カテゴリー: チャイコフスキー:序曲「1812年」名盤試聴記

チャイコフスキー 序曲「1812年」

チャイコフスキーの序曲「1812年」は、1880年に作曲された壮大な作品で、ナポレオン率いるフランス軍がロシアに侵攻し、ロシア軍がモスクワを防衛した「祖国戦争」を描いた音楽です。この曲はロシアの勝利を記念して書かれ、モスクワでの救世主ハリストス大聖堂の落成式で演奏されることを目的としていました。演奏に大砲が使われるなど、特別な演出が取り入れられていることでも有名で、今では祝祭的な場面や花火大会などで演奏される人気の曲です。

曲の構成と特徴

「1812年」は、戦争の緊張感やロシアの勝利への歓喜がドラマチックに描かれ、ロシア民謡やフランス国歌などを取り入れた印象的な構成となっています。

  1. 導入部
    静かな序奏で始まり、ロシア正教の聖歌「主よ、人々の救いを」を引用しています。この聖歌は、侵略者からの守護を祈るロシア国民の祈りを象徴しており、悲壮感と敬虔な雰囲気が漂います。静かで荘厳な導入部から、次第に戦いの緊張が高まっていきます。
  2. 戦いの描写
    導入部が終わると、フランス軍の侵攻を表現する緊張感あふれるテーマが現れます。ここでは、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が引用され、フランス軍の進軍と勢いを象徴しています。「ラ・マルセイエーズ」が力強く演奏される一方で、ロシアの旋律が不安定に絡み合い、激しい戦闘が展開されるような緊迫感が感じられます。
  3. ロシア軍の反撃と勝利
    フランスの進撃に対するロシアの抵抗が次第に強まり、やがてフランス軍が退却する様子が描かれます。この場面では、ロシアの民謡や伝統的なメロディが力強く響き、祖国を守ろうとするロシア軍の勇ましさが表現されています。
  4. クライマックスと祝祭
    終盤にはロシアの勝利を祝う壮大なクライマックスが登場し、再び聖歌「主よ、人々の救いを」が勝利のテーマとして力強く演奏されます。ここで大砲が鳴り響き、鐘が鳴り渡る演出が加わり、戦争の勝利と平和の訪れを華々しく祝う雰囲気が最高潮に達します。この迫力あるフィナーレでは、ロシアの勝利と平和への祈りが力強く響き渡ります。

音楽的意義と評価

序曲「1812年」は、チャイコフスキーの愛国心と、ロシアの歴史や文化に対する深い敬意が込められた作品です。戦争の緊張感と勝利の歓喜を壮大に表現し、聴く者に強い印象を与えます。この曲は、特に野外演奏や祝典で人気があり、実際の大砲の発射や教会の鐘の音を取り入れることで、視覚と聴覚の両方で楽しめるエンターテインメント性の高い作品となっています。

チャイコフスキー自身はこの作品に対して少し距離を置いていたとされ、「外向きの劇的表現に偏った作品」として純粋な芸術性を感じにくいと考えていたようです。しかし、その劇的で圧倒的なスケール感と華やかさから、今ではチャイコフスキーの代表作の一つとされ、多くの人々に愛されています。

たいこ叩きのチャイコフスキー 序曲「1812年」名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
Largo速いテンポですが、ドン・コサック合唱団の合唱がナポレオン軍が迫りくる悲壮感を上手く表現しています。弦だけの演奏よりも盛り上がりが凄く振幅の大きい表現です。このような小品に対するカラヤンの演出力はさすがです。オケが入ってからはテンポを速めにとってグイグイと音楽を進めて行きます。分厚い響きです。Andanteスネアはすごく締まった音で良いです。速めのテンポで音楽が弛緩することなく、とても良く歌い聞き手を惹きつけます。Allegro giusto戦闘部分もすごくテンポが速いですが、飽きさせることなく音楽を聴かせてくれます。マットで近い金管が大迫力です。とても良く歌う第二主題。ロシア民謡も歌心いっぱいです。二度目の戦闘部分も速いテンポで一気に進みます。響きが分厚く次から次からと泉のように音楽が湧き出してくるようです。シンバルがとても良い音で鳴っています。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズが響きを伴ってとても美しいです。金管が近くなったり遠くなったりするのはマルチマイクのミキシングのせいか?いかにも作り物っぽい大砲です。とにかくテンポが速い!弦が駆け降りるメロディを演奏する前に大きく加速とクレッシェンドをしました。駆け降りる弦もとても厚みがあります。Largoパイプオルガンでも鳴っているかのような鐘の響き。オケのフルパワーを印象付けるようにシンバルが埋もれるように弱く叩いています。Allegro vivaceやはり作り物っぽい大砲です。スネアのオープンロールが美しいです。

