目次
たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第5番名盤試聴記
小林 研一郎/日本フィルハーモニー交響楽団
★★★★☆
一楽章、非常にゆっくりと噛みしめるように丁寧な冒頭。かなり思い入れのある演奏のように感じます。
テンポの動きも大きいですが、わざとらしいところがなく自然に受け入れることができる音楽で、好感が持てます。日フィルも反応の良い演奏で応えています。これはすばらしい演奏になるような予感があります。
二楽章、僅かなビブラートをかけたホルンのソロも美しい。この楽章もテンポの動きが大きくて、劇的な表現で聴き手を圧倒します。
三楽章、集中力も高く、聴いていて飽きが来ない。
四楽章、音楽の高揚感がすばらしい。コバケンの熱い指揮が伝わる演奏です。
表現も積極的でオケと指揮者の一体感もありとても良い演奏だと思います。
この録音以後のCDも出ているので聴いて見たいと思いました。
小林研一郎がこんなに熱い音楽を演奏しているとはおもいませんでした。このホームページを作ったおかげで、いろんな演奏を聴くようになって、日本の演奏家の水準の高さに驚かされることが多く嬉しいことです。
これまで、欧米の演奏には及ばないと思っていた、私の認識は間違いだったことを思い知らされる演奏です。これが1995年の演奏なのですから、この録音から約15年経過している最新の演奏はどんなだろうと思いをめぐらせると、もっと日本の演奏家のCDをたくさん聴いて見たい衝動に駆られます。
すばらしい演奏でした。大満足!
エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団
★★★★☆
一楽章、非常にゆっくりと演奏される運命の動機。引きずるように重い演奏で、冒頭からスヴェトラーノフの世界です。波のように強弱を繰り返す第一主題。炸裂する金管。濃厚に歌う弦。第二主題も抑揚を繰り返します。凝縮されたような密度の高い音楽。再現部でも第一、第二主題ともとても豊かに歌います。ビリビリと遠慮なく響くトランペットがロシアのオケらしいです。
二楽章、ビブラートを掛けて歌うホルンの第一主題。弦による第一主題も豊かに歌います。弦の第二主題ではテンポを速めたり遅くなったりします。独特の強い響きのクラリネット。ロシアのオケらしい強力な運命の動機。激しい起伏のある演奏です。二度目の運命の動機の強奏は一回目よりもさらに強力でした。
三楽章、速いテンポで敏感な反応の演奏です。追い立てるようなテンポですが、表現は豊かです。もっと穏やかな音楽だと思っていましたが、かなり攻撃的です。
四楽章、とてもゆっくりと感情を込めて歌う運命の動機。かにり強く感情を吐露している感じです。遠くから響く鋭いホルンが独特の空気を生み出します。第一主題からは一転して猛烈な速さになります。嵐のような弦に荒れ狂うような金管。めまぐるしいテンポの変化と圧倒的な音量で迫ってくる演奏。力強いコーダ。コーダも物凄いテンポで駆け抜けます。
ゆっくりとする部分はとてもゆっくりで、テンポを速める部分は猛烈な速さになる、メリハリのある演奏でした。ロシアらしく、スヴェトラーノフらしい強烈で圧倒的な音量で迫ってくるトゥッティも凄かったです。
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マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団 2009年ライヴ
★★★★☆
一楽章、歯切れの良いクラリネットの運命の動機。後ろで動く弦の振幅がとても大きいです。第一主題も振幅の大きな歌です。弦の盛り上がりに比べると金管は突出しません。とても濃密に歌う弦や木管が印象的ですが、金管のリズムを刻みながらのクレッシェンドなど、作為的な感じがする部分もあります。
二楽章、伸びやかに美しく歌うホルンの第一主題。オーボエの第二主題もとても豊かに歌います。弦に引き継がれる第一主題も大きく歌います。作品を余すところ無く表現している演奏です。クラリネットで演奏される新たな旋律も艶やかで伸びやかです。盛り上がる運命の動機は軽く演奏されます。ずっと一方的に攻め立てられているような感じで、穏やかに安らぐ部分がありません。最後のクラリネットも豊かに歌いました。
三楽章、まさにワルツで、踊るように動く音楽です。中間部へ向けてテンポが速くなります。速いテンポで活発な表現です。とても力強い演奏です。
