カテゴリー: レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」名盤試聴記

レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」

レスピーギの交響詩「ローマの噴水」(Fontane di Roma)は、イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギによる交響詩で、1924年に発表されました。この作品は、ローマの街にある4つの有名な噴水をテーマにして、それぞれの噴水が異なる時間帯に見せる美しさと雰囲気を音楽で描き出しています。レスピーギはこの作品で、光、色、音を巧みに表現し、聴き手に視覚的なイメージを喚起させる力を発揮しました。

各楽章の内容と特徴

「ローマの噴水」は4つの楽章から成り、それぞれが異なる時間帯のローマの噴水の情景を描写しています。

  1. 夜明けの「ヴァッレ・ジュリアの噴水」
    曲の始まりは、朝の静けさと爽やかさを感じさせる穏やかな音楽で、ローマ郊外にあるヴァッレ・ジュリアの噴水が夜明けの光に輝く様子を表現しています。弦楽器の柔らかい音色と、ホルンやフルートによる鳥のさえずりが、徐々に目覚める自然の静寂と生命の息吹を感じさせます。
  2. 朝の「トリトンの噴水」
    次の楽章は、朝のトリトンの噴水で、華やかで生き生きとした音楽です。トリトンが水を吹き上げる様子を表現したトランペットやホルンのファンファーレが特徴で、ローマの人々が活動を始める朝のエネルギッシュな雰囲気が伝わります。ここでは、音楽が急激に展開し、都会の活気や力強さが感じられます。
  3. 昼の「トレヴィの噴水」
    第3楽章では、トレヴィの噴水が真昼の陽光に照らされてきらめく様子が描かれます。この楽章は最も壮麗で、優雅なメロディが際立ち、トレヴィの噴水の圧倒的な美しさと水のきらめきを表現しています。水が湧き出し、きらきらと輝く光の効果を、管弦楽の音色とリズムで生き生きと表現しています。
  4. 夕暮れの「メディチ荘の噴水」
    最終楽章は夕暮れから夜へと移りゆくメディチ荘の噴水で、最も静かで神秘的な音楽です。遠くに聞こえる牧歌的な旋律や、静かな響きが、日が沈みゆく荘厳な雰囲気を醸し出しています。特に、徐々に暗くなる風景や静寂を増す空気感が、低音楽器の響きと共に表現され、やがて夜の静けさとともに音楽が消え入るように終わります。

音楽的な特徴と評価

レスピーギは、色彩豊かなオーケストレーションを得意とし、この作品でも精緻で多彩な音響効果が随所に現れます。光と影、水の流れやきらめきといった視覚的な要素を、巧みに音楽で表現しているのが特徴です。レスピーギは各楽器の音色を活かして噴水の煌めきや流れを再現し、聴き手に視覚的なイメージを思い起こさせます。

「ローマの噴水」は、レスピーギの代表作として非常に高く評価されており、彼が描写音楽の達人であることを示す一作です。また、この作品は「ローマ三部作」(「ローマの松」「ローマの祭り」と共に)の一部としても有名で、ローマの美しい風景や歴史的な情景を称えるシリーズ作品の一つとして愛されています。

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たいこ叩きのレスピーギ 交響詩「ローマの噴水」名盤試聴記

ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、朝靄のなかから噴水が浮かび上がるような描写。いろんな音が聞こえてきます。鮮やかな色彩感です。
朝のトリトンの噴水、枯れたようなトランペットの響き。曲によって響きを変化させるフィラデルフィアサウンド!
昼のトレヴィの噴水、バストロンボーンの躍動感あるリズム、セピア色の写真を見ているかのようなトランペットの響き。名コンビの面目躍如です。
たそがれのメディチ荘の噴水、生き生きとした木管の表情。繊細な弦。すばらしい演奏でした。

ジュゼッペ・シノーポリ/ニューヨーク・フィルハーモニック

シノーポリ★★★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水 あまり弱音を意識せずに演奏しやすい音量での開始です。テンポは速めです。
朝のトリトンの噴水 ふくよかなホルン。トゥッティでは金属系の打楽器を強調せずに渋い響きでした。シンバルも柔らかい良い音です。
昼のトレヴィの噴水 金管の古めかしい響きがとても作品に合っています。シノーポリも途中でテンポを僅かに速めました。頂点を過ぎたあたりのトロンボーンとテューバの響きが印象的です。木管楽器も太い響きで音楽に安定感を与えています。
たそがれのメディチ荘の噴水 弦合奏も分厚い響きです。フルートも太い音です。作品の描写よりもローマの歴史を感じさせてくれる演奏でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水 凄く抑えられた弱音で開始される弦。早朝の薄明かりをイメージさせる木管。静寂感があって美しいです。
朝のトリトンの噴水 ゆっくりとしたテンポで伸び伸びと演奏されるホルン。眩いばかりの色彩感です。
昼のトレヴィの噴水 ここもゆったりとしていて、オケの見事な引きを堪能できます。テヌートで演奏されるトランペットも非常に美しいです。音の洪水のように溢れ出し、オケの機能を満喫できます。
たそがれのメディチ荘の噴水 夕暮れのたそがれもとても良く表現されています。ゆっくりとしたテンポでとても丁寧に描かれています。
薄暮から眩い日の出から、音の洪水のような眩い色彩感から、夕暮れのたそがれまで、見事な表現でした。

