ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」
ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は、彼の交響曲の中でも特に革新的で、クラシック音楽の歴史において重要な作品です。1803年に完成し、1805年にウィーンで初演されました。この曲は当初、ナポレオン・ボナパルトに捧げる予定でしたが、ナポレオンが皇帝となったことを知ったベートーヴェンはその野心に失望し、献呈を取り下げたという逸話が残っています。「英雄」というタイトルは、自由と理想に生きる個人の精神を讃える意味で付けられました。
曲の特徴
- 規模の大きな構成と革新性
「英雄」は、それまでの交響曲の概念を大きく変え、長大で複雑な構成を取り入れています。特に第1楽章と第4楽章のボリュームと、緻密なモチーフ展開が革新的であり、クラシック音楽の進化に大きな影響を与えました。この交響曲を機に、ベートーヴェンは作曲家としてより自由で大規模な表現を追求するようになりました。 - 強烈な感情表現と英雄的なテーマ
「英雄」というタイトルにふさわしく、曲全体に力強く、ドラマチックな表現が散りばめられています。特に第1楽章と第4楽章では、勇敢さや挑戦といった英雄的なテーマが前面に出ています。また、第2楽章の葬送行進曲は、悲しみと威厳に満ちており、理想や犠牲に生きる英雄の人生の陰影が描かれています。 - リズムとモチーフの巧みな展開
ベートーヴェンは第3番で特にリズムの展開に重点を置き、モチーフを反復しながら曲を構成する手法を取り入れています。第1楽章の強いリズムパターンや、葬送行進曲での重厚なリズムなど、各楽章で印象的なリズムが聴き手を引き込み、統一感を生み出しています。
各楽章の概要
- 第1楽章:Allegro con brio
勇壮で力強い主題が特徴の楽章で、英雄的なモチーフが繰り返され、壮大な展開が繰り広げられます。この楽章だけで20分を超える長さがあり、当時としては非常に長大でした。 - 第2楽章:Marcia funebre: Adagio assai
「葬送行進曲」と題されたこの楽章は、深い悲しみと荘厳さを兼ね備えています。英雄の死を悼むような重厚で感動的な旋律が展開され、最も感情的で陰影に富んだ部分です。 - 第3楽章:Scherzo: Allegro vivace
リズミカルで活気に満ちたスケルツォで、軽快でありながらも力強いエネルギーが感じられます。トリオ部分ではホルンが目立ち、英雄的な雰囲気が一層強まります。 - 第4楽章:Finale: Allegro molto
変奏曲形式で構成され、全体を総括する壮大なフィナーレ。各モチーフが変奏されながら展開され、劇的かつ力強いエンディングに向かって突き進みます。この楽章にはユーモラスな要素もあり、ベートーヴェンの個性が感じられます。
総評
ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は、交響曲の形式や内容を一新し、音楽史に大きな転機をもたらした作品です。その長大さやドラマティックな展開、深い感情表現が、多くの作曲家に影響を与え、ロマン派音楽の道を切り開くきっかけとなりました。ベートーヴェンの強い精神性と理想が込められた傑作として、今もなお多くの人々に愛されています。
ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記
クラウス・テンシュテット/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
テンシュテットは唯一回ザルツブルク音楽祭で、マーラーの交響曲第10番からアダージョと、ベートーヴェンの「英雄」を指揮した。このあくの強い両者はリハーサルで完全に対立し、以降の共演も予定されていたレコード録音も全て中止となった。
という、テンシュテットとウィーン・フィルとの唯一の共演の記録です。どのような演奏になっているのでしょうか。
一楽章、ウィーン・フィルの伝統と正面衝突したんでしょう。冒頭から起伏の激しい演奏です。普通の演奏では聞こえないホルンのビーンと言う音が随所に聞こえるのが、特徴的です。
完全に対立した結果としても、見事なアンサンブルを聞かせるウィーンpo。たまに突出してくるトランペットはテンシュテットへの抵抗か?やけくそのように聞こえるのはかんぐりすぎでしょうか。
二楽章、リハーサルで対立したまま本番を迎えて、これだけの演奏ができるものなのか、よく歌われていて美しい。テンポを遅めて濃厚な表現。トランペットの白玉が突き抜けてきます。
強弱の振幅も広いので、特に金管の奏者にしてみれば、厄介な指揮者だったのでしょう。まさに咆哮!