四楽章、分厚く豪快に演奏される運命の動機。強弱の変化も大きくとても積極的な表現です。第一主題も攻撃的なくらい積極的に迫って来ます。金管も豪快に鳴り響きます。この演奏を聞くと、ヤンソンスがロシアで音楽を学んだことが思い出されます。細かい表情付けもありますが、とにかく豪快に金管が鳴り響きます。力強く勢いのあるコーダ。突然音量を落としてクレッシェンドする部分もありました。
ロシア出身の指揮者らしく豪快に金管を鳴らしたとても力強い演奏でした。また、表情もとても豊かで表現し尽くしたような演奏でもありましたが、作為的な音量の変化もあり少し違和感を感じる部分もありました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
★★★★☆
一楽章、暗く尾を引くような運命の動機。金管の爆発は物凄いです。タメの後に強いアクセントで演奏する弦の表現がありました。奥深いところから湧き上るような強いエネルギーの放出を感じさせるような強烈な演奏です。遅いテンポで一音一音深く刻み込むように強い響き。さしてトロンボーンの咆哮。オケが一体になって表現してくる迫力も凄いです。コーダの盛り上がりも少しテンポを落として濃厚な表現です。
二楽章、何か吐き出すように歌う序奏。遠くから鳴るようなホルンの第一主題。締め付けられるようなオーボエの第二主題。少しザラつきはありますが、伸びやかに歌う弦の第一主題。まるでカデンツァのようにゆっくりと自由に歌うクラリネット。運命の動機ではトロンボーンがかなり強烈です。激しい弦第二主題、合間に響く金管も強いです。再び現れる運命の動機はやはりトロンボーンが物凄い咆哮です。最後のクラリネットもゆっくりとたっぷりとした歌でした。
三楽章、ザラツキ感のある弦ですが、訴えかけてくるように迫って来ます。集中力があって音に力があります。
四楽章、大きく強く訴えてくる序奏。ゆったりと大きな第一主題。ここでも金管はかなり強めです。木管も弦もとても良く歌いますが、緊張感があります。とても濃い表現と強烈な強弱の振幅です。コーダで高らかに演奏されるトランペットですが、華やかさは無く、厳しい緊張感があります。最後は一旦ゆっくりになって豪快に演奏されたトランペットとホルンの後は加速して終わりました。
物凄く激しい爆発と深みのある歌のある振幅の大きな演奏でした。演奏には緊張感や厳しさが漂っていて、華やかに勝利を手放しで喜ぶようなコーダではありませんでしたが、迫りくるような力強い演奏には説得力がありました。
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リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団
★★★★☆
一楽章、ゆっくりと、とても感情のを込めて大きく歌う運命の動機。第一主題もとても良く歌います。楽しそうな程の表現です。第二主題も豊かなカンタービレです。とても積極的な表現で、オケが前のめりになっているかと言うほどの演奏です。色彩感はあまり濃厚ではありませんが、豊かで伸びやかな響きです。テンポを大きく動かして意欲的な演奏です。
二楽章、大きく広がる序奏。ふくよかで柔らかいホルンのソロ。くっきりと浮かぶ第二主題。泉から水が湧き出るように豊かな弦の第一主題。中間部のクラリネットはアゴーギクを聞かせて歌います。スケールの大きい運命の動機。次の第一主題は速めのテンポで盛り上がりも大きいです。第二主題も大河の流れのようです。二回目の運命の動機はゆっくりとさらに大きなスケールの演奏でした。
三楽章、ふくよかで優雅なワルツの主要主題。スタジオ録音と言うこともあってとても柔らかく豊かな響きです。ファゴットの最初をゆっくりそのあと少しテンポを速めました。ゆっくり確実な中間部。テンポの動きも多く、なかなか積極的な演奏です。
四楽章、控えめな音量ですが、厚みのある運命の動機。フィラデルフィアoらしい余裕のあるトランペット。スピード感のある第一主題。活発に動く第二主題。高揚感のあるコーダの運命の動機。高らかに鳴らされるトランペット。
感情が込められて豊かなカンタービレの演奏でした。テンポの動きもあり大きなスケールで良い演奏でした。
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ルドルフ・ケンペ/バイエルン放送交響楽団 1975年ライヴ
★★★★
