コダーイ:組曲「ハーリ・ヤーノシュ」
コダーイの組曲「ハーリ・ヤーノシュ」(Háry János Suite)は、ハンガリーの民族楽を取り入れた楽しいオーケストラ作品で、同名のオペラから抜粋された組曲です。「ハーリ・ヤーノシュ」は、架空の人物であるヤーノシュの冒険を描いた物語で、彼の勇ましい戦いや愉快なエピソードが音楽に反映されています。
この組曲は6つの楽章で構成されており、それぞれが物語の異なるシーンを表現しています:
- 前奏曲(ヤーノシュの物語の始まり)
音楽は驚きの音で始まり、ハーリ・ヤーノシュの大げさな冒険話が語られることを予告します。物語の主人公が、地元の居酒屋でどれだけ勇敢であるかを誇る様子を思わせる、力強いテーマで始まります。 - ウィーンの宮廷
オーストリアのウィーン宮廷での場面を描いた楽章で、優雅で華やかな宮廷の雰囲気を再現しています。ウィーン風のワルツのリズムや、洗練されたメロディーが特徴で、貴族的な雰囲気が漂います。 - ハンガリー田園風景
この楽章では、ヤーノシュが故郷ハンガリーの田園風景に戻ったときの情景を表現しています。のどかで優雅なメロディが牧歌的な風景を描き、ハンガリーの素朴で美しい自然を感じさせます。 - 戦争と勝利
この楽章は激しく、戦闘シーンを描写しています。打楽器が活躍し、ヤーノシュの勇ましい戦いぶりが音楽で表現されます。戦闘の終わりに向かって勝利の喜びが高まります。 - 歌(愛の歌)
ヤーノシュの恋人イルカに対する愛が描かれた、甘美で愛情に満ちた楽章です。柔らかな旋律とハープの伴奏が、彼女への想いを表現し、物語の中での愛の大切さを感じさせます。 - 入場行進曲
この楽章は明るく楽しいフィナーレで、ヤーノシュの話が大団円を迎えます。ハンガリー民謡風のリズムが取り入れられ、愉快でリズミカルな音楽が展開されます。
組曲「ハーリ・ヤーノシュ」は、ユーモラスで親しみやすいメロディが満載で、まるで物語の舞台を巡るような気分にさせてくれる作品です。ハンガリーの民族音楽のエッセンスをふんだんに取り入れた、この作品はとても色彩豊かで、コダーイのユーモアと感性が光る名作です。
たいこ叩きのコダーイ:組曲「ハーリ・ヤーノシュ」名盤試聴記
ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団
★★★★★
前奏曲、鮮明な弦。ほの暗く厚みのある弦楽合奏でした。表現の振幅も広いダイナミックな演奏です。
ウィーンの音楽時計、チャイムの陰で低いドラの響きがズシーンと響きます。管楽器の見事なソロの連続です。輝かしい金管の響きがすばらしい。
歌、あっさりとしたビオラのソロ。艶やかなクラリネット。ツィンバロンの音の立ち上がりも非常に良くリアリティがあります。ツィンバロンと絡む木管の表情もとても豊かです。マットな響きのホルン。マルチマイクらしい一つ一つの楽器が鮮明に録られています。
戦争とナポレオンの敗北、ズンズンと弾力のある大太鼓。適度に締まったスネア。トロンボーンとチューバの旋律が力強く演奏されます。チューバをベースに分厚いサウンドです。トランペットの高音が特徴的な響きです。なまめかしいサックスのソロです。
インテルメッツォ、スピード感のある冒頭の弦でした。少しマットですが美しく厚みのある弦合奏にピシッと立ったツィンバロンが印象的です。心地よいふくよかな響きのホルン。とてもチャーミングなクラリネットやフルートのソロ。
皇帝と延臣達の入場、小気味よい打楽器。明るいトランペット、表情豊かなホルン。軽々と鳴り響くトロンボーンや輝かしいトランペットがゴージャスなフィラデルフィア・サウンドを象徴するかのようにすばらしい。
すばらしい全盛期のフィラデルフィアサウンドで「ハーリ・ヤーノシュ」を聴かせてくれました。
クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
前奏曲、はっきりと「ハクショ~ン」と聞こえます。ゆったりとしたテンポでとても抑えた弦の旋律ですが、たっぷりと歌います。クラリネットも振幅の広い歌を歌います。陰のホルンはかなり控え目です。テンポも動き、場面を克明に描いて行きます。とても劇的でスケールの大きな演奏です。
ウィーンの音楽時計、チャイムの中に鳴りの悪い音が一つあるような感じがします。少しテンポを速めて快活なトランペット。
歌、マットなヴィオラのソロは途中で間があったりして歌いました。続くクラリネットも豊かに歌います。題名の通り登場する楽器が皆豊かな歌を繰り広げます。ツィンバロンはそんなに強調されていません。オケの中に自然に溶け込んでいます。豊かな歌に酔いしれることができる演奏でした。
戦争とナポレオンの敗北、速めのテンポで控え目なトロンボーン、トランペット。サックスも控え目です。トロンボーンのグリッサンドも控え目で、シンバルの一撃の後からかなり音量を上げました。
インテルメッツォ、この曲でもテンポを動かして豊かに歌います。テンポが動いて歌うので、音楽がとても濃厚です。聴き手にメロディーを刻み付けるように一音一音に魂が込められているような演奏です。この曲ではツィンバロンがかなり前に出てきました。
皇帝と延臣達の入場、小さい音で始まる打楽器。木管と鍵盤打楽器は一転して大きくはっきりと演奏しました。この曲でもテンポは動きます。トゥッティではこれまで抑えていたのを開放してフルパワーです。
とてもスケール大きく、克明に、そしてテンポも動かしながら劇的に楽しく聴かせてくれました。
イシュトヴァン・ケルテス/ロンドン交響楽団
★★★★★
前奏曲、後の長いくしゃみでした。とても良く歌う弦。大袈裟なくらい積極的な表現。
ウィーンの音楽時計、伸びやかな鐘の音。ホルンがとても頑張ります。ピアノも良く聞こえます。ここでも表現はとても豊かです。同郷のコダーイに対する強い共感からくるものでしょうか。
歌、表現の限りをつくしていると言って良いほどの表現です。これだけ良く歌う演奏は初めてです。作品への愛情に充ち溢れています。ツィンバロンも美しいですし、良いバランスです。
戦争とナポレオンの敗北、最初は緩い響きですが、強奏でピーンと張った響きになる金管。スネアドラムも強烈なクレッシェンド。アルト・サックスのソロもビブラートを掛けてとても良い表現です。
インテルメッツォ、所々にある間もとても効果的です。中間部はハンガリーの田舎を連想させるようなのどかな雰囲気です。フルートのソロなどもアゴーギクを聞かせて表情豊かです。
皇帝と延臣達の入場、速いテンポで元気の良い冒頭部分です。ピアノがとても良く聞こえます。ホルンもかなり強く演奏します。最後もホルンが強烈でした。
表現の限りをつくした演奏でした。これだけ良く歌う演奏は初めてです。また、所々で間をあけたりする演奏には、ケルテスの作品に対する愛着を強く感じさせるものでした。
サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団
★★★★★
前奏曲、くしゃみの最後をコントラバスが押しました。ゆっくりと間を開けて、分厚いコントラバスに続いて次第に高い弦楽器に移動します。濃厚な色彩感の演奏です。
ウィーンの音楽時計、重いドラの響き。元気よく動きまわる木管。
歌、いろんな楽器が次々と自由に歌います。ツィンバロンはあまり強調されていません。
戦争とナポレオンの敗北、暖かい響きのトロンボーン。色気のあるサックス。トロンボーンのグリッサンドは最初弱く入って次第に強くなりました。バックのスネアはスネアoffで演奏ました。色気満点のサックスはとても魅力的です。