1812年を一気に聴かせてくれました。表現力豊かな演奏で分厚い響きでしかもオケが抜群に上手い!ただ、録音が古いためにミキシングでいじり過ぎて金管が近くなったり遠くなったりするところがが唯一の欠点か?

サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
Largoゆっくりとしたテンポで感情のこもった開始です。バレンボイムとの演奏よりも息が合っているようです。不安げな雰囲気も表現されています。まだ余裕を残しているのでしょうが、十分に鳴る金管です。Andante締まったスネアが良い音です。後のホルンは締まった響きです。Allegro giusto戦闘場面はテンポが速いです。金管と弦はバランスが取れています。ロシア民謡は速いテンポのままさらりと過ぎて行きました。二度目の戦闘場面は不穏な空気から始まります。金管は抑え気味です。速めのテンポですが、良く歌う第二主題。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは明るく締まった響きです。これもリアル感のある大砲でオケを覆い隠すぐらいの音量でした。駆け下りるような音形でもあまりエネルギー感は落ちずにそのままの勢いでした。Largo鐘の音がかなり強調されています。オケは少し奥に引っ込んでいるような感じです。トランペットのハイトーンが突き抜けて来ます。Allegro vivaceロシア国歌はトロンボーン全開ですが、大砲がかなり強いバランスで鳴っています。終わりにかけて少しテンポを速めて最後にぐっとテンポを落として終りました。

充実したオケの響き。たっぷりと歌う部分とあっさりと過ぎて行く部分のコントラストもありました。大砲や鐘などの鳴り物を強調した録音も祝典的な雰囲気を盛り上げています。それにしてもシカゴsoのパワー全開は凄いです。

ムスティラフ・ロストロポーヴィチ/バイエルン放送交響楽団

ロストロポーヴィチ★★★★★
Largo息が長くたっぷりと歌います。暖かい木管。オーボエもとても良く歌います。スケールの大きな表現の金管。Andanteとても音量を抑えたスネア。ゆっくり目のテンポでギャロップのような歩みです。Allegro giustoここでもゆっくりとしたテンポで演奏します。サラッとした爽やかな響きです。この盛り上がりの終盤では熱い響きになりました。音量を抑えた第二主題ですが、ここでも感情のこもった歌を聞かせます。ロシア民謡も歌っています。二度目の戦闘シーンの冒頭はあまり不穏な空気はありません。金管はかなり余裕を残しています。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは浅く明るい響きです。オケは全開になります。駆け下りるような音形へ向けてクレッシェンドがあり、弦だけになると少し音量が落ちました。Largoゆったりとしたテンポで充実した分厚い響きです。鐘は柔らかく遠くで鳴っているような感じです。Allegro vivace大砲は実射のようです。堂々としたテンポで終わりました。

ゆったりとしたテンポで豊かに歌い、トゥッティでは堂々とした分厚い響きの熱演でした。あまり期待していなかったのですが、なかなかの演奏でした。
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エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団

スヴェトラーノフ★★★★★
Largoゆっくりとしたテンポでたっぷりと歌う弦ですが、少し高域が持ち上がっているような録音のように感じます。起伏の大きい第一主題。頭の音を強いアクセントで演奏するヴァイオリン。ギンギンに鳴る金管。Andante歯切れのいい木管。メロディの最後の音を強く演奏するホルン。Allegro giusto物凄く激しい演奏です。テンポも速い。いかにも戦闘場面を描写しているような感じです。金管もかなり激しく演奏しています。とても感情を込めて歌う第二主題。ねっとりとした表現です。速いテンポのロシア民謡。二度目の戦闘シーンは不穏な空気に包まれます。そして、とても動きのあるオケ。金管の咆哮。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズはふくよかで明るい響きです。そして全開になるオケ。大砲は大太鼓で代用しているようであまり大きくは聞こえません。駆け下りるような音形の手前で一旦音量を落としてクレッシェンドしました。そのままの勢いで弦の駆け下りる音形にはいります。Largo明るく全開のトランペット。鐘はカリヨンのようにはっきりとした音で一音一音がはっきりしています。Allegro vivaceグリンカの歌劇「イワン・スサーニン」に差し替えられています。

