽章をすごく軽く演奏したのが、ちょっと意外でしたし、個人的には不満です。
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ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」6

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

宇野功芳/新星日本交響楽団

宇野功芳★★☆
一楽章、最初から揃わなかった。指揮者が本職ではないので、バトンテクニックがどうのこうのとは言ってはいけないのでしょう。
しかし、それにしても、推進力の無い音楽です。意味の分からないところで極端にテンポが落ちたりして、聞いていて笑ってしまいました。
極端なテンポの動きなど、宇野のやりたかったことは理解できないわけではない。ただ、指揮者としてのカリスマ性のようなものはどう考えてもないので、オケのメンバーを本気にさせることが出来なかったのではないかと思います。
これで楽員からの自発性のようなものを導き出せていたらすごい演奏になっていたかも知れない。
それでも聴くかぎりでは、オケは協力的に演奏しているようには聞こえます。
面白い演奏でした。

二楽章、日本のオケの演奏なので、楽員も真面目に演奏していて、散漫になったりはしないので、聴くのが苦痛になるようなことはありません。
テンポが動いたり、いろんなことで表現しようとすることが上滑りしている感じがあって、宇野がやりたいことを、オケが完全に昇華できていないような感じで、オケのメンバーの共感が無いのか、音楽に深みや凄みが不足しているのが残念なところです。
しかし、それは指揮が本業でない人に求めるのは酷でしょう。

三楽章、すごく遅いです。この遅さに意味を感じさせることができないところが弱さですね。アマオケが基本練習をしているような感じに聞こえてしまいます。
遅いテンポをさらに遅くする部分もあり、一般的に聞いている「英雄」像とはかなり違っています。
このテンポに緊張感を保つことができなくて、音楽が弛緩してしまっているように思います。

四楽章、奇抜な演奏でした。仕掛けがいっぱいあって、「お化け屋敷」を抜け出たときの開放感とでも言いましょうか。上質かどうかは別にして、一つのエンターテイメントだったのではないかと思います。

音楽に限らず、一つの主張を貫き通すことは大変なエネルギーが必要です。
それをやり遂げたことは、すばらしいことであり、近年何を主張しているのか、さっぱり分からない演奏が溢れていることを考えると、このようなアクの強い演奏の存在価値は十分あるのではないでしょうか。
好き嫌いは当然分かれるでしょうし、批判もあるでしょう。
また、ベートーヴェンの演奏様式とか専門的にはどうなのかは私には分かりません。
でも、面白い演奏でした。
少なくとも、私にとってはキャプランの「復活」よりも、ずっとこちらの方が良かった。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈1985★★☆
一楽章、いつものゆったりしたテンポです。音楽の振幅は1990年代の全集の演奏の方が大きいように思います。
朝比奈の演奏も年代を追うごとに深みを増して行くようで、1990年代の演奏の自然体と力強さには及ばないような気がします。

二楽章、途中、テンポを速めるところもあります。やはり、集大成へ至るプロセスの演奏のように思います。この頃はまだ迷いがあったのではないかと推察します。
自然体で、力みのない演奏にはなりきれていないところが興味深いところです。
トランペットのヴィブラートもちょっと気になります。ティンパニもテンポの変化にうまく合わせられないところもあり、朝比奈のテンポ設定も徹底されていなかったと思われます。

三楽章、

四楽章、音楽に身をゆだねることができるような、最晩年の演奏の片鱗も時々顔を出します。ただ、壮大なスケール感は感じませんでした。
それにしても、この録音の時点で77歳だった朝比奈が、この後の録音で見せた新化はすごいことだと思います。朝比奈本人が真のベートーベンを追及し続けたことも凄いことだと思います。
基本的な解釈をほとんど変えない指揮者もいますが、朝比奈は謙虚に新しい発見があれば演奏を変えて行った。

