ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」6
たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記
宇野功芳/新星日本交響楽団
★★☆
一楽章、最初から揃わなかった。指揮者が本職ではないので、バトンテクニックがどうのこうのとは言ってはいけないのでしょう。
しかし、それにしても、推進力の無い音楽です。意味の分からないところで極端にテンポが落ちたりして、聞いていて笑ってしまいました。
極端なテンポの動きなど、宇野のやりたかったことは理解できないわけではない。ただ、指揮者としてのカリスマ性のようなものはどう考えてもないので、オケのメンバーを本気にさせることが出来なかったのではないかと思います。
これで楽員からの自発性のようなものを導き出せていたらすごい演奏になっていたかも知れない。
それでも聴くかぎりでは、オケは協力的に演奏しているようには聞こえます。
面白い演奏でした。
二楽章、日本のオケの演奏なので、楽員も真面目に演奏していて、散漫になったりはしないので、聴くのが苦痛になるようなことはありません。
テンポが動いたり、いろんなことで表現しようとすることが上滑りしている感じがあって、宇野がやりたいことを、オケが完全に昇華できていないような感じで、オケのメンバーの共感が無いのか、音楽に深みや凄みが不足しているのが残念なところです。
しかし、それは指揮が本業でない人に求めるのは酷でしょう。
三楽章、すごく遅いです。この遅さに意味を感じさせることができないところが弱さですね。アマオケが基本練習をしているような感じに聞こえてしまいます。
遅いテンポをさらに遅くする部分もあり、一般的に聞いている「英雄」像とはかなり違っています。
このテンポに緊張感を保つことができなくて、音楽が弛緩してしまっているように思います。
四楽章、奇抜な演奏でした。仕掛けがいっぱいあって、「お化け屋敷」を抜け出たときの開放感とでも言いましょうか。上質かどうかは別にして、一つのエンターテイメントだったのではないかと思います。
音楽に限らず、一つの主張を貫き通すことは大変なエネルギーが必要です。
それをやり遂げたことは、すばらしいことであり、近年何を主張しているのか、さっぱり分からない演奏が溢れていることを考えると、このようなアクの強い演奏の存在価値は十分あるのではないでしょうか。
好き嫌いは当然分かれるでしょうし、批判もあるでしょう。
また、ベートーヴェンの演奏様式とか専門的にはどうなのかは私には分かりません。
でも、面白い演奏でした。
少なくとも、私にとってはキャプランの「復活」よりも、ずっとこちらの方が良かった。
朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団
★★☆
一楽章、いつものゆったりしたテンポです。音楽の振幅は1990年代の全集の演奏の方が大きいように思います。
朝比奈の演奏も年代を追うごとに深みを増して行くようで、1990年代の演奏の自然体と力強さには及ばないような気がします。
二楽章、途中、テンポを速めるところもあります。やはり、集大成へ至るプロセスの演奏のように思います。この頃はまだ迷いがあったのではないかと推察します。
自然体で、力みのない演奏にはなりきれていないところが興味深いところです。
トランペットのヴィブラートもちょっと気になります。ティンパニもテンポの変化にうまく合わせられないところもあり、朝比奈のテンポ設定も徹底されていなかったと思われます。
三楽章、
四楽章、音楽に身をゆだねることができるような、最晩年の演奏の片鱗も時々顔を出します。ただ、壮大なスケール感は感じませんでした。
それにしても、この録音の時点で77歳だった朝比奈が、この後の録音で見せた新化はすごいことだと思います。朝比奈本人が真のベートーベンを追及し続けたことも凄いことだと思います。
基本的な解釈をほとんど変えない指揮者もいますが、朝比奈は謙虚に新しい発見があれば演奏を変えて行った。
演奏の完成度と言うことからすると、この録音は過渡期の演奏のように私には思えました。
ダニエル・バレンボイム/ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団 2012Proms
★★☆