スヴェトラーノフらして力強い演奏でした。とても表現力豊かで戦闘場面の描写もとても良かったと思います。第二主題の歌も心のこもったものでした。大砲の音はあまり聞こえなくて、効果をあまり狙わずに正面から作品と対峙したもののようです。高域が持ち上がった録音の効果で激しさが増して聞こえたのかも知れません。
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ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団

ゲルギエフ★★★★★
Largoゆっくりと柔らかい音色で切々と語りかけて来ます。金管も柔らかい響きで深みがあります。Andante大きめの音量で演奏される木管とホルン。弦が入るとホルンは弱くなります。Allegro giusto弱い音から始まり、すぐにガツガツと刻む弦が登場します。厚みのあるホルン。トランペットがマルカードぎみに演奏しました。シンバルが長い尾を引いて美しく響きます。第二主題はテンポの揺れもあって豊かに歌います。厚みのある響きです。ロシア民謡はゆっくりとしたテンポですがあっさりと演奏しています。二度目の戦闘シーンは落ち着きのないザワザワとした胸騒ぎのような表現から始まります。響きも分厚く金管もかなり強く吹いています。二度目のロシア民謡は速いテンポでした。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズはふくよかでとても柔らかい響きでした。全開になるオケ。大砲はあまり迫力はありませんでした。駆け下りる音形に向かってクレッシェンドとアッチェレランドで弦の駆け下りる音形に突入しました。弦だけになっても音量は落ちません。Largoトランペットの咆哮はかなりです。鐘はカチカチと響くカリヨンと大きく低い響きのものが組み合わさっています。Allegro vivace賑やかに堂々と終わりました。

分厚い響きと豊かな表現で、強弱の振幅も大きな演奏でした。マリインスキーのオケがこれだけ分厚い響きの演奏をすることに驚きました。この作品は特に戦闘シーンのオーケストレーションが薄いと思うので、この部分を厚く聞かせる演奏はなかなか良いと思います。
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レオポルド・ストコフスキー/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ストコフスキー★★★★★
Largo冒頭からいきなりストコフスキー節です。テンポや強弱が大きく変化します。テンポが遅くなって引いて行く表現がとても良いです。金管はかなり強く演奏します。Andanteほとんど木管だけが聞こえます。弦が入って木管が抜けるとようやくホルンが聞こえます。突然のホルンの咆哮。Allegro giustoゆっくりとしたテンポですが、アクセントを強くしっかりと演奏します。低音楽器の動きも分かり響きの薄さはあまり感じません。金管はかなり強く演奏しています。揺れるように大きく歌う第二主題。とても遅いテンポですが、飽きさせずに聞かせます。ロシア民謡もゆっくりとしたテンポで、少し寂しさを感じさせる表現です。二度目の戦闘シーンは一回目よりもテンポを速めています。弦が積極的な表現をしています。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズはミュートしているようです。大砲は人工的な音でした。少しクレッシェンドとアッチェレラントして駆け下りるような音形に入りました。Largoは入りは遅かったのですが、すぐに少しテンポが速くなりました。鐘はカラカラと賑やかに鳴っています。Allegro vivaceロシア国歌は合唱になります。途中でオケがフェード・インして来ます。最後は鐘だけが残ってフェード・アウトして終わります。

この曲でもストコフスキー節全開でした。交響曲などでこの表現をされると途中で辟易することもありますが、このような曲なら抵抗なく聞くことができます。大きな表現や仕掛けも面白く聞けるものでした。オケの響きも低域がしっかりと支えているもので厚みがありました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:序曲「1812年」の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 序曲「1812年」2