演奏の完成度と言うことからすると、この録音は過渡期の演奏のように私には思えました。

ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団 2012Proms

バレンボイム★★☆
一楽章、速めのテンポで、ゴツゴツした感じは無くフワッとした雰囲気です。適度に強弱が付けられていて弾力のある演奏です。大きくテンポを落とす部分もありました。再現部の美しいホルン。とても柔らかい響きが特徴で作品の激しさはあまり表現されません。楽譜に指定の無いティンパニのクレッシェンドや全体の音量を落としたりして、独自の表現をします。

二楽章、暖かい響きであまり哀しみを感じません。むしろ哀しみを超越した穏やかささえ感じるような演奏です。伸びやかな木管。この楽章でもティンパニが楽譜に無いクレッシェンドをしました。テンポが動いたりしますが、大きく歌うことはありません。

三楽章、元気良く躍動感のあるトリオのホルン。

四楽章、冒頭部分も荒々しさはありません。とても穏やかです。

とても柔らかく穏やかな演奏でした。本来、勇壮で激しかったり、荒々しかったり、そして哀しみの表現がある曲だと思いますが、そのような表現はほとんど無い演奏でした。
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ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★
一楽章、一聴して特徴を感じる演奏ではありませんが、意外なところでタメがあったり、トランペットが突き抜けてきたりする部分もありますが、中庸の安心感があります。
録音年代から考えると美しい音で録られています。
ただ、やはりトランペットがくせ者で、一人別世界の音楽をしているようで、おかしいです。

二楽章、リズムの処理のせいか?ちょっとはずみ過ぎるような感じで、軽く聞こえます。合奏技術は今のオケに比べると低いのですが、ワルターの音楽が泉からこんこんと湧き出すような豊かさが魅力です。
指揮者の情念を爆発させることもありませんし、強い推進力も巨大なスケール感もありませんが、穏やかな優しさが特徴です。

三楽章、ゆったりとした演奏で味わい深かった。

四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポで入りました。丁寧な音の扱いが印象に残ります。

ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

icon★★
一楽章、すごく短い音が二発・・・・・。テンポも速めです。音楽にはスピード感があります。
音楽が瑞々しく生き生きとしていて、なかなか良い演奏です。勇壮に進む音楽が魅力的です。
四分音符が単発で出てくるところの音の処理が短いのが気になります。ヨッフムの演奏では長めに余韻を作る感じさえあったのですが、ヴァントの演奏は全く反対の処理です。
音楽の流れがそこで止まるような感じがして、この処理はあまり好きになれません。

二楽章、ここでも少し速めのテンポをとっていて、心地よい演奏になっていますが、悲しみを表現しようとはあまりしていないような、開放感があります。

三楽章、非常に明るい音色のホルンです。

四楽章、ここでも、単発の音符を短く切るのが気になります。テンポはあいかわらず速めです。

私には、このヴァントの演奏が小ぢんまりした音楽に聞こえます。スケールの大きな演奏には聞こえませんでした。
オケは申し分なく上手いのですが、何か分かりませんが惹きつけられるものがありませんでした。

レオポルド・ストコフスキー/ロンドン交響楽団

icon★★
一楽章、ザラッとした肌触りの音です。音が薄い分響きが明るく、トゥッティへ向かうクレッシェンドにも勢いがあるので、音楽に生命感があります。とてもスピード感があり音楽が前へ前へ行こうとします。再現部のホルンはとても美しかったです。ストコフスキーの晩年の演奏ですが、表現が生き生きとしていて、とても若々しい演奏で驚かされます。録音年代からすると音の木目が粗い上にFレンジが狭いのが残念です。強弱のコントラストもはっきりしていて、気持ち良い演奏です。

二楽章、サラッとして、テンポも速めでリズムが跳ねるので、悲嘆にくれるような演奏ではありません。ザラついた弦の響きがすごく古い録音を聞いているような感じがしてとても気になります。後半の盛り上がる部分ではテンポを速めて、ホルンもかなり強く演奏させました。最後にはティンパニのクレッシェンドもありました。テンポはかなり大きく変わります。葬送行進曲にしてはテンポが速く、弾むような演奏なので、哀しみが込み上げるような演奏とはかなり遠い演奏す。ストコフスキーはこの楽章で何を表現したかったのだろう。