一楽章、速めのテンポで、ゴツゴツした感じは無くフワッとした雰囲気です。適度に強弱が付けられていて弾力のある演奏です。大きくテンポを落とす部分もありました。再現部の美しいホルン。とても柔らかい響きが特徴で作品の激しさはあまり表現されません。楽譜に指定の無いティンパニのクレッシェンドや全体の音量を落としたりして、独自の表現をします。
二楽章、暖かい響きであまり哀しみを感じません。むしろ哀しみを超越した穏やかささえ感じるような演奏です。伸びやかな木管。この楽章でもティンパニが楽譜に無いクレッシェンドをしました。テンポが動いたりしますが、大きく歌うことはありません。
三楽章、元気良く躍動感のあるトリオのホルン。
四楽章、冒頭部分も荒々しさはありません。とても穏やかです。
とても柔らかく穏やかな演奏でした。本来、勇壮で激しかったり、荒々しかったり、そして哀しみの表現がある曲だと思いますが、そのような表現はほとんど無い演奏でした。
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ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団
★★
一楽章、一聴して特徴を感じる演奏ではありませんが、意外なところでタメがあったり、トランペットが突き抜けてきたりする部分もありますが、中庸の安心感があります。
録音年代から考えると美しい音で録られています。
ただ、やはりトランペットがくせ者で、一人別世界の音楽をしているようで、おかしいです。
二楽章、リズムの処理のせいか?ちょっとはずみ過ぎるような感じで、軽く聞こえます。合奏技術は今のオケに比べると低いのですが、ワルターの音楽が泉からこんこんと湧き出すような豊かさが魅力です。
指揮者の情念を爆発させることもありませんし、強い推進力も巨大なスケール感もありませんが、穏やかな優しさが特徴です。
三楽章、ゆったりとした演奏で味わい深かった。
四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポで入りました。丁寧な音の扱いが印象に残ります。
ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団
★★
一楽章、すごく短い音が二発・・・・・。テンポも速めです。音楽にはスピード感があります。
音楽が瑞々しく生き生きとしていて、なかなか良い演奏です。勇壮に進む音楽が魅力的です。
四分音符が単発で出てくるところの音の処理が短いのが気になります。ヨッフムの演奏では長めに余韻を作る感じさえあったのですが、ヴァントの演奏は全く反対の処理です。
音楽の流れがそこで止まるような感じがして、この処理はあまり好きになれません。
二楽章、ここでも少し速めのテンポをとっていて、心地よい演奏になっていますが、悲しみを表現しようとはあまりしていないような、開放感があります。
三楽章、非常に明るい音色のホルンです。
四楽章、ここでも、単発の音符を短く切るのが気になります。テンポはあいかわらず速めです。
私には、このヴァントの演奏が小ぢんまりした音楽に聞こえます。スケールの大きな演奏には聞こえませんでした。
オケは申し分なく上手いのですが、何か分かりませんが惹きつけられるものがありませんでした。
レオポルド・ストコフスキー/ロンドン交響楽団
★★
一楽章、ザラッとした肌触りの音です。音が薄い分響きが明るく、トゥッティへ向かうクレッシェンドにも勢いがあるので、音楽に生命感があります。とてもスピード感があり音楽が前へ前へ行こうとします。再現部のホルンはとても美しかったです。ストコフスキーの晩年の演奏ですが、表現が生き生きとしていて、とても若々しい演奏で驚かされます。録音年代からすると音の木目が粗い上にFレンジが狭いのが残念です。強弱のコントラストもはっきりしていて、気持ち良い演奏です。
二楽章、サラッとして、テンポも速めでリズムが跳ねるので、悲嘆にくれるような演奏ではありません。ザラついた弦の響きがすごく古い録音を聞いているような感じがしてとても気になります。後半の盛り上がる部分ではテンポを速めて、ホルンもかなり強く演奏させました。最後にはティンパニのクレッシェンドもありました。テンポはかなり大きく変わります。葬送行進曲にしてはテンポが速く、弾むような演奏なので、哀しみが込み上げるような演奏とはかなり遠い演奏す。ストコフスキーはこの楽章で何を表現したかったのだろう。