たいこ叩きのチャイコフスキー 序曲「1812年」名盤試聴記

リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

ムーティ★★★★☆
ゆっくりとしたテンポでたっぷりと歌うLargo。一抹の寂しさを感じさせる演奏は迫りくるナポレオン軍に対する恐れを表現しているのでしょうか。トロンボーンは思いっきり強く入って来ます。Andanteでは激しく吹かれるホルン。Allegro giusto金管の後ろで演奏される弦の嵐のような激しさや厚みがありません。金管は良く鳴っています。第二主題は優雅に美しく歌われます。ロシア民謡風の旋律は泥臭い表現でした。大太鼓は力のある響きですが、シンバルは貧弱です。実射をミキシングしたような大砲の音はなかなかリアルでした。Largo輝かしい金管と壮麗に鳴り響く鐘の音がとても良いです。Allegro vivace力強くロシア国家が吹奏されて終わりました。

充実したフィラデルフィアサウンドで豪華な演奏でした。ただ、弦の響きが若干薄かったのが唯一残念なところでした。
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ズービン・メータ/ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

メータ★★★★☆
Largo大きな呼吸でテンポも動いて歌います。速いテンポで軽いトロンボーン。Andante軽快な木管。ホルンはほとんど強くなりませんでした。Allegro giusto柔らかい弦。あまりガリガリとアクセントを付けた演奏はしません。ここでも金管は軽く、弦とのバランスも良いです。第二主題もとても良く歌います。ロシア民謡はあっさりとした表現でした。二回目の戦闘シーンも弦の表現はとても豊かです。金管はここでも軽めの演奏です。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズはゆっくり目のテンポでふくよかで明るい響きです。金管全開で大砲は左右から大きく響きます。駆け下りるような音形にはいってもほとんど音量が落ちずにそのままの勢いでした。Largo柔らかい金管と豊かに響く鐘。弦が大きく強弱の変化を付けて入ります。Allegro vivaceロシア国歌も力強い演奏です。

この当時のメータの演奏を象徴するような歌に溢れた演奏でした。オケは全開になることは無く、最後まで余裕のある演奏でしたが、オケの響きが僅かに薄かったのが唯一気になる点でした。
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小澤 征爾/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

小澤★★★★☆
Largo広がりがあり豊かな弦の響きです。速めのテンポですがとても感情のこもった歌です。抑えたトロンボーン。ホルンやトランペットは普通に強いです。Andante軽快な弦。スネアはあま聞こえません。Allegro giustoガツガツとエッジを立てて強くアクセントを演奏する弦。残響を伴って美しいトランペット。第二主題もテンポは速いですが、豊かに歌っています。二回目の戦闘シーン冒頭は不穏な空気が表現されます。金管は全開にはなりません。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは明るく締まった響きです。大砲は遠くから響いて来ます。駆け下りるような音形に向けて大きくクレッシェンドしました。Largoも速いテンポです。カランカランと鳴る鐘。Allegro vivaceバランスの良いオケの響きで余裕のある美しい演奏でした。大砲は遠くで鳴る花火のような音でした。

速いテンポで、常に余裕を残して美しい響きで最後まで演奏しました。弱音部分では豊かな歌もありました。ただ、この作品にストレス解消を求める人には欲求不満になるかも知れません。
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ズービン・メータ/フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団

メータ★★★★☆
Largo合唱から始まります。あっさりとした表現でテンポも速めです。ティンパニが入るとホルンが咆哮します。ヴァイオリンが強調された表現です。金管は軽く演奏しています。Andanteヴァイオリンが豊かに歌います。Allegro giustoここでもテンポは速めで楽器の動きが明快です。弦の動きは激しいですが、金管は軽く演奏しています。第二主題は川の流れのようにとうとうと歌います。ロシア民謡でも合唱が入ります。この合唱はなかなか趣きがあります。二回目の戦闘シーンも弦は激しく演奏しますが、金管はそれほど激しくはありません。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズは少し硬めの響きです。大砲は実射なのか火の手が上がります。駆け下りるような音形に向かってクレッシェンドしました。Largo合唱も加わって盛大な盛り上がりです。Allegro vivaceバンダと合唱も加わって全開です。