イシュトヴァン・ケルテス/ロンドン交響楽団

ケルテス★★★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、速めのテンポですが、とても良く歌います。
朝のトリトンの噴水、 朝日の眩さを十分に表現しています。
真昼のトレヴィの泉、かなり激しく咆哮する金管。強烈にあふれ出す音の洪水です。
黄昏のメディチ荘の噴水、夕暮れの寂しさもとても良く表現しています。振幅の大きな表現と、描写もなかなかでとても良い演奏だったと思います。
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アントニオ・パッパーノ/サンタ・チェチーリア国立音楽院管弦楽団

パッパーノ★★★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、ゆったりと一音一音とても丁寧な演奏です。さらにテンポを落とすところも多くあります。これだけ作品に共感した歌を伴った丁寧な演奏は初めてです。
朝のトリトンの噴水、 強い眩さはありませんが、落ち着いています。朝を感じさせるフルート。一つ一つの音にとても細やかな神経が行き届いていて、生命力を感じさせる演奏です。
真昼のトレヴィの泉、一転して速いテンポになりますが、朗々と演奏するトランペット。ここでも生命観を感じさせる壮大な演奏が続きます。
黄昏のメディチ荘の噴水、夕暮れを感じさせるイングリッシュホルン。どのパートも実に良く黄昏を表現しています。消え入るような弱音も集中力があってとても良いです。
一つ一つの音に細心の注意をしながらとても行き届いた演奏でした。だからと言ってスケールが小さくなることも無く、とても豊かな表現と壮大な頂点を聞かせてくれました。見事な演奏でした。
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リカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★★★☆
夜明けのジュリアの谷の噴水 弱音の弦楽器の丁寧な演奏から、木管のソロ。歌があります。
朝のトリトンの噴水 トゥッティの眩いばかりの色彩感がすばらしい。
昼のトレヴィの噴水 躍動感のあるテンポで音楽が進みます。途中でテンポを少し速めます。まさに音の噴水のように色彩豊かな音楽です。
たそがれのメディチ荘の噴水 たそがれ感が上手く表現されています。
すばらしい演奏でしたが、ちょっと無難な感じも残りました。

アルトゥーロ・トスカニーニ/NBC交響楽団

トスカニーニ★★★★★☆
夜明けのジュリアの谷の噴水、速めのテンポですが、キリッと引き締まっています。微妙にテンポが動いて表現も豊かです。
朝のトリトンの噴水、 ナローレンジですが、眩さは感じます。
真昼のトレヴィの泉、 色彩感は決して豊かではありませんが、湧き上るような力強さは見事です。オケも当時の最高レベルだったことは容易に想像できます。
黄昏のメディチ荘の噴水、夕暮れの寂しさもとても良く表現しています。モノラルであることを除けばバランスやオケの技術などは現在の演奏と遜色無いものだと思いました。
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シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団

デュトワ★★★★★☆
夜明けのジュリアの谷の噴水、このコンビらしい透明感の高い響きで、水彩画のような淡い色彩でスマートな演奏です。伸びやかで繊細です。
朝のトリトンの噴水、大騒ぎすることも無く紳士的で爽やかな美しい演奏が続きます。
真昼のトレヴィの泉、ゆっくり始まってその後一転してテンポが速くなりました。かなりテンポは速いですが、オケは伸びやかに美しく鳴り響きます。
黄昏のメディチ荘の噴水、キラキラと夕日を反射する水辺のようで美しいグロッケン。ゆっくりとしたテンポでたっぷりとした表現です。夕暮れの寂しさも表現されますが、サラサラとしたとても爽やかな響きです。
緩急の変化の大きな演奏でした。ゆっくりとしたテンポの部分の表現も豊かでした。水彩画のような淡い色彩と爽やかで美しい響きが魅力的でした。
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アラン・ギルバート/ニューヨーク・フィルハーモニック

ギルバート★★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、 速めのテンポですが、くっきりと浮かび上がる楽器の色彩が豊かです。
朝のトリトンの噴水、 眩いばかりの色彩感。ニューヨークpoもかつての輝きを取り戻して来ているのが伺えます。
真昼のトレヴィの泉、 鋭く明快に鳴り響く金管。全開になるような感じではありませんが、熱気は感じます。
黄昏のメディチ荘の噴水、作品を必要以上に描写を強調することは無く、作品を忠実に音にした演奏のようでした。
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アンドレア・バッティストーニ/東京フィルハーモニー管弦楽団