インテルメッツォ、弦に隠れてツィンバロンはほとんど聞こえません。締まった筋肉質のホルン。フルートのソロも良く歌いました。最後はテンポを落としてゆっくり演奏しました。
皇帝と延臣達の入場、ここでも活発な動きの木管。強力なオケが豪快に鳴り響きます。
ショルティの指揮なので、もっと硬い演奏かと思いましたが、活発に動き回る木管や色気たっぷりのサックスなど、結構楽しい演奏でした。さすがにシカゴsoのフルパワーは豪快でした。
ユライ・ヴァルチュハ/hr交響楽団
★★★★☆
前奏曲、柔らかくゆっくりと演奏される低弦。ブレンドされた美しい響きです。
ウィーンの音楽時計、遠く柔らかいチャイム。緻密に動く木管。
歌、マタチッチの演奏に比べるとかなり控え目な歌ですが、オケの上手さは格段に違います。
戦争とナポレオンの敗北、速めのテンポで軽く始まります。金管は軽く演奏しています。サックスも美しいです。
インテルメッツォ、一体感のある弦から、バランス良く聞こえるツィンバロン。たっぷりと歌うホルン。クラリネットやフルートの表情も豊かです。
皇帝と延臣達の入場、軽快に始まります。全開にならず、しっかりと手綱を締めた安定感とまとまりのある演奏でした。
ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団
十分に迫力ある「くしゃみ」でした。弦の旋律は十分に歌っています。木管もオーバーなくらい表現が豊かです。
大げさな表現が、よそよそしくなく作品のユーモアに合っているように思います。
おもちゃの時計のように茶目っ気たっぷりの演奏です。
オーバーアクションぎみの演奏がほほえましい。演奏には厳格なセルですが、作品にふさわしい表現をしていて、楽しい演奏に仕上がっています。
ツィンバロンの響きも暖かみがあります。ホルンの旋律も元気いっぱいの「ハーリ・ヤーノシュ」の姿が浮かぶようです。
どっしりとしたバランスで高音域がうるさくないので、野暮ったさがしみじみと表出されています。
ナポレオン軍敗北の情けない様子も見事に描かれています。
とてもお茶目でひょうきんな「ハーリ・ヤーノシュ」の凱旋。大げさで楽しい演奏でした。
ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団
★★★★前奏曲、後のRCAとの録音よりもoffぎみです。そのせいか表現は淡白な感じがします。
ウィーンの音楽時計、近くで鳴るチャイム。模範演奏のように何もひっかかるところ無く過ぎて行きます。
歌、RCAの録音よりも表情のあるビオラのソロ。ツィンバロンはかなり近いです。広々とした雰囲気のホルン。
戦争とナポレオンの敗北、ゆったりとしたテンポでお風呂の中で演奏しているようなトロンボーン。締まりの良いスネアの見事なオープンロール。サックスもかなりクローズアップして録られています。
インテルメッツォ、LPレコードの音源のようで、針にホコリが付いてヴァイオリンが歪みっぽくなって来ました。マットですが、豊かに歌うホルン。
皇帝と延臣達の入場、ピッコロも歪んで来ました。輝かしいトランペット。テンポが僅かに動きながら盛り上がります。
オーマンディのお国物と言う安定感のある演奏でした。
シャルル・デュトワ/モントリオール交響楽団
華やかな鐘などの鳴り物、周りを彩る楽器も美しい音色です。
チェロのソロは細身の響きです。クラリネットの陰鬱なメロディはとても良い感じです。ツィンバロンも繊細な音で録られています。
私のこの曲のイメージは、もっと野暮ったい雰囲気なのですが、デュトワが演奏すると、とてもシャレた音楽に変身してしまいます。
トロンボーンやテューバの旋律も表現が控えめで大人しい演奏ですが、それに比べるとトランペットなどの高域が強いので、野暮ったい感じとは程遠いです。
サックスは情感たっぷりでした。