この凶暴な指揮者が円熟していたとしたら、どんな音楽をうみだしたのだろう。せめてあと7~8年長く指揮活動を続けていてくれたらと悔やまれてなりません。
三楽章、テュッティの厚みはさすがにウィーンpoです。テンシュテットのこの全集はオーケストラがいろいろですが、やはりベートーベンを演奏するとウィーンpoは堂に入るという感じがします。
ボストンsoでは、どうもしっくりこなかった。
四楽章、雄大です。それは広々とした原野ではなく、厳冬の単独峰のような孤高の雄大さです。
ウィーンpoにしてみれば、一度言い出したら聞かないやんちゃ坊主のようなものと対決したのかもしれません。しかし、一度言い出したら聞かない子供はいても、そういう大人でいることは大変な精神力なはずです。
天下のウィーンpoを相手に対立したまま本番をこなし、二度と共演しなかったと言うのが凄いことです。
テンシュテット自身が自分をいかに承認していたかの現れでもあるわけで、幼児期から愛情を受けて育ったのでしょう。
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
この演奏は、私の中学時代に自分のお小遣いで初めて買った、クラシックのLPレコードでした。
当時は、フルトヴェングラーが何者かも知らず。単にウィーンpoの演奏だったからです。擬似ステレオの意味も分からずに聴いていました。
一楽章、モノラルなので脳天をティンパニのマレットでスコーンと二発叩かれたような快感(^ ^;
音楽の高揚にともなってテンポが凄く加速するのはさすがに興奮させられます。
スタジオ録音なのに、このテンションの高さは何だ!
人生最初に買ったLPがこれだったことは、不幸なことにフルトヴェングラーのテンポの動きの特徴が分からないまま聴いていたということで、今回、多分20年ぶりぐらいに聴きなおしてはじめて凄さを理解できました。
モノラルであることを除けば、音質は最近の録音と比べても大きく落ちてはいません。多少のザラつきはありますが、そんなことよりも音楽の凄さに圧倒されます。
やはりテンポの動きは尋常ではありません。アッチェレランドが強烈に音楽のテンションを高めます。もの凄い音楽を聴いています。これはただ事ではない!
二楽章、悲しみの深淵に落ちていくような表現もすばらしい。第九はあまりの録音の悪さに途中で萎えてしまいましたが、この録音ならば全く問題なく聴けます。
音楽への没入度合いも並外れています。いろんな「英雄」を聞いてそれぞれの良さがあり、その中にもすばらしい名演にも巡り合いました。しかし、この演奏は別格です。次元が違います。
三楽章、重量級
四楽章、この楽章のテンポ設定も凄い。
また、すばらしい演奏を聴く事ができました。
ホルスト・シュタイン/ベルリン・ドイツ交響楽団
★★★★★
一楽章、音楽がぎゅーっと詰まっている感じがして、一音一音に重みがあります。アクセントもバーンと来る感じではなく、ズーンとくる感じでドイツ音楽らしいです。
音楽の重心が低くて風格を感じさせる演奏です。
オケの響きもマットで渋い響きで、この演奏に非常によく合っています。艶っぽいクラリネットのソロが魅力的でした。
オケの響きが渋い分、ffでは轟音のような凄みがあります。これはすごい「英雄」に出会ったという歓びの気持ちでいっぱいです。
彫りの深い男性的なしかも大人の「英雄」の最右翼の演奏だと思います。
二楽章、冒頭は引きずるような重さです。ホルスト・シュタインはこの楽章に自分自身を重ねているのだろうか。かみ締めるようにじっくりと、味わい深い音楽が時間が止まったかのようにゆっくりゆっくり流れて行きます。
自分自身の生涯を思い返しながらの演奏のように感じられてなりません。葬送行進曲でありながら、慈しむような優しさが溢れています。
これだけテンポが遅くても音楽が弛緩しません。むしろこのテンポが緊張感を高めているのかもしれません。
非常に味わい深い演奏でした。
三楽章、質実剛健、カラヤンのような豪華絢爛な演奏とは対照的です。カラヤンの演奏に比較すると、モノトーンのような色彩感覚の乏しい演奏かもしれませんが、その分脇目も振らずに音楽そのものに没入している演奏です。
