シベリウス 交響曲第4番

シベリウスの交響曲第4番は、彼の交響曲の中でも特に暗く、内省的で独特な雰囲気を持つ作品です。1911年に初演されましたが、当時の聴衆には難解だと感じられ、賛否が分かれました。この交響曲は、シベリウスの病気や心の葛藤、人生の不安感が色濃く反映されたもので、「苦悩の交響曲」とも呼ばれています。

1. 構成と特徴

交響曲第4番は、全4楽章からなり、各楽章が短めですが、非常に緊張感があり、どこか重苦しい響きが続きます。

第1楽章:Tempo molto moderato, quasi adagio

  • 静かで重厚な響きから始まり、低音の響きが不安感を漂わせます。冒頭からチェロが不穏な旋律を奏で、暗い陰影を感じさせます。調性は曖昧で、安定しない和声が続き、独特の緊張感が生まれます。
  • 和声や旋律の流れが予測できず、どこか彷徨っているような印象を与えます。この楽章全体が、どこか恐れや不安といった感情を象徴しているように聞こえます。

第2楽章:Allegro molto vivace

  • 第2楽章は、短いながらも動きのある楽章で、リズミカルなパターンが続きます。軽やかでありながらも、不協和音が混ざり合うため、明るいというよりも「皮肉めいた明るさ」を感じます。
  • 不安定なメロディや突発的なリズムが、まるで内心の葛藤や不安を表現しているかのようで、聴く者に奇妙な緊張感を与えます。

第3楽章:Il tempo largo

  • ゆっくりとした悲しげな楽章で、シベリウス特有の静かな美しさが際立ちます。低音が支配的で、シンプルな旋律が暗い響きの中で進みます。
  • この楽章では、無力感や絶望、孤独といった感情が表現されているとされ、どこか悲哀を帯びた音楽が心に染み渡ります。
  • シベリウスが直面していた病気や自身の人生への不安が、この楽章には色濃く反映されているとも言われます。

第4楽章:Allegro

  • 最終楽章は、どこか不安を抱えたまま、激しさを伴いながら進んでいきます。力強い弦楽器の旋律と、ホルンやトロンボーンが重厚な響きを加え、圧倒的なエネルギーを感じさせますが、決して晴れやかな結末ではありません。
  • 終盤に向かっても、救いのような響きは現れず、むしろ突然途切れるように静かに終わります。これは、シベリウスが人生に対して感じていた不安や無常観が反映された終わり方とも解釈されています。

2. 音楽的特徴

  • 無調的な響き:第4番は従来の調性感が希薄で、半音階的な不協和音が多用されています。これによって、安定しない音楽の流れが生まれ、不安や緊張が強調されています。
  • オーケストレーション:シベリウスはこの交響曲で、少ない音や静けさを活かし、非常に抑制されたオーケストレーションを用いています。シンプルな構成ながらも深い響きを追求し、音の余韻や間が独特の効果を生み出しています。

3. 病気と内省

この交響曲が書かれた頃、シベリウスは自分の喉に腫瘍が見つかり、健康に対して大きな不安を抱えていました。彼は手術を受けたものの、人生に対する恐怖感や死の影が付きまとい、内向的で深い思索にふけるようになったとされています。この第4番は、そのような内面的な苦悩が音楽に色濃く反映され、シベリウスの最も個人的な交響曲の一つとされています。

4. 聴衆の反応とその後の評価

初演当時、この交響曲第4番は当時の聴衆にとって難解すぎると感じられ、あまり受け入れられませんでした。前作の交響曲第2番や第3番の明るさや力強さに比べ、第4番は暗く重い響きが中心であったため、マーケティング的にも難しい作品でした。しかし、時間が経つにつれて、第4番はシベリウスの革新性や深い洞察力が反映された傑作として再評価され、現代の聴衆にはシベリウスの孤独な美学を感じさせる作品として受け入れられています。

5. まとめ

シベリウスの交響曲第4番は、彼の内面的な葛藤や人生の不安が強く表れた作品であり、暗く神秘的な響きが特徴です。不安定で重厚な音楽が続くため、聴く者にとってもどこか心が揺さぶられるような体験をもたらします。シベリウスの他の交響曲に見られるような劇的な盛り上がりや明るさはありませんが、その分、孤独や無常観といった深いテーマがじっくりと表現されています。

4o

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第4番名盤試聴記

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団

ベルグルンド★★★★★
一楽章、冒頭から重苦しい低弦。音量を落として、内に秘めたような表現のチェロの主題。色彩のコントラストがとても鮮明です。粘りがあって自然の厳しさも伝わってきます。
二楽章、伸びやかで美しい演奏です。大きな表現ではありませんが、生命観のある生き生きとした音楽です。
三楽章、暗闇に浮かび上がるようなフルート。寂しさを強く感じさせる美しい金管。繊細さと深みのある演奏でとても美しいです。
四楽章、生き生きと動き回る弦。強いグロッケンシュピール。強弱の振幅がとても大きくダイナミックですが陰影もあります。かなり激しい金管。後のヨーロッパ室内oとの演奏よりも金管は強烈です。