ツィンバロンの音も高音域をよく捉えていて、金属的な音がします。ホルンもふくよかな響きとは行きません。スマートで都会的な「ハーリ・ヤーノシュ」です。
木管楽器の表現は豊かです。ただ、デュトワのCDに共通する音作りがされていて、低域の一部をカットしているような響きで、「ハーリ・ヤーノシュ」には全く合わない音で音楽が作られていると私には感じられます。
エーリッヒ・ラインスドルフ/ボストン交響楽団
★★★
前奏曲、思い切りの良いくしゃみでした。厚みのある弦。独特の表現もあります。金管はあまり前には出て来ません。
ウィーンの音楽時計、小物打楽器が賑やかです。続くトランペットもはつらつとしています。一旦テンポを速めてまた戻しました。
歌、くすんだビオラのソロ。滑らかなクラリネット。ふくよかなホルン。ツィンバロンは控え目で柔らかい響きです。
戦争とナポレオンの敗北、小さく始まって次第に大きくなるトロンボーン。トランペットは凄く速いテンポです。その後も強烈なテンポです。サックスのソロで落ち着きました。
インテルメッツォ、一転して重い演奏になります。ここでのツィンバロンは明瞭です。牧歌的なホルン。テンポは良く動きます。
皇帝と延臣達の入場、締まりの良いスネア。明るく響くトランペット。予想外のところで速いテンポになったりして驚かされます。
思い切りの良い表現の演奏でした。
ネーメ・ヤルヴィ/シカゴ交響楽団
★★
さらりとした「くしゃみ」でした。表情も淡々としていて、作品の情景描写はしていないような演奏です。
とても地味な時計です。かなり素っ気無い。スネアの動きがよく分かります。
ツィンバロンは小さく定位していますが、音は低い倍音も捉えているようで良い音がしています。
意図して選んだのか、おもちゃのような音がするシンバル。
これまで聞いたシカゴsoのCDからすると、すごくコンパクトな印象です。シカゴsoは上手いんだけれど、あまりにも素っ気無い演奏で、ユーモアの欠片もありません。美しい響きに身をゆだねることに割り切れば良い演奏です。
作品のストーリー性などを考えると欲求不満になりそうです。
最後の曲では金管も十分に鳴らしてくれるので、音響としては不満はないですが、ユーモアを求めたら完璧に裏切られます。
ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団
★
前奏曲、周りの人に遠慮してくしゃみを最後まで、思い切りしていない感じでした。ゆったりと歌う弦。
ウィーンの音楽時計、速めのテンポで忙しそうです。この当時のN響の演奏としては良い方だと思います。
歌、たっぷりと歌うビオラ。詰まったような響きのホルン。ツィンバロンがかなり強いバランスです。
戦争とナポレオンの敗北、トントンと響く大太鼓。ライブらしく、金管のミストーンはあちこちから聞こえます。アンサンブルの精度もあまり高いとは言えません。なかなか雰囲気のあるサックス。
インテルメッツォ、テンポを大きく動かして、とても豊かな表現です。マットなホルン。速い部分はかなり速く、テンポを引き伸ばす部分はこれでもかと伸ばします。ちょっとやり過ぎな感じもあります。
皇帝と延臣達の入場、かなり速いテンポです。
リコ・サッカニー/ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団
☆
前奏曲、はっきりとリミッターが掛っているのが分かります。盛り上がりにつれてオケが遠くなります。
ウィーンの音楽時計、1発目のチャイムだけ強かったです。かなりのナローレンジで、オーディオンスノイズも大きいです。
歌、演奏がどうのこうの言えるような録音ではありません。
戦争とナポレオンの敗北、小物打楽器はほとんど聞こえません。
インテルメッツォ、途中で明らかにマイクの前を塞がれます。
皇帝と延臣達の入場、