四楽章、芯は太くごついですが、旋律の歌わせ方などは、しなやかな表現が随所に聞かれます。
テンポは微妙に揺れていますがとても自然です。ホルンの咆哮もありません。派手な演出を期待したらことごとく裏切られます。聴衆にこびるようなことは全くしません。
実に潔い演奏で、気持ちが良い。
静かに、拍手がはじまって、フェードアウトするときにブラボーが聞こえてきました。
まさにそんな演奏でした。演奏が終わってもすぐに拍手するよりも、余韻を楽しみたい演奏でした。
また、すばらしい「英雄」に出会いました。
朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、新日本poとのライブより数年後の録音です。
適度にホールトーンを含んだ美しい音で録られています。新日本poとの録音よりも残響成分が少ないようで、楽器それぞれの音がよく聞こえます。
新日本poとの演奏で感じた自然体の雄大さよりも艶やかで艶めかしい演奏のように感じます。歳は重ねていますが、生気に満ち溢れています。
それでいて、巨匠の風格も兼ね備えた堂々と正攻法の「英雄」の演奏になっています。
友人が朝比奈の大ファンなので、一連の朝比奈のCDは友人から借りて聞いているのですが、朝比奈がこんなにすばらしいベートーヴェンを演奏していたとは想像もしていませんでしたので、大変嬉しい驚きでした。
木管楽器の生き生きとして瑞々しい表情なども、とても魅力的です。
激しく凶暴な演奏ではないけれど、どっしり構えた王者の風格さえ感じられる、すばらしい演奏です。
十分な熱気もあり音楽が高揚します。金管の咆哮もなかなかのものです。音楽の彫りの深さは、旧盤よりも、こちらの方が上です。
二楽章、非常に重々しい葬送行進曲です。歌にも溢れています。重々しい出だしから頂点への高揚感もすばらしい。これだけ作品への思いを込めた演奏にめぐり合えるのもなかなかないのではないだろうか。
すばらしい。とにかくすばらしい。まだ演奏途中ですが、このCDは絶対お勧めです。
大阪poがこんなに上手いというのも初めて知りました。
三楽章、音楽が生き物のように有機的に絡み合って進行していく。これだけ深い「英雄」の演奏ははじめて経験するかもしれない。
私は、数多いベートーヴェンのCDの一部しかまだ聞いていませんが、今のところ。思いのたけをぶつけてくるテンシュテットと堂々として雄大な朝比奈が双璧のように思います。
四楽章、遅めのテンポで堂々と演奏されるフィナーレは圧巻。最高でした。
聴衆の感動の嵐も納得の大熱演!
カール・ベーム/バイエルン放送交響楽団
★★★★★
一楽章、オケが一体になって音楽を作っている感覚がとても良いです。オケのメンバーがベームを向いて演奏しています。音楽が生き生きしています。
ベームのスタジオ録音からは聴く事ができない空気感や一体感や緊張感がすばらしい。
すごく歌う木管。それを支える骨格がガチッと決まっていて安定感も抜群です。
ベームの演奏なので、ライブと言えども大きくテンポが動くことはありませんが、音楽の高揚に合わせてテンポが速くなったりもします。また、音自体にもスピート感もあり、この点でもスタジオ録音では聴けない演奏を聴くことが出来ます。
ウィーンpoとのライブ以上に熱い演奏だと思います。ベームがこれほどまで熱い演奏をしているとは知りませんでした。
二楽章、一つ一つの表現にもベームの徹底ぶりは凄いものがあります。音楽の振幅も大きいです。ただ、悲嘆にくれるような悲しみの深淵へ落ちていくような演奏ではないような気がします。
三楽章、ホルンがとても美しい。ベームと言うとウィーンpoの印象が強いですが、このバイエルン放送soとの演奏はすばらしいです。
四楽章、豊かな残響を伴って、美しい音楽が進んで行きます。それにしても、骨格のがっちりした演奏です。ベームの構成力の凄さも初めて聴いたかもしれません。
それほど、スタジオ録音しか聴く機会がなかったので、このCDはとても貴重です。
骨格はしっかりしていますが、その上に乗っかっているメロディなどはとてもしなやかで美しいです。
堂々としたすばらしい演奏でした。また、名演奏が一つ加わりました!
カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1973年ザルツブルクライヴ
★★★★★
一楽章、一体感のある良い演奏です。冒頭の二つの音は、出るタイミングを探りながら出した音で、微妙なズレが面白かった。オケの音色の統一感もすばらしい。華やかな音ではありませんが、渋い音で統一されています。ウィーンpoは他のオケとは楽器そのものが違うので、独特の響きがとても良いです。ウィンナ・ホルンもベートーベンにはピッタリです。演奏は疾走感はあまり無く、しっかりと地に足が着いています。再現部の前あたりから、音楽が熱気を帯びてきて金管の激しい響きが聞かれます。フレーズの歌いまわしも控えめながらも、しっかり統一されていて、ベームの統率力が感じられます。やはり、ベームのスタジオ録音では聴く事ができない熱気があります。ベームの演奏ですから、爆演には絶対になりませんが、内に秘めたマグマのような熱さがジワーッと迫ってきます。
二楽章、一楽章とは対照的に遅いテンポでグッと沈み込むような深い音楽です。微妙に動くテンポもライブならではです。これだけ悲嘆にくれるような悲しみを表現した演奏もはじめてかもしれません。非常に心のこもった美しい木管。リタルダンドがとても効果的で金管などはとても濃厚です。クライマックスでのホルンのエネルギーも凄いです。やはり、このようなテンポの動きなどはライブならではの良さです。ベームの本当の音楽が聴けるのはすごく嬉しいです。
三楽章、集中力の高い弦のアンサンブル。爆発するトゥッティ。トリオのホルンも美しい。全体の響きにも透明感があります。
四楽章、強いエネルギーが発散される冒頭。テンポの動きも阿吽の呼吸があるように聞こえます。一つ一つの表現も徹底されているようで、演奏が厳しく美しい。激しい金管の咆哮!スタジオ録音では絶対に聞けない燃えるベームです。がっちりとした堅牢な骨格の上にメロディが乗る安定感も、この時代の指揮者の中ではベームが突出していたのではないかと思います。雄大なコーダ、すばらしい燃焼度でした。聴いているこちらも熱くなってくる「英雄」でした。
最近、あまり名前を聞かなくなってしまったベームですが、このような燃焼度の高いライブ録音を正規音源として発売して欲しいです。スタジオ録音ではベームの良さは分かりません。
朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団2000年
★★★★★
大阪ライブ
一楽章、いつものゆったりしたテンポです。華美にはなりませんが、艶やかな弦が美しい。
ゆったりしたテンポでも音楽は弛緩することなく前進しています。ただ、音楽の力強さは1996~7年の全集の盤の方が上回っているように思います。
響きはすっきりしていて清涼感があります。ねちっこい歌いまわしもありませんので、テンポは遅いですが、しつこさはなく聴きやすい演奏です。
二楽章、この楽章もテンポは遅めですが、ねばることもなく、比較的あっさりとしています。悲しみを演出するようなこともなく、作品自体に語らせるような自然な演奏です。
自然体で自然に盛り上がって、こちらも次第に熱くなる演奏かできるのは凄い。
朝比奈のキャラクターが濃くないので、作品に身を任せることができるので、このような演奏はとても好きです。
やるのなら、テンシュテットのようにオケを引きずり回すくらいに主張して欲しいし、自然体ならばそれで徹底して欲しいです。
中途半端な演奏が一番理解しにくいし、共感もできなくなるように思っています。
三楽章、オケも二楽章の後半あたりから目が覚めたように生き生きとしてきました。
四楽章、弦楽器や木管の旋律がとても表情豊かで生き生きとしています。雄大です。
この広々とした雄大さは朝比奈ならではのすばらしさだと思います。
東京ライブ
一楽章、ホールの響きが豊かです。音のスピード感は大阪の演奏よりもこちらの方があるような感じです。
音楽の振幅もこちらの方が大きいです。トランペットの咆哮などは大阪のライブでは聴かれなかった面です。
テンポも朝比奈の即興でしょうか、微妙に動くところも大阪のライブではあまり無かったと思います。
また、音楽が前へ前へと行こうとするところも目立ちます。前へ行こうとし過ぎて、ちょっと詰まった感じになる部分も若干ありますが、前進するエネルギーを評価しましょう。
二楽章、ここでもテンポの動きがあります。このテンポの動きも自然に出てきたもののようで、不自然さは全くありません。
情感に満ちた演奏です。トランペットの強奏はすごいです。大阪の演奏とこんなにも違うとは思いませんでした。大阪poのメンバーもおのぼりさんか?