バッティストーニ★★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、速めのテンポでグイグイと進みますが過不足無い表現です。
朝のトリトンの噴水、朝日の眩さはありますが、色彩感はあまり濃厚ではありません。
真昼のトレヴィの泉、シンバルが強烈ですが、他は突出する部分も無く整った演奏です。
黄昏のメディチ荘の噴水、夕暮れの寂しさはとても良く表現されています。
話題盤ですが、私には際立った演奏には感じられませんでした。整った美しい演奏ではあったと思います。
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サカリ・オラモ/フィンランド放送交響楽団

オラモ★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、とても大きく歌うオーボエ。クラリネットも豊かな表現です。テンポの動きがあって、大きな間を取る部分もありました。
朝のトリトンの噴水、 色彩感はあまり濃厚ではありませんが、表現は生き生きとして積極的です。
真昼のトレヴィの泉、 線が細く大きな盛り上がりにはなりません。
黄昏のメディチ荘の噴水、ここでもテンポの動きがあって、表現意欲を感じます。
テンポの動きや大きな表現などかなり積極的な演奏でしたが、真昼のトレヴィの泉の線が細く、オケが一体になった分厚い響きを聞くことはできませんでした。
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ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団

オーマンディ★★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、オーボエやクラリネットが際立っています。オーマンディはこのように主旋律を際立たせて、音楽をシンプルに分かりやすく聞かせる傾向があるように思います。
朝のトリトンの噴水、軽いホルン。小物打楽器もあまり強くは無く、眩い感じはありませんでした。
真昼のトレヴィの泉、後のRCAの録音のような老獪さは無くとても張り切った演奏で、ストレートです。
黄昏のメディチ荘の噴水、フィラデルフィアサウンドと言われた豪華な響きはまだ無く、音楽の運びも複雑さはありません。作品に正直で真面目な演奏に感じます。
主旋律が際立っていて、シンプルでストレートな演奏でした。後のRCAとの録音のような力の抜けた老獪さは無く、作品に正直で真面目な演奏だったと思います。
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ロリン・マゼール/フランス国立管弦楽団 1979Live

マゼール★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、ゆっくりとしたテンポで豊かに歌うオーボエ。普通ではあまり聞えない旋律が表に出てきます。
朝のトリトンの噴水、 録音によるものかも奥まったホルンと金物打楽器があまり強く無く眩い感じはありません。マイルドで色彩感は乏しいです。
真昼のトレヴィの泉、 ティンパニがポンポンと響く割りに金管は遠くてあまり前に出てきません。
黄昏のメディチ荘の噴水、夕闇の寂しげな雰囲気はありますが、録音はあまり鮮明ではなく表情もあまり分かりません。
ライヴの制約からかあまり鮮明な録音では無く、金管が奥まっていて小物打楽器も鮮明ではなく描写や表現などはあまり分かりませんでした。
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シャルル・ミュンシュ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

ミュンシュ★★
夜明けのジュリアの谷の噴水、アナログディスクの再生でスクラッチノイズがあります。遅めのテンポでさらにテンポの動きもあり、丁寧に演奏されています。
朝のトリトンの噴水、浅く軽いホルン。ここも遅めのテンポで一音一音丁寧です。
真昼のトレヴィの泉、盛り上がっても音圧が上がりません。かなり歪みっぽい感じもあります。盛り上がりに合わせてテンポも速くなります。
黄昏のメディチ荘の噴水、ここでもテンポの動きがあってなかなかロマンティックです。最後はかなりテンポが遅くなります。
ミュンシュの感情に合わせてテンポがかなり動く演奏で、なかなかロマンティックでしたが、歪みが多く盛り上がる部分で音圧を感じない録音もちょっと残念でした。
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ダリル・ワン/ヴィクトリア交響楽団

ワン
夜明けのジュリアの谷の噴水、速めのテンポですが、良く歌います。ブレスではっきりと音が途切れます。テンポの動きもあって積極的に表現しています。旋律を演奏する奏者が立ち上がって演奏しています。
朝のトリトンの噴水、浅い響きのホルン。金物打楽器は歪みっぽいです。
真昼のトレヴィの泉、オフぎみの録音でトゥッティはかなり混濁します。
黄昏のメディチ荘の噴水、静寂感や夕暮れの黄昏を感じさせるような描写は感じません。ここでもブレスで音楽が途切れます。
トゥッティで混濁する録音であまり細部は分かりませんでしたが、木管のブレスではっきりと音楽が途切れたりして、あまり優秀なオケではない感じの演奏でした。
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