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たいこ叩きのマーラー 交響曲第7番「夜の歌」名盤試聴記
クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★☆
一楽章、粘着質で重い演奏です。速目のテンポで音楽は進みますが、音楽にはいろんなものが詰まっているようで非常に重いです。濃厚な表現。微妙に動くテンポ。オケは決して上手くはありませんが、テンシュテットの指揮に必死に食らいついて行こうとしているのが十分に伝わって来ます。ただ、力みがあるのか響きには透明感がありません。
二楽章、「夜曲」の雰囲気を醸し出す木管。テンシュテットの演奏にしてはこの楽章は淡白な印象です。このセッションではオケの調子もベストコンディションではなかったのか、弦の響きも木目が粗い。
三楽章、非常に小さな音で開始してクレッシェンドしました。この楽章は表情豊かです。機敏な反応をする弦。不気味な雰囲気のテューバ。この作品の不気味な部分を十分に表現しています。
四楽章、アゴーギクを効かせる独奏ヴァイオリン。テンポも動きます。ただ、「夜曲」の雰囲気は今ひとつです。
五楽章、勢いのあるかなり激しい冒頭です。テンポの動きも大きくテンポの変わり目を大きくリタルダンドとクレッシェンドして強調します。激しい咆哮!テンシュテットが作品にのめり込んで行きます。最後にトランペットのミストーン。ティンパニのもの凄いクレッシェンド。聴き応えのある楽章でした。オケのコンディションが万全ではなかったのか、楽章による出来不出来があるのが残念でした。
クラウス・テンシュテット/クリーブランド管弦楽団
★★★☆
一楽章、スクラッチノイズの中から演奏が聞こえます。録音の影響でメタリックな響きになっています。冒頭から激しい表現です。トライアングルもギンギン響きます。ゆったりと穏やかな部分と、速目のテンポで激しい咆哮の起伏の激しい演奏をしています。畳み掛けるアッチェレランドや軍隊の行進のようなテンポで演奏される部分もあり、変化に富んでいます。一気呵成に一楽章を終えました。
二楽章、存在感のあるテューバ。「夜曲」にしてはとても元気が良い。旋律を担当する楽器がしっかりと主張してくるので、描き分けがくっきりとしていて、色彩感が豊かです。
三楽章、強弱の表現が非常に厳格で厳しい雰囲気です。スケルツォと言うより作品と格闘しているような雰囲気です。表情豊かで生き生きした演奏です。
四楽章、録音の影響か音がギンギンしているので、テンポが速めなのと相まってとても攻撃的な演奏に聞こえてしまいます。元気いっぱいです。とても「夜曲」には聞こえません。作品への共感を示すようにとても豊かな表現です。
五楽章、すごく激しい冒頭の主要主題でした。副主題ではテンポを落としました。テンポも動きます、また表情もとても豊かです。トランペットが常にミュートを付けているような音で録音されて実際の演奏の雰囲気は伝わってきません。テンシュテットは速目のテンポでグイグイと引っ張って行きます。怒涛のような盛り上がりで演奏を終えました。すごい熱演だったと思いますが、録音の悪さから十分には伝わって来ないところが残念でした。
ダニエル・バレンボイム/シュターツカペレ・ベルリン
★★★☆
一楽章、凄く遅い冒頭。細い響きのテノールホルン。弦の刻みがはっきり聞こえます。少し遠くから響いてくるテノールホルンの雰囲気がなかなか良いです。第一主題の頃にはかなりテンポが速くなって、序奏の異様な遅さからは開放されています。消え入るような弱音が夜の雰囲気を醸し出します。控え目に静かに演奏される第二主題。弱音の物悲しさは出色です。トロンボーンのソロはスラーがかかったような演奏でした。チューバやバストロンボーンが今まで聞こえなかった部分で主張します。弱音の雰囲気の良さに比べるとトゥッティのエネルギー感が乏しいのが残念ですが潤いのある美しい響きはとても魅力的です。
二楽章、瞬発力のあるホルンと非常に抑えた木管の対比が面白い。主要主題も抑えた穏やかな演奏です。第二主題の最初の音を少し長く伸ばしました。そして、ここでも抑えた表現で、しかもゆったりとしたテンポで、とても美しい演奏です。この演奏では弱音の美しさは特筆できます。空間に夜の闇が広がるような雰囲気もとても良く表しています。中間部もゆっくりと丹念に描いて行きます。消え入るような弱音が幽玄の世界へ導いてくれます。二度目の第二主題も非常に抑えた表現で、対旋律の方が大きいくらいです。