ホルンもすばらしい音で鳴っています。すごい燃焼度です。
テンポは遅いけれど、次々に波が押し寄せるような息付く暇を与えないエネルギーです。
三楽章、大阪のライブでは何となく通り過ぎた箇所にも思い入れたっぷりで、自然に演奏に集中しています。
ホールの響きも豊かなので、ホルンのトリオもなかなか良いです。
やはり推進力が大阪ライブとは格段に違います。
四楽章、新日本poとのライブは全くの自然体で力みのない演奏でしたが、この演奏は激しささえも感じる凄さがあります。
こうやって、二つのライブを続けて聴いてみると、気合の入り方が全然違います。このライブは凄い!
デヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
★★★★★
一楽章、すごく豊かで暖かい響きです。テンポは予想通り速いです。ベーレンライター版によるものなのか、ジンマンの解釈によるものか、聴きなれた音の扱いとはかなり違います。
アクセントやアクセントの後の音を小さく演奏するなど、とても変わっています。ティンパニはバロックティンパニを使っているのか、硬い撥で叩いているようで、この音が小気味よい感じで演奏を締めています。
反復ありで15:37はやはり速いですね。これまでの「英雄」に対するイメージを覆されるような演奏で、面白いです。
突然ティンパニに強打が連続したり・・・・・。何度も聴く気になるかは分かりませんが、初回はとても楽しいです。次に何が起こるかワクワクしてきます。
こんな演奏をしているジンマンは不謹慎か?
二楽章、オーボエの旋律に今まで聞いたことの無い音が付加されているようで、ちょっと滑稽な旋律になっています。
スタッカートやアクセントが多い演奏で、葬送行進曲のテーヌートのイメージには遠いです。
マーラーの「復活」でもこのオケは上手いと思いましたが、この演奏もすごいです。
昨今では、世界中のオケの水準が上がっているので、超一流と言われるオケとその次に来るようなオケとの差が確実に詰まっていると思います。
以前、アフリカかどこかの部族がすごく賑やかな葬式をしている場面が放送されたのを見たことがありますが、それとダブるような感じさえする演奏です。ティンパニの強打もそれをさらに印象付けるような感じさえします。
三楽章、この楽章ももちろん速いですが、スピード感も伴っていて結構良いです。
面白い!
世に流通している演奏を規範とすれば、この演奏はとんでもない異端児だろうと思いますが、これだけ好き放題の演奏をされると、楽しいです。私は、この演奏は存在するに値すると思います。何も主張をしない演奏よりも、時として滑稽な部分があっても、全く違ったヘートーヴェン像を作ろうとする姿には賛辞を贈りたいと思います。
四楽章、室内楽のように弦のパートを減らして演奏する部分があって、ここもこれまでに聴いたどの演奏にもない部分で、興味深いものでした。とても楽しめます。
これまでの重厚なベートーヴェンとは全く違います。最初に聴く方にはお勧めできませんが、名演奏と言われるCDをいくつか聴いた後に、是非聴いて見てください。