合唱やバンダも加わってお祝いムード満点の演奏でした。野外コンサートなので、美しい響きはあまり感じられませんでしたが、聴衆を盛り上げるにはとても効果的な演奏でした。
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ダニエル・バレンボイム/シカゴ交響楽団

icon★★★★
Largo割と速めのテンポの冒頭で艶やかな弦でとても良く歌います。ゆったりとしたオーボエ。余裕を残した金管ですが、十分に鳴っています。Andanteスネアに続くホルンは締まった音です。Allegro giustoゆっくりとしたテンポでガツガツと刻む弦。金管は余裕の演奏です。バックの弦は少し薄い響きです。ロシア民謡はゆったりとしたテンポで感情を込めて十分に歌われます。二度目の戦闘シーンもゆったりとしたテンポです。トロンボーンの食いつきが若干早いような気がします。金管は柔らかく伸び伸びと鳴り響きます。弱音のラ・マルセイエーズは引き締まった響きです。全開のパワーはさすがです。大砲は実射を別録りしたものを合成したものか。かなり生々しい音でした。駆け下りるような音形は若干薄い響きになります。Largo充実した金管の見事な響きです。鐘の響きは硬質です。Allegro vivaceロシア国歌と高音楽器が若干ズレますがとても良く鳴り響く演奏は気持ちの良いものです。

全開時の弦の響きの薄さやアンサンブルのズレなどはありましたが、シカゴsoの全開パワーを十分味わえる演奏でした。

ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★
Largoすごく歌い込まれた冒頭です。アゴーギクも効かせてテンポが動きます。オーボエが入るむところからのテンポは遅いです。金管の咆哮も凄いです。Andanteスネアは遠い位置にいます。可愛い表現の木管。美しく歌う弦。Allegro giustoゆっくりとしたテンポですが、あまりガツガツと強いエッジのある演奏ではありません。金管はかなり頑張ります。それでも純音楽としての節度ある美しい演奏です。控え目で奥ゆかしい第二主題。ロシア民謡も歌います。民謡が川の流れのようにとうとうと歌われます。二度目の戦闘シーンもゆっくりとしたテンポです。荒れ狂うような演奏にはならず整然とした美しい演奏です。あっさりとした表現の第二主題。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズはふくよかで柔らかい響きです。大砲はありません。金管の伸びやかな音が印象的でした。トゥッティのパワー感は凄いです。駆け下りるような音形も大きくエネルギー感が落ちることはありませんでした。Largo輝かしい金管の伸びやかで美しい響きは見事です。Allegro vivaceロシア国歌に合わせて大砲が入りました。堂々としたテンポのまま終わりました。

豪華絢爛で堂々とした1812年でした。純音楽としての完成度も高いと思います。

アンタル・ドラティ/ミネアポリス交響楽団

ドラティ★★★★
Largoかなりのオンマイクのようで生々しい音です。切々と訴えかけてくる弦。表情豊かな演奏です。オーボエも生々しいですがかなりデッドな録音です。ベルの中にマイクを突っ込んだようなトロンボーン。Andanteスネアの粒立ちもはっきりしています。Allegro giusto弦の人数が少ないような感じに響きます。とてもデッドなので金管の音もリアルなのですが、編成が小さく感じてしまいます。第二主題は残響が少ないのでちょっと痛い感じがしますが良く歌います。ロシア民謡はテンポを少し落としています。二度目の戦闘シーンは速めのテンポで活発な表現です。打楽器も炸裂します。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは明るく勇壮です。オケも全開、大砲も強烈に炸裂します。駆け下りるような音形では少し音量が落ちます。Largoオケも全開ですが、鐘も盛大で豪華に鳴り響きます。Allegro vivace物凄く強烈な大砲です。

かなりのオンマイクでデッドな録音だったので、オケの編成が小さく感じました。でもリアルな音はなかなか聞き応えのあるものでした。強烈な大砲や豪快に鳴り響く鐘など、この当時の録音としては最先端のものだったのでしょう。演奏もクライマックスでの全開の迫力がとても良かったと思います。
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マーク・エルダー/ハレ管弦楽団

エルダー★★★★
近い位置で伸びやかな弦。あまり大きな起伏の無い第一主題。最初の戦闘シーンでも金管などは近く、かなり思い切って咆哮します。ロシア民謡風の主題にも工夫がみられて独特の表現です。続く激しい部分も積極的で前のめりになります。鐘が鳴らされるLargofは輝かしい充実した響きです。