三楽章、この楽章も速いテンポで軽快に進みます。速いテンポに任せて表現もダイナミックで迷いがありません。トリオのホルンはガクッとテンポを落として雄大な演奏でした。ホルンはかなり強く主張します。テンポが速く軽快でダイナミックな主部と、テンポを落として雄大に演奏するホルンの対比が明確に表れた演奏でした。
四楽章、この楽章も速めのテンポです。速めのテンポで生命感のある演奏になっています。クライマックスの最初は弱めに入って次第に強く演奏されました。時に強奏するホルンが豪快に鳴り渡ります。
全体に、軽くサラッとした明るい演奏でした。
エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団
★★
一楽章、ジャリッとしたメタリックな響きの冒頭の主和音。快速に飛ばします。ドイツの響きとは明らかに違います。華やかで明るい響きです。歌は良く伝わって来ます。しなやかに流れる音楽はベートーベンの音楽ではないように感じます。テンポも動いで重く引きずるような表現もありますが、基本的には、あまり重量感のある演奏ではありません。ベートーベンの音楽って強弱の変化があって縦に動く音楽だと思うのですが、この演奏は横に流れる演奏です。ベートーベンは音楽の歴史で初めて強弱の指定を詳細にした人でもあるのですがら。溢れるような熱気が伝わって来ます。トランペットが強奏しますが、響きが浅いです。
二楽章、やはり滑らかに横に流れる音楽。音楽が深い悲しみに沈み込む感じは無く、浮遊するような演奏です。テンポが動いてアンセルメなりの共感があるのでしょうが、何か違うような違和感を感じます。ベルの前にマイクを置いたような浅いトランペットが強く鳴り響きます。
三楽章、やはりエレガントに横揺れの音楽です。もっと強いところがガツンと来ないとどうもしっくり来ません。トリオのホルンも独特の優雅な響きでした。とても良く歌い、表現意欲は高いです。
四楽章、弦は室内楽のような精緻なアンサンブルを聞かせます。木管の流麗な演奏はフランス音楽を聴いているような錯覚に陥ります。朗々と歌うホルンも独特でした。最後は僅かにアッチェレランドして、最後の音には間を置いて入りました。
アンセルメなりの共感は感じられるのですが、横に揺れるエレガントな音楽はベートーベンの音楽としては、違和感がありました。
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グスタフ・クーン/ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団
★★
一楽章、僅かに速い程度のテンポですが、音楽の起伏があまり大きくありません。シルキーで美しい響きです。テンポを大きく動かしたりアゴーギクを効かせたりすることは無く、淡々と進みますが、重量感は無く軽い演奏です。提示部の反復がありました。トランペットも柔らかく、突き抜けては来ません。柔らかくフワッとした響きの演奏なのですが、反面力強いエネルギー感はあまり感じません。角張ったところの無い、女性的な優しい英雄に感じました。
二楽章、静かな主要主題。心のこもった美しい歌です。悲しみを強く表現した演奏ではありません。この楽章も淡々と進んで行きます。Bに入ってトランペットが登場してもやはり柔らかく、突き抜けて来るようなことはありません。古楽器の演奏では、トランペットが突き抜けて来るので、そういう演奏とは全く違ったアプローチなのでしょう。本来なら強く届くトランペットが柔らかいので、軟弱な英雄のような感じが付きまといます。
三楽章、ヴァイオリンなどは音量が大きくなるのですが、低音が伴わないので、ダイナミックな演奏には聞こえません。淡泊で躍動感もあまり感じません。
四楽章、音楽がその場でとどまっていて、前へ行こうとはしません。力強さが無いのです。丁寧で柔らかい演奏ではあるのですが、この作品の持つ勇壮な部分はほとんど表現されていません。コーダも勝利に湧き上がるような表現はありませんでした。
とても優しく丁寧な演奏でしたが、力強さが無く、女声的な演奏でした。終楽章のコーダも湧き上がるような表現は無く、私には燃焼度の低い演奏に感じました。
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