ホルスト 組曲「惑星」
たいこ叩きのホルスト 組曲「惑星」名盤試聴記
サー・エードリアン・ボールト/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
火星、リズムを強調したような明確な刻み、ゆったりとしたテンポ。初演者であり、5度目の録音ということもあり、堂々とした風格さえ感じる演奏です。
楽器の描きわけがはっきりしていて、色彩も豊かです。
中間部もアゴーギクを効かせて十分に歌っています。
最晩年の録音ですが、アンサンブルが乱れることもなく、色彩感豊かで、むしろ若々しささえも感じられる良い演奏です。
金星、こちらは、速めのテンポをとっています。淡々と進みますが、作品を慈しむような丁寧な演奏です。作品を知り尽くしているボールトらしく、テンポも大きく動かします。
水星、この曲も速めのテンポです。その分、この曲の愛らしさが表現されています。良い演奏と言うのは、音が立っています。このCDも音の粒立ちが良いです。
木星、こんどは、非常にゆったりしたテンポでスケールの大きな木星です。オケのメンバーが指揮者に共感している演奏は、集中力が音に現れるもので、一音一音の扱いが丁寧で、音が集まってくる。
中間部は、すっきりとあっさり淡々と演奏されています。大人の演奏だなあと思わされます。さすがに巨匠の風格です。
あっさりするところは、あれ?と思うほどあっさり、歌うところは、ねばっこく対比がしっかりされているので、聴いていて飽きない。
土星、冒頭部分では、宇宙の神秘的な様子が上手く描き出されています。クレッシェンドを伴って登場してくる金管が神々しい!後半の弦の響きも美しい。
天王星、冒頭はちょっと切れがないか?この曲にしてはちょっと重いような気が私にはします。また、この曲ではアンサンブルの乱れも少しあります。ちょっと重すぎて間延びする感じです。
海王星、CDで聴くと、オマケのようにくっついている曲のように思いがちですが、生で聴くととても重要に曲なんですね。それがなかなか2chのステレオでは再現できないのが、はがゆいところです。
細部の表情にもすごく配慮されている良い演奏です。
霧が除除にかかるようにいつの間にか入る女声合唱。これが生だととても良いのですが・・・・・。
さすがに、惑星を知り尽くしたボールト渾身の名演奏でした。ただ鳴らせば良いというようなアプローチではなく、一つ一つの曲を丁寧に描き分けた良い演奏でした。
時には、重い部分もありましたが、そんなことは軽微なことです。
ロリン・マゼール/フランス国立管弦楽団
★★★★★
火星、ゆっくりとしたテンポで一音一音確実に刻むコル・レーニョ。波が寄せるように押しては引く演奏が続きます。少し硬質なユーフォニアム。崩れ落ちるような怒涛の響き。クライマックスの豪華で溢れるような音の洪水。
金星、とても豊かで多彩な響きです。伸びやかで柔らかい響きで繊細で、静寂感もあります。
水星、動きがはっきりとしていますが、決して下品では無く、品があっておしとやかです。録音も瑞々しくてとても良いです。
木星、テンポも動きますが、強い表現は無く自然な演奏です。非常に美しい響きで、艶やかで輝かしいトランペットや瑞々しい弦など、とても素晴らしいです。中間部もテンポを落とさず自然な表現です。嫌味な表現などは無くマゼールらしく無い感じがします。最後にはスネアのロールが入りました。
土星、一音一音区切るようなフルート。あっさりと淡白なトロンボーン。速いテンポでどんどん進みます。金管のクレッシェンドはとても大きくかなりのエネルギーです。パイプオルガンはあまり強くありません。
天王星、美しい残響を伴ったファゴットや弦のリズム。濃厚な色彩で鮮やかに目の前に広がるオケ。パイプオルガンのグリッサンドの前にティンパニが突然強打しました。トランペットの絶叫のような響きもとても美しいです。
海王星、冷たさを感じさせるヴァイオリンもとても美しいです。彼方から柔らかく響いて来る女声合唱。
全く期待せずに聞きましたが、良い意味で予想を裏切るとても良い演奏でした。表現は自然でしたが、濃厚な色彩のパレットをいっぱいに広げ、豪快で溢れ出すような音の洪水や、繊細で美しい響きなど、素晴らしいものでした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ズービン・メータ/ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