かなり近接したオケの音場感の録音でした。思い切った表現や積極的に前へ進むような部分もあり、なかなか良い演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:序曲「1812年」の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 序曲「1812年」3

たいこ叩きのチャイコフスキー 序曲「1812年」名盤試聴記

シャルル・デュトワ/モントリオール管弦楽団

icon★★★☆
豊かなホールの響きを伴って伸びやかな弦の演奏です。
落ち着いたテンポで音楽が進みます。ブラスセクションの余裕のある響きも心地よい。
スネアの締まりのある良い音です。続くホルンも豊かな響きです。
大太鼓の音がほとんど聞こえません。スッキリとした演奏ですが、響きに厚みが感じられません。もっとロシア音楽的な怒涛の響きがあった方が良いと思いますが、洗練された美しい響きが身上のデュトワとモントリオールsoにはムリな要求でしょうか。
弦楽器と管楽器のバランスがしっかり取られていて、金管が暴走するようなところがありません。
大砲は左右中央と位置を変えて発射されました。ここでもオケは余裕を残しています。鐘は低音を伴った良い響きです。
突然シンセサイザーの登場です。これは必要ないと思うのですが・・・・・・。

余裕を十分残した美しい演奏でした。

ユーリ・テミルカーノフ/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

テミルカーノフ★★★☆
Largoサラッとした伸びやかな響きでとてもゆっくりとしたテンポで感情を込めて歌います。かなり下品に吹くトロンボーン。Andanteホルンが途中から少し強くなります。艶やかで美しい弦。Allegro giusto一転して速いテンポになります。あまり大きく盛り上がることはありません。第二主題もとても速いテンポであっさりと演奏します。ロシア民謡もかなり速いです。二度目の戦闘シーンも速いテンポで金管が咆哮することも無く、大きなエネルギーを放出することはありません。やはりロシア民謡はとても速いです。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは高い音にアクセントを付けて演奏します。大砲の実射がありました。その後急加速して駆け下りるような音形ではガクッと音量が落ちました。Largoここまで抑えていたエネルギーを放出するような輝かしく盛大な演奏になりました。Allegro vivaceゆっくりと刻みつけるような演奏です。軍の金管も増強されています。最後は花火も打ち上げられます。

伸びやかで美しい響きでした。前半はあまりエネルギーを放出しないような抑えた演奏でしたが、Largoからは輝かしく堂々とした演奏になりました。ただ、第二主題やロシア民謡のすごく速いテンポや駆け下りるような音形で音量がガクッと落ちるなどちょっと納得行かない部分もありました。
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ウラディミール・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

フェドセーエフ★★★☆
Largoゆっくりとしたテンポと暖かい響きでとても良く歌う演奏です。抑えた音量で入って大きくクレッシェンドする金管。Andante豊かな残響をともなってふくよかに響くホルン。Allegro giusto遅いテンポで確実に刻みます。響き渡るシンバル。金管はホールの響きに溶け込んであまり突出して来ません。第二主題は速めのテンポでさりげない歌でとても洗練されています。ロシア民謡はさらに速くなります。二度目の戦闘シーンでも長く尾を引き響き渡るシンバルが美しい響きです。トロンボーンのラ・マルセイエーズはスタッカートぎみに演奏しました。ロシア民謡はテンポが速すぎて落ち着きません。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは筋肉質で男性的です。金管が全開とまでは行きませんがかなり強く演奏します。大砲は大太鼓です。駆け下りるような音形の前はテヌートぎみに演奏しました。Largo盛大に鳴り響く鐘。トランペットがクレッシェンドします。ビブラートが強く強弱の変化を付けて演奏しています。 Allegro vivaceロシア国家はテヌートぎみにねちっこく演奏します。

表現の幅が広く変化に富んだ演奏でした。ただ、テンポが速く落ち着かないロシア民謡やビブラートを強くかけて強弱の変化をつけて演奏するトランペットなどちょっとやり過ぎの感も無きしもあらずです。
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大植 英次/大阪フィルハーモニー交響楽団