三楽章、この楽章も速いテンポで軽快に進みます。速いテンポに任せて表現もダイナミックで迷いがありません。トリオのホルンはガクッとテンポを落として雄大な演奏でした。ホルンはかなり強く主張します。テンポが速く軽快でダイナミックな主部と、テンポを落として雄大に演奏するホルンの対比が明確に表れた演奏でした。

四楽章、この楽章も速めのテンポです。速めのテンポで生命感のある演奏になっています。クライマックスの最初は弱めに入って次第に強く演奏されました。時に強奏するホルンが豪快に鳴り渡ります。

全体に、軽くサラッとした明るい演奏でした。

エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団

icon★★
一楽章、ジャリッとしたメタリックな響きの冒頭の主和音。快速に飛ばします。ドイツの響きとは明らかに違います。華やかで明るい響きです。歌は良く伝わって来ます。しなやかに流れる音楽はベートーベンの音楽ではないように感じます。テンポも動いで重く引きずるような表現もありますが、基本的には、あまり重量感のある演奏ではありません。ベートーベンの音楽って強弱の変化があって縦に動く音楽だと思うのですが、この演奏は横に流れる演奏です。ベートーベンは音楽の歴史で初めて強弱の指定を詳細にした人でもあるのですがら。溢れるような熱気が伝わって来ます。トランペットが強奏しますが、響きが浅いです。

二楽章、やはり滑らかに横に流れる音楽。音楽が深い悲しみに沈み込む感じは無く、浮遊するような演奏です。テンポが動いてアンセルメなりの共感があるのでしょうが、何か違うような違和感を感じます。ベルの前にマイクを置いたような浅いトランペットが強く鳴り響きます。

三楽章、やはりエレガントに横揺れの音楽です。もっと強いところがガツンと来ないとどうもしっくり来ません。トリオのホルンも独特の優雅な響きでした。とても良く歌い、表現意欲は高いです。

四楽章、弦は室内楽のような精緻なアンサンブルを聞かせます。木管の流麗な演奏はフランス音楽を聴いているような錯覚に陥ります。朗々と歌うホルンも独特でした。最後は僅かにアッチェレランドして、最後の音には間を置いて入りました。

アンセルメなりの共感は感じられるのですが、横に揺れるエレガントな音楽はベートーベンの音楽としては、違和感がありました。
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グスタフ・クーン/ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団

クーン★★
一楽章、僅かに速い程度のテンポですが、音楽の起伏があまり大きくありません。シルキーで美しい響きです。テンポを大きく動かしたりアゴーギクを効かせたりすることは無く、淡々と進みますが、重量感は無く軽い演奏です。提示部の反復がありました。トランペットも柔らかく、突き抜けては来ません。柔らかくフワッとした響きの演奏なのですが、反面力強いエネルギー感はあまり感じません。角張ったところの無い、女性的な優しい英雄に感じました。

二楽章、静かな主要主題。心のこもった美しい歌です。悲しみを強く表現した演奏ではありません。この楽章も淡々と進んで行きます。Bに入ってトランペットが登場してもやはり柔らかく、突き抜けて来るようなことはありません。古楽器の演奏では、トランペットが突き抜けて来るので、そういう演奏とは全く違ったアプローチなのでしょう。本来なら強く届くトランペットが柔らかいので、軟弱な英雄のような感じが付きまといます。

三楽章、ヴァイオリンなどは音量が大きくなるのですが、低音が伴わないので、ダイナミックな演奏には聞こえません。淡泊で躍動感もあまり感じません。

四楽章、音楽がその場でとどまっていて、前へ行こうとはしません。力強さが無いのです。丁寧で柔らかい演奏ではあるのですが、この作品の持つ勇壮な部分はほとんど表現されていません。コーダも勝利に湧き上がるような表現はありませんでした。

とても優しく丁寧な演奏でしたが、力強さが無く、女声的な演奏でした。終楽章のコーダも湧き上がるような表現は無く、私には燃焼度の低い演奏に感じました。
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ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」7