三楽章、冒頭の弱音部分も非常に抑えた表現で、夜の雰囲気がとても良く出ています。この演奏では、繊細な弱音がとても良いですが、逆に強奏部分の起伏がそれ程大きくは無く、マーラーの巨大なオーケストレーションを表現し切っていないように思います。この楽章の強奏部分もテンポを速めてあっさりと演奏しています。
四楽章、枯れた響きのヴァイオリン。柔らかいホルンの主題。シュターツカペレ・ベルリンの伝統的な着色の無いナチュラルな響きがとても美しい。基本的には速めのテンポであっさりとした演奏です。
五楽章、速めのテンポで爽やかなトゥッティ。やはり力感はあまり無く、控え目なトゥッティです。四楽章まで流れをあまり変えずに五楽章に入りました。ドロドロした部分はほとんど感じさせない爽やかな演奏です。トゥッティでも熱くなることはありません。作品を俯瞰しているような距離感を感じます。
繊細で夜の雰囲気たっぷりの美しい弱音と控え目なトゥッティでとても爽やかな演奏でしたが、作品の本質とは違うような感じがしました。
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ジェームズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団
★★★
一楽章、緩い弦の刻み。ダブルタンギングをしているようなテノールホルン。遠めのトランペット。何かを暗示するような不穏な雰囲気はありません。色彩感は淡い感じです。テュッティは巨大な響きがします。思いっきり良く鳴る第一主題。楽器を良く鳴らし爽快感がありますが、ピーンと張り詰めたような緊張感はありません。ティンパニは遠慮なくバンバン来ます。金管の充実した響きが見事です。トロンボーン独奏はちょっと下品な感じがしました。オケを思いっきり良く鳴らした演奏でした。
二楽章、かなり強めに演奏されるホルン。その後登場する木管も伸び伸びとした演奏です。ホルンの主要主題の前に大太鼓の地響きのような低音が響きました。ここでもティンパニが遠慮なく強打します。伸びやかな第二主題。
三楽章、怪しげな雰囲気を醸し出す冒頭。テューバが強烈です。レヴァインの演奏の場合、そこそこに温度間感があるのですが、それは音楽の高揚に合わせて熱気を帯びるものではなく、ましてや、冷たく精緻な雰囲気も持っていないので、ともすれば弛緩しているようにも感じられてしまうところがあり損をしていると思います。この楽章でも思いっきり良く強打されるティンパニが爽快です。
四楽章、太い響きのヴァイオリン独奏。細く締まったホルンの主題。柔らかい弦楽合奏。とても穏やかな夜を演出していますが色彩感は墨絵のように淡白です。モノトーンの中にギターが鮮明に浮かび上がります。引っかかることもなく、自然に音楽が流れ去って行きます。あまりにも普通(マーラーの場合、普通に演奏されること自体凄いことなのかも知れませんが)に時間が過ぎて行きます。
五楽章、盛大に強打されるティンパニ。続くホルンのトリルが強調されていました。暴走することなく程ほどに抑えられたと言うかとても軽く演奏する金管。ホールの特性なのか、シンバルさえも色彩感がない。後半にかけて金管も強奏しますが、音楽が熱気を帯びることはありません。最後は打楽器の激しいクレッシェンドで壮大に曲を閉じました。
何の変哲も無い演奏を聴き続けるのは大変でした。
レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★
一楽章、オケから浮き上がるテノールホルン。速いテンポの第一主題。この時期の一連のマーラー録音に共通する、一体感の無さがとても気になります。第二主題もどこか落ち着きが無い。響きがバラバラで薄い。テンポも全体的に速くどっしりと音楽を聞かせるような演奏ではありません。
二楽章、かなり強く表情豊かなホルン。続く木管も豊かな表情です。ホルンの主要主題も美しい。とても活発な夜の歌です。第二主題も良く歌います。とても感情のこもった音楽でぐっと引き込まれます。中間部のオーボエもとても感情のこもった演奏です。一楽章とは打って変わって、一体感と集中力のある演奏です。バーンスタインの指揮もテンポを動かして豊かな表情を作って行きます。鋭角的な響きもすばらしい。
三楽章、厳しく締まった表情が付けられています。中間部のオーボエはもっと歌っても良かったような気がします。バルトーク・ピッィカートはあまり強烈ではありませんでした。
四楽章、締まった響きのオーボエ、テンポも動いて表現しますが、夜の雰囲気はあまりありません。