大植★★★☆
Largoマイクの位置が楽器に近い感じの録音です。木管もとても近いです。細部の表現よりも作品を大きくとらえて表現している感じです。Andanteマイク位置が近いので色彩感も濃厚です。Allegro giusto速いテンポでかなりガツガツと角の立った演奏です。最近では珍しいマルチマイク録音のようで、金管も非常に近いパートがあります。シンバルが気持ちよく鳴り響きます。第二主題も速めのテンポです。一つ一つのフレーズを歌うことはあまりしませんが、もっと大きい単位での音楽の起伏があります。二度目の戦闘シーンも速いテンポで、ここでもガツガツと演奏される弦。録音によるものだと思いますが、非常に激しい感じは出ています。タンブリンも鮮明に聞こえます。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは浅い響きです。速いテンポで頂点に向かいます。シンセサイザーの大砲はそれらしく聞こえました。かなり激しい頂点でした。Largoミキサーで金管のレベルを抑えているような感じであまり突出して来ないと言うか、引っこんでいる感じです。Allegro vivace金管よりも弦や木管の方がよく聞こえる録音には違和感を感じます。

マルチマイクの録音で、ミキサーでかなりバランスをコントロールしているような感じでした。コーダで金管がフルパワーで演奏する部分でも弦や木管がはっきり聞こえる録音には違和感を感じました。演奏そのものは作品を大きく捉えて起伏のある表現の演奏でした。
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エイドリアン・リーパー/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

リーパー★★★☆
Largo伸びやかで柔らかい弦の穏やかな演奏です。奥行き感のある木管が絡んで美しいです。第一主題も柔らかいです。かなりダイナミックに鳴る金管。Andante速いテンポで弾むような木管。ふくよかで柔らかいホルン。Allegro giusto柔らかいですが、しっかりとエッジの効いた弦。シンバルが炸裂します。金管はとても穏やかで、戦闘シーンというような描写ではありません。第二主題は硬い響きになり、歌もほとんどありません。二度目の戦闘シーンも柔らかく穏やかな金管。打楽器はアンバランスなくらい強烈です。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズは浅く明るい響きです。スケールが大きく全開になるオケ。大砲も重低音を含んでリアルでした。駆け下りるような音形へ向けて大きくクレッシェンドとアッチェレランドしました。Largo鐘がかなりクローズアップされています。Allegro vivaceここでも堂々とした全開の演奏はなかなかの迫力です。

基本的には柔らかい響きの演奏でしたが、第二主題が硬い響きになったのが気になりました。戦闘シーンは穏やかで戦闘を描写したものとは感じられませんでした。最後の大砲の入る部分の全開のオケの響きは見事でした。大砲も重低音を含んだ良い音でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:序曲「1812年」の名盤を試聴したレビュー

チャイコフスキー 序曲「1812年」4

たいこ叩きのチャイコフスキー 序曲「1812年」名盤試聴記

レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

バーンスタイン★★★
Largo涼しげな音色で穏やかな演奏です。唸りを上げる第一主題。Andanteホルンよりも弦の方が強いバランスです。Allegro giustoあまりアクセントを強く演奏していません。第二主題はバーンスタインらしく良く歌います。ロシア民謡は速めのテンポです。二度目の戦闘場面はとても速いテンポでかなり慌ただしいです。トロンボーンのラ・マルセイエーズがスタッカートぎみに演奏されます。第二主題はやはり歌うのですが、どこか乱暴な感じがします。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは硬く締まった響きです。オケが引っ込み大砲が強調されます。駆け下りるような音形に向かって猛烈なアッチェレランドをしました。Largoトロンボーンが良く響きますがアンサンブルは雑に感じます。Allegro vivaceやはり大砲を強調してオケは引っ込んだバランスになります。最後にスネアがクレッシェンドしました。

バーンスタインらしく良く歌い表現も大きな演奏でしたが、アンサンブルが雑で乱暴な感じがありました。
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エリック・カンゼル/シンシナティ交響楽団

カンゼル★★★
Largo柔らかくマイルドな弦です。ゆっくりとしたテンポでたっぷりと歌う演奏です。非常にゆっくりとした第一主題。金管が登場する部分でテンポが速くなりました。金管は軽く演奏しています。Andante爽やかな騎馬隊の行進です。Allegro giustoここでもゆっくりとしたテンポで金管が咆哮することは無く、とても冷静な演奏です。第二主題は僅かにテンポを速めてあっさりとほとんど感情を込めずに進みます。二度目の戦闘場面もゆっくりと淡々と進みます。感情の起伏などは無くどちらかと言うと平板な演奏です。大砲はかなりの迫力ですが駆け下りるような音形は貧弱です。Largoここでも金管は全開にはなりません。鐘は低い音も含んで荘厳な響きです。Allegro vivace大砲は凄いのですが、演奏には熱気を感じることはできませんでした。