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

ムーティ
一楽章、団子になったような固まった音です。生き生きとした第二主題。音楽に締まりが無く、肥大したような演奏です。提示部の反復がありました。ゴージャスなフィラデルフィア・サウンドがこのような肥大した演奏を生んでいるのか、ムーティの指揮がこのような演奏を要求しているのか分かりませんが、あまりにも鈍重な演奏です。さすがに良く歌います。太い流れの外側で良く歌う音楽が奏でられています。強弱の変化にあまり敏感では無く、なんとなく流れで演奏しているような感じがします。

二楽章、哀しみを表現しようとしていますが、フワッとした暖かいサウンドが哀しみを感じさせません。美しく歌う木管。

三楽章、ムーティの指揮を見ているとかなりダイナミックに表現しようとしているようなので、音楽が鈍いのは録音の問題なのでしょうか。明るくふくよかなトリオのホルン。

四楽章、所々で間を取ってとても良く歌います。オケは強弱の変化も付けているようですが、録音が団子のようになってしまっていて、とても鈍い演奏に聞こえてしまうのがとても残念です。分厚く豊かな響きはさすがです。

歌もあって美しい木管やオケの分厚い響きなど良い面もあったのですが、録音が団子のようになった音で、ダイナミックの変化に対してとても鈍い反応で、俊敏な反応が消されてしまっていたのはとても残念で、このコンサートの実情を捉えていないと思います。
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ジャナンドレア・ノセダ/ミラノ・スカラ座管弦楽団

ノセダ
一楽章、少し速めのテンポですが、あまり抑揚の無い演奏です。提示部の反復がありました。ノセダの激しい動きの割に演奏には激しさは無く、音量がエネルギーとなって伝わって来ません。凄みや迫力を欠いた演奏のように感じます。弓をいっぱいに使って豪快に演奏しているような感じを受けません。

二楽章、この楽章では、一楽章で不満に感じたエネルギー感の無さが逆に柔らかい響きになって、癒しの音楽になっているようです。ただ、演奏自体はテンポの動きも大きな歌も無く淡々と流れて行きます。

三楽章、そこそこの演奏はしているのですが、これと言った特徴の無い演奏です。軽いトリオのホルン。

四楽章、柔らかく入って次第に盛り上がった序奏。速いテンポの変奏。木管は通る音で豊かな表情の演奏をしています。ノセダの大きな動きの指揮と、演奏が合っていないように感じます。指揮は必死ですが、オケは安全運転で、弓をいっぱいに使って最大限の表現をしようとはしていないように感じます。コーダも非常に軽い演奏です。

オケがノセダの指揮に共感していないように感じました。とても軽い演奏で、オケは安全運転で能力を最大限に発揮しようとはしていないように感じました。
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ジョン・エリオット・ガーディナー/オルケストル・レヴォリューショネール・エ・ロマンティーク

ガーディナー
一楽章、ピリオド演奏らしく鋭い弦。テンポは決して遅くはありませんが、極端に速い演奏ではありません。荒々しくはありませんが、強弱の変化はしっかりと付けられています。特徴のあるファゴットがとても良く聞こえます。良く歌いますが、テンポ設定が中途半端で、深みも無い代わりに疾走感もありません。ベートーベンの作品は貴族相手に作曲したものでは無いはずなのに、この動画では、貴族の屋敷で演奏しているようで、不自然です。

二楽章、あっさりとした主要主題。ベタベタしたティンパニ。編成が小さいためか、響きに厚みがありません。何か中途半端な印象派拭えません。ベートーベンのメトロノームの指定に従った速いテンポの猛烈な演奏でも無いし、かと言って、深く感情移入するような演奏でも無く何をしたいのか分かりません。

三楽章、豊かな表情と音色の変化が楽しめるトリオのホルン。

四楽章、音楽が停滞していて、前へ進む力がありません。聴き方によっては、優雅な演奏とも言えると思いますが、この作品の持っている力強さはありません。

ほとんどのピリオド演奏のような快速のテンポ設定では無く、音楽が停滞していて、前へ進む力強さも無く、中途半端な演奏に感じました。
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