火星、くっきりと粒だったコル・レーニョ。マルチマイクの際立った分離で左右に広がるオケ。とても大きな表現とトロンボーンの下のパートを強く吹かせているのが特徴です。色彩も濃厚で引き込まれるような演奏です。
金星、とても静かです。少しマットなホルン。テンポは速めですが、表現はこってりとしています。テンポも動いて自在な表現です。当時は何をやっても当たっていたメータが奔放に表現している印象です。
水星、速いテンポですが、雑にはならず、とても神経が行き届いた演奏です。突然ティンパニが飛び出して来ます。
木星、明快に歌う演奏が続きます。色んな楽器の動きも手に取るように分かる録音も当時の最先端です。中間部では分厚い響きで豊かで伸びやかな歌です。最後はテンポを速めて終わりました。
土星、ダイナミックレンジが広いので、とても静かに始まります。重量感と深みのあるコントラバス。短めの音でカラッとしたトロンボーンとトランペット。大きな表現で歌う木管。コンサートでは絶対に聞こえないようなリアルな音です。パイプオルガンが入る部分でも枯れた表現では無くむしろ生き生きとしています。
天王星、抑えた金管。ミュートされたティンパニ。チューバが存在感があります。色彩感が豊かで常に歌っているような楽しい演奏です。ティンパニのリズムがとても明快です。トロンボーンの下のパートが凄いです。
海王星、表現豊かなフルート。柔らかく遠くから響いて来る女声合唱。とても神秘的な合唱です。
若いメータが自由奔放に伸び伸びと表現した演奏でした。速めのテンポで色彩感がとても豊かで、積極的に描いた演奏はとても良かったです。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
アンドレ・プレヴィン/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★☆
火星、広帯域にバランスよく録られている感じです。スケールが大きい感じです。ffでも混濁することなく良いです。
超低域も聞き取れるし、演奏もスケールが大きくてバランスも良いし、なかなか良い演奏です。
中間部はあまりテンポを落とさずに自然に進みます。
金星、細身のホルンの音が郷愁を誘います。ちょっと寂しげな感じが独特ですが、プレビンの語り口の上手さを感じます。火星のスケールの大きさと、寂しげな金星の対比がとても良いです。
水星、速めのテンポで、おちゃめな天使を描いているのでしょうか。次々に登場するソロもチャーミングです。
木星、中庸なテンポです。表情が豊かですし色彩も豊かで楽しいです。中間部のメロディは速いテンポでちょっとそっけない感じです。このCDもしっかり音が立っている。集中力もあり良い演奏です。ロイヤル・フィルはロンドンを拠点にするオケの中では一段格が落ちるような感覚を持っていたのですが、このオケも他のオケに引けを取らず上手いですね。驚きました。
土星、暗闇の中の荒涼として凍りついた土星を描いているようです。プレビンの演奏はとても絵画的な演奏で、表題を上手く表現していて、なかなか聞かせます。弦のメロディも美しい。老巨人が一歩一歩歩しかも力強く歩くような描写です。
天王星、ちょっと拍子抜けしたような冒頭でした。もうちょっとしっかり鳴らして欲しかったです。ティンパニにもう少し張りのある音色を求めたいです。この曲はアンサンブルの乱れも少しあったし、全体の中では、ちょっと不出来な一曲だったように思います。終結部はなかなか良かったです。
海王星、あまり表情がなく、平板な演奏です。
テラークは基本的にワンポイントマイクの一発録りなので、ちょっと後半の集中力が切れたのか、最後の二曲の出来は、その前の曲の表情の豊かさに比べると落ちるのが残念でした。
それでも、かなり良い演奏だったと思います。
アンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団
★★★★☆
火星、大きな表現と濃厚な色彩感です。柔らかいユーフォニアム。他の金管はシャープです。トゥッティのエネルギー感はあまりありませんが、細部まで表現を練ってあるような聞かせどころの多い演奏です。ホルンがかなり強く咆哮する部分があり色彩感を強くしています。
金星、美しいホルン。フルートも美しいです。細く繊細なヴァイオリンのソロ。色彩の変化に富んでいてとても良い演奏です。
水星、速いテンポで活発に動き回る子供のような表現で愛らしい。
木星、ゆったりと堂々としている冒頭。テンポが速くなると活発で元気の良い演奏になります。中間部はあまり感情を込めずにあっさりと演奏します。金管はとても伸びやかに鳴り響きます。
土星、美しいトロンボーン。滑らかな弦。静寂のなかに響くフルート。一歩一歩山を登るような力強い金管。パイプオルガンの直前にはひらひらと舞うようなフルート。
天王星、硬いマレットでゆっくりと軽めに演奏したティンパニ。とても色彩感が豊かで、いろんな声部が聞えてきます。遠いティンパニに比べてスネアが凄く近いです。
海王星、意外と音量が大きく始まりました。少し離れたところから響く女声合唱ですが、遥かかなたの宇宙を感じるような漂うような柔らかさはありませんでした。
とても色彩感が豊かで、いろんな声部が聞えて来る演奏で、とても丁寧にバランスを考えた演奏でした。表現も豊かで良かったのですが、海王星の合唱に漂うような柔らかさが無かったのがとても残念です。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
エフゲニー・スヴェトラーノフ/フィルハーモニア管弦楽団
★★★★☆
火星、とても遅く重いコル・レーニョ。こってりと濃厚な表現。早くもホルンの咆哮があります。美しいユーフォニアム。ダイナミックの変化もとても大きく高カロリーな演奏です。一旦静まってもこねくり回すようなこれでもかと言うようなしつこい表現。クライマックスもかなりのエネルギーです。
金星、凶暴だった火星とは一変した柔らかく美しい表現です。火星の濃厚な表現からとてもあっさりとした爽やかな演奏になっています。
水星、速めのテンポですが、普通の演奏のようなきらびやかな感じでは無く、マットで渋い演奏です。
木星、ゆったりとしたテンポですが、火星のような凶暴な演奏ではありません。テンポの動きもあります。中間部は想像していた程歌いませんが、柔らかい演奏です。最後はかなり速くなって終わりました。
土星、ゆっくりと一音一音丁寧です。深みのあるコントラバス。巨人が一段一段階段を踏みしめて登るような力強い演奏。後半は老いて行く一抹の寂しさを鐘とパイプオルガンから感じます。とても静かです。
天王星、抑えぎみで柔らかい金管。飛び跳ねるようには弾みません。この曲ではほとんど生音を突きつけては来ませんが、最後は強烈なティンパニとトランペットでした。
海王星、濃厚な色彩で冷たい空間を描き出す木管。間接音を含まず近く強めな女声合唱。もっと空間を漂うような合唱だったら良かったのに。
こってりと濃厚な表現があったと思ったら、柔らかくあっさり爽やかになったり、渋い表現や力強い演奏だったり多彩な表現でなかなか聞き応えがありました。ただ、海王星の女声合唱が強かったのは作品のイメージに合いませんでした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
ピーター・ウンジャン/トロント交響楽団
★★★★☆
火星、フワーッとして柔らかい響きで始まりましたが金管が明快に音を出します。音量を落として柔らかいユーフォニアム。叩きつけるようなリズムのクライマックス。トロンボーンもかなりのエネルギーですが、すっきりとした響きで分厚さはありません。
金星、しみじみとした表現。弦でも楽器の受け渡しでの色彩感の変化がとても良いです。
水星、ヴァイオリンが音量の変化で音色を変化させたり、とても繊細な演奏です。
木星、主役の楽器がしっかりと前に出てくるので、色彩の変化がとてもはっきりしています。中間部は音量を抑えて柔らかい演奏です。大きな表現はありませんが、色彩感の豊かな演奏で作品の魅力を上手く伝える演奏です。
土星、ゆっくりとテヌートぎみに演奏されるフルート。トロンボーンもテヌートぎみですが、あまり伸びやかではありません。トランペットもテヌートでちょっと粘着質な演表現です。
天王星、抑え気味の金管。杭を打ち込むようなティンパニ。振幅の大きな演奏ですが、スッキリとした響きで爽やかです。
海王星、とても静かにゆっくりと始まるフルートの演奏。静寂感のある繊細な表現です。柔らかい女声合唱。遠ざかって行く合唱も神秘的で美しいです。
分厚い響きはありませんでしたが、主役の楽器がしっかりと前に出てくるので、とても色彩感が豊かな演奏で、作品の良さは十分に伝わる演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。 火星の後、海王星、天王星とうしろから順に再生されます。