本物の大砲を録音したことで有名な演奏ですが、メインは大砲で、大砲を聴くためだけの演奏のように感じました。強烈な大砲に比べて演奏はとても醒めていて熱気を感じるような演奏ではありませんでした。
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ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団

オーマンディ★★☆
Largo合唱で始まります。カラヤンの演奏のような起伏の大きな表現ではありません。通常の弦の演奏に近い表現です。長い音符で大きくクレッシェンドしました。パイプオルガンも入ります。かなり大きな盛り上がりです。第一主題はゆっくり入って次第に速くなるような表現でした。軽い演奏の金管。シンバルがとても古臭い音です。Andante歯切れの良い木管。ホルンは明るい音です。Allegro giustoゆっくり始まります。一音一音刻むように演奏する弦。あまり厚い響きではありません。第二主題はテンポの動きもあって深く歌います。二度目の戦闘場面は不穏な雰囲気はありません。音が短めであまり迫力の無いトロンボーン。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは柔らかく豊かな響きでした。盛大に鳴り響く大砲。オケは全開では無い感じです。Largo全開になっているようですが、アンサンブルが悪いのか、幼稚な響きに感じます。Allegro vivace大砲が左右に飛び交います。最後は鐘の響きだけが残りました。

合唱やパイプオルガン、左右に飛び交う大砲や最後に残る鐘の余韻など、音響的には工夫を凝らした演奏でしたが、古臭いシンバルや幼稚な響きを感じさせたりあまり良い演奏には思えませんでした。
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アントニオ・パッパーノ/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

パッパーノ★★
Largo深みがあって良く歌います。分厚い第一主題。抑えたトロンボーン。その他の金管も抑えた表現です。Andanteくっきりとした表現の木管。弦もはっきりとした表現です。ホルンは奥にいるような感じです。Allegro giusto一気に活発な表現になりますが、響きはあまり厚くありません。第二主題は速めのテンポですが揺れ動くような表現がなかなか良いです。二度目の戦闘シーンでも金管は奥から響きます。ロシア民謡も踊るように弾んだ表現です。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズは凄く速いテンポです。大砲は大太鼓です。金管はかなり奥まっています。大砲の後に銃が撃たれました。Largoブレンドされた柔らかい響きの中にカラカラと鐘が鳴り響きます。Allegro vivaceここでも控え目なバランスで演奏されるトロンボーン。銃が楽譜のタイミングとは関係なく撃たれています。

野外コンサートと言うこともあったのか、金管が常に奥まっていて爆発すること無く終わりました。揺れ動くような表現や独特なテンポ設定など、個性的な表現もありましたので、もう少し条件の良い状態での演奏を聴いてみたいと思いました。
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アントン・ナヌート/リュブリャナ交響楽団

ナヌート
Largo最初の音が途切れています。祈るように神聖で静かな演奏で大きな動きはありません。とても軽い第一主題。薄い響きの金管。シンバルが早く音を止めます。続く弦も硬直しているような硬い表現です。Andante音楽が弾みません。とても平板な演奏です。Allegro giusto四角四面で音楽が揺れ動くことが無く間が悪い感じがします。コルネットが突然速く演奏します。第二主題も硬い表情で遊びが全くありません。とても窮屈な演奏です。二度目の戦闘シーンもまるでアマチュア・オケの演奏を聴いているようなメトロノームに合わせた演奏のようにカチッとしています。金管も吠えるようなことは無く、大人しい演奏です。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズも硬い表現でした。大砲は大太鼓です。オケが一体になったようなパワー感は無くバラバラな印象です。薄い弦。Largo軽薄な響きです。軽い鐘。Allegro vivaceトロンボーンはかなりの力演です。

とても硬直した表現で、揺れ動くようなテンポの動きも無く、メトロノームに合わせたような硬い演奏でした。オケの響きも厚みなどは全く無くバラバラな感じで、そのうえ平板な演奏には全く楽しめる要素はありませんでした。
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