ヨーロッパ室内oとの録音に比べるとかなりダイナミックで積極的な表現でした。オケもとても美しく伸びやかで魅力的な演奏でした。
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コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、遠くから響いてきて、暗闇にどんどん沈んで行くような第一主題。何かを暗示するかのような金管の第二主題。羽毛のような心地良い肌触りの弦。密度が濃く、しかし消え入るような弱音。暗く重い雲に覆われているような雰囲気です。ホルンが一筋の光明を見出すような感じです。
二楽章、一楽章の暗さから僅かに雲が薄くなったような雰囲気ですが、不穏な空気はそのままです。曇天の中でもしっかりとした色彩を放つ木管。
三楽章、近代の作品であることを象徴するような断片的で浮遊感のある音楽。暗闇の中で色とりどりの明かりが交錯するような雰囲気です。一つ一つの音に力があって、しっかりと立っています。暗闇の中に僅かな明かりが差し込むような表現もあります。充実した響きのトロンボーン。
四楽章、グロッケンシュピールとチューブラベルを使い分けています。このあたりの使い分けはとても効果的な使い方でした。精緻でしかも濃厚な色彩。真摯に作品と向き合って、作品の姿を描き出す姿勢には心が動かされました。

暗闇の中で不穏な空気や色とりどりの光の交錯など、作品の持っているものを純粋な姿勢で描き出した演奏でした。

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、深く厚みのある冒頭。しっかり地に足のついた第一主題も深みがあって奥行き感があります。金管も柔らかく美しいバランスです。不安感も良く表現しています。
二楽章、表現の幅が広いオーボエの主題。決して突出するようなバランスにはなりませんが、とても良く表現しています。室内オケとは思えない厚みのある響き。
三楽章、暗闇の中で不安なフルート。静寂の中に響く楽器の数々。よく歌い切々と訴えて来ます。作品への深い共感があるのだ思います。そうでなければこれだけ有機的に結びついた演奏は出来ないでしょう。
四楽章、表情豊かで滑らかに動く木管。チューブラベルは重ねずグロッケンシュピールのみです。室内オケとは思えないような凄いパワー感。無表情に演奏することが無いと言えるほど、細部まで表現しています。

作品への深い共感から生み出される細部にわたる表現。室内オケとは思えない深みと厚みとエネルギー。すばらしい演奏でした。

コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、焦点が定まらず浮遊感がありうつろなチェロの第一主題。ザワザワとした不安感が覆い尽くすとても不安定な状態をとても良く表現しています。
二楽章、自然体で美しい演奏で特に何かを強調することはありません。
三楽章、ゆったりとしたテンポで、神秘的なクラリネット。混沌とした中に断片的に浮かぶ旋律。大きな抑揚のあるチェロの主題。静寂感の中に次々と浮かぶ木管が美しい。濃厚な色彩ではありませんが、確かな色を発するオケ。重厚なトゥッティ。
四楽章、グロッケンシュピールとチューブラベルを併用しています。複雑に動き不安感は表現していますが、演奏自体はとても安定していて落ち着いた演奏です。

落ち着いた安定した演奏で、不安感を良く表現しました。少しくすんだ響きも作品にピッタリでした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

カラヤン/フィルハーモニア★★★★★
一楽章、表面が滑らかで、寒い空気感のある演奏です。カラヤンらしくキチッと整理されてとても聞きやすい演奏になっています。凝縮された密度の高さも感じます。
二楽章、モノラルですが、スタジオ録音なので、音質はそんなに悪くはありません。
三楽章、フルートのソロはベルリンpoとの65年の録音のように前へ出てきてピーンと張り詰めたような響きでは無く、少し奥まっています。全体がブレンドされた自然さはこちらの方があります。切々と訴えてくる弦もなかなかです。
四楽章、後のベルリンpoとの録音よりも響きが薄いので、シベリウスにはこちらの方が合っているような気がします。金管とグロッケンが強調されていますが、演奏全体の凄みはかなりのものです。

少し寒い空気感や少し薄い響きなど、シベリウスには合っていました。四楽章の凄みのある演奏もとても良かったと思います。
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オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団

ヴァンスカ★★★★★
一楽章、ゴロゴロと岩が地底から湧き上るような冒頭。柔らかく暗闇で瞑想するようなチェロの主題。とても静かです。突出しては来ない第二主題。展開部に入っても素晴らしい静寂感です。金管は軽く美しく演奏しています。
二楽章、奥ゆかしく柔らかいオーボエの主題。中間部の弦も静寂感があります。
三楽章、弱音の集中力の高い美しさは素晴らしいです。主題も緻密なアンサンブルで美しく神秘的です。雑みが無く純粋で、無駄なものを削ぎ落としたような演奏です。金管は控えめで決して突き抜けて来ません。
四楽章、大きな表現では無く奥ゆかしい第一主題。グロッケンシュピールを使っています。温度感は冷たくも暑くもない常温です。ここでは初めてトランペットが突き抜けて来ました。トランペットが突き抜けてもオケは完全にコントロールされていて整然としています。

弱音に重点を置いた静寂感のある美しい演奏でした。深い感情表現などはありませんでしたが、完全にコントロールされたオケの純粋な響きも魅力的でした。
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エサ=ペッカ・サロネン指揮 スウェーデン放送交響楽団

サロネン★★★★★
一楽章、ガリガリと硬質なコントラバス。ふくよかですが暗闇に響くようなチェロの主題。ダイナミックで激しい金管の第二主題。しっかりと地に足の着いた濃厚な演奏です。ティンパニも強烈です。
二楽章、舞うように歌うオーボエの主題。終結部に現れる主題はどれも生き生きとしています。強弱の変化が明快でタイナミックです。力感に溢れる演奏です。
三楽章、暗闇に浮かぶようなフルートとクラリネット。大きく歌うホルン。ずっと暗闇をさまようような演奏でした。
四楽章、速めのテンポで活発に動く第一主題。グロッケンシュピールを使っています。シャキッとしたアンサンブルの弦。明快で生き生きと動くオケ。強弱の振幅はかなり大きいです。

暗い部分と生き生きとした表現とのコントラストや強弱の大きな振幅など、表現の幅の大きな演奏でした。
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投稿者: koji shimizu

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