五楽章、羊皮独特のバネのあるティンパニ。金管を咆哮させることもなく、音楽の振幅はさほど大きくはなく、スマートで晩年の深い作品との同化とは違う演奏です。
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レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団
★★★
一楽章、凄く遅いテンポで始まりました。明るく張った音質のテノールホルン。透明感のある美しい響きです。テノールホルンの主題部ではとてもゆっくりですが、途中急激にテンポを速めたりします。第一主題では、一般的なテンポを取っています。展開部の第二主題が現れる前はかなりテンポを遅く演奏して、広大な草原の夕暮れような雰囲気でした。第二主題に入ってもテンポはゆっくりですが、表現はねばっこい感じは無く、重い表現ではありません。コーダではバランスの良い分厚い響きです。
二楽章、柔らかくフワッとした響きのホルン。遠くから響くような木管が夜の雰囲気を自然に醸し出します。ホルンの主要主題も非常に美しい。第二主題の最初の音を少し伸ばしました。感情が込められて哀愁漂う、中間部のオーボエ。二度目の第二主題は舞い踊るように生き生きとした演奏です。コーダ直前の木管の鳥のさえずりのような部分も夜の雰囲気十分です。
三楽章、不気味な夜の雰囲気です。中間部のオーボエが出て以降テンポがゆっくりになりました。テンポによるものなのか、音のアタックによるものなのか分かりませんが、何故か鈍重な感じがあります。どっしりと構えていると言えばそうなのですが、旋律の周りにちりばめられた楽器があまり聞こえてこないのもちょっと残念です。
四楽章、ホルンの柔らかい主題。続く弦の部分はテンポを落としてぐっと抑えて美しく幻想的な演奏でした。ただ、音が立っていないような感じで、鈍っているようなイメージが付きまといます。マーラーの鋭角的な部分はあまり表現されず、なだらかな音楽になっています。「夜曲」だからこれで良いのかな?最後はすごくテンポをゆっくりして濃厚な表現でした。
五楽章、メリハリのあるティンパニ。お祭り騒ぎにはならず、前の楽章からのつながりを意識した演奏です。曲全体を通してテンポはよく動きます。めまぐるしいくらいに良く動くテンポ。
「復活」の演奏が、すばらしかったので、期待したのですが、鈍ったような大味な演奏だったような感じがしました。
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ジン・ヒョン・ペク/馬山市立交響楽団
☆
一楽章、あまり伸びの無いテノールホルン。たどたどしい木管。テンポの揺れには対応できないのか、全くテンポは揺れません。寂しい響きです。第一主題の前でテンポが一旦遅くなりました。音が合っていないようで、響きがとても貧相です。オケも演奏するのが精一杯と言う感じです。再現部に入る前に間を空けました。鈍重な演奏で、音が定まらなくて空中浮遊しているような、変な感じです。響きが薄い上に混濁していて、かなり聞き辛い音です。
二楽章、危なっかしいホルン。潤いが無くささくれ立った音がします。主要主題はアマオケの演奏を聴いているような硬い音です。チェロの第二主題も胴が鳴っていないような響きで、弦だけの音が聞こえる感じがします。中間部では少し夜の雰囲気がありました。主部が戻るところは最初のテンポよりもかなり速くなっています。何かを表現している感じは無く、演奏するだけで精一杯です。
三楽章、響きが融合せずに浮遊する感じが何とも変です。速めのテンポでほとんど表情を付けずに進みます。あまりにも音が合っていないので、聞いていて苦しくなります。バルトーク・ピチカートも弱弱しい音でした。
四楽章、テヌート気味に演奏されるホルンの主題。色んな楽器が有機的に結びつかない演奏で、バラバラです。夜曲を感じさせることはありません。
五楽章、かなり頑張って吹いているようですが、音が合っていないので、響きが融合しません。普通背後に豊かな響きがあって、その中から金管が突き抜けてくることはありますが、この演奏の場合、背後の響きがほとんど無く、浮いたように金管が響いて来るので、とても寂しく暗い響きになります。細かいところで音程を外す演奏で、技術的にもかなり厳しい感じです。また、弦の細かいパッセージもちゃんと弾けてはいないところが随所にあって、演奏するのが精一杯と言うのが如実に伝わって来ます。
オケの技術的な問題で、まだこの曲を演奏するレベルでは無いと思いました。
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