一楽章、とても遅いテンポで物思いにふけるような運命の動機。マイルドな響きですが、感情のこもった第一主題。色彩は墨絵のようなモノトーンです。振幅の大きな演奏で、表現も積極的です。第一主題の再現もとても感情の込められた歌です。金管も激しく鳴らされるし、弦も木管も大きな表現です。
二楽章、序奏から感情のこもった大きな表現の演奏です。ちょっと詰まった感じのホルンの第一主題。豊かに伸び伸びと演奏される弦の第一主題。運命の動機の強奏はかなりテンポが速く軽く演奏されます。感情のこもった演奏が続いてきたのに、この運命の動機が軽くあっさりと演奏されたのはちょっと肩透かしの感じがします。コーダも豊かに歌います。
三楽章、柔らかく伸びやかに歌う主要主題。テンポの動きもありアゴーギクも効かせて豊かな表現の演奏です。
四楽章、ケンペの強い感情移入を感じさせる序奏。金管の枯れたモノトーンの響き。生き生きと活動的な第一主題。テンポが良く動き次第に熱気を帯びてきています。最後もテンポをかなり速めて終わりました。
深い感情移入で、テンポもとても良く動く演奏で、演奏も次第に熱気を帯びてなかなかの熱演でした。ただ、弱音部分では濃厚に歌う演奏が、強奏部分で凄くテンポが速くあっさりとなってしまうのが肩透かしと感じる部分もありました。
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フランツ・ウェルザー=メスト/グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団
★★★★
一楽章、陰鬱な運命の動機、引きずるような弦。ロシアの冬を連想させるようなとても暗い序奏です。速いテンポの第一主題ですが、ここでも重く暗い雰囲気が支配しています。室内楽のような第二主題。展開部の第一主題は大きい表現で、木管が音を短めに演奏します。盛り上がりは激しくなりますが、アンサンブルはとても良い精度です。
二楽章、抑揚はありますが、淡々とした序奏。少し浅いですが、美しいホルンのソロ。盛り上がった運命の動機はテンポが速くあっさりと演奏されます。ピィツィカートの後の弦の第一主題は伸びやかで美しい演奏でした。
三楽章、速いテンポで少し落ち着きの無い主要主題。オケのメンバーが若いのもあるのかも知れませんが、深みや一体感のある動きは感じません。中間部の弦の細かい動きは見事ですが、かなり速いテンポで慌ただしいです。
四楽章、速いテンポですが、細かく表情を付けられた序奏。激しく刻む第一主題。さらにテンポを速めながらかなり強いトゥッティです。感情を込めてエネルギーを発散します。ここまで抑えていたものを一気に放出するような物凄いパワー全開の演奏になりました。コーダの最後もアッチェレランドして一気に終わりました。
明らかに四楽章にピークを持ってきた演奏で、四楽章の猛烈なテンポとエネルギーの発散は凄いものがありました。ただ、そこまでの三つの楽章の密度が少し薄い感じがしました。
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Yuval・ゾーン/エルサレム交響楽団
★★★★
一楽章、独特のタメのある運命の動機。力強くキレの良い金管。割と明るくて見通しの良い演奏です。ねばっこく旋律を歌うことも無く、サラッとした表現です。編成は小さいですが、金管とティンパニが思い切り良く演奏するので、ダイナミックですが少し乱暴な感じがする部分もあります。速いテンポを基調にした明るい演奏でした。
二楽章、とても明るいのですが、深みの無いホルンのソロ。かなり大きな極端な表現もします。弦の第二主題は透明感があって美しいです。豪快に鳴り響くトランペットの運命の動機。
三楽章、速めのテンポで軽い主要主題。爽やかに刻まれる中間部の弦。この演奏にはロシアの重く暗い空気感はありません。とても軽やかで澄んだ演奏です。
四楽章、はっきりと明快な運命の動機。弦に比べるとかなり強い金管とティンパニ。明るいホルンがちょっと異様です。やはり軽い第一主題。ぐいぐいと速いテンポで、爽やかに力強く鳴り響く金管。コーダも爽やかで涼しげです。
金管は強く鳴り響きますが、全体の印象としては、速めのテンポでさらりと明るく爽やかな演奏と感じました。ロシアの重く暗い空気感は全く無く、聞いていてスッキリする演